説明

組立式中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型ハイポサイクロイド遊星歯車機構を用いた往復動機関

【課題】 直線往復運動を創成する中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型ハイポサイクロイド遊星歯車機構を用いた往復動機関の製作性及び保守点検・整備性などを向上させる.
【解決手段】 中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型ハイポサイクロイド遊星歯車機構の中央遊星歯車複偏心盤に代えて,製作が容易で,かつ,組立時に高い精度と機能を与えるように,いくつかの部品に分けて製作し,それらを組み付けて構成する組立式中央遊星歯車複偏心盤を使用する.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,直線運動を創成するハイポサイクロイド遊星歯車機構を用いた往復動機関の実用性を高める目的をもつ,組立式中央遊星歯車複偏心盤を用いた2気筒1クランクピン型ハイポサイクロイド遊星歯車機構を伝動機構とした往復動機関であり,その製作性及び保守点検・整備性を向上させるものである.
以後,簡明とするため,直線運動を創成する中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型ハイポサイロイド遊星歯車機構を用いた往復動機関を2n気筒サイクロイド機関とし,この機関の機構を2n気筒サイクロイド機構とする.なお,nは自然数とする.
【背景技術】
【0002】
これまで、特許文献1において,2n気筒サイクロイド機関並びに往復動ポンプ装置(コンプレッサを含む。)が提案されている。
図1は,2n気筒サイクロイド機関の一例として,中央遊星歯車複偏心盤9に代えて,組立式中央遊星歯車複偏心盤を用いた2ストローク,気筒配置角γ=90の組立式4気筒サイクロイド機関を示している。簡明のため,シリンダヘッド3,シリンダ2及びピストンリング5は気筒1にのみ,クランクケースはクランクウェブ軸受の支持部のみを,図1(b)で示している.
なお,組立式中央遊星歯車複偏心盤は中央遊星歯車複偏心盤と同じ形状と機能をもつので,図1を背景技術である2n気筒サイクロイド機関の説明図として準用する.
図1を用いて,2n気筒サイクロイド機構の構造,運動及びつりあわせを述べる.
クランクケース1に固定した基準ピッチ円直径4eの静止内歯車10とクランクピン付クランクウェブ6bのクランクピン上にクランクピン軸受7で回転自在に支えられた基準ピッチ円直径2eの遊星歯車9bがかみあい、遊星歯車9bはクランクピン軸心O2周りに角速度ωで自転するとともに、クランク軸心O1周りに逆向きに角速度ωで公転する。このとき、遊星歯車9bの基準ピッチ円筒面上にある偏心盤9aの軸心O3は、シリンダ中心線C上をストローク4eの直線往復運動を行う。そして、この直線往復運動が,偏心盤9a上に偏心盤軸受11を介して回転自在に支えられシリンダ2に案内されたピストン4の運動となる。このように,ピストン4の直線往復運動は,互いに逆向きの2つの等速回転運動,即ち,偏心量eの偏心盤9aが,クランクピン軸心O2周りに自転すると同時に,クランク半径eのクランク軸6の回転によりクランク軸心O1周りに逆向きに同じ角速度で公転することにより創成される。したがって,2n気筒サイクロイド機構は,等速で自転と公転を行う回転体の場合と同様に,慣性による力及びモーメントを完全につりあわせることができる.(特許文献1及び非特許文献1〜3参照)
【0003】
ピストンクランク機構との比較において、直線運動を創成するハイポサイクロイド遊星歯車機構の基本的な特長は以下のように整理できる。
ピストンの直線往復運動は、静止内歯車10と遊星歯車9bの歯数比が2:1の等速運動機構である遊星歯車機構により創成され,ピストンクランク機構ではシリンダによるピストンの強制案内と不等速運動機構であるリンク機構により創成される。このため、2n気筒サイクロイド機構では,ピストンクランク機構で不可避のシリンダ側圧(ピストン側圧)及び慣性不つりあいを除去できる。
この特長に拠り、シリンダ及びクランクケースの剛性、摩擦損失、ピストンスラップ,振動および燃焼ガス漏れの低減、上下死点近傍の低ピストン速度,適切なロングストロークと燃焼室形状の最適化などに拠る燃焼状態の改善、さらなる高圧・ロングストローク化による高トルク化と低速化を期待できるなど、2n気筒サイクロイド機関の実用可能性は高く評価できる。また,クランク半径がピストンストロークの1/4と小さいことを利用して,図1に示すように,クランクウェブ軸受8及び13を採用して,機構の重量・寸法の低減及び剛性の向上を諮ることができる.
これまでに,2n気筒サイクロイド機関が提案されているが,中央遊星歯車複偏心盤とクランク軸系の製作性などが課題として残されている.(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2011−17329
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】 松田孝,佐藤元宥:サイクロイド遊星歯車機構に閠する研究(第1報),自動車技術会論文集,Vol.39,No.2,p.311−316(2008).
【非特許文献2】 松田孝,佐藤元宥:サイクロイド遊星歯車機構に関する研究(第2報),自動車技術会論文集,Vol.41,No.1,p109−114(2010).
【非特許文献3】 松田孝,佐藤元宥:サイクロイド遊星歯車機構に関する研究(第3報),自動車技術会2010年春季大会 学術講演会 パシフィコ横浜 2010年5月21日発表,文献No.20105048,学術講演会前刷集No.88−09.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2n気筒サイクロイド機関における中央遊星歯車複偏心盤とクランク軸系の製作性及び保守点検・整備性の向上が目的である(特許文献1及び非特許文献3参照).
本発明は,この課題を解決して、高圧、低速,ロングストローク及び多気筒の高品質な往復動機関の実用可能性を高めるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では,中央遊星歯車複偏心盤及びクランク軸系の製作性及び保守点検・整備性を高めるため,中央遊星歯車複偏心盤に代えて用いる図1の組立式中央遊星歯車複偏心盤を,つぎのように考案している.
中央遊星歯車複偏心盤9を,図2に示すように,遊星歯車の歯を軸方向に延長した嵌合歯を遊星歯車の両端に備えた中央遊星歯車9b(以後,嵌合歯付き中央遊星歯車という)とそれに嵌め合わせる2つの嵌合歯溝付き偏心盤9a(以後,嵌合歯溝付き偏心盤という)の3部品に分けて製作する.そして,これらを組み付けて中央遊星歯車複偏心盤9と同じ形状と機能を与え,これを組立式中央遊星歯車複偏心盤という.嵌合歯は歯先を落とした低歯とし,嵌合歯溝はこの嵌合歯に適合させる.
なお,図2では,2n気筒サイクロイド機関の一例として,2ストローク,気筒配置角γ=90の組立式4気筒サイクロイド機関を採り上げ,気筒1及び2に対応する組立式中央遊星歯車複偏心盤を例示している.この手段は,組立式2n気筒サイクロイド機関の全ての気筒に対して,同様に適用できる.これは自明なので,以後,この言及を割愛する.
【0008】
前項の組立式中央遊星歯車複偏心盤を,図3に示すように,基本的に遊星歯車の軸心を含む平面Sで,偏心盤中心を含む上部と偏心盤中心を含まない下部に2分割した割型嵌合歯溝付き偏心盤9a,9a,と割型嵌合歯付き中央遊星歯車9bα,9bβとを製作して,これらを組み付けた割型中央遊星歯車複偏心盤の嵌合歯溝付き偏心盤9aと9aをねじ12で一体結合して,中央遊星歯車複偏心盤9と同じ形状と機能を与える方法を考案し,中央遊星歯車複偏心盤9に代えて用いる.これを組立式割型中央遊星歯車複偏心盤という.
【0009】
[0007]項の組立式中央遊星歯車複偏心盤において,図4に示すように,基本的にその軸心を含む平面Sで偏心盤中心を含む上部と偏心盤中心を含まない下部に2分割された嵌合歯溝付き偏心盤9aと9aを,嵌合歯付き中央遊星歯車9bにそれぞれ組み付け,ついで偏心盤9aと9aをねじで一体結合して.中央遊星歯車複偏心盤9と同じ形状と機能を与える組立式半割型中央遊星歯車複偏心盤を考案し,中央遊星歯車複偏心盤9に代えて用いる.
なお,嵌合歯及び嵌合歯溝は,分割した偏心盤9aと9aを半径方向移動により中央遊星歯車9bに組み付け出来るような小歯数とする.
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の組立式中央遊星歯車複偏心盤に拠れば,2n気筒サイクロイド機構の中央遊星歯車複偏心盤9の製作が容易となり,また,これらの相対角位置を精度良く製作でき,一体性も高いので,実用性が向上する.
【0011】
請求項2記載の組立式割型中央遊星歯車複偏心盤に拠れば,組立式クランク軸6に代わる一体型クランク軸の使用,組立の容易化とクランクピン軸受7及び中央遊星歯車の保守点検と整備交換が可能になり,請求項1に記載した本発明の実用性向上に寄与できる.
【0012】
請求3記載の組立式半割型中央遊星歯車偏心盤に拠れば,クランク軸系の組立が容易で,中央遊星歯車の保守点検が容易になり,請求項1に記載した本発明の実用性向上に寄与できる.
【0013】
請求項1,2及び3記載の発明に拠れば,小型軽量,高圧,低速,低剛性構造,低摩擦損失,低振動で,滑らかな動きの優れた往復動ポンプを期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】 2ストローク,γ=90の組立式中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型4気筒サイクロイド機関の構造を示す図であり,(a)は軸方向からの正面図(B矢視図),(b)は断面A−Aを示している.
【図2】 2ストローク,γ=90の組立式中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型4気筒サイクロイド機関の組立式中央遊星歯車複偏心盤の実体図である.
【図3】 2ストローク,γ=90の組立式中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型4気筒サイクロイド機関の組立式割型中央遊星歯車複偏心盤の実体図である.
【図4】 2ストローク,γ=90の組立式中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型4気筒サイクロイド機関の組立式半割型中央遊星歯車複偏心盤の実体図である.
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は,図1,図2,図3及び図4に示す実施例により開示されている。なお,図1は,特許文献1で示されている2n気筒サイクロイド機関の一例として,2ストローク,気筒配置角 γ=90の組立式4気筒サイクロイド機関において,中央遊星歯車複偏心盤を組立式中央遊星歯車複偏心盤に代えた構造である.
また,図1(b)では,シリンダヘッド3,シリンダ2及びピストンリング5は気筒1のみを簡単に示し,クランクケース1はクランクウェブ軸受の支持部のみを示している.また,機関の仕様に応じたシリンダヘッド部の吸排気弁,シリンダ部の掃排気ポート,点火プラグ,燃料噴射ノズル並びにオイルシール,油道,潤滑ポンプ及びシリンダヘッドとシリンダのねじ締結なども周知であり,発明の本質に直接関わらないので説明を省略している。
【実施例】
【0016】
機構の基本構造と運動については,[0002]及び[0003]項で述べた通りである.
図2は,2ストローク,γ=90の4気筒サイクロイド機関の嵌合歯付き中央遊星歯車9bと2つの嵌合歯溝付き偏心盤9aを組み付けた組立式中央遊星歯車複偏心盤を例示している.この嵌合歯付き中央遊星歯車9bは,一般的な方法で歯切りできる.また,このような嵌合組立のため,組立式中央遊星歯車複偏心盤は,高精度で高い機能をもっている.
【0017】
図3は,前項の組立式中央遊星歯車複偏心盤に代えて使用する組立式割型中央遊星歯車複偏心盤として,2ストローク,γ=90の4気筒サイクロイド機関の組立式割型中央遊星歯車複偏心盤を例示している.分割された部分として,嵌合歯溝付き複偏心盤の偏心盤中心を含まない部分9a及び含む部分9a,と嵌合歯付き中央遊星歯車の部分9bα,9bβを示している.基本的に遊星歯車の軸心を含む平面で2分割した面を接合面Sとして,この割型嵌合歯溝付偏心盤9aをねじ12により一体的に結合する.これを使用すれば,組立式クランク軸に代えて一体型クランク軸を使用でき,組立の容易化,クランクピン軸受及び遊星歯車の保守点検と交換整備が可能になる.
【0018】
図4は,使途などに応じて,前項の組立式割型中央遊星歯車複偏心盤に代えて使用する組立式半割型中央遊星歯車複偏心盤として,2ストローク,γ=90の4気筒サイクロイド機関の組立式半割型中央遊星歯車複偏心盤を例示している.上添字は部品の上下2分割に伴う表示であり,上添字L及びUはそれぞれ組立式中央遊星歯車複偏心盤の偏心盤中心を含まない部分及び含む部分を示している.この割型嵌合歯溝付偏心盤9aを半径方向に移動して嵌合歯付き遊星歯車9bと組み付けてねじ12により一体的に結合する.これを使用すれば,クランク軸系の組立の容易化,クランクピン軸受及び遊星歯車の保守点検が容易になる.
【符号の説明】
【0019】
1 クランクケース
シリンダ
シリンダヘッド
気筒Kのピストン
4a 気筒Kのピストンヘッド部
4b 気筒Kのピストンロッド部
4c 気筒Kのピストン大端部
5 ピストンリング
6 クランク軸
6a クランクウェブ
6b クランクピン付クランクウェブ
7 クランクピン軸受
8 クランクウェブ軸受
中央遊星歯車複偏心盤
9b 気筒Kの嵌合歯付き中央遊星歯車
9bα/9bβ 気筒Kの割型嵌合歯付き中央遊星歯車
9a 気筒Kの嵌合歯溝付き偏心盤
9a/9a 気筒Kの割型嵌合歯溝付き偏心盤
10 気筒Kの静止内歯車
11 気筒Kの偏心盤軸受
12 割型嵌合歯溝付き偏心盤の組付けねじ
13 中央クランクウェブ軸受
気筒Kのシリンダ中心線
O1 クランク軸心
O2 気筒Kのクランクピン軸心
O3 気筒Kの偏心盤軸心
組立式割型中央遊星歯車複偏心盤の上部と下部の接合面
γ 気筒配置角(deg)
ω クランク角速度
下添数字K 機関の点火順序を示す気筒番号
上添字L 割型嵌合歯溝付き偏心盤の下部
上添字U 割型嵌合歯溝付き偏心盤の上部
上添字α/β 割型嵌合歯付き中央遊星歯車の半割部
なお,気筒番号を示す下添数字Kについては,必要な場合のみ表示する.また,気筒2及び3のように,2気筒に係わる場合はKを23と表示する.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線往復運動を創成する組立式中央遊星歯車複偏心盤2気筒1クランクピン型ハイポサイクロイド遊星歯車機構を伝動機構とした往復動機関.
【請求項2】
請求項1記載の往復動機関において組立式中央遊星歯車複偏心盤を組立式割型中央遊星歯車複偏心盤に代えた往復動機関
【請求項3】
請求項1記載の往復動機関において組立式中央遊星歯車複偏心盤を組立式半割型中央遊星歯車複偏心盤に代えた往復動機関.
【請求項4】
請求項1,2及び3記載の往復動機関の機構を用いることを特徴とするポンプ装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−104422(P2013−104422A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262921(P2011−262921)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(508369995)
【Fターム(参考)】