説明

結晶の転位評価方法、結晶成長法評価方法および結晶成長法

【課題】結晶を破壊することなく簡便に精度良く転位を評価する方法を提供する。
【解決手段】結晶試料の表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶試料の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅により結晶試料の転位を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶基板等の転位を評価する方法、結晶成長法を評価する方法、および結晶成長法に関する。より詳細には、本発明は、逆格子空間における結晶の非対称回折面からの水平方向の強度分布を測定することを特徴とする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、結晶基板等の転位を評価する方法として種々の方法が用いられている。例えば、エッチピット密度法、SEMによるカソードルミネッセンス法(SEM−CL法)、TEM法などにより結晶の転位密度を測定する方法が知られている。しかしながら、これらの方法はいずれも測定対象となる結晶を破壊して分析するものであり、高価な結晶や貴重な結晶の分析に用いるのは実用的ではなく、また破壊分析した結晶の再利用も図りにくいという問題があった。
【0003】
一方、結晶を破壊せずに結晶性を評価する方法として、X線回折法を用いた方法が知られている。一般にX線回折法による方法では、(002)面や(102)面のロッキングカーブ測定が行われる。しかしながら、これらの面のロッキングカーブ測定結果には、結晶の反りやクラック等の転位密度以外の情報まで含まれてしまう。したがって、(002)面や(102)面のロッキングカーブ測定による方法では、結晶の転位密度を正確に評価できないという問題があった。
【0004】
そこで、(002)面や(102)面以外の面を測定して評価する方法が提案されている。例えば、非特許文献1には、非対称面を測定することによって、チルト(結晶試料面に垂直な方向の結晶面の揺らぎ)やツイスト(結晶試料面内における回転方向の揺らぎ)によるピークの広がりを高感度に測定できることが記載されている。この方法によれば、結晶の反りやクラック等の情報は分離することができる。また、非特許文献2には、(004)対称面で理論計算する方法が記載されている。この方法では、理論式の係数を仮定することで実測データとフィッティングを実施して、転位密度を算出している。さらに、特許文献3には、逆格子マッピングの広がりから、理論的にはチルトやコヒーレント長(転位密度の逆数の平方根)から転位密度を求めうることが記載されている。(105)回折面の逆格子マップ測定例が示されているが、現実的には、これらの値を分離することは困難であるとして算出はなされていない。
【非特許文献1】Appl.Phy.Lett. 86, 241904 (2005) S.R.Lee et al
【非特許文献2】Appl.Phy.Lett. 85, 15 3065 (2004) S.Danis et al
【非特許文献3】Philosophical Magazine 1998 77 4 1013 T.Metzger et al
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1には、非対称面を測定することが記載されているが、その測定結果と転位密度との相関や、非対称性の高い格子面を使うことによる効果については何も記載されていない。また、非特許文献1に記載される Williamson−Hallプロット法によれば、螺旋転位(転位中心の原子配列の周りを1回回ると1つ上または1つ下の原子面に至る螺旋階段状の構造)と刃状転位(すべり面上に1原子面を余分に入れた結晶構造)を分離して算出することができるが、測定法はかなり煩雑であり、転位以外の結晶不完全性を持つ基板では刃状転位密度を正確に算出できないという問題がある。また、非特許文献2には、非対称面を用いることは特に記載されていない。さらに、非特許文献3には、定性的な説明が記載されているだけで、具体的かつ定量的な検討は記載されていない。また、測定に用いた回折面の非対称性は比較的低いうえ、測定結果と転位密度の相関関係がさほど高くない。
【0006】
そこで本発明者らは、上記の従来技術の課題を解決するために、結晶を破壊することなく簡便に精度良く転位を評価する方法を提供することを本発明の目的として設定した。また本発明者らは、簡便に精度良く結晶成長法を評価する方法や、その方法を利用した結晶成長法を提供することも本発明の目的として設定した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、逆格子空間における結晶の非対称回折面からの水平方向の強度分布を測定することにより従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
[1] 結晶試料の表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶試料の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅により結晶試料の転位を評価することを特徴とする転位評価方法。
[2] 前記非対称回折面の前記結晶試料表面に対する角度が25°以上であることを特徴とする[1]に記載の転位評価方法。
[3] 前記非対称回折面が(114)面、(205)面または(104)面であることを特徴とする[1]に記載の転位評価方法。
[4] 前記結晶試料表面に照射するX線のビームサイズが500μm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の転位評価方法。
[5] 前記結晶試料が六方晶の結晶であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の転位評価方法。
[6] 前記結晶試料がIII族窒化物半導体であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の転位評価方法。
[7] 前記結晶試料が酸化亜鉛であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の転位評価方法。
[8] 以下の工程1〜工程5を含むことを特徴とする[1]〜[7]のいずれか一項に記載の転位評価方法。
工程1:転位密度が異なる複数の結晶を用意する工程。
工程2:各結晶表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶の非対称
回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅を
それぞれ求める工程。
工程3:各結晶の転位密度と半値幅との関係式を求める工程。
工程4:評価対象となる結晶試料にX線を照射することにより、逆格子空間における
結晶の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲
線の半値幅を求める工程。
工程5:前記結晶試料の半値幅より前記関係式にしたがって転位密度を求める工程。
[9] 前記各結晶の転位密度をエッチピット密度法、カソードルミネッセンス法または透過型電子顕微鏡観察法(TEM観察法)で測定し、その測定値を前記工程3の各結晶の転位密度として使用することを特徴とする[8]に記載の転位評価方法。
[10] 前記工程3において、転位密度の対数値と半値幅の関係が1次関数で表されることを特徴とする[8]または[9]に記載の転位評価方法。
【0008】
[11] 以下の工程1〜工程5を含むことを特徴とする結晶の転位密度測定方法。
工程1:転位密度が異なる複数の結晶を用意する工程。
工程2:各結晶表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶の非対称
回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅を
それぞれ求める工程。
工程3:各結晶の転位密度と半値幅との関係式を求める工程。
工程4:評価対象となる結晶試料にX線を照射することにより、逆格子空間における
結晶の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲
線の半値幅を求める工程。
工程5:前記結晶試料の半値幅より前記関係式にしたがって転位密度を求める工程。
【0009】
[12] 以下の工程a〜工程cを含むことを特徴とする結晶成長法評価方法。
工程a:複数の異なる結晶成長法により得られた結晶を用意する工程。
工程b:各結晶の転位を[1]〜[10]のいずれか一項に記載の転位評価方法に
したがって評価する工程。
工程c:前記工程bの評価結果により前記各結晶成長法を評価する工程。
[13] [12]に記載の評価方法を実施することにより結晶成長法を評価し、該評価に基づいて選択した結晶成長法により結晶成長させることにより結晶を得る工程を含むことを特徴とする結晶成長法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の転位評価方法によれば、結晶を破壊することなく簡便に精度良く転位を評価することができる。また、本発明の結晶成長法評価方法によれば、種々の結晶成長法により得られた結晶の転位を簡便な方法で精度よく評価することにより、その結晶を製造した結晶成長法を簡単に評価することができる。さらに、本発明の結晶成長法によれば、所望の転位レベルを維持した結晶を最適な成長法により製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下において、本発明の転位評価方法、結晶成長法評価方法および結晶成長法について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<転位評価方法>
(特徴)
本発明の転位評価方法は、結晶試料の表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶試料の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅により結晶試料の転位を評価することを特徴とする。
【0013】
(回折面)
本発明では、結晶試料の非対称回折面を用いてX線回折を行う。ここで非対称回折面とは、例えばc面成長の六方晶GaNやZnOをCu−KaのX線発生装置で測定したとき、ミラー指数(hkl)のh及びkが同時に0になるものを除く面である。ここでc面とは、六方晶の(001)面をいう。本発明の転位評価方法では、このような非対称回折面の中でも、より非対称性が高い回折面を選択して用いることが好ましい。非対称性は、結晶試料の表面(例えば六方晶のc面)に対する角度で表すことができる。例えば、(114)面は39.1°、(205)面は36.9°、(104)面は25.1°、(105)面は20.6°である。本発明の転位評価方法では、25°以上の回折面を用いることが好ましく、30°以上の回折面を用いることがより好ましく、35°以上の回折面を用いることが好ましく、38°以上の回折面を用いることが特に好ましい。具体的には、(114)面、(205)面、(104)面、(105)面を用いることが好ましく、(114)面、(205)面、(104)面を用いることがより好ましく、(114)面、(205)面を用いることがさらに好ましく、(114)面を用いることが特に好ましい。
【0014】
このような非対称性が高い回折面を用いることによって、より精度良く転位密度を求めることができるため、より信頼性の高い転位評価を行うことが可能になる。求められる評価精度によっては、最も非対称性が高い面を用いずに、許容範囲内の評価精度が得られる面のうち最も測定しやすい面を選択して用いることもできる。
【0015】
(X線照射)
本発明の転位評価方法では、通常のX線照射装置を用いて結晶試料にX線を照射することができる。図1は、典型的なX線照射装置を例示した概略図である。このX線回折装置は、X線照射部1、象限スリット2、検出部3、および試料ステージ4を備えている。X線照射部1は、例えばX線発生装置、X線集光ミラー、結晶モノクロメータを備えており、X線を単色化、平行ビーム化したうえで試料に照射できる機構を備えている。象限スリット2は、ビームサイズを調整することができる機構を備えている。検出部3は、例えばX線検出器とアナライザ結晶等を有しており、回転しうる機構を備えている。試料ステージ4は、ω回転の他に、試料ホルダの面内回転(φ軸回転)とあおり角の回転(ψ軸回転)ができるような機構を備えている。このX線回折装置の試料ステージ4の上に結晶試料3を載せ、図示するように試料表面にX線を照射し、回折X線を検出する。このとき、非対称回折面の回折条件にω、2θ、φ、ψを移動して測定する。
【0016】
本発明の転位評価方法では、象限スリット2によってビームサイズを適切に調整することによって結晶試料の反りや凹凸による回折ピークの広がりを除去することが好ましい。結晶試料表面に照射するX線の平行ビーム化した方向のビームサイズは1000μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。
【0017】
(検量線式の導出)
次に、上記の回折X線検出により、逆格子空間における結晶試料の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成する。
図2は、Qx−Qy面の逆格子マップの一例である。図2(1)において矢印A方向(Qx方向の広がり)が転位に関係した広がり分布であり、矢印B方向の広がりがチルト等による広がり分布である。図2(2)は、逆格子空間における逆格子面[hhl]上に投影された逆格子マップから切り出された[hh0]方向の強度分布曲線(Qx方向のスキャンプロファイル)である。このプロファイルから半値幅を算出することができる。
複数の結晶試料を測定して得られた半値幅を転位密度に対してプロットすると、両者の間に良好な相関関係が認められる。したがって、このような良好な相関関係に基づいて、検量線を作成することができる。これは、本発明にしたがって非対称回折面を用いて測定を行ったこと等によるものであり、より非対称性が高い回折面を用いれば、より良好な相関関係が認められる。例えば、半値幅を転位密度の対数値に対してプロットすれば、一定の傾きを有する直線関係が認められ、半値幅が転位密度の対数値の1次関数として表されることが確認される。
【0018】
検量線を作成するために使用する結晶は、転位を評価しようとしている結晶試料と同じ組成からなる結晶であって、通常用いられている転位密度測定法により転位密度を測定できるものの中から選択する。転位密度測定法としては、例えばエッチピット密度法やカソードルミネッセンス法(CL法)やTEM観察法を挙げることができる。使用する非対称面はすべて統一する必要がある。検量線を作成するために用いる結晶の数は2種以上であれば特に制限されないが、3種以上であることが好ましく、5種以上であることがより好ましく、8種以上であることがさらに好ましい。また、検量線の相関係数は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましく、0.9以上であることがさらに好ましく、95以上であることが特に好ましい。
【0019】
(転位の評価)
本発明の方法にしたがって得られた検量線を用いれば、転位密度が未知の結晶試料の半値幅を測定することにより、その結晶試料の転位密度を容易に算出することができる。このとき、半値幅の測定に用いる非対称面は、検量線を作成するときに用いた非対称面と同じ面にする。また、X線照射条件なども検量線作成の際に用いた条件と同一にする。
本発明の方法によれば、Williamson−Hallプロット法などの従来法では困難であった転位密度の算出を高精度に行うことが可能になった。本発明によれば、X線回折装置の検出部で検出されるX線をコンピュータ処理することにより半値幅と転位密度を迅速かつ容易に得ることができる。
【0020】
なお、本発明によれば転位密度の絶対値を容易に求めることができるが、本発明の転位評価方法では必ずしも転位密度の絶対値を求める工程は必須とされない。すなわち、本発明によれば半値幅と転位密度との間に相関関係が認められるため、半値幅さえ知ることができれば転位密度を評価することが可能である。例えば、半値幅がより大きければ、転位密度もより大きいと評価することが可能である。具体的には、許容限度の転位密度に相当する半値幅の絶対値がわかっていれば、その半値幅(基準半値幅という)より小さい半値幅を示す結晶は許容範囲内の転位密度を有するものと評価することができ、その基準半値幅より大きな半値幅を示す結晶は許容範囲外の転位密度を有するものと評価することができる。このように、本発明によれば簡便に結晶の転位を評価することができる。
【0021】
(結晶試料)
本発明の転位密度評価方法で評価することができる結晶試料の種類は、X線回折が可能なものであれば特に制限されない。例えば、III族窒化物半導体、酸化亜鉛、炭化シリコンなどを挙げることができ、III族窒化物半導体や酸化亜鉛に好ましく適用することができる。III族窒化物半導体としては、GaN、BN、AlN、InNなどを挙げることができる。結晶試料は、結晶のみからなるものであっても、結晶以外のものを含むものであってもよい。具体的には、測定対象となる結晶試料として結晶基板などを挙げることができる。
【0022】
<転位密度測定方法>
(特徴)
本発明の転位密度測定方法は、以下の工程1〜5を含むことを特徴とするものである。
工程1:転位密度が異なる複数の結晶を用意する工程。
工程2:各結晶表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶の非対称
回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅を
それぞれ求める工程。
工程3:各結晶の転位密度と半値幅との関係式を求める工程。
工程4:測定対象となる結晶試料にX線を照射することにより、逆格子空間における
結晶試料の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分
布曲線の半値幅を求める工程。
工程5:前記結晶試料の半値幅より前記関係式にしたがって転位密度を求める工程。
【0023】
(利用法)
上記工程1〜工程5の手順の詳細については、上記の転位評価方法の説明を参照することができる。いったん工程1〜工程3を行って関係式(検量線を表す式)を求めておけば、工程4と工程5を必要に応じて行うことにより何度でも転位密度を求めることができる。また、より精度よく転位密度を求める必要が生じたときは、工程1と工程2を繰り返して行ってサンプル数を増やし、工程3にしたがってより精密な関係式を求め直してもよい。本発明の転位密度測定方法によれば、結晶試料を破壊せずに簡単に転位密度を求めることができる。
【0024】
<結晶成長法評価方法>
(特徴)
本発明の結晶成長法評価方法は、以下の工程a〜工程cを含むことを特徴とするものである。
工程a:複数の異なる結晶成長法により得られた結晶を用意する工程。
工程b:各結晶の転位を上記の本発明の転位評価方法にしたがって評価する
工程。
工程c:前記工程bの評価結果により前記各結晶成長法を評価する工程。
【0025】
(利用法)
本発明の結晶成長法評価方法によれば、複数の異なる結晶成長法を簡単な手順で容易に評価することができる。評価対象とする結晶成長法は、原理が異なる複数の結晶成長法であってもよいし、原理は同一であっても条件(例えば温度、圧力、時間)が異なる複数の結晶成長法であってもよいし、原理と条件が種々異なる複数の結晶成長法であってもよい。これらの異なる結晶成長法により得られた結晶を工程aにしたがって用意し、それを工程bにしたがって本発明の上記転位評価方法にしたがって評価する。評価は、転位密度まで求めて数値で絶対評価してもよいし、半値幅の多少に関する情報を得て相対評価してもよい。具体的な評価の詳細は、評価精度や評価目的に応じて適宜決定することができる。次いで、工程cにしたがって、各結晶に対する評価結果に基づいて、その結晶を提供した各結晶成長法を評価する。工程cにおける評価は、各結晶に対する評価結果をそのままストレートに各結晶成長法の評価値として用いてもよいし、さらにコストや成長時間などの評価項目を加味して各結晶成長法を評価してもよい。
【0026】
<結晶成長法>
(特徴)
本発明の結晶成長法は、上記の工程a〜工程cを実施することにより結晶成長法を評価し、該評価に基づいて選択した結晶成長法により結晶成長させることにより結晶を得る工程を含むことを特徴とするものである。上記の本発明の結晶成長法評価方法による評価結果にしたがって選択した結晶成長法により、実際に結晶成長させるものである。本発明の結晶成長法によれば、種々の結晶成長法の中から目的に合致した結晶成長法を容易に選択して実施することができる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0028】
<実施例1>
本実施例では、図1に示すX線回折装置を用いて測定した。X線回折装置は、X線照射部1、象限スリット2、検出部3、および試料ステージ4を備えている。X線照射部1は、X線発生装置、X線集光ミラー、結晶モノクロメータを備えており、X線を単色化、平行ビーム化したうえで試料に照射できるようになっている。象限スリット2は、ビームサイズを調整することができる機構を備えており、ビームサイズを適切に調整することによって結晶試料の反りや凹凸による回折ピークの広がりを除去しうるようになっている。検出部3は、X線検出器とアナライザ結晶等を有し、2θ方向に回転しうるようになっている。試料ステージ4は、ω回転の他に、試料ホルダの面内回転(φ軸回転)とあおり角の回転(ψ軸回転)ができるようになっている。
このX線回折装置の試料ステージ4の上にGaNの結晶試料3を載せ、図示するように試料表面にX線を照射し、回折X線を検出した。このとき、非対称回折面として(114)面を選択し、非対称回折面の回折条件にω、2θ、φ、ψを移動して測定した。
【0029】
図2にQx−Qy面への(114)の逆格子マップを示す。図2(1)において矢印A方向(Qx方向の広がり)が転位に関係した広がり分布であり、矢印B方向の広がりがチルト等による広がり分布である。図2(2)にQx方向のスキャンプロファイルを示す。このプロファイルから半値幅を算出した。
以上の測定と算出を、転位密度が異なる9つのGaN結晶試料について行った。各結晶試料の転位密度は、カソードルミネセンス法により測定した。図3にQxスキャンから算出した半値幅(WQX)を転位密度(N)の対数値に対してプロットした結果を示す。相関係数は0.973であり、非常に良い相関を示した。この図から下記式(1)の検量線式を算出した。
【0030】
【数1】

【0031】
次に、転位密度が未知の結晶試料について、上記方法にしたがってQxスキャン測定を行い、プロファイルから半値幅を算出した。さらに上記式(1)にしたがって、転位密度を求めた。
【0032】
また、結晶成長条件が異なる複数の結晶成長法により製造した各結晶試料について、上記方法にしたがってQxスキャン測定を行い、プロファイルから半値幅を算出した。さらに上記式(1)にしたがって、転位密度を求めた。予め設定した転位密度の許容値を下回る結晶試料を与えた結晶成長法を選別し、その中から最も経済的な結晶成長法を1つ選択した。その後、選択した結晶成長法を用いて多数の結晶を経済的に製造しうる。
上記式(1)を用いることにより、エッチピット密度法、カソードルミネッセンス法、透過型電子顕微鏡観察法等では正確な測定が困難な、106以下の転位密度を容易に算出することができた。
【0033】
<実施例2>
非対称回折面として(114)面の代わりに(104)面を選択したことのみを変更して、他は実施例1と同じ条件で測定と算出を行った。その結果、下記式(2)の検量線式を得た(相関係数は0.835)。
【0034】
【数2】

【0035】
次に、転位密度が未知の結晶試料について、実施例2の上記方法にしたがってQxスキャン測定を行い、プロファイルから半値幅を算出した。さらに上記式(2)にしたがって、転位密度を求めた。
【0036】
また、結晶成長条件が異なる複数の結晶成長法により製造した各結晶試料について、実施例2の上記方法にしたがってQxスキャン測定を行い、プロファイルから半値幅を算出した。さらに上記式(2)にしたがって、転位密度を求めた。予め設定した転位密度の許容値を下回る結晶試料を与えた結晶成長法を選別し、その中から最も経済的な結晶成長法を1つ選択した。その後、選択した結晶成長法を用いて多数の結晶を経済的に製造しうる。
【0037】
<実施例3>
非対称回折面として(114)面の代わりに(205)面を選択したことのみを変更して、他は実施例1と同じ条件で測定と算出を行うと、半値幅(y)を転位密度(x)の対数値との間に実施例2よりも良好な相関関係が認められる。
【0038】
<比較例>
本比較例において、転位密度算出によく用いられている Williamson-Hallプロット法で、実施例1と同様の試料を測定した。X線回折装置は図1と同じものを用いた。結晶試料5を試料ステージ4の上に載せ、対称回折面の回折条件にω、2θ、ψを移動した。ここで対称回折面とは、Cu−KaのX線発生装置で測定したとき、ミラー指数(hkl)のh及びkが同時に0になる面を言い、本比較例では(002)、(004)、(006)の回折面を用いた。これらの回折面についてロッキングカーブ(ωスキャン)を測定し、それぞれのプロファイルから積分幅βωを算出した。横軸(x軸)にsinθ/λ、縦軸(y軸)にβωsinθ/λを取ったグラフを作成し(図4)、下記式(3)に示す相関直線を得た。ここで、θは各回折面の回折角度(ラジアン)、λはX線の波長である。
【0039】
【数3】

式(3)のy切片から、式(3)によってコヒーレント長Lを算出した。ここで、コヒーレント長Lは単結晶としてみなされる結晶の大きさを意味しており、逆の解釈をすれば結晶の不連続境界の相対距離と見なすことができる。この不連続境界が貫通転位であると仮定すると、1/L2で計算される数値は、転位密度又はそれらに相関する数値と見なすことができる。
【0040】
図5に転位密度既知の試料について測定を行って、1/L2を転位密度に対してプロットした結果を示す。転位密度とほぼ同じ数値を示すものもあるが、多くの試料で異なっており、両者間の相関は見られなかった。この結果は、コヒーレント長は貫通転位だけでなく、結晶粒界等のその他の要因(クラック等)も含んでいることを示している。従って、 Williamson-Hallプロット法では、貫通転位と結晶粒界等の要因を分離することはできないため、正確な転位密度の算出ができないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の転位評価方法によれば、従来の転位密度測定法のように結晶を破壊することなく、簡便に結晶の転位を評価することができる。また、本発明の転位評価方法によれば、従来のX線回折法による結晶性評価方法に比べて転位をより精度良く評価することができる。さらに、本発明の結晶成長法評価方法によれば、種々の結晶成長法により得られる結晶の転位を簡便に知ることができるため、結晶成長法を簡単に評価することができる。また、本発明の結晶成長法によれば、求めている結晶の密度や転位レベルに応じて、最適な結晶成長法を選択することができるため、経済性や効率が重視した実用的な結晶成長に向いている。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】X線回折装置を用いた測定を説明するための概略図である。
【図2】実施例におけるQx−Qy面への(114)の逆格子マップである。
【図3】実施例における半値幅と転位密度の関係を示すグラフである。
【図4】比較例におけるsinθ/λとβωsinθ/λの関係を示すグラフである。
【図5】比較例における1/L2と転位密度の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0043】
1 X線照射部
2 象限スリット
3 検出部
4 試料ステージ
5 結晶試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶試料の表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶試料の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅により結晶試料の転位を評価することを特徴とする転位評価方法。
【請求項2】
前記非対称回折面の前記結晶試料表面に対する角度が25°以上であることを特徴とする請求項1に記載の転位評価方法。
【請求項3】
前記非対称回折面が(114)面、(205)面または(104)面であることを特徴とする請求項1に記載の転位評価方法。
【請求項4】
前記結晶試料表面に照射するX線のビームサイズが500μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の転位評価方法。
【請求項5】
前記結晶試料が六方晶の結晶であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の転位評価方法。
【請求項6】
前記結晶試料がIII族窒化物半導体であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の転位評価方法。
【請求項7】
前記結晶試料が酸化亜鉛であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の転位評価方法。
【請求項8】
以下の工程1〜工程5を含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の転位評価方法。
工程1:転位密度が異なる複数の結晶を用意する工程。
工程2:各結晶表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶の非対称
回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅を
それぞれ求める工程。
工程3:各結晶の転位密度と半値幅との関係式を求める工程。
工程4:評価対象となる結晶試料にX線を照射することにより、逆格子空間における
結晶の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲
線の半値幅を求める工程。
工程5:前記結晶試料の半値幅より前記関係式にしたがって転位密度を求める工程。
【請求項9】
前記各結晶の転位密度をエッチピット密度法、カソードルミネッセンス法または透過型電子顕微鏡観察法で測定し、その測定値を前記工程3の各結晶の転位密度として使用することを特徴とする請求項8に記載の転位評価方法。
【請求項10】
前記工程3において、転位密度の対数値と半値幅の関係が1次関数で表されることを特徴とする請求項8または9に記載の転位評価方法。
【請求項11】
以下の工程1〜工程5を含むことを特徴とする結晶の転位密度測定方法。
工程1:転位密度が異なる複数の結晶を用意する工程。
工程2:各結晶表面にX線を照射することにより、逆格子空間における結晶の非対称
回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分布曲線の半値幅を
それぞれ求める工程。
工程3:各結晶の転位密度と半値幅との関係式を求める工程。
工程4:測定対象となる結晶試料にX線を照射することにより、逆格子空間における
結晶試料の非対称回折面からの水平方向の強度分布曲線を作成し、該強度分
布曲線の半値幅を求める工程。
工程5:前記結晶試料の半値幅より前記関係式にしたがって転位密度を求める工程。
【請求項12】
以下の工程a〜工程cを含むことを特徴とする結晶成長法評価方法。
工程a:複数の異なる結晶成長法により得られた結晶を用意する工程。
工程b:各結晶の転位を請求項1〜10のいずれか一項に記載の転位評価方法に
したがって評価する工程。
工程c:前記工程bの評価結果により前記各結晶成長法を評価する工程。
【請求項13】
請求項12に記載の評価方法を実施することにより結晶成長法を評価し、該評価に基づいて選択した結晶成長法により結晶成長させることにより結晶を得る工程を含むことを特徴とする結晶成長法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−8500(P2009−8500A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169368(P2007−169368)
【出願日】平成19年6月27日(2007.6.27)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】