説明

空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置およびその制御方法および測定装置

【課題】空気圧リニアガイドによる並列スライダ装置において、二つのスライダを機械的に連結した場合に、スライダの連結部分の機械的剛性とエアスライド機構のエア軸受剛性とが互いに影響を及ぼしあって平行度の再現性が低下することを排除し、高精度な平行度再現性を保証すること。
【解決手段】第1の空気圧リニアガイド48と第2の空気圧リニアガイド54とでエアギャップの大きさや供給空気圧を相違させることにより、スライダ支持剛性(エア軸受剛性)に差を生じさせ、エアギャップ変化による真直誤差の吸収が、エア軸受剛性が低い側において安定して行われるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置およびその制御方法および測定装置に関し、更に詳細には、互い平行に二本のガイドレールに各々スライダが空気圧リニアガイドによって移動可能に設けられた並列スライダ装置およびその制御方法およびその並列スライダ装置を用いられた測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直径300mmのシリコンウェーハ等、大口径で薄い円盤(被測定物)の表裏面の平坦度および厚さむらを測定する測定装置として、被測定物を所定の平面に沿って、例えば垂直面に沿って支持する支持体と、前記支持体の前面側と背面側の両側に各々前記平面に沿って互いに平行に配置された直線状の第1のガイドレールおよび第2のガイドレールと、前記第1および第2のガイドレールの各々にレール長手方向に個別に移動可能に設けられた第1のスライダおよび第2のスライダとを有し、前記第1のスライダに前記被測定物の前面(表面)までの距離を測定する第1の測定手段(変位計)が取り付けられ、前記第2のスライダに前記被測定物の背面(裏面)までの距離を測定する第2の測定手段(変位計)が取り付けられたものが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
測定手段を搭載している第1および第2のスライダの第1および第2のガイドレールに対する第1および第2のスライダのレール長手方向の移動を案内するリニアガイドは、高精度な直進性を保証するために、各々、静圧軸受構造による空気圧リニアガイドが用いられている。このようなスライダ機構はエアスライド機構と呼ばれている。
【0004】
上述の構成による測定装置では、被測定物を支持する支持体の前面側と背面側の両側に各々独立してエアスライド機構を配置する必要があるが、ガイドレールの高さ位置を、変位計がシリコンウェーハ等の被測定物の表裏面を走査する高さ位置に近い位置に設定するすることができ、ガイドレールが支持体の下方に配置されているような場合に比して、ガイドレールと変位計との高さ方向の離間距離を短くすることができる。
【0005】
このことにより、ガイドレールに対するスライダの移動軸線周りの変位に起因するローリング方向誤差が、ガイドレールと変位計との高さ方向の離間距離に比例して誤差が大きくなることが排除され、表裏面の独立した平坦度測定を高精度に行えるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特許庁公開特許(特開平11−351867号)公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この場合には、支持体の前面側と背面側の両側に独立してエアスライド機構を配置していることから、それぞれのスライダを互いに同期させて個別に駆動しなくてはならず、スライダの移動方向に送りむらによって変位計による被測定物の測定位置に表裏でずれを生じる虞がある。このことに起因して被測定物の厚さ測定に誤差を引き起すことが懸念される。また、独立に配置された並列2軸のエアスライド機構の平行度に誤差があっても、被測定物の厚さ測定に誤差を引き起することになる。
【0008】
このことに対して、送りむらによる測定位置のずれを排除し、かつ平行度を確保するために、2軸のスライダを互いに機械的に連結することが、本願出願人と同一の出願人によって考えられている。
【0009】
しかし、2軸独立に配置したエアスライド機構を構成するガイドレールは、わずかながら真直誤差やローリング方向誤差を有する。平行に配置された2本のガイドレール上を各々移動するスライダは、このガイドレールの真直誤差がごく僅かであっても、二つのスライダが移動方向の位置を互いに合わせて同期するように移動した場合、この移動方向と直交する方向に相対距離が僅かながら変化することになる。
【0010】
このような状況において、前述のように2軸のスライダを互いに機械的に連結した場合には、連結部分の機械的剛性が高いほど、上記の相対距離の誤差を解消しようとする一方で、スライドは、一定のエア軸受剛性にて全面拘束されているために、これら機械的結合部の剛性とエア軸受剛性とが相互に干渉し合うこととなり、結果として上記の相対距離を一定に保つ目的に対し、不安定な要素となってしまう。
【0011】
このため、二つのスライダを連結した場合には、この連結部分の機械的剛性とエアスライド機構のエア軸受剛性(空気圧リニアガイドによるスライダの支持剛性)とが互いに影響を及ぼしあってスライダ連結体移動の平行度(真直性)の再現性を低下させる懸念がある。
【0012】
この発明が解決しようとする課題は、上述のような空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置、つまり並列エアスライド機構において、二つのスライダを機械的に連結した場合に、スライダの連結部分の機械的剛性とエアスライド機構のエア軸受剛性(スライダ支持剛性)とが互いに影響を及ぼし合ってスライダ連結体移動の平行度の再現性(真直性)が低下することを排除し、高精度な平行度再現性を保証することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明による空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置は、互いに平行に配置された第1のガイドレールおよび第2のガイドレールと、前記第1および第2のガイドレールの各々にレール長手方向に移動可能に設けられ、且つ互い機械的に連結された第1のスライダおよび第2のスライダとを有し、前記第1のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第1のレール面を有し、前記第1のスライダは前記第1のレール面の各々に対向する第1のスライダ面を有し、各第1のレール面と各第1のスライダ面との間にエアギャップを有する第1の空気圧リニアガイドが構成され、前記第2のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第2のレール面を有し、前記第2のスライダは前記第2のレール面の各々に対向する第2のスライダ面を有し、各第2のレール面と各第2のスライダ面との間にエアギャップを有する第2の空気圧リニアガイドが構成され、第1の空気圧リニアガイドのスライダ支持剛性と第2の空気圧リニアガイドのスライダ支持剛性とが互いに相違している。
【0014】
空気圧リニアガイドのスライダ支持剛性は、エアギャップの大きさ、静圧用エアポケットの形状、空気噴出ポートの口径、スライダの受圧面積を変えることにより、第1の空気圧リニアガイドと第2の空気圧リニアガイドとで相違させることができる。
【0015】
この発明による空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置の制御方法は、互いに平行に配置された第1のガイドレールおよび第2のガイドレールと、前記第1および第2のガイドレールの各々にレール長手方向に移動可能に設けられ、且つ互い機械的に連結された第1のスライダおよび第2のスライダとを有し、前記第1のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第1のレール面を有し、前記第1のスライダは前記第1のレール面の各々に対向する第1のスライダ面を有し、各第1のレール面と各第1のスライダ面との間にエアギャップを有する第1の空気圧リニアガイドが構成され、前記第2のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第2のレール面を有し、前記第2のスライダは前記第2のレール面の各々に対向する第2のスライダ面を有し、各第2のレール面と各第2のスライダ面との間にエアギャップを有する第2の空気圧リニアガイドが構成された並列スライダ装置の制御方法であって、前記第1の空気圧リニアガイドに供給する空気圧と前記第2の空気圧リニアガイドに供給する空気圧を相違させる空気圧制御を行う。
【0016】
この発明による測定装置は、上述の発明による並列スライダ装置を有し、前記第1のガイドレールと前記第2のガイドレールとの間に、被測定物を支持する支持体が配置され、前記第1のスライダに前記被測定物の一方の面までの距離を測定する第1の測定手段が取り付けられ、前記第2のスライダに前記被測定物の他方の面までの距離を測定する第2の測定手段が取り付けられている。
【発明の効果】
【0017】
この発明による空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置によれば、第1のスライダと第2のスライダとは、互い機械的に連結された状態で、各ガイドレールの延在方向の直進性を第1の空気圧リニアガイドと第2の空気圧リニアガイドによって個別に担保される。その上で、第1の空気圧リニアガイドのスライダ支持剛性と第2の空気圧リニアガイドのスライダ支持剛性とが互いに相違していることにより、エアギャップ変化による真直誤差の吸収が、スライダ支持剛性、つまりエア軸受剛性が低い側において安定して行われるようになる。これにより、スライダの連結部分の機械的剛性とエア軸受剛性とが互いに影響を及ぼし合ってスライダ連結体移動の平行度の再現性(真直性)が低下することが排除され、高精度な平行度再現性が保証される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明による空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置を用いられたウェーハ平坦度測定装置の一つの実施形態を示す斜視図。
【図2】本実施形態によるウェーハ平坦度測定装置の正面図。
【図3】図2の線III−IIIに沿った断面図。
【図4】本実施形態による空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置の前後スライダ連結機構部分の斜視図。
【図5】本実施形態による空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置およびその制御方法の実施に用いられる空気圧制御の空気圧回路図。
【図6】他の実施形態による空気圧リニアガイド方式の並列スライダ装置を示す空気圧制御の空気圧回路図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る好適な実施の形態を添付図面を参照して説明する。なお、以下の添付図面を参照した説明において用いられる前後、上下、左右の方向は、各添付図面に表記された方向とする。
【0020】
図1、図2に示されているように、基台10の水平な上面には支持体12が配置されている。支持体12は、被測定物である円盤状のシリコンウェーハWを支持するものであり、基台10上に固定装着されたドーム形状の固定台14と、固定台14に回転可能に取り付けられた円環回転体16とを有する。
【0021】
円環回転体16は静圧式のエアベアリング(図示省略)によって前後方向に延在する水平な中心軸線周りに固定台14より回転可能に支持されている。円環回転体16の内周部には、先端にコロ18を有する複数個の支持アーム20が周方向に等間隔に設けられている。円環回転体16は、コロ18がシリコンウェーハWの外周溝(図示省略)に係合する状態で、支持アーム20によってシリコンウェーハWを円環状空間内に垂直面に沿って支持する。なお、このシリコンウェーハWの支持構造について、より詳細な説明が必要ならば、特許第4132503号公報を参照されたい。
【0022】
図には示されていないが、支持体12には、固定台14をステータ部材、円環回転体16をロータとするブラシレスDCモータが組み込まれている。このブラシレスDCモータは円環回転体16を回転駆動する。
【0023】
基台10の上面には左右のエンドブラケット30、32が取り付けられている。左右のエンドブラケット30、32は、支持体12の左右両側に配置され、上部に前側ガイドレール(第1のガイドレール)40と後側ガイドレール(第2のガイドレール)42の左右両端部を各々固定支持している。
【0024】
換言すると、前側ガイドレール40は、上下に迫り出し部(フランジ部)40A、40Bを有するI形横断面形状の直線レール(真直)であり(図3参照)、左右の端部を左右のエンドブラケット30、32の上部に固定連結され、左右のエンドブラケット30、32間に橋渡しされた状態で、支持体12の前面側を左右方向に水平に延在している。
【0025】
同様に、後側ガイドレール42は、上下に迫り出し部42A、42Bを有するI形横断面形状の直線レール(真直)であり、左右の端部を左右のエンドブラケット30、32の上部に固定連結され、左右のエンドブラケット30、32間に橋渡しされた状態で、支持体12の背面側を左右方向に水平に延在している。
【0026】
上述の前側ガイドレール40と後側ガイドレール42とは、同一高さ位置にあって互い平行に延在している。
【0027】
また、前側ガイドレール40と後側ガイドレール42は、左右両端の上部を補強連結板34、36によって互い連結されている。
【0028】
前側ガイドレール40には前側スライダ(第1のスライダ)44がレール長手方向である左右方向に移動可能に設けられている。前側スライダ44は、4枚の矩形板材44A〜44Dにより、前側ガイドレール40の外周を取り囲む四角筒体に構成されている。
【0029】
前側スライダ44の矩形板材44A〜44Dの上下前後の対向2対の各々の内面(第1のスライダ面)と、これに対向する前側ガイドレール40の上側の迫り出し部40Aの上面(第1のレール面)及び前後両面(第1のレール面)と下側の迫り出し部40Bの下底面(第1のレール面)及び前後両面(第1のレール面)との間には、各々、第1のエアギャップG1(図5参照)が設定され、前側スライダ44の矩形板材44A〜44Dには各々対向面に向けて開口した空気噴出ポート46が形成されている(図3参照)。空気噴出ポート46は、上下前後の各部において、ガイドレール延在方向、つまり、前側スライダ44の移動方向に複数個設けられている(図5参照)。
【0030】
空気噴出ポート46には、圧縮空気源100より第1のプレッシャレギュレータ102によって第1の圧力P1に調圧された圧縮空気が供給される(図5参照)。これにより、前側ガイドレール40と前側スライダ44との間に静圧軸受式の第1の空気圧リニアガイド48が構成される。前側ガイドレール40のレール長手方向に沿った前側スライダ44の直線移動は、第1の空気圧リニアガイド48によって前側ガイドレール40に対して非接触状態で案内される。
【0031】
同様に、後側ガイドレール42には後側スライダ(第2のスライダ)50がレール長手方向である左右方向に移動可能に設けられている。後側スライダ50は、4枚の矩形板材50A〜50Dにより、後側ガイドレール42の外周を取り囲む四角筒体に構成されている。
【0032】
後側スライダ50の矩形板材50A〜50Dの上下前後の対向2対の各々の内面(第2のスライダ面)と、これに対向する後側ガイドレール42の上側の迫り出し部42Aの上面(第2のレール面)及び前後両面(第2のレール面)と下側の迫り出し部42Bの下底面(第2のレール面)及び前後両面(第2のレール面)との間には、各々、第2のエアギャップG2(図5参照)が設定され、後側スライダ50の矩形板材50A〜50Dには各々対向面に向けて開口した空気噴出ポート52が形成されている(図3参照)。空気噴出ポート52は、上下前後の各部において、ガイドレール延在方向、つまり、後側スライダ50の移動方向に複数個設けられている(図5参照)。
【0033】
空気噴出ポート52には、圧縮空気源100より第2のプレッシャレギュレータ104によって第2の圧力P2に調圧された圧縮空気が供給される(図5参照)。これにより、後側ガイドレール42と後側スライダ50との間に静圧軸受式の第2の空気圧リニアガイド54が構成される。後側ガイドレール42のレール長手方向に沿った後側スライダ50の直線移動は、第2の空気圧リニアガイド54によって後側ガイドレール42に対して非接触状態で案内される。
【0034】
なお、図3、図5では、第1、第2の空気圧リニアガイド48、54のエアギャップは、実際より大きく誇張して図示されている。
【0035】
前側スライダ44と後側スライダ50の各々の下底部には連結用ベース部材56、58が固定装着されている。連結用ベース部材56、58の各々の左右両面には、連結丸棒60、62の前後両端部が締結ボルト64、66によって連結用ベース部材56、58に固定されたVブロック68、70によって固定されている(図4参照)。これにより、前側スライダ44と後側スライダ50とが互いに同一の左右方向位置(走査方向位置)および同一の前後方向位置に、機械的に剛固に連結される。
【0036】
この場合、前側スライダ44と後側スライダ50との機械的な連結は、専ら連結丸棒60、62の曲げ剛性により決まる所要の剛性をもって行われることになる。この機械的な連結は、Vブロック68、70によって連結丸棒60、62を保持して連結丸棒60、62を連結用ベース部材56、58の各々の左右両面(平面)に押し付けることにより行われているので、高い左右方向位置精度をもって行われることになる。
【0037】
基台10の前側ガイドレール40の前側位置には前側リニアサーボモータ72の固定子部材74がブラケット76によって固定装着されている。固定子部材74は、左右方向に長く、前側ガイドレール40と平行に延在している。前側スライダ44には前側リニアサーボモータ72の可動子部材78が取り付けられている。これにより、前側スライダ44は前側リニアサーボモータ72によって左右方向に駆動される。
【0038】
基台10の後側ガイドレール42の後側位置には後側リニアサーボモータ80の固定子部材82がブラケット84によって固定装着されている。固定子部材82は、左右方向に長く、後側ガイドレール42と平行に延在している。後側スライダ50には後側リニアサーボモータ80の可動子部材86が取り付けられている。これにより、後側スライダ50は後側リニアサーボモータ80によって左右方向に駆動される。
【0039】
このようにして、前側スライダ44と後側スライダ50は、個別の前側リニアサーボモータ72、後側リニアサーボモータ80により駆動される。図には示されていないが、前側ガイドレール40と前側スライダ44との間と、後側ガイドレール42と後側スライダ50との間には、各々、前側スライダ44、後側スライダ50の左右方向移動の実位置を検出するリニアスケールが設けられている。
【0040】
前側リニアサーボモータ72、後側リニアサーボモータ80による前側スライダ44、後側スライダ50の位置制御は、前述のリニアスケール(図示省略)より検出される前側スライダ44、後側スライダ50の実位置をフィードバック補償情報としてフルクローズ方式で、互いに独立したフィードバック制御系によって、同一位置指令のもとに前側スライダ44と後側スライダ50の左右方向移動位置(走査位置)が同じなるように同期して行われる。
【0041】
前側スライダ44上には前後方向に移動可能なテーブル88を備えた微動テーブル装置90が取り付けられている。テーブル88には変位計92が搭載されている。変位計92は、静電容量式変位計等、非接触式のものであり、円環回転体16に取り付けられた被測定物であるシリコンウェーハWの中心を通る高さに配置され、シリコンウェーハWの表面までの距離を測定する。
【0042】
同様に、後側スライダ50上には前後方向に移動可能なテーブル94を備えた微動テーブル装置96が取り付けられている。テーブル94には変位計98が搭載されている。変位計98も、静電容量式変位計等、非接触式のものであり、円環回転体16に取り付けられた被測定物であるシリコンウェーハWの中心を通る高さに配置され、シリコンウェーハWの裏面までの距離を測定する。
【0043】
シリコンウェーハWの平坦度測定は、円環回転体16によってシリコンウェーハWを回転させた状態で、前側スライダ44、後側スライダ50の左右方向移動によって変位計92、98を、シリコンウェーハWを直径方向に横切る方向に走査移動しながら変位計92、98によって変位計92、98の走査位置からシリコンウェーハWの表面、裏面までの距離を測定することにより行われる。
【0044】
上述したように、前側スライダ44と後側スライダ50とは、その各々において、各ガイドレール40、42を挟んだ前後両側と上下両側に各ガイドレール40、42を取り囲むように静圧軸受のエアギャップFG1、G2が構成されているので、前側スライダ44と後側スライダ50とは互い機械的に連結されているものの、各ガイドレール40、42の延在方向の直進性を第1の空気圧リニアガイド48と第2の空気圧リニアガイド54によって個別に担保される。ここで云うガイドレール40、42の延在方向の直進性とは、前側スライダ44、後側スライダ50のガイドレール40、42の延在方向の移動において、前側スライダ44、後側スライダ50の上下方向の振れと、前後方向の振れがないことを意味する。
【0045】
この上で、重要なことは、図5によく示されているように、第2の空気圧リニアガイド54の第2のエアギャップG2の大きさは、第1の空気圧リニアガイド48の第1のエアギャップG1より大きいことである。なお、本実施形態では、第1のプレッシャレギュレータ102の設定圧と第2のプレッシャレギュレータ104の設定圧とが同じで、第1の空気圧リニアガイド48の供給空気圧と第2の空気圧リニアガイド54の供給空気圧とが同一圧であってよい。
【0046】
このエアギャップの大きさの相違により、第1の空気圧リニアガイド48と第2の空気圧リニアガイド54とでスライダ支持剛性(エア軸受剛性)に差が生じ、第2のエアギャップG2が第1のエアギャップG1より大きい分、第2の空気圧リニアガイド54のスライダ支持剛性が第1の空気圧リニアガイド48のスライダ支持剛性より低くなる。
【0047】
互いに平行に配置された前後2本のガイドレール40、42上を各々移動する前側と後側のスライダ44、50は、ガイドレール40、42に真直誤差があると、移動方向と直交する方向(前後方向と上下方向)の相対距離が変動することになる。相対距離が変動すると、第2の空気圧リニアガイド54のスライダ支持剛性が第1の空気圧リニアガイド48のスライダ支持剛性より低いことにより、第1の空気圧リニアガイド48の第1のエアギャップG1は変化することなく、第2の空気圧リニアガイド54の第2のエアギャップG2が変化し、前側と後側のスライダ44、50の直進性が個々に担保されていても、エアギャップ変化による真直誤差の吸収が、スライダ支持剛性が低い側において安定して行われるようになる。
【0048】
これにより、前側スライダ44と後側スライダ50の相対距離変動が生じることが回避され、両スライダ44、50の相互連結部分の機械的剛性とスライダ支持剛性とが互いに影響を及ぼし合って両スライダ44、50の移動の平行度の再現性が低下することが排除され、高精度な平行度再現性が保証される。
【0049】
この結果、機械的結合されている前側スライダ44と後側スライダ50との相対距離の安定度が向上し、シリコンウェーハWの平坦度測定、厚さ測定が、ガイドレール40、42の真直誤差成分を含むことなく、高精度に行われるようになる。
【0050】
他の実施形態として、第1の空気圧リニアガイド48と第2の空気圧リニアガイド54とで供給空気圧が相違していてもよい。この実施形態では、第1のプレッシャレギュレータ102の設定圧と第2のプレッシャレギュレータ104の設定圧とを違った値にし、第2の空気圧リニアガイド54の供給空気圧である第2の圧力P2を、第1の空気圧リニアガイド48の供給空気圧である第1の圧力P1より少し低くすればよい。なお、この実施形態では、第1の空気圧リニアガイド48の第1のエアギャップG1の大きさと第2の空気圧リニアガイド54の第2のエアギャップG2の大きさは同じであってよい。
【0051】
この供給空気圧の相違により、第1の空気圧リニアガイド48と第2の空気圧リニアガイド54とでスライダ支持剛性(エア軸受剛性)に差が生じ、第2の圧力P2が第1の圧力P1より低い分、第2の空気圧リニアガイド54のスライダ支持剛性が第1の空気圧リニアガイド48のスライダ支持剛性より低くなる。
【0052】
これにより、この実施形態でも、前側スライダ44と後側スライダ50の相対距離変動が生じることが回避され、両スライダ44、50の相互連結部分の機械的剛性とスライダ支持剛性とが互いに影響を及ぼし合って両スライダ44、50の平行度の再現性が低下することが排除され、高精度な平行度再現性が保証される。
【0053】
この結果、機械的結合されている前側スライダ44と後側スライダ50との相対距離の安定度が向上し、シリコンウェーハWの平坦度測定、厚さ測定が、ガイドレール40、42の真直誤差成分を含むことなく、高精度に行われるようになる。
【0054】
上述の実施形態では、第1のプレッシャレギュレータ102と第2のプレッシャレギュレータ104とは並列配置であるが、図5に仮想線によって示されているように、設定圧が高いほうの第1のプレッシャレギュレータ102を、低い側の第2のプレッシャレギュレータ104より圧縮空気源100側に、第2のプレッシャレギュレータ104と直列に配置してもよい。
【0055】
なお、必要に応じて、第1の空気圧リニアガイド48の第1のエアギャップG1の大きさと第2の空気圧リニアガイド54の第2のエアギャップG2の大きさとを相違させることに加えて、第1の空気圧リニアガイド48と第2の空気圧リニアガイド54とで供給空気圧を相違させてもよい。この場合も、供給空気圧の制御は、並列配置の第1のプレッシャレギュレータ102と第2のプレッシャレギュレータ104とによって行うことも、設定圧が高いほうの第1のプレッシャレギュレータ102を、低い側の第2のプレッシャレギュレータ104より圧縮空気源100側に、第2のプレッシャレギュレータ104と直列に配置して行うこともできる。
【0056】
空気圧リニアガイドの軸受剛性、つまりスライダ支持剛性は、エアギャップの大きさ、供給空気圧の圧力値以外に、静圧用エアポケットの形状、エアギャップに空気圧を供給する空気噴出ポートの口径(内径)、スライダの受圧面積によっても決まるから、これらの設定によっても、第1の空気圧リニアガイド48と第2の空気圧リニアガイド54とでスライダ支持剛性を異なったものに設定することもできる。
【0057】
図6に示されている実施例では、第1の空気圧リニアガイド48の前側スライダ44に形成されている静圧用エアポケット47のエアギャップに対する開口面積A1より、第2の空気圧リニアガイド54の後側スライダ50に形成されている静圧用エアポケット53のエアギャップに対する開口面積A2が大きい。
【0058】
また、図6に示されている実施例では、第1の空気圧リニアガイド48のエアギャップに空気圧を供給するために前側スライダ44に形成されている空気噴出ポート46の口径D1より、第2の空気圧リニアガイド54のエアギャップに空気圧を供給するために後側スライダ50に形成されている空気噴出ポート52の口径D2が大きい。
【0059】
前側スライダ44における第1の空気圧リニアガイド48の受圧面積と、後側スライダ50における第2の空気圧リニアガイド54の受圧面積とは、前側スライダ44、後側スライダ50自体の左右方向(移動方向)の寸法を変えることにより、異なった面積とすることができ、受圧面積が小さいほうがスライダ支持剛性が低い。
【0060】
なお、上述したように、スライダ支持剛性が異なる空気圧リニアガイドは、多孔質タイプのエアーベアリングによるものにも、同様に適用することができる。
【0061】
以上、本発明を、その好適形態実施例について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施例により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行に配置された第1のガイドレールおよび第2のガイドレールと、前記第1および第2のガイドレールの各々にレール長手方向に移動可能に設けられ、且つ互い機械的に連結された第1のスライダおよび第2のスライダとを有し、
前記第1のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第1のレール面を有し、前記第1のスライダは前記第1のレール面の各々に対向する第1のスライダ面を有し、各第1のレール面と各第1のスライダ面との間にエアギャップを有する第1の空気圧リニアガイドが構成され、
前記第2のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第2のレール面を有し、前記第2のスライダは前記第2のレール面の各々に対向する第2のスライダ面を有し、各第2のレール面と各第2のスライダ面との間にエアギャップを有する第2の空気圧リニアガイドが構成され、
第1の空気圧リニアガイドのスライダ支持剛性と第2の空気圧リニアガイドのスライダ支持剛性とが互いに相違している並列スライダ装置。
【請求項2】
前記第1のスライダと前記第1のガイドレールとのスライダ面−レール面間のエアギャップの大きさと前記第2のスライダと前記第2のガイドレールとのスライダ面−レール面間のエアギャップの大きさとが互いに相違している請求項1に記載の並列スライダ装置。
【請求項3】
前記第1の空気圧リニアガイドと前記第2の空気圧リニアガイドとで供給空気圧が相違している請求項1に記載の並列スライダ装置。
【請求項4】
前記第1の空気圧リニアガイドに供給する空気圧を第1の値に設定する第1の空気圧設定手段と、
前記第2の空気圧リニアガイドに供給する空気圧を前記第1の値とは異なった第2の値に設定する第2の空気圧設定手段とを有する請求項3に記載の並列スライダ装置。
【請求項5】
前記第1の空気圧リニアガイドと前記第2の空気圧リニアガイドには各々静圧用エアポケットが形成されており、前記第1の空気圧リニアガイドの前記静圧用エアポケットの形状と前記第2の空気圧リニアガイドの前記静圧用エアポケットの形状が互いに相違している請求項1に記載の並列スライダ装置。
【請求項6】
前記第1の空気圧リニアガイドのエアギャップに空気圧を供給する空気噴出ポートの口径と前記第2の空気圧リニアガイドのエアギャップに空気圧を供給する空気噴出ポートの口径とが互いに相違している請求項1に記載の並列スライダ装置。
【請求項7】
前記第1のスライダにおける前記第1の空気圧リニアガイドの受圧面積と前記第2のスライダにおける第2の空気圧リニアガイドのの受圧面積とが互いに相違している請求項1に記載の並列スライダ装置。
【請求項8】
互いに平行に配置された第1のガイドレールおよび第2のガイドレールと、前記第1および第2のガイドレールの各々にレール長手方向に移動可能に設けられ、且つ互い機械的に連結された第1のスライダおよび第2のスライダとを有し、前記第1のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第1のレール面を有し、前記第1のスライダは前記第1のレール面の各々に対向する第1のスライダ面を有し、各第1のレール面と各第1のスライダ面との間にエアギャップを有する第1の空気圧リニアガイドが構成され、前記第2のガイドレールは各々両側にレール長手方向に並行して延在する第2のレール面を有し、前記第2のスライダは前記第2のレール面の各々に対向する第2のスライダ面を有し、各第2のレール面と各第2のスライダ面との間にエアギャップを有する第2の空気圧リニアガイドが構成された並列スライダ装置の制御方法であって、
前記第1の空気圧リニアガイドに供給する空気圧と前記第2の空気圧リニアガイドに供給する空気圧を相違させる空気圧制御を行う並列スライダ装置の制御方法。
【請求項9】
請求項1から7の何れか一項に記載の並列スライダ装置を有し、
前記第1のガイドレールと前記第2のガイドレールとの間に、被測定物を支持する支持体が配置され、
前記第1のスライダに前記被測定物の一方の面までの距離を測定する第1の測定手段が取り付けられ、前記第2のスライダに前記被測定物の他方の面までの距離を測定する第2の測定手段が取り付けられている測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−185437(P2011−185437A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47009(P2011−47009)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000170853)黒田精工株式会社 (81)
【Fターム(参考)】