説明

窒素酸化物排出を軽減する多重床選択触媒還元システム及び方法

排出流体から少なくとも窒素酸化物を除去するシステム及び方法は、炭化水素選択的触媒還元プロセスに最適化された触媒床の上流で、排出流体に第1還元剤及び水素ガス助還元剤を導入して排出流体中に存在する窒素酸化物を還元し、次いでアンモニアの選択触媒還元プロセスに最適化された第2触媒床で残留窒素酸化物を反応させる工程を含む。水素ガスを用いることで、広い温度範囲にわたって窒素酸化物の効率よい還元が可能になり、このことは排出流体中の二酸化硫黄の存在によりほとんど影響されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に窒素酸化物(NOx)排出物を軽減するシステム及び方法に関し、特に選択触媒還元を利用するシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば内燃機関は、ガソリン、ディーゼルなどの燃料を燃焼反応を介して仕事、つまり動力に変換する。このような反応を通して、一酸化炭素(CO)、未燃焼炭化水素(UHC)、窒素酸化物(NOx)(例えば一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO2))などの副生物が生じる。世界規模での大気汚染に対する関心から、エンジン系統の排ガス基準が厳しくなっている。このような状況下で、少なくとも窒素酸化物排出を軽減するシステム及び方法の研究が継続的に行われている。
【0003】
排出流体から窒素酸化物を除去する方法として、窒素酸化物を還元する選択触媒還元(SCR=selective catalytic reduction)プロセスがある。例えば、アンモニアSCRプロセスが普及しており、この場合、選択触媒還元プロセスにおいてアンモニアを還元剤として用いて窒素ガス及び水を生成する。アンモニアSCR(NH3−SCRとも称される)は、触媒反応性及び選択性の観点から、汎用されている。しかし、実際のところ、アンモニアの使用はほとんど発電所その他の固定用途に限定されている。具体的には、アンモニアに関連した毒性と取り扱い問題(例えば貯蔵タンク)があるため、この技術を自動車その他の移動性エンジンに利用することができない。例えば、車両排気システムにおけるアンモニアスリップ(漏出)に関する現行の規制をクリアすることは多くの場合困難である。
【0004】
窒素酸化物の炭化水素での選択触媒還元(HC−SCR)もNH3−SCRプロセスに匹敵する可能性のある競合技術として近年熱心に研究されている。炭化水素還元体は排気流中の窒素酸化物と反応して主として窒素ガスと二酸化炭素を生成する。この選択触媒還元プロセスの一番の利点は、アンモニアとは対照的に、炭化水素を還元種として用いるので、アンモニアスリップに関する心配がほとんどないことである。HC−SCRプロセスに用いる触媒は、一般に、3つの主要グループ:(イ)担持貴金属、(ロ)金属イオン交換ゼオライト及び(ハ)金属酸化物触媒に分類することができる。これらの材料では120〜250℃のような低い反応温度での触媒作用が実証されている。しかし、これらの触媒は、一般に作用温度範囲が狭く、SO2の存在下で比較的速く失活する。このようなわけで、このタイプの触媒床は、かなりのレベルの二酸化硫黄を含有する燃料から発生する排出流体流を処理する用途及び/又は触媒材料が広い温度範囲に露呈される過渡的用途では役に立たない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第3867508号
【特許文献2】米国特許第5589432号
【特許文献3】米国特許第5710088号
【特許文献4】米国特許第6284211号
【特許文献5】米国特許第6326329号
【特許文献6】米国特許第6706660号
【特許文献7】欧州特許出願公開第0710499号明細書
【特許文献8】欧州特許出願公開第0714693号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第0719580号明細書
【特許文献10】欧州特許出願公開第0761289号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】"Deactivation in Cu-ZSM-5 Lean-Burn Catalysts", by K.C.C. Kharas et al., Applied Catalysts B: Environmental, 2 (1993), pp.225-237
【非特許文献2】"Influence of Hydrocarbons on the Selective Catalytic Reduction of NOx over Ag/Al2O3-Laboratory and Engine Tests, by Kari Eranen et al., 2000 Society of Automotive Engineers, Inc., paper no. 2000-01-2813, pp.1-4
【非特許文献3】"Continuous Reduction of NO with Octane over a Silver/Alumina Catalyst in Oxygen-Rich Exhaust gases: Combined Heterogeneous and Surface-Mediated Homogeneous Reactions", by Kari Eranen, Journal of Catalysts 219 (2003), pp.25-40
【非特許文献4】"On the Mechanism of the Selective Catalytic Reduction of NO with Higher Hydrocarbons over a Silver/Alumina Catalyst", by Kari Eranen, Journal of Catalysis 227 (2004), pp.328-343
【非特許文献5】"Selective Reduction of Nitric Oxide with Ethanol over an Alumina-Supported Silver Catalyst", by Tatsuo Miyadera, Applied Catalysis B: Environmental 13 (1997), pp.157-165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、窒素酸化物排出物を軽減する改良システム及び方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
窒素酸化物排出物を軽減するシステム及び方法が提供される。1実施形態では、排出流体から少なくとも窒素酸化物を除去する方法は、順次、窒素酸化物を含有する排出流体を用意する工程、前記排出流体と流体連通した炭化水素選択的触媒還元に最適化された第1触媒床の上流で、前記排出流体に第1還元剤及び水素ガスを導入して排出流体中の窒素酸化物の濃度を低下させる工程、及びアンモニアの選択触媒還元に最適化された第2触媒床で窒素酸化物の濃度をさらに低下させる工程を含み、前記第1還元剤は炭化水素、アルコール又はこれらの1種以上を含む組合せを含み、窒素酸化物の濃度をさらに低下させる工程で窒素水素化物、アンモニア前駆体又はこれらの組合せを第2触媒床に注入する。
【0009】
排出ガスから少なくとも窒素酸化物を除去するシステムは、炭化水素選択的触媒還元プロセスに最適化された第1触媒床と、アンモニアの選択触媒還元プロセスに最適化された第2触媒床とを含み、第2触媒床が第1触媒床の下流に配置され、第1触媒床と流体連結されている、排出導管と、前記排出導管と流体連通し、第1触媒床より上流で排出流体中に導入されるように構成された第1還元体流体源及び水素ガス助還元体源とを備え、第1還元体流体源が炭化水素、アルコール又はこれらの1種以上を含む組合せからなる群から選択される。
【0010】
上記その他の特徴を、添付の図面及び以下の詳細な説明により具体的に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
以下図面に言及するが、図面中同じ要素は同じ符号で示す。
【図1】本発明の1実施形態による少なくとも窒素酸化物排出物を低減するシステムの線図である。
【図2】本発明の別の実施形態による少なくとも窒素酸化物排出物を低減するシステムの線図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
窒素酸化物の排出を軽減するシステム及び方法が開示される。以下に詳細に述べるように、本システム及び方法は、一般に、多重床選択触媒還元システムを使用して排ガス流中の少なくとも窒素酸化物を還元する。多重床選択触媒還元システムは、一般に、炭化水素選択的触媒還元(HC−SCR)に最適化された触媒床と、この触媒床と流体連結された、アンモニアの選択触媒還元(NH3−SCR)に最適化された第2触媒床とを含み、排ガス流がHC−SCRに入る前に第1還元体及び助還元体を同時注入する。有利なことには、水素ガスを助還元体として用いることで、二酸化硫黄含有排ガスの存在下でも、作用温度範囲を犠牲にすることなくHC−SCR床を使用できるようになることを見出した。例えば、本発明者らは、ここに開示する多重床システムが、二酸化硫黄の存在下でも、約150℃〜約600℃の温度でNOx低減に有効であることを見出した。また、多重床システムを用いて二酸化硫黄含有排ガス中の窒素酸化物を窒素に効率よく還元することができる。さらに、HC−SCR最適化床に水素ガスを用いることで、窒素酸化物の効率よい触媒還元に低いレベルの炭化水素を用いることが可能になる。多重床をこのように用いることにより、HC−SCR最適化床の有効性の観点から使用量を少なくできるので、アンモニアスリップが実質的に防止される。
【0013】
以下の説明で、「上流」方向は、局所的な流れが流れてくる元の方向を指し、「下流」方向は局所的な流れが流れ去る方向を指す。もっとも一般的な意味で、システムを通過する流れは前から後ろになり、したがって「上流方向」は通常前方向を指し、「下流方向」は後方向を指す。用語「還元剤」及び「還元体」は本明細書では相互に同義である。
【0014】
図1に、少なくとも窒素酸化物排出物を低減する多重床システム10を示す。有利なことに、システム10は固定用途にも、車両システム(例えば機関車、トラックなど)などの移動用途にも使用できる。システム10は、排出流体源12が排出導管18と流体連通している構成である。排出導管18内には第1選択触媒還元床14及び第2選択触媒還元床16が配置され、第1床14が第2床16より上流に配置されている。さらに、システム10は、排出導管と流体連通関係にてかつ第1選択触媒還元床14より上流の位置に、第1還元体源20及び助還元体水素ガス源22を含む。
【0015】
排出流体源12は、窒素酸化物(NOx)を含有する排出流体源のいずれでもよい。さらに、助還元体水素ガスを用いる多重床システム10は、二酸化硫黄(SO2)などの硫黄含有化合物をさらに含む排出流体流に用いるのに適当である。例えば、排出流体源12は火花点火エンジン及び圧縮点火エンジンからの排出流体を含むが、これらに限らない。火花点火エンジンは通常ガソリンエンジンと称され、圧縮点火エンジンは通常ディーゼルエンジンと称されるが、それぞれの内燃機関に他の種々のタイプの燃料を用いることができる。燃料の例には、炭化水素燃料、例えばガソリン、ディーゼル、エタノール、メタノール、ケロシンなど、ガス燃料、例えば天然ガス、プロパン、ブタンなど、代替燃料、例えば水素、バイオ燃料、ジメチルエーテルなど、並びにこれらの燃料の1種以上を含む組合せがある。
【0016】
図示のように、排出流体源12は第1選択触媒還元(SCR)床14の上流にそれと流体連通関係で配置されている。第1SCR床14は、HC−SCRプロセスに最適化された選択触媒還元床(以下、HC−SCR床という)である。HC−SCR床は、通常、第1活性触媒材料と第2活性触媒材料とを含み、ここで第1活性触媒材料は通常銀金属又はその酸化物を含有し、第2活性触媒材料はその硫化物がNOx選択触媒還元に対して活性となるように選択される。適当な第2触媒材料には、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、錫(Sn)、金(Au)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、白金(Pt)及びパラジウム(Pd)並びにこれらの1種以上を含む酸化物及び合金があるが、これらに限らない。触媒は通例、排出導管内のNOx含有排出ガスにさらされる位置に置かれる。触媒は、充填又は流動床反応器として配置されるか、モノリシックもしくはメンブラン構造上に被覆されるか、排出システム内にその他の態様で触媒が流入ガスと接触するように配置される。1実施形態では、HC−SCR床14は銀とガリウムの組合せを含有する。
【0017】
第1及び第2活性触媒材料に加えて、HC−SCR床14は基体及び任意の担体材料(ウォッシュコート層と言うこともある)を含むことができる。第1及び第2活性触媒材料は、基体の表面上に直接配置するか、任意の担体材料上に配置するか、両方に配置することができ、一方担体材料は基体の表面上に配置することができる。第1及び第2活性触媒材料並びに任意の担体材料は、当業界で知られた任意適当な方法(例えばウォッシュコート法)で基体上に配置することができる。
【0018】
HC−SCR床14の基体は、動作環境(例えば排出ガス温度)と適合するものを選ぶ。適当な基体材料には、コーディエライト、窒化物、炭化物、ホウ化物、及び金属間化合物、ムライト、アルミナ、ゼオライト、アルミノケイ酸リチウム、チタニア、長石、石英、溶融もしくは非晶質シリカ、クレイ、アルミネート、チタネート(例えばチタン酸アルミニウム)、シリケート、ジルコニア、スピネル、並びにこれらの材料の1種以上を含む組合せがあるが、これらに限らない。
【0019】
任意の担体材料は、動作環境及び活性触媒材料と適合するものを選ぶ。適当な担体材料には、無機酸化物があるが、これらに限らない。無機酸化物の例には、アルミナ(Al23)、シリカ(SiO2)、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)及びこれらの1種以上を含む組合せがあるが、これらに限らない。
【0020】
第1還元体源20はHC−SCR床14と流体連通しており、動作中に、HC−SCR床14の上流で第1還元剤を導入できるようになっている。第1還元剤の選択はHC−SCR床14に用いる材料に応じて変わるが、適当な第1還元剤には、炭化水素、アルコール及びこれらの1種以上を含む組合せがあるが、これらに限らない。アルコールの例には、メタノール、エタノール、n−ブチルアルコール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの1種以上を含む組合せがあるが、これらに限らない。炭化水素の例は特に限定されない。適当な炭化水素には、特に、エチレンなどのオレフィン及びプロパンなどのパラフィンがある。炭化水素が炭素原子数2〜5の脂肪族炭化水素であるのが好ましい。芳香族炭化水素は、用途によっては適当であるが、通常触媒の炭化水素を酸化する活性が低いので、あまり好適ではない。炭素原子数約6以上の脂肪族炭化水素は、ゼオライトの微細孔内深くの活性位置に届きにくいので、好ましくない。またメタンを用いても、400℃以下での反応性に乏しいため、十分なNOx転化を達成するのは難しい。
【0021】
助還元体22(即ち水素ガス)もHC−SCR床14と流体連通関係に配置されており、動作中に、助還元体を第1還元剤と共に上流で導入できるようになっている。有利なことに、このように水素ガスを用いることで、HC−SCR床14が、水素を助還元体として用いないシステムと比較して、より広い温度範囲で作用可能になる。さらに、水素ガスを助還元体として使用することで、炭化水素還元体、即ち第1還元体20の使用量を少なくすることができる。
【0022】
種々の実施形態において、システムが移動用途であるか固定用途であるかに応じて、還元体及び助還元体は、利用できる燃料からシステム内で生成することができ、又はディーゼルエンジンの場合には、容易に入手できる。1実施形態では、燃料(内燃機関に関連して前述した燃料例のような)を触媒作用によりより小さな分子、即ち水素及び一酸化炭素に転化することにより、水素ガスをシステム10内で生成するのが有利である。動作中に、スチーム改質、自動熱改質、部分酸化又は他の既知のプロセスを用いて、燃料を水素含有ガスに転化することができる。
【0023】
本発明の実施形態の利点として、HC−SCR床における還元反応が「リーン」な条件で生起しうる。即ち、NOxを還元(低減)するために排出ガスに添加される還元体の量が通常少ない。還元体対NOxのモル比が通例約0.25:1〜約3:1である。さらに特定すると、還元体対NOxのモル比は代表的には、還元体中の炭素原子の比がNOx1モル当たり約1モル〜約24モルとなるような範囲である。NOxを窒素に転化するための還元体の量を少なくすることで、原料コストの低下したより効率良いプロセスとなる。還元反応は適当な温度範囲で生起しうる。代表的には、温度は約300℃〜約600℃の範囲、特に約350℃〜約450℃の範囲である。
【0024】
NH3−SCR床16は、HC−SCR床14の下流に、かつ排出導管18を介してHC−SCR床14と流体連通関係にて配置されている。ここで用いる用語「アンモニア」又はNH3は、窒素水素化物、例えばアンモニアもしくはヒドラジン又はアンモニア前駆体などの含窒素化合物を包含するものである。アンモニアは、無水状態でも、例えば水溶液でもよい。用語「アンモニア前駆体」は、例えば加水分解によりアンモニアを誘導することができる化合物を意味する。このような化合物には、水溶液もしくは固体形態の尿素(CO(NH22)又はカルバミン酸アンモニウム(NH2COONH4)がある。
【0025】
第2SCR床16に用いる触媒は、例えば排出流体の排出温度並びにシステム10に用いるアンモニア還元剤の選択に応じて、広い範囲から選ぶことができる。例えば、床がバナジウム触媒材料を含有する場合、排出流体流の温度が上昇するにつれて、排出流中の副生物のNOxへの逆酸化が増進されるので、実施形態によってはより低含量のバナジウム触媒が好ましい。
【0026】
NH3−SCR床16用の適当な活性触媒材料には、インジウム(In)、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ジルコニウム(Zr)、及びこれらの1種以上を含む酸化物及び合金があるが、これらに限らない。NH3−SCR床16は基体及び任意の担体材料を含んでもよく、その上に触媒材料が堆積される。
【0027】
NH3−SCR床16に用いるのに適当な基体材料には、第1SCR床14に関して上述した材料があるが、これらに限らない。任意の担体材料用に適当な材料には、HC−SCR床14に関して上述した材料があるが、これらに限らない。1実施形態では、担体材料がゼオライトを含有する。適当なゼオライトには、モルデナイト、ペンタシル構造ゼオライト、例えばZSM型ゼオライト、特にZSM−5ゼオライト、及びホージャサイト(Y型群)があるが、これらに限らない。
【0028】
次に、図2に、本発明の別の実施形態による窒素酸化物排出物を低減する多重床システム50を示す。先と同様、多重床システムは広い温度範囲にわたって、またSO2などの硫黄含有材料の存在下でも使用できるという利点を有する。本システム50は、排出ガス源12が排出導管18と流体連通している構成である。排出導管18内にはHC−SCR床14及び第2SCR床16、例えばNH3−SCR床が配置されている。システム10と同様に、第1還元体源20及び助還元体源22がHC−SCR床14の上流に配置され、排出流体流と流体連通している。システム50はさらに、第2SCR床16の下流にかつ第2SCR床16と流体連通した深酸化触媒24を含む。
【0029】
深酸化(deep oxidation)触媒24は、少なくとも一酸化炭素の二酸化炭素への酸化を可能にする構成である。深酸化触媒24は、活性触媒材料、基体材料及び任意の担体材料を含む。基体材料は動作環境(例えば排出ガス温度)と適合するものを選ぶ。適当な基体材料には、第1及び/又は第2SCR床に関して上述した材料があるが、これらに限らない。適当な活性触媒材料及び担体材料には、貴金属及び金属酸化物があるが、これらに限らない。貴金属の例には、ロジウム(Rh)と白金(Pt)の組合せがある。金属酸化物の例には、酸化アルミニウム(Al23)、酸化亜鉛(ZnO)及び酸化チタン(TiO2)があるが、これらに限らない。
【0030】
システム10及び50いずれも、作動時には、排出流体源12からの排出流体が排出導管18内を通過する。第1還元剤及び助還元体(水素ガス)を排出導管18中にHC−SCR床14の上流で導入し、これらの還元剤が排出源12からの排出流体と混ざり合うようにする。HC−SCR床14では、排出ガス中に存在する窒素酸化物が第1還元剤及び助還元剤と反応し、かくして窒素酸化物が実質的に窒素ガス(N2)に還元される。有利なことに、このように水素ガスを用いることで、HC−SCR床14が、水素を助還元体として使用しないシステムと比較して、より広い温度範囲にわたって作用可能である。例えば、本発明によるHC−SCR床14は、約150℃〜約600℃の温度範囲にわたって有効かつ活性である。さらに、水素ガスの使用により少なくともHC−SCR床14の触媒材料の二酸化硫黄による失活作用を抑制するという利点が得られる。
【0031】
NH3−SCR床16は、HC−SCR床で還元されなかった窒素酸化物を転化する。助還元体としての水素ガスと共に多重床14,16を用いることで、NOxの窒素ガスへの約75%以上の転化、特に85%以上の転化が可能になる。NOxを100%窒素ガスに転化する実施形態も想定される。深酸化触媒床24を使用するシステム50では、排出流中に含まれる一酸化炭素が二酸化炭素に酸化される。
【0032】
有利なことに、ここに開示したシステムは水素ガスを助還元体として使用し、これにより触媒材料の二酸化硫黄による失活作用を抑制し、かくしてHC−SCR床の使用が可能になり、しかもHC−SCR床を広い温度範囲にわたって作動できる。さらに、ここに開示した多重床システムの使用により、単一床の使用に比較して、窒素酸化物の転化を向上することができる。さらに、多重床システムでは、著しく少量のアンモニアしか必要でないので、アンモニアスリップを抑制及び/又は防止できる。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
実施例1
本実施例では、多重床システムにおいてSO2の存在下で還元体としてエタノールを、助還元体として水素ガス(H2)を注入し、窒素酸化物の転化率(%)を測定した。転化率を、エタノールのみの、又はエタノールとSO2の単一HC−SCR床システム及び多重床システムと、またエタノール、SO2及びH2注入の単一床システムと比較した。多重床システムは、HC−SCR床とNH3−SCR床とを流体連通関係に配置した構成である。HC−SCR床はガリウム−銀をγアルミナに担持した触媒を用いた。NH3−SCR床はCormetech社からの市販品であった。入口のNOx濃度は650ppmであり、この場合75%以上の転化を達成するのに必要な還元体(エタノールのみ)の濃度は900ppmと計算された。これらの実験では、SO2を10ppmで注入し、H2を4,000ppmで注入した。入口でのNOx濃度650ppmのほかに、排出ガスは12%の酸素ガス、7%の水、6%の二酸化炭素、残部の窒素からなる。種々の実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

表1から、SO2の存在下で認められる活性の低下を抑制するために、多重床システムとH2注入両方の組合せが必要であることが明らかである。HC−SCR床単独の活性はSO2の添加により50%程度低下したのに対して、H2注入を行った多重床システムの使用により活性が格段に増加し、ほとんど完全に回復された(NOx転化率76.9%及びNOxのN2への転化率66.3%を、SO2添加なしの多重床における81.8%及び76.5%と比較)。理論により拘束されるものではないが、水素の有利な効果は、NOxの還元を向上させるようエタノールを活性化する能力に由来するものではなく、H2がSO2の存在に帰せられる失活作用を抑制する事実に由来する、と考えられる。
【0036】
実施例2
本実施例では、HC−SCR/NH3−SCR多重床の性能に対する二酸化硫黄の作用をモニターした。HC−SCR触媒は上記実施例に記載したのと同様にガリウムと銀から形成し、一方NH3−SCR触媒はV25−TiO2−W25とした。入口でのNOx濃度は630ppmであり、還元体(エタノールのみ)の濃度は900ppmであった。入口でのNOx濃度のほかに、排出ガスは12%の酸素ガス、7%の水、残部の窒素からなる。これらの実験では、水素ガスの不在下でSO2濃度を変えた。温度は450℃に保ち、SVは40,000hr-1であった。異なる濃度の二酸化硫黄からの結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

これらの結果から明らかなように、NOx転化率及びN2への転化率は排出流体中に存在する二酸化硫黄の量に直接依存し、二酸化硫黄の量が増加するにつれて転化効率が低下した。
【0038】
実施例3
本実施例では、実施例2のHC−SCR/NH3−SCR多重床の性能に対する水素ガス(H2)の作用を調べた。排出フィードは実施例2に記載した通りであり、さらに5ppmのSO2を含有した。水素の注入量を変えた。その結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

これらの結果から、助還元体としての水素ガスの量を増加するにつれて、NOx転化率及びN2への転化率が増加することが明らかである。さらに、排出流体に助還元体として水素ガスを用いることで、触媒材料の二酸化硫黄による失活が抑制された。
【0040】
実施例4
本実施例では、ガリウムと銀から形成した単一のHC−SCR触媒床および実施例2のHC−SCR/NH3−SCR多重床において、ゼオライト担体の存在下及び不在下での温度及びエタノール濃度の作用をモニターした。排出フィードは実施例2に記載した通りであり、さらに4,000ppmの水素ガス及び1ppmの二酸化硫黄を含有した。エタノール対酸化窒素の比を表4に示すように変えた。
【0041】
【表4】

上記結果から、転化効率は温度の関数として増加するが、HC−SCR触媒は比較的低い温度でも有効であることが分かる。有利なことに、比較的少量のエタノール還元体が、種々の温度で、比較的多量のエタノールと同様の結果をもたらすことが認められた。
【0042】
実施例5
本実施例では、ガリウムと銀から形成した単一のHC−SCR触媒床および実施例2のHC−SCR/NH3−SCR多重床において、ゼオライト担体の存在下及び不在下での温度及びオクタン濃度の作用をモニターした。排出フィードは実施例2に記載した通りであり、さらに4,000ppmの水素ガス及び1ppmの二酸化硫黄を含有した。
【0043】
【表5】

全体的に見て、オクタンが還元体としてエタノールより有効であった。エタノールの場合と同様、比較的少量のオクタンが、種々の使用温度で、比較的多量のオクタンと同様の結果をもたらした。さらに、排出流体に助還元体として水素ガスを用いることで、触媒材料の二酸化硫黄による失活が抑制され、このことが比較的低い温度での有効な転化につながった。
【0044】
以上、本発明を代表的な実施形態について説明したが、本発明の要旨から逸脱することなく、種々の改変が可能であり、また構成要素を均等物に置き換え得ることが当業者に明らかである。さらに、本発明の要旨から逸脱することなく、個別の状況や材料を本発明に適合させる多くの変更が可能である。したがって、本発明は本発明を実施するうえで考えられる最良の形態として上述した特定の実施形態に限定されず、本発明は特許請求の範囲に入る全ての実施形態を包含する。
【符号の説明】
【0045】
10 多重床システム
12 排出流体源
14 第1選択触媒還元床
16 第2選択触媒還元床
18 排出導管
20 第1還元体源
22 助還元体水素ガス源
24 深酸化触媒
50 多重床システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排出流体から少なくとも窒素酸化物を除去する方法であって、当該方法が、順次、
窒素酸化物を含有する排出流体を用意する工程、
前記排出流体と流体連通した炭化水素選択的触媒還元に最適化された第1触媒床の上流で、前記排出流体に第1還元剤及び水素ガスを導入して排出流体中の窒素酸化物の濃度を低下させる工程、及び
アンモニアの選択触媒還元に最適化された第2触媒床で窒素酸化物の濃度をさらに低下させる工程
を含んでおり、前記第1還元剤が炭化水素、アルコール又はこれらの1種以上を含む組合せを含んでおり、窒素酸化物の濃度をさらに低下させる工程で窒素水素化物、アンモニア前駆体又はこれらの組合せを第2触媒床に注入する、方法。
【請求項2】
前記排出流体がさらに二酸化硫黄を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記第1触媒床が、銀、ガリウム、インジウム、錫、金、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅、白金、パラジウム、及びこれらの1種以上を含む酸化物及び合金からなる群から選択される触媒材料を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記触媒材料がさらに、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、及びこれらの1種以上を含む組合せからなる群から選択される無機酸化物担体材料を含有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記第2触媒床が、インジウム、銅、銀、亜鉛、カドミウム、コバルト、ニッケル、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、バナジウム、ジルコニウム、及びこれらの1種以上を含む酸化物及び合金からなる群から選択される触媒材料を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記窒素水素化物がアンモニア及びヒドラジンからなる群から選択される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記第1還元剤が、メタノール、エタノール、n−ブチルアルコール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの1種以上を含む組合せからなる群から選択されるアルコールを含有する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記第1還元剤が脂肪族炭化水素を含有する、請求項1記載の方法。
【請求項9】
さらに、排出流体流を第2触媒床の下流の深酸化触媒に露呈し、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記深酸化触媒が白金及び酸化アルミニウムを含有する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
前記窒素酸化物を含有する排出流体が約150℃〜約600℃の温度にあり、排出流体中の窒素酸化物の濃度を少なくとも75%低下させる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
排出ガスから少なくとも窒素酸化物を除去するシステムであって、
炭化水素選択的触媒還元プロセスに最適化された第1触媒床と、アンモニアの選択触媒還元プロセスに最適化された第2触媒床とを含み、第2触媒床が第1触媒床の下流に配置され、第1触媒床と流体連結されている、排出導管と、
前記排出導管と流体連通し、第1触媒床より上流で排出流体中に導入されるように構成された第1還元体流体源及び水素ガス助還元体源とを備え、
第1還元体流体源が炭化水素、アルコール又はこれらの1種以上を含む組合せからなる群から選択される、
排出ガスから少なくとも窒素酸化物を除去するシステム。
【請求項13】
さらに、一酸化炭素を二酸化炭素に転化するのに最適化された深酸化触媒床を備え、この深酸化触媒床が第2触媒床の下流に配置された、請求項12記載のシステム。
【請求項14】
前記第2触媒床が、インジウム、銅、銀、亜鉛、カドミウム、コバルト、ニッケル、鉄、モリブデン、タングステン、チタン、バナジウム、ジルコニウム、及びこれらの1種以上を含む酸化物及び合金からなる群から選択される活性触媒材料を含有する、請求項12記載のシステム。
【請求項15】
前記第1触媒床が、銀、ガリウム、インジウム、錫、金、コバルト、ニッケル、亜鉛、銅、白金、パラジウム、及びこれらの1種以上を含む酸化物及び合金からなる群から選択される触媒材料を含有する、請求項12記載のシステム。
【請求項16】
前記第1触媒床がさらに、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、及びこれらの1種以上を含む組合せからなる群から選択される無機酸化物担体材料を含有する、請求項15記載のシステム。
【請求項17】
前記第1還元体流体源が、メタノール、エタノール、n−ブチルアルコール、2−ブタノール、tert−ブチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、及びこれらの1種以上を含む組合せからなる群から選択されるアルコールを含有する、請求項12記載のシステム。
【請求項18】
前記深酸化触媒が白金及び酸化アルミニウムを含有する、請求項13記載のシステム。
【請求項19】
前記アンモニアの選択触媒還元プロセスが、窒素水素化物、アンモニア前駆体及びこれらの組合せからなる群から選択される窒素還元体源を含む、請求項12記載のシステム。
【請求項20】
前記第1触媒床がガリウム及び銀を含有する、請求項12記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−511493(P2010−511493A)
【公表日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−539382(P2009−539382)
【出願日】平成19年10月8日(2007.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/080680
【国際公開番号】WO2008/067038
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】