説明

立体画像表示システム及び偏光メガネ

【課題】クロストーク及び色味ずれを抑制しうる立体画像表示システムを提供する。
【解決手段】位相差を有する第一領域123Aと、位相差を有さないとを有する第二の位相差フィルム123を備えるディスプレイ装置100と、第一領域123Aの遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する右眼用位相差フィルム211と、右眼用位相差フィルム211の遅相軸と略+45°及び略−45°の一方の角度をなす透過軸を有する右眼用偏光板212とを備える右眼用部材210と、第一領域123Aの遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する左眼用位相差フィルム221と、左眼用位相差フィルム221の遅相軸と略+45°及び略−45°の他方の角度をなす透過軸を有する左眼用偏光板222とを備える左眼用部材220を備える偏光メガネ200を、立体画像表示システムに設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体画像表示システム及び当該システムにおいて使用される偏光メガネに関する。
【背景技術】
【0002】
立体画像(3次元画像)を表示しうる立体画像表示システムにおける表示方式のうち、代表的な方式の一つに、パッシブ方式と呼ばれる方式がある。パッシブ形式の立体画像表示システムでは、通常、ディスプレイ装置の同一画面内に右眼用画像と左眼用画像とを同時に表示させ、これらの画像を専用の偏光メガネを用いて左右の目それぞれに振り分けるようにしている(特許文献1〜6等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3767962号公報
【特許文献2】特許第3796414号公報
【特許文献3】米国特許第5113285号明細書
【特許文献4】特許第2882393号公報
【特許文献5】特開2008−170557号公報
【特許文献6】特開2002−196281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
立体画像表示システムにおいて、ディスプレイ装置は偏光板及び位相差フィルムを備え、これらの偏光板及び位相差フィルムを適切に組み合わせることによって、右眼用画像と左眼用画像とを異なる偏光状態の光で表示するようになっている。ところが、一般に位相差フィルムは波長分散性を有するので、当該位相差フィルムを透過する光に発現する位相差(レターデーション)Reの大きさは波長により異なる。そのため、立体画像表示システムにおいては、クロストークが生じたり、右眼用画像と左眼用画像とで色味が異なったりすることがあった。ここでクロストークとは、右眼用画像が左眼で視認されたり、左眼用画像が右眼で視認されたりする現象を意味する。また、以下の説明において、右眼用画像と左眼用画像とで色味が異なる現象を「色味ずれ」ということがある。
【0005】
クロストークは、位相差フィルムの波長分散性のために、画像を表示する偏光の偏光状態が波長によって異なることにより、偏光メガネによって遮断されるべき偏光の一部が偏光メガネを透過することにより生じるものと考えられる。また、色味ずれは、同様に位相差フィルムの波長分散性のために、画像を表示する偏光の偏光状態が波長によって異なることにより、偏光メガネを透過するべき偏光の一部が偏光メガネで遮断されることにより生じるものと考えられる。
【0006】
そこで、前記の位相差フィルムの波長分散性を補償する光学補償フィルムを偏光メガネに設けることにより、クロストーク及び色味ずれを解消することが考えられる。ところが、光学補償フィルムを用いると、当該光学補償フィルムの分だけ偏光メガネの製造コストがかさむことになる。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、クロストーク及び色味ずれを抑制しうる立体画像表示システム及び当該システムに使用しうる偏光メガネを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、ディスプレイ装置において生じる位相差の屈折率異方性を打ち消しうるように、偏光メガネの位相差フィルムの光学軸を調整することにより、クロストーク及び色味ずれを抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の〔1〕〜〔11〕を要旨とする。
【0009】
〔1〕 ディスプレイ装置と偏光メガネとを備える立体画像表示システムであって、
前記ディスプレイ装置は、第一の偏光板を備え前記第一の偏光板を透過した光により右眼用画像及び左眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、第一の位相差フィルムと、第二の位相差フィルムとをこの順に備え、
前記第一の位相差フィルムは、面内で一様な位相差をその表示領域に有し、
前記第二の位相差フィルムは、位相差を有し前記右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記偏光メガネは、前記右眼用画像を表示する光を透過させ前記左眼用画像を表示する光を遮断しうる右眼用部材と、前記右眼用画像を表示する光を遮断し前記左眼用画像を表示する光を透過させうる左眼用部材とを備え、
前記右眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する右眼用位相差フィルムと、前記右眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の一方の角度をなす透過軸を有する右眼用偏光板とを備え、
前記左眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する左眼用位相差フィルムと、前記左眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の他方の角度をなす透過軸を有する左眼用偏光板とを備える、立体画像表示システム。
〔2〕 前記第一の位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、透過光に対して略1/4波長の位相差を発現させうる、〔1〕記載の立体画像表示システム。
〔3〕 前記第二の位相差フィルムの前記第一領域が、透過光に対して略1/2波長の位相差を発現させうる、〔1〕又は〔2〕記載の立体画像表示システム。
〔4〕 前記第一の位相差フィルムの遅相軸と、前記第一の偏光板の透過軸とが略45°又は略135°の角度をなす、〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔5〕 前記第二の位相差フィルムの前記第一領域及び前記第二領域それぞれが、前記第二の位相差フィルムの面内の一方向に延在する帯状の領域であって、
前記第一領域の遅相軸が、前記第一領域が延在する方向に対して平行である、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔6〕 前記第二の位相差フィルムの前記第一領域及び前記第二領域それぞれが、前記第二の位相差フィルムの面内の一方向に延在する帯状の領域であって、
前記第一領域の遅相軸が、前記第一領域が延在する方向に対して略45°又は略135°の角度をなす、〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔7〕 前記第一の位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、同じ材質からなる、〔1〕〜〔6〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔8〕 前記第一の位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、シクロオレフィンポリマーを含んでなる、〔1〕〜〔7〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔9〕 前記第二の位相差フィルムの前記第一の位相差フィルムとは反対側、前記右眼用位相差フィルムの前記右眼用偏光板とは反対側、又は、前記左眼用位相差フィルムの前記左眼用偏光板とは反対側に、光学部材を備える、〔1〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
〔10〕 前記光学部材が、ハードコートフィルム又は反射防止フィルムである、〔9〕記載の立体画像表示システム。
〔11〕 ディスプレイ装置に表示される立体画像を見るための偏光メガネであって、
前記ディスプレイ装置は、第一の偏光板を備え前記第一の偏光板を透過した光により右眼用画像及び左眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、第一の位相差フィルムと、第二の位相差フィルムとをこの順に備え、前記第一の位相差フィルムは、面内で一様な位相差をその表示領域に有し、前記第二の位相差フィルムは、位相差を有し前記右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記偏光メガネは、前記右眼用画像を表示する光を透過させ前記左眼用画像を表示する光を遮断しうる右眼用部材と、前記右眼用画像を表示する光を遮断し前記左眼用画像を表示する光を透過させうる左眼用部材とを備え、
前記右眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する右眼用位相差フィルムと、前記右眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の一方の角度をなす透過軸を有する右眼用偏光板とを備え、
前記左眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する左眼用位相差フィルムと、前記左眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の他方の角度をなす透過軸を有する左眼用偏光板とを備える、偏光メガネ。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、クロストーク及び色味ずれを抑制しうる立体画像表示システム及び当該システムに使用しうる偏光メガネを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【図2】図2は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図3】図3は、本発明の第一実施形態に係る偏光メガネの右眼用レンズ及び左眼用レンズを厚み方向で右眼用偏光板及び左眼用偏光板側から見た様子を模式的に示す図である。
【図4】図4は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図5】図5は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【図6】図6は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図7】図7は、本発明の第二実施形態に係る偏光メガネの右眼用レンズ及び左眼用レンズを厚み方向で右眼用偏光板及び左眼用偏光板側から見た様子を模式的に示す図である。
【図8】図8は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
【図9】図9は、本発明の第三実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。
【図10】図10は、実施例におけるクロストーク及び色味ずれの評価系の構成を模式的に示す図である。
【図11】図11は、各実施例及び比較例で用いた評価系における偏光板の透過軸及び位相差フィルムの遅相軸を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
【0013】
なお、以下の説明において「偏光板」とは、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂フィルムのように可撓性を有する部材も含む。
また、偏光メガネのレンズは、別に断らない限り、必ずしも光を集束又は拡散させうるものでなくてもよい。例えば、平らなフィルムのみからなる光学部材も、ここではレンズと呼ぶ。
また、「位相差」とは、別に断らない限り、面内位相差(面内レターデーション)のことを意味する。フィルムの面内位相差は、フィルムの厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率nx、前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率ny、フィルムの膜厚dを用いて、(nx−ny)×dで表される値である。また、厚み方向の位相差Rthは、フィルムの厚み方向の屈折率nz、並びに、前記の屈折率nx、ny及び膜厚dを用いて、{(nx+ny)/2−nz}×dで表される値である。
さらに、以下の実施形態の説明に用いる図面では、粘着層及び接着層は図示していない。
【0014】
[1.第一実施形態]
〔1−1.概要〕
図1は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。また、図2は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
図1及び図2に示すように、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10は、液晶表示装置であるディスプレイ装置100と、偏光メガネ200とを備える。
【0015】
ディスプレイ装置100は、光源110と、光源側偏光板121、液晶セル122及び第一の偏光板である視認側偏光板123を備える画像表示パネル120と、第一の位相差フィルム131及び第二の位相差フィルム132を備える積層位相差フィルム130とを、この順に備える。
また、偏光メガネ200は、右眼用位相差フィルム211及び右眼用偏光板212をこの順に備える右眼用部材である右眼用レンズ210と、左眼用位相差フィルム221及び左眼用偏光板222をこの順に備える左眼用部材である左眼用レンズ220とを備える。
【0016】
以下に説明する実施形態において、ディスプレイ装置100は、光源側偏光板121、液晶セル122、視認側偏光板123、第一の位相差フィルム131及び第二の位相差フィルム132の主面がいずれも鉛直方向に対して平行となるように縦置きされているものとして説明する。また、偏光メガネ200は、右眼用位相差フィルム211、右眼用偏光板212、左眼用位相差フィルム221及び左眼用偏光板222の主面がいずれも鉛直方向に対して平行となるようになっているものとして説明する。したがって、図1及び図2は、ディスプレイ装置100及び偏光メガネ200を鉛直上方から見た様子を模式的に示す図となっている。
【0017】
また、以下に説明する実施形態において、ディスプレイ装置100の光源側偏光板121、液晶セル122、視認側偏光板123、第一の位相差フィルム131及び第二の位相差フィルム132、並びに、偏光メガネ200の右眼用位相差フィルム211、右眼用偏光板212、左眼用位相差フィルム221及び左眼用偏光板222の厚み方向は、一致している。そこで、以下、別に断らない限り、「厚み方向」とはこれらの厚み方向のことを意味するものとする。
【0018】
また、以下の説明において、偏光板の透過軸、位相差フィルムの遅相軸等のような、光学素子の光学軸の角度は、別に断らない限り、厚み方向から見た角度のことを意味する。さらに、光学軸の角度のプラス及びマイナスの向きは、偏光メガネをかけて光源に向かって画像を見る向きにおいて、反時計回りの角度をプラスの角度、時計回りの角度をマイナスの角度として表記する。
また、偏光板及び位相差フィルム等の光学フィルムの面内方向とは、別に断らない限り、厚み方向に対して垂直な方向のことを意味する。
さらに、構成要素の方向が「平行」、「垂直」又は「直交」とは、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±5°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0019】
〔1−2.ディスプレイ装置100〕
(光源110)
光源110は、画像表示に使用される光を発する装置である。本実施形態では、面発光可能な光源装置を光源110として用いている。このような光源110は、例えば、冷陰極管又はLED等の発光素子と導光板とを組み合わせることにより構成してもよい。
【0020】
(画像表示パネル120)
画像表示パネル120は、光源110に近い方から順に、直線偏光板である光源側偏光板121と、液晶セル122と、直線偏光板である視認側偏光板123とを備える。光源側偏光板121の透過軸と視認側偏光板123の透過軸とは垂直となるように設定されている。具体的には、図2に示すように、本実施形態では光源側偏光板121の透過軸(図示せず。)は水平方向に対して平行となっていて、視認側偏光板123の透過軸A123は鉛直方向に対して平行となっている。また、本実施形態では液晶セル122にはバーティカルアラインメント(VA)モードの液晶材料が封入されていて、画像表示パネル120を透過する光の制御を行えるようになっている。このため、本実施形態では、光源110から発せられ、光源側偏光板121、液晶セル122及び視認側偏光板123を透過した光によって、右眼用画像及び左眼用画像が表示されうるようになっている。この際、画像を表示する光は、直線偏光板である視認側偏光板123を透過するので、直線偏光である。
【0021】
また、この画像表示パネル120には、厚み方向から見てそれぞれ異なる位置に、右眼用画像を表示する領域120Rと左眼用画像を表示する領域120Lとが設定されている。したがって、この画像表示パネル120では、領域120Rを透過した光によって右眼用画像が表示されうるようになっており、また、領域120Lを透過した光によって左眼用画像が表示されうるようになっている。本実施形態では、これらの領域120R及び領域120Lはいずれも水平方向に延在する帯状の領域となっている。また、領域120R及び領域120Lは幅が一定の領域となっていて、それらの配置は、領域120Rと領域120Lとが鉛直方向において交互となるように並んだストライプ状の配置となっている。
【0022】
(積層位相差フィルム130)
積層位相差フィルム130は、光源110に近い方から順に、第一の位相差フィルム131と、第二の位相差フィルム132とを備える。
【0023】
第一の位相差フィルム131は、その表示領域においては面内で一様な位相差Reを有する位相差フィルムである。ここで表示領域とは、画像を表示する光が透過しうる領域のことを意味する。一般に、ディスプレイ装置の画面は外周をフレームに囲まれており、このフレームに囲まれた画面を厚み方向において第一の位相差フィルム131に投影した領域が、通常は第一の位相差フィルム131の表示領域である。本実施形態では、第一の位相差フィルム131の全体が一様な位相差Reを有しており、したがって画像表示パネル120の領域120Rを透過した光及び領域120Lを透過した光のいずれも、第一の位相差フィルム131を透過すれば一様な位相差Reが与えられるようになっている。
【0024】
第一の位相差フィルム131が有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/4波長である。すなわち、第一の位相差フィルム131は、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるものである。具体的には、第一の位相差フィルム131の位相差Reが、透過光の波長範囲の中心値において、中心値の1/4の値から、通常±65nm、好ましくは±30nm、より好ましくは±10nmの範囲である場合に、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるといえる。通常、画像表示に用いられる光は可視光であるので、可視光の波長範囲の中心値である波長550nmに対して前記の要件を満たせば、略1/4波長の位相差Reを有することになる。
【0025】
また、第一の位相差フィルム131の位相差Reが一様であるとは、画質を低下させない程度に位相差Reのバラツキが小さいことを意味する。具体的には、測定波長550nmにおける位相差Reのバラツキが、通常10nm以内、好ましくは5nm以内、さらに好ましくは2nm以内であれば、位相差Reが一様である。ここで、位相差Reのバラツキは、面内方向において位相差Reを測定したときの、その測定値の最大値と最小値との差である。
【0026】
さらに、第一の位相差フィルム131の遅相軸A131は、画像表示パネル120の視認側偏光板123の透過軸A123と、略+45°又は略+135°の角度をなす。ここで略+45°とは、通常は+45°±5°のことを意味する。また、略+135°とは、通常は+135°±5°のことを意味する。これにより、視認側偏光板123を透過した光の偏光状態は、第一の位相差フィルム131を透過することにより直線偏光から円偏光へと変換されうるようになっている。本実施形態では、第一の位相差フィルム131の遅相軸A131の方向は、鉛直方向に対して+135°(あるいは−45°)の角度をなす方向となっているものとする。
【0027】
第二の位相差フィルム132は、その表示領域に、第一領域(異方性領域)132Aと第二領域(等方性領域)132Bとを有する。第一領域132Aは、位相差Reを有し、右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる領域である。また、第二領域132Bは、位相差Reを有さず、右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる領域である。第二の位相差フィルム132の表示領域とは、第一の位相差フィルム131の表示領域と同様に定義される領域であり、通常、ディスプレイ装置のフレームに囲まれた画面を厚み方向において第二の位相差フィルム132に投影した領域に該当する。
【0028】
第二の位相差フィルム132の第一領域132Aが有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/2波長である。すなわち、第一領域132Aは、透過光に対して略1/2波長の位相差Reを発現させうるものである。具体的には、第一領域132Aの位相差Reが、透過光の波長範囲の中心値において、中心値の1/2の値から、通常±65nm、好ましくは±30nm、より好ましくは±10nmの範囲となっている場合に、透過光に対して略1/2波長の位相差Reを発現させうるといえる。通常、画像表示に用いられる光は可視光であるので、可視光の波長範囲の中心値である波長550nmに対して前記の要件を満たせば、略1/2波長の位相差Reを有することになる。
【0029】
また、第一領域132Aの遅相軸A132Aは、画像表示パネル120の視認側偏光板123の透過軸A123と、略+90°の角度をなす。ここで略+90°とは、通常は+90°±5°のことを意味する。これにより、第一の位相差フィルム131を透過した光の偏光状態は、第一領域132Aを透過することにより90°回転させられることにより、その円偏光の向きが反転しうるようになっている。本実施形態では、第一領域132Aの遅相軸A132Aは、水平方向と平行となっているものとする。
【0030】
他方、第二の位相差フィルム132の第二領域132Bは位相差Reを有さない。ここで位相差Reを有さないとは、位相差がゼロである場合だけでなく、実質的に画質を低下させない程度に小さい位相差Reを有することも含む。具体的な位相差Reの範囲を挙げると、測定波長550nmにおいて、位相差Reが、通常0±65nm、好ましくは0±30nm、より好ましくは0±10nmの範囲である場合に、第二領域132Bは位相差Reを有さないことになる。
【0031】
これにより、第一の位相差フィルム131を透過した光の偏光状態は、第二領域132Bを透過しても変化せず、その円偏光の向きを実質的に維持しうるようになっている。ここで円偏光の向きを実質的に維持する、とは、クロストーク及び色味ずれを抑制できる範囲で円偏光の向きが変化しないことを意味する。
【0032】
第二の位相差フィルム132の第一領域132A及び第二領域132Bは、第二の位相差フィルム132の、厚み方向から見てそれぞれ異なる位置に設けられている。これらの第一領域132A及び第二領域132Bは、いずれも帯状の領域となっていて、画像表示パネル120の領域120R及び領域120Lに合わせてパターン化されている。ここでパターン化とは、ある一定の周期で繰り返される態様を意味する。
【0033】
本実施形態では、第一領域132A及び第二領域132Bは、それぞれ水平方向に延在し幅が一定の領域であり、それらの配置は、第一領域132Aと第二領域132Bとが鉛直方向において交互となるように並んだストライプ状の配置となっている。また、厚み方向から見ると、第一領域132Aは画像表示パネル120の領域120Lに重なり、第二領域132Bは画像表示パネル120の領域120Rに重なる位置に設けられていて、液晶表示パネル120の領域120L及び領域120Rが、それぞれ第二の位相差フィルム132の第一領域132A及び第二領域132Bに対応している。
【0034】
したがって、ディスプレイ装置100においては、光源110から発せられ、画像表示パネル120の領域120R、第一の位相差フィルム131、及び、第二の位相差フィルム132の第二領域132Bを透過した光によって、右眼用画像を表示しうるようになっている。また、光源110から発せられ、画像表示パネル120の領域120L、第一の位相差フィルム131、及び、第二の位相差フィルム132の第一領域132Aを透過した光によって、左眼用画像を表示しうるようになっている。さらに、右眼用画像を表示する光及び左眼用画像を表示する光は、いずれも円偏光となっているが、その円偏光の向きは逆向きとなっている。
【0035】
〔1−3.偏光メガネ200〕
(右眼用レンズ210)
右眼用レンズ210は、右眼用画像を表示する光を透過させうるレンズであり、また、左眼用画像を表示する光を遮断しうるレンズである。この右眼用レンズ210は、ディスプレイ装置100に近い方から順に、右眼用位相差フィルム211と、直線偏光板である右眼用偏光板212を備える。
【0036】
右眼用レンズ210の右眼用位相差フィルム211が有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/4波長である。すなわち、右眼用位相差フィルム211は、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるものである。これにより、円偏光が右眼用位相差フィルム211を透過すると、偏光状態が変化し、直線偏光となるようになっている。
【0037】
図3は、本発明の第一実施形態に係る偏光メガネ200の右眼用レンズ210及び左眼用レンズ220を厚み方向で右眼用偏光板212及び左眼用偏光板222側から見た様子を模式的に示す図である。図3に示すように、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211は、第二の位相差フィルム132の第一領域132Aの遅相軸A132Aと+90°±15°の角度φ211をなす。本実施形態では、第一領域132Aの遅相軸A132Aは水平方向と平行になっているので、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211は鉛直方向と平行になっているものとする。
【0038】
また、右眼用レンズ210の右眼用偏光板212の透過軸A212は、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と、略+45°及び略−45°の一方の角度ψ212をなす。ここで、略+45°とは通常は+45°±5°のことを意味し、略−45°とは−45°±5°のことを意味する。本実施形態では、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と略+45°の角度をなす方向に、右眼用偏光板212の遅相軸A212があるものとする。これにより、右眼用画像を表示する光が右眼用位相差フィルム211を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と、右眼用偏光板212の透過軸A212の方向とが平行となっている。
【0039】
(左眼用レンズ220)
左眼用レンズ220は、右眼用画像を表示する光を遮断しうるレンズであり、また、左眼用画像を表示する光を透過させうるレンズである。この左眼用レンズ220は、ディスプレイ装置100に近い方から順に、左眼用位相差フィルム221と、直線偏光板である左眼用偏光板222を備える。
【0040】
左眼用レンズ220の左眼用位相差フィルム221が有する位相差Reの大きさは、本実施形態では、透過光の略1/4波長である。すなわち、左眼用位相差フィルム221は、透過光に対して略1/4波長の位相差Reを発現させうるものである。これにより、円偏光が左眼用位相差フィルム221を透過すると、偏光状態が変化し、直線偏光となるようになっている。本実施形態では、右眼用位相差フィルム211と左眼用位相差フィルム221の位相差Reは、同じになっているものとする。
【0041】
図3に示すように、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221は、第二の位相差フィルム132の第一領域132Aの遅相軸A132Aと+90°±15°の角度φ221をなす。本実施形態では、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221は、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と平行になるように、鉛直方向と平行になっているものとする。
【0042】
また、左眼用レンズ220の左眼用偏光板222の透過軸A222は、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221と、略+45°及び略−45°の他方の角度ψ222をなす。本実施形態では、左眼用偏光板222の透過軸A222は、右眼用偏光板212の透過軸A212に対して垂直なクロスニコルとなるように、左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221と略−45°の角度をなす方向にあるものとする。これにより、左眼用画像を表示する光が左眼用位相差フィルム221を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と、左眼用偏光板222の透過軸A222の方向とが平行となっている。
【0043】
〔1−4.使用方法〕
本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10は上述したように構成されているので、使用時には、ディスプレイ装置100の光源110を発光させ、画像表示パネル120に画像を表示させる。本実施形態では、液晶セル122による制御に応じて、画像表示パネル120の領域120Rを透過した光によって右眼用画像が表示され、領域120Lを透過した光によって左眼用画像が表示される。
【0044】
図4は、本発明の第一実施形態に係る立体画像表示システム10を分解した様子を模式的に示す図である。図4に示すように、光源110が発した光は画像表示パネル120を透過する際に、直線偏光板である視認側偏光板123を透過する。このため、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、直線偏光となって積層位相差フィルム130に入射する。この際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llの偏光方向は、同じ方向となっている。
【0045】
右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、積層位相差フィルム130に入射すると、第一の位相差フィルム131を透過する。第一の位相差フィルム131が略1/4波長の位相差Reを有するので、第一の位相差フィルム131を透過する際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llには、略1/4波長の位相差Reが発現する。このため、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、第一の位相差フィルム131を透過することにより、偏光状態が直線偏光から円偏光に変化する。また、第一の位相差フィルム131の位相差Reは面内で一様であるので、右眼用画像を表示する光Lrの円偏光の向きと左眼用画像を表示する光Llの円偏光の向きとは同じになる。
【0046】
第一の位相差フィルム131を透過した後で、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、第二の位相差フィルム132を透過する。第二の位相差フィルム132には、画像表示パネル120の領域120L及び領域120Rに応じてパターン化された第一領域132A及び第二領域132Bが設けられているので、右眼用画像を表示する光Lrは第二領域132Bを透過し、左眼用画像を表示する光Llは第一領域132Aを透過する。
【0047】
第一領域132Aは略1/2波長の位相差Reを有するので、第一領域132Aを透過する際、左眼用画像を表示する光Llには、略1/2波長の位相差Reが発現する。このため、左眼用画像を表示する光Llは、第一領域132Aを透過することにより、偏光方向が略90°回転するので、円偏光の向きが反転する。
他方、第二領域132Bは位相差Reを有さないので、第二領域132Bを透過する際、右眼用画像を表示する光Lrには、実質的に位相差Reは発現しない。このため、右眼用画像を表示する光Lrは、第二領域132Bを透過した後でも、第二領域132Bへの入射前の偏光状態を実質的に維持し、円偏光の向きは反転しない。ここで偏光状態を実質的に維持する、とは、クロストーク及び色味ずれを抑制できる範囲で偏光状態が変化しないことを意味する。
したがって、ディスプレイ装置100においては、右眼用画像と左眼用画像とは、互いに向きが逆の円偏光によって表示される。
【0048】
このようにして表示された画像を、使用者は偏光メガネ200を装着して視る。
右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、偏光メガネ200の右眼用レンズ210に入射すると、右眼用位相差フィルム211を透過する。右眼用位相差フィルム211が略1/4波長の位相差Reを有するので、右眼用位相差フィルム211を透過する際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llには、略1/4波長の位相差Reが発現する。このため、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、右眼用位相差フィルム211を透過することにより、偏光状態が円偏光から直線偏光に変化する。ただし、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、右眼用位相差フィルム211に入射する以前の円偏光の向きが逆であるので、右眼用位相差フィルム211を透過した後の直線偏光の偏光方向は略90°異なる。
【0049】
こうして直線偏光に変化した右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、右眼用位相差フィルム211を透過した後で、右眼用偏光板212に入射する。右眼用偏光板212の透過軸A212の方向は、右眼用画像を表示する光Lrが右眼用位相差フィルム211を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と平行となっているので、右眼用画像を表示する光Lrは右眼用偏光板212を透過して使用者の右眼で視認されるが、左眼用画像を表示する光Llは右眼用偏光板212で遮断されるので使用者の右眼では視認されない。
【0050】
他方、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llが、偏光メガネ200の左眼用レンズ220に入射すると、左眼用位相差フィルム221を透過する。左眼用位相差フィルム221は右眼用位相差フィルム211と同様に略1/4波長の位相差Reを有するので、左眼用位相差フィルム221を透過する際、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llには、右眼用位相差フィルム211を透過した場合と同様に、略1/4波長の位相差Reが発現し、偏光状態が円偏光から直線偏光に変化する。また、右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、左眼用位相差フィルム221を透過した後の直線偏光の偏光方向は略90°異なる。
【0051】
こうして直線偏光に変化した右眼用画像を表示する光Lr及び左眼用画像を表示する光Llは、左眼用位相差フィルム221を透過した後で、左眼用偏光板222に入射する。左眼用偏光板222の透過軸A222の方向は、左眼用画像を表示する光Llが左眼用位相差フィルム221を透過することによって変換される直線偏光の偏光方向と平行となっているので、左眼用画像を表示する光Llは左眼用偏光板222を透過して使用者の左眼で視認されるが、右眼用画像を表示する光Lrは左眼用偏光板222で遮断されるので使用者の左眼では視認されない。
【0052】
このようにして、右眼用画像を表示する光Lrが右眼のみで視認され、左眼用画像を表示する光Llが左眼のみで視認される。使用者は、こうして視認された右眼用画像及び左眼用画像を脳内で合成し、立体画像を認識する。
【0053】
さらに、本実施形態では、図3に示すように、第二の位相差フィルム132の第一領域132Aの遅相軸A132Aと右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211とが90±15°の角度をなし、且つ、第二の位相差フィルム132の第一領域132Aの遅相軸A132Aと左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221とが90±15°の角度をなしている。これにより、本実施形態に係る立体画像表示システム10においては、クロストーク及び色味ずれを抑制することができる。
【0054】
本実施形態に係る立体画像表示システム10においてクロストーク及び色味ずれを抑制できる仕組みは、以下の通りと推察される。
すなわち、第二の位相差フィルム132の第一領域132Aを形成する物質の複屈折率には一般に波長依存性があるため、通常は、第一領域132Aの位相差Reは波長分散性を有する。そのため、第一領域132Aを透過した光の偏光状態を可視波長の全体で均一にすることは困難であり、この第一領域132Aを透過した光の偏光状態の不均一さに応じて、従来はクロストーク及び色味ずれが生じていた。
【0055】
これに対し、本実施形態に係る立体画像表示システム10においては、第二の位相差フィルム132の第一領域132Aの遅相軸A132Aと、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211及び左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221とが、90±15°の角度をなしている。このように90±15°の角度をなすことは、第一領域132Aの遅相軸A132Aと、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211及び左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221とが、垂直又は垂直に近い位置関係となることを意味する。遅相軸A132Aと遅相軸A211及びA221とをこのような位置関係にすれば、第一領域132Aが有する位相差Reの波長分散性と、右眼用位相差フィルム211及び左眼用位相差フィルム221が有する位相差Reの波長分散性とが互いに打ち消しあうようになる。このため、波長分散性に起因する偏光状態の不均一さの程度を小さくできるので、クロストーク及び色味ずれを抑制できるものと推察される。
【0056】
本実施形態に係るディスプレイ装置100の場合、クロストークは、第一領域132Aの位相差Reの波長分散性のために、右眼用画像を表示する光Lrの偏光状態と左眼用画像を表示する光Llの偏光状態とが波長によって異なることにより、右眼用レンズで遮断すべき左眼用画像を表示する光Llの一部が右眼用レンズを透過することにより生じるものと考えられる。また、色味ずれは、同様に第一領域132Aの位相差Reの波長分散性のために、可視領域で波長分散が大きい左眼用画像を表示する光Llが左眼用レンズを透過し、また、位相差を有さない第二領域132Bを透過した、波長分散が少ない右眼用画像を表示する光Lrが右眼用レンズを透過することにより、両眼に到達する光の偏光状態が不均一となることにより生じるものと考えられる。したがって、クロストークと色味ずれとは、異なる原因によって生じていたものであり、従来の技術ではクロストークと色味ずれの両方を解消することが困難であった。これに対し、本実施形態では、光学補償フィルム等が不要な簡素な構成の偏光メガネ200を用いてクロストークと色味ずれの両方を抑制することが可能であるので、画質及び製造コストの点で顕著な意義がある。
【0057】
また、本実施形態では、右眼用位相差フィルム211の位相差Reと左眼用位相差フィルム221の位相差Reとが同じである。さらに、右眼用位相差フィルム211の遅相軸A211と左眼用位相差フィルム221の遅相軸A221とが平行である。これにより、右眼用位相差フィルム211を透過する際に透過光に生じる偏光状態の変化と、左眼用位相差フィルム221を透過する際に透過光に生じる偏光状態の変化とを、同じにすることができる。また、これらの右眼用位相差フィルム211及び左眼用位相差フィルム221に、波長分散がフラットな材料を選択する事で、クロストーク及び色味ずれを更に抑制することができる。
【0058】
さらに、本実施形態に係る第二の位相差フィルム132では、第一領域132A及び第二領域132Bが延在する水平方向は、第二の位相差フィルム132の面内の一方向に相当する。また、第一領域132Aの遅相軸A132Aは、この第一領域132Aが延在する水平方向に対して平行となっている。このような第一領域132Aを有する積層位相差フィルム130は、効率的な製造が可能であるため、好ましい。
【0059】
また、第二の位相差フィルム132のように異なる位相差を有する領域がパターン化された位相差フィルムは、本実施形態の第二の位相差フィルム132のように位相差を有する第一領域132Aと位相差を有さない第二領域132Bとを組み合わせたフィルムの方が、位相差を有する領域同士を組み合わせた位相差フィルムと比べて安価に製造できるため、コストの面で好ましい。
【0060】
[2.第二実施形態]
本発明の立体画像表示システムは、本発明の要旨を逸脱しない範囲においては、光学要素の光学軸の方向は、任意に設定してもよい。また、第一実施形態においてはVAモードの液晶材料を有する液晶セルを用いた例を示したが、液晶セルのモードはVAモードに限定されるものでなく、任意のモードを採用してもよい。以下、図面を用いてその立体画像表示システムの例を示す。
【0061】
図5は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。また、図6は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システムを分解した様子を模式的に示す図である。
図5及び図6に示すように、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システム20は、液晶表示装置であるディスプレイ装置300と、偏光メガネ400とを備える。
【0062】
ディスプレイ装置300は、液晶セルとしてツイステッドネマチック(TN)モードのものを用いたこと、並びに、偏光板の透過軸の方向及び位相差フィルムの遅相軸の方向が異なること以外は第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様であり、光源310と、光源側偏光板321、液晶セル322及び第一の偏光板である視認側偏光板323を備える画像表示パネル320と、第一の位相差フィルム331及び第二の位相差フィルム332を備える積層位相差フィルム330とを、この順に備える。
また、偏光メガネ400は、偏光板の透過軸の方向及び位相差フィルムの遅相軸の方向が異なること以外は第一実施形態に係る偏光メガネ200と同様であり、右眼用位相差フィルム411及び右眼用偏光板412をこの順に備える右眼用部材である右眼用レンズ410と、左眼用位相差フィルム421及び左眼用偏光板422をこの順に備える左眼用部材である左眼用レンズ420とを備える。
【0063】
本実施形態でも、光源側偏光板321の透過軸と視認側偏光板323の透過軸とは垂直となるように設定されている。具体的には、図6に示すように、本実施形態では光源側偏光板321の透過軸(図示せず。)の方向は水平方向に対して+45°の角度をなす方向となっていて、視認側偏光板323の透過軸A323の方向は水平方向に対して+135°の角度をなす方向となっている。
また、第一の位相差フィルム331の遅相軸A331は、鉛直方向に対して平行になっている。
さらに、第二の位相差フィルム332の第一領域332Aの遅相軸A332Aの方向は、水平方向に対して略+45°又は略+135°の角度をなす方向となっていてもよく、本実施形態では水平方向に対して+45°の角度をなす方向となっている。また、第二の位相差フィルム332の第二領域332Bは位相差Reを有さないので、遅相軸を有さない。
【0064】
偏光メガネ400においては、右眼用レンズ410の右眼用位相差フィルム411の遅相軸A411の方向は水平方向に対して+135°の角度をなす方向となっていて、右眼用偏光板412の遅相軸A412は鉛直方向に対して平行となっている。他方、左眼用レンズ420の左眼用位相差フィルム421の遅相軸A421の方向は、水平方向に対して+135°の角度をなす方向となっていて、右眼用位相差フィルム411の遅相軸A411と平行になっている。また、左眼用偏光板422の遅相軸A422は水平方向に対して平行となっている。
【0065】
図7は、本発明の第二実施形態に係る偏光メガネ400の右眼用レンズ410及び左眼用レンズ420を厚み方向で右眼用偏光板412及び左眼用偏光板422側から見た様子を模式的に示す図である。図7に示すように、本実施形態においても、右眼用位相差フィルム411の遅相軸A411及び左眼用位相差フィルム421の遅相軸A421は、第二の位相差フィルム332の第一領域332Aの遅相軸A332Aと+90°±15°の角度φ411及び角度φ421をなす。また、右眼用レンズ410の右眼用偏光板412の透過軸A412は、右眼用位相差フィルム411の遅相軸A411と、略+45°及び略−45°の一方(本実施形態では、略−45°)の角度ψ412をなす。さらに、左眼用レンズ420の左眼用偏光板422の透過軸A422は、左眼用位相差フィルム421の遅相軸A421と、略+45°及び略−45°の他方(本実施形態では、略+45°)の角度ψ422をなす。
【0066】
本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システム20は上述したように構成されているので、使用時には、ディスプレイ装置300の光源310を発光させ、画像表示パネル320に画像を表示させる。この際、画像表示パネル320の領域320Rを透過した光によって右眼用画像が表示され、領域320Lを透過した光によって左眼用画像が表示される。
【0067】
図8は、本発明の第二実施形態に係る立体画像表示システム20を分解した様子を模式的に示す図である。図8に示すように、光源310が発した光は画像表示パネル320及び積層位相差フィルム330を透過して、ディスプレイ装置300の外部へと出射する。また、本実施形態に係るディスプレイ装置300においても、第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様の要領で偏光状態の制御が行われることにより、右眼用画像を表示する光Lrと左眼用画像を表示する光Llとは、互いに向きが逆の円偏光となってディスプレイ装置300の外部へと出射する。
【0068】
このようにして表示された画像を、使用者は偏光メガネ400を装着して視る。本実施形態でも、第一実施形態に係る偏光メガネ200と同様の要領によって、右眼用画像を表示する光Lrのみが右眼用偏光板412を透過し、また、左眼用画像を表示する光Llのみが左眼用偏光板422を透過することにより、右眼用画像を表示する光Lrが右眼のみで視認され、左眼用画像を表示する光Llが左眼のみで視認される。使用者は、こうして視認された右眼用画像及び左眼用画像を脳内で合成し、立体画像を認識する。
【0069】
本実施形態でも、図7に示すように、第二の位相差フィルム332の第一領域332Aの遅相軸A332Aと右眼用位相差フィルム411の遅相軸A411とが90±15°の角度をなし、且つ、第二の位相差フィルム332の第一領域332Aの遅相軸A332Aと左眼用位相差フィルム421の遅相軸A421とが90±15°の角度をなしているので、クロストーク及び色味ずれを抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態に係る第二の位相差フィルム332では、第一領域332A及び第二領域332Bが延在する水平方向は、第二の位相差フィルム332の面内の一方向に相当する。また、第一領域332Aの遅相軸A332Aの方向は、この第一領域132Aが延在する水平方向に対して略+45°又は略+135°の角度をなす方向となっている。
【0071】
さらに、本実施形態に係る立体画像表示システム20においては、第一実施形態に係る立体画像表示システム10と同様の利点を得ることができる。
【0072】
[3.第三実施形態]
本発明に係るディスプレイ装置及び偏光メガネは、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した以外の構成要素を備えていてもよい。例えば、ディスプレイ装置の第二の位相差フィルムの第一の位相差フィルムとは反対側の面、偏光メガネの右眼用位相差フィルムの右眼用偏光板とは反対側の面、又は、左眼用位相差フィルムの左眼用偏光板とは反対側の面に、光学部材を設けてもよい。これらの光学部材は、他の層を介さず直接に設けてもよく、接着層等の他の層を介して間接的に設けてもよい。このような光学部材としては好ましい例を挙げると、ハードコートフィルム、反射防止フィルムなどが挙げられる。以下、図面を用いてその立体画像表示システムの例を示す。
【0073】
図9は、本発明の第三実施形態に係る立体画像表示システムを模式的に示す図である。図9に示すように、本発明の第三実施形態に係る立体画像表示システム30は、液晶表示装置であるディスプレイ装置500と、偏光メガネ600とを備える。
【0074】
ディスプレイ装置500は、第二の位相差フィルム132の第一の位相差フィルム131とは反対側の面に光学部材として光学フィルム540を備えること以外は、第一実施形態に係るディスプレイ装置100と同様である。
また、偏光メガネ600は、右眼用レンズ610の右眼用位相差フィルム211の右眼用偏光板212とは反対側の面に光学部材として光学フィルム613を備えること、及び、左眼用レンズ620の左眼用位相差フィルム221の左眼用偏光板222とは反対側の面に光学部材として光学フィルム623を備えること以外は第一実施形態に係る偏光メガネ200と同様である。
【0075】
光学フィルム540、613及び623としてハードコートフィルムを用いた場合、積層位相差フィルム130、右眼用レンズ610及び左眼用レンズ620の傷付きを防止することができる。
また、光学フィルム540、613及び623として反射防止フィルムを用いた場合、当該光学フィルム光学フィルム540、613及び623が設けられた面において外光の反射を防止することができる。
さらに、立体画像表示システム30においては、第一実施形態と同様の利点が得られる。
【0076】
[4.変形例]
本発明は上述した実施形態に限定されず、更に変更して実施してもよい。
例えば、上述した実施形態において、右眼用レンズと左眼用レンズとを入れ替えて用いてもよい。
また、例えば、右眼用位相差フィルムと左眼用位相差フィルムとして、一枚の共通した位相差フィルムを用いるようにしてもよい。
【0077】
また、上述した実施形態では第二の位相差フィルムの第一領域を透過した光によって左眼用画像を表示し第二領域を透過した光によって右眼用画像を表示するようにしたが、第一領域を透過した光によって右眼用画像を表示し第二領域を透過した光によって左眼用画像を表示するようにしてもよい。
【0078】
また、画像表示パネル120の領域120R及び120L、並びに、第二の位相差フィルム132の第一領域132A及び第二領域132Bが延在する方向は、水平方向に限定されず、別の方向にしてもよい。
【0079】
[5.各構成要素の説明]
本発明において用いられる偏光板、位相差フィルム、液晶パネル及びその他の部材の例について、以下に説明する。
【0080】
〔5−1.偏光板〕
上記実施形態における光源側偏光板、視認側偏光板、右眼用偏光板及び左眼用偏光板等の偏光板は、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素若しくは二色性染料を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸することによって製造してもよい。また、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素もしくは二色性染料を吸着させ延伸し、さらに分子鎖中のポリビニルアルコール単位の一部をポリビニレン単位に変性することによって製造してもよい。さらに、偏光板として、例えば、グリッド偏光板、多層偏光板、コレステリック液晶偏光板などの、偏光を反射光と透過光とに分離する機能を有する偏光板を用いてもよい。これらの中でも、ポリビニルアルコールを含んでなる偏光板が好ましい。
【0081】
偏光板の偏光度は、好ましくは98%以上、より好ましくは99%以上である。
また、偏光板の厚さ(平均厚さ)は、好ましくは5μm〜80μmである。
【0082】
〔5−2.第一の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルム〕
上記実施形態における第一の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルム等の位相差フィルムは、例えば、樹脂により形成された延伸フィルムを用いてもよい。
【0083】
通常、樹脂はポリマー(重合体)を含む。位相差フィルムの材料となる樹脂が含むポリマーの例を挙げると、鎖状オレフィンポリマー、シクロオレフィンポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、鎖状オレフィンポリマー及びシクロオレフィンポリマーが好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、シクロオレフィンポリマーが特に好ましい。
【0084】
なお、樹脂は、1種類のポリマーを単独で含むものを用いてもよく、2種類以上のポリマーを任意の比率で組み合わせて含むものを用いてもよい。また、樹脂には、本発明の効果を著しく損なわない限り、任意の配合剤を含ませてもよい。好適な樹脂の具体例を挙げると、日本ゼオン社製「ゼオノア1420」を挙げることができる。
【0085】
さらに、位相差フィルムとしては、単層構造のフィルムを用いてもよく、複層構造のフィルムを用いてもよい。
【0086】
ただし、第一の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムは、同じ材質からなるものを用いることが好ましい。これにより、第一の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムを透過する際に透過光に発現する位相差の波長分散性を同じにして、クロストーク及び色味ずれを効果的に抑制することができる。
【0087】
好適な位相差フィルムの例を挙げると、市販の長尺の斜め延伸フィルム、例えば、日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」を挙げることができる。
【0088】
〔5−3.第二の位相差フィルム〕
第二の位相差フィルムは、例えば、基材上に液晶相を呈することができ且つ紫外線(UV)等のエネルギー線の照射を受けて硬化しうる材料を用いて製造したものを用いてもよい。かかる材料を、以下において「液晶層形成用組成物」ということがある。また、かかる材料の、未硬化状態の層又は硬化後の層を、以下において「液晶樹脂層」ということがある。
【0089】
第二の位相差フィルムは、液晶層形成用組成物を基材に塗布して未硬化状態の液晶樹脂層を得て、その液晶樹脂層の一部をある配向状態で硬化させ、他の一部を等方相の配向状態(すなわち、配向していない状態)で硬化させることに製造してもよい。このような製造方法は、基材として長尺の基材フィルムを用いて行うことが可能であり、基材フィルムを搬送方向にラビングすることで、そのラビング方向と平行(遅相軸が搬送方向と平行)に液晶層形成用組成物が配向し、そのため第二の位相差フィルムを長尺のフィルムとして製造できるので、生産効率の点で優れている。ここで「長尺」のフィルムとは、フィルムの幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。
【0090】
具体的には、
i.基材フィルムの一方の表面に、エネルギー線を遮光する遮光部と前記エネルギー線を透光する透光部とを有するマスク層を作製する工程と、
ii.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側の表面に、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程と、
iii.前記基材フィルムの前記マスク層側から、前記遮光部で遮光されるが前記透光部を透光する波長のエネルギー線を照射して、前記液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iv.前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
v.前記基材フィルムの前記マスク層とは反対側からエネルギー線を照射して前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域を硬化させる第2の硬化工程と
を有する製造方法により製造してもよい。
【0091】
これらのようにして製造された第二の位相差フィルムは、通常は基材フィルム及びマスク層を剥がした後で使用される。ただし、適宜、基材フィルム及びマスク層は、剥がさずに使用してもよい。例えば、基材フィルムとして第一の位相差フィルムを用いてもよい。
【0092】
上記の第二の位相差フィルムの製造方法において、基材フィルムの材料としては、未硬化状態の液晶樹脂層を硬化させる工程において液晶樹脂層が硬化できる程度に紫外線等のエネルギー線を透過させられる材料を用いうる。通常は、1mm厚で全光線透過率(JIS K7361−1997に準拠して、濁度計(日本電色工業社製、NDH−300A)を用いて測定)が80%以上である材料が好適である。
【0093】
基材フィルムの材料の例を挙げると、第一の位相差フィルム、右眼用位相差フィルム及び左眼用位相差フィルムの材料として挙げた樹脂などが挙げられる。これらの材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0094】
基材フィルムの厚みは、製造時のハンドリング性、材料のコスト、薄型化及び軽量化の観点から、好ましくは30μm以上、より好ましくは60μm以上であり、好ましくは300μm以下、より好ましくは200μm以下である。
【0095】
基材フィルムは、延伸されていない未延伸フィルムであってもよく、延伸された延伸フィルムであってもよい。また、等方なフィルムであっても、異方性を有するフィルムであってもよい。
【0096】
基材フィルムは、一層のみからなる単層構造のフィルムであってもよく、二層以上の層からなる複層構造のフィルムであってもよい。通常は、生産性及びコストの観点から、単層構造のフィルムを用いる。
【0097】
基材フィルムは、その片面又は両面に表面処理が施されたものであってもよい。表面処理を施すことにより、基材フィルムの表面に直接形成される他の層との密着性を向上させることができる。表面処理としては、例えば、エネルギー線照射処理や薬品処理などが挙げられる。また、基材フィルムの液晶層形成用組成物を塗布する面に配向膜を有していてもよい。
【0098】
マスク層の材料としては、エネルギー線、特に紫外線を遮光することができ、且つパターンの形成が容易なマスク用組成物を適宜選択して用いてもよい。
【0099】
通常、マスク用組成物としては、樹脂を用いる。前記の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロースエステル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ウレタンアクリレート硬化樹脂、エポキシアクリレート硬化樹脂およびポリエステルアクリレート硬化樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種類の樹脂が好ましい。これらの樹脂を含むことにより、紫外線を遮光する材料を高温環境下においても保持し、安定した遮光部を作製することができる。前記の樹脂は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0100】
マスク用組成物に含まれる樹脂のガラス転移温度は、通常80℃以上、好ましくは100℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは350℃以下である。ガラス転移温度を80℃以上にすることによりマスク層の耐熱性を高めることができ、例えば液晶樹脂層の加熱時にマスク層が変形することを防止できる。また、ガラス転移温度を400℃以下にすることにより、樹脂の溶解性を高めてマスク用組成物の印刷を簡単にできる。印刷前の状態とマスク層を形成した後の状態とで樹脂のガラス転移温度が変化する場合には、マスク層を形成した後の状態においてガラス転移温度が前記の範囲に収まることが好ましい。
【0101】
マスク用組成物は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。これによりマスク層の遮光部が紫外線吸収剤を含むことになり、遮光部において紫外線を安定して遮光することができるようになる。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤およびトリアジン系紫外線吸収剤からなる群より選ばれる少なくとも1種類の紫外線吸収剤を用いることが好ましい。紫外線吸収剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。紫外線吸収剤の使用量は、マスク層中のモノマー、オリゴマー及びポリマー100重量部に対して、通常5重量部以上、好ましくは8重量部以上、より好ましくは10重量部以上であり、通常20重量部以下、好ましくは18重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。
【0102】
マスク用組成物は、さらに、着色剤、金属粒子、溶媒、光重合開始剤、架橋剤、その他の成分を含んでいてもよい。
【0103】
マスク用組成物を用いてマスク層を形成する方法としては、グラビア印刷法、スクリーン印刷法、オフセット印刷法、ロータリースクリーン印刷法、グラビアオフセット印刷法、インクジェット印刷法、又はこれらの組み合わせである印刷法を好ましく挙げることができる。透光部と遮光部は、例えば、マスク層の厚さが薄い層と厚い層とを形成することにより設けてもよい。
【0104】
液晶層形成用組成物としては、液晶化合物を含む組成物を用いうる。液晶化合物としては、例えば、重合性基を有する棒状液晶化合物、側鎖型液晶ポリマー化合物などが挙げられる。棒状液晶化合物としては、例えば、特開2002−030042号公報、特開2004−204190号公報、特開2005−263789号公報、特開2007−119415号公報、特開2007−186430号公報などに記載された重合性基を有する棒状液晶化合物などが挙げられる。また、側鎖型液晶ポリマー化合物としては、例えば、特開2003−177242号公報などに記載の側鎖型液晶ポリマー化合物などが挙げられる。また、好ましい液晶化合物の例を製品名で挙げると、BASF社製「LC242」等が挙げられる。液晶化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0105】
液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性Δnは、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上であり、好ましくは0.30以下、より好ましくは0.25以下である。屈折率異方性Δnが0.05未満では所望の光学的機能を得るために液晶樹脂層の厚さが厚くなって配向均一性が低下する可能性があり、また経済コスト的にも不利である。屈折率異方性Δnが0.30より大きいと所望の光学的機能を得るために液晶樹脂層の厚さが薄くなり、厚さ精度に対して不利である。ただし、液晶樹脂層の紫外線吸収スペクトルの長波長側の吸収端が可視域に及ぶ場合がありえるが、該スペクトルの吸収端が可視域に及んでも所望する光学的性能に悪影響を及ぼさない限り、使用可能である。液晶層形成用組成物が液晶化合物を1種類だけ含む場合には、当該液晶化合物の屈折率異方性を、そのまま液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性とする。また、液晶層形成用組成物が液晶化合物を2種類以上含む場合には、各液晶化合物それぞれの屈折率異方性Δnの値と各液晶化合物の含有比率とから求めた屈折率異方性Δnの値を、液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性とする。屈折率異方性Δnの値は、セナルモン法により測定しうる。
【0106】
さらに、液晶層形成用組成物は、製造方法や最終的な性能に対して適正な物性を付与するために、液晶化合物以外にその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例を挙げると、有機溶媒、界面活性剤、キラル剤、重合開始剤、紫外線吸収剤、架橋剤、酸化防止剤などが挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0107】
有機溶媒のうち好適な例を挙げると、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、およびエーテル類等が挙げられる。これらの中でも、環状ケトン類、環状エーテル類が、液晶化合物を溶解させやすいために好ましい。環状ケトン溶媒としては、例えば、シクロプロパノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等が挙げられ、中でもシクロペンタノンが好ましい。環状エーテル溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等が挙げられ、中でも1,3−ジオキソランが好ましい。溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよく、液晶層形成用組成物としての相溶性や粘性、表面張力の観点などから最適化されることが好ましい。
有機溶媒の含有割合は、有機溶媒以外の固形分全量に対する割合として、通常は30重量%以上95重量%以下である。
【0108】
界面活性剤としては、配向を阻害しないものを適宜選択して使用することが好ましい。好ましい界面活性剤の例を挙げると、疎水基部分にシロキサン及びフッ化アルキル基等を含有するノニオン系界面活性剤などが挙げられる。中でも、1分子中に2個以上の疎水基部分を持つオリゴマーが特に好適である。これらの界面活性剤の例を製品名で挙げると、OMNOVA社PolyFoxのPF−151N、PF−636、PF−6320、PF−656、PF−6520、PF−3320、PF−651、PF−652;ネオス社フタージェントのFTX−209F、FTX−208G、FTX−204D;セイミケミカル社サーフロンのKH−40等が挙げられる。界面活性剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0109】
界面活性剤の配合割合は、液晶層形成用組成物を硬化して得られる液晶樹脂層中における界面活性剤の濃度が0.05重量%以上3重量%以下となるようにすることが好ましい。界面活性剤の配合割合が0.05重量%より少ないと空気界面における配向規制力が低下して配向欠陥が生じる可能性がある。逆に3重量%より多い場合には、過剰の界面活性剤が液晶性化合物分子間に入り込み、配向均一性を低下させる可能性がある。
【0110】
キラル剤は、重合性化合物であってもよく、非重合性化合物であってもよい。キラル剤としては、通常、分子内にキラルな炭素原子を有し、液晶化合物の配向を乱さない化合物を使用する。キラル剤の例を挙げると、重合性のキラル剤としてはBASF社製「LC756」等が挙げられる。また、例えば、特開平11−193287号公報、特開2003−137887号公報などに記載されているものも挙げられる。キラル剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。キラル剤は、通常、ツイステッドネマチック相を有する領域を形成する場合に、重合性を有する液晶化合物と併用して用いられる。
【0111】
重合開始剤は、例えば熱重合開始剤を用いてもよいが、通常は光重合開始剤を用いる。光重合開始剤としては、例えば、紫外線又は可視光線によってラジカル又は酸を発生させる化合物を使用しうる。光重合開始剤の例を挙げると、ベンゾイン、ベンジルメチルケタール、ベンゾフェノン、ビアセチル、アセトフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンジルイソブチルエーテル、テトラメチルチウラムモノ(ジ)スルフィド、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、ベンゾイルパーオキサイド、ジ−tert−ブチルパーオキサイド、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、メチルベンゾイルフォーメート、2,2−ジエトキシアセトフェノン、β−アイオノン、β−ブロモスチレン、ジアゾアミノベンゼン、α−アミルシンナックアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノプロピオフェノン、2−クロロベンゾフェノン、pp′−ジクロロベンゾフェノン、pp′−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインn−プロピルエーテル、ベンゾインn−ブチルエーテル、ジフェニルスルフィド、ビス(2,6−メトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2−メチル−1[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、アントラセンベンゾフェノン、α−クロロアントラキノン、ジフェニルジスルフィド、ヘキサクロルブタジエン、ペンタクロルブタジエン、オクタクロロブテン、1−クロルメチルナフタリン、1,2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)]や1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]エタノン1−(o−アセチルオキシム)などのカルバゾールオキシム化合物、(4−メチルフェニル)[4−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウムヘキサフルオロフォスフェート、3−メチル−2−ブチニルテトラメチルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニル−(p−フェニルチオフェニル)スルホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。重合開始剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。さらに、必要に応じて液晶層形成用組成物に、例えば三級アミン化合物等の光増感剤又は重合促進剤を含ませて、液晶層形成用組成物の硬化性を調整してもよい。光重合効率を向上させるためには、液晶化合物及び光重合開始剤などの平均モル吸光係数を適切に選定することが好ましい。
【0112】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、4−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−1−(2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンなどのヒンダードアミン系紫外線吸収剤;2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどのベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエートなどのベンゾエート系紫外線吸収剤;ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系;などが挙げられる。これらの紫外線吸収剤は、所望する耐光性を付与するために、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0113】
紫外線吸収剤の配合割合は、液晶化合物100重量部に対して、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上であり、通常5重量部以下、好ましくは1重量部以下である。紫外線吸収剤の配合割合が、0.001重量部未満の場合には紫外線吸収能が不十分となり所望する耐光性を得られない可能性があり、5重量部より多い場合には液晶層形成用組成物を紫外線等の活性エネルギー線で硬化させる際に硬化が不十分となり、液晶樹脂層の機械的強度が低くなったり耐熱性が低くなったりする可能性がある。
【0114】
液晶層形成用組成物には、所望する機械的強度に応じて架橋剤を含ませてもよい。架橋剤の例としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、2−(2−ビニロキシエトキシ)エチルアクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2−ビスヒドロキシメチルブタノール−トリス[3−(1−アジリジニル)プロピオネート]、4,4−ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートから誘導されるイソシアヌレート型イソシアネート、ビウレット型イソシアネート、アダクト型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ビニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン等のアルコキシシラン化合物;などが挙げられる。架橋剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、液晶層形成用組成物には架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を含ませ、膜強度や耐久性向上に加えて生産性を向上させるようにしてもよい。
【0115】
前記架橋剤の配合割合は、硬化後の液晶樹脂層中における架橋剤の濃度が0.1重量%以上20重量%以下となるようにすることが好ましい。架橋剤の配合割合が0.1重量%より少ないと架橋密度向上の効果が得られない可能性があり、逆に20重量%より多いと硬化後の液晶樹脂層の安定性を低下させる可能性がある。
【0116】
酸化防止剤としては、例えば、テトラキス(メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)メタン等のフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられる。酸化防止剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。酸化防止剤の配合量は、粘着層の透明性や粘着力が低下しない範囲としうる。
【0117】
未硬化状態の液晶樹脂層を設ける場合、通常は、塗布法を用いる。液晶層形成用組成物の塗布方法としては、例えば、リバースグラビアコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、ダイコーティング法、バーコーティング法等の方法が挙げられる。液晶層形成用組成物を基材フィルムの表面に塗布することにより、未硬化状態の液晶樹脂層が形成される。
【0118】
液晶層形成用組成物は、基材フィルムの表面に直接に塗布してもよいが、基材フィルムの表面に例えば配向膜等を介して間接的に塗布してもよい。配向膜を用いれば、液晶樹脂層において液晶化合物を容易に配向させることができる。
【0119】
配向膜は、例えば、セルロース、シランカップリング剤、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、エポキシアクリレート、シラノールオリゴマー、ポリアクリロニトリル、フェノール樹脂、ポリオキサゾール、環化ポリイソプレンなどを用いて形成してもよい。これらは1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0120】
配向膜の厚みは、所望する液晶樹脂層の配向均一性が得られる厚みであればよく、好ましくは0.001μm以上、より好ましくは0.01μm以上であり、好ましくは5μm以下、より好ましくは2μm以下である。さらに、例えば、特開平6−289374号公報、特表2002−507782号公報、特許4022985号公報、特許4267080号公報、特許4647782号公報、米国特許5389698号明細書などに示されるような光配向膜と偏光UVを用いる方法によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。
【0121】
また、上述した配向膜以外の手段によって、液晶化合物を配向させるようにしてもよい。例えば、配向膜を使用せずに基材フィルムの表面を直接ラビングするような配向処理を施してもよい。通常、基材フィルムの搬送方向とラビング方向は平行になる。
前記の配向膜の形成、基材フィルムの表面のラビング等の処理工程は、マスク層形成工程の工程前、工程中及び工程後のいずれの時点で行ってもよいが、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程の前に行うことが好ましい。
【0122】
第二の位相差フィルムの製造方法においては、第一の硬化工程に先立ち、必要に応じて、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程を行った後で、液晶樹脂層の液晶化合物を配向させる配向工程を行ってもよい。配向工程における具体的な操作としては、例えば、オーブン内で未硬化状態の液晶樹脂層を所定の温度に加熱する操作を挙げることができる。
【0123】
配向工程において液晶樹脂層を加熱する温度は、通常40℃以上、好ましくは50℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは140℃以下である。また、加熱処理における処理時間は、通常1秒以上、好ましくは5秒以上であり、通常3分以下、好ましくは120秒以下である。これにより、液晶樹脂層中の液晶化合物が配向しうる。また、液晶層形成用組成物に溶媒が含まれていた場合、前記の加熱によって通常は溶媒が乾燥するので、液晶樹脂層から溶媒が除去される。したがって、配向工程を行うと、通常は液晶樹脂層を乾燥させる乾燥工程も同時に進行する。通常、液晶樹脂層の配向軸はラビング方向と平行となり、配向軸が遅相軸となる。
【0124】
必要に応じて配向工程を行った後で、液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程を行う。第一の硬化工程は、通常、紫外線の照射により行う。紫外線の照射時間、照射量、及びその他の条件は、液晶層形成用組成物の組成及び液晶樹脂層の厚みなどに応じて適切に設定しうる。照射時間は通常0.01秒から3分の範囲であり、照射量は通常0.01mJ/cmから50mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。
【0125】
第一の硬化工程の後で、液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程を行う。この工程において、配向状態を変化させる方法としては、例えば、ヒーターにより、液晶樹脂層を、液晶層形成用組成物の透明点(NI点)以上に加熱してもよい。これにより、液晶化合物分子の配向はランダムになるので、液晶樹脂層の未硬化状態の領域は等方相となる。
【0126】
液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させた後で、第二の硬化工程を行う。第二の硬化工程は、紫外線の照射により行ってもよい。紫外線の照射時間、照射量などは、液晶層形成用組成物の組成及び液晶樹脂層の厚みなどに応じて適切に設定しうるが、照射量は通常50mJ/cmから10,000mJ/cmの範囲である。また、紫外線の照射は、例えば窒素及びアルゴン等の不活性ガス中において行ってもよく、空気中で行ってもよい。照射に際して、必要に応じてヒーターによる加熱を継続して、未硬化状態の液晶樹脂層の等方相を維持した状態で照射を行ってもよい。
【0127】
さらに、別の製造方法として、第二の位相差フィルムは、
i.基材フィルムの一方の表面に、未硬化状態の液晶樹脂層を設ける工程と、
ii.前記基材フィルムの液晶樹脂層を設けた面と反対側の表面に、ストライプパターンの透光部および遮光部をガラス上に設けたガラスマスクを介して、エネルギー線を照射して、前記液晶樹脂層の一部の領域を硬化させる第一の硬化工程と、
iii.前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域における配向状態を変化させる工程と、
iv.前記基材フィルムの液晶樹脂層を設けた面にエネルギー線を照射して前記液晶樹脂層の未硬化状態の領域を硬化させる第2の硬化工程と
を有する製造方法により製造してよい。この製造方法においては、先に説明した製造方法と同様の操作は、先に説明した製造方法と同様の条件で行ってもよい。
【0128】
また、第一の硬化工程としては、特開平4−299332号公報に示した方法を使用してもよい。また、ガラスマスクは、例えば、ガラス表面にクロムスパッタを施し、さらにフォトレジストを塗布し、ストライプ状に露光してフォトレジストを感光させて、洗浄し、クロムをエッチングしたものを用いてもよい。あるいは、例えば感光性乳剤を塗布したPETフィルムをストライプ状にレーザー描画し、洗浄し、該PETフィルムをガラス上に接着層を介して貼り合わせたものを用いてもよい。
さらに、上述した製造方法では、第二の位相差フィルムが得られる限り、各工程の順番は任意である。
【0129】
上述した製造方法によれば、いずれも、遮光部及び透光部により形成されるマスク層のマスクパターンを精度よく写し取ったパターンを有する第二の位相差フィルムが製造できる。さらに、当該方法により得られた第二の位相差フィルムにおいては、位相差Reを有する第一領域と位相差Reを有さない第二領域との間には、物質的な連続性がある。したがって、領域間の空隙による反射及び散乱等を生じない点で光学的に有利であり、また、領域間の空隙を起点とした破損等を生じない点で機械的強度の点でも有利である。
【0130】
第二の位相差フィルムとしての液晶樹脂層の厚みは、液晶層形成用組成物における液晶化合物の屈折率異方性Δnの値に応じて、第一領域及び第二領域それぞれで所望の位相差Reが得られるように適切な厚みに設定しうる。通常は、液晶樹脂層の厚みは、0.5μm以上50μm以下の範囲である。
【0131】
〔5−4.液晶セル〕
液晶セルとしては、任意の表示モードの液晶セルを用いてもよい。例えばVAモード、TNモード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、マルチドメインバーティカルアラインメント(MVA)モード、インプレーンスイッチング(IPS)モード、オプティカリーコンペンセイテッドバイリフジエンス(OCB)モードなどの表示モードによるものとしてもよい。
【実施例】
【0132】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。また、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。また、以下の説明において位相差Reの測定波長は、別に断らない限り550nmである。さらに、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0133】
[実施例1]
(液晶層形成用組成物の調製)
重合性液晶化合物(BASF社製、製品名「LC242」)を25重量部と、下記の化合物1を5重量部と、架橋剤(トリメチロールプロパントリアクリレート)を3重量部と、重合開始剤(チバ・ジャパン社製、製品名「Irg 379」)を1重量部と、フッ素系界面活性剤(ネオス社製、「フタージェント209F」)を0.03重量部と、メチルエチルケトンを66重量部とを混合し、液晶層形成用組成物を調製した。
【0134】
【化1】

【0135】
(第二の位相差フィルム層の作製)
基材フィルムとして、ノルボルネン樹脂フィルム(日本ゼオン社製 ゼオノアフィルムZF14−100)を用意した。この基材フィルムをフィルム搬送装置の繰り出し部に取り付け、当該基材フィルムを搬送しながらラビング処理を施し、ラビング処理を施した面に前記にて用意した液晶層形成用組成物をダイコーターを使用して塗布した。これにより、基材フィルムの片面に、塗膜として未硬化状態の液晶樹脂層を形成した。
【0136】
前記の液晶樹脂層を40℃で2分間配向処理して、液晶樹脂層中の重合性液晶化合物を配向させた。その後、液晶樹脂層に対して、基材フィルムの液晶樹脂層が形成されたのとは反対側からガラスマスクを介して0.1mJ/cm〜45mJ/cmの微弱な紫外線を照射した。前記のガラスマスクとしては、所定の方向に延在する透光部及び遮光部が互いに平行に並んでストライプ状に形成されたものを用いた。ガラスマスクの透光部の幅は269μm、遮光部の幅は284μmとした。ガラスマスクの遮光部に相当する位置では露光されなかったために液晶樹脂層は未硬化状態のままであるが、ガラスマスクの透光部に相当する位置では露光されたために液晶樹脂層が硬化した。これにより、液晶樹脂層の露光部分において、1/2波長板として機能しうる面内位相差Reを有する樹脂領域(第一領域)を形成した。
【0137】
次に、液晶樹脂層を90℃で10秒間加温処理して、液晶樹脂層の未硬化状態の部分(ガラスマスクの遮光部に相当した部分)の液晶相を等方相に転移させた。この状態を維持しながら、基材フィルムの液晶樹脂層側から窒素雰囲気下で液晶樹脂層に対して2000mJ/cmの紫外線を照射して、液晶樹脂層の未硬化部分を硬化させた。これにより、面内位相差Reが小さい樹脂領域(第二領域)が液晶樹脂層に形成された。
【0138】
このようにして、1/2波長板として機能しうる面内位相差Reを有する樹脂領域(第一領域)と、面内位相差Reが小さい樹脂領域(第二領域)とを、同一面内に有する液晶樹脂層として、第二の位相差フィルム層を得た。この第二の位相差フィルム層を備えるフィルムは、(基材フィルム)−(第二の位相差フィルム層)の層構成を有する長尺の位相差フィルムである。形成された第二の位相差フィルム層の乾燥膜厚は、3.5μmであった。第一領域の面内位相差Reは280nmであり、面内方向の遅相軸が基材フィルムの長手方向と0°の角度をなしていた。一方、第二領域の面内位相差Reは10nm以下であった。第一領域及び第二領域は互いに平行な帯状の領域として形成され、それぞれの帯の幅は276.6μmであった。
【0139】
(第一の位相差フィルムの貼付)
第一の位相差フィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」)を用意した。この第一の位相差フィルムは、長手方向に対する配向角45°、測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内における面内位相差Reのばらつき±10nm以下であった。
【0140】
アクリル粘着剤(綜研化学社製、製品名「SKダイン2094」)に硬化剤(綜研化学社製、製品名「E−AX」)を、アクリル粘着剤中のポリマー100重量部に対して硬化剤が5重量部の割合となるように添加したものを用意した。以下、これを適宜「PSA」と略称する。
【0141】
第二の位相差フィルム層を備える長尺の位相差フィルムの前記第二の位相差フィルム層の表面に、PSAを介して、第一の位相差フィルムを貼り合わせた。この際、第一の位相差フィルムの遅相軸と、第二の位相差フィルム層の第一領域の遅相軸が45°となるようにして貼り合わせた。これにより、(基材フィルム)−(第二の位相差フィルム層)−(粘着層)−(第1位相差フィルム)の層構成を有する、長尺の積層位相差フィルムを得た。粘着層の厚さは25μmであった。
【0142】
(長尺の積層位相差フィルムとガラスとの貼り合せ)
前記の長尺の積層位相差フィルムを所定の大きさで切り取り、基材フィルムを剥がした。その後、第二の位相差フィルム層を、厚さ0.7mm、大きさ420mm×270mmのガラス板(Eagel2000)に、上記PSAを介して貼り付けた。これにより、(ガラス板)−(粘着層)−(第二の位相差フィルム層)−(粘着層)−(第一の位相差フィルム)の層構成を有する評価用サンプルを得た。この評価用サンプルは、ガラス板を備えるために剛直性を有するので、画像表示パネルの画素パターンとの位置合わせが容易であった。
【0143】
(偏光メガネの右眼用フィルムの製造)
右眼用位相差フィルムとして、前記第一の位相差フィルムと同様のフィルム(日本ゼオン社製、製品名「斜め延伸ゼオノアフィルム」;長手方向に対する配向角45°;測定波長550nmでの面内位相差Re140nm、面内位相差Reのばらつきは±10nm以下)を用意した。
また、右眼用偏光板として、サンリッツ社製の偏光板(製品名「HLC2−5618」)を用意した。
【0144】
右眼用位相差フィルムの遅相軸と、右眼用偏光板の透過軸とが+45°の角度をなすように、右眼用位相差フィルムと右眼用偏光板とを前記PSAを介して貼り合せて、右眼用フィルムを得た。
【0145】
(偏光メガネの左眼用フィルムの製造)
右眼用フィルムの右眼用位相差フィルム及び右眼用偏光板と同様の位相差フィルム及び偏光板を、左眼用フィルムの左眼用位相差フィルム及び左眼用偏光板として用意した。
左眼用位相差フィルムの遅相軸と、左眼用偏光板の透過軸とが−45°の角度をなすように、左眼用位相差フィルムと左眼用偏光板とを前記PSAを介して貼り合せて、左眼用フィルムを得た。
【0146】
(クロストーク率CR、CLの測定)
図10は、実施例におけるクロストーク及び色味ずれの評価系の構成を模式的に示す図である。
図10に示すように、評価用ディスプレイ装置としてVAモードのディスプレイ装置(BenQ社製V2420H パネルはAUO社製M240HW02、24”Full HD 画素276.8umピッチ)を用意し、その画像表示パネル810が水平方向と平行で上向きになるように置いた。この画像表示パネル810は、光源側偏光板と、液晶セルと、第一の偏光板である視認側偏光板とを備えるものである。
【0147】
次に、画像表示パネル810の視認側偏光板上に、評価用サンプル820を置いた。このとき、評価用サンプル820は、液晶パネル810に近い方から、第一の位相差フィルム、粘着層、第二の位相差フィルム層、粘着層及びガラス板の順となる向きにした。また、下向きに見て、画像表示パネル810の視認側の偏光板透過軸の方向は+90°方向、第一の位相差フィルムの遅相軸の方向は+45°方向、第二の位相差フィルム層の第一領域の遅相軸は0°方向となるようにした。なお、この評価系において、各光学要素の光学軸(透過軸及び遅相軸)の角度は、ストライプ状に形成された第二の位相差フィルム層の第一領域及び第二領域が延在する方向が0°方向、反時計回りの角度がプラスの角度、時計回りの角度がマイナスの角度である。
【0148】
次いで、評価用サンプル820の第二の位相差フィルム層の第一領域及び第二領域の位置と、画像表示パネル810の画素の位置とが対応するように、位置合わせを実施した。
【0149】
評価用サンプル820の面内において、ある位置830を原点(X,Y=0,0)として決めた。その原点830の直上(即ち、原点830を通り評価用サンプル820の主面に対して垂直な直線上)の、評価用サンプル820から約500mm離れた位置に、色彩輝度計(トプコンハウステクノ社製、製品名「BM7」)840を設置した。
【0150】
評価用サンプル820と色彩輝度計840との間に、評価サンプル820に近い方から右眼用位相差フィルム及び右眼用偏光板の順となるように、右眼用フィルム850を配置した。このとき、下向きに見て、右眼用位相差フィルムの遅相軸の方向は+90°方向、右眼用偏光板の透過軸の方向は+135°方向となるようにした。
【0151】
評価用ディスプレイ装置にパーソナルコンピュータより評価用画像を入力し、表示された画像を右眼用フィルム850を介して色彩輝度計840で測定し、輝度L、R及びBを測定した。
ここで、輝度Lとは、右眼用の画像を表示する光を黒にし、左眼用の画像を表示する光を白にした場合に、右眼用フィルム820を介して測定した輝度を表す。
また、輝度Rとは、右眼用の画像を表示する光を白にし、左眼用の画像を表示する光を黒にした場合に、右眼用フィルム820を介して測定した輝度を表す。
さらに、輝度Bとは、右眼用の画像を表示する光及び左眼用の画像を表示する光を両方とも黒にした場合に、右眼用フィルム820を介して測定した輝度を表す。
【0152】
さらに、右眼用フィルム850に代えて左眼用フィルム860を配置して、同様に、輝度L、R及びBを測定した。このとき、下向きに見て、左眼用位相差フィルムの遅相軸の方向は+90°方向、左眼用偏光板の透過軸の方向は+45°方向となるようにした。
ここで、輝度Lは、右眼用の画像を表示する光を黒にし、左眼用の画像を表示する光を白にした場合に、左眼用フィルム860を介して測定した輝度を表す。
また、輝度Rは、右眼用の画像を表示する光を白にし、左眼用の画像を表示する光を黒にした場合に、左眼用フィルム860を介して測定した輝度を表す。
さらに、輝度Bは、右眼用の画像を表示する光及び左眼用の画像を表示する光を両方とも黒にした場合に、左眼用フィルム860を介して測定した輝度を表す。
【0153】
測定した輝度から、下記の式により、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)を算出した。結果を表1に示す。
CR=(L−B)/(R−B
CL=(R−B)/(L−B
平均クロストーク率=(CL+CR)/2
【0154】
(色味ずれの評価)
クロストーク率の測定と同様の評価系を用いて、評価用ディスプレイ装置にパーソナルコンピュータより評価用画像を入力し、表示された画像を右眼用フィルム850及び左眼用フィルム860それぞれを介して色彩輝度計840で色度(x,y)を測定した。測定の際、右眼用の画像を表示する光及び左眼用の画像を表示する光は両方とも白にした。右眼用フィルム850を介して測定した色度と左眼用フィルム860を介して測定した色度との色度差ΔEを算出し、これにより色味ずれの大きさを評価した。結果を表1に示す。
【0155】
[実施例2]
第一の位相差フィルムの面内位相差Reを125nmにした。また、第二の位相差フィルム層の第一領域の面内位相差Reを250nmにした。さらに、右眼用及び左眼用位相差フィルムの面内位相差Reを125nmにした。以上の事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表1に示す。
【0156】
[実施例3]
右眼用及び左眼用位相差フィルムとして、ポリカーボネートで形成された位相差フィルムを用いた。この事項以外は実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表1に示す。
【0157】
[実施例4]
評価系における右眼用フィルムの向きを、右眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が+75°方向となるように変更した。また、評価系における左眼用フィルムの向きを、左眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が+75°方向となるように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表1に示す。
【0158】
[実施例5]
評価系における右眼用フィルムの向きを、右眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が+105°方向となるように変更した。また、評価系における左眼用フィルムの向きを、左眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が+105°方向となるように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表1に示す。
【0159】
[実施例6]
第二の位相差フィルム層の第一領域の遅相軸の方向を、基材フィルムの長手方向と+45°の角度をなす方向に変更した。また、評価用ディスプレイ装置を、TNモードのディスプレイ装置(IO−DATA社製、LCD−AD201XGB、パネルはInnolux社製 MT200LW01)に変更した。また、評価系における第一の位相差フィルムの向きを、第一の位相差フィルムの遅相軸の方向が+90°方向となるように変更した。また、評価系における第二の位相差フィルム層の向きを、その第一領域が延在する方向に対して評価用ディスプレイ装置の画像表示パネルの視認側の偏光板の透過軸方向が+135°方向となるようにし、これにより、第一領域の遅相軸が+45°方向となるように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表1に示す。
【0160】
[比較例1]
偏光メガネの右眼用フィルムを製造する際、右眼用位相差フィルムの遅相軸と、右眼用偏光板の透過軸とが−45°の角度をなすようにした。また、偏光メガネの左眼用フィルムを製造する際、左眼用位相差フィルムの遅相軸と、左眼用偏光板の透過軸とが+45°の角度をなすようにした。また、評価系における右眼用フィルムの向きを、右眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が+45°方向となるように変更した。また、評価系における左眼用フィルムの向きを、左眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が+135°方向となるように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0161】
[比較例2]
右眼用及び左眼用位相差フィルムとして、ポリカーボネートで形成された位相差フィルムを用いた。この事項以外は比較例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0162】
[比較例3]
評価系における右眼用フィルムの向きを、右眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が0°方向となるように変更した。また、評価系における左眼用フィルムの向きを、左眼用位相差フィルムの遅相軸の方向が0°方向となるように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同様にして、右眼のクロストーク率CR(%)、左眼のクロストーク率CL(%)、及び平均クロストーク率(%)並びに色度差ΔEを測定した。結果を表2に示す。
【0163】
[評価系における各フィルムの光学軸の説明]
図11は、各実施例及び比較例で用いた評価系における偏光板の透過軸及び位相差フィルムの遅相軸を説明する図である。図11に示すように、この評価系では、右眼用フィルムを評価する場合、画像表示パネルの出射側の偏光板である第一の偏光板910と、第一の位相差フィルム920と、第二の位相差フィルム層930と、右眼用位相差フィルム940と、右眼用偏光板950と、色彩輝度計960とが、この順に配置される。また、左眼用フィルムを評価する場合、画像表示パネルの出射側の偏光板である第一の偏光板910と、第一の位相差フィルム920と、第二の位相差フィルム層930と、左眼用位相差フィルム970と、左眼用偏光板980と、色彩輝度計960とが、この順に配置される。
【0164】
この際、下向きに画像を見た場合には、
(i)第二の位相差フィルム層930の第一領域931が延在する方向D931に対して、第一の偏光板910の透過軸A910がなす角度θ910、
(ii)第一領域931が延在する方向D931に対して、第一の位相差フィルム920の遅相軸A920がなす角度θ920、
(iii)第二の位相差フィルム層930の第一領域931が延在する方向D931に対して、第二の位相差フィルム930の第一領域931の遅相軸A931がなす角度θ931、
(iv)第二の位相差フィルム層930の第一領域931の遅相軸A931に対して、右眼用位相差フィルム940の遅相軸A940がなす角度φ940、
(v)第二の位相差フィルム層930の第一領域931の遅相軸A931に対して、左眼用位相差フィルム970の遅相軸A970がなす角度φ970、
(vi)右眼用位相差フィルム940の遅相軸A940に対して、右眼用偏光板950の透過軸A950がなす角度ψ950、並びに、
(vii)左眼用位相差フィルム970の遅相軸A970に対して、左眼用偏光板980の透過軸A980がなす角度ψ980
は、表1に示すようになる。
なお、前記の角度は、反時計回りの角度がプラスの角度、時計回りの角度がマイナスの角度である。
【0165】
【表1】

【0166】
【表2】

【0167】
[検討]
表1及び表2から分かるように、実施例においては比較例よりもクロストーク率及び色度差の両方が低くなっている。このことから、本発明の立体画像表示システムによれば、クロストーク及び色味ムラを抑制できることが確認できる。
【符号の説明】
【0168】
10 立体画像表示システム
20 立体画像表示システム
30 立体画像表示システム
100 ディスプレイ装置
110 光源
120 画像表示パネル
120R 領域
120L 領域
121 光源側偏光板
122 液晶セル
123 視認側偏光板(第一の偏光板)
130 積層位相差フィルム
131 第一の位相差フィルム
132 第二の位相差フィルム
132A 第一領域
132B 第二領域
200 偏光メガネ
210 右眼用レンズ
211 右眼用位相差フィルム
212 右眼用偏光板
220 左眼用レンズ
221 左眼用位相差フィルム
222 左眼用偏光板
300 ディスプレイ装置
310 光源
320 画像表示パネル
320R 領域
320L 領域
321 光源側偏光板
322 液晶セル
323 視認側偏光板(第一の偏光板)
330 積層位相差フィルム
331 第一の位相差フィルム
332 第二の位相差フィルム
332A 第一領域
332B 第二領域
400 偏光メガネ
410 右眼用レンズ
411 右眼用位相差フィルム
412 右眼用偏光板
420 左眼用レンズ
421 左眼用位相差フィルム
422 左眼用偏光板
500 ディスプレイ装置
540 光学フィルム
600 偏光メガネ
613 光学フィルム
610 右眼用レンズ
620 左眼用レンズ
623 光学フィルム
810 画像表示パネル
920 第一の位相差フィルム
930 第二の位相差フィルム
931 第一領域
940 右眼用位相差フィルム
950 右眼用偏光板
960 色彩輝度計
970 左眼用位相差フィルム
980 左眼用偏光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイ装置と偏光メガネとを備える立体画像表示システムであって、
前記ディスプレイ装置は、第一の偏光板を備え前記第一の偏光板を透過した光により右眼用画像及び左眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、第一の位相差フィルムと、第二の位相差フィルムとをこの順に備え、
前記第一の位相差フィルムは、面内で一様な位相差をその表示領域に有し、
前記第二の位相差フィルムは、位相差を有し前記右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記偏光メガネは、前記右眼用画像を表示する光を透過させ前記左眼用画像を表示する光を遮断しうる右眼用部材と、前記右眼用画像を表示する光を遮断し前記左眼用画像を表示する光を透過させうる左眼用部材とを備え、
前記右眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する右眼用位相差フィルムと、前記右眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の一方の角度をなす透過軸を有する右眼用偏光板とを備え、
前記左眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する左眼用位相差フィルムと、前記左眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の他方の角度をなす透過軸を有する左眼用偏光板とを備える、立体画像表示システム。
【請求項2】
前記第一の位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、透過光に対して略1/4波長の位相差を発現させうる、請求項1記載の立体画像表示システム。
【請求項3】
前記第二の位相差フィルムの前記第一領域が、透過光に対して略1/2波長の位相差を発現させうる、請求項1又は2記載の立体画像表示システム。
【請求項4】
前記第一の位相差フィルムの遅相軸と、前記第一の偏光板の透過軸とが略45°又は略135°の角度をなす、請求項1〜3のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項5】
前記第二の位相差フィルムの前記第一領域及び前記第二領域それぞれが、前記第二の位相差フィルムの面内の一方向に延在する帯状の領域であって、
前記第一領域の遅相軸が、前記第一領域が延在する方向に対して平行である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項6】
前記第二の位相差フィルムの前記第一領域及び前記第二領域それぞれが、前記第二の位相差フィルムの面内の一方向に延在する帯状の領域であって、
前記第一領域の遅相軸が、前記第一領域が延在する方向に対して略45°又は略135°の角度をなす、請求項1〜4のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項7】
前記第一の位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、同じ材質からなる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項8】
前記第一の位相差フィルム、前記右眼用位相差フィルム及び前記左眼用位相差フィルムが、シクロオレフィンポリマーを含んでなる、請求項1〜7のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項9】
前記第二の位相差フィルムの前記第一の位相差フィルムとは反対側、前記右眼用位相差フィルムの前記右眼用偏光板とは反対側、又は、前記左眼用位相差フィルムの前記左眼用偏光板とは反対側に、光学部材を備える、請求項1〜8のいずれか一項に記載の立体画像表示システム。
【請求項10】
前記光学部材が、ハードコートフィルム又は反射防止フィルムである、請求項9記載の立体画像表示システム。
【請求項11】
ディスプレイ装置に表示される立体画像を見るための偏光メガネであって、
前記ディスプレイ装置は、第一の偏光板を備え前記第一の偏光板を透過した光により右眼用画像及び左眼用画像を表示しうる画像表示パネルと、第一の位相差フィルムと、第二の位相差フィルムとをこの順に備え、前記第一の位相差フィルムは、面内で一様な位相差をその表示領域に有し、前記第二の位相差フィルムは、位相差を有し前記右眼用画像及び左眼用画像の一方を表示する光を透過させうる第一領域と、位相差を有さず前記右眼用画像及び左眼用画像の他方を表示する光を透過させうる第二領域とを有し、
前記偏光メガネは、前記右眼用画像を表示する光を透過させ前記左眼用画像を表示する光を遮断しうる右眼用部材と、前記右眼用画像を表示する光を遮断し前記左眼用画像を表示する光を透過させうる左眼用部材とを備え、
前記右眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する右眼用位相差フィルムと、前記右眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の一方の角度をなす透過軸を有する右眼用偏光板とを備え、
前記左眼用部材は、前記第二の位相差フィルムの前記第一領域の遅相軸と90±15°の角度をなす遅相軸を有する左眼用位相差フィルムと、前記左眼用位相差フィルムの遅相軸と略+45°及び略−45°の他方の角度をなす透過軸を有する左眼用偏光板とを備える、偏光メガネ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−242547(P2012−242547A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111510(P2011−111510)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】