説明

窒素/炭素安定化された酸素析出核形成中心を有する理想的酸素析出を行ったシリコンウエハおよびその製造方法

【課題】
本発明は、理想的な不均一な深さの酸素析出物の分布を形成し得る単結晶シリコンウエハを提供すること等を目的とする。
【解決手段】
前方表面から内側へ延びるデヌーデッドゾーン及びイントリンシックゲッタリングのために十分なウエハバルク部内の酸素析出物が最終的に形成されるような制御された酸素析出挙動を有するシリコンウエハである。特に、酸素析出物を生じさせる前に、ウエハバルク部はドーパントにより安定化された酸素析出核形成中心を有する。ドーパントは窒素及び炭素からなる群から選ばれる。ドーパントの濃度は、いずれのgrown-in核形成中心をも溶かすことができる能力を保ちながら、酸素析出核形成中心にエピタキシャル・デポジションプロセスなどの熱処理に耐えさせるのに十分な濃度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、電子部品の製造に用いられる半導体材料基材、特にシリコンウエハの調製に関する。特に、本発明は、本質的にいずれか任意の電子デバイス製造プロセスの熱処理サイクルの間に、ウエハに、理想的な不均一な深さの酸素析出物の分布を形成することを可能にするシリコンウエハの処理の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体電子部品の製造のための大部分の方法についての出発物質である単結晶シリコンは、一般に、種単結晶を溶融シリコンに浸漬し、次いでゆっくりと引き上げて成長させる、いわゆるチョクラルスキー法(Czochralski process)によって、製造されている。溶融シリコンは、石英ルツボに収容されているので、種々の不純物、中でも主として酸素によって汚染されている。シリコン溶融塊の温度では、酸素濃度が、固化シリコンにおける酸素の実際の偏析係数(segregation coefficient)によって、及び、溶融塊の温度でのシリコン内における酸素の溶解度(solubility)によって決まる濃度に達するまで、酸素が結晶格子の中に入る。その濃度は、電子デバイスを製造する方法について典型的な温度における、固体シリコン内の酸素の溶解度よりも高い。結晶が溶融塊から成長し、冷却されると、従ってその中の酸素溶解度が急速に低下すると、それによって得られるスライスまたはウエハ中において、酸素は過飽和濃度にて存在する。
【0003】
電子デバイスの製造において一般的に使用される熱処理サイクルは、酸素が過飽和になっているシリコンウエハに酸素の析出を生じさせる。ウエハにおけるそれら酸素の析出位置によって、析出物は有害となったり、有益となったりし得る。ウエハの活性デバイス領域に位置する酸素析出物は、デバイスの動作を損なう可能性がある。しかしながら、ウエハのバルク部に位置する酸素析出物は、ウエハに接触するようになり得る望ましくない金属不純物を捕捉することができる。金属を捕捉するウエハのバルク部に位置する酸素析出物の使用は、一般に、インターナル(internal)又はイントリンシック・ゲタッリング(IG)と称される。
【0004】
歴史的に、電子デバイス製造方法は、ウエハの表面近くに、(一般に、「デヌーデッドゾーン(denuded zone)」または「無析出領域」と称される)酸素析出物の無い領域又は部位を有し、ウエハの残りの部分、即ちウエハバルクはIGのために充分な数の酸素析出物を有するシリコンを製造するように設計された一連の工程を有していた。デヌーデッドゾーンは、例えば高温−低温−高温の熱シークエンス、例えば(a)不活性雰囲気において、少なくとも4時間にわたる高温(>1100℃)での酸素外方拡散(oxygen out-diffusion)熱処理、(b)低温(600〜750℃)での酸素析出核形成、及び(c)高温(1000〜1150℃)での酸素析出物(SiO)の成長というシーケンスにおいて形成することができる。例えば、F.Shimuraの「Semiconductor Silicon Crystal Technology」、Academic press, Inc., San Diego California (1989)、第361〜367頁及びそれに引用された文献を参照されたい。
【0005】
しかしながら、ごく最近、先進の電子デバイス製造方法、例えばDRAM製造方法では、高温プロセス工程の使用を最小限にすることが取り組まれ始めている。これらのプロセスの中のいくつかのものは、充分なバルク析出物密度およびデヌーデッドゾーンを形成するように充分な高温プロセス工程を維持しているが、材料を商業的に実施可能な生成物にするためには、材料に対する許容度が厳密過ぎる。他の現在の高度に先進的な電子デバイス製造法は、外方拡散工程(out-diffusion steps)を全く有していない。従って、活性デバイス領域における酸素析出物に付随する問題のために、これら電子デバイスの製造業者は、それらのプロセス条件下でウエハのいずれかの領域に酸素析出物を形成できないシリコンウエハを使用する必要がある。結果として、すべてのIGポテンシャルが失われる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的の中には、本質的にいずれかの電子デバイス製造方法の熱処理サイクルの間に、理想的な不均一な深さの酸素析出物の分布を形成し得る単結晶シリコンウエハを提供すること;ウエハバルク中に酸素析出物の十分な密度及び十分な深さのデヌーデッドゾーンを最適かつ再現性良く形成し得るウエハを提供すること;ウエハバルク中における酸素析出物の形成及びデヌーデッドゾーンの形成がウエハのこれらの領域における酸素濃度の差に依存しないウエハを提供すること;得られるデヌーデッドゾーンの厚さがIC(integrated circuit)製造プロセスシーケンスの詳細に本質的に依存しないウエハを提供すること;ウエハバルク中における酸素析出物の形成及びデヌーデッドゾーンの形成が、シリコンウエハがスライスされるチョクラルスキー法単結晶シリコンインゴットの酸素濃度及び熱履歴によって影響を受けないウエハを提供すること;デヌーデッドゾーンの形成が酸素の外方拡散に依存しない方法を提供すること;並びにデヌーデッドゾーンの形成を阻害することなく、酸素析出核形成中心がその後の急速熱処理に耐え得るように、酸素析出核形成中心を安定化させるのに十分な濃度にて、シリコンを窒素及び/又は炭素によってドープする方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、要約すると、本発明は、一方はウエハの前方表面であり、他方はウエハの後方表面である、全体として平行な2つの主表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、並びに、前記前方表面と後方表面とを連絡する外周縁部を有する単結晶シリコンウエハに関する。ウエハは、窒素及び炭素からなる群から選ばれるドーパントを含み、前記ドーパントの濃度は、ウエハを第1の温度Tから第2の温度Tへ速度Rにて冷却する際に、安定化された酸素析出核形成中心の生成を促進するのに十分なものである。安定化された酸素析出核形成中心は、1150℃以下の温度では溶解(dissolve)し得ないが、約1150℃〜約1300℃の範囲の温度で溶解し得る。温度Tは、約1150℃〜約1300℃の範囲にある。温度Tは、シリコン内において結晶格子空孔が比較的移動し得ない温度である。速度Rは、少なくとも約5℃/秒である。更に、ウエハは、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有する表面層であって、安定化された酸素析出核形成中心を有さない表面層を有している。同様に、ウエハは、ウエハの中央平面と表面層との間におけるウエハの第2の領域であって、安定化された酸素析出核形成中心を有するバルク層を有している。
【0008】
本発明は、一方はウエハの前方表面であり、他方はウエハの後方表面である、全体として平行な2つの主表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、並びに、前記前方表面と後方表面とを連絡する外周縁部を有する単結晶シリコンウエハに関する。ウエハは、窒素及び炭素からなる群から選ばれるドーパントを含む。窒素がドーパントである場合、窒素の濃度は、約1×1012〜約5×1014原子/cmの範囲である。炭素がドーパントである場合、炭素の濃度は、約1×1016〜約4×1017原子/cmの範囲である。ウエハは、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有する表面層であって、安定化された酸素析出核形成中心を有さない表面層を有している。更に、ウエハは、ウエハの中央平面と表面層との間の第2の領域を有するバルク層であって、安定化された酸素析出核形成中心を有するバルク層を有している。
【0009】
更にもう1つの態様例において、本発明は、単結晶ハンドルウエハ、単結晶シリコンデバイス層、及び前記ハンドルウエハとデバイス層との間の絶縁層を有するシリコン・オン・インシュレータ構造を提供する。その単結晶シリコンハンドルウエハは、一方はウエハの前方表面であり、他方はウエハの後方表面である、全体として平行な2つの主表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、並びに、前記前方表面と後方表面とを連絡する外周縁部を有している。前記ハンドルウエハは、窒素及び炭素からなる群から選ばれるドーパントを含んでおり、前記ドーパントの濃度は、ウエハを第1の温度Tから第2の温度Tへ速度Rにて冷却する際に、安定化された酸素析出核形成中心の生成を促進するのに十分な濃度である。安定化された酸素析出核形成中心は、1150℃以下の温度では溶解し得ないが、約1150℃〜約1300℃の範囲の温度で溶解し得る。温度Tは約1150℃〜約1300℃の範囲の温度である。温度Tは、結晶格子空孔がシリコン内で比較的移動し得ない温度である。速度Rは、少なくとも約5℃/秒である。更に、ハンドルウエハは、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有する表面層であって、安定化された酸素析出核形成中心を有さない表面層を有している。同様に、ハンドルウエハは、ウエハの中央平面と表面層との間にある第2の領域を有するバルク層であって、安定化された酸素析出核形成中心を有するバルク層を有する。
【0010】
本発明は、更に、制御された酸素析出物挙動を有する単結晶シリコンウエハの製造方法に関する。この方法は、チョクラルスキー法によって成長させた単結晶シリコンインゴットからスライスされたウエハであって、前方表面、後方表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有する前方表面層、中央平面と前方表面層との間のウエハの領域を有するバルク層を有するウエハを選択することを含んでなる。ウエハは、窒素及び炭素からなる群から選ばれるドーパントを含んでおり、前記ドーパントの濃度は、ウエハを第1の温度Tから第2の温度Tへ速度Rにて冷却する際に、安定化された酸素析出核形成中心の生成を促進するのに十分な濃度である。安定化された酸素析出核形成中心は、1150℃以下の温度では溶解し得ないが、約1150℃〜約1300℃の範囲の温度で溶解し得る。温度Tは約1150℃〜約1300℃の範囲の温度である。温度Tは、結晶格子空孔がシリコン内で比較的移動し得ない温度である。速度Rは、少なくとも約5℃/秒である。更に、前記方法は、ウエハを少なくとも約1150℃の温度へ加熱して前方表面層及びバルク層に結晶格子空孔を生じさせること、並びに、加熱されたウエハを、空孔ピーク密度がバルク層に存在して、空孔の濃度はピーク密度の位置からウエハの前方表面の向きに全体として低下し、前方表面の空孔濃度とバルク層の空孔濃度との差を、安定化された酸素析出核形成中心が前方表面には生成せず、安定化された酸素析出核形成中心がバルク層には生成するような空孔濃度プロファイルをウエハ内に生じさせる速度にて冷却することを含む。
【0011】
更にもう1つの態様において、本発明は、制御された酸素析出物挙動を有する単結晶シリコンウエハの製造方法に関する。この方法は、チョクラルスキー法によって成長させた単結晶シリコンインゴットからスライスされたウエハであって、前方表面、後方表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有する前方表面層、中央平面と前方表面層との間のウエハの領域を有するバルク層を有するウエハを選択することを含んでなる。ウエハは、窒素及び炭素からなる群から選ばれるドーパントを有する。窒素がドーパントである場合、窒素の濃度は、約1×1012〜約5×1014原子/cmの範囲である。炭素がドーパントである場合、炭素の濃度は、約1×1016〜約4×1017原子/cmの範囲である。この方法は、ウエハを熱処理に付して、前方表面層及びバルク層に結晶格子空孔を生じさせることを含んでなる。加熱処理されたウエハの冷却は、加熱されたウエハを、空孔ピーク密度がバルク層に存在して、空孔の濃度はピーク密度の位置からウエハの前方表面の向きに全体として低下し、前方表面の空孔濃度とバルク層の空孔濃度との差を、安定化された酸素析出核形成中心が前方表面には生成せず、安定化された酸素析出核形成中心がバルク層には生成するような空孔濃度プロファイルをウエハ内に生じさせる速度にて行われる。更に、熱処理したウエハを冷却する際に、バルク層内に安定化された酸素析出核形成中心を生成させるが、バルク層における安定化された酸素析出核形成中心の濃度は主として空孔濃度に依存する。
本発明のその他の目的及び特徴は、一部は明らかであり、また、一部は以下において指摘する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明によって、本質的にいずれかの電子デバイスを製造する方法の間に、IGのために十分な密度の酸素を含むウエハバルク及び十分な深さのデヌーデッドゾーンを形成し得る理想的な析出を行うウエハが見出された。この理想的な析出ウエハは、半導体シリコン製造工業において共通して用いられるツールを用いて、数分間で調製することができる。この方法によって、シリコン基材ウエハ内に、その中に酸素が最終的に析出することになる様子を決定又は「プリント」する、「テンプレート(template)」を生じさせる。本発明において、このテンプレートは、間に熱安定化アニーリングを介在させる必要なく、その後の急速な加熱処理(例えば、エピタキシャルデポジション及び/又は酸素注入)後に残存する(survive)ことができるように安定化される。
【0014】
A.出発物質
本発明の理想的析出ウエハのための出発物質は、ドーパントとしての窒素及び/又は炭素を含む単結晶シリコンウエハである。ドーパントの濃度は、2つの望ましい特性:(i)理想的テンプレート(即ち、酸素析出物のないデヌーデッドゾーン及び酸素析出物を有するウエハバルク内のイントリンシック・ゲッタリング領域)に従って酸素が最終的に析出するように、出発ウエハ中のいずれかの酸素析出核形成中心を溶解させる能力;並びに、(ii)核形成中心がその後の急速な熱処理(ラピッド・サーマル処理(rapid thermal treatment))、例えばエピタキシャルデポジションの間に溶解したり、導入した析出物テンプレートを消失させたりすることのないように、本発明の方法の間に、十分に大きい又は安定な酸素析出核形成中心を成長させる能力に適応するように選ばれる。デヌーデッドゾーンを生成させる能力を保持しながら、安定化の利益を実現するためには、シリコン内のドーパントの濃度は、一般に、約1×1012原子/cm(約0.00002ppma)〜1×1015原子/cm(約0.02ppma)の範囲である。本発明のもう1つの態様において、窒素の濃度は、約1×1012原子/cm(約0.00002ppma)〜約1×1013原子/cm(約0.0002ppma)の範囲である。窒素の濃度が低すぎる場合、例えば約1×1012原子/cm(約0.00002ppma)以下である場合、安定化効果は達成されない(即ち、約1150℃以下の温度にて消失する)。他方で、窒素の濃度が高過ぎる場合、例えば1×1015原子/cm(約0.02ppma)以上である場合、結晶の成長の間に生成した酸素析出核形成中心は、本発明の方法のラピッド・サーマル・アニーリング工程の間に溶解することはない。
【0015】
更に、シリコン結晶が多過ぎる窒素を含む場合、ウエハの品質に悪影響を及ぼし、何らかのエピタキシャル層が析出する酸化誘起積層欠陥(OISF (oxidation induced stacking faults) )がウエハの全体に生成する傾向を有し得る(日本国特開平11−189493(1999-189493)号参照)。特に、シリコンウエハの表面のOISFは、その他の空孔型欠陥とは異なって、エピタキシャルシリコン層の析出によって被覆されない。OISFは、エピタキシャル層を通って成長し続け、エピタキシャル積層欠陥(epitaxial stacking faults)と一般に称される結晶成長導入(grown-in)欠陥をもたらし得る。エピタキシャル積層欠陥は、レーザー系の自動検査デバイスの今日の検出限界である約0.1μmから、約10μm以上までの範囲の最大断面幅を有する。
【0016】
本発明によれば、ウエハは、酸素析出核形成中心を安定化させるため、窒素の替わりに又は窒素と共に炭素を含み得る。1つの態様例において、シリコン内の炭素の濃度は約1×1016原子/cm(約0.2ppma)〜4×1017原子/cm(約8ppma)の範囲である。本発明のもう1つの態様において、炭素の濃度は、約1.5×1016原子/cm(約0.3ppma)〜約3×1017原子/cm(約6ppma)の範囲である。
【0017】
チョクラルスキー法成長シリコンは、一般に、約5×1017〜約9×1017原子/cm(ASTM標準規格F-121-83)の範囲内の格子間酸素濃度を有する。ウエハの酸素析出物挙動は理想的析出ウエハ内の酸素濃度から切り離されているので、出発物質のウエハは、チョクラルスキー法によって達成される範囲内又はその外側のこともあり得るいずれかの範囲内の酸素濃度を有する。
【0018】
窒素及び/又は炭素を典型的不純物レベル程度以下で含むシリコン単結晶インゴットの成長の間、シリコンはその融点(約1410℃)から冷却され、約700℃〜約350℃の温度範囲を通ってシリコンが冷却される際に、空孔及び酸素は相互作用して、インゴット中に酸素析出核形成中心を生成させ得る。いずれか特定の理論にとらわれることなく、窒素/炭素ドーパント原子は単結晶シリコン内の空孔の拡散を減速させることによって、酸素析出核形成中心の生成を促進する、と今日では考えられている。特に、窒素及び/又は炭素濃度が上記不純物レベル以上に増大すると、所定の温度における空孔の濃度も上昇し、それによって、酸素及び空孔の臨界過飽和が生じる温度が上昇する。その結果、本発明の範囲内の窒素及び/又は炭素濃度を有するシリコンの臨界過飽和温度は、約800℃から約1050℃の範囲へシフトする。より高い臨界過飽和温度では、空孔濃度はより高く、酸素原子はより移動しやすく、それによって2種の間の相互作用は増大し、より大きくより安定性である酸素析出核形成中心が生成する。
【0019】
本発明によれば、出発物質中に核形成中心が存在すること又は存在しないことは、約1150℃〜約1300℃の範囲の温度でシリコンを熱処理することによってそれらを溶解させることができるので、あまり重要ではない。今日利用できる技術を用いて酸素析出核形成中心の存在(又は密度)を直接的に測定することはできないが、その存在は、シリコンウエハを酸素析出熱処理、例えばウエハを800℃の温度にて4時間、その後、1000℃の温度にて16時間アニーリングする熱処理に付することによって検出することができる。酸素析出物についての検出限界は、今日では約5×10析出物/cmである。
【0020】
ウエハは、常套のチョクラルスキー結晶成長方法によって成長させたインゴットからスライスされる。インゴットの成長の間、いくつかの方法、例えば成長チャンバー内への気体窒素/炭素の導入及び/又はポリシリコン(polysilicon)溶融物への固体窒素/炭素の添加等によって、インゴット中に窒素及び/又は炭素を導入することができる。成長する結晶へ添加するドーパントの量は、(それ自体、典型的に用いられている)ポリシリコン溶融物への固体ドーパントの添加によって、より正確に制御することができる。例えば、結晶へ添加する窒素/炭素の量は、例えば、シリコン溶融物を形成する前のポリシリコンと共にルツボの中に導入される既知の直径のシリコンウエハに、既知の厚さの炭化ケイ素(SiC)又は窒化ケイ素(Si)の層を析出(deposit)させることによって、容易に決定することができる(Si及びSiCの密度は、それぞれ約3.18g/cm及び約3.21g/cmである)。
【0021】
標準的なチョクラルスキー成長方法、並びに、標準的なシリコンのスライシング、ラッピング、エッチング及びポリッシイング技術は、F.Shimuraの「Semiconductor Silicon Crystal Technology」、Academic press, Inc., 1989及びSilicon Chemical Etching(J. Grabmaier編)、Springer-Verlag, New York, 1982(引用することによって本明細書に含めることとする)に開示されている。本発明の方法のための出発物質は、ポリッシュされたシリコンウエハ、又は、ラップ及びエッチされているが、ポリッシュされてはいないシリコンウエハであってよい。更に、ウエハは、優勢な真性点欠陥として空孔又は自己格子間点欠陥を有し得る。例えば、ウエハは、中央部から周縁部にかけて空孔が優勢に存在するか、中央部から周縁部にかけて自己格子間原子が優勢に存在するか、あるいは、軸対称的な環の形態の自己格子間原子優勢材料によって囲まれた空孔優勢材料の中央コアを有し得る。
【0022】
処理方法
図1を参照すると、本発明の理想的析出ウエハの出発材料である単結晶シリコンウエハ1は、前方表面3、後方表面5、前記前方表面と前記後方表面との間の仮想的中央平面7を有している。本明細書において、用語「前方」および「後方」は、全体として平板状であるウエハの2つの主たる表面を区別するために使用される;ウエハの前方表面は、この用語を本明細書中で使用する場合に、必ずしもその後に電子デバイスを組み立てる表面ではなく、また、ウエハの後方表面は、この用語を本明細書中で使用する場合に、必ずしも電子デバイスを組み立てる表面と反対側のウエハの主表面ではない。更に、シリコンウエハは、典型的には、ある程度の全体的な厚みの変動(TTV(total thickness variation))、反り(warp)および湾曲(bow)を有するので、前方表面の各点と後方表面の各点との中間点は、正確に1つの平面内に含まれ得るとは限らないが、しかしながら実際の問題として、TTV、反りおよび湾曲の程度は一般に非常にわずかであるので、近い近似では、そのような中間点は、前方表面と後方表面との間のほぼ等しい距離にある仮想的な中央平面に含まれると表現することができる。
【0023】
B.ドープしたシリコンウエハにおける空孔生成
本発明によれば、ウエハを熱処理工程、工程S2(場合によって行う工程S1については、これより後段の部分にて説明する)に付してウエハを高温に加熱することによって、ウエハ1内に結晶格子空孔13を形成させ、及びそれによって結晶格子空孔13の数密度を増大させる。この熱処理工程は、ウエハを目標温度へ急速に加熱し、その温度にて比較的短時間でアニーリング処理する(例えば、ウエハを室温から1200℃の温度へ数秒間で加熱することができる)ラピッド・サーマル・アニーラー(rapid thermal annealer)にて行うことが好ましい。そのような市販のRTA炉の1つに、STEAG AST Electronic GmbH(Dornstadt、ドイツ)から市販されているモデル2800炉(model 2800 furnace)がある。一般に、ウエハは、1150℃を越えるが、約1300℃以下の温度に付される。一般に、ウエハは、約1200℃〜1275℃の範囲の温度、より典型的には約1225℃〜1250℃の範囲の温度に付される。
【0024】
内因性点欠陥(空孔及びシリコン自己格子間原子)は、温度に依存する拡散速度にて、単結晶シリコンの中を拡散することができる。従って、内因性点欠陥(intrinsic point defect、又は真性点欠陥)の濃度プロファイルは、温度の関数としての再結合速度と内因性点欠陥の拡散率(diffusivity)との関数である。例えば、内因性点欠陥は、ラピッドサーマルアニーリング工程においてウエハがアニーリングされる温度付近の温度では比較的移動し得るが、700℃程度の温度ではいずれかの商業的に実用的な間隔の時間では本質的に移動し得ない。これまでに得られた実験的証拠によれば、空孔の有効拡散速度は、約700℃以下の温度で、そしておそらくは、800℃または900℃あるいは1000℃の場合さえある温度ではかなりの程度遅いことが示されており、それより低い温度においては、空孔はいずれかの商業的に実用的な間隔の時間では移動しないと考えることができる。
【0025】
結晶格子空孔の生成を引き起こすことに加えて、ラピッド・サーマル・アニーリング工程は、シリコン出発物質中に存在する既存の酸素析出核形成中心の溶解を引き起こす。これら核形成中心は、例えば、ウエハをスライスする単結晶シリコンインゴットの成長の間に形成し得るし、又は、ウエハ若しくはウエハがスライスされたインゴットのそれまでの熱履歴におけるいくつかの他の事象(event)の結果として形成されたりし得る。従って、出発材料にこれらのような核形成中心が存在するか否かということは、これら核形成中心がラピッドサーマルアニーリング工程の間に溶解し得る場合には、あまり重要ではない。
【0026】
熱処理の間、ウエハは、1つの態様では比較的均一であり、もう1つの態様では不均一である空孔濃度プロファイルを形成するように選択される1種又はそれ以上の気体を含む雰囲気に曝される。
【0027】
1.非窒化性雰囲気及び非酸化性雰囲気の態様
1つの態様において、ウエハ1は非窒化性雰囲気(non-nitriding atmosphere)及び非酸化性雰囲気(non-oxidizing atmosphere)(即ち、不活性雰囲気)中で熱処理される。ラピッド・サーマル・アニーリング工程及び冷却工程における雰囲気又は環境(ambient)として非窒素含有及び非酸素含有ガスを用いる場合、アニーリング温度に達すると、迅速ではないとしても、ウエハ全体の空孔濃度の上昇がほぼ達成される。熱処理中にウエハ内にて得られる空孔濃度(数密度)のプロファイルは、ウエハの前方表面からウエハの後方表面へと比較的一定である。ウエハは、一般に、この温度にて、少なくとも1秒間、典型的には少なくとも数秒間(例えば、少なくとも3秒間)、好ましくは数十秒間(例えば、20秒間、30秒間、40秒間若しくは50秒間)、およびウエハの所望の特性に応じて、約60秒(これは市販のラピッドサーマルアニーラーについてほぼ限界である)までの範囲であり得る時間にて保持される。アニーリングの間に形成される温度に、これ以上の時間でウエハを保持することは、今日得られる実験的証拠に基づいて、空孔濃度の増加には至らないと考えられる。好適なガスには、アルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素および他のそのような不活性元素及び化合物ガス、又はそれらのガスの混合物が含まれる。
【0028】
今日までに得られた実験的証拠に基づけば、非窒化性雰囲気/非酸化性雰囲気は、酸素、水蒸気および他の酸化性ガスをせいぜい比較的低い分圧で有することが好ましい;即ち、その雰囲気は、酸化性ガスが全く存在しないものであるか、またはそのようなガスの分圧が空孔濃度の成長(又は増大)を抑制するのに充分な量のシリコン自己格子間原子を注入するには不充分な程度で含むものである。酸化性ガスの下限濃度は、正確には決定されていないが、0.01気圧(atm)、即ち10,000部/百万原子(ppma(parts per million atomic))の酸素分圧に関して、空孔濃度の増大および効果が認められないことが明らかにされている。従って、雰囲気は、酸素および他の酸化性ガスの分圧が0.01atm(10,000ppma)以下であることが好ましく;雰囲気中におけるこれらのガスの分圧が約0.005atm(5,000ppma)以下であることがより好ましく、約0.002atm(2,000ppma)以下であることが更により好ましく、約0.001atm(1,000ppma)以下であることが最も好ましい。
【0029】
2.表面酸化物層/窒化性雰囲気の態様
本発明の方法のもう1つの態様において、工程S2の前に、工程S1において、酸素含有雰囲気にてウエハ1を熱処理して、ウエハ1を包囲する表面酸化物層9を成長させる。一般に、酸化物層は、シリコン表面に生成する自然酸化物層(native oxide layer)(約15Å)よりも大きな厚さを有することになる。もう1つの態様では、酸化物層の厚さは一般に少なくとも約20Åである。いくつかの態様においては、ウエハは、少なくとも約25又は30Åの厚さを有することになる。今日までに得られた実験的証拠により、約30Åを越える厚さの酸化物層は、所望の効果を妨害することはないが、更なる利点を全く又はほとんどもたらさないことが示されている。
【0030】
酸化物層を形成した後、典型的に、窒化性雰囲気、即ち窒素ガス(N)又は窒素含有化合物ガスであって、曝されるシリコン表面を窒化することができるガス、例えばアンモニアの存在下にて、ラピッド・サーマル・アニーリング工程が行われる。別法として、又は追加して、雰囲気は非酸化性及び非窒化性ガス、例えばアルゴンを含むことができる。アニーリング温度に達すると、迅速ではないとしても、ウエハ全体の空孔濃度の増大がほぼ達成され、ウエハ中の空孔濃度プロファイルは比較的一様になる。
【0031】
3.自然酸化物層/窒化性雰囲気の態様
第3の態様では、出発ウエハはわずかに自然酸化物層を有している。そのようなウエハを窒化性雰囲気にてアニーリングすると、その効果は、第2の態様について観察される効果とは異なる。特に、向上させた酸化物層(エンハンスト酸化物層(enhanced oxide layer))を有するウエハを窒素雰囲気にてアニールする場合、アニーリング温度に達すると、迅速ではないとしても、空孔濃度の実質的に均一な増加がウエハのほぼ全体にわたって達成され;更に、所定のアニーリング温度において、空孔濃度はアニーリング時間の関数として有意に増加することはないように観察される。ウエハが自然の酸化物層しか有さず、ウエハの前方表面および後方表面を窒素中でアニーリング処理する場合には、得られるウエハは、ウエハの断面について、全体として「U字形状」の空孔濃度(数密度)プロファイルを有することになる;即ち、空孔の最大濃度が前方表面および後方表面の数マイクロメートルの所又はそれ以内の所に存在しており、それと比較して相対的に低く一定の濃度がウエハのバルク部全体に存在することになる。ウエハバルク部におけるその最小濃度は、初期では、エンハンスト酸化物層を有するウエハ中で得られる濃度にほぼ等しい。更に、アニーリング時間を増大させると、自然の酸化物層のみを有するウエハ中において空孔濃度の増大が得られることになる。
【0032】
従って、再び図1を参照すると、窒化性雰囲気にて、自然酸化物層のみを有するセグメントを本発明の方法に従ってアニーリングすると、得られる空孔のピーク濃度若しくは最大濃度は初期においては領域15及び15’内に位置しており、一方、シリコンセグメントのバルク部17は比較的より低い空孔及び核形成中心の濃度を有することになる。一般に、これらのピーク濃度の領域は、シリコンセグメント表面から、数ミクロン(例えば、約5〜10ミクロン)の範囲内、又はシリコンセグメント表面から数十ミクロン(例えば、約20若しくは30ミクロン)の範囲内であって、約40ミクロン〜約60ミクロンまでの範囲内に位置することになる。
【0033】
4.酸素含有雰囲気
ラピッド・サーマル・アニーリング工程及び冷却工程における雰囲気又は環境が酸素を含む場合、或いは、特にそのような雰囲気又は環境が窒素含有ガス、不活性ガス若しくはその両者との組合せで、酸素ガス(O)若しくは酸素含有ガス(例えば、高温水蒸気(pyrogenic steam))を含む場合、表面近くの領域における空孔濃度プロファイルは影響を受ける。今日までに得られた実験的証拠によれば、表面近くの領域の空孔濃度プロファイルは、雰囲気の酸素濃度と反対の関係を有するということが示されている。いずれか特定の理論にとらわれることなく、十分な濃度において、酸素中でアニーリングすると、シリコン表面が酸化され、その結果、シリコン自己格子間原子(silicon self-interstitals)の内側へのフラックス(flux)を生じる作用が得られると一般に考えられている。シリコン自己格子間原子のフラックスは酸化の速度によって制御され、その酸化の速度は雰囲気中の酸素の分圧によって制御することができる。このシリコン自己格子間原子の内側へのフラックスは、増大する酸素分圧の関数として、その内側への移動速度を増大して、表面で始まり、その後内側へ移動して、再結合を生じさせることによって、空孔濃度プロファイルを徐々に変える作用を有する。熱処理(S1及び/又はS2)の間の雰囲気中において、窒素含有ガスと組み合わせて酸素を用いると、中央平面と表面層との間のウエハバルク部に最大空孔濃度又はピーク空孔濃度が存在し、濃度はそれぞれの向きに徐々に減少する、「M字形状」の空孔プロファイルを得ることができる。雰囲気中に酸素が存在する結果、いずれか任意の深さの低い空孔濃度の領域が生成し得る。
【0034】
更に、自然酸化物層のみを有するウエハについての挙動と、エンハンスト酸化物層を有するウエハについての挙動との違いは、雰囲気中に分子状酸素又はその他の酸化性ガスを含ませることによって解消することができるということが、実験的証拠によって更に示唆されている。換言すれば、自然酸化物層のみを有するウエハを低い分圧の酸素を含む窒素雰囲気にてアニーリングすると、そのウエハはエンハンスト酸化物層を有するウエハと同様の挙動をする(即ち、熱処理したウエハ内に、比較的均一な濃度プロファイルが形成される)のである。いずれか特定の理論にとらわれることなく、自然酸化物層よりも厚みが大きい表面酸化物層は、シリコンの窒化を防止するシールドとして作用するように観察される。このように、この酸化物層は、出発ウエハ上に、存在しているか、又はアニーリング工程の間にエンハンスト酸化物層をその場で成長させることによって形成することができる。所望する場合には、ラピッド・サーマル・アニーリング工程の間の雰囲気は、少なくとも約0.0001atm(100ppma)の分圧、より好ましくは少なくとも約0.0002atm(200ppma)の分圧で含むことが好ましい。しかしながら、上述した理由から、酸素の分圧は、0.01atm(10000ppma)を越えないことが好ましく、好ましくは0.005atm(5000ppma)以下であり、より好ましくは0.002atm(2000ppma)以下であり、そして最も好ましくは0.001atm(1000ppma)以下である。
【0035】
従って、第4の態様において、ラピッド・サーマル・アニーリング工程中の雰囲気は、一般に、約30ミクロン以下のデヌーデッドゾーン深さを得るのに十分な酸素分圧を有している。一般に、デヌーデッドゾーン深さは、約5ミクロン以上で約30ミクロン以下の範囲であり、約10ミクロンから約25ミクロンまでの範囲であってよく、または約15ミクロンから約20ミクロンまでの範囲であってよい。特に、熱処理は、窒素含有ガス(例えばN)、非酸素含有・非窒素含有ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム等)、又はそれらの混合物、並びに、酸素含有ガス(例えば、O又は高温水蒸気)を含む雰囲気中で行うことができる。その雰囲気は、自己格子間原子の内側へのフラックスを生じさせるのに十分な酸素分圧(例えば、少なくとも約1ppma、5ppma、10ppma若しくはそれ以上)であって、約500ppma以下、好ましくは約400ppma以下、300ppma以下、200ppma以下、150ppma以下若しくは100ppma以下の場合もある分圧、そしていくつかの態様では約50ppma以下、約40ppma以下、約30ppma以下、約20ppma以下又は約10ppma以下の場合もある酸素分圧を有する。窒素含有ガスと、非窒素含有・非酸素含有ガスとの混合物を、酸化性ガスとともに用いる場合、2種のガスのそれぞれの割合(例えば、窒素含有ガスの不活性ガスに対する割合)は、約1:10〜約10:1、約1:5〜約5:1、約1:4〜約4:1、約1:3〜約3:1、又は約1:2〜約2:1の範囲であってよく、いくつかの態様では、窒素含有ガスの不活性ガスに対する割合は1:5、1:4、1:3、1:2、1:1であることが好ましい。換言すれば、アニーリング工程及び冷却工程の雰囲気としてそのような気体混合物を使用すると、その中の窒素含有ガスの濃度は、約1%から約100%以下の範囲、約10%から約90%までの範囲、約20%から約80%までの範囲、又は約40%から約60%までの範囲で変動し得る。
【0036】
5.異なる雰囲気への同時曝露
本発明の別の態様では、ウエハの前方表面と後方表面を、1種又はそれ以上の窒化性又は非窒化性ガスをそれぞれ含み得る異なる雰囲気に曝露する(又は曝す)ことができる。例えば、ウエハの前方表面を非窒化性雰囲気に曝露しながら、ウエハの後方表面を窒化性雰囲気に曝露することができる。異なる雰囲気を有する熱処理に曝されたウエハは、各表面及びそれが曝露された雰囲気の条件に応じて、非対称な濃度プロファイルを有することができる。例えば、前方表面が自然酸化物層以外の層を有さず(従って、自然酸化物層のみを有し)、後方表面がエンハンスト酸化物層を有し、窒化性雰囲気中でウエハを熱処理する場合、ウエハの前方部分における空孔濃度は「U字形状」プロファイルにより近似するものとなり、一方、ウエハの後方部分はより均質な性質になり得る。別法として、複数(例えば、2若しくは3、又はそれ以上)のウエハを向かい合わせて(face-to-face)積み重ねたアレンジメントとして、それら複数のウエハを同時にアニーリングすることができる。このようにアニーリングすると、向かい合って接触する面どうしは、アニーリングの間、雰囲気から機械的にシールドされる。別法として、及びラピッド・サーマル・アニーリング工程の間に用いられる雰囲気、並びに、ウエハの所望の酸素析出物プロファイルに応じて、ウエハの1つの表面(例えば前方表面3)のみに酸化物層を形成することもできる。
【0037】
C.ドーピング及び熱処理したシリコンウエハの急速クーリング工程
工程S2が完了すると、工程S3において、単結晶シリコンの中で結晶格子空孔が比較的移動し得る温度範囲を通って、少なくともシリコン内で結晶格子空孔が比較的移動し得ない温度Tへ、ウエハを急速に冷却する。この温度範囲を通ってウエハの温度を低下させる場合、空孔はウエハの表面及び/又はウエハ表面の自然酸化物層に拡散して消滅し、このようにしてこの範囲内の温度にウエハを維持する時間的長さに応じた変化の程度で、空孔濃度プロファイルの変化が導かれる。仮にウエハを無限の時間的長さでこの範囲の温度に保つとすると、空孔濃度プロファイルは再び工程S2の初期プロファイルと同様に(例えば、不均一な「U字形状」又は非対称なプロファイルに)なるが、平衡濃度は熱処理工程が完了した直後の濃度よりも低くなるであろう。しかしながら、ウエハを急速に冷却することによって、表面近くの領域における結晶格子空孔の分布は著しく低下し、それによって変性された空孔濃度プロファイルが得られる。例えば、最初は均一なプロファイルを有しているウエハを急速に冷却することによって、最大空孔濃度が中央平面7にあるか又は中央平面7の近くに存在しており、ウエハの前方表面3及び後方表面5の方向へ空孔濃度が低下する不均一なプロファイルが得られる。空孔濃度プロファイルが、冷却する前は「U字形状」である場合、ウエハの急速冷却後の最終的な濃度プロファイルは「M字形状」になる。即ち、空孔濃度プロファイルは、急速冷却の前の「U字形状」プロファイルと同様に中央平面近くに局所的最小濃度を有し、表面領域において空孔が抑制されることによって、一方は中央平面と前方表面との間で、他方は中央平面と後方表面との間である2つの局所的最大濃度を有することになる。最後に、冷却する前の空孔濃度プロファイルが非対称である場合、最終濃度は、「M字形状」プロファイルと同様に、中央平面と1つの表面との間に局所的最大濃度を有しており、均一な濃度プロファイルのものを冷却した後に形成されるプロファイルと同様に、中央平面から他の表面へ全体として低下することになる。
【0038】
一般に、平均冷却速度Rは、この温度範囲では、少なくとも約5℃/秒であり、好ましくは少なくとも約20℃/秒である。所望のデヌーデッドゾーンの深さに応じて、平均冷却速度は好ましくは少なくとも約50℃/秒であり、より好ましくは少なくとも約100℃/秒であり、今日ではいくつかの用途については、約100℃〜約200℃/秒の冷却速度が好ましい。ウエハが、一旦、単結晶シリコン内で結晶格子空孔が比較的移動し得る温度範囲を外れた温度へ冷却されると、冷却速度はウエハの析出特性にあまり大きく影響を与えず、従って、狭い範囲が重要であるようには観察されなくなる。上述のように、今日得られる実験的証拠は、空孔の有効拡散速度は約700℃以下の温度では典型的にかなり遅くなると示しており、そしてそれより低い温度では商業的に実用的な時間内では空孔は移動し得ないと考えられている。冷却工程を、加熱工程を行う雰囲気と同じ雰囲気にて実施することができれば、好都合である。
【0039】
工程S3の間、ウエハ内の空孔と自己格子間酸素原子とは相互作用して、酸素析出核形成中心を生じる。酸素析出核形成中心の濃度は主として空孔濃度に依存し、そして同様に、酸素析出核形成中心のプロファイルは空孔の濃度プロファイルに対応する。特に、高空孔領域(ウエハバルク部)には酸素析出核形成中心が生成し、低空孔領域(ウエハ表面の近くの部分)には酸素析出核形成中心が生成しない。このように、ウエハを種々の空孔濃度の領域に分けることによって、酸素析出核形成中心のテンプレートが形成される。更に、ウエハバルク部における酸素析出核形成中心の分布は、空孔の分布に対応する。即ち、その分布は不均一であって、例えば、中央平面の部分又はその近くの部分に最大濃度を有し、前方表面及び後方表面の方向へ低下する「M字形状」又は非対称の分布を有することによって特徴付けられるプロファイルを有し得る。
【0040】
本発明によれば、ウエハバルク部内に生成する酸素析出核形成中心は、ラピッド・サーマル・アニーリング工程が終了すると「安定化」される。即ち、エピタキシャル・デポジションのような、ラピッド・サーマル・トリートメント(急速熱処理)に耐え得る寸法へ核形成中心を成長させる、その後の長期間(例えば、時間単位)の加熱処理は必要とされない。上述したように、窒素及び/又は炭素ドーパント原子はシリコン内の空孔の拡散を遅延させ、それによって安定化された酸素析出核形成中心(従って、これらは約1150℃以下の温度では溶解し得ない)を最終的に形成する空孔の臨界過飽和が起こる温度が上昇すると今日では考えられている。
【0041】
工程S3の後で、ウエハは、前方表面と、該前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分との間のウエハの領域を有し、酸素析出核形成中心を有していない表面層、並びに、中央平面と前記第1の領域との間のウエハの第2の領域であって、安定化された酸素析出核形成中心を有するバルク層を有している。ウエハ内のドーパントの濃度によって、約1150℃〜約1300℃の範囲の温度にて、安定化された酸素析出核形成中心を溶解させることができる。従って、安定化された酸素析出核形成中心は、工程S2の間において成長した(grown-in)酸素析出核形成中心の溶解を妨げることなく、その後の熱処理、例えばエピタキシャル・デポジションに耐えることができる。
【0042】
D.酸素析出物の成長
工程S4において、ウエハを酸素析出物成長熱処理に付して、安定化された酸素析出核形成中心を酸素析出物へと成長させる。例えば、ウエハのアニーリングを800〜1000℃の温度にて16時間行うことができる。別法として及び好ましくは、電子デバイス製造プロセスの第1工程として、ウエハを800〜1000℃の炉の中に置くことができる。温度を800℃又はそれ以上に上昇させると、酸素析出核形成クラスターは空孔と自己格子間原子酸素を消費することによって析出物に成長するが、一方、表面近くの領域では、酸素析出核形成中心は生成せず、何も起こらない。
【0043】
図1に示すように、ウエハ内において得られる酸素析出物の深さの分布は、前方表面3及び後方表面5からそれぞれ深さt、t’の部分へ延びる酸素析出物のない材料15及び15’の明らかな領域(デヌーデッドゾーン)によって特徴付けられる。酸素析出物のない領域15及び15’の間には、上述のように空孔のプロファイルに依存するプロファイルを有する不均一な酸素析出物の濃度プロファイルを有する領域17が存在する。
【0044】
領域17における酸素析出物の濃度は、主として加熱工程の関数であり、二次的に冷却速度の関数である。一般に、酸素析出物の濃度は、加熱工程におけるアニーリング時間の増加及び温度の上昇と共に上昇し、約1×10〜約5×1010析出物/cmの範囲の析出物密度が通常は得られる。
【0045】
酸素析出物のない材料(デヌーデッドゾーン)15及び15’の、前方表面3及び後方表面5からのそれぞれの深さt、t’は、主として、結晶格子空孔がシリコン内で比較的動き得る温度範囲を通る冷却速度の関数である。一般に、深さt、t’は、冷却速度の低下と共に増大し、少なくとも約10マイクロメートル、約20マイクロメートル、約30マイクロメートル、約40マイクロメートル、約50マイクロメートル、約70マイクロメートル、又は場合によっては約100マイクロメートルに達することさえあるデヌーデッドゾーン深さが得られる。重要なことは、デヌーデッドゾーンの深さは、電子デバイスの製造プロセスの詳細から本質的に独立しており、更に、常套のように実施される酸素の外方拡散(out-diffusion)に依存しないということである。しかしながら、実際の問題として、浅いデヌーデッドゾーン深さを得るために必要とされる冷却速度はいくらか過度であって、サーマル・ショックによってウエハの破砕(shattering)という危険性が生じ得る。従って、別法として、デヌーデッドゾーンの厚さは、ウエハを過度な速度よりも低い速度にて冷却しながら、(上述のような)ウエハをアニーリングする雰囲気の選択によって制御することができる。換言すれば、所定の冷却速度について、深いデヌーデッドゾーン(例えば、50+ミクロン)用、中間的なデヌーデッドゾーン(例えば、30〜50ミクロン)用、浅いデヌーデッドゾーン(例えば、約30ミクロン以下)用、又は、デヌーデッドゾーンのないもの用のテンプレート(template)を形成する雰囲気を選択することができる。アニーリング及び冷却工程についての正確な条件に関して、その条件は、本発明の範囲から離れることがなければ、本明細書に記載する条件以外のものであってもよい。更に、そのような条件は、例えば、所望の深さt及び/又はt’を最適化するように、アニーリングの持続時間及び温度、並びに雰囲気条件(即ち、雰囲気の組成及び酸素分圧)を調節することによって、実験的に求めることができる。
【0046】
本発明の方法において用いる急速熱処理はウエハの前方表面及び後方表面における表面から少量の酸素の外方拡散(out-diffusion)を生じるが、その外方拡散の程度はデヌーデッドゾーンを生じさせるための常套の方法において観察される程度よりも著しく小さいものである。その結果、本発明の理想的な析出ウエハは、シリコン表面からの距離の関数として、実質的に均一な自己格子間酸素濃度を有する。例えば、酸素析出熱処理の前に、ウエハは、ウエハの中央部からシリコン表面の約15ミクロン以内にあるウエハの領域へ、より好ましくはシリコンの中央部からシリコン表面の約10ミクロン以内にあるウエハの領域へ、更により好ましくはシリコンの中央部からシリコン表面の約5ミクロン以内にあるウエハの領域へ、最も好ましくはシリコンの中央部からシリコン表面の約3ミクロン以内にあるウエハの領域へ自己格子間酸素の実質的に均一な濃度を有することになる。ここで、実質的に均一な酸素濃度とは、酸素濃度の変動が約50%以下、好ましくは約20%以下、最も好ましくは約10%以下であることを意味する。
【0047】
一般に、酸素析出物熱処理は、熱処理したウエハから実質的な量の酸素の外方拡散を生じさせない。その結果、ウエハ表面から数ミクロンを越える距離におけるデヌーデッドゾーン内の自己格子間酸素の濃度は、析出物熱処理の結果として、あまり変化することにはならない。例えば、ウエハのデヌーデッドゾーンが、シリコンの表面と、前方表面から中央平面へ向かって測定して距離D(少なくとも10マイクロメートルである)の部分との間のウエハの領域からなる場合、シリコン表面から距離Dの半分に等しい距離におけるデヌーデッドゾーン内の位置における酸素濃度は、一般に、デヌーデッドゾーン内のいずれかの部分の自己格子間酸素濃度のピーク濃度の少なくとも約75%になる。ある酸素析出熱処理については、この位置における自己格子間酸素濃度は多少なりとも高くなって、デヌーデッドゾーン内の最高酸素濃度の少なくとも85%、少なくとも90%、又は場合によっては少なくとも95%にもなり得る。
【0048】
E.エピタキシャル層
本発明の1つの態様例では、理想的析出ウエハの表面に、エピタキシャル層をデポジット(deposit、又は付着)させることができる。上述のような本発明の酸素析出物核形成及び安定化プロセスは、エピタキシャル・デポジション(又はエピタキシャル成長)の前又は後のいずれでも行うことができる。安定化された酸素析出核形成中心が生成することによって、導入した析出物プロファイルを溶解させることなく、エピタキシャル・デポジションプロセスを実施することができる。
【0049】
エピタキシャル層は、従来知られており、かつ、気相のシリコン含有組成物のデポジションの技術分野において当業者に用いられている。本発明の好ましい態様では、ウエハの表面を、シリコン(ケイ素)を含む揮発性ガス(例えば、SiCl、SiHCl、SiHCl、SiHCl及びSiH)を含む雰囲気に曝露する。雰囲気が、キャリヤーガス(好ましくはH)を含むことも好ましい。1つの態様において、エピタキシャル・デポジションの間のシリコン源は、SiHCl又はSiHである。SiHClを使用する場合、デポジションの間の反応装置の減圧は約500Torr〜約760Torrであることが好ましい。他方、SiHを使用する場合、反応装置は好ましくは約100Torrであることが好ましい。デポジションの間のシリコン源がSiHClであることが最も好ましい。この場合は、他のシリコン源を用いる場合よりもより安価となり得る。更に、SiHClを使用するエピタキシャル・デポジションは、大気圧で行うこともできる。この場合には、真空ポンプが必要ではなくなり、また、反応チャンバーの圧潰を防止するために堅牢にする必要もなくなるので、有利である。更に、安全性を損なうおそれもより少なくなり、反応チャンバー内に空気又はその他の気体がリークするおそれも低減することができる。
【0050】
エピタキシャル・デポジションの間、ウエハ表面を、シリコンを含む雰囲気によってウエハ表面に多結晶シリコンがデポジットすることを防止するのに十分な温度である少なくとも約800℃、より好ましくは約900℃、最も好ましくは約1100℃に保つことが好ましい。エピタキシャル・デポジションの成長の速度は、約0.5〜約7.0μm/分であることが好ましい。例えば、本質的に約2.5モル%のSiHCl及び約97.5モル%のHからなる雰囲気を約1150℃の温度及び約1atmの圧力にて用いることによって、約3.5〜4.0μm/分の速度を達成することができる。
【0051】
所望する場合、エピタキシャル層は、更に、p−型又はn−型のドーパントを含むこともできる。例えば、エピタキシャル層がホウ素を含むことが好ましい場合もある。そのような層は、例えば、デポジションの間の雰囲気中にBを含ませることによって形成することができる。所望の特性(例えば、抵抗率)を得るために用いられる雰囲気の中のBのモル分率は、いくつかのファクター、例えば、エピタキシャル・デポジションの間における特定の基材からのホウ素外方拡散の程度、コンタミナントとして基材及び反応装置中に存在するp−型ドーパント及びn−型ドーパントの量、並びに、反応装置の圧力及び温度等に依存することになる。高い抵抗率の用途には、エピタキシャル層中のドーパント濃度は実用的な程度で低くあるべきである。
【0052】
F.シリコン・オン・インシュレータ構造の製造
本発明の窒素/炭素ドーピングによる酸素析出核の安定化は、米国特許第6,236,104号(引用することによって、その開示内容を本明細書に含めるものとする)に開示されているようなシリコン・オン・インシュレータ(SOI)構造を製造するために用いることもできる。SOI構造は、ベースウエハ又はハンドルウエハを、この技術分野において標準的なイオン注入プロセス(例えば、米国特許第5,436,175号参照)に付することによって製造することができる。デヌーデッドゾーン内に位置する酸化物層を生じさせるイオン注入プロセスの前に、ハンドルウエハに理想的析出ウエハプロセスを行うことが好ましい。
【0053】
別法として、デバイス層ウエハを、窒素/炭素ドープして安定化させたハンドルウエハへデバイス層ウエハにボンディングした後、同じくこの技術分野においてよく知られているウエハ・シニング(thinning)技術(例えば、米国特許第5,024,723号参照)を用いて、デバイス層ウエハの一部をエッチング除去することによって、SOI構造を製造することができる。窒素/炭素ドープしたハンドルウエハを理想的析出ウエハプロセスに付した後に、デバイス層ウエハを前記ハンドルウエハにボンディングすることが好ましい。しかしながら、別法として、最初にデバイス層ウエハを窒素/炭素ドープしたハンドルウエハにボンディングして、SOI構造の全体を理想的析出ウエハプロセスに付することもできる。
【0054】
窒素/炭素安定化に加えて、2001年6月22日付けで出願された米国特許出願第60/300,208号(引用することによって、その開示内容を本明細書に含めるものとする)に開示されている熱安定化プロセスによって、酸素析出核形成中心の安定化を更に向上させることができる。
【0055】
G.結晶格子空孔の測定
単結晶シリコン内の結晶格子空孔の測定を、白金拡散分析によって行うこともできる。一般に、拡散時間及び温度を、白金拡散についてFrank-Turnbull機構が優勢であるが、白金原子による空孔修飾(vacancy decoration)の定常状態に達するのに十分であるように好ましくは選択して、白金をサンプル上にデポジットさせ、水平表面内で拡散させる。本発明に典型的な空孔濃度を有するウエハについては、730℃の温度で20分間の拡散時間を用いることもできるが、より正確なトラッキングを、より低い温度、例えば約680℃で達成することができるように観察される。更に、ケイ化プロセスによって生じ得る影響を最小とするため、白金デポジション法は1単分子層(monolayer)以下の表面濃度を生じることが好ましい。白金拡散技術は、例えば、Jacobら,J. Appl. Phys.,vol.82, p.182(1997);Zimmermann and Ryssel,「The Molding of Platinum Diffusion in Silicon Under Non-Equilibrium Conditions」J. Electochemical Society, vol 139, p. 256(1992);Zimmermann, Goesele, Seilenthal and Eichiner, 「Vacancy Concentration Wafer Mapping in Silicon」, Journal of Crystal Growth, vol. 129, p.582 (1993);Zimmermann and Flaster,「Investigation of the Nucleation of Oxygen Precipitates in Czochralski Silicon At Any Early Stage」Appl. Phys. Lett., vol.60, p.3250(1992);及びZimmermann and Ryssel, Appl. Phys. Lett., vol.55, p.121(1992)に記載されている。
【0056】
尚、上述の記載事項は本発明を説明することを目的とするものであって、これによって本発明が限定されるものではないと理解されたい。上述の記載事項を読むことによって、多くの態様例が当業者には明らかになるであろう。従って、発明の範囲は、上述の記載事項のみを参照することによって決められるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項及びその記載事項と均等な範囲の事項に基づいて決められるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方はウエハの前方表面であり、他方はウエハの後方表面である、全体として平行な2つの主表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、並びに、前記前方表面と後方表面とを連絡する外周縁部を有する単結晶シリコンウエハであって、
前記ウエハは、窒素ドーパントを含んでなり、前記窒素ドーパントの濃度はウエハを第1の温度Tから第2の温度Tへ速度Rにて冷却する際に、安定化された酸素析出核形成中心の生成を促進するのに十分な濃度であって、前記安定化された酸素析出核形成中心は1150℃未満の温度では溶解し得ないが、1150℃〜1300℃の範囲の温度では溶解することができ、温度Tは1150℃〜1300℃の範囲にあり、温度Tは、700℃〜1000℃の範囲の、シリコン内において結晶格子空孔が移動し得ない温度であり、速度Rは少なくとも5℃/秒であって;
前記ウエハは、さらに表面層を含んでなり、前記表面層は、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有し、前記距離Dは少なくとも10マイクロメートルであり、安定化された酸素析出核形成中心を有しておらず;並びに
前記ウエハは、さらにバルク層を含んでなり、前記バルク層は、中央平面と表面層との間のウエハの第2の領域を有し、安定化された酸素析出核形成中心を有している単結晶シリコンウエハ。
【請求項2】
窒素の濃度が1×1012〜5×1014原子/cmの範囲である請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項3】
ウエハ内の窒素の濃度が1×1012〜1×1013原子/cmの範囲である請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項4】
バルク層内の安定化された酸素析出核形成中心は、ピーク濃度が中央平面若しくはその付近に存在し、ウエハの前方表面の向きに全体として低下する濃度プロファイルを有する請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項5】
バルク層内の安定化された酸素析出核形成中心は、ピーク密度が中央平面付近と表面層との間の特定の部分にある濃度プロファイルを有する請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項6】
距離Dは少なくとも20マイクロメートルである請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項7】
距離Dは少なくとも50マイクロメートルである請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項8】
距離Dは30〜100マイクロメートルの範囲である請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項9】
ウエハは、その少なくとも1つの表面にエピタキシャル層を有する請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項10】
温度Tは1200℃〜1300℃の範囲にある請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項11】
速度Rが少なくとも10℃/秒である請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項12】
速度Rが少なくとも20℃/秒である請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項13】
速度Rが少なくとも50℃/秒である請求項1記載の単結晶シリコンウエハ。
【請求項14】
一方はウエハの前方表面であり、他方はウエハの後方表面である、全体として平行な2つの主表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、並びに、前記前方表面と後方表面とを連絡する外周縁部を有する単結晶シリコンウエハであって、
前記ウエハは、窒素ドーパントを含んでなり、窒素の濃度は1×1012〜5×1014原子/cmの範囲であって;
前記ウエハは、さらに表面層を含んでなり、前記表面層は、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有し、前記距離Dは少なくとも10マイクロメートルであり、安定化された酸素析出核形成中心を有しておらず;並びに
前記ウエハは、さらにバルク層を含んでなり、前記バルク層は、中央平面と表面層との間のウエハの第2の領域を有し、安定化された酸素析出核形成中心を有している単結晶シリコンウエハ。
【請求項15】
一方はウエハの前方表面であり、他方はウエハの後方表面である、全体として平行な2つの主表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、並びに、前記前方表面と後方表面とを連絡する外周縁部を有しており、窒素及び炭素からなる群から選ばれるドーパントを含んでなり、前記ドーパントの濃度は、ウエハを第1の温度Tから第2の温度Tへ速度Rにて冷却する際に、安定化された酸素析出核形成中心の生成を促進するのに十分な濃度であり、前記安定化された酸素析出核形成中心は1150℃未満の温度では溶解し得ないが、1150℃〜1300℃の範囲の温度では溶解することができ、温度Tは1150℃〜1300℃の範囲の温度であり、温度Tは、700℃〜1000℃の範囲の、結晶格子空孔がシリコン内で移動し得ない温度であり、速度Rは少なくとも5℃/秒であって、更に、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有し、前記距離Dは少なくとも10マイクロメートルであって、安定化された酸素析出核形成中心を有していない表面層、並びに、前記中央平面と表面層との間のウエハの第2の領域を有し、安定化された酸素析出核形成中心を有するバルク層を有してなる単結晶シリコンハンドルウエハ;
単結晶シリコンデバイス層;並びに
前記ハンドルウエハとデバイス層との間の絶縁層
を有するシリコン・オン・インシュレータ構造。
【請求項16】
制御された酸素析出物挙動を有する単結晶シリコンウエハを製造する方法であって、
チョクラルスキー法によって成長させた単結晶シリコンインゴットからスライスされたウエハであって、前方表面、後方表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有し、前記距離Dは少なくとも10マイクロメートルである前方表面層、中央平面と前方表面層との間のウエハの領域を有するバルク層、並びに窒素ドーパントを有しており、前記窒素ドーパントの濃度はウエハを第1の温度Tから第2の温度Tへ速度Rにて冷却する際に、安定化された酸素析出核形成中心の生成を促進するのに十分な濃度であり、安定化された酸素析出核形成中心は1150℃未満の温度では溶解し得ないが、1150℃〜1300℃の範囲の温度で溶解することができ、温度Tは1150℃〜1300℃の範囲の温度であり、温度Tは、700℃〜1000℃の範囲の、結晶格子空孔がシリコン内で移動し得ない温度であり、速度Rは少なくとも5℃/秒であるウエハを選択すること;
前記ウエハを少なくとも1150℃の温度へ加熱して、前方表面層及びバルク層に結晶格子空孔を生じさせること;
空孔ピーク密度がバルク層に存在し、その濃度はウエハのピーク密度の位置からウエハの前方表面の向きに全体として低下して、前方表面層における空孔濃度とバルク層における空孔濃度との差が、安定化された酸素析出核形成中心が前方表面層には生成せず、安定化された酸素析出核形成中心がバルク層には生成するような空孔濃度プロファイルをウエハ内に生じさせる速度にて、前記加熱されたウエハを冷却すること;並びに
前記加熱されたウエハを冷却する際に、バルク層内の安定化された酸素析出核形成中心の濃度を主として空孔の濃度に依存させて、バルク層内に安定化された酸素析出核形成中心を生成させること
を含んでなる方法。
【請求項17】
ウエハ内の窒素の濃度が1×1012〜5×1014原子/cmである請求項16記載の方法。
【請求項18】
ウエハ内の窒素の濃度が1×1012〜1×1013原子/cmである請求項16記載の方法。
【請求項19】
ウエハを少なくとも1175℃の温度まで加熱する請求項16記載の方法。
【請求項20】
ウエハを少なくとも1200℃の温度まで加熱する請求項16記載の方法。
【請求項21】
ウエハを1200℃〜1275℃の範囲の温度まで加熱する請求項16記載の方法。
【請求項22】
ウエハを、加熱しながら、アルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素及び窒素又は窒素含有ガスからなる群から選ばれる1種又はそれ以上のガスを含む雰囲気に曝す請求項16記載の方法。
【請求項23】
雰囲気がアルゴンを含んでなる請求項22記載の方法。
【請求項24】
雰囲気が窒素又は窒素含有ガスを含んでなる請求項22記載の方法。
【請求項25】
雰囲気がアルゴン及び窒素又は窒素含有ガスを含んでなる請求項22記載の方法。
【請求項26】
雰囲気が0.01気圧以下の酸素の分圧を有する請求項22記載の方法。
【請求項27】
雰囲気が0.005気圧以下の酸素の分圧を有する請求項22記載の方法。
【請求項28】
雰囲気が0.002気圧以下の酸素の分圧を有する請求項22記載の方法。
【請求項29】
雰囲気が0.001気圧以下の酸素の分圧を有する請求項22記載の方法。
【請求項30】
雰囲気が0.0001〜0.01気圧の範囲の酸素の分圧を有する請求項22記載の方法。
【請求項31】
雰囲気が0.0002〜0.001気圧の範囲の酸素の分圧を有する請求項22記載の方法。
【請求項32】
ウエハの前方表面を、加熱しながら、第1の雰囲気に曝し、及び前記第1の雰囲気はアルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素及び窒素又は窒素含有ガスからなる群から選ばれる1種又はそれ以上のガスを含んでなり、並びに、ウエハの後方表面を、加熱しながら、第2の雰囲気に曝し、及び前記第2の雰囲気はアルゴン、ヘリウム、ネオン、二酸化炭素及び窒素又は窒素含有ガスからなる群から選ばれる1種又はそれ以上のガスを含んでなり、前記第1の雰囲気と第2の雰囲気とは少なくとも1種の共通しないガスを含む請求項16記載の方法。
【請求項33】
結晶格子空孔を生じさせる熱処理の前に、ウエハを酸素含有雰囲気内で少なくとも700℃の温度へ加熱して、結晶格子空孔のためのシンクとして機能することができる表面二酸化ケイ素層を形成する請求項16記載の方法。
【請求項34】
冷却速度は、結晶格子空孔がシリコン内で移動し得る温度範囲を通って、少なくとも5℃/秒である請求項16記載の方法。
【請求項35】
冷却速度は、結晶格子空孔がシリコン内で移動し得る温度範囲を通って、少なくとも20℃/秒である請求項16記載の方法。
【請求項36】
冷却速度は、結晶格子空孔がシリコン内で移動し得る温度範囲を通って、少なくとも50℃/秒である請求項16記載の方法。
【請求項37】
冷却速度は、結晶格子空孔がシリコン内で移動し得る温度範囲を通って、少なくとも100℃/秒である請求項16記載の方法。
【請求項38】
安定化された酸素析出核形成中心がバルク層に生成した後、ウエハの少なくとも1つの表面にエピタキシャル層をデポジットすることを含んでなる請求項16記載の方法。
【請求項39】
制御された酸素析出物挙動を有する単結晶シリコンウエハを製造する方法であって、
チョクラルスキー法によって成長させた単結晶シリコンインゴットからスライスされたウエハであって、前方表面、後方表面、前記前方表面と後方表面との間の中央平面、前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有し、前記距離Dは少なくとも10マイクロメートルである前方表面層、中央平面と前方表面層との間のウエハの領域を有するバルク層、並びに窒素ドーパントを有しており、前記窒素の濃度は1×1012〜5×1014原子/cmの範囲であるウエハを選択すること;
前記ウエハを熱処理に付して、バルク層及び前方表面層に結晶格子空孔を生じさせること;
前記加熱されたウエハを、空孔ピーク密度がバルク層に存在し、その濃度はウエハのピーク密度の位置からウエハの前方表面の向きに全体として低下して、前方表面層における空孔濃度とバルク層における空孔濃度との差が、安定化された酸素析出核形成中心が前方表面層には生成せず、安定化された酸素析出核形成中心がバルク層には生成するように、空孔濃度プロファイルをウエハ内に生じさせる速度にて冷却すること;並びに
前記加熱されたウエハを冷却する際に、バルク層内の安定化された酸素析出核形成中心の濃度を主として空孔の濃度に依存させて、バルク層内に安定化された酸素析出核形成中心を生成させること
を含んでなる方法。
【請求項40】
ウエハが、ポリッシュされたシリコンウエハ並びにラッピング及びエッチングされているがポリッシュされていないシリコンウエハからなる群から選ばれる請求項1に記載のウエハ。
【請求項41】
前記前方表面から中央平面へ向かって測定して距離Dの部分と前記前方表面との間のウエハの領域を有する表面層は、エピタキシャル層とは異なる層である請求項1に記載のウエハ。
【請求項42】
前記表面層を有するウエハの領域は、常套のチョクラルスキー結晶成長法に従って成長させたインゴットからスライスされたウエハの領域である請求項1に記載のウエハ。

【図1】
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【公開番号】特開2010−161393(P2010−161393A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41629(P2010−41629)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【分割の表示】特願2003−560976(P2003−560976)の分割
【原出願日】平成14年12月23日(2002.12.23)
【出願人】(392026316)エムイーエムシー・エレクトロニック・マテリアルズ・インコーポレイテッド (74)
【氏名又は名称原語表記】MEMC ELECTRONIC MATERIALS,INCORPORATED
【Fターム(参考)】