説明

結晶性ケイ素薄膜の製造方法

【課題】Si薄膜の結晶性、特に結晶配向性を向上できる新規な結晶性Si薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、実質的に酸化ケイ素からなる薄膜で挟まれている、実質的にケイ素からなるアモルファス性薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融した後に冷却して、アモルファス性薄膜を結晶性薄膜に変換する溶融冷却工程と、溶融冷却工程に先立って、アモルファス性薄膜及び/又は酸化ケイ素からなる薄膜の膜厚を、結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整するケイ素膜厚調整工程とを有する結晶性ケイ素薄膜の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ケイ素薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、発電層の厚さが比較的薄い薄膜型と、発電層の厚さが比較的厚いバルク型とに分類される。発電層にケイ素(以下、「Si」とも表記する。)層を用いた場合、薄膜型太陽電池はバルク型と比較して、Si材料の使用量が少ない点並びに製造工程におけるSi基板の再利用が可能である点等から、その製造コストを低減することができる。
【0003】
発電層に結晶性Si層を採用する場合、結晶の欠陥密度が低い程、単位発電量当たりの太陽電池の製造コストを低減することができる。しかしながら、従来、薄膜型太陽電池はバルク型のものと比較して、欠陥密度の低い良質な結晶性Si層を作製することが困難であった。したがって、太陽電池の製造コストを更に低減して、その普及に貢献するために、欠陥密度の低いSi薄膜を形成する方法が切望されている。
【0004】
本発明者らは、欠陥密度が低い結晶性薄膜を形成可能な方法として、ZMC(Zone melting Crystallization;「帯域溶融再結晶化」ともいう。)法を提案している(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1記載の方法によると、それ以前のSi薄膜の製造方法と比較して、その薄膜の結晶性を向上させることができる。
【特許文献1】特開2001−274084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の製造方法によっても、実用化に向けてSi薄膜の結晶性を更に改善する余地があり、特に、結晶の配向性を高める必要がある。本発明は上記事情にかんがみてなされたものであり、Si薄膜の結晶性、特に結晶配向性を向上できる新規な結晶性Si薄膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ZMC法において、結晶性Si薄膜の原料となるアモルファス性Si薄膜、及びそのアモルファス性Si薄膜を挟み込む酸化ケイ素(以下、「SiO」とも表記する。)薄膜の膜厚が、結晶性Si薄膜の結晶配向性に影響を与えることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、実質的に酸化ケイ素からなる薄膜で挟まれている、実質的にケイ素からなるアモルファス性薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融した後に冷却して、アモルファス性薄膜を結晶性薄膜に変換する溶融冷却工程と、溶融冷却工程に先立って、アモルファス性薄膜の膜厚を、結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整するケイ素膜厚調整工程とを有する結晶性ケイ素薄膜の製造方法を提供する。
【0008】
この本発明の結晶性ケイ素薄膜の製造方法によると、まず、ケイ素膜厚調整工程において、実質的にケイ素からなるアモルファス性薄膜(以下、「アモルファス性Si薄膜」とも表記する。)の膜厚を、所定の膜厚になるよう調整する。ここで、「所定の膜厚」とは、最終的に得られる結晶性ケイ素薄膜(以下、「結晶性Si薄膜」とも表記する。)の結晶配向性が向上するように設定される膜厚である。より具体的には、例えば、予め、膜厚の異なる2種以上のアモルファス性Si薄膜を用い、その他の条件を実質的に同一にして、ZMC法で結晶性Si薄膜を形成し、その結晶配向性を確認して、より結晶配向性の高いSi薄膜が得られる場合のアモルファス性Si薄膜の膜厚を「所定の膜厚」として設定してもよい。
【0009】
次いで、溶融冷却工程において、実質的に酸化ケイ素からなる薄膜(以下、「SiO薄膜」とも表記する。)で挟まれている上記アモルファス性Si薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融し、更に冷却する。ゾーンメルティング(Zone melting)法は、原料薄膜(アモルファス性薄膜)の一部帯域(溶融ゾーン)を加熱溶融し、その溶融ゾーンを所定方向に移動させる方法である。この方法によると、移動方向の前方では原料薄膜が溶融し、後方では一旦溶融した原料薄膜が冷却により固化する。この溶融冷却工程を経ることにより、アモルファス性Si薄膜から結晶性Si薄膜が得られる。得られた結晶性Si薄膜は、その主面に対する法線方向(以下、「ND方向」という。)、及びND方向に直交するTD方向のいずれにおいても高い結晶配向性を与える。特にTD方向の結晶配向性は、従来よりも十分に優れたものとなる。
【0010】
特許文献1に記載されているような従来のZMC法によれば、結晶性Si薄膜のND方向において良好な結晶配向性が示されるが、TD方向においては多くの粒界が発生し、良好な結晶配向性は示されていない。これは、従来の結晶性薄膜の製造方法において、薄膜の膜厚が結晶配向性に影響を与える、という知見が得られていないためである。本発明者らは、Si薄膜の膜厚以外の薄膜製造条件を実質的に同一にして、Si薄膜の膜厚のみを変化させて結晶性Si薄膜を形成したところ、その結晶配向性、特にTD方向における結晶配向性が変化することを実験的に確認した。これは、膜厚が異なると、Si薄膜の厚さ方向における温度分布が異なることに起因すると考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。
【0011】
また、本発明は、実質的に酸化ケイ素からなる薄膜で挟まれている、実質的にケイ素からなるアモルファス性薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融した後に冷却して、アモルファス性薄膜を結晶性薄膜に変換する溶融冷却工程と、溶融冷却工程に先立って、酸化ケイ素からなる薄膜の膜厚を、結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整する酸化ケイ素膜厚調整工程とを有する結晶性ケイ素薄膜の製造方法を提供する。
【0012】
この本発明の結晶性ケイ素薄膜の製造方法によると、まず、ケイ素膜厚調整工程において、SiO薄膜の膜厚を、所定の膜厚になるよう調整する。ここで、「所定の膜厚」とは、最終的に得られる結晶性Si薄膜の結晶配向性が向上するように設定される膜厚である。より具体的には、例えば、予め、膜厚の異なる2種以上のSiO薄膜を用い、その他の条件を実質的に同一にして、ZMC法で結晶性Si薄膜を形成し、その結晶配向性を確認して、より結晶配向性の高いSi薄膜が得られる場合のSiO薄膜の膜厚を「所定の膜厚」として設定してもよい。
【0013】
次いで、溶融冷却工程において、SiO薄膜で挟まれている上記アモルファス性Si薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融し、更に冷却する。この溶融冷却工程を経ることにより、アモルファス性Si薄膜から結晶性Si薄膜が得られる。得られた結晶性Si薄膜は、TD方向及びND方向のいずれにおいても高い結晶配向性を与え、特にTD方向の結晶配向性は、従来よりも十分に優れたものとなる。
【0014】
特許文献1に記載されているような従来のZMC法によれば、結晶性Si薄膜のND方向において良好な結晶配向性が示されるが、TD方向においては多くの粒界が発生し、良好な結晶配向性は示されていない。これは、従来の結晶性薄膜の製造方法において、原料薄膜を挟み込む薄膜の膜厚が結晶配向性に影響を与える、という知見が得られていないためである。本発明者らは、SiO薄膜の膜厚以外の薄膜製造条件を実質的に同一にして、SiO薄膜の膜厚のみを変化させて結晶性Si薄膜を形成したところ、その結晶配向性、特にTD方向における結晶配向性が変化することを実験的に確認した。これは、SiO薄膜の膜厚が異なると、Si薄膜の厚さ方向における温度分布が異なることに起因すると考えられる。ただし、要因はこれに限定されない。
【0015】
本発明は、結晶性Si薄膜の結晶配向性を更に向上させる観点から、上記ケイ素膜厚調製工程と、上記酸化ケイ素膜厚調製工程とを組み合わせてもよい。すなわち、本発明は、実質的に酸化ケイ素からなる薄膜で挟まれている、実質的にケイ素からなるアモルファス性薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融した後に冷却して、アモルファス性薄膜を結晶性薄膜に変換する溶融冷却工程と、溶融冷却工程に先立って、酸化ケイ素からなる薄膜の膜厚を、結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整する酸化ケイ素膜厚調整工程と、溶融冷却工程に先立って、アモルファス性薄膜の膜厚を、結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整するケイ素膜厚調整工程と、を有する結晶性ケイ素薄膜の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、Si薄膜の結晶性、特に結晶配向性を向上できる新規な結晶性Si薄膜の製造方法を提供することを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0018】
本発明の好適な実施形態に係る結晶性Si薄膜の製造方法は、酸化ケイ素膜厚調整工程と、ケイ素膜厚調整工程と、原料薄膜準備工程と、溶融冷却工程とを有するものである。
【0019】
酸化ケイ素膜厚調整工程では、結果として得られる結晶性Si薄膜の結晶配向性が向上するように、SiO薄膜の膜厚を第1の所定膜厚に調整する。膜厚の調整は、例えば下記のようにして行われる。まず、アモルファス性Si薄膜を挟み込むための絶縁膜として、ある膜厚のSiO薄膜を用い、後述の溶融冷却工程と同様にして、ZMC法で結晶性Si薄膜を形成する。この際、アモルファス性Si薄膜を挟み込む下側のSiO薄膜及び上側のSiO薄膜は、それらの膜厚が同一であっても異なっていてもよい。そして、得られた結晶性Si薄膜の結晶配向性を確認する。結晶配向性の確認方法は、例えば、EBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern:電子後方散乱回折像)法によって得られるOIM(OrientationImaging. Microscopy、TM)像により確認できる。
【0020】
なお、SiO薄膜の膜厚は、1つの薄膜当たり、通常0.001〜600μmの範囲から選択される。この膜厚が上記下限値を下回ると、アモルファス性Si薄膜を溶融した時に、Siが凝集しやすくなり、薄膜状の維持が困難になる傾向にある。また、後述する基板に対する断熱効果が低下し、基板の材質によっては基板を変形又は溶融しやすくなる傾向にある。一方、この膜厚が上記上限値を上回ると、製膜に長時間必要となること、並びに、その後に太陽電池を作製する場合は上側のSiO薄膜をエッチングする必要が生じること等を鑑みると、製造コストが高くなる傾向にある。
【0021】
SiO薄膜の膜厚は、基板温度、薄膜形成時間、CVD法における原料ガス分圧、全圧、原料ガス流量、RFスパッタリング法におけるRF電源出力、全圧等により制御できる。
【0022】
続いて、上記膜厚とは異なる膜厚を有するSiO薄膜を用い、その他の結晶性Si薄膜形成条件は同様にして、ZMC法で結晶性Si薄膜を形成する。この際、SiO薄膜は下側のSiO薄膜と上側のSiO薄膜とがあるが、それら両方の膜厚を上述のものから変更してもよく、いずれか一方の膜厚を上述のものから変更してもよい。次いで、得られた結晶性Si薄膜の結晶配向性を確認する。更に膜厚の異なるSiO薄膜を用い、複数種の結晶性Si薄膜を形成し、それぞれについて結晶配向性を確認してもよい。そして、2種あるいは3種以上の結晶性Si薄膜のうち、最も優れた、あるいは、より優れた結晶配向性を示す結晶性Si薄膜を形成した際のSiO薄膜の膜厚を、第1の所定膜厚として選択する。
【0023】
ケイ素膜厚調整工程では、結果として得られる結晶性Si薄膜の結晶配向性が向上するように、アモルファス性Si薄膜の膜厚を第2の所定膜厚に調整する。膜厚の調整は、例えば下記のようにして行われる。まず、ある膜厚のアモルファス性Si薄膜を用い、後述の溶融冷却工程と同様にして、ZMC法で結晶性Si薄膜を形成する。そして、得られた結晶性Si薄膜の結晶配向性をOIM像等により確認する。
【0024】
なお、アモルファス性Si薄膜の膜厚は、通常0.001〜600μmの範囲から選択される。この膜厚が上記下限値を下回ると、連続膜として得ることが困難となる傾向にある。一方、この膜厚が上記上限値を上回ると、膜中にポアが形成されたり、膜厚方向全体の溶融が困難になったりする傾向にあると共に、上側のSiO薄膜を破り、溶融したSiが凝集する傾向にある。
【0025】
アモルファス性Si薄膜の膜厚は、基板温度、薄膜形成時間、RFスパッタリング法におけるRF電源出力、全圧等により制御できる。
【0026】
続いて、上記膜厚とは異なる膜厚を有するアモルファス性Si薄膜を用い、その他の結晶性Si薄膜形成条件は同様にして、ZMC法で結晶性Si薄膜を形成する。次いで、得られた結晶性Si薄膜の結晶配向性を確認する。更に膜厚の異なるアモルファス性Si薄膜を用い、複数種の結晶性Si薄膜を形成し、それぞれについて結晶配向性を確認してもよい。そして、2種あるいは3種以上の結晶性Si薄膜のうち、最も優れた、あるいは、より優れた結晶配向性を示す結晶性Si薄膜を形成した際のアモルファス性Si薄膜の膜厚を、第2の所定膜厚として選択する。
【0027】
酸化ケイ素膜厚調整工程及びケイ素膜厚調整工程の順序は、いずれが先であってもよい。また、酸化ケイ素膜厚調整工程及びケイ素膜厚調整工程を同時に行ってもよい。すなわち、SiO薄膜の膜厚及びアモルファス性Si薄膜の膜厚のみを種々変化させ、その他の結晶性Si薄膜形成条件は同様にして、ZMC法で複数種の結晶性Si薄膜を形成し、それぞれについて結晶配向性を確認する。そして、2種あるいは3種以上の結晶性Si薄膜のうち、最も優れた、あるいは、より優れた結晶配向性を示す結晶性Si薄膜を形成した際のSiO薄膜の膜厚及びアモルファス性Si薄膜の膜厚を、それぞれ第1、第2の所定膜厚として設定してもよい。
【0028】
原料薄膜準備工程では、例えば図1に示す積層体200を準備する。この積層体200は下記のようにして得られる。まず、基板210を用意する。基板210は、原料薄膜230を構成する材質よりも融点が高いものであれば特に限定されず、例えばSiウエハを用いることができる。
【0029】
次いで、基板210の表面上に下側のSiO薄膜220を、上記第1の所定膜厚になるように積層する。SiO薄膜の成膜方法は、通常の結晶薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等のCVD法、又は熱酸化法が挙げられる。これらの中では、結晶性Si薄膜の結晶化度をより高いものにする観点から、CVD法が好ましい。
【0030】
次に、下側のSiO薄膜220の表面上にアモルファス性Si薄膜230を、上記第2の所定膜厚を有するように形成する。アモルファス性Si薄膜230の成膜方法は、通常のアモルファス性薄膜の成膜方法であれば特に限定されず、公知の薄膜製造技術を用いることができる。この成膜方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等のPVD法、熱CVD、プラズマCVD、レーザーCVD等のCVD法が挙げられる。これらの中では、RFスパッタリング等のスパッタリング法がより好適である。
【0031】
続いて、アモルファス性Si薄膜230の表面上に、上記第1の所定膜厚を有する上側のSiO薄膜240を設けて積層体200を得る。このSiO薄膜240の材質及び成膜方法は、上記の下側のSiO薄膜220と同様であればよいので、ここでは説明を省略する。ただし、同じ積層体200中の下側のSiO薄膜220及び上側のSiO薄膜240は、必ずしも同じ材質、成膜方法及び膜厚である必要はなく、それぞれが異なっていてもよい。したがって、下側のSiO薄膜220の第1の所定膜厚と、上側のSiO薄膜240の第1の所定膜厚とは同一であっても異なっていてもよい。
【0032】
次に、溶融冷却工程において、ZMC法によって、アモルファス性Si薄膜230を溶融及び冷却により結晶化して、結晶性Si薄膜を得る。本実施形態におけるZMC法は、ヒーターで予備加熱した被処理膜上でラインヒーターを走査し、その被処理膜のみを順次帯状に溶融固化させる手法である。図2は、本実施形態の溶融冷却工程において使用できるZMC装置の概略図である。
【0033】
図2に示すZMC装置300は、上側を除く5面の壁面で包囲する直方体である筐体310と、その筐体310内で被処理膜であるアモルファス性Si薄膜230を含む積層体200を配置するための支持台330と、その支持台330の下側に配置される下部ヒーター320と、支持台330の上側に配置され、上記筐体310が包囲していない1壁面を構成する石英プレート340と、石英プレートの上側に配置されるラインヒーター350と、を備えている。ラインヒーター350は、図2中の矢印方向に移動することができる。
【0034】
溶融冷却工程において、まず積層体200が基板210を下側(下部ヒーター320側)にして支持台330上に配置される。
【0035】
この際、筐体310は、図中ではその一部が開放されているが、実際は、その筐体310と、石英プレート340とにより、下部ヒーター320、支持台330及び積層体200を外部と隔離することができ、その内側を所定の雰囲気に調整することもできる。筐体310内の雰囲気は、窒素、希ガス等の不活性ガス雰囲気、あるいは水素を含有するガス等の還元性ガス雰囲気であることが好ましく、不活性ガス雰囲気であることがより好ましい。これにより、アモルファス性Si薄膜230の酸化をより有効に防止することができる。
【0036】
次いで、下部ヒーター320により、支持台330を加熱することにより、間接的に積層体200を予備加熱(予熱)する。これは、後に行われるラインヒーター350による加熱負荷を低減することを目的としている。下部ヒーター320による積層体200の予熱温度は、300〜1410℃であることが好ましく、1000〜1300℃であることがより好ましい。予熱温度が上記下限値未満の場合、ラインヒーター350の照射によるアモルファス性Si薄膜230の溶融が困難になる傾向にあり、上記上限値を上回る場合、溶融領域をランプヒーター350の出力で調整し難くなる傾向にある。
【0037】
次に、ラインヒーター350を用い、石英プレート340を介して、輻射熱により積層体200を加熱する。この際、ラインヒーター350は積層体200の一部を帯状に加熱しながら、図中矢印方向に移動して、積層体200を走査することができる。ラインヒーター350により加熱されたアモルファス性Si薄膜230の部分は溶融するが、ラインヒーター350が更に移動することにより冷却され固化する。こうして、アモルファス性Si薄膜230は、結晶性Si薄膜に変換される。
【0038】
ラインヒーター350による積層体200の加熱温度は、Siの融点以上、SiOの融点未満であれば特に制限されないが、1400〜1600℃であると好ましく、1410〜1500℃であるとより好ましい。また、ラインヒーター350の走査速度は、0.01〜100mm/sであることが好適であり、0.5〜10mm/sであることがより好適である。ラインヒーター350の走査速度が上記下限値を下回ると、ラインヒーター350により、アモルファス性Si薄膜230が部分的に過剰に加熱されるため、アモルファス性Si薄膜230の溶融領域の調整が困難となり、その形状の維持が困難となる傾向にあると共に、製造コストが高くなる傾向にある。また、その走査速度が上記上限値を超えると、アモルファス性Si薄膜230の加熱が不十分となり、溶融し難くなる傾向にある。
【0039】
また、一旦溶融したSi薄膜の冷却は自然冷却であってもよいが、結晶性を高めるために、窒素や希ガスなどの不活性ガスをSi薄膜に吹き付けることによって強制的に冷却することも可能である。
【0040】
こうして得られた結晶性Si薄膜は、膜厚が異なるSiO薄膜やアモルファス性Si薄膜を用いて形成された場合と比較して、結晶配向性、特にTD方向における結晶配向性に優れたものとなる。この結晶性Si薄膜はND方向では(001)に強く配向し、TD方向では(101)に強く配向する。
【0041】
本発明は、上述のSiO薄膜及び/又はアモルファス性Si薄膜の膜厚を変化させることで、得られる結晶性Si薄膜の結晶配向性も変化する、という知見に基づいてなされたものである。したがって、本発明の結晶性Si薄膜の製造方法によると、上述のSiO薄膜及び/又はアモルファス性Si薄膜の膜厚を変化させることで、得られる結晶性Si薄膜の結晶配向性を制御することが可能となる。このことは、所望の結晶配向性を有する、あるいは、所望に近い状態の結晶配向性を有する結晶性Si薄膜を形成できることを意味する。
【0042】
本発明の製造方法により得られる結晶性Si薄膜は、薄膜型太陽電池の発電層、並びにSOI(Silicon On Insulator)基板として、好適に用いられる。
【0043】
本発明に係る結晶性Si薄膜の製造方法は、言い換えると、上記SiO薄膜及び/又はアモルファス性Si薄膜の膜厚を変化させることによって、上述のようにして形成される結晶性Si薄膜の結晶配向性を向上させる方法である。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0045】
例えば、本発明の別の実施形態では、本発明の目的を達成できる限度において、SiO薄膜、あるいはアモルファス性Si薄膜中に微量の添加元素が含まれていてもよい。
【0046】
また、本発明に係る結晶性Si薄膜の別の製造方法は、膜厚の異なる2種類の結晶性Si薄膜を上述のように形成する工程と、形成した2種類の結晶性Si薄膜の結晶配向性を上述のようにして確認する工程と、結晶配向性がより高い結晶性Si薄膜を選択する工程と、を有するものである。この本発明の結晶性Si薄膜の製造方法は、結晶性Si薄膜の選択方法とも言える。
【実施例】
【0047】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
[結晶性Si薄膜(A)の製造]
まず、基板としてSiウエハ(nタイプ、<100>配向−1°off、25mm×40mm×0.55mmの矩形基板)を準備した。次いで、その基板上に下側のSiO薄膜を、Cold Wall CVD法により形成した。このCVD法は、原料ガスとしてNで希釈されたテトラエトキシシラン(TEOS)を用い、原料ガス分圧約1Torr、全圧20Torr、基板温度800℃、原料ガス温度55℃、原料ガス流量0.42sccmの条件で、1時間行われた。
【0049】
次に、下側のSiO薄膜の表面上にアモルファス性Si薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99%のシリコンディスク(Furuuchi chemical co.社製)を用い、Ar雰囲気、5×10−3Torr、RF電源出力400Wの条件で20分間行われた。得られたアモルファス性Si薄膜の膜厚は0.2μmであった。
【0050】
続いて、アモルファス性Si薄膜の表面上に、上側のSiO薄膜を、Cold Wall CVD法により積層した。CVDは、下側のSiO薄膜の形成時と同様の条件で、1.5時間行われた。こうして積層体を得た。
【0051】
得られた積層体に対して、図2に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、以下のようにして溶融冷却を施した。まず、筐体内の支持台上に積層体を配置した。続いて、筐体内に大気圧で窒素を流通し、窒素雰囲気にした。次に、下部ヒーターを用いて、昇温速度50℃/minにて、積層体表面が1200℃になるまで加熱した。なお、積層体表面の温度は放射温度計により測定した。
【0052】
次に、ラインヒーターで積層体を照射して、輻射熱により積層体の一部を帯状に加熱しつつ、ラインヒーターを2mm/secの速度で走査した。ラインヒーターの出力は、積層体におけるアモルファス性Si薄膜が溶融するように調節した。ラインヒーターの走査が終了した後、窒素雰囲気を維持して自然放冷した。これにより、アモルファス性Si薄膜が結晶化して結晶性Si薄膜(A)が得られた。
【0053】
[結晶化Si薄膜(A)の結晶配向性確認]
得られた結晶性Si薄膜(A)を、EBSP法によって得られるOIM(Orientation Imaging. Microscopy、TM)像により確認した。グレースケールにしたOIM像を図3に示す。OIM像は、本来カラー像であり、異なる結晶面を異なる色調で表すものである。図3はグレースケールであるため判別困難であるが、Si薄膜(A)は、(a)に示すND方向において(001)、(b)に示すTD方向において(101)が強く配向しており、良好な結晶配向性を有することが確認できた。
【0054】
[結晶性Si薄膜(B)の製造]
まず、基板としてSiウエハ(nタイプ、<100>配向−1°off、25mm×40mm×0.55mmの矩形基板)を準備した。次いで、その基板上に下側のSiO薄膜を、Cold Wall CVD法により形成した。このCVD法は、原料ガスとしてNで希釈されたテトラエトキシシラン(TEOS)を用い、原料ガス分圧約1Torr、全圧20Torr、基板温度800℃、原料ガス温度55℃、原料ガス流量0.42sccmの条件で、1時間行われた。
【0055】
次に、下側のSiO薄膜の表面上にアモルファス性Si薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99%のシリコンディスク(Furuuchi chemical co.社製)を用い、Ar雰囲気、5×10−3Torr、RF電源出力400Wの条件で10分間行われた。得られたアモルファス性Si薄膜の膜厚は0.1μmであった。
【0056】
続いて、アモルファス性Si薄膜の表面上に、上側のSiO薄膜を、Cold Wall CVD法により積層した。CVDは、下側のSiO薄膜の形成時と同様の条件で、1.5時間行われた。こうして積層体を得た。
【0057】
得られた積層体に対して、図2に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、結晶性Si薄膜(A)を製造する際と同様に溶融冷却を施して、結晶性Si薄膜(B)を得た。
【0058】
[結晶化Si薄膜(B)の結晶配向性確認]
得られた結晶性Si薄膜(B)を、EBSP法によって得られるOIM(Orientation Imaging. Microscopy、TM)像により確認した。結晶性Si薄膜(B)は、ND方向及びTD方向とも、結晶性Si薄膜(A)よりも低い結晶配向性を有することが確認できた。
【0059】
[結晶性Si薄膜(C)の製造]
まず、基板としてSiウエハ(nタイプ、<100>配向−1°off、25mm×40mm×0.55mmの矩形基板)を準備した。次いで、その基板上に下側のSiO薄膜を、Cold Wall CVD法により形成した。このCVD法は、原料ガスとしてNで希釈されたテトラエトキシシラン(TEOS)を用い、原料ガス分圧約1Torr、全圧20Torr、基板温度900℃、原料ガス温度55℃、原料ガス流量0.42sccmの条件で、1時間行われた。
【0060】
次に、下側のSiO薄膜の表面上にアモルファス性Si薄膜を、RFマグネトロンスパッタリング法により形成した。このスパッタリングは、ターゲットとして、純度99.99%のシリコンディスク(Furuuchi chemical co.社製)を用い、Ar雰囲気、5×10−3Torr、RF電源出力400Wの条件で30分間行われた。得られたアモルファス性Si薄膜の膜厚は0.3μmであった。
【0061】
続いて、アモルファス性Si薄膜の表面上に、上側のSiO薄膜を、Cold Wall CVD法により積層した。CVDは、下側のSiO薄膜の形成時と同様の条件で、1.5時間行われた。こうして積層体を得た。
【0062】
得られた積層体に対して、図2に示したものと同様の構成を備えるZMC装置を用いて、結晶性Si薄膜(A)を製造する際と同様に溶融冷却を施して、結晶性Si薄膜(C)を得た。
【0063】
[結晶化Si薄膜(C)の結晶配向性確認]
得られた結晶性Si薄膜(C)を、EBSP法によって得られるOIM(Orientation Imaging. Microscopy、TM)像により確認した。グレースケールにしたOIM像を図4に示す。結晶性Si薄膜(C)は、(a)に示すND方向並びに(b)に示すTD方向とも、様々な結晶面が混在しており、結晶性Si薄膜(A)よりも低い結晶配向性を有することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施形態に係る積層体の模式断面図である。
【図2】実施形態の溶融冷却工程において使用できるZMC装置の概略斜視図である。
【図3】実施例に係る結晶性Si薄膜のOIM像である。
【図4】実施例に係る結晶性Si薄膜のOIM像である。
【符号の説明】
【0065】
200…積層体、210…基板、220、240…絶縁膜、230…原料薄膜、300…ZMC装置、310…筐体、320…下部ヒーター、330…支持台、340…石英プレート、350…ラインヒーター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に酸化ケイ素からなる薄膜で挟まれている、実質的にケイ素からなるアモルファス性薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融した後に冷却して、前記アモルファス性薄膜を結晶性薄膜に変換する溶融冷却工程と、
前記溶融冷却工程に先立って、前記アモルファス性薄膜の膜厚を、前記結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整するケイ素膜厚調整工程と、を有する結晶性ケイ素薄膜の製造方法。
【請求項2】
実質的に酸化ケイ素からなる薄膜で挟まれている、実質的にケイ素からなるアモルファス性薄膜を、ゾーンメルティング法によって溶融した後に冷却して、前記アモルファス性薄膜を結晶性薄膜に変換する溶融冷却工程と、
前記溶融冷却工程に先立って、前記酸化ケイ素からなる薄膜の膜厚を、前記結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整する酸化ケイ素膜厚調整工程と、を有する結晶性ケイ素薄膜の製造方法。
【請求項3】
前記溶融冷却工程に先立って、前記アモルファス性薄膜の膜厚を、前記結晶性薄膜の結晶配向性が向上するように調整するケイ素膜厚調整工程を更に有する、請求項2記載の結晶性ケイ素薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−300028(P2007−300028A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−128620(P2006−128620)
【出願日】平成18年5月2日(2006.5.2)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】