説明

紫外線発光半導体素子

【課題】特定波長光をカットする機能などの光学機能を備えた光半導体素子を提供する。
【解決手段】光半導体チップ3をパッケージ2,4,5に封入してなる光半導体素子1において、光作用側、例えば光半導体チップ3の表面、パッケージ5の外面またはパッケージ5の内面に、光学機能性膜9を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学機能性膜を備えた光半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体素子のうち、LEDまたはLDなどの半導体発光素子は、ディスプレイ用バックライト、光通信機器、または光ディスク機器などに用いられている。一方、PDなどの半導体受光素子は、光電スイッチや光測定機器などに用いられている。
【0003】
このような光半導体素子は、光半導体チップからの出射光または光半導体チップへの入射光をそのまま作用させる場合もあるが、用途によっては光学機能性部材を別途配置し、作用光を反射させたり特定波長成分をカットしたりして、光学的処理を行いつつ使用する場合も多い。
【0004】
例えば、図7に示す一般的な偽札判別装置20においては、紙幣23に塗布された紫外線蛍光物質22に紫外線Uを照射し、その蛍光発光(可視光線)Vを測定して真偽を判別するため、用いられる紫外線発光素子21に対しては出射光Oに含まれる可視光線および赤外線をカットして紫外線のみを透過させる紫外線透過フィルタ部材24が設けられ、受光素子21’に対しては紙幣23からの反射光に含まれる紫外線U’をカットする紫外線カットフィルタ部材24’が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−197506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の偽札判別装置においては、紫外線透過フィルタ部材および紫外線カットフィルタ部材をそれぞれの光作用側に設ける必要があるため、部品コストがかかると共に装置の小型化に限界があった。
さらに、紫外線透過フィルタ部材および紫外線カットフィルタ部材は、非常に薄くてもその機能を十分に果たすものであるが、取扱い上一定の厚みをもたせるべく透光性の光学基材に付着せしめられて構成されているため、その基材を透過する分作用光が無駄に減衰してしまっていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、特定波長光をカットする機能などの光学機能を予め備えた光半導体素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、(1)光半導体チップをパッケージに封入してなる光半導体素子において、光作用側に光学機能性膜を設けたことを特徴とする光半導体素子を提供するものである。
【0008】
また本発明は、上記(1)の構成において、(2)前記光学機能性膜は、前記光半導体チップの表面、前記パッケージの外面または前記パッケージの内面に形成されていることを特徴とする光半導体素子を提供するものである。
【0009】
また本発明は、上記(1)(2)の構成において、(3)前記光半導体チップは紫外線発光機能を有していると共に、前記光学機能性膜は紫外線透過機能を有していることを特徴とする光半導体素子を提供するものである。
ここで、紫外線透過機能とは、可視光線および赤外線をカットし、紫外線のみを透過させる機能を指す。
本発明は同様に、上記(1)(2)の構成において、(4)前記光半導体チップは受光機能を有していると共に、前記光学機能性膜は紫外線カット機能を有していることを特徴とする光半導体素子を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記上記(3)(4)の構成において、(5)前記光学機能性膜は、少なくとも、酸化ケイ素(SiO)からなる膜および酸化ハフニウム(HfO)からなる膜が、複数組み合わされて積層されていることを特徴とする光半導体素子を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光半導体素子自体に光学機能性膜が具備されているので、別途光学機能性部材を設ける必要がなく、コストの低減、装置の小型化および作用光の減衰防止が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を紫外線発光素子に適用した場合の実施形態につき説明する。
本実施形態にかかる紫外線発光素子1は主に、図1に示す如く、金属ベース2上に載置された紫外線発光チップ3と、金属ベース2に接合されていると共に紫外線発光チップ3の側方を囲むように配置された略円筒状の金属キャップ4と、金属キャップ4の開口を封止するガラス窓5と、絶縁材6によって絶縁されつつ金属ベース2を貫通し、かつ導電性ワイヤ7を介して紫外線発光チップ3と接続されたリード8とにより、構成されている。
【0013】
紫外線発光チップ3は、リード8を介して電圧が印加されると、主に紫外線領域の光を発光する。一例によれば、その発光スペクトルは、図2に示すとおりとなる。
【0014】
ガラス窓5の外面には、二酸化ケイ素(SiO)などの低屈折率膜と、二酸化ハフニウム(HfO)などの高屈折率膜とを組み合わせて積層し、可視光線および赤外線をカットして紫外線のみを透過させるように構成された紫外線透過フィルタ膜9が、真空蒸着法によって形成されている。紫外線発光チップから発光した光は、この紫外線透過フィルタ膜9を通過することによって、可視光線および赤外線がカットされて外部に出光する。図2に示すスペクトルを有する紫外線発光チップを用いた例によれば、その出射光は、この紫外線透過フィルタ膜9によって図3AおよびBに示す如く、波長約500nm〜650nmの可視光線がカットされて、外部に出光する。
【0015】
上記のように構成された紫外線発光素子によれば、ガラス窓の外面に、可視光線および赤外線をカットし、紫外線のみを透過させるフィルタ膜が設けられているため、その出射光をほぼ紫外線のみとすることができる。従って、紫外線のみが必要であって可視光線および赤外線が不要な場合、当該紫外線発光素子を用いれば、別途紫外線透過フィルタ部材を設ける必要がなく、装置の小型化およびコストの低減が可能となる。
【0016】
さらに、上記のように構成された紫外線発光素子によれば、別途紫外線透過フィルタ部材を用いた場合に生じていた紫外線強度の減衰を抑えることができる。一例によれば、図4に示す如く、別途紫外線透過フィルタ部材を設けた場合と比較して、紫外線強度のピーク値を約54%増加させることができた。
【0017】
また、上記のように構成した紫外線発光素子1を用いて、図5に示すような偽札判別装置10を構成することができる。
この偽札判別装置10は、図5に示す如く、紫外線発光素子1から照射された光Uが紙幣13に塗布された紫外線蛍光物質12に当たり、紫外線蛍光物質12から励起発光される可視光線Vを受光素子1’が受けるように構成されている。
紫外線発光素子1は、上述の紫外線透過フィルタ膜9が設けられている。
受光素子1’は受光チップ(不図示)を備えていると共に、ガラス窓部5’の外面に、二酸化ケイ素(SiO)などの低屈折率膜と、二酸化ハフニウム(HfO)などの高屈折率膜とを組み合わせて積層し、紫外線をカットするように構成された紫外線カットフィルタ膜9が、真空蒸着法によって形成されている。
【0018】
ここで、偽札判別は、紫外線蛍光物質12が励起発光する可視光線Vを受光素子1’が検知することで行われるため、発光素子からの出射光に可視光線および赤外線が含まれていると紙幣13の表面で反射して受光素子1’が検知してしまい、正常に行われない。また、出射された紫外線Uも紙幣13の表面で一部反射するため(図5中のU’)、受光素子1’がこれを検知してしまうと、判別が正常に行われないことになる。
【0019】
上記のように構成された偽札判別装置10では、紫外線発光素子1および受光素子1’がそれぞれ、紫外線透過フィルタ膜9および紫外線カットフィルタ膜9’を備えているため、別途フィルタ部材を設けなくても受光素子1‘が紫外線蛍光物質12からの可視光線Vのみ受光でき、正確に偽札判別を行うことができる。
従って、装置が小型化できると共に、コストの低減が可能である。さらに、フィルタ部材を用いた場合、その基材を透過する際に生じていた出射紫外線および入射可視光線の減衰を低減することができ、より正確に判別を行うことができる。
【0020】
次に、上記のような偽札判別装置に本発明にかかる紫外線発光素子1を用いた場合の効果につき、実施例をあげて説明する。
【0021】
本実施例にかかる装置は、本発明にかかる紫外線発光素子の効果に限定して調査するため、受光素子側には従来用いられている紫外線カットフィルタ部材を用いて装置を構成した。
また、発光素子を、紫外線透過フィルタ膜を備えた紫外線発光素子1(実施例1)、厚さ0.5mmの紫外線透過フィルタ部材を光出射側に配置した紫外線発光素子(比較例1)、および紫外線発光素子のみ(比較例2)とすると共に、照射対象をミラー、紙幣(蛍光物質なし)、コピー紙、蛍光グリーン紙、蛍光オレンジ紙、蛍光イエロー紙とし、各紫外線発光素子に1mAの電流を流した場合の受光素子の検出値を調べた。
その結果を、表1および図6に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1および図6に示すように、紫外線発光素子のみである比較例2において、それぞれ紫外線蛍光物質を有していないミラーおよび紙幣に対して照射した場合(図6中の二点鎖線)、発光素子からの出射光に可視光線が含まれるため、紫外線蛍光物質がないにも関わらず、受光素子が検出をしてしまった。
これに対し、紫外線透過フィルタ膜を備えた実施例1の場合(図6中の実線)、可視光線および赤外線がカットされて紫外線のみが照射対象に当たって反射するため、出射光は受光素子の光入射側に設けられた紫外線カットフィルタ部材にカットされ、受光素子の検出値はほぼゼロとなった。
【0024】
また、実施例1において、紫外線蛍光物質を有するコピー紙、蛍光グリーン、蛍光オレンジおよび蛍光イエローに照射した場合(図6中の実線)、受光素子の検出値は、紫外線透過フィルタ部材を別途設けた比較例1の場合(図6中の二点鎖線)と比較して、それぞれ約2.3倍、1.9倍、1.5倍および1.6倍となり、大幅に増加した。
【0025】
以上により、実施例1の本発明にかかる紫外線発光素子を偽札判別装置の発光素子として用いると、照射対象が有する紫外線蛍光物質からの可視光線を、受光素子において感度よく検出することができ、より正確に偽札判別ができることが証明された。
【0026】
以上、具体例を例示しつつ、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
光学機能性膜は、紫外線透過機能および紫外線カット機能に限られず、任意の特定波長成分を阻止するまたは透過させるものであってもよいし、作用光を反射させるミラー機能または作用光を反射光と透過光とに分けるビームスプリッタ機能などであってもよい。例えば、ビームスプリッタ機能を有する光学機能性膜を備えたLDを用い、出射光の一部を反射させて出射方向から脇へ逸らすと共に、その反射光を受光素子で受けてその出力を監視し得るレーザ装置を構成することができる。
【0027】
また、光学機能性膜は、真空蒸着法以外の方法で設けてもよく、例えばスパッタリング、CVD、イオンプレーティングまたは吹き付け法などによって設けてもよい。
さらに、光学機能性膜は、他の公知の方法で形成してもよく、例えば特開平4−221904号公報、特開平2003−336034号公報、または特開平2003−43245号公報などに開示されている方法で形成することができる。
【0028】
また、上記実施形態においては、光学機能性膜をガラス窓の外面に設けたが、ガラス窓の内面に設けてもよく、光半導体チップの表面に設けてもよい。
【0029】
また、上記実施形態においては、紫外線発光素子を所謂CANタイプのパッケージとしたが、透光性樹脂パッケージとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかる紫外線発光素子を示す断面図である。
【図2】図1の紫外線発光素子における紫外線発光チップの発光スペクトルを示す図である。
【図3】(A)図1の紫外線発光素子の発光スペクトルを示す図、(B)図3Aの部分拡大図である。
【図4】図1の紫外線発光素子を用いた場合と、従来のフィルタ部材を用いた場合とを比較するための図である。
【図5】本発明にかかる紫外線発光素子を適用した偽札判別装置を示す概略説明図である。
【図6】図5の偽札判別装置における受光素子の受光強度を示す図である。
【図7】従来の偽札判別装置の一例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 紫外線発光素子(光半導体素子)
2 金属ベース(パッケージ)
3 紫外線発光チップ
4 金属キャップ(パッケージ)
5 ガラス窓(パッケージ)
9 紫外線カットフィルタ膜(光学機能性膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半導体チップをパッケージに封入してなる光半導体素子において、光作用側に光学機能性膜を設けたことを特徴とする光半導体素子。
【請求項2】
前記光学機能性膜は、前記光半導体チップの表面、前記パッケージの外面または前記パッケージの内面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光半導体素子。
【請求項3】
前記光半導体チップは紫外線発光機能を有していると共に、前記光学機能性膜は紫外線透過機能を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の光半導体素子。
【請求項4】
前記光半導体チップは受光機能を有していると共に、前記光学機能性膜は紫外線カット機能を有していることを特徴とする請求項1または2に記載の光半導体素子。
【請求項5】
前記光学機能性膜は、少なくとも、酸化ケイ素(SiO)からなる膜および酸化ハフニウム(HfO)からなる膜が、複数組み合わされて積層されていることを特徴とする請求項3または4に記載の光半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−158006(P2007−158006A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350889(P2005−350889)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(598070186)高槻電器工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】