説明

粉末成形用樹脂組成物及び成形体

【課題】 耐ブロッキング性に優れ、良好な粉体流動性を示し、溶融性、および耐熱性に優れた粉末成形用樹脂組成物を得ることを課題とする。
【解決手段】 メタアクリル系重合体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロックに酸無水物基および/またはカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)と、1分子中に平均1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)とからなるアクリル系重合体粉体(C)100重量部に対し、平均粒子径30μm以下であり、かつ粉体(C)より小さい平均粒子径を有する樹脂粉末(D)を0.01〜30重量部を添加してなる粉末成形用樹脂組成物とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体流動性および溶融性のバランスに優れたアクリル系粉末成形用樹脂組成物に関するものである。また、パウダースラッシュ成形に好適な組成物およびその組成物を用いたパウダースラッシュ成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
内装材等の表皮材には、従来、軟質のポリ塩化ビニル(以下、PVC)がよく用いられており、その成形には、例えば、粉末材料を用いた成形法であるパウダースラッシュ成形法等が用いられている。この方法は、i)ソフトな触感の製品が得られる、ii)皮シボやステッチを製品に設けることができる、iii)設計自由度が大きく意匠性の高い高級感のある表皮材を形成し得る、等の特徴を有しており、インストルメントパネル、コンソールボックス、ドアートリム等の自動車内装品の表皮成形に広く採用されている。この成形方法では、射出成形といった他の成形方法とは異なり、成形の際に賦形圧力をかけない。このため、粉末材料は、成形時に複雑な形状の金型に均一に付着し、かつ金型に付着した粉体が溶融して皮膜を形成することが要求される。また、表皮材などには、引張強度や伸び等の機械特性や耐候性、耐熱性、耐スクラッチ性、低温特性、歪回復性、接触可能性のある薬剤に対する耐性等が要求される。
【0003】
PVCはパウダースラッシュ成形時の成形性に優れる。しかし、ハロゲン原子を多量に含むため、燃焼時に有毒ガスを発生するといった問題を有している。そこで、近年、これらPVCに替わる材料として、オレフィン系熱可塑性エラストマーやスチレン系熱可塑性エラストマーが多く提案されている。これら熱可塑性エラストマーは比較的安価で耐候性、耐熱性に優れる。しかし、耐スクラッチ性に劣るという欠点を有している。
【0004】
耐スクラッチ性に優れる材料として、熱可塑性ウレタンエラストマー(以下、TPU)よりなるパウダースラッシュ成形材料が提案されている。TPUは、耐スクラッチ性以外に低温特性、柔軟性に優れる。しかし、耐候性に劣るため、長期使用される自動車内装部品等の用途には信頼性の点で問題があった。
【0005】
そこで、上記問題を解決する材料として、アクリル系ブロック共重合体を使用したパウダースラッシュ材料が提案されている(特許文献1)。メタアクリル酸メチルなどをハードセグメント、アクリル酸ブチルなどをソフトセグメントに有するアクリル系ブロック共重合体は、熱可塑性エラストマーとしての特性を有することが知られており、ブロック体を構成する成分を適宜選択することで、スチレン系ブロック体などの他の熱可塑性エラストマーに比べて極めて柔軟なエラストマーを与えることも可能である。また、アクリル系ブロック共重合体は、耐候性、耐熱性、耐久性、耐油性、耐磨耗性、低温特性に優れ、更に、例えばイニファーター法で製造したメタアクリルブロックとアクリルブロックを有するアクリル系ブロック共重合体は優れた機械特性を示す(特許文献2)。
【0006】
しかし、特許文献1や2に記載のアクリル系ブロック共重合体は、粘着性があり、ブロッキングを起こす。このため、ペレットあるいはパウダーとしての取り扱いが困難であり、粉体特性に劣るという問題があった。このため、粉体流動性が良好であり、かつ溶融性に優れる自動車用内装材料用粉体の開発が求められていた。
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/041886号パンフレット
【特許文献2】特開平1−26619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、耐ブロッキング性に優れ、良好な粉体流動性を示し、溶融性、および耐熱性に優れた粉末成形用樹脂組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、上記課題を解決するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、メタアクリル系単量体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系単量体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロックに酸無水物基および/またはカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)と、1分子中に平均1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)からなるアクリル系重合体粉体(C)100重量部に対し、平均粒子径30μm以下であり、かつ粉体(C)より小さい平均粒子径を有する樹脂粉末(D)を0.01〜30重量部を添加してなることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物に関する。
【0011】
好ましい実施態様としては、(D)成分である樹脂粉末がアクリル系樹脂、イミド系樹脂、スチレン系樹脂、アミド系樹脂、シリコン系樹脂、オレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ユリア系樹脂およびウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂粉末であることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物が挙げられる。
【0012】
好ましい実施態様としては、アクリル系重合体ブロック(b)の主鎖中に、酸無水物基および/またはカルボキシル基が存在することを特徴とする粉末成形用樹脂組成物が挙げられる。
【0013】
好ましい実施態様としては、(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体が、メタアクリル系単量体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)10〜60重量%と、アクリル系単量体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)90〜40重量%とからなることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物挙げられる。
【0014】
好ましい実施態様としては、アクリル系重合体ブロック(b)が、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−メトキシエチルおよびアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体ならびにこれらと共重合可能な異種のアクリル酸エステル50〜100重量%と、これらと共重合可能なビニル系単量体50〜0重量%とからなることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物挙げられる。
【0015】
好ましい実施態様としては、メタアクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度が25〜130℃であることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物挙げられる。
【0016】
好ましい実施態様としては、(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量が、30,000〜200,000であることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物挙げられる。
【0017】
好ましい実施態様としては、(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.8以下であることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物挙げられる。
【0018】
好ましい実施態様としては、(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体が、原子移動ラジカル重合により製造されたブロック共重合体であることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物挙げられる。
【0019】
好ましい実施態様としては、(B)成分であるアクリル系重合体の重量平均分子量が、30,000以下であることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物挙げられる。
【0020】
好ましい実施態様としては、アクリル系重合体粉体(C)の平均粒子径が1μm以上1000μm未満であることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物が挙げられる。
【0021】
好ましい実施態様としては、上記の粉末成形用樹脂組成物を含有することを特徴とするパウダースラッシュ成形用組成物に関する。
【0022】
別の実施態様としては、上記の粉末成形用樹脂組成物をパウダースラッシュ成形して成ることを特徴とするパウダースラッシュ成形体に関する。
【0023】
別の実施態様としては、上記の粉末成形用樹脂組成物をパウダースラッシュ成形して成ることを特徴とする自動車内装用表皮に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、耐ブロッキング性に優れ、粉体流動性および溶融性のバランスに優れた粉末成形用樹脂組成物を得ることが可能である。本発明にかかる組成物は、パウダースラッシュ成形、プレス成形、およびその他の各種成形方法に好適に使用することが可能であって、例えば、外観の優れた自動車の内装用表皮等を作製することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0026】
本発明に係る樹脂組成物を構成するアクリル系重合体粉体(C)は、メタアクリル系単量体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系単量体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロックに酸無水物基および/またはカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)と、1分子中に平均1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)からなる。このアクリル系重合体粉体(C)に、平均粒子径30μm以下であり、かつ粉体(C)より小さい平均粒子径を有する樹脂粉末(D)を添加して、アクリル系重合体粉体(C)の表面に樹脂粉末(D)を付着させる。アクリル系ブロック共重合体(A)の酸無水物基やカルボキシル基とアクリル系重合体(B)のエポキシ基は、成形時に反応し、アクリル系ブロック共重合体(A)を高分子量化もしくは架橋させる。
【0027】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。
【0028】
<アクリル系ブロック共重合体(A)>
ブロック共重合体(A)の構造は、線状であっても、分岐状(星状)であってもよく、これらの混合物であってもよく、必要とされるブロック共重合体(A)の物性に応じて適宜選択すればよいが、コスト面や重合容易性の点から、線状ブロック共重合体であるのが好ましい。
【0029】
線状ブロック共重合体の配列は、特に問うものではないが、その物性または組成物にした場合の物性の点から、アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するメタアクリル系重合体ブロック(a)(以下、重合体ブロック(a)またはブロック(a)という)およびアクリル系重合体ブロック(b)(以下、いずれも重合体ブロック(b)またはブロック(b)という)が、一般式:(a−b)n、一般式:a−(b−a)n、一般式:(b−a)n−b(nは1〜3の整数)で表わされるブロック共重合体よりなる群から選ばれる少なくとも1種のブロック共重合体であることが好ましい。これらの中でも、加工時の取扱いが容易なことや、組成物にした場合の物性の点から、a−b型のジブロック共重合体、a−b−a型のトリブロック共重合体、またはこれらの混合物が好ましい。
【0030】
ブロック共重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量は特に限定されないが、好ましくは30,000〜500,000、さらに好ましくは50,000〜400,000とする。数平均分子量が小さいと粘度が低く、また、数平均分子量が大きいと粘度が高くなる傾向があるので、必要とする加工特性に応じて適宜設定する。
【0031】
ブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)も特に限定されないが、好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下とする。Mw/Mnが1.8を超えるとブロック共重合体の均一性が低下する傾向がある。
【0032】
ブロック共重合体(A)のメタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の組成比は、メタアクリル系重合体ブロック(a)を5〜90重量%、アクリル系重合体ブロック(b)を95〜10重量%とするのが望ましい。メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が5重量%より少ないと、成形時に形状が保持されにくい傾向があり、アクリル系重合体ブロック(b)の割合が10重量%より少ないと、エラストマーとしての弾性および成形時の溶融性が低下する傾向がある。成形時の形状の保持およびエラストマーとしての弾性の観点から、組成比は、メタアクリル系重合体ブロック(a)を10〜60重量%、アクリル系重合体ブロック(b)を90〜40重量%とするのが好ましく、メタアクリル系重合体ブロック(a)を15〜50重量%、アクリル系重合体ブロック(b)を85〜50重量%とするのがより好ましい。
【0033】
エラストマー組成物の硬度は、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が少ないと低くなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が多いと高くなる傾向がある。このため、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合は、要求される硬度に応じて適宜設定するとよい。また粘度は、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が少ないと低く、メタアクリル系重合体ブロック(a)の割合が多いと高くなる傾向がある。このため、要求される加工特性に応じてメタアクリル系重合体ブロック(a)の割合を適宜設定するとよい。
【0034】
アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するメタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度の関係は、メタアクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度をTga、アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度をTgbとして、機械強度やゴム弾性発現等の点で下式の関係を満たすことが好ましい。
Tga>Tgb
【0035】
メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度(Tg)の設定は、下記のFox式に従い、各重合体部分の単量体の重量比率を設定することにより行うことができる。
1/Tg=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wm/Tgm
1+W2+…+Wm=1
(式中、Tgは重合体部分のガラス転移温度を表わし、Tg1,Tg2,…,Tgmは各重合単量体のガラス転移温度を表わす。また、W1,W2,…,Wmは各重合単量体の重量比率を表わす。)
【0036】
Fox式における各重合単量体のガラス転移温度は、たとえば、Polymer Handbook Third Edition(Wiley−Interscience 1989)記載の値を用いればよい。
なお、ガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量測定)または動的粘弾性のtanδピークにより測定することができるが、メタアクリル系重合体ブロック(a)とアクリル系重合体ブロック(b)の極性が近すぎたり、ブロックの単量体の連鎖数が少なすぎると、それら測定値とFox式による計算式とがずれる場合がある。
【0037】
<メタアクリル系重合体ブロック(a)>
メタアクリル系重合体ブロック(a)は、メタアクリル酸エステルを主成分とする単量体成分を重合してなるブロックであり、加工性などの点で、メタアクリル酸エステル50〜100重量%およびこれと共重合可能なビニル系単量体0〜50重量%とからなることが好ましい。
【0038】
メタアクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸−n−プロピル、メタアクリル酸イソプロピル、メタアクリル酸−n−ブチル、メタアクリル酸イソブチル、メタアクリル酸−n−ペンチル、メタアクリル酸−n−ヘキシル、メタアクリル酸シクロヘキシル、メタアクリル酸−n−ヘプチル、メタアクリル酸−n−オクチル、メタアクリル酸−2−エチルヘキシル、メタアクリル酸ノニル、メタアクリル酸デシル、メタアクリル酸ドデシル、メタアクリル酸フェニル、メタアクリル酸トルイル、メタアクリル酸ベンジル、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸−2−メトキシエチル、メタアクリル酸−3−メトキシブチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタアクリル酸ステアリル、メタアクリル酸グリシジル、メタアクリル酸−2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシメチルシラン、メタアクリル酸のエチレンオキサイド付加物、メタアクリル酸トリフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロエチル、メタアクリル酸パーフルオロメチル、メタアクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、メタアクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどをあげることができる。
【0039】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、加工性、コストおよび入手容易性の点で、メタアクリル酸メチルが好ましい。また、メタアクリル酸イソボルニル、メタアクリル酸シクロヘキシルなどを共重合させることによって、ガラス転移点を高くすることができる。更には、耐熱性を上げる為に酸無水物を導入する際の前駆体としては、メタアクリル酸−t−ブチルが好ましい。
【0040】
メタアクリル系重合体ブロック(a)を構成するメタアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、アクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド化合物などをあげることができる。
【0041】
アクリル酸エステルとしては、たとえば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸−n−ペンチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸−n−ヘプチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸−3−メトキシブチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸−2−アミノエチル、アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、アクリル酸トリフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−トリフルオロメチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、アクリル酸2−パーフルオロエチル、アクリル酸パーフルオロメチル、アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロデシルエチル、アクリル酸−2−パーフルオロヘキサデシルエチルなどをあげることができる。
【0042】
芳香族アルケニル化合物としては、たとえば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレンなどをあげることができる。シアン化ビニル化合物としては、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどをあげることができる。共役ジエン系化合物としては、たとえば、ブタジエン、イソプレンなどをあげることができる。ハロゲン含有不飽和化合物としては、たとえば、塩化ビニル、塩化ビニリデン、パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデンなどをあげることができる。ケイ素含有不飽和化合物としては、たとえば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどをあげることができる。不飽和ジカルボン酸化合物としては、たとえば、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステルおよびジアルキルエステルなどをあげることができる。ビニルエステル化合物としては、たとえば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニルなどをあげることができる。マレイミド系化合物としては、たとえば、マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミドなどをあげることができる。
【0043】
これらは単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、メタアクリル系重合体ブロック(a)に要求されるガラス転移温度の調整、アクリル系重合体ブロック(b)との相溶性などの観点から好ましいものを適宜選択する。
【0044】
メタアクリル系重合体ブロック(a)は、エラストマー組成物の熱変形の観点から、ガラス転移温度が25℃以上となるように設計するのが好ましく、40℃以上となるようにするのがより好ましく、50℃以上となるようにするのがさらに好ましい。(a)のガラス転移温度がエラストマー組成物の使用される環境の温度より低いと、凝集力の低下により、熱変形しやすくなる場合がある。
【0045】
以上述べた観点から、メタアクリル系重合体ブロック(a)は、メタアクリル酸メチルを主成分とし、また、ガラス転移点を制御する目的で、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−2−メトキシエチルおよびアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも1種の単量体を重合してなるブロックであることが好ましい。
【0046】
<アクリル系重合体ブロック(b)>
アクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル酸エステルを主成分とする単量体成分を重合してなるブロックであり、ゴム弾性などの点で、アクリル酸エステル50〜100重量%およびこれと共重合可能なビニル系単量体0〜50重量%とからなることが好ましい。
【0047】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エステルとしては、たとえば、メタアクリル系重合体ブロック(b)を構成する単量体として例示したアクリル酸エステルと同様の単量体をあげることができる。
【0048】
これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、ゴム弾性、低温特性およびコストのバランスの点で、アクリル酸−n−ブチルが好ましい。さらに低温特性と機械特性と圧縮永久歪が必要な場合は、アクリル酸−2−エチルヘキシルを共重合させるとよい。耐油性と機械特性が必要な場合は、アクリル酸エチルが好ましい。また、低温特性と耐油性の付与、及び樹脂の表面タック性の改善が必要な場合は、アクリル酸−2−メトキシエチルが好ましい。また、耐油性および低温特性のバランスが必要な場合は、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチルおよびアクリル酸−2−メトキシエチルの組み合わせが好ましい。さらに、耐熱性を上げる為に酸無水物基を導入する場合、その前駆体としては、アクリル酸−t−ブチルが好ましい。
【0049】
アクリル系重合体ブロック(b)を構成するアクリル酸エステルと共重合可能なビニル系単量体としては、たとえば、メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物などをあげることができる。
【0050】
メタアクリル酸エステル、芳香族アルケニル化合物、シアン化ビニル化合物、共役ジエン系化合物、ハロゲン含有不飽和化合物、ケイ素含有不飽和化合物、不飽和ジカルボン酸化合物、ビニルエステル化合物、マレイミド系化合物としては、メタアクリル系重合体ブロック(a)を構成する単量体として例示したものと同様の単量体をあげることができる。
【0051】
これらはそれぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのビニル系単量体は、アクリル系重合体ブロック(b)に要求されるガラス転移温度や耐油性、メタアクリル系重合体ブロック(a)との相溶性等のバランスを考慮して、適宜好ましいものを選択する。
【0052】
アクリル系重合体ブロック(b)は、エラストマー組成物のゴム弾性の観点から、そのガラス転移温度が25℃以下となるようにするのが好ましく、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。なお、アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度をエラストマー組成物の使用される環境の温度より低くすると、ゴム弾性が発現されやすくなる。
【0053】
以上述べた観点から、アクリル系重合体ブロック(b)は、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−メトキシエチル及びアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群から選ばれる少なくとも1種ならびにこれらと共重合可能な異種のアクリル酸エステル50〜100重量%と、これらと共重合可能なビニル系単量体50〜0重量%とを重合してなるブロックであることが好ましい。
【0054】
アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度は、エラストマー組成物のゴム弾性の観点から、25℃以下であるのが好ましく、より好ましくは0℃以下、さらに好ましくは−20℃以下である。アクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度が、エラストマー組成物の使用される環境の温度より高いと、柔軟性や、ゴム弾性が発現されにくくなる。
【0055】
以上述べた観点から、アクリル系重合体ブロック(b)は、酸無水物基、カルボキシル基または酸無水物基、カルボキシル基の前駆体を有する単量体、およびアクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチルおよびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群から選ばれる少なくとも1種を主成分とする単量体を重合してなるブロックであることが好ましい。
【0056】
アクリル系重合体ブロック(b)のTgbの設定は、前記のFox式に従い、各重合体部分の単量体の重量比率を設定することにより行なうことができる。
【0057】
<酸無水物基およびカルボキシル基>
酸無水物基およびカルボキシル基は、本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形体に耐薬品性やゴム弾性を付与しつつ、高温での機械物性を保持させるために、メタアクリル系重合体ブロック(a)および/またはアクリル系重合体ブロック(b)に、ブロック共重合体一分子当たり1個以上導入するのが好ましい。酸無水物基およびカルボキシル基は、アクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル系重合体(B)との反応性や、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)の凝集力やガラス転移温度、さらには必要とされるアクリル系ブロック共重合体(A)の物性、導入の容易性などに応じて、酸無水物基またはカルボキシル基どちらか一方を導入しても良いし、共に導入しても良い。
【0058】
本発明において、酸無水物基およびカルボキシル基は、アクリル系重合体(B)との反応点として作用すればよく、ブロック共重合体が高分子量化または架橋されるための反応点または架橋点として作用することが好ましい。酸無水物基およびカルボキシル基は、酸無水物基およびカルボキシル基を適当な保護基で保護した形、または、酸無水物基およびカルボキシル基の前駆体の形でブロック共重合体に導入し、そののちに公知の化学反応で酸無水物基およびカルボキシル基を生成させることにより導入することができる。
【0059】
酸無水物基およびカルボキシル基の含有数は、酸無水物基およびカルボキシル基の凝集力、反応性、アクリル系ブロック共重合体(A)の構造および組成、アクリル系ブロック共重合体(A)を構成するブロックの数、ガラス転移温度によって変化させ、その数は必要に応じて適宜設定する必要があるが、好ましくはブロック共重合体1分子あたり平均して1.0個以上、より好ましくは2.0個以上とする。これは、1.0個より少なくなると、ブロック共重合体の2分子間反応による高分子量化や架橋による耐熱性向上が不十分になる傾向があるためである。
【0060】
なお、酸無水物基やカルボキシル基を導入することによりアクリル系重合体ブロック(b)の凝集力やガラス転移温度Tgbが向上すると、柔軟性、ゴム弾性、低温特性が悪化する傾向にある。このため、酸無水物基および/またはカルボキシル基をアクリル系重合体ブロック(b)に導入する場合、アクリル系ブロック共重合体(A)の柔軟性、ゴム弾性、低温特性が悪化しない範囲で導入することが好ましい。具体的には酸無水物基やカルボキシル基を導入後のアクリル系重合体ブロック(b)のガラス転移温度Tgbが25℃以下になるように導入するのが好ましく、0℃以下がより好ましく、−20℃以下になるようにするのがさらに好ましい。
【0061】
以下に、酸無水物基およびカルボキシル基について説明する。
【0062】
<酸無水物基>
組成物中に活性プロトンを有する化合物を含有する場合、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)中の酸無水物基は、以下に記載の所定の温度で加熱することにより、化合物(B)中のエポキシ基と容易に反応する。酸無水物基の導入位置は、特に限定されるものではなく、酸無水物基は、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)において、その主鎖中に導入されていても良いし、側鎖に導入されていても良い。酸無水物基はカルボキシル基を無水物化したものであり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)への導入の容易性から、主鎖中へ導入されていることが好ましく、具体的には一般式(1)で表される。一般式(1):
【0063】
【化1】

(式中、R1は水素またはメチル基で、2つのR1は互いに同一でも異なっていてもよい。nは0〜3の整数、mは0または1の整数)で表される形で含有される。
【0064】
一般式(1)中のnは0〜3の整数であって、好ましくは0または1であり、より好ましくは1である。nが4以上の場合は、重合が煩雑になったり、酸無水物基の環化が困難になる傾向にある。
【0065】
酸無水物基の導入方法としては、酸無水物基の前駆体の形でアクリル系ブロック共重合体に導入し、そののちに環化させることが好ましい。特に、一般式(2):
【0066】
【化2】

(式中、R2は水素またはメチル基を表わす。R3は水素、メチル基またはフェニル基を表わし、3つのR3のうち少なくとも2つはメチル基および/またはフェニル基から選ばれ、3つのR3は互いに同一でも異なっていてもよい。)で表される単位を少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体を溶融混練して、環化導入することが好ましい。
【0067】
アクリル系重合体ブロック(b)への一般式(2)で表される単位の導入は、一般式(2)に由来するアクリル酸エステル、またはメタアクリル酸エステル単量体を共重合することによって行なうことができる。単量体としては、(メタ)アクリル酸−t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸α,α−ジメチルベンジル、(メタ)アクリル酸α−メチルベンジルなどがあげられるが、これらに限定するものではない。これらのなかでも、入手性や重合容易性、酸無水物基生成容易性などの点から(メタ)アクリル酸−t−ブチルが好ましい。なお、本願においては、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタアクリル酸を意味する。
【0068】
酸無水物基の形成は、酸無水物基の前駆体を有するアクリル系ブロック共重合体を高温下で加熱することにより行うことが好ましく、180〜300℃で加熱することにより行うのがより好ましい。180℃より低いと酸無水物基の生成が不十分となる傾向があり、300℃より高くなると、酸無水物基の前駆体を有するアクリル系ブロック共重合体自体が分解することがある。
【0069】
<カルボキシル基>
アクリル系ブロック共重合体(A)中のカルボキシル基は、化合物(B)中のエポキシ基と容易に反応する。カルボキシル基の導入位置は、特に限定されるものではなく、カルボキシル基は、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)において、その主鎖中に導入されていても良いし、側鎖に導入されていても良いが、導入の容易性から、主鎖中へ導入されていることが好ましい。
【0070】
カルボキシル基の導入は、カルボキシル基を有する単量体が重合条件下で触媒を被毒することがない場合は、直接、重合により導入することにより行うのが好ましく、カルボキシル基を有する単量体が重合時に触媒を失活させる場合には、官能基変換によりカルボキシル基を導入する方法により行うのが好ましい。
【0071】
官能基変換によりカルボキシル基を導入する方法としては、カルボキシル基を適当な保護基で保護した形、または、カルボキシル基の前駆体となる官能基の形でアクリル系ブロック共重合体に導入し、そののちに公知の所定の化学反応で官能基を生成させる方法が挙げられる。
【0072】
カルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)の合成方法としては、たとえば、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸トリメチルシリルなどのように、カルボキシル基の前駆体となる官能基を有する単量体を含むアクリル系ブロック共重合体を合成し、加水分解もしくは酸分解など公知の化学反応によってカルボキシル基を生成させる方法(特開平10−298248号公報、特開2001−234146号公報)や、一般式(2):
【0073】
【化3】

(式中、R2は水素またはメチル基を表わす。R3は水素、メチル基またはフェニル基を表わし、3つのR3のうち少なくとも2つはメチル基および/またはフェニル基から選ばれ、3つのR3は互いに同一でも異なっていてもよい。)で表わされる単位を少なくとも1つ有するアクリル系ブロック共重合体を、溶融混練して導入する方法がある。
【0074】
また前記酸無水物基を加水分解することによりカルボキシル基を導入することもできる。
【0075】
<ブロック共重合体(A)の製造方法>
(重合)
本発明にかかるアクリル系ブロック共重合体組成物の製造方法は、特に限定されないが、分子量を容易に制御できるという観点から、制御重合を用いることが好ましい。制御重合としては、重合開始剤として有機アルカリ金属化合物を用い、有機アルミニウム化合物存在下でアニオン重合する方法(国際公開第2004/041886号パンフレット)や有機希土類錯体を重合開始剤として配位アニオン重合する方法(特開平10−298248)、連鎖移動剤を用いるラジカル重合および近年開発されたリビングラジカル重合等を挙げることができる。これらの中で、リビングラジカル重合がブロック共重合体の分子量および構造制御の点ならびに製造上の簡便さという点から好ましい。
【0076】
その例としては、ポリスルフィドなどの連鎖移動剤を用いるもの、コバルトポルフィリン錯体(Journal of American Chemical Society,1994年,第116巻,7943頁)やニトロキシド化合物などのラジカル捕捉剤を用いるもの(Macromolecules,1994年,第27巻,7228頁)、有機ハロゲン化物などを開始剤とし遷移金属錯体を触媒とする原子移動ラジカル重合(Atom Transfer Radical Polymerization:ATRP)などをあげることができる。本発明において、これらのうちいずれの方法を使用するかはとくに制約はないが、制御の容易さなどから原子移動ラジカル重合が好ましい。
【0077】
その中でも、たとえば、Matyjaszewskiら, Journal of American Chemical Society,1995年,第117巻,5614頁、および、Macromolecules,1995年,第28巻,7901頁、さらに、Science,1996年,第272巻,866頁、また、特許文献としては、特開2001−200026号公報に示される重合方法を好ましく用いることができる。
【0078】
(重合触媒などの除去)
重合によって得られた反応液は、重合体と金属錯体の混合物となっており、金属錯体を除去する必要がある。除去方法については特に限定されないが、たとえば、特開2003−147015号公報に示される処理方法が好ましく使用される。
【0079】
(官能基変換)
本発明においては、重合体ブロックに導入された単量体のエステル部位を官能基変換反応させてカルボキシル基、酸無水物基を導入したアクリル系ブロック共重合体を用いてもよい。
【0080】
カルボキシル基を有するブロック共重合体の合成方法としては、特に制限はないが、例えば、上述した特開平10−298248号公報や特開2001−234146号公報などに記載の方法によってカルボキシル基を生成させる方法がある。また、以下に示す方法のような、誘導した酸無水物基を加水分解してカルボキシル基を生成させる方法もある。
【0081】
酸無水物基を有するブロック共重合体の合成方法としては、前記のカルボキシル基を有するブロック共重合体を、加熱により脱水もしくは脱アルコール反応を行うことで、隣り合った単量体のエステル部位をカルボン酸無水物に変換させる方法がある。または、メタアクリル酸t−ブチル、アクリル酸t−ブチル、メタアクリル酸トリメチルシリル、アクリル酸トリメチルシリルなどのような、カルボキシル基の前駆体となる官能基を有する単量体を含むブロック共重合体を合成し、上記のように加熱により脱アルコール反応を行わせることで、隣り合った単量体のエステル部位をカルボン酸無水物に変換させる方法がある。
【0082】
このような方法により誘導した酸無水物基を有するブロック共重合体は、たとえばオートクレーブ中で精製水と加熱することで加水分解することができ、酸無水物基をカルボキシル基に変換することができる。加水分解は、たとえば200℃で2時間加熱することにより行うことができる。
【0083】
メタアクリル系重合体ブロック(a)あるいはメタアクリル系重合体ブロック(b)中にt−ブチル基が含有される場合は、上記記載方法により、カルボン酸基、またはカルボン酸基と酸無水物基の両方に変換することができる。
【0084】
<アクリル系重合体(B)>
本発明に係る熱可塑性エラストマー組成物を構成するアクリル系重合体(B)は、一分子中に平均1.1個以上のエポキシ基を含有する重合体である。アクリル系重合体(B)は、組成物の成形時に可塑剤として成形流動性を向上させると同時に、成形時にアクリル系ブロック共重合体(A)中の酸無水物基やカルボキシル基と反応し、アクリル系ブロック共重合体(A)を高分子量化、あるいは架橋させることが可能である。ここでいう個数はアクリル系重合体(B)全体中に存在するエポキシ基の平均の個数を表す。
【0085】
エポキシ基は、アクリル系重合体(B)中1.1個以上、好ましくは1.5個以上、より好ましくは2.0個以上含有させる。その数は、エポキシ基の反応性、エポキシ基の含有される部位および様式、アクリル系ブロック共重合体(A)中の酸無水物基やカルボキシル基の含有される数や部位および様式に応じて適宜変化させる。エポキシ基の含有数が1.1個より少なくなると、ブロック共重合体の高分子量化反応剤、あるいは架橋剤としての効果が低くなり、アクリル系ブロック共重合体(A)の耐熱性向上が不充分になる傾向がある。
【0086】
アクリル系重合体(B)は、1種または2種以上のアクリル系単量体を重合させるか、又は、1種または2種以上のアクリル系単量体とアクリル系単量体以外の単量体との混合物を重合させることにより得られたものであることが好ましい。
【0087】
アクリル系単量体としては、アクリロイル基含有単量体及びメタクリロイル基含有単量体が挙げられ、具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル、アクリル酸メトキシエチル、アクリル酸エトキシエチル、アクリル酸ブトキシエチル、アクリル酸フェノキシエチル等が挙げられる。前記その他の単量体としては、アクリル系単量体と共重合可能な単量体、例えば酢酸ビニル、スチレン等を用いることができる。
【0088】
アクリル系重合体(B)は、アクリロイル基含有単量体単位を含む。アクリル系重合体(B)中の全単量体単位に対するアクリロイル基含有単量体単位の割合は70質量%以上であることが好ましい。その割合が70質量%未満の場合、そのような重合体の耐候性は比較的低く、アクリル系ブロック共重合体(A)との相溶性も低下する傾向にある。また、その成形物に変色が生じやすくなる。
【0089】
アクリル系重合体(B)は、耐油性や低温特性のバランスの点から、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸エチル、およびアクリル酸−2−メトキシエチルからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体50〜100重量%と、これらと共重合可能な異種のアクリル酸エステルおよび/又はビニル系単量体50〜0重量%からなるものが好ましい。ビニル系単量体としては、スチレンが好ましい。
【0090】
また、アクリル系重合体(B)の重量平均分子量は、特に制限はないが、30,000以下の低分子量のものが好ましく、500〜30,000のものがさらに好ましく、500〜10,000のものが特に好ましい。重量平均分子量が500未満の場合、成形体にべとつきが生じる傾向があり、一方、重量平均分子量が30,000を超える場合、成形物の可塑化が不十分になる。
【0091】
アクリル系重合体(B)の粘度は、25℃においてコーン・プレート型の回転粘度計(E型粘度計)で測定した時、35,000mPa・s以下であるのが好ましい。より好ましい粘度は、10,000mPa・s以下である。特に好ましい粘度は、5,000mPa・s以下である。粘度が35,000mPa・sより高いと、組成物の可塑化効果が低下する傾向にある。好ましい粘度の下限は特にないが、アクリル系重合体の通常の粘度は10mPa・s以上である。
【0092】
示差走査熱量測定法(DSC)で測定されるアクリル系重合体(B)のガラス転移温度Tgは、好ましくは100℃以下であり、より好ましくは25℃以下であり、さらに好ましくは0℃以下であり、特に好ましくは−30℃以下である。ガラス転移温度Tgが100℃を超える場合、可塑剤として成形性を向上させる効果が不十分になる傾向があり、また、得られる成形体の柔軟性が低下する傾向にある。
【0093】
アクリル系重合体(B)は、公知の所定の方法で重合させることにより製造される。重合方法は必要に応じて適宜選択すればよく、例えば、懸濁重合、乳化重合、塊状重合、リビングアニオン重合や連鎖移動剤を用いる重合およびリビングラジカル重合等の制御重合等の方法により行うことができるが、耐候性や耐熱性が良好で比較的低分子量かつ分子量分布の小さい重合体が得られる制御重合が好ましく、以下に記載の高温連続重合を用いる方法がコスト面などの点でより好ましい。
【0094】
アクリル系重合体(B)は、180〜350℃の温度での重合反応により得ることが好ましい。この重合温度では、重合開始剤や連鎖移動剤を使用することなく、比較的低分子量のアクリル系重合体が得られることから、そのアクリル系重合体は優れた可塑剤であり、耐候性も良好である。具体的には、特表昭57−502171号公報、特開昭59−6207号公報、特開昭60−215007号公報及び国際公開第2001/083619号パンフレットに開示された高温連続重合による方法が例示される。すなわち、所定の温度及び圧力に設定された反応器内に上記の単量体の混合物を一定の供給速度で連続して供給し、その供給量に見合う量の反応液を抜き出す方法である。
【0095】
アクリル系重合体(B)としては、具体的には東亞合成(株)のARUFON(登録商標)XG4000、ARUFON UG4000、ARUFON XG4010、ARUFON UG4010、ARUFON XD945、ARUFON XD950、ARUFON UG4030、ARUFON UG4070などが好適に使用できる。これらは、オールアクリル、アクリレート/スチレン等のアクリル系重合体であって、エポキシ基を1分子中に1.1個以上含む。
【0096】
<アクリル系重合体粉体(C)用組成物>
アクリル系重合体粉体(C)用組成物は、酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)と、1分子当たり平均1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)からなることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物である。
【0097】
アクリル系重合体粉体(C)用組成物に含有されるアクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル系重合体(B)の配合量の割合は特に限定されないが、アクリル系重合体(B)の配合量は、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対して、0.1〜100重量部が好ましく、1〜50重量部がより好ましい。アクリル系重合体(B)の配合量が0.1重量部より小さいと十分にアクリル系ブロック共重合体(A)との架橋反応が進まず、成形体の耐熱性が不十分になる場合があり、100重量部より大きいと架橋反応が過剰に進み、成形体の伸びや柔軟性が損なわれる場合がある。
【0098】
アクリル系重合体粉体(C)用組成物は成形時に溶融粘度が低く成形性に優れる一方、成形時に酸無水物基やカルボキシル基と、反応性官能基であるエポキシ基とが反応してアクリル系ブロック共重合体(A)が高分子量化あるいは架橋することが好ましく、耐熱性向上の点で、成形時に架橋することがより好ましい。
【0099】
上記アクリル系ブロック共重合体(A)及びアクリル系重合体(B)間で架橋が必要な場合、架橋する方法に特に制限はなく、例えばアクリル系ブロック共重合体(A)とアクリル系重合体(B)を含む組成物を、加熱しながら溶融混練することができる混練装置等を用いることにより、架橋された重合体を得ることができる。
【0100】
アクリル系重合体粉体(C)用組成物には、必要に応じて、成形時の反応を促進させるために、種々の添加剤や触媒を添加しても良い。例えば、反応性官能基がエポキシ基の場合、酸二無水物等の酸無水物系、アミン系、イミダゾール系等のエポキシ樹脂に一般に用いられる硬化剤を用いることが可能である。
【0101】
アクリル系重合体粉体(C)用組成物には、上記のアクリル系ブロック共重合体(A)、アクリル系重合体(B)の他に、必要に応じて、安定剤や滑剤、難燃剤、顔料、充填剤、補強剤、粘着性付与剤、可塑剤を適宜配合することができる。具体的には、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、ジブチル錫マレエート等の安定剤;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、モンタン酸系ワックス、牛脂極度硬化油等の滑剤;デカブロモビフェニル、デカブロモビフェニルエーテル等の難燃剤;カーボンブラック、活性炭等の充填剤、補強剤;クマロン・インデン樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、ハイスチレン樹脂、石油系炭化水素(たとえばジシクロペンタジエン樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、不飽和炭化水素樹脂等)、ポリブテン、ロジン誘導体等の粘着性付与剤、アジピン酸誘導体、フタル酸誘導体、グルタル酸誘導体、トリメリト酸誘導体、ピロメリト酸誘導体、ポリエステル系可塑剤、グリセリン誘導体、エポキシ誘導体ポリエステル系重合型可塑剤、ポリエーテル系重合型可塑剤、アクリル系可塑剤を始めとするビニル系モノマーを種々の方法で重合して得られるビニル系重合体類、ヒドロキシ安息香酸エステル類、N−アルキルベンゼンスルホンアミド類、N−アルキルトルエンスルホンアミド等の高分子系可塑剤等の可塑剤等があげられる。
【0102】
<アクリル系重合体粉体(C)の製造方法>
本発明で用いられるアクリル系重合体粉体(C)の製造方法としては特に限定されないが、例えばブロック状またはペレット状のアクリル系重合体粉体(C)用組成物を冷凍粉砕法、常温粉砕法の方法で粉砕し、アクリル系重合体粉体(C)を得る方法や、有機溶剤(ペンタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン等の芳香族炭化水素類、ジエチルエーテル等のエーテル類、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類)に(c)を溶解した重合体溶液、水、及び分散剤を含む水分散液を撹拌しながら加熱する事により、アクリル系重合体粉体(C)を得る方法がある。(ビーズ化工程は今後充実)
これら重合体粉体の平均粒子径は1μm以上1000μm未満であるのが好ましい。粒径が1000μmより大きい場合には、成形した表皮にピンホールが発生しやすくなるため好ましくない。また1μmより小さい場合には粉体流動性が悪化し、スラッシュ成形時に金型の細部にまで粉が入り込まず成形が困難になる場合がある。
【0103】
本発明において示した平均粒子径は、標準ふるいで乾燥球状粉体をふるい分けし、それぞれの粒径範囲に属する画分の重量を個別に計量して重量基準による平均値を求めた値である。平均粒子径は、例えば電磁式ふるい振とう器(株式会社レッチェ製、AS200BASIC(60Hz))を用いて求めることができる。
【0104】
<樹脂粉末(D)>
本発明の粉末成形用樹脂組成物には、上記重合体粉体(C)に、さらに平均粒子径30μm以下であり、かつ粉体(C)より小さい平均粒子径を有する樹脂粉末(D)を配合する。これら樹脂粉末を重合体粉体に配合することにより、ブロッキング防止が可能になるばかりでなく、成形体の耐熱性を向上させることが可能になる。このような樹脂粉末(D)としては、オレフィン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、イミド系樹脂、スチレン系樹脂、アミド系樹脂、シリコン系樹脂、オレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ユリア系樹脂、グアナミン系樹脂、メラミン系樹脂およびウレタン系樹脂の粉末が好ましく例示できる。また、その添加量は、アクリル系重合体粉体(C)に対し、0.01〜30重量部とすることが好ましく、より好ましくは0.1〜25重量部、さらに好ましくは0.1重量部〜20重量部である。(D)が0.01重量部未満である場合、ブロッキング防止効果が少なく粉体流動性が悪化するため良好な成形性が得られず、30重量部を超えると得られる成形体の機械物性の低下や成形不良などを引き起こすことがある。
【0105】
また、粒子間の摩擦を減少させ、耐ブロッキング性を高めるために、樹脂粉末の形状は球状であることが好ましい。さらに、上記樹脂粉末(D)の粒径としては、粉末成形用樹脂組成物の流動性(粉流れ性)の観点から、その下限は好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは0.5μm以上であり、また、その上限は好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。
【0106】
<成形体の用途および使用方法>
本発明の組成物の成形方法としては、パウダースラッシュ成形が例示されるが、それ以外にも射出成形、射出ブロー成形、ブロー成形、押出ブロー成形、押出成形、カレンダー成形、真空成形、プレス成形などに適用可能である。
【0107】
得られた成形体は、たとえば、表皮材料や、触感材料、外観材料として好適に用いることができ、その他に、耐磨耗性材料、耐油性材料、制振材料、粘着材料のような目的を有する材料として用いることができる。形状としては、シート、平板、フィルム、小型成形品、大型成形品その他任意の形状として、またパネル類、ハンドル類、グリップ類、スイッチ類のような部品として、さらにそれ以外にもシーリング部材として用いることができる。用途としては、特に制限されないが、自動車用、家庭用電気製品用、または事務用電気製品用が例示される。たとえば、自動車用表皮材料、自動車用触感材料、自動車用外観材料、自動車用パネル類、自動車用ハンドル類、自動車用グリップ類、自動車用スイッチ類として、また、家庭用または事務用電気製品用パネル類、家庭用または事務用電気製品用スイッチ類などを例示することができる。この中でも、自動車内装用表皮に好適に使用される。
【実施例】
【0108】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0109】
なお、実施例におけるBA、MMA、TBA、EAは、それぞれ、アクリル酸−n−ブチル、メタアクリル酸メチル、アクリル酸−t−ブチル、アクリル酸エチルを表す。
【0110】
<分子量測定法>
本実施例に示す分子量は以下に示すGPC分析装置で測定し、クロロホルムを移動相として、ポリスチレン換算の分子量を求めた。システムとして、ウオーターズ(Waters)社製GPCシステムを用い、カラムとして、昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル)を用いた。
【0111】
<重合反応の転化率測定法>
本実施例に示す重合反応の転化率は以下に示す分析装置、条件で測定した。
使用機器:(株)島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−14B
試料調整:サンプルを酢酸エチルにより約3倍に希釈し、酢酸ブチルを内部標準物質とした。
【0112】
<粉体流動性試験>
ロート状の金属製容器に一定重量の樹脂粉末を充填し、底蓋を開けてから粉体がすべて流出するまでの時間を測定した。このデータを基に、一秒間当りの流出重量を算出した。粉体流動性試験の評価指標としては、上述の算出値が1.0(g/sec)以上:○、1.0(g/sec)より小さいもの:×とした。
【0113】
<溶融性試験>
パウダースラッシュ成形:
得られたパウダーを、以下の条件にて成形溶融性試験評価した。
使用機器:皮シボ付金属板(板厚4.5mm、シボ深さ80%)
加熱条件:250℃
加熱時間:最初の反転にて金型とパウダーを接触させ、6秒後に金型反転して未溶融のパウダーを分離、1分後に金型を取り外し冷却開始
冷却時間:1分以内(水槽の水に接触させて冷却)
溶融性評価指標:成形体の厚みが均一である:○、厚みムラがある:×
【0114】
<耐熱性試験>
本実施例および比較例に示す耐熱性は以下に示す条件で測定した。
実施例および比較例にて作成した、シボ模様のシートを24時間130℃で放置した。そ
の後、表面を目視で観察し、以下の規準で評価した。
シボ模様の変化が認められないもの;○
シボ模様の変化は明確でないものの、初期に比べ表面光沢が増したもの;△
シボ模様の変化が認められるもの;×
【0115】
(製造例1)
[アクリル系ブロック共重合体1の前駆体の合成]
アクリル系ブロック共重合体1の前駆体を得るために以下の操作を行なった。500Lの耐圧反応器内を窒素置換したのち、臭化銅692g(4.82モル)、BA77,820g(607モル)およびTBA3,470g(27.1モル)を仕込み、攪拌を開始した。その後、開始剤2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル965.1g(2.68モル)をアセトニトリル(窒素バブリングしたもの)7140gに溶解させた溶液を仕込み、内溶液を30分間攪拌し、75℃まで昇温させた。内温が75℃に到達した時点で、配位子ペンタメチルジエチレントリアミン83.6g(0.482モル)を加えてアクリル系重合体ブロックの重合を開始した。
【0116】
重合開始から一定時間ごとに、重合溶液を約100mLサンプリングし、これをガスクロマトグラム分析することによりBA、TBAの転化率を決定した。なお、重合の際、ペンタメチルジエチレントリアミンを随時加えることで重合速度を制御し、ペンタメチルジエチレントリアミンはアクリル系重合体ブロック重合時に合計2回(合計167g)添加した。
【0117】
BAの転化率が98.9%、TBAの転化率が99.0%の時点で、MMA49,590g(495モル)、EA8,050g(80.4モル)、塩化銅477g(4.82モル)、ペンタメチルジエチレントリアミン83.6g(0.482モル)およびトルエン(窒素バブリングしたもの)106,860gを加えて、メタアクリル系重合体ブロックの重合を開始した。
【0118】
MMA、EAを投入した時点でサンプリングを行い、これを基準としてMMA、EAの転化率を決定した。MMA、EAを投入後、内温を85℃とした。重合の際、ペンタメチルジエチレントリアミンを随時加えることで重合速度を制御した。なお、ペンタメチルジエチレントリアミンはメタアクリル系重合体ブロック重合時に合計6回(合計502g)添加した。MMAの転化率が95.9%の時点でトルエン250,000gを加え、反応器を冷却して反応を終了させた。得られたブロック共重合体のGPC分析を行ったところ、数平均分子量Mnは77,400、分子量分布Mw/Mnは1.44であった。得られた反応溶液にトルエンを加えて、重合体濃度を25重量%とした。この溶液にp−トルエンスルホン酸を2,203g加え、反応機内を窒素置換し、30℃で3時間撹拌した。反応液をサンプリングし、溶液が無色透明になっていることを確認して、昭和化学工業製ラヂオライト#3000を2,650g添加した。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m2)を用いて固体分を分離した。
【0119】
(製造例2)
[アクリル系ブロック共重合体1の合成]
上記方法で得られた濾液に対して、イルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)790gを添加し、さらに内部標準物質としてTBMAを濾液100wt%に対して0.1wt%を添加した。この溶液を150℃で4時間加熱攪拌した。4時間後、溶液をサンプリングし、GC測定にてTBMAが消失していることを確認して反応終了とし、室温まで冷却した。
【0120】
得られた溶液に対し、キョーワード500SH、13,150gを加え反応機内を窒素置換し、30℃で1時間撹拌した。溶液をサンプリングし、溶液が中性になっていることを確認して反応終了とした。その後反応機を窒素により0.1〜0.4MPaGに加圧し、濾材としてポリエステルフェルトを備えた加圧濾過機(濾過面積0.45m2)を用いて固体分を分離し、重合体溶液を得た。得られた重合体溶液にイルガノックス1010を790gと、酸トラップ剤としてハイドロタルサイトDHT−4A−2(協和化学工業(株)製)1,315gを添加した。
【0121】
引き続き重合体溶液から溶媒成分を蒸発した。蒸発機は株式会社栗本鐵工所製SCP100(伝熱面積1m2)を用いた。蒸発機入口の熱媒オイルを180℃、蒸発機の真空度を90Torr、スクリュー回転数を60rpm、重合体溶液の供給速度を32kg/hに設定し重合体溶液の蒸発を実施した。重合体は排出機を通じ、φ4mmのダイスにてストランドとし、アルフローH50ES(主成分:エチレンビスステアリン酸アミド、日本油脂(株)製)の3%懸濁液で満たした水槽で冷却後、ペレタイザーにより円柱状のペレットを得た。このようにしてアクリル系ブロック共重合体1のペレットを作製した。
【0122】
(製造例3)
[アクリル系重合体粉体の製造]
製造例2に示す重合体溶液6kg(固形分濃度25%)に、アクリル系ブロック共重合体(A)100重量部に対し、アクリル系重合体(B)としてのARUFON XG4010(東亞合成(株)製、アクリル系樹脂で、エポキシ基を1分子中に1.1個以上(概算値4個(カタログより))含有)10重量部、可塑剤(旭電化(株)製、RS700)10重量部、滑剤(日本油脂(株)製、牛脂極度硬化油)0.14重量部の割合で、添加し撹拌して混合した後、50L耐圧攪拌装置に投入した。
【0123】
引き続き純水8kgを仕込み、分散剤として曇点90℃の水溶性セルロースエーテル(信越化学工業(株)製 登録商標90SH−100)を15g(2%水溶液として750g添加)添加して、撹拌翼には2段4枚傾斜パドルを用いて250rpmで攪拌しながら撹拌槽下部よりスチームを吹き込んで昇温した。温度上昇によって蒸発した溶媒ガスはコンデンサに導入して逐次溶媒を回収し、100℃に到達して10分後、スチーム投入を停止した。ジャケットに通水することにより冷却し内温が60℃まで低下するのを待って攪拌を停止した。撹拌槽内に生成した樹脂スラリーを回収した。得られた粉体は、0.05〜0.35mmの粒径を有する粒子が重量比で全粉体の92%を占め、平均粒子径は210μmであった。またアスペクト比が1〜2の範囲内にあるものが粒子全数のうち95%を占める球形粒子であった。回収した樹脂スラリーをバスケット式遠心分離機(KOKUSAN製、製品名H−110A)を用いて2000rpmで処理することにより、平均粒径が175μmのアクリル系重合体粉体を得た。
【0124】
(実施例1)
製造例3で得られたアクリル系重合体粉体;100重量部に対し、平均粒径が約2μmであるアクリル系樹脂粉末MA1002(日本触媒(株)製)6重量部を添加し、ハンドブレンドした後、静置乾燥(室温、48時間)を行い、粉体状サンプルを得た。ここで得られたサンプルを用い、粉体流動性試験、耐熱性および溶融性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0125】
(実施例2)
製造例3で得られたアクリル系重合体粉体;100重量部に対し、平均粒径が約6μmであるアミド系樹脂(ナイロン12)粉末ANYBESTA(宇部興産(株)製)6重量部を添加し、ハンドブレンドした後、静置乾燥(室温、48時間)を行い、粉体状サンプルを得た。ここで得られたサンプルを用い、粉体流動性試験、耐熱性および溶融性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0126】
(実施例3)
製造例3で得られたアクリル系重合体粉体;100重量部に対し、平均粒径が約3μmであるユリア系樹脂粉末有機フィラー(日本化成(株)製)6重量部を添加し、ハンドブレンドした後、静置乾燥(室温、48時間)を行い、粉体状サンプルを得た。ここで得られたサンプルを用い、粉体流動性試験、耐熱性および溶融性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0127】
(実施例4)
製造例3で得られたアクリル系重合体粉体;100重量部に対し、平均粒径が約20μmであるセルロース系樹脂粉末ニッカリコAS-100S(ニッカ(株)製)6重量部を添加し、ハンドブレンドした後、静置乾燥(室温、48時間)を行い、粉体状サンプルを得た。ここで得られたサンプルを用い、粉体流動性試験、耐熱性および溶融性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0128】
(比較例1)
製造例3で得られたアクリル系重合体粉体;100重量部を静置乾燥(室温、48時間)し、粉体状サンプルを得た。ここで得られたサンプルを用い、粉体流動性試験、および溶融性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
表1(実施例1〜4および比較例1)からわかるように、実施例1〜4の粉体成形用樹脂組成物は、粉体流動性及び溶融性において良好な結果が得られた。一方、比較例1のサンプルでは、粉体流動性及び成形溶融性のすべてを満たしていなかった。
【0131】
以上のことから、本発明の粉体成形用樹脂組成物は、従来の粉体成形用樹脂組成物と比較して、粉体流動性、成形溶融性および耐熱性のバランスに優れることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタアクリル系単量体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系単量体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)からなり、メタアクリル系重合体ブロック(a)およびアクリル系重合体ブロック(b)のうち少なくとも一方の重合体ブロックに酸無水物基および/またはカルボキシル基を有するアクリル系ブロック共重合体(A)と、1分子中に平均1.1個以上のエポキシ基を有するアクリル系重合体(B)とからなるアクリル系重合体粉体(C)100重量部に対し、平均粒子径30μm以下であり、かつ粉体(C)より小さい平均粒子径を有する樹脂粉末(D)を0.01〜30重量部を添加してなることを特徴とする粉末成形用樹脂組成物。
【請求項2】
(D)成分である樹脂粉末がアクリル系樹脂、イミド系樹脂、スチレン系樹脂、アミド系樹脂、シリコン系樹脂、オレフィン系樹脂、エポキシ系樹脂、ユリア系樹脂、およびウレタン系樹脂から選ばれる少なくとも一種の樹脂粉末である請求項1記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項3】
アクリル系重合体ブロック(b)の主鎖中に、酸無水物基および/またはカルボキシル基が存在することを特徴とする請求項1または2に記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項4】
(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体が、メタアクリル系単量体を主成分とするメタアクリル系重合体ブロック(a)10〜60重量%と、アクリル系単量体を主成分とするアクリル系重合体ブロック(b)90〜40重量%とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項5】
アクリル系重合体ブロック(b)が、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−メトキシエチルおよびアクリル酸−2−エチルヘキシルからなる群より選ばれる少なくとも1種の単量体ならびにこれらと共重合可能な異種のアクリル酸エステル50〜100重量%と、これらと共重合可能なビニル系単量体50〜0重量%とからなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項6】
メタアクリル系重合体ブロック(a)のガラス転移温度が25〜130℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項7】
(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した数平均分子量が、30,000〜200,000であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項8】
(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)が、1.8以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項9】
(A)成分であるアクリル系ブロック共重合体が、原子移動ラジカル重合により製造されたブロック共重合体であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項10】
(B)成分であるアクリル系重合体の重量平均分子量が、30,000以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項11】
アクリル系重合体粉体(C)の平均粒子径が1μm以上1000μm未満であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物を含有することを特徴とするパウダースラッシュ成形用組成物。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物をパウダースラッシュ成形して成ることを特徴とするパウダースラッシュ成形体。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の粉末成形用樹脂組成物をパウダースラッシュ成形して成ることを特徴とする自動車内装用表皮。

【公開番号】特開2007−246616(P2007−246616A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−69500(P2006−69500)
【出願日】平成18年3月14日(2006.3.14)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】