説明

組立式Eブロック及びスイングアームユニット

【課題】スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造することが可能なスイングアームユニットを提供する。また、そのようなスイングアームユニットを構成可能な組立式Eブロックを提供する。
【解決手段】アルミニウム合金からなる複数のアーム板142,144と、AlSi系合金からなるとともに、軸受ユニット110への装着部134及び当該装着部134から外周側に突出し複数のアーム板142,144との接合面を有する突出部136を有するスペーサ132とを備え、複数のアーム板142,144とスペーサ132とが拡散接合により一体化された構造を有することを特徴とする組立式Eブロック130。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組立式Eブロック及びスイングアームユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブ装置(HDD)に組み込んで用いるスイングアームユニットが知られている。図9は、従来のスイングアームユニット900を説明するために示す図である。図9(a)はスイングアームユニット900の断面図であり、図9(b)はスイングアームユニット900の一部を構成する軸受ユニット910の断面図であり、図9(c)はスイングアームユニット900の一部を構成するEブロック930の断面図である。
【0003】
従来のスイングアームユニット900は、図9(a)に示すように、軸受ユニット910と、当該軸受ユニット910に外嵌固定されたEブロック930とを備える。
【0004】
軸受ユニット910は、図9(b)に示すように、シャフト912と、当該シャフト912の軸方向に離間して当該シャフト912に対して配設された2つの軸受914A,914Bと、2つの軸受914A,914Bを覆うスリーブ(外筒)918とを有する。スリーブ918は、2つの軸受914A,914Bの外周面に当接する内周面と、2つの軸受914A,914Bの間の空間に向けて内周側に突出する間座部916とを有する。2つの軸受914A,914Bの外輪は、軸受鋼(線膨張係数:12.5×10−6程度)からなる。スリーブ918は、ステンレス鋼(例えばSUS303、線膨張係数:17.2×10−6程度)からなる。なお、図9中、符号950はコイルを示す。また、図9(b)中、符号920はEブロック930を位置決めするために用いる位置決め用ストッパを示す。
【0005】
Eブロック930は、図9(c)に示すように、内筒部932と、2枚のアーム部934とを有し、アルミニウム合金(線膨張係数:23.7×10−6程度)からなる。Eブロック930は、押し出し成形して作製したアルミニウム合金製棒材を切断してアルミニウム合金製ブロックを製造した後、当該アルミニウム合金製ブロックを削り出すことにより製造されている。
【0006】
なお、従来、シャフトと、当該シャフトの軸方向に離間して当該シャフトに対して配設された2つの軸受と、当該2つの軸受けの間に配設された間座と、間座部を有しないスリーブとを有するスイングアームユニットも知られている(例えば、特許文献1又は2参照。)。スリーブは、特許文献1においてはステンレス鋼(SUS304、線膨張係数:16.3×10−6程度)からなり、特許文献2においてはAlSi系合金(線膨張係数:11×10−6〜15×10−6程度)からなる。
【0007】
従来のスイングアームユニット900、特許文献1に記載のスイングアームユニット又は特許文献2に記載のスイングアームユニットによれば、外輪を構成する材料と、スリーブとを構成する材料との間で線膨張係数に大きな差が生じないため、使用時における軸受ユニットの剛性の変化及びトルクの変動を抑制することができ、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能となる。
【0008】
また、特許文献2に記載のスイングアームユニットによれば、スリーブを構成する材料として、ステンレス鋼よりも切削加工が容易なAlSi系合金を用いているため、内径の真円度の高いスリーブを構成することが可能となり、揺動変位に伴う位置決め精度をさらに高くすることが可能となる。また、スリーブを構成する材料として、ステンレス鋼よりも軽量なAlSi系合金を用いているため、揺動速度をさらに高くすることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−304252号公報
【特許文献2】国際公開第WO2004/036074号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のスイングアームユニット900、特許文献1に記載のスイングアームユニット又は特許文献2に記載のスイングアームユニットにおいては、アルミニウム合金製ブロックを削り出すことにより1個ずつEブロックを製造する必要があるため、生産性が低いという問題がある(Eブロック1個削り出すのに10分かかる。)。また、アルミニウム合金製ブロックを削り出す過程で多量のアルミニウム合金が削り取られてしまうため、原材料の利用効率が低いという問題がある(アルミニウム合金の2/3が削り取られてしまう。)。
【0011】
そこで、本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造することが可能なスイングアームユニットを提供することを目的とする。また、そのようなスイングアームユニットを構成可能な組立式Eブロックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意努力を重ねた結果、特許文献2に記載のスイングアームユニットの場合と同様に、スリーブとして、AlSi合金からなるスリーブ(本発明の「スペーサ」に対応)を用いるとともに、当該スリーブとEブロックにおけるアーム部とを拡散接合により一体化させることとすれば、特許文献2に記載のスイングアームの場合と同様に、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能となるのに加えて、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもってスイングアームを製造することが可能となることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
[1]本発明の組立式Eブロックは、アルミニウム合金からなる複数のアーム板と、AlSi系合金からなるとともに、軸受ユニットへの装着部及び当該装着部から外周側に突出し前記複数のアーム板との接合面を有する突出部を有するスペーサとを備え、前記複数のアーム板と前記スペーサとが拡散接合により一体化された構造を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の組立式Eブロックによれば、AlSi系合金からなるスペーサがスリーブとして機能するため、本発明の組立式Eブロックを用いてスイングアームユニットを製造するようにすれば、特許文献2に記載のスイングアームユニットの場合と同様に、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能となる。
【0015】
また、本発明の組立式Eブロックによれば、スペーサを構成する材料として、ステンレス鋼よりも切削加工が容易なAlSi系合金を用いているため、内径の真円度の高いスリーブを構成することが可能となり、揺動変位に伴う位置決め精度をさらに高くすることが可能となる。また、スペーサを構成する材料として、ステンレス鋼よりも軽量なAlSi系合金を用いているため、揺動速度をさらに高くすることが可能となる。
【0016】
また、本発明の組立式Eブロックによれば、複数のアーム板とスペーサとを拡散接合により一体化することにより組立式Eブロックを製造することが可能となる。従って、アルミニウム合金製ブロックを削り出して1個ずつEブロックを製造するという必要がなくなり、生産性が低いという問題がなくなる。また、アルミニウム合金製ブロックを削り出す過程で多量のアルミニウム合金が削り取られてしまうということもなくなり、原材料の利用効率が低いという問題もなくなる。
【0017】
その結果、本発明の組立式Eブロックは、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造可能なスイングアームユニットを構成可能な組立式Eブロックとなる。
【0018】
なお、本発明の組立式Eブロックにおいて、スペーサとは、軸受ユニットを覆うような内周形状を有し、スリーブとして機能するスペーサをいう。
【0019】
[2]本発明の組立式Eブロックにおいて、前記AlSi系合金の線膨張係数は、17×10−6〜21×10−6の範囲内にあることが好ましい。
【0020】
スリーブと軸受ユニットと用いてスイングアームユニットを組み立てる際には、スリーブの内径を軸受ユニットの外径よりも若干(2μm程度)小さい内径としたスリーブに軸受ユニットを軽圧入することにより行われる。これは、スリーブに軸受ユニットを重圧入した場合(スリーブの内径を軸受ユニットの外径よりもかなり(5μm程度以上)大きい内径とした場合)には、軸受ユニット(外輪)の真円度が劣化して軸受性能が低下するからである。その一方において、スリーブに軸受ユニットを軽圧入した場合には、HDD装置の動作温度が高くなった場合に、スリーブの線膨張係数が軸受の線膨張係数よりも大きいことに起因して、スリーブの内径が軸受ユニットの外径よりも大きくなってスリーブと軸受ユニットとの間に隙間が生ずる可能性が生じる。
【0021】
しかしながら、本発明の発明者の実験によれば、AlSi系合金の線膨張係数を21×10−6以下とした場合には、軸受ユニットを構成する材料(軸受鋼(線膨張係数:12.5×10−6程度))と、スペーサを構成する材料(AlSi系合金)との間の線膨張係数の差を十分小さい値(8.5×10−6程度以下)にすることができるため、外径6mmの軸受ユニットを備えるHDD装置(例えば1.8インチHDD装置又は2.5インチHDD装置)を製品動作温度の上限である80℃で動作させた場合においても、スリーブと軸受ユニットとの間に隙間が生ずることがなくなることがわかった。
【0022】
また、本発明の発明者の実験によれば、AlSi系合金の線膨張係数を19×10−6以下とした場合には、軸受ユニットを構成する材料(軸受鋼)と、スペーサを構成する材料(AlSi系合金)との間の線膨張係数の差をさらに小さい値(6.5×10−6程度以下)にすることができるため、外径8mmの軸受ユニットを備えるHDD装置(例えば2.5インチHDD装置又は3.5インチHDD装置)を製品動作温度の上限である80℃で動作させた場合においても、スリーブと軸受ユニットとの間に隙間が生ずることがなくなることがわかった。
【0023】
さらにまた、本発明の発明者の実験によれば、AlSi系合金の線膨張係数を17×10−6以下とした場合には、軸受ユニットを構成する材料(軸受鋼)と、スペーサを構成する材料(AlSi系合金)との間の線膨張係数の差をさらに小さい値(4.5×10−6程度以下)にすることができるため、外径11mmの軸受ユニットを備えるHDD装置(例えば3.5インチHDD装置)を製品動作温度の上限である80℃で動作させた場合においても、スリーブと軸受ユニットとの間に隙間が生ずることがなくなることがわかった。
【0024】
従って、上記観点から言えば、AlSi系合金の線膨張係数を12.5×10−6に近づける程、より大型のHDD装置に本発明の組立式Eブロックを使用することが可能となるのであるが、その一方において、AlSi系合金の線膨張係数を17×10−6未満のものにした場合には、AlSi系合金の製造が難しくなり、AlSi系合金製のスペーサを高い生産性で容易に製造することが困難となる。
【0025】
よって、これらの観点を総合的に考えれば、本発明の組立式Eブロックにおいては、AlSi系合金の線膨張係数が17×10−6〜21×10−6の範囲内にあることが好ましいのである。
【0026】
本発明の組立式Eブロックにおいては、複数のアーム板とスペーサとの拡散接合は、パルス通電接合装置により行なわれたものであってもよいし、超音波を照射しながらホットプレスすることにより行なわれたものであってもよいし、複数のアーム板とスペーサの接合面に存在する酸化膜をエッチングにより除去した後に行なわれたものであってもよいし、複数のアーム板とスペーサを還元雰囲気中(例えば水素ガス中)に置いた状態で行なわれたものであってもよい。
【0027】
上記のような構成とすることにより、アーム板の表面及びスペーサの表面に存在することがある酸化物層が除去された状態で複数のアーム板とスペーサとを拡散接合することが可能となることから、複数のアーム板とスペーサとを高い接合力をもって一体化させることが可能となり、高強度の組立式Eブロックを製造することができる。この場合において、アルミニウム合金とAlSi系合金とは同種の金属であるため、この観点からも、複数のアーム板とスペーサとを高い接合力をもって一体化させることが可能となる。
【0028】
なお、複数のアーム板とスペーサとの拡散接合は、アーム板とスペーサとの間に、二元合金を形成する金属(例えば銅、錫)を介在させた状態で行なわれたものであってもよい。
【0029】
本発明の組立式Eブロックにおいては、スペーサは、AlSi系合金製の丸棒に切削加工を施すことによって製造されたものであることが好ましい。
【0030】
AlSi系合金は、切削性がよいため、極めて高い円筒度をもった丸孔を開けることが可能な材料である。このため、上記のような構成とすることにより、高い形状精度を有する組立式Eブロックを安価な製造コスト、かつ、高い生産性で製造することが可能となる。
【0031】
本発明の組立式Eブロックにおいては、スペーサは、AlSi系合金製の円柱状プリフォームに鍛造加工を施すことによって製造されたものであることも好ましい。
【0032】
鍛造加工は生産性の高い加工方法であるため、上記のような構成とすることによっても、高い形状精度を有する組立式Eブロックを安価な製造コスト、かつ、高い生産性で製造することが可能となる。
【0033】
本発明の組立式Eブロックにおいては、アーム板は、アルミニウム合金製板にプレス加工を施すことによって製造されたものであることが好ましい。
【0034】
プレス加工は生産性の極めて高い加工方法であるため、上記のような構成とすることにより、安価な製造コストで、かつ、高い生産性で組立式Eブロックを製造することが可能となる。
【0035】
[3]本発明のスイングアームユニットは、スリーブを有しない軸受ユニットと、前記軸受ユニットに装着された組立式Eブロックとを備えるスイングアームユニットであって、前記組立式Eブロックは、本発明の組立式Eブロックであることを特徴とする。
【0036】
本発明のスイングアームユニットは、本発明の組立式Eブロックを備えるスイングアームユニットであるため、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造することが可能スイングアームユニットとなる。
【0037】
[4]本発明のスイングアームユニットにおいては、前記軸受ユニットは、シャフトと、当該シャフトの軸方向に離間して当該シャフトに対して配設された2つの軸受と、当該2つの軸受の間に配設された間座とを有し、前記装着部は、前記2つの軸受の外周面及び前記間座の外周面に当接する内周面を有することが好ましい。
【0038】
このように、間座を有する軸受ユニットを用いてスイングアームユニットを製造する場合には、上記のような構成のスイングアームユニットとすることが好ましい。
【0039】
[5]本発明のスイングアームユニットにおいては、前記軸受ユニットは、シャフトと、当該シャフトの軸方向に離間して当該シャフトに対して配設された2つの軸受とを有し、前記装着部は、前記2つの軸受の外周面に当接する内周面と、前記2つの軸受の間の空間に向けて内周側に突出する間座部とを有することが好ましい。
【0040】
このように、間座を有しない軸受ユニットを用いてスイングアームユニットを製造する場合には、上記のような構成のスイングアームユニットとすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】実施形態1に係る組立式Eブロック130及びスイングアームユニット100を説明するために示す図である。
【図2】実施形態1に係る組立式Eブロック130及びスイングアームユニット100を製造するための製造工程を説明するために示す図である。
【図3】実施形態1に係る組立式Eブロック130を製造するための製造工程における拡散接合工程を説明するために示す図である。
【図4】実施形態2に係る組立式Eブロック230及びスイングアームユニット200を説明するために示す図である。
【図5】実施形態2に係る組立式Eブロック230及びスイングアームユニット200を製造するための製造工程を説明するために示す図である。
【図6】実施形態3に係る組立式Eブロック330及びスイングアームユニット300を製造するための製造工程を説明するために示す図である。
【図7】実施形態4に係る組立式Eブロック430及びスイングアームユニット400を製造するための製造工程を説明するために示す図である。
【図8】実施形態1の変形例に係るスイングアームユニットに用いる緩衝リング160を説明するために示す図である。
【図9】従来のスイングアームユニット900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の組立式Eブロック及びスイングアームユニットについて、図に示す実施の形態に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一機能を有する部材には同一符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0043】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る組立式Eブロック130及びスイングアームユニット100を説明するために示す図である。図1(a)はスイングアームユニット100の断面図であり、図1(b)はスイングアームユニット100に用いる軸受ユニット110の断面図であり、図1(c)はスイングアームユニット100に用いる組立式Eブロック130の断面図である。
【0044】
実施形態1に係るスイングアームユニット100は、図1(a)に示すように、スリーブを有しない軸受ユニット110と、当該軸受ユニット110に装着された組立式Eブロック130(実施形態1に係る組立式Eブロック130)とを備える。
【0045】
軸受ユニット110は、図1(b)に示すように、シャフト112と、当該シャフト112の軸方向に離間して当該シャフト112に対して配設された2つの軸受114A,114Bと、当該2つの軸受114A,114Bの間に配設された間座116とを有する。軸受114A,114Bの外輪は、軸受鋼(線膨張係数:12.5×10−6程度)からなり、間座116は、ステンレス鋼(SUS303、線膨張係数:17.2×10−6程度)からなる。
【0046】
実施形態1に係る組立式Eブロック130は、図1(c)に示すように、アルミニウム合金からなる複数のアーム板142,144と、AlSi系合金からなるとともに、軸受ユニット110への装着部134及び当該装着部134から外周側に突出し複数のアーム板142,144との接合面138を有する突出部136を有するスペーサ132とを備え、複数のアーム板142,144とスペーサ132とが拡散接合により一体化された構造を有する。装着部134は、2つの軸受114A,114Bの外周面及び間座116の外周面に当接する内周面を有する。組立式Eブロック130にはコイル150が装着されている。
【0047】
AlSi系合金としては、Al80Si20(線膨張係数:18.5×10−6)を用いた。アルミニウム合金としては、A5052(線膨張係数:23.8×10−6)を用いた。
【0048】
実施形態1に係る組立式Eブロック130においては、複数のアーム板142,144とスペーサ132とは、拡散接合により一体化された構造を有する。
【0049】
実施形態1に係る組立式Eブロック130においては、スペーサ132は、AlSi系合金製の丸棒に切削加工を施すことによって製造されたものである。
【0050】
実施形態1に係る組立式Eブロック130においては、アーム板142,144は、アルミニウム合金製板にプレス加工を施すことによって製造されたものである。
【0051】
図2は、実施形態1に係る組立式Eブロック130及びスイングアームユニット100を製造するための製造工程を説明するために示す図である。図2(a)及び図2(b)は各工程図である。
図3は、実施形態1に係る組立式Eブロック130を製造するための製造工程における拡散接合工程を説明するために示す図である。
【0052】
実施形態1に係るスイングアームユニット100は、図2に示すように、「組立式Eブロック製造工程」及び「組立式Eブロックへの軸受ユニットの取り付け工程」をこの順序で実施することにより製造することができる。以下、工程順に説明する。
【0053】
1.組立式Eブロック製造工程
まず、アルミニウム合金からなる2枚のアーム板142,144と、AlSi系合金からなるスペーサ132と、コイル150とを準備する。次に、図2(a)に示すように、2枚のアーム板142,144と、スペーサ132とを拡散接合により一体化し、さらには、アーム142のコイル取付部にコイル150を取り付けることにより、組立式Eブロック130(実施形態1に係る組立式Eブロック130)を製造する。
【0054】
2枚のアーム板142,144と、スペーサ132との拡散接合は、図3に示すように、スペーサ132の接合面に2枚のアーム板142,144を配設した状態のものを、パルス通電接合装置10における2つの電極12,14で挟んで圧力をかける。その状態で、電源20により2つの電極12,14間にパルス電流を流すことにより行う。電極12,14と、アーム板142,144との間には、カーボンシート18を配設しておく。これにより、2枚のアーム板142,144と、スペーサ132とが接触している部分が加熱され、互いの金属材料が混じり合うことにより、2枚のアーム板142,144と、スペーサ132とを高い接合力をもって一体化させることができる。
【0055】
2.組立式Eブロックへの軸受ユニットの取り付け工程
まず、軸受ユニット110と、組立式Eブロック130とを準備する。次に、組立式Eブロック130の内周面及び軸受ユニット110の外周面に接着剤を塗布した後、図2(b)に示すように、組立式Eブロック130の内周側に軸受ユニット110を軽圧入し、その後所定時間乾燥機に入れることにより接着剤を硬化させ、軸受ユニット110と組立式Eブロック130とを一体化させる。
【0056】
これにより、スイングアームユニット100(実施形態1に係るスイングアームユニット100)を製造することができる。
【0057】
以上、実施形態1に係る組立式Eブロック130及び実施形態1に係るスイングアームユニット100を説明したが、実施形態1に係る組立式Eブロック130及び実施形態1に係るスイングアームユニット100は、以下のような効果を有する。
【0058】
すなわち、実施形態1に係る組立式Eブロック130によれば、AlSi系合金からなるスペーサ132がスリーブとして機能するため、実施形態1に係る組立式Eブロック130を用いてスイングアームユニットを製造するようにすれば、特許文献2に記載のスイングアームユニットの場合と同様に、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能となる。
【0059】
また、実施形態1に係る組立式Eブロック130によれば、スペーサ132を構成する材料として、ステンレス鋼よりも切削加工が容易なAlSi系合金を用いているため、内径の真円度の高いスリーブを構成することが可能となり、揺動変位に伴う位置決め精度をさらに高くすることが可能となる。また、スペーサ132を構成する材料として、ステンレス鋼よりも軽量なAlSi系合金を用いているため、揺動速度をさらに高くすることが可能となる。
【0060】
また、実施形態1に係る組立式Eブロック130によれば、複数のアーム板142,144とスペーサ132とを拡散接合して一体化することにより組立式Eブロックを製造することが可能となる。従って、アルミニウム合金製ブロックを削り出して1個ずつEブロックを製造するという必要がなくなり、生産性が低いという問題がなくなる。また、アルミニウム合金製ブロックを削り出す過程で多量のアルミニウム合金が削り取られてしまうということもなくなり、原材料の利用効率が低いという問題もなくなる。
【0061】
その結果、実施形態1に係る組立式Eブロック130は、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造可能なスイングアームユニットを構成可能な組立式Eブロックとなる。
【0062】
また、実施形態1に係るスイング組立式Eブロック130によれば、AlSi系合金の線膨張係数が18.5×10−6であるため、軸受ユニットを構成する材料(軸受114A,114Bの外輪:軸受鋼(線膨張係数:12.5×10−6程度)、間座116:ステンレス鋼(SUS303、線膨張係数:17.2×10−6程度))と、スペーサを構成する材料(AlSi系合金(線膨張係数:18.5×10−6)との間で線膨張係数に大きな差が生じないようになり、また、AlSi系合金製のスペーサを高い生産性で容易に製造できるようになる。
【0063】
また、実施形態1に係る組立式Eブロック130によれば、複数のアーム板142,144とスペーサ132との拡散接合がパルス通電接合装置により行われているため、アーム板142,144の表面及びスペーサ132の表面に存在することがある酸化物層が除去された状態で複数のアーム板142,144とスペーサ132とを接合することが可能となることから、複数のアーム板142,144とスペーサ132とを高い接合力をもって一体化させることが可能となり、高強度の組立式Eブロックを製造することができる。この場合において、アルミニウム合金とAlSi系合金とは同種の金属であるため、この観点からも、複数のアーム板とスペーサとを高い接合力をもって一体化させることが可能となる。
【0064】
また、実施形態1に係る組立式Eブロック130によれば、スペーサ132は、AlSi系合金製の丸棒に切削加工を施すことによって製造方法されたものであるため、高い形状精度を有する組立式Eブロックを安価な製造コスト、かつ、高い生産性で製造することが可能となる。
【0065】
また、実施形態1に係る組立式Eブロック130によれば、アーム板142,144は、アルミニウム合金製板にプレス加工を施すことによって製造されたものであるため、安価な製造コストで、かつ、高い生産性で組立式Eブロックを製造することが可能となる。
【0066】
一方、実施形態1に係るスイングアームユニット100によれば、実施形態1に係る組立式Eブロック130を備えるスイングアームユニットであるため、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造することが可能なスイングアームユニットとなる。
【0067】
また、実施形態1に係るスイングアームユニット100によれば、Eブロックとして、2つの軸受114A,114Bの外周面及び間座116の外周面に当接する内周面を有する組立式Eブロック130を用いるため、間座を有する軸受ユニット110を用いてスイングアームユニットを製造する場合に好適なものとなる。
【0068】
[実施形態2]
図4は、実施形態2に係る組立式Eブロック230及びスイングアームユニット200を説明するために示す図である。図4(a)はスイングアームユニット200の断面図であり、図4(b)はスイングアームユニット200に用いる軸受ユニット210の断面図であり、図4(c)はスイングアームユニット200に用いる組立式Eブロック230の断面図である。
図5は、実施形態2に係る組立式Eブロック230及びスイングアームユニット200を製造するための製造工程を説明するために示す図である。図5(a)及び図5(b)は各工程図である。
【0069】
実施形態2に係る組立式Eブロック230は、基本的には、実施形態1に係る組立式Eブロック130と同様の構成を有するが、間座を有しない軸受ユニットとともに用いるための組立式Eブロックである点で実施形態1に係る組立式Eブロック130とは異なる。
すなわち、実施形態2に係る組立式Eブロック230は、図4に示すように、シャフト212と、当該シャフト212の軸方向に離間して当該シャフト212に対して配設された2つの軸受214A,214Bとを有し、間座を有しない軸受ユニットとともに用いる組立式Eブロックであって、2つの軸受214A,214Bの外周面に当接する内周面と、2つの軸受214A,214Bの間の空間に向けて内周側に突出する間座部240とを有する装着部234を有する。
【0070】
このように、実施形態2に係る組立式Eブロック230は、間座を有しない軸受ユニットとともに用いるための組立式Eブロックである点で実施形態1に係る組立式Eブロック130とは異なるが、アルミニウム合金からなる複数のアーム板242,244と、AlSi系合金からなるスペーサ232とが拡散接合により一体化された構造を有するため、実施形態1に係る組立式Eブロック130の場合と同様に、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもってスイングアームを製造可能なスイングアームユニットを製造することが可能となる。
【0071】
なお、実施形態2に係るスイングアームユニット200は、図5に示すように、「組立式Eブロック製造工程」及び「組立式Eブロックへの軸受ユニットの取り付け工程」をこの順序で実施することにより製造することができる。以下、工程順に説明する。
【0072】
1.組立式Eブロック製造工程
まず、アルミニウム合金からなる2枚のアーム板242,244と、AlSi系合金からなるスペーサ232と、コイル250とを準備する。このとき、スペーサ232として、2つの軸受214A,214Bの外周面に当接する内周面と、2つの軸受214A,214Bの間の空間に向けて内周側に突出する間座部240とを有する装着部234を有するスペーサを準備する。次に、図5(a)に示すように、実施形態1の場合と同様に、2枚のアーム板242,244と、スペーサ232とを拡散接合により一体化し、さらには、アーム242ののコイル取付部にコイル250を取り付けることにより、組立式Eブロック230(実施形態1に係る組立式Eブロック230)を製造する。
【0073】
2.組立式Eブロックへの軸受ユニットの取り付け工程
まず、軸受ユニットと、組立式Eブロック230とを準備する。このとき、軸受ユニットとして、軸受214Aが配設されたシャフト212と、軸受214Bとが分離された状態の軸受ユニットを準備する。
次に、組立式Eブロック230の内周面、軸受214Aが配設されたシャフト212の外周面、軸受214Aの外周面及び軸受214Bの外周面に接着剤を塗布した後、図5(b)に示すように、組立式Eブロック230の内周側に軸受214Aが配設されたシャフト212及び軸受214Bを軽圧入し、その後所定時間乾燥機に入れることにより接着剤を硬化させることにより、軸受ユニット210と組立式Eブロック230とを一体化させる。
【0074】
これにより、スイングアームユニット200(実施形態2に係るスイングアームユニット200)を製造することができる。
【0075】
[実施形態3]
図6は、実施形態3に係る組立式Eブロック330及びスイングアームユニット300を製造するための製造工程を説明するために示す図である。図6(a)及び図6(b)は各工程図である。
【0076】
実施形態3に係るスイングアームユニット300は、基本的には、実施形態1に係るスイングアームユニット100と同様の構成を有するが、2枚のアーム板のうちの一方にコイルを配設するのではなく、図6に示すように、2枚のアーム板342,344とは別に設けたコイル配設板346にコイル350を配設することとした点で実施形態1に係るスイングアーム100とは異なる。
【0077】
このように、実施形態3に係るスイングアームユニット300は、2枚のアーム板342,344とは別に設けたコイル配設板346にコイル350を配設することとした点で実施形態1に係るスイングアームユニット100とは異なるが、アルミニウム合金からなる複数のアーム板342,344と、AlSi系合金からなるスペーサ332とが拡散接合により一体化された構造を有するため、実施形態1に係るスイングアームユニット100の場合と同様に、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造可能なスイングアームユニットを製造することが可能となる。
【0078】
[実施形態4]
図7は、実施形態4に係る組立式Eブロック430及びスイングアームユニット400を製造するための製造工程を説明するために示す図である。図7(a)及び図7(b)は各工程図である。
【0079】
実施形態4に係る組立式Eブロック430は、基本的には、実施形態1に係る組立式Eブロック130と同様の構成を有するが、図7に示すように、3枚のアーム板442,444,446を用いる点で実施形態1に係る組立式Eブロック130とは異なる。なお、図7(a)に示すように、アーム板444とアーム板446とは、アーム板444とアーム板446と、接合用スペーサ448とを拡散接合することにより一体化されている。
【0080】
このように、実施形態4に係る組立式Eブロック430は、3枚のアーム板442,444,446を用いる点で実施形態1に係る組立式Eブロック130とは異なるが、アルミニウム合金からなる複数のアーム板442,444,446と、AlSi系合金からなるスペーサ432とが拡散接合により一体化された構造を有するため、実施形態1に係る組立式Eブロック130の場合と同様に、スイングアームの揺動変位に伴う位置決め精度及び揺動速度を高くすることが可能なスイングアームユニットであって、高い生産性、かつ、高い材料利用効率をもって製造可能なスイングアームユニットを製造することが可能となる。
【0081】
以上、本発明の組立式Eブロック及びスイングアームユニットを上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0082】
(1)上記各実施形態1〜4においては、複数のアーム板とスペーサとの拡散接合は、パルス通電接合装置により行なわれているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、超音波を照射しながらホットプレスすることにより行なわれていてもよいし、複数のアーム板とスペーサの接合面に存在する酸化膜をエッチングにより除去した後に行なわれていてもよいし、複数のアーム板とスペーサを還元雰囲気中(例えば水素ガス中)に置いた状態で行なわれていてもよい。
【0083】
(2)上記各実施形態1〜4においては、AlSi系合金として、Al80Si20(線膨張係数:18.5×10−6)を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、AlSi系合金として、Al80Si20に若干の鉄を添加したAlSiX合金(線膨張係数:18.0×10−6)をはじめ種々のAlSiX合金やAlSi合金を用いることもできる。
(3)上記各実施形態1〜4においては、スペーサとして、AlSi系合金製の丸棒に切削加工を施すことによって製造されたものを用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スペーサとして、AlSi系合金製の円柱状プリフォームに鍛造加工を施すことによって製造されたものを用いることもできる。
【0084】
(4)上記実施形態1又は2においては、2枚のアーム板のうちコイルを実装する方のアーム板として、折り曲げ部を有するアーム板142,242を用いているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、2枚のアーム板のうちコイルを実装する方のアーム板として、折り曲げ部を有しないアーム板を用いることもできる。
【0085】
(5)上記実施形態1においては、接着剤を塗布した後、組立式Eブロック130の内周側に軸受ユニット110を軽圧入することにより、軸受ユニット110と組立式Eブロック130とを一体化させることとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。図8は、実施形態1の変形例に係るスイングアームユニット100を製造する際に用いる緩衝リング160を説明するために示す図である。例えば、軸受ユニット110の外周部に緩衝リング160を巻いたものを組立式Eブロック130の内周側に軽圧入することにより、軸受ユニット110と組立式Eブロック130とを一体化させることもできる。
【符号の説明】
【0086】
10…パルス通電接合装置、12,14…電極、16,18…カーボンシート、20…電源、100,200,300,400,900…スイングアームユニット、110,210,310,410,910…軸受ユニット、112,212,912…シャフト、114A,114B,214A,214B,914A,914B…軸受、116…間座、130,230,330,430…組立式Eブロック、132,232,332,432…スペーサ、134,234…装着部、136,236…突出部、138,238…接合面、142,144、242,244,342,344,442,444…アーム板、150,250,350,450…コイル、160…緩衝リング、346…コイル配設板、448…接合用スペーサ、916…間座部、918…スリーブ、920…位置決め用ストッパ、930…Eブロック、932…内筒部、934…アーム部、P…圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金からなる複数のアーム板と、
AlSi系合金からなるとともに、軸受ユニットへの装着部及び当該装着部から外周側に突出し前記複数のアーム板との接合面を有する突出部を有するスペーサとを備え、
前記複数のアーム板と前記スペーサとが拡散接合により一体化された構造を有することを特徴とする組立式Eブロック。
【請求項2】
請求項1に記載の組立式Eブロックにおいて、
前記AlSi系合金の線膨張係数は、17×10−6〜21×10−6の範囲内にあることを特徴とする組立式Eブロック。
【請求項3】
スリーブを有しない軸受ユニットと、
前記軸受ユニットに装着された組立式Eブロックとを備えるスイングアームユニットであって、
前記組立式Eブロックは、請求項1又は2に記載の組立式Eブロックであることを特徴とするスイングアームユニット。
【請求項4】
請求項3に記載のスイングアームユニットにおいて、
前記軸受ユニットは、シャフトと、当該シャフトの軸方向に離間して当該シャフトに対して配設された2つの軸受と、当該2つの軸受の間に配設された間座とを有し、
前記装着部は、前記2つの軸受の外周面及び前記間座の外周面に当接する内周面を有することを特徴とするスイングアームユニット。
【請求項5】
請求項3に記載のスイングアームユニットにおいて、
前記軸受ユニットは、シャフトと、当該シャフトの軸方向に離間して当該シャフトに対して配設された2つの軸受とを有し、
前記装着部は、前記2つの軸受の外周面に当接する内周面と、前記2つの軸受の間の空間に向けて内周側に突出する間座部とを有することを特徴とするスイングアームユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−34644(P2011−34644A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180985(P2009−180985)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(504116663)GAST JAPAN 株式会社 (5)
【Fターム(参考)】