説明

積層体

【課題】耐水性に優れた積層体が求められている。
【解決手段】下記成分(A)〜(D)を含む水性エマルション組成物を乾燥させることにより得られる硬化物からなる層と被着体とを含む積層体。
(A)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位と、式(I)
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表わす。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含み、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が5〜40モル%である共重合体、または、前記共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体変性物
(B)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含み、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が5モル%未満である共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体
(C)乳化剤
(D)水

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エチレンに由来する構造単位とプロピレンに由来する構造単位とを有するポリオレフィンに、無水マレイン酸およびメタクリル酸ブチルをグラフト重合させることにより得られる変性ポリオレフィンが水中に分散した水性エマルションを、ポリプロピレン板上に塗布し、乾燥させることにより得られる積層体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−40920号公報(実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐水性に優れた積層体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者らは積層体について鋭意検討した結果、以下の[1]〜[18]記載の本発明に至った。すなわち、本発明は、
[1]下記成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を含む水性エマルション組成物を乾燥させることにより得られる硬化物からなる層と被着体とを含む積層体;
(A)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位と、式(I)
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表わす。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含み、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が5モル%以上40モル%以下である共重合体、または
前記共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体変性物
(B)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含み、前記式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位を含んでいてもよく、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が、5モル%未満である共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体
(C)乳化剤
(D)水
【0006】
[2]水性エマルション組成物が、成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションと、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションとを混合することにより得られる[1]記載の積層体;
[3]成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションと、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションとを含む組成物から得られる硬化物層と被着体とを含む[1]記載の積層体;
[4]被着体が、木質材料、セルロース材料、プラスチック材料、セラミック材料および金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体である[1]、[2]または[3]記載の積層体;
[5]乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位とを含む水溶性アクリル樹脂である[1]、[2]または[3]記載の積層体;
[6]Rが、2級アルキル基、3級アルキル基またはシクロアルキル基である[1]、[2]または[3]記載の積層体;
[7]式(I)で示されるビニル化合物がビニルシクロヘキサンである[1]、[2]または[3]記載の積層体;
[8]成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションが、成分(A)と成分(C)とを、剪断応力を作用させながら混練し、得られる混練物を成分(D)中に分散させることにより得られる水性エマルションである[2]または[3]記載の積層体;
[9]成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分100重量部に対して、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分が20〜60重量部である[2]または[3]記載の積層体;
【0007】
[10]下記成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を含む水性エマルション組成物;
(A)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位と、式(I)
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表わす。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含み、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が5モル%以上40モル%以下である共重合体、または
前記共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体変性物
(B)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含み、前記式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位を含んでいてもよく、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が、5モル%未満である共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体
(C)乳化剤
(D)水
[11]成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションと、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションとを混合することにより得られる[10]記載の水性エマルション組成物;
[12]乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位とを含む水溶性アクリル樹脂である[10]または[11]記載の水性エマルション組成物;
[13]Rが、2級アルキル基、3級アルキル基またはシクロアルキル基である[10]または[11]記載の水性エマルション組成物;
[14]式(I)で示されるビニル化合物がビニルシクロヘキサンである[10]または[11]記載の水性エマルション組成物;
[15]成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションが、成分(A)と成分(C)とを、剪断応力を作用させながら混練し、得られる混練物を成分(D)中に分散させることにより得られる水性エマルションである[11]記載の水性エマルション組成物;
[16]成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分100重量部に対して、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分が20〜60重量部である[11]記載の水性エマルション組成物;
【0008】
[17]被着体上に、請求項10〜16のいずれか一項記載の水性エマルション組成物を塗布し、水性エマルション層と被着体とを含む積層体を得る工程と、
得られた積層体を乾燥して、硬化物からなる層と被着体とを含む積層体を得る工程を含む積層体の製造方法;
【0009】
[18]被着体上に硬化物層を形成するための、[10]〜[16]のいずれか一項記載の水性エマルション組成物の使用;
等である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の積層体は、耐水性が一層優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の積層体は、下記成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を含む水性エマルションを乾燥させることにより得られる硬化物からなる層と被着体とを含む。
(A)エチレンに由来する構造単位(以下、構造単位(a1)と略記する。)、プロピレンに由来する構造単位(以下、構造単位(a2)と略記する。)および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位(以下、構造単位(a3)と略記する。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位と、式(I)
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表わす。)
で示されるビニル化合物(以下、ビニル化合物(I)と略記する。)に由来する構造単位とを含み、ビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量が5モル%以上40モル%以下である共重合体、または前記共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体変性物
(B)エチレンに由来する構造単位(以下、構造単位(b1)と略記する。)、プロピレンに由来する構造単位(以下、構造単位(b2)と略記する。)および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位(以下、構造単位(b3)と略記する。)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含み、ビニル化合物(I)に由来する構造単位を含んでいてもよく、ビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量が、5モル%未満である共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体
(C)乳化剤
(D)水
【0012】
まず、成分(A)について説明する。
【0013】
成分(A)は、構造単位(a1)、構造単位(a2)および構造単位(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位と、ビニル化合物(I)に由来する構造単位を含み、ビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量が5モル%以上40モル%以下である共重合体(以下、共重合体Aと略記する。)、または、前記共重合体Aに、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体変性物(以下、変性物Aと略記する。)である。
【0014】
成分(A)は、共重合体Aであってもよいし、変性物Aであってもよいし、共重合体Aと変性物Aの混合物であってもよい。成分(A)は、二種以上の共重合体Aを含んでもよく、二種以上の変性物Aを含んでもよい。
【0015】
共重合体Aは、二種以上の構造単位(a3)を含むことができる。
構造単位(a3)を導く炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ナノデセンおよび1−エイコセンが挙げられ、炭素数4〜20の直鎖状α−オレフィンが好ましく、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセンおよび1−オクテンがより好ましい。
【0016】
共重合体Aは、構造単位(a1)を含むことが好ましく、構造単位(a1)と式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位のみからなる共重合体であることが好ましい。
【0017】
共重合体Aにおける構造単位(a1)、構造単位(a2)および構造単位(a3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位の含有量は、共重合体Aを構成する全ての構造単位100モル%に対して、60モル%より大きく、95モル%未満であり、好ましくは70モル%より大きく、90モル%未満であり、より好ましくは80モル%より大きく、90モル%未満である。共重合体Aにおけるビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量は、共重合体Aを構成する全ての構造単位100モル%に対して、5モル%以上40モル%以下であり、好ましくは10モル%以上30モル%以下であり、より好ましくは10モル%以上20モル%以下である。
【0018】
ビニル化合物(I)の式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表わす。2級アルキル基としては、炭素数3〜20の2級アルキル基が好ましく、3級アルキル基としては、炭素原子数4〜20の3級アルキル基が好ましく、脂環式炭化水素基としては、3〜16員環の脂環式炭化水素基が好ましく、シクロアルキル基、シクロアルケニル基およびシクロアルキニル基が挙げられ、シクロアルキル基がより好ましく、3〜16員環のシクロアルキル基が特に好ましい。
【0019】
Rとしては、3〜10員環の炭素数3〜20のシクロアルキル基および炭素数4〜20の3級アルキル基がより好ましい。
【0020】
ビニル化合物(I)としては、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ヘプテン、3−メチル−1−オクテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ヘプテン、3,4−ジメチル−1−オクテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,5−ジメチル−1−ヘプテン、3,5−ジメチル−1−オクテン、3,6−ジメチル−1−ヘプテン、3,6−ジメチル−1−オクテン、3,7−ジメチル−1−オクテン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,4,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,4,4−トリメチル−1−オクテン等のRが2級アルキル基であるビニル化合物(I);3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ヘプテン、3,3−ジメチル−1−オクテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ヘキセン、3,3,4−トリメチル−1−ヘプテン、3,3,4−トリメチル−1−オクテン等のRが3級アルキル基であるビニル化合物(I);ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタン等のRがシクロアルキル基であるビニル化合物(I);1−ビニルアダマンタン、5−ビニル−2−ノルボルネンおよび4−ビニル−1−シクロヘキセンが挙げられる。
【0021】
なかでも、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,5−ジメチル−1−ヘキセン、3,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロオクタンおよび5−ビニル−2−ノルボルネンが好ましく、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、3,3−ジメチル−1−ブテン、3,3,4−トリメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサンおよびビニルノルボルネンがより好ましく、3,3−ジメチル−1−ブテンおよびビニルシクロヘキサンが特に好ましく、ビニルシクロヘキサンが最も好ましい。
【0022】
ビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量は、共重合体Aを1H−NMR分析や13C−NMR分析することにより求めることができる。
【0023】
共重合体Aは、さらに、付加重合可能な単量体に由来する構造単位を含有していてもよい。付加重合可能な単量体は、エチレン、プロピレン、炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンおよびビニル化合物(I)を含まない。付加重合可能な単量体は、エチレン、プロピレン、炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンおよび/またはビニル化合物(I)と付加重合可能な単量体であり、該単量体の炭素数は、通常、3〜20程度である。
【0024】
付加重合可能なモノマーの具体例としては、シクロオレフィン、式(II)

(式中、R’およびR”はそれぞれ独立して、炭素数1〜18の直鎖状、分枝状または環状のアルキル基またはハロゲン原子を表わす。)
で示されるオレフィン、ジエン化合物、ハロゲン化ビニル、脂肪族カルボン酸ビニル、ビニルエーテル化合物およびシアノビニル化合物が挙げられる。
【0025】
シクロオレフィンとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、3−メチルシクロペンテン、4−メチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−ベンジル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、8−メチル−2−テトラシクロドデセン、8−エチル−2−テトラシクロドデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−エトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−2−テトラシクロドデセンおよび8−シアノ−2−テトラシクロドデセンが挙げられる。なかでも、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、2−ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、2−テトラシクロドデセン、2−トリシクロデセン、2−トリシクロウンデセン、2−ペンタシクロペンタデセン、2−ペンタシクロヘキサデセン、5−アセチル−2−ノルボルネン、5−アセチルオキシ−2−ノルボルネン、5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−2−ノルボルネンおよび5−シアノ−2−ノルボルネンが好ましく、2−ノルボルネンおよび2−テトラシクロドデセンがより好ましい。
【0026】
式(II)で示されるオレフィンとしては、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、2−メチル−1−オクテン、2,3−ジメチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−1−ペンテン、2,3−ジメチル−1−ヘキセン、2,3−ジメチル−1−ヘプテン、2,3−ジメチル−1−オクテン、2,4−ジメチル−1−ペンテン、2,4,4−トリメチル−1−ペンテンおよび塩化ビニリデンが挙げられ、イソブテン、2,3−ジメチル−1−ブテンおよび2,4,4−トリメチル−1−ペンテンが好ましい。
【0027】
ジエン化合物としては、1,3−ブタジエン、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,5−シクロオクタジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−アリル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセンおよび5−エチリデン−2−ノルボルネンが挙げられ、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,5−ノルボルナジエン、ジシクロペンタジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、4−ビニル−1−シクロヘキセンおよび5−エチリデン−2−ノルボルネンが好ましい。
【0028】
脂肪族カルボン酸ビニルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルおよび酪酸ビニルが挙げられ、ビニルエーテル化合物としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルおよびブチルビニルエーテルが挙げられる。ハロゲン化ビニルとしては、塩化ビニルが挙げられ、シアノビニル化合物としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが挙げられる。
【0029】
共重合体A中の付加重合可能なモノマーに由来する構造単位の含有量は、水性エマルション組成物を乾燥して得られる硬化物の接着性を損なわない量であればよく、共重合体Aを構成するすべての構造単位100モル%に対して、5モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
【0030】
共重合体Aは、例えば、インデニルアニオン骨格または架橋されたシクロペンタジエニルアニオン骨格を有する基を有する遷移金属化合物を触媒として、対応するモノマーを重合させることにより製造することができる。なかでも、特開2003−82028号公報、特開2003−160621号公報および特開2000−128932号公報に記載の方法が好適である。
【0031】
共重合体Aの製造においては、用いる触媒の種類や重合条件によって、共重合体Aに加えて、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体および/またはビニルシクロヘキサンの単独重合体が生成することがある。そのような場合は、ソックスレー抽出器等を用いた溶媒抽出を行うことにより、共重合体Aを容易に取り出すことができる。溶媒として、トルエンを用いると、不溶成分として、ビニルシクロヘキサンの単独重合体を除去することができる。溶媒として、クロロホルムを用いると、エチレンの単独重合体、プロピレンの単独重合体などのオレフィンの単独重合体を、不溶成分として除去することができる。共重合体Aは、これら溶媒への可溶成分として分離することができる。その用途において問題がない場合には、上記のような副生物を含む共重合体Aを用いてもよい。
【0032】
共重合体Aの分子量分布(Mw/Mn=[重量平均分子量]/[数平均分子量])は、通常1.5〜10.0程度であり、水性エマルション組成物を乾燥して得られる硬化物の機械的強度および透明性の観点から、好ましくは1.5〜7.0程度であり、より好ましくは1.5〜5.0程度である。
【0033】
共重合体Aの重量平均分子量(Mw)は、水性エマルション組成物を乾燥して得られる硬化物の機械的強度および共重合体Aの流動性の観点から、好ましくは、5,000〜1,000,000程度であり、より好ましくは10,000〜500,000程度であり、特に好ましくは15,000〜400,000程度である。
【0034】
共重合体Aの分子量分布は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0035】
共重合体Aの極限粘度[η]は、通常0.25〜10dl/g程度であり、水性エマルション組成物を乾燥して得られる硬化物の機械的強度の観点から、好ましくは0.3〜3dl/g程度である。
【0036】
変性物Aは、共重合体Aにα,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる重合体である。
【0037】
α,β−不飽和カルボン酸化合物のグラフト重合量は、変性物A100重量%に対して、通常0.01〜20重量%程度、好ましくは0.05〜10重量%程度、より好ましくは0.1〜5重量%程度である。
【0038】
α,β−不飽和カルボン酸化合物のグラフト重合量が0.01重量%以上の変性体Aを含む水性エマルション組成物は、該組成物を乾燥して得られる硬化物の接着性が向上する傾向にあり好ましい。α,β−不飽和カルボン酸化合物のグラフト重合量が20重量%以下の変性物Aを含む水性エマルションは、その熱安定性が向上する傾向にあり好ましい。
【0039】
α,β−不飽和カルボン酸化合物は、α,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸無水物、α,β−不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和カルボン酸アミド、α,β−不飽和カルボン酸イミド、α,β−不飽和カルボン酸ハライドおよびα,β−不飽和カルボン酸の金属塩を含む。二種以上のα,β−不飽和カルボン酸化合物を用いることができる。
【0040】
α,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アンゲリカ酸、ソルビン酸、メサコン酸等の炭素数3〜20のα,β−不飽和カルボン酸が挙げられる。該α,β−不飽和カルボン酸としては、カルボキシル基(−COOH)を一つまたは二つ有するα,β−不飽和カルボン酸が好ましい。α,β−不飽和カルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の炭素数4〜20のα,β−不飽和カルボン酸無水物が挙げられ、無水マレイン酸が好ましい。二種以上のα,β−不飽和カルボン酸無水物を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、メタクリル酸イソブチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸ジメチルエステル等の炭素数3〜20のα,β−不飽和カルボン酸のエステルが挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸アミドとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、N−エチルマレイン酸モノアミド、N,N−ジエチルマレイン酸モノアミド、N−ブチルマレイン酸モノアミド、N,N−ジブチルマレイン酸モノアミド、フマル酸モノアミド、フマル酸ジアミド、N−エチルフマル酸モノアミド、N,N−ジエチルフマル酸モノアミド、N−ブチルフマル酸モノアミド、N,N−ジブチルフマル酸モノアミド等の炭素数3〜20のα,β−不飽和カルボン酸のアミドが挙げられる。α,β−不飽和カルボン酸イミドとしては、マレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド等が、α,β−不飽和カルボン酸ハライドとしては、塩化マレオイル等が、α,β−不飽和カルボン酸の金属塩としては、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等の炭素数3〜20のα,β−不飽和カルボン酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
【0042】
なかでも、α,β−不飽和カルボン酸無水物が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
【0043】
変性物Aは、例えば、共重合体Aを溶融させて得られる溶融共重合体Aに、α,β−不飽和カルボン酸化合物を添加してグラフト重合させる方法、共重合体Aをトルエン、キシレン等の溶媒に溶解し、得られた溶液にα,β−不飽和カルボン酸化合物を添加してグラフト重合させる方法等により製造することができる。
【0044】
グラフト重合は、通常ラジカル開始剤の存在下に行われる。
ラジカル開始剤の使用量は、それが少ないと、α,β−不飽和カルボン酸化合物のグラフト重合量が少なくなり、水性エマルション組成物を乾燥して得られる硬化物の接着性が向上しにくい傾向があり、また、それが多いと、変性物A中に含まれる未反応のラジカル開始剤の量が増える傾向にあるため、共重合体A100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.01〜1重量部である。
【0045】
ラジカル開始剤としては、通常有機過酸化物が用いられ、半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物が好ましい。分解温度が50℃以上である有機過酸化物を用いた場合には、α,β−不飽和カルボン酸無水物のグラフト重合量が向上する傾向があり、分解温度が210℃以下である有機過酸化物を用いた場合には、グラフト重合における共重合体Aの分解が低減される傾向がある。分解によりラジカルを発生した後、共重合体Aからプロトンを引き抜く機能を有する有機過酸化物が好ましい。
【0046】
半減期が1分となる分解温度が50〜210℃である有機過酸化物としては、ジアシルパーオキサイド化合物、ジアルキルパーオキサイド化合物、パーオキシケタール化合物、アルキルパーエステル化合物およびパーカーボネート化合物が挙げられ、ジアルキルパーオキサイド化合物、ジアシルパーオキサイド化合物、パーカーボネート化合物およびアルキルパーエステル化合物が好ましい。具体的には、ジセチル パーオキシジカルボネート、ジ−3−メトキシブチル パーオキシジカルボネート,ジ−2−エチルヘキシル パーオキシジカルボネート、ビス(4−tert−ブチル シクロヘキシル)パーオキシジカルボネート、ジイソプロピル パーオキシジカルボネート、tert−ブチル パーオキシイソプロピルカーボネート、ジミリスチル パーオキシカルボネート、1,1,3,3−テトラメチルブチル パーオキシネオデカノエート、α−クミル パーオキシネオデカノエート,tert−ブチル パーオキシネオデカノエート、1,1ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2ビス(4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(tert−ブチルパーオキシ)シクロドデカン,tert−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート,tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート,tert−ブチルパーオキシラウレート,2,5ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン,tert−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(tert−ブチルパーオキシ)ブテン,tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ブチル 4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−tert−ブチルベルオキシイソフタレート、ジクミルパーオキサイド、α−α’−ビス(tert−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)ヘキサン、1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、tert−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイドおよび2,5−ジメチル−2,5−ジ(tert−ブチルパーオキシ)−3−ヘキシンが挙げられる。
【0047】
有機過酸化物の添加量は、共重合体A100重量部に対して、通常0.01〜20重量部、好ましくは0.05〜10重量部である。
【0048】
押出機を用いて溶融混練を行うことができ、複数の共重合体または共重合体と固体もしくは液体の添加物とを混合するための公知の各種方法が採用可能であるという点で、共重合体Aを溶融させて得られる溶融共重合体Aに、α,β−不飽和カルボン酸化合物を添加してグラフト重合させる方法が好ましい。グラフト重合を行う各成分の全部またはいくつかを組み合わせ、別々に、ヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、ブレンダー等により混合し、均一な混合物を得た後、該混合物を溶融混練する方法がさらに好ましい。溶融混練の手段としては、バンバリーミキサー、プラストミル、ブラベンダープラストグラフ、一軸または二軸の押出機等の公知の混練手段が広く採用可能である。変性物Aを連続的に生産可能であり、生産性が向上するという観点から、共重合体A、α,β−不飽和カルボン酸化合物およびラジカル開始剤を予め十分に混合して得られる混合物を、一軸または二軸の押出機の供給口より供給し、混練を行う方法が好ましい。押出機の溶融混練を行う部分の温度(例えば、押出機のシリンダー温度)は、通常50〜300℃、好ましくは80〜270℃である。温度が50℃以上であるとグラフト量が向上する傾向があり、温度が300℃以下であると共重合体Aの分解が抑制される傾向がある。溶融混練は、二段階で行うことが好ましく、二段階目の溶融混練の温度を、一段階目の溶融混練の温度よりも高くすることが好ましい。溶融混練時間は、通常0.1〜30分間、好ましくは0.1〜5分間である。溶融混練時間が0.1分以上であるとグラフト量が向上する傾向があり、また、溶融混練時間が30分以下であると共重合体Aの分解が抑制される傾向がある。
【0049】
変性物Aの分子量分布(Mw/Mn)は、通常1.5〜10であり、好ましくは1.5〜7、より好ましくは1.5〜5である。変性物Aの分子量分布は、前記共重合体Aの分子量分布と同様の方法により測定することができる。
【0050】
変性物Aの極限粘度[η]の値は、通常0.25〜10dl/g程度であり、0.3〜3dl/g程度が好ましい。
【0051】
続いて、成分(B)について説明する。成分(B)は、構造単位(b1)、構造単位(b2)および構造単位(b3)からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含み、ビニル化合物(I)に由来する構造単位を含んでいてもよく、ビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量が、5モル%未満である共重合体(以下、共重合体Bと略記する。)に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体(以下、共重合体B’と略記する。)である。
【0052】
構造単位(b3)は、前記構造単位(a3)と同様のものが挙げられる。
【0053】
共重合体B中のビニル化合物(I)に由来する構造単位の含有量は、共重合体Bの全ての構造単位100モル%に対して、1モル%未満であることが好ましく、ビニル化合物(I)に由来する構造単位を含まないことがより好ましい。
【0054】
共重合体Bは、構造単位(b1)と構造単位(b2)とからなる共重合体であることが好ましい。
【0055】
共重合体Bは、さらに、前記した付加重合可能な単量体に由来する構造単位を含むことができる。
【0056】
共重合体Bは、共重合体Aの製造方法と同様の方法により製造することができる。また、VESTPLAST(デグサ社の商品名)、LICOCENE(クラリアント社の登録商標)、タフセレン(住友化学の登録商標)等の市販されている共重合体を用いることができる。
【0057】
共重合体B’は、共重合体Bに、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる。α,β−不飽和カルボン酸化合物としては、前記したものと同様のものが挙げられ、α,β−不飽和カルボン酸無水物およびα,β−不飽和カルボン酸エステルが好ましい。二種以上のα,β−不飽和カルボン酸化合物を組み合わせて用いることができる。
【0058】
共重合体B’は、例えば、共重合体Bを有機溶媒に溶解させて得られる溶液に、α,β−不飽和カルボン酸化合物を添加してグラフト重合させる方法により製造することができる。有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、プロピオン酸ブチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル等のエステル溶媒、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルキレングリコールアルキルエーテルエステル溶媒、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のジアルキレングリコールアルキルエーテルエステル溶媒が挙げられる。
【0059】
グラフト重合は、通常ラジカル開始剤の存在下に行われ、ラジカル重合開始剤としては、前記したものと同様のものが挙げられる。
【0060】
グラフト重合は、安定剤の存在下に行うことができる。安定剤としては、ソルビトール、ソルビトールアルキレート、ヒドロキノン、ベンゾキノン、ニトロソフェニルヒドロキシ化合物、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト等のホスファイト化合物、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のペンタエリスリトールエステルが挙げられる。二種以上の安定剤を組み合わせて用いることもできる。
【0061】
α,β−不飽和カルボン酸化合物のグラフト重合量は、共重合体B’100重量%に対して、通常0.5〜50重量%程度、好ましくは1〜30重量%程度である。
【0062】
続いて、成分(C)について説明する。成分(C)は、乳化剤であり、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤および水溶性アクリル樹脂が挙げられ、水溶性アクリル樹脂が好ましい。
【0063】
ノニオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;および、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが挙げられる。
【0064】
アニオン性界面活性剤としては、ラウリル硫酸、ラウリル硫酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩)、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩)、ジアルキルスルホコハク酸、ジアルキルスルホコハク酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩)、脂肪酸、脂肪酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩)、アルケニルコハク酸、および、アルケニルコハク酸塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、トリエチルアミン塩等のアミン塩)が挙げられる。
【0065】
”水溶性アクリル樹脂”は、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を含有する水溶性の樹脂を意味し、水溶液の形態で用いることができる。
【0066】
α,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、アンゲリカ酸、テトラヒドロフタル酸、ソルビン酸、メサコン酸等炭素数3〜20のα,β−不飽和カルボン酸が挙げられる。該α,β−不飽和カルボン酸としては、カルボキシル基(−COOH)を一つまたは二つ有するα,β−不飽和カルボン酸が好ましい。なかでも、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
【0067】
水溶性アクリル樹脂は、二種以上のα,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位を含むことができる。
【0068】
水溶性アクリル樹脂は、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位に加えて、α,β−不飽和カルボン酸以外のα,β−不飽和カルボン酸化合物;塩化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル;塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン;ビニルホスホン酸、ビニルスルホン酸およびそれらの塩等のビニル化合物;スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン等の芳香族ビニル;(メタ)アクリロニトリル等のシアノビニル化合物;N−メチロールアクリルアミド、N−ブトキシメチルアクリルアミド等のアクリルアミド化合物;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;スルホン酸アリル、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物等の他の構造単位を含むことができる。水溶性アクリル樹脂は、二種以上の他の構造単位を含むことができる。
【0069】
α,β−不飽和カルボン酸以外のα,β−不飽和カルボン酸化合物としては、α,β−不飽和カルボン酸エステルが好ましい。
【0070】
α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、炭素数1〜20の脂肪族アルコールとα,β−不飽和カルボン酸とから導かれるα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステル、置換基を有していてもよいアミノ基を有する炭素数1〜10の脂肪族アルコールとα,β−不飽和カルボン酸とから導かれるα,β−不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステル、炭素数1〜10の脂肪族多価アルコールとα,β−不飽和カルボン酸とから導かれるα,β−不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、カルボン酸基を有する炭素数1〜10の脂肪族アルコールとα,β−不飽和カルボン酸とから導かれるα,β−不飽和カルボン酸のカルボン酸基含有アルキルエステル、および、ポリアルキレングリコールとα,β−不飽和カルボン酸とから導かれるα,β−不飽和カルボン酸のポリアルキレングリコールエステルが挙げられる。
【0071】
α,β−不飽和カルボン酸としては、前記したものと同様のものが挙げられ、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。
【0072】
炭素数1〜20の脂肪族アルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、3−メチルブタノール、2,2−ジメチルプロパノール、3−メチル−2−ブタノール、2−エチルヘキサノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、トリデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、シクロヘキサノール等の炭素数1〜20の直鎖状、分枝鎖状または環状の脂肪族アルコールが挙げられる。
【0073】
α,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デカニル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸セチル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デカニル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸セチル、メタクリル酸ステアリルおよびメタクリル酸シクロヘキシルが挙げられる。
【0074】
置換基を有していてもよいアミノ基としては、アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、sec−ブチルアミノ基、tert−ブチルアミノ基等の1個の炭素数1〜10の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基を有するアミノ基;ジメチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基等の2個の炭素数1〜10の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基を有するアミノ基;および環状アミノ基が挙げられ、2個の炭素数1〜10の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基を有するアミノ基が好ましく、2個の炭素数1〜3の直鎖状、分枝鎖状または環状のアルキル基を有するアミノ基がより好ましい。
【0075】
置換基を有していてもよいアミノ基を有する炭素数1〜10の脂肪族アルコールとしては、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N−ジエチルアミノエタノール、N−メチル−N−エチルアミノエタノール、N,N−ジプロピルアミノエタノール、N−メチル−N−プロピルアミノエタノール、N−エチル−N−プロピルアミノエタノール、N,N−ジメチルアミノプロパノールおよびN,N−ジメチルアミノブタノールが挙げられる。
【0076】
α,β−不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステルとしては、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチルアクリレートおよびN−メチル−N−エチルアミノエチルメタクリレートが挙げられる。
【0077】
炭素数1〜10の多価脂肪族アルコールとしては、ヒドロキシメタノール、ヒドロキシエタノール、ヒドロキシプロパノール、ヒドロキシブタノール、ヒドロキシペンタノールおよびヒドロキシヘキサノールが挙げられる。
【0078】
α,β−不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、ヒドロキシメチルアクリレート、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシペンチルアクリレート、ヒドロキシヘキシルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、ヒドロキシペンチルメタクリレートおよびヒドロキシヘキシルメタクリレートが挙げられる。
【0079】
カルボン酸基を有する炭素数1〜10の脂肪族アルコールにおける”カルボン酸基”は、カルボキシル基(−COOH)を有する有機基を意味し、カルボキシメチル基、1,2−ジカルボキシエチル基、2−カルボキシフェニル基および2,3−ジカルボキシフェニル基が挙げられる。
【0080】
α,β−不飽和カルボン酸のカルボン酸基含有アルキルエステルとしては、2−アクリロイルオキシエチルコハク酸、2−アクリロイルオキシエチルフタル酸、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸および2−メタクリロイルオキシエチルフタル酸が挙げられる。
【0081】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール等の炭素数1〜4のアルキレン基が酸素原子を介して1〜50個結合したポリアルキレングリコールおよびこれらポリアルキレングリコールの末端の水酸基が炭素数1〜20のアルキル基、アクリル基、メタクリル基等で保護されていてもよい。
【0082】
α,β−不飽和カルボン酸のポリアルキレングリコールエステルとしては、アクリル酸ポリプロピレングリコール、アクリル酸ポリエチレングリコール、アクリル酸ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、モノアクリル酸ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコール、アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、メタクリル酸ポリプロピレングリコール、メタクリル酸ポリエチレングリコール、メタクリル酸ポリエチレングリコールポリプロピレングリコール、モノメタクリル酸ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールおよびメタクリル酸メトキシポリエチレングリコールが挙げられる。
【0083】
水溶性アクリル樹脂中の、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量は、水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常5〜95モル%であり、好ましくは、5〜80モル%である。
【0084】
水溶性アクリル樹脂は、α,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルに由来する構造単位を含むことが好ましい。水溶性アクリル樹脂が、α,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位を含む場合、その含有量は、水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常5〜95モル%であり、好ましくは、20〜95モル%である。
【0085】
水溶性アクリル樹脂は、エチレンに由来する構造単位、直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位、ビニル化合物(I)に由来する構造単位または前記付加重合可能な単量体に由来する構造単位を含有することができるが、その含有量は、水性エマルション組成物を乾燥させることにより得られる硬化物の接着性が損なわれない範囲であればよく、水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常5モル%以下、好ましくは1モル%以下であり、これらの構造単位を実質的に含まないことが好ましい。
【0086】
水溶性アクリル樹脂が、α,β−不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステルに由来する構造単位を有する場合、その含有量は、水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常1〜80モル%であり、好ましくは1〜50モル%である。
【0087】
水溶性アクリル樹脂が、α,β−不飽和カルボン酸のカルボン酸基含有アルキルエステルに由来する構造単位を有する場合、その含有量は、水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常0.1〜80モル%であり、好ましくは5〜40モル%である。
【0088】
水溶性アクリル樹脂中のα,β−不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステルに由来する構造単位の含有量は、水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常0〜50モル%であり、好ましくは0〜30モル%、より好ましくは1モル%以下である。
【0089】
水溶性アクリル樹脂中のα,β−不飽和カルボン酸のポリアルキレングリコールエステルに由来する構造単位の含有量は、水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、通常0〜50モル%であり、好ましくは0〜30モル%であり、より好ましくは1モル%以下である。
【0090】
好ましい乳化剤としては、水溶性アクリル樹脂であって、該水溶性アクリル樹脂を構成する全ての構造単位100モル%に対して、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位の含有量が5〜80モル%、α,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルに由来する構造単位の含有量が10〜80モル%、α,β−不飽和カルボン酸のアミノアルキルエステルに由来する構造単位の含有量が1〜50モル%、および、α,β−不飽和カルボン酸のカルボン酸基含有アルキルエステルに由来する構造単位の含有量が5〜30モル%であり、前記4つの構造単位の合計が100モル%である水溶性アクリル樹脂が挙げられる。
【0091】
成分(C)は、さらに、アンモニウムカチオンを含んでもよい。アンモニウムカチオン源としては、アンモニアが好ましい。
【0092】
水性エマルション組成物は、成分(D)を含む。
【0093】
水性エマルション組成物中の成分(B)の含有量は、成分(A)と成分(C)の合計100重量部に対して、通常20〜60重量部である。
【0094】
水性エマルション組成物中の成分(C)の含有量は、成分(A)100重量部に対して、通常1〜30重量部である。
【0095】
水性エマルション組成物中の成分(A)、成分(B)および成分(C)の含有量の合計は、水性エマルション組成物100重量部に対して、通常10〜60重量部である。
【0096】
水性エマルション組成物は、成分(A)および成分(B)を分散質とし、成分(D)を分散媒とするエマルションである。
【0097】
エマルション組成物の分散質の体積基準メジアン径が0.01〜1μm、好ましくは、0.05〜0.95μm、とりわけ好ましくは、0.05〜0.5μmである。
【0098】
体積基準メジアン径が0.01μm以上であると、その製造が容易なことから好ましく、1μm以下であると、水性エマルション組成物を乾燥することにより得られる硬化物の接着性が向上する傾向があることから好ましい。
【0099】
ここで体積基準メジアン径とは、体積基準で積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径である。
【0100】
水性エマルション組成物は、成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションと、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションとを含む組成物である。
【0101】
水性エマルション組成物は、例えば、成分(A)および成分(B)を溶融混練し、得られた溶融混合物と成分(C)と成分(D)とを混合する方法により調製することができるが、成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルション(以下、水性エマルション(I)と略記する。)と、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルション(以下、水性エマルション(II)と略記する。)とを混合することにより調製することが好ましい。
【0102】
水性エマルション(I)は、例えば、成分(A)と成分(C)とを剪断応力を作用させながら混練し、得られる混練物を成分(D)に分散させる方法;成分(A)をトルエン等の有機溶媒に溶解させ、得られる溶液と成分(C)とを、剪断応力を作用させながら混合した後、得られた混合物を成分(D)に分散させ、得られた分散液から有機溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0103】
剪断応力を作用させる際の剪断速度としては、通常200〜100000秒−1程度、好ましくは1000〜2500秒−1程度である。”剪断速度”は、スクリューエレメント最外周部の周速度[mm/sec]をスクリューとバレルとのクリアランス[mm]で除した数値を意味する。
【0104】
剪断応力を作用させる装置としては、2軸押出機、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製)、ラボプラストミルマイクロ(株式会社 東洋精機製作所製)等の多軸押出機、ホモジナイザー、T.Kフィルミクス(プライミクス株式会社製)等のバレル(シリンダー)を有する機器が挙げられる。
【0105】
多軸押出機を用いる方法としては、まず、2本以上のスクリューをケーシング内に有する多軸押出機のホッパーから、成分(A)を供給し、成分(A)の加熱溶融混練を行い、次に、該押出機の圧縮ゾーンまたは/および計量ゾーンに設けられた少なくとも1個の液体供給口から成分(C)および成分(D)を供給し、成分(A)と成分(C)とを混練しながら成分(D)に分散させる方法が挙げられる。
【0106】
バレル(シリンダー)を有さない機器を用いてエマルションを製造することもでき、かかる機器としては、攪拌槽、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、フロージェットミキサー、コロイドミル、超音波発生機、高圧ホモジナイザー、分散君(株式会社フジキンの登録商標)、スタティックミキサーおよびマイクロミキサーが挙げられる。
【0107】
また、自己乳化等の化学乳化法でエマルションを製造することもできる。
【0108】
好ましくは、成分(A)と成分(C)とを剪断応力を作用させながら混練し、得られる混練物を成分(D)に分散させる方法が、所望のメジアン径を有するエマルションを容易に得ることができる点で好ましく、2軸押出機または多軸押出機を用いる方法が、高粘度の変性物Aを処理することもできるため、より好ましく、2軸押出機を用いる方法が特に好ましい。
【0109】
エマルション(I)の分散質の体積基準メジアン径は、通常0.01〜1μm、好ましくは0.05〜0.95μm、より好ましくは0.05〜0.5μmである。
【0110】
エマルション(I)中の成分(C)の含有量は、成分(A)100重量部に対して、通常1〜30重量部である。
【0111】
エマルション(II)は、例えば、成分(B)を溶融し、得られる溶融物と塩基性化合物とを混合した後、成分(D)を加える方法により調製することができる。具体的には、50〜150℃程度で成分(B)、塩基性化合物、水溶性有機溶剤および成分(D)を混合し、得られる混合物に、ホモジナイザー、高剪断型回転式乳化分散機等で水中油型エマルションを製造する、いわゆる機械乳化法、50〜150℃程度で成分(B)、塩基性化合物、水溶性有機溶剤および水を混合し、油中水型エマルションを形成し、その後、水を添加して、水中油型エマルションに相転移させる、いわゆる転相法が挙げられる。
【0112】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;アンモニア;および、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、イソプロピルアミン、プロパノールアミン、2−メチル−2−アミノプロパノール、ジエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン等のアミンが挙げられ、アミンが好ましく、2−メチル−2−アミノプロパノールがより好ましい。
【0113】
塩基性化合物の使用量は、エマルション(II)のpHが6〜11となる量が好ましく、pH7〜9となる量がより好ましい。
【0114】
”水溶性有機溶剤”とは、常圧で20℃の水に2.5質量%以上可溶な有機溶剤を意味する。具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール等のアルコール溶剤、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル溶剤、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノール等のセロソルブ溶剤、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール溶剤、および、グリセリン等の多価アルコール溶剤が挙げられる。かかる水溶性有機溶剤は単独で用いてもよいし、混合して使用してもよい。なかでも水に5質量%以上可溶なアルコールが好ましく、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノールおよびtert−ブタノールがより好ましい。
【0115】
成分(D)に対する水溶性有機溶剤の比率は、通常、25/75〜0/100(水溶性有機溶剤/成分(D))である。
【0116】
エマルション(II)は、成分(C)を含むことができる。
【0117】
エマルション(I)における水以外の成分100重量部に対して、エマルション(II)における水以外の成分が、通常20〜60重量部となるよう、エマルション(I)とエマルション(II)とが混合され、水性エマルション組成物が調製される。
【0118】
水性エマルション組成物は、ポリウレタン水性エマルション、エチレン−酢酸ビニル共重合体水性エマルション等の他の水性エマルション、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂、クレー、カオリン、タルク、炭酸カルシウム等の充填剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、発泡剤、ポリアクリル酸、ポリエーテル、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、澱粉等の増粘剤、粘度調整剤、難燃剤、酸化チタン等の顔料、コハク酸ジメチル、アジピン酸ジメチル等の高沸点溶剤、可塑剤等を含んでいてもよい。水性エマルション組成物をポリプロピレン、ポリエステル等の界面張力が低い被着体へ塗布する場合には、水性エマルション組成物のぬれ性を高めるという観点から、水性エマルション組成物は、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のシリコン系添加剤や、アセチレングリコール系界面活性剤を含むことが好ましい。
【0119】
水性エマルション組成物を乾燥させることにより得られる硬化物の難燃性や水性エマルション組成物の塗布性を改良するという点で、水性エマルション組成物は、充填剤を含むことが好ましく、その使用量は、水性エマルション組成物中の固形分100重量部に対して、通常1〜500重量部程度、好ましくは5〜200重量部程度である。
【0120】
水性エマルション組成物を被着体上に塗布することにより、被着体上に、水性エマルション組成物層が積層された積層体が得られ、該積層体を乾燥することにより、硬化物からなる層と被着体とを含む積層体が得られる。かかる硬化物からなる層は、塗料、プライマー、下地材、接着剤等として使用することができる。”被着体”は、水性エマルション組成物の塗布が可能な、任意の形状の物品を意味する。乾燥温度は、通常30〜180℃であり、好ましくは60〜150℃である。乾燥時間は、通常1分〜12時間程度、好ましくは10分〜6時間程度である。乾燥は、通風下で行ってもよいし、減圧下で行ってもよい。
【0121】
被着体としては、木材、合板、MDF、パーティクルボード、ファイバーボード等の木質材料;壁紙、包装紙等の紙質材料:綿布、麻布、レーヨン等のセルロース材料;ポリエチレン(エチレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリプロピレン(プロピレンに由来する構造単位を主成分とするポリオレフィン、以下同じ)、ポリスチレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、(メタ)アクリル樹脂ポリエステル、ポリエーテル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、発泡ウレタン等のプラスチック材料;ガラス、陶磁器等のセラミック材料;および、鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属材料が挙げられる。
【0122】
かかる被着体は、複数の材料からなる複合材料であってもよい。また、タルク、シリカ、活性炭等の無機充填剤や炭素繊維等とプラスチック材料との混練成形品であってもよい。
【0123】
ここで、ポリウレタンは、ウレタン結合によって架橋された高分子であり、通常、アルコール(−OHを有する化合物)とイソシアネート(−NCOを有する化合物)との反応によって得られる。発泡ポリウレタンは、イソシアネートと、架橋剤である水との反応によって生じる二酸化炭素やフレオン等の揮発性溶剤によって発泡されたポリウレタンである。自動車の内装用部材には、通常半硬質のポリウレタンが用いられ、塗料には、通常硬質のポリウレタンが用いられる。
【0124】
被着体としては、なかでも、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル樹脂、ガラス、アルミニウムおよびポリウレタンが好ましく、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ガラス、アルミニウムおよびポリウレタンがより好ましい。
【0125】
水性エマルション組成物から得られる硬化物は、二種類の被着体を接着する接着層として用いることができる。かかる硬化物は、耐水性に優れる。ここで、”耐水性”は、被着体に、水性エマルション組成物を塗布し、150℃で30分間乾燥して得られた硬化物を85℃の水中に浸漬したとき、水膨れ(ブリスター)が生じにくい性質を意味し、浸漬を開始後、ブリスターが生じるまでの時間が長いほど、耐水性に優れる。
【0126】
また、水性エマルション組成物から得られる硬化物は、ポリプロピレン等の塗料等の他の材料が接着し難い被着体との接着性に優れる。
【0127】
一方の被着体が、木質材料、紙質材料、セルロース材料等の吸水性の被着体である場合は、水性エマルション組成物を該吸水性の被着体上に塗布すると、水性エマルション組成物に含まれる成分(D)が吸水性の被着体に吸収され、吸水性の被着体上に成分(A)および成分(B)を含む接着層が形成される。そのため、該接着層上に、もう一方の被着体を貼りあわせることにより、吸水性の被着体、接着層およびもう一方の被着体とがこの順で積層した積層体が得られる。
【0128】
一方の被着体がポリオレフィン等の非吸水性の被着体である場合は、該非吸水性の被着体上に水性エマルション組成物を塗布した後、加熱して、非吸水性の被着体上に硬化物を形成した後、もう一方の被着体を、該硬化物上に貼合し、さらに、加熱することにより、積層体を得ることができる。加熱温度は、通常60〜200℃である。水性エマルション組成物は、加熱温度が60〜90℃であっても、接着性に優れる硬化物を与え、さらに、加熱温度が65〜80℃の低温であっても、接着性に優れる硬化物を与える。
【0129】
水性エマルション組成物から得られる硬化物には、さらに、液状材料を塗料として塗布してもよい。塗料としては、ポリウレタン等の前記被着体の材料が挙げられ、液状材料であると、該硬化物との接着性に優れる。
【実施例】
【0130】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の例中の”部”および”%”は、特に断らないかぎり重量基準を意味する。
【0131】
[固形分]
固形分は、JIS K−6828に準じた方法で測定した。
【0132】
[分子量および分子量分布]
成分(A)および成分(B)の分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した。ポリスチレン(分子量688〜400,000)標準物質で校正を行い、下記条件にて求めた。なお、分子量分布は、数平均分子量(以下、Mnという)に対する重量平均分子量(以下、Mwという)の比(Mw/Mn)で評価した。
機種 Waters製 150−C
カラム shodex packed column A−80M
測定温度 140℃
測定溶媒 オルトジクロロベンゼン
測定濃度 1mg/ml
【0133】
[ビニルシクロヘキサンに由来する構造単位の含有量]
成分(A)中のビニルシクロヘキサンに由来する構造単位の含有量は、成分(A)の13C−NMRスペクトルを、下記条件で測定して得られた結果と下記式(X)に基づき、算出した。
13C−NMR装置:BRUKER社製 DRX600
測定溶媒:オルトジクロロベンゼンとオルトジクロロベンゼン−d4
4:1(容積比)混合溶媒
測定温度:135℃
測定方法:Powergate Decouping法
パルス角度:45度
測定基準:テトラメチルシラン

ビニルシクロヘキサンに由来する構造単位の含有量(mol%)
=100×Y/(Z−2Y) (X)
(式(1)中、Yは、45ppm〜40ppmのシグナルの積分積算値を表わし、Zは、35ppm〜25ppmのシグナルの積分積算値を表わす。)
【0134】
[グラフト量]
成分(A)中の無水マレイン酸のグラフト量は以下のようにして求めた。
(i)試料1.0gをキシレン20mlに溶解させて、試料溶液を調製する。
(ii)調製した溶液をメタノール300ml中に攪拌しながら滴下する。
(iii)メタノール中に析出した沈殿を回収し、80℃で、8時間乾燥する。
(iv)乾燥した固体を用いて、熱プレスにより厚さ100μmのフィルムを作製する。
(v)作製したフィルムの赤外吸収スペクトルを測定し、1780cm−1付近の吸収ピークに基づきマレイン酸グラフト量を定量した。
【0135】
[メルトフローレート]
重合体のメルトフローレート(MFR)は、フローテスター(CFT−500D;株式会社島津製作所製)を用いて、190℃で測定した。なお、加重は0.49MPaであり、ダイの内径は1mm、長さは10mmであった。
【0136】
[極限粘度]
成分(A)の極限粘度([η]、単位:dl/g)は、ウベローデ型粘度計を用い、テトラリンを溶媒として135℃で測定した。
【0137】
[ガラス転移温度および融点]
成分(A)のガラス転移温度([Tg]、単位:℃)および融点([Tm]、単位:℃)は、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製 SSC−5200)を用いて、下記条件で示差走査熱量測定曲線を測定し、工程(c)で得られる示差走査熱量測定曲線に基づき求めた。
<測定条件>
(a)試料を、20℃から200℃まで、10℃/分で昇温した後、200℃で10分間保持する。
(b)(a)で得られる試料を、200℃から−100℃まで、10℃/分で降温した後、−100℃で10分間保持する。
(c)(b)で得られる試料を、−100℃から200℃まで10℃/分で昇温する。
【0138】
[軟化点]
成分(B)の軟化点は、フローテスター(CFT−500D;株式会社島津製作所製)を用い、T1/2法により得た値である。加重は0.49MPaであり、ダイの内径は1mm、長さは10mmであった。
【0139】
[粒子径]
水性エマルション中の分散質の粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置LA−910(HORIBA社製)を用い、粒子屈折率1.50−0.20iで測定した体積基準のメジアン径である。
【0140】
<成分(A)の製造例1>
ステンレス製反応器の内部の気体をアルゴンガスで置換した後、ビニルシクロへキサン386部とトルエン3640部を投入した。得られた混合物を50℃に昇温した後、エチレンを0.6MPaで加圧しながら反応器内に仕込んだ。さらに、トリイソブチルアルミニウムのトルエン溶液(トリイソブチルアルミニウム濃度:20%、東ソー・アクゾ(株)製)10部を仕込み、続いて、ジエチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3−tert−ブチル−5−メチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド0.001部を脱水トルエン87部に溶解させることにより得られた溶液とジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート0.03部を脱水トルエン122部に溶解させることにより得られた溶液を、反応器内に仕込んだ。得られた混合物を2時間攪拌した。得られた反応混合物をアセトン約10,000部中に注ぎ、沈殿した白色固体を濾過により取り出した。取り出した固体をアセトンで洗浄した後、減圧乾燥し、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体300部を得た。得られた共重合体の[η]は0.48dl/gであり、Mnは15,600であり、Mw/Mnは2.0であり、Tmは57℃であり、Tgは−28℃であり、ビニルシクロヘキサンに由来する構造単位の含有率は13モル%であった。得られた共重合体を(A−1a)と称す。
【0141】
<成分(A)の製造例2>
(A−1a)100部に、無水マレイン酸0.4部および1,3−ビス(tert−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン0.04部を添加し、得られた混合物を十分に攪拌し、予備混合を行った。得られた混合物を二軸押出機の供給口より供給して溶融混練を行った。なお、溶融混練を前半と後半の二段階に分けて行い、押出機の溶融混練を行う部分の前半部分の温度は180℃に、後半部分の温度は260℃に、それぞれ設定し、溶融混練を行った。その結果、エチレン・ビニルシクロヘキサン共重合体に無水マレイン酸をグラフト重合させることにより得られた重合体を得た。得られた重合体のマレイン酸グラフト量は0.2%であり、MFRは180g/10分(190℃、荷重:2.16kgf)であった。得られた重合体を、(A−2a)と称す。
【0142】
<成分(A)の製造例3>
<成分(A)の製造例1>において、エチレンに代えてプロピレンを用いる以外は、<成分(A)の製造例1>と同様に実施することにより、プロピレン・ビニルシクロヘキサン共重合体を得ることができる。該共重合体を(A−1b)と称す。
【0143】
<成分(A)の製造例4>
<成分(A)の製造例1>において、(A−1a)に代えて(A−1b)を用いる以外は、<成分(A)の製造例1>と同様に実施することにより、プロピレン・ビニルシクロヘキサン共重合体に無水マレイン酸をグラフト重合させることにより得られる重合体を得ることができる。該重合体を(A−2b)と称す。
【0144】
<成分(C)の製造例>
アクリル酸(三菱化学(株)製)7.5部(10.9モル比)、メタクリル酸(関東化学(株)製)22.5部(27.4モル比)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(関東化学(株)製)29.5部(26.6モル比)、エチルアクリレート29.5部(30.8モル比)およびラウリルメタクリレート(三菱レイヨン(株)製)11部(4.4モル比)を10〜30℃で混合し、単量体混合物100部を調製した。ここで、”モル比”は、上記単量体の合計モル数を100としたときの、それぞれの単量体のモル数を表わす。
反応器に、イソプロパノール150部と上記で調製した単量体混合物を加えた。反応器内の気体を窒素ガスに置換した後、重合開始剤として2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.9部を加え、得られた混合物を80℃で2時間攪拌した。得られた反応混合物を、沸騰する程度まで加熱して、イソプロパノールを留去した。得られた濃縮物の内温を50℃に冷却した後、28%アンモニア水溶液29部(48モル比、該モル比は、上記単量体の合計モル数を100としたときの、アンモニアのモル数を表わす。)を混合し、水を加え、乳化剤を得た。該乳化剤を(C−1)と称す。収率90%。
【0145】
<エマルション(I)の製造例1>
同方向回転噛合型二軸スクリュー押出機((株)日本製鋼所社製:TEX30φ、L/D=30)のシリンダー温度を110℃に設定した後、該押出機のホッパーより、(A−1b)110部をスクリューの回転数350rpmにて連続的に供給した。
該押出機のベント部に設けた供給口より、固形分量が10部となる量の(C−1)をギヤーポンプで加圧しながら連続的に供給し、乳白色の水性エマルションを得た。得られた水性エマルションを(I−1b)と称す。(I−1b)の分散質の粒子径は0.6μmであった。
【0146】
<エマルション(I)の製造例2>
<エマルション(I)の製造例1>において、(A−1b)に代えて(A−1a)を用いる以外は、<エマルション(I)の製造例1>と同様に実施することにより、水性エマルションを得ることができる。該水性エマルションを(I−1a)と称す。
【0147】
<エマルション(I)の製造例3>
<エマルション(I)の製造例1>において、(A−1b)に代えて(A−2a)を用いる以外は、<エマルション(I)の製造例1>と同様に実施することにより、水性エマルションを得ることができる。該水性エマルションを(I−2a)と称す。
【0148】
<エマルション(I)の製造例4>
<エマルション(I)の製造例1>において、(A−1b)に代えて(A−2b)を用いる以外は、<エマルション(I)の製造例1>と同様に実施することにより、水性エマルションを得ることができる。該水性エマルションを(I−2b)と称す。
【0149】
<成分(B)の製造例1>
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素ガス導入管を備えた反応器に、ポリエチレン・ポリプロピレン共重合体であるLICOCENE PP 1502(LICOCENEはクラリアント社登録商標) 1000部、ソルビトール1部およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート50部を加えた。窒素雰囲気下で、180℃に保たれた油浴中に反応器を浸し、攪拌を行いながら反応器内が170℃になるように油浴の温度を調整した。反応器内の共重合体を溶融させた後、攪拌を行い均一な状態を保ちながら、無水マレイン酸60部とメタクリル酸ブチル120部とジ−tert−ブチル パーオキサイド10部をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート150部に溶解して得られた溶液を2時間かけて滴下した。
滴下終了後、系内を170℃に保ったまま2時間保持した後、反応容器内を減圧しながら、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートと未反応の無水マレイン酸、メタクリル酸ブチル、ジ−tert−ブチル パーオキサイドおよびジ−tert−ブチル パーオキサイドが分解して生成した低分子の化合物の除去を1時間行った。減圧終了後、反応物を取り出し、冷却し、メタアクリル酸ブチルとマレイン酸で変性した共重合体の固形物を得た。得られた共重合体を、(B−1)と称す。(B−1)の軟化点は87℃であった。
【0150】
<エマルション(II)の製造例1>
攪拌機、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、(B−1)100部を加え、130℃に保たれた油浴中に反応器を浸し、(B−1)を溶融した。油浴の温度を130℃に保ったまま、2−メチル−2−アミノプロパノール水溶液(濃度90%)6部と2−ブタノール50部を加えた。得られた混合物を強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。粘度は一旦上昇したが、イオン交換水を加え続けると粘度は低下した。250部のイオン交換水を加えた後、内温30℃になるまで冷却した。得られた混合物を100メッシュのナイロン濾布を用いて濾過し、水性エマルションを得た。得られた水性エマルションを(II−1)と称す。得られた(II−1)の粒子径は0.5μmであった。
【0151】
<エマルション(II)の製造例2>
攪拌機、温度計、還流冷却器を備えた反応器に、(B−1)100部およびAS1540(アルケニル無水コハク酸、星光PMC株式会社製)10部を加え、130℃に保たれた油浴中に反応器を浸し、(B−1)を溶融した。反応器に、2−メチル−2−アミノプロパノール水溶液(濃度90%)10部を添加した後、得られた混合物を強く攪拌しながら、80℃のイオン交換水を少量ずつ加えた。粘度は一旦上昇したが、イオン交換水を加え続けると粘度は低下した。250部のイオン交換水を加え、乳白色の水性エマルションを得た。得られた水性エマルションを(II−2)と称す。(II−2)の粒子径は0.2μmであった。
【0152】
実施例1
水性エマルション(I−2a)と水性エマルション(II−1)とを、固形分換算で4/1の割合で配合した後、得られた混合物を攪拌し、水性エマルション組成物を得た。
[耐水性評価]
ポリプロピレン板上に、乾燥して得られる硬化物の膜厚が5μm程度となるように、上記で得た水性エマルション組成物を塗布した後、150℃で30分間乾燥させ、ポリプロピレン板上に硬化物層が積層した積層体を得た。
得られた積層体を85℃の水に、7日間浸漬したが、積層体の硬化物層にはブリスターの発生が認められなかった。
[接着性評価]
ポリプロピレン板上に、乾燥して得られる硬化物の膜厚が10μm程度となるように、上記で得た水性エマルション組成物を塗布した後、80℃で30分間乾燥させ、ポリプロピレン板上に硬化物層が積層した積層体を得た。
得られた積層体の硬化物層の表面に、すき間間隔1mmで、碁盤目状に、切り傷を入れ、100マスの切れ目を作製した。セロハンテープを貼り付け、所定時間経過後、セロハンテープを剥離したところ、硬化物層が90マス以上残存した。
また、加熱温度を90℃とする以外は上記と同様にして得られた積層体についても上記と同様の接着性試験を行ったところ、硬化物層が90マス以上残存した。
さらに、加熱温度を120℃とする以外は上記と同様にして得られた積層体についても上記と同様の接着性試験を行ったところ、硬化物層が90マス以上残存した。
【0153】
実施例2
実施例1において、水性エマルション(II−1)に代えて、水性エマルション(II−2)を用いた以外は、実施例1と同様に実施して、水性エマルション組成物を得た。得られた水性エマルションを用い、実施例1と同様にして、ポリプロピレン板上に硬化物層が積層した積層体を得た。
得られた積層体の耐水性評価を、実施例1と同様に実施したところ、ブリスターの発生は認められなかった。また、得られた積層体の接着性評価を、実施例1と同様に実施したところ、実施例1と同様の結果が得られた。
【0154】
比較例1
実施例1において、水性エマルション(I−2a)と水性エマルション(II−1)とから調製した水性エマルション組成物に代えて、水性エマルション(II−1)を用いた以外は、実施例1と同様に実施して、ポリプロピレン板上に硬化物層が積層した積層体を得た。得られた積層体を85℃の水に、3日間浸漬したところ、硬化物層に、直径5mmを超えるブリスターが発生していることが確認できた。
【0155】
比較例2
実施例1において、水性エマルション(I−2a)と水性エマルション(II−1)とから調製した水性エマルション組成物に代えて、水性エマルション(II−2)を用いた以外は、実施例1と同様に実施して、ポリプロピレン板上に硬化物層が積層した積層体を得た。得られた積層体を85℃の水に、3日間浸漬したところ、硬化物層に、直径5mmを超えるブリスターが発生していることが確認できた。
【0156】
実施例3
実施例1において、水性エマルション(I−2a)に代えて、水性エマルション(I−1a)を用いる以外は実施例1と同様に実施することにより、水性エマルション組成物を得ることができる。
【0157】
実施例4
実施例1において、水性エマルション(I−2a)に代えて、水性エマルション(I−2b)を用いる以外は実施例1と同様に実施することにより、水性エマルション組成物を得ることができる。
【0158】
実施例5
実施例1において、水性エマルション(I−2a)に代えて、水性エマルション(I−1b)を用いる以外は実施例1と同様に実施することにより、水性エマルション組成物を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の水性エマルションから得られる硬化物は、ポリプロピレン等の塗料等の他の材料が接着し難い被着体との接着性に優れた硬化物を与えることができ、また、得られる硬化物の耐水性も優れるため、耐水性が要求される接着層として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を含む水性エマルション組成物を乾燥させることにより得られる硬化物からなる層と被着体とを含む積層体。
(A)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位と、式(I)
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表わす。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含み、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が5モル%以上40モル%以下である共重合体、または
前記共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体変性物
(B)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含み、前記式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位を含んでいてもよく、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が、5モル%未満である共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体
(C)乳化剤
(D)水
【請求項2】
水性エマルション組成物が、成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションと、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションとを混合することにより得られる請求項1記載の積層体。
【請求項3】
成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションと、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションとを含む組成物から得られる硬化物層と被着体とを含む請求項1記載の積層体。
【請求項4】
被着体が、木質材料、セルロース材料、プラスチック材料、セラミック材料および金属材料からなる群から選ばれる少なくとも1種の材料からなる被着体である請求項1、2または3記載の積層体。
【請求項5】
乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位とを含む水溶性アクリル樹脂である請求項1、2または3記載の積層体。
【請求項6】
Rが、2級アルキル基、3級アルキル基またはシクロアルキル基である請求項1、2または3記載の積層体。
【請求項7】
式(I)で示されるビニル化合物がビニルシクロヘキサンである請求項1、2または3記載の積層体。
【請求項8】
成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションが、成分(A)と成分(C)とを、剪断応力を作用させながら混練し、得られる混練物を成分(D)中に分散させることにより得られる水性エマルションである請求項2または3記載の積層体。
【請求項9】
成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分100重量部に対して、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分が20〜60重量部である請求項2または3記載の積層体。
【請求項10】
下記成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)を含む水性エマルション組成物。
(A)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位と、式(I)
CH=CH−R (I)
(式中、Rは、2級アルキル基、3級アルキル基または脂環式炭化水素基を表わす。)
で示されるビニル化合物に由来する構造単位とを含み、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が5モル%以上40モル%以下である共重合体、または
前記共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体変性物
(B)エチレンに由来する構造単位、プロピレンに由来する構造単位および炭素数4以上の直鎖状α−オレフィンに由来する構造単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造単位を含み、前記式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位を含んでいてもよく、式(I)で示されるビニル化合物に由来する構造単位の含有量が、5モル%未満である共重合体に、α,β−不飽和カルボン酸化合物をグラフト重合させることにより得られる共重合体
(C)乳化剤
(D)水
【請求項11】
成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションと、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションとを混合することにより得られる請求項10記載の水性エマルション組成物。
【請求項12】
乳化剤が、α,β−不飽和カルボン酸に由来する構造単位とα,β−不飽和カルボン酸エステルに由来する構造単位とを含む水溶性アクリル樹脂である請求項10または11記載の水性エマルション組成物。
【請求項13】
Rが、2級アルキル基、3級アルキル基またはシクロアルキル基である請求項10または11記載の水性エマルション組成物。
【請求項14】
式(I)で示されるビニル化合物がビニルシクロヘキサンである請求項10または11記載の水性エマルション組成物。
【請求項15】
成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションが、成分(A)と成分(C)とを、剪断応力を作用させながら混練し、得られる混練物を成分(D)中に分散させることにより得られる水性エマルションである請求項11記載の水性エマルション組成物。
【請求項16】
成分(A)と成分(C)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分100重量部に対して、成分(B)と成分(D)とを含む水性エマルションにおける水以外の成分が20〜60重量部である請求項11記載の水性エマルション組成物。
【請求項17】
被着体上に、請求項10〜16のいずれか一項記載の水性エマルション組成物を塗布し、水性エマルション層と被着体とを含む積層体を得る工程と、
得られた積層体を乾燥して、硬化物からなる層と被着体とを含む積層体を得る工程を含む積層体の製造方法。
【請求項18】
被着体上に硬化物層を形成するための、請求項10〜16のいずれか一項記載の水性エマルション組成物の使用。

【公開番号】特開2011−25695(P2011−25695A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147344(P2010−147344)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】