説明

積層熱可塑性樹脂フィルム

【課題】両面に光学機能層を有する光学フィルムの製造において、高出力紫外線照射装置を用いても積層熱可塑性樹脂フィルムと光学機能層間の優れた密着性を有する接着性改質層を備え、耐ブロッキング性にも優れる二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを提供すること。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムとその両面に設けられた接着性改質層とを有し、波長365nmの紫外線の透過率は70%以上85%未満であり、各々の接着性改質層は、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂との混合物、あるいは、ビスフェノールA骨格およびナフタレン骨格の両方を有する共重合ポリエステル系樹脂から主として構成され、高沸点溶媒を0.005質量%以上、0.05質量%未満含み、少なくとも1層の接着性改質層は紫外線吸収剤を含む、積層熱可塑性樹脂フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイなどに主として用いられる、プリズムシート、光拡散シート、ハードコートフィルムなどの各種機能層(ハードコート層、光拡散層、プリズム層)といった、密着性に優れ、かつ、透明性に優れる、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材となる積層熱可塑性樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、液晶ディスプレイ(LCD)の部材に用いられる光学機能性フィルムの基材には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリル、ポリカーボネート(PC)、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリオレフィン等からなる透明フィルムが用いられている。これらの基材フィルムを各種光学機能フィルムに用いる場合には、基材フィルムに各種用途に応じた機能層が積層される。例えば、液晶ディスプレイ(LCD)では、表面の傷つきを防止する保護膜(ハードコート層)、外光の映り込みを防止する反射防止層(AR層)、光の集光や拡散に用いられるプリズム層、輝度を向上する光拡散層等の機能層が挙げられる。これらの基材の中でも、特に、二軸配向ポリエステルフィルムは、優れた透明性、寸法安定性、耐薬品性の点から、各種光学機能性フィルムの基材として広く使用されている。
【0003】
一般に、二軸配向ポリエステルフィルムや二軸配向ポリアミドフィルムのような二軸配向熱可塑性フィルムの場合、フィルム表面は高度に結晶配向しているため、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性に乏しいという欠点がある。このため、従来から二軸配向熱可塑性樹脂フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
【0004】
また、ポリオレフィンフィルムのような極性基を有しないフィルムでは、各種塗料、接着剤、インキなどとの密着性が非常に乏しいため、事前にコロナ放電処理、火焔処理などの物理的処理や化学処理を行った後、フィルム表面に種々の方法で易接着性を付与する方法が提案されてきた。
【0005】
例えば、基材の熱可塑性樹脂フィルムの表面に、ポリエステル、アクリル、ポリウレタン、アクリルグラフトポリエステルなどの各種樹脂を接着性改質層の主たる構成成分とし、塗布法によって基材フィルムに前記接着性改質層を設けることにより、基材フィルムに易接着性を付与する方法が一般的に知られている。この塗布法の中でも、結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムに、直接又は必要に応じてコロナ放電処理を施してから、前記樹脂の溶液または樹脂を分散媒で分散させた分散体を含有する水性塗布液を基材フィルムに塗工し、乾燥後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、熱可塑性樹脂フィルムの結晶配向を完了させる、いわゆるインラインコート法といった方法や、熱可塑性樹脂フィルムの製造後、該フィルムに水系または溶剤系の塗布液を塗布後、乾燥する、いわゆる、オフラインコート法といった方法が工業的に広く実施されている。
【0006】
LCDに代表されるディスプレイは、年々低コスト化が進み、その部材として用いられる光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの製造工程において、生産速度の高速化が実施されている。このような製造工程の高速化にともない、ハードコート層、拡散層、プリズム層のような機能層と基材フィルムとの界面に、硬化収縮にともなう応力がより生じやすくなっている。そのため、ディスプレイを製造するために、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートを特定のサイズにカッティングする際に、前記の界面における密着性が不十分であると、端部が特に剥がれやすくなるという問題がおこってきた。この傾向は、ロール状に巻き取ったフィルムの大型化や、製造工程における生産速度の高速化が進むほど、カッティング時の衝撃による界面の剥離の影響はより顕著になり、密着性向上の要求がますます強まってきている。
【0007】
さらに近年、光学機能部材は、他の光学フィルムとの密着を防ぐ、透過率を高める、カールを低減する等の目的でレンズフィルムの場合、レンズ層の反対面にマット層あるいはハードコート層を設けたり、光拡散層の反対面に、ハードコート層を積層する場合、すなわち両面に光学機能層を積層する場合が多くなってきている。片面にレンズ層、反対面にマット層が積層された光学フィルムを製造する場合、所望のレンズ層凹凸形状に対して逆形状の凹部(正確には凹凸形状)を有するロール凹版に紫外線硬化性樹脂液を充填し、これに連続帯状の透明フィルム基材を重ねて、重ねたまま紫外線を支持体基材側から照射して、紫外線硬化性樹脂液を硬化させ、その後、透明基材を硬化した樹脂と共にロール凹版から剥離することにより、硬化した紫外線硬化性樹脂液が、所望の凹凸形状のレンズ層が透明基材上に形成される。これを、透明基材の他方の面についても、光学機能層を透明基材上に形成することで、目的とするレンズフィルムが得られる。
【0008】
この時、最初にロール凹版に紫外線硬化性樹脂液を充填し、これに連続帯状の透明フィルム基材を重ねて、重ねたまま紫外線を支持体基材側から照射して光学機能層を形成する際に接着性改質層が比較的高温で且つ空気中で紫外線が照射されることになり、この紫外線によって接着性改質層が劣化する。次いで、反対面に別の光学機能層(例えばハードコート層)を同様に積層した際、密着性が低下する。一方、光学機能層形成工程では低コスト化のための高速化が著しく、このためより強いピーク強度の紫外線に晒されるためこの紫外線照射による接着性改質層の劣化が発生しやすい。
【0009】
特に最近では生産性の向上や昇温を抑制し光学機能層の硬化時の歪みを極力小さくするために短時間で硬化させることを目的として従来の単位発光長当たりの入力電力80〜120W/cm程度の高圧水銀ランプを用いて硬化させる方法から同電力が300W/cm以上のメタルハライドランプやパルスドキセノンランプ等のピーク強度の強いランプを用いて、通常i線と呼ばれる波長365nmの紫外線ピーク強度の強い硬化条件下で硬化させる方法に変わる傾向にあり、このため接着性改質層の劣化傾向が顕著になってきている。
【0010】
前述のように二軸配向ポリエステルフィルムは、プリズムレンズや光拡散フィルム等に使用されるアクリル系樹脂を主成分とするコート剤との密着性が悪いことが知られている。このため、ポリエステルフィルムの表面に、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及びこれら混合物よりなる接着性改質層を形成したものが、各種提案されている。
【0011】
例えば本出願人は特許文献1において、二軸配向ポリエチレンテレフタレートからなる基材フィルム上に共重合ポリエステルとポリウレタン、および適度な粒径の無機粒子を添加した樹脂組成物層を設け、光学用基材フィルムとして極めて重要な特性である透明性を維持しつつ、光学的機能層との密着性が高度に優れた積層ポリエステルフィルムを提案した。しかし、紫外線硬化型樹脂を用いて積層ポリエステルフィルムの両面に光学機能層を積層する場合、近年多用されている前述のようなピーク強度の強いメタルハライドランプやパルスドキセノンランプを用いることを考慮すると、光学機能層はさらなる密着性の向上が要求される。
【0012】
また、本出願人は特許文献2において、基材フィルムに紫外線吸収剤を練り込み波長380nm以下における吸光度を2以上とした共重合ポリエステルとポリウレタンを主成分とする接着性改質層を両面に積層された紫外線吸収フィルムを提案した。しかしながら、この紫外線吸収フィルムを基材フィルムとし両面に光学機能層を積層して近時要求されるような比較的に高い出力の紫外線を照射する場合、2回目に光学機能層を積層した側は接着性改質層が劣化し易くなり、紫外線硬化型樹脂の硬化不良が発生し易くなっている。
【0013】
さらに、特許文献3において、耐光性付与を目的として接着性改質層を有する二軸配向ポリエチレンテレフタレート上に紫外線吸収剤を含有するアクリル樹脂からなる厚さ約3μmの下引き層を設けたハードコートフィルムが例示されている。しかしながらこの場合においてもピーク強度の強い紫外線照射に対しては接着性改質層の劣化を十分に抑制できるものではなく、また、コスト高になると言う問題があった。
【0014】
特許文献4には、少なくとも片面に縮合多環芳香族を有する化合物を含有する易接着層を有する、反射防止フィルム用ポリエステリフィルムが開示されている。該文献には、前記縮合多環芳香族を有する化合物としてナフタレン骨格を有する化合物が例示されている。特許文献4では、易接着層は水溶液または水分散体からなる塗布液を用いて形成すべきことが開示されていて、該塗布液は少量の有機溶媒を含有していてもよいことも開示されるが、この少量の有機溶媒の種類については特に開示されていない。
【0015】
特許文献5には、各種の上塗り剤に対する接着性および密着性の優れた塗布層を有し、高度な耐久性を有するポリエステルフィルムとして、ビスフェノールA構造を有する樹脂を少なくとも1種含有する塗布層をポリエステルフィルムの片面に有することを特徴とする塗布フィルムが開示されている。
【特許文献1】国際公開第2006/57382号パンフレット
【特許文献2】特開2005−189553号公報
【特許文献3】特開2002−166502号公報
【特許文献4】特開2006−175628号公報
【特許文献5】特開2004−217742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
このように、両面に紫外線硬化樹脂からなる光学機能層を有する光学フィルムの製造において、高出力紫外線照射ランプを用いても基材フィルムに積層された接着性改質層における接着性の低下が小さく且つ紫外線硬化型光学機能層硬化に支障を与えない接着性改質層を有する積層二軸延伸フィルムはなかった。
【0017】
本発明の目的は、両面に光学機能層を有する光学フィルムの製造において、高出力紫外線照射装置を用いても積層熱可塑性樹脂フィルムと光学機能層間の優れた密着性を有する接着性改質層を有する二軸延伸熱可塑性樹脂フィルムを安価に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記の課題は、以下の解決手段により達成することができる。
(1)熱可塑性樹脂フィルムとその両面に設けられた接着性改質層とを有する積層熱可塑性樹脂フィルムであって、
当該積層熱可塑性樹脂フィルムの波長365nmの紫外線の透過率は70%以上85%未満であり、
各々の接着性改質層は、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂との混合物、あるいは、ビスフェノールA骨格およびナフタレン骨格の両方を有する共重合ポリエステル系樹脂から主として構成され、高沸点溶媒を0.005質量%以上、0.05質量%未満含み、
少なくとも1層の接着性改質層は紫外線吸収剤を含む、
積層熱可塑性樹脂フィルム。
(2)少なくとも1層の接着性改質層の厚さが200nm以下である(1)の積層熱可塑性樹脂フィルム。
(3)少なくとも1層の接着性改質層に粒子が含まれる(1)または(2)の積層熱可塑性樹脂フィルム。
(4)熱可塑性樹脂フィルムには粒子が実質的に含まれず、当該積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズが1.5%以下である(1)〜(3)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(5)少なくとも1層の接着性改質層にシリカ粒子が含まれる(1)〜(4)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(6)上記熱可塑性樹脂フィルムが二軸配向ポリエステルフィルムである(1)〜(5)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
(7)光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルム用である(1)〜(6)の積層熱可塑性樹脂フィルム。
(8)光学機能性フィルムまたは光学機能性シートが、基材フィルムの片面にプリズム層、反対面にマット層またはハードコート層が積層されてなるものである、(7)の積層熱可塑性樹脂フィルム。
(9)機械方向に一軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムに、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂と高沸点溶媒と紫外線吸収剤と水とを含有する水性塗布液を塗工し、乾燥した後、上記フィルムを直角方向に延伸し、次いで、熱可塑性樹脂フィルム中の熱可塑性樹脂の結晶を配向させるように熱処理を施して得られる(1)〜(8)のいずれかの積層熱可塑性樹脂フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、特定の接着性改質層を備え、紫外線の透過率を適切にしているため、両面に紫外線硬化型樹脂層を有する光学フィルムの製造において、高出力紫外線照射ランプを用いても接着性改質二軸延伸フィルムと紫外線硬化型樹脂層間の優れた密着性を有する。
【0020】
すなわち、本発明はインラインコート法によって形成される塗布層に、紫外線吸収剤と相溶性の高い有機溶媒を残存させることによって、製膜工程中の通常200℃以上の熱固定工程を経ても紫外線吸収剤を用いる場合のブリードアウトが少なく、結果として後工程での高出力紫外線照射ランプを用いて紫外線硬化型樹脂からなる光学機能層を積層した場合においても優れた密着性を有する。
【0021】
近年、低コスト化のために、ハードコート層や拡散層などの機能層を基材フィルムに積層するための加工機の大型化が進み、基材フィルムとして使用される易接着フィルムのロール径も大型化してきている。これにともなって、ロールの巻きズレ防止のために、高張力で巻き取る場合、特に、ロールの巻き芯部では高い圧力で圧着されるために、ブロッキングがより発生しやすくなる傾向にある。本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、このようなブロッキングが発生しにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明では、密着性を以下のように評価する。
積層熱可塑性樹脂フィルムの接着性改質層面に形成した所定の紫外線硬化型樹脂層を、所定強度の波長365nmの紫外線を照射することによって、硬化型樹脂からなる光学機能層を形成させ、光学機能層について粘着テープによる碁盤目剥離試験(100個の升目)を5回繰り返した後に、剥がれずに残った升目の数で評価する。具体的な試験方法は実施例の欄において詳述する。下記式で定義される密着性が80%以上のものが好ましく、より好ましくは85%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
密着性(%)=(1−升目の剥がれた個数/100個)×100
【0023】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの波長365nmの紫外線の光線透過率は70%以上、85%未満である。70%未満では接着性改質層に含有する紫外線吸収剤の量が多くなり、前記ブリードアウトが発生しやすくなるばかりでなく、2回目の光学機能層を硬化させるために積層フィルムを通して紫外線を照射した場合、両面2層の接着性改質層によって紫外線が減衰され硬化不良が発生しやすくなる。一方、85%以上では接着性改質層の紫外線照射による劣化防止効果が不足する。本発明では、後述のように少なくとも片面の接着性改質層に紫外線吸収剤を上記特性になるよう添加することが重要である。
【0024】
(1)熱可塑性樹脂フィルム
熱可塑性樹脂フィルムは熱可塑性樹脂からなるフィルムであり、典型例として、熱可塑性樹脂を溶融押出または溶液押出で得た未配向シートを、必要に応じ、長手方向又は幅方向の一軸方向に延伸し、あるいは二軸方向に逐次二軸延伸または同時二軸延伸し、熱固定処理を施したフィルムが挙げられる。
【0025】
また、前記熱可塑性樹脂フィルムは、本発明の目的を損なわない範囲で、前記フィルムをコロナ放電処理、グロー放電処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理などの表面活性化処理を施してもよい。
【0026】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの基材として用いる熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、30〜300μmの範囲で、使用する用途の規格に応じて任意に決めることができる。前記熱可塑性樹脂フィルムの厚みの上限は、250μmが好ましく、特に好ましくは200μmである。一方、フィルム厚みの下限は、50μmが好ましく、特に好ましくは75μmである。フィルム厚みが50μm未満では、剛性や機械的強度が不十分となりやすい。一方、フィルム厚みが300μmを超えると、フィルム中に存在する異物の絶対量が増加するため、光学欠点となる頻度が高くなる。また、フィルムを所定の幅に切断する際のスリット性も悪化し、製造コストが高くなる。さらに、剛性が強くなるため、長尺のフィルムをロール状に巻き取ることが困難になりやすい。
【0027】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリメチルペンテン(TPX)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリテトラメチレンテレフタレート(PTT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド(PA)樹脂、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、セルロースプロピオネート、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリフェニレンオキサイド、ポリスチレン(PS)、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマーなどが挙げられる。また、これらのポリマーは単独で使用する以外に、共重合成分を少量含む共重合体でもよいし、他の熱可塑性樹脂を1種以上ブレンドしてもよい。
【0028】
これらの熱可塑性樹脂のなかでも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、シンジオタクチックポリスチレン、ノルボルネン系ポリマー、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレートなどが好適である。また、ポリエステルやポリアミドのような極性官能基を有する樹脂は、接着性改質層との密着性の点から好ましい。
【0029】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート又はこれらの樹脂の構成成分を主成分とする共重合体がさらに好適であり、とりわけポリエチレンテレフタレートから形成された二軸配向フィルムが特に好適である。
【0030】
例えば、熱可塑性樹脂フィルムを形成する樹脂として、ポリエチレンテレフタレートを基本骨格とするポリエステル共重合体を用いる場合、共重合成分の比率は20モル%未満とすることが好ましい。20モル%以上ではフィルム強度、透明性、耐熱性が劣る場合がある。共重合成分として用いることができるジカルボン酸成分としては、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、フタル酸、及び2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、トリメリット酸及びピロメリロット酸等の多官能カルボン酸等が例示される。また、共重合成分として用いることができるグリコール成分としては、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、プロピレングリコール及びネオペンチルグリコール等の脂肪酸グリコール;p−キシレングリコール等の芳香族グリコール;1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール;平均分子量が150〜20000のポリエチレングリコール等が例示される。
【0031】
また、前記熱可塑性樹脂には、本発明の効果を妨げない範囲で、触媒以外に各種の添加剤を含有させることができる。添加剤として、例えば、無機粒子、耐熱性高分子粒子、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、リン化合物、帯電防止剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、ゲル化防止剤、界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
前記の粒子は、熱可塑性樹脂フィルムの製造時、ロール状に巻き取る際、あるいは巻き出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻き取り時の随伴空気の空気抜け性など)の点からは、フィルム表面に適度な表面凹凸を付与するために用いられる。
【0033】
無機粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどが挙げられる。また、耐熱性高分子粒子としては、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などが挙げられる。
【0034】
基材フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合、前記の粒子の中でも、シリカ粒子が、ポリエステル樹脂と屈折率が比較的近く高い透明性が得やすいため、透明性が強く要求される用途では最も好適である。一方、隠蔽性が要求される用途では、酸化チタンのような白色顔料が好適である。また、熱可塑性樹脂フィルム中に含有させる粒子は1種類でも複数併用してもよい。
【0035】
前記の粒子の種類、平均粒径、添加量は、透明性とハンドリング性とのバランスの点から、平均粒径は0.01〜2μm、フィルム中の粒子含有量は0.01〜5.0質量%の範囲でフィルムの用途に応じて決めればよい。また、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムを透明性が高度に要求される用途に使用する場合、基材の熱可塑性樹脂フィルム中には、透明性を低下させる原因となる粒子を実質的に含有させず、接着性改質層に粒子を含有させる構成とすることが好ましい。
【0036】
前記の「基材の熱可塑性樹脂フィルム中には、粒子を実質的に含有させず」とは、例えば無機粒子の場合、ケイ光X線分析で無機元素を定量した場合に50ppm以下、好ましくは10ppm以下、最も好ましくは検出限界以下となる含有量を意味する。これは積極的に粒子を基材フィルム中に添加させなくても、外来異物由来のコンタミ成分や、原料樹脂あるいはフィルムの製造工程におけるラインや装置に付着した汚れが剥離して、フィルム中に混入する場合があるためである。
【0037】
また、本発明で基材として使用する熱可塑性樹脂フィルムの層構成は単層でもよいし、単層では得られない機能を付与した積層構造とすることもできる。積層構造とする場合には、共押出法が好適である。
【0038】
熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)である場合を非限定的な一例として、熱可塑性樹脂フィルムの概要を説明する。
【0039】
易滑性付与を目的とした粒子を実質的に含有していないPETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、270〜295℃でシート状に溶融押出して、冷却固化せしめて未配向PETシートを製膜する。この際、溶融樹脂が270〜295℃に保たれた任意の場所で、樹脂中に含まれる異物を除去するために高精度濾過を行う。得られた未配向シートを、80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して、一軸配向PETフィルムを得る。長手方向は一般的には機械方向と同じ方向である。
【0040】
その後、一軸配向PETフィルムの両面に、後述の水性塗布液を塗布する。水性塗布液を塗布するには例えば、リバースロール・コート法、グラビア・コート法、キス・コート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法およびカーテン・コート法などが挙げられ、これらの方法を単独であるいは組み合わせて行うことができる。
【0041】
次いで、フィルムの端部をクリップで把持して、80〜180℃に加熱された熱風ゾーンに導き、乾燥後幅方向に2.5〜5.0倍に延伸する。引き続き最高温度が200〜240℃の熱処理ゾーンに導き、1〜60秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。60秒を越えると高沸点溶媒残存量が少なくなる。この熱処理工程中で、必要に応じて、幅方向あるいは長手方向に1〜12%の緩和処理を施してもよい。幅方向は、一般的には、機械方向に対する直角方向であり、単に「直角方向」とも呼ばれる。
【0042】
さらに詳細な具体例を以下に挙げる。
フィルム原料として用いるポリエステルペレットの固有粘度は、0.45〜0.70dl/gの範囲が好ましい。固有粘度が0.45dl/g未満であると、フィルム製造時に破断が多発しやすくなる。一方、固有粘度が0.70dl/gを超えると、濾圧上昇が大きく、高精度濾過が困難となり、生産性が低下しやすくなる。本発明において、固有粘度は、JIS K 7367−5に準拠し、溶媒としてフェノール(60質量%)と1,1,2,2−テトラクロロエタン(40質量%)の混合溶媒を用い、30℃で測定する。
【0043】
また、光学機能性フィルムまたは光学機能性シートに用いる場合には、光学欠点の原因となる、原料のポリエステル中に含まれている異物を除去することが好ましい。ポリエステル中の異物を除去するために、溶融押出しの際に溶融樹脂が約285℃に保たれた任意の場所で、高精度濾過を行う。溶融樹脂の高精度濾過に用いられる濾材は、特に限定はされないが、ステンレス焼結体の濾材の場合、Si、Ti、Sb、Ge、Cuを主成分とする凝集物及び高融点有機物の除去性能に優れ好適である。
【0044】
溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、15μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが15μmを超えると、20μm以上の異物の除去が不十分となりやすい。濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)が15μm以下の濾材を使用して溶融樹脂の高精度濾過を行うことにより生産性が低下する場合があるが、光学欠点の少ないフィルムを得るには極めて重要である。なお、本発明において、初期濾過効率とはANSI/B93.36−1973により測定される数値をいう。
【0045】
溶融樹脂の押出し工程において、濾材を通過する微細な異物であっても、シート状溶融物の冷却工程において異物の周囲で結晶化が進み、これが配向工程において配向の不均一性を引き起こし、微小な厚みの差異を生じせしめレンズ状態となる箇所が生じる。ここでは、レンズがあるかの様に光が屈折又は散乱し、肉眼で観察した時には実際の異物より大きく見えるようになる。この微小な厚みの差は、凸部の高さと凹部の深さの差として観測することができ、凸部の高さが1μm以上で、凸部に隣接する凹部の深さが0.5μm以上であると、レンズ効果により、大きさが20μmの形状の物でも肉眼的には50μm以上の大きさとして認識され、さらには100μm以上の大きさの光学欠点として認識される場合もある。
【0046】
高透明なフィルムを得るためには、基材フィルム中に粒子を含有させないことが好ましいが、粒子含有量が少なく透明性が高いほど、微小な凹凸による光学欠点はより鮮明となる傾向にある。また、厚手のフィルムの表面は薄手のフィルムより急冷となりにくく、結晶化が進む傾向にあるため、未配向シート製造時にフィルム全体を急冷することが必要となる。未配向シートを冷却する方法としては、溶融樹脂を回転冷却ドラム上にダイスのスリット部からシート状に押し出し、シート状溶融物を回転冷却ドラムに密着させながら、急冷してシートとする方法が好適である。この未配向シートのエア面(冷却ドラムと接触する面との反対面)を冷却する方法としては、高速気流を吹きつけて冷却する方法が有効である。
【0047】
(2)接着性改質層
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂と、ナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂と、水と、高沸点有機溶媒とを必須に含み、さらに、いずれか少なくとも片面側の塗布液には紫外線吸収剤を含み、また任意的に、アルコール、分散媒、架橋剤、界面活性剤の1つ以上を含んでいてもよい水性塗布液を、走行する熱可塑性樹脂フィルムの両面に連続的に塗布する塗布工程、塗布層(接着性改質層)を乾燥する乾燥工程、次いで少なくとも一軸方向に延伸する延伸工程、さらに延伸された塗布フィルムを熱固定処理する熱固定処理工程を経て連続的に形成させて得た接着性改質層を備える。本発明では、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とを混合して用いる代わりに、ビスフェノールA骨格およびナフタレン骨格の両方を有する共重合ポリエステル系樹脂を用いてもよい。
【0048】
また、前記のインラインコート法により積層された接着性改質層に、適切な粒径の微粒子を含有させて、接着性改質層表面に適切な凹凸を形成させることで、滑り性、巻き取り性、耐スクラッチ性を付与することができる。このため、熱可塑性樹脂フィルム中に微粒子を含有させる必要がなく、高透明性を保持することができる。
【0049】
(2−1)塗布液調合工程
本発明において接着性改質層は、塗布法を用いて形成される。塗布液に用いる材料は、樹脂及び分散媒あるいは溶媒である。本発明において、接着性改質層形成のために用いる塗布液は、水性であることが好ましい。また、本発明では、樹脂成分以外に、粒子及び界面活性剤を併用することが好ましい実施形態である。さらに、必要に応じて、架橋剤、帯電防止剤、有機潤滑剤、抗菌剤、光酸化触媒などの添加剤を用いることができる。また、塗布液には、樹脂の熱架橋反応を促進させるため、触媒を添加しても良く、例えば、無機物質、塩類、有機物質、アルカリ性物質、酸性物質および含金属有機化合物等、種々の化学物質が用いることができる。また、水溶液のpHを調節するために、アルカリ性物質あるいは酸性物質を添加してもよい。塗布液は、分散媒あるいは溶媒中に、撹拌下、樹脂を分散化または溶解し、次いで、粒子、界面活性剤のほかに、必要に応じて各種添加剤を併用し、所望する固形分濃度にまで希釈して調整する。
【0050】
また、本発明の積層フィルムにおいて、塗布液の樹脂成分及び粒子を均一に分散させるため、さらに粗大な粒子凝集物及び工程内埃等の異物を除去するために、塗布液を精密濾過することが好ましい。
【0051】
塗布液を精密濾過するための濾材のタイプは、前記性能を有していれば特に限定はなく、例えば、フィラメント型、フェルト型、メッシュ型が挙げられる。塗布液を精密濾過するための濾材の材質は、前記性能を有しかつ塗布液に悪影響を及ばさない限り特に限定はなく、例えば、ステンレス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン等が挙げられる。
【0052】
塗布液を精密濾過するための濾材は、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が25μm以下の濾材が好ましく、さらに好ましくは濾過性能10μm以下の濾材である。最も好ましくは、濾過性能の異なるフィルターを組み合わせて用いる方法である。濾過粒子サイズが25μmを超える濾材を用いた場合、粗大凝集物の除去が不十分となりやすい。そのため、濾過で除去できなかった粗大凝集物は、塗布乾燥後の一軸配向又は二軸配向工程での配向応力により広がって、100μm以上の凝集物として認識され、光学欠点の原因となりやすい。
【0053】
塗布液に用いる原料について、以下で詳しく説明する。
(a)樹脂
接着性改質層は、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂との混合物、あるいは、ビスフェノールA骨格およびナフタレン骨格の両方を有する共重合ポリエステル系樹脂から主として構成される。
【0054】
ナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂は、ポリマー骨格中にナフタレン環を有していればよい。好ましくは、該共重合ポリエステル系樹脂は、ナフタレンジカルボン酸成分とナフタレン環を有さないジカルボン酸成分、グリコール成分との縮重合によって得られる樹脂である。接着性改質層には、「ナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂」以外のポリエステル系樹脂が混合または共重合していてもよい。本発明では接着性改質層に、高い分極率を有するナフタレン骨格を有する分子が含まれる為、接着性改質層の屈折率が高くなるようにしている。これによって、接着性改質層上に、屈折率の高いアクリル硬化層を設けた場合であっても、干渉斑が生じ難くなる。
【0055】
各々の接着性改質層に含まれる、「ナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂」のジカルボン酸成分、および、「ナフタレン骨格を有さない共重合ポリエステル系樹脂」のジカルボン酸成分の合計量(以下、「全酸成分の合計量」)に占める、ナフタレン環を有するジカルボン酸成分の量の割合の下限値は、好ましくは20mol%、より好ましくは25mol%であり、前記割合の上限値は、好ましくは80mol%であり、より好ましくは70mol%である。前述した上下限の範囲内であれば、塗布液の分散性と、得られるフィルムの干渉むら低減効果とがより高いレベルで両立する。
【0056】
ナフタレン環を有するジカルボン酸としては、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸および2,7−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0057】
ナフタレン環を有さないジカルボン酸としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシ安息香酸などが挙げられる。
【0058】
グリコール成分としては、エチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、及び2,2−ジ−n−ヘキシル−1,3−プロパンジオールなどが挙げられる。
【0059】
ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂はポリマー骨格中にビスフェノールA骨格、すなわち、下記式(1)の構造単位
【0060】
【化1】

を有する。ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂中で、ビスフェノールA骨格構造(上記式(1)の構造単位)の占める割合は全グリコール成分に対し、下限は重量比で5%、好ましくは10%、上限は95%、好ましくは90%の範囲である。また、接着性改質層全体に占める割合は全グリコール成分に対し、下限は重量比で5%、好ましくは10%、上限は50%、好ましくは50%の範囲である。上記範囲であれば、接着性、耐ブロッキング性および塗布性が高いレベルで両立する。なお、ナフタレン骨格構造及び、ビスフェノールA骨格構造の割合は、例えば、適当な溶剤または温水で樹脂または塗布層を溶解抽出し、クロマトグラフィーで分子量毎に分取し、NMRで構造を解析、さらに熱分解GC−MS(ガスクロマトグラフィー質量分析)で解析することにより求めることができる。
【0061】
ビスフェノールA構造を有する共重合ポリエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物などを用いてなるポリエステルを例示することができる。すなわち、塗布層成分としてのポリエステル樹脂は、多価カルボン酸および多価ヒドロキシ化合物の、重縮合により得られる樹脂を例示できるが、この多価ヒドロキシ化合物の一部若しくは全部として、かかるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を用いるという意味である。
【0062】
(b1)高沸点溶媒
本発明では塗布液中に紫外線吸収剤と相溶性の高い沸点150℃以上の高沸点有機溶媒を含有させることが重要である。塗布液中に高沸点溶媒を含有させることによって、インラインコート法によって積層された後の接着性改質層中に残留させることができ、製膜工程中の熱固定工程においても紫外線吸収剤を接着性改質層中に安定して存在させることができ、ブリードアウトを最小限に抑制させることができるのである。
【0063】
高沸点溶媒の添加方法は前記共重合ポリエステル系樹脂の水溶性または水分散性を向上させるために、共重合ポリエステル系樹脂と水を混合する前に添加するのが好ましい。
【0064】
本発明で用いる高沸点溶媒は、沸点が150℃以上の溶媒であり、好ましくは、一般式、R−O−CH−Z−CR−O−Rで表される化合物である。ここで、R〜Rは各々独立に、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましくは、水素原子または炭素数1〜2のアルキル基である。ただし、RとRの少なくとも一方は水素原子以外である。−Z−は、単結合、メチレン基またはオキシ基(−O−)である。そのような高沸点溶媒としては、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)[沸点:171℃]、ジエチレングリコールモノブチルエーテル[沸点:230℃]、ジエチレングリコールモノメチルエーテル[沸点:193℃]、ジエチレングリコールジメチルエーテル[沸点:162℃]、エチレングリコールt−ブチルエーテル[沸点:152℃]、3−メチル3−メトキシブタノール[沸点:174℃]、3−メトキシブタノール[沸点:160℃]、プロピレングリコールプロピルエーテル[沸点:150℃]、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル[沸点:190℃]、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル[沸点:198℃]が挙げられる。これらの他、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート[沸点:160℃]、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート[沸点:217℃]なども挙げられる。
【0065】
また、ロール状に巻き取った塗布フィルムを巻き出す際にフィルム間のブロッキングを防止するために、高沸点溶媒として沸点が200℃以下の溶媒を選択することが好ましい。
【0066】
これらのうち、水分散性、塗布性の観点からブチルセロソルブ、3−メチル3−メトキシブタノールが特に好適である。これら高沸点溶媒は単独または2種以上併用することができる。
【0067】
なお、工業的に使用される有機溶媒は、一般にCAS番号が付与され、沸点などの物性値を含む安全性データがインターネットで公表されている。公表されているデータに沸点が記載されていない場合には、例えば、桜井、池田考案の沸点測定装置(『化学大辞典3』共立出版(1960年),p.831)を用いて、溶媒の沸点を測定することができる。
【0068】
共重合ポリエステル系樹脂の水溶性または水分散性溶液とする際の、共重合ポリエステル系樹脂(A)と高沸点溶媒(B)と水(C)の混合比(重量比)は、(A)/(B)については好ましくは1〜5、より好ましくは1.5〜3として、(B)/(C)については好ましくは0.1〜1、より好ましくは0.15〜0.5とする。共重合ポリエステル系樹脂(A)に対し、高沸点溶媒(B)が少なく、(A)/(B)が5を超える場合は共重合ポリエステル系樹脂の分散性が低下する場合がある。逆に(A)/(B)が1より小さい場合、または、(B)/(C)が1を超える場合は分散液中の高沸点有機溶媒の含有量が多くなりコスト高となるばかりでなく、爆発の危険性、環境汚染が多くなる。(B)/(C)が0.1未満の場合は製膜工程中の熱固定工程において紫外線吸収剤がブリードアウトしやすくなり、結果として接着性が低下する。
【0069】
本発明の接着性改質層中の高沸点溶媒の含有量は0.005質量%以上、0.05質量%未満である。接着性改質層中の高沸点溶媒の含有量の好ましい下限は0.01質量%であり、好ましい上限は0.03質量%である。0.005質量%未満では接着性改質層中に紫外線吸収剤を安定して存在させることができず、フィルム表面にブリードアウトしてくる為、密着性の点で好ましくない。0.05質量%以上では耐ブロッキング性が低下し、密着性の点で好ましくない。さらに、高沸点溶媒が0.05質量%を超える場合は、塗布液を乾燥するための乾燥時間を長くする必要があり、かつ高画質化の点でも好ましくない。また、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの製造方法において、高沸点溶媒を接着性改質層中に適度に残存させるには熱固定処理工程での温度制御が非常に重要である。以下、その実施態様を詳細に説明する。
【0070】
前述のように、本発明の熱固定処理工程において、熱処理条件が接着性改質層中に高沸点溶媒残存量を大きく左右する。すなわち、熱固定処理工程における最高温度、最高温度に達するのに要する時間を適宜設定することが重要である。
【0071】
熱固定処理工程における最高温度は、高沸点溶媒の沸点温度以上、高沸点溶媒の沸点温度+80℃未満の範囲で高くすることが好ましい。高沸点溶媒の沸点未満では本発明が規定する接着性改質層中の高沸点溶媒残存量に制御することが困難であり、高沸点溶媒の沸点+80℃以上では高沸点溶媒残存量が少なくなり紫外線吸収剤のブリードアウトが多くなる。
【0072】
また、昇温に際しては高沸点溶媒の沸点から最高温度に達するまでの時間は10秒以上、60秒未満で段階的に昇温させることが好ましい。10秒未満では急激に温度が上昇し、接着性改質層の面質が低下する場合がある。60秒以上では高沸点溶媒残存量が少なくなる。降温の際も一般には順次温度を下げていく場合が多い。
【0073】
(b2)他の溶媒
本発明においては、溶媒とは、樹脂を溶解する液だけではなく、樹脂を粒子状に分散させるために用いる分散媒も広義的に含むものである。本発明を実施するためには、有機溶媒、水性溶媒等の各種溶媒を用いることができる。
【0074】
塗布液に用いる溶媒は、水と、エタノール、イソプロピルアルコール、ベンジルアルコール等のアルコール類を、全塗布液に占める割合が30〜50質量%の範囲で混合した混合液が好ましい。さらに、10質量%未満であれば、アルコール類以外の有機溶媒を溶解可能な範囲で混合してもよい。ただし、塗布液中、アルコール類とその他の有機溶媒との合計は、50質量%未満とする。
【0075】
有機溶媒の添加量が、全溶媒に対し50質量%未満の場合、塗布乾燥時に乾燥性が向上するとともに、水単独の場合と比較して塗布層の外観が向上するという利点がある。有機溶媒の添加量が、全溶媒に対し50質量%以上の場合には、溶媒の蒸発速度が速くなり、塗工中に塗布液の濃度変化が起こりやすくなる。その結果、塗布液の粘度が上昇して、塗工性が低下するために、塗布膜の外観不良を起こす場合がある。さらに、有機溶媒の揮発により、火災などの危険性も高くなる。
【0076】
(c)界面活性剤の併用
前記水性塗布液を基材フィルム表面に塗布する際には、該フィルムへの濡れ性を向上させ、塗布液を均一に塗布するために一般に界面活性剤が使用される。
【0077】
界面活性剤は、良好な塗布性が得られるものであれば特に種類は限定されない。界面活性剤の中でも、微量の添加で良好な塗布性を得るにはフッ素系界面活性剤が好適である。添加量は塗布液に対し0.01〜0.18質量%配合することが好ましい。
【0078】
(d)紫外線吸収剤
本発明における熱可塑性樹脂フィルムの両面に設けられた接着性改質層の内、いずれかの面の接着性改質層、若しくは片面の接着性改質層中に、紫外線吸収剤が含まれることを特徴とする。これにより、樹脂硬化のために照射される高出力の紫外線による、接着性改質層、基材フィルムの劣化を抑制することができる。本発明に用いる紫外線吸収剤は塗布液に可溶なものであれば特に限定されないが例えばベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系、環状イミノエステル系等、及びその組み合わせが挙げられるがこれら紫外線吸収剤とポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂と共重合させたものを用いても良い。
【0079】
具体的にはベンゾフェノン系紫外線吸収剤(UVINUL3050:BASFジャパン社製)、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(Sanduvor 3225-2 disp.XP、Sanduvor 3310 disp.XP、Sanduvor 3315 disp.XP、Sanduvor 3326 disp.XP、Sanduvor 3330 disp.XP:クラリアント・ジャパン株式会社製)、TINUVIN 5050、TINUVIN 5151(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、Sumisorb(住友化学社製)、SE−2538E(大成ファインケミカル社製)などが挙げられる。紫外線吸収剤の添加量は本発明が規定する紫外線透過率を有する添加量であれば特に限定はされないが接着性改質層に対して好ましい上限は30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。30質量%を超えた場合、相対的に接着性を改質するための樹脂の割合が減少し接着性が低下するため好ましくない。
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの全光線透過率は90%以上であることが好ましい。90%未満ではフィルムをLCD用のレンズフィルムや、バックライト用基材フィルム等に用いた場合、画面の鮮明度が低下する。
【0080】
また、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズは1.5%以下である。透明性が高度に要求される光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルムとして使用する際には重要な特性である。ヘーズが1.5%を超えると、フィルムをLCD用のレンズフィルムや、バックライト用基材フィルム等に用いた場合、画面の鮮明度が低下する。
【0081】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズを1.5%以下にするためには、基材フィルム中に粒子を含有させないことが好ましい。基材フィルム中に粒子を含有させない場合、接着性改質層に耐スクラッチ性やロール状に巻取る際や巻出す際のハンドリング性(滑り性、走行性、ブロッキング性、巻取り時の随伴空気の空気抜け性など)を改善するために、接着性改質層中に適切な大きさの粒子を特定量含有させて、接着性改質層表面に適度な凹凸を形成させることが好ましい。
【0082】
接着性改質層に含有させる粒子としては、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどの無機粒子、架橋ポリスチレン粒子、架橋アクリル系樹脂粒子、架橋メタクリル酸メチル系粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子などの耐熱性高分子粒子が挙げられる。
【0083】
これらの粒子の中でも、接着性改質層の樹脂成分と屈折率が比較的近いため、高透明のフィルムを得やすいという点でシリカ粒子が好適である。
【0084】
また、粒子の形状は特に限定されないが、易滑性を付与する点からは、球状に近い粒子が好ましい。
【0085】
接着性改質層中の粒子の含有量は、接着性改質層に対して20質量%以下とすることが好ましく、さらに好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下にする。接着性改質層中の粒子の含有量が20質量%を超えると、透明性が悪化し、フィルムの密着性も不十分となりやすい。一方、粒子の含有量の下限は、接着性改質層に対して好ましくは0.1質量%、さらに好ましくは1質量%、特に好ましくは3質量%とする。
【0086】
また、接着性改質層中には平均粒径の異なる粒子を2種類以上含有させてもよい。また、同種の粒子で平均粒径の異なるものを含有させてもよい。いずれにしても、粒子の平均粒径、および総含有量が前記の範囲とすればよい。前記塗布液を塗布する際には、塗布液中の粒子の粗大凝集物を除去するために、塗布直前に塗布液が精密濾過されるように濾材を配置することが好ましい。
【0087】
また、粒子の平均粒径は20〜150nmが好ましく、さらに好ましくは40〜60nmである。平均粒径が20nm未満であると、十分な耐ブロッキング性を得ることが困難な他、耐スクラッチ性が悪化する傾向がある。一方、粒子の平均粒径が150nmを超えると、ヘーズが上昇し且つ、粒子が脱落しやすくなるため好ましくない。
【0088】
本発明では、平均粒径が20〜150nmの粒子P1のみでは、十分な耐ブロッキング性及び耐スクラッチ性が得られない場合がある。そのために、さらに耐ブロッキング性及び耐スクラッチ性を向上させるために、さらに平均粒径の大きな粒子P2を少量併用することが好ましい。平均粒径の大きな粒子P2の平均粒径は160〜1000nmが好ましく、特に好ましくは200〜800nmである。粒子P2の平均粒径が160nm未満の場合、耐スクラッチ性、滑り性、巻き性が悪化する場合ある。一方、粒子P2の平均粒径が1000nmを超える場合、ヘーズが高くなる傾向がある。また、粒子P2は一次粒子が凝集した凝集体粒子であることが好ましく、凝集状態での平均粒径と一次粒子との平均粒径の比を4倍以上の粒子を用いることが、耐スクラッチ性の点から好ましい。
【0089】
2種類の粒子を用いる場合、例えば接着性改質層中の粒子P1(平均粒径:20〜150nm)と粒子P2(平均粒径:160〜1000nm)の含有量比(P1/P2)を5〜30とし、かつ粒子P2の含有量を接着性改質層の固形分に対し0.1〜1質量%とする。2種類の特定粒径の粒子の含有量を前記範囲に制御することは、接着性改質層表面の三次元中心面平均表面粗さを適正化し、透明性と、ハンドリング性や耐ブロッキング性を両立させる上で好適である。接着性改質層に対し、粒子P2の含有量が1質量%を超えると、ヘーズの上昇が著しくなる傾向がある。
【0090】
前記粒子の平均一次粒径及び平均粒径の測定は下記方法により行う。
粒子を電子顕微鏡で写真を撮り、最も小さい粒子1個の大きさが2〜5mmとなるような倍率で、300〜500個の粒子の最大径を測定し、その平均値を平均一次粒径または平均粒径とする。また、積層フィルムの接着性改質層中の粒子の平均粒径を求める場合は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、倍率12万倍で積層フィルムの断面を撮影し、接着性改質層の断面に存在する粒子の最大径を求めることができる。凝集体からなる粒子P2の平均粒径は、積層フィルムの接着性改質層の断面を、光学顕微鏡を用いて倍率200倍で300〜500個撮影し、その最大径を測定する。
【0091】
(2−2)塗布工程
前記水性塗布液を塗布する工程は、該フィルムの製造工程中に塗布するインラインコート法が好ましい。さらに好ましくは、結晶配向が完了する前の基材フィルムに塗布する。水性塗布液中の固形分濃度は、30質量%以下であることが好ましく、特に好ましくは10質量%以下である。固形分濃度の下限は1質量%が好ましく、さらに好ましくは3質量%、特に好ましくは5質量%である。該水性塗布液が塗布されたフィルムは、配向および熱固定のためにテンターに導かれ、そこで加熱されて、熱架橋反応により安定な被膜を形成し、ポリエステル系積層フィルムとなる。
【0092】
(塗布量)
未乾燥時の塗布量(以下、ウェット塗布量と略す)は、2g/m以上10g/m未満とすることが好ましい。ウェット塗布量が2g/m未満で、設計のドライ塗布量(最終接着性改質層の塗布量)を得ようとすると、塗布液の固形分濃度を高くする必要がある。塗布液の固形分濃度を高くすると、塗布液の粘度が高くなるため、スジ状の塗布斑が発生しやすい。一方、ウェット塗布量が10g/m以上では、乾燥炉内の乾燥風の影響を受けやすく、塗布斑が発生しやすい。なお、埃の付着による欠点を防止するために、クリーン度をクラス5000以下のクリーンな環境下で塗布液を塗布することが好ましい。
【0093】
また、最終的な接着性改質層の厚さは50nm以上、200nm以下に管理することが好ましく、さらに好ましい範囲は70nm以上、150nm未満である。塗布厚が50nm未満では本発明が規定する紫外線透過率を満足させるには接着性改質層中に含有させる紫外線吸収剤の濃度を高くする必要があり、接着性が低下する。200nm以上では接着性改質層中に含まれる粒子の単位面積当たりの量が多くなりヘーズ値が大きくなる。また、接着性改質層の厚みは、接着性改質層の断面をミクロトームで切断し、電子顕微鏡で観察することにより測定できる。
【実施例】
【0094】
次に、本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムの構成と作用効果、製造方法について、実施例と比較例を用いて説明するが、本発明は当然これらの実施例に限定されるものではない。また、実施例における、各フィルムの物性や評価は下記の方法を用いた。
【0095】
(1)紫外線硬化型樹脂層との密着性
積層ポリエステルフィルムを約10cm×約15cmの面積に切り出し、試料フィルムを作成した。清浄に保った厚さ5mmのガラス板上に、約1gの紫外線硬化型樹脂(JSR株式会社製、デソライト KZ9590)をマイヤーバーを用いて塗布し、試料フィルムの紫外線吸収剤を含まない接着性改質層面(以下接着性改質面1と称す)と紫外線硬化型樹脂が接するように重ね合わせ、上から幅10cm、直径4cmの手動式荷重ゴムローラーで荷重をかけて貼り付けた。 次いで、試料フィルムの紫外線吸収剤を含む接着性改質層面(紫外線吸収剤を含む層:以下接着性改質面2と称す)から、入力電力300Wのメタルハライドランプ(株式会社ジーエス・ユアサライティング製:MAQシリーズ)を用い照射距離15cm、積算光量1000mJ/cmの条件下で、紫外線を照射して紫外線硬化型樹脂を硬化させた(以下硬化樹脂面1と称す)。次いで、片面に紫外線硬化型樹脂層を積層したフィルムをガラス板から剥がし、さらに反対面(接着性改質面2)についても同様にして紫外線硬化型樹脂層を積層した(以下硬化樹脂面2と称す)。この時の紫外線硬化型樹脂層厚さは50μmとした。
両面テープを貼り付けた厚さ5mmのガラス板に、前記の両面に紫外線硬化型樹脂を積層した試料フィルムを、最初に積層した紫外線硬化型樹脂層面(紫外線硬化型樹脂面1とする)を下にして貼り付けた。次いで、2回目に積層した紫外線硬化型樹脂層(紫外線硬化型樹脂層2とする)と接着性改質層2を貫通して基材フィルムに達する100個の升目状の切り傷を、隙間間隔2mmのカッターガイドを用いて付けた。次いで、粘着テープ(ニチバン社製、405番;24mm幅)を升目状の切り傷面に貼り付けた。貼り付け時に界面に残った空気を消しゴムで押して、完全に密着させた後、粘着テープを勢いよく垂直に引き剥がした。さらに新しい粘着テープを同様にして貼りかえ、同様に勢いよく垂直に引き剥がした。この粘着テープの引き剥がし操作を合計5回繰り返して、下記の式から密着性を目視により求めた。なお、1個の升目でも部分的に剥がれているものは、剥がれた個数とした。
下記の式から密着性(%)を求め、80%以上を○、79%以下を×とした。
密着性(%)=(1−升目の剥がれた個数/100個)×100
【0096】
(2)紫外線透過率
分光光度計(日立製作所製、U−3500型)を用い、空気層を標準として波長300〜500nm領域の光線透過率を測定して、波長365nmにおける透過率を求めた。
【0097】
(3)ヘーズの測定
分光光度計(日立製作所製、U−3500型)を用い、空気層を標準として波長300〜500nm領域の光線透過率を測定して、波長365nmにおける透過率を求めた。
【0098】
(4)高沸点溶媒含有量
充填カラム型ガスクロマトグラフを用いて残存溶剤量の測定を次のように行った。試料約20mgを正確に秤量し、試料を入れたガラスインサートをガスクロマトグラフ注入口にセットし、150℃、5分間加熱し、カラム先端部に室温でトラップした後、下記に示す条件で測定及び定量を行った(A:ppm)。また、別に10cm四方に切り取った試料を秤量(B:g)後、コート層を溶剤で拭き取り、拭き取り前後の試料の重量差(C:g)を求めた。残存溶剤量は次式を用いて算出した。
接着性改質層中の高沸点溶媒量(%)=A×B×10-4/C
なお、両面、同厚の塗布量の場合は上記計算結果の1/2とした。
装置:GC−14型(島津製作所社製)
カラム:内径3mm、長さ1.6m
充填剤:Themon−1000(5%)/KOH含浸
固定相:chromosorb W−AWCS
キャリアーガス:窒素 (流速40ml/分)
オーブン温度:60〜190℃(昇温度速度10℃/分)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
検出温度:240℃
なお、定量分析においては検量線を作成し、定量に用いた。
例えば、ブチルセロソルブの場合、1000μg/mlのメタノール溶液2μlを直接、注入口に注入して150℃で5分間トラップし、上記条件で測定し、ピーク面積から検量線を作成した。
【0099】
(5)耐ブロッキング性
2枚のフィルム試料の接着性改質層面同士を重ね合わせ、これに1kgf/cmの圧力を50℃、60%RHの雰囲気下で24時間密着させた後、剥離し、その剥離状態を下記の基準で判定した。
◎:接着性改質層の転移がなく軽く剥離できるもの
○:剥離音は僅かに発生するが、接着性改質層が相手面に全く転移しないもの
△:剥離音が発生し、部分的に被覆層が相手面に転移しているもの
×:2枚のフィルムが固着し剥離できないもの、あるいは剥離できても基材ポリエステルフィルムが劈開しているもの
【0100】
(実施例1)
(1)塗布液(A)の調合
(1a)ナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル樹脂(a)の調製
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル116質量部、ジメチルイソフタレート57質量部、エチレングリコール35質量部、ネオペンチルグリコール145質量部、酢酸亜鉛0.1質量部および三酸化アンチモン0.1質量部を反応容器に仕込み、190℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6.0質量部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下(10〜0.2mmHg)、2時間かけて重縮合反応を行い、数平均分子量15,500のナフタレンジカルボン酸骨格共重合ポリエステル系樹脂(a)を得た。
【0101】
(1b)ナフタレン骨格を有さない共重合ポリエステル樹脂(b)の調製
ジメチルテレフタレート95質量部、ジメチルイソフタレート95質量部、エチレングリコール35質量部、ネオペンチルグリコール145質量部、酢酸亜鉛0.1質量部および三酸化アンチモン0.1質量部を反応容器に仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6.0質量部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下(10〜0.2mmHg)、2時間かけて重縮合反応を行い、数平均分子量19,500の共重合ポリエステル系樹脂(b)を得た。
【0102】
(1c)ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂(c)の調製
ジメチルテレフタレート50質量部、ジメチルイソフタレート50質量部、エチレングリコール35質量部、ネオペンチルグリコール145質量部、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物90質量部酢酸亜鉛0.1質量部および三酸化アンチモン0.1質量部を反応容器に仕込み、180℃で3時間かけてエステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6.0質量部を添加し、240℃で1時間かけてエステル化反応を行った後、250℃で減圧下(10〜0.2mmHg)、2時間かけて重縮合反応を行い共重合ポリエステル系樹脂(c)を得た。
【0103】
(1d)塗布液(A)の調製
得られた共重合ポリエステル系樹脂(a)100質量部、共重合ポリエステル系樹脂(b)100質量部、共重合ポリエステル系樹脂(c)100質量部とブチルセロソルブ140質量部を160℃で3時間撹拌し粘稠な溶融液を得て、この溶融液に水を徐々に添加し1時間後に均一な淡白色の固形分濃度30%の水分散液を得た。
この固形分濃度30質量%水分散液を15質量部、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(UVINUL3050:BASFジャパン社製)0.3質量部、水を38.4質量部およびイソプロピルアルコールを36.0質量部、それぞれ混合した。さらに、フッ素系ノニオン型界面活性剤の10質量%水溶液を0.6質量部、粒子Aとしてコロイダルシリカ(平均粒径40nm)の20質量%水分散液を2.3質量部、粒子Bとして乾式法シリカ(平均粒径200nm、平均一次粒径40nm)の3.5質量%水分散液を0.5質量部添加した。次いで、5質量%の重曹水溶液で塗布液のpHを6.2に調整し、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が10μmのフェルト型ポリプロピレン製フィルターで精密濾過し、塗布液(A)を調製した。
【0104】
(2)塗布液(B)の調合
紫外線吸収剤を添加しなかった以外は塗布液(A)と同様に塗布液を調整し塗布液(B)とした。
【0105】
(3)積層ポリエステルフィルムの製造
原料ポリマーとして、粒子を含有していない、固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂ペレットを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した。次いで、乾燥後のPET樹脂ペレットを押し出し機に供給し、約285℃でシート状に溶融押し出して、表面温度20℃に保った金属ロール上で急冷固化し、キャストフィルムを得た。この際、溶融樹脂中の異物を除去する濾材として、濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)が15μmのステンレス製焼結濾材を用いた。
【0106】
得られたキャストフィルムを、加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで95℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。次いで、前記塗布液(A)および塗布液(B)をそれぞれ濾過粒子サイズ(初期濾過効率:95%)10μmのフェルト型ポリプロピレン製濾材で精密濾過し、ロールコート法で一軸配向PETフィルムの片面に塗布液(A)、反対面に塗布液(B)を塗布した。
【0107】
その後、乾燥炉にて温度135℃で塗布面を乾燥した。また、両面とも塗布厚は最終的な固形分量として80nmになるようにした。
【0108】
次いでこの一軸延伸ポリエステルフィルムをクリップ方式の横延伸機に導き、100℃で予熱した後、130℃で横方向に4.0倍延伸し、次いで、230℃で熱固定処理した後、200℃で横方向に3%緩和処理し、次いで、フィルムワインダーで巻き取って厚み100μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。
【0109】
(実施例2)
塗布液(A)のベンゾフェノン系紫外線吸収剤(UVINUL3050:BASFジャパン社製)の添加量を0.6質量部とした以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0110】
(実施例3)
塗布液(A)のベンゾフェノン系紫外線吸収剤(UVINUL3050:BASFジャパン社製)の添加量を0.9質量部とした以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た
【0111】
(実施例4)
両面に塗布液(A)を塗布した以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0112】
(実施例5)
両面とも塗布厚を最終的な固形分量として160nmになるようにした以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0113】
(実施例6)
紫外線吸収剤としてベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含有する親水性アクリル樹脂エマルジョンタイプ紫外線吸収剤SE−2538E(大成ファインケミカル社製)を30質量部、水を24.8質量部およびイソプロピルアルコールを22.4質量部とした以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0114】
(実施例7)
実施例1で得られた共重合ポリエステル系樹脂(a)100質量部、共重合ポリエステル系樹脂(b)30質量部、共重合ポリエステル系樹脂(c)70質量部とブチルセロソルブ140質量部を160℃で3時間撹拌し粘稠な溶融液を得、この溶融液に水を徐々に添加し1時間後に均一な淡白色の固形分濃度30%の水分散液を得た。この水分散液を用いること以外は、上述した「塗布液(A)の調製」と同様の処理によって、塗布液(C)を得た。
そして、塗布液(A)の代わりに塗布液(C)を用いたことの他は実施例1と同様の方法で積層ポリエステリフィルムを得た。
【0115】
(比較例1)
実施例1で得られた共重合ポリエステル系樹脂(a)150重量部と共重合ポリエステル系樹脂(b)150質量部との混合物に、水700質量部を徐々に添加し1時間後に均一な淡白色の固形分濃度30%の水分散液を得たこと以外は実施例1と同様の方法で塗布液(D)を調製し、これを用いた以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0116】
(比較例2)
両面に塗布液(B)を塗布した以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0117】
(比較例3)
塗布液(A)のベンゾフェノン系紫外線吸収剤(UVINUL3050:BASFジャパン社製)の添加量を1.2質量部とした以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0118】
(比較例4)
(1)マスターバッチ(A)の製造
乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,1−ベンズオキサジノン−4−オン))10重量部、粒子を含有しない固有粘度が0.62dl/gのPET樹脂90重量部を混合し、混練押出機を用い、押し出し温度285℃でマスターバッチを作製した。
【0119】
中間層用原料として固有粘度が0.62dl/gのPET樹脂の粒子を含有しないペレット90重量部とマスターバッチ(A)10部とを135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層B層用)に、粒子を含有しない固有粘度が0.62dl/gのポリエチレンテレフタレートのペレットを押出機1(外層A層用)及び3外層C層用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2つのポリマーを、それぞれステンレス焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、3層合流ブロックにて、積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作った。この時、A層、B層、C層の厚さの比は1.5:7:1.5となるように各押し出し機の吐出量を調整した。
【0120】
この製膜の際、溶融樹脂の異物除去用濾材として濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)15mのステンレス製焼結濾材を用いた。次にこの未延伸フィルムを加熱されたロール群及び赤外線ヒーターで100℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向に3.5倍延伸して一軸配向PETフィルムを得た。次いで比較例1と同様の塗布液を両面に塗布し、比較例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0121】
(比較例5)
比較例3で用いた塗布液を両面に塗布した以外は実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0122】
(比較例6)
塗布液Aの調製において、共重合ポリエステル系樹脂を希釈する際、共重合ポリエステル系樹脂(a)100質量部、共重合ポリエステル系樹脂(b)100質量部、共重合ポリエステル系樹脂(c)100質量部およびブチルセルソルブ550質量部を25℃で1時間攪拌し粘調な溶融液を得て、この溶融液に水を徐々に添加し固形分濃度30%の水分散液を得たものを使用した以外は、実施例1と同様の方法で積層ポリエステルフィルムを得た。
【0123】
各実施例、比較例で得られたフィルムについて表1にまとめる。
【0124】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の積層熱可塑性樹脂フィルムは、実用的な密着性を維持しながら、耐ブロッキング性にも優れるため、液晶ディスプレイやプラズマディスプレイなどのディスプレイ用途の部材、例えばレンズフィルム、反射防止層や防汚層を積層してなる光学機能性フィルムの基材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムとその両面に設けられた接着性改質層とを有する積層熱可塑性樹脂フィルムであって、
当該積層熱可塑性樹脂フィルムの波長365nmの紫外線の透過率は70%以上85%未満であり、
各々の接着性改質層は、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂との混合物、あるいは、ビスフェノールA骨格およびナフタレン骨格の両方を有する共重合ポリエステル系樹脂から主として構成され、高沸点溶媒を0.005質量%以上、0.05質量%未満含み、
少なくとも1層の接着性改質層は紫外線吸収剤を含む、積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項2】
少なくとも1層の接着性改質層の厚さが200nm以下である請求項1記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項3】
少なくとも1層の接着性改質層に粒子が含まれる請求項1または2記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項4】
熱可塑性樹脂フィルムには粒子が実質的に含まれず、当該積層熱可塑性樹脂フィルムのヘーズが1.5%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項5】
少なくとも1層の接着性改質層にシリカ粒子が含まれる請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項6】
上記熱可塑性樹脂フィルムが二軸配向ポリエステルフィルムである請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項7】
光学機能性フィルムまたは光学機能性シートの基材フィルム用である請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項8】
光学機能性フィルムまたは光学機能性シートが、基材フィルムの片面にプリズム層、反対面にマット層またはハードコート層が積層されてなるものである、請求項7に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。
【請求項9】
機械方向に一軸延伸された熱可塑性樹脂フィルムに、ビスフェノールA骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂とナフタレン骨格を有する共重合ポリエステル系樹脂と高沸点溶媒と紫外線吸収剤と水とを含有する水性塗布液を塗工し、乾燥した後、上記フィルムを直角方向に延伸し、次いで、熱可塑性樹脂フィルム中の熱可塑性樹脂の結晶を配向させるように熱処理を施して得られる請求項1〜8のいずれか1項に記載の積層熱可塑性樹脂フィルム。

【公開番号】特開2010−12654(P2010−12654A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173305(P2008−173305)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】