説明

繊維強化樹脂管継手の製造方法

【課題】下地処理を施すことなく繊維強化樹脂管継手の外周面の塗装の剥がれを可及的に防止する。
【解決手段】光重合開始剤を含む重合性樹脂組成物を含浸させた強化繊維束を型に巻き付けるとともに、巻き取った強化繊維束に光を照射して強化繊維束に含浸された重合性樹脂組成物を硬化させ、繊維強化樹脂管継手1を成形する。次いで、繊維強化樹脂管継手1を脱型した後、繊維強化樹脂管継手1の外周面を僅かに研磨し、あるいは、僅かな凹凸を形成することにより、繊維強化樹脂管継手1の外周面を粗面加工する。そして、粗面加工された繊維強化樹脂管継手1の外周面を下水管などの本管と同色に塗装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、繊維強化樹脂管継手の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、軽量なことによる施工性に優れた特性から繊維強化樹脂管継手が広く提供されている。この繊維強化樹脂管継手は、例えば、特許文献1に示されるように、軸方向に移動しつつ周方向に回転するドラム状の型に、光重合開始剤が配合された重合性樹脂組成物を含浸させた強化繊維束を連続的に巻き付けるとともに、巻き取った強化繊維束に自然光や紫外線などを照射して強化繊維束に含浸された重合性樹脂組成物を硬化させることにより成形される。
【0003】
一方、このような繊維強化樹脂管継手を利用して接続される繊維強化樹脂本管は、通常、熱可塑性樹脂組成物にねずみ色などの顔料を添加して成形することから、ねずみ色などに着色されている。
【0004】
これに対し、繊維強化樹脂管継手の、光重合開始剤が配合された重合性樹脂組成物に顔料が添加されると、光が透過しないか、透過しにくく、重合性樹脂組成物が硬化しないことから、重合性樹脂組成物に顔料を添加することはできない。これにより、顔料が添加されない重合性樹脂組成物が硬化した繊維強化樹脂管継手は、元の蛍光色である黄緑色を呈している。しかも、繊維強化樹脂管継手の重合性樹脂組成物は、時間の経過とともに黄変する性状を有している。このため、繊維強化樹脂管継手を在庫管理し、一定時間経過後に出荷した場合、着色された繊維強化樹脂本管の色と黄変した繊維強化樹脂管継手の色とが調和せず、これを改善する目的で、繊維強化樹脂管継手の成形後、その外周面を繊維強化樹脂本管の色に合わせて塗装するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−175550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、塗装した繊維強化樹脂管継手の輸送に際して、繊維強化樹脂管継手が互いに接触することによって、または、緩衝材として巻回した不織布ロープによる軸方向あるいは周方向の摺動摩擦によって塗装が剥がれ落ちるという問題があった。すなわち、塗料の密着性を向上させるためには、塗装面の脱脂処理およびプライマー処理などの下地処理が不可欠であるが、繊維強化樹脂管継手の製造ラインにおいて、下地処理工程を配置するとともに、下地処理面を保持することは困難である。このため、製造された繊維強化樹脂管継手の外周面に下地処理を施すことなく塗装している。これにより、顧客に届くまでの輸送中に繊維強化樹脂管継手同士の直接的な接触、または、緩衝材などを介した間接的な接触によって塗装の剥がれが発生する原因となっていた。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたもので、下地処理を施すことなく繊維強化樹脂管継手の外周面の塗装の剥がれを可及的に防止することのできる繊維強化樹脂管継手の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、光重合開始剤を含む重合性樹脂組成物を含浸させた強化繊維束を型に巻き付けるとともに、巻き取った強化繊維束に光を照射し、強化繊維束に含浸された重合性樹脂組成物を硬化させて繊維強化樹脂管継手を成形した後、繊維強化樹脂管継手を脱型し、次いで、繊維強化樹脂管継手の外周面を粗面加工した後、繊維強化樹脂管継手の外周面を塗装することを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、光重合開始剤を含む重合性樹脂組成物を含浸させた強化繊維束を型に巻き付けるとともに、巻き取った強化繊維束に光を照射して強化繊維束に含浸された重合性樹脂組成物を硬化させ、繊維強化樹脂管継手を成形する。次いで、繊維強化樹脂管継手を脱型した後、繊維強化樹脂管継手の外周面を僅かに研磨し、あるいは、僅かな凹凸を形成することにより、繊維強化樹脂管継手の外周面を粗面加工する。そして、粗面加工された繊維強化樹脂管継手の外周面を下水管などの繊維強化樹脂本管と同色に塗装する。
【0010】
この結果、繊維強化樹脂管継手の製造工程において、簡単な外周面の粗面加工を付加することによって塗料の密着性を高めることができ、塗装の剥がれを可及的に防止することができる。しかも、繊維強化樹脂管継手の外周面に粗面加工を施すだけでよく、繊維強化樹脂管継手の製造工程に製造ラインを変更して下地処理工程を設置する必要がなく、かつ、下地処理に伴う多くの作業時間が不要になることから、製造コストの上昇を最小限度に抑えることができる。
【0011】
本発明において、繊維強化樹脂管継手を回転させた状態で回転するブラシを繊維強化樹脂管継手の外周面に接触させて粗面加工することが好ましい。
【0012】
ここで、ブラシとしては、市販のワイヤブラシやプラスチックブラシを使用することができる。
【0013】
本発明において、繊維強化樹脂管継手を回転させた状態で砂またはガラス玉を繊維強化樹脂管継手の外周面に吹き付けて粗面加工することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、繊維強化樹脂管継手の外周面に下地処理を施すことなく繊維強化樹脂管継手の外周面の塗装の剥がれを可及的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の繊維強化樹脂管継手の製造方法における粗面加工の一実施形態を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1には、本発明の繊維強化樹脂管継手の製造方法における粗面加工の一実施形態が示されている。
【0018】
この繊維強化樹脂管継手1の外周面の粗面加工は、繊維強化樹脂管継手1を支持して回転させる一対の支持ローラ2,2と、繊維強化樹脂管継手1の外周面を粗面加工するブラシ3と、から構成されている。
【0019】
ブラシ3は、詳細には図示しないが、繊維強化樹脂管継手1の外周面に接触する加工位置と、繊維強化樹脂管継手1の外周面から離隔した退避位置間をシリンダを介して進退自在であり、かつ、モータによって回転自在に構成されている。
【0020】
次に、繊維強化樹脂管継手1の製造工程について説明する。
【0021】
まず、よく知られているように、光重合開始剤を含む重合性樹脂組成物を含浸させた強化繊維束を型に巻き付けるとともに、巻き取った強化繊維束に光を照射して強化繊維束に含浸された重合性樹脂組成物を硬化させ、繊維強化樹脂管継手1を成形する。
【0022】
ここで、樹脂としては、特に限定されないが、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などが挙げられ、不飽和ポリエステル樹脂が好ましい。
【0023】
また、光重合開始剤としては、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド、カンファーキノン、ベンジル、トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキシド、メチルチオキサントン、ビスベンタジエニルチタニウムージ、芳香族ジアゾニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、スルホニウム塩、スルホン酸エステル等が挙げられ、これらから単独又は複数選択されて使用される。
【0024】
強化繊維束としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維などの無機質繊維や、ビニロン繊維、アラミド繊維などの有機質繊維などの長繊維が挙げられる。
【0025】
繊維強化樹脂管継手1が成形されたならば、繊維強化樹脂管継手1を天井クレーンなどによって支持した状態で型を縮径させ、繊維強化樹脂管継手1を型より離脱させた後、繊維強化樹脂管継手1を吊り上げて搬送し、その外周面を一対の支持ローラ2上に載置する。一対の支持ローラ2に繊維強化樹脂管継手1を載置したならば、支持ローラ2を回転駆動させることにより、一対の支持ローラ2上に支持された繊維強化樹脂管継手1を回転させる。合わせて、ブラシ3を回転駆動させるとともに、加工位置に進出させる。これにより、回転するブラシ3によって回転する繊維強化樹脂管継手1の外周面を僅かに研磨し、粗面加工する。
【0026】
繊維強化樹脂管継手1の粗面加工が終了したならば、ブラシ3を退避位置に後退させ、次いで、天井クレーンなどを利用して繊維強化樹脂管継手1を塗装ブースに搬送した後、繊維強化樹脂管継手1を支持して回転させた状態で、スプレーガンより塗料を吐出させ、繊維強化樹脂管継手1の外周面を下水管などの本管の色と同色に塗装する。その後、繊維強化樹脂管継手1を養生し、塗料を乾燥させればよい。
【0027】
この結果、繊維強化樹脂管継手1の外周面は粗面加工されていることから、塗料の接触面積が増加し、塗料の密着性が向上することにより、塗装の剥がれを防止することができる。具体的には、直尺によって塗装面を擦っても塗装が剥がれることはない他、繊維強化樹脂管継手1の輸送に際して、互いに接触することにより、あるいは、緩衝材を介して間接的に接触することにより、塗装の剥がれを可及的に削減できるものである。
【0028】
また、繊維強化樹脂管継手1の外周面を下地処理する工程を製造ラインに加える必要がない他、下地処理に要する作業時間も不要になる。また、繊維強化樹脂管継手1の外周面に簡単な粗面加工を施すだけでよく、コストアップを最小限度に抑えることができる。
【0029】
なお、前述した実施形態においては、回転するブラシ3によって繊維強化樹脂管継手1の外周面を粗面加工する場合を説明したが、ショットブラストによって粗面加工してもよい。例えば、繊維強化樹脂管継手1の外周面に砂やガラス玉などを吹き付けて僅かな凹凸を形成し、粗面加工してもよい。
【0030】
また、繊維強化樹脂管継手を成形する際、最終工程として、強化繊維束に代えて光重合開始剤を含む重合性樹脂組成物が含浸されたポリエステル不織布を最外周面に巻き付けて光硬化させた後、最外周面に巻き付けられたポリエステル不織布にローラを接触させて、ポリエステル不織布による凹凸を際立たせる粗面加工を採用してもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 繊維強化樹脂管継手
2 支持ローラ
3 ブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合開始剤を含む重合性樹脂組成物を含浸させた強化繊維束を型に巻き付けるとともに、巻き取った強化繊維束に光を照射し、強化繊維束に含浸された重合性樹脂組成物を硬化させて繊維強化樹脂管継手を成形した後、繊維強化樹脂管継手を脱型し、次いで、繊維強化樹脂管継手の外周面を粗面加工した後、繊維強化樹脂管継手の外周面を塗装することを特徴とする繊維強化樹脂管継手の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の繊維強化樹脂管継手の製造方法において、繊維強化樹脂管継手を回転させた状態で回転するブラシを繊維強化樹脂管継手の外周面に接触させて粗面加工することを特徴とする繊維強化樹脂管継手の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の繊維強化樹脂管継手の製造方法において、繊維強化樹脂管継手を回転させた状態で砂またはガラス玉を繊維強化樹脂管継手の外周面に吹き付けて粗面加工することを特徴とする繊維強化樹脂管継手の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−195022(P2010−195022A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46120(P2009−46120)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】