説明

繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法

【課題】電波遮断性を維持したまま無線通信性能を劣化させず、特に意匠性に優れた電子機器筐体の製造方法を提供する。
【解決手段】次に示す成形材料基材(A)と成形材料基材(B)とを、成形材料基材(B)が厚み方向に挿通するように配置して板状の成形前駆体を形成し、その成形前駆体を、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも高い温度に加熱し、その後、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低い温度でプレス成形して繊維強化プラスチック成形体を形成することを特徴とする繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
成形材料基材(A):強化繊維として導電性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材
成形材料基材(B):強化繊維として絶縁性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化プラスチック製電子機器筐体に関するものであり、さらに詳しくは、電波遮断性を維持したまま無線通信性能を劣化させず、特に意匠性に優れた繊維強化プラスチック製電子機器筐体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な電子機器筐体に必要な特性として電波遮断性能(EMI)が挙げられる。これはある機器が動作することによって発せられる電波により、他の機器の動作や人体に影響を与えることを防ぐためである。電子機器は何の対策も施さなければ近くにある他の機器の放射電磁波、雷、太陽の活動などの影響で、機能低下や誤作動、停止、記録消失などのトラブルを生じる場合があり、また、電子機器自身の発する電磁波によって他機器の動作や近くにいる人間の健康に悪影響を与えてしまう場合があることも一般に論じられている。そのため電子機器の筐体材料としては電波遮断性能の高い導電性プラスチックや金属などが使用されているが、特に携行が容易であるノートパソコンや携帯電話などの小型電子機器向けの筐体材料については、電波遮断性能に加え堅牢性と軽量性に優れる炭素繊維強化プラスチックやマグネシウム合金などが選定される場合が多い。
【0003】
近年、ノートパソコンや携帯電話に代表される無線通信機能を内蔵した製品の高機能化が進み、急速にオフィスや一般家庭へと普及した。これらの製品の多くは無線通信用のアンテナが実装されるが、携帯性や意匠性の観点から筺体内部にアンテナが配されるケースが大半である。そのような機器を構成する筺体全面に電解シールド性が高い材料、例えば炭素繊維強化プラスチックやマグネシウム合金などの金属を選定した場合、電波遮断性能の高い筐体によって平均アンテナ利得の低下や偏った電波指向性の発現などが生じ、無線通信性能が劣化するという機能的な問題が生じていた。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1に、電磁遮蔽効果を持つ材料を金型にセットした後、絶縁体部材を射出成形することにより一体化して筺体を得る方法が開示されている。しかしながら、特許文献1で開示される方法を用いた場合、先にセットした電磁波遮断材料の厚みが成形前後で不変であるため成形中に2材料の厚みを均一に調整することが困難であり、得られた成形品の接合部には50μm以上の段差が発生し、例えば塗装した場合に鮮明に接合線を確認できるなど、意匠性に与える影響が大きい。このように従来技術では、無線通信性能と意匠性とを量産性を確保した上で両立することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−34823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記した問題を解決すること、すなわち、電波遮断性を維持したまま無線通信性能を劣化させず、特に意匠性に優れた電子機器筐体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明における電子機器筐体の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、次に示す成形材料基材(A)と成形材料基材(B)とを、成形材料基材(B)が厚み方向に挿通するように配置して板状の成形前駆体を形成し、その成形前駆体を、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも高い温度に加熱し、その後、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低い温度でプレス成形して繊維強化プラスチック成形体を形成することを特徴とする繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法である。
成形材料基材(A):強化繊維として導電性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材
成形材料基材(B):強化繊維として絶縁性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電波遮断性を維持したまま無線通信性能を劣化させず、特に意匠性に優れた電子機器筐体を工業的に短時間で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における繊維強化プラスチック成形体の一例を示す斜視図とその接合部の部分断面図である。
【図2】本発明の一態様を説明するための工程図である。
【図3】本発明における繊維強化プラスチック成形体のインサート成形の一態様を説明するための工程図である。
【図4】電解シールド性(KEC法)の測定方法を説明するための概略図である。
【図5】接合部の段差の測定方法を説明するための概略図と粗さ曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、電子機器筐体とは、電子機器を収容するための箱であり、電子機器と外界とを隔てるための壁体である。例えば自動車や航空機において電子機器を内蔵するためのハウジングをも含むものである。
【0011】
以下に本発明の製造方法について、好ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0012】
本発明では、強化繊維として導電性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材である成形材料基材(A)と、強化繊維として絶縁性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材である成形材料基材(B)を用いる。
【0013】
本発明による電子機器筺体は、マトリックスへの繊維補強効果により寸法安定性と剛性に優れているばかりか、成形材料基材(A)は、導電性繊維を用いていることにより、電波シールド材として機能し、成形材料基材(A)で形成される領域は、高い電波遮断性能を有するので、電波シールド領域となり、成形材料基材(B)は、絶縁性繊維を用いていることにより、電波透過材として機能し、成形材料基材(B)で形成される領域は低い電波遮断性能を有するので、電波透過領域となる。図1に本発明により得られる電子機器筺体の一例を示す。本発明により得られる電子機器筺体は、電波シールド領域1aと電波透過領域1bとで構成され、電波シールド領域1aは、主に成形材料基材(A)で形成され、電波透過領域1bは成形材料基材(B)で形成され、それらの間には接合部1cが形成されている。
【0014】
成形材料基材(A)で強化繊維として用いる導電性繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維や、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系の炭素繊維(黒鉛繊維を含む)が例示できる。これらの繊維には、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などの表面処理が施されていても良い。また、これらの導電性繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの導電性繊維の中でも、筺体の軽量性や剛性を効率的に高めることができる炭素繊維を用いるのが好ましい。
【0015】
成形材料基材(B)で強化繊維として用いる絶縁性繊維としては、例えば、ガラス繊維や、アラミド、PBO、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、アクリル、ナイロン、ポリエチレンなどの有機繊維や、シリコンカーバイト、シリコンナイトライドなどの無機繊維が例示できる。これらの繊維には、カップリング剤による処理、サイジング剤による処理、添加剤の付着処理などの表面処理が施されていても良い。また、これらの絶縁性繊維は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの導電性繊維の中でも、特に電波透過性、比剛性、コストの観点からガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0016】
成形材料基材(A)や成形材料基材(B)でマトリックスとして用いる熱可塑性樹脂は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性PPE、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリスルホン(PSU)、変性PSU、ポリエーテルスルホン、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルニトリル(PEN)、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体などの熱可塑性樹脂成分を、単独または2種類以上ブレンドして用いる。熱可塑性樹脂成分としては、耐熱性、耐薬品性の観点からPPSが、成形品外観、寸法安定性の観点からポリカーボネートやスチレン系樹脂が、成形品の強度や耐衝撃性の観点からポリアミドが好ましく用いられる。マトリックスには、用途等に応じ、熱可塑性樹脂に加えて、耐衝撃性向上のために、ゴム成分などの他のエラストマーを含有しても良いし、種々の機能を与えるために、他の充填材や添加剤を含有してもよい。かかる充填材や添加剤としては、例えば、無機充填材、難燃剤、導電性付与剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、制振剤、抗菌剤、防虫剤、防臭剤、着色防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤、顔料、染料、発泡剤、制泡剤、カップリング剤などが挙げられる。
【0017】
このような成形材料基材(A)と成形材料基材(B)を用いて板状の成形前駆体を形成するのだが、製品内部に実装される無線通信アンテナのサイズや位置にあわせ、成形材料基材(B)により電波透過領域が形成されるようにその配置を決定する。このとき、成形材料基材(B)を、板状の成形前駆体の厚み方向に挿通する領域を有するように配置することが重要である。それにより、得られる電子機器筺体において、成形材料基材(B)が厚み方向に挿通した領域が良好な電波透過性を有する電波透過領域となり、成形材料基材(A)の特性である堅牢性や剛性などの特性を最大限に維持したまま電波透過性を確保しつつ、機能上不要な周波数帯の電波を遮断し、電波透過領域から機能上必要な電波のみを送受信するといった製品設計が可能となる。成形前駆体において、成形材料基材(B)が厚み方向に挿通した領域、すなわち電波透過領域以外は、通常、成形材料基材(A)のみを配置して電波シールド領域を構成するが、電波シールド領域には、成形材料基材(A)に加えて、必要に応じて成形材料基材(B)など、他の基材を本発明の目的を損なわない範囲で積層してもよい。
【0018】
次にこのようにして得た成形前駆体を、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも高い温度に加熱し、その後、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低い温度でプレス成形して繊維強化プラスチック成形体を形成する。すなわち、成形前駆体を、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも高い温度に加熱し、加熱した成形材料基材を金型にセットし、成形材料基材におけるマトリックスで熱可塑性樹脂が溶融した状態で、その後、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低い温度でプレス成形するのである。
【0019】
ここでプレス成形とは、加工機械および型、工具等を用いて金属、プラスチック材料、セラミックス材料などに例示される各種材料に、曲げ、剪断、圧縮等の変形を与えて成形体を得る方法であるが、本発明では、得られる製品の意匠性の観点から、予め前駆体を熱可塑性樹脂の溶融温度よりも高い温度に加熱し熱可塑性樹脂を溶融、軟化させた状態で、その後、熱可塑性樹脂の溶融温度未満の温度でプレス成形する、いわゆるコールドプレス法を選択するものである。具体的には、成形材料基材に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂の場合、成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂の融点と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂の融点のうちの高い方の融点をTmとしたとき、Tm以上、好ましくは、Tm+5℃〜Tm+65℃の範囲に成形前駆体を加熱する。ここで結晶性樹脂とは、示査走査熱量計(DSC)により測定した結晶化ピークが実質的に存在するものをいう。結晶化ピークが複数存在する場合は最も高いものがTmとして選択される。成形材料基材に含まれる熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂の場合、成形材料基材(A)の熱可塑性樹脂に含まれるガラス転移点と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点のうちの高い方のガラス転移点をTとしたとき、T+120℃〜T+170℃、好ましくはT+120℃〜T+150℃の範囲に成形前駆体を加熱する。ここで非結晶性樹脂とは、示査走査熱量計(DSC)により測定した結晶化ピークが実質的に存在しないものをいう。ガラス転移点が複数存在する場合は最も高いものがTとして選択される。
【0020】
熱可塑性樹脂を溶融、軟化させ、熱可塑性樹脂が溶融、軟化している状態で、成形型の下面となる下型の上に配置し、次いで上型を閉じて型締を行い、その後加圧して、成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂の溶融温度と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂の溶融温度のうちの低い方の溶融温度未満に冷却する。これにより、電波シールド材を構成するマトリックスと電波透過材を構成するマトリックスとの両材料を一旦溶融状態させた上で溶融接合させた後、一様に冷却することで、電波シールド領域と電波透過領域との接合部における段差を小さくでき、意匠面での表面高さが均一な意匠面を得ることができる。
【0021】
図2に、本発明の一態様として好ましく用いられる手順を具体的に示す。
(1)電波透過領域が形成されるべき部分を刳り抜いた成形材料基材(A)2aと、その部分に適合した形状を有する成形材料基材(B)2bを用意する。電波透過領域が形成されるべき部分の範囲については特に制限はないが、製品内部側に実装される無線通信アンテナの投影面積よりも広い範囲に設定ことが好ましく、また、その範囲が製品の側壁に及んでも良い。
(2)成形材料基材(A)2aに、成形材料基材(B)2bを嵌め込み、板状の成形前駆体2cを形成する。
(3)得られた成形前駆体2cを、遠赤外線ヒーターを具備したオーブン2d中で成形材料基材(A)および(B)に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも高い温度に加熱する。
(4)オーブン中で加熱された成形前駆体2cを、プレス機2eに具備された、成形材料基材(A)および(B)に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低い表面温度に予め設定されたプレス金型2fの上下型の間に配置する。
(5)プレス金型2fに対しプレス機で適正な圧力を付与し、プレス成形する。
(6)プレス金型から繊維強化プラスチック成形体2gを取り出す。
【0022】
成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂とは、共通の熱可塑性樹脂成分を含有することにより、熱可塑性樹脂における極性の差を減少させ、成形材料基材(A)と成形材料基材(B)との接合部における強度を確保することができる。この共通する熱可塑性樹脂成分は、成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂のそれぞれにおいて、熱可塑性樹脂重量当たり、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは75〜100重量%、最も好ましくは100重量%とする。
【0023】
前記したとおり、本発明では通常、コールドプレスに際してプレス金型2fのような成形型を用いるが、成形材料(A)および(B)に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂である場合、成形型の表面温度Tsを、前記したTmに対して、プレス開始前に予めTm−60℃〜Tm−155℃の範囲、好ましくはTm−100℃〜Tm−145℃の範囲に設定することで電波シールド領域と電波透過領域との接合部の段差を0〜20μmにまで小さくすることができる。TsがTm−155℃を下回るとプレス時の固化が早すぎるため段差を均一化することが困難となることがあり、TsがTm−60℃を上回るとプレス時の固化が遅延して量産性を確保することが困難となることがある。また、成形材料(A)および(B)に含まれる熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂である場合、成形型の表面温度Tsを、前記したTに対して、プレス開始前に予めT−20℃〜T−85℃の範囲、好ましくはT−30℃〜T−80℃の範囲に設定することで電波シールド領域と電波透過領域との接合部の段差を0〜20μmにまで小さくすることができる。TsがT−85℃を下回ると前記同様にプレス時の固化が早すぎるため段差を均一化することが困難となることがあり、TsがT−20℃を上回ると前記同様にプレス時の固化が遅延して量産性を確保することが困難となることがある。
【0024】
成形材料基材(A)や成形材料基材(B)の形態は、強化繊維と熱可塑性樹脂を含有した形態であれば特に制限されない。強化繊維は、例えばクロス、フィラメント、ブレイド、フィラメント束、紡績糸等を一方向にひきそろえた形態、互いに繊維を交絡させたストランドマット状、不織布状などの形態を採り得るが、とりわけ、プレス時の意匠性の観点から、強化繊維を抄造して得られる形態が好ましい。かかる形態は、具体的には、後述するような所定の重量平均繊維長を有する強化繊維を水中に分散した懸濁液から抄造して得られる不織材料である。このような不織材料に粉末形状、繊維形状、フィルム形状、不織布形状の熱可塑性樹脂を加熱、加圧し、接着して成形材料基材を得る。
【0025】
成形材料基材(A)における導電性繊維および成形材料基材(B)における絶縁性繊維は、それぞれの基材に、その重量当たり、好ましくは15〜80重量%、より好ましくは20〜75質量%、さらに好ましくは25〜70質量%の割合で含有されているようにする。15重量%を下回ると得られる製品の剛性が不足し変形しやすくなることがあり、また80質量%を上回ると熱可塑性樹脂の流動性が著しく低下しプレス成形が困難となることがある。
【0026】
さらに、成形材料基材(A)および成形材料基材(B)に含有される強化繊維の重量平均繊維長が好ましくは1〜15mm、より好ましくは1.5〜10mm、さらに好ましくは2〜6.5mmであるようにする。強化繊維の重量平均繊維長が1mmを下回ると得られる製品の剛性が不足し変形しやすくなることがあるし、強化繊維の重量平均繊維長が15mmを上回ると、プレス後の外観に繊維浮き等の不良が発生しやすくなることがある。
【0027】
上記のようにして得られた繊維強化プラスチック成形体をそのまま電子機器筺体として用いてもよいが、形成された繊維強化プラスチック成形体を射出成形型にインサートした上で型締めを行い、成形材料基材(A)で形成された領域の表面上に、次の成形材料基材(C)を射出成形して更に一体化して電子機器筺体とすることで、例えば厚み0.6mm以下のボスやリブなど詳細形状の部位を付与することができる。
【0028】
成形材料基材(C):強化繊維と熱可塑性樹脂を含み、該熱可塑性樹脂は、成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂と共通の熱可塑性樹脂成分を含む成形材料基材
具体的には、図3に示すように、形成された繊維強化プラスチック成形体2gを射出成形機3aに取り付けた射出成形金型3bの中のキャビティに配置した上で型締めを行い、成形材料基材(C)を射出成形機からスクリューで射出して、スプルーおよびランナー3cを経由して、繊維強化プラスチック成形体2gにおける成形材料基材(A)で形成された領域の表面上に成形して、繊維強化プラスチック成形体2gと、成形材料基材(C)で形成された部位3dを一体化させて電子機器筺体とするのである。
【0029】
成形材料基材(C)に含まれる強化繊維は、必要以上に電波透過領域を形成しないよう、前記したような導電性繊維を用いるのが良い。
【0030】
成形材料基材(C)に含まれる熱可塑性樹脂は、成形材料基材(A)や成形材料基材(B)で用いる前記と同様のものを用いることができるが、成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂と共通の熱可塑性樹脂成分を含んでいるため、成形材料基材(A)と成形材料基材(C)の接合強度を良好なものとすることができる。この共通する熱可塑性樹脂成分は、成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂と、成形材料基材(C)に含まれる熱可塑性樹脂のそれぞれにおいて、熱可塑性樹脂重量当たり、好ましくは50〜100重量%、より好ましくは75〜100重量%、最も好ましくは100重量%とする。
【0031】
このようにして得られた繊維強化プラスチック製電子機器筺体では、成形材料基材(A)で形成された領域は良好な電波遮蔽性能を有し、具体的には、KEC法により測定される電界シールド性が周波数1GHz帯において16〜80dBとすることができ、成形材料基材(A)で形成された領域は良好な電波透過性能を有し、具体的には、KEC法により測定される電界シールド性が周波数1GHz帯において0〜15dBとすることができる。なお、接合部を有する繊維強化プラスチック成形体において、電波シールド領域の電解シールド性や電波透過領域それぞれの部位における電解シールド性は、各部位を形成する成形材料基材(A)や成形材料基材(B)を単一で使用した参照成形体により測定される。具体的には維強化プラスチック成形体を製造する場合と同一の積層枚数を積層して単一の成形材料基材を用いた成形前駆体を形成し、接合部を有する繊維強化プラスチック成形体を製造する場合と同一の成形プロセス条件で成形し、成形品厚みを同一相当とした参照成形体について電解シールド性を測定することにより得ることができる。ここでいう厚みの同一相当とは、目標厚み±0.05mmである。材料厚みがこの範囲であれば電解シールド性に明確な優位差が見られないことが多い。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって、本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は本発明を制限するものではない。
【0033】
[電解シールド性の測定方法(KEC法)]
図4に示すように、金属管4eにより遮蔽された空間において信号発信用アンテナ4bと信号受信用アンテナ4cの間に、測定試料4aを挿入し、試料の有無による電界の強度を測定する。測定試料が無い場合の空間の電界強度をE[V/m]とし、測定試料が有る場合の空間の電界強度をE[V/m]として、シールド効果を次の式で求める。
電界シールド性(シールド効果)=20log10/E[dB]
【0034】
[繊維強化プラスチック成形体における接合部の段差]
複数の成形材料基材が接合されてなる繊維強化プラスチック成形体の接合部において、表面粗さ測定器を用いて、接合部を横切るように表面粗さ計測定ヘッド5aを走査し成形体表面の粗さを測定(測定方法はJIS‘01に準拠)して、図5に例示されるような方法により、Y方向変位(単位:μm)−測定ストローク(単位:mm)の粗さ曲線5bを得る。測定条件として、測定ストロークは30mm、測定速度0.3mm/s、カットオフ値0.3mm、フィルタ種別はガウシアン、傾斜補正無し、が選択される。接合部は測定ストロークの中間点である15.0mmの部分にセットする。ここで、接合部の段差5cとは、得られた粗さ曲線における最大の山頂のY方向変位と最小の谷底のY方向変位との差をいう。なお本実施例では、表面粗さ測定器として、(株)東京精密製サーフコム480Aを用い、接合部を垂直に横切るように表面粗さ計測定ヘッド5aを走査した。
【0035】
(参考例1)
東レ(株)製“トレカ(登録商標)”T700S−24Kの炭素繊維連続束を、カートリッジカッターでカットし、繊維長6.4mmのチョップド糸を得た。これに界面活性剤を添加し撹拌した後、抄紙機に流し込み、吸引により脱水し、その後乾燥し炭素繊維からなる不織材料を得た。次にこの不織材料に対し、ポリアミド6樹脂(東レ(株)社製、“アミラン”(登録商標)CM1001(融点:225℃、ガラス転移温度47℃、結晶性樹脂)製のフィルム基材2層をサンドイッチ状に挟み込み、温度240℃、圧力5MPaでプレスした後冷却することで厚み0.4mmの成形材料基材(A)を得た。成形材料基材(A)における炭素繊維の含有率は35重量%であった。
【0036】
得られた成形材料基材(A)を所定の製品外寸サイズに切断した後3枚積層して得られた成形前駆体を、実施例1に示す成形プロセス条件で成形して、厚み1.0mmの参照成形体を得た。得られた参照成形体はKEC法における電界シールド性が1GHz帯において35dBであった。
【0037】
(参考例2)
炭素繊維連続束を、日東紡製ガラスチョップドストランドCS13C―897に変えた以外は、参考例1と同様の方法で製造することで厚み0.4mmの成形材料基材(B)を得た。
【0038】
得られた成形材料基材(B)を所定の製品外寸サイズに切断した後3枚積層して得られた成形前駆体を、実施例1に示す成形プロセス条件で成形して、厚み1.0mmの参照成形体を得た。得られた参照成形体は、KEC法における電界シールド性が1GHz帯において2dBであった。
【0039】
(実施例1)
参考例1により得られた成形材料基材(A)を所定の製品外寸サイズに切断した後3枚積層し、その一部分から成形材料基材(A)を刳り抜いて厚み方向に成形材料基材(A)が存在しない領域を有する積層体とした。次に参考例2で得られた成形材料基材(B)を、前記積層体における成形材料基材(A)が存在しない領域と同一の形状を持つように切断し、成形材料基材(A)が存在しない領域に3枚積層して、成形材料基材(B)が厚み方向に挿通するように配置された板状の成形前駆体を得た。得られた成形前駆体を、次の成形プロセス条件で成形して、側壁を有する箱状の繊維強化プラスチック成形体を形成し、そのまま電子機器筐体として用いた。
【0040】
[成形プロセス条件]
成形前駆体を、その表面温度が235℃になるまで遠赤外線ヒーターを具備したオーブン中で加熱する。下型として雄金型と、上型として雌金型を具備する成形型の表面温度を85℃に温調し、型開きし、加熱された成形前駆体をセットしてキャビティの厚みが1.0mmとなるまで型締めしてプレス成形を行った後、60秒間保持し、型開きする。
【0041】
得られた繊維強化プラスチック成形体における成形材料基材(A)と成形材料基材(B)との接合部の段差は10μmであった。
【0042】
得られた繊維強化プラスチック成形体は、電波遮断性を維持した領域と電波透過性を維持した領域を有し、電波透過領域近傍に配された無線通信アンテナに性能の劣化は認められなかった。前記繊維強化プラスチック成形体の接合部をサンディング処理せず塗装処理したところ、塗装後外観において成形材料(A)および成形材料(B)の接合線は目視で認められず高品位であった。また、得られた繊維強化プラスチック成形体を電子機器筐体として用いたところ、剛性においても優れたものであった。
【0043】
(実施例2)
実施例1により得られた繊維強化プラスチック成形体を、表面温度75℃に温調されたアウトサート型にセットした後に型締めし、繊維強化プラスチック成形体の成形材料基材(A)で形成された領域の上に成形材料基材(C)として東レ(株)製長繊維ペレットTLP1146(ポリアミド樹脂マトリックス(融点225℃)、炭素繊維含有量20重量%)を射出成形することにより一体化して成形材料機材(C)で形成された部位を持つ繊維強化プラスチック製成形体を得、これを電子機器筐体として用いた。得られた成形体は表面に成形材料基材(C)で形成された部位3dであるボスやリブ等の複雑な詳細形状を有し、これらには電子機器を構成する他の部品(例えばディスプレイモジュール、無線通信アンテナ、無線通信ユニット、意匠面の化粧パネル、システムユニットなど)を組み込むことでき、より高性能な電子機器に利用することができた。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明により、電波遮断性能と無線通信性能とを両立させ、かつ表面意匠性に優れた電子機器筺体を製造できるので、前記機能的な両立が必要な分野に制限無く利用可能であり、例えば自動車の内蔵部品を構成する一部品などにも利用できるが、とりわけノートパソコンや携帯電話などの小型電子機器向けの筐体を製造するにあたり好適に利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1a 電波シールド領域
1b 電波透過領域
1c 接合部
2a 成形材料基材(A)
2b 成形材料基材(B)
2c 成形前駆体
2d 遠赤外線ヒーターを具備したオーブン
2e プレス機
2f プレス金型
2g 繊維強化プラスチック成形体
3a 射出成形機
3b 射出成形金型
3c スプルーおよびランナー
3d 成形材料基材(C)で形成された部位
4a 測定試料
4b 信号発信用アンテナ
4c 信号受信用アンテナ
4d 測定試料厚み
4e 金属管
5a 表面粗さ計測定ヘッド
5b 粗さ曲線
5c 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次に示す成形材料基材(A)と成形材料基材(B)とを、成形材料基材(B)が厚み方向に挿通するように配置して板状の成形前駆体を形成し、その成形前駆体を、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも高い温度に加熱し、その後、成形材料基材に含まれるいずれの熱可塑性樹脂の溶融温度よりも低い温度でプレス成形して繊維強化プラスチック成形体を形成することを特徴とする繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
成形材料基材(A):強化繊維として導電性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材
成形材料基材(B):強化繊維として絶縁性繊維を、マトリックスとして熱可塑性樹脂を含む成形材料基材
【請求項2】
成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂は、共通の熱可塑性樹脂成分を含有する請求項1に記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項3】
前記プレス成形を成形型で行なうとともに、成形材料(A)および(B)に含まれる熱可塑性樹脂が結晶性樹脂であって、成形材料基材(A)の熱可塑性樹脂に含まれる融点と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂の融点のうちの高い方の融点をTmとしたとき、前記成形型の表面温度Tsを、プレス開始前に予めTm−60℃〜Tm−155℃の範囲に設定する請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項4】
前記プレス成形を成形型で行なうとともに、成形材料(A)および(B)に含まれる熱可塑性樹脂が非結晶性樹脂であって、成形材料基材(A)の熱可塑性樹脂に含まれるガラス転移点と、成形材料基材(B)に含まれる熱可塑性樹脂のガラス転移点のうちの高い方のガラス転移点をTとしたとき、前記成形型の表面温度Tsを、プレス開始前に予めT−20℃〜T−85℃の範囲に設定する請求項1または2に記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項5】
成形材料基材(A)および/または成形材料基材(B)が、強化繊維を抄造して得られる請求項3または4に記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項6】
成形材料基材(A)における導電性繊維および成形材料基材(B)における絶縁性繊維は、それぞれの基材に、その重量当たり15〜80重量%含有される請求項5に記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項7】
成形材料基材(A)および成形材料基材(B)に含有される強化繊維は、その重量平均繊維長が1〜15mmである、請求項5または6に記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項8】
絶縁性繊維がガラス繊維である、請求項5〜7のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項9】
導電性繊維が炭素繊維である請求項5〜8のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
【請求項10】
形成された繊維強化プラスチック成形体を射出成形型にインサートした上で型締めを行い、成形材料基材(A)で形成された領域の表面上に、次の成形材料基材(C)を射出成形して更に一体化する請求項5〜9のいずれかに記載の繊維強化プラスチック製電子機器筐体の製造方法。
成形材料基材(C):強化繊維と熱可塑性樹脂を含み、該熱可塑性樹脂は、成形材料基材(A)に含まれる熱可塑性樹脂と共通の熱可塑性樹脂成分を含む成形材料基材

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−93213(P2011−93213A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249745(P2009−249745)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】