説明

積層鉄心の積みズレ測定方法及び測定装置並びにコンピュータプログラム

【課題】積層鉄心の積みズレ測定方法及び測定装置において、積層鉄心の積層面における積みズレの測定を高精度且つ迅速に行う。
【解決方法】積層鉄心の積みズレ測定方法は、積層方向に沿って、積層鉄心(1)の積層面のプロファイルを取得する工程と、プロファイルのうち傾きの絶対値が所定の閾値を超える領域を鉄心間の谷間であると特定する工程と、プロファイルを特定された谷間を境界としてサブプロファイルに分割する工程と、サブプロファイル毎に波形の極大値を算出する工程と、算出された極大値のうち、最大のものと最小のものとの差異を積みズレとして算出する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の板状の鉄心が積層されてなる、例えばモータコアやトランスコア等の積層鉄心の積層面における積みズレを測定する測定方法及び測定装置並びにコンピュータプログラムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の測定方法及び測定装置は、例えば帯状の薄板材を所定の金型を用いて打ち抜き加工することによって形成された板状の鉄心が複数積層されてなる積層鉄心を測定対象としており、このような積層鉄心は、例えばモータコアやトランスコア等として用いられる。このような用途に用いられる積層鉄心は、その形状及び寸法がモータやトランスの性能を決定する重要な要素となるため、その形状及び寸法が精度よく形成されることが要求されている。そのため、積層鉄心の製造工程では、製造された積層鉄心がこのような要求を満足するか否かを判断するために、積層鉄心の形状及び寸法について評価測定が行われる。
【0003】
例えば特許文献1には、積層鉄心を構成する複数の鉄心の各々について、周方向全周に亘って切断面の表面形状を計測することにより、打ち抜き加工時に形成された破断部に起因するノイズを含まないデータを形成する技術が開示されている。また特許文献2には、積層鉄心の積層面の表面形状をシリコンゴムに転写し、当該シリコンゴム上に転写された凹凸を測定することにより、積層鉄心の積みズレを測定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−194838号公報
【特許文献2】特開2003−65751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層鉄心の評価における重要な測定項目の一つとして、積みズレ(即ち、積層方向から見たときの各鉄心の張り出し具合のバラツキ度)がある。積みズレの測定方法としては、積層面上をセンサプローブで走査することにより、積層面の表面状態における凹凸データ(当該データを以下、適宜「プロファイル」と称する)を取得し、解析する方法が考えられる。この方法では各鉄心について端部の張り出し具合を検出し、それらの差を算出することによって積みズレを評価可能であるが、センサプローブにより取得したプロファイルには積層された鉄心間に存在する凹状の隙間など、端部の張り出し以外の情報も多く含まれている。そのため、このような不要な情報が多く含まれているプロファイルから、評価に必要な情報を判別することが困難であるために、プロファイルの解析は専ら人的作業に頼らざるを得ないという技術的問題点がある。人的作業に基づいて評価を行うと、評価結果にヒューマンエラーなどの要因によるバラツキが増大する上に、解析に多大な時間、労力及び費用を要するといった種々のデメリットが生じてしまう。
【0006】
尚、上述の特許文献1では、積層鉄心を構成する個々の鉄心の形状及び寸法についての評価方法のみが開示されており、積層鉄心の積層面に関する積みズレについては適応することはできない。また、特許文献2では、積層鉄心の積層面が転写されたシリコンゴムの凹凸形状から積みズレを間接的に評価可能とされているが、当該方法においても、結局シリコンゴム表面の凹凸から取得したプロファイルを解析することが必要であり、解析時における上述の技術的問題点は何ら解決されていない。尚、特許文献2では、積層面を転写して間接的に評価が行われるため、当該転写時に新たに誤差が生じる可能性があり、積みズレの評価精度が悪化してしまうおそれがあるという技術的問題点もある。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、積層鉄心の積層面における積みズレを高精度且つ迅速に評価可能な積層鉄心の積みズレ測定方法及び測定装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の積層鉄心の積みズレ測定方法は上記課題を解決するために、複数の板状の鉄心が積層されてなる積層鉄心の積みズレを測定する方法であって、前記鉄心の積層方向に沿って、前記積層鉄心の積層面のプロファイルを取得するプロファイル取得工程と、前記取得されたプロファイルのうち傾きの絶対値が所定の閾値を超える第1領域を、隣接する前記鉄心の間の谷間であると特定する谷間特定工程と、前記プロファイルを、前記第1領域を境界として前記鉄心の各々に対応するサブプロファイルに分割するプロファイル分割工程と、前記サブプロファイルの波形の極大値を、前記サブプロファイル毎に算出する極大値算出工程と、前記サブプロファイル毎に算出された前記極大値のうち、最大のものと最小のものとの差異を積みズレとして算出する積みズレ算出工程とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、積層鉄心の積層面に関するプロファイルを積層された複数の鉄心の各々に対応するサブプロファイルに分割し、サブプロファイル毎に、鉄心の表面における凹凸形状に対応する波形から極大値を算出することにより、積みズレの算出に必要な情報、即ち、積層された複数の鉄心の各々の頂点位置を抽出することができる。これにより、プロファイルに含まれる不要な情報、例えば積層された鉄心間に存在する凹状の隙間等に関する情報を的確に判別しつつ、積みズレを人的作業に頼らずに、容易に算出することが可能となる。
【0010】
本発明の積層鉄心の積みズレ測定方法の一の態様では、前記サブプロファイル毎に算出された前記極大値に基づいて回帰直線を算出する回帰直線算出工程と、前記算出された回帰直線の傾きがゼロになるように、前記プロファイルを補正する補正工程と、前記補正されたプロファイルに基づいて、前記プロファイル分割工程、前記極大値算出工程及び前記積みズレ算出工程を再実行する積みズレ再算出工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
この態様によれば、傾いた状態で設置された積層鉄心について積みズレを測定した場合、当該傾きが積みズレに含まれてしまうため、正確な測定結果を得ることが難しい場合が考えられる。このような場合であっても、本態様では回帰直線を用いて測定結果に補正を施すことによって、測定精度を効果的に改善することができる。
【0012】
本発明の積層鉄心の積みズレ測定方法の他の態様では、前記谷間特定工程は、前記取得したプロファイルのうち傾きの絶対値が前記所定の閾値以下である第2領域を、前記鉄心の頂点であると特定し、前記プロファイルのうち前記第2領域を含む所定の範囲内において、前記第1領域が所定の割合より多く占める場合に、当該第2領域を谷間であると特定するノイズ除去工程を更に備えることを特徴とする。
【0013】
上述のように、本発明ではプロファイルの傾きの絶対値に基づいて積層鉄心の谷間を特定する。そのため、谷間の底近傍では傾きの絶対値がゼロに近づき、ノイズの影響によって谷間であるか否かの特定に不正確さが増大するおそれがある。本態様ではこのような不正確さを効果的に改善し、積層された複数の鉄心について頂点をより高精度に特定することができる。
【0014】
本発明の積層鉄心の積みズレ測定方法の他の態様では、前記プロファイル取得工程は、複数の前記積層方向に沿って前記プロファイルを取得することを特徴とする。
【0015】
この態様によれば、積層面に沿ってプロファイルを取得することにより、積層面が平面の場合には二次元的に、積層面が曲面である場合には三次元的に積みズレを測定することができるため、大変実践的である。
【0016】
本発明の積層鉄心の積みズレ測定装置は上記課題を解決するために、複数の板状の鉄心が積層されてなる積層鉄心の積みズレを測定するための装置であって、前記鉄心の積層方向に沿って、前記積層鉄心の積層面のプロファイルを取得するプロファイル取得手段と、前記取得されたプロファイルのうち傾きの絶対値が所定の閾値を超える第1領域を、隣接する前記鉄心の間の谷間であると特定する谷間特定手段と、前記プロファイルを、前記第1領域を境界として前記鉄心の各々に対応するサブプロファイルに分割するプロファイル分割手段と、前記サブプロファイルの波形の極大値を、前記サブプロファイル毎に算出する極大値算出手段と、前記サブプロファイル毎に算出された前記極大値のうち、最大のものと最小のものとの差異を積みズレとして算出する積みズレ算出手段とを備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る積層鉄心の積みズレ測定装置は、上述の電気光学装置の製造方法(各種態様を含む)によって好適に実現することができる。
【0018】
尚、上述した本発明の積層鉄心の積みズレ測定装置における各種態様に対応して、本発明のコンピュータプログラムも各種態様を採ることが可能である。具体的には、当該コンピュータプログラム製品は、上述した本発明の積層鉄心の積みズレ測定装置として機能させるコンピュータ読取可能なコード(或いはコンピュータ読取可能な命令)から構成されてよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、積層鉄心の積層面に関するプロファイルを積層された複数の鉄心の各々に対応するサブプロファイルに分割し、サブプロファイル毎に、鉄心の表面における凹凸形状に対応する波形から極大値を算出することにより、積みズレの算出に必要な情報、即ち、積層された複数の鉄心の各々の頂点位置を抽出することができる。これにより、プロファイルに含まれる不要な情報、例えば積層された鉄心間に存在する凹状の隙間等に関する情報を的確に判別しつつ、積みズレを人的作業に頼らずに、容易に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】測定対象たる積層鉄心の典型的な構造を示す模式図である。
【図2】本実施例に係る積みズレ測定装置の全体構成を示すブロック図である。
【図3】積層鉄心の積層面を走査プローブによって走査することによって取得したプロファイルの一例を示すグラフ図である。
【図4】本実施例に係る谷間特定処理のフローチャート図である。
【図5】プロファイルPの波形から傾きQ(i)を算出する工程を模式的に示す概念図である。
【図6】本実施例に係るノイズ補正処理のフローチャート図である。
【図7】本実施例に係るノイズ補正処理において施される補正過程を模式的に示す概念図である。
【図8】本実施例に係るプロファイル分割処理のフローチャート図である。
【図9】本実施例に係る積みズレ算出処理のフローチャート図である。
【図10】本実施例に係る補正処理のフローチャート図である。
【図11】補正処理においてプロファイルに対して行われる処理を模式的に示す概念図である。
【図12】本変形例に係る谷間判定処理のフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【実施例】
【0022】
まず、図1を参照して、本発明の積層鉄心の積みズレ測定方法及び当該方法を実行可能な積みズレ測定装置の測定対象である積層鉄心の構造について説明する。図1は、測定対象たる積層鉄心の典型的な構造を示す模式図である。
【0023】
本実施例に係る積層鉄心1は、図1(a)に示す円盤状の鉄心1aが、図1(b)に示すように所定方向(以下、X方向とする)に沿って複数積層してカシメ結合された構造を有する。それぞれの鉄心1aは、図1(a)に示すように、本体部10には、平面的に見て中心に同心円状に大きく開口された第1開口部11と、当該第1開口部11の外周に沿って長方形状に開口された複数の第2開口部12とが設けられている。本発明に係る「積層面」とは、本体部10の外周、第1開口部11及び第2開口部12を規定する鉄心1aの端部が積層方向に連続することによって形成される面を意味する。尚、図1に示す積層鉄心1は、典型的な形状を例示したものにすぎず、これに限定されないことは言うまでもない。
【0024】
積層鉄心1は、例えば、電磁鋼板からなる帯状の薄板材を所定の金型を用いて打ち抜き加して形成された鉄心1aを複数枚積層してカシメ結合することによって製造されたものである。具体的には、プレス金型内において、積層して隣り合う鉄心に形成される突起及び該突起が圧入される凹部を介してカシメられていてもよいし、プレス金型内において、積層して隣り合う鉄心間に、加熱及び加圧により溶融する接着剤が用いられていてもよい。
【0025】
続いて、図2を参照して、本発明に係る積層鉄心の積みズレ測定方法を実行可能な積みズレ測定装置の全体構成について説明する。図2は、本実施例に係る積みズレ測定装置の全体構成を示すブロック図である。
【0026】
本発明に係る積みズレ測定装置100(以下、単に「測定装置100」と称する)は、制御部210及び記憶部220を備えてなる本体部200と、測定装置本体200に接続された測定部300からなる。制御部210は、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro Processing Unit)等の演算処理装置及びRAM(Random Access Memory)等のバッファメモリを備え、測定部300の動作を制御することが可能に構成された制御ユニットである。制御部210は、記憶部220に記憶されたアプリケーションプログラム(以下、適宜「アプリケーション」と称する)を実行することにより、測定装置100が本発明に係る「積層鉄心の積みズレ測定装置」の一例として機能するように構成されている。尚、当該アプリケーションは、本発明に係る「コンピュータプログラム」の一例である。
【0027】
本体部200には入力装置400と、表示装置500が接続されている。入力装置400は、キーボード、入力ペン、及びマウス等のポインティングデバイス(夫々不図示)を適宜含み、ユーザによる適宜の入力操作が可能に構成されている。表示装置500は、例えばプラズマディスプレイ装置や液晶ディスプレイ装置等の各種ディスプレイ装置であり、測定装置100により実行されるアプリケーションに関する画面を表示することが可能に構成されている。
【0028】
測定部300は、台座(図不示)上に設けられた支柱320と、支柱に沿って上下方向に移動可能に取り付けられた保持部330と、保持部330から延在されるように設けられた走査プローブ340とから構成されている。走査プローブ340は更に図中の矢印方向に沿って移動可能であり、積層鉄心1の積層面をX方向に沿って走査することができる。尚、図2では走査プローブ340の積層面に対する位置関係をわかりやすく図示するために、積層鉄心1の一部を省略することによって断面的に図示すると共に、センサプローブ340の先端付近を拡大して示してある。
尚、走査プローブ340は接触方式であってもよいし、非接触方式であってもよい。測定時には、走査プローブ340の先端を積層鉄心1の積層面に沿って押圧しつつ走査することにより、走査プローブ340の先端に取り付けられたセンサからの電気信号を、保持部330に接続された伝送ライン22を介して、本体部200に取り込むことができる。これにより、積層鉄心1の積層面の表面形状が電気信号として取得され、記憶部220に記憶されたアプリケーションによって適宜解析することが可能となる。尚、制御部210における解析プロセスについては、後に詳述することとする。
【0029】
このように走査プローブ340から取り込まれた電子信号はプロファイルPとして、記憶部220に記憶される。ここで、図3は積層鉄心1の積層面を走査プローブ340によって走査することで取得したプロファイルPの一例を示すグラフ図である。尚、図3では、X方向に沿って、積層鉄心1の積層面上を走査プローブ340で走査した場合に取得したプロファイルPの波形の一部を例示したものである。尚、プロファイルPは計L個のデータ点P(i)から構成されており、データ点P(i)の各々は、X方向における座標値(X座標)と、当該X座標に対応する積層鉄心1の積層面の表面高Yとが一対となったものである。以下の説明では、プロファイルPに含まれるデータのうちi番目のデータを、特に、P(i)と表現するものとする。
【0030】
図3に示すように、プロファイルPの波形は、鉄心1aの頂点に対応する凸領域5と、隣り合う鉄心1a間の隙間に対応する凹領域6とが互いに繰り返される形状を有している。積層鉄心1の積みズレは、このようなプロファイルPの波形が有する複数の凸領域5からL個の極大値を抽出した上で、当該抽出されたL個の極大値の最大値と最小値との差異を算出することによって得られる。本実施例に係る測定装置100は、このような積みズレの算出は、以下に説明する動作により実現される。
<動作例>
【0031】
測定装置100の動作例について詳細に説明する。本実施例における動作例では、測定装置100の本体部200における解析プロセスは主に、谷間特定処理、ノイズ補正処理、プロファイル分割処理、積みズレ算出処理及び補正処理からなる。以下、これらの処理について順次説明する。
<谷間特定処理>
【0032】
谷間特定処理では、記憶部220に記憶されたプロファイルPを読み込み、当該プロファイルPの波形において隣り合う鉄心a1間の谷間の位置を特定する。
【0033】
ここで、図4を参照して、谷間特定処理の処理プロセスについて具体的に説明する。図4は、本実施例に係る谷間特定処理のフローチャート図である。
【0034】
まず制御部210は、記憶部220にアクセスすることにより、記憶部220に記憶されたプロファイルPを読み込む(ステップS101)。また制御部210は、ユーザによって入力装置400から入力された傾き判定サンプル数a1を読み込む(ステップS102)。傾き判定サンプル数a1は、後述するステップS104において用いられる定数であり、ユーザ側が適宜規定することが可能である。
【0035】
続いて制御部210は、インクリメント変数iを「1」、即ち初期状態に設定する(ステップS103)。
【0036】
続いて制御部210は、データ点P(i)及びP(i)の周囲に位置する(典型的にはP(i)に隣接する)a1個のデータ点を用いて、プロファイルPの波形のデータ点P(i)における傾きQ(i)を算出する(ステップS104)。本実施例では特に、傾きQ(i)を、最小二乗法を用いて算出している。尚、本実施例では全てのデータ点P(i)について傾きQ(i)を算出しているが、制御部210の処理速度の遅延防止や、処理速度の向上のために、一部のデータ点P(i)についてのみ傾きQ(i)を算出してもよい。
【0037】
ここで、図5はプロファイルPの波形からQ(i)を算出する工程を模式的に示す概念図である。プロファイルPの波形は、プロファイルPを構成するL個のデータ点P(i)によって特定され、制御部210は、データ点P(i)に隣り合うa1個のデータ点に基づいて、P(i)における傾きQ(i)を算出する。典型的にはP(i−a1/2)〜P(i+a1/2)の計(a1+1)個のデータ点P(i)が、傾きQ(i)の算出に用いられる。
【0038】
再び図4に戻って、続いて、制御部210はステップS104において算出した傾きQ(i)の絶対値が、所定の閾値Q1より小さいか否かを判定する(ステップS105)。その結果、Q(i)の絶対値がQ1より小さい場合(ステップS105:YES)、制御部210は当該Q(i)に対応するデータ点P(i)の属性を「頂点」であると判定する(ステップS106)。一方、Q(i)の絶対値がQ1より小さくない場合(ステップS105:NO)、制御部210は当該Q(i)に対応するデータ点P(i)の属性を「谷間」であると判定する(ステップS107)。
【0039】
このようにデータ点P(i)の属性を判定した後、制御部210はインクリメント変数iにi+1を代入し(ステップS108)、インクリメント変数i+1が、データ点P(i)の全数であるLより大きいか否かを判定する(ステップS109)。その結果、インクリメント数i+1がL以下である場合には(ステップS109:NO)、制御部210は処理をステップS104に戻し、上述の各ステップを繰り返す。一方、インクリメント変数i+1がLより大きい場合には(ステップS109:YES)、制御部210は処理を終了する(END)。
<ノイズ補正処理>
【0040】
ノイズ補正処理では、上述の谷間特定処理において特定された各データ点P(i)の属性(即ち、「頂点」であるか「谷間」であるか)の特定精度を向上させるために補正が施される。尚、処理速度を優先的に向上させたい場合や、当該処理を実行することなく十分な特定精度が得られる場合には、必ずしも本処理を実行する必要はない。
【0041】
ここで、図6を参照してノイズ補正処理の処理プロセスについて具体的に説明する。図6は、本実施例に係るノイズ補正処理のフローチャート図である。
【0042】
まず制御部210は、ユーザによって入力装置400から入力されたノイズ判定サンプル数a2を読み込む(ステップS201)。ここで、ノイズ判定サンプル数a2は、後述するステップS203において参照される定数である。
【0043】
続いて制御部210は、インクリメント変数iを「1」、即ち初期状態に設定する(ステップS202)。
【0044】
続いて制御部210は、データ点P(i)に隣り合うa2個のデータ点(典型的にはP(i−a2/2)〜P(i+a2/2)の計(a2+1)個のデータ点)を参照し、当該参照したデータ点のなかに属性が「頂点」であるデータ点P(i)がいくつ含まれているかをカウントする(ステップS203)。ここで、ステップS203においてデータ点P(i)を中心に参照された一連のデータ点のなかに含まれる、属性が「頂点」であるデータ点数をC(i)と称することとする。
【0045】
C(i)が所定の閾値C1以下である場合(ステップS204:YES)、制御部210はC(i)に対応するデータ点P(i)の属性を「谷間」に変更する(ステップS205)。
一方、C(i)が所定の閾値C1より大きい場合(ステップS204:NO)、制御部210は処理をステップS206に進める。
【0046】
ここで図7はステップS205において施される補正過程を模式的に示す概念図である。図7では、谷間特定処理の結果、属性が「頂点」であると判定されたデータ点P(i)を白抜きのシンボルで示し、属性が「谷間」であると判定されたデータ点P(i)は黒塗りのシンボルで示してある。ステップS204では、特定のデータ点P(i)の周囲にあるa2個のデータ点を参照し、当該範囲内に属性が「頂点」であると判定されたデータ点P(i)である白抜きのシンボルがC1より多くあるか否かが判定される。
【0047】
特に図7に示すように、プロファイルPの波形の底部では傾きQ(i)の絶対値がゼロに近づくため、本来「谷間」の属性を有しているにもかかわらず、ノイズの影響によって属性が「頂点」であると誤判定されてしまう可能性が大きくなる。そこで、ステップS204では、その周囲に属性が「頂点」のデータ点が極端に少ない場合には、当該判定はノイズによる誤判定であるとして、谷間特定処理における判定に対して補正を行う。言い換えれば、仮に真に属性が「頂点」である場合、図7に示すように、その周囲における相当数のデータ点P(i)もまた「頂点」の属性を有する。そのため、周囲に「頂点」の属性を有するデータ点が極端に少ないにも関わらず、特定のデータ点P(i)のみが「頂点」の属性を有する場合は、ノイズによって不自然な判定が行われたものとして、当該データ点P(i)の属性を「谷間」に補正する。
【0048】
再び図6に戻って、続いて制御部210はインクリメント変数iにi+1を代入し(ステップS206)、インクリメント変数i+1が、データ点P(i)の全数であるLより大きいか否かを判定する(ステップS207)。その結果、インクリメント変数i+1がL以下である場合には(ステップS207:NO)、制御部210は処理をステップS203に戻し、上述のステップを繰り返す。一方、インクリメント変数i+1がLより大きい場合には(ステップS207:YES)、制御部210は処理を終了する(END)。
<プロファイル分割処理>
【0049】
プロファイル分割処理では、上記処理において谷間が判定されたプロファイルPをM個のサブプロファイルSP(j)に分割する。
【0050】
ここで、図8を参照してプロファイル分割処理の処理プロセスについて具体的に説明する。図8は、本実施例に係るプロファイル分割処理のフローチャート図である。
【0051】
まず制御部210は、ユーザによって入力装置400から入力された分割判定サンプル数a3を読み込む(ステップS301)。ここで、分割判定サンプル数a3は、後述するステップS303において参照される定数である。
【0052】
続いて制御部210は、インクリメント変数iを「1」、即ち初期状態に設定する(ステップS302)。
【0053】
続いて制御部210は、データ点P(i)を含むa3+1個のデータ点(典型的にはP(i−a3/2)〜P(i+a3/2)のデータ点)を参照し、当該参照したデータ点のなかに「谷間」の属性を有するデータ点P(i)がN個以上連続して存在しているか否かを判定する(ステップS303)。その結果、「谷間」の属性を有するデータ点P(i)がN個以上連続して存在している場合(ステップS303:YES)、当該データ点P(i)が谷間領域にあると特定する(ステップ304)。
【0054】
続いて制御部210はインクリメント変数iにi+1を代入し(ステップS305)、インクリメント変数i+1がデータ点P(i)の全数であるLより大きいか否かを判定する(ステップS306)。その結果、インクリメント変数i+1がL以下である場合には(ステップS306:NO)、制御部210は処理をステップS303に戻し、上述のステップを繰り返す。一方、インクリメント変数i+1がLより大きい場合には(ステップS306:YES)、制御部210は処理をステップS307に進める。
【0055】
以上のようにプロファイルPのうち隣り合う鉄心1a間の谷間を特定した後、制御部210は、当該特定された谷間を境界としてプロファイルPを、各鉄心1aに対応するサブプロファイルSP(j)に分割し(ステップS307)、処理を終了する(END)。本実施例では特に、積層鉄心1はM枚の鉄心1aが積層されてなり、プロファイルPは鉄心1a毎に対応するM個のサブプロファイルSP(j)に分割されるものとする。
<積みズレ算出処理>
【0056】
積みズレ算出処理では、分割されたサブプロファイルSP(j)毎に波形の極大値を特定することにより、積層鉄心1の積みズレを算出することができる。
【0057】
ここで、図9を参照して積みズレ算出処理の処理プロセスについて具体的に説明する。図9は、本実施例に係る積みズレ算出処理のフローチャート図である。
【0058】
まず制御部210は、インクリメント変数jを「1」、即ち初期状態に設定する(ステップS401)。
【0059】
続いて制御部210は、サブプロファイルSP(j)に含まれる波形における極大値SPmax(j)を算出する(ステップS402)。
【0060】
続いて制御部210はインクリメント変数jにj+1を代入し(ステップS403)、インクリメント変数j+1がサブプロファイルSP(j)の全数であるMより大きいか否かを判定する(ステップS404)。その結果、インクリメント変数j+1がM以下である場合には(ステップS404:NO)、制御部210は処理をステップS402に戻し、上述のステップを繰り返す。一方、インクリメント変数j+1がMより大きい場合には(ステップS404:YES)、制御部210は処理をステップS405に進める。
【0061】
続いて制御部210は、上記で算出した計M個の極大値SPmax(j)を参照して、その中から最大値SPmax1と最小値SPmax2とを特定する(ステップS405)。そして、次式により最大値SPmax1と最小値SPmax2との差異を算出し、積層鉄心の積みズレΔを算出する(ステップS406)。
Δ=SPmax1―SPmax2 (1)
<補正処理>
【0062】
ここで、仮に測定対象である積層鉄心1自体が傾いている場合、これに起因して上述のように算出した積みズレに測定誤差が増大してしまうことが考えられる。そこで補正処理において補正を施すことによってこのような測定誤差を効果的に排除し、積みズレの測定精度を改善することができる。
【0063】
ここで、図10を参照して補正処理の処理プロセスについて具体的に説明する。図10は、本実施例に係る補正処理のフローチャート図である。
【0064】
まず制御部210は、ステップS402において算出したM個の極大値SPmax(j)を読み込む(ステップS501)。そして、制御部210は、当該読み込んだM個の極大値SPmax(j)から最小二乗法を用いて回帰直線を算出する(ステップS502)。
【0065】
続いて、制御部210はステップS502において算出した回帰直線の傾きを特定し、当該傾きがゼロになるようにプロファイルP全体を補正する(ステップS503)。具体的に言えば、回帰直線の傾きがゼロになるような補正量を算出し、当該補正量を、プロファイルPを構成するデータ点P(i)の各々に適用することによって補正を行う。
尚、後述する変形例の場合のように、積層面に沿った複数のライン上の積みズレを算出することにより平面的に積みズレを算出する場合には、回帰直線ではなく回帰平面を算出し、当該回帰平面の傾きがゼロになるようにプロファイルPを補正するとよい。
【0066】
その後、制御部210は補正されたデータ点P(i)に基づいて、上述のプロファイル分割処理及び積みズレ算出処理を再実行する(ステップS504及びS505)。
【0067】
ここで図11はステップS502及びS503においてプロファイルPに対して行われる処理を模式的に示す概念図である。ステップS502では、図11(a)に示すように、プロファイルPに基づいて、最小二乗法を用いて回帰直線が算出される。回帰直線は一定の傾きを有している。一方、ステップS503では、図11(a)に示す回帰直線の傾きがゼロになるように(即ち横軸に平行になるように)変更し、当該変更に伴いプロファイルを補正する。その結果、図11(a)に示す補正前の積みズレΔに比べて、図11(b)に示すように補正後の積みズレΔの大きさを小さくすることができる。このように、補正を施すことにより、誤差を効果的に排除し、高精度に積みズレΔを算出することができる。
【0068】
尚、本実施例では回帰直線の傾きに基づいてプロファイルPを構成するデータ点P(i)の各々に補正を行っているが、積みズレΔの算出に直接的に用いられる極大値SPmax(j)に適用し、ステップS504及びステップS505において積みズレ算出処理のみを再実行してもよい。
<変形例>
【0069】
本発明に係る積層鉄心の積みズレ測定方法及び測定装置は、上述のように積層面に沿った単一のライン上における積みズレを求めることができるだけでなく、以下に説明する変形例に例示するように、平面的に積みズレを算出することも可能である。即ち、変形例に係る積層鉄心の積みズレ測定方法及び測定装置では、積層面に対して複数のライン上についてプロファイルを取得することにより、平面的な積みズレを測定することができる。
【0070】
ここで、図12を参照して、本変形例に係る谷間判定処理の処理プロセスについて具体的に説明する。図12は、変形例に係る谷間判定処理のフローチャート図である。尚、図12では上述の実施例と共通のステップについては共通する符号を付すこととし、その説明を適宜省略することとする。
【0071】
まず制御部210は、ユーザによって入力装置400から入力された走査ライン数a4を読み込む(ステップS601)。ここで、走査ライン数a4は、平面的に積みズレを測定するために必要な2以上の走査ライン数である。尚、実際に走査プローブ340で、積層面のどのラインを走査するかはユーザ側が個別に指定してもよい。
【0072】
続いて制御部210は走査ライン数に対応するインクリメント変数kを「1」、即ち初期状態に設定し、最初の走査ラインに沿ってプロファイルPを取得する(尚、単一の走査ライン上におけるプロファイルPの取得方法については、上記実施例に示した通りである)。当該走査ライン上におけるプロファイルPの取得が完了した後、制御部210はインクリメント変数にk+1を代入し(ステップS602)、インクリメント変数k+1が全走査ライン数a4より大きいか否かを判定する(ステップS603)。その結果、インクリメント数k+1がa4以下である場合には(ステップS603:NO)、制御部210は処理をステップS101に戻し、上述の工程を繰り返すことにより、次の走査ライン上におけるプロファイルPの取得を行う。一方、インクリメント数k+1がa4より大きい場合には(ステップS603:YES)、制御部210はa4本の全走査ラインに対してプロファイルPの取得が関慮したとして、処理を終了する。
【0073】
このようにしてa4本の走査ラインについて取得されたプロファイルPに基づいて、上述のプロファイル分割処理、積みズレ算出処理及び補正処理を実行することにより、平面的な積みズレを測定することができる。
【0074】
尚、上述の変形例では、計a4本の走査ラインについて取得したデータを一つのプロファイルとして、プロファイル分割処理、積みズレ算出処理及び補正処理を実行することにより平面的な積みズレを測定可能としているが、計a4本の走査ラインについて取得したデータを別々のプロファイル(即ち、a4本の走査ラインに対応するa4個のプロファイル)として、それぞれについて個別にプロファイル分割処理、積みズレ算出処理及び補正処理を実行することにより平面的な積みズレを測定してもよい。
【0075】
以上説明したように、本実施例に係る積層鉄心の積みズレ測定方法及び装置によれば、積層鉄心の積層面に関するプロファイルを積層された複数の鉄心の各々に対応するサブプロファイルに分割し、サブプロファイル毎に、鉄心の表面における凹凸形状に対応する波形から極大値を算出することにより、積みズレの算出に必要な情報、即ち、積層された複数の鉄心の各々の頂点位置を抽出することができる。これにより、プロファイルに含まれる不要な情報、例えば積層された鉄心間に存在する凹状の隙間等に関する情報を的確に判別しつつ、積みズレを人的作業に頼らずに、容易に算出することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、例えば、積層鉄心の積層面における積みズレを評価可能な積層鉄心の積みズレ測定方法及び測定装置として利用可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 積層鉄心、 1a 鉄心、 20 走査プローブ、 100 測定装置、 200本体部、 210 制御部、 220 記憶部、 300 測定部、 400 入力装置、 500 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状の鉄心が積層されてなる積層鉄心の積みズレを測定する方法であって、
前記鉄心の積層方向に沿って、前記積層鉄心の積層面のプロファイルを取得するプロファイル取得工程と、
前記取得されたプロファイルのうち傾きの絶対値が所定の閾値を超える第1領域を、隣り合う前記鉄心の間の谷間であると特定する谷間特定工程と、
前記プロファイルを、前記第1領域を境界として前記鉄心の各々に対応するサブプロファイルに分割するプロファイル分割工程と、
前記サブプロファイルの波形の極大値を、前記サブプロファイル毎に算出する極大値算出工程と、
前記サブプロファイル毎に算出された前記極大値のうち、最大のものと最小のものとの差異を積みズレとして算出する積みズレ算出工程と
を備えることを特徴とする積層鉄心の積みズレ測定方法。
【請求項2】
前記サブプロファイル毎に算出された前記極大値に基づいて回帰直線を算出する回帰直線算出工程と、
前記算出された回帰直線の傾きがゼロになるように、前記プロファイルを補正する補正工程と、
前記補正されたプロファイルに基づいて、前記プロファイル分割工程、前記極大値算出工程及び前記積みズレ算出工程を再実行する積みズレ再算出工程と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の積層鉄心の積みズレ測定方法。
【請求項3】
前記谷間特定工程は、前記取得したプロファイルのうち傾きの絶対値が前記所定の閾値以下である第2領域を、前記鉄心の頂点であると特定し、
前記プロファイルのうち前記第2領域を含む所定の範囲内において、前記第1領域が所定の割合より多く占める場合に、当該第2領域を谷間であると特定するノイズ除去工程を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層鉄心の積みズレ測定方法。
【請求項4】
前記プロファイル取得工程は、複数の前記積層方向に沿って前記プロファイルを取得することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の積層鉄心の積みズレ測定方法。
【請求項5】
複数の板状の鉄心が積層されてなる積層鉄心の積みズレを測定するための装置であって、
前記鉄心の積層方向に沿って、前記積層鉄心の積層面のプロファイルを取得するプロファイル取得手段と、
前記取得されたプロファイルのうち傾きの絶対値が所定の閾値を超える第1領域を、隣接する前記鉄心の間の谷間であると特定する谷間特定手段と、
前記プロファイルを、前記第1領域を境界として前記鉄心の各々に対応するサブプロファイルに分割するプロファイル分割手段と、
前記サブプロファイルの波形の極大値を、前記サブプロファイル毎に算出する極大値算出手段と、
前記サブプロファイル毎に算出された前記極大値のうち、最大のものと最小のものとの差異を積みズレとして算出する積みズレ算出手段と
を備えることを特徴とする積層鉄心の積みズレ測定装置。
【請求項6】
コンピュータシステムを請求項5に記載の積層鉄心の積みズレ測定装置として機能させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−247802(P2011−247802A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−122665(P2010−122665)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000170853)黒田精工株式会社 (81)
【Fターム(参考)】