説明

繊維強化樹脂製歯車

【課題】製造時に歯形を形成することが容易な繊維強化樹脂製歯車を提供することにある。
【解決手段】繊維強化樹脂製歯車11は、芯金12と、芯金12の外周を囲むように設けられるとともに外周部に複数の歯形部13が形成された繊維強化樹脂部14とから構成されている。繊維強化樹脂部14は、歯車11の歯形部13の歯すじ方向に対して平行に配列された複数の連続繊維16からなる連続繊維群を強化材として有する繊維強化樹脂層17を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂製歯車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、繊維強化樹脂製歯車は、噛み合い音が低く、軽量で回転慣性力が小さい等の利点を持つため、種々の分野で使用されている。そして、近年、繊維強化樹脂歯車では、歯部の耐磨耗性、歯部の強度、耐負荷性を備えたものが望まれている。この要求を満たすため、プリプレグを巻いて棒状とするとともに、その両端を合わせてドーナツ状として成形固化したリング状素材を歯切りすることで形成された歯部を備え、歯部の噛み合い面にプリプレグを構成する基材の繊維が木の年輪状に配向された繊維強化樹脂歯車が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の繊維強化樹脂歯車では、繊維配向が0度と90度である織布から構成されたプリプレグを用いてリング状素材が製作されており、歯部の最外周面としての歯先面ではほぼ周方向にのびる繊維と、歯車の軸芯に沿ってのびる繊維とが交差して配向している。
【特許文献1】特開平5−240325号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の繊維強化樹脂歯車において、仮に、リング状素材の外周部に圧力を加えて賦型によってリング状素材に歯部を成形しようとすると、プリプレグを構成する基材としての周方向にのびる繊維と歯車の軸芯に沿ってのびる繊維とは互いに拘束しあう。したがって、賦型によってリング状素材の外周部に歯部を成形しようとすると外周部は変形に抵抗するため、賦型によって歯部を形成することは難しい。
【0005】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、繊維強化樹脂部を変形させて歯形を形成することが容易な繊維強化樹脂製歯車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、歯形が形成されている繊維強化樹脂部を有する繊維強化樹脂製歯車において、前記繊維強化樹脂部は、前記歯形の歯すじ方向に対して平行に配列された複数の連続繊維からなる連続繊維群を有する繊維部を備え、前記連続繊維群は、前記繊維部全体の25%以上を占めていることを要旨とする。
【0007】
この発明では、繊維強化樹脂部を変形させて歯形を形成する場合、連続繊維群における複数の連続繊維はそれぞれ独立しており互いに拘束しあうことはないため、繊維強化樹脂部は円滑に変形することができる。したがって、複数の方向に配列された繊維が相互に結合されることでなる平織物あるいは組物を強化材として用いた場合に比べて、繊維強化樹脂部を容易に変形させて歯形を形成することができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記繊維強化樹脂部は連続繊維が組織されることで構成された繊維組織を有する外層を備え、前記外層は、前記繊維部を包囲していることを要旨とする。
【0009】
この発明では、歯形の歯すじ方向に対して平行に配列される複数の単なる繊維を連続繊維群としてまとめる場合、複数の繊維を繊維組織によって包囲して歯形の歯すじ方向に対して平行な姿勢に保持した状態で樹脂を含浸させて繊維強化樹脂部を成形することができる。
【0010】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記繊維強化樹脂部は、マトリクス樹脂としてモノマーキャストナイロン樹脂を使用していることを要旨とする。
【0011】
この発明では、モノマーの状態で含浸させて繊維強化樹脂を形成することができるため、ポリマーの状態のナイロン樹脂を溶融状態で含浸させる場合に比較して含浸を円滑に行うことができる。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記繊維強化樹脂部は、連続繊維が組織されることで構成された繊維組織を有する内層を備え、前記繊維部は、前記外層と、前記内層とによって挟まれていることを要旨とする。
【0013】
この発明では、歯形の歯すじ方向に対して平行に配列している複数の独立した連続繊維を二つの繊維組織で挟んで連続繊維群とした状態で保持し、その状態で連続繊維群に樹脂を含浸させることができる。したがって、連続繊維群に対して樹脂を含浸させて環状の繊維強化樹脂成形体を成形する際に連続繊維群が複数の連続繊維に散けてしまうことを抑制できるため、繊維強化樹脂製歯車を製造する前の中間素材の取り扱いが容易である。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記繊維強化樹脂部は、芯金の外周を囲むようにして芯金と一体に設けられていることを要旨とする。
この発明では、歯形の歯すじ方向に対して平行な状態に配列している複数の独立した連続繊維を外側に位置する繊維組織と内側に位置する芯金とで挟んで連続繊維群とした状態で保持し、その状態で連続繊維群に樹脂を含浸させることができる。したがって、連続繊維群に対して樹脂を含浸させて環状の繊維強化樹脂成形体を成形する際に連続繊維群が複数の連続繊維に散けてしまうことを抑制できるため、繊維強化樹脂製歯車として製作する前の中間素材の取り扱いが容易である。
【0015】
請求項6に記載の発明は、歯形が形成されている繊維強化樹脂部を有する繊維強化樹脂製歯車において、前記繊維強化樹脂部は、歯車の周面に平行で、なおかつ、前記歯形の歯すじ方向に対して5度〜15度の角度で交差するように配列された複数の連続繊維からなる連続繊維群を有する繊維部を強化材として少なくとも備えていることを要旨とする。
【0016】
この発明では、繊維強化樹脂部を変形させて歯形を形成する場合、連続繊維群における複数の連続繊維はそれぞれ独立しており互いに拘束しあうことはないため、歯形を形成する際に繊維強化樹脂部は円滑に変形することができる。したがって、複数の方向に配列された繊維が相互に結合されることでなる平織物あるいは組物を強化材として用いた場合に比べて、繊維強化樹脂部を容易に変形させて歯形を形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、製造時に歯形を容易に成形することができる。PY
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を平歯車に具体化した一実施形態を図1〜図4にしたがって説明する。図1に示すように、繊維強化樹脂製歯車(以下、歯車と記載する。)11は、その中心部に設けられた円筒状の芯金12と、芯金12の外周を囲むようにして芯金12と一体的に設けられるとともに外周部に複数の歯形部13が形成された繊維強化樹脂部14とから構成されている。
【0019】
繊維強化樹脂部14には、芯金12の外周と直接接するとともに繊維組織としての一枚の平織物にマトリクス樹脂としての熱可塑性樹脂が含浸されることで構成された内層15が形成されている。そして、内層15の外側には、内層15を包囲するとともに、複数の独立した連続繊維16からなる連続繊維群を強化材として有する繊維強化樹脂層17が形成されている。
【0020】
繊維強化樹脂層17は複数の連続繊維16に熱可塑性樹脂が含浸されることで繊維強化樹脂として構成されるとともに、歯車11の周方向において連続している。繊維強化樹脂層17を構成する複数の連続繊維16は互いに接触している状態で配置されるとともに、歯形部13の歯すじ方向に対して平行な状態(中心軸Pに対する配向角度が0度の状態)で配列している。なお、本実施形態において、繊維部は複数の連続繊維16からなる連続繊維群のみで構成されている。複数の連続繊維16は全て歯車11の全長に亘ってのびている。そして、繊維強化樹脂層17の外側には繊維強化樹脂層17を包囲する外層19が設けられている。
【0021】
外層19は、繊維組織としての一枚の平織物に熱可塑性樹脂が含浸されることで形成されるとともに、歯車11の外周に沿うように存在している。そして、外層19と内層15とは繊維強化樹脂層17を挟むとともに、外層19、繊維強化樹脂層17及び内層15は、軸方向と直交する断面において環状となるように形成されている。
【0022】
なお、内層15、繊維強化樹脂層17、外層19に用いられる連続繊維としては有機繊維としてのアラミド繊維が使用され、内層15、繊維強化樹脂層17、外層19に用いられるマトリクス樹脂としてはモノマーキャストナイロン樹脂が使用されている。また、繊維強化樹脂層17は、その厚さが内層15及び外層19の厚さに比べて例えば十数倍大きくなるように形成されている。本実施形態において、繊維強化樹脂部14は、内層15及び外層19以外全て繊維強化樹脂層17によって構成されている。
【0023】
次に、歯車11の製造方法について説明する。
まず、歯車11を製造する際には、図2に示すように、外層を構成するシート状の平織物20を準備し、その平織物20を広げた状態にして平織物20の一辺21に対して平行に複数の単なる連続繊維16を積層する。なお、平織物20としては目的とする繊維強化樹脂製歯車の歯先円の周より幅が長いものを用いる。そして、複数の連続繊維16は所定の厚みとなるまで積層されひとまとまりに集められることで連続繊維群22として構成されるとともに、平織物20の両端には連続繊維16を積層せずに綴じ代部23a,23bとして残しておく。次に、連続繊維群22のうえに内層15を構成する平織物24を被せるように配置して二枚の平織物20,24で連続繊維群22を挟み込み、なおかつ、平織物24のうえに芯材25を配置する。なお、内層15を構成する平織物24としては、その幅が芯材25の外周より長く平織物20の幅より短いものを用いる。そして、連続繊維群22を挟み込んだ状態で二枚の平織物20,24を芯材25の外周を一周するように巻き付けて、平織物20の第1端部側の綴じ代部23aを第2端部側の綴じ代部23bに重ね合わせるとともに、平織物24の第1端部24aを第2端部24bに合わせる。次に、綴じ代部23a,23bが重ね合わされた状態で図示しない接続手段によって仮止めする。すると、芯材25の外側に平織物20、連続繊維群22、平織物24が順に層をなすように配置された円筒状の中間素材が製作される。次に、中間素材に対する樹脂の含浸作業を行う。
【0024】
樹脂の含浸には、レジントランスファーモールディング(RTM)法を採用する。RTM法では、図示しない成形金型内に中間素材を配置し、成形金型内にポリアミド(ナイロン)のモノマーを注入して平織物20、連続繊維16、平織物24に含浸させるとともに、加熱して重合させた後、成形金型を冷却することにより、図3に示すように円筒状の繊維強化樹脂成形体26を得る。なお、ポリアミドのモノマーとしては、例えば、ε―カプロラクタムを使用する。
【0025】
次に、繊維強化樹脂成形体26から芯材25を取り外した後、繊維強化樹脂成形体26を切断して複数に分割し、分割した繊維強化樹脂成形体26一つ一つに芯金12を圧入することで歯車11の厚さと同じ厚さの歯車用成形体27(図4参照)を複数得る。その後、図4に示すように、4つに等分割されたプレス成形用型部材28を備えるプレス成形機29を用いて、歯車用成形体27に歯形部をプレス成形する作業を行う。プレス成形用型部材28が備える歯型部30はプレス成形用型部材28の移動方向に対して、例えば抜き勾配が確保されるような形状に形成されている。
【0026】
そして、歯車用成形体27に歯形部を形成する工程では、4つのプレス成形用型部材28が互いに離間した状態で、芯金12の内孔12aに位置決め突部31aを挿通させて歯車用成形体27を取り付け台31上に位置決めする。そして、型部材用加熱手段32によってプレス成形用型部材28を所定温度(例えば、70〜100℃)となるまで加熱するとともに、成形体用加熱手段33によって歯車用成形体27全体を所定温度(例えば、200〜270℃)となるまで加熱する。
【0027】
そして、歯車用成形体27全体が、ガラス転移温度以上で、なおかつ、プレス成形用型部材28の温度より100℃以上高い温度にまで達した後に、4つのプレス成形用型部材28を型合わせする。すると、4つのプレス成形用型部材28の歯型部30が歯車用成形体27の四方から歯車用成形体27の外周部27a全体に対して同時に押し当てられ圧力が作用する。4つのプレス成形用型部材28の歯型部30が歯車用成形体27の外周部27a全体に対して同時に押し当てられると、歯車用成形体27の外周部27aには複数の歯型部30から均一に圧力が加えられる。すると、外周部27aを構成する外層19及び繊維強化樹脂層17は複数の歯型部30の形状に沿うように変形する。ここで、外層19が複数の歯型部30によって押されて変形するとき、外層19を構成する平織物20の繊維同士が拘束することで外層19は若干変形に抵抗するが平織物20が伸長することで外層19は変形になじむことになる。また、繊維強化樹脂層17が変形するとき、繊維強化樹脂層17を構成する連続繊維16は、それぞれ独立しており他の連続繊維によって拘束されることはなく圧力を受けた方向に移動するため繊維強化樹脂層17は円滑に変形することができる。
【0028】
次に、型部材用加熱手段32及び成形体用加熱手段33による加熱を停止し、歯車用成形体27を冷却して、熱可塑性樹脂を固化させると、歯車用成形体27の外周部27aに複数の歯形部が形成される。歯車用成形体27の外周部27aに複数の歯形部が形成された後、4つのプレス成形用型部材28から歯車用成形体27を離型し、歯車用成形体27を取り出して、最後に、バリを除去すると歯車11が完成する。
【0029】
この実施形態によれば、以下に示す効果を得ることができる。
(1)歯車用成形体27の外周部27aに複数の歯形部を形成する際、繊維強化樹脂層17を構成する連続繊維16はそれぞれ独立しており拘束されることはなく圧力を受けた方向に移動する。したがって、繊維強化樹脂層17は圧力が加えられれば容易に変形するため、歯形部13を容易に形成することができる。
【0030】
(2)歯車用成形体27の外周部27aに複数の歯形部を形成する際、繊維強化樹脂層17が備える複数の連続繊維16は互いに拘束しあうことはない。したがって、繊維強化樹脂層17に圧力が加えられたときに、例えば、連続繊維16が他の連続繊維に拘束されることで屈曲したりすることはないため、織物に比べてシワが発生しにくい。そのため、繊維強化樹脂層17を変形させて歯形部13を形成する際に、完成した歯車にシワが発生しないため、完成した歯車に応力集中が生じることは抑制され、歯車11の歯形部13を強化できないという事態が生じることは回避される。
【0031】
(3)歯車11の歯形部13はその歯形部13の歯すじ方向に対して平行に配列された連続繊維16からなる連続繊維群を有する繊維強化樹脂層17で構成されている。したがって、短繊維を強化繊維として使用した繊維強化樹脂によって歯形部を構成する場合に比べて歯形部13を強化することができる。
【0032】
(4)歯車11を製造する際には、一枚の平織物20によって複数の独立した連続繊維16を包囲して、複数の連続繊維16を歯形部13の歯すじ方向に対して平行に配列して一定の姿勢で保持し連続繊維群22としてまとめ、その状態で樹脂を含浸させることで繊維強化樹脂成形体26を得る。したがって、複数の連続繊維16がバラバラな繊維であっても、それら複数の連続繊維16をまとめて歯形部13の歯すじ方向に対して平行な状態で保持し、その状態で樹脂の含浸及び成形作業を行うことができるため、繊維強化樹脂層17を備えた繊維強化樹脂成形体26を成形する作業が容易である。
【0033】
(5)繊維強化樹脂部14には、マトリクス樹脂としてモノマーキャストナイロン樹脂が使用されている。したがって、モノマーの状態で含浸させて繊維強化樹脂部14を形成することができるため、ポリマーの状態のナイロン樹脂を溶融状態で含浸させる場合に比較して含浸を円滑に行うことができる。
【0034】
(6)繊維強化樹脂成形体26を成形する際には、複数の独立した連続繊維16を2枚の平織物20,24で挟んで歯形部13の歯すじ方向に対して平行に配列した状態で一定の姿勢で保持し、その状態で連続繊維16に樹脂を含浸させる。したがって、複数の連続繊維16に対して樹脂を含浸させて成形する前に複数の連続繊維16が散けてしまうことを回避できるため、繊維強化樹脂成形体26として製作する前の中間素材の取り扱いが容易である。
【0035】
本実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 複数の連続繊維16からなる連続繊維群を内層15と外層19とによって挟む構造の繊維強化樹脂部14を形成する代わりに、内層15を省略するとともに、複数の連続繊維16からなる連続繊維群を芯金12と外層19とによって挟む構造の繊維強化樹脂部を形成してもよい。そして、このような構造の繊維強化樹脂部を備える繊維強化樹脂製歯車を成形する場合、平織物20のうえに連続繊維群22を配置し、そのまま平織物20を芯材25に巻き付けることで連続繊維群22を構成する複数の連続繊維16を芯材25の周囲に配置する。そして、連続繊維群22を平織物20と芯金12とで挟んで複数の連続繊維16が歯形部13の歯すじ方向に対して平行に配列している状態で保持し、その状態で連続繊維群に樹脂を含浸させれば繊維強化樹脂成形体を得ることができる。そのため、連続繊維群に対して樹脂を含浸させて成形する際に連続繊維群が複数の連続繊維に散けることを抑制できるため、繊維強化樹脂製歯車として製作する前の中間素材の取り扱いが容易である。
【0036】
○ 内層15及び外層19を省略し、連続繊維群を強化材として有する繊維強化樹脂層だけで繊維強化樹脂部を構成してもよい。そして、このような繊維強化樹脂層だけで構成された繊維強化樹脂部を備えた繊維強化樹脂製歯車を製作する場合には、UDプリプレグシートを準備し、そのUDプリプレグシートの基材である複数の繊維が芯材の中心軸と平行となるようにしてUDプリプレグシートを芯材に巻きつける。そして、UDプリプレグシートを芯材に対して何重にも巻き付けることで目的とする厚みにまで形成した後、芯材及び芯材に巻き付けられたUDプリプレグシートを成形型内に配置してUDプリプレグシートを加熱成形すれば、目的とする形状の繊維強化樹脂成形体を得ることができる。
【0037】
○ 歯形の歯すじ方向に対して平行な複数の連続繊維からなる連続繊維群と、歯形の歯すじ方向に対して交差する角度に配列された複数の連続繊維とで繊維部を構成してもよい。連続繊維群は繊維部全体の25%以上を占めていればよいため、例えば、擬似等方に配向された複数の連続繊維から繊維部を構成してもよい。すなわち、繊維部が中心軸Pに対して45度の配列角度で配列する複数の連続繊維からなる45度繊維層と、中心軸Pに対して−45度の配列角度で配列する複数の連続繊維からなる−45度繊維層と、中心軸Pに対して90度の配列角度で配列する複数の連続繊維からなる90度繊維層と、連続繊維群とからなるように構成する。そして、これらを構成する連続繊維は全て繊維強化樹脂製歯車の周面に沿うように配列するとともに、連続繊維群と、90度繊維層、−45度繊維層、45度繊維層、連続繊維群とは繊維部において同じ割合で存在するように構成する。このように構成すれば、連続繊維群が繊維部全体の25%を占めるとともに、繊維部は擬似等方に配向された複数の連続繊維から構成される。
【0038】
○ 繊維強化樹脂製歯車の径方向において、内層と外層との間に繊維組織としての織物を強化材として有する中間層を設けてもよい。そして、内層と中間層との間に連続繊維群を強化材として有する第1繊維強化樹脂層が存在するとともに、中間層と外層との間に連続繊維群を強化材として有する第2繊維強化樹脂層が存在するように繊維強化樹脂部を形成してもよい。このような構成であれば、リング幅が大きい繊維強化樹脂製歯車を製造する場合であっても、各繊維組織で挟んで保持する連続繊維群の厚さが厚くなることを抑えることができる。
【0039】
○ 繊維強化樹脂成形体を成形する方法を変更してもよい。例えば、成形型における平板形状のキャビティ内に複数の連続繊維を並べて連続繊維群とし、並べられた連続繊維に熱可塑性樹脂を含浸させて固化させた後、成形型から取り出すことで平板状の繊維強化樹脂を形成する。そして、このような平板状の繊維強化樹脂を複数個準備し、連続繊維が芯材と平行となるようにして複数の平板状の繊維強化樹脂を芯材に巻きつけた後、成形型に配置して加熱成形すれば円筒状の繊維強化樹脂成形体を得ることができる。したがって、この繊維強化樹脂成形体を用いれば、歯形の歯すじ方向に対して平行に配列された複数の連続繊維からなる繊維部を備えた繊維強化樹脂製歯車を製造することができる。
【0040】
○ 繊維強化樹脂成形体を成形する方法を変更してもよい。例えば、プルトルージョン法を用いて繊維強化樹脂成形体を成形してもよい。この場合、複数の連続繊維を樹脂槽に通して含浸させた後、複数の連続繊維を束にしてほぼ円柱形状の連続繊維群とし、その連続繊維群を円筒状のキャビティを備えた成形型内に導入して加熱硬化させることで円筒形状の繊維強化樹脂成形体を成形してもよい。
【0041】
○ 連続繊維群を構成する連続繊維の配列角度を変更してもよい。歯車の周面に平行で、なおかつ、歯形の歯すじ方向と平行な方向に対して5度〜15度の角度で交差するように配列された複数の連続繊維で連続繊維群を構成してもよい。この場合、例えば、図5に示すように、内層38と外層39との間に、中心軸Pに対してヘリカルに配列された複数の連続繊維40からなる連続繊維群を強化材として有する繊維強化樹脂層41を形成する。この場合、複数の連続繊維40は、独立した状態で歯車11の周面に沿うように配列するとともに歯車11の中心軸Pに対して5度〜15度の角度で交差するように配列されている。この構成によれば、複数の連続繊維40からなる連続繊維群を強化材として備えた繊維強化樹脂部42を変形させて歯形部13を形成する場合に、複数の連続繊維40はそれぞれ独立しているため、複数の連続繊維40はそれぞれ他の繊維によって拘束されることはない。そのため、繊維強化樹脂層41は円滑に変形し、歯形部13を容易に形成することができる。
【0042】
○ 外層の強化材として平織物を使用する代わりに、綾織である織物を強化材として使用してもよい。また、外層の強化材として組物を使用してもよい。
○ 内層の強化材として平織物を使用する代わりに、綾織である織物を強化材として使用してもよい。また、内層の強化材として組物を使用してもよい。
【0043】
○ 繊維強化樹脂部に用いるマトリクス樹脂はモノマーキャストナイロン樹脂に限らず、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂としてはポリアミド以外の他のエンジニアリングプラスチックであるポリカーボネートやポブチレンテレフタレートやポリアセタール等を使用してもよい。また、熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂やビニールエステル系樹脂が使用される。ポリマー状態の熱可塑性樹脂を連続繊維群に含浸させる場合は、成形型をマトリクス樹脂の溶融温度より高温に加熱した状態で溶融状態の熱可塑性樹脂を加圧状態で注入する。
【0044】
○ 強化材に使用される連続繊維は、アラミド繊維に限らず、炭素繊維を使用してもよい。また、その他に、超高分子量ポリエチレン繊維やポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維(PBO繊維)等の高強度繊維を使用したり、要求物性によってはポリエステル繊維や無機繊維であるガラス繊維を使用したりしてもよい。
【0045】
○ 繊維強化樹脂製歯車として構成する歯車の種類を変更してもよい。例えば、芯金を省略して中実の歯車を繊維強化樹脂製歯車として構成し、この繊維強化樹脂製歯車を遊星歯車として用いてもよい。そして、このような中実の歯車を製造する場合、UDプリプレグシートを渦巻き状に巻き取って棒状の中間素材を形成し、この中間素材が目的とする径となるように設定し、その後、中間素材を成形型内に配置して成形すれば芯金を有していない中実の繊維強化樹脂成形体を成形することができる。そして、この中実の繊維強化樹脂成形体を切断すれば要求する厚みからなる歯車用成形体を得ることができるため、この歯車用成形体から繊維強化樹脂製歯車としての遊星歯車を製造することができる。また、繊維強化樹脂製歯車として平歯車を製造する代わりに繊維強化樹脂製歯車としてのウォームホイール(ウォーム歯車)を製造してもよい。この場合、厚さが目的とする歯車の厚さと等しい円環状(円筒状)の中間素材を製作した後、特開平8−187795号公報に開示されている方法と同様の方法を用いれば、繊維強化樹脂製歯車としてのウォームホイールを製造することができる。また、歯繊維強化樹脂製車を斜歯歯車(ヘリカルギア)、山歯歯車、かさ歯車(べベルギア)、ラック、ピニオンとして構成してもよい。
【0046】
○ 芯金の形状を変更してもよい。芯金の形状を中実にしてもよい。
○ 歯形の形成を切削加工で行ってもよい。切削加工で歯形を形成した場合であっても、繊維強化樹脂部を強化繊維の大部分を占める歯すじ方向に平行に配列された連続繊維の連続性は損なわれないため、歯形の繊維補強効果は十分に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】一実施形態における繊維強化樹脂製歯車の一部破断模式斜視図。
【図2】中間素材を形成する工程を説明する模式斜視図。
【図3】繊維強化樹脂製成形体の模式斜視図。
【図4】歯車用成形体に歯形部をプレス成形するプレス成形機の部分模式斜視図。
【図5】別の実施形態における繊維強化樹脂製歯車の模式斜視図。
【符号の説明】
【0048】
P…中心軸、11…繊維強化樹脂製歯車、12…芯金、13…歯形部、14,42…繊維強化樹脂部、15,38…内層、16,40…連続繊維、17…繊維強化樹脂層、19,39…外層、20…繊維組織としての平織物、22…連続繊維群、24…繊維組織としての平織物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯形が形成されている繊維強化樹脂部を有する繊維強化樹脂製歯車において、
前記繊維強化樹脂部は、前記歯形の歯すじ方向に対して平行に配列された複数の連続繊維からなる連続繊維群を有する繊維部を備え、
前記連続繊維群は、前記繊維部全体の25%以上を占めていることを特徴とする繊維強化樹脂製歯車。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂部は連続繊維が組織されることで構成された繊維組織を有する外層を備え、
前記外層は、前記繊維部を包囲していることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂部は、マトリクス樹脂としてモノマーキャストナイロン樹脂を使用していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項4】
前記繊維強化樹脂部は、連続繊維が組織されることで構成された繊維組織を有する内層を備え、
前記繊維部は、前記外層と、前記内層とによって挟まれていることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂部は、芯金の外周を囲むようにして前記芯金と一体に設けられていることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化樹脂製歯車。
【請求項6】
歯形が形成されている繊維強化樹脂部を有する繊維強化樹脂製歯車において、
前記繊維強化樹脂部は、歯車の周面に平行で、なおかつ、前記歯形の歯すじ方向に対して5度〜15度の角度で交差するように配列された複数の連続繊維からなる連続繊維群を有する繊維部を備えていることを特徴とする繊維強化樹脂製歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−52612(P2009−52612A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218271(P2007−218271)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】