説明

管更生用積層チューブの製造方法

【課題】熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材を外覆する気密性を有するチューブに穿孔することなく、樹脂吸収材の内部から真空吸引することで安全性の高い管更生用積層チューブを簡易に製造することができる管更生用積層チューブの製造方法を提供すること。
【解決手段】熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材1を気密性を有するフイルムチューブ2内に挿入し、かつ繊維基材1内に拡張金型3を挿入した後、拡張金型3を拡張して繊維基材1をフイルムチューブ2内に添わせ、かつ拡張金型3内より真空吸引することによりフイルムチューブ2と繊維基材1とを密着させつつ、これを加熱することによりフイルムチューブ2を融解させてフイルムチューブ2と繊維基材1とを積層一体化するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管更生用積層チューブの製造方法に関し、特に、熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材を外覆する気密性を有するチューブに穿孔することなく、樹脂吸収材の内部から真空吸引することで安全性の高い管更生用積層チューブを簡易に製造するようにした管更生用積層チューブの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下水道管、ガス管、その他の工業用管は地中に埋設して使用しているが、老朽化すると管路に亀裂、破損が生じて管路内を流下する流体が漏洩することがある。特に漏洩流体が発火性の流体の場合は危険が伴うものとなる。このため、地中に埋設した管路を掘削して新しい管路と交換することなく、安全に継続使用できるよう、老朽化した或いは老朽化しつつある管路内周面にライニングを施して補修、補強するようにしている。
【0003】
この管路内周面の管ライニング材としては、例えば、特許文献1に開示されたものが提案されている。
この管ライニング材は、気密性を有するプラスチックチューブの内側に管状の樹脂吸収材を通し、樹脂吸収材の内側に気密性を有する加圧用チューブを挿入し、加圧用チューブを流体圧によって膨出させて樹脂吸収材を円管状押し広げるとともに、プラスチックチューブの一部を穿孔するようにして減圧用ホースを挿入し、減圧用ホースを介して樹脂吸収材を真空引きして樹脂吸収材にプラスチックチューブを密着させて製造するようにしている。
【0004】
この管ライニング材の製造工程において、樹脂吸収材の真空吸引時に樹脂吸収材を外覆する気密性を有するプラスチックチューブの一部に穿孔する必要があるため、管ライニング材の融着後に真空吸引用孔を確実に閉塞する必要があり、この孔の閉塞に手間がかかるという問題があった。
また、この孔の閉塞が不十分であると熱硬化する樹脂が漏出して樹脂の硬化不良が発生するという問題があった。
【特許文献1】特公平7−45182号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、管更生用積層チューブの製造方法の有する問題点に鑑み、熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材を外覆する気密性を有するチューブに穿孔することなく、樹脂吸収材の内部から真空吸引することで安全性の高い管更生用積層チューブを簡易に製造することができる管更生用積層チューブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の管更生用積層チューブの製造方法は、熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材を気密性を有するフイルムチューブ内に挿入し、かつ該繊維基材内に拡張金型を挿入した後、該拡張金型を拡張して繊維基材をフイルムチューブ内面に添わせ、かつ拡張金型内より真空吸引することによりフイルムチューブと繊維基材とを密着させつつ、これを加熱することによりフイルムチューブを融解させてフイルムチューブと繊維基材とを積層一体化するようにしたことを特徴とする。
【0007】
この場合において、フイルムチューブを融解させることで繊維基材と積層一体化した積層チューブの内側に内チューブを挿入し、積層チューブと内チューブ間内に熱硬化性樹脂を浸漬させることができる。
【0008】
また、繊維基材を、筒状の合成樹脂製不織布とすることができる。
【0009】
また、繊維基材を、ポリエステル不織布とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の管更生用積層チューブの製造方法によれば、熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材を気密性を有するフイルムチューブ内に挿入し、かつ該繊維基材内に拡張金型を挿入した後、該拡張金型を拡張して繊維基材をフイルムチューブ内に添わせ、かつ拡張金型内より真空吸引することによりフイルムチューブと繊維基材とを密着させつつ、これを加熱することによりフイルムチューブを融解させてフイルムチューブと繊維基材とを積層一体化するようにすることにより、外覆用のフイルムチューブに穿孔することなく内部から真空吸引することができるので、従来のように穿孔を閉塞する手間を要することなく、かつ熱硬化性樹脂の漏洩も完全に防止でき、安全な管更生用積層チューブを確実に、簡易に製造することができる。
【0011】
また、フイルムチューブを融解させることで繊維基材と積層一体化した積層チューブの内側に内チューブを挿入し、積層チューブと内チューブ間内に熱硬化性樹脂を浸漬させるようにすることにより、管路内に挿入して加熱する際、熱硬化性樹脂を漏洩させることなく、確実に管路の補修、補強を行うことができる。
【0012】
また、繊維基材を、筒状の合成樹脂製不織布とすることにより、積層チューブの有効厚さを任意に設定することができる。
【0013】
また、繊維基材を、ポリエステル不織布とすることにより、材質の安定した繊維基材を安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の管更生用積層チューブの製造方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1〜図5に、本発明の管更生用積層チューブの製造方法の一実施例を示す。
この管更生用積層チューブの製造方法は、熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材1をフイルムチューブ2内に挿入し、さらに繊維基材内に拡張金型3を挿入した後、拡張金型3を拡張して繊維基材1をフイルムチューブ2内に添わせ、かつ拡張金型3内より真空吸引することによりフイルムチューブ2と繊維基材1とを密着させつつ、これを加熱することによりフイルムチューブ2を融解させてフイルムチューブ2と繊維基材1とを積層一体化して積層チューブ4を形成し、さらに積層チューブ4の内側に内チューブ5を挿入し、積層チューブ4と内チューブ5間内に熱硬化性樹脂6を浸漬させて製造するようにする。
なお、本実施例においては、図1に示すように、フイルムチューブ2の右端部は、フイルムチューブ2を絞り、繊維基材1及び拡張金型3をフイルムチューブ2内に挿入した後、左端部を絞ることにより、拡張金型3内より真空吸引することを可能としている。
【0016】
この繊維基材1としては、合成樹脂製不織布、例えば、ポリエステル製のフェルトや不織布(ニードルパンチ品を含む)を採用することができ、さらには、合成樹脂製不織布に適宜短繊維や長繊維のガラス繊維を含ませたものを採用することもできる。ガラス繊維を含ませたものは、更生材料の剛性を向上させることができる点で好ましい。
なお、本実施例においては、フイルムチューブ2に直径150mm程度のものを用いるとともに、繊維基材1はフイルムチューブ2とほぼ同じ外径のものを用い、拡張金型3を拡張して繊維基材1と共にフイルムチューブ2を若干伸ばすことにより、繊維基材1をフイルムチューブ2内に添わせ、その後、フイルムチューブ2と繊維基材1とを積層一体化するようにしている。
繊維基材1には、製造する管更生用積層チューブの外径に対応した径の予め筒形のものを採用する。繊維基材1の内径は、特に限定されるものではなく、管路の補修、補強に適した径を有するものとする。
筒形の繊維基材1は、始めから筒形でなくとも、例えば、平板材を筒状に巻いて形成したものとすることもできる。
また、この繊維基材1は、管更生用積層チューブとして採用するに際して、相応しい量の熱硬化性樹脂を容易に吸収できるように、特に限定されるものではないが、例えば、厚み2〜3mm程度、目付量500g/m程度のものを採用することが好ましい。
【0017】
この繊維基材1の外側に被せるフイルムチューブ2としては、内側より真空吸引する際、気密性を保つことができるよう気密性を有するもの、さらには加熱により融解可能な材質、これは特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンフイルム、ポリエチレンとポリアミドの積層フイルム等を採用することができる。
なお、この気密性を有するフイルムチューブ2の径と長さは、繊維基材1に適用するようにして設定するもので、例えば、筒状の繊維基材1の外側に簡易に被せることができるよう、繊維基材1の外径より少し大径となるようにし、かつ繊維基材1の長さと等しいか或いはこれより長いものとし、これにより、繊維基材1の外側面を完全に覆うことができ、内部からの真空吸引を可能とするようにする。
【0018】
また、繊維基材1の内側に挿入し、繊維基材1を放射方向に拡張させるようにした拡張金型3は、金属製或いは合成樹脂製とし、かつ真空吸引時においても少なくとも妄りに変形しない程度の強度を有するように構成する。
この拡張金型3は、特に限定されるものではないが、例えば、図3に示すように、金属或いは合成樹脂の板材31を、その端部が互いに重なるようして、かつ筒状の繊維基材1の内側に簡易に挿入できる円形状に巻いたものとすることができる。この場合、拡張金型3の内側から繊維基材1を保形しつつ真空吸引できるよう、金属或いは合成樹脂の板材31に吸引用の孔32を穿設する。
この拡張金型3の板材31に形成する吸引用の孔32の径とその穿設数は、特に限定されるものではないが、真空吸引時、板材31が所要の円形状と径を保ち、かつ繊維基材1の全周面から均一に真空吸引できるようにして設定する。
また、この拡張金型3の全長を、繊維基材の全長と等しくすることもできるが、フイルムチューブ2の長さが10m〜15m長の場合、5mとしてこれを複数本をつなぎ合わせ使用することもできるし、5mずつ処理し、順次ずらして処理をしていくこともできる。この場合、拡張金型3内より真空吸引することを可能にするために、拡張金型3の端部で気密性を有するフイルムチューブ2を絞るようにする。
【0019】
この拡張金型3を拡張する機構は、板材端部が互いに重なる位置において、両端部間に拡張手段33を掛け渡すように配設し、拡張手段33を駆動することで板材端部間を互いに突っ張り合うことで拡張金型を拡張、すなわち、拡径し、反対に板材端部間を互いに引き合うことで拡張金型を縮径するように構成する。
この拡張手段33としては、特に限定されるものではなく、ねじ杆式、シリンダー式とすることができる。例えば、図3(C)に示すように、板材端部にそれぞれ拡張用凸起を突設し、この両拡張用凸起間にねじ杆34をそれぞれ螺合するように掛け渡し、ねじ杆34に固定した歯車34aとロッド34cに固定した歯車34bとをターンバックル状に螺合し、ロッド34cの回動にて拡張金型3の拡張或いは縮径を行うように構成する。
また、図3(D)に示すように、板材31の端部に固定した拡張用凸起間に拡張手段33としてのシリンダー35を掛け渡し、シリンダー35の駆動にて拡張金型の拡張或いは縮径を行うようにすることができる。
【0020】
また、拡張金型3は、傘骨形状に形成することもできる。これは、図4(A)に示すように、複数枚の細長い円弧形をした板材36をその端部が互いに重なるようにして円形に配設し、かつ各円弧形板材に拡張用ロッド37を内側に突設し、各拡張用ロッド37の先端を拡張金型の中心長手方向に配設する挿通ロッド38と係着して形成する。そして、この挿通ロッド38を出し入れ或いは回動させることにより各拡張用ロッド37を介して各円弧形板材を揺動させ、拡張金型3の拡張或いは縮径を行うようにする。
【0021】
また、拡張金型3を複数本の細いロッド39aを、図5(A)に示すように、破線管状に、またこの中心に進退式ロッド39bをそれぞれ配置し、各ロッド39aの内側にテーパ状の拡張用カム39cを突設するとともに、この各拡張用カム39cと対向するようにして進退式ロッド39bに拡張用凸起39dを突設して構成することもできる。これにより、図5(B)に示すように、進退式ロッド39bを進退させることで拡張用凸起39d、拡張用カム39cを介して各破線管状に配置したロッド39aを放射方向に押し出すようにして拡張金型3を拡張するようにする。
なお、本実施例において、拡張金型3の断面の外周形状は円形としたが、特にこれに限定されず、適宜の多角形等の任意の形状を選択することができる。
また、外周から加熱する場合のヒータの形状に対応する形で、拡張金型3の形状を選択することができる。これにより、均一で効率的な加熱を行うことができる。
【0022】
次に、本発明の管更生用積層チューブの製造方法を図1〜図2に基づいて説明する。
拡張金型3を筒状の繊維基材1内に挿入する場合、図1に示すように、拡張金型3を繊維基材径よりも縮径した状態として挿入し、かつこの外側に被せるようにしてフイルムチューブ2を挿入する。そして、拡張金型3を拡張することで繊維基材1を拡張してフイルムチューブ2内にピッタリと添わるようにする。その後、拡張金型内をその端部より真空吸引すると、フイルムチューブ2と繊維基材1間に存在している空気が拡張金型3、すなわち、繊維基材1外へ吸引排出され、これにより、フイルムチューブ2は繊維基材1と密着するものとなる。
【0023】
次に、この状態でフイルムチューブ2の外側或いは/又は拡張金型からフイルムチューブ2が融解する程度の温度(特に限定されるものではないが、例えば、150〜160℃)に加熱する。この加熱は、ヒータ、例えば、遠赤外線ヒータ等の加熱器により行うことも、或いは熱風により行うこともできる。
このように、拡張金型3を拡張して繊維基材1をフイルムチューブ2を密着させつつ加熱することにより、フイルムチューブ2が融解して繊維基材1と積層一体化される。
このフイルムチューブ2と繊維基材1とを積層一体化させた後、拡張金型を縮径させて繊維基材内より引き抜き、所要の積層チューブ4を製造する。
【0024】
次に、この積層チューブ内部に気密性を有する内チューブ5を挿入するとともに、この積層チューブ4及び内チューブ5と積層チューブ4間内に熱硬化性樹脂6を浸漬させ、管更生用積層チューブとする。これを管路内に挿入、加熱して管路を補修、補強するようにする。
【0025】
以上、本発明の管更生用積層チューブの製造方法について、実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の管更生用積層チューブの製造方法は、熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材を外覆する気密性を有するチューブに穿孔することなく、樹脂吸収材の内部から真空吸引することで安全性の高い管更生用積層チューブを簡易に製造するという特性を有していることから、地中に埋設した下水道管、ガス管、その他の工業用管の補修、補強の用途に好適に用いることができる
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の管更生用積層チューブの製造方法の製造工程の一実施例を示す説明図である。
【図2】本発明の管更生用積層チューブの製造方法によって製造された管更生用積層チューブを示し、(A)は正面縦断面図、(B)は側面縦断面図である。
【図3】拡張金型を示し、(A)は側面縦断面図、(B)は正面図、(C)はねじ杆式拡張手段の拡大説明図、(D)はシリンダー式拡張手段の拡大説明図である。
【図4】拡張金型の異なる実施例を示し、(A)は側面縦断面図、(B)は正面縦断面図である。
【図5】拡張金型の異なる実施例を示し、(A)は側面縦断面図、(B)は拡張動作の説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1 繊維基材
2 フイルムチューブ
3 拡張金型
4 積層チューブ
5 内チューブ
6 熱硬化性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂を吸収可能とした繊維基材を気密性を有するフイルムチューブ内に挿入し、かつ該繊維基材内に拡張金型を挿入した後、該拡張金型を拡張して繊維基材をフイルムチューブ内に添わせ、かつ拡張金型内より真空吸引することによりフイルムチューブと繊維基材とを密着させつつ、これを加熱することによりフイルムチューブを融解させてフイルムチューブと繊維基材とを積層一体化するようにしたことを特徴とする管更生用積層チューブの製造方法。
【請求項2】
フイルムチューブを融解させることで繊維基材と積層一体化した管更生用積層チューブの内側に内チューブを挿入し、積層チューブと内チューブ間内に熱硬化性樹脂を浸漬させるようにしたことを特徴とする請求項1記載の管更生用積層チューブの製造方法。
【請求項3】
繊維基材を、筒状の合成樹脂製不織布としたことを特徴とする請求項1又は2記載の管更生用積層チューブの製造方法。
【請求項4】
繊維基材を、ポリエステル不織布としたことを特徴とする請求項1、2又は3記載の管更生用積層チューブの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−83210(P2009−83210A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253977(P2007−253977)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】