説明

繊維強化複合材料成形装置

【課題】繊維に樹脂を含浸して繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置において、樹脂の含浸不足を検知することである。
【解決手段】繊維に樹脂を含浸し、前記樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置10であって、樹脂含浸装置22は、樹脂を繊維14に付着させる樹脂付着用ローラ26と、樹脂付着用ローラと所定の幅を有する間隙を設けて配置され、樹脂が付着した繊維34を間隙に通して樹脂含浸量を調整する樹脂含浸量調整用ローラ36と、樹脂含浸量調整用ローラに付着され、樹脂付着用ローラから除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測する膜厚検出装置38等の樹脂量計測手段と、樹脂含浸量調整用ローラに付着した樹脂を除去するヘラ40等の樹脂除去手段とを備え、樹脂含浸量調整用ローラの回転方向に対して、間隙と、樹脂量計測手段と、樹脂除去手段とが順に位置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化複合材料成形装置に係り、特に、繊維に樹脂を含浸し、前記樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
圧縮水素ガスや圧縮天然ガス(CNG)等を貯蔵する、例えば、車両用の高圧タンク等には、軽量化のために、繊維強化複合材料が用いられている。このような繊維強化複合材料には、例えば、強化繊維としての炭素繊維等に、熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂等を含浸させて成形した繊維強化複合材料が用いられる。そして、繊維強化複合材料を成形するための繊維強化複合材料成形装置には、例えば、フィラメントワインディング(Filament Winding:FW)装置等が使用される。フィラメントワインディング装置は、樹脂バス等に溜められた樹脂を含浸した繊維が、高圧タンクのライナ等に連続して巻き付けられることにより繊維強化複合材料を成形する装置である。
【0003】
特許文献1には、フィラメントワインディングにおける繊維への樹脂供給装置において、両周縁にテーパ部を有する樹脂含浸用ローラと、該樹脂含浸用ローラのテーパ部に当接するテーパ部を有するリングと、該ロング間に介装されるとともに前記樹脂含浸用ローラに対して間隙を保持して設けられる間隙ローラと、該間隙ローラを前記樹脂含浸用ローラ側へ押し付けるための押し付け部材とが設けられ、前記間隙ローラと前記リング間にインサート部材を装着し、該インサート部材の厚さを変更することにより、前記間隙ローラと前記樹脂含浸用ローラとの間隙を調整することができることが示されている。そして、同文献には、そのインサート材の厚さに合った樹脂含浸用ローラと間隙ローラ間の間隙を設定し、その間隙に合った樹脂量を繊維に供給可能にし、FRPの強度特性に影響する繊維含有率Vfを制御することが示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平5−286042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、樹脂バス等の中に溜められている樹脂が不足する場合や空になる場合には、繊維に予定した樹脂量よりも少ない樹脂量が含浸されることや、繊維に樹脂がまったく含浸されないことがあり、繊維に対する樹脂の含浸不足が生じる可能性がある。
【0006】
そのような樹脂含浸不足の繊維が、上述したフィラメントワインディング装置等により高圧タンクのライナ等に連続して巻き付けられて繊維強化複合材料が成形されると、成形された繊維強化複合材料の中に樹脂が欠損する部位が生じて均質な繊維強化複合材料が成形されず、耐圧性能が部分的に満足できない部位が高圧タンク等に生じる場合がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、樹脂の含浸不足を検知することができる繊維強化複合材料成形装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置は、繊維に樹脂を含浸し、前記樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置であって、樹脂含浸装置は、樹脂を繊維に付着させる樹脂付着用ローラと、樹脂付着用ローラと所定の幅を有する間隙を設けて配置され、樹脂が付着した繊維を間隙に通して樹脂含浸量を調整する樹脂含浸量調整用ローラと、樹脂含浸量調整用ローラに付着され、樹脂付着用ローラから除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測する樹脂量計測手段と、樹脂含浸量調整用ローラに付着した樹脂を除去する樹脂除去手段とを備え、樹脂含浸量調整用ローラの回転方向に対して、間隙と、樹脂量計測手段と、樹脂除去手段とが順に位置して、樹脂の含浸不足を検知することを特徴とする。
【0009】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置は、樹脂量計測手段が、膜厚検出装置により、樹脂含浸量調整用ローラに付着され、樹脂付着用ローラから除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測することを特徴とする。
【0010】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置は、樹脂含浸装置が、樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとの間隙を調整する間隙調整手段を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置は、樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとが、同一回転数で回転することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る繊維強化複合材料成形装置は、樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとが、間隙に対して各々逆方向に回転することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記繊維強化複合材料成形装置によれば、除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測することにより樹脂の含浸不足を検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。図1は、繊維強化複合材料成形装置10の構成を示す図である。
【0015】
繊維供給装置12は、繊維強化複合材料に用いられる繊維14等を送り出す機能を有している。繊維供給装置12には、例えば、クリールスタンド(Creel Stand)等を用いることができる。繊維供給装置12は、繊維14を巻くための複数のボビン16と、繊維14に負荷する張力を調整するための複数の繊維張力調整装置18とを有している。
【0016】
繊維14には、高強度繊維または高弾性繊維である炭素繊維等を使用することができる。そして、炭素繊維には、レーヨン系炭素繊維、ポリアクリロニトリル(Polyacrylonitrile:PAN)系炭素繊維またはピッチ系炭素繊維等が用いられる。勿論、他の条件次第では、繊維14には、ガラス繊維またはアラミド繊維等を用いることができる。また、繊維14の形態には、フィラメント、ヤーン、テープ、編組品等の形態を用いることができる。勿論、他の条件次第では、繊維14の形態は、これらに限定されることはない。
【0017】
繊維張力測定装置20は、繊維供給装置12から送り出された繊維14に負荷された張力を測定する機能を有している。繊維張力測定装置20には、一般的に、繊維14の張力測定に用いられている張力測定装置を使用することができる。
【0018】
樹脂含浸装置22は、繊維張力測定装置20により張力が測定された繊維14に樹脂を含浸する機能を有している。図2は、樹脂含浸装置22の構成を示す模式図であり、図2(A)は、樹脂含浸装置22を側面から見た模式図であり、図2(B)は、樹脂含浸装置22を上面から見た模式図である。
【0019】
樹脂槽24は、図2(A)に示すように、繊維14に含浸するための樹脂を溜める機能を有しており、樹脂含浸装置22に配置される。樹脂には、熱硬化性樹脂である、例えば、エポキシ樹脂等を用いることができる。勿論、他の条件次第では、熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂に限定されることはなく、フェノール樹脂等の他の熱硬化性樹脂を用いることができる。樹脂槽24には、硬化剤や溶剤等を混合したエポキシ樹脂等が液体の状態で溜められる。そして、樹脂槽24には、樹脂の粘度等を調整するために、樹脂を加熱して樹脂温度を調節する機能を有する図示されないヒータ等の加熱装置が配置される。また、樹脂槽24には、樹脂槽24の中に溜められた樹脂の樹脂温度を測定する機能を有する図示されない熱電対等の樹脂温度センサが配置される。
【0020】
樹脂付着用ローラ26は、図2(A)に示すように、樹脂槽24の中の樹脂をローラ表面に付着させた後、付着させた樹脂を繊維14に転写させる機能を有しており、樹脂含浸装置22に配置される。そして、樹脂付着用ローラ26は、ローラの下部が樹脂槽24の中の樹脂に浸漬するようにして樹脂含浸装置22に配置される。また、樹脂付着用ローラ26は、第1テンションローラ28と第2テンションローラ30とで押さえられた繊維14に樹脂槽24中の樹脂を転写して付着させるために、ローラをモータ等により回転させるための回転軸32を備えている。
【0021】
そして、樹脂付着用ローラ26には、ローラ表面に付着した樹脂量を予備調整する機能を有している図示されないブレード等を配置してもよい。ブレードは、繊維14に転写して付着させる樹脂が略一定となるよう予備調整にするために、ブレードの先端とローラ表面との間が所定の間隔を有するようにして配置される。そして、ブレードの先端とローラ表面との間隔は、例えば、隙間ゲージ等を用いて調整される。このようなブレードは、ゴム、プラスチックスまたはステンレス等の金属材料等により作製することができる。
【0022】
樹脂含浸量調整用ローラ36は、図2(A)に示すように、樹脂付着用ローラ26と所定の幅を有する間隙Dを設けて樹脂含浸装置22に配置され、樹脂が付着した繊維34を間隙Dに通すことにより樹脂含浸量を調整する機能を有している。樹脂含浸量調整用ローラ36は、樹脂が付着した繊維34から取り除いた余分な樹脂をローラ表面に付着させることにより、繊維14の樹脂含浸量を調整することができる。そして、樹脂含浸量調整用ローラ36は、ローラをモータ等により回転させるための回転軸35を備えている。また、樹脂含浸量調整用ローラ36の大きさは、樹脂付着用ローラ26と同じ大きさとすることができる。勿論、他の条件次第では、樹脂含浸量調整用ローラ36の大きさは、樹脂付着用ローラ26と異なる大きさでもよく、これに限定されることはない。
【0023】
間隙Dにおける所定の幅は、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙Dに樹脂が付着した繊維34を通したときに、樹脂が付着した繊維34の余分な樹脂を除去して樹脂含有量を調整できるように、樹脂が付着した繊維34の厚さ(繊維+樹脂厚さ)よりも小さくなるように定められる。そして、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙Dを小さくすることで樹脂含浸量を少なくし、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙Dを大きくすることで樹脂含浸量を多くすることができる。
【0024】
図示されない間隙調整装置は、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙Dを調整する機能を有しており、樹脂含浸装置22に配置される。間隙調整装置には、アクチュエータを用いることができる。そして、アクチュエータには、例えば、サーボシリンダ等を使用することができる。サーボシリンダのロッドは、樹脂付着用ローラ26または樹脂含浸量調整用ローラ36と、例えば、支持部材等を介して連結される。サーボシリンダのロッドが樹脂含浸量調整用ローラ36と連結している場合には、サーボシリンダのロッドを上下させることにより樹脂含浸量調整用ローラ36を上下させて、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙を調整することができる。
【0025】
樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36とは、間隙Dに対して各々逆方向に回転させることが好ましい。樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙に樹脂が挿入されるときに、樹脂の滞留を抑制等することにより樹脂含浸量の精度をより高めることができるからである。図2(A)では、間隙Dに対して、樹脂付着用ローラ26は左方向から右方向へ回転し、樹脂含浸量調整用ローラ36は右方向から左方向へ回転し、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36とを各々逆方向となるように回転させた例を示している。勿論、他の条件次第では、樹脂含浸量調整用ローラ36を、樹脂付着用ローラ26に対して同一方向に回転させることができる。また、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36とは、同一回転数で回転させることが好ましい。勿論、他の条件次第では、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36とは、異なる回転数で回転させることもできる。また、樹脂含浸量調整用ローラ36を、樹脂付着用ローラ26と同期させることもできる。そして、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36とにおける回転数、回転方向または同期等の制御は、図示されないローラ回転調整装置により行うことができる。
【0026】
膜厚検出装置38は、図2(A)に示すように、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着され、樹脂付着用ローラ26から除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測する機能を有している樹脂量計測手段であり、樹脂含浸装置22に配置される。膜厚検出装置38は、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂の膜厚を測定することにより樹脂量を計測する手段である。膜厚検出装置38には、例えば、非接触型である超音波膜厚計を使用することができる。勿論、他の条件次第では、樹脂量計測手段は、このような膜厚検出装置38に限定されることはない。
【0027】
膜厚検出装置38は、樹脂が付着した繊維34ごとに配置されることが好ましい。例えば、図2(B)に示すように、樹脂が付着した繊維34が3本である場合には、膜厚検出装置38が3個配置される。また、各々の膜厚検出装置38は、図2(B)に示すように、樹脂が付着した繊維34が間隙Dを通過する位置と対応する樹脂含浸量調整ローラ36の位置に配置される。そして、各々の膜厚検出装置38により、図2(A)または図2(B)に示すように、樹脂付着用ローラ26から除かれた余分な樹脂の樹脂量を、樹脂が付着した繊維34ごとに計測することができる。
【0028】
ヘラ40は、図2(A)に示すように、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂を除去する機能を有している樹脂除去手段であり、樹脂含浸装置22に配置される。ヘラ40は、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂を除去するために、ヘラ40の先端がローラ表面と接するようにして配置されることが好ましい。また、ヘラ40の大きさは、ローラの幅と略同じとすることが好ましい。勿論、他の条件次第では、ヘラ40の大きさは、これに限定されることはない。ヘラ40の材質は、ローラ表面の損傷を抑えるためにゴムまたはプラスチックス等を用いることが好ましい。勿論、他の条件次第では、ヘラ40の材質は、ステンレス等の金属材料等を用いてもよい。樹脂除去手段は、このようなヘラ40に限定されることはなく、スクレーパ等を用いることもできる。
【0029】
ここで、図2(A)に示すように、樹脂含浸量調整用ローラ36の回転方向に対して、間隙Dと、膜厚検出装置38と、ヘラ40とが順に位置される。まず、間隙Dと膜厚検出装置38とは、間隙Dにより樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂の膜厚を測定するために、樹脂含浸量調整用ローラ36の回転方向に対して、間隙Dと、膜厚検出装置38とが順に位置される。次に、膜厚検出装置38とヘラ40とは、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂の膜厚を膜厚検出装置38により測定した後に、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂を除去するために、樹脂含浸量調整用ローラ36の回転方向に対して、膜厚検出装置38と、ヘラ40とが順に位置される。そして、ヘラ40と間隙Dとは、ヘラ40により樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂を除去した後に、樹脂含浸量調整用ローラ36に樹脂付着ローラから除かれた新たな余分な樹脂を付着させるために、樹脂含浸量調整用ローラ36の回転方向に対して、ヘラ40と、間隙Dとが順に位置される。図2(A)では、樹脂含浸量調整用ローラ36の回転方向に対して、間隙Dを略0度の位置とすると、膜厚検出装置38は略180度の位置にあり、ヘラ40は略270度の位置にあり、間隙Dと、膜厚検出装置38と、ヘラ40とが順に位置していることを示している。勿論、間隙Dと、膜厚検出装置38と、ヘラ40とは、樹脂含浸量調整用ローラ36の回転方向に対して、順に位置していればよく、このような位置に限定されることはない。
【0030】
再び、図1に戻り、制御装置44は、繊維張力測定装置20と、樹脂槽24に配置される樹脂温度センサと、膜厚検出装置38等とにリード線とコネクタ等を用いて接続される。また、制御装置44は、間隙調整装置やローラ回転調整装置等と接続することもできる。制御装置44は、繊維張力測定装置20から出力される繊維14の張力データの電気信号を入力し、繊維14の張力を制御することができる機能を有している。そして、制御装置44は、樹脂槽24に配置された樹脂温度センサから出力される樹脂温度データの電気信号を入力し、樹脂温度を制御することができる機能を有している。
【0031】
更に、制御装置44は、膜厚検出装置38から出力される膜厚データの電気信号を入力して、基準となる所定の樹脂量が樹脂含浸量調整用ローラ36に付着されているか否かを検知することができる機能を有している。また、制御装置44は、計測された樹脂量と基準となる樹脂量とを比較して、膜厚検出装置38から計測された樹脂量が基準となる樹脂量よりも少ない場合には、異常信号を出力することができる機能を有している。かかる制御装置44は、例えば、パーソナルコンピュータ(PC)で構成することができる。また、制御装置44と接続されたデータロガ46には、上述した繊維14の張力データ、樹脂温度データまたは樹脂量データ等が記憶されて保存される。
【0032】
フィラメントワインディング装置48は、樹脂含浸装置22から送り出された樹脂を含浸した繊維42を、巻回部材としての型または心金であるマンドレル50(Mandrel)等に巻回することにより巻き付ける機能を有している。そして、フィラメントワインディング装置48は、樹脂を含浸した繊維42を、マンドレル50等を回転させて巻き付けるための回転装置を備えている。また、フィラメントワインディング装置48は、樹脂を含浸した繊維42をマンドレル50等の円周方向や軸方向に巻き付けることができ、例えば、マンドレル50等の回転軸方向に対して略垂直に巻き付けるフープ巻き(Hoop Winding)やマンドレル50等の回転軸方向に対して所定の角度で巻き付けるヘリカル巻き(Helical Winding)等により巻き付けることができる。例えば、繊維強化複合材料を用いて高圧タンクを製造する場合には、ポリアミド樹脂等により成形された樹脂ライナまたはアルミニウム等により成形された金属ライナ等に、フィラメントワインディング装置48により、樹脂を含浸した繊維42が巻き付けることができる。
【0033】
そして、上述したマンドレル50またはライナ等に巻き付けた樹脂を含浸した繊維42を、図示されない樹脂硬化炉等で加熱することにより樹脂を硬化させて繊維強化複合材料が成形される。
【0034】
次に、上記構成における繊維強化複合材料成形装置10の作用について説明する。繊維供給装置12のボビン16から、例えば、炭素繊維である繊維14が繰り出される。ボビン16から繰り出された繊維14は、繊維張力調整装置18により所定の張力に調整されて繊維供給装置12から送り出される。
【0035】
繊維供給装置12から送り出された繊維14は、繊維張力測定装置20により繊維14に負荷されている張力が測定される。ここで、繊維張力測定装置20により測定された繊維14の張力データは、繊維張力測定装置20から制御装置44へ出力され、データロガ46に記憶されて保存される。また、繊維14に、例えば、基準となる所定の張力が負荷されていない場合には、制御装置44が、張力の異常を検知して異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形装置10が停止する。
【0036】
繊維張力測定装置20を通過した繊維14は、樹脂含浸装置22に送り出される。樹脂含浸装置22における樹脂槽24の中には、例えば、エポキシ樹脂である液状の樹脂が溜められている。樹脂の温度は、熱電対等の樹脂温度センサにより測定される。そして、樹脂温度データは、樹脂温度センサから制御装置44へ出力され、データロガ46に記憶されて保存される。また、樹脂温度が、例えば、設定された樹脂温度でない場合には、制御装置44が樹脂温度の異常を検知して、異常信号等を出力する。それにより、例えば、繊維強化複合材料成形装置10が停止する。
【0037】
樹脂付着用ローラ26は、ローラが回転することにより樹脂槽24に溜められた樹脂と接触し、ローラ表面に樹脂が付着する。そして、第1テンションローラ28と第2テンションローラ30とにより押さえられた繊維14は、樹脂付着用ローラ26と接触することにより樹脂が転写されて付着される。
【0038】
樹脂が付着した繊維34は、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙Dを通るときに、樹脂が付着した繊維34の余分な樹脂が樹脂含浸量調整用ローラ36に付着することにより取り除かれて、適正な樹脂量の樹脂が繊維14に含浸される。さらに、樹脂含浸量調整用ローラ36が回転することにより、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂の膜厚が膜厚検出装置38で測定された後、ヘラ40により樹脂が除去される。そして、再び間隙Dで、樹脂が除去された樹脂含浸量調整用ローラ36に、新たに樹脂が付着する。
【0039】
ここで、繊維14に対する樹脂含浸状態の検知について説明する。図3は、繊維14の樹脂含浸状態を示す模式図であり、図3(A)は、樹脂含浸状態が正常な場合を示す模式図であり、図3(B)は、樹脂含浸不足の場合を示す模式図である。
【0040】
樹脂含浸状態が正常の場合には、図3(A)に示すように、樹脂が付着した繊維34の厚み(繊維+樹脂の厚さ)は、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙Dの幅(クリアランス)よりも大きくなる。そして、繊維14は、第1テンションローラ28と第2テンションローラ30とで押さえられているので、樹脂含浸量調整用ローラ36により、樹脂が付着した繊維34の余分な樹脂が取り除かれる。取り除かれた余分な樹脂は、樹脂含浸量調整用ローラ36に付着する。その後、膜厚検出装置38により樹脂含浸量調整用ローラ36に付着した樹脂の膜厚が測定される。そして、膜厚検出装置38により測定された樹脂の膜厚データは、膜厚検出装置38から制御装置44へ出力される。そして、制御装置44により、計測された樹脂量は基準となる樹脂量と比較され、基準となる樹脂量よりも多い場合には正常と判断される。
【0041】
樹脂含浸不足の場合には、図3(B)に示すように、樹脂が付着した繊維34の厚み(繊維+樹脂の厚さ)は、樹脂付着用ローラ26と樹脂含浸量調整用ローラ36との間隙Dの幅(クリアランス)よりも小さくなる。そのため、樹脂含浸量調整用ローラ36と樹脂が付着した繊維34とは接触しないので、樹脂含浸量調整用ローラ36には樹脂がほとんど付着されない。そして、膜厚検出装置38により測定された膜厚データは、膜厚検出装置38から制御装置44へ出力される。そして、制御装置44により、計測された樹脂量は基準となる樹脂量と比較され、基準となる樹脂量よりも少ない場合は異常と判断され、それにより、例えば、繊維強化複合材料成形装置10が停止する。
【0042】
樹脂を含浸した繊維42は、第2テンションローラ30を介した後、フィラメントワインディング装置48へ送り出される。樹脂を含浸した繊維42は、フィラメントワインディング装置48により、マンドレル50または高圧タンクのライナ等にフープ巻き等により巻き付けられる。その後、マンドレル50またはライナ等に巻き付けた樹脂を含浸した繊維42を樹脂硬化炉で加熱することにより、樹脂を硬化させて繊維強化複合材料が成形される。
【0043】
以上、上記構成における繊維強化複合材料成形装置によれば、繊維に予定した樹脂量よりも少ない樹脂量が含浸される場合や、繊維に樹脂がまったく含浸されない場合等の樹脂含浸不足が生じても、樹脂含浸量用ローラに付着した余分な樹脂の樹脂量を膜厚検出装置等の樹脂量計測手段により計測することで、樹脂の含浸不足をより速く検知することができる。また、このような構成をとることにより、樹脂含浸と樹脂量調整がローラ上で完結するとともに、樹脂含浸装置内で樹脂量の不足を検知することができるため、異常を瞬時に検知することができる。
【0044】
上記構成における繊維強化複合材料成形装置によれば、樹脂量計測手段が、膜厚検出装置により、樹脂含浸量調整用ローラに付着され、樹脂付着用ローラから除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測することから、樹脂含浸繊維に対して非接触な検知方法であるため、繊維の樹脂含浸量への悪影響や、製造工程の工程数増加なく樹脂含浸量を管理することができる。
【0045】
上記構成における繊維強化複合材料成形装置によれば、樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとが、間隙に対して各々逆方向に回転することにより、より精度良く繊維の樹脂含浸量を調整しながら樹脂の含浸不足を検知することができる。また、ローラを逆回転させることにより、樹脂含浸量調整用ローラに付着した樹脂が樹脂量調整後の繊維に垂れる心配がなく、樹脂量を好適に制御することができる。
【0046】
また、上記構成における繊維強化複合材料成形装置によれば、樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとの間隙により除かれた余分な樹脂の樹脂量を常時監視する等により、樹脂含浸不足の繊維がマンドレル等に巻き付けられる前に、樹脂の含浸不足を検知することができる。そして、含浸不足を検知した時点で、繊維強化複合材料成形装置を停止させる等により、樹脂含浸不足の繊維が巻き付けられるのを抑制することができる。したがって、上記繊維強化複合材料成形装置によれば、繊維に樹脂をより均一に含浸して繊維強化複合材料を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明における実施の形態である繊維強化複合材料成形装置10の構成を示す模式図である。
【図2】本発明における実施の形態である樹脂含浸装置22の構成を示す模式図である。
【図3】本発明における実施の形態である繊維の樹脂含浸状態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0048】
10 繊維強化複合材料成形装置、12 繊維供給装置、14 繊維、16 ボビン、18 繊維張力調整装置、20 繊維張力測定装置、22 樹脂含浸装置、24 樹脂槽、26 樹脂付着用ローラ 28 第1テンションローラ、30 第2テンションローラ、34 樹脂が付着した繊維、36 樹脂含浸量調整用ローラ、38 膜厚検出装置、40 ヘラ、42 樹脂を含浸した繊維、44 制御装置、46 データロガ、48 フィラメントワインディング装置、50 マンドレル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維に樹脂を含浸し、前記樹脂含浸繊維を巻回部材に巻回することにより繊維強化複合材料を成形する繊維強化複合材料成形装置であって、
樹脂含浸装置は、
樹脂を繊維に付着させる樹脂付着用ローラと、
樹脂付着用ローラと所定の幅を有する間隙を設けて配置され、樹脂が付着した繊維を間隙に通して樹脂含浸量を調整する樹脂含浸量調整用ローラと、
樹脂含浸量調整用ローラに付着され、樹脂付着用ローラから除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測する樹脂量計測手段と、
樹脂含浸量調整用ローラに付着した樹脂を除去する樹脂除去手段と、
を備え、
樹脂含浸量調整用ローラの回転方向に対して、間隙と、樹脂量計測手段と、樹脂除去手段とが順に位置して、樹脂の含浸不足を検知することを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。
【請求項2】
請求項1に記載の繊維強化複合材料成形装置であって、
樹脂量計測手段は、膜厚検出装置により、樹脂含浸量調整用ローラに付着され、樹脂付着用ローラから除かれた余分な樹脂の樹脂量を計測することを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の繊維強化複合材料成形装置であって、
樹脂含浸装置は、
樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとの間隙を調整する間隙調整手段を備えることを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1に記載の繊維強化複合材料成形装置であって、
樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとが、同一回転数で回転することを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1に記載の繊維強化複合材料成形装置であって、
樹脂付着用ローラと樹脂含浸量調整用ローラとが、間隙に対して各々逆方向に回転することを特徴とする繊維強化複合材料成形装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2007−210182(P2007−210182A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31849(P2006−31849)
【出願日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】