説明

空気ばね装置

【課題】上下方向および水平方向に軟らかいばね特性を実現しつつ、上下方向の大きな荷重の作用下で、水平方向に所望の剛性を発揮して、耐久性能を向上させることができる空気ばね装置を提案する。
【解決手段】上面板1および下面板2の相互を、筒状可撓膜体3で気密に連結するとともに、内部に気体を封入した空気ばね4と、空気ばね4の前記上面板1もしくは下面板2から所要の間隔をおいて配置した支持プレート5と、前記上面板1もしくは下面板2および、支持プレート5の相互を連結する弾性体6とを具え、弾性体6の、支持プレート5への隣接面の中央域に、前記上面板1もしくは下面板2に向けて窪ませた凹部7を形成してなる空気ばね装置であって、前記弾性体6の、支持プレート5側の部分を、支持プレート5に設けた環状体8で取り囲んで拘束するとともに、前記上面板1もしくは下面板2に、前記環状体8の内側に迫出す突起部9を設けてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上面板および下面板の相互を、筒状可撓膜体で気密に連結するとともに、内部に気体を封入した空気ばねと、支持プレートとを弾性部材で連結してなる空気ばね装置、なかでも鉄道車両に用いて好適な空気ばね装置に関するものであり、とくに、空気ばねの、パンク等によるデフレートの際にあっても、上下方向に軟らかいばね特性を発揮して車両への高い乗り心地を確保しつつ、水平方向の大きな入力の作用に起因する耐久性能の低下を防止する技術を提案するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば鉄道車両で、車両と台車との間に介装されて使用に供される空気ばね装置のうち、主に欧州向けとして使用されるものでは、とくに高速鉄道においては、車両基地間が比較的離れているため、空気ばねがデフレートした際にも、ある程度の距離を車両が通常に近い速度で走行しなければならず、それ故に、このようなデフレートが生じた場合であっても、車両への高い乗り心地性を確保する等の観点から、上下方向に十分軟らかいばね特性を発揮し得る空気ばね装置が希求されている。
【0003】
従来、この種の空気ばね装置としては、特許文献1に記載されているような、「外筒と、内筒と、これら両者に亘って配備されるダイヤフラムと、円錐面又は角錐面状の外周面を有する支持部材と、この支持部材の前記外周面と前記内筒とに亘って配備される環状の弾性体とを有して成る空気バネであって、弾性部材を有する緩衝体を前記内筒と前記支持部材との間に配備して、前記内筒と前記支持部材との相対接近移動による前記弾性部材の弾性変形が、前記弾性体が所定量弾性変形してから開始される状態に構成されている空気バネ」が知られており、この「空気バネ」によれば、「支持部材の外周面と内筒とに亘って配備される環状の弾性体を、通常の正常動作時における柔らかいバネ特性を持つものとしながらも、大荷重時には全体として硬いバネ特性が発揮できて腰のあるものとなるよう、非線形特性が備わったものに改善することができた。」とする。
【0004】
しかるに、特許文献1に記載されたような「空気バネ」では、図5に示すように、前記「環状の弾性体100」を、互いに大きさの異なる錐台形状の、「環状ゴム材100A〜100C」と「環状金属部材100a、100b」とが交互に積層されて成る「積層ゴム」としていることから、上下方向の荷重の作用に対し、「環状の弾性体100」の剪断変形をもって軟らかく弾性支持することができるが、「環状のゴム材100A〜100C」の相互間に、弾性変形しない「金属部材100a、100b」を介装しているため、とくに、「ダイヤフラム101」がパンクした場合等の、「環状の弾性体100」の水平方向のばね特性を十分に軟らかくすることができず、このことによって追従性が悪化するので、脱線のおそれを取り除くためには、スライドシート等による摺動と一定変位でのストッパーに頼らざるを得ないという問題があった。
【0005】
そこで、上下方向および水平方向ともに、軟らかいばね特性を発揮させるべく、空気ばねの上面板もしくは下面板と支持プレートとを、金属材料などの剛性材料を含まない、弾性材料のみからなる弾性体で連結した空気ばね装置が提案されており、この空気ばね装置において、さらに、上下方向のばね定数を低減するために、前記弾性体の、支持プレートへの隣接面の中央域に、上面板もしくは下面板に向けて窪ませた凹部を形成することが案出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−329280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載されたような「空気バネ」および、上述したような、空気ばねの上面板もしくは下面板と支持プレートとを、弾性材料のみからなる弾性体で連結した空気ばね装置では、上下方向の剛性が低いことから、満車時などの重い積載条件下、つまり、上下方向の大きな荷重の作用下での、弾性体の圧縮変形姿勢で、空気ばね装置に水平方向の入力が作用した場合に、下面板もしくは上面板が水平方向に対して傾く姿勢となり易く、このことが、上面板と下面板、もしくは支持部材との接触を引き起こしたり、弾性体、ひいては、空気ばね装置の耐久性能の低下を招くという問題があった。
【0008】
この発明は、従来技術が抱えるこのような問題を解決することを課題とするものであり、それの目的とするところは、空気ばねと支持プレートとの間に介装されて、これらの相互を連結する弾性部材を、弾性材料のみからなる弾性体で構成した空気ばね装置において、上下方向および水平方向に軟らかいばね特性を実現しつつ、上下方向の大きな荷重の作用時には、水平方向に所望の剛性を発揮して、耐久性能を向上させることができる空気ばね装置を提案するにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の空気ばね装置は、上面板および下面板の相互を、筒状可撓膜体で気密に連結するとともに、内部に気体を封入した空気ばねと、空気ばねの前記上面板もしくは下面板から所要の間隔をおいて配置した支持プレートと、前記上面板もしくは下面板および、支持プレートの相互を連結する、弾性材料のみからなる弾性体とを具え、弾性体の、支持プレートへの隣接面の中央域に、前記上面板もしくは下面板に向けて窪ませた凹部を形成してなるものであって、前記弾性体の、支持プレート側の部分を、支持プレートに設けた環状体で取り囲んで拘束するとともに、前記上面板もしくは下面板に、前記環状体の内側に迫出す突起部を設けてなるものである。
なおここで、前記環状体は、支持プレートと一体形成したものすることができる他、支持プレートに取り付けられた、支持プレートとは別個の部材とすることもできる。
【0010】
ここで好ましくは、支持プレートに、弾性体の前記凹部内へ入り込む隆起部を設ける。
【0011】
また好ましくは、上面板もしくは下面板の前記突起部の内部を、空気ばねに連通する気体室とする。
【発明の効果】
【0012】
この発明の空気ばね装置によれば、空気ばねと支持プレートとの相互を、剛性材料を含まない、弾性材料だけから構成した弾性体で連結するとともに、この弾性体の、支持プレートへの隣接面の中央域に、前記上面板もしくは下面板に向けて窪ませた凹部を形成したことにより、空気ばね装置への上下方向および水平方向の入力に対し、弾性材料のみからなる弾性体の全体が、剛性板を介在させて積層する場合に比して大きく弾性変形するとともに、とくに上下方向の入力に対しては、前記凹部が、弾性体の一部分の逃げ代として機能することになるので、弾性体それ自身の、上下方向および水平方向のばね定数が、従来の、剛性部材と弾性部材とを積層させたものに比して大きく低減され、また、空気ばねがデフレートした場合であっても、空気ばね装置が上下方向に軟らかいばね特性を発揮して、車両への優れた乗り心地性を確保することができる。
【0013】
そしてここでは、支持プレートに、前記弾性体の、支部プレート側の部分を取り囲んで拘束する環状体を設けるとともに、上面板もしくは下面板に、前記環状体の内側に迫出す突起部を設けたことにより、上下方向の大きな荷重の作用の下で、上面板もしくは下面板の前記突起部が、支持プレートの環状体の内側へ入り込もうとする姿勢となるため、このような姿勢での、空気ばね装置への水平方向の入力に対しては、前記突起部と環状体の間に挟まれる弾性体部分の主として圧縮変形をもって、高い剛性を発揮して弾性支持することになる。
そして、とくに、支持荷重が重い満車時の積載条件の際に、その支持荷重の増大に伴って、内圧および水平方向剛性が上昇する筒状可撓膜体が、突起部を環状体の内側へさらに入り込ませるべく機能するので、上下方向の支持荷重が増大するに従い、空気ばね装置の水平方向のばね特性を硬くさせることでき、この結果として、先述したような、下面板もしくは上面板が水平方向に対して傾く姿勢の変形が防止されて、かかる変形に起因する耐久性能の低下を有効に防止することができる。
【0014】
ここにおいて、支持プレートに、弾性体の前記凹部内へ入り込む隆起部を設けたときは、装置への大きな水平方向入力の作用によって、弾性体が水平方向に大きく変形する場合に、前記隆起部が、弾性体の凹部の内面に当接して、支持プレートと空気ばねとの水平方向の変位量を規制するべく機能するので、このような隆起部の寸法形状を適宜選択することで、上述したような、弾性体の窪みによる上下方向の軟らかいばね特性を発揮してなお、空気ばね装置の水平方向のばね特性を、所要に応じてさらに硬くすることが可能となる。
【0015】
なおここで、上面板もしくは下面板の前記突起部の内部を、空気ばねに連通する気体室としたときは、空気ばねの内部容積が大きくなって、上下方向の入力による空気ばねの内圧上昇を緩和する効果が得られ、空気ばねが、パンク等しておらず有効に機能する状態での、空気ばね装置の上下方向のばね特性を軟らかくすることができ、これがため、車両への乗り心地がより一層向上されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の空気ばね装置の一の実施形態を、一部を破断して示す斜視図である。
【図2】図1の空気ばね装置を示す、図1のII−II線に沿う縦断面図である。
【図3】図2の要部拡大断面図である。
【図4】他の実施形態を示す、図2と同様の図である。
【図5】従来の空気ばね装置を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照しつつ、この発明の実施形態について説明する。
図1に示す空気ばね装置は、いずれも円盤状とすることができる上面板1および下面板2の相互を、たとえば内部に補強層(図示せず)を埋設してなる筒状可撓膜体3で気密に連結するとともに、内部に気体を封入した空気ばね4と、この空気ばね4の、ここでは下面板2から所要の間隔をおいて配置した支持プレート5と、その下面板2および支持プレート5の相互を連結する弾性体6とを具えてなるものである。
なお、図示は省略するが、空気ばねの上面板と支持プレートとを弾性体で連結して、図1に示す空気ばね装置を上下反転姿勢としたものとすることもできる。
【0018】
ここで、上面板1、下面板2および支持プレート5はそれぞれ、たとえば金属材料、プラスチック材料その他の剛性材料にて構成し、この一方で、弾性体6は、そのような剛性材料を含まずに、ゴム、エラストマー等の弾性材料のみから構成する。
弾性体6を弾性材料のみから構成することにより、従来の、剛性部材と弾性部材とを積層させた積層構造体を具える空気ばね装置のように、剛性部材の相互間で弾性部材の弾性変形が拘束されることがなく、また、剛性部材が存在しない分だけ、弾性体6それ自身の変形量が大きくなるので、弾性体6、ひいては、空気ばね装置の上下方向のばね定数を効果的に低減させることができる。
【0019】
そしてここでは、上下方向のばね定数のさらなる低減のため、弾性体6の、支持プレート5への隣接面の中央域に、下面板2に向けて窪ませた凹部7を形成する。
かかる凹部7により、上下方向の荷重が入力した際に、弾性体6の一部分が凹部7内へ逃げ変形することができるので、この発明の空気ばね装置は、上述したように、弾性体6を弾性材料のみから構成したことと相俟って、空気ばね4のデフレート時にあっても、上下方向に十分軟らかいばね特性を発揮することができる。
なお、この凹部7は、弾性体6の一部分の逃げ代として機能するものであれば、図1に示すような、凹部底面を曲面としたものに限定されることはなく、たとえば半球形状等の様々な形状とすることができる。
【0020】
このように、上下方向のばね特性を軟らかくした空気ばね装置では、水平方向の剛性もまた必然的に低下することになって、とくに、上下方向の圧縮姿勢での、水平方向の入力の作用による弾性体6の大きな剪断変形に起因して、空気ばね装置に、下面板2が水平方向に対して傾く形態の変形が生じ易く、弾性体6の耐久性能が低下するおそれがあることから、この発明では、支持プレート5に、弾性体6の、支持プレート側の端部分(図では下方側の端部分)を取り囲む環状体8を設けるとともに、下面板2に、その環状体8の内側へ迫出す向きに突出する突起部9を設ける。
【0021】
この構成によれば、上下方向の荷重の作用した場合、下面板2の突起部9が、支持プレート5の環状体8の内側へ入り込む姿勢となって、突起部9の周りを取り囲む弾性体部分の変形が、支持プレート5に設けた環状体8により拘束されるので、空気ばね装置への水平方向の入力に対しては、前記弾性体部分が主として圧縮変形をもって、水平方向入力を弾性支持することになり、この結果として、上記の如く、空気ばね装置の上下方向のばね定数を小さくしてなお、上下方向の大きな荷重の作用下で、水平方向には硬いばね特性を発揮することになり、とくに、満車条件等の支持荷重が重い積載条件時に、空気ばね4の内圧が高くなることで、弾性体6が環状体8の内側へさらに入り込む姿勢となるため、筒状可撓膜体3の水平方向剛性上昇にあわせ弾性体6の水平剛性を上げることができる。これにより、弾性体6の耐久性の低下を有効に防止することができる。
【0022】
なお、図に示すところでは、環状体8を、支持プレート5と一体的に形成するものとしたが、別個の部材で形成した環状体8を、たとえばねじ等により支持プレートに事後的に取り付けることも可能である。
そしてこのことは、突起部9の、下面板2への形成についてもまた同様である。
【0023】
ここで、上述した突起部9や環状体8によって、実際の使用条件にて空気ばね装置への上下方向荷重の入力に合わせ、水平方向入力に対し効果的に硬いばね特性を発揮させるという観点から、空気バネセット前、ストッパーゴムに無負荷の状態での空気ばね装置の寸法、いわゆるフリー時の寸法で、図2に縦断面図で示すように、突起部9の、下面板2からの迫出し長さLaを、弾性体6の上下方向の高さHの20〜70%、とくに33%とし、また、この場合においては、環状体8の、支持プレート5からの突出長さLbを、弾性体6の高さHの15〜50%、なかでも26%とすることが好ましい。
またここで、図に示すような、円錐台状の弾性体6および、倒立円錐台状の突起部9を具えた空気ばね装置では、突起部9の最大径Raを、環状体8の内径Rの40〜80%とすることが、空気ばね装置の上下方向の軟らかいばね特性の実現に寄与する弾性体6の所要の体積を確保できる点で好ましい。
【0024】
ここにおいて、空気ばね装置に作用する水平方向の入力レベルに応じて、ばね硬さをさらに高める必要がある場合は、図1、2に示すように、支持プレート5に、弾性体6の凹部7に入り込む隆起部10を、一体的に、もしくは別個の部材として設けることができる。
このことによれば、隆起部10の寸法形状を適宜選択することにより、空気ばね装置に大きな水平方向の入力が作用した際に、隆起部10の、弾性体6の凹部7への当接下で、支持プレート5と空気ばね4との水平方向の相対変位量を規制することができる。
ここで、隆起部10は、空気ばね装置の使用状態や凹部の形状などに応じて、様々な寸法形状とすることができるが、ここでは、たとえば、図3に拡大図で示すように、空気ばね装置の上下方向で、隆起部10と凹部7の底面との離隔距離Ldを、隆起部の凹部7の深さDの65%とした。
なお、この離隔距離Ldは、空気ばね装置を、車両に装着して使用に供した際の、静的および動的な入力を考慮した上で、使用条件に応じて決定することが望ましい。
【0025】
ところで、図1に示す空気ばねでは、車両への乗り心地を一層向上させることを目的として、空気ばね4が有効に機能する状態での、空気ばね装置の上下方向のばね特性を軟らかくするため、下面板2に設けた突起部9の内部に気体室11を形成し、これを空気ばねに連通する通路12を設けたが、かかる気体室11および通路12は、この発明の必須の構成ではない。
【0026】
また、図1、2に示す空気ばね装置では、支持プレート5に、隆起部10を設けたが、この隆起部10もまたこの発明の必須の構成ではないので、支持プレート5に隆起部を設けない図4に示すような空気ばね装置とすることも可能である。
【符号の説明】
【0027】
1 上面板
2 下面板
3 筒状可撓膜体
4 空気ばね
5 支持プレート
6 弾性体
7 凹部
8 環状体
9 突起部
10 隆起部
11 気体室
12 通路
La 突起部の迫出し長さ
Lb 環状体の突出長さ
H 弾性体の高さ
Ra 突起部の最大径
R 環状体の内径
Ld 離隔距離
D 凹部の深さ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面板および下面板の相互を、筒状可撓膜体で気密に連結するとともに、内部に気体を封入した空気ばねと、空気ばねの前記上面板もしくは下面板から所要の間隔をおいて配置した支持プレートと、前記上面板もしくは下面板および、支持プレートの相互を連結する弾性体とを具え、
弾性体の、支持プレートへの隣接面の中央域に、前記上面板もしくは下面板に向けて窪ませた凹部を形成してなる空気ばね装置であって、
前記弾性体の、支持プレート側の部分を、支持プレートに設けた環状体で取り囲んで拘束するとともに、前記上面板もしくは下面板に、前記環状体の内側に迫出す突起部を設けてなる空気ばね装置。
【請求項2】
支持プレートに、弾性体の前記凹部内へ入り込む隆起部を設けてなる請求項1に記載の空気ばね装置。
【請求項3】
上面板もしくは下面板の前記突起部の内部を、空気ばねに連通する気体室としてなる請求項1もしくは2に記載の空気ばね装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−72825(P2012−72825A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217459(P2010−217459)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】