説明

結晶成長方法、結晶成長装置、及び半導体デバイス

【課題】成長結晶表面の平坦性を向上し得る結晶成長方法、結晶成長装置、及び半導体デバイスを提供する。
【解決手段】反応容器4内の原料液L中に基板6を浸漬し、反応容器4に原料ガスGを供給することにより原料液Lと原料ガスGとを反応させ、反応による原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶7を基板6上に成長させる。結晶成長が進むにつれて、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させる原料ガス濃度減少手段としての例えば、下降する基板台21が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LD(Laser Diode :レーザーダイオード)やLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)等の発光デバイス等に用いられる材料の結晶を成長させる結晶成長方法、結晶成長装置、及び半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
LD(Laser Diode :レーザーダイオード)やLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)の材料には、III 族元素窒化物(例えばGaN(窒化ガリウム))結晶が用いられている。上記III 族元素窒化物(例えばGaN(窒化ガリウム))結晶は、基板として用いるためのバルク状の結晶を安く製造することができないため、一般に、基板としてサファイア基板を用い、この基板の上に気相エピタキシャル成長法等によって、III 族元素窒化物結晶をヘテロエピタキシャル成長させている。
【0003】
ところで、サファイア基板上にGaN(窒化ガリウム)結晶薄膜を成長させると、GaN(窒化ガリウム)とサファイアとの間の格子定数のミスマッチのため転位等の多くの欠陥がエピタキシャル層に導入される。得られる窒化物結晶の転位密度は、一般に約10個/cm〜10個/cmであることから、気相エピタキシャル成長法においては、転位密度を減少させることが重要な課題となっている。
【0004】
この課題を解決するための方法として、特許文献1に記載のELOG(Epitaxial lateral over growth )法や、特許文献2に記載のファセット成長法等が開発されている。これらの方法によれば、転位密度を10個/cm〜10個/cm程度まで下げることができる。しかし、結晶作製工程が複雑であるという別の問題がある。
【0005】
一方、気相エピタキシャル成長法ではなく、液相で結晶成長させる方法も検討されている。しかしながら、GaNやAlN(窒化アルミニウム)等のIII 族元素窒化物結晶は、融点における窒素の平衡蒸気圧が1万気圧以上もあるため、従来は、GaNを液相で成長させるためには、1,200℃(1,473K)、8,000気圧(8,000×1.01325×10Pa)の条件が必要であった。これに対し、特許文献3に記載の、Na(ナトリウム)等のアルカリ金属をフラックスとして用いる方法は、750℃(1,023K)、50気圧(50×1.01325×10Pa)という比較的低温低圧下にてGaN結晶を作製することができる。
【0006】
また、サファイア基板上に有機金属気相成長法(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition )によってGaN結晶層を成膜した種結晶を用いる方法もある。特許文献4及び非特許文献1には、GaN種結晶上にNaフラックス法によってGaN結晶を液相成長(LPE:Liquid Phase Epitaxy )させる方法についての報告がある。この方法によって作製した結晶の転位密度は、10個/cm 〜10個/cm程度であり、転位密度の小さな結晶が得られる。
【特許文献1】特開平11−145516号公報(1999年5月28日公開)
【特許文献2】特開2001−102307号公報(2001年4月13日公開)
【特許文献3】米国特許5868837号(1999年2月9日特許)
【特許文献4】WO2004/013385号公報(2004年2月12日公開)
【非特許文献1】Fumio Kawamura, Tomoya Iwahashi, Kunimichi Omae, Masanori Morishita, Masashi Yoshimura,Yusuke Mori and Takatomo Sasaki, 「Growth of a Large GaN Single Crystal Using the Liquid Phase Epitaxy (LPE) Technique」, Jpn. J. Appl. Phys., Vol 42, (2003) pp4-6
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、本発明者らは、数十μm程度の薄くて高品質の成長結晶を得るために、原料液を少なくして結晶成長を行う技術を開発している。成長結晶厚が薄いということは原料量が少なくてよいという利点を有すると共に、必然的に原料液が少なくなり、原料液が少ないことによって、気液界面と結晶成長面との距離が短くなることから、気相から気液界面を介して原料液中に溶解した原料ガスが結晶成長面にたどり着くことが容易になり、結晶成長速度が著しく向上するという利点がある。
【0008】
しかしながら、この原料液が少ない状態で結晶成長させて得た成長結晶の表面は凹凸が大きく、平坦性が悪いことが大きな問題であった。
【0009】
この原因を解明すべく、研究を重ねた結果、以下のことが明らかとなった。
【0010】
すなわち、図7(a)(b)に示すように、結晶成長が進むにつれて、気液界面PBと結晶成長面CGFとの距離が短くなっていく。気液界面PBと結晶成長面CGFとの距離が短くなると、原料ガスGの原料液Lへの拡散時間が短くなり、成長速度が大きくなっていくが、原料液Lが少ない状態で結晶成長させた場合ではこの効果が顕著になる。つまり、原料液Lが少ない状態の結晶成長では、結晶成長が進むにつれて、結晶成長速度が大幅に増加する。
【0011】
結晶成長速度が大きい場合、原料物質が成長面を十分に拡散する前に結晶成長することになり、成長表面に凹凸ができ易くなる。さらに、凹凸ができてしまうと、気液界面PBに近い凸部が優先的に成長するため、凹凸を解消するどころか凹凸が強調されるように成長してしまう。
【0012】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、成長結晶表面の平坦性を向上し得る結晶成長方法、結晶成長装置、及び半導体デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の結晶成長方法は、上記課題を解決するために、反応容器内の原料液中に基板を浸漬し、該反応容器に原料ガスを供給することにより原料液と原料ガスとを反応させ、該反応による原料液と原料ガスとの化合物の結晶を基板上に成長させる結晶成長方法において、結晶成長が進むにつれて、上記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させることを特徴としている。
【0014】
本発明の結晶成長装置は、上記課題を解決するために、反応容器内の原料液中に基板を浸漬し、該反応容器に原料ガスを供給することにより原料液と原料ガスとを反応させ、該反応による原料液と原料ガスとの化合物の結晶を基板上に成長させる結晶成長装置において、結晶成長が進むにつれて、上記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させる原料ガス濃度減少手段が設けられていることを特徴としている。
【0015】
尚、結晶成長が進むとは、結晶成長を行う所望の温度、圧力に達してから時間が経過していることを意味している。
【0016】
上記の発明によれば、結晶成長が進むにつれて、基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させることにより、結晶成長速度を低下させることができる。そして、結晶成長速度が低下することにより、原料ガスが原料液中に十分に拡散することができるため、基板上の結晶は平坦性を保ったまま成長することができる。また、基板上の結晶に凹凸がある場合でも、結晶における凹部の原料液中にまで原料ガスが拡散することができ、凹凸を解消するように成長することができるため、平坦性が向上する。
【0017】
したがって、成長結晶表面の平坦性を向上し得る結晶成長方法、結晶成長装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明の結晶成長方法では、前記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させるために、上記基板の位置を下方へ移動させて原料液上面と基板表面との距離を大きくすることが好ましい。
【0019】
また、本発明の結晶成長装置では、前記原料ガス濃度減少手段は、上記基板の位置を下方へ移動させて原料液上面と基板表面との距離を大きくする基板高さ下降手段からなっていることが好ましい。
【0020】
発明者らは、図3に示すように、原料液内においては結晶成長面から気液界面までの距離が大きいほど、原料ガス濃度が小さいことを明らかにした。これは気液界面から原料液中に溶解した原料ガスの拡散する速度が遅いため、このような濃度分布になっていると考えられる。
【0021】
このため、基板の位置を下方へ移動させて気液界面の位置である原料液上面と基板表面との距離を大きくすることによって、基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させることができ、結晶成長速度を減少させることができる。また、このとき、原料液の量は一定とすることができる。
【0022】
また、本発明の結晶成長方法では、前記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させるために、原料液量を増加させて原料液上面と基板表面との距離を大きくすることが好ましい。
【0023】
これにより、原料液量を増加させて原料液上面と基板表面との距離を大きくすることによって、複雑な機構を用いずに、基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させることができる。
【0024】
また、本発明の結晶成長方法では、前記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させるために、原料ガス圧力を低下させることが好ましい。
【0025】
また、本発明の結晶成長方法では、前記原料ガス圧力を低下させることを、前記原料ガスの供給を停止しての反応容器内の原料ガスの消費によって行うことが好ましい。
【0026】
また、本発明の結晶成長装置では、前記原料ガスを供給する原料ガス供給手段が設けられていると共に、上記原料ガス供給手段は、結晶成長時に反応容器への原料ガスの供給を停止し又は原料ガスの供給量を低減させる原料ガス供給量調整手段を備えていることが好ましい。
【0027】
これにより、結晶成長時に反応容器への原料ガスの供給量を低減させることによって、原料ガス圧力が低くなり、原料液中に溶解する原料ガス濃度を減少することができる。
【0028】
尚、温度を低下させても原料液中に溶解する原料ガス濃度は減少するが、原料ガスが原料液中を拡散する速度も低下することにもなるため、効果的ではない。
【0029】
また、本発明の結晶成長方法及び結晶成長装置では、結晶成長時に反応容器への原料ガスの供給を停止することによって、結晶成長中は原料ガスを外部から供給せずに、成長開始前に反応容器内に溜め込んだ原料ガスのみで結晶成長を行うことが可能である。
【0030】
これにより、結晶成長が進むにつれて反応容器内の原料ガスが結晶成長に使用されることにより、原料ガスの圧力が徐々に低下していくため、複雑な操作をせずに、原料ガスの圧力を変化させることができる。詳細には、基板の表面近傍における原料液中に溶解する原料ガス濃度を減少させることができる。
【0031】
すなわち、成長温度、成長圧力及び成長時間等の成長条件、反応容器の内容積、原料液の量、並びに基板面積を一定にすることにより、原料ガスの圧力の低下速度及び低下量を一定にすることができ、再現性が著しく向上する。
【0032】
また、本発明の結晶成長方法では、前記原料ガスが窒素を含み、かつ、前記原料液がIII 族元素を含むことが好ましい。
【0033】
これにより、原料ガス中の窒素と原料液中のIII 族元素とを反応させて、III 族元素窒化物結晶を製造することができる。
【0034】
また、本発明の結晶成長方法では、前記原料液が、アルカリ金属を含有するフラックスを含むことが好ましい。
【0035】
これにより、原料液に含まれるアルカリ金属によって、成長温度及び成長雰囲気の圧力を低減することができる。そのため、より簡便に結晶を得ることができる。
【0036】
すなわち、例えば、GaNやAlN(窒化アルミニウム)等のIII 族元素窒化物結晶は、融点における窒素の平衡蒸気圧が1万気圧以上もあるため、従来は、GaNを液相で成長させるためには、1,200℃(1,473K)、8,000気圧(8,000×1.01325×10Pa)の条件が必要であった。
【0037】
これに対し、Na(ナトリウム)等のアルカリ金属をフラックスとして用いる方法は、750℃(1,023K)、50気圧(50×1.01325×10Pa)という比較的低温低圧下にてGaN結晶を作製することができる。
【0038】
また、本発明の結晶成長装置では、前記原料液の体積をv(cm)としたときの該反応容器の内容積V(cm )は、結晶成長時に反応容器への原料ガスの供給を停止した場合には、
370×v ≦ V ≦ 3700×v
で表されることが好ましい。
【0039】
この範囲の反応容器の内容積であれば、結晶成長が進むにつれて、より効率的に原料ガス濃度が低下し、より平坦な結晶を得ることができる。
【0040】
本発明の半導体デバイスは、上記課題を解決するために、上記記載の結晶成長方法によって製造された結晶、又は上記記載の結晶成長装置によって製造された結晶を有することを特徴としている。
【0041】
上記の発明によれば、本発明の結晶成長方法又は結晶成長装置によって製造された低コストかつ高品質な結晶上に半導体デバイスを作製する。したがって、成長結晶表面の平坦性を向上し得る半導体デバイスを提供することができる。
【0042】
また、最終製品である半導体デバイスのコストパフォーマンスを大幅に向上させることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の結晶成長方法は、以上のように、結晶成長が進むにつれて、上記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させる方法である。
【0044】
また、本発明の結晶成長装置は、以上のように、結晶成長が進むにつれて、上記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させる原料ガス濃度減少手段が設けられているものである。
【0045】
また、本発明の半導体デバイスは、以上のように、上記記載の結晶成長方法によって製造された結晶、又は上記記載の結晶成長装置によって製造された結晶を有するものである。
【0046】
それゆえ、成長結晶表面の平坦性を向上し得る結晶成長方法、結晶成長装置、及び半導体デバイスを提供するという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の一実施形態について図1ないし図6に基づいて説明すれば、以下の通りである。
【0048】
本実施の形態における結晶成長方法の説明においては、結晶成長装置の構成、結晶成長装置を用いた結晶成長方法、及び結晶成長方法によって得られる半導体デバイスの順に説明を行う。
【0049】
(結晶成長装置)
図2は、本実施の形態の結晶成長装置1を示す断面図である。図2に示すように、結晶成長装置1は、耐熱耐圧容器2と、加熱装置3と、反応容器4と、原料ガス供給手段としての原料ガス供給部10とを備えている。
【0050】
結晶成長装置1は、原料液Lと原料ガスGとの反応によって化合物の結晶を成長させる装置である。具体的には、反応容器4内の原料液Lと、原料ガス供給部10から供給された原料ガスGとを加熱装置3によって加熱して反応させ、基板6上に原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶を成長させる。
【0051】
図2に示すように、反応容器4は、一部が開口した状態であり、耐熱耐圧容器2の内部に設置されている。反応容器4としては、例えばアルミナ製坩堝が挙げられる。反応容器4の内部には、基板6上に原料液Lが配置される。原料ガス供給部10によって供給された原料ガスGと原料液Lとが反応することによって、基板6上に原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶7が得られる。
【0052】
耐熱耐圧容器2としては、SUS(ステンレス鋼)製容器等が挙げられる。耐熱耐圧容器2は密閉蓋5を設けており、密閉蓋5を開くと、反応容器4を容易に耐熱耐圧容器2の内部に配置できる。また、密閉蓋5を閉じると、耐熱耐圧容器2を密閉できる。
【0053】
加熱装置3としては、例えば電気炉等の従来公知の加熱装置が挙げられる。加熱装置3は、耐熱耐圧容器2の外側に設けられている。加熱装置3によって耐熱耐圧容器2を加熱すると、反応容器4も加熱できる。尚、加熱装置3は、必ずしも耐熱耐圧容器2の外側に設置しなくてもよい。すなわち、例えば、加熱装置3を、耐熱耐圧容器2と反応容器4との間に設置してもよいし、耐熱耐圧容器2又は反応容器4に一体化してもよい。
【0054】
また、加熱装置3は、反応容器4内の温度を成長温度以上に上げて、任意の時間保持できる。
【0055】
このように、反応容器4内部の温度を、加熱装置3を用いて成長温度にすると、原料液Lと原料ガスGとの反応が促進するため、結晶7を効率よく得ることができる。
【0056】
一方、原料ガス供給部10は、原料ガス供給装置11、原料ガス供給量調整手段としての圧力調整器12、及び接続パイプ13を備えている。
【0057】
圧力調整器12は、成長雰囲気の圧力を調整すると共に、原料ガスGの供給を停止するものであり、例えば、圧力センサー及び圧力調整弁等を備えた構成が挙げられる。圧力調整器12は、耐熱耐圧容器2を密閉することによって、内部の原料ガスGの圧力を調整できる。
【0058】
接続パイプ13は、加熱装置3を貫通して耐熱耐圧容器2内部に至り、原料ガス供給装置11から耐熱耐圧容器2に原料ガスGを供給する。ここで、反応容器4の一部が開口しているため、耐熱耐圧容器2内に供給した原料ガスGは反応容器4内にも供給される。
【0059】
このように、原料ガス供給部10を用いることによって、耐熱耐圧容器2の内部を原料ガスGの雰囲気下(加圧雰囲気)にできる。
【0060】
尚、上述したように、耐熱耐圧容器2内に供給した原料ガスGは、反応容器4内にも供給される。このため、耐熱耐圧容器2内の原料ガスGの圧力と反応容器4内部の原料ガスGの圧力とは等しくなっている。
【0061】
したがって、圧力調整器12によって、反応容器4内部の圧力を成長雰囲気の圧力よりも高く又は低くできる。また、それらの圧力をそれぞれ任意の時間保持することができる。このように、反応容器4内部の圧力を、圧力調整器12を用いて成長雰囲気の圧力にすることによって、原料液Lと原料ガスGとの反応が促進するため、結晶7を効率よく得ることができる。
【0062】
結晶成長装置1は、例えば以下の方法によって製造できる。まず、従来公知の方法を用いて耐熱耐圧容器2の外側に加熱装置3を配置する。その後、接続パイプ13の一方を、加熱装置3を貫通させて耐熱耐圧容器2内部に至るように接続し、接続パイプ13の他方を、圧力調整器12を介して原料ガス供給装置11と接続する。このようにして、結晶成長装置1を製造することができる。
【0063】
図1に基板6の位置を、原料ガス濃度減少手段及び基板高さ下降手段としての基板台21によって上下方向に移動させることのできる上記結晶成長装置1の一例を示す。基板高さ下降手段としては、このような基板台21を昇降できる機構でもよいし、上からワイヤー等で基板台21を吊り下げ、昇降できるようにしてもよい。
【0064】
また、図4には原料液Lを結晶成長時に追加することによって、基板6と気液界面PBとの距離を大きくすることのできる上記結晶成長装置1の一例を示している。原料ガス濃度減少手段としてのディスペンサ22と呼ばれる原料液追投入手段を設置していることが好ましいが、原料ガス濃度減少手段及び原料液追投入手段として、原料金属及びフラックスを固体のまま投入できる機構であってもよい。
【0065】
また、結晶成長装置1は、原料ガス供給量調整手段の機能として、結晶成長時には原料ガス供給部10を切り離すことができる。具体的には、圧力調整器12にて、原料ガスGの供給を停止することができる。尚、停止弁を設けることも可能である。
【0066】
尚、本発明では、上記原料ガス濃度減少手段及び基板高さ下降手段としての基板台21と、原料ガス供給量調整手段の機能としての原料ガスGの停止又はガス圧力の低下は、両方行ってもよく、又はいずれか一方のみを行ってもよい。
【0067】
(結晶成長方法)
次に、結晶成長装置1を用いた結晶成長方法について説明する。
【0068】
結晶成長方法とは、上述したように、図2に示す反応容器4内の原料液Lと原料ガス供給部10から供給された原料ガスGとを、加熱装置3によって加熱して反応させ、基板6上に原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶を成長させる方法である。
【0069】
上記原料液Lは、原料金属を融解することによって得られるものである。具体的には、反応容器4内部に原料金属を入れ、加熱装置3によって加熱すると得られる。原料金属としては、例えばIII 族元素等がある。このIII 族元素には、例えば、ガリウム(Ga)、アルミニウム(Al)、インジウム(In)、及びタリウム(Tl)等が挙げられる。その中でも、半導体素子の材料として好適に用いることができるため、原料金属にはガリウムが好ましい。
【0070】
尚、本実施の形態の結晶成長方法においては、反応容器4内部に、さらにフラックスを加えることがより好ましい。フラックスとしては、例えばアルカリ金属、又はアルカリ土類金属等が挙げられる。
【0071】
すなわち、例えば、GaNやAlN(窒化アルミニウム)等のIII 族元素窒化物結晶は、融点における窒素の平衡蒸気圧が1万気圧以上もあるため、従来は、GaNを液相で成長させるためには、1,200℃(1,473K)、8,000気圧(8,000×1.01325×10Pa)の条件が必要であった。
【0072】
これに対し、Na(ナトリウム)等のアルカリ金属をフラックスとして用いる方法は、750℃(1,023K)、50気圧(50×1.01325×10Pa)という比較的低温低圧下にてGaN結晶を作製することができる。
【0073】
本実施の形態では、反応容器4の内部にフラックスを加え、加熱装置3を用いて、反応容器4の温度が原料金属及びフラックスの融点以上になるように加熱する。これによって、原料金属とフラックスとが融解した、原料液Lが得られる。このフラックスは、結晶7の成長温度及び成長雰囲気の圧力を低減させるという効果を奏するため、より簡便に結晶7を得ることができる。
【0074】
尚、フラックスとして用いられるアルカリ金属としては、例えば、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、及びセシウム(Cs)等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、及びラジウム(Ra)等が挙げられる。これらアルカリ金属及びアルカリ土類金属の種類は特に限定されず、単独又は2種以上を併用して使用できる。
【0075】
原料ガスGとしては、例えば窒素等を含有しているガスがある。窒素を含有しているガスには、窒素(N)ガス、及びアンモニア(NH )ガス等が挙げられる。これらのガスは単独又は混合して用いることができる。
【0076】
基板6としては、サファイアが熱安定性、化学安定性の観点から適しているが、シリコンや炭化珪素等も使用することができる。
【0077】
結晶成長工程の手順は以下の通りである。
【0078】
まず、反応容器4内部に所定の量だけ秤量した原料金属と基板6とを入れる。また、必要に応じてフラックスとなる物質を入れる。
【0079】
例えば、原料金属としてIII 族元素を用い、フラックスとしてアルカリ金属、原料ガスGとして窒素を含有するガスを用い、さらに、基板6としてサファイア基板を用いることによって、サファイアの基板6上にIII 族元素窒化物結晶を成長させることができる。
【0080】
次に、耐熱耐圧容器2の密閉蓋5を開けて、耐熱耐圧容器2の内部に反応容器4を設置する。その後、密閉蓋5を閉じることによって耐熱耐圧容器2を密閉し、耐熱耐圧容器2の内部を外部雰囲気から遮断する。
【0081】
次に、加熱装置3を用いて、反応容器4の温度が成長温度になるまで昇温させる。また、原料ガスGを、原料ガス供給部10の原料ガス供給装置11から接続パイプ13を介して、耐熱耐圧容器2内に供給する。さらに、圧力調整器12を用いて、反応容器4内部を成長圧力にする。
【0082】
成長温度を一定時間保持することによって、原料液Lと原料ガスGとが反応して、原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶を成長させることができる。尚、成長温度は、成長する結晶7の種類に応じて最適なものを適宜選択すればよい。
【0083】
また、成長圧力を一定時間保持することによって、原料液Lと原料ガスGとが反応して原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶をより効率よく成長させることができる。成長圧力は、成長する結晶7の種類に応じて最適な圧力を適宜選択すれば良い。
【0084】
このように、成長温度及び成長圧力を一定時間保持することによって原料液Lと原料ガスGとが反応し、基板6上に原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶7が成長していく。
【0085】
ここで、本実施の形態では、結晶成長が進むにつれて、基板6上の原料ガス濃度を減少させるようにしている。その理由は、図3に示すように、上記気液界面PBからの距離が大きいほど、原料ガス濃度が小さいためである。これは気液界面PBで原料液L中に溶解した原料ガスの拡散する速度が遅いため、このような濃度分布になっていると考えられる。
【0086】
結晶成長が進むにつれて、基板6上の原料ガス濃度を減少させる方法としては、例えば、図1に示すように、基板台21を下降させることによって、気液界面PBと基板6との距離を大きくする方法を採用することができる。また、図4に示すように、ディスペンサ22を用いて原料液Lを追加することによっても、気液界面PBと基板6との距離を大きくすることができる。
【0087】
気液界面PBと基板6との距離を大きくする速度は特に限定しないが、所望の結晶厚み近くまで成長させた後に、距離を大きくさせることが好ましい。例えば結晶成長工程の全時間の4分の3は結晶が効率よく成長できる距離で保持し、残り4分の1について距離を大きくして平坦化工程とすると効率よく平坦性のよい結晶が得られる。
【0088】
また、基板6上の原料ガス濃度を減少させる方法として、結晶成長前に供給した原料ガスGのみで成長を行うこともできる。つまり、成長温度に達した後、所望の原料ガス圧力にした後は、原料ガスGを供給しない。
【0089】
結晶7が所望の大きさに成長した後に、結晶7の温度が室温になるまで冷却する。冷却の方法としては、例えば、結晶成長装置1を室温に放置する方法や、クーラー等の従来公知の冷却手段を用いる方法等を適用できる。
【0090】
結晶7を冷却した後に、耐熱耐圧容器2の密閉蓋5を開いて、反応容器4から結晶7を有する基板6を取り出す。このとき、反応容器4内部には原料液Lの固化した塊があるため、この塊を除去する。除去する方法としては、例えば、水、エタノール及び塩酸等の溶液に浸漬する方法がある。
【0091】
(半導体デバイス)
次に、本実施の形態の結晶成長方法によって得られた結晶7を用いた、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)について図5及び図6を用いて説明する。図5は、LEDの中間部材を示す断面図であり、図6はLEDを示す断面図である。
【0092】
図5に示すように、LEDの中間部材は、基板6、GaN結晶層7a、n型コンタクト層8a、活性層8b、p型ブロック層8c、及びp型コンタクト層8dによって構成されている。基板6上には上述した結晶成長方法によって得られた、結晶7であるGaN結晶層7aが形成されている。さらに、GaN結晶層7a上には、従来の製造方法によって、窒化物半導体層が形成されている。例えば、MOCVD装置を用いて、n型コンタクト層8a、活性層8b、p型ブロック層8c、及びp型コンタクト層8dが順次形成される。
【0093】
次に、図6に示すように、LEDの構成は、上述したLEDの中間部材の構成において、基板6及びGaN結晶層7aが取り除かれ、積層8eと金属基板8fとが加えられている。
【0094】
すなわち。図6に示すように、p型コンタクト層8d上には積層8eが形成される。この積層8eは、p側電極、光反射層、及び接着層からなる。さらに、積層8e上に金属基板8fを接着させた後、図5に示す基板6を剥離し、剥離面を整えるためにGaN結晶層7aの一部を研磨する。その後、GaN結晶層7aの下に、n側電極8gを形成することによって、図6に示すLED素子8が構成される。
【0095】
本実施の形態の結晶成長方法によって得られた結晶7を用いた本実施の形態のLED素子8は、GaN結晶層7aの転位密度が小さいために、活性層8bへの転位密度も小さくなり、発光強度が大きくなる。
【0096】
尚、本実施の形態の結晶成長方法によって得られた結晶7は、LED(発光ダイオード)の他にもLD(Laser Diode :レーザーダイオード)等の発光デバイス、高出力IC、又は高周波IC等の電子デバイスにも適用できる。
【0097】
このように、本実施の形態の結晶成長方法及び結晶成長装置1は、反応容器4内の原料液L中に基板6を浸漬し、反応容器4に原料ガスGを供給することにより原料液Lと原料ガスGとを反応させ、該反応による原料液Lと原料ガスGとの化合物の結晶7を基板6上に成長させる。そして、結晶成長が進むにつれて、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させる原料ガス濃度減少手段が設けられている。
【0098】
尚、結晶成長が進むとは、結晶成長を行う所望の温度、圧力に達してから時間が経過していることを意味している。
【0099】
これにより、結晶成長が進むにつれて、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させることにより、結晶成長速度を低下させることができる。そして、結晶成長速度が低下することにより、原料ガスGが原料液L中に十分に拡散することができるため、基板6上の結晶7は平坦性を保ったまま成長することができる。また、基板6上の結晶7に凹凸がある場合でも、結晶7における凹部の原料液中にまで原料ガスGが拡散することができ、凹凸を解消するように成長することができるため、平坦性が向上する。
【0100】
したがって、成長結晶表面の平坦性を向上し得る結晶成長方法及び結晶成長装置1を提供することができる。
【0101】
すなわち、従来は原料液Lの量が多く、圧力変動に対して、成長速度の変化が鈍感であった。これに対して、原料液量を少なくして、気液界面PBと基板面との距離を短くしたときに、このような効果が初めて明らかになった。
【0102】
また、本実施の形態の結晶成長方法及び結晶成長装置1では、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させるために、基板6の位置を下方へ移動させて原料液上面つまり気液界面PBと基板6の表面との距離を大きくする基板高さ下降手段である基板台21を備えている。
【0103】
このため、基板6の位置を下方へ移動させて気液界面PBの位置である原料液上面と基板表面との距離を大きくすることによって、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させることができ、結晶成長速度を減少させることができる。また、このとき、原料液Lの量は一定とすることができる。
【0104】
また、本実施の形態の結晶成長方法では、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させるために、ディスペンサ22にて、原料液量を増加させて原料液上面と基板表面との距離を大きくすることが可能である。
【0105】
このように、原料液量を増加させて原料液上面と基板表面との距離を大きくすることによって、複雑な機構を用いずに、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させることができる。
【0106】
また、本実施の形態の結晶成長方法では、基板6の表面近傍における原料液L中の原料ガス濃度を減少させるために、原料ガス圧力を低下させることが可能である。
【0107】
また、本実施の形態の結晶成長方法では、原料ガス圧力を低下させることを、原料ガスGの供給を停止しての反応容器4内の原料ガスGの消費によって行うことができる。
【0108】
また、本実施の形態の結晶成長装置1では、原料ガスGを供給する原料ガス供給手段としての原料ガス供給部10が設けられていると共に、原料ガス供給部10は、結晶成長時に反応容器4への原料ガスGの供給を停止し又は原料ガスGの供給量を低減させる原料ガス供給量調整手段としての圧力調整器12を備えている。
【0109】
これにより、結晶成長時に反応容器4への原料ガスGの供給量を低減させることによって、原料ガス圧力が低くなり、原料液L中に溶解する原料ガス濃度を減少することができる。
【0110】
尚、温度を低下させても原料液L中に溶解する原料ガス濃度は減少するが、原料ガスが原料液中を拡散する速度も低下することにもなるため、効果的ではない。
【0111】
また、結晶成長時に反応容器4への原料ガスGの供給を停止することによって、結晶成長中は原料ガスGを外部から供給せずに、成長開始前に反応容器4内に溜め込んだ原料ガスGのみで結晶成長を行うことが可能である。
【0112】
これにより、結晶成長が進むにつれて反応容器4内の原料ガスGが結晶成長に使用されることにより、原料ガスGの圧力が徐々に低下していくため、複雑な操作をせずに、原料ガスGの圧力を変化させることができる。詳細には、基板6の表面近傍における原料液L中に溶解する原料ガス濃度を減少させることができる。
【0113】
すなわち、成長温度、成長圧力及び成長時間等の成長条件、反応容器の内容積、原料液の量、並びに基板面積を一定にすることにより、原料ガスGの圧力の低下速度及び低下量を一定にすることができ、再現性が著しく向上する。
【0114】
また、本実施の形態の結晶成長装置1では、原料ガスGを供給する原料ガス供給手段としての原料ガス供給部10が結晶成長時に反応容器4と分離されている。つまり、圧力調整器12で原料ガスGの供給を停止することにより、原料ガス供給装置11と反応容器4とが切り離されている。
【0115】
これにより、結晶成長前に反応容器4内に供給した原料ガスGのみで結晶成長を行うことができ、容易に結晶成長が進むにつれて原料ガス濃度を減少させることができる。また、このように原料ガス供給部10と反応容器4とを分離することによって、反応容器4を複数個使用する際に、1つの原料ガス供給部10を用意するだけでよく、生産性、安全性の観点からも好ましい。
【0116】
また、本実施の形態の結晶成長方法では、原料ガスGが窒素を含み、かつ、原料液LがIII 族元素を含んでいる。
【0117】
これにより、原料ガスG中の窒素と原料液L中のIII 族元素とを反応させて、III 族元素窒化物結晶を製造することができる。
【0118】
また、本実施の形態の結晶成長方法では、原料液Lが、アルカリ金属を含有するフラックスを含んでいる。
【0119】
これにより、原料液Lに含まれるアルカリ金属によって、成長温度及び成長雰囲気の圧力を低減することができる。そのため、より簡便に結晶を得ることができる。
【0120】
また、本実施の形態の結晶成長装置1では、原料液Lの体積をv(cm)としたときの反応容器4の内容積V(cm )は、結晶成長時に反応容器4への原料ガスGの供給を停止した場合には、
370×v ≦ V ≦ 3700×v
の関係を満たす。
【0121】
すなわち、この範囲の反応容器の内容積であれば、結晶成長が進むにつれて、より効率的に原料ガス濃度が低下し、より平坦な結晶を得ることができることが実験により確認できた。
【0122】
尚、反応容器4の内容積Vが370×vよりも小さい場合、結晶成長が進むにつれて、原料ガス圧力が成長初期から1MPa以上低下することになり、原料液L中の原料ガス濃度が大幅に低下してしまう。この場合、成長が進み難くなり、結晶7が平坦化するまでに時間がかかりすぎて好ましくない。
【0123】
一方、反応容器4の内容積が3700×vよりも大きい場合、原料ガス圧力が成長初期から0.1MPa以下しか低下しないため、原料液L中の原料ガス濃度が低下し難く、結晶7が平坦化されずに成長が進んでしまうので好ましくない。
【0124】
また、これらの効果の観点を考慮すると、反応容器4の内容積V(cm)は、
1500×v ≦ V ≦ 3500×v
の関係を満たすことがより好ましい。これにより、より効率よく平坦性のよい結晶7を得ることができることが実験により確認できた。
【0125】
また、本実施の形態の半導体デバイスは、本実施の形態の結晶成長方法によって製造された結晶、又は本実施の形態の結晶成長装置1によって製造された結晶7を有する。
【0126】
これにより、本実施の形態の結晶成長方法又は結晶成長装置1によって製造された低コストかつ高品質な結晶7上に半導体デバイスとしてのLED素子8を作製する。したがって、成長結晶表面の平坦性を向上し得る半導体デバイスを提供することができる。
【0127】
また、最終製品である半導体デバイスのコストパフォーマンスを大幅に向上させることができる。
【0128】
尚、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0129】
〔実施例1〕
本発明の一実施例について説明する。尚、以下の実施例は、GaN結晶についての結晶成長の例であるが、他のIII 族元素窒化物結晶も同様にして結晶成長させることができる。
【0130】
本実施例では、図1、図2及び図4に示す結晶成長装置1を用いて、GaN結晶を成長させた。
【0131】
10mm角のサファイアからなる基板6上に、原料液Lとなる金属Ga(100mg)と、フラックスとなるNa(150mg)とを設置し、それらをアルミナ製坩堝からなる反応容器4に入れた。さらに、同量の金属GaとNaとをディスペンサ22内に設置した。
【0132】
そして、反応容器4をSUS製の耐熱耐圧容器2に配置した後、電気炉からなる加熱装置3にセットした。また、窒素ボンベからなる原料ガス供給装置11とSUS製の耐熱耐圧容器2とをSUS製パイプからなる接続パイプ13によって接続した。
【0133】
加熱装置3を加熱して耐熱耐圧容器2内の温度を850℃(1,123K)に調節した。また、圧力調整器12を用いて耐熱耐圧容器2内の窒素雰囲気圧力を40気圧(40×1.01325×10Pa)に調節し、4時間保持してGaN結晶を成長させた。その後、ディスペンサ22から原料液Lを追加し、さらに1時間保持した。
【0134】
結晶成長終了後、耐熱耐圧容器2内の温度を室温まで冷却し、大気開放した後に、反応容器4からGaN結晶を取り出した。取り出した後、GaN結晶表面に付着したNaをエタノール及び水にそれぞれ30分間浸漬させて除去した。さらに、GaN結晶表面に付着した未反応のGa金属及びGa−Na合金を12N塩酸に20分間浸漬させて除去した。
【0135】
これによって、サファイアからなる基板6上に厚さ約50μmのGaN結晶を得ることができる。
【0136】
得られたGaN結晶を走査電子顕微鏡及びX線回折装置によって評価した。得られたGaN結晶は、結晶粒界が随所に見られるものの、無色透明であった。また、結晶成長方向の結晶軸のゆらぎ度合いは小さく、結晶性のよいGaN結晶が得られていることが分かった。また、結晶表面の凹凸差は約100nmと平坦性のよい結晶が得られていた。さらに、この結晶の表面をCMP研磨したが、従来の研磨時間の1/4で平坦な面を得ることができた。
【0137】
次に、このGaN結晶を用いて、図5及び図6に示したと同様の素子構成のLED素子8を作製した。
【0138】
具体的には、GaN結晶層7a上にMOCVD装置を用いて、以下の層を作成した。まず、n型GaNコンタクト層からなるn型コンタクト層8aは、原料はトリメチルガリウムとアンモニアとし、また、ドーパントとしてはシランを用いた。In(インジウム)GaN活性層からなる活性層8bは、n型コンタクト層8aの原料にトリメチルインジウムを加えて成長温度と原料供給量とを変えながら、障壁層と井戸層とを繰り返し積層した。
【0139】
また、その上には、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウム、アンモニアを原料にビスエチルシクロペンタジエニルマグネシウムをドーパントとしたp型Al(アルミニウム)GaNブロック層からなるp型ブロック層8c及びp型GaNコンタクト層からなるp型コンタクト層8dを順次積層した。
【0140】
その後、p型GaNコンタクト層からなるp型コンタクト層8d上にp側電極、光反射層、及び接着層からなる積層8eを形成し、さらに、接着層からなる積層8eにSi(シリコン)基板からなる金属基板8fをリフローによって接着した後、サファイアからなる基板6側からGaN結晶層7aに波長355nmのYAGレーザーを照射することによって、サファイアからなる基板6を剥離した。最後に、GaN結晶層7aの一部を研磨して平坦にし、n側電極8gを形成し、LED素子8を作製した。
【0141】
従来方法、すなわちMOCVD装置を用いてサファイアからなる基板6上にGaNバッファ層を作製したLED素子と本実施例で作製したLED素子8との200mAにおける各発光強度を比較したところ、本実施例のLED素子8は、従来の方法によって作製したLED素子に比べて1.2倍の発光強度を得ることができた。
〔実施例2〕
本実施例では、図1、図2及び図4に示す結晶成長装置1を用いて、GaN結晶を成長させた。実施例1とは、結晶成長時における原料ガスGの供給を停止している点、及び基板6の大きさが異なっている。
【0142】
まず、本実施例では、直径2インチのサファイアからなる基板6上に、原料液Lとなる金属Ga(1.0g)と、フラックスとなるNa(1.5g)とを設置し、それらをアルミナ製坩堝からなる反応容器4に入れた。
【0143】
そして、反応容器4を内容積の350cm(内径8cm、高さ7cm)のSUS製の耐熱耐圧容器2に配置した後、電気炉からなる加熱装置3にセットした。また、窒素ボンベからなる原料ガス供給装置11とSUS製の耐熱耐圧容器2とをSUS製パイプからなる接続パイプ13によって接続した。
【0144】
電気炉からなる加熱装置3を加熱してSUS製の耐熱耐圧容器2内の温度を850℃(1,123K)に調節した。また、圧力調整器12を用いてSUS製の耐熱耐圧容器2内の窒素雰囲気圧力を40気圧(40×1.01325×105Pa)に調節した後、原料ガス供給装置11を耐熱耐圧容器2から切り離して、5時間保持した。
【0145】
結晶成長終了後、SUS製の耐熱耐圧容器2内の温度を室温まで冷却し、大気開放した後に、反応容器4からGaN結晶を取り出した。取り出した後、GaN結晶表面に付着したNaをエタノール及び水にそれぞれ30分間浸漬させて除去した。さらに、GaN結晶表面に付着した未反応のGa金属及びGa−Na合金を12N塩酸に20分間浸漬させて除去した。これによって、サファイアからなる基板6上に厚さ約50μmのGaN結晶を得ることができた。GaN結晶における結晶表面の凹凸差は約80nmと平坦性のよい結晶が得られていた。さらに、この結晶の表面をCMP研磨したが、従来の研磨時間の1/5で平坦な面を得ることができた。
【0146】
さらに、実施例1と同様にLED素子8を作製し、従来方法で作製したLEDと200mAにおける発光強度を比較したところ、本実施例のLED素子8は、従来の方法によって作製したLEDに比べて1.2倍の発光強度を得ることができた。
【0147】
また、本実施例から、原料液Lの体積をv(cm)としたときの反応容器4の内容積V(cm )は、結晶成長時に反応容器4への原料ガスGの供給を停止した場合には、
370×v ≦ V ≦ 3700×v
の関係を満たすときに、効率よく平坦性のよい結晶7を得ることができることがわかった。
【0148】
すなわち、本実施例では、
370×v=370×2.54×2.54×3.14×0.005=37.5
3700×v=370×2.54×2.54×3.14×0.005=375
であり、反応容器4の内容積V(cm)=350cm であり、上式の関係が成立する。
【0149】
尚、反応容器4の内容積Vが370×vよりも小さい場合には、結晶成長が進むにつれて、原料ガス圧力が成長初期から1MPa以上低下することになり、原料液L中の原料ガス濃度が大幅に低下してしまう。この場合、成長が進み難くなり、結晶7が平坦化するまでに時間がかかりすぎて好ましくないことがわかった。
【0150】
一方、反応容器4の内容積が3700×vよりも大きい場合、原料ガス圧力が成長初期から0.1MPa以下しか低下しないため、原料液L中の原料ガス濃度が低下し難く、結晶7が平坦化されずに成長が進んでしまうので好ましくないことがわかった。
【0151】
また、特に、反応容器4の内容積V(cm)が、
1500×v ≦ V ≦ 3500×v
の関係を満たすことによって、より効率よく平坦性のよい結晶7を得ることができることが確認できた。また、この関係は、III 族元素窒化物結晶であるGaN結晶だけではなく、AlN(窒化アルミニウム)等の他のIII 族元素窒化物結晶においても成立することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明は、LD(Laser Diode :レーザーダイオード)やLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)等の発光デバイス等に用いられる材料の結晶を成長させる結晶成長方法、結晶成長装置、及び半導体デバイスに適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】本発明における結晶成長装置の実施の一形態を示す断面図である。
【図2】上記結晶成長装置及び原料ガス供給部の全体構成を示すブロック図である。
【図3】上記結晶成長装置の反応容器内の原料液中における、原料ガス濃度と、結晶成長面から気液界面までの距離との関係を示すグラフである。
【図4】上記結晶成長装置における変形例の構成を示す断面図である。
【図5】上記結晶成長装置にて基板にGaN結晶を形成し、その上に、MOCVD装置を用いて、複数の層を作成したLED素子の形成途中の構成を示す断面図である。
【図6】上記結晶成長装置にて基板にGaN結晶を形成し、その上下に、MOCVD装置を用いて、複数の層を作成したLED素子の構成を示す断面図である。
【図7】(a)は結晶成長前半の気液界面と結晶成長面との関係を示す断面図であり、(b)は結晶成長後半の気液界面と結晶成長面との関係を示す断面図である。
【符号の説明】
【0154】
1 結晶成長装置
2 耐熱耐圧容器
3 加熱装置
4 反応容器
5 密閉蓋
6 基板
7 結晶
7a GaN(窒化ガリウム)結晶層
8 LED素子
8a n型コンタクト層
8b 活性層
8c p型ブロック層
8d p型コンタクト層
8e 積層
8f 金属基板
8g n側電極
10 原料ガス供給部(原料ガス供給手段)
11 原料ガス供給装置
12 圧力調整器(原料ガス供給量調整手段)
13 接続パイプ
21 基板台(原料ガス濃度減少手段、基板高さ下降手段)
22 ディスペンサ(原料ガス濃度減少手段)
L 原料液
G 原料ガス
PB 気液界面
CGF 結晶成長面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内の原料液中に基板を浸漬し、該反応容器に原料ガスを供給することにより原料液と原料ガスとを反応させ、該反応による原料液と原料ガスとの化合物の結晶を基板上に成長させる結晶成長方法において、
結晶成長が進むにつれて、上記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させることを特徴とする結晶成長方法。
【請求項2】
前記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させるために、上記基板の位置を下方へ移動させて原料液上面と基板表面との距離を大きくすることを特徴とする請求項1記載の結晶成長方法。
【請求項3】
前記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させるために、原料液量を増加させて原料液上面と基板表面との距離を大きくすることを特徴とする請求項1又は2記載の結晶成長方法。
【請求項4】
前記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させるために、原料ガス圧力を低下させることを特徴とする請求項1,2又は3記載の結晶成長方法。
【請求項5】
前記原料ガス圧力を低下させることを、前記原料ガスの供給を停止しての反応容器内の原料ガスの消費によって行うことを特徴とする請求項4記載の結晶成長方法。
【請求項6】
前記原料ガスが窒素を含み、かつ、前記原料液がIII 族元素を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項7】
前記原料液が、アルカリ金属を含有するフラックスを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の結晶成長方法。
【請求項8】
反応容器内の原料液中に基板を浸漬し、該反応容器に原料ガスを供給することにより原料液と原料ガスとを反応させ、該反応による原料液と原料ガスとの化合物の結晶を基板上に成長させる結晶成長装置において、
結晶成長が進むにつれて、上記基板の表面近傍における原料液中の原料ガス濃度を減少させる原料ガス濃度減少手段が設けられていることを特徴とする結晶成長装置。
【請求項9】
前記原料ガス濃度減少手段は、上記基板の位置を下方へ移動させて原料液上面と基板表面との距離を大きくする基板高さ下降手段からなっていることを特徴とする請求項8記載の結晶成長装置。
【請求項10】
前記原料ガスを供給する原料ガス供給手段が設けられていると共に、
上記原料ガス供給手段は、結晶成長時に反応容器への原料ガスの供給を停止し又は原料ガスの供給量を低減させる原料ガス供給量調整手段を備えていることを特徴とする請求項8又は9記載の結晶成長装置。
【請求項11】
前記原料液の体積をv(cm)としたときの該反応容器の内容積V(cm)は、結晶成長時に反応容器への原料ガスの供給を停止した場合には、
370×v ≦ V ≦ 3700×v
の関係を満たすことを特徴とする請求項10記載の結晶成長装置。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の結晶成長方法によって製造された結晶、又は請求項8〜11のいずれか1項に記載の結晶成長装置によって製造された結晶を有することを特徴とする半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−203132(P2009−203132A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−48642(P2008−48642)
【出願日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】