説明

経皮薬物送達系に用いる微生物セルロース材料、製造および使用方法

生物学的に活性な薬剤をそれを必要とする被験体に経皮的に送達するための方法であって、不溶性の微生物セルロース、水、および治療上有効な量のその生物学的に活性な薬剤を含む組成物を局所的に適用することを含み、その生物学的に活性な薬剤がその被験体の角質層にほぼ一定の速度で浸透する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類材料、より詳細には、経皮薬物送達系に用いる微生物セルロースに関する。本発明はまた、経皮薬物送達装置として様々な薬剤を含む微生物セルロースおよび微生物セルロース複合材料の使用、ならびにかかる材料の製造および使用方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の機能の1つは、水による攻撃、生物による攻撃、化学物質による攻撃、および機械的攻撃から体を保護することである。これを達成するために、表皮と呼ばれる最外層は厚さが75ミクロンから600ミクロンに及び、様々な低分子量および高分子量の活性薬剤の浸透性を制限する細胞が含まれる。また、任意の活性薬剤が血流に入り、全身的作用を有する前に必ずその活性薬剤が皮膚を通過して真皮に達するように、表皮には血管がない。
【0003】
表皮を貫通する穴を作出することによるかまたは皮膚の脂質二重層に作用して薬剤の通過を可能にさせることにより、薬物および活性薬剤の送達を促進させるために、様々な物理的手段および化学的手段が用いられてきた。微細穿孔、エレクトロポレーション、および ソノフォレシスなどの物理的方法が積極的に研究されている(Chiarello, K., Breaking the Barrier, Pharmaceutical Technology, October 2004)。微細穿孔は、非常に小さな針(極微針)で、表皮を通して皮層および脂肪層へとチャネルを物理的に作製する方法である。エレクトロポレーションは100ボルト以上の制限された電場を用いて、脂質二重層に薬剤を送達することのできる水性孔を作出する。この技術は米国特許第5,019,034号に記載されている。ソノポレーションは同じ前提に立ったものであるが、音波を、表皮層を破壊するゲル状材料とともに用いて薬剤の通過を可能にする。これは米国特許第4,767,402号、つい最近では同第6,487,447号に記載されている。
【0004】
イオントフォレシスは前記のものとは異なった方法であり、低電圧電場を置くことによりイオン移行を起こして薬剤を「イオン化し」、薬剤のイオン勾配により皮膚通過を可能にする方法である。この方法は米国特許第5,224,927および同第5,540,669号に記載されている。
【0005】
水酸化物ドナーおよびポリオールなどの化学的促進剤が報告されている。米国特許第6,673,363号には、種々のタイプの活性薬剤の浸透率を増加させるための化学的促進剤としての、塩基性薬剤および水酸化物放出性薬剤の使用が記載されている。別のグループは、米国特許第5,308,625号において、表皮の最上層(角質層)への活性薬剤の浸透性を高めるために、モノアルキルリン酸塩の使用も採用している。水および油からなる多相系も米国特許第6,299,902号に記載されており、二相が麻酔薬の送達を向上させることが報告されている。
【0006】
しかしながら、前述のどの方法にも、水和された微生物セルロースシートを用いることにより高度に水和された環境を作り出して薬物および活性薬剤を送達することは示唆されていない。また、活性薬剤の送達を促進するために、微生物セルロースシート(99%程度の水を含む)を無傷皮膚と接触させて長期間使用することも開示されていない。皮膚の浸透性を向上させるために、結合されない水(水分活性1)を多く含む材料を使用できることもまた開示されていない。孔の数を増加すること、孔の屈曲度を低下させること、または無傷皮膚を通る水チャネルを作出することといったアイデアは、ブタ皮膚を水に24〜48時間浸すことによって、ならびにエレクトロポレーションおよびソノポレーションなどの外部からの力を利用することによって理論化された。しかしながら、高度に水和された微生物セルロースシートが無傷皮膚においてかかる水性チャネル、孔、または低下した屈曲度の作出を促進する能力はこれまでに開示されていない。同様に、エレクトロポレーションまたは他の方法により孔の変化を促進することと、高度に水和された微生物セルロース装置を介して薬物または活性薬剤を供給することを組み合わせることはこれまでに考えられていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
微生物セルロース(MC)は、無傷皮膚の角質層を連続的に水和するその能力(それにより皮膚においてチャネルが作出され、そのことが無傷皮膚内の、および無傷皮膚を通過する活性薬剤の浸透の増加を可能にする)によって、経皮薬物送達装置(TDDD)として用いることができる。最大99%までの水を含むMCシートは皮膚を水和するのに用いることができ、活性薬剤はそのシートに含まれた水に懸濁され得る。物理的および化学的浸透促進剤を微生物セルロースシートとともに用いて所望のレベルの送達をもたらすことができる。MC TDDの使用に加えて、電気(イオントフォレシスおよびエレクトロポレーション)、超音波( ソノフォレシス)、微細穿孔、熱、および圧力(ジェット式注射器)などの物理的方法を利用することができる。活性薬剤の溶解度を高めるため、または化学的手段を介して皮膚浸透性を高めるために、ポリオール、界面活性剤、リポソーム、水酸化物ドナー、および溶解度向上剤などのさらなる材料も水和微生物セルロースとともに用いてよい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい一実施形態によれば、無傷皮膚および破損皮膚の場合を含む多岐にわたる局所適用に用いるための、微生物セルロースを利用した新しい種類の経皮薬物および活性薬剤送達材料が提供される。
【0009】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、微生物セルロースの所望の物理的特性および化学的特性を利用する多岐にわたる用途において微生物セルロースを適用する方法が提供される。
【0010】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、各個別の製品の用途に望ましい特性をもたらすこれらの前述の材料を調製するための方法が提供される。
【0011】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、所望の機能を実現する方法および材料の組合せを使用するための方法が提供される。
【0012】
本発明のその他の目的、特徴、および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、この詳細な説明から当業者には本発明の精神および目的の範囲内での様々な変更および修飾が明らかになるので、本発明の好ましい実施形態が示されているとはいえ、詳細な説明および具体的な実施例は、単に例示として提示されているということが当然理解される。従って、一般的に記載される本発明は、例示として提供されるものであり、本発明を制限することを意図するものではない、以下の実施例を参照することにより一層容易に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
好ましい一実施形態によれば、本発明は、生物学的に活性な薬剤をそれを必要とする被験体に経皮的に送達するための方法であって、不溶性の微生物セルロース、水、および治療上有効な量の生物学的に活性な薬剤を含む組成物を局所的に適用することを含み、その生物学的に活性な薬剤がその被験体の皮膚に、好ましくはほぼ一定の速度で浸透する方法である。好ましくは、微生物セルロースはアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)により生産されるものである。微生物セルロースは、好ましくは組成物の99重量%までの水で、より好ましくは組成物の75重量%〜99重量%の水で水和される。好ましい生物学的に活性な薬剤は、抗生物質、抗真菌薬、または止血薬を含む薬物である。好ましい抗生物質には、バンコマイシン、トブラマイシン、またはネオマイシンが含まれる。好ましい抗真菌薬はボリコナゾール、クロトリマゾール、またはミコナゾールである。好ましい止血薬はトロンビンである。リドカインなどの麻酔薬も好ましく、リドカインは、好ましくは、溶液の2〜10重量%リドカインの最初の溶液に浸漬することにより組成物に添加される。他の好ましい薬物はフェンタニルおよびインスリンである。別の好ましい実施形態では、組成物は治療上有効な量の生物学的に活性な薬剤をほぼ一定の速度で少なくとも10時間連続的に送達する。さらに、好ましい実施形態では、生物学的に活性な薬剤は1時間未満で、さらに好ましくは0.5時間未満で角質層に浸透する。さらに、組成物は、所望により、エレクトロポレーション成分、微細穿孔成分、 ソノフォレシス成分、およびイオントフォレシス成分からなる群より選択される、生物学的に活性な薬剤の送達を促進させる少なくとも1つの成分または方法を含んでよい。本発明によれば、組成物を無傷皮膚または破損皮膚に局所的に適用して生物学的に活性な薬剤を皮膚から送達することができる。さらなる好ましい一実施形態は、組成物が閉鎖のバッキング(an occlusive backing)で覆われる方法である。水およそ98%および不溶性の微生物セルロース2%という好ましい創傷包帯処方が、抗生物質およびリドカインなどの薬物を破損皮膚および壊死組織を通じて効果的に送達して、痛みを緩和し、感染を防ぐことは示されている。
【0014】
有益な成分を送達するための破損皮膚および無傷皮膚の両方におけるMCの使用には、水を使用して皮膚浸透性を高めることにより送達を向上させるという明確な利点がある。高度に水和された無傷皮膚の孔に変化を作り出すことは、様々な薬物および医薬品(小分子(例えば、抗生物質)のみならず大分子(例えば、インスリン)も)の経皮薬物送達を行うための安全かつ効果的な手段であり得る。
【0015】
微生物セルロースシートに水、化学的促進剤、および活性薬剤または薬物が添加されている、単独で用いられるか、または他の薬物送達方法とともに用いられる、薬物送達製品が想定される。
【0016】
好ましい実施形態では、本発明は、本発明の微生物セルロースおよび薬物または他の活性薬剤を含む局所薬物送達系を包含する。本発明はまた、微生物セルロースと薬物を含む局所用組成物を提供すること、および前記組成物をそれを必要とする被験体に適用することを含む薬物送達方法も提供する。
【0017】
本発明の新規経皮薬物送達系によって投与することができる典型的な活性薬物としては、限定されるものではないが、以下が挙げられる:
【0018】
心臓作用性の薬剤、例示的には、有機硝酸塩(ニトログリセリン、二硝酸イソソルビド、および一硝酸イソソルビドなど);硫酸キニジン;プロカインアミド;チアジド(ベンドロフルメチアジド、クロロチアジド、およびヒドロクロロチアジドなど);ニフェジピン;ニカルジピン;アドレナリン遮断薬(チモロールおよびプロプラノロールなど);ベラパミル;ジルチアゼム;カプトプリル;クロニジン、ならびにプラゾシンなど。
【0019】
アンドロゲン性ステロイド、例えば、テストステロン;メチルテストステロン;およびフルオキシメステロンなど。
【0020】
エストロゲン、例えば、結合型エストロゲン、エステル化エストロゲン、エストロピペート、17β−エストラジオール、吉草酸17β−エストラジオール、エキリン、メストラノール、エストロン、エストリオール、17β−エチニルエストラジオール、およびジエチルスチルベストロールなど。
【0021】
黄体ホルモン薬、例えば、プロゲステロン、19−ノルプロゲステロン、ノルエチンドロン、酢酸ノルエチンドロン、メレンゲステロール、クロルマジノン、エチステロン、酢酸メドロキシプロゲステロン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、二酢酸エチノジオール、ノルエチノドレル、17−α−ヒドロキシプロゲステロン、ジドロゲステロン、ジメチステロン、エチニルエストレノール(ethinylestrenol)、ノルゲストレル、デメゲストン、プロメゲストン、および酢酸メゲストロールなど。
【0022】
中枢神経系に対する作用を有する薬物、例えば、鎮静薬、睡眠薬、抗不安薬、鎮痛薬、および麻酔薬、例えば、クロラール、ブプレノルフィン、ナロキソン、ハロペリドール、フルフェナジン、ペントバルビタール、フェノバルビタール、セコバルビタール、コデイン、リドカイン、テトラカイン、ジクロニン、ジブカイン、コカイン、プロカイン、メピバカイン、ブピバカイン、エチドカイン、プリロカイン、ベンゾカイン、フェンタニル、およびニコチンなど。
【0023】
栄養性物質、例えば、ビタミン、必須アミノ酸、および必須脂肪など。
【0024】
抗炎症薬、例えば、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、デキサメタゾン、フルオシノロン、トリアムシノロン、メドリソン、プレドニゾロン、フルランドレノリド、プレドニゾン、ハルシノニド、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン、ハルシノニド、メチルプレドニゾロン、フルドロコルチゾン、コルチコステロン、パラメタゾン、ベタメタゾン、イブプロフェン、ナプロキセン、フェノプロフェン、フェンブフェン、フルルビプロフェン、インドプロフェン、ケトプロフェン、スプロフェン、インドメタシン、ピロキシカム、アスピリン、サリチル酸、ジフルニサル、サリチル酸メチル、フェニルブタゾン、スリンダック、メフェナム酸、メクロフェナム酸ナトリウム、トルメチンなど。
【0025】
抗ヒスタミン薬、例えば、ジフェンヒドラミン、ジメンヒドリネート、パーフェナジン、トリプロリジン、ピリラミン、クロルシクリジン、プロメタジン、カルビノキサミン、トリペレナミン、ブロムフェニラミン、ヒドロキシジン、シクリジン、メクリジン、クロルプレナリン、テルフェナジン、およびクロロフェニラミンなど。
【0026】
呼吸器系薬剤、例えば、テオフィリン、ならびにβ2−アドレナリン作動薬、例えば、アルブテロール、テルブタリン、メタプロテレノール、リトドリン、カルブテロール、フェノテロール、キンテレノール、リミテロール、ソルメファモール(solmefamol)、ソテレノール、トレトキノールなど。
【0027】
交感神経作用薬、例えば、ドーパミン、ノルエピネフリン、フェニルプロパノールアミン、フェニレフリン、シュードエフェドリン、アンフェタミン、プロピルヘキセドリン、エピネフリンなど。
【0028】
縮瞳薬、例えば、ピロカルピンなど。
【0029】
コリン作動薬、例えば、コリン、アセチルコリン、メタコリン、カルバコール、ベタネコール、ピロカルピン、ムスカリン、およびアレコリンなど。
【0030】
抗ムスカリン薬、すなわちムスカリン性コリン作動性効果遮断薬、例えば、アトロピン、スコポラミン、ホマトロピン、メトスコポラミン、ホマトロピンメチルブロミド、メタンテリン、シクロペントレート、トロピカミド、プロパンテリン、アニソトロピン、ジシクロミン、ユーカトロピンなど。
【0031】
散瞳薬、例えば、アトロピン、シクロペントレート、ホマトロピン、スコポラミン、トロピカミド、ユーカトロピン、ヒドロキシアンフェタミンなど。
【0032】
精神賦活剤、例えば、3−(2−アミノプロピ)インドール(3-(2-aminopropy) indole)、3−(2−アミノブチル)インドールなど。
【0033】
抗感染薬、例えば、抗生物質(ペニシリン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、スルファセタミド、スルファメタジン、スルファジアジン、スルファメラジン、スルファメチゾール、およびスルフィゾキサゾールを含む);抗ウイルス薬(イドクスウリジンを含む);抗菌薬(エリスロマイシンおよびクラリスロマイシンなど);ならびに他の抗感染薬(ニトロフラゾンを含む)など。
【0034】
体液性薬剤(天然および合成のプロスタグランジンなど)、例えば、PGE1、PGE2−α、およびPGF2−α、PGE1類似体ミソプロストールなど。
【0035】
鎮痙薬、例えば、アトロピン、メタンテリン、パパベリン、シンナメドリン、メトスコポラミンなど。
【0036】
抗鬱薬、例えば、イソカルボキサジド、フェネルジン、トラニルシプロミン、イミプラミン、アミトリプチリン、トリミプラミン、ドキセピン、デシプラミン、ノルトリプチリン、プロトリブチリン、アモキサピン、マプロチリン、トラゾドンなど。
【0037】
抗糖尿病薬(インスリンなど)、および抗癌薬(タモキシフェン、メトトレキサートなど)など。
【0038】
食欲抑制薬、例えば、デキストロアンフェタミン、メタンフェタミン、フェニルプロパノールアミン、フェンフルラミン、ジエチルプロピオン、マジンドール、フェンテルミンなど。
【0039】
抗アレルギー薬、例えば、アンタゾリン、メタピリレン、クロロフェニラミン、ピリラミン、フェニラミンなど。
【0040】
トランキライザー(レセルピン、クロルプロマジンなど)、およびベンゾジアゼピン系抗不安薬(アルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、クロラゼプタート(clorazeptate)、ハラゼパム、オキサゼパム、プラゼパム、クロナゼパム、フルラゼパム、トリアゾラム、ロラゼパム、ジアゼパムなど)など。
【0041】
抗精神病薬、例えば、チオプロパザート、クロルプロマジン、トリフルプロマジン、メソリダジン、ピペラセタジン、チオリダジン、アセトフェナジン、フルフェナジン、パーフェナジン、トリフロペラジン、クロルプロチキセン、チオチキセン、ハロペリドール、ブロムペリドール、ロキサピン、モリンドンなど。
【0042】
充血除去薬、例えば、フェニレフリン、エフェドリン、ナファゾリン、テトラヒドロゾリンなど。
【0043】
解熱薬、例えば、アスピリン、サリチルアミドなど。
【0044】
抗片頭痛薬、例えば、ジヒドロエルゴタミン、ピゾチリンなど。
【0045】
悪心および嘔吐を治療するための薬物、例えば、クロルプロマジン、パーフェナジン、プロクロルペラジン、プロメタジン、トリエチルペラジン、トリフルプロマジン、およびトリメプラジンなど。
【0046】
抗マラリア薬、例えば、4−アミノキノリン、αアミノ−キノリン、クロロキン、ピリメタミンなど。
【0047】
抗潰瘍薬、例えば、ミソプロストール、オメプラゾール、エンプロスチルなど。
【0048】
ペプチド、例えば、成長ホルモン放出因子など。
【0049】
パーキンソン病、痙縮、および急性筋肉痙攣用の薬物、例えば、レボドパ、カルビドパ、アマンタジン、アポモルヒネ、ブロモクリプチン、セレギリン(デプレニル)、塩酸トリヘキシフェニジル、メシル酸ベンズトロピン、塩酸プロシクリジン、バクロフェン、ジアゼパム、ダントロレンなど。
【0050】
抗エストロゲン薬またはホルモン薬、例えば、タモキシフェンまたはヒト絨毛性ゴナドトロピンなど。
【0051】
薬物は、その遊離塩基もしくは酸形態で、または塩、エステル、もしくは任意の他の薬理学上許容される誘導体の形態、エナンチオマー的に純粋な形態、互変異性体で、あるいは分子複合体の成分として存在し得る。組成物中に組み込まれる薬物の量は、特定の薬物、所望の治療効果、およびその装置が治療を施す時間の長さに応じて変化する。一般に、本発明の目的において、系における薬物の量は約0.0001%から60%までで変化し得る。
【0052】
本発明を、以下の決してそれに限定されない実施例によってさらに説明する。
【実施例】
【0053】
(実施例1)
抗生物質の送達
創傷治癒が困難である場合、臨床医は感染のレベルには達していない微生物の定着が存在する可能性があると考える。微生物の種類(グラム陰性菌またはグラム陽性菌、真菌など)に応じて特異的な処置が最適である。処置に対してもはや反応しない創傷を有する患者を定着について評価した。グラム陽性菌を有する患者を、バンコマイシンの溶液に浸漬した微生物セルロースで処置した。必要に応じて包帯を交換した。結果から、バンコマイシンで処置した創傷は改善し、平均5週間で治癒することが示された。抗生物質の血清トラフ濃度(皮膚を通して血液中に入った抗生物質の量の値)から、顕著な局所効果が証明された。循環系において微量のバンコマイシンが認められた。このことから微生物セルロースにより抗生物質が送達されることが証明された。
【0054】
(実施例2)
微生物セルロースによるリドカインの送達
4%リドカイン溶液を微生物セルロースに添加し、微生物セルロースに5分間染み込ませた。次いで、これを、壊死組織のシャープなデブリードマンの前に患者の創傷の上に5〜15分間置いた。乾燥した壊死組織の厚い層を通じてリドカインが送達されることは、患者がデブリードマン処置中に痛みを感じなかったことによって証明された。無傷皮膚でも同様の研究を行い、その研究から、リドカインが7日間にわたって放出されて尖った物により施された痛みを緩和することが証明された。
【0055】
(実施例3)
微生物セルロースによるトロンビンの送達
トロンビンを使用説明書に従って再構築し、微生物セルロースに5分間適用した。トロンビン溶液を含む包帯を、シャープなデブリードマンの後に過度の瀰漫性出血を起こした患者に適用し、24時間後に包帯を除去した。トロンビンと微生物セルロースを組み合わせることにより止血は効果的に達成された。
【0056】
(実施例4)
ヒト死体皮膚拡散セル研究を用いる、インビトロでの微生物セルロースによるリドカインの経皮送達
この研究は、限られた量のインビトロ死体皮膚モデルを用いて2つの異なる皮膚ドナーにおいて10%リドカインHCl水溶液を含む微生物セルロースを検証するために行った。包帯中で所望の10%に達するように、25%リドカイン溶液に浸漬する前の最初のセルロース濃度を約4%セルロースとした。この研究は1−cm四方の皮膚パッチを用いて行い、2連で行った。被験物質を閉鎖チャンバーおよび非閉鎖チャンバーの両方において検証し、それらの性能を比較した。全ての場合において、ヒト死体胴体皮膚をフランツ拡散セル上に載せ、投薬するために10%リドカインHClを含む微生物セルロースをそのセルの片側に置いた。事前に選択した時間間隔で貯留液を採取した。最後のサンプルを採取した後、皮膚の表面を洗浄し、表皮および真皮を分離し、解析のために確保した。採取したサンプルを処理し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてリドカイン含量について解析した。これらの結果を表1〜2および図1に示す。これらの結果は、閉鎖チャンバーにおいて10%リドカインHClを含む微生物セルロースでのより高い経皮浸透を示す。また、結果から、試験中に水分が失われ得るサンプル(非閉鎖)と比較して閉鎖チャンバーでは両サンプルにおいて迅速な送達が達成され、活性薬剤の持続的送達がより顕著であることも示される。この研究から得られた結論は以下である:1)10%リドカインHClを含むが、さらなる化学的促進剤または能動的駆動力(すなわち、イオントフォレシス)なしの微生物セルロースの処方は、角質層に浸透し、表皮および真皮内に、そして表皮および真皮を通じて有効成分を送達することが証明され、2)閉鎖チャンバーでの試験ではその送達は迅速であり、定常状態で持続された。
【表1】

【表2】

【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】閉鎖のバッキングのある場合とない場合の本発明の組成物の放出率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的に活性な薬剤をそれを必要とする被験体に経皮送達するための方法であって、不溶性の微生物セルロース、水、および治療上有効な量の前記生物学的に活性な薬剤を含む組成物を局所的に適用することを含み、前記生物学的に活性な薬剤が前記被験体の皮膚に浸透する、方法。
【請求項2】
微生物セルロースがアセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)により生産される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
微生物セルロースが組成物の99重量%までの水で水和される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
微生物セルロースが組成物の75重量%〜99重量%の水で水和される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
生物学的に活性な薬剤が薬物である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
薬物が抗生物質、抗真菌薬、または止血薬である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抗生物質がバンコマイシン、トブラマイシン、またはネオマイシンである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
抗真菌薬がボリコナゾール、クロトリマゾール、またはミコナゾールである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
止血薬がトロンビンである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
生物学的に活性な薬剤が麻酔薬である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
麻酔薬がリドカインである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
溶液の2〜10重量%リドカインの最初の溶液に浸漬することにより組成物にリドカインが添加される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
薬物がフェンタニルである、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
薬物がインスリンである、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
組成物が治療上有効な量の生物学的に活性な薬剤をほぼ一定の速度で少なくとも10時間連続的に送達する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
生物学的に活性な薬剤が1時間未満で皮膚に浸透する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
生物学的に活性な薬剤が0.5時間未満で皮膚に浸透する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
組成物が、エレクトロポレーション成分、微細穿孔成分、 ソノフォレシス成分、およびイオントフォレシス成分からなる群より選択される、生物学的に活性な薬剤の送達を向上させる少なくとも1つの追加成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
組成物が無傷皮膚に局所的に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
組成物が破損皮膚に局所的に適用される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
組成物が閉鎖のバッキングで覆われる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−536937(P2008−536937A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−507835(P2008−507835)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2006/014724
【国際公開番号】WO2006/113796
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(502436428)ザイロス コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】