説明

素子寿命判定装置

【課題】電気自動車の収納部に収納されたインバータのスイッチング素子の寿命をより適正に判定する。
【解決手段】試験素子温度Tstmpから環境温度差ΔTest(j)を減ずることにより仕向け地での推定素子温度Tsest(j)を算出する際の環境温度差ΔTest(j)は、複数の環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの外気温Tzの変化量に対するルーム内温度Taの変化量の割合を反映する第1感度αaと、試験環境温度Tstmpから仕向け地の最高気温を減じて得られる温度差ΔT(j)との積と、同じく外気温Tzの変化量に対する冷却水温Twの変化量の割合を反映する第2感度αwと、温度差ΔT(j)との積との和として算出される(S140)。これにより、仕向け地での推定地素子温度Tsest(j)をより適正に算出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、素子寿命判定装置に関し、詳しくは、走行用の動力を出力可能な電動機と、冷却液により冷却されるスイッチング素子のスイッチングによって電動機を駆動するインバータと、インバータを介して電動機と電力のやりとりが可能なバッテリと、を備える電気自動車のスイッチング素子の寿命を判定する素子寿命判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の素子寿命判定装置としては、直流電源の電力をインバータ装置のパワートランジスタのオンオフ駆動によりモータに供給すると共にエンジンを駆動することにより走行する自動車のインバータ装置において、パワートランジスタの寿命を判定するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、車両を駆動させる前に、所定期間だけ所定値の電流をモータに供給するようにインバータのパワートランジスタを駆動し、このときのパワートランジスタの熱抵抗値を演算し、演算した熱抵抗値に基づいてパワートランジスタの寿命を判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−9541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気自動車に搭載されたインバータが有するパワートランジスタ素子の寿命を仕向け地への出荷前に判定する手法の1つとして、比較的高い試験環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの素子温度を実験などにより取得し、試験環境温度と仕向け地の最高気温との温度差を実験等で取得した素子温度からそのまま減ずることにより、仕向け地での実際の素子温度を推定し、推定した仕向け地での素子温度に基づいて素子の寿命を判定するものがある。しかしながら、走行中に環境温度としての外気温がインバータを収納するエンジンルーム内の温度等にそのまま反映されない場合があることを考慮すると、この手法では、仕向け地での素子温度が実際よりも低く推定されてしまい、素子の寿命を適正に判定することができない可能性があった。
【0005】
本発明の素子寿命判定装置は、電気自動車の収納部に収納されたインバータのスイッチング素子の寿命をより適正に判定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の素子寿命判定装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の素子寿命判定装置は、
車両前部の収納部に収納され走行用の動力を出力可能な電動機と、冷却液により冷却されるスイッチング素子のスイッチングによって前記電動機を駆動する前記収納部に収納されたインバータと、前記インバータを介して前記電動機と電力のやりとりが可能なバッテリとを備える電気自動車が、所定の試験環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの前記スイッチング素子の最高温度である試験素子温度を取得する試験素子温度取得手段と、前記所定の試験環境温度から前記電気自動車の仕向け地の最高気温を減じて得られる温度差に基づく環境温度差を前記取得した試験素子温度から減ずることにより仕向地素子温度を推定する仕向地素子温度推定手段と、該推定した仕向地素子温度に基づいて前記スイッチング素子の寿命を判定する素子寿命判定手段と、を備える素子寿命判定装置において、
前記環境温度差は、前記電気自動車が複数の環境温度下で前記所定の走行パターンで走行したときの前記環境温度と前記収納部内の温度との関係から得られる前記環境温度の変化量に対する前記収納部内の温度の変化量の割合を反映する第1の感度と前記温度差との積と、前記電気自動車が前記複数の環境温度下で前記所定の走行パターンで走行したときの前記環境温度と前記冷却液の温度との関係から得られる前記環境温度の変化量に対する前記冷却液の温度の変化量の割合を反映する第2の感度と前記温度差との積との和である、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の素子寿命判定装置では、試験素子温度から環境温度差を減ずることにより仕向地素子温度を推定する際の環境温度差は、電気自動車が複数の環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの環境温度と収納部内の温度との関係から得られる環境温度の変化量に対するインバータを収納する収納部内の温度の変化量の割合を反映する第1の感度と所定の試験環境温度から車両の仕向け地の最高気温を減じて得られる温度差との積とと、電気自動車が複数の環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの環境温度とスイッチング素子を冷却する冷却液の温度との関係から得られる環境温度の変化量に対する冷却液の温度の変化量の割合を反映する第2の感度と温度差との積との和である。したがって、所定の試験環境温度と電気自動車の仕向け地の最高気温との温度差を第1の感度と第2の感度とを用いて補正することによって環境温度差を算出することになるから、環境温度差に、環境温度の変化に対する収納部内の温度の変化の程度と冷却液の温度の変化の程度とを反映させることができる。これにより、環境温度差をより適正に算出することができ、仕向地素子温度をより適正に推定することができる。この結果、インバータのスイッチング素子の寿命をより適正に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施例としての素子寿命判定装置の判定対象を含むハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】走行に必要な機器がエンジンルーム21に格納された様子を説明する説明図である。
【図3】インバータ41,42の構成の概略を示す構成図である。
【図4】車外ECU100により実行される素子寿命判定処理の一例を示すフローチャートである。
【図5】試験環境温度Tetmpから温度差ΔT(j)を算出する様子の一例と従来例において算出された推定素子温度Tsest(j)の一例とを示す説明図である。
【図6】従来例において所定の走行パターンで走行したときの各月の推定素子温度Tsest(j)の温度分布の一例を示す説明図である。
【図7】図6の推定素子温度Tsest(j)の温度分布を予定使用年数Y分の時間数に換算して得られる温度分布の一例を示す説明図である。
【図8】第1感度αaを設定する様子の一例を説明する説明図である。
【図9】第2感度αwを設定する様子の一例を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明の一実施例としての素子寿命判定装置の判定対象を含むハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、走行に必要な機器が車両前部のエンジンルーム21に格納された様子を説明する説明図であり、図3は、インバータ41,42の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図1に示すように、ガソリンや軽油などを燃料とする内燃機関として構成されたエンジン22と、エンジン22の運転制御を行なうエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24と、エンジン22のクランクシャフト26にキャリアが接続されると共に駆動輪63a,63bにデファレンシャルギヤ62を介して連結された駆動軸32にリングギヤが接続されたプラネタリギヤ30と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤに接続されたモータMG1と、例えば同期発電電動機として構成されて回転子が駆動軸32に接続されたモータMG2と、モータMG1,MG2を駆動するためのインバータ41,42と、モータMG1,MG2を駆動制御するモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されてインバータ41,42を介してモータMG1,MG2と電力をやりとりするバッテリ50と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット(以下、ハイブリッドECUという)70とを備える。また、図2に示すように、車両前部のエンジンルーム21には、エンジン22と、ケース31に収納されたプラネタリギヤ30およびモータMG1,MG2と、ケース49に収納されたインバータ41,42とが格納されおり、車両後部の図示しないリヤシート後方には、バッテリ50が格納されている。
【0012】
インバータ41,42は、図3に示すように、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16,T21〜26と、トランジスタT11〜T16,T21〜T26に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16,D21〜D26とにより構成されている。以下、トランジスタT11〜T16,T21〜T26を、それぞれまとめてT1,T2という。
【0013】
エンジンECU24は、エンジン22のクランクシャフト26に取り付けられた図示しないクランクポジションセンサからの信号など、エンジン22の状態を検出する各種センサからの信号を入力することによってエンジン22の運転制御を行なう。また、モータECU40は、インバータ42のトランジスタT2の温度を検出する温度センサ43からの素子温度Tsやインバータ41,42のトランジスタT1,T2を冷却水の循環により冷却する冷却系44に取り付けられて冷却水の温度を検出する水温センサ45からの冷却水温Twなど、モータMG1,MG2やインバータ41,42の状態を検出する各種センサからの信号を入力すると共にインバータ41,42のスイッチング素子としてのトランジスタT1,T2をスイッチング制御することによってモータMG1,MG2の駆動制御を行なう。
【0014】
ハイブリッドECU70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、格納したデータを保持する不揮発性のフラッシュメモリ78と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッドECU70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダルの踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V,車両周辺の気温を検出する外気温センサ90からの外気温Tz,エンジンルーム21内の雰囲気温度を検出する温度センサ92からのルーム内気温Ta,バッテリ50の状態を検出する各種センサからの信号などが入力ポートを介して入力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、エンジンECU24やモータECU40と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。さらに、ハイブリッドECU70は、車両外部の電子制御ユニット(以下、車外ECUという)100とも必要に応じて通信により接続可能であり、システム停止時に車外ECU100が接続されたときに、フラッシュメモリ78に記憶された情報を車外ECU100に通信により出力可能となっている。
【0015】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸32に出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力が駆動軸32に出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてがプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されて駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや、要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部がプラネタリギヤ30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力が駆動軸32に出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力を駆動軸32に出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。
【0016】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20に関連する動作、特にインバータ42のトランジスタT2の寿命を判定する際の動作について説明する。図4は車外ECU100により実行される素子寿命判定処理の一例を示すフローチャートである。この処理は、車両の出荷前のシステム停止時にハイブリッドECU70と車外ECU100とが接続されたときに実行される。
【0017】
素子寿命判定処理では、車外ECU100の図示しないCPUは、まず、比較的高い温度として予め定められた試験環境温度Tetmp(例えば40℃)を車両周辺の気温とした状態でハイブリッド自動車20が所定の走行パターンで走行したときのトランジスタT2の温度である試験素子温度Tstmpを取得する(ステップS100)。車両の走行は、実施例では、車両周辺の気温を調整可能な走行試験用の設備を用いて行なうものとした。また、所定の走行パターンは、実施例では、1日の24時間を第1から第4の4つの走行パターンで1回ずつ走行する時間とシステム停止した非起動時の時間とに区分したパターンを用いるものとした。素子温度Tstmpの取得は、実施例では、第1〜第4の走行パターンで走行している最中に温度センサ43により検出された素子温度Tsの各パターン毎の最高温度を試験素子温度Tstmp1〜Tstmp4としてハイブリッドECU70のフラッシュメモリ78に記憶したものと、試験環境温度Tetmpと同じ温度とみなしてフラッシュメモリ78に記憶された非起動時(システム停止時)の試験素子温度Tstmp5とを通信により入力することにより行なうものとした。なお、試験素子温度Tstmpは、説明の都合上、試験素子温度Tstmp1〜Tstmp5をまとめて表現したものとして用いる。
【0018】
続いて、試験環境温度Tetmpから車両の仕向け地の各月の最高気温を減じて各月の温度差ΔT(j)(変数jは値1〜値12の整数、以下同じ)を算出する(ステップS110)。図5に、試験環境温度Tetmpから温度差ΔT(j)を算出する様子の一例と従来例において算出された推定素子温度Tsest(j)の一例とを示す。図示するように、試験環境温度Tetmpが40℃(太い実線枠内参照)で仕向け地の1月の最高気温が18℃の場合には、温度差ΔT(1)は22℃として算出され、仕向け地の2月の最高気温が21℃の場合には、同様にΔT(2)は19℃として算出される。また、こうして算出された温度差ΔT(j)をステップS100で取得した試験素子温度Tstmpからそのまま減ずる従来例の計算手法を用いると、従来例における仕向け地での各月のトランジスタT2の推定される最高温度である推定素子温度Tsest(j)を算出することができる。以下、実施例の素子寿命判定処理の説明を中断し、従来例の素子寿命判定処理について説明する。なお、図4の実施例の素子寿命判定処理のフローチャートでは、ステップS120〜S150の処理を除いて実施例と従来例とは共通の処理となるため、図4のフローチャートを用いて従来例の説明を行なう。
【0019】
従来例の素子寿命判定処理では、ステップS100で取得した試験素子温度Tstmp1〜Tstmp5から各月の温度差ΔT(j)を減ずることにより仕向け地での推定素子温度Tsest1(j)〜Tsest5(j)を算出する。図5の例では、試験素子温度Tstmp1〜Tstmp5が90℃,95℃,80℃,100℃,40℃で(破線枠内参照)1月の温度差ΔT(1)が22℃であるため、1月の推定素子温度Tsest1(1)〜Tsest5(1)は、68℃,73℃,58℃,78℃,18℃として算出される。また、2月の推定素子温度Tsest1(2)〜Tsest5(2)は、同様に試験素子温度Tstmp1〜Tstmp5から温度差ΔT(2)(=19℃)を減じて算出される。なお、推定素子温度Tsest(j)は、説明の都合上、推定素子温度Tsest1(j)〜Tsest5(j)をまとめて表現したものとして用いる。
【0020】
こうして推定素子温度Tsest(j)を算出すると、算出した各月の推定素子温度Tsest(j)に基づいて、所定の走行パターンで1日を走行しながら予め定められた予定使用年数Y(例えば、10年や15年など)に亘って車両を使用したときのトランジスタT2の温度の温度分布を取得する(ステップS160)。図6に従来例において所定の走行パターンで走行したときの各月の推定素子温度Tsest(j)の温度分布の一例を示し、図7に図6の推定素子温度Tsest(j)の温度分布を予定使用年数Y分の時間数に換算して得られる温度分布の一例を示す。実施例では、図6に示すように、非起動時を含んで走行パターン毎に各月の推定素子温度Tsest1(j)〜Tsest5(j)が5℃毎の温度区分のいずれの区分に何回該当するかをカウントすることにより、まず推定素子温度Tsest(j)の1年あたりの該当月の回数による温度分布を得る。例えば、図5の例の非起動時をみると15℃以上20℃未満となるのは1月と12月の2回であるから(図5の丸枠内参照)、図6の例では非起動時の15℃以上20℃未満の温度区分に2回と記録されることになる(図6の丸枠内参照)。そして、図7に示すように、図6の温度分布を非起動時を含んで走行パターン毎に1年分の時間数に換算し(図中上段参照)、温度区分毎に時間数の合計を求めて更に使用予定年数Y倍してY年分の予定使用時間を求めることにより(図中下段参照)、予定使用年数Yに亘って車両を使用したときのトランジスタT2の時間数による温度分布を取得するものとした。
【0021】
こうして予定使用年数Yに亘って車両を使用したときのトランジスタT2の時間数による温度分布を取得すると、この温度分布におけるY年分の予定使用時間のデータ(図6の最下段のデータ)を予め温度区分毎に実験などにより求めた換算係数を用いてトランジスタT2の定格値としての耐熱温度(例えば、120℃や140℃など)での使用時間にそれぞれ換算すると共に(ステップS170)、換算した使用時間の合計とトランジスタT2の定格値としての耐使用時間(例えば、数千時間など)またはこれより小さい時間閾値とを比較することによりトランジスタT2が予定使用年数Y分の使用に十分耐え得るかの判定、即ちトランジスタT2の寿命の判定を行なって(ステップS180)、素子寿命判定処理を終了する。以上、従来例の素子寿命判定処理について説明した。
【0022】
実施例の素子寿命判定処理の説明に戻る。従来例では、仕向け地での推定素子温度Tsest(j)を計算する際に、ステップS110で算出された温度差ΔT(j)をステップS100で取得した試験素子温度Tstmpからそのまま減ずる計算手法を用いたが、この手法では、仕向け地での素子温度が実際よりも低く推定される可能性があることを考慮して、実施例では以下のように異なる手法を採っている。実施例では、各月の温度差ΔT(j)を算出すると、車両の環境温度を複数の異なる温度とした状態で所定の走行パターンによって走行したときの、外気温センサ90からの外気温Tzと温度センサ92からのルーム内温度Taとの関係をフラッシュメモリ78に記憶した複数のデータの組を収集することにより関数として求めて、こうして求めた関数から外気温Tzの変化量に対するルーム内温度Taの変化量の割合を反映する第1感度αaを設定する(ステップS120)。図8に第1感度αaを設定する様子の一例を示す。図示するように、実施例では、求めた関数全域での外気温Tzの温度変化量ΔTzaに対するルーム内温度Taの温度変化量ΔTaの割合(傾き)に値0.5を乗じたものを第1感度αaとして設定するものとした。なお、外気温Tzとルーム内温度Taとは同じ単位を用いるから、第1感度αaは値0.5未満の正の値となる。値0.5を乗じる理由については、次に説明する。また、第1感度αaは、複数の温度区分毎に異なる割合(傾き)として求めてもよい。
【0023】
続いて、第1感度αaを設定するのに複数のデータを収集するための走行と同じ走行時、即ち、車両の環境温度を複数の異なる温度とした状態で所定の走行パターンによって走行したときの、外気温センサ90からの外気温Tzと水温センサ45からの冷却水温Tw(外気温Tzと同じ単位)との関係をフラッシュメモリ78に記憶した複数のデータの組を収集することにより関数として求めて、こうして求めた関数から外気温Tzの変化量に対する冷却水温Twの変化量の割合を反映する第2感度αaを設定する(ステップS130)。図9に第2感度αwを設定する様子の一例を示す。図8の例と同様に、実施例では、求めた関数全域での外気温Tzの温度変化量ΔTzwに対する冷却水温Twの温度変化量ΔTwの割合(傾き)に値0.5を乗じたものを第2感度αwとして設定するものとした。このように第1感度αaや第2感度αwを設定する際に値0.5を乗じるのは、ルーム内温度Taと冷却水温Twとが次に説明する推定環境温度差ΔTest(j)に影響する比率を1対1とするためである。したがって、車両によっては第1感度αaを求める際には値0.6を乗じて第2感度αwを求める際には値0.4を乗じるなどとしてもよい。また、第2感度αwも、複数の温度区分毎に異なる割合(傾き)として求めてもよい。
【0024】
こうして第1感度αaと第2感度αwとを設定すると、設定した第1感度αaと第2感度αwと温度差ΔT(j)とを用いて次式(1)により温度差ΔT(j)を補正して得られる推定環境温度差ΔTest(j)を計算し(ステップS140)、ステップS100で取得した試験素子温度Tstmpから推定環境温度差ΔTest(j)を減じたものを仕向け地での推定素子温度Tsest(j)として算出する(ステップS150)。したがって、第1感度αaによって外気温Tzに対するルーム内温度Taの変化の程度が反映されるよう温度差ΔT(j)を補正することができると共に、第2感度αwによって外気温Tzに対する冷却水温Twの変化の程度が反映されるよう温度差ΔT(j)を補正することができる。これにより、試験素子温度Tstmpからそのまま温度差ΔT(j)を減じて仕向け地での推定素子温度Tsest(j)を計算する従来例に比して、仕向け地での推定素子温度Tsest(j)をより適正に算出することができる。
【0025】
ΔTest(j)=αa・ΔT(j)+αw・ΔT(j) (1)
【0026】
こうして推定環境温度差ΔTest(j)を計算すると、従来例と同様に、各月の推定素子温度Tsest(j)に基づいて所定の走行パターンで1日を走行しながら予定使用年数Yに亘って車両を使用したときのトランジスタT2の温度分布を取得し(ステップS160)、この温度分布におけるY年分の予定使用時間のデータをトランジスタT2の定格値としての耐熱温度での使用時間にそれぞれ換算すると共に(ステップS170)、換算した使用時間の合計とトランジスタT2の定格値としての耐使用時間等とを比較することによりトランジスタT2の寿命の判定を行なって(ステップS180)、寿命判定処理を終了する。こうした処理により、実施例では、インバータ42のトランジスタT2の寿命をより適正に判定することができる。
【0027】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20が備えるインバータ42のトランジスタT2の寿命を判定する素子寿命判定装置によれば、試験素子温度Tstmpから環境温度差ΔTest(j)を減ずることにより仕向け地での推定素子温度Tsest(j)を算出する際の環境温度差ΔTest(j)は、ハイブリッド自動車20が複数の環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの環境温度としての外気温Tzとエンジンルーム21のルーム内温度Taとの関係から得られる外気温Tzの変化量に対するルーム内温度Taの変化量の割合を反映する第1感度αaと、試験環境温度Tstmpから仕向け地の最高気温を減じて得られる温度差ΔT(j)との積と、ハイブリッド自動車20が複数の環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの環境温度としての外気温TzとトランジスタT2の冷却水温Twとの関係から得られる外気温Tzの変化量に対する冷却水温Twの変化量の割合を反映する第2感度αwと、温度差ΔT(j)との積との和として算出されるから、仕向け地での推定素子温度Tsest(j)をより適正に算出することができる。この結果、インバータ42のトランジスタT2の寿命をより適正に判定することができる。なお、インバータ41のトランジスタT1の寿命についても同様に判定することができる。
【0028】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータMG2が「電動機」に相当し、インバータ42が「インバータ」に相当し、バッテリ50が「バッテリ」に相当し、ハイブリッド自動車20が「電気自動車」に相当し、ハイブリッド自動車20が試験環境温度Tetmpの下で所定の走行パターンで走行したときのトランジスタT2の最高温度である試験素子温度Tstmpを取得する図4の素子寿命判定処理のステップS100の処理を実行する車外ECU100と記憶したデータを車外ECU100に出力するハイブリッドECU70とが「試験素子温度取得手段」に相当し、試験環境温度Tetmpから車両の仕向け地の最高気温を減じて得られる温度差ΔT(j)に基づく環境温度差ΔTetmp(j)を試験素子温度Tstmpから減ずることにより仕向け地での推定素子温度Tsest(j)を算出する図4の素子寿命判定処理のステップS110〜S150の処理を実行する際に、推定環境温度差ΔTest(j)を、ハイブリッド自動車20が複数の環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの環境温度としての外気温Tzとエンジンルーム21のルーム内温度Taとの関係から得られる外気温Tzの変化量に対するルーム内温度Taの変化量の割合を反映する第1感度αaと温度差ΔT(j)との積と、ハイブリッド自動車20が複数の環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの環境温度としての外気温Tzと冷却水温Twとの関係から得られる外気温Tzの変化量に対する冷却水温Twの変化量の割合を反映する第2感度αwと温度差ΔT(j)との積との和として算出する車外ECU100と、記憶したデータを車外ECU100に出力するハイブリッドECU70とが「仕向地素子温度推定手段」に相当し、算出した推定素子温度Tsest(j)に基づいて温度分布の取得や耐熱温度での使用時間への換算などによりトランジスタT2の寿命を判定する図4の素子寿命判定処理のステップS160〜S180の処理を実行する車外ECU100が「素子寿命判定手段」に相当する。
【0029】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0030】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、電気自動車や素子寿命判定装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0032】
20 ハイブリッド自動車、21 エンジンルーム、22 エンジン、24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、26 クランクシャフト、30 プラネタリギヤ、31 ケース、32 駆動軸、40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)、41,42 インバータ、43 温度センサ、44 冷却系、45 水温センサ、49 ケース、50 バッテリ、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット(ハイブリッドECU)、72 CPU、74 ROM、76 RAM、78 フラッシュメモリ、80 イグニッションスイッチ、82 シフトポジションセンサ、84 アクセルペダルポジションセンサ、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 外気温センサ、92 温度センサ、100 電子制御ユニット(車外ECU)、D11〜D16,D21〜D26 ダイオード、T11〜T16,T21〜T26 トランジスタ、MG1,MG2 モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前部の収納部に収納され走行用の動力を出力可能な電動機と、冷却液により冷却されるスイッチング素子のスイッチングによって前記電動機を駆動する前記収納部に収納されたインバータと、前記インバータを介して前記電動機と電力のやりとりが可能なバッテリとを備える電気自動車が、所定の試験環境温度下で所定の走行パターンで走行したときの前記スイッチング素子の最高温度である試験素子温度を取得する試験素子温度取得手段と、前記所定の試験環境温度から前記電気自動車の仕向け地の最高気温を減じて得られる温度差に基づく環境温度差を前記取得した試験素子温度から減ずることにより仕向地素子温度を推定する仕向地素子温度推定手段と、該推定した仕向地素子温度に基づいて前記スイッチング素子の寿命を判定する素子寿命判定手段と、を備える素子寿命判定装置において、
前記環境温度差は、前記電気自動車が複数の環境温度下で前記所定の走行パターンで走行したときの前記環境温度と前記収納部内の温度との関係から得られる前記環境温度の変化量に対する前記収納部内の温度の変化量の割合を反映する第1の感度と前記温度差との積と、前記電気自動車が前記複数の環境温度下で前記所定の走行パターンで走行したときの前記環境温度と前記冷却液の温度との関係から得られる前記環境温度の変化量に対する前記冷却液の温度の変化量の割合を反映する第2の感度と前記温度差との積との和である、
ことを特徴とする素子寿命判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−161168(P2012−161168A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19353(P2011−19353)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】