説明

積層型電子部品

【課題】 コモンモードチョークコイルが静電気保護素子の浮遊容量の影響を受け、コモンモードチョークコイルのデファレンシャルモードの減衰周波数が低くなり、伝送信号の波形に歪みが生じ、伝送信号を高速差動伝送できなかった。
【解決手段】 1対の磁性体層間に非磁性体層とコイル用導体パターンを積層して内部にトランスが形成されたコモンモードチョークコイル部と、コモンモードチョークコイル部の一方の磁性体層の表面に絶縁樹脂層が形成され、絶縁樹脂層の表面にアース電極と放電電極が互いの間に間隔を有する様に形成され、アース電極と放電電極間に跨って電圧依存性抵抗材料が形成された静電保護部とが積み重ねられて積層体が形成される。コモンモードチョークコイル部の磁性体層と静電保護部の電極間の絶縁樹脂層はその厚みが50μm以上有するように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズフィルタとしてデジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器に使用される積層型電子部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型電子部品に、図6に示す様に、1対の磁性体層61間に非磁性体層62とコイル用導体パターン63を積層して積層体内に互いに磁気的に結合した2つのコイルが形成されたものがある。この様な積層型電子部品は、例えば、コモンモードチョークコイルとして用いられる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2006-237080号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のコモンモードチョークコイルが用いられるデジタル機器やAV機器、情報通信端末等の各種電子機器においては、HDMIやLVDS等の様に超高速データ伝送を行うための超高速伝送インターフェイスを備えるものがでてきている。この様な超高速伝送インターフェイスにおいては、伝送信号の高速化、高周波化に伴い、高周波の電磁波による誤動作が起き易くなっている。そのため、超高速伝送インターフェイスの伝送線路にノイズフィルタを用いる場合、図7に示す様に、コモンモードチョクコイルを構成する各コイルLとアース間に静電気保護素子70が接続される様になってきている。
この様な状況の中、コモンモードチョークコイルと静電気保護素子を一体化することが検討されているが、伝送信号が劣化しない様に、素子の寄生容量を小さくすることが求められている。しかしながら、図8に示す様に、コモンモードチョークコイルの磁性体層81上にアース用導体パターン80Aと放電用導体パターン80Bを対向させて形成することにより静電気保護素子とコモンモードチョークコイルを積み重ねて一体化した場合、静電気保護素子がコモンモードチョークコイルの磁性体層の誘電率の影響を受けて静電気保護素子の浮遊容量が増加する。従って、従来の積層型電子部品は、コモンモードチョクコイルが静電気保護素子の浮遊容量の影響を受けて、コモンモードチョークコイルのデファレンシャルモードの減衰周波数が低くなり、これによって伝送信号の波形に歪みが生じ、伝送信号を高速差動伝送できなくなるという問題があった。また、コモンモードチョークコイルの伝送特性が高周波領域で低下するという問題もあった。
【0005】
本発明は、静電気保護素子の浮遊容量を小さくし、コモンモードチョークコイルのデファレンシャルモードの減衰周波数の低下による伝送特性への影響を小さくできる積層型電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の積層型電子部品は、1対の磁性体層間に非磁性体層とコイル用導体パターンを積層して内部にトランスが形成されたコモンモードチョークコイル部と、コモンモードチョークコイル部の一方の磁性体層の表面に絶縁樹脂層が形成され、絶縁樹脂層の表面にアース電極と放電電極が互いの間に間隔を有する様に形成され、アース電極と放電電極間に跨って電圧依存性抵抗材料が形成された静電保護部とが積み重ねられて積層体が形成され、コモンモードチョークコイル部の磁性体層と静電保護部の電極間の絶縁樹脂層の厚みを50μm以上にする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層型電子部品は、1対の磁性体層間に非磁性体層とコイル用導体パターンを積層して内部にトランスが形成されたコモンモードチョークコイル部と、コモンモードチョークコイル部の一方の磁性体層の表面に絶縁樹脂層が形成され、絶縁樹脂層の表面にアース電極と放電電極が互いの間に間隔を有する様に形成され、アース電極と放電電極間に跨って電圧依存性抵抗材料が形成された静電保護部とが積み重ねられて積層体が形成され、コモンモードチョークコイル部の磁性体層と静電保護部の電極間の絶縁樹脂層の厚みを50μm以上にするので、静電気保護素子の浮遊容量が小さくなり、コモンモードチョークコイルのデファレンシャルモードの減衰周波数の低下を防止し、それによって伝送特性への影響を小さくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の積層型電子部品は、1対の磁性体層間に非磁性体層とコイル用導体パターンを積層して内部にトランスが形成されたコモンモードチョークコイル部と、アース電極と放電電極が同一平面において互いの間に間隔を有する様に形成され、アース電極と放電電極間に跨って電圧依存性抵抗材料が形成された静電気保護部とが絶縁樹脂層を介して積み重ねられて積層体が形成される。この時、コモンモードチョークコイル部と静電気保護部の間に積み重ねられる絶縁樹脂層の厚みは50μm以上に形成される。また、アース電極はアース用外部端子に接続される。さらに、放電電極は、外部端子に接続され、この外部端子を介してコモンモードチョークコイルと接続される。またさらに、放電電極とアース電極は、積層体上面から透視した時にコイル用導体パターンと重ならない位置に形成される。
従って、本発明の積層型電子部品は、コモンモードチョークコイル部と静電気保護部の間に積み重ねられる絶縁樹脂層の厚みによって静電気保護素子の浮遊容量を制御することができる。
【実施例】
【0009】
以下、本発明の積層型電子部品の実施例を図1乃至図5を参照して説明する。
図1は本発明の積層型電子部品の第1の実施例を示す分解斜視図、図2は本発明の積層型電子部品の実施例の斜視図、図3は本発明の積層型電子部品の第1の実施例の断面図である。
図1において、11A、11Bは磁性体層、12A〜12Eは非磁性体層である。
磁性体層11A、11Bはフェライト等の磁性体を用いて形成され、非磁性体層12A〜12Eは誘電体等の非磁性の絶縁体を用いて形成される。
磁性体層11Aの表面には、コイル用導体パターン13Aが形成される。コイル用導体パターン13Aは、1ターン未満分が形成される。コイル用導体パターン13Aの一端は、磁性体層11Aの端面まで引き出される。
非磁性体層12Aの表面には、コイル用導体パターン13Bが形成される。コイル用導体パターン13Bは、1ターン未満分が形成され、一端が非磁性体層12Aのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン13Aの他端に接続される。
非磁性体層12Bの表面には、コイル用導体パターン13Cが形成される。コイル用導体パターン13Cは、1ターン未満分が形成され、一端が非磁性体層12Bのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン13Bの他端に接続され、他端が非絶縁体層12Bの端面まで引き出される。この様に、コイル用導体パターン13A、コイル用導体パターン13B及び、コイル用導体パターン13Cを螺旋状に接続することにより、コイルが形成される。
非磁性体層12Cの表面には、1ターン未満分のコイル用導体パターン14Aが形成される。コイル用導体パターン14Aの一端が、非磁性体層12Cの端面まで引き出される。
非磁性体層12Dの表面には、1ターン未満分のコイル用導体パターン14Bが形成される。コイル用導体パターン14Bの一端が、非磁性体層12Dのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン14Aの他端に接続される。
非磁性体層12Eの表面には、1ターン未満分のコイル用導体パターン14Cが形成される。コイル用導体パターン14Cは、一端が非磁性体層12Eのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン14Bの他端に接続され、他端が非磁性体層12Eの端面まで引き出される。この様に、コイル用導体パターン14A、コイル用導体パターン14B及び、コイル用導体パターン14Cを螺旋状に接続することにより、コイルが形成される。また、コイル用導体パターン14Cが形成された非磁性体層12E上には磁性体層11Bが積層され、磁性体層11A、11B、非磁性体層12A〜12E、コイル用導体パターン13A〜13C、14A〜14Cによってコモンモードチョークコイル部が形成される。
絶縁樹脂層15の表面には、アース電極16A、放電電極16B、16Cが形成される。アース電極16Aと放電電極16B、16Cは、絶縁樹脂層15における前述の2つのコイルと重ならない位置(図1ではコイルの内周よりも内側の位置)に、アース電極16Aと放電電極16Bが互いの間に間隔を有して対向し、アース電極16Aと放電電極16Cが互いの間に間隔を有して対向して形成される。また、アース電極16Aと放電電極16B、16Cは、コイルの内周から突出しない様に、その大きさが調整される。アース電極16Aは、絶縁樹脂層15の側面まで引き出される。また、放電電極16B、16Cは、それぞれ絶縁樹脂層15の端面まで引き出される。またさらに、アース電極16Aと放電電極16B、16Cの表面には、電圧依存性抵抗材料の層17が形成される。電圧依存性抵抗材料の層17は、アルミニウム、ニッケル、銅等の金属粉と、シリコン、エポキシ等の樹脂等を混合したものを用いて形成され、アース電極16Aと放電電極16B、16Cの間に位置するギャップを覆う様にアース電極16Aと放電電極16B、16Cに跨って形成される。この様に、アース電極16A、放電電極16B、16C及び、電圧依存性抵抗材料の層17を、コモンモードチョークコイル部の磁性体層11B上に設けられた絶縁樹脂層15の表面に形成することによって静電気保護部が形成される。絶縁樹脂層15は、その厚みが50μm以上有する様に形成される。
この静電気保護部が形成された絶縁樹脂部15の表面上に、保護用の絶縁体層18が積層される。
この様に積層して形成された積層体には、図2に示す様に、積層体の端面に入力用の外部端子21、22と出力用の外部端子23、24が形成され、側面にアース用外部端子Gが形成される。そして、コイル用導体パターン13Aの一端が外部端子21に接続され、コイル用導体パターン13Cの他端が外部端子23に接続され、コイル用導体パターン14Cの他端が外部端子22に接続され、コイル用導体パターン14Aの一端が外部端子24に接続されることにより、互いに磁気的に結合する2つのコイルによって形成されるトランス(すなわち、コモンモードチョークコイル)が入出力端子間に接続される。また、アース電極16Aが外部端子Gに接続され、放電電極16Bが外部端子24に接続され、放電電極16Cが外部端子23に接続されることにより、2つのコイルの出力端側にそれぞれ静電気保護素子が接続される。
【0010】
この様な積層型電子部品は、コイル用導体パターン13A〜13C、14A〜14C、アース用電極16A及び、放電電極16B、16Cが薄膜、フォトリソ技術を用いた薄膜、印刷技術等を用いた厚膜等によって形成される。
この様な本発明の積層型電子部品は、図3に示す様に、コモンモードチョークコイル部の磁性体層11Bと静電気保護部を構成するアース電極16Aと放電電極16B、16C間に位置する絶縁樹脂層15の厚みHを変えることにより、図4(A)に示す様に、静電気保護素子の浮遊容量が変化し、これによって、コモンモードチョークコイルのディファレンシャルモードの減衰周波数も図4(B)に示す様に変化した。
本発明の積層型電子部品は、絶縁樹脂層15の厚みHを50μm以上とすることで、絶縁樹脂層15の厚みHが0の従来の積層型電子部品のものよりも大幅に浮遊容量が小さくなり、また、コモンモードチョークコイルのディファレンシャルモードの減衰周波数も低くなることがなくなった。
【0011】
図5は本発明の積層型電子部品の第2の実施例を示す分解斜視図である。
磁性体層51Aの表面には、コイル用導体パターン53Aが形成される。コイル用導体パターン53Aは、1ターン以上有する様に渦巻状に形成され、外周端が磁性体層51Aの端面まで引き出される。
非磁性体層52Aの表面には、コイル用導体パターン53Bが形成される。コイル用導体パターン53Bは、一端が非磁性体層52Aのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン53Aの内周端に接続され、他端が非磁性体層52Aの端面まで引き出される。この様に、コイル用導体パターン53Aとコイル用導体パターン53Bが接続されることにより、コイルが形成される。
非磁性体層52Bの表面には、コイル用導体パターン54Aが形成される。コイル用導体パターン54Aは、一端が非磁性体層52Bの端面まで引き出される。
非磁性体層52Cの表面には、コイル用導体パターン54Bが形成される。コイル用導体パターン54Bは、1ターン以上有する様に渦巻状に形成され、内周端が非磁性体層52Cのスルーホール内の導体を介してコイル用導体パターン54Aの他端に接続され、外周端が非磁性体層52Cの端面まで引き出される。この様に、コイル用導体パターン54Aとコイル用導体パターン54Bが接続されることにより、コイルが形成される。このコイル用導体パターン54Bが形成された非磁性体層52C上には磁性体層51Bが積層され、磁性体層51A、51B、非磁性体層52A〜52C、コイル用導体パターン53A53B、54A、54Bによってコモンモードチョークコイル部が形成される。
絶縁樹脂層55の表面には、アース電極56Aと放電電極56B、56Cが形成される。アース電極56Aと放電電極56B、56Cは、絶縁樹脂層55における前述の2つのコイルと重ならない位置(図5ではコイルの内周よりも内側の位置)に、アース電極56Aと放電電極56Bが、アース電極56Aと放電電極56Cがそれぞれ互いの間に間隔を有して対向して形成される。また、アース電極56Aと放電電極56B、56Cは、コイルの内周から突出しない様に、その大きさが調整される。アース電極56Aは、絶縁樹脂層55の側面まで引き出される。また、放電電極56Bは、絶縁樹脂層55の端面まで引き出される。さらに、放電電極56Cは、絶縁樹脂層55の端面まで引き出される。またさらに、アース電極56Aと放電電極56B、56Cの表面には、電圧依存性抵抗材料の層57が形成される。電圧依存性抵抗材料の層57は、アルミニウム、ニッケル、銅等の金属粉と、シリコン、エポキシ等の樹脂等を混合したものを用いて形成され、アース電極56Aと放電電極56B、56Cの間に位置するギャップを覆う様にアース電極と放電電極に跨って形成される。この様に、アース電極56A、放電電極56B、56C及び、電圧依存性抵抗材料の層57を、コモンモードチョークコイル部の磁性体層51B上に設けられた絶縁樹脂層55の表面に形成することによって静電気保護部が形成される。絶縁樹脂層55は、その厚みが50μm以上有する様に形成される。
この静電気保護部が形成された絶縁樹脂層55の表面上に、保護用の絶縁体層58が積層される。
この様に積層して形成された積層体には、図2に示す様に、積層体の端面に入力用の外部端子21、22と出力用の外部端子23、24が形成され、側面にアース用外部端子Gが形成される。そして、コイル用導体パターン53Aの一端が外部端子21に接続され、コイル用導体パターン53Cの他端が外部端子23に接続され、コイル用導体パターン54Cの他端が外部端子22に接続され、コイル用導体パターン54Aの一端が外部端子24に接続されることにより、コモンモードチョークコイルが入出力端子間に接続される。また、アース電極56Aが外部端子Gに接続され、放電電極56Bが外部端子24に接続され、放電電極56Cが外部端子23に接続されることにより、2つのコイルの出力端側にそれぞれ静電気保護素子が接続される。
【0012】
以上、本発明の積層型電子部品の実施例を述べたが、この実施例に限られるものではない。例えば、実施例では、1つのコモンモードチョークコイルと2つの静電気保護素子を積層体内に形成した場合を示したが、複数のコモンモードチョークコイルと複数の静電気保護素子を積層体内に形成しても良い。また、静電気保護部はコモンモードチョークコイル部の底面に形成されても良い。さらに、アース電極と放電電極は、コモンモードチョークコイル部の磁性体層上に形成された絶縁樹脂層の表面において、2つのコイルと重ならない様にコイルの外周よりも外側に形成してもよい。またさらに、実施例では、アース電極を共通にした場合を示したが、アース電極を静電気保護素子の個数分形成してもよい。また、アース電極と放電電極は、その特性に応じて様々な形状に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の積層型電子部品の第1の実施例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明の積層型電子部品の実施例の斜視図である。
【図3】本発明の積層型電子部品の第1の実施例の断面図である。
【図4】本発明の積層型電子部品の特性図である。
【図5】本発明の積層型電子部品の第2の実施例を示す分解斜視図である。
【図6】従来の積層型電子部品の分解斜視図である。
【図7】ノイズフィルタの回路図である。
【図8】従来の別の積層型電子部品の断面図である。
【符号の説明】
【0014】
11A、11B 磁性体層
12A〜12E 非磁性体層
13A〜13C、14A〜14C コイル用導体パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の磁性体層間に非磁性体層とコイル用導体パターンを積層して内部にトランスが形成されたコモンモードチョークコイル部と、該コモンモードチョークコイル部の一方の磁性体層の表面に絶縁樹脂層が形成され、該絶縁樹脂層の表面にアース電極と放電電極が互いの間に間隔を有する様に形成され、アース電極と放電電極間に跨って電圧依存性抵抗材料が形成された静電保護部とが積み重ねられて積層体が形成され、
該コモンモードチョークコイル部の該磁性体層と該静電保護部の電極間の該絶縁樹脂層の厚みを50μm以上にすることを特徴とする積層型電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−141642(P2010−141642A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316568(P2008−316568)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000003089)東光株式会社 (243)
【Fターム(参考)】