説明

緑化システム

【課題】ヒートアイランド現象を軽減しつつ、人工建造物からの雨水の流出を抑制し、更に給水管理およびメインテナンスを簡単にし、しかも雨水をより一層有効に利用する。
【解決手段】緑化槽2に降った雨水は緑化槽2の土壌を浸透して、底部貯水槽4に貯えられる。底部貯水槽4が満杯になり、土壌6の表面に流出した水は越流部7から第1下部水槽11内に貯留する。第1下部水槽11内の水が所定量貯えられると、越流部13から第2下部水槽12内に流入しかつ貯えられる。第1下部水槽11内の水は揚水ポンプ19で上部貯水槽17に貯えられて散水装置21の散水に利用され、また第2下部水槽12内の水は水洗便所の用水等の他の用水に利用される。第2下部水槽12内の水は、その水位が第1下部水槽11内の水より高くなると、逆止弁14が開いて第1下部水槽11内に補給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば屋上、ベランダ、テラス、舗装グランドや舗装道路等の人工地盤などの人工建造物の、例えばコンクリートあるいはアスファルトの舗装面等の平坦部を緑化する緑化システムの技術分野に関し、特に、緑化する平坦部に降る雨による洪水等を抑制しつつ、雨水を有効に利用することのできる緑化システムの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球上においては温度が上昇するというヒートアイランド現象が問題となっている。このヒートアイランド現象の一因として、建築物の屋上、ベランダ、テラス、舗装グランドや舗装道路等の人工地盤などの人工建造物に照射する日光の照り返しや輻射熱による温度上昇、建築物の冷房の過剰使用による温度上昇、あるいは化石燃料の過剰使用で多量発生するCO2による温度上昇等が挙げられる。
【0003】
そこで、前述の人工建造物を緑化して温度上昇を抑制することで、このヒートアイランド現象を軽減することが種々提案されている(例えば、特許文献1ないし4参照)。
特許文献1には、雨水タンクに雨水を貯め、この雨水を自然落下により緑化用人工地盤中に供給して緑化用植物を栽培することで、地下水源等に頼ることなく、屋上を緑化することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、パイプで形成した貯水槽に雨水を貯めて、この雨水をポンプで揚水して散水ノズルから屋上庭園に散水して植物栽培をはかることが開示されている。
更に、特許文献3には、貯水槽の水を送給することで屋上を緑化するための植物栽培装置を搬送可能にすることが開示されている。
【0005】
更に、特許文献4には、直接の緑化システムではないがヒートアイランド現象を軽減するものとして、建築物の屋上に降る雨水の全てを排水管を通じて地上に設置された貯水タンクに貯め、この雨水をポンプで揚水して給水管を通じて屋上に散水することで、建築物の屋上に降る雨水の全てを一気に下水へ排水することなく有効に利用してヒートアイランド現象を抑制し、その際、貯水タンクから揚水した雨水を屋上に設置したビオトープに一旦給水してビオトープ内の水草類や水苔類などで水中に含まれるタンパク質や窒素化合物、窒素、リン酸、カリウムなど不純物を吸収させ、雨水の腐敗を防止することが開示されている。
【特許文献1】特開2003−23883号公報。
【特許文献2】特開2003−213735号公報
【特許文献3】特開2003−23868号公報。
【特許文献4】特開2003−105883号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の特許文献1に開示のものは、屋上に設置された雨水タンクに降った雨水を貯めるものであることから、屋上に降った雨水の建築物から外部への流出を一時的に制限するものの、屋上に設けた緑化用人工地盤の面積よりかなり小さい横断面積の雨水タンクに降った雨水のみを貯めるため、屋上に降った雨水を効率よく貯めることができず、建築物から外部への雨水の流出制限効果は小さい。このため、建築物の外部周囲における自然災害である洪水を防止することができない。特に、近年の降雨の傾向は、きわめて多くの雨量の雨が短時間に集中して降る、いわゆる熱帯のスコールのような大雨の傾向にあるが、このような大雨に対しては、建築物周囲の洪水を効果的にかつ十分に防止することができないという問題がある。
【0007】
また、雨水タンクに貯まった雨水を緑化用人工地盤に単に給水するだけのものであるため、雨水タンクの雨水は給水時のみ植物の生育に利用されるだけであって、有効に利用されていないばかりでなく、給水頻度が多くなってバルブ開閉等の給水管理が煩雑であるという問題がある。しかも、雨水タンクに雨水を貯めるため、雨水タンクを上方に常時開放しておく必要があるが、雨水タンクを長期間開放すると、雨水タンクに貯まっている雨水が腐敗してしまい、この雨水の腐敗により藻等の不純物が発生するばかりでなく、この不純物がバルブや配管を詰まらせてしまう。このため、バルブや配管のメインテナンスが煩雑となる問題がある。
【0008】
更に、前述の特許文献2に開示のものは、雨水を細長い雨水樋を通じて貯水槽に貯めるものであることから、屋上あるいは屋根に降った雨水の建築物から外部への流出を一時的に制限するものの、雨水樋の横断面積がかなり小さいため、特許文献1に開示のものと同様に屋上あるいは屋根に降った雨水を効率よく貯めることができず、建築物から外部への雨水の流出制限効果は小さい。このため、特許文献1に開示のものと同様に建築物の外部周囲における洪水を効果的にかつ十分に防止することができないという問題がある。
【0009】
また、貯水槽に貯まった雨水を植物の緑化槽に単に給水するだけのものであるため、同様に貯水槽の雨水は給水時のみ植物の生育に利用されるだけであって、有効に利用されていないばかりでなく、給水頻度が多くなってバルブ開閉等の給水管理が煩雑であるという問題がある。
【0010】
更に、前述の特許文献3に開示のものは、雨水を貯水槽に貯めるものであることから、屋上に降った雨水の建築物から外部への流出を一時的に制限するものの、貯水槽の横断面積がかなり小さいため、特許文献1および2に開示のものと同様に屋上に降った雨水を効率よく貯めることができず、建築物から外部への雨水の流出制限効果は小さい。このため、特許文献1および2に開示のものと同様に建築物の外部周囲における洪水を効果的にかつ十分に防止することができないという問題がある。
【0011】
また、貯水槽に貯まった雨水を植物の緑化槽に単に給水するだけのものであるため、同様に貯水槽の雨水は給水時のみ植物の生育に利用されるだけであって、有効に利用されていないばかりでなく、給水頻度が多くなってバルブ開閉等の給水管理が煩雑であるという問題がある。
【0012】
更に、前述の特許文献4に開示のものは、屋上の緑化システムではないが、屋上に降った雨水を細長い排水管を通じて貯水タンクに貯めるものであることから、屋上に降った雨水の建築物から外部への流出を一時的に制限するものの、貯水槽の横断面積がかなり小さいため、特許文献1ないし3に開示のものと同様に屋上に降った雨水を効率よく貯めることができず、建築物から外部への雨水の流出制限効果は小さい。このため、特許文献1ないし3に開示のものと同様に建築物の外部周囲における洪水を効果的にかつ十分に防止することができないという問題がある。
【0013】
また、屋上に植物の緑化槽が設置されておらず、貯水タンクに貯まった雨水を屋上に設置したビオトープで浄水して屋上全体に単に散水するだけであるので、貯水タンクの雨水が植物の生育に有効利用されるものではない。
【0014】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、人工建造物の緑化によりヒートアイランド現象の軽減を図りつつ、人工建造物からの雨水の流出を効果的に抑制し、更に給水管理およびメインテナンスを簡単にし、しかも雨水をより一層有効に利用することのできる緑化システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前述の課題を解決するために、請求項1に係る発明の緑化システムは、人工建造物の平坦部を緑化する緑化システムにおいて、前記人工建造物の平坦部の上方位置に設置され、植物が生育される緑化槽と、前記緑化槽より下方で前記人工建造物の平坦部に設置され、前記緑化槽から流出する雨水を貯える下部貯水槽と、前記緑化槽より上方に設置された上部貯水槽と、前記下部貯水槽内に貯えられた水を揚水して前記上部貯水槽に供給する揚水手段と、前記上部貯水槽内に貯えられた水を前記植物に散水する散水装置とを備え、前記下部貯水槽は第1下部水槽と第2下部水槽とからなり、前記第1下部水槽内に貯えられた水を前記揚水手段により揚水して前記上部貯水槽に供給するように構成されており、前記第1下部水槽内に所定量以上の水が貯えられたとき、この所定量以上の水が前記第2下部水槽内に流入しかつ貯留するようになっており、前記第2下部水槽が前記緑化槽以外の用水設備に接続されることを特徴としている。
【0016】
また、請求項2の発明の緑化システムは、前記第1下部水槽内の水位が前記第2下部水槽内の水位より低いとき、前記第2下部水槽内の水を前記第1下部水槽内に補給する水補給手段を備えていることを特徴としている。
更に、請求項3の発明の緑化システムは、前記水補給手段が、前記第2下部水槽か前記第1下部水槽に向かう水の流れのみを許容する逆止弁から構成されていることを特徴としている。
【0017】
更に、請求項4の発明の緑化システムは、前記第2下部水槽が順に連通された複数の下部水槽部からなり、前記複数の下部水槽部の1つに、前記第1下部水槽内に所定量以上の水が貯えられたとき、この所定量以上の水が流入しかつ貯留するようになっているとともに、前記複数の下部水槽部の他の1つに、前記用水設備が接続されることを特徴としている。
【0018】
更に、請求項5の発明の緑化システムは、前記緑化槽の下に、この緑化槽を浸透した雨水が貯えられる底部貯水槽を備えており、前記緑化槽と前記底部貯水槽とは共通槽に一体に設けられていることを特徴としている。
【0019】
更に、請求項6の発明の緑化システムは、前記緑化槽と前記底部貯水槽との間を隔離する隔離板を備えているとともに、前記緑化槽に植物が生育される土壌が収納されており、前記隔離板が、前記緑化槽を通して浸透してきた水を前記底部貯水槽に透水させるとともに前記底部貯水槽に貯えられている水の蒸発水を前記緑化槽の土壌に透水させる透水性を有し、前記緑化槽に降った雨水および前記散水装置からの散水の少なくとも一方が前記緑化槽および前記隔離板を通して前記底部貯水槽内に貯えられるとともに、前記底部貯水槽内の水の蒸発水が前記隔離板を通して前記緑化槽の土壌に透水するようになっていることを特徴としている。
【0020】
更に、請求項7の発明の緑化システムは、前記隔離板は所定数の小孔を有しており、前記植物の根が前記小孔を通して前記底部貯水槽内に進入可能となっていることを特徴としている。
更に、請求項8の発明の緑化システムは、前記緑化槽の土壌に、互いに並設された所定数の可搬の土壌ブロックが用いられていることを特徴としている。
【0021】
更に、請求項9の発明の緑化システムは、人工建造物の平坦部を緑化する緑化システムにおいて、前記人工建造物の平坦部の上方位置に設置され、植物が生育される土壌が収納された緑化槽と、前記緑化槽の下に、この緑化槽を浸透した雨水が貯えられる底部貯水槽と、前記緑化槽と前記底部貯水槽との間を隔離する隔離板と、前記緑化槽から流出する雨水を貯える下部貯水槽とを備えており、前記緑化槽の土壌に、所定形状に形成されかつ互いに並設された所定数の可搬の土壌ブロックが用いられており、前記隔離板が、前記緑化槽を通して浸透してきた水を前記底部貯水槽に透水させるとともに前記底部貯水槽に貯えられている水の蒸発水を前記緑化槽の土壌に透水させる透水性を有することを特徴としている。
更に、請求項10の発明の緑化システムは、前記土壌ブロックが前記緑化槽内に設置される前に、植物の種子が前記土壌ブロックの土壌中に予め含まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る緑化システムによれば、建築物の屋上、ベランダ、テラス、舗装グランドや舗装道路等の人工地盤などの人工建造物の平坦部に緑化システムを構築しているので、緑化槽の表面から水分が蒸発することで、この蒸発熱の効果からヒートアイランド現象を緩和することができる。これにより、夏季において建造物の温度上昇が抑制されるので、例えば建築物の冷房の使用を低減できる。したがって、この冷房の使用低減によっても、ヒートアイランド現象の緩和を更に緩和することができる。
【0023】
また、緑化槽から流出する水を下部貯水槽に貯留するようにしているので、人工建造物の平坦部の緑化槽に降った雨水がこの緑化槽から溢れても人工建造物からその周囲に直接流出することを阻止でき、人工建造物からの雨水の流出をより一層効果的に抑制および遅延することができる。特に、多くのビルが林立するビル群の有る都市域において、各ビルの屋上に緑化システムを設置することで建築物からの雨水の流出を効果的に抑制および遅延でき、都市域における洪水あるいは建築物内への浸水を防止できる。しかも、前述のスコールのようなきわめて多くの雨量の大雨に対して下部貯水槽の深さ(容量)を適宜設定することで、多量の雨水を下部貯水槽に確実に貯水でき、建築物からの雨水の流出をより効果的に抑制および遅延することができる。
【0024】
しかも、下部貯水槽を第1および第2下部水槽に区画しているので、緑化槽への散水のための水を第1下部水槽内に貯留するとともに、緑化槽への散水用として必要でない余分な水を第2下部水槽内に貯留しかつ第2下部水槽内の水を、例えば水洗便所の用水等の建築物内の種々の用水設備のための用水に利用することができる。
これにより、前述のヒートアイランド現象の軽減を図りかつ人工建造物からの雨水の流出を効果的に抑制して自然災害を未然に防止しあるいは自然災害による被害をより少なく抑えつつ、下部貯水槽内に貯留された水を種々の用水に無駄なく効率よく利用することができる。
【0025】
更に、下部貯水槽を第1および第2下部水槽に区画し、かつ第2下部水槽内の水を第1下部水槽内に補給する水補給手段を備えているので、降雨が少なく、第1下部水槽内に散水に必要な量の水が貯え難い場合に、第1下部水槽内の水位が第2下部水槽内の水位より低くなると、水補給手段により第2下部水槽内の水が第1下部水槽内に補給されるので、散水に必要な水をより安定してより確実に確保することができる。
【0026】
更に、第2下部水槽を順に連通された複数の下部水槽部から構成し、これらの複数の下部水槽部の1つに、第1下部水槽内に所定量以上の水が貯えられたとき、この所定量以上の水を貯留させるとともに、複数の下部水槽部の他の1つに用水設備を接続しているので、第2下部水槽を人工建造物の緑化システム設置場所の形状に柔軟に対応させて配置することができ、第2下部水槽の設置自由度を高くすることができる。
【0027】
更に、緑化槽の下に底部貯水槽を設けているので、降雨時、人工建造物に降った雨水をこの底部貯水槽で一旦貯えることができる。これにより、人工建造物に降った雨水が建築物からその周囲に直接流出することを阻止できるので、人工建造物からの雨水の流出を抑制および遅延することができる。特に、多くのビルが林立するビル群の有る都市域において、各ビルの屋上に本発明の緑化システムを設置することで建築物からの雨水の流出を効果的に抑制でき、都市域における洪水あるいは建築物内への浸水を防止できる。しかも、スコールのようなきわめて多くの雨量の大雨に対して底部貯水槽の深さ(容量)を適宜設定することで、多量の雨水を底部貯水槽に確実に貯水でき、建築物からの雨水の流出をより効果的に抑制することができる。
【0028】
また、緑化槽と底部貯水槽との間に所定数の小孔を有する隔離板を介在させているので、直物の根がこれらの小孔を通って底部貯水槽の貯水中に進入することで、底部貯水槽内の水を植物の生育に有効に利用することができる。これにより、散水装置の作動頻度を少なくでき、散水装置の作動管理を簡略化することができる。その場合、植物に点滴状に散水しているので、給水時に緑化槽表面の洗掘を防止でき、緑化槽の領域全体に均一に給水することができる。
特に、散水装置の作動を制御装置で自動制御することで、給水管理および緑化システムのメインテナンスを簡単にすることができる。
【0029】
このようにして、人工建造物の緑化によるヒートアイランド現象の軽減を図りつつ、人工建造物からの雨水の流出を効果的に抑制および遅延して自然災害を未然に防止しあるいは自然災害による被害をより少なく抑え、しかも緑化槽の植物を効果的に育成することができる。
【0030】
更に、下部貯水槽および上部貯水槽の2つの貯水槽、あるいは底部貯水槽、下部貯水槽および上部貯水槽の3つの貯水槽を設けるだけで、屋上の緑化と建築物からの雨水の流出抑制とを行っているので、簡単な構成でかつ低コストで緑化システムを構築することができる。特に、緑化システムをブロック単位で構成することにより、所定数のブロックを単に並べて配置するだけで、緑化システムの設置を短時間で簡便に行うことができる。しかも、このブロックを可搬型にすれば、任意の設置場所および屋上の任意の形状に柔軟に対応して設置することができる。
【0031】
そのうえ、緑化槽の土壌に、可搬可能な土壌ブロックを用いることで、土壌の運搬作業および緑化槽への土壌の収納作業がともに簡単にかつ作業時間を短縮できる。しかも、土壌ブロックの設置前にこの土壌ブロックの土壌中に予め植物の種子を含ませる(蒔く)ことで、土壌ブロックの設置後に植物の種子を蒔く作業を不要にできる。そして、土壌の運搬作業および緑化槽への土壌の収納作業が簡単になることで、緑化槽の設置もきわめて簡単になる。しかも、土壌ブロックの設置後に植物の種蒔き作業が不要となることで、緑化システムの設置作業をきわめて簡単にできかつ設置時間を効果的に短縮できる。
【0032】
更に、上部貯水槽を下部貯水槽のすぐ上に設けているので、下部貯水槽と上部貯水槽との高低差を小さくできる。これにより、下部貯水槽内の水と上部貯水槽内の水との位置エネルギ差を小さくできるので、揚水手段による揚水エネルギを小さくできる。したがって、揚水手段を小型にでき、揚水手段の揚水ポンプに小型ポンプを用いることができる。しかも、本発明の緑化システムでは雨水を用い水道水を使用しないので、小型ポンプの使用に相俟って散水装置の稼動費および管理費を安価にすることができる。
【0033】
更に、複数のブロックの各緑化槽に、前述の陸地型、水中植物型、およびビオトープ型のいくつかの緑化槽を適宜組み合わせ使用することにより、ヒートアイランド現象をより効果的に低減できるとともに、屋上の景観を良好にしてオアシスの機能を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明に係る緑化システムの実施の形態の第1例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
図1(a)に示すように、この第1例の緑化システム1は、人工建造物の平坦部である建築物の屋上に設けられた屋上緑化システムとして構成されており、緑化槽2を備えているとともにこの緑化槽2の真下に隔離板3を介して底部貯水槽4を備えている。これらの緑化槽2および底部貯水槽4は1つの共通槽として一体に形成されている。なお説明の便宜上、図1(a)には、底部貯水槽4、隔離板3および緑化槽2は、同図において左右方向に沿う鉛直面による断面で示されている。
【0035】
緑化槽2および底部貯水槽4はいずれも同じ所定の大きさの平面視矩形状に形成されている。そして、底部貯水槽4は緑化槽2の下面のすべてを覆うように配置されている。この底部貯水槽4は、緑化槽2に降った雨の浸透水を貯留して、建築物に降った雨水の流出の削減と、緑化槽2からの水分蒸発分を補給する等の緑化槽2への水分補給のための補給水源として機能する。
【0036】
底部貯水槽4の深さh0は雨水の上記流出削減の目標と緑化槽への水分補給とを考慮して設定され、底部貯水槽4の空の状態で例えば50mm/hr程度の降雨量の大雨までの雨水を貯水可能な深さに設定されている。
また、隔離板3は共通槽の内周面にほとんど隙間なく嵌合される大きさの矩形状に形成されており、この隔離板3は緑化槽2と底部貯水槽4とを隔離するとともに、緑化槽2に点滴された水が土壌6中に均一に浸透させるためのものである。図2(a)に示すように、隔離板3には多数の小孔3aが二次元的に縦横に整列されて設けられている。
【0037】
緑化槽2は多数の植物5を植える槽であり、この緑化槽2には土壌6が収納されている。その場合、土壌6の土が隔離板3の小孔3aを通して底部貯水槽4内に落下しないようにするため、まず、径が小孔3aの径より大きな小石を隔離板3の上に敷き詰め、次いで敷き詰めた小石の上にそれらの小石より径の小さな小石や砂利あるいは砂を敷き詰め、最後にそれらの上に土を敷き詰めるようにする。また、小石や砂利あるいは砂に代えて、後述する図7(a),(b)および図8に示す土壌ブロック29に用いられる底面板30を用いることもできる。
【0038】
土壌6に草花や雑木などの植物5が植えられていて、この第1例の緑化槽2は陸地植物生育型に形成されている。なお、緑化槽2は前述の陸地植物生育型に代えて、稲や芹などの水中植物生育型に形成することもできるし、あるいは、小水路のあるビオトープ型に形成することもできる。また、陸地植物生育型、水中植物生育型およびビオトープ型の少なくともいずれか2つ以上を組み合わせることもできる。
【0039】
そして、屋上の緑化槽2に降った雨が緑化槽2内の土壌6を浸透しかつ隔離板3の多数の小孔3aを通過して底部貯水槽4内に浸入して貯水されるようになっている。なお、隔離板3の多数の小孔3aは必ずしも縦横に整列されて設けられる必要はなく、図2(b)に示すように二次元的にランダムに配置されて設けられてもよい。
【0040】
図1(a)に示すように、各植物5が成長すると、それらの根5aが対応する小孔3aを通って底部貯水槽4内の水まで伸びてその水を吸い上げることができるようになっている。このように、各植物5は底部貯水槽4内の水を直接吸い上げることによっても生育するようになっている。その場合、図7(a),(b)および図8に示す底面板30を用いるときには、この底面板30にも植物5の根5aが通過可能でかつ土壌の土が落下しない程度の大きさの小孔を設けるようにする。
なお、多数の小孔3aを有する隔離板3に代えて、メッシュ状の隔離板を用いることもできる。したがって、本発明の多数の小孔を有する隔離板には、メッシュ状の隔離板も含まれる。
【0041】
底部貯水槽4および緑化槽2の共通槽の一側の、緑化槽2が形成される側壁2aには、緑化槽越流部7が設けられている。この緑化槽越流部7は底部貯水槽4の底部からの高さh1の位置に設けられており、この例ではこの高さh1は緑化槽2内の土壌6の表面(上面)より若干(数cm程度)高く設定されている。また、緑化槽越流部7には、流出パイプ8が連結されている。緑化槽越流部7および流出パイプ8はそれぞれ1組設けてもよいし、所定数組を図1(a)の図面に直交する方向に所定の間隔を置いて設けてもよい。そして、図示しないが、このように構成された底部貯水槽4および緑化槽2の共通槽は一対並設されている。
【0042】
更に、この第1例の緑化システム1は平面視矩形状の下部貯水槽9を備えており、この下部貯水槽9は底部貯水槽4および緑化槽2の共通槽の下方に設けられている。なお説明の便宜上、図1(a)には、下部貯水槽9は図1(a)において左右方向に沿う鉛直面による断面で示されている。下部貯水槽9の内部は隔壁10により第1下部水槽11と第2下部水槽12とに区画されている。
【0043】
第1下部水槽11は、後述するように緑化槽2および底部貯水槽4の共通層から流出する水を貯える貯留槽とされているとともに、第1下部水槽11の水を後述する上部貯水槽17に補給するための補給水源とされている。第1下部水槽11の貯水量は設置場所や使用態様に応じて異なるが、通常、後述する点滴型散水装置21の散水量の1カ月分ないし1.5カ月分の量を貯水する。また、第2下部水槽12は第1下部水槽11で貯留できなかった分の水を貯える貯留槽とされ、この第2下部水槽12に貯留した水は、後述するように例えば水洗便所の用水等の種々の用水として利用される。
【0044】
下部貯水槽9の底部から隔壁10の上縁までの高さh2は下部貯水槽9の側壁9aの高さより低く設定されていて、この隔壁10の上縁は下部貯水槽越流部13とされている。したがって、第1下部水槽11内に貯えられた水の水位が下部貯水槽越流部13の高さより高くなると、第1下部水槽11内の水が下部貯水槽越流部13を通して第2下部水槽12内に流出しかつ貯えられるようになっている。
【0045】
また、図1(b)に拡大して示すように、隔壁10の下端部には、第1下部水槽11と第2下部水槽12とが互いに連通する開口10aが設けられている。この開口10aには、第2下部水槽12から第1下部水槽11への水の流れを許容するが、逆の第1下部水槽11から第2下部水槽12への水の流れを阻止する逆止弁14(本発明の水補給手段に相当)が設けられている。これらの開口10aおよび逆止弁14はそれぞれ1組設けてもよいし、所定数組を図1(b)の図面に直交する方向に所定の間隔を置いて設けてもよい。
【0046】
したがって、図1(a)に示すように第1下部水槽11内の水位が第2下部水槽12内の水位より高いときは、第1下部水槽11内の水が開口10aを通して第2下部水槽12内へ流出しようとしても、逆止弁14が閉じてこの水の流出を阻止するので、水は第1下部水槽11から第2下部水槽12内へ流出しない。また、図1(b)に示すように第2下部水槽12内の水位が第1下部水槽11内の水位より高いときは、第2下部水槽12内の水が、矢印で示すように逆止弁14を開いて開口10aを通して第1下部水槽11内へ流出するようになる。これにより、降雨が少なく、第1下部水槽11に散水に必要な量の水が貯え難い場合に、第2下部水槽12内の水が第1下部水槽11内に補給されるので、散水に必要な水をより安定してより確実に確保することができる。
【0047】
第2下部水槽12側の側壁9aには、第2下部水槽越流部15が下部貯水槽9の底部から高さh3の位置に設けられている。その場合、第2下部水槽越流部15の高さh3は下部貯水槽越流部13の高さh2より高く(h3>h2)設定されている。したがって、例えば多くの降雨量等により、第2下部水槽12内に貯えられた水の水位が第2下部水槽越流部15の高さより高くなると、第2下部水槽12内の水が第2下部水槽越流部15を通して外部に流出し、その流出量が大雨時等に建築物へ降った雨の河川への流出量となる。その場合、第2下部水槽越流部15の断面積の大きさは、第2下部水槽12内の水が第2下部水槽越流部15を通って外部に流出する際に第2下部水槽越流部15内に空気通路が形成される大きさに設定されている。
【0048】
更に、同じく第2下部水槽12側の側壁9aには、第2下部水槽用水取り出し口16が下部貯水槽9の底部から高さh4の位置に設けられている。その場合、第2下部水槽用水取り出し口16の高さh4は下部貯水槽越流部13の高さh2より低く(h4<h2)設定されている。この第2下部水槽用水取り出し口16は、例えば水洗便所等の種々の用水設備に接続される。
【0049】
したがって、第2下部水槽12内に貯えられた水の水位が第2下部水槽用水取り出し口16の高さh4より高いときには、第2下部水槽12内の水は第2下部水槽用水取り出し口16から外部に取り出されて、緑化槽2への散水以外の、例えば水洗便所の用水等の種々の用水に利用されるようになっている。なお、第2下部水槽用水取り出し口16は、例えば開閉弁により通常時は閉じ、必要時に開閉弁を開くことで第2下部水槽12内の水を取り出すようにすることもできる。
【0050】
また、第2下部水槽12内に貯えられた水の水位が第2下部水槽用水取り出し口16の高さh4より低いときには、第2下部水槽12内の水は第2下部水槽用水取り出し口16から外部に流出しなく、第2下部水槽12内に貯留されたままとなる。したがって、第2下部水槽12内に貯えられた水のうち、その水位が第2下部水槽用水取り出し口16の高さh4より高い分の水は前述のように用水に利用され、水位が第2下部水槽用水取り出し口16の高さh4より低い分の水は、例えば渇水時等に利用するための、備えの水とされている。
【0051】
1つの下部貯水槽9に対して、底部貯水槽4および緑化槽2の共通槽が一対対応して設けられている。そして、一対の共通槽の各緑化槽越流部7にそれぞれ連結された各流出パイプ8はいずれも下部貯水槽9の第1下部水槽11内に進入して設けられている。したがって、緑化槽2から緑化槽越流部7を通じて流出する水が流出パイプ8を通して第1下部水槽11内に流入しかつ貯えられるようになっている。その場合、緑化槽越流部7に例えばメッシュあるいは格子状部材等からなる異物流出阻止部材を設けることで、緑化槽2内の枯葉やゴミ等の異物が流出パイプ8を通して第1下部水槽11内に流入するのを阻止するようにすることもできる。これにより、第1下部水槽11内への異物の堆積が抑制される。なお、1つの下部貯水槽9に対する底部貯水槽4および緑化槽2の共通槽は一対に限定されることはなく、共通槽は1つ以上の任意の数を1つの下部貯水槽9に対応させることができる。また、下部貯水槽9の上方開口部は閉じられている。
【0052】
更に、この例の緑化システム1は平面視矩形状の上部貯水槽17を備えており、この上部貯水槽17は下部貯水槽9の上方でかつ底部貯水槽4および緑化槽2の共通槽より上方に設けられている。なお説明の便宜上、図1(a)には、上部貯水槽17は図1(a)において左右方向に沿う鉛直面による断面で示されている。
【0053】
上部貯水槽17には、少なくとも第1下部水槽11内の所定量の水18が貯水されるようになっている。この上部貯水槽17は、後述する点滴型散水装置21への給水のための水を貯留するものであり、その貯水量は設置場所や使用態様に応じて異なるが、通常約1週間分の散水量を貯水する。なお、貯水量はこれに限定されるものではない。
【0054】
第1下部水槽11内の水18を上部貯水槽17内に送給するために、第1下部水槽11内には揚水ポンプ19が設置されているとともに、この揚水ポンプ19に揚水ホース20が連結されている。この揚水ホース20は、その先端が上部貯水槽17内に向くようにして設けられている。これらの揚水ポンプ19および揚水ホース20により本発明の揚水手段が構成されている。
【0055】
下部貯水槽9の上方開口部は揚水ホース20を通して上部貯水槽17内に水を送給可能に、例えば蓋等により開閉可能に閉塞されている。したがって、下部貯水槽9内の水は直接外気に触れないとともに日光に直射されないので、水の蒸発が抑制されるとともに、水の腐敗が抑制されて藻等の不純物の発生が低減され、更に、下部貯水槽9内へのごみ等の異物の混入が防止されるようになっている。
【0056】
そして、第1下部水槽11内の所定量の水18が貯えられている状態で、上部貯水槽17内に所定量の水が貯えられていないときには、揚水ポンプ19が所定時間駆動されて第1下部水槽11内の水18が上部貯水槽17内に所定量送給されるようになっている。なお、図示しないが上部貯水槽17内に水位検知センサを設置して、この水位検知センサからの上部貯水槽17内の水位の検知信号に基づいて、図示しない制御装置(コンピュータ)が揚水ポンプ19の駆動開始(揚水開始)および駆動停止(揚水停止)を自動的に制御するようにすることもできる。その場合、更に第1下部水槽11内にも水位検知センサを設置して、この水位検知センサからの第1下部水槽11内の水位の検知信号に基づいても、制御装置が揚水ポンプ19の駆動開始(揚水開始)および駆動停止(揚水停止)を自動的に制御することで、揚水開始および揚水停止をより一層正確にかつより一層効率よく行うことができる。また、揚水ポンプ19として、水位感知型のポンプを用いることもできる。この水位感知型のポンプを用いた場合には、第1下部水槽11内の水位検知センサは省略される。
【0057】
この第1例の緑化システム1では、揚水ポンプ19を駆動する電力として、太陽電池であるソーラーパネルで発電された電力を用いている。しかし、通常の電力等の他の電力を用いることもできる。
【0058】
上部貯水槽17の上方開口部も、下部貯水槽9の場合と同様に揚水ホース20を通して上部貯水槽17内に水を送給可能に、例えば蓋等で開閉可能に閉塞されている。したがって、上部貯水槽17内の水は直接外気に触れないとともに日光に直射されないので、水の蒸発が抑制されるとともに、水の腐敗が抑制されて藻等の不純物の発生が低減され、更に、上部貯水槽17内へのごみ等の異物の混入が防止されるようになっている。
【0059】
これにより、この不純物で、後述する点滴型散水装置21の開閉バルブ22や点滴型散水パイプ23が詰まることが抑制され、メインテナンスが簡略化する。なお、上部貯水槽17の上方開口部は開放することもできる。その場合には、上部貯水槽17に降る雨水がこの上部貯水槽17に一旦貯えれるので、上方開口部を閉塞する場合に比べて水の流出制限効果が若干多く得られる。しかし、上方開口部を開放すると、上部貯水槽17内の水が直接外気に触れるとともに日光に直射されることで腐敗する可能性があるので、上部貯水槽17の上方開口部は閉塞することが望ましい。更に、上部貯水槽17の上部開口部を蓋で閉塞する場合に、上部貯水槽17の蓋を傾斜させるとともにこの傾斜した蓋の低い方側に孔を設け、傾斜した蓋の上に降った雨水を集水して蓋の孔から上部貯水槽17内に流すようにすることもできる。なお、図示しないが上部貯水槽17にも越流部を設ることもできる。
【0060】
上部貯水槽17の側壁17aには、散水装置として点滴型散水装置21が設けられている。この点滴型散水装置21は、側壁17aの取出し孔(不図示)に設けられかつ開閉バルブ22を有する点滴型散水装置制御部とこの開閉バルブ22に連結されかつ多数の小孔23aが下部に穿設された細長い点滴型散水パイプ23とから構成されている。
【0061】
開閉バルブ22が前述の制御装置によって開かれると、上部貯水槽17の水が滴型散水パイプ23を通して涙滴状あるいは水滴状に散水され、開閉バルブ22が前述の制御装置によって閉じられると、この散水が停止される。また、点滴型散水パイプ23は開閉バルブ22側から先端に向かって下がるように傾斜して設けられていて、先端側の小孔23aにも水が確実に供給されるようにされている。
【0062】
上部貯水槽17への揚水のための揚水ポンプの運転制御(つまり揚水方法)および間欠散水のための開閉バルブ22の開閉制御(つまり散水方法)は、次の方法を用いることができる。
(1)点滴型散水装置21に時間設定機能を持たせ、開閉バルブ22が前述の制御装置によって、予め設定された散水時間に基づいて開閉制御されるようにする。すなわち、制御装置は散水時間に基づいて、開閉バルブ22を通常時は閉じているが、予め設定された植物5に水が必要な時刻に、同じく予め設定された必要な時間だけ開くように開閉制御して、間欠散水を行う。この場合には、揚水ポンプ19による揚水開始および揚水停止の制御は、上部貯水槽17の水位に基づいて行うようにすることが望ましい。
【0063】
(2)点滴型散水装置21に(1)の時間設定機能を持たせないで、予め設定された揚水ポンプ19の間欠揚水時間で散水を制御する。この場合には、揚水ポンプ19の運転制御機構である制御装置が揚水ポンプ19の揚水開始および揚水停止を制御するが、その制御方法として、(A)制御装置が揚水開始時間を制御して、設定された揚水開始時間で揚水ポンプ19を駆動開始し、上部貯水槽17の水位が予め設定された水位となると、揚水ポンプ19を駆動停止する方法、および(B)制御装置が揚水ポンプ19による揚水開始および揚水停止を制御する。
【0064】
(3)緑化槽2がビオトープ型の緑化槽あるいは水田型の緑化槽等の常に散水する場合には、制御装置が上部貯水槽17の水位に基づいて揚水ポンプ19の運転開始および停止を制御することが望ましい。
(4)緑化システムの近傍に雨量計を設置し、この雨量計からの雨量検知信号で所定の降雨量が検知されたときには、制御装置が散水を停止するように点滴型散水装置21を制御することが望ましい。
【0065】
(5)特許文献3に記載されているような土壌水分センサを緑化槽2の土壌6中に設置し、この土壌水分センサで検知した土壌6中の水分量に基づいて、制御装置が土壌6中の水分量が予め設定された所定の含水量以下になったと判断したとき、開閉バルブ22を開いて散水を行うようにすることもできる。
【0066】
(6)ヒートアイランド現象を緩和するために、温度計により緑化槽2の表面温度を測定して、制御装置が緑化槽2の表面温度が所定温度になったと判断したとき、開閉バルブ22を開いて散水を行うようにすることもできる。
【0067】
図示しないが、開閉バルブ22のそれより下流側(開閉バルブ22に関し上部貯水槽17と反対側)に連結された管が所定数の分岐管に分岐されており、これらの分岐管にそれぞれ点滴型散水パイプ23が連結されている。これらの点滴型散水パイプ23は緑化槽2の領域全体にわたって配置されていて、開閉バルブ22が開かれて上部貯水槽17の水が導入されたとき、各点滴型散水パイプ23内の水がそれぞれ多数の小孔23aから図1(a)に示すように点滴状αに自然落下して緑化槽2の領域全体内の植物5および土壌6にほぼ均一に散水するようにされている。その場合、複数の点滴型散水パイプ23を緑化槽2の領域全体にわたって適宜配置しかつ点滴状αに給水することで、水を緑化槽2の領域全体にわたって土壌を水の噴流で飛ばすことなく給水することができる。点滴型散水装置21としては、市販のもの(例えば、商品名水やり君:(株)松下電器製作所製)を利用することができる。もちろん、点滴型散水装置21はこれに限定されることはなく、必要時に点滴状に散水することができるものであれば、どのようなものも用いることができる。
【0068】
この第1例の緑化システム1では、開閉バルブ22を開閉駆動する電力として、前述のソーラーパネルで発電された電力を用いることできるが、前述と同様に、通常の電力等の他の電力を用いることもできる。
点滴型散水パイプ23内の水の自然落下で緑化槽2の植物5に確実に散水するためには、点滴型散水パイプ23の下部が植物5のトップより上方でかつ上部貯水槽17の下部に対応する位置に設ける必要がある。そのためには、上部貯水槽17の底部ができるだけ上方に位置することが望ましい。しかし、上部貯水槽17の底部はこれに限定されるものではない。
【0069】
この第1例の緑化システム1では、緑化槽2と隔離板3と底部貯水槽4とからなる一対の共通槽、下部貯水槽9、上部貯水槽17、揚水ポンプ19、および揚水ホース20が1つのブロックとして構成される。この1ブロックはその大きさが縦横1m×2m程度の大きさに設定されるとともに、任意の場所に搬送できる可搬型ブロックとされている。その場合、各ブロックは、図1(a)に示すように上部貯水槽17が最上位置に配置され、この上部貯水槽17より下方位置に緑化槽2および底部貯水槽4の共通槽が配置され、更に、この共通槽より下方位置に下部貯水槽9が配置される。
【0070】
そして、屋上2に設置するブロックの数は設置しようとする屋上2の面積に応じて設定され、設定された数のブロックが屋上2の床面に、全面的にあるいはほぼ全面にあるいは部分的に並べられて設置される。その場合、各緑化槽2は、すべて陸地植物生育型、水中植物生育型およびビオトープ型のいずれか1つであってもよいし、あるいは、それぞれこれらの陸地植物生育型、水中植物生育型およびビオトープ型の少なくともいずれか2つ以上を組み合わせてもよく、建築物の設置環境や建築物の種類等の建築物の状況に応じて設定すればよい。
【0071】
このように構成されたこの第1例の緑化システム1においては、設定数の前述のブロックが建築物の屋上に全面的にあるいは部分的に設置され、各ブロックの緑化槽2にはそれぞれ、例えば図1(a)に示すように土壌6が収納されかつそれらの土壌6には多数の植物5が植えられている。雨天時、各ブロックの緑化槽2にも雨が降るが、各緑化槽2に降った雨水(以下、単に水ともいう)は、それぞれ、緑化槽2内の土壌6を浸透しかつ隔離板3の多数の小孔3aを通って底部貯水槽4内に貯水される。
【0072】
このように、屋上に降った雨水のうち、各緑化槽2に降った雨水が底部貯水槽4内に貯水されるので、建築物から流出する雨水の量が抑制される。これにより、建築物周囲の雨水量が少なくなり、洪水のおそれが低減する。特に、降雨量が50mm/hr程度のかなり強い雨であっても、屋上に降った雨水の一部が底部貯水槽4内に確実に貯水されるので、建築物から流出する雨水の量が効率よく抑制され、建築物周囲における洪水のおそれは効果的に低減する。
【0073】
底部貯水槽4内の貯水量が満杯になり、緑化槽2に降った雨水が土壌6を浸透しなくなると、土壌6の表面上に貯水するようになる。そして、土壌6の表面上に貯水した雨水の水位が緑化槽越流部7の高さh1より高くなると、この雨水は緑化槽越流部7から流出パイプ8を通して自動的に流出し、下部貯水槽9の第1下部水槽11内に貯水される。通常第1下部水槽11内の水位18aが第2下部水槽12内の水位より高いので逆止弁14が閉じたままの保持されるので、第1下部水槽11内に貯えられた水18は開口10aを通って第2下部水槽12内に流出しない。
【0074】
第1下部水槽11内に貯水された水18の水位18aが図1(a)に二点鎖線で示す下部貯水槽越流部13の位置を越えると、第1下部水槽11内の水18は、二点鎖線で示すように下部貯水槽越流部13から流出し、第2下部水槽12内に貯留する。そして、第2下部水槽12内の水の水位が第2下部水槽用取り出し口16の高さh4を越えると、第2下部水槽12内の水はその一部が第2下部水槽用取り出し口16から流出して、例えば水洗便所の用水の貯留槽等の用水用貯留槽(不図示)に貯えられる。
更に、例えば大雨時のように第2下部水槽12内の水位が第2下部水槽越流部15の高さh3より高くなると、第2下部水槽12内の水は第2下部水槽越流部15を通して外部に流出する。
【0075】
一方、揚水ポンプ19はその前述のいずれかの運転方法により運転されることにより、第1下部水槽11内の水が所定量だけ上部貯水槽17に揚水されかつ貯留される。
上部貯水槽16内に貯留された水の水位が、取出し口(開閉バルブ22の設置箇所)の位置および点滴型散水パイプ23の小孔23aの高さ位置より高くなると、散水が可能となる。しかし、通常時は開閉バルブ22が閉じているので、上部貯水槽16内の水は点滴型散水パイプ23の方へ流出しない。そして、開閉バルブ22はその前述のいずれかの開閉方法により開かれることにより、上部貯水槽16内の水が開閉バルブ22を通して点滴型散水パイプ23内に流出し、更に、点滴型散水パイプ23内の水は多数の小孔23aから点滴状αに自然落下して緑化槽2内の植物5および土壌6に、土壌6が飛ばされることなく散水される。
【0076】
点滴型散水パイプ23からの水の散水あるいは降雨により、緑化槽2内の植物が成長していくと、その根5aが図1(a)に示すように隔離板3の小孔3aを通って底部貯水槽4内の水中に進入する。これにより、各植物5はそれらの根5aから底部貯水槽4内の水を吸い上げることができるようになり、底部貯水槽4内の水で更に成長を続けるようになる。このように、植物5が根5aから底部貯水槽4内の水を吸い上げることで、点滴型散水パイプ23からの散水の回数を低減することができる。
【0077】
この第1例の緑化システム1によれば、建築物の屋上に緑化システム1を構築しているので、緑化槽2の表面から水分が蒸発することで、この蒸発熱の効果からヒートアイランド現象を緩和することができる。これにより、夏季において建築物内の温度上昇が抑制されるので、建築物の冷房の使用を低減できる。したがって、この冷房の使用低減によっても、ヒートアイランド現象の緩和を更に緩和することができる。
【0078】
また、緑化槽2から流出する水を下部貯水槽9に貯留するようにしているので、屋上に降った雨水が緑化槽2から溢れても建築物からその周囲に直接流出することを阻止でき、建築物からの雨水の流出をより一層効果的に抑制および遅延することができる。特に、多くのビルが林立するビル群の有る都市域において、各ビルの屋上に緑化システム1を設置することで建築物からの雨水の流出を効果的に抑制および遅延でき、都市域における洪水あるいは建築物内への浸水を防止できる。しかも、前述のスコールのようなきわめて多くの雨量の大雨に対して下部貯水槽9の深さ(容量)を適宜設定することで、多量の雨水を底部貯水槽4に確実に貯水でき、建築物からの雨水の流出をより効果的に抑制および遅延することができる。
【0079】
しかも、下部貯水槽9を第1および第2下部水槽11,12に区画しているので、緑化槽2への散水のための水を第1下部水槽11内に貯留するとともに、緑化槽2への散水用として必要でない余分な水を第2下部水槽12内に貯留しかつ第2下部水槽12内の水を、例えば水洗便所の用水等の建築物内の種々の用水設備のための用水に利用することができる。
これにより、前述のヒートアイランド現象の軽減を図りかつ建築物からの雨水の流出を効果的に抑制して自然災害を未然に防止しあるいは自然災害による被害をより少なく抑えつつ、下部貯水槽9内に貯留された水を種々の用水に効率よく利用することができる。
【0080】
更に、下部貯水槽9を第1および第2下部水槽11,12に区画し、かつ第2下部水槽12から第1下部水槽11へ向かう水の流動のみを許容する逆止弁14を用いているので、降雨が少なく、第1下部水槽11に散水に必要な量の水が貯え難い場合に、第2下部水槽12内の水が第1下部水槽11内に補給されるので、散水に必要な水をより安定してより確実に確保することができる。
【0081】
特に、第2下部水槽用取り出し口16の高さを所定の高さh4に設定することで、第2下部水槽12内に貯えられた高さh4以下の水を、例えば渇水時の用水や緊急時の用水等の更に他の用水に利用することができる。これにより、下部貯水槽9内に貯留された水をより一層効率よく利用することができる。
【0082】
更に、緑化槽2の下に底部貯水槽4を設けているので、降雨時、屋上に降った雨水をこの底部貯水槽4で一旦貯水することができる。これにより、屋上に降った雨水が建築物からその周囲に直接流出することを阻止できるので、建築物からの雨水の流出を更に効果的に抑制および遅延することができる。その場合、底部貯水槽4の深さ(容量)を適宜設定することで、多量の雨水を底部貯水槽4に確実に貯水でき、建築物からの雨水の流出をより効果的に抑制および遅延することができる。
【0083】
また、緑化槽2の下に底部貯水槽4を設けるとともに、緑化槽2と底部貯水槽4との間に多数の小孔3aを有する隔離板3を介在させているので、直物7の根5aがこれらの小孔3aを通って底部貯水槽4の貯水中に進入することで、底部貯水槽4内の水を植物5の生育に有効に利用することができる。これにより、開閉バルブ22の開閉頻度を少なくでき、開閉バルブ22の開閉管理を簡略化することができる。その場合、植物5および土壌6に点滴状に散水しているので、給水時に緑化槽表面の土砂の流出を防止できるとともに土壌6を飛ばして緑化槽6の表面の洗掘を防止でき、緑化槽2の領域全体に均一に給水することができる。
特に、点滴型散水装置21の作動を制御装置で自動制御することで、給水管理および緑化システムのメインテナンスを簡単にすることができる。
【0084】
このようにして、屋上の緑化によるヒートアイランド現象の軽減を図りつつ、建築物からの雨水の流出を効果的に抑制して自然災害を未然に防止しあるいは自然災害による被害をより少なく抑え、しかも緑化槽2の植物5を効果的に育成することができる。
【0085】
更に、底部貯水槽4、下部貯水槽9および上部貯水槽17の3つの貯水槽を設けるだけで、屋上の緑化と建築物からの雨水の流出抑制とを行っているので、簡単な構成でかつ低コストで緑化システム1を構築することができる。特に、緑化システム1をブロック単位で構成することにより、所定数のブロックを単に並べて配置するだけで、緑化システム1の設置を短時間で簡便に行うことができる。しかも、このブロックを可搬型にすることで、任意の設置場所および屋上の任意の形状に柔軟に対応することができる。
【0086】
更に、下部貯水槽9および上部貯水槽17をともに屋上に設置するとともに、上部貯水槽17を下部貯水槽9のすぐ上に設けているので、下部貯水槽9と上部貯水槽17との高低差を小さくできる。これにより、下部貯水槽9内の水18と上部貯水槽17内の水との位置エネルギ差を小さくできるので、揚水ポンプ19による揚水エネルギを小さくできる。したがって、揚水ポンプ19のポンプ容量を小さくでき、揚水ポンプ19に小型ポンプを用いることができる。しかも、この第1例の緑化システム1では雨水を用い水道水を使用しないので、小型ポンプの使用に相俟って稼動費および管理費を安価にすることができる。そのうえ、ポンプの駆動や開閉バルブ22の開閉駆動にソーラーパネルの電力を利用することで、更に管理を低減することができる。
【0087】
更に、複数のブロックの各緑化槽2に、前述の陸地型、水中植物型、およびビオトープ型のいくつかの緑化槽を適宜組み合わせ使用することにより、ヒートアイランド現象をより効果的に低減できるとともに、屋上の景観を良好にしてオアシスの機能を発揮させることができる。
【0088】
図3は、本発明に係る緑化システムの実施の形態の第2例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。なお、以後の各例の説明において、その例より前の例の構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付すことで、その詳細な説明は省略する。
【0089】
前述の第1例では、下部貯水槽9の第1および第2下部水槽11,12が隔壁10によって区画されているが、図3(a)に示すようにこの第2例の緑化システム1における下部貯水槽9の第1および第2下部水槽11,12は、互いに個別に独立して設けられた平面視矩形状の2つのボックスから構成されている。これらの2つのボックスは同じ高さ位置またはほぼ同じ高さ位置に設置される。
【0090】
第1下部水槽11には、第1例と同様に高さh2の位置に下部貯水槽越流部13が設けられている。そして、第1および第2下部水槽11,12は、第1下部水槽11の下部貯水槽越流部13に連結された直径d1の第1連結ホース(管)24で連通されているとともに、2つのボックスの底部または底部より若干上方位置に配置されかつ第1連結ホース(管)24の径d1より大きな直径d2(d2>d1)の第2連結ホース(管)25で連通されている。この第2連結ホース(管)25は、第2下部水槽12の第2下部水槽用取り出し口16の高さh4より下方位置に設けることが好ましい。また、第1連結ホース(管)24は必ずしも水平に設ける必要はなく、第1下部水槽11の下部貯水槽越流部13に連結されていさえすれば、第2下部水槽12側が低くなるように傾斜されていてもよい。しかし、第1下部水槽11内の水が第1連結ホース(管)24を通って第2下部水槽12内に流れる際、第1連結ホース(管)24内に空気通路が形成されて水の流れを容易にかつ確実にするためには、第1連結ホース(管)24は水平に設けることが望ましい。
【0091】
図3(b)に示すように、第2連結ホース(管)25が第1下部水槽11に開口する開口部には、前述の逆止弁14が設けられていて、第2下部水槽12から第1下部水槽11への水の流動は許容するが、その逆向きの水の流動は阻止するようになっている。なお、逆止弁14は第2連結ホース(管)25の中間位置あるいは第2連結ホース(管)25が第2下部水槽12に開口する開口部に設けることもできる。
この第2例の緑化システム1の他の構成は、前述の第1例の緑化システムと同じである。
【0092】
この第2例の緑化システム1によれば、第1および第2下部水槽11,12を独立した2つのボックスから構成しているので、第1および第2下部水槽11,12を互いに所定距離を置いて設置することができる。これにより、屋上の形状に柔軟に対応させて第1および第2下部水槽11,12を配置することができるので、第1および第2下部水槽11,12の設置自由度を高くすることができる。また、第1および第2下部水槽11,12を任意に離して設置できるので、緑化槽2および底部貯水槽4の共通槽をこの共通槽の大きさに合わせて効率よく支持する支持ベースとして機能させることができる。
【0093】
また、逆止弁14が設けられている第2連結ホース(管)25の径d2を大きくすることで、逆止弁14の開閉を確実にすることができる。なお、第1および第2連結ホース(管)24,25の径d1,d2はd2>d1に限定されることはなく、d2=d1あるいはd2<d1に設定することもできる。しかし、前述の作用効果を得るためには、両径d1,d2はd2>d1に設定することが好ましい。
この第2例の緑化システム1の他の作用効果は、前述の第1例の緑化システム1と実質的に同じである。
【0094】
図4は、本発明に係る緑化システムの実施の形態の第3例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
前述の第2例では、下部貯水槽9の第1および第2下部水槽11,12を平面視矩形状の2つのボックスから構成しているが、図4(a)および(b)に示すようにこの第3例の緑化システム1における下部貯水槽9の第1および第2下部水槽11,12は、互いに個別に独立して設けられた円筒状パイプから形成されている。その場合、第2下部水槽12は、互いに個別に独立して設けられかつそれぞれ3つの円筒状パイプから形成された3つの第2−1下部水槽部12a、第2−2下部水槽部12b、および第2−3下部水槽部12cから構成されている。すべての円筒状パイプはそれらの両側面が閉塞されて密封容器として構成されている。これらの円筒状パイプは同じ高さ位置またはほぼ同じ高さ位置にかつ平行に設置される。
【0095】
そして、第1下部水槽11と、第2下部水槽12の最も第1下部水槽11に近い第2−1下部水槽部12aとが、第2例と同様に第1および第2連結ホース(管)24,25で連通されている。その場合、第1連結ホース(管)24は、第1下部水槽11の高さh2の位置に設けられた下部水槽越流部13に連結されている。また、第2−1下部水槽部12aと第2−2下部水槽部12bとが第3連結ホース(管)26で連通されているとともに、第2−2下部水槽部12bと第2−3下部水槽部12cとが第4連結ホース(管)27で連通されている。第3および第4連結ホース(管)26,27は、いずれも第2連結ホース(管)25と同じ直径を有しかつ同じ高さ位置に配設されている。なお、第2−1下部水槽部12aおよび第2−2下部水槽部12bの上部に、第1ないし第4連結ホース(管)24,25,26,27を通る水の流れを容易にかつ確実にするために外部と連通する空気通路を設けることが望ましい。
【0096】
なお、第3および第4連結ホース(管)26,27は、互いに直径が異なりかつ第2連結ホース(管)25の直径と異なってもよく、また、第2連結ホース(管)25と異なる高さ位置に配設されてもよい。
最後の第2−3下部水槽部12cには、前述の各例と同様に第2下部水槽越流部15と第2下部水槽取り出し口16が設けられている。
また、揚水ポンプ19は第1下部水槽11の外に設置されているとともに、第5連結ホース(管)28によって第1下部水槽11内に連通されている。
この第3例の緑化システム1の他の構成は、前述の第1例の緑化システムと同じである。
【0097】
この第3例の緑化システム1によれば、第1および第2下部水槽11,12を円筒状パイプで構成しているので、第1および第2下部水槽11,12を容易に製造することができる。また、第2下部水槽12を3つの円筒状パイプから構成しているので、第2下部水槽12を屋上の形状に柔軟に対応させて配置することができ、第2下部水槽12の設置自由度をより一層高くすることができる。
この第3例の緑化システム1の他の作用効果は、前述の第1および第2例の緑化システム1と実質的に同じである。
【0098】
なお、第2下部水槽12の円筒状パイプは3つに限定されることはなく、1つ以上任意に設けることもできる。また、複数の円筒状パイプは必ずしも図4(a)に示すように並設することはなく、円筒状パイプの長手方向に一列に整列して配設されてもよいし、また円筒状パイプを長手方向の配設と平行の配設とを組み合わせてもよい。その場合、第1および第2下部水槽11,12の各円筒状パイプはそれらの円筒外周面どうしを連通させる以外に、それらの両端面どうしを連通させることもできるし、端面と円筒外周面とを連通させることもでき、種々の連通方法が可能である。第1および第2下部水槽11,12に、円筒状パイプ以外の例えば角筒形パイプを用いることもできる。更に、前述の第2例のボックスからなる第2下部水槽12においても、この第3例と同様に複数設けることもできるし、更に、第2例のボックスと第3例のパイプとを組みあわせて使用することもできる。
【0099】
図5は、本発明に係る緑化システムの実施の形態の第4例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
前述の第1例では、緑化槽越流部7が緑化槽2内の土壌6の表面(上面)より若干(数cm程度)高い位置に設けられているが、図5(a)および(b)に示すようにこの第4例の緑化システム1では、隔離板3の上面位置、つまり実質的に底部貯水槽4の最上位置に設けられている。
この第4例の緑化システム1の他の構成および他の作用効果は、いずれも前述の第1例と実質的に同じである。
【0100】
図6は、本発明に係る緑化システムの実施の形態の第5例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
前述の第1例では、緑化槽2の真下に隔離板3を介して底部貯水槽4が設けられているが、図6(a)および(b)に示すようにこの第5例の緑化システム1では、底部貯水槽4が設けられていない。
この第5例の緑化システム1の他の構成は前述の第1例と実質的に同じである。また、この第5例の緑化システム1の作用効果は底部貯水槽4に基づく作用効果を除いて、第1例と実質的に同じである。
【0101】
図7は前述の各例に用いられる緑化槽の一例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図であり、図8は図7に示す緑化槽に用いられる土壌ブロックを示す斜視図である。
図7(a)および(b)に示すように、緑化槽2内には、それぞれ同じ大きさの直方体形状に形成された所定数(図示例では、4個)の土壌ブロック29が並設されている。その場合、緑化槽2の側壁2aと土壌ブロック29との間および隣接する土壌ブロック29どうしの間には、それぞれ若干の隙間cが設定されている。この隙間cにより、土壌ブロック29に降った雨水や点滴型散水パイプ23から土壌ブロック29に点滴で供給された水等の植生に必要な水以外の余剰水がこの隙間に流出し、更に緑化槽越流部7および流出パイプ8を通して下部貯水槽9に流入するようになっている。
【0102】
これらの土壌ブロック29は、植物が生育される土壌6を含んでいるとともに、土壌ブロック29が緑化槽2内に設置される前に、雑草を主体にする植物の種子が土壌ブロック29の土壌6中に予め含まれている(蒔かれている)。
【0103】
図8に示すように、土壌ブロック29は底面板30とその外周縁に全周にわたって立設された側壁31とから構成されており、底面板30と側壁31とから構成される収容部に、種子を含んだ土壌6が収納されている。この土壌ブロック29の幅B(m)、長さL(m)、および高さの(土壌の厚さ)d(cm)は可搬可能にかつ緑化槽2の大きさに対応して決定されている。底面板30は、完全に遮水でない透水性の低い、つまり難透水性の板またはシートでで構成される。この底面板30には、例えば、合板(ベニヤ板)、合成樹脂の板、合成樹脂製のシートなどの市販のものを用いることができる。
【0104】
また、側壁31は、運搬時に土壌6が崩れない程度の強さを有し、緑化槽2内に設置後には水を通過させ、いずれは(所定時間経過後には)腐敗して土壌の一部となる材料で構成される。この側壁31には、例えば、段ボール板あるいは厚手の紙等を用いることができる。更に、土壌6に予め含ませる植物の種子は、土壌ブロック29が緑化槽2に設置された後に植物の種子が発芽するとともに生育のし易い植物の種子がよい。植物としては特に限定されないが、生育後に手間や費用があまりかからなく、管理がし易い雑草等の植物が望ましい。
【0105】
このような土壌ブロック29を用いることで、土壌6の運搬作業および緑化槽2への土壌6の収納作業がともに簡単にかつ作業時間を短縮できる。しかも、土壌ブロック29の設置前にこの土壌ブロック29の土壌6中に予め植物5の種子を含ませる(蒔く)ことで、土壌ブロック29の設置後に植物5の種子を蒔く作業を不要にできる。また、土壌ブロック29の植生の成長などに不具合が出たとき、その土壌ブロック6のみを交換すればよいだけであるので、維持管理がより一層容易となる。
【0106】
図9は、本発明に係る緑化システムの実施の形態の第6例を模式的に示す全体概略図である。
図9に示すようにこの第6例の緑化システム1では、前述の第1例の緑化システム1における緑化槽2の土壌6に、図8に示す土壌ブロック29が図7に示すと同様に設置されている。
【0107】
また、前述の第1例では、下部貯水槽9が隔壁10によって、第1下部水槽11と第2下部水槽12とに区画されているが、この第6例の緑化システム1では、下部貯水槽9は区画されず、単一の貯水槽として形成されている。
【0108】
更に、第6例の緑化システム1では、点滴型散水パイプ23の小孔23aに代えて、所定数の点滴ノズル23bが点滴型散水パイプ23に設けられている。図示しないが点滴型散水パイプ23は分岐されており、各点滴ノズル23bは、図7(a)および(b)に示すように、それぞれ各土壌ブロック29の中心位置となるように配設されている。
【0109】
このように点滴ノズル23bが配設された場合、各点滴ノズル23b間の間隔は緑化槽2の大きさ、つまり土壌ブロック29の大きさに基づいて決定される。そして、土壌6に散水する場合の散水量q0(cm3)、散水時間の間隔T(hour)が、土壌6の含水率pが最適含水率となるように設定される。その場合、含水率pは土壌6中に含まれる水の重さを、水を含む土壌6の重さで割った値である(単位なし。なお、両重さの単位は同一であり、例えばkg等で与えられる)。また、最適含水率は、植生の成長が維持でき、枯死しない程度の含水率pである。
【0110】
土壌6の含水率pは、次のようにして求められる。理論解析の結果、含水率pは次の2つのパラメータα,βによって決まることがわかった。
【0111】
【数1】

【0112】
【数2】

【0113】
そして、含水率pはこれらのパラメータα,βにより、
【数3】

【0114】
で与えられる。これらの数式1ないし3において、Lは点滴ノズル23bの間隔(m)で図7(a)に示す土壌ブロック29の幅B(m)あるいは長さL(m)のいずれか一方を緑化槽2の設置場所等状況に応じての適宜選択して用いられる。この場合、土壌ブロック29間等の隙間c(cm)は幅B(m)および長さL(m)に比してきわめて小さいので無視し、点滴ノズル25bの間隔L(m)は実質的に幅B(m)あるいは長さL(m)とみなすことができる。また、λは土壌の空隙率であり、空隙率は土壌6中の空隙の体積を土壌の体積で割った値(単位なし)である。更に、kは透水係数または拡散係数(cm/s)である。更に、evは単位時間(sec)当たりでかつ単位面積当たりの蒸発量(cm3/s/cm2)、evは単位時間(sec)当たりでかつ単位面積当たりの隔離板3からの漏水量(cm3/s/cm2)である。
【0115】
そして、数式2によりパラメータβを求め、求めたβと、緑化槽2の設置状況に応じて最適に設定した含水率pとに基づいて、数式3によりパラメータαを求める。最後に、求めたαに基づいて、数式1により散水時間の時間間隔T(hour)を求める。
【0116】
更に、上部貯水槽17には、二次利用水パイプ32が開閉バルブ33を介して接続されている。開閉バルブ33が開閉制御されることで、上部貯水槽17の水が二次利用水パイプ32を通して、例えば水洗便所の用水、庭の植物に散水するための水、および自動車の洗車のための水等に二次利用されるようになっている。その場合、開閉バルブ33の開閉は手動あるいは前述の制御装置によって適宜制御される。
【0117】
この第6例の緑化システム1によれば、緑化槽2の土壌6に、緑化槽2の大きさに基づいて予め設定された土壌ブロック29を用いているので、緑化槽2の設置がきわめて簡単になる。しかも、土壌ブロック29の設置前にこの土壌ブロック29の土壌6中に予め植物5の種子を含ませている(蒔いている)ので、土壌ブロック29の設置後に植物5の種子を蒔く作業が不要となり、緑化システム1の設置作業をきわめて簡単にできかつ設置時間を効果的に短縮できる。特に、植物の種子として雑草の種子を用いることにより、緑化システムの設置場所を含む周辺地域の生態系を保全維持可能となり、植物の遺伝子の保全の点でも意義が大きいものとなる。
この第6例の緑化システム1の他の構成および他の作用効果は、前述の第1例と実質的に同じである。
【0118】
なお、前述の各例において、緑化槽2が設けられる部分を底部貯水槽4と同じ水平断面積でかつ底部貯水槽4とは別体の緑化槽として形成してこの緑化槽を底部貯水槽4の上に取り外し可能に設置してもよい。その場合、緑化槽2の底部に隔離板3を設けるとともに、この隔離板3の上に緑化槽2を形成するようにする。更に、底部貯水槽4の水平断面積の大きさを緑化槽のそれよりも大きく形成することもできるが、このとき、底部貯水槽4の上部開口部が部分的に上方に開放する場合には、その開放部分は閉塞するようにする。これにより、底部貯水槽4内の水が前述と同様に腐敗するのが抑制される。
【0119】
また、緑化槽2、底部貯水槽4、下部貯水槽9および上部貯水槽17をいずれも平面視矩形状に形成するものとしているが、これに限定されるものではなく、それぞれ個別に種々の形状に形成することもできる。更に、散水装置として点滴型散水装置21に限定されることはなく、従来公知の散水装置を用いることもできる。
【0120】
更に、前述の例では、本発明の緑化システムを屋上の緑化システム1として説明しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、ベランダ、テラス、および舗装グランドや舗装道路等の人工地盤などの他の人工建造物の、例えばコンクリートまたはアスファルト舗装面等の平坦部を緑化する緑化システムにも適用することができる。
【0121】
更に、本発明における平坦部は、必ずしも表面が滑らかでなく、表面に凹凸を有する平坦部、あるいは必ずしも水平面でなく、傾斜面であって人工建造物により水平面に維持された平坦部等の、本発明の緑化システムが設置可能で全体的に平坦部である場合も含む。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の緑化システムは、雨水を利用して、屋上、ベランダ、テラス、および舗装グランドや舗装道路等の人工地盤などの人工建造物の、例えばコンクリートまたはアスファルト舗装面等平坦部を緑化する緑化システムに好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】本発明に係る緑化システムの実施の形態の第1例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
【図2】図1に示す例の屋上緑化システムに用いられる隔離板を示し、(a)は縦横に整列された多数の小孔を示す図、(b)はランダムに配置された多数の小孔を示す図である。
【図3】本発明に係る緑化システムの実施の形態の第2例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
【図4】本発明に係る緑化システムの実施の形態の第3例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
【図5】本発明に係る緑化システムの実施の形態の第4例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
【図6】本発明に係る緑化システムの実施の形態の第5例を模式的に示し、(a)は全体概略図、(b)は(a)における部分拡大図である。
【図7】前述の各例に用いられる緑化槽の一例を示し、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図8】図7に示す緑化槽に用いられる土壌ブロックを示す斜視図である。
【図9】本発明に係る緑化システムの実施の形態の第6例を模式的に示す全体概略図である。
【符号の説明】
【0124】
1…緑化システム、2は緑化槽、3は隔離板、4は底部貯水槽、5は植物、6は土壌、7は緑化槽越流部、8…流出パイプ、9…下部貯水槽、10…隔壁、11…第1下部水槽、12…第2下部水槽、13…下部貯水槽越流部、14…逆止弁、15…第2下部水槽越流部、16…第2下部水槽用水取り出し口、17…上部貯水槽、18…水、19…揚水ポンプ、20…揚水ホース、点滴型散水装置、22…開閉バルブ、23…点滴型散水パイプ、24…第1連結ホース(管)、25…第2連結ホース(管)、26…第3連結ホース(管)、27…第4連結ホース(管)、29…土壌ブロック、30…底面板、31…側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工建造物の平坦部を緑化する緑化システムにおいて、
前記人工建造物の平坦部の上方位置に設置され、植物が生育される緑化槽と、前記緑化槽より下方で前記人工建造物の平坦部に設置され、前記緑化槽から流出する雨水を貯える下部貯水槽と、前記緑化槽より上方に設置された上部貯水槽と、前記下部貯水槽内に貯えられた水を揚水して前記上部貯水槽に供給する揚水手段と、前記上部貯水槽内に貯えられた水を前記植物に散水する散水装置とを備え、
前記下部貯水槽は第1下部水槽と第2下部水槽とからなり、
前記第1下部水槽内に貯えられた水を前記揚水手段により揚水して前記上部貯水槽に供給するように構成されており、
前記第1下部水槽内に所定量以上の水が貯えられたとき、この所定量以上の水が前記第2下部水槽内に流入しかつ貯留するようになっており、
前記第2下部水槽が前記緑化槽以外の用水設備に接続されることを特徴とする緑化システム。
【請求項2】
前記第1下部水槽内の水位が前記第2下部水槽内の水位より低いとき、前記第2下部水槽内の水を前記第1下部水槽内に補給する水補給手段を備えていることを特徴とする請求項1記載の緑化システム。
【請求項3】
前記水補給手段は、前記第2下部水槽から前記第1下部水槽に向かう水の流れのみを許容する逆止弁から構成されていることを特徴とする請求項2記載の緑化システム。
【請求項4】
前記第2下部水槽は順に連通された複数の下部水槽部からなり、前記複数の下部水槽部の1つに、前記第1下部水槽内に所定量以上の水が貯えられたとき、この所定量以上の水が流入しかつ貯留するようになっているとともに、前記複数の下部水槽部の他の1つに、前記用水設備が接続されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1記載の緑化システム。
【請求項5】
前記緑化槽の下に、この緑化槽を浸透した雨水が貯えられる底部貯水槽を備えており、前記緑化槽と前記底部貯水槽とは共通槽に一体に設けられていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1記載の緑化システム。
【請求項6】
前記緑化槽と前記底部貯水槽との間を隔離する隔離板を備えているとともに、前記緑化槽に植物が生育される土壌が収納されており、
前記隔離板は、前記緑化槽を通して浸透してきた水を前記底部貯水槽に透水させるとともに前記底部貯水槽に貯えられている水の蒸発水を前記緑化槽の土壌に透水させる透水性を有し、前記緑化槽に降った雨水および前記散水装置からの散水の少なくとも一方が前記緑化槽および前記隔離板を通して前記底部貯水槽内に貯えられるとともに、前記底部貯水槽内の水の蒸発水が前記隔離板を通して前記緑化槽の土壌に透水するようになっていることを特徴とする請求項5記載の緑化システム。
【請求項7】
前記隔離板は所定数の小孔を有しており、前記植物の根が前記小孔を通して前記底部貯水槽内に進入可能となっていることを特徴とする請求項6記載の緑化システム。
【請求項8】
前記緑化槽の土壌に、互いに並設された所定数の可搬の土壌ブロックが用いられていることを特徴とする請求項6または7記載の緑化システム。
【請求項9】
人工建造物の平坦部を緑化する緑化システムにおいて、
前記人工建造物の平坦部の上方位置に設置され、植物が生育される土壌が収納された緑化槽と、前記緑化槽の下に、この緑化槽を浸透した雨水が貯えられる底部貯水槽と、前記緑化槽と前記底部貯水槽との間を隔離する隔離板と、前記緑化槽から流出する雨水を貯える下部貯水槽とを備えており、
前記緑化槽の土壌に、所定形状に形成されかつ互いに並設された所定数の可搬の土壌ブロックが用いられており、
前記隔離板は、前記緑化槽を通して浸透してきた水を前記底部貯水槽に透水させるとともに前記底部貯水槽に貯えられている水の蒸発水を前記緑化槽の土壌に透水させる透水性を有することを特徴とする緑化システム。
【請求項10】
前記土壌ブロックが前記緑化槽内に設置される前に、植物の種子が前記土壌ブロックの土壌中に予め含まれていることを特徴とする請求項8または9記載の緑化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−267731(P2007−267731A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−54082(P2007−54082)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(505462518)
【Fターム(参考)】