説明

紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子の製造方法

【課題】光学設計が容易であり、簡便な方法により目的の光学素子が得られる、紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】アルカリ金属成分と紫外線吸収成分とをガラス構成成分として含むガラス基材に、リチウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物、銀化合物、銅化合物及びタリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種、有機樹脂並びに有機溶剤を含有するペーストを塗布し、前記ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パーソナルコンピューター、テレビ等の映像情報機器に組み込まれている光学部品には、液晶などに損傷を与え得る紫外線等を効率よく遮断する性能が求められる。そのため、光学部品には、紫外線遮断ガラスや紫外線反射膜を付与した遮断素子からなる紫外線フィルターが組み込まれている。
【0003】
近年、これらの映像情報機器の市場が業務用から家庭用まで拡大してきており、更なる映像情報機器のコンパクト化・低コスト化が望まれている。コンパクト化を進めるための方策としては、例えば、光学部品の多機能化がある。例えば、上記紫外線フィルターにレンズ等の光学特性を付与すれば、レンズとしても紫外線フィルターとしても機能する。
【0004】
レンズ等の光学部品に紫外線遮断機能を付与するためには、例えば、1)紫外線遮断材でレンズ等の光学部品を作製する方法、2)レンズ等の光学部品に更に遮断機能(紫外線遮断膜など)を付与する方法がある。
【0005】
1)については、例えば、特許文献1〜7に紫外線遮断材が記載されており、これらの紫外線遮断材をレンズなどに加工することが考えられる。しかしながら、これらの紫外線遮断材を用いる場合には、色収差による光路差が生じるため光学設計が困難である。また、紫外線遮断材を研磨・研削によって加工するため、製造工程が複雑である。
【0006】
2)については、レンズなどの光学部品に蒸着法などにより紫外線遮断膜を与える方法、又は銅塩の溶融槽に光学部品を浸漬する方法など(例えば、特許文献8)により紫外線遮断層を与える方法がある。しかしながら、前者の方法では、ピンホール等により効率よく紫外線遮断できない場合がある。また、後者の方法では、微小レンズなどを作製する際に設備、コスト等の面で不利となり易い。
【特許文献1】特開2005−206434号公報
【特許文献2】特開平4−018501号公報
【特許文献3】特開平4−275942号公報
【特許文献4】特開平5−105865号公報
【特許文献5】特開平5−201746号公報
【特許文献6】特開平6−024794号公報
【特許文献7】特開平7−048140号公報
【特許文献8】特開平8−337433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、光学設計が容易であり、簡便な方法により目的の光学素子が得られる、紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、リチウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物、銀化合物、銅化合物及びタリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含む特定のペーストを用いて、紫外線吸収成分を含むガラス基材中にLiイオン、Kイオン、Rbイオン、Csイオン、Agイオン、Cuイオン、Tlイオン等を拡散させることにより、ガラス基材中に屈折率の異なる領域を形成する製造方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記の屈折率分布型光学素子の製造方法に関する。
1. アルカリ金属成分と紫外線吸収成分とをガラス構成成分として含むガラス基材に、リチウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物、銀化合物、銅化合物及びタリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種、有機樹脂並びに有機溶剤を含有するペーストを塗布し、前記ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子の製造方法。
2. 前記ガラス基材は、前記紫外線吸収成分として、セリウムイオン、チタンイオン、カルコゲン化カドミウム、カルコゲン化亜鉛、ハロゲン化銅及び銀からなる群から選択される少なくとも1種を0.01重量%以上含有する、上記項1に記載の製造方法。
3. 前記ガラス基材は、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス又は弗リン酸塩ガラスであって、前記アルカリ金属成分を酸化物換算で2重量%以上含有し、且つ、前記紫外線吸収成分として、セリウムイオン、チタンイオン、カルコゲン化カドミウム、カルコゲン化亜鉛、ハロゲン化銅及び銀からなる群から選択される少なくとも1種を0.05重量%以上含有する、上記項1に記載の製造方法。
4. 前記ガラス基材は、SiO:20〜85重量%、B:2〜75重量%、Al:10重量%以下、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも一種:2〜30重量%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOからなる群から選択される少なくとも一種:1〜15重量%、PbO、Nb5、ZrO、La、Y、Ta及びGdからなる群から選択される少なくとも一種:10重量%以下、Sb及びAsの少なくとも一種:5重量%以下、SnO:5重量%以下、ハロゲン化銅(I):0.01〜10重量%、並びに、銀:金属量として1重量%以下を含有する、上記項1に記載の製造方法。
5. 前記ガラス基材は、SiO:20〜85重量%、B:2〜75重量%、Al:10重量%以下、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも一種:2〜30重量%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOからなる群から選択される少なくとも一種:1〜15重量%、PbO、Nb5、ZrO、La、Y、Ta及びGdからなる群から選択される少なくとも一種:10重量%以下、Sb及びAsの少なくとも一種:5重量%以下、SnO:5重量%以下、CuBr:0.005〜7重量%及びCuI:0.005〜7重量%であって合計量が0.01〜10重量%、並びに、銀:金属量として1重量%以下を含有する、上記項1に記載の製造方法。
6. 上記項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる、紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子。
7. 液晶保護用又は集光用である、上記項6に記載の屈折率分布型光学素子。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本発明における屈折率分布型光学素子は、少なくとも一部に屈折率が異なる(連続的に屈折率が変化する場合も含む)領域を有し、その屈折率の相違に基づいて所定の光学特性を発揮する素子を意味する。例えば、屈折率分布型レンズ、屈折率分布型レンズアレイ、光導波路、回折格子等が挙げられる。
【0011】
本発明の製造方法では、ガラス基材として、アルカリ金属成分及び紫外線吸収成分をガラス構成成分として含むガラス基材を用いる。
【0012】
該ガラス基材におけるアルカリ金属成分としては、Li、Na、K、Rb、Cs等を例示でき、これらの内で、Li、Na、K等が好ましく、特にNaが好ましい。これらのアルカリ金属成分は、イオンの状態で存在してもよく、酸化物として存在してもよい。また、アルカリ金属成分は、一種のみ存在しても良く、二種以上が同時に存在しても良い。
【0013】
該ガラス基材におけるアルカリ金属成分の含有量は、酸化物換算で2重量%程度以上とすることが適当であり、5重量%程度以上とすることが好ましく、10重量%程度以上とすることがより好ましい。アルカリ金属成分の上限については特に限定的ではないが、酸化物換算で40重量%程度とすることが適当であり、30重量%程度とすることが好ましく、20重量%程度とすることがより好ましい。
【0014】
該ガラス基材における紫外線吸収成分としては、セリウムイオン、チタンイオン、カルコゲン化カドミウム、カルコゲン化亜鉛、ハロゲン化銅、銀等を例示できる。これらの成分は、イオン又は微粒子の状態で存在する。これらの成分のうち、カルコゲン化カドミウム、カルコゲン化亜鉛、ハロゲン化銅、銀が好ましく、特にハロゲン化銅、銀が好ましい。これらは、ガラス基材中に一種のみ存在してもよく、二種以上が同時に存在しても良い。
【0015】
該ガラス基材における紫外線吸収成分の含有量は、0.01重量%程度以上とすることが適当であり、0.05重量%程度以上とすることが好ましい。なお、含有量については、イオンで存在するものはイオン重量(イオン存在量)を基準とし、化合物で存在するもの(カルコゲン化カドミウム等)はそれ自体の重量を基準とし、銀は金属量を基準とする。紫外線吸収成分の上限については特に限定的ではないが、10重量%程度とすることが適当であり、5重量%程度とすることが好ましい。
【0016】
本発明では、アルカリ金属成分及び紫外線吸収成分を含有するガラス基材であれば特に限定なく使用できる。例えば、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、弗リン酸塩ガラス等の基材を用いることができる。
【0017】
これらのガラスの具体的な組成については、特に限定はなく、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス、弗リン酸塩ガラス等として公知の組成のガラスであって、上記したアルカリ金属成分及び紫外線吸収成分を含有するものであればよい。
【0018】
このようなガラス組成の具体例としては、例えば、
1)SiO:20〜85重量%、B:2〜75重量%、Al:10重量%以下、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも一種:2〜30重量%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOからなる群から選択される少なくとも一種:1〜15重量%、PbO、Nb5、ZrO、La、Y、Ta及びGdからなる群から選択される少なくとも一種:10重量%以下、Sb及びAsの少なくとも一種:5重量%以下、SnO:5重量%以下、ハロゲン化銅(I):0.01〜10重量%、並びに、銀:金属量として1重量%以下を含有するホウケイ酸塩ガラス、
2)SiO:20〜85重量%、B:2〜75重量%、Al:10重量%以下、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも一種:2〜30重量%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOからなる群から選択される少なくとも一種:1〜15重量%、PbO、Nb5、ZrO、La、Y、Ta及びGdからなる群から選択される少なくとも一種:10重量%以下、Sb及びAsの少なくとも一種:5重量%以下、SnO:5重量%以下、CuBr:0.005〜7重量%及びCuI:0.005〜7重量%であって合計量が0.01〜10重量%、並びに、銀:金属量として1重量%以下を含有するホウケイ酸塩ガラス、等が挙げられる。
【0019】
このようなガラス基材の形状は特に限定されず、最終製品の用途に応じて適宜設定できる。例えば、レンズ、レンズアレイ、光導波路、回折格子等に適した形状が広く採用でき、具体的には、板状、円柱状、角柱状等が挙げられる。例えば、前記した組成のガラス塊を研磨することにより所望形状の基材としたものを使用してもよいし、前記した組成のガラス溶融体を所望形状の基材となるように成型後、必要に応じて研磨したものを使用してもよい。
【0020】
本発明の製造方法では、このようなアルカリ金属成分及び紫外線吸収成分をガラス構成成分として含むガラス基材を用いて、これにリチウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物、銀化合物、銅化合物及びタリウム化合物から選ばれる少なくとも1種を含有するペーストを塗布し、ガラス基材の軟化点より低い温度で熱処理を行う。以下、これらの化合物をまとめて金属化合物と称する場合がある。
【0021】
ペーストとしては、リチウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物、銀化合物、銅化合物及びタリウム化合物から選ばれる少なくとも1種と有機樹脂を有機溶媒に分散させてペースト状としたものを用いる。このようなペーストとしては、ガラス基材に塗布し得る適度な粘度を有し、熱処理によりリチウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、銀イオン、銅イオン及びタリウムイオンから選ばれる少なくとも1種を拡散させることのできる上記金属化合物を含有するペースト状物であれば特に限定されない。ペースト粘度は、塗布方法、ペースト組成、基材への拡散条件等を考慮して適宜決定すればよい。
【0022】
このようなペーストをガラス基材に塗布し、熱処理を行うことによって、該ペーストに含まれる金属化合物中の金属イオンが、ガラス基材中のアルカリ成分と交換してLiイオン、Kイオン、Rbイオン、Csイオン、Agイオン、Cuイオン、Tlイオン等としてガラス基材中に拡散する。そして、拡散部分にはガラス基材とは異なる屈折率を有する部分が形成され、その屈折率は拡散濃度の変化に応じて連続的に分布する。特に、Agイオン、Tlイオン等を拡散させる場合には、屈折率の調整範囲が広いため所望の屈折率分布が得られ易く好ましい。該ペーストに含まれる金属化合物としては、熱処理によって各金属イオンをガラス基材に拡散可能なイオン結合性金属化合物であれば特に限定されないが、特に無機塩類を用いることが好ましい。各金属化合物の具体例を次に示す。
【0023】
リチウム化合物としては、例えば、LiNO、LiCl、LiBr、LiI、LiF、LISO等が挙げられる。この中でも、特にLiNO、LiSO等が好ましい。
【0024】
カリウム化合物としては、例えば、KNO、KCl、KBr、KI、KF、KSO等が挙げられる。この中でも、特にKNO、KSO等が好ましい。
【0025】
ルビジウム化合物としては、例えば、RbNO、RbCl、RbBr、RbI、RbF、RbSO等が挙げられる。この中でも、特にRbNO、RbSO等が好ましい。
【0026】
セシウム化合物としては、例えば、CsNO、CsCl、CsBr、CsI、CsF、CsSO等が挙げられる。この中でも、特にCsNO、CsSO等が好ましい。
【0027】
銀化合物としては、例えば、AgNO、AgCl、AgBr、AgI、AgF、AgS、AgSO、AgO等が挙げられる。この中でも、特にAgNOが好ましい。
【0028】
銅化合物としては、例えば、CuSO、CuCl、CuCl、CuBr、CuBr、CuO、CuO、Cu(NO、CuS、CuI、CuI、Cu(NO)・3HO等が挙げられる。この中でも、CuSO、Cu(NO等が好ましい。
【0029】
タリウム化合物としては、例えば、TlNO、TlCl、TlBr、TlI、TlF、TlS、TlSO、TlO等が挙げられる。この中でも、特にTlNOが好ましい。
【0030】
これらの金属化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
【0031】
該ペーストに含まれる有機樹脂としては、熱処理温度において分解する樹脂を用いればよく、水洗により容易に除去できるものが好ましい。例えば、このような特性を有する、セルロース樹脂、メチルセルロース樹脂、セルロースアセテート樹脂、セルロースニトレート樹脂、セルロースアセテートプチレート樹脂、アクリル樹脂、石油樹脂等が挙げられる。これらの有機樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を混合してもよい。
【0032】
該ペーストにおいて用いる有機溶剤は、金属化合物及び有機樹脂を容易に分散でき、乾燥時に容易に揮発するものであることが好ましく、具体的には、室温(20℃)では液体であって、50〜200℃程度で揮発する溶剤であることが好ましい。このような溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール等のアルコール類;ジメチルエーテル;アセトン等のケトン類などを挙げることができる。
【0033】
該ペーストにおける各成分の含有量については、特に限定的ではないが、金属化合物100重量部に対して、有機溶剤10〜35重量部、好ましくは12〜30重量部、樹脂成分25〜55重量部、好ましくは30〜45重量部程度である。
【0034】
該ペーストには、必要に応じて、添加剤を加えても良い。例えば、ペーストの融点を低下させる添加剤としては、NaSO、NaNO、NaCl、NaBr、NaI等が挙げられる。この中でも、特にNaSO、NaNOの少なくとも1種が好ましい。これらの添加剤の配合量については、特に限定的ではないが、金属化合物100重量部に対して、200重量部以下、好ましくは180重量以下部程度である。
【0035】
添加剤も含めた具体的な配合態様については、最終製品の特性に応じて適宜設定できるが、例えば、カリウム化合物、ルビジウム化合物又はセシウム化合物100重量部に対して、有機溶剤2〜25重量部、好ましくは5〜20重量部、樹脂成分15〜45重量部、好ましくは20〜40重量部、添加剤3重量部以下である。特に、カリウム化合物としてKNO、ルビジウム化合物としてRbNO、セシウム化合物としてCsNOを用いる場合には、この配合態様が好ましい。また、銀化合物又はタリウム化合物100重量部に対して、有機溶剤15〜45重量部、好ましくは20〜40重量部、樹脂成分50〜170重量部、好ましくは70〜150重量部、添加剤180重量部以下、好ましくは160重量部以下である。特に、銀化合物としてAgNO、タリウム化合物としてTlNOを用いる場合には、この配合態様が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法では、該ペーストをガラス基材に塗布する。ペーストの塗布形状は特に限定されず、各光学素子の特性に合わせて適宜設定できる。例えば、屈折率分布型レンズを作製する場合には、基材の所望部位にレンズとして使用可能な形状にペーストを塗布すればよい。具体的には、円形に塗布する場合には、通常は半径が5μm〜1mm、好ましくは10μm〜0.5mm程度である。他方、レンズアレイを作製する場合には、所望のレンズパターンに合わせてパターニング間隔、円又はドットの大きさ等を調整すればよい。パターニング間隔は特に限定的ではないが、通常1cm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは250μm以下である。
【0037】
塗布方法については特に限定はなく、公知の塗布方法を適宜採用すれば良く、例えば、スピーンコート、スプレーコート、ディップコート等の方法を適用できる。また、屈折率分布型微小レンズ(マイクロレンズ)を作製する場合には、注射器等によりペーストを基材上に滴下してもよいし、精密な円形微小ドットを形成する印刷技法(例えば、インクジェット法を使用した印刷)等を利用してもよい。
【0038】
また、光導波路又は回折格子を作製する場合には、線形にパターニングすればよい。線形のパターニングには、染色等に用いられるスクリーニング(スクリーン印刷)を利用してもよい。線状にパターニングする場合には、線形幅は光学素子(光導波路、回折格子等)の所望の特性に応じて適宜設定できるが、光導波路であれば、通常100μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下であり、回折格子であれば、通常500μm以下、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下である。さらに、より精密なパターンを形成する場合には、フォトリソグラフィー法によって、ガラス基材表面に無機膜によるパターニングを行い、ガラス基材の露出部分に金属化合物を含むペーストを塗布すればよい。
【0039】
以下、光導波路の形成手順の一例であって、フォトリソグラフィー法によってガラス基材表面に無機膜によりパターニングを行い、ガラス基材の露出部分に金属化合物を含むペーストを塗布後、熱処理することにより、チャネル型の光導波路を形成する手順について簡単に説明する。
【0040】
まず、ガラス基材上にAl、Ti、Ag等の金属、SiO等の酸化物等を蒸着して、無機膜を形成する。蒸着された無機膜の厚さは特に限定的ではないが、0.25〜1μm程度とすることが好ましく、0.25〜0.5μm程度とすることがより好ましい。無機膜を蒸着後、その上にフォトレジスト剤を塗布する。フォトレジスト剤としては、市販の有機系のフォトレジスト剤を使用すればよい。塗布方法も特に制限はないが、例えば、スピーンコート、スプレーコート、ディップコート等の方法を採用できる。次に、このフォトレジスト剤の上にパターニングを施した金属板を置き、紫外線により露光後、現像してフォトレジスト剤によるパターンを形成する。次いで、このパターンに従って露出部分の無機膜をエッチング等で剥離し、フォトレジスト剤を除去することによってガラス基板表面に無機膜によるパターン皮膜を形成する。次いで、ガラス基板の露出部分に該無機膜上から金属化合物を含むペーストを塗布後、熱処理(条件については後記する)を行うことによって、チャネル型の光導波路を形成することができる。
【0041】
また、光導波路の他の態様として、ガラス基板の全面にペーストを塗布し、熱処理を行うことによって、スラブ型の光導波路を形成することもできる。
【0042】
上記した何れのペースト塗布方法においても、塗布厚は特に限定されず、ペースト中に含まれる金属化合物の種類、含有量等によって適宜設定できるが、通常2mm以下、特に1.5mm以下、特に好ましくは1mm以下である。
【0043】
ペーストを塗布した後、通常、熱処理に先だって塗膜を乾燥する。乾燥条件については特に限定はなく、溶剤成分が十分に除去されてペーストが乾固させるように乾燥すればよく、通常100〜250℃で30分〜1.5時間、好ましくは150〜200℃で45分〜1時間程度加熱することにより効率よく乾燥することができる。
【0044】
次いで、乾燥した塗膜を熱処理する。熱処理温度は、通常250〜600℃程度、好ましくは300〜550℃程度の温度範囲であって、ガラス基材の軟化点を下回る温度とすればよい。熱処理時間は、温度に応じて適宜設定できるが、通常10分から100時間、好ましくは30分〜50時間程度、特に好ましくは1〜25時間程度である。熱処理雰囲気は特に限定されず、通常は空気中等の酸素含有雰囲気中でよい。
【0045】
上記した方法によって熱処理を行うことによって、所定の金属イオンがガラス基材に拡散する。拡散した金属イオンは、処理条件によって異なるが、金属イオンの状態、金属酸化物の状態、金属微粒子の状態等で存在し、拡散部分については、ガラス基材部分とは屈折率が異なるものとなる。屈折率の分布は連続的なものであり、通常はペーストを塗布した基材表面の屈折率が最大であり、拡散深度が大きくなるほど屈折率は小さくなる。また、例えば、円形に塗布した場合には、円の中心部から半径方向に亘って連続的に屈折率が小さくなる。このように、基材と異なる屈折率分布又は屈折率分布領域が形成されることにより、所定の光学特性を発揮し得る素子構造が得られる。
【0046】
熱処理後は、通常、室温まで放冷し、基材上に残っているペースト残留物を水洗すればよい。
【0047】
上記過程を経て、紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子は得られる。光学素子がレンズ又はレンズアレイである場合には、特に集光用として好適である。また、本発明の光学素子は紫外線吸収能を有するため、映像情報機器に組み込まれる光学部品であって、液晶保護用の紫外線フィルターとしても好適である。勿論、本発明の製造方法は、上記具体的に示した光学素子の製造のみならず、基材に付与した屈折率変化又は屈折率分布を光学的に利用する素子の製造に有用である。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、アルカリ金属成分と紫外線吸収成分とを含むガラス基材に特定の金属化合物を含むペーストを塗布し、空気中等で加熱するという簡単な操作によって、ガラス基材の所望部分に基材とは屈折率の異なる領域又は屈折率分布を形成し、かかる屈折率の差異又は屈折率分布を利用した光学素子を製造できる。かかる製造方法によれば、煩雑な製造工程を要さず、また光学設計が容易であり、低コストで紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し本発明は実施例に限定されない。
【0050】
実施例1(屈折率分布型マイクロレンズの作製)
SiO:68重量%、CaO:12重量%、NaO:14重量%、KO:1重量%、Al:1.5重量%、MgO:2.5重量%及びセリウムイオン:1重量%を含有するガラスを、縦10×横10×厚さ1mmのガラス基材に加工後、その表面を洗浄した。
【0051】
ガラス基材の片面にAgNO:25重量%、NaNO:40重量%、アクリル樹脂:15重量%、セルロース樹脂:15重量%及びターピネオール:5重量%からなるペースト(銀化合物100重量部に対して、有機溶剤20重量部、樹脂成分120重量部及び添加剤160重量部を配合したもの)を注射器滴下により円形(直径500μm)に塗布した。ペースト厚さは1mmとなるように塗布した。
【0052】
次いで、ペーストを塗布したガラス基材を200℃で1時間乾燥後、空気中300℃で12時間熱処理を行った。
【0053】
熱処理後の試料について、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により銀の分布を測定することにより、銀が円形に分布していることを確認した。
【0054】
また、マイクロレンズの中心部分(銀拡散部分)の紫外線透過率を測定したところ、ガラス基材部分(銀拡散していない部分)の紫外線透過率と同等の紫外線透過率を有することが分かった。
【0055】
また、ガラス基材の深さ方向における屈折率の分布を調べたところ、ガラス基材との屈折率差が最大で約2×10−2増大し、塗布した円の中心部において、表面から約8μmまで屈折率の分布が生じていることがわかった。深さ方向(円の中心部)の屈折率分布を図1に示す。
【0056】
実施例2(屈折率分布型マイクロレンズアレイの作製)
SiO:57.6重量%、B:20重量%、Al:3重量%、NaO:10重量%、KO:3重量%、ZnO:5重量%、ZrO:0.5重量%、CuBr:0.67重量%、CuI:0.23重量%を含有するガラスを、縦5×横5×厚さ1mmのガラス基材に加工後、その表面を洗浄した。
【0057】
ガラス基材の片面にAgNO:25重量%、NaNO:40重量%、アクリル樹脂:15重量%、セルロース樹脂:15重量%及びターピネオール:5重量%からなるペースト(銀化合物100重量部に対して、有機溶剤20重量部、樹脂成分120重量部及び添加剤160重量部を配合したもの;常温粘度10cP)をインクジェット法により円形(直径60μm)に塗布した。塗布は、パターニング間隔(円の中心から隣接の円の中心までの間隔)を150μmとし、10点×10点(計100点)行った。ペースト厚さは1mmとした。パターニングの模式図を図2に示す。
【0058】
次いで、ペーストを塗布したガラス基材を200℃で1時間乾燥後、空気中300℃で6時間熱処理を行った。
【0059】
熱処理後の試料について、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により銀の分布を測定することにより、銀が円形に分布していることを確認した。また、マイクロレンズ1つの中心部分(銀拡散部分)の紫外線透過率を測定したところ、ガラス基材部分(銀拡散していない部分)の紫外線線透過率と同等の紫外線透過率を有することが分かった。マイクロレンズ1つの中心部分の透過率曲線を図3に示す。
【0060】
また、ガラス基材の深さ方向における屈折率の分布を調べたところ、ガラス基材との屈折率差が最大で約5×10−2増大し、塗布した円の中心部において、表面から約15μmまで屈折率の分布が生じていることが分かった。
【0061】
作製したマイクロレンズアレイに、ガラス基材に対して垂直方向からHe−Neレーザー(レーザー径:2mm)を照射したところ、レーザーがレンズアレイの各レンズによって集光されていることが分かった。
【0062】
実施例3(屈折率分布型マイクロレンズアレイの作製)
SiO:57.6重量%、B:20重量%、Al:3重量%、NaO:10重量%、KO:3重量%、ZnO:5重量%、ZrO:0.5重量%、CuBr:0.67重量%、CuI:0.23重量%及びAg:金属量として0.01重量%含有するガラスを、縦10×横10×厚さ1mmのガラス基材に加工後、その表面を洗浄した。
【0063】
ガラス基材の片面にAgNO:25重量%、NaNO:40重量%、アクリル樹脂:15重量%、セルロース樹脂:15重量%及びターピネオール:5重量%からなるペースト(銀化合物100重量部に対して、有機溶剤20重量部、樹脂成分120重量部及び添加剤160重量部を配合したもの;常温粘度10cP)をインクジェット法により円形(直径100μm)に塗布した。塗布は、パターニング間隔(円の中心から隣接の円の中心までの間隔)を150μmとし、20点×20点(計400点)行った。
【0064】
次いで、ペーストを塗布したガラス基材を200℃で1時間乾燥後、空気中300℃で6時間熱処理を行った。
【0065】
熱処理後の試料について、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)により銀の分布を測定することにより、銀が円形に分布していることを確認した。また、マイクロレンズ1つの中心部分(銀拡散部分)の紫外線透過率を測定したところ、ガラス基材部分(銀拡散していない部分)の紫外線線透過率と同等の紫外線透過率を有することが分かった マイクロレンズ1つの中心部分の透過率曲線を図4に示す。
【0066】
また、ガラス基材の深さ方向における屈折率の分布を調べたところ、ガラス基材との屈折率差が最大で約5×10−2増大し、塗布した円の中心部において、表面から約13μmまで屈折率の分布が生じていることが分かった。
【0067】
作製したマイクロレンズアレイに、ガラス基材に対して垂直方向からHe−Neレーザー(レーザー径:2mm)を照射したところ、レーザーがレンズアレイの各々レンズによって集光されていることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例1で作製した屈折率分布型マイクロレンズの深さ方向(円の中心部)における屈折率分布を示す図である。
【図2】実施例2の屈折率分布型マイクロレンズアレイの製造における、ペーストのパターニング模式図である。60μmは塗布円の直径を示し、150μmは塗布円のパターニング間隔を示す。
【図3】実施例2で作製した屈折率分布型マイクロレンズアレイの透過率曲線(波長と透過率との関係)を示す図である。
【図4】実施例3で作製した屈折率分布型マイクロレンズアレイの透過率曲線(波長と透過率との関係)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属成分と紫外線吸収成分とをガラス構成成分として含むガラス基材に、リチウム化合物、カリウム化合物、ルビジウム化合物、セシウム化合物、銀化合物、銅化合物及びタリウム化合物からなる群から選択される少なくとも1種、有機樹脂並びに有機溶剤を含有するペーストを塗布し、前記ガラス基材の軟化温度より低い温度で熱処理することを特徴とする紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子の製造方法。
【請求項2】
前記ガラス基材は、前記紫外線吸収成分として、セリウムイオン、チタンイオン、カルコゲン化カドミウム、カルコゲン化亜鉛、ハロゲン化銅及び銀からなる群から選択される少なくとも1種を0.01重量%以上含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ガラス基材は、ケイ酸塩ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、リン酸塩ガラス又は弗リン酸塩ガラスであって、前記アルカリ金属成分を酸化物換算で2重量%以上含有し、且つ、前記紫外線吸収成分として、セリウムイオン、チタンイオン、カルコゲン化カドミウム、カルコゲン化亜鉛、ハロゲン化銅及び銀からなる群から選択される少なくとも1種を0.05重量%以上含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ガラス基材は、SiO:20〜85重量%、B:2〜75重量%、Al:10重量%以下、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも一種:2〜30重量%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOからなる群から選択される少なくとも一種:1〜15重量%、PbO、Nb5、ZrO、La、Y、Ta及びGdからなる群から選択される少なくとも一種:10重量%以下、Sb及びAsの少なくとも一種:5重量%以下、SnO:5重量%以下、ハロゲン化銅(I):0.01〜10重量%、並びに、銀:金属量として1重量%以下を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記ガラス基材は、SiO:20〜85重量%、B:2〜75重量%、Al:10重量%以下、LiO、NaO、KO、RbO及びCsOからなる群から選択される少なくとも一種:2〜30重量%、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOからなる群から選択される少なくとも一種:1〜15重量%、PbO、Nb5、ZrO、La、Y、Ta及びGdからなる群から選択される少なくとも一種:10重量%以下、Sb及びAsの少なくとも一種:5重量%以下、SnO:5重量%以下、CuBr:0.005〜7重量%及びCuI:0.005〜7重量%であって合計量が0.01〜10重量%、並びに、銀:金属量として1重量%以下を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる、紫外線吸収能を有する屈折率分布型光学素子。
【請求項7】
液晶保護用又は集光用である、請求項6に記載の屈折率分布型光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−247626(P2008−247626A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87533(P2007−87533)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受ける特許出願
【出願人】(591110654)五鈴精工硝子株式会社 (19)
【Fターム(参考)】