説明

繊維強化プラスチックの製造方法

【課題】成形時において、良好な流動性および複雑形状追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する繊維強化プラスチック、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】プリプレグ基材を一体化して積層体を作製し、該積層体を成形型に配置してプレス成形し、繊維強化プラスチックを得る繊維強化プラスチックの製造方法であって、少なくとも下記(1)〜(3)の工程を有する。(1)強化繊維が切断されている切込プリプレグ基材を、凹部と接する層11が凹部5の開口部の投影面積以上の面積を有するように裁断し、外縁に向かって前記積層体の厚みが薄くなる薄肉部10を形成するように前記積層体を作製する積層工程(2)前記積層体の薄肉部を、型に沿わせて配置するセット工程(3)前記積層体を流動させてプレス成形するプレス工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な流動性、成形追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する積層体をプレス成形し、繊維強化プラスチックを得る、繊維強化プラスチックの製造方法に関する。かかる繊維強化プラスチックは、例えば自動車などの輸送機器、自転車などのスポーツ用具などの構造部材に特に好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂からなる繊維強化プラスチックは、比強度、比弾性率が高く、力学特性に優れること、耐候性、耐薬品性などの高機能特性を有することなどから産業用途においても注目され、その需要は年々高まりつつある。
【0003】
高機能特性を有する繊維強化プラスチックの成形法としては、プリプレグと称される連続した強化繊維にマトリックス樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材を積層し、高温高圧釜で加熱加圧することによりマトリックス樹脂を硬化させ繊維強化プラスチックを成形するオートクレーブ成形が最も一般的に行われている。また、前記プリプレグ基材の積層体を予備加熱して軟化状態にある該積層体を雌雄一対からなる金型間に供給し、次いで加圧することで所望の形状の成形体を得るプレス成形も広く行われている。特にプレス成形は、比較的均一な精度の製品を多量に生産できることが特徴であり、多量生産を行うために高速化、高精度化、品質の安定化などの要求が高く、それらを実現するために作業性、成型性の向上に関する市場の要求は非常に高い。
【0004】
これらの成形法により得られた繊維強化プラスチックは、連続繊維で構成される所以、優れた力学物性を有する。また、連続繊維は規則的な配列であるため、基材の配置により必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のバラツキも小さい。しかしながら、一方で元来強化繊維自体の伸縮性が乏しいため、凹凸部や、ダブルコンター曲面等を有する複雑な三次元形状を形成することは困難である。このような連続繊維基材を賦形した場合には、形状表面を覆いきれない箇所で突っ張りが、基材が余った箇所でシワが発生するため、高品位な賦形が難しい。連続繊維基材であっても、織物基材のように面内でせん断変形が可能な場合は、かなり賦形し易くはなるものの、形状が複雑になれば、やはり繊維の突っ張りやシワが発生してしまう、という問題があり、したがって、現在は主として一次曲面や平面形状に近い部材に限られているのが実状である。
【0005】
一方、ダブルコンター曲面や凹凸部等の複雑な三次元形状に適した成形法として、SMC(シートモールディングコンパウンド)を用いたプレス成形がある。この成形法では、通常25mm程度に切断したチョップドストランドに熱硬化性のマトリックス樹脂を含浸せしめ半硬化状態としたSMCシートを、プレス機を用いて加熱・加圧することにより成形を行う。多くの場合、加圧前にSMCを成形体の形状より小さく切断して成形型上に配置し、加圧により成形体の形状に引き伸ばして(流動させて)成形を行う。そのため、その流動により凹凸部やダブルコンター曲面等の複雑な形状にも追従可能となる。しかしながら、SMCはそのシート化工程において、チョップドストランドの分布ムラ、配向ムラが必然的に生じてしまうため、力学特性が低下し、そのバラツキが大きくなる問題があった。さらには、特に薄物の部材ではソリ、ヒケ等が発生しやすくなり、構造材としては不適な場合が多い。
【0006】
これに対して、上述のような材料の欠点を埋めるべく、連続繊維と熱可塑性樹脂からなるプリプレグ基材に切り込みを入れることにより、流動可能で力学物性のバラツキも小さくなるとされる基材が開示されている(例えば特許文献1、2)。しかしながら、SMCと比較すると力学特性が大きく向上し、バラツキが小さくなるものの、構造材として適用するには十分な強度とは言えない。連続繊維基材と比較すると切り込みという欠陥を内包した構成であるために、応力集中点である切り込みが破壊の起点となり、特に引張強度、引張疲労強度が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開昭63−247012号公報
【特許文献2】特開平9−254227号広報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術では複雑形状の形成と低バラツキ性、十分な強度、及び取扱いの両立が困難であった背景を鑑み、成形時において、良好な流動性および複雑形状追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、繊維強化プラスチックおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(I)一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂とからなるプリプレグ基材を、所定の形状に裁断した後、前記プリプレグ基材の繊維方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化して積層体を作製し、さらに該積層体を、凹部と該凹部に対応する凸部を有し、前記凹部と前記凸部との間にキャビティが構成される成形型に配置してプレス成形し、繊維強化プラスチックを得る繊維強化プラスチックの製造方法であって、少なくとも下記(1)〜(3)の工程を有する繊維強化プラスチックの製造方法。
(1)前記プリプレグ基材の全面に切込を有し、実質的に全ての強化繊維が前記切込により切断されている切込プリプレグ基材を、少なくとも前記凹部と接する層が、前記凹部の開口部の投影面積以上の面積を有するように裁断し、かつ、前記積層体の端部の少なくとも一部において前記積層体の外縁に向かって前記積層体の厚みが薄くなる薄肉部を形成するように前記切込プリプレグ基材を積層して前記積層体を作製する積層工程
(2)前記積層体を、前記積層体の薄肉部の少なくとも一部を、前記成形型の端部の少なくとも一部において、型に沿わせて配置するセット工程
(3)前記成形型の一方の型上に配置した積層体を前記成形型のもう一方の型を押し当て加圧し、前記積層体を流動させてプレス成形するプレス工程。
【0009】
(II)前記(1)の積層工程で用いられる切込プリプレグ基材が、前記切込により分断された強化繊維の繊維長さLが10〜100mmの範囲内であり、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内であり、かつ、前記切込が強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内であり、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが0.1〜1.5mmの範囲内である、(I)に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0010】
(III)前記(1)の積層工程で得られる積層体の端部の薄肉部の厚みが、前記成形型のキャビティの厚みの80%以下となるように前記切込プリプレグ基材を積層して前記積層体を得る、(I)または(II)に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0011】
(IV)前記(1)の積層工程において、前記積層体を作製する手段が、1つのカットパターンの端部の少なくとも一部において外縁に向かってオフセットした複数のカットパターンに従って前記プリプレグ基材を裁断し、得た複数の前記プリプレグ基材を積層して薄肉部を有する前記積層体を得る、(I)〜(III)いずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0012】
(V)前記(1)の積層工程において、前記積層体の両表層を構成する前記プリプレグ基材のカットパターンより、前記積層体の両表層以外の中央層を構成する前記プリプレグ基材のカットパターンを小さくして、前記プリプレグ基材を一体化して薄肉部を有する前記積層体を得る、(I)〜(III)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【0013】
(VI)前記(3)のプレス工程において、前記積層体の外縁の少なくとも一部を伸張させ、立ち壁を有する繊維強化プラスチックを成形する、(I)〜(V)のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プレス成形する積層体が凹凸部やダブルコンター曲面等の複雑形状が形成可能な良好な流動性および複雑形状追従性を有しており、これを繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する、繊維強化プラスチックを得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明で用いられる積層体平面の概略拡大図である。図2は本発明における凹部と該凹部に対応する凸部を有し、前記凹部と前記凸部との間にキャビティが構成される成形型の概略図であり、図2a)は成形型を横から見た断面図、図2b)は成形型凹部を上から見た際の投影図である。図3は本発明における薄肉部を有する積層体の一例を示す概略図である。図4は前記薄肉部を有する積層体を前記成形型に配置した際の様子を示す概略図である。
【0017】
本発明は、凹凸部やダブルコンター曲面等の複雑形状が形成可能な良好な流動性、および複雑形状追従性を有し、繊維強化プラスチックとした場合、優れた力学特性、その低バラツキ性、優れた寸法安定性を発現する繊維強化プラスチックを得るための製造方法について鋭意検討し、全面に渡って切込を挿入して強化繊維(本明細書中では、単に “繊維”と記述することがある)を特定の長さに切断した切込プリプレグ基材を、少なくとも成形型の凹部側と接する前記切込プリプレグ基材の面積が、該凹部の開口部の投影面積以上であるように裁断し、端部が外縁に向かって薄肉部を形成するように前記切込プリプレグ基材を積層して積層体を作製し、該積層体の薄肉部の少なくとも一部を成形型の端部の少なくとも一部において型に沿わせて配置してプレス成形することにより、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。なお、本発明において“ダブルコンター曲面”とは、2次曲面以上の複曲面を少なくとも一部に含む形状を指す。また、“薄肉部”とは、図3、図15に示すように、積層体31が複数種の寸法のカットパターンの切込プリプレグ基材2によって構成され、これによって、積層体31の最厚部における切込プリプレグ基材の積層数に対して、積層数が実質的に少なくとも1層以上少なくなることにより形成される、最厚部の厚みよりも薄い領域10のことである。また、薄肉部10の厚みについて、積層体31を成形型に配置する際、領域Aや領域Bのような、型に沿わせる領域(10’、10”)における最厚部の厚み32を“薄肉部の厚み”とする。
また、“成形型のキャビティの厚み”とは、図2a)に示すように、成形型の端部に形成される形状7の厚み8のことを指す。
【0018】
本発明では、プリプレグ基材の全面に切込を有し、実質的に全ての強化繊維が前記切込により切断されている切込プリプレグ基材を、少なくとも前記凹部と接する層が、前記凹部の開口部の投影面積以上の面積を有するように裁断し、前記積層体の端部の少なくとも一部において前記積層体の外縁に向かって前記積層体の厚みが薄くなる薄肉部を形成するように積層して積層体を作製する積層工程を有する。本発明における積層体は、図1に示すように、強化繊維1が一方向に配列された一方向プリプレグ基材が、その繊維配向方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化されているものからなり、また、該一方向プリプレグ基材には全面に渡って切込3が挿入され、実質的に全ての強化繊維が前記切込によって短繊維へと切断された切込プリプレグ基材2で構成される。
【0019】
なお、本発明において、“実質的に全ての強化繊維が切込により切断され”とは、本発明の切込により切断されていない連続繊維が引き揃えられている面積が、プリプレグ基材面積に占める割合の5%より小さいことを示す。また、“短繊維”とは、繊維が繊維方向全長に渡って連続している連続繊維との対比において用いられる概念であり、繊維長さLが100mm以下のものを指す。本発明においては、前記短繊維により構成された切込プリプレグ基材を積層して得た積層体は、成型時に繊維が層内のいずれの方向にも流動可能となるので、ダブルコンター曲面や凹凸部などの複雑形状追従性に優れるのである。一方、前記切断を行わない場合、すなわち積層体の強化繊維が全て連続繊維で構成される場合、繊維方向にはほとんど流動せず、流動可能な方向に異方性があるため、凹凸部やダブルコンター曲面などの複雑形状を形成することは極めて難しい。
【0020】
また、本発明において、強化繊維1の配向が異なる方向に積層することにより、繊維強化プラスチックとした場合の寸法安定性に優れる。さらに、前記切込3によって強化繊維1が切断された切込プリプレグ基材2は、成形時に繊維が流動するにあたり、繊維方向と繊維直交方向との流動に異方性を生じるため、効果的に繊維を流動させるためには、強化繊維の配向が異なる方向に積層することが重要となる。なかでも、[0/90]nSや[0/±60]nS、[+45/0/−45/90]nSといった等方積層で、かつ、対称積層であることが、成形時の流動の均質性、および繊維強化プラスチックとした場合のソリ低減等を考慮すると好ましい。ここで、本発明において“強化繊維の配向が異なる”とは、強化繊維の方向のなす角度の絶対値が10〜170°であることを表す。
【0021】
さらに本発明における前記積層体は、図3に示すように、少なくとも前記成形型の凹部と接する層11が、図2b)に示す該凹部の開口部9の投影面積9’以上の面積を有し、かつ、前記積層体の端部の少なくとも一部において前記積層体の外縁に向かって前記積層体の厚みが薄くなる薄肉部10を形成するように前記切込プリプレグ基材を積層して作製する。なお、“成形型凹部の開口部の投影面積”とは、図2b)に示す成形型凹部を上から見た場合の投影図において、斜線で示される開口部9の面積9’を指す。本発明において、このような薄肉部10を有する積層体31は、薄肉にした積層体31の端部が容易に変形し、積層体31を成形型に配置する際、図4に示すように、型に沿わせて配置することが容易となる。なお、図4a)は積層体31を成形型の凹部に配置した様子を、図4b)は積層体を成形型凸部に配置した様子を示している。さらに、少なくとも前記成形型の凹部と接する層11が該凹部の開口部9の投影面積9’以上の面積を有することで、前記成形型の凹部の開口部全域を覆い、かつ該成形型凹部の端部に沿わせることが可能となる。
【0022】
また、本発明は前記積層体を、前記積層体の薄肉部10の少なくとも一部を、前記成形型の端部の少なくとも一部において、型に沿わせて配置するセット工程、及び、前記成形型の一方の型上に配置した積層体を前記成形型のもう一方の型を押し当て加圧し、前記積層体を流動させてプレス成形するプレス工程を有する。本発明において、前記積層体を前記成形型に配置する際、図4に示すように、前記積層体の薄肉部10の少なくとも一部を、前記成形型の端部の少なくとも一部において、成形型に沿わせて配置することで、図5a)、b)、c)に示すように、プレス成形時に前記成形型の凹部と接する層11に沿って積層体の他の層が流動するため、成形体の端部において、繊維配向や層構造12の乱れが生じることなく繊維強化プラスチックを得ることができる。さらに、前記積層体を成形型に沿わせることで積層体の位置決めが可能となり、プレス時における積層体の位置ずれによって生じる品質のバラツキを小さくし、安定的に所望の品質の成形体を得ることができる。
【0023】
なお、セット工程において、図4a)に示すように、前記成形型の凹部に前記積層体を配置して、もう一方の凸部で加圧・プレス成形しても、図4bに示すように前記成形型の凸部に前記積層体を配置して、もう一方の凹部で加圧・プレス成形しても、前記積層体の少なくとも前記凹部と接する層11が該凹部の開口部9の投影面積9’以上の面積を有し、前記成形型に沿わせて配置していれば、前記成形型を型締めした際に成形型のキャビティに沿うようにして繊維の流動が起こるため、構わない。ここで、前記積層体の成形型凹部と接する層11が、該凹部の開口部9の投影面積9’以上の面積を有していない場合、型に沿わせて配置する事ができないため、図6に示すように、前記積層体をプレスし、強化繊維を流動させても、前記凹部の端部の壁面で強化繊維の流動が乱れ、得られた強化繊維プラスチックの繊維配向や層構造の乱れ13が生じ、表面品位の低下や、力学特性、寸法安定性にバラツキが生じる。
【0024】
また、少なくとも前記凹部と接する層11が、前記凹部の開口部9の投影面積9’以上の面積を有するが、前記積層体の端部の少なくとも一部において前記積層体の外縁に向かって前記積層体の厚みが薄くなる薄肉部10を形成しなかった場合、すなわち、前記積層体の厚みが全体に渡って実質的に均一な場合、前記積層体の厚みが前記成形型のキャビティ寸法の影響を強く受けることとなり、安定的に所望の繊維強化プラスチックを得ることが困難となる。ここで、“前記積層体の厚みが前記成形型のキャビティ寸法の影響を受ける”とは、前記積層体の厚みが前記成形型のキャビティの厚みより大きく、さらに積層体を成形型に沿わせるようにして配置するのが困難な程、積層体の厚みが厚い場合、プレス成形しても、図7a)に示すように、成形型の端部14で強化繊維が突っ張り、成形品端部において樹脂溜まり15が生じたり、形状が形成されない等の問題が生じることである。仮に積層体を成形型に沿わせるようにして配置できたとしても、図7b)に示すように、型締めの際に成形型の端部14が配置した積層体の端部16に当たってしまうため、得られる繊維強化プラスチックの表面品位が著しく低下したり、層構造が乱れるなどの問題が生じる。なお、積層体の厚みが前記成形型のキャビティの厚みより小さい場合には、積層体の配置の仕方に関わらず、積層体と成形型との間に空間が生じてしまうため、十分に加圧することができず、所望の形状が得られない。
【0025】
また、前記凹部と接する層11が、前記凹部の開口部9の投影面積以上の面積を有しない場合、前記積層体の薄肉部の有無に関わらず、図6に示すように、前記積層体をプレスし、強化繊維を流動させても、前記凹部の端部壁面で強化繊維の流動が乱れ、得られた強化繊維プラスチックの繊維配向や層構造の乱れが生じ、力学特性や寸法安定性にバラツキが生じてしまう。
【0026】
本発明における前記積層体を構成する前記切込プリプレグ基材について、図8に示すように、前記プリプレグ基材が前面に切込3を有し、実質的に全ての強化繊維1が前記切込3によって、強化繊維の繊維長さL(21)が10〜100mmの範囲内の短繊維へと切断されているのが好ましい。前述の通り、該短繊維により構成された切込プリプレグ基材2を積層して得た積層体は、成型時に繊維が層内のいずれの方向にも流動可能となるので、ダブルコンター曲面や凹凸部などの複雑形状追従性に優れるのである。ここで、繊維長さLが10mmより小さい場合は、流動性が向上するものの繊維による補強効果が低下し、繊維強化プラスチックとしたときに十分な力学特性を得ることができないことがある。また、繊維長さLが100mmより大きい場合は、成形時における繊維の流動が悪くなり複雑形状を形成するのが困難になる。成形性と物性の両特性を鑑みると、さらに好ましくは繊維長さLが20〜60mmの範囲内である。ただし、切断部の形状や、工業的プロセスによっては、前記切込プリプレグ基材の一部に10mmよりも短い繊維が混入してしまう恐れもあるが、実質的に全繊維量のうち95%以上の繊維が10〜100mmの範囲内に入っていれば成形性および物性での問題はない。
【0027】
また、本発明における前記切込プリプレグ基材の強化繊維は、図9に示す切込3と繊維方向17とのなす角度Θ(以下、切込角度と称することもある)の絶対値が2〜25°の範囲内で切断されているのが好ましい。Θの絶対値が25°より大きくても流動性は得ることができ、従来のSMC等と比較して高い力学特性は得ることができるが、特にΘの絶対値が25°以下であることで力学特性の向上が著しい。一方、Θの絶対値は2°より小さいと流動性も力学特性も十分得ることが出来るが、切込を安定して入れることが難しくなる。すなわち、繊維に対して切込が寝てくると、切込を入れる際、繊維が刃から逃げやすく、プリプレグ基材中に存在する切断されていない繊維の割合が大きくなる。また、繊維長さLを100mm以下とするためには、Θの絶対値が2°より小さいと少なくとも切込同士の最短距離が0.9mmより小さくなるなど、生産安定性に欠ける。また、このように切込同士の距離が小さいと積層時の取り扱い性が難しくなるという問題がある。切込の制御のしやすさと力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは5〜15°の範囲内である。なお、本発明におけるΘとは、切込上の任意の点を点Xとしたとき、点Xにおける繊維長手方向と切込とのなす角をθ(X)とすれば、Θはθ(X)の切込上の平均値、すなわち(式1)によって与えられる値とする。ここで、図8に示すように、切込3の端点をそれぞれ点A、点Bとし、点Aと点Bを結び、切込に沿った曲線をCとしており、また点Xにおける曲線Cの微小線分をdsとしている。
【0028】
【数1】

【0029】
さらに、以下には以下、前記切込プリプレグ基材における好ましい切込パターンの一例を、図8、10、11を用いて説明する。
【0030】
強化繊維1が一方向に引き揃えられたプリプレグ基材上に制御されて整列した切込3を複数入れる。繊維配向方向の対になる切込3同士で繊維が分断され、その間隔21を10〜100mmとすることで、実質的に切込プリプレグ基材2上の強化繊維1すべてを繊維長さLが10〜100mmにすることができる。また、図9に示すように、切込3と強化繊維1となす角度19をΘとするとΘの絶対値は全面で2〜25°の範囲内である。図10aではΘの絶対値が90°、bでは25°を超えた例を示しているが、これらの例では本発明により得られうる高強度を発現することは出来ない。
【0031】
図11には、5つの異なる切込パターンを有するプリプレグ基材が示されている。図11a)の切込プリプレグ基材2は、等間隔をもって配列された斜行した連続、直線状の切込3bを有する。図11b)の切込プリプレグ基材2は、2種類の間隔をもって配列された斜行した連続、直線状の切込3bを有する。図11c)の切込プリプレグ基材2は、等間隔をもって配列された連続、曲線(蛇行線)の切込3を有する。図11d)の切込プリプレグ基材2は、等間隔をもって配列され、かつ、2種類の異なる方向に斜行した断続的な直線状の切込3aを有する。図11e)の切込プリプレグ基材2は、等間隔をもって配列された斜行した断続的な直線状の切込3aを有する。切込は図11c)のように曲線でも構わないが図11a)、b)、d)、e)のように直線状である方が流動性をコントロールしやすく好ましい。また、切込により分断される強化繊維の長さLは、図11b)のように一定でなくてもよいが、繊維長さLが全面で一定であると流動性をコントロールしやすく、強度ばらつきをさらに押さえることができるため好ましい。なお、ここで規定の直線状とは、幾何学上の直線の一部をなしている状態を意味するが、前記流動性のコントロールを容易にするという効果を損なわない限り、前記幾何学上の直線の一部をなしていない箇所があっても差支えが無く、その結果、繊維長さLが全面で一定とはならない箇所があっても(この場合、繊維長さLが実質的に全面で一定であると言えるので)差支えが無い。
【0032】
さらに好ましい例[1]としては、図11a)〜c)のように、切込3が連続して入れられているのがよい。例[1]のパターンでは、切込3bが断続的でないため、切込端部付近での流動乱れが起きず、切込3bを入れた領域では、すべての繊維長さLを一定とすることができ、流動が安定している。切込3bが連続的に入れられているため、切込プリプレグ基材2がばらばらになってしまうのを防ぐ目的で、切込プリプレグ基材2の周辺部に切込がつながっていない領域を設けたり、切込の入っていないシート状の離型紙やフィルムなどの支持体で把持したりすることで、取り扱い性を向上させることができる。
【0033】
また、他の好ましい例[2]としては、図8のように、切込を強化繊維の垂直方向に投影した長さをWs(20)としたとき、Wsが30μm〜100mmの範囲内である断続的な切込3aが切込プリプレグ基材2全面に設けられており、切込3a1と、該切込3a1に繊維配向方向で隣接した切込3a2の幾何形状が同一であるとよい。ここで、“切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs”とは図8に示す通り、プリプレグ層の面内において、切込を強化繊維の垂直方向(繊維直行方向18)を投影面として、切込から該投影面に垂直(繊維配向方向17)に投影した際の長さ20を指す。Wsが30μm以下となると、切込の制御が難しく、切込プリプレグ基材全面に渡って繊維長さLが10〜100mmとなるよう、保障することが難しい。すなわち、切込により切断されていない繊維が存在すると基材の流動性は著しく低下し、余分に切断されているとLが10mmを下回る部位が出てきてしまう、という問題点がある。逆にWsが10mmより大きいときにはほぼ強度が一定に落ち着く。すなわち、繊維束端部がある一定以上に大きくなると、破壊が始まる荷重がほぼ同等となる。図8では、LとWsがいずれも一種類である例を示している。いずれの切込3a(例えば3a1)も繊維方向に平行移動することで重なる他の切込3a(例えば3a2)がある。前記繊維方向の対になる切込3a同士により分断される繊維長さLよりさらに短い繊維長さで隣接する切込により分断され繊維が分断される幅が存在することによって、安定的に繊維長さを100mm以下で切込プリプレグ基材2を製造できる。例[2]のパターンでは、得られた切込プリプレグ基材2を積層する際、切込が断続的なため取り扱い性に優れる。図11d)、11e)にはその他のパターンも例示したが、上記条件を満たせばどのようなパターンでも構わない。
【0034】
好ましい例[2]において、力学特性の観点から好ましくは、強化繊維の垂直方向に投影した長さWsが0.1〜1.5mmの範囲内であるのが好ましい。Wsを小さくすることにより、一つ一つの切込により分断される繊維量が減り、強度向上が見込まれる。特に、Wsが1.5mm以下とすることで、大きな強度向上が見込まれる。また、切込長さが長ければ長いほど、積層作業時に基材の切込が開口し易くなり、基材の取り扱い性が大幅に低下する。切込が1.5mm以下であれば、積層作業時に切込が開口しにくく、基材の取り扱い性の良い切込プリプレグ基材となる。なお、本発明において、切込角度Θの絶対値が2〜25°であることにより、切込長さに対して投影長さWsを小さくすることができる。そのため、Wsが1.5mm以下という極小の切込であっても、工業的に安定して設けることが可能となる。また、プリプレグ基材への切込の挿入を、刃を押し当てて行おうとする場合、裁断時に強化繊維が繊維直行方向に蛇行し刃から逃げるために、繊維をうまく裁断できないことがある。このような繊維逃げの影響を小さくするためには、Wsは0.1mm以上であることが好ましい。より好ましくはWsを0.2mm以上とすることで、より連続繊維を残すことなくプリプレグ基材に切込を挿入することが可能となる。
【0035】
本発明に用いる切込プリプレグ基材の特徴を、図12〜14を用いて説明する。本発明の比較として図12には、切込3が強化繊維1となす角度Θの絶対値が90°である切込プリプレグ基材2を積層した積層体22をa)、その積層体22を成形した繊維強化プラスチック23をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材2由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。a)に示す通り、切込プリプレグ基材2は、繊維に垂直な切込を全面に設けられており、切込3は層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体22より面積が伸長した繊維強化プラスチック23を得ることができる(ただし、厚みは減る)。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック23を得た際、切込プリプレグ基材2由来の短繊維層24は、繊維直行方向に伸長すると共に、繊維が存在しない領域(切込開口部)25が生成される。これは一般的に強化繊維が成形程度の圧力では伸長しないためであり、図12のケースでは、伸張した長さ分だけ切込開口部25が生成され、例えば250×250mmの積層体22から300×300mmの繊維強化プラスチック23を得た際には、300×300mmの繊維強化プラスチック23の表面積に対して、切込開口部25の総面積は50×300mm、すなわち1/6(約16.7%)が切込開口部となる計算である。この領域25は断面図に示すとおり、隣接層27が侵入してきて、樹脂リッチ部28と隣接層27が侵入している領域とで占められる。従って、切込プリプレグ基材2を用いた積層体22を伸長して成形した場合、繊維束端部26では層のうねり29や樹脂リッチ部28が発生し、これが力学特性の低下や表面品位の低下に影響を与える。また、繊維がある部位とない部位で剛性が異なるため、面内異方性の繊維強化プラスチック23となり、ソリなどの問題から設計が難しい。また、強度の面では、荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維が大部分の荷重を伝達しているが、その繊維束端部26では隣接層27に荷重を再分配しなければならない。その際、図12b)のように、繊維束端部26が荷重方向に垂直となっていると、応力集中が起きやすく、剥離も起こりやすい。そのため、強度向上はあまり期待できない。
【0036】
一方で図13には、本発明の好ましい例[1]の切込プリプレグ基材2を積層した積層体22をa)、その積層体22を成形した繊維強化プラスチック23をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材2由来の層をクローズアップした平面図と平面図のA−A断面を切り出した断面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材2は、繊維1となす角度Θの絶対値が25°以下の連続した切込3bが全面に設けられており、切込3bは層の厚み方向を貫いている。繊維長さLを100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体22より面積が伸長した繊維強化プラスチック23を得ることが出来る。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック23を得た際、切込プリプレグ基材2由来の短繊維層24は、繊維直交方向に伸長すると共に、繊維1自体が回転30して伸長領域の面積を稼ぐため、図12のように繊維が存在しない領域(切込開口部)25が実質的に生成せず、層表面に存在する切込開口部の面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内である。従って、断面図を見ても分かるとおり、隣接層27が侵入することもなく、層のうねり29や樹脂リッチ部28のない高強度で品位の高い繊維強化プラスチック23を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維1が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この繊維が回転して伸長し、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るという画期的効果は、切込と強化繊維とのなす角度Θの絶対値が25°以下であり、かつ、切込が連続して入れられていることで初めて得ることができる。また、強度の面では、前述と同様に荷重方向から±10°以下程度に向いている繊維に注目すると、図13b)のように、繊維束端部26が荷重方向に対して寝てきている様子がわかる。繊維束端部26が層厚み方向に斜めとなっているため、荷重の伝達がスムーズであり、繊維束端部26からの剥離も起こりにくい。従って、図12に比べ格段の強度向上が見込まれる。この繊維束端部26が層厚み方向に斜めとなるのは上述の繊維1が回転30する際、上面と下面の摩擦により上面から下面で繊維1の回転30になだらかな分布があるためで、そのため、層厚み方向に繊維1の存在分布が発生し、繊維束端部26が層厚み方向に斜めとなったと考えられる。このような繊維強化プラスチック23の層内で層厚み方向に斜めの繊維束端部を形成し、強度を著しく向上する画期的効果は切込3bの繊維1となす角度Θの絶対値が25°以下であることで初めて得ることができる。
【0037】
図14には、本発明の好ましい例[2]の切込プリプレグ基材2を積層した積層体22をa)、その積層体22を成形した繊維強化プラスチック23をb)に、それぞれ切込プリプレグ基材2由来の層をクローズアップした平面図を示した。a)に示すとおり、切込プリプレグ基材2は、繊維1となす角度Θの絶対値が25°以下の断続的な切込3aが全面に設けられており、切込3aは層の厚み方向を貫いている。切込3aにより繊維長さLを切込プリプレグ基材2の全面で100mm以下とすることで、流動性が確保され、プレス成形などにより、容易に積層体22より面積が伸長した繊維強化プラスチック23を得ることができる。切込長さ、切込角度を小さくすることにより、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることができる。b)のように、伸長した繊維強化プラスチック23を得た際、切込プリプレグ基材2由来の短繊維層24は、繊維垂直方向に伸長する際、繊維方向に繊維が伸張しないため、繊維が存在しない領域(切込開口部)25が生成されるが、隣接する短繊維群が繊維直行方向に流動することで、切込開口部25を埋め、切込開口部25の面積が小さくなる。この傾向は特に、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで顕著となり、実質的に切込開口部25が生成せず、層表面に存在する切込開口部の面積が層の表面積と比較して0.1〜10%の範囲内とすることができる。従って、厚み方向に隣接層27が侵入することもなく、層のうねり29や樹脂リッチ部28のない高強度で品位の高い繊維強化プラスチック23を得ることが出来る。面内全体にくまなく繊維1が配されているため、面内での剛性差がなく、設計も従来の連続繊維強化プラスチックと同様、簡易に適用できる。この切込開口部を繊維直行方向の流動により埋め、層うねりのない繊維強化プラスチックを得るという画期的効果は切込角度Θの絶対値が25°以下であり、かつ切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsを1.5mm以下とすることで初めて得ることができる。さらに好ましくはWsが1mm以下であることにより、より高強度、高品位とすることができる。
【0038】
本発明において、繊維体積含有率Vfは45〜65%の範囲内であることが好ましい。繊維体積含有率Vfが65%以下で十分な流動性を得ることができる。Vfが低いほど流動性は向上するが、Vfが45%より小さくなると、構造材に必要な高力学特性は得られない場合がある。流動性と力学特性との関係を鑑みると、さらに好ましくは55〜60%の範囲内である。
【0039】
さらに本発明におけるプリプレグ基材を構成する強化繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサドール(PBO)繊維などの有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、チラノ繊維、玄武岩繊維、セラミックス繊維などの無機繊維、ステンレス繊維やスチール繊維などの金属繊維、その他、ボロン繊維、天然繊維、変性した天然繊維などを繊維として用いた強化繊維などが挙げられる。その中でも特に炭素繊維はこれら強化繊維の中でも軽量であり、しかも比強度および比弾性率において特に優れた性質を有しており、さらに耐熱性や耐薬品性にも優れていることから、軽量化が望まれる自動車パネルなどの部材に好適である。なかでも、高強度の炭素繊維が得られやすいPAN系炭素繊維が好ましい。
【0040】
また、本発明におけるプリプレグ基材に用いられるマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂であっても、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂であっても、それらの混合樹脂であっても構わない。ただし、積層時にプリプレグ基材を圧着する必要があることから、タック性に優れる半硬化状態の熱硬化性樹脂の方が適している。なかでも、かかる熱硬化性樹脂としては、貼り重ねる工程でのタック性、および繊維強化プラスチックとした時の力学特性を考慮するとエポキシ樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂を用いる場合はタック性を確保するために、予熱してから積層するのが好ましい。この場合の加熱温度は用いる熱可塑樹脂が一連の積層工程の中で半硬化状態を保てる温度にするのが好ましい。
【0041】
本発明において、前記積層体の端部の薄肉部の厚みが、前記成形型のキャビティの厚みの80%以下となるように積層体を作製するのが好ましい。繊維の流動性を考慮すると、より好ましくは前記積層体の端部の薄肉部の厚みが、前記成形型のキャビティの厚みの65〜75%である。薄肉部の厚みが80%より大きいと、前述の薄肉部を形成せず、前述の積層体全体の厚みを均一にした場合と同様、前記積層体の厚みが前記積層体のキャビティ寸法の影響を受けることとなり、その影響の効果は80%を超えて大きくなるにつれて大きくなる。それに従い、成形型に沿わせて配置するのが困難であったり、型締めの際に加圧するもう一方の成形型が積層体端部に当たってしまうなどして、所望の形状が得られない、積層体の層構造が崩れて力学的物性が低下する、表面品位が著しく低下するといった問題が生じる。また、繊維を流動させても成形品の端部で繊維が充填されていない箇所が生じる可能性を考慮すると、薄肉部の厚みが65%以上であることが好ましい。なお、積層体を配置する際、型に沿わせる薄肉部の長さについては特に制限はないが、プレス方向への長さは、目的の成形品の形状が深絞り形状である場合、繊維をかさ高い位置まで流動させる必要があることから、成形品の深絞り形状部の寸法の少なくとも20%の長さにするのが好ましい。
【0042】
本発明において、前記薄肉部を有する積層体を作製する手段は以下に示すいずれかの方法により行われるのが好ましい。
【0043】
まず方法[1]としては、図3に示すように、1つのカットパターンの端部の少なくとも一部において外縁に向かってオフセットした複数のカットパターンに従って前記切込プリプレグ基材2を裁断し、得た数種の形状の切込プリプレグ基材2を積層して薄肉部10を有する積層体31を得るのが好ましい。ここで、“1つのカットパターンの端部の外縁に向かってオフセットしたカットパターン”とは、ある基準となるカットパターンに対して、薄肉部10を形成しようとする積層体端部に対応する箇所の寸法を変え、プリプレグ基材の層によって積層体端部にテーパー形状や、段が形成されるようにしたカットパターンのことである。ここでは、この領域Aが前記薄肉部10に相当し、積層体31を成形型に配置する際に型に沿わせる部位となる。ここで、前述の通り、この領域Aにおける積層体薄肉部10の厚み32は、前記成形型のキャビティの厚み8の80%以下であるのが好ましい。
【0044】
この方法[1]で得られる積層体31の好ましい形状の一例としては、前記成形型の凹部5と接する層11の面積が、該凹部の開口部9の投影面積以上の面積を有し、かつ、前記積層体31を構成する前記切込プリプレグ基材2の中で最大であり、一方の前記成形型の凸部4と接する層の面積が最小であるのがよい。ここで図3a)に示すように、積層体を構成する各層の面積を最大面積から最小面積まで各層ごとに徐変化させて薄肉部10を形成してもよいし、図3b)に示すように、数層が同一のカットパターン、すなわち同一の面積の切込プリプレグ基材2が積層されて積層体前駆体33を形成し、ある積層体前駆体33に対してオフセットした数種の積層体前駆体を積層して1つの薄肉部10を有する積層体を形成してもよい。また、図3に示す領域Aの幅Wa(34)については得に制限はないが、前述の通り、深絞り形状の成形を行う際には型に沿わせる薄肉部の寸法が成形品の深絞り形状部の寸法の少なくとも20%の長さにするのが好ましく、それにしたがって領域Aの幅Waも深絞り形状部の寸法の20%を超える長さにするのが好ましい。
【0045】
次に方法[2]としては、図15に示すように、前記積層体の最外層を構成する前記プリプレグ基材のカットパターンより、前記積層体の最外層以外の中央層を構成する前記プリプレグ基材のカットパターンを小さくして、前記プリプレグ基材を一体化して薄肉部を有する積層体31を得るのが好ましい。ここで、“積層体の両表層”とはプレス成形時に前記成形型と接する層37のことを指し、“両表層以外の中央層”とは、プレス成形時に成形型と接しない、積層体を構成する切込プリプレグ基材38すべてを指す。この方法[2]では、両表層のカットパターンに対して、中央層のカットパターンを小さくすることで、積層体31の端部の少なくとも一部において、図15に示した領域B(10”)のような薄肉部10を形成するものである。本手法では、この領域Bが積層体31を成形型に配置する際に型に沿わせる部位となる。ここで、前述の通り、この領域Bにおける積層体薄肉部の厚みは、前記成形型のキャビティの厚みの80%以下であるのが好ましい。なお、本手法によって得られる形状において、薄肉部の厚みは、図15に示すように、領域Bにおいて、両表層に向かって徐変化する箇所の最厚部の厚み(36’、36”)の和(36)とする。本手法によって得られる薄肉部を有する積層体31は、両表層37が中央層38の流動経路のガイドの役割を果たすため、方法[1]のような、片表層が成形型と接している形状とは異なり、成形型と流動する繊維との間に摩擦が存在せず、より高い流動性を確保することができる。
【0046】
この方法[2]で得られる積層体の好ましい形状の一例としては、成形型と接する積層体の両表層37が該積層体の凹部の開口部9の投影面積以上の面積を有し、かつ、前記積層体31を構成する前記切込プリプレグ基材の中で最大であり、積層体の両表層以外の層、すなわち中央層38が両表層の面積に対して小さいのがよい。ここで、図15a)に示すように、中央層38の面積が、両表層37に対して徐々に小さくなるようにして薄肉部10を形成してもよいし、各表層から数層の中央層が表層と等しい形状・面積を有する、つまり同一のカットパターンで積層体前駆体33を形成し、他の中央層が両表層より小さなカットパターンで前記積層体前駆体33よりも面積の小さな積層体前駆体33’を形成し、図15b)に示すようなサンドイッチ形状を形成することで薄肉部を形成してもよい。また、図15に示す領域Bの幅Wb(35)について得に制限はないが、前述の通り、深絞り形状の成形を行う際にはキャビティとなる領域に折り込む薄肉部の寸法が成形品の深絞り形状部の寸法の少なくとも20%の長さにするのが好ましく、それにしたがって領域Bの幅Wbも深絞り形状部の寸法の20%を超える長さにするのが好ましい。
【0047】
本発明において、プレス工程において前記積層体の外縁の少なくとも一部を伸張させ、立ち壁を有する繊維強化プラスチックを成形することが出来る。ここで“立ち壁”とは、凹凸形状と区別して用いられる概念であり、形状がある面に対して90°±10°の範囲内で変化し、ある面からの高さが20mm以上であるものを指す。ここで、立ち壁を成形する際の高さは特に制限はないが、高さが高すぎると、立ち壁の先端まで十分に繊維が流動せず、形状が出ないことがあるため、50mm以下であるのが好ましい。更に好ましくは40mm以下である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、特にこれに限定されるものではない。
【0049】
<繊維強化プラスチック成形、および成形性の評価>
本成形に用いる金型39は、図16に示すように、200×150mmの平板上に3箇所の凹凸40を備えており、金型周囲4面には高さ40mmの立ち壁を成形するためのキャビティ41が設けられている。なお、立ち壁となるキャビティの厚み寸法は2mmである。本金型凹部の中央に切込プリプレグ基材によって構成される積層体を、凹部の周囲壁面に薄肉部を沿わせるようにして配置し、加熱型プレス成形機により、もう一方の金型凸部を押し当て6MPaの加圧の元、150℃×30分間の条件により硬化させた。これにより、繊維強化プラスチックの成形体を得た。
【0050】
流動性に関しては、基材を伸長して成形するにあたり、金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されており、所望の立ち壁が形成されるまで伸長している場合には流動性○、金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されているものの、最表層に配された基材がほとんど伸長していない場合には流動性△、金型キャビティ内に繊維強化プラスチックが充填されていない部位がある場合には流動性×、として評価した。
【0051】
ソリに関しては、成形体を平らな試験台上に置いただけで成形体が試験台と全面で接触している場合にはソリ○、成形体を平らな試験台上に置いただけで成形体が試験台とが全面で接触しておらず、指で成形体上面から試験台に成形体を押し付けた際、成形体が試験台と全面で接触する場合にはソリ△、指で成形体上面から試験台に成形体を押し付けた際、成形体が試験台と接触していない部分がある場合にはソリ×と評価した。
【0052】
さらに、立ち壁角部の断面観察を行い、層構造が保たれているかを確認し、層構造が保たれていれば層構造○、繊維の突っ張りや樹脂溜りが生じ、層構造の一部が保たれていない場合は層構造△、全く保たれていない場合には層構造×と評価した。
【0053】
<機械特性評価>
前記手順により得られた繊維強化プラスチックの平板部より、長さ180±1mm、幅25±0.2mmに切り出し引張強度試験片を得た。試験は、掴み具間距離を100mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分で引張強度を測定した。なお、本実施例においては、試験機としてインストロン(登録商標)万能試験機4208型を用いた。測定した試験片の数はn=5とし、平均値を引張強度とした。さらに、測定値より標準偏差を算出し、その標準偏差を平均値で除することにより、バラツキの指標である変動係数(CV値(%))を算出した。
【0054】
(実施例1)[積層体形状:前記方法[1]式、切込形態:連続]
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製“エピコート(登録商標)”828:30重量部、“エピコート(登録商標)”1001:35重量部、“エピコート(登録商標)”154:35重量部)に、熱可塑性樹脂ポリビニルホルマール(チッソ(株)製“ビニレック(登録商標)”K)5重量部をニーダーで加熱混練してポリビニルホルマールを均一に溶解させた後、硬化剤ジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製DICY7)3.5重量部と、硬化促進剤3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルウレア(保土谷化学工業(株)製DCMU99)4重量部を、ニーダーで混練して未硬化のエポキシ樹脂組成物を調整した。このエポキシ樹脂組成物を、リバースロールコーターを用いてシリコーンコーティング処理された厚さ100μmの離型紙上に塗布して樹脂フィルムを作製した。次に、一方向に配列させた炭素繊維(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa)の両面に樹脂フィルムをそれぞれ重ね、加熱・加圧することによって樹脂を含浸させ、単位面積あたりの炭素繊維重さ125g/m、繊維体積含有率Vf55%、厚み0.125mmのプリプレグ基材を作製した
このプリプレグ基材に、自動裁断機を用いて、図17に示すように、切込3と繊維方向とのなす角度が10°の方向の直線的な切り込み3bを連続的に挿入し、強化繊維1が繊維方向への長さが30mmになるように切断した。この切込プリプレグ基材2を繊維配向方向(0°方向)と、繊維配向方向から右に45度ずらした方向(45°方向)に、それぞれ224×174mm、216×166mm、208×158mm、195×145mmの4種類の大きさに切り出し、等間隔で規則的な切り込みを有するプリプレグ基材を得た。ここで、各切込プリプレグ基材の周囲5mmには切込を入れず、連続的な切込によりばらばらとならないようにした。なお、切込プリプレグ基材の切込の長さが長いため、積層工程において、基材の目ずれが起きるなどプリプレグ基材のハンドリング性に若干の難があった。
【0055】
前記4種の大きさに切断した切込プリプレグ基材をそれぞれ4層ずつ積層して積層体前駆体33を作製した後、得られた4種の積層体前駆体を面積の大きい順に積層して、図3b)に示すような薄肉部を有する積層体31を得た。この時、積層体の積層構成は[−45/0/+45/90]2Sとなるように16層疑似等方に積層した。なお、本積層体の薄肉部の幅Waは12mm(立ち壁の高さの30%分)であり、金型に沿わせる薄肉部10の最も厚い部分の厚み32は1.5mm(キャビティの厚みの75%)である。
【0056】
得られた切込プリプレグ基材2によって構成される積層体31を、前記手法により成型し、凹凸部と立ち壁とを有する繊維強化プラスチックを得た。ここで、積層体31を金型に設置する際、薄肉部が成形型凹部の壁面に沿って変形し、容易に配置・位置決めすることができた。
【0057】
得られた繊維強化プラスチックは良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。繊維強化プラスチックの立ち壁部を切り出して断面を観察したところ、立ち壁角部においても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。また、立ち壁先端までの層構造は連続しており、かつ、伸張方向と同方向に配列した繊維から構成される層も途切れることなく、均一の厚みを保っていた。得られた繊維強化プラスチックより切り出した平板部の引張弾性率は46GPaとほぼ理論値通り発現し、また、引張強度に関しても590MPaと高い値が発現し、そのCV値も5%ときわめてバラツキの小さい結果となった。これらの結果から構造材としての適用、外板部材への適用が可能な力学特性と品位が得られたことがわかった。
【0058】
(実施例2)[積層体形状:前記方法[1]式、切込形態:断続]
図18に示すように、切込の挿入の仕方を断続的にした以外は実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。切込プリプレグ基材2の繊維長さL、切込と繊維方向とのなす角度Θ、切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsは、それぞれL=30mm、Θ=10°、Ws=0.51mmであった。なお、本手法によって得られた切込プリプレグ基材2は、実施例1に比べて切込の長さが短く、積層工程において基材が変形することもなく、容易に積層体を得ることが出来た。
【0059】
得られた繊維強化プラスチックは実施例1と同等に良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。繊維強化プラスチックの立ち壁部を切り出して断面を観察したところ、立ち壁角部においても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。また、立ち壁先端までの層構造は連続しており、かつ、伸張方向と同方向に配列した繊維から構成される層も途切れることなく、均一の厚みを保っていた。得られた繊維強化プラスチックより切り出した平板部の引張強度については、650MPaと実施例1よりもさらに高い値が発現した。
【0060】
(実施例3〜7)[繊維長さの比較(表1)]
切込の間隔を変えることにより繊維長さLを変えた以外は、実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。それぞれLは、実施例3では7.5mm、実施例4では10mm、実施例5では60mm、実施例6では100mm、実施例7では120mmとした。
【0061】
得られた繊維強化プラスチックは実施例6、7を除いて良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。繊維強化プラスチックの立ち壁部を切り出して断面を観察したところ、立ち壁角部においても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。また、立ち壁先端までの層構造は連続しており、かつ、伸張方向と同方向に配列した繊維から構成される層も途切れることなく、均一の厚みを保っていた。実施例6、7については若干の繊維のうねりと金型との摩擦を受ける表面部で端部まで繊維が十分流動してない部位があった。また、立ち壁部の先端表層で繊維が充填されていない箇所が一部見られ、角部の層構造も一部乱れていた。実施例3を除いて、引張弾性率は46〜47GPa、引張強度は520〜660MPaと高い値であり、引張強度のCV値も4〜6%とバラツキの小さい結果であった。一方、実施例3については、実施例4、5と同様、良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなく、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。また、立ち壁角部についても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。しかし、引張強度が440MPaと実施例1や実施例4〜7と比較して低い値であった。
【0062】
(実施例8〜13)[切込角度の比較(表2)]
切込と繊維方向とのなす角度を変えた以外は実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。実施例8は切込角度Θが1°、実施例9は2°、実施例10は5°、実施例11は15°、実施例12は25°、実施例13は45°の方向に連続的な切込を設けた。
【0063】
得られた繊維強化プラスチックは実施例9〜12については良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。繊維強化プラスチックの立ち壁部を切り出して断面を観察したところ、立ち壁角部においても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。また、立ち壁先端までの層構造は連続しており、かつ、伸張方向と同方向に配列した繊維から構成される層も途切れることなく、均一の厚みを保っていた。引張弾性率は46〜47GPa、引張強度は480〜660MPaと高い値であり、引張強度のCV値は3〜6%とバラツキの小さい結果であった。特に切込角度の小さな実施例9、10では600MPa以上の引張強度を発現した。実施例8については、切込角度が小さいため、切込同士の間隔が0.5mm程度と小さく、安定的に基材の裁断を行うことが困難であり、引張強度のCV値も10%とばらつきも大きかったが、張弾性率は46GPa、引張強度は650MPaと高い値を示した。また、実施例13は引張強度が360MPaと少々低かったものの、引張弾性率は45GPaと他の実施例とほぼ同等の値を示し、繊維のうねりもなく、その端部まで繊維が均等に流動していた。
【0064】
(実施例14〜18)[投影長さWsの比較(表3)]
実施例2の切込パターンにおいて、切込の長さと切込の間隔を変えた以外は、実施例2と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。実施例14では投影長さWsと切込の間隔を共に0.02mm、実施例15では0.17mm、実施例16では1mm、実施例17では2mm、実施例18では10mmとした。なお実際の切込の長さはそれぞれ、実施例14では0.12mm、実施例15では1mm、実施例16では5.8mm、実施例17では11.5mm、実施例18では58mmである。
【0065】
得られた繊維強化プラスチックは実施例14を除いていずれも良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。繊維強化プラスチックの立ち壁部を切り出して断面を観察したところ、立ち壁角部においても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。また、立ち壁先端までの層構造は連続しており、かつ、伸張方向と同方向に配列した繊維から構成される層も途切れることなく、均一の厚みを保っていた。また、引張強度も550〜680MPaと非常に高強度であった。また、特に投影長さWs(切込長さ)が小さければ小さいほど高強度となるが、その傾向はWsが1.5mm以下の場合に顕著に現れることが確認できた。なお、実施例14については、凹凸部の形状に繊維が沿っており、立ち壁角部の層構造も維持されていたものの、最表面の繊維の一部が繊維逃げによって切断されておらず、繊維がうねり、また立ち壁の先端部の一部に繊維が充填されていない箇所があった。また、CV値が11%と若干高く、ばらつきが大きかったが、引張強度は690MPaと最も高い値を示した。
【0066】
(実施例19〜22)[繊維体積含有率の比較(表4)]
実施例1のプリプレグ基材の単位面積あたりの炭素繊維重さを変えることにより炭素繊維の体積含有率Vfを変えた以外は、実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。それぞれ実施例19が単位面積あたりの炭素繊維重さが158g/m、Vfが70%、実施例20が146g/m、Vfが65%、実施例21が101g/m、Vfが45%、実施例22が90g/m、Vfが40%とした。
【0067】
実施例20では得られた繊維強化プラスチックは若干の繊維のうねりと金型との摩擦を受ける表面部で端部まで繊維が十分流動してない部位があった。また、立ち壁角部の層構造が、一部乱れていた。一方、実施例21では得られた繊維強化プラスチックは繊維のうねりなく、その端部まで繊維が充分に流動していた。その他、どちらの繊維強化プラスチックもソリがなく、最外層の切り込み部においても、強化繊維が存在せずに樹脂リッチまたは隣接層の強化繊維がのぞいている部位はほとんどなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。引張弾性率は40〜53GPa、引張強度は480〜620MPaと高い値であり、引張強度のCV値も6〜7%とバラツキの小さい結果であった。一方、実施例19で得られた繊維強化プラスチックは繊維がうねり、金型との摩擦を受ける表面部で端部まで繊維が流動していなかった。表面部には樹脂欠けがあり、外観品位は悪く、ソリも発生した。また立ち壁の先端で繊維が充填されていない箇所が存在し、角部の層構造も表層付近で一部乱れていた。ただし、引張強度は640MPa、弾性率は54GPaと非常に良好な物性を発現していた。また、実施例22では、引張弾性率37GPa、引張強度450MPaと実施例1や実施例20と比較してかなり低い値であったが、得られた繊維強化プラスチックはソリがなく、良好な外観品位、平滑性を保っていた。Vfが大きくなるほど、引張弾性率も強度も向上するという結果となったが、あまりVfが大きいと流動性が落ちるという難点があった。
【0068】
(実施例23〜25)[薄肉部厚みの比較(表5)]
4種類の大きさで切り出した切込プリプレグ基材の各寸法の積層数を変えることによって、積層体の薄肉部の厚みを変えた以外は、実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。それぞれ実施例27が224×174mmの大きさの基材を3層、216×166mmの大きさの基材を3層、208×158mmの大きさの基材を2層、195×145mmの大きさの基材を8層、実施例28が224×174mmを4層、216×166mmを4層、208×158mmを3層、195×145mmの大きさの基材を5層、実施例29が224×174mmの大きさの基材を5層、216×166mmの大きさの基材を4層、208×158mmの大きさの基材を4層、195×145mmの大きさの基材を3層とした。なお、薄肉部の厚みにすると、前述の通り、積層体の厚みが徐変化して薄肉部が形成されている場合は、薄肉部において、最も厚い部分の厚みを薄肉部の厚みとするので、実施例27が1mm(キャビティ厚みの50%)、実施例28が1.38mm(キャビティ厚みの68.8%)、実施例29が1.625mm(キャビティ厚みの81.3%)である。
【0069】
実施例28では得られた繊維強化プラスチックは良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。繊維強化プラスチックの立ち壁部を切り出して断面を観察したところ、立ち壁角部においても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。また、立ち壁先端までの層構造は連続しており、かつ、伸張方向と同方向に配列した繊維から構成される層も途切れることなく、均一の厚みを保っていた。一方実施例27では、立ち壁角部の層構造は維持されていたものの、立ち壁先端部の表層において、一部繊維が充填されていない箇所が存在した。また、実施例29では、金型に配置する際、薄肉部を曲げて金型に沿わせようとしたところ、金型凸部と接する側の表層の角部に皺が入り、立ち壁角部の層構造が一部乱れていた。また、成形時には同箇所で金型凸部と基材がこすれて表面の繊維配向が乱れた。しかしながらいずれも引張弾性率は46〜47GPa、引張強度は570〜590MPaと実施例1とほぼ同等の値を示し、CV値も5〜6%と、ばらつきが小さかった。
【0070】
(実施例26)[薄肉部形成法の比較]
切り出した切込プリプレグ基材の寸法を224×174mm、195×145mmの2種類とし、224×174mmの寸法の基材を6層積層した積層体前駆体を2つ、195×145mmの寸法の基材を4層積層した積層体前駆体33を1つ作製し、図15b)に示すように、195×145mmの寸法の基材を4層積層した積層体前駆体を224×174mmの寸法の基材を6層積層した積層体前駆体で挟み込むようにして薄肉部を有する積層体を作製した以外は、実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。なお、本積層体の薄肉部の幅Wbは12mm(立ち壁他高さの30%分)であり、キャビティとなる領域に織り込む薄肉部の最も厚い部分の厚みは1.5mm(キャビティの厚みの75%)である。
【0071】
得られた繊維強化プラスチックは良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。また、立ち壁部のキャビティの先端まで繊維が充填しており、所望の高さの立ち壁が形成されていた。繊維強化プラスチックの立ち壁部を切り出して断面を観察したところ、立ち壁角部においても層構造が維持されており、繊維の突っ張りなどは見られなかった。また、立ち壁先端までの層構造は連続しており、かつ、伸張方向と同方向に配列した繊維から構成される層も途切れることなく、均一の厚みを保っていた。また引張弾性率は46%、引張強度は580MPaと実施例1とほぼ同等の値を示した。
【0072】
(比較例1)[連続繊維プリプレグ基材との比較]
プリプレグ基材に切込を入れなかった以外は実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。
【0073】
得られた繊維強化プラスチックは、凹凸部は形成しているものの、凹凸部に強化繊維およびマトリックス樹脂が引き込まれたため繊維強化プラスチックの端部が欠けており、凹凸部のエッジで繊維がブリッジングしたため該箇所では樹脂リッチとなっていた。さらに、平面部では皺が発生し、立ち壁部ではほとんど繊維が充填していなかったため、製品としての適用は不可能と思われた。
【0074】
(比較例2)[SMCとの比較]
一方向プリプレグ基材を繊維長25mm、幅5mmに裁断してチョップド原料プリプレグとし、そのチョップド原料プリプレグをランダムに配向させながらニップロールで加圧してそれぞれを接着したものを用いた以外は実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。
【0075】
得られた繊維強化プラスチックは、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなく、リブ部の先端まで繊維が充填していたが、流動状態が均一でないため線膨張係数の差異によりソリを生じた。また、引張強度は190MPaと各実施例と比べて大幅に低く、CV値も13%という値であり、バラツキが大きかった。
【0076】
(比較例3)[薄肉部を有さない積層体との比較]
積層体作製の際に、224×174mmの切込プリプレグ基材を[−45/0/+45/90]2Sとなるように16層疑似等方に積層し、積層する切込プリプレグ基材を1種類として、厚みの均一な薄肉部を有さない積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。
【0077】
積層体を金型に配置する際、金型に沿わせようとしたが、積層体を折り曲げるのが困難であり、完全に沿わせることは出来なかった。また、折り曲げた際に金型凸部と接する側の表層の角部に皺が入り、成形時には同箇所で金型凸部と基材がこすれて表面の繊維配向が乱れた。更に型締め時に積層体端部に金型凸部が当たり、表層が若干剥がれたような状態になったため、製品としての適用は不可能と思われた。
【0078】
(比較例4、5)[成形型凹部の開口部の投影面積以下の積層体との比較]
成形型凹部と接する層の面積が成形型凹部の開口部の投影面積以下である積層体を用いた以外は、実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。比較例4では実施例1と同じ積層体を金型に配置する際、195×145mmの表層が金型凹部に接するように配置した。この時端部の薄肉部は金型凹部に沿わせるように配置した。比較例5では195×145mmの切込プリプレグ基材を[−45/0/+45/90]2Sとなるように16層疑似等方に積層し、積層する切込プリプレグ基材を1種類として、厚みの均一な薄肉部を有さない積層体を配置した。
【0079】
比較例4では、金型の平板部では良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。しかしながら、立ち壁部については、キャビティの先端まで繊維が充填していたものの、立ち壁角部周辺については繊維の流動が乱れ、層構造が崩れており、表層の繊維配向も乱れていた。また、比較例5では、金型の平板上では良好な表面平滑性を有し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかったが、立ち壁部のキャビティの先端で一部繊維が充填していない箇所が存在し、立ち壁角部については繊維の流動が乱れ、層構造が崩れており、表層の繊維配向も乱れていた。
【0080】
(比較例6)[積層体を成形型に配置時、薄肉部を沿わせない場合との比較]
金型に積層体を配置する際、型に沿わせて配置せず、金型凹部の開口部を塞ぐように積層体を配置した以外は、実施例1と同様にして凹凸部と立ち壁形状を有する繊維強化プラスチックを得た。
【0081】
得られた繊維強化プラスチックは、金型の平板部では良好な表面平滑性を呈し、凹凸部の形状に繊維が沿っており、皺の発生もなかった。しかしながら、立ち壁部については、プレス時に積層体に金型凸部が接触した際に若干位置がずれたため、一部キャビティの先端に繊維が充填されていない箇所が見られた。また、立ち壁の積層体の金型凹部と接する表層がプレス時に金型凹部にこすれて、表面の繊維配向が乱れていた。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
【表4】

【0086】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の製造方法にて得られた積層体を用いて成形された繊維強化プラスチックの用途としては、強度、剛性、軽量性が要求される、自転車用品、ゴルフのシャフトやヘッド等のスポーツ部材、ドアやシートフレームなどの自動車部材、ロボットアームなどの機械部品、スチフナ部品などの航空機部材がある。なかでも、強度、軽量に加え、複雑な形状の成形追従性が要求されるシートパネルやシートフレーム等の自動車部品に好ましく適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明における積層体平面の概略拡大図である。
【図2】本発明における凹部と該凹部に対応する凸部を有し、前記凹部と前記凸部との間にキャビティが構成される成形型の概略図である。
【図3】本発明における薄肉部を有する積層体の一例を示す概略図、及びその断面図である。
【図4】本発明における積層体の成形型への配置方法の一例を示す概略図である。
【図5】本発明における繊維の流動の様子を示す概略図である。
【図6】本発明における積層体の成形型への配置方法の一例(a)及び繊維の流動の様子(b)を示す概略図である。
【図7】本発明における樹脂溜まりの様子(a)とプレス時の層構造の乱れ(b)を示す概略図である。
【図8】本発明のプリプレグ積層基材に用いる切込プリプレグ基材の切込パターンの一例を示す概略平面図である
【図9】本発明のプリプレグ積層基材に用いる切込プリプレグ基材の切込パターンの一例を示す拡大平面図である。
【図10】本発明のプリプレグ積層基材に用いる切込プリプレグ基材の切込パターンの一例を示す概略平面図である
【図11】本発明のプリプレグ積層基材に用いる切込プリプレグ基材の切込パターンの一例を示す概略平面図である
【図12】比較用の積層体、繊維強化プラスチックの一例を示す平面図および断面図である。
【図13】本発明の積層基材、繊維強化プラスチックの一例を示す平面図および断面図である。
【図14】本発明の積層基材、繊維強化プラスチックの一例を示す平面図である。
【図15】本発明における薄肉部を有する積層体の一例を示す概略図、及びその断面図である。
【図16】本発明の一実施態様に係る金型の平面図(a)および断面図(b)である。
【図17】本発明における切込プリプレグ基材の製造方法の一例を示す概略図である。
【図18】本発明における切込プリプレグ基材の製造方法の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0089】
1:強化繊維
2:切込プリプレグ基材
3(3a、3b):切込
4:成型型凸部
5:成型型凹部
6:成型型の凸部と凹部の間に構成されるキャビティ
7:成型型端部で形成される形状(立ち壁)
8:キャビティの厚み
9:成型型凹部の開口部
9’:成型型凹部の開口部の投影面積
10:薄肉部
10’:領域A(薄肉部)
10”:領域B(薄肉部)
11:積層体の成型型凹部と接する層
12:層構造
13:層構造の乱れ
14:成型型の端部
15:樹脂溜まり
16:積層体の端部
17:繊維配向方向
18:繊維直交方向
19:切込角度Θ
20:切込を強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWs
21:繊維長さL(切込同士の間隔)
22:切込プリプレグ基材の積層体
23:繊維強化プラスチック
24:短繊維層
25:切込開口部
26:繊維束端部
27:隣接層
28:樹脂リッチ部
29:層うねり
30:強化繊維の回転
31:薄肉部を有する積層体
32:薄肉部の厚み
33:積層体前駆体
34:領域Aの幅Wa
35:領域Bの幅Wb
36:領域Bにおける最厚部の和
36’、36”:両表層に向かって徐変化する箇所の最厚部の厚み
37:積層体の成形型と接する層(積層体両表層)
38:積層体の中央層
39:繊維強化プラスチック成形金型
40:凹凸部
41:立ち壁部
42:上金型
43:下金型
44:回転刃ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方向に配向した強化繊維とマトリックス樹脂とからなるプリプレグ基材を、所定の形状に裁断した後、前記プリプレグ基材の繊維方向が少なくとも2方向以上に配向して一体化して積層体を作製し、さらに該積層体を、凹部と該凹部に対応する凸部を有し、前記凹部と前記凸部との間にキャビティが構成される成形型に配置してプレス成形し、繊維強化プラスチックを得る繊維強化プラスチックの製造方法であって、少なくとも下記(1)〜(3)の工程を有する繊維強化プラスチックの製造方法。
(1)前記プリプレグ基材の全面に切込を有し、実質的に全ての強化繊維が前記切込により切断されている切込プリプレグ基材を、少なくとも前記凹部と接する層が、前記凹部の開口部の投影面積以上の面積を有するように裁断し、かつ、前記積層体の端部の少なくとも一部において前記積層体の外縁に向かって前記積層体の厚みが薄くなる薄肉部を形成するように前記切込プリプレグ基材を積層して前記積層体を作製する積層工程
(2)前記積層体を、前記積層体の薄肉部の少なくとも一部を、前記成形型の端部の少なくとも一部において、型に沿わせて配置するセット工程
(3)前記成形型の一方の型上に配置した積層体を前記成形型のもう一方の型を押し当て加圧し、前記積層体を流動させてプレス成形するプレス工程
【請求項2】
前記(1)の積層工程で用いられる切込プリプレグ基材が、前記切込により分断された強化繊維の繊維長さLが10〜100mmの範囲内であり、繊維体積含有率Vfが45〜65%の範囲内であり、かつ、前記切込が強化繊維となす角度Θの絶対値が2〜25°の範囲内であり、強化繊維の垂直方向に投影した投影長さWsが0.1〜1.5mmの範囲内である、請求項1に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
前記(1)の積層工程で得られる積層体の端部の薄肉部の厚みが、前記成形型のキャビティの厚みの80%以下となるように前記切込プリプレグ基材を積層して前記積層体を得る、請求項1または2に記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記(1)の積層工程において、前記積層体を作製する手段が、1つのカットパターンの端部の少なくとも一部において外縁に向かってオフセットした複数のカットパターンに従って前記プリプレグ基材を裁断し、得た複数の前記プリプレグ基材を積層して薄肉部を有する前記積層体を得る、請求項1〜3いずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記(1)の積層工程において、前記積層体の両表層を構成する前記プリプレグ基材のカットパターンより、前記積層体の両表層以外の中央層を構成する前記プリプレグ基材のカットパターンを小さくして、前記プリプレグ基材を一体化して薄肉部を有する前記積層体を得る、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記(3)のプレス工程において、前記積層体の外縁の少なくとも一部を伸張させ、立ち壁を有する繊維強化プラスチックを成形する、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−30193(P2010−30193A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195913(P2008−195913)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】