説明

積層固着品および積層固着品の製造方法

【課題】打出し突起部を分離する加工孔に発生するバリの外部への露出を完全に防止する事が可能な積層固着品および積層固着品の製造方法を提供する。
【解決手段】 打ち出し突起部12aを有する複数の第1の薄板個片12を、突起部の凹凸を合致させて積層結合した積層体と、突起部12aに対応する位置に打抜き孔13aを形成し、かつ突起部12aに対応する位置とは別の位置に別の打抜き孔13bを形成するとともに、突起部12aに対応する位置に形成した打抜き孔13aを介して前記積層体の突起部12aに結合された第2の薄板個片13と、前記積層体の第1の薄板個片12と逆向きの打ち出し突起部14aを有し、前記打抜き孔13a,13bを形成した第2の薄板個片13に、前記打ち出し突起部12aに対応する位置とは別の位置に形成された打抜き孔13bに前記逆向きの打ち出し突起部14aを嵌入させて結合した第3の薄板個片14とから成る積層固着品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工によって突起部を形成した薄板の金属材料を打ち抜き、この打ち抜かれた薄板個片を、突起部を合致させて互いに積層して形成した積層固着品および積層固着品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の積層固着品をプレス加工で行うには、薄板の金属材料に打出し突起部を設け、この突起部を含む金属材料を、外形抜きダイにより打抜きして、薄板個片を得ると共に、この外形抜きダイに先行して打抜かれている薄板個片の突起裏面の凹部へ突起凸部を嵌入させて両者を一体に固着させ、これを順次繰り返し所定枚数だけ固着させる事により積層固着品の製造がなされている。
例えば、図6にプレス加工工程の一例を示す。図6では、工程順に(I)〜(V)に分けて示している。
【0003】
第1工程(I)において、薄板の金属材料100にプレス順送り加工のパイロット孔101及び積層固着品に必要な孔102があけられる。第2工程(II)ではスリット孔103、第3工程(III)では積層固着品を分離するための加工孔104が積層厚さに応じた時機に間歇的に打抜かれる。第4工程(IV)では薄板の金属材料100を一体に固着させるための打出し突起105が成形される。第5工程(V)では薄板個片106を得るための外形打抜きをした状態を示している。この外形打抜きと共に、外形打抜きダイ内に先行して配置されている、すでに打抜かれている薄板個片106の打出し突起105裏面の凹部へ、打出し突起105の凸部を嵌入させて薄板個片106の両者を一体に固着する加工が行われる。
【0004】
しかしながら、このような従来のプレス加工による薄板の金属材料100の積層固着品にあっては、図7に示す順送り金型レイアウト図のごとく、分離された薄板個片106に設けられた打出し突起105を分離するための加工孔104が薄板個片106を一体に固着させるための打出し突起105を形成する工程に送られた際、打出し突起105を成形するパンチ201にて加工孔104の壁面が、図7(b)に示すように、擦られてバリが発生してしまう。同様に図7(a)の外形を打抜く工程(III)にて、外形打抜きと共に外形打抜きダイ301内に配置されている、先行して打抜かれている薄板個片106の加工孔104へ、打出し突起部105を嵌入させる際、図7(c)に示すように、打出し突起105の凸部で加工孔104が擦られバリが発生してしまう。
図8に示す様に、この打出し突起部105を分離する加工孔104に発生したバリ107が、モーター組立時に回転子と固定子間に侵入し、モーターが回転不良になってしまうという問題点があった。
【0005】
こうした問題点を解決する方法として、特許文献1(特許第3492008号)および特許文献2(特許第3782267号)が提案されている。
特許文献1は、最下層の薄板個片の加工孔を、下方から上方に向けて打ち抜き形成することによって、打ち抜きバリが積層固着品の表面に出ないようにしている。
特許文献2は、外形打抜きのタイミングと打出し突起の凸部を嵌合させるタイミングとを調整することによってバリが出ないようにしている。
【特許文献1】特許第3492008号
【特許文献2】特許第3782267号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした方法を用いても、薄板個片の加工孔に発生するバリが積層固着品の表面に露出するのを完全に防ぐことはできなかった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決し、打出し突起部の分離する加工孔に発生するバリを薄板個片間に封じ込む事により、打出し突起部を分離する加工孔に発生するバリの外部への露出を完全に防止する事が可能な積層固着品および積層固着品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するため、打ち出し突起部を有する複数の第1の薄板個片を、前記打ち出し突起部の凹凸を合致させて積層結合した積層体と、前記打ち出し突起部に対応する位置に打抜き孔を形成し、かつ前記打ち出し突起部に対応する位置とは別の位置に別の打抜き孔を形成するとともに、前記打ち出し突起部に対応する位置に形成した打抜き孔を介して前記積層体の打ち出し突起部に結合された第2の薄板個片と、前記積層体の第1の薄板個片と逆向きの打ち出し突起部を有し、前記打抜き孔を形成した第2の薄板個片に、前記打ち出し突起部に対応する位置とは別の位置に形成された打抜き孔に前記逆向きの打ち出し突起部を嵌入させて結合した第3の薄板個片とから成ることことにある。
また、本発明は、前記打出し突起部を円周方向に等ピッチに配置してなる第1の薄板個片、及び逆方向の打出し突起部を円周方向に等ピッチに配置してなる第3の薄板個片と、前記第1の薄板個片の打出し突起部および前記第3の薄板個片の打出し突起部に対応する位置に打抜き孔を形成した第2の薄板個片によって形成されたことにある。
さらに、本発明は、薄板をプレス加工により打ち抜き、打ち出し突起部を有する複数の第1の薄板個片を成形し、前記打ち出し突起部に対応する位置と、別の位置にそれぞれ打抜き孔を形成した第2の薄板個片を形成し、一方、逆向きに打ち出し突起部を有する第3の薄板個片を成形し、前記打ち出し突起部を介して複数の第1の薄板個片を順次積層して結合するとともに、これら積層された第1の薄板個片の突起部に前記打抜き孔を形成した薄板個片を、該打抜き孔を介して積層結合し、この打抜き孔を形成した第2の薄板個片の別の位置に設けられた打抜き孔に、前記逆向きに打ち出し突起部を有する第3の薄板個片を該逆向きの打ち出し突起部を嵌入させて積層結合することにある。
【発明の効果】
【0009】
請求項1によれば、打出し突起部を分離する加工孔に発生するバリを薄板個片相互間に封じ込む事により、打出し突起部を分離する加工孔に発生するバリの外部への露出を防止する事が可能になる。結果として、モーター回転不良の発生を防止する事ができる。
請求項2によれば、打ち出し突起部を有する複数の第1の薄板個片を積層する際の組み付けが容易で、かつ第2、第3の薄板個片を回転させて積層することができる。
請求項3によれば、打出し突起部を分離する加工孔に発生するバリを薄板個片相互間に封じ込む事により、打出し突起部を分離する加工孔に発生するバリの外部への露出を防止する事が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図示の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態による薄板固着品を示す概念図、図2は図1のA−A線断面図、図3はプレス加工工程の一例を示す概念図、図4は金型のレイアウトを示す概念断面図である。
【0011】
図1において、10は、積層固着品であり、この積層固着品10は、図2に示すように積層された打出し突起部12aを有する複数の第1の薄板個片12と、該打出し突起部12aが嵌入結合された加工孔13aを有する第2の薄板個片13と、この第2の薄板個片13の別の加工孔13bに、逆方向の打出し突起部14aを嵌入して結合された第3の薄板個片14とで一体に積層結合されて構成されている。
【0012】
次に積層固着品10の組み付け手順を説明すると、まず、逆方向の打出し突起部14aを有する第3の薄板個片14をプレス加工にて打抜き、その後、第1の薄板個片12の打出し突起部12aを分離する加工孔13aと、この加工孔13aとは別の加工孔13bを有する第2の薄板個片13を打抜き、第3の薄板個片14に形成した逆方向の打出し突起14aの凸部を、打出し突起部14aを分離する第2の薄板個片13の加工孔13bに嵌入させ両者を一体に結合する。その後、打出し突起12aを有する第1の薄板個片12を打抜き、この打出し突起12aの凸部を、第2の薄板個片13の加工孔13aに嵌入させて薄板個片12,13を一体に結合する。その後、打出し突起12aを有する薄板個片12を設定枚数打抜き、その際、打出し突起12aの凹部に、打出し突起12aの凸部を互いに嵌入させて、複数の薄板個片12を一体に加工する。
【0013】
順送り金型を使用しての薄板個片12,13,14の加工の一例を図3、及び図4に従って説明する。
図3の(I)〜(VI)は、薄板の金属材料11から薄板個片12,13,14を成形する手順に沿って各工程を示したものである。
図3の第1工程(I)では、薄板の金属材料11に、プレス順送り加工のパイロット孔11a及び、製品に、シャフトなどを通すための必要な孔11bがあけられる。第2工程(II)では、前記孔11bを中心として多数のスリット孔11cが、例えば回転子鉄心の径に対応する円周に沿ってあけられる。第3工程(III)では、積層して結合するための分離個片となる第2の薄板個片13を形成するための、打出し突起部を抜き落として円周方向に一定間隔の加工孔11d(13a,13b)を形成する加工が行なわれる。第4工程(IV)では、第3の薄板個片14となる逆方向の打出し突起11e(14a)が形成される。
第5工程(V)では第1の薄板個片12を一体に固着させるための打出し突起11f(12a)が形成される。第6工程(VI)では薄板個片12,13,14を得るための外径打抜きが行われる。
【0014】
ここで、打出し突起部を抜き落とす加工孔11d(13a,13b)を有している第2の薄板個片13を得るための外径抜きが行われる際、外形抜きダイに、先行して打抜かれている逆方向の打出し突起11e(14a)を有している第3の薄板個片14の打出し突起11e(14a)の凸部へ、打出し突起部を抜き落とす加工孔11d(13b)を嵌合させて、両者を一体にする加工が行われる。その後打出し突起11f(12a)を有している第1の薄板個片12を得るための外形抜きが行われる際、外形抜きダイに先行して打抜かれている第1の薄板個片12の打出し突起11f(12a)凹側もしくは打出し突起部を抜き落とす加工孔11d(13a)へ打出し突起11f(12a)の凸部を嵌入させ、両者を一体にする加工が行われる。
【0015】
図4(a)(b)(c)は打ち抜き加工の型構造と打ち抜き加工を示したものである。図4(a)の(I)〜(IV)は、各プレス工程を示したものである。工程(I)は、加工孔11dを成形する工程で、下型30に対して上から打出し突起を成形するパンチ20により加工孔11dを成形する。工程(II)は、打出し突起を成形するパンチ20を下型に配置する事により、上型31に対して逆方向の打出し突起11eを形成する。また、工程(III)のように、打出し突起を成形するパンチ20により加工孔を成形する場合、図4(b)のように加工孔11dにバリが発生する。また、工程(IV)のように、薄板個片12を積層して一体にする加工を行なう際に、図4(c)のように加工孔11dにバリが発生する。
外形抜き工程において先行して打抜かれている逆方向の打出し突起14aを有している薄板個片14により打出し突起部を分離する加工孔11dは密閉されるため、結果として加工孔11dに発生したバリの露出を完全に防止する事が可能となる。
【0016】
図5には、本発明の他の実施の形態を示す。
第3の薄板個片14の逆方向の打出し突起部14aは、第1の薄板個片12に設けられた通常の打出し突起部12aと同寸法(同形状)・同数とし、逆方向の打出し突起部14aを有している薄板個片14と、突起部を抜き落とす加工孔11dを有する薄板個片13間の引張り方向の固着強度低下を防止する。
また従来のプレス順層プレス加工では、図6の第5工程Vの薄板個片を得るための外形抜きにおいて、外径打抜き毎に外径抜きダイ及びダイ内に先行して打抜かれた薄板個片を等ピッチで回転させ、薄板個片の回転積層も可能としていた。本発明では図5に示すごとく、打出し突起間ピッチ(ヒ゜ッチa)と逆方向の打出し突起間ピッチ(ヒ゜ッチb)を同ピッチで配置する事で、従来と同様の回転積層も可能とした。
【0017】
以上説明してきたように、上記実施の形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
打出し突起部の分離する加工孔に発生するバリを薄板個片間に封じ込む事により、打出し突起部を分離する加工孔に発生するバリが外部へ露出する不具合を防止する事が可能になる。結果として、モーター回転不良の発生を防止する事が可能になる。
【0018】
なお、本発明は、上記実施の形態のみに限定されるものではなく、例えば、図5に示すように、第1の薄板個片12の突起部12aのピッチaおよび第3の薄板個片14の逆方向の打出し突起部14aのピッチbは、a=bのそれぞれ同ピッチに設定することで、第2の薄板個片13の加工孔13aと打出し突起部14aを分離する第2の薄板個片13の加工孔13bに対して、回転させて第3の薄板個片14の逆方向の打出し突起部14aを加工孔13bに係合させることができる。また、突起部12aおよび突起部14aの形状は、円形に限らず図5に示すように長方形等の四角形12b、14bでも良く、加工孔13a、13bの形状もこれに対応する四角形でも良いことはいうまでもない。その他本発明の要旨を変更しない範囲内で適宜変更して実施し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態による薄板固着品を示す概念図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】プレス加工工程の一例を示す概念図である。
【図4】金型のレイアウトを示す概念断面図で、(a)は工程ごとの金型の配置構造を示す断面図、(b)は工程(III)でバリが発生する状態を示す断面図、(c)は工程(IV)でバリが発生する状態を示す断面図である。
【図5】本発明の他の実施の形態による薄板固着品を示す概念図である。
【図6】従来のプレス加工工程の一例を示す概念図である。
【図7】従来の金型のレイアウトを示す概念断面図で、(a)は工程ごとの金型の配置構造を示す断面図、(b)は工程(II)でバリが発生する状態を示す断面図、(c)は工程(III)でバリが発生する状態を示す断面図ある。
【図8】従来の薄板固着品を示す断面図である。
【符号の説明】
【0020】
10 積層固着品
11 薄板の金属材料
12 第1の薄板個片
13 第2の薄板個片
14 第3の薄板個片
20 パンチ
30 下型
31 上型
12a 打出し突起部
13a,13b 加工孔
14a 逆方向の打出し突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち出し突起部を有する複数の第1の薄板個片を、前記打ち出し突起部の凹凸を合致させて積層結合した積層体と、前記打ち出し突起部に対応する位置に打抜き孔を形成し、かつ前記打ち出し突起部に対応する位置とは別の位置に別の打抜き孔を形成するとともに、前記打ち出し突起部に対応する位置に形成した打抜き孔を介して前記積層体の打ち出し突起部に結合された第2の薄板個片と、前記積層体の第1の薄板個片と逆向きの打ち出し突起部を有し、前記打抜き孔を形成した第2の薄板個片に、前記打ち出し突起部に対応する位置とは別の位置に形成された打抜き孔に前記逆向きの打ち出し突起部を嵌入させて結合した第3の薄板個片とから成ることを特徴とする積層固着品。
【請求項2】
前記打出し突起部を円周方向に等ピッチに配置してなる第1の薄板個片、及び逆方向の打出し突起部を円周方向に等ピッチに配置してなる第3の薄板個片と、前記第1の薄板個片の打出し突起部および前記第3の薄板個片の打出し突起部に対応する位置に打抜き孔を形成した第2の薄板個片によって形成された請求項1に記載の積層固着品。
【請求項3】
薄板をプレス加工により打ち抜き、打ち出し突起部を有する複数の第1の薄板個片を成形し、前記打ち出し突起部に対応する位置と、別の位置にそれぞれ打抜き孔を形成した第2の薄板個片を形成し、一方、逆向きに打ち出し突起部を有する第3の薄板個片を成形し、前記打ち出し突起部を介して複数の第1の薄板個片を順次積層して結合するとともに、これら積層された第1の薄板個片の突起部に前記打抜き孔を形成した薄板個片を、該打抜き孔を介して積層結合し、この打抜き孔を形成した第2の薄板個片の別の位置に設けられた打抜き孔に、前記逆向きに打ち出し突起部を有する第3の薄板個片を該逆向きの打ち出し突起部を嵌入させて積層結合することを特徴とする積層固着品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−95203(P2009−95203A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266205(P2007−266205)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000103792)オリエンタルモーター株式会社 (150)
【Fターム(参考)】