説明

紡績機械

【課題】機台を複数のブロックに分けて各ブロック毎に繊維束集束装置を構成する吸引装置が設けられるとともに、各吸引装置にそれぞれ設けられたモータを共通のインバータで駆動する構成において、異常発生時に正常ブロックにおける糸切れ発生を防止する。
【解決手段】繊維束集束装置はブロック毎にモータ47を備えた吸引装置で負圧にされるダクトを備え、吸引部が接続管を介してダクトに接続されている。各モータ47はモータ毎にコンタクタ54を介して共通のインバータ53と電気的に接続されるとともに、インバータ53を介して制御装置57により制御される。各ブロックにはモータ47の過負荷に繋がる異常を検出するための圧力センサ56と、圧力センサ56の検出信号に基づいて異常の有無を判断し、異常時に対応するブロックのコンタクタ54を非接触状態に切り換えるコンタクタ制御手段55が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紡績機械に係り、詳しくはドラフトパートの最終送出ローラ対の下流側に、前記ドラフトパートでドラフトされた繊維束に対して吸引力を作用させて集束する繊維束集束装置を備えた紡績機械に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の繊維束集束装置を備えた紡績機械では、ドラフトされた繊維束に対して吸引力を作用させて撚り掛けの前に予め集束し、毛羽の低減等の糸品質の向上を図っている。そして、ドラフトパートでドラフトされた繊維束に対して吸引力を作用させる吸引孔(吸引スリット)による吸引圧力の大きさにより糸品質が左右されるため、適切な吸引圧力を維持する必要がある。
【0003】
従来、紡出糸の品質が所望の条件を満たすように、繊維束集束装置の吸引圧力の設定及び変更が可能な紡績機械が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1の紡績機械に装備された繊維束集束装置は、ダクトが紡機機台の長手方向に沿って複数設けられ、各ダクトにはファンをモータで駆動する吸引装置がパイプを介して接続されている。そして、ダクトに接続管を介して吸引部としての吸引パイプが取り付けられている。吸引パイプはダクトと平行に延びる状態で複数錘毎に設けられている。各モータは共通のインバータに接続され、インバータは制御装置からの指令信号に基づいて各モータを制御する。制御装置は紡出条件に対応したモータの回転速度をインバータに指令するようになっている。
【0004】
また、特許文献1に開示された繊維束集束装置では、ダクトは複数の吸引装置により負圧に保持されるように構成され、一部の吸引装置が異常となって停止された際に、残りの吸引装置により発生する負圧によって吸引孔の吸引作用が確保されて糸の品質が許容範囲内に保持されるようになっている。
【特許文献1】特開2004−100092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記繊維束集束装置を備えた紡績機械で糸を紡出する際、繊維束集束装置の吸引スリットに作用する吸引圧力により、かなりの繊維屑が吸引される。そして、その繊維屑が堆積して詰まり、繊維屑の詰まりが大きくなって吸引装置に異常を来した場合に、運転を継続すると吸引装置の損傷を招くため、吸引装置を直ちに停止させる必要がある。従来は、複数の吸引装置にそれぞれ設けられた各モータを1台のインバータで制御しているため、インバータが緊急停止を行うと、正常な吸引装置のモータも緊急停止されるため、糸切れが発生する。そのため、運転再開時に多くの糸継ぎ作業が必要になり、工数が増大するという問題がある。各吸引装置のモータをそれぞれ別のインバータで駆動する構成とすれば、異常が発生した場合、異常が発生した吸引装置以外のモータを停止せずに、紡機機台の運転を継続することができる。しかし、インバータを設けるためのコストが増大する。
【0006】
本発明の目的は、機台を複数のブロックに分けて各ブロック毎に繊維束集束装置を構成する吸引装置が設けられるとともに、各吸引装置にそれぞれ設けられたモータを共通のインバータで駆動する構成において、異常発生時に正常ブロックにおける糸切れ発生を防止することができる紡績機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ドラフトパートでドラフトされた繊維束を集束する繊維束集束装置を備え、該繊維束集束装置が、ニップローラを備えた送出部と、該送出部のニップ点より少なくとも上流側に吸引孔を備えた吸引部と、前記送出部を構成するとともに前記吸引部に沿って回転される通気部材と、前記吸引部に作用する吸引圧力を変更可能な吸引手段とを備えた紡績機械である。前記繊維束集束装置は複数のブロックで構成され、各ブロックに前記吸引部が接続管を介して接続されるダクトと、前記ダクト内を負圧にするため各ダクトに設けられるとともにモータを備えた吸引装置とからなる吸引手段が設けられている。前記各モータはモータ毎にコンタクタを介して共通のインバータと電気的に接続されるとともに、前記インバータを介して制御手段により制御される。前記各ブロックにはモータの過負荷に繋がる異常を検出する異常検出手段が設けられ、前記異常検出手段の異常検出信号に基づいて対応するブロックのコンタクタを非接触状態に切り換えるコンタクタ制御手段が設けられている。
【0008】
この発明では、ドラフトパートでドラフトされた繊維束は、ドラフトパートの最終送出ローラ対の下流側に設けられた繊維束集束装置によって集束される。繊維束集束装置の集束作用は、吸引手段によって吸引圧力が付与される吸引部の吸引孔の吸引作用によって生じる。ブロックごとに設けられた異常検出手段が異常を検出すると、その検出信号に基づいてコンタクタ制御手段により異常が検出されたブロックのモータへの給電線のコンタクタが非接触状態に切り換えられ、そのモータが過負荷状態で運転を継続することが回避され、吸引装置の損傷が回避される。また、インバータは正常状態の制御を継続する。したがって、機台を複数のブロックに分けて各ブロック毎に繊維束集束装置を構成する吸引装置が設けられるとともに、各吸引装置にそれぞれ設けられたモータを共通のインバータで駆動する構成において、従来と異なり、異常発生時に正常ブロックにおける糸切れ発生を防止することができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記インバータは1台設けられ、そのインバータが全ての前記モータを制御する。この発明では、インバータの台数が少なくて済み、インバータを複数使用する構成に比較して構成が簡単になるとともに、コストを低減することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記異常検出手段は前記吸引部の吸引圧力に相当する圧力を検出する圧力センサを備えている。ここで、「吸引部の吸引圧力に相当する圧力」とは、圧力センサの検出圧力が吸引部の圧力(即ち圧力センサを吸引部に接続して検出する)に限らず、吸引部以外の箇所の圧力であってもその圧力から吸引部の圧力を確認(演算)可能な箇所の圧力を含むことを意味する。
【0011】
モータの過負荷に繋がる異常の検出方法としては、モータに供給される電圧あるいは電流を検出する方法や吸引部あるいはダクトの圧力を検出する方法等がある。この発明では、異常検出手段は吸引部の圧力を検出する圧力センサを備えているため、糸品質に影響する吸引部の圧力が検出される。したがって、異常検出のための圧力センサの検出信号を吸引部の吸引圧力が紡出条件に対応した適正な圧力か否かを精度良く確認することにも利用することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、機台を複数のブロックに分けて各ブロック毎に繊維束集束装置を構成する吸引装置が設けられるとともに、各吸引装置にそれぞれ設けられたモータを共通のインバータで駆動する構成において、異常発生時に正常ブロックにおける糸切れ発生を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図1〜図4に従って説明する。
繊維束集束装置は、吸引手段及び吸引手段を構成するモータの制御構成を除き、特許文献1と基本的に同じ構成である。図2に示すように、ドラフトパートとしてのドラフト装置11はフロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14を備えた3線式の構成となっている。フロントボトムローラ12はローラスタンド15に対して所定位置に支持され、ミドル及びバックの各ボトムローラ13,14はローラスタンド15に対して前後方向に位置調整可能に固定された支持ブラケット13a,14aを介して支持されている。ボトムエプロン16はボトムテンサ17と、ミドルボトムローラ13とに巻き掛けられている。
【0014】
ウエイティングアーム18にはフロントトップローラ19、ミドルトップローラ20及びバックトップローラ21が、それぞれフロントボトムローラ12、ミドルボトムローラ13及びバックボトムローラ14と対応する位置にトップローラ支持部材を介してそれぞれ支持されている。各トップローラ19〜21は2錘1組として支持されている。フロントボトムローラ12及びフロントトップローラ19がドラフト装置11の最終送出ローラ対を構成する。
【0015】
ドラフト装置11の最終送出ローラ対の下流側に繊維束集束装置30が配設されている。繊維束集束装置30は送出部31、吸引部Sとしての吸引パイプ32,33及び通気部材としての通気エプロン34を備えている。送出部31はフロントボトムローラ12と平行に配設された回転軸35に形成されたニップローラとしてのボトムニップローラ35aと、ボトムニップローラ35aに通気エプロン34を介して押圧されるニップローラとしてのトップニップローラ31aとで構成されている。
【0016】
この実施形態の繊維束集束装置30は、トップニップローラ31aがドラフト装置11の各トップローラ19〜21と同様に2錘毎に、支持部材36を介してウエイティングアーム18に支持されている。なお、この実施形態では支持部材36はフロントトップローラ19の支持部材と一体に形成されている。
【0017】
一方、繊維束集束装置30のボトム側は、ドラフト装置11のローラスタンド15間に配置される錘の半分、この実施形態では4錘分を1ユニットとして構成されている。機台長手方向に所定間隔で配設されたローラスタンド15の中間位置には、機台長手方向(図2の紙面と直交方向)に延設された支持ビーム37に基端側が支持された状態で支持アーム(図示せず)が配設され、ローラスタンド15と支持アームとの間に回転軸35が回転可能に支持されている。
【0018】
回転軸35には長手方向の中央にギヤ(図示せず)が回転軸35と一体回転可能に設けられている。フロントボトムローラ12にはギヤと対向する位置にギヤ部12aが形成されている。そして、前記支持アームと同様に、基端側が支持ビーム37に固定された支持アーム42に、ギヤ部12a及びギヤに噛合する中間ギヤ43が回転可能に支持されている。即ち、フロントボトムローラ12の回転力は、ギヤ部12a、中間ギヤ43及びギヤを介して回転軸35に伝達される。
【0019】
図1及び図2に示すように、精紡機機台にはその長手方向に延びるように、繊維束集束装置30用のダクト44が配設されている。図1に示すように、ダクト44は紡機機台の長手方向に沿って複数設けられている。この実施形態では各ダクト44は片側8錘、両側16錘に対応する長さに形成されている。各ダクト44にはダクト44内を負圧にするための吸引装置45がパイプ46を介して接続されている。即ち、この実施形態では、繊維束集束装置30は、16錘を1ブロック(1ユニット)とした複数のブロックで構成され、各ブロックにダクト44及び吸引装置45が設けられている。
【0020】
吸引装置45としてファン47aをモータ47で駆動するファンモータが使用されている。図2に示すように、ダクト44はドラフト装置11の後側上方において紡機機台の中央に配設され、吸引装置45はダクト44の下方に配設されている。ダクト44及び吸引装置45により吸引手段が構成されている。
【0021】
図1に示すように、吸引部Sはダクト44と平行に延びる状態で4錘毎に設けられ、接続管48を介してダクト44に接続されている。接続管48は途中に蛇腹部49(図2にのみ図示)を備えている。なお、図1においては吸引パイプ32,33をまとめて吸引部Sとして示し、各吸引パイプ32,33に形成された後記する吸引孔をまとめて破線の○で示している。
【0022】
図3に示すように、吸引パイプ32はボトムニップローラ35aのニップ点より繊維束(フリース)Fの移動方向上流側に、吸引パイプ33は下流側に位置するようにそれぞれ配設されている。吸引パイプ32は、ボトムニップローラ35aのニップ点を挟んで繊維束Fの移動方向の上流側に延びるスリット状の吸引孔32aが形成された摺動面を有する。吸引パイプ33は、下流側に延びるスリット状の吸引孔33aが形成された摺動面を有する。
【0023】
吸引パイプ32は、通気エプロン34をフロントボトムローラ12とフロントトップローラ19とのニップ点の近傍に至るように案内可能な形状に形成されている。通気エプロン34は一部が吸引パイプ32,33に、一部がボトムニップローラ35aに接触するように巻き掛けられ、ボトムニップローラ35aの回転に伴って摺動面に沿って摺動しつつ回転されるようになっている。この実施形態では通気エプロン34は、適度な通気性を確保できる織布により形成されている。
【0024】
図2及び図3に示すように、吸引パイプ33の下方近傍には、糸切れ時にドラフト装置11から送出される繊維束Fを吸引する作用をなすシングルタイプのニューマ装置の吸引ノズル50の先端がそれぞれ配設されている。吸引ノズル50の基端は全錘共通のニューマダクト51に接続されている。
【0025】
図4に示すように、精紡機機台には商用の交流電源52に接続された1台のインバータ53が設けられている。各モータ47は、共通のインバータ53に対してコンタクタ(電磁接触器)54を介して電気的に接続されている。コンタクタ54はコンタクタ制御手段55と電気的に接続され、コンタクタ制御手段55から出力される指令信号により、開閉制御されるようになっている。
【0026】
各ブロックには、吸引部Sの吸引圧力に相当する圧力(負圧)を検出する圧力センサ56が設けられている。圧力センサ56は、例えば、パイプ46の圧力を検出する位置に設けられている。圧力センサ56は検出圧力に応じた電圧を出力するようになっている。圧力センサ56は、モータ47の過負荷に繋がる物理量を検出する検出手段を構成する。
【0027】
コンタクタ制御手段55はマイクロコンピュータ(マイコン)で構成されるとともに、各モータ47に対応して設けられ、圧力センサ56の出力信号をA/D変換回路を介して入力するとともに、その出力信号から圧力を演算する。コンタクタ制御手段55は、演算した圧力を予めメモリに記憶されている基準値と比較して、異常の有無判断を行い、異常有りと判断すると、コンタクタ54に開放指令信号を出力して、コンタクタ54を非接触状態に切り換える。コンタクタ制御手段55は、モータ47の過負荷に繋がる物理量と、紡出条件に対応して設定された異常判断の基準値とを比較して異常の有無を判断する判断手段を構成する。この実施形態では、コンタクタ制御手段55及び圧力センサ56により、モータ47の過負荷に繋がる異常を検出する異常検出手段が構成されている。
【0028】
コンタクタ制御手段55が圧力センサ56の検出圧力により異常の有無を判断する場合、繊維屑の詰まりが圧力センサ56の設置箇所より吸引部S側であるか吸引装置45側であるかによって圧力センサ56の検出圧力は大きく異なるため、基準値は、適正吸引圧力に対して一つではなく二つ(一組)ある。そして、検出圧力の絶対値が大きな基準値以上又は小さな基準値以下のときに異常有りと判断される。前記基準値は紡出条件によって変更される。この実施形態では、コンタクタ制御手段55は、精紡機の運転を制御する制御装置57から紡出条件に対応した基準値を入力するようになっている。
【0029】
インバータ53はコンバータ回路とインバータ回路とを内蔵しており、交流電源52の交流をコンバータ回路で直流に変換した後、インバータ回路で所望の周波数及び電圧の交流に変換して出力する。インバータ53は制御手段としての制御装置57に電気的に接続され、制御装置57からの指令信号に基づいて、モータ47を制御する。
【0030】
制御装置57はCPU58、メモリ59、入力装置60及びディスプレイ61を備えている。制御装置57は、インバータ53及び各コンタクタ制御手段55とシリアル・インタフェースを介して通信可能となっている。メモリ59には種々の繊維種、紡出糸番手等の紡出条件と、繊維束Fに作用すべき適正吸引圧力との対応データや適正吸引圧力とモータ47の回転速度との対応データ等が記憶されている。また、メモリ59にはコンタクタ制御手段55が異常有無の判断に使用する基準値を、適正吸引圧力に対応して設定するマップ又は演算式が記憶されている。
【0031】
制御装置57(CPU58)は、入力装置60で入力された紡出条件に対応する適正な吸引圧力となるように、インバータ53を介して各モータ47を制御する。制御装置57は、各コンタクタ制御手段55を介して各ブロックの圧力データを入力し、モータ47のフィードバック制御を行う。また、制御装置57は紡出条件が変更されて適正な吸引圧力が変更されると、各コンタクタ制御手段55に変更後の吸引圧力に対応する異常判断の基準値を出力する。
【0032】
制御装置57は、各コンタクタ制御手段55から入力した各ブロックの圧力データをディスプレイ61に表示する。圧力データは圧力センサ56による検出圧力値を表示するのではなく、検出圧力を吸引部Sにおける圧力に換算した値として表示する。表示は現時点における各ブロックの圧力値、各ブロックの現時点までの所定期間(例えば、10分間)の平均圧力値、現時点における全ブロックの平均圧力値、全ブロックの所定期間の平均圧力値等がある。
【0033】
制御装置57は、各コンタクタ制御手段55から各ブロックの圧力情報を入力し、いずれかのコンタクタ制御手段55から異常検出信号を入力すると、機台の途中停止を行うとともに、ディスプレイ61に異常情報を表示する。異常情報としては、異常と判断されたブロックの位置あるいは番号、圧力異常が圧力センサ56の設置箇所より吸引部S側かモータ47側かを示す情報等がある。
【0034】
次に前記のように構成された装置の作用を説明する。
精紡機の運転に先だって繊維種、紡出糸番手等の紡出条件が入力装置60によって制御装置57に入力される。制御装置57は、紡出条件が入力されると紡出条件に対応する適正な吸引圧力を設定し、その吸引圧力に対応する異常判断の基準値を設定するとともにその基準値をコンタクタ制御手段55に出力する。
【0035】
制御装置57は、紡出条件にしたがってドラフト装置11、スピンドル駆動系、リングレール昇降系及びモータ47の制御を行い、精紡機の運転を行う。精紡機が運転されると、繊維束Fはドラフト装置11のボトムローラ12〜14と、トップローラ19〜21との間を通過することによりドラフトされた後、繊維束集束装置30へ案内される。送出部31はフロントボトムローラ12及びフロントトップローラ19の表面速度より若干速く回転され、繊維束Fは適度な緊張状態で送出部31のニップ点を過ぎた後、転向して撚り掛けを受けながら下流側へ移動する。そして、スピンドルに装着されたボビンに紡出糸として巻き取られる。
【0036】
制御装置57は、ダクト44内の負圧が、適正な吸引圧力に対応する状態となる回転速度でインバータ53を介して各モータ47を制御する。ダクト44の吸引作用が接続管48を介して吸引パイプ32,33に及び、摺動面に形成された吸引孔32a,33aの吸引作用が通気エプロン34を介して繊維束Fに及ぶ。そして、繊維束Fが吸引孔32a,33aと対応する位置に吸引集束された状態で移動する。したがって、繊維束集束装置30の装備されない紡機に比較して、毛羽の発生や落綿が抑制されて紡出糸の品質が改善される。
【0037】
コンタクタ制御手段55は制御装置57から出力された基準値をメモリに記憶して、その基準値に基づいて異常有無の判断を行う。コンタクタ制御手段55は、精紡機の運転中、圧力センサ56の検出信号を入力して、その検出信号から吸引部Sの吸引圧力に対応する圧力を演算する。コンタクタ制御手段55は、その圧力データを制御装置57に出力するとともに、基準値と比較して異常有無の判断を行う。コンタクタ制御手段55は、異常有りと判断した場合は、その検出信号に基づいて直ちにコンタクタ54に開放指令信号を出力する。その結果、コンタクタ54が非接触状態に切り換えられ、そのコンタクタ54と接続されているモータ47への電流供給が停止されてモータ47が直ちに停止し、そのモータ47が過負荷状態で運転を継続することが回避され、吸引装置45の損傷が回避される。モータ47が停止すると、そのモータ47と対応するダクト44に接続された吸引部Sの吸引作用がなくなり、糸切れが発生し易くなる。しかし、インバータ53は正常状態の制御を継続するため、異常が発生したブロック以外のブロックのモータ47は緊急停止をしないため、糸切れ発生が防止される。
【0038】
制御装置57は、精紡機の運転中、各コンタクタ制御手段55から出力される圧力データに基づいて、モータ47をフィードバック制御する。例えば、各ブロックの圧力データの平均値を演算するとともに、その平均値が所定の範囲になるように、インバータ53への指令信号を出力する。
【0039】
制御装置57は、コンタクタ制御手段55から異常検出信号が出力されると、紡機機台の途中停止を行う。具体的には、再起動時に糸切れが発生し難い状態で紡出糸の巻き取りが停止されるように、スピンドル駆動系、リングレール昇降系及びドラフト装置11を同期した状態で停止させる。そして、紡機機台が停止されると、異常が発生したブロックの各錘に対して粗糸が供給されない状態にする。具体的には、粗糸ボビンの粗糸をドラフト装置11のトランペットの上流で切断する。次に紡機機台が再起動され、所定の玉揚げ時(満管)まで巻き取りが行われる。そして、玉揚げ後、異常発生ブロックの繊維屑の詰まり除去作業が行われた後、紡機機台の再起動が行われる。なお、モータ47は、玉揚げ作業時に停止させても、駆動を継続させてもよいが、停止させた場合は、紡機機台の再起動時に、吸引部Sの吸引圧力が設定圧力に達した後、巻き取りを開始する。
【0040】
異常発生時に全ブロックのモータ47を緊急停止させると、異常ブロック以外の錘においても糸切れが発生し易くなるが、異常発生時には、異常が発生したブロックのモータ47のみ緊急停止されるため、異常ブロック以外の錘において、糸切れが発生することが防止される。
【0041】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)繊維束集束装置30は複数のブロックで構成され、各ブロックに吸引部Sが接続管48を介して接続されるダクト44と、ダクト44内を負圧にするため各ダクト44に設けられるとともにモータ47を備えた吸引装置45とからなる吸引手段が設けられている。各モータ47はモータ47毎にコンタクタ54を介して共通のインバータ53と電気的に接続されるとともに、インバータ53を介して制御装置57により制御される。したがって、多数錘(例えば、800錘〜1000錘)の場合でも各吸引部Sの吸引圧力を適正吸引圧力に容易に調整することができる。
【0042】
(2)各ブロックにはモータ47の過負荷に繋がる物理量を検出する検出手段(この実施形態では圧力センサ56)と、検出手段の検出信号に基づいて異常の有無を判断する判断手段(コンタクタ制御手段55が兼用)とで構成される異常検出手段が設けられている。そして、異常検出手段の異常検出信号に基づいて対応するブロックのコンタクタ54を非接触状態に切り換えるコンタクタ制御手段55が設けられている。したがって、機台を複数のブロックに分けて各ブロック毎に繊維束集束装置30を構成する吸引装置45が設けられ、各吸引装置45にそれぞれ設けられたモータ47を共通のインバータ53で駆動する構成において、従来装置と異なり、異常発生時に異常ブロックの47を停止させても、正常ブロックにおける糸切れ発生を防止することができる。
【0043】
(3)インバータ53は1台で全てのモータ47を制御する。したがって、インバータの台数が少なくて済み、インバータ53を複数使用する構成に比較して構成が簡単になるとともに、コストを低減することができる。
【0044】
(4)モータ47の過負荷に繋がる物理量を検出する検出手段として、吸引部Sの吸引圧力に相当する圧力を検出する圧力センサ56が使用されている。したがって、糸品質に影響する吸引部Sの圧力が検出され、異常検出手段の検出信号を吸引部Sの吸引圧力が紡出条件に対応した適正な圧力か否かを精度良く確認することにも利用することができる。
【0045】
(5)制御装置57は、コンタクタ制御手段55から異常検出信号を入力すると、紡機機台の途中停止を行う。そして、モータ47が異常停止されたブロックの各錘への粗糸の供給が停止される状態に設定された後、紡機機台の再起動が行われて、満管まで巻き取りが行われる。したがって、紡機機台の途中停止を行わずに満管まで精紡機の運転が継続される場合に比較して、異常発生ブロックの各錘で粗糸が無駄に使用されるのを防止することができる。
【0046】
(6)制御装置57は、入力装置60により入力された紡出条件に対応した適正な吸引圧力を設定し、紡出条件が変更されて適正な吸引圧力が変更されると、各コンタクタ制御手段55に変更後の吸引圧力に対応する異常判断の基準値を出力する。そして、コンタクタ制御手段55はその基準値を用いて各ブロックの異常有無を判断する。即ち、紡出条件の変更に伴って適正な吸引圧力が変更されても、異常判断の基準値が自動的に変更される。したがって、糸品質に悪影響が出ないように、より厳格な圧力異常の判断を行うことができる。
【0047】
(7)制御装置57は、ディスプレイ61を備えており、吸引部Sの吸引圧力データをディスプレイ61に表示する。表示形態としては、現時点における各ブロックの吸引部Sの吸引圧力値、各吸引部Sの現時点までの所定期間(例えば、10分間)の平均圧力値、現時点における全ブロックの平均圧力値、全ブロックの所定期間の平均圧力値等がある。したがって、各ブロックあるいは吸引部Sの吸引圧力値を容易に確認することができる。
【0048】
(8)制御装置57は、ディスプレイ61を備えており、コンタクタ制御手段55から異常検出信号を入力すると、異常ブロックをディスプレイ61に表示する。したがって、作業者や管理者は、異常発生ブロックを容易に確認することができる。
【0049】
(9)圧力センサ56は吸引部Sと吸引装置45の中間に設けられているため、圧力センサ56の設置箇所より吸引部S側で詰まりが発生すると圧力センサ56の検出圧力の絶対値は正常時より大きくなり、吸引装置45側で詰まりが発生すると圧力センサ56の検出圧力の絶対値は正常時より小さくなる。制御装置57は、圧力センサ56により検出された圧力データをコンタクタ制御手段55を介して入力しているため、コンタクタ制御手段55から異常検出信号が入力された際の圧力データにより、繊維屑の詰まりが吸引部Sで発生しているのか吸引装置45で発生しているのかを判別することができる。判別された繊維屑詰まり発生箇所はディスプレイ61に表示される。
【0050】
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば次のように構成してもよい。
〇 制御装置57がコンタクタ制御手段55から異常発生信号を入力しても、紡機機台の途中停止を行わずに、玉揚げ時まで精紡機の運転を継続するようにしてもよい。そして、玉揚げ後、異常発生ブロックの繊維屑の詰まり除去作業を行った後、紡機機台の再起動を行うようにする。この場合、異常発生ブロックでは粗糸が無駄に使用されることになるが、途中停止を行わないため、紡機機台の稼動効率が高くなる。
【0051】
○ 各ブロックにコンタクタ制御手段55を設ける代わりに、制御装置57に各圧力センサ56の検出信号をA/D変換器を介して入力するとともに、制御装置57で各ブロックの異常の有無を判断するようにしてもよい。この場合、各ブロックにコンタクタ制御手段55を設ける必要がなく、コンタクタ制御手段55と制御装置57との間の信号の授受を行う必要がなく、構成及び制御が簡単になる。
【0052】
○ 圧力センサ56の検出信号を吸引部Sの吸引圧力に換算した後、基準値と比較して異常有無の判断を行う代わりに、吸引部Sの吸引圧力に換算せずに対応する基準値と比較して異常有無の判断を行うようにしてもよい。
【0053】
○ モータ47の過負荷に繋がる異常を検出する異常検出手段は、モータ47の過負荷に繋がる物理量を検出する検出手段と、紡出条件に対応して設定された異常判断の基準値とを比較して異常の有無を判断する判断手段とを備えていればよく、前記物理量は圧力に限らない。例えば、パイプ46や接続管48を流れる空気の流量を検出する流量センサや、モータ47に供給される電流量を検出するセンサや電圧を検出するセンサをモータ47の過負荷に繋がる物理量を検出する検出手段としてもよい。この場合も、予め試験により、紡出条件に対応する基準値を求めてメモリ59に記憶しておく。
【0054】
○ 検出手段として圧力センサ56あるいは流量センサを設ける場合、各ブロックに圧力センサ56あるいは流量センサを1台設ける代わりに、各接続管48に設けてもよい。この場合、吸引部Sで詰まりが発生すると、その吸引部Sと対応する圧力センサ56あるいは流量センサの検出信号が他の箇所のセンサの検出信号と異なる値になる。したがって、異常発生箇所がどのブロックだけでなく、ブロックのどの箇所(どの吸引部S)かの判断も可能になる。
【0055】
○ 異常の有無を判断する判断手段と、コンタクタ54を非接触状態に切り換えるコンタクタ制御手段55とを別に設けてもよい。例えば、1個の判断手段が複数のブロックの異常の有無を判断し、各ブロックに設けられたコンタクタ制御手段55が判断手段からの指令信号により作動する構成としてもよい。
【0056】
○ 紡機機台がロング機台(例えば、両側で1000錘以上)の場合、インバータ53を1台ではなく、機台の両エンドに1台ずつ合計2台設けてもよい。
○ 各精紡機の制御装置57を全ての精紡機の運転状態などを管理する主制御装置と通信可能に接続し、紡出条件に関するデータを主制御装置から各制御装置57に入力してもよい。
【0057】
○ 一般的な意味での糸品質の良好な糸、即ち毛羽の発生や糸斑の少ない糸を紡出するために吸引部Sの吸引圧力を適正な値に調整するのではなく、糸品質を意図的にコントロールするために、吸引部Sの吸引圧力を調整するようにしてもよい。また、糸を全長にわたって均質にするのを目的とする代わりに、意匠糸のように糸斑を積極的に形成するように、吸引部Sの吸引圧力を巻き取り開始から満管まで適宜変更するように吸引装置45を駆動するようにしてもよい。
【0058】
○ ダクト44の長さは片側8錘、両側16錘に対応した長さに限らず、適宜の錘数に対応した長さとしてもよい。その場合4の倍数の錘数に対応する長さが好ましい。
○ ダクト44を精紡機の左右両側に配設された吸引パイプ32,33で共用する代わりに、右側用と左側用に分けて、紡機機台の長手方向に沿って2列に配設してもよい。
【0059】
○ ダクト44の位置はドラフト装置11の後側上方に限らず、ドラフト装置11の後側あるいはドラフト装置11の後側下方に配設してもよい。
○ 回転軸35及び吸引パイプ32,33は4錘を1ユニットとする構成に限らず、ローラスタンド15間の錘数(例えば8錘)を1ユニットとしたり、2錘を1ユニットとしたりした構成としてもよい。また、必ずしも全ユニットを同じ錘数とせずに、ローラスタンド15間の錘数を異なる数に分けて(例えば6錘と2錘)それに対応して2種のユニットを設けてもよい。
【0060】
○ 吸引パイプ32,33を別体に形成せず、両吸引パイプ32,33が一体化されるとともに、トップニップローラ31aと対向する側が開放された円弧状に形成してもよい。
【0061】
○ 通気エプロン34を織布や編み地で形成する代わりに、ゴム製や弾性を有する樹脂製のベルトに多数の孔を開けて形成してもよい。
○ 吸引部を構成する吸引パイプ32,33を接続管48と一体に形成してもよい。
【0062】
○ 繊維束Fのニップ点を挟んで上流側及び下流側に吸引孔32a,33aを設ける構成に限らず、ニップ点を挟んで上流側にのみ吸引孔32aを有する構成としてもよい。その場合、吸引孔33aを形成しない吸引パイプ33を使用すれば製造方法や組み付けをほぼ同じにすることができる。また、吸引パイプ33を無くして通気エプロン34を吸引パイプ32とボトムニップローラ35aとの間に巻き掛けた構成としてもよい。
【0063】
○ 通気エプロン34を駆動する構成として、吸引パイプ32,33及びボトムニップローラ35aを無くして、断面卵形の吸引パイプを設け、該吸引パイプの所定位置に吸引孔を形成し、吸引パイプの外周に沿って通気エプロン34を摺動可能に巻き掛ける。そして、トップニップローラ31aを積極駆動可能とし、トップニップローラ31aを通気エプロン34に圧接しながら駆動することで通気エプロン34を駆動するようにしてもよい。
【0064】
○ 吸引装置の構成は、ファン47aをモータ47で駆動する構成に限らない。例えば、減圧ポンプ(真空ポンプ)を使用してもよい。真空ポンプは回転式ポンプでも往復動式ポンプでもよい。
【0065】
○ ニューマ装置としてシングルノズルタイプに代えて、フルートタイプの構成を採用してもよい。
○ 通気エプロン34をトップ側に設ける構成としてもよい。
【0066】
前記実施形態から把握される発明(技術的思想)について、以下に記載する。
(1)請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記異常検出手段は、前記モータの過負荷に繋がる物理量を検出する検出手段と、紡出条件に対応して設定された異常判断の基準値とを比較して異常の有無を判断する判断手段とで構成されている。
【0067】
(2)請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の紡績機械において、紡績機械のドラフト装置、スピンドル駆動系及びリフティング駆動系を制御する制御装置は、前記異常検出信号に基づいて紡機機台の途中停止を行うように前記ドラフト装置、スピンドル駆動系及びリフティング駆動系を制御することを特徴とする紡績機械における異常時停止方法。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】繊維束集束装置のダクト、吸引装置及び吸引部の関係を示す模式平面図。
【図2】ドラフト装置の片側を示す一部破断概略側面図。
【図3】図2の部分拡大図。
【図4】吸引手段のモータ及びその制御装置の関係を示すブロック図。
【符号の説明】
【0069】
F…繊維束、S…吸引部、11…ドラフトパートとしてのドラフト装置、30…繊維束集束装置、31…送出部、31a…トップニップローラ、32a,33a…吸引孔、35a…ボトムニップローラ、44…吸引手段を構成するダクト、45…同じく吸引装置、47…モータ、48…接続管、53…インバータ、54…コンタクタ、55…異常検出手段を構成するコンタクタ制御手段、56…同じく圧力センサ、57…制御手段としての制御装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラフトパートでドラフトされた繊維束を集束する繊維束集束装置を備え、該繊維束集束装置が、ニップローラを備えた送出部と、該送出部のニップ点より少なくとも上流側に吸引孔を備えた吸引部と、前記送出部を構成するとともに前記吸引部に沿って回転される通気部材と、前記吸引部に作用する吸引圧力を変更可能な吸引手段とを備えた紡績機械であって、
前記繊維束集束装置は複数のブロックで構成され、各ブロックに前記吸引部が接続管を介して接続されるダクトと、前記ダクト内を負圧にするため各ダクトに設けられるとともにモータを備えた吸引装置とからなる吸引手段が設けられ、前記各モータはモータ毎にコンタクタを介して共通のインバータと電気的に接続されるとともに、前記インバータを介して制御手段により制御され、前記各ブロックにはモータの過負荷に繋がる異常を検出する異常検出手段が設けられ、前記異常検出手段の異常検出信号に基づいて対応するブロックのコンタクタを非接触状態に切り換えるコンタクタ制御手段が設けられていることを特徴とする紡績機械。
【請求項2】
前記インバータは1台設けられ、そのインバータが全ての前記モータを制御する請求項1に記載の紡績機械。
【請求項3】
前記異常検出手段は前記吸引部の吸引圧力に相当する圧力を検出する圧力センサを備えている請求項1又は請求項2に記載の紡績機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−202175(P2008−202175A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40600(P2007−40600)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】