説明

空気入りタイヤの製造方法

【課題】 発泡ゴム層を有する空気入りタイヤの製造工程を改良することにより、不良の発生を低減して、製造品質を向上した空気入りタイヤの製造方法を提供する。
【解決手段】 複数のブロック列を含むトレッドパターンを有し、ブロック10が、タイヤ軸方向に対し傾きを持って、ショルダー部両側区域においては周方向隣接ブロック間で互いに略並行に、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有する空気入りタイヤであって、タイヤ半径方向外側からキャップゴム層とベースゴム層とを積層してなる二層構造を有し、かつ、ベースゴム層12のショアA硬度がキャップゴム層11のショアA硬度より大きいタイヤの製造方法である。成形工程にて、キャップゴム層11をアルミナ入り筒状独立気泡を含むゴム組成物により形成するとともに、キャップゴム層11の外表面に、アルミナ入り筒状独立気泡を含まない薄膜ゴム層30を設けた後、加硫工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤの製造方法(以下、単に「タイヤ」および「製造方法」とも称する)に関し、詳しくは、主として冬用タイヤとして用いられる空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粉塵公害の防止を目的とするスパイクタイヤの規制に伴って、氷雪路面上での駆動性能や制動性能、操縦性能等に優れたスタッドレスタイヤが、冬用タイヤとして広く普及してきている。スタッドレスタイヤについては、さらなる氷雪上性能の向上を目的としてトレッドパターンやトレッドゴム配合などの観点から種々検討がなされており、例えば、トレッド踏面部にタイヤ幅方向に延びる複数のサイプを有するブロックパターンを形成し、そのエッジ効果により氷雪路面上での駆動性能や制動性能を確保する技術がよく知られている(例えば、特許文献1等に記載)。
【0003】
また、トレッドゴムの改良に係る技術としては、トレッド部をラジアル方向外側に配置されたキャップゴムとラジアル方向内側に配置されたベースゴムとの二層からなるものとし、キャップゴムの路面と接する面に発泡ゴム層を設けた、いわゆる発泡タイヤが知られている(例えば、特許文献2に記載)。
【特許文献1】特開平9−136510号公報(特許請求の範囲、[0003])
【特許文献2】特開平11−181152号公報(特許請求の範囲、[0003]等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、かかる発泡タイヤの製造に際しては、発泡ゴムを適用したキャップゴム層が直接モールド内側表面に接していた。ところが、特に、キャップゴム層にアルミナ入り筒状独立気泡配合のゴム組成物を適用した空気入りタイヤの場合、従来の製造方法では、キャップゴム層が直接モールドの内側表面に接した状態で加硫が行われるために、エアーを吸い出すベントホール内面にキャップゴム層のゴム組成物が入り込んでしまい、アルミナ入り筒状独立気泡配合の影響によりスピュー切れや詰まりを起こして、連続生産時において製品タイヤのトレッド表面上にベアーが発生する不具合が生ずる場合があった。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記の問題を解消して、主として冬用タイヤとして用いられる、発泡ゴム層を有する空気入りタイヤの製造工程を改良することにより、製造不良の発生を低減して、製造品質を向上した空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、従来の発泡タイヤのキャップゴム層の外側を、少なくとも上記アルミナ入り筒状独立気泡を含まないゴム層にて被覆して製造を行うことで、従来のような不良を発生させることなく連続生産を行うことが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の空気入りタイヤの製造方法は、環状に形成されたトレッド部と、該トレッド部の両側に連なる一対のサイドウォール部およびビード部とを備え、前記トレッド部が、踏面部に複数のブロック列を含むトレッドパターンを有し、該ブロックが、タイヤ軸方向に対し傾きを持って、ショルダー部両側区域においては周方向隣接ブロック間で互いに略並行に、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有する空気入りタイヤであって、タイヤ半径方向外側からキャップゴム層とベースゴム層とを積層してなる二層構造を有し、かつ、該ベースゴム層のショアA硬度が該キャップゴム層のショアA硬度より大きい空気入りタイヤの製造方法において、
成形工程にて、前記キャップゴム層をアルミナ入り筒状独立気泡を含むゴム組成物により形成するとともに、該キャップゴム層の外表面に、該アルミナ入り筒状独立気泡を含まない薄膜ゴム層を設けた後、加硫工程を行うことを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、前記ベースゴム層を、前記キャップゴム層より低発泡率の発泡ゴムにより形成することが好ましい。また、前記薄膜ゴム層は、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物から前記アルミナ入り筒状独立気泡を除いたゴム組成物により形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、キャップゴム層の外表面に、アルミナ入り筒状独立気泡を含まないゴム層を設けたことで、キャップゴム層のアルミナ入り筒状独立気泡配合に起因するスピュー切れや詰まりの発生を防止することができ、これにより製品タイヤにおける不具合の発生を防止して、製造品質の向上を図ることが可能となった。従って本発明の製造方法によれば、冬用タイヤとして好適に使用可能な空気入りタイヤを、品質を確保しつつ、安定的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の空気入りタイヤは、環状に形成されたトレッド部と、その両側に連なる一対のサイドウォール部およびビード部とを有するものである。
【0011】
本発明のタイヤにおいては、トレッド部の踏面部に複数のブロック列を含むトレッドパターンが形成されており、ブロックには、タイヤ軸方向に対し傾きを持ってタイヤ幅方向に延びる複数本のサイプが形成されている。また、かかるサイプは、ショルダー部両側区域においては周方向隣接ブロック間で互いに略並行となるよう形成されている。本発明のタイヤにおいて、トレッド部の踏面部に形成するトレッドパターンは、上記ブロック列を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、センター部に周方向に連続する陸部を有するパターンも含まれる。
【0012】
図1に、ブロック10の幅方向拡大部分断面図を示す。図示するように、本発明のタイヤにおいては、トレッド部が、タイヤ半径方向外側からキャップゴム層11とベースゴム層12とを積層してなる二層構造を有している。本発明の製造方法においては、成形工程にて、キャップゴム層11をアルミナ入り筒状独立気泡21を含むゴム組成物により形成するとともに、かかるキャップゴム層11の外表面に、アルミナ入り筒状独立気泡を含まない薄膜ゴム層30を設け、その後、加硫工程を行う点が重要である。成形時に、トレッド部におけるキャップゴム層11の外側を、少なくともアルミナ入り筒状独立気泡配合を含まない薄膜のゴム層30にて被覆することにより、加硫時にはこの薄膜ゴム層30がモールド内側内面に接することになるため、従来のアルミナ入り筒状独立気泡配合に起因するスピュー切れや詰まりを改善することができ、製品タイヤのベアー等の不良を低減して、製造品質の向上を図ることが可能となった。
【0013】
かかる薄膜ゴム層30の厚さが薄すぎると製造品質の向上効果が不十分となる場合があり、一方、厚すぎると、本来の冬用タイヤとしての性能を損なうおそれがある。薄膜ゴム層30は、アルミナ入り筒状独立気泡を含まない配合にて形成すれば、本発明の所期の効果を得ることができるものであるが、具体的には例えば、キャップゴム層11を構成するゴム組成物からアルミナ入り筒状独立気泡を除いたゴム組成物により、好適に形成することができる。
【0014】
ここで、発泡ゴムからなる層は、固相ゴム部(無発泡ゴム部)と、固相ゴム部中に形成される空洞(独立気泡(キャップゴム層11についてはアルミナ入り空洞))、即ち、気泡部とから構成されている。路面と接地するタイヤ踏面部がこのような構造を取ることで、氷上走行中に発生する水を効率よく除水することができ、氷雪上性能を向上することが可能となる。発泡ゴムの発泡率Vsは、以下の式(1)、
s={(ρ0−ρg)/(ρ1−ρg)−1}×100(%)
(式中、ρ1は発泡ゴムの密度(g/cm3)、ρ0は発泡ゴム中の固相ゴム部の密度(g/cm3)、ρgは発泡ゴム中の気泡部内のガスの密度(g/cm3)を示す)に従い、発泡ゴムの密度、発泡ゴム中の固相ゴム部の密度および発泡ゴム中の気泡部内のガスの密度から求めることができる。なお、発泡ゴム中の気泡部内のガスの密度ρgは極めて小さく、ほぼゼロに近く、かつ、発泡ゴム中の固相ゴム部の密度ρ0に比して極めて小さいことから、上記式(1)は、下記の式(2)、
s={ρ0/ρ1−1}×100(%)
で近似することができる。
【0015】
本発明に係るキャップゴム層11の具体的な発泡率は、特に制限されるものではないが、例えば、5〜30%程度とすることができる。発泡率がこの範囲より小さいと氷上性能の改良効果が小さく、一方、この範囲を超えると耐摩耗性が悪化することになる。また、本発明においては、ベースゴム層12についても発泡ゴムにより形成することが好ましく、特には、キャップゴム層より低発泡率の発泡ゴムにより形成することが好適である。
【0016】
本発明に係るキャップゴム層11におけるアルミナ入り筒状独立気泡21とは、アルミナを核として形成される筒状の独立気泡部をいうものであり、直径が30〜60μm、好ましくは40〜60μm程度であって、アスペクト比(筒状独立気泡21の長さLと直径Dとの比L/D)が2.0以上、好ましくは5.0以上である。筒状独立気泡21の直径が30μm未満では氷上性能の改良効果が小さく、一方、60μmを超えると耐摩耗性が低下する。また、アスペクト比が2.0未満であると、独立気泡を筒状にしたことによる除水効果の向上があまり望めなくなり、いずれも好ましくない。
【0017】
また、かかる筒状独立気泡21は、タイヤ周方向に実質的に配向してなることが好ましい。筒状独立気泡21をタイヤ周方向に実質的に配向させることで、氷結路面走行時にタイヤ踏面部の水膜を排水する流路が形成され、これにより除水効果が高められ、通常の球状独立気泡を含む発泡ゴムを用いたトレッドに比し、氷上性能が大幅に向上することになる。かかる配向の程度を表す指標としては、トレッド部における、タイヤ周方向に対する延伸弾性率(a)とタイヤ幅方向に対する延伸弾性率(b)との比(a/b)を用いることができ、好ましくはこの比a/bが1.1以上となるよう筒状独立気泡21を配向させる。
【0018】
本発明に係る筒状独立気泡21は、所望の形状寸法のアルミナを、発泡ゴム中に所定量配合することで形成することができる。また、筒状独立気泡21のタイヤ周方向への配向は、トレッドゴムの押し出し時に引き起こされる。
【0019】
各ゴム層の発泡ゴムに用いる発泡剤としては、特に制限されるものではないが、例えば、二酸化炭素を発生する重炭酸アンモニウムや重炭酸ナトリウム、窒素を発生するニトロソスルホニルアゾ化合物、例えば、ジニトロソペンタメチレンテトラミン、N,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソフタルアミド、アゾジカルボンアミド、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ベンゼンスルホニルヒドラジド、トルエンスルホニルヒドラジド、p,p’−オキシ−ビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p−トリエンスルホニルセミカルバジド、p,p’−オキシ−ビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)等が挙げられ、加硫温度に応じてこれらを適宜選択して用いることができる。また、発泡助剤としては尿素等が挙げられる。
【0020】
また、発泡ゴムのマトリックスゴムのゴム成分としては、天然ゴム(NR)、ポリブタジエンゴム(BR)、これらとその他のゴムとのブレンド等を用いることができ、特に制限されるものではない。
【0021】
発泡ゴムには、上述の配合成分の他、カーボンブラック等の充填剤、老化防止剤、ワックス、加硫促進剤、加硫剤、シランカップリング剤、分散剤、ステアリン酸、亜鉛華、軟化剤、例えば、アロマ系オイル、ナフテン系オイル、パラフィン系オイル、エステル系可塑剤、液状ポリマー(液状ポリイソプレンゴム、液状ポリブタジエンゴムなど)等を適宜配合することができる。
【0022】
また、本発明においては、ベースゴム層12のショアA硬度が、キャップゴム層11のショアA硬度より大きいことが必要である。図1に示すように、ブロック10の内部に、踏面部をなすキャップゴム層11よりも硬いベースゴム層12を設けたことにより、走行中にブロックに大きな滑りや剪断力が作用しても、ブロックの倒れ込みを適切に抑制することが可能となる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
トレッド部がキャップゴム層11とベースゴム層12との二層からなり、その踏面部に、ブロックが、タイヤ軸方向に対し傾きを持って、ショルダー部両側区域においては周方向隣接ブロック間で互いに略並行に、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有する複数のブロック列を含むトレッドパターンを有する実施例(図1)および従来例(図2)の供試タイヤを、タイヤサイズ:205/65R15 94Q、リムサイズ:6.5J×15°にて作製した。キャップゴム層11およびベースゴム層12には、アルミナ入り筒状独立気泡を含む発泡ゴム配合、および、含まない発泡ゴム配合をそれぞれ用いた。ここで、実施例においては、成形工程において、キャップゴム層11をアルミナ入り筒状独立気泡を含むゴム組成物により形成するとともに、その外表面にアルミナ入り筒状独立気泡を含まない薄膜ゴム層30を設け、その後、加硫工程を行った。かかる薄膜ゴム層30は、キャップゴム層11のゴム組成物からアルミナ入り筒状独立気泡を除いたゴム組成物により、厚さ0.3mmにて形成した。なお、図2中、符号40はブロック、41はキャップゴム層、42はベースゴム層、51は筒状独立気泡を、それぞれ示す。
【0024】
実施例および従来例の供試タイヤを各250本試作した結果、成形工程においてキャップゴム層11の外表面に、アルミナ入り筒状独立気泡を含まない薄膜ゴム層30を設ける実施例の製造方法においては、スピュー切れや詰まりの発生がなく、この原因による製品タイヤの不良率は0%となった。一方、薄膜ゴム層30を設けずに加硫工程を行った従来例の製造方法においては、一定の割合で不良タイヤが発生しており、実施例の製造方法により、製造品質を向上することができることが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るブロックの一部を拡大して示す幅方向断面図である。
【図2】従来例に係るブロックの一部を拡大して示す幅方向断面図である。
【符号の説明】
【0026】
10 ブロック
11 キャップゴム層
12 ベースゴム層
21 アルミナ入り筒状独立気泡
30 薄膜ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成されたトレッド部と、該トレッド部の両側に連なる一対のサイドウォール部およびビード部とを備え、前記トレッド部が、踏面部に複数のブロック列を含むトレッドパターンを有し、該ブロックが、タイヤ軸方向に対し傾きを持って、ショルダー部両側区域においては周方向隣接ブロック間で互いに略並行に、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプを有する空気入りタイヤであって、タイヤ半径方向外側からキャップゴム層とベースゴム層とを積層してなる二層構造を有し、かつ、該ベースゴム層のショアA硬度が該キャップゴム層のショアA硬度より大きい空気入りタイヤの製造方法において、
成形工程にて、前記キャップゴム層をアルミナ入り筒状独立気泡を含むゴム組成物により形成するとともに、該キャップゴム層の外表面に、該アルミナ入り筒状独立気泡を含まない薄膜ゴム層を設けた後、加硫工程を行うことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項2】
前記ベースゴム層を、前記キャップゴム層より低発泡率の発泡ゴムにより形成する請求項1記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項3】
前記薄膜ゴム層を、前記キャップゴム層を構成するゴム組成物から前記アルミナ入り筒状独立気泡を除いたゴム組成物により形成する請求項1または2記載の空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−142486(P2006−142486A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−331344(P2004−331344)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】