説明

空気入りタイヤの製造方法、及び空気入りタイヤ

【課題】軽量としながらも、耐カット性及び操縦安定性を向上させる。
【解決手段】中子工法において、第1の短冊プライ片をタイヤ周方向に順次貼り付けて第1のカーカスプライ部を形成する第1ステップと、第2の短冊プライ片をタイヤ周方向に順次貼り付けて第2のカーカスプライ部を形成する第2ステップとからなるカーカス形成工程を含む。少なくともタイヤ上半分領域においては、周方向で隣り合う第1の短冊プライ片間、及び前記第2の短冊プライ片間に、第1、第2の間隙部が形成される。第2の短冊プライ片は、第1の間隙部を跨りその周方向側縁部が前記第1の短冊プライ片の周方向側縁部と重なり部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量としながらも、耐カット性及び操縦安定性を向上させることができ、特にランフラットタイヤとした場合にはランフラット耐久性の向上にも貢献しうる空気入りタイヤの製造方法、及び空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、乗用車用等の空気入りタイヤでは、タイヤの骨格をなすカーカスは、周方向に一周巻きされる1枚又は2枚のシート状のカーカスプライによって形成されている。
【0003】
しかし前記1枚のカーカスプライからなる所謂モノプライ構造のタイヤの場合、軽量化に優れるものの耐カット性や操縦安定性に劣る傾向がある。逆に、2枚のカーカスプライからなる所謂2プライ構造のタイヤの場合、耐カット性や操縦安定性には優れるものの、カーカスの質量が大となって軽量化の妨げになるという問題がある。そこで従来より、前記モノプライ構造と2プライ構造との中間的性能のタイヤの出現が望まれている。
【0004】
このような状況に鑑み、本発明者は、仕上がりタイヤのタイヤ内腔に近い外形を有する剛性中子を用いて生タイヤを形成する所謂中子工法(特許文献1等参照。)に着目して研究した。
【0005】
この中子工法では、例えば、図9(A)に示すように、タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコードa1の配列体aがトッピングゴムによって被覆されかつタイヤ周方向のプライ巾を小とした短冊シート状の複数枚の短冊プライ片b用い、この短冊プライ片bを、同図(B)に示すように、剛性中子c上でタイヤ周方向に順次貼り付けることにより、トロイド状のカーカスdを形成している。このとき前記短冊プライ片bでは、タイヤ周方向で隣り合う短冊プライ片bの側縁b1、b1同士が、トレッド部Taにおいて接するように配置されている。
【0006】
そこで本発明者は、前記中子工法において、
(ア) 短冊プライ片bを用いて、半径方向内外の2枚のカーカスプライをそれぞれ形成すること;
(イ) 内外のカーカスプライにおいて、それぞれ周方向に隣り合う短冊プライ片b、b間に間隙部が形成されるように、各短冊プライ片bを周方向に隔置すること;及び
(ウ) 前記外のカーカスプライの短冊プライ片bが、内のカーカスプライの短冊プライ片b、b間の間隙部を跨るように配し、これにより外のカーカスプライの短冊プライ片bの周方向側縁部が、内のカーカスプライの短冊プライ片bの周方向側縁部と重なる重なり部を形成すること;
を提案した。
【0007】
この構造の場合、カーカスに、前記重なり部からなる2層部分と、重なり部間の1層部分とが、周方向に交互に形成されることとなり、前記モノプライ構造と2プライ構造との中間的性能を発揮させることができる。しかも各前記2層部分が半径方向内外にリブ状に延びるため、半径方向剛性、及び周方向のねじれ剛性を効果的に高めることがでる。又、前記1層部分と2層部分とが交互に現れるためサイドウォール外面が凹凸となり、カット傷が周方向に一気に広がることを防ぐことができる。即ち、2層部分の形成による質量増加を低く抑えながら、操縦安定性及び耐カット性をより高く向上させうることも判明した。
【0008】
又、ランフラットタイヤの場合、ビード部側(リムフランジ付近)の剛性が高いほどランフラット耐久性を向上させうるが、上記構造の場合、半径方向内側に行くほど重なり部の巾が大となるため剛性が高まる。従って、ランフラットタイヤとした場合には、ランフラット耐久性をより高く向上させうることも判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平11−254906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明は、モノプライ構造と2プライ構造との中間的性能を有し、かつ質量増加を低く抑えながら、操縦安定性及び耐カット性を向上させることができ、しかもランフラットタイヤとした場合にはランフラット耐久性もより高く向上させうる空気入りタイヤの製造方法、及び空気入りタイヤを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本願請求項1の発明は、トレッド部からサイドウォール部をへて両側のビード部に至るカーカスを具える空気入りタイヤの製造方法であって、
剛性中子の外表面に、未加硫のカーカスプライを含むタイヤ構成部材を順次貼り付けることにより生タイヤを形成する生タイヤ形成工程、
及び前記生タイヤを、前記剛性中子ごと加硫金型内に投入して加硫成形する加硫工程を具え、
かつ前記生タイヤ形成工程は、
タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコードの配列体がトッピングゴムによって被覆されかつタイヤ周方向のプライ巾W1を小とした短冊シート状の複数枚の第1の短冊プライ片を、タイヤ周方向に順次貼り付けることにより、半径方向内側の第1のカーカスプライ部を形成する第1ステップと、
タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコードの配列体がトッピングゴムによって被覆されかつ前記第1の短冊プライ片と等しいプライ巾W2を有する短冊シート状の複数枚の第2の短冊プライ片を、タイヤ周方向に順次貼り付けることにより、前記第1のカーカスプライ部の半径方向外側に第2のカーカスプライ部を形成する第2ステップとからなるカーカス形成工程を含むとともに、
タイヤにおいて、ビードベースラインからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの050%の距離を隔てた50%高さ位置よりも半径方向外側の領域をタイヤ上半分領域としたとき、少なくとも前記タイヤ上半分領域においては、周方向で隣り合う第1の短冊プライ片間、及び前記第2の短冊プライ片間に、それぞれ第1、第2の間隙部が形成され、
しかも各前記第2の短冊プライ片は、各前記第1の間隙部を跨りその周方向側縁部が前記第1の短冊プライ片の周方向側縁部と重なり部を形成することにより、前記カーカスプライには、少なくとも前記タイヤ上半分領域において、前記重なり部からなる2層部分と、重なり部間の1層部分とが交互に配されることを特徴としている。
【0012】
また請求項2では、前記第1の短冊プライ片のプライ巾W1は10〜50mmの範囲、しかもタイヤ赤道面上において、前記第1の間隙部のタイヤ周方向の巾S1は、前記プライ巾W1の0.2〜0.7倍であることを特徴としている。
【0013】
また請求項3では、前記第1の短冊プライ片と前記第2の短冊プライ片とは、カーカスコードの材質、又は太さの少なくとも一方が相違することを特徴としている。
【0014】
また請求項4は空気入りタイヤであって、請求項1〜3の何れかに記載の製造方法によって形成されたことを特徴としている。
【0015】
また請求項5は前記空気入りタイヤがランフラットタイヤであって、サイドウォール部に、前記カーカスの内面に隣接する内のサイド補強ゴム部と、カーカスの外面に隣接する外のサイド補強ゴム部とからなるサイド補強ゴム層が配されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明は叙上の如く構成しているため、少なくともタイヤ上半分領域を含む領域において、カーカスに、重なり部からなる2層部分と、重なり部間の1層部分とを交互に形成することができ、モノプライ構造と2プライ構造との中間的性能を発揮させることができる。しかも、各前記2層部分が半径方向内外にリブ状に延びるため、タイヤの半径方向剛性、及び周方向のねじれ剛性を効果的に高めることがでる。又、前記1層部分と2層部分とが交互に現れるためサイドウォール外面が凹凸となり、カット傷が周方向に一気に広がることを防ぐことができる。そのため、2層部分の形成による質量増加を低く抑えながら、操縦安定性及び耐カット性をより高く向上させうることが可能となる。
【0017】
又、ランフラットタイヤの場合、ビード部側(リムフランジ付近)の剛性が高いほどランフラット耐久性を向上させうるが、上記構造の場合、半径方向内側に行くほど重なり部の巾が大となるため剛性が高まる。従って、ランフラットタイヤとした場合には、ランフラット耐久性をより高く向上させうることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の製造方法によって形成された空気入りタイヤの一実施例を示す断面図である。
【図2】生タイヤ形成工程を示す断面図である。
【図3】加硫工程を示す断面図である。
【図4】第1、第2の短冊プライ片を示す斜視図である。
【図5】(A)、(B)はカーカス成形工程の第1ステップを説明する断面図及び側面図である。
【図6】(A)、(B)はカーカス成形工程の第2ステップを説明する断面図及び側面図である。
【図7】タイヤ赤道面上におけるカーカスプライの断面を直線状に展開して示す断面図である。
【図8】本発明の製造方法によって形成された空気入りタイヤがランフラットタイヤである場合の断面図である。
【図9】(A)、(B)は剛性中子を用いた従来の空気入りタイヤの製造方法を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の製造方法によって形成された空気入りタイヤ1の一例を示す断面図であって、前記空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへて両側のビード部4に至るカーカス6を少なくとも具える。本例では前記空気入りタイヤ1が乗用車用のラジアルタイヤであって、前記カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に、強靱なベルト層7が周方向に巻装される場合が示される。
【0020】
前記カーカス6は、有機繊維のカーカスコードをラジアル配列させたカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、前記ビード部4、4間を跨るトロイド状をなすとともに、その両端部は、各ビード部4に配されるビードコア5の廻りで折り返されることなく該ビードコア5内に挟まれて係止される。具体的には、前記ビードコア5は、タイヤ軸方向内外のコア片5i、5oからなり、この内外のコア片5i、5o間で、前記カーカスプライ6Aの両端部が狭持される。
【0021】
前記内外のコア片5i、5oは、非伸張性のビードワイヤ5aをタイヤ周方向に複数回巻き付けることにより形成される。このとき、外のコア片5oでは、内のコア片5iに比べてビードワイヤ5aの巻回数を例えば1.2〜2.0倍程度大とし、内のコア片5iよりも剛性を大とするのが好ましい。これにより、ビードワイヤ5aの総巻回数を規制しながらビード部4の曲げ剛性を相対的に高めることができ、操縦安定性などの向上に役立つ。なお図中の符号8は、ゴム硬度が例えば80〜100度の硬質のゴムからなるビードエーペックスであり、各コア片5i、5oから先細状に立ち上がり、ビード剛性を高める。本明細書においてゴム硬度は、JIS−K6253に基づきデュロメータータイプAにより、23℃の環境下で測定したデュロメータA硬さを意味する。
【0022】
又前記ベルト層7は、スチールコード等の高弾性のベルトコードをタイヤ周方向に対して例えば10〜35゜程度で配列した2枚以上、本例では2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。ベルト層7は、各ベルトコードがプライ間相互で交差することにより、ベルト剛性を高め、トレッド部2の略全巾をタガ効果を有して強固に補強している。本例では、このベルト層7の半径方向外側に、高速耐久性を高める目的で、例えばナイロンコード等のバンドコードを周方向に対して5度以下の角度で螺旋状に巻回させたバンド層9を設けている。このバンド層9としては、前記ベルト層7のタイヤ軸方向外端部のみを被覆する左右一対のエッジバンドプライ、及びベルト層7の略全巾を覆うフルバンドプライを、単独で或いは適宜組み合わせて使用できる。本例では、バンド層9が、1枚のフルバンドプライからなるものを例示している。
【0023】
又カーカス6の内側には、タイヤ内腔面をなす薄いインナーライナ10が配される。このインナーライナ10は、例えばブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等の非空気透過性のゴムからなり、タイヤ内腔内に充填される充填空気を気密に保持する。又前記カーカス6の外側には、サイドウォール部3の外面をなすサイドウォールゴム11が、又バンド層9の半径方向外側にはトレッド部2の外面をなすトレッドゴム12が配されている。
【0024】
次に、前記空気入りタイヤ1の製造方法を説明する。この製造方法では、図2に略示するように、剛性中子20の外表面に、未加硫のタイヤ構成部材を順次貼り付けることにより生タイヤ1Nを形成する生タイヤ形成工程K1と、図3に略示するように、前記生タイヤ1Nを、前記剛性中子20ごと加硫金型21内に投入して加硫成形する加硫工程K2とを含んで構成される。なお剛性中子20は、空気入りタイヤ1のタイヤ内腔形状と実質的に一致する外形形状を有する。
【0025】
前記生タイヤ形成工程K1は、剛性中子20にインナーライナ10形成用の部材を貼り付けるインナーライナ形成工程、カーカス6形成用の部材を貼り付けるカーカス成形工程、ビードコア5形成用の部材を貼り付けるビードコア形成工程、ビードエーペックス8形成用の部材を貼り付けるビードエーペックス形成工程、ベルト層7形成用の部材を貼り付けるベルト成形工程、バンド層9形成用の部材を貼り付けるバンド成形工程、サイドウォールゴム11形成用の部材を貼り付けるサイドウォール成形工程、トレッドゴム12形成用の部材を貼り付けるトレッド成形工程等を含んで構成される。
【0026】
このうち、前記生タイヤ形成工程K1における前記カーカス成形工程以外の工程、及び前記加硫工程K2には、剛性中子20を用いた周知の種々のものが適宜採用でき、従って本明細書では、カーカス成形工程のみを以下に説明する。
【0027】
前記カーカス成形工程では、図4に示すように、タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコード30の配列体31がトッピングゴム32によって被覆され、かつタイヤ周方向のプライ巾W1、W2を小とした短冊シート状の複数枚の第1、第2の短冊プライ片13、14が用いられる。前記第1、第2の短冊プライ片13、14では、そのプライ巾W1、W2が互いに等しく設定される。又本例では、前記第1、第2の短冊プライ片13、14が、同一の短冊プライ片からなる場合が示されるが、異なる短冊プライ片を用いることもでき、係る場合にはカーカスコード30の材質、又は太さの少なくとも一方を相違させることが好ましい。
【0028】
又前記カーカス成形工程は、第1ステップK1aと第2ステップK1bとから構成され、このうち前記第1ステップK1aでは、図5(A)に示すように、剛性中子20上で、前記第1の短冊プライ片13をタイヤ周方向に順次貼り付けることにより、半径方向内側の第1のカーカスプライ部6Aiを形成する。このとき、該第1ステップK1aでは、図5(B)に示すように、少なくともタイヤ上半分領域TUにおいて、周方向に隣り合う第1の短冊プライ片13、13間に第1の間隙部15が形成されるように、第1の短冊プライ片13をタイヤ周方向に隔置する。当然ではあるが、前記第1の間隙部15のタイヤ周方向の巾S1は、タイヤ赤道面Co上において最大をなし、かつ半径方向内側に行くに従い漸減する。そしてこの最大の巾S1は、前記プライ巾W1よりも小に設定される。
【0029】
又前記第2ステップK1bでは、図6(A)に示すように、第1のカーカスプライ部6Ai上で、前記第2の短冊プライ片14をタイヤ周方向に順次貼り付けることにより、該第1のカーカスプライ部6Aiの半径方向外側に、第2のカーカスプライ部6Aoを形成する。
【0030】
このとき図6(B)に示すように、少なくともタイヤ上半分領域TUにおいて、周方向に隣り合う第2の短冊プライ片14、14間に第2の間隙部16が形成されるように、第2の短冊プライ片14をタイヤ周方向に隔置する。しかも各前記第2の短冊プライ片14は、各前記第1の間隙部15を跨るように配される。これにより第2の短冊プライ片14の周方向側縁部14eが、前記第1の短冊プライ片13の周方向側縁部13eと半径方向内外で重なり合う重なり部Jが形成される。即ち、前記カーカスプライ6Aに、少なくとも前記タイヤ上半分領域TUにおいて、前記重なり部Jからなる2層部分17と、重なり部J、J間の1層部分18とが交互に形成されることとなる。
【0031】
図7には、タイヤ赤道面Co上におけるカーカスプライ6Aの断面が、直線状に展開して示される。この図7に示されるように、前記第2の間隙部16のタイヤ周方向の巾S2と、第1の間隙部15の前記巾S1とが等しい場合、同一円周線上においては、各2層部分17の周方向巾La、及び1層部分18の周方向巾Lbがそれぞれ一定となって均等に配置される。そのため、ユニフォーミティが確保される。
【0032】
又前記2層部分17が半径方向内外にリブ状に延びるため、タイヤの半径方向剛性、及び周方向のねじれ剛性が効果的に高まる。又、前記1層部分18と2層部分17とが交互に現れるためサイドウォール外面が凹凸となり、カット傷が周方向に一気に広がるのを防ぐことができる。そのため、2層部分17の形成による質量増加を低く抑えながら、操縦安定性及び耐カット性をより高く向上させることが可能となる。
【0033】
なお前記タイヤ上半分領域TUは、前記図1に示すように、タイヤ1において、ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの50%の距離を隔てた50%高さ位置P50よりも半径方向外側となる領域として定義される。このタイヤ上半分領域TUは、走行時に縁石などと接触してカット傷を受けやすい部位であり、しかも接地時に変形が大なバットレス部分を含むため、耐カット性、及び操縦安定性への影響が大きい領域範囲である。従って、このタイヤ上半分領域TUを含む領域範囲で、前記2層部分17と1層部分18とが交互に形成されることにより前記効果が奏される。
【0034】
ここで、前記第1の短冊プライ片13のプライ巾W1(=W2)は10〜50mmの範囲、しかもタイヤ赤道面Co上における前記第1の間隙部15のタイヤ周方向の巾S1は、前記プライ巾W1の0.2〜0.7倍の範囲が好ましい。前記プライ巾W1が10mmを下回ると、短冊プライ片13、14の枚数が過大となって貼付けに時間を要するなど生産性の低下を招く。逆に50mmを超えると、耐カット性及び操縦安定性を充分に向上させることが難しくなる。又前記タイヤ赤道面Co上における巾S1が、プライ巾W1の0.2倍を下回る場合、軽量化のメリットが少なくなり、逆に0.7倍を超える場合には、耐カット性及び操縦安定性を充分に向上させることが難しくなる。
【0035】
このような観点から、前記プライ巾W1の下限は20mm以上が好ましく、又上限は40mm以下が好ましい。又タイヤ赤道面Co上における巾S1の下限は、プライ巾W1の0.3倍以上が好ましく、また上限は0.6倍以下が好ましい。
【0036】
なお本例では、前記第1、第2の短冊プライ片13、14が、同一の短冊プライ片からなる場合が示されるが、異なる短冊プライ片を用いることもでき、係る場合にはカーカスコード30の材質、又は太さの少なくとも一方を相違させ、第1、第2の短冊プライ片13、14の物性を異ならせることが好ましい。これにより、タイヤの性能、例えば質量、耐カット性、操縦安定性、乗り心地などをより細かく調整することが可能となる。
【0037】
例えば、第1、第2の短冊プライ片13、14において、第2の短冊プライ片14のカーカスコード30に太いコードを使用する、及び/又は引張り弾性率の高い材質のコードを使用することにより、耐カット性を相対的に高めることができる。逆に、第1の短冊プライ片13のカーカスコード30に太いコードを使用する、及び/又は引張り弾性率の高い材質のコードを使用することにより、操縦安定性を相対的に高めることができる。
【0038】
なお前記カーカスコード30には、例えばPET(ポリエチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、レーヨン、ナイロン、アラミドなどの有機繊維コードが好適に採用しうる。
【0039】
図8に、空気入りタイヤ1がランフラットタイヤ1Rである場合の一実施例の断面図が示される。このランフラットタイヤ1Rは、サイドウォール部3の内部にサイド補強ゴム層23を具える。
【0040】
本例では、前記サイド補強ゴム層23は、前記カーカス6の内面に隣接される内のサイド補強ゴム部23Aと、カーカス6の外面に隣接される外のサイド補強ゴム部23Bとから形成される。
【0041】
前記内のサイド補強ゴム部23Aは、前記内のビードコア部5iから立ち上がる主部23A1を有し、この主部23A1は、本例では、最大厚さを有する中央部分から厚さを漸減しながら半径方向内外にのびる断面略三日月状をなす。前記主部23A1の半径方向外端部は、前記ベルト層7の外端よりもタイヤ軸方向内側で終端している。又前記主部23A1の半径方向内端部には、本例では、内のビードコア部5iを被覆する副部23A2が連設される。
【0042】
又前記外のサイド補強ゴム部23Bは、前記外のビードコア部5oから立ち上がる主部23B1を有し、この主部23B1は、本例では、最大厚さを有する中央部分から厚さを漸減しながら半径方向外側にのびる外側部分と、前記中央部分から厚さ略一定で又は厚さを漸減しながら半径方向内側にのびる内側部分とを具える。なお前記主部23B1の半径方向外端部は、本例では、ベルト層7の外端よりもタイヤ軸方向内側、かつ前記主部23A1の半径方向外端部よりタイヤ軸方向外側で終端している。又主部23B1の半径方向内端部には、本例では、外のビードコア部5oを被覆する副部23B2が連設される。
【0043】
このようなサイド補強ゴム層23は、内外のサイド補強ゴム部23A、23B間でカーカス6を挟み込んで前記カーカス6の動きを拘束するため、タイヤのサイド剛性をより効果的に高めることができる。そのため、ランフラット走行時の操縦安定性および耐久性の向上に大きく貢献しうる。又硬質なビードエーペックスゴム8がなく、サイド剛性の剛性分布が均一化するため、ランフラット走行時の局部的な変形を抑えることができ、ランフラット耐久性をさらに向上しうる。又本例では、前記副部23A2、23B2を有するため、ビードコア5とサイド補強ゴム層23とが一体化し、より広範囲に亘ってサイド剛性を高めうる。
【0044】
前記内外のサイド補強ゴム部23A、23Bのゴム硬度は、前述のビードエーペックスゴム8よりも小であって、ゴム硬度60〜85°のゴムが好適に使用しうる。又内外のサイド補強ゴム部23A、23Bの最大厚さは、タイヤサイズやカテゴリによっても異なるが、乗用車用タイヤの場合2〜10mmの範囲が好適である。本例では、内のサイド補強ゴム部23Aの最大厚さを、外のサイド補強ゴム部23Bの最大厚さよりも大に設定している。
【0045】
本例では、内のサイド補強ゴム部23Aと外のサイド補強ゴム部23Bとはゴム配合を同一としているが、ゴム配合を相違させても良い。前記内外のサイド補強ゴム部23A、23Bの一方、或いは双方に、ゴム中に短繊維を配合した短繊維配合ゴムを使用することもできる。短繊維としては、例えば、ナイロン、ポリエステル、芳香族ポリアミド、レーヨン、ビニロン、コットン、セルロース樹脂、結晶性ポリブタジエンなどの有機繊維の他、例えば金属繊維、ウイスカ、ボロン、ガラス繊維等の無機繊維を挙げることができ、これらは単独でも、又2種以上を組合わせて使用することもできる。
【0046】
又前記ランフラットタイヤ1Rの製造方法においては、カーカス成形工程における前記第1ステップK1aに先駆けて、剛性中子20上に内のサイド補強ゴム部23A形成用の部材を貼り付ける工程が行われるとともに、前記第2ステップK1b後、第2のカーカスプライ部6Aoの外側に外のサイド補強ゴム部23B 形成用の部材を貼り付ける工程が行われる。
【0047】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる
【実施例】
【0048】
(A)図1に示す構造をなす乗用車用タイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を、剛性中子を用いかつ表1の仕様に基づき試作するとともに、各タイヤのカーカスの質量、耐カット性、操縦安定性、乗り心地性、カーカス生産性をテストし、互いに比較した。
【0049】
なお比較例1では、第1の短冊プライ片を、第1の間隙部を実質的に形成することなくタイヤ周方向に配置し、第1のカーカスプライ部のみでカーカスを形成している。又比較例2では、第1の短冊プライ片を、第1の間隙部を実質的に形成することなくタイヤ周方向に配置して第1のカーカスプライ部を形成するとともに、第2の短冊プライ片を、第2の間隙部を実質的に形成することなくタイヤ周方向に配置して第2のカーカスプライ部を形成し、この第1、第2のカーカスプライ部によってカーカスを形成している。
【0050】
表1中の1層部の巾Lb、及び2層部の巾Laは、図1に示すように、タイヤ赤道面Co上、80%高さ位置P80(ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの80%の距離を隔てた位置)、50%高さ位置P50(ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの50%の距離を隔てた位置)、及び1%高さ位置P1(ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの1%の距離を隔てた位置)にて測定した値である。
【0051】
なお表1に示すカーカス構造以外は、各タイヤとも同仕様である。又表1中(*1)における−(マイナス)表示は、第1の短冊プライ片同士が、部分的に重なり合っていることを意味し、又その値は、重なり部分の周方向巾を示している。
【0052】
(1)カーカスの質量:
タイヤ1本におけるカーカスの質量を測定し、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど質量が大である。
【0053】
(2)耐カット性:
タイヤをリム(15×6JJ)、内圧(200kPa)の条件下で乗用車(排気量2000cc)の全輪に装着し、時速5km/Hから、スピードを1km/Hづつステップアップし、各スピードにおいてタイヤを縁石にぶつけ、サイドウォール部にカットが生じた時の速度を、比較例1を100とする指数で表示した。数値が大きいほど耐カット性に優れている。
【0054】
(3)操縦安定性、乗り心地性:
上記車両を用い、乾燥舗装道路のテストコースを実車走行し、操縦安定性及び乗り心地性をプロドライバーによる官能評価によって10点法で評価した。数値が大きいほど良好である。
【0055】
(4)カーカス生産性:
短冊プライ片を貼り付けてカーカスが形成されるまでの所要時間を、比較例1を100とする指数で表示した。数値が小さいほどカーカス生産性に優れている。
【0056】
【表1】


【0057】
表1の如く、実施例のタイヤは、モノプライ構造(比較例1)と2プライ構造(比較例2)との中間的性能を有し、しかも質量増加を低く抑えながら、操縦安定性及び耐カット性を高く向上させうることが確認できる。
【0058】
(B)図8に示す構造をなすランフラットタイヤ(タイヤサイズ245/40R18)を、剛性中子を用いかつ表2の仕様に基づき試作するとともに、各タイヤのカーカスの質量、ランフラット耐久性、操縦安定性、乗り心地性、カーカス生産性をテストし、互いに比較した。
【0059】
比較例1Rでは、第1の短冊プライ片を、第1の間隙部を実質的に形成することなくタイヤ周方向に配置し、第1のカーカスプライ部のみでカーカスを形成している。又比較例2Rでは、第1の短冊プライ片を、第1の間隙部を実質的に形成することなくタイヤ周方向に配置して第1のカーカスプライ部を形成するとともに、第2の短冊プライ片を、第2の間隙部を実質的に形成することなくタイヤ周方向に配置して第2のカーカスプライ部を形成し、この第1、第2のカーカスプライ部によってカーカスを形成している。
【0060】
表2中の1層部の巾Lb、及び2層部の巾Laは、図8に示すように、タイヤ赤道面Co上、73%高さ位置P73(ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの73%の距離を隔てた位置)、50%高さ位置P50(ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの50%の距離を隔てた位置)、及び1%高さ位置P(ビードベースラインBLからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの1%の距離を隔てた位置)にて測定した値である。
【0061】
なお表2に示すカーカス構造以外は、各タイヤとも同仕様である。内外のサイド補強ゴム部は、ゴム組成が同一であり、ゴム硬度は75°としている。又内外のサイド補強ゴム部の最大厚さは、それぞれ5.5mm、3.5mmとしている。又表2中(*1)における−(マイナス)表示は、第1の短冊プライ片同士が、部分的に重なり合っていることを意味し、又その値は、重なり部分の周方向巾を示している。
【0062】
(1)カーカスの質量:
タイヤ1本におけるカーカスの質量を測定し、比較例1Rを100とする指数で表示した。数値が大きいほど質量が大である。
【0063】
(2)ランフラット耐久性:
タイヤを、バルブコアを取り去ったリム(18×8.5J)に装着し、内圧零の状態でドラム試験機上を速度80km/hかつ縦荷重7.5kNで走行させ、タイヤに損傷が生じるまでの走行距離を測定した。結果は比較例1Rを100とする指数により表示されている。数値が大きいほど良好である。
【0064】
(3)操縦安定性、乗り心地性:
タイヤをリム(18×8.5J)、内圧(230kPa)の条件下で乗用車(排気量3000cc) の全輪に装着し、乾燥舗装道路のテストコースを実車走行し、操縦安定性及び乗り心地性をプロドライバーによる官能評価によって10点法で評価した。数値が大きいほど良好である。
【0065】
(4)カーカス生産性:
短冊プライ片を貼り付けてカーカスが形成されるまでの所要時間を、比較例1Rを100とする指数で表示した。数値が小さいほどカーカス生産性に優れている。
【0066】
【表2】


【0067】
表2の如く、実施例のタイヤは、モノプライ構造(比較例1R)と2プライ構造(比較例2R)との中間的性能を有し、しかも質量増加を低く抑えながら、操縦安定性及びランフラット耐久性を高く向上させうることが確認できる。
【符号の説明】
【0068】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
3 サイドウォール部
4 ビード部
6 カーカス
6Ai 第1のカーカスプライ
6Ao 第2のカーカスプライ部
13 第1の短冊プライ片
13e 周方向側縁部
14 第2の短冊プライ片
14e 周方向側縁部
15 第1の間隙部
16 第2の間隙部
17 2層部分
18 1層部分
20 剛性中子
21 加硫金型
23 サイド補強ゴム層
23A 内のサイド補強ゴム部
23B 外のサイド補強ゴム部
30 カーカスコード
31 配列体
32 トッピングゴム
BL ビードベースライン
J 重なり部
K1 生タイヤ形成工程
K1a 第1ステップ
K1b 第2ステップ
K2 加硫工程
50 50%高さ位置
TU タイヤ上半分領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部からサイドウォール部をへて両側のビード部に至るカーカスを具える空気入りタイヤの製造方法であって、
剛性中子の外表面に、未加硫のカーカスプライを含むタイヤ構成部材を順次貼り付けることにより生タイヤを形成する生タイヤ形成工程、
及び前記生タイヤを、前記剛性中子ごと加硫金型内に投入して加硫成形する加硫工程を具え、
かつ前記生タイヤ形成工程は、
タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコードの配列体がトッピングゴムによって被覆されかつタイヤ周方向のプライ巾W1を小とした短冊シート状の複数枚の第1の短冊プライ片を、タイヤ周方向に順次貼り付けることにより、半径方向内側の第1のカーカスプライ部を形成する第1ステップと、
タイヤ軸方向に引き揃えたカーカスコードの配列体がトッピングゴムによって被覆されかつ前記第1の短冊プライ片と等しいプライ巾W2を有する短冊シート状の複数枚の第2の短冊プライ片を、タイヤ周方向に順次貼り付けることにより、前記第1のカーカスプライ部の半径方向外側に第2のカーカスプライ部を形成する第2ステップとからなるカーカス形成工程を含むとともに、
タイヤにおいて、ビードベースラインからタイヤ半径方向外側にタイヤ断面高さHの050%の距離を隔てた50%高さ位置よりも半径方向外側の領域をタイヤ上半分領域としたとき、少なくとも前記タイヤ上半分領域においては、周方向で隣り合う第1の短冊プライ片間、及び前記第2の短冊プライ片間に、それぞれ第1、第2の間隙部が形成され、
しかも各前記第2の短冊プライ片は、各前記第1の間隙部を跨りその周方向側縁部が前記第1の短冊プライ片の周方向側縁部と重なり部を形成することにより、前記カーカスプライには、少なくとも前記タイヤ上半分領域において、前記重なり部からなる2層部分と、重なり部間の1層部分とが交互に配されることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記第1の短冊プライ片のプライ巾W1は10〜50mmの範囲、しかもタイヤ赤道面上において、前記第1の間隙部のタイヤ周方向の巾S1は、前記プライ巾W1の0.2〜0.7倍であることを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記第1の短冊プライ片と前記第2の短冊プライ片とは、カーカスコードの材質、又は太さの少なくとも一方が相違することを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の製造方法によって形成されたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記空気入りタイヤはランフラットタイヤであって、サイドウォール部に、前記カーカスの内面に隣接する内のサイド補強ゴム部と、カーカスの外面に隣接する外のサイド補強ゴム部とからなるサイド補強ゴム層が配されたことを特徴とする請求項4記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−75505(P2013−75505A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−34273(P2012−34273)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】