説明

締結具の緩み検出システム及び緩み検出方法

【課題】締結具の緩み検出システム及び検出方法に関し、締結具がナットの場合であっても緩みによる回転を検出しやすく且つ描画しやすい検出用マークによって、高速で精度よく締結具の緩みを検出することできるようにする。
【解決手段】締結具3の締結後に締結具3の表面に所定方向に向けて配備された検出用マーク51,52と、検出用マークを含んだ締結具3の外観を、予め設定され締結具3の軸心線に対して傾斜した撮影方向から撮影する撮影装置と、この撮影装置により撮影された画像中の検出用マーク51,52の数に基づいて、締結具3の緩みを判定するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道レールを固定する締結装置のボルト及びナットの緩み検出に用いて好適の、締結具の緩み検出システム及び緩み検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々な機械類や設備類には、ボルト及びナット等の多数の締結具が装備され、各締結具が緩みなく締結されていることが必要な場合が多い。
例えば、鉄道用レールは枕木等の基台上に多数のボルト及びナット等の締結具を用いて固定されるが、固定した後で締結具に緩みが生じると、車両の走行振動を招くなど走行性能の低下や、レールや車両の車輪の磨耗を早めるなどの課題を生じることになる。
【0003】
鉄道用レールの場合、使用するにつれてレールが磨耗していくため、この磨耗が許容範囲外となったらレールが交換され、このレール交換時には、新たなレールを多数の締結具(ボルト及びナット等)を用いて固定するため、通常、工事後に人が目視や打撃検査を行なって、ボルト,ナットの緩みや締め忘れがないかを確認する。
こうした締結具の緩みの検査は、このようなレール交換のみならず必要であるが、レール交換作業やその後の確認作業、また、その後の保守点検として必要な締結具の緩みの検査は、通常は車両を走行させない夜間に行われることがほとんどであるため、人手による確認や検査は、作業者の大きな負担になっている。特に、その確認や検査の対象になる締結具の量は莫大であり、確認や検査にかかる作業者の確保が困難であり、点検費用も嵩むためその抑制など、多くの課題を抱えている。
【0004】
そこで、このような締結具の検査の方法として、従来から種々の技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、ボルトの緩みを打撃により判定する技術として、打撃直後の音圧にかかる時系列信号の最大値を周波数帯域毎に抽出し、各最大値を予め設定された周波数帯域毎の振動基準値と比較して緩みを判定する技術が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、ボルトの内部に、歪み検出センサを固定すると共に、この歪み検出センサの出力を増幅しボルト締め付け後に歪み検出センサの出力が設定値より低下した時に出力を送出する増幅器を収容し、ボルト頭部に増幅器の出力によりボルト締めに緩みが生じたことを表示する表示器を固定する技術が提案されている。
特許文献3には、レール上を走行する車両に装備した距離センサにより、締結ボルトを介してレールを締結しているレール押圧片上の異なった位置までの測定基準点からの距離を測定し、複数の測距センサが測定した各測距値間の差を演算して締結ボルトの締結状態を判別する技術が提案されている。
【0006】
さらに、特許文献4には、ラインセンサを有するカメラを搭載した走行車を軌道上で走行させながら、軌道面の画像をラインセンサで連続的に撮影して、レールの間隔、継ぎ目の広さ、スラブ板の損傷、締結機の板バネの損傷、ボルトのゆるみなど軌道面に関する画像データを得て、画像処理部において所定の各検査項目データを抽出し、この各検査項目データを基準値とそれぞれ比較し、その異常箇所を判定する技術が提案されている。
【0007】
特許文献5には、移動台車上に設置したラインカメラで路床の画像を撮影し、撮影した画像を読込みながら、レール締結器におけるナットよりも上方に突出する板ばね固定用ボルトのネジ山数を計測し、その時系列比較により、板ばね固定用ボルトの緩みを検出したり、レール締結器におけるレール固定用板ばねの隙間の幅を計測し、その時系列比較により、レール固定用板ばねの緩みを検出したり技術が提案されている。
【0008】
特許文献6には、構造物を締結するボルトの緩み点検において、予めボルト締結時にボルトおよびボルト取付け部の鋼材に耐候性に優れた塗料などでマーキングを施して、ボルトの緩み点検時に、地上から撮像した構造物の画像から、ボルト部を拡大して、ボルトに施したマーキングとボルト取付け部の鋼材に施したマーキングの線のずれによって被検査対象ボルトの緩みの判定を行なう技術が提案されている。
【0009】
また、本出願人は、鉄道レールを固定する締結具の緩み検出にかかる技術ではないが、鉄道レール上の支障物を検知システムとして、軌道に沿って走行する自走車両において、撮像手段からの画像情報から支障物の建築限界内の有無を調べ、支障物がある時は支障物検知情報を出力する画像処理手段を具備した技術を提案している(特許文献7)。
【特許文献1】特開2000−131195号公報
【特許文献2】特開平11−118637号公報
【特許文献3】特開平8−285778号公報
【特許文献4】特開平5−247903号公報
【特許文献5】特開平8−15062号公報
【特許文献6】特開2005−3658号公報
【特許文献7】特許第3448088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の特許文献1〜6に記載された締結具の緩み検出にかかる技術では、以下のような課題がある。
特許文献1の技術のように打撃音を測定して検出する場合、一つ一つの締結具について打撃していかなくてはならず、多数の締結具を高速で検出することが困難である。
特許文献2の技術のようにボルトに工夫して緩みを検出する場合、ボルトが高価になるため、多数のボルトをこのようなボルトにするには膨大な費用がかかる上、ボルトの強度確保の点で課題が残る。
【0011】
特許文献3の技術のように変位計で高さ変化を見る場合、SN比が悪く、変位計のほんのわずか検出誤差で締結具の緩み検出精度は大幅に低下してしまい、検出精度を十分に確保することは困難である。
特許文献4の技術では、画像データから、レールの間隔や継ぎ目の広さ、スラブ板の傷、パッドのずれ、締結機の板バネの損傷、ボルトのゆるみなどの検査項目に対応する検出データを抽出するが、この場合も、SN比が悪く、検出データの僅かな抽出誤差で締結具の緩み検出精度は大幅に低下してしまい、検出精度を十分に確保することは困難である。
【0012】
特許文献5の技術では、撮影した画像からボルトのネジ山数を計測するが、この場合も、画像からボルトのネジ山数を計測するのは困難であり、計測誤差が生じ易く締結具の緩み検出精度を十分に確保することは困難である。
特許文献6の技術では、ボルト頭部とボルト取付け部の鋼材とに一直線に結ぶ線を引き、その線のズレを検出するが、ボルトやボルト取付け部にしっかりとした直線を引くことは困難である。特に、緩みを検出する対象がナットの場合には、ナットの中央部にボルトのネジ部が突出しているため、ナットにしっかりとした直線を引くことは困難である。さらに、線がまっすぐか、曲がっているかという判断を画像処理で行なう処理は、通常時間のかかるものであるため、多数の締結具に対して高速で精度よく緩みを検出することは困難である。
【0013】
本発明はこのような課題に鑑み案出されたもので、締結具がナットの場合であっても緩みによる回転を検出しやすく且つ描画しやすい検出用マークを用いることにより、締結具が正常であるか緩んでいるかを1枚の画像で容易に判断することができるようにして、高速で精度よく締結具の緩みを検出することできるようにした、締結具の緩み検出システム及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の締結具の緩み検出システム(請求項1)は、締結具(ボルト又はナット等)の締結後に該締結具の表面に所定方向に向けて配備された検出用マークと、前記検出用マークを含んだ前記締結具の外観を、予め設定され前記締結具の軸心線に対して傾斜した撮影方向から撮影する撮影装置と、前記撮影装置により撮影された画像中の前記検出用マークの情報に基づいて、前記締結具の緩みを判定する判定装置とをそなえたことを特徴としている。
【0015】
前記締結具は、複数のものが列状に並んで配備され、前記撮影装置は、前記締結具の列に沿って走行可能な走行車両に装備されて、該走行車両の走行に伴って前記列状に並んだ前記各締結具を次々に撮影することが好ましい(請求項2)。
前記走行車両に、前記締結具の位置に同期してトリガを発生するトリガ発生装置を備え、
前記撮影装置は前記トリガ発生装置で発生したトリガ信号を受けたタイミングで前記撮影を実施することが好ましい(請求項3)。
【0016】
複数の前記締結具は、鉄道のレールを固定するものであって、該レールに沿って列状に並んで配備され、前記走行車両は、前記レール上を走行する鉄道車両であって、前記撮影装置は、前記撮影方向を所定の俯角に向けて前記走行車両に装備されていることが好ましい(請求項4)。
前記撮影方向は、30〜60度の俯角であることが好ましい(請求項5)。
【0017】
前記締結具は、上方に突設された埋め込みボルトに締結されるナットであって、前記検出用マークは、前記ナットの上面に配備されることが好ましい(請求項6)。
前記検出用マークは、前記ナットの上面に、互いに間隔を開けると共に前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された複数のドットマークであることが好ましい(請求項7)。
【0018】
この場合、前記判定装置は、前記撮影装置により撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定することが好ましい(請求項8)。
また、前記検出用マークは、前記ナットの上面に部分的に且つ前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された弧状マークであることが好ましい(請求項9)。
この場合、前記判定装置は、前記撮影装置により撮影された画像中の前記弧状マークの長さ又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定することが好ましい(請求項10)。
【0019】
前記締結具は、頭部を上方に向けて下方の埋め込みナットに締結されるボルトであって、
前記検出用マークは、前記ボルト頭部の複数の平面からなる周面に配備されたドットマークであることが好ましい(請求項11)。
この場合、前記判定装置は、前記撮影装置により撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定することが好ましい(請求項12)。
【0020】
また、本発明の締結具の緩み検出方法(請求項13)は、締結具(ボルト又はナット等)の締結後に該締結具の表面に検出用マークを所定方向に向けて配備する検出用マーク配備ステップと、前記検出用マークを含んだ前記締結具の外観を、予め設定され前記締結具の軸心線に対して傾斜した撮影方向から撮像装置によって撮影する撮影ステップと、撮影された画像中の前記検出用マークの情報に基づいて、前記締結具の緩みを判定する判定ステップとをそなえたことを特徴としている。
【0021】
前記締結具は、複数のものが列状に並んで配備されると共に、前記撮像装置は、前記締結具の列に沿って走行可能な走行車両に装備され、前記撮影ステップでは、該走行車両の走行に伴って前記列状に並んだ前記各締結具を次々に撮影することが好ましい(請求項14)。
前記走行車両に、前記締結具の位置に同期してトリガを発生するトリガ発生装置を備え、
前記撮影ステップでは、前記トリガ発生装置で発生したトリガ信号を受けたタイミングで前記撮影を実施することが好ましい(請求項15)。
【0022】
複数の前記締結具は、鉄道のレールを固定するものであって、該レールに沿って列状に並んで配備され、前記走行車両は、前記レール上を走行する鉄道車両であって、前記撮影ステップでは、前記撮像装置の前記撮影方向を所定の俯角に向けて前記列状に並んだ前記各締結具を次々に撮影することが好ましい(請求項16)。
前記撮影ステップでの前記撮影方向は、30〜60度の俯角であることが好ましい(請求項17)。
【0023】
前記締結具は、上方に突設された埋め込みボルトに締結されるナットであって、前記検出用マーク配備ステップでは、前記検出用マークを前記ナットの上面に配備することが好ましい(請求項18)。
前記検出用マークは、前記ナットの上面に、互いに間隔を開けると共に前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された複数のドットマークであることが好ましい(請求項19)。
【0024】
この場合、前記判定ステップでは、前記撮影ステップで撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定することが好ましい(請求項20)。
また、前記検出用マークは、前記ナットの上面に部分的に且つ前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された弧状マークであることが好ましい(請求項21)。
【0025】
この場合、前記判定ステップでは、前記撮影ステップで撮影された画像中の前記弧状マークの長さ又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定することが好ましい(請求項22)。
あるいは、前記締結具は、頭部を上方に向けて下方の埋め込みナットに締結されるボルトであって、前記検出用マークは、前記ボルト頭部の複数の平面からなる周面に配備されたドットマークであることが好ましい(請求項23)。
【0026】
この場合、前記判定ステップでは、前記撮影ステップで撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定することが好ましい(請求項24)。
【発明の効果】
【0027】
本発明の締結具の緩み検出システム(請求項1)及び緩み検出方法(請求項13)によれば、締結具の検出用マークは所定方向に向けて配備されており、この検出用マークに対し、予め設定され撮影方向から撮像装置によって撮影するので、締結具に移動(緩み)がない限り、撮影された画像中の検出用マークは予め想定可能な一様の状態となるが、締結具に移動(緩み)が生じれば、撮影された画像中の検出用マークの状態は、前記の一様の状態とは異なるものになるため、検出用マークの情報に基づいて、締結具の緩みを判定することができる。
【0028】
特に、撮影方向は予め設定され締結具の軸心線に対して傾斜した方向に設定されるので、締結具の回転(緩み)によって検出用マークの外観が変化し易く、例えば直線の傾きを計算するなどの処理を要することなく、締結具の緩みを容易且つ確実に判定することができる。
また、複数の締結具が列状に並んで配備される場合、締結具の列に沿って走行可能な走行車両に撮影装置を装備して、この撮影装置により走行車両を走行させながら列状に並んだ各締結具を次々に撮影していくことで、多数の締結具に対して効率よく各検出用マークの外観情報を得ることができ、締結具の緩みを効率よく判定することができる(請求項2,14)。
【0029】
締結具の検出用マークの撮影を、締結具の位置に同期して発生するトリガ信号を受けたタイミングで実施することにより、撮像装置により締結具の検出用マークを適切に撮影することが可能になり、締結具の緩みの判定を精度良く行なうことができる(請求項3,15)。
さらに、複数の締結具が鉄道のレールを固定するものであって、該レールに沿って列状に並んで配備されている場合、このレール上を走行する鉄道車両に、撮影方向を所定の俯角に向けて撮影装置を装備すれば、レールを固定する多数の締結具に対して効率よく各検出用マークの外観情報を得ることができ、締結具の緩みを効率よく判定することができる(請求項4,16)。
【0030】
また、鉄道のレール前記撮影方向を30〜60度の俯角とすれば、締結具の回転(緩み)によって生じる検出用マークの外観の変化を把握し易く、締結具の緩み判定を容易且つ確実に行なうことができる(請求項5,17)。特に、鉄道のレールを固定する締結具の場合、埋め込みボルトに締結されるナットと、埋め込みナットに締結されるボルトとが混在することがあるが、撮影方向を30〜60度の俯角であれば、ナットに対してもボルトに対しても検出用マークの外観の変化を把握し易い。
【0031】
締結具が、上方に突設された埋め込みボルトに締結されるナットの場合、検出用マークをナットの上面に配備すれば、斜め方向から外観すると、ナットの上面の一部は、通常はナット上に突出する埋め込みボルトの先端部分で隠されるため、ナットが回転すると、ナット上面の検出用マークの外観に変化が生じ、ナットの緩みを判定することができる(請求項6,18)。
【0032】
この場合、ナットの上面に配備する検出用マークを、互いに間隔を開けて撮影方向に対して所定の方向に向けられた複数のドットマークとすれば(請求項7,19)、撮影装置により撮影された画像中のドットマークの数又は位置の変化から、ナットの緩みを判定することができる(請求項8,20)。特に、ドットマークの場合、ナットの上面にドットマークを配備するのは比較的容易な上、マークの数を数えることにより、ナットの緩みを判定することができるので、画像処理は例えば直線の傾きを計算する場合よりも簡易となる。なお、当然ながら、ドットの数を増やせば、より少ない緩み回転でもマークの数で検出することができる。
【0033】
或いは、ナットの上面に配備する検出用マークを、ナットの上面に部分的に且つ撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された弧状マークとすれば(請求項9,21)、撮影装置により撮影された画像中の弧状マークの長さ又は位置の変化から、ナットの緩みを判定することができる(請求項10,22)。
また、締結具が、頭部を上方に向けて下方の埋め込みナットに締結されるボルトの場合、検出用マークをボルト頭部の複数の平面からなる周面に配備したドットマークとすれば、斜め方向から外観すると、外観側から見えるボルト頭部周面のドットマークしか見えないため、ボルトが回転すると、ボルト頭部周面のドットマークナットの外観に変化が生じ、ナットの緩みを判定することができる(請求項11,23)。特に、撮影装置により撮影された画像中のドットマークの数又は位置の変化から、ナットの緩みを判定することができる(請求項12,24)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図面により、本発明の実施の形態について説明する。
[第1実施形態]
まず、図1〜図4を参照して本発明の第1実施形態について説明する。なお、図1は本発明の第1実施形態に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b),(c)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。図2は本発明の各実施形態に係る撮影角度を説明する側面図であり、図3は本発明の各実施形態に係るシステム構成図であり、図4は本発明の第1実施形態に係るフローチャートである。
【0035】
また、図5は本発明の第1実施形態の変形例に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示しており、図6は本発明の第1実施形態の他の変形例に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。
【0036】
(締結具の緩み検出システムの構成)
まず、本実施形態に係る締結具の緩み検出システムの構成を説明する。図3に示すように、本システムは、鉄道のレールを固定する締結具の緩みを検出するためのもので、締結具としては、図1,図2,図4,図5に示すナット3又は図6に示すボルト2が、各レールの左右両側にレールに沿って一定間隔で列状に配備されている。ここでは、主にナット3を例に説明する。
【0037】
図2に示すように、鉄道のレール10は、枕木又は枕木上に設置された基台1の上に設置され、固定金具1aにより基台1との間に挟持される。固定金具1aは、基台1に固定されてネジ部を情報に突出させた埋め込みボルト2に螺合締結されるナット3によって、基台1との間にレールの固定箇所を挟持する状態で固定される。なお、4はワッシャである。
【0038】
このようなナット3には、図1(a)に示すように、その上面31に、検出用マークとしてのドットマークが塗装等により配備されている。ここでは、2つのドットマーク51,52が等間隔で(つまり、180度だけ位相をずらせて)塗布されている。このドットマーク51,52はナット3のボルト2への締結後に所定方向に向くように配置されて塗布される。ここでは、2つのドットマーク51,52が、ナット3の中心に対して、図1(a)中に一点鎖線で模式的に示すレール10の方向に対して直行する方向(レール幅方向)に向くように配置される。
【0039】
このようなナット3は、レールに沿って一定間隔で多数配備されるが、少なくとも緩みの検出が必要なナット3に対してはいずれも締結後に同様にドットマーク51,52が所定方向に向くように配置されて塗布される。
一方、このナット3の外観を、図2に示すように、予め設定されナット3の軸心線3aに対して傾斜した撮影方向から撮影するカメラ(撮影装置)12が、図3に示すように、レール10上を走行する鉄道車両としての検査用車両11に装備されている。なお、検査用車両11には、カメラ12による撮影領域を照明するライト(照明装置)13が装備され、夜間など必要に応じて撮影領域を照明できるようになっている。
【0040】
さらに、検査用車両11には、ナット3の位置に同期してトリガ信号を発生するトリガ発生装置18が装備され、カメラ12では、トリガ発生装置18からのトリガ信号を受けたタイミングでナット3の撮影を行なうようになっている。
なお、トリガ発生装置18には、検査用車両11の下部にセンサ部を下方に向けてそなえられ、センサ部がナット3のほぼ直上に来ると反応してトリガ信号を発生するようになっている。つまり、レール10を固定するナット3は、詳細には、図12(a),(b)に示すように、ナット3の下方にワッシャ4に加えて板バネ20を介してレール10の基部をその上方から押さえて固定している。この板バネ20は、図12(b)に示すように、レール10の基部をはじめとした周辺の機器類よりも上方に位置すると共に、図12(a)に示すように、ワッシャ4よりもレール10の長手方向に長く延在する。
【0041】
このため、センサ部に、その検出方向に向けて対象物との距離を検出する距離センサを備えて、この距離センサにより検出方向の対象物との距離を検出し[図12(b)中の検出方向の矢印Sを参照]、距離センサの検出情報に基づいて、ナット3の撮影を行なうためのトリガ信号を発するようになっている。検査用車両11の移動に伴って距離センサが移動していくと、例えば、図12(c)に示すように距離センサが反応する。つまり、距離センサがナット3の上方に近づいた時点t1で、ナット3よりも手前から配置され周辺の機器類よりも上方(距離センサに近い側)に位置する板バネ20に、距離センサがまず反応し、検出信号が距離小(近)に変化し、その後、距離センサがナット3の上方に到達した時点t2で、検出信号がさらに距離小(近)に変化する。
【0042】
特に、板バネ20の検出を判定するには、距離センサから板バネ20までの距離よりも大きく板バネ20の周辺の機器類までの距離よりも小さい距離値の閾値を設定すれば、距離センサの検出値がこの閾値以内になったら板バネ20上に達したものと判定することができる。
そこで、ここでは、トリガ信号に対する撮影の応答遅れを考慮して、ナット3よりも手前の板バネ20を検地した時点t1でナット3の撮影を行なうトリガ信号を発するようにしている。
【0043】
この例では、トリガ発生装置18でトリガ信号を発生すると同時にカメラ12にこのトリガ信号を送信し、カメラ12ではこのトリガ信号に呼応してその時点での検出対象となるナット3を撮影する。また、トリガ発生装置18のセンサ部は、検査用車両11の車輪に接近させて備えられており、検査用車両11がカーブを走行している際にも、センサ部の検出エリアがナット3の配置された領域から外れないように考慮しされている。また、カメラ12及びライト13は、その撮影方向及び照射方向が、トリガ発生装置18のセンサ部の検出するナット位置に向くように、検査用車両11から車両前方に突設されたステー11bを介して、車両後方斜め下向きに向けて設置されている。 また、カメラ12は左右の各レール11,11に対応し各レール11,11の直上に配置され、検査用車両11に対を成して備えられる。ナット3やボルト2といった鉄道のレールを固定する締結具は、各レール11の左右に備えられるが、ここでは、1つのカメラ12によって各レール11の左右にある締結具を同時に撮影するようになっている。もちろん、各レール11の左右にそれぞれカメラを設置してもよい。また、ライト13についても、各カメラ12毎に備えられることが好ましいが、検出対象の各締結具をいずれも照明することができれば1つだけでもよい。
【0044】
なお、カメラ12による撮影方向は、ナット3の軸心線3aに対して傾斜しているが、これにより、図1(a)〜(c)に示すように、ナット3の上面31のドットマーク51,52の一部が、ナット3の回転に応じてボルト2の裏側に隠れることになり、撮影されたドットマークの数からナット3の回転(緩み)を判断することができるためである。
このカメラ12による撮影方向は、検査用車両11の進行方向(レール10の方向)に対して30〜60度の俯角とすることが好ましく、45度付近の俯角とすることがより好ましい。この角度が大き過ぎれば、ナット3が回転してもドットマーク51,52がボルト2の裏側に隠れることがなく、この角度が小さ過ぎれば、ドットマーク51,52自体を画像認識しにくくなる。また、後述するように、締結具として、ナット3とボルト2´とが混在する場合にも、撮影方向を、30〜60度の俯角とすることが好ましく、45度付近の俯角とすることがより好ましい。
【0045】
一方、検査用車両11には、カメラ12による撮影画像を取り込んで画像処理する画像処理部14と、この画像処理部14により求められたドットマークにラベリングを施すラベリング処理部15と、ラベリング処理部15によるラベリングに基づいてナット3の緩みを判定処理する判定処理部16とからなる、判定装置17が装備されている。なお、判定装置17の各処理部14〜16は、CPU,ROM,RAM,及び入出力インターフェイス等を備えて構成されるマイクロコンピュータの機能要素として備えることができる。
【0046】
画像処理部14では、撮影された画像中のナット3が存在する領域を抽出する前処理と、抽出したナット領域の2値化処理を行なう。この結果、画像中のナット領域に存在するドットマーク領域が他と識別され、ラベリング処理部15では、一塊のドットマーク領域の各画素に同一のラベリングを行なう。例えば、画像中に、ドットマーク51,52に対応した画像があれば、一方のドットマークの各画素にいずれもラベル1をつけ、他方のドットマークの各画素にいずれもラベル2をつける。この結果、画像中のラベルの数、及び、各ラベリングした画像領域の位置が特定される。
【0047】
判定処理部16では、ラベルの数(ラベリング個数)に基づいて、あるいは、ラベリングしたドットマーク対応箇所の画像領域中の位置からナット3の緩みを判定する。最もシンプルには、ラベルの数で判定できる。ただし、ラベルの数による判定は、図1(a)に示す正常の状態から図1(c)に示すようにナット3が約60度〜120度の範囲で回転した場合に緩みを判定することができるが、図1(b)に示すように、ナット3の回転角度が約30度の場合など、緩みを判定することができない場合もある。
【0048】
そこで、ここでは、さらに画像領域中のラベルの位置(例えば、各ラベル領域の面心を代表位置とする)から緩みを判定するようになっている。つまり、2つのラベルが検出されたら、ドットマーク51,52に対応した両ラベル領域の画像上での位置に上下の変化があるか否かを判定し、図1(a)に示す正常の状態であれば両ラベル領域の位置が上下に等しいはずであるため、両ラベル領域の位置が上下に等しくなければ、ナット3は回転したもの、つまり、緩みが生じたものと判断することができる。
【0049】
(締結具の緩み検出システムによる緩みの検出)
本発明の第1実施形態にかかる締結具の緩み検出システムは上述のように構成されているので、例えば、図4に示すような手順(方法)で、締結具としてのナット3の緩みを検出することができる。
図4には示さないが、ナット3の締結後にこのナット3の表面(上面)31に検出用マークとしてドットマーク51,52を塗布等により所定方向に向けて配備しておく(検出用マーク配備ステップ)。
【0050】
そして、図4に示すように、ドットマークを含んだナット3の外観を、カメラ12によって撮影する(ステップS10,撮影ステップ)。なお、このカメラ12による撮影は、トリガ発生装置18でナット位置に応じて発生したトリガ信号を受けたタイミングで行なわれる。そして、画像処理部14で、撮影された画像中のナット3が存在する領域を抽出する前処理(ステップS20)を行ない、次いで、抽出したナット領域の2値化処理を行なう(ステップS30)。
【0051】
この結果、画像中のナット領域に存在するドットマーク領域が他と識別されるので、ラベリング処理部15で、一塊のドットマーク領域の各画素に同一のラベリングを行なう(ステップS40)。
さらに、判定処理部16で、ラベルの数(ラベリング個数)に基づいて、あるいは、ラベリングしたドットマーク対応箇所の画像領域中の位置からナット3の緩みを判定する。つまり、まず、撮影された画像中のラベルリング個数が塗布数(塗布時に撮影方向から見える数)と同じか否かを判定して(ステップS50)、同じでなければ、ナット3は回転しており緩みが発生しているものと判定する(ステップS60)。一方、画像中のラベルリング個数が塗布数と同じなら、ラベリング領域から把握されるドット位置が塗布時の位置から変化しているか否かを判定して(ステップS62)、変化していれば、ナット3は回転しており緩みが発生しているものと判定する(ステップS60)。また、変化していなければ、ナット3は回転しておらず緩みは発生していないものと判定する(ステップS70)。
【0052】
また、カメラ12による撮影が、トリガ発生装置18でナット位置に応じて発生したトリガ信号を受けたタイミングで行なわれるので、撮影画像中の一定の位置[例えば、撮影画像の車両走行方向(上下方向)中央]にナット3が来るように、撮影することが可能になるので、ナット3の外観を、常に設定方向から撮影することが可能になり、ドットマークに関する判定を誤差なく適切に行ないやすくなり、緩み判定の精度を向上させることができる。
【0053】
このように、本緩み検出システムによる緩み検出方法によれば、検出用マークとしてドットマークを用いており、ドットマークの塗布(ドット描画)はインクジェットノズルなどを用いれば容易に塗布できるので、引用文献6に記載のような従来のライン描画方式に比べ、検出用マークの配備が容易となる。
【0054】
しかも、最もシンプルには、図4のステップS62の判定を省略して、検査対象がドットマークの大きさや形ではなく個数とすることができるため、事前に塗布されたドットマークの状態を覚えておくような前処理も不要である。また、個数を認識する画像処理はラベリング枚数だけで済むため、非常に簡易で、高速な処理が可能となる。
もちろん、本実施形態のように、図4のステップS62の判定を加えることにより、ナット3の緩みを判定する精度を向上させることができる。
【0055】
(第1実施形態の変形例)
上述の実施形態では、ナット3の上面31に、2つのドットマーク51,52を等間隔で(180度だけ位相をずらせて)塗布しているが、ドットマークの数はこれに限定されるものではなく、例えば図5に示すように、ナット3の上面31に、3つのドットマーク51,52を等間隔で(120度だけ位相をずらせて)塗布しても、図5(a)から図5(b)に示すように、撮影されるドットマーク51〜53の数が変化するためナット3の緩みを判定することができる。
【0056】
なお、ドットマークは必ずしも等間隔でなくてもよく、例えば撮影方向から見て、左右いずれかの半部のみに適当な個数のドットマークを塗布して、ナットの回転によってドットマークの数が変化したら、ナット3の緩みがあると判定することができる。この場合、ドットマークの数を増やすほど、ナットの回転(緩み)を精度よく検出できるが、この一方で各ドットマークの識別が困難になるので、ドットマークの数はこれらを考慮して決めればよい。
【0057】
また、鉄道のレール10の締結具として、埋め込みナットに螺合締結されるボルト2´の場合もある。この場合には、図6に示すように、検出用マークとして、ボルト2´の頭部21の複数の平面(ここでは、6面)からなる周面21aの全て或いは一部に、ドットマーク54,55を塗布等によって配備すればよい。この場合にも、図6(a)から図6(b)に示すように、撮影されるドットマーク54〜56の数が変化するためボルト2´の緩みを判定することができる。
【0058】
この場合、ボルト2´の頭部21の周面21aの全てにドットマークを塗布したら、ボルト2´の30度程度の回転は検出できるが、ボルト2´の60度程度の回転では、検出されるドットマークの数は同一になってしまい識別できない。この点を考慮すると、ボルト2´の頭部21の周面21aの一部(例えば、周面21aの連続する3面のみ)にドットマークを塗布し、残りの連続する3面には塗布しないようにすれば、ボルト2´の60度程度の回転でも識別することができ、ボルト2´のより様々な回転に対して検出が可能になる。
【0059】
また、この場合も、ドットマークの数だけでなく、撮影画像におけるドットマークの面積に着目すれば、ボルト2´のより様々な回転に対して検出が可能になる。
一方、このようなボルト頭部21の周面21aのドットマークをカメラで撮影する場合、このカメラ12による撮影方向として、検査用車両11の進行方向(レール10の方向)に対する俯角が大き過ぎると、周面21aを撮影し難く、この点では俯角が小さい方が周面21aを撮影し易い。
【0060】
この点で、実際のレールの固定には、図1に示すような埋め込みボルト2にナット3を締結する方式が主体となって、これに、図6に示すような図示しない埋め込みナットにボルト2´を締結する方式が混在しているため、カメラ12による撮影方向としては、両者のマークを容易に撮影できるように、検査用車両11の進行方向に対して30〜60度の俯角とすることが好ましく、45度付近の俯角とすることがより好ましいのである。
【0061】
[第2実施形態]
次に、図7,図8及び図2,図3を参照して本発明の第1実施形態について説明する。なお、図7は本発明の第2実施形態に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。図8は本発明の第2実施形態に係るフローチャートである。
【0062】
この実施形態では、第1実施形態と検出用マークが異なっており、また、緩み判定の手法も一部異なっている。したがって、検出マークに関する点以外は、第1実施形態と同様に構成されているので説明を省略する。
つまり、本実施形態では、図7(a)に示すように、ナット3には、その上面31に、検出用マークとしての色分けマーク57,58が塗装等により配備されている。ここでは、例えば青色マーク57と赤色マーク58との2色の色分けマークがそなえられ、それぞれの色分けマーク57,58は、同一円周上に等間隔に並んで配置された複数のドットマークから構成されている。
【0063】
そして、ナット締結後には、撮影方向から見て、例えば左半部に青色マーク57が右半部に赤色マーク58が位置し、両者が同じ数だけ視認できるように、色分けマーク57,58を所定方向に向けて配備する。
判定処理部16では、各色を識別してラベリングした二色の色の比率を、例えば各色のドット数で比較してラベリング色の比率に変化があったら、ナット3が回転し緩みが生じたと判定するようになっている。
【0064】
したがって、例えば、図8に示すような手順(方法)で、締結具としてのナット3の緩みを検出することができる。
つまり、図8には示さないが、ナット3の締結後にこのナット3の表面(上面)31に検出用マークとして色分けマーク57,58を塗布等により所定方向に向けて配備しておく(検出用マーク配備ステップ)。
【0065】
そして、図8に示すように、トリガ発生装置18で発生したトリガ信号を受けたタイミングで、ドットマークを含んだナット3の外観を、カメラ12によって撮影する(ステップS10,撮影ステップ)。そして、画像処理部14で、撮影された画像中のナット3が存在する領域を抽出する前処理(ステップS20)を行ない、次いで、抽出したナット領域の2値化処理を行なう(ステップS30)。
【0066】
この結果、画像中のナット領域に存在する各色のドットマーク領域が他と識別されるので、ラベリング処理部15で、一塊のドットマーク領域の各画素に同一のラベリングを行なう(ステップS40)。
さらに、判定処理部16で、各色のラベルの数(ラベリング個数)に基づいて、ナット3の緩みを判定する。つまり、まず、撮影された画像中の各色のラベルリング個数の比率が塗布時の数(塗布時に撮影方向から見える数)と同じか否かを判定して(ステップS52)、同じでなければ、ナット3は回転しており緩みが発生しているものと判定する(ステップS60)。一方、画像中のラベルリング個数(又はラベルリング面積)の比率が塗布時の数と同じなら、ナット3は回転しておらず緩みは発生していないものと判定する(ステップS70)。
【0067】
このようにしても、検査対象がドットマークの大きさや形ではなく個数とすることができるため、事前に塗布されたドットマークの状態を覚えておくような前処理も不要である。また、個数を認識する画像処理はラベリング枚数だけで済むため、非常に簡易で、高速な処理が可能となる。
【0068】
[第3実施形態]
次に、図9,図10及び図2,図3を参照して本発明の第3実施形態について説明する。なお、図9は本発明の第3実施形態に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。図10は本発明の第3実施形態に係るフローチャートである。
【0069】
この実施形態では、第1実施形態と検出用マークが異なっており、また、緩み判定の手法も一部異なっている。したがって、検出マークに関する点以外は、第1実施形態と同様に構成されているので説明を省略する。
つまり、本実施形態では、図9(a)に示すように、ナット3には、その上面31に、検出用マークとしてのドットマーク59が部分的に連続に並んで塗装等により配備されている。ここでは、ナット3の上面31の半周(180度)分に、ドットマーク59が並べられている。
【0070】
そして、ナット締結後には、撮影方向から見て、例えば左半部のみにドットマーク59が位置するようにマークの塗布を行ない、判定処理部16では、ドットマーク59の数又は面積に変化があったら、ナット3が回転し緩みが生じたと判定するようになっている。
したがって、例えば、図10に示すような手順(方法)で、締結具としてのナット3の緩みを検出することができる。
【0071】
つまり、図10には示さないが、ナット3の締結後にこのナット3の表面(上面)31に検出用マークとしてドットマーク59を塗布等により所定方向に向けて配備しておく(検出用マーク配備ステップ)。
そして、図10に示すように、トリガ発生装置18で発生したトリガ信号を受けたタイミングで、ドットマークを含んだナット3の外観を、カメラ12によって撮影する(ステップS10,撮影ステップ)。そして、画像処理部14で、撮影された画像中のナット3が存在する領域を抽出する前処理(ステップS20)を行ない、次いで、抽出したナット領域の2値化処理を行なう(ステップS30)。
【0072】
この結果、画像中のナット領域に存在する各色のドットマーク領域が他と識別されるので、ラベリング処理部15で、一塊のドットマーク領域の各画素に同一のラベリングを行なう(ステップS40)。
さらに、判定処理部16で、ラベルの数(ラベリング個数)又はラベルの面積(ラベリング面積)に基づいて、ナット3の緩みを判定する。つまり、まず、撮影された画像中の各色のラベルリング個数(或いは、ラベリング面積)が塗布時の数(塗布時に撮影方向から見える数或いは、面積)と同じか否かを判定して(ステップS54)、同じでなければ、ナット3は回転しており緩みが発生しているものと判定する(ステップS60)。一方、画像中のラベルリング個数(或いは、ラベリング面積)が塗布時の数と同じなら、ナット3は回転しておらず緩みは発生していないものと判定する(ステップS70)。
【0073】
このようにしても、検査対象がドットマークの大きさや形ではなく個数とすることができるため、事前に塗布されたドットマークの状態を覚えておくような前処理も不要である。また、個数を認識する画像処理はラベリング枚数だけで済むため、非常に簡易で、高速な処理が可能となる。
【0074】
[第4実施形態]
次に、図11のシステム構成図を参照して本発明の第4実施形態について説明する。
図11に示すように、トリガ発生装置18は省略され、カメラ12自身が、撮影領域の中央にナット3が来るように、撮影タイミングを調整するようになっている。このため、本実施形態では、カメラ12及びライト13は、その撮影方向及び照射方向を、後ろ向きにする必要はなく、検査用車両11から車両前方斜め下向きに向けて設置されている。
カメラ12自身による撮影タイミングの調整としては、検査用車両11の走行速度Vと、レール方向に並んだナット3間の距離d0から基準周期T0(=V/d0)を求め、この基準周期T0をデフォルト値としたタイミングで断続撮影を開始して、その撮影の結果から得られる画像中のナット3の位置に応じて、前回の撮影タイミングに対する今回の撮影タイミングまでの時間(撮影周期)Tを補正したタイミングで今回の撮影を行なうように設定されている。
【0075】
具体的には、画像処理部14での前処理で得られる情報として、画像中のナット3が存在する領域の情報があるが、撮影タイミング調整部19において、この前処理情報から、撮影画像中のナットの進行方向位置の情報を得て、ナットの進行方向位置の基準位置(例えば、画像中央)からの位置ズレ量δを演算して、この位置ズレ量δに基づいて前回の撮影周期Tn−1を補正して今回の撮影周期Tを得るようにしている。なお、撮影タイミング調整部19は、判定装置17の各処理部14〜16と共にマイクロコンピュータの機能要素として備えることができる。
【0076】
例えば位置ズレが進行方向前方にずれたものであれば、撮影タイミングが早すぎたためであり、撮影タイミング調整部19では、位置ズレ量δに応じて撮影タイミングを遅れさせるように、位置ズレ量δに応じた補正量tδで前回の撮影周期Tn−1を加算補正して今回の撮影周期T(=Tn−1+tδ)を得る。また、位置ズレが進行方向後方にずれたものであれば、撮影タイミングが遅すぎたためであり、撮影タイミング調整部19では、位置ズレ量δに応じて撮影タイミングを早めるように、位置ズレ量δに応じた補正量tδで前回の撮影周期Tn−1を減算補正して今回の撮影周期T(=Tn−1−tδ)を得る。
【0077】
なお、この場合、カメラ12による進行方向前後方向の撮影領域内に必ずナット3が位置するように、カメラ12は、進行方向前後方向において、隣接するナット3間の距離以上の領域を撮影できるように設定することが必要になる。
なお、このカメラ12自身による撮影タイミングの調整は、隣接するナット3間の距離が一様に連続していることを前提としている。ただし、隣接するナット3間の距離が一様でない場合でも、カメラ12の進行方向前後方向における撮影領域を、ナット3間の最大距離以上に設定すれば、カメラ12により必ずナット3を認識でき、上記の位置ズレ補正の効果をある程度得ることはできる。
【0078】
つまり、ナット3間の距離が一様でない場合でも、各ナット間が全くランダムであるわけではなく、ある区間はナット3間の距離がD1で一様となっているが、その次の区間はナット3間の距離がD1とは異なるD2で一様となっているといった場合が多く、少なくとも一様な区間では上記の位置ズレ補正の効果を得ることができる。
本実施形態によれば、トリガ発生装置18を設けずに、マイクロコンピュータの機能要素として備えることができる撮影タイミング調整部19を設けるだけで、カメラ12自身による画像に基づいて撮影タイミングの調整を行なうことができ、ナット3の外観を、常に設定方向から撮影することが可能になり、ドットマークに関する判定を誤差なく適切に行ないやすくなり、緩み判定の精度を向上させることができる。
【0079】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更して実施することができる。
例えば、検出用マークとしてのドットマークを、図13(a)〜(f)に示すように配置してもよい。つまり、撮影方向から見て、左右何れかの片側(各例では何れも右側)に、ボルト2によってナット3の上面31が隠れる境界付近(破線参照)に、ドットマーク60を集中的に設ければ、ドットマーク60の総数を少なくしながらナット3の僅かな緩みも検出できるようになる。図13の場合、図13(a),(b)はナット3の上面31が隠れる境界付近(破線参照)により高密度にドットマーク60が設けられるので、ナット3の僅かな緩みもより高精度に検出できる。図13(d),(e)はナット3の上面31が隠れる境界付近(破線参照)に比較的低密度にドットマーク60が設けられるので、ナット3の緩み検出精度は低下するものの、ドットマーク60の総数をより少なくできる。図13(c),(f)はナット3の上面31が隠れる境界付近(破線参照)のドットマーク60の密度が中間的なもので、ナット3の緩み検出精度とドットマーク60の総数の低減とを両立させている。
【0080】
また、各実施形態では、検出用マークとしてドットマークを用いており、撮影されるドットマークの数から締結具の回転(即ち、緩み)を検出しているが、例えば、第2実施形態のように撮影された各色のマークの面積等の比率や、第3実施形態のように撮影されたマークの面積から締結具の回転(即ち、緩み)を検出する場合などは、検出用マークとしてドットマーク以外のもの、例えばベタ塗り等のマークを用いてもよい。
【0081】
いずれにしても、カメラ12による撮影方向をナット3の軸心線3aに対して傾斜させることによって、締結具が回転すると、締結具の検出用マークの一部が、締結具自体(例えば、ボルト自体)や対になる締結具(例えば、ナットに対するボルト)の裏側に隠れることになり、撮影されたマークの状態(例えば面積)が変化する点を利用して、締結具の回転(緩み)を判断することができる。
【0082】
また、上記各実施形態では、鉄道用レールを固定する締結具について説明したが、本発明としては他の種々の固定用の締結具に適用しうるものである。特に、締結具の比較的小さな回転(数度〜数十度)の緩みに関する検出には有効である。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の第1実施形態に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b),(c)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。
【図2】本発明の各実施形態に係る撮影角度を説明する側面図である。
【図3】本発明の第1〜3実施形態に係るシステム構成図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係るフローチャートである。
【図5】本発明の第1実施形態の変形例に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。
【図6】本発明の第1実施形態の他の変形例に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。
【図7】本発明の第2実施形態に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。
【図8】本発明の第2実施形態に係るフローチャートである。
【図9】本発明の第3実施形態に係る締結具の検出用マークを示す締結具の斜視図であり、(a)は締結具が正常の状態を、(b)は締結具が緩んだ状態をそれぞれ示している。
【図10】本発明の第3実施形態に係るフローチャートである。
【図11】本発明の第4実施形態に係るシステム構成図である。
【図12】本発明の各実施形態に係る撮影タイミングを説明する図であり、(a)はボルト周囲を示す締結具の平面図、(b)はボルト周囲を示す締結具の横断面図、(c)は撮影タイミングを決めるセンサ情報を示すグラフである。
【図13】本発明に係る締結具の検出用マークの他の例を(a)〜(f)に示すボルトの平面図である。
【符号の説明】
【0084】
1 基台
1a 固定金具
2 ボルト
2´ 締結具としてのボルト
3 締結具としてのナット
3a ナット3の軸心線
10 レール
11 検査用車両
12 カメラ(撮影装置)
13 ライト(照明装置)
14 画像処理部
15 ラベリング処理部
16 判定処理部
17 判定装置
18 トリガ発生装置
19 撮影タイミング調整部
20 板バネ
31 ナット3の上面
51〜56,59,60 検出用マークとしてのドットマーク
57,58 検出用マークとしての色分けマーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結具の締結後に該締結具の表面に所定方向に向けて配備された検出用マークと、
前記検出用マークを含んだ前記締結具の外観を、予め設定され前記締結具の軸心線に対して傾斜した撮影方向から撮影する撮影装置と、
前記撮影装置により撮影された画像中の前記検出用マークの情報に基づいて、前記締結具の緩みを判定する判定装置とをそなえた
ことを特徴とする、締結具の緩み検出システム。
【請求項2】
前記締結具は、複数のものが列状に並んで配備され、
前記撮影装置は、前記締結具の列に沿って走行可能な走行車両に装備されて、該走行車両の走行に伴って前記列状に並んだ前記各締結具を次々に撮影する
ことを特徴とする、請求項1記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項3】
前記走行車両に、前記締結具の位置に同期してトリガを発生するトリガ発生装置を備え、
前記撮影装置は前記トリガ発生装置で発生したトリガ信号を受けたタイミングで前記撮影を実施する
ことを特徴とする、請求項2記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項4】
複数の前記締結具は、鉄道のレールを固定するものであって、該レールに沿って列状に並んで配備され、
前記走行車両は、前記レール上を走行する鉄道車両であって、
前記撮影装置は、前記撮影方向を所定の俯角に向けて前記走行車両に装備されている
ことを特徴とする、請求項2又は3記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項5】
前記撮影方向は、30〜60度の俯角である
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項6】
前記締結具は、上方に突設された埋め込みボルトに締結されるナットであって、
前記検出用マークは、前記ナットの上面に配備される
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項7】
前記検出用マークは、前記ナットの上面に、互いに間隔を開けると共に前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された複数のドットマークである
ことを特徴とする、請求項6記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項8】
前記判定装置は、前記撮影装置により撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定する
ことを特徴とする、請求項7記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項9】
前記検出用マークは、前記ナットの上面に部分的に且つ前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された弧状マークである
ことを特徴とする、請求項6記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項10】
前記判定装置は、前記撮影装置により撮影された画像中の前記弧状マークの長さ又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定する
ことを特徴とする、請求項9記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項11】
前記締結具は、頭部を上方に向けて下方の埋め込みナットに締結されるボルトであって、
前記検出用マークは、前記ボルト頭部の複数の平面からなる周面に配備されたドットマークである
ことを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項12】
前記判定装置は、前記撮影装置により撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定する
ことを特徴とする、請求項11記載の締結具の緩み検出システム。
【請求項13】
締結具の締結後に該締結具の表面に検出用マークを所定方向に向けて配備する検出用マーク配備ステップと、
前記検出用マークを含んだ前記締結具の外観を、予め設定され前記締結具の軸心線に対して傾斜した撮影方向から撮像装置によって撮影する撮影ステップと、
撮影された画像中の前記検出用マークの情報に基づいて、前記締結具の緩みを判定する判定ステップとをそなえた
ことを特徴とする、締結具の緩み検出方法。
【請求項14】
前記締結具は、複数のものが列状に並んで配備されると共に、前記撮像装置は、前記締結具の列に沿って走行可能な走行車両に装備され、
前記撮影ステップでは、該走行車両の走行に伴って前記列状に並んだ前記各締結具を次々に撮影する
ことを特徴とする、請求項13記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項15】
前記走行車両に、前記締結具の位置に同期してトリガを発生するトリガ発生装置を備え、
前記撮影ステップでは、前記トリガ発生装置で発生したトリガ信号を受けたタイミングで前記撮影を実施する
ことを特徴とする、請求項14記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項16】
複数の前記締結具は、鉄道のレールを固定するものであって、該レールに沿って列状に並んで配備され、前記走行車両は、前記レール上を走行する鉄道車両であって、
前記撮影ステップでは、前記撮像装置の前記撮影方向を所定の俯角に向けて前記列状に並んだ前記各締結具を次々に撮影する
ことを特徴とする、請求項14又は15記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項17】
前記撮影ステップでの前記撮影方向は、30〜60度の俯角である
ことを特徴とする、請求項13〜16の何れか1項に記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項18】
前記締結具は、上方に突設された埋め込みボルトに締結されるナットであって、
前記検出用マーク配備ステップでは、前記検出用マークを前記ナットの上面に配備する
ことを特徴とする、請求項13〜17の何れか1項に記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項19】
前記検出用マークは、前記ナットの上面に、互いに間隔を開けると共に前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された複数のドットマークである
ことを特徴とする、請求項18記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項20】
前記判定ステップでは、前記撮影ステップで撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定する
ことを特徴とする、請求項19記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項21】
前記検出用マークは、前記ナットの上面に部分的に且つ前記撮影方向に対して所定の方向に向けて配備された弧状マークである
ことを特徴とする、請求項18記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項22】
前記判定ステップでは、前記撮影ステップで撮影された画像中の前記弧状マークの長さ又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定する
ことを特徴とする、請求項21記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項23】
前記締結具は、頭部を上方に向けて下方の埋め込みナットに締結されるボルトであって、
前記検出用マークは、前記ボルト頭部の複数の平面からなる周面に配備されたドットマークである
ことを特徴とする、請求項13〜17の何れか1項に記載の締結具の緩み検出方法。
【請求項24】
前記判定ステップでは、前記撮影ステップで撮影された画像中の前記ドットマークの数又は位置に基づいて、前記締結具の緩みを判定する
ことを特徴とする、請求項23記載の締結具の緩み検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−210276(P2009−210276A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−50720(P2008−50720)
【出願日】平成20年2月29日(2008.2.29)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【Fターム(参考)】