説明

繊維強化複合材料用樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料。

【課題】
難燃性に優れ、そしてプリプレグとした際の取り扱い性に優れたベンゾオキサジン樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】
25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂および硬化触媒を含み、かつ、25℃の温度で前記ベンゾオキサジン樹脂が粒子状に分散してなる繊維強化複合材料用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性に優れた繊維強化複合材料用樹脂組成物に関するものである。本発明はまた、航空機用途、船舶用途、スポーツ用途およびその他一般産業用途に好適な繊維強化複合材料を得るためのプリプレグ、およびそれから得られる繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂やフェノール樹脂は、その優れた機械特性、電気特性、耐熱性および耐薬品性等の諸特性により、塗料、電気・電子材料、接着剤および繊維強化複合材料のマトリックス樹脂等に使用されている。
【0003】
強化繊維、特に炭素繊維とマトリックス樹脂からなる炭素繊維強化複合材料は、その力学特性が優れていることから、ゴルフクラブ、テニスラケットおよび釣り竿などのスポーツ用品をはじめ、航空機や車両などの構造材料やコンクリート構造物の補強など幅広い分野で使用されている。最近は、炭素繊維が導電性を有することにより、炭素繊維強化複合材料が優れた電磁波遮蔽性を有し、さらに優れた力学特性を持つため、ノートパソコンやビデオカメラなどの電気・電子機器の筐体などにも使用され、筐体の薄肉化や機器の重量軽減などに役立っている。このような繊維強化複合材料は、熱硬化性樹脂を強化繊維に含浸して得られるプリプレグを積層して得られることが多い。
【0004】
これらの中で、特に航空機や車両などの構造材料や建築材料などにおいては、火災によって構造材料が着火燃焼し、有毒ガスなどが発生することは非常に危険であるため、材料に難燃性を有することが強く求められている。
【0005】
また、電気・電子機器用途においても、装置内部からの発熱や外部の高温にさらされることにより、筐体や部品などが発火し燃焼する事故を防ぐために、材料の難燃化が求められている。
【0006】
ベンゾオキサジン環を有する化合物(ベンゾオキサジン樹脂という。)は、フェノール樹脂とアミン類から合成され、硬化後の構造が、難燃性の高いフェノール樹脂と類似した構造であるために、難燃性が期待されている樹脂である。しかしながら、ベンゾオキサジン樹脂は強化繊維と組み合わせてプリプレグとした際、粘度が高いために、プリプレグを積層した際にプリプレグ同士を接着するために必要なタック(粘着性)がない、またドレープ性(柔軟性)が悪いという課題を有している。タック性が小さすぎると積層されたプリプレグが剥離しやすくなり、積層の作業に支障をきたすことがある。逆にプリプレグのタック性が大きすぎると、剥離させて修正させることが困難となる。また、ドレープ性に乏しいと、曲面を有する金型を用いて積層する作業性が著しく低下する場合がある。
【0007】
ベンゾオキサジン樹脂を用いたプリプレグの取り扱い性を改善する方法として、エポキシ樹脂とベンゾオキサジン樹脂の組み合わせが提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この提案においては、エポキシ樹脂をベンゾオキサジン樹脂に配合することにより取り扱い性は向上するものの、配合されるエポキシ樹脂については、難燃性は考慮されておらず燃えやすい構造のものであった。またこの提案では、ベンゾオキサジン樹脂100重量部に対しエポキシ樹脂を100重量部程度と多量に配合するものであり、ベンゾオキサジン樹脂組成物の難燃性が低下するという課題があった。
【特許文献1】特開2006−233188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、難燃性に優れ、かつ、プリプレグとした際の取り扱い性に優れた繊維強化複合材料用ベンゾオキサジン樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を有するものである。すなわち、本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物は、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂および硬化触媒を含み、かつ、25℃の温度で前記ベンゾオキサジン樹脂が粒子状で分散してなる繊維強化複合材料用樹脂組成物である。
【0010】
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂は、一分子中に含まれるオキサジン環が平均1個以上のベンゾオキサジン樹脂である。
【0011】
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物の好ましい態様によれば、前記の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂のガラス転移温度は、50℃以上である。
【0012】
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物の好ましい態様によれば、本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物の50℃の温度における粘度は、100〜2000Pa・sである。
【0013】
また、本発明のプリプレグは、前記のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物と強化繊維とを含み、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂が、粒子状でプリプレグの表面付近に局在化しているものである。
【0014】
本発明の繊維強化複合材料は、前記のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物と強化繊維からなるものであり、前記のいずれかに記載のプリプレグを加熱硬化させる工程を含む繊維強化複合材料の製造方法であって、その加熱硬化において硬化中に粒子状のベンゾオキサジン樹脂を融解させることにより製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、難燃性に優れ、かつ、プリプレグとした際の取り扱い性に優れた繊維強化複合材料用ベンゾオキサジン樹脂組成物が得られる。具体的に、本発明によれば、繊維強化複合材料用プリプレグおよび繊維強化複合材料に要求される諸特性を満足しながら、難燃性に優れ、かつプリプレグとした際の取り扱い性に優れた繊維強化複合材料用ベンゾオキサジン樹脂組成物が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の繊維強化複合材料用ベンゾオキサジン樹脂組成物、プリプレグおよび繊維強化複合材料について、詳細に説明する。
【0017】
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物は、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂および硬化触媒を必須成分として含有するものである。
【0018】
本発明で用いられる25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂は、ガラス転移温度または融点が25℃以下であり、25℃の温度で流動性を示す熱硬化性樹脂である。かかる熱硬化性樹脂の配合により、25℃の温度でプリプレグに適度なタックやドレープ性を与えることができる。ここでいうガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用いてJIS K7121(1987)に基づいて求めた中間点温度であり、また、結晶性の熱硬化性樹脂の融点は、JIS K7121(1987)に基づいて求めた融解ピーク温度である。
【0019】
25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂は、25℃の温度における複素粘弾性率η*(以後、粘度ということがある。)が0.001〜50000Pa・sであることが好ましく、さらに好ましくは0.001〜30000Pa・sである。その粘度が高すぎると、プリプレグにタック・ドレープ性を付与するための25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂の配合量が多くなり、繊維強化複合材料の難燃性が低下する場合がある。また、その粘度が低すぎると、樹脂組成物100重量部中に対し数重量部のわずかな添加で粘度が大きく変化するため、樹脂組成物を製造する過程において粘度制御が困難となったり、樹脂組成物を加熱混練する過程において、沸点が低く揮発してしまう場合がある。
【0020】
ここでいう25℃の温度における粘度は、次の方法によって求められる。すなわち、ARES:TA Instruments Japan社製などの動的粘弾性測定装置を用い、パラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで昇温し、歪み100%、周波数0.5Hz、プレート間隔1mmで25℃の温度で測定を行い、粘度を求めることができる。
【0021】
このような熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネートエステル樹脂およびベンゾオキサジン樹脂が挙げられる。
【0022】
エポキシ樹脂としては、例えば、分子内に水酸基を有する化合物から得られるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、分子内にアミノ基を有する化合物から得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、分子内にカルボキシル基を有する化合物から得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、分子内に不飽和結合を有する化合物から得られる環式脂肪族エポキシ樹脂、あるいはこれらから選ばれる2種類以上のタイプの基が分子内に混在するエポキシ樹脂などが用いられる。
【0023】
グリシジルエーテル型エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの反応により得られるビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンの反応により得られるビスフェノールF型エポキシ樹脂、レゾルシノールとエピクロロヒドリンの反応により得られるレゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールとエピクロロヒドリンの反応により得られるフェノールノボラック型エポキシ樹脂、その他ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、およびこれらの位置異性体やアルキル基やハロゲンでの置換体が挙げられる。
【0024】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、“EPON”(登録商標)825、“jER”(登録商標)826、“jER”(登録商標)827、“jER”(登録商標)828(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピクロン”(登録商標)850(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート”(登録商標)YD−128(東都化成(株)製)、DER−331、DER−332(ダウケミカル社製)、“Bakelite”(登録商標)EPR154、“Bakelite”(登録商標)EPR162、“Bakelite”(登録商標)EPR172、“Bakelite”(登録商標)EPR173、および“Bakelite”(登録商標)EPR174(以上、Bakelite AG社製)などが挙げられる。
【0025】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER”(登録商標)806、“jER”(登録商標)807、“jER”(登録商標)1750(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピクロン”(登録商標)830(大日本インキ化学工業(株)製)、“エポトート”(登録商標)YD−170、“エポトート”(登録商標)YD−175(東都化成(株)製)、“Bakelite”(登録商標)EPR169(Bakelite AG社製)、GY281、GY282、およびGY285(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)などが挙げられる。
【0026】
レゾルシノール型エポキシ樹脂の市販品としては、“デナコール”(登録商標)EX−201(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0027】
フェノールノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、“jER”(登録商標)152、“jER”(登録商標)154(以上、ジャパンエポキシレジン(株)製)、“エピクロン”(登録商標)740(大日本インキ化学工業(株)製)、およびEPN179、EPN180(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)などが挙げられる。
【0028】
グリシジルアミン型エポキシ樹脂の具体例としては、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン類、アミノフェノールのグリシジル化合物類、グリシジルアニリン類、およびキシレンジアミンのグリシジル化合物などが挙げられる。
【0029】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン類の市販品としては、“スミエポキシ”(登録商標)ELM434(住友化学(株)製)、“アラルダイト”(登録商標)MY720、“アラルダイト”(登録商標)MY721、“アラルダイト”(登録商標)MY9512、“アラルダイト”(登録商標)MY9612、“アラルダイト”(登録商標)MY9634、“アラルダイト”(登録商標)MY9663(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、“jER”(登録商標)604(ジャパンエポキシレジン社製)、“Bakelite”(登録商標)EPR494、“Bakelite”(登録商標)EPR495、“Bakelite”(登録商標)EPR496、および“Bakelite”(登録商標)EPR497(以上、Bakelite AG社製)などが挙げられる。
【0030】
アミノフェノールのグリシジル化合物類の市販品としては、“jER”(登録商標)630(ジャパンエポキシレジン(株)製)、“アラルダイト”(登録商標)MY0500、“アラルダイト”(登録商標)MY0510(以上ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、“スミエポキシ”(登録商標)ELM120、および“スミエポキシ”(登録商標)ELM100(以上住友化学(株)製)などが挙げられる。
【0031】
グリシジルアニリン類の市販品としては、GAN、GOT(以上、日本化薬(株)製)や“Bakelite”(登録商標)EPR493(Bakelite AG社製)などが挙げられる。
【0032】
キシレンジアミンのグリシジル化合物としては、TETRAD−X(三菱瓦斯化学(株)製)が挙げられる。
【0033】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂の具体例としては、フタル酸ジグリシジルエステルや、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、イソフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステルやそれぞれの各種異性体が挙げられる。
【0034】
フタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、“エポミック”(登録商標)R508(三井化学(株)製)や“デナコール”(登録商標)EX−721(ナガセケムテックス(株)製)などが挙げられる。
【0035】
ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、“エポミック”R540(三井化学(株)製)やAK−601(日本化薬(株)製)などが挙げられる。
【0036】
ダイマー酸ジグリシジルエステルの市販品としては、“jER”(登録商標)871(ジャパンエポキシレジン(株)製)や“エポトート”(登録商標)YD−171(東都化成(株)製)などが挙げられる。
【0037】
脂環式エポキシ樹脂の市販品としては、“セロキサイド”(登録商標)2021P(ダイセル化学工業(株)製)、CY179(ハンツマン・アドバンスド・マテリアル社製)、“セロキサイド”(登録商標)2081(ダイセル化学工業(株)製)、および“セロキサイド”(登録商標)3000(ダイセル化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0038】
シアネートエステル樹脂としては、ビス(4−シアネートフェニル)エタン型シアネートエステル樹脂やフェノールノボラック型シアネートエステル樹脂が挙げられる。
【0039】
シアネートエステル樹脂の市販品としては、“AROCY”(登録商標)L−10、“AROCY”(登録商標)XU336(以上、ハンツマン・アドバンスト・マテリアル社製)、“Primaset”(登録商標)PT−15、および“Primaset”(登録商標)PT−30(以上Lonza社製)などが挙げられる。
【0040】
ベンゾオキサジン樹脂としては、o−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式I)、m−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式II)(下記の化学式III)、p−クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式IV)、フェノール−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式V)、フェノール−メチルアミン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式VI)、フェノール−シクロヘキシルアミン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式VII)、フェノール−m−トルイジン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式VIII)(下記の化学式IX)、フェノール−3,5−ジメチルアニリン型ベンゾオキサジン樹脂(下記の化学式X)が挙げられる。
【0041】
【化1】

【0042】
【化2】

【0043】
【化3】

【0044】
【化4】

【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

【0050】
【化10】

【0051】
これらの25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂は、単独でも複数種を混合してもよいが、繊維強化複合材料の難燃性の点から、骨格中に芳香環含有量(以後、Aromatic ring Content:ACということがある。)の高い樹脂を用いることが好ましい。ACの高い樹脂の具体例としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(AC=45重量%)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(AC=46重量%)、ビス(4−シアネートフェニル)エタン型シアネートエステル樹脂(AC=55重量%)、フェノールノボラック型シアネートエステル樹脂(AC=57重量%)、クレゾールアニリン型ベンゾオキサジン樹脂(AC=64重量%)などが挙げられる。ここでいうAC(重量%)は、樹脂骨格中の芳香環に属する炭素原子の質量(g)/樹脂の総質量(g)×100で求められ、ACは難燃性の観点から高い方が好ましいが、通常は45〜80重量%である。本発明において芳香環含有量が高いとは、ACが45重量%以上であることを示し、さらに好ましくは50重量%以上である。
【0052】
また、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂の割合が多すぎると、繊維強化複合材料の難燃性および耐熱性が低下する恐れあることから、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂は、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂、およびその他熱硬化性樹脂成分の合計100重量部中、1〜50重量部が好ましく、より好ましくは1〜30重量部であり、さらに好ましくは1〜25重量部である。
【0053】
本発明では、25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂を繊維強化複合材料用樹脂組成物中に粒子状で分散させることにより、25℃の室温付近では繊維強化複合材料用樹脂組成物の粘度を低下させ、取り扱い性に優れた繊維強化複合材料用樹脂組成物を得ることができる。ここでいう25℃で固形であるとは、ベンゾオキサジン樹脂のガラス転移温度が25℃以上であることを示す。
【0054】
また、本発明で用いられる25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂のガラス転移温度は、50℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が50℃未満の固形状のベンゾオキサジン樹脂では、室温保管時などにベンゾオキサジン樹脂が繊維強化複合材料用樹脂組成物中に徐々に融解してしまうことがあり、経時変化が大きくなる場合がある。また、25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂は、目的とする成形条件において融解や硬化させる必要があるため、成形温度に合わせて適切な融点を有するものを選択することが好ましい。成形温度が高すぎると、熱硬化性樹脂硬化物が分解したり、熱歪みによる反りが発生しやすくなったりする場合がある。25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂のガラス転移温度の好ましい範囲は50〜200℃であり、より好ましくは55〜190℃である。
【0055】
ここでいうガラス転移温度は、示差走査熱流量計(DSC)を用いて、JIS K7121(1987)に基づいて求めた中間点温度である。
【0056】
また、25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂は、一分子中に含まれるオキサジン環が実質的に平均1個以上であるベンゾオキサジン樹脂であり、分子量が400〜1000であることが好ましい。分子量は、より好ましくは430〜800である。25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂の中でも分子量が400より小さいものはガラス転移温度が低くなることが多いため、樹脂調整およびプリプレグ化の際に溶融してしまい、粒子状で分散させることができない場合がある。また、分子量が1000より大きいものは融解したときの粘度が高いため、プリプレグを加熱硬化させ繊維強化複合材料を作製する過程において流動性が悪く、未含浸の強化繊維が残存する場合がある。
【0057】
25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂は、モノマーからなるものでも良いし、数分子が重合してオリゴマー状態となっていても良く、また、異なる構造を有するベンゾオキサジン樹脂を同時に用いても良い。
【0058】
このようなベンゾオキサジン樹脂としては、ビスフェノールS−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、フェノール−ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、トリフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、ベンゾフェノン型ベンゾオキサジン樹脂、およびフェノールフタレイン型ベンゾオキサジン樹脂などが挙げられる。
【0059】
ガラス転移温度が50℃以上であり一分子中に含まれるオキサジン環が平均1個以上であるベンゾオキサジン樹脂の市販品として、ビスフェノールS−アニリン型としては、ビスフェノールS型ベンゾオキサジン化合物(ガラス転移温度:69℃、分子量:486、小西化学工業(株)製)が挙げられ、フェノール−ジアミノジフェニルメタン型としては、P−d型(ガラス転移温度:79℃、分子量:435、四国化成工業(株)製)が挙げられる。
【0060】
25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂の配合量は、プリプレグを取り扱う25℃の室温領域と樹脂組成物を加熱硬化させる80℃以上の高温領域の粘度制御の観点から、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂およびその他熱硬化性樹脂成分の合計100重量部中、好ましい範囲は10〜80重量部であり、より好ましくは10〜70重量部であり、さらに好ましくは20〜60重量部である。10重量部未満ではベンゾオキサジン樹脂粒子の難燃効果がほとんど現れず、また80重量部を超えるとベース樹脂との混合が困難になる上、プリプレグのタック性が大幅に低下する場合がある。
【0061】
本発明で用いられる25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂は、繊維強化複合材料用樹脂組成物中に粒子状で分散していることが必要である。ここでいう粒子状で分散しているとは、液状の繊維強化複合材料用樹脂組成物中に溶解していないことを示し、その形状は、例えば、球状、繊維状、塊状または不定形であり特に限定されるものではない。
【0062】
本発明における25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂は、樹脂組成物中において粒子の外接円の直径が1〜100μmであることが好ましい。粒子の外接円の直径は、より好ましくは10〜50μmである。粒子の外接円の直径が1μmより小さいと、粒子をプリプレグの表面部分に保持することができず優れた難燃性が得られないことや、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂に溶解しやすくなることがある。また、粒子の外接円の直径が100μmを超えると、フィルム化するときにスジ状のムラが発生する原因
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物中に、25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂が粒子状で分散している様態は、未硬化の繊維強化複合材料用樹脂組成物をスライドガラスに塗布し、偏光顕微鏡などの光学顕微鏡を用いて観察することができる。
【0063】
また、本発明で用いられる25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂の粒子の製造工程は既知の微粒子を作製する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、次の方法により得ることが可能である。25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂またはそのベンゾオキサジン樹脂混合物を、25℃の室温以下の温度でハンマーミル、高速衝撃粉砕機および高速ピン式粉砕機等によって粉砕し、更に、得られた粉砕物を振動ふるい機、ブロアー型ふるい機、ロータリーレシーブおよび遠心分級機等のふるい分け手法によって分級することにより得ることができる。
【0064】
25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂は、必要に応じて、粒子状のエポキシ樹脂の硬化剤、難燃剤および熱可塑性樹脂粒子等、その他高軟化点の成分と混練した後に粒子化してもよい。
【0065】
本発明で用いられる硬化触媒は、ベンゾオキサジン樹脂の硬化触媒である。硬化触媒としては、酸系硬化触媒、アミン系硬化触媒および求核試薬等が挙げられる。中でも、硬化性の点で酸系硬化触媒が好ましく用いられる。
【0066】
酸系硬化触媒としては、カルボン酸、スルホン酸、フェノール化合物およびルイス酸等を挙げることができ、これらの中でも、ルイス酸が好ましく用いられる。ルイス酸は、ベンゾオキサジン環の酸素原子の非共有電子対への強い求核性を有し、ベンゾオキサジン樹脂の硬化性を向上させる効果がある。ルイス酸としては、例えば、三フッ化ホウ素錯体、三塩化ホウ素錯体などの三ハロゲン化ホウ素錯体が挙げられる。中でも、硬化性の点から、三塩化ホウ素アミン錯体や三塩化ホウ素ジメチル硫黄錯体等の三塩化ホウ素錯体が好ましく利用され、特に好ましい硬化触媒は三塩化ホウ素アミン錯体である。
【0067】
また、酸無水物やスルホン酸エステル等のように、化合物自身はプロトンを持たないが加水分解等によりプロトンを発生する化合物も用いることができる。そのような化合物として、硬化性と保存安定性を両立させることからトルエンスルホン酸誘導体が好ましく用いられる。トルエンスルホン酸誘導体から得られるスルホン酸は酸性度が高いためプロトン供与性が高く、ベンゾオキサジン環の開環により生成する水酸基を安定化させるため、硬化性を向上させる効果が大きい。これらの硬化触媒は、単独または複数種を併用しても良い。
【0068】
硬化触媒の配合量は、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃で固形のベンゾオキサジン樹脂、およびその他熱硬化性樹脂成分の合計100重量部に対し、1〜30重量部とすることが好ましく、より好ましくは2〜25重量部である。硬化触媒が多すぎると、硬化触媒が樹脂硬化物中に多量に残存してしまい、繊維強化複合材料の機械特性および難燃性が低下する場合がある。また、硬化触媒が少なすぎると、ベンゾオキサジン環の開環を促進させる効果が不足する場合がある。
【0069】
また、本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物の50℃における粘度を好適には100〜2000Pa・sとすることにより、プリプレグとしたときにタック・ドレープ性などの優れた取り扱い性を有することができる。ここでいう50℃における粘度は、次の方法によって求められる。すなわち、ARES:TA Instruments Japan社製などの動的粘弾性測定装置を用い、パラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで昇温し、歪み100%、周波数0.5Hz、プレート間隔1mmで50℃にて測定を行い、複素粘度η*を求めるものとする。
【0070】
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物には、必要に応じて、上記の成分のほかに、他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂、ゴム粒子や熱可塑性樹脂粒子等の有機粒子、硬化促進剤、難燃剤およびシランカップリング剤を1種または2種以上含有させることができる。
【0071】
次に、本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物の製造方法は、前記の25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂および硬化触媒を混合するものである。混合方法としては特に限定されないが、ニーダー、プラネタリーミキサー、3本ロールおよび2軸押出機などが好ましく用いられる。
【0072】
ここで、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を混合する際の温度が、そのベンゾオキサジン樹脂の融点よりも10℃以上低いことが好ましい。その温度は、より好ましくは15℃以上低いこと、さらには20℃以上低いことが好ましい。混合する際の温度とベンゾオキサジン樹脂の融点の差が10℃未満になると、混合時に熱剪断でベンゾオキサジン樹脂が25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂に溶解することがあり、ベンゾオキサジン樹脂を粒子状に分散させることが困難になる。硬化触媒とベンゾオキサジン樹脂の混合の順番は特に限定されるものではなく、ベンゾオキサジン樹脂と硬化触媒を実質的に同時に配合してもよい。
【0073】
本発明のプリプレグは、上記の繊維強化複合材料用樹脂組成物と強化繊維からなるものである。
【0074】
本発明のプリプレグに用いられる強化繊維としては、例えば、アルミニウムやステンレスなどの金属繊維、ポリアクリロニトリル系、レーヨン系およびピッチ系の炭素繊維、黒鉛繊維およびガラスなどの絶縁性繊維、ボロン繊維、炭化ホウ素繊維、フェノール繊維およびケブラー繊維などを挙げることができる。これらの中で、優れた難燃性、比弾性率および比強度を繊維強化複合材料に発現させるため、炭素繊維と黒鉛繊維を用いることが好ましい。また、これらの繊維を2種類以上混合して用いても構わない。
【0075】
強化繊維として炭素繊維を用いる場合、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維を用いることが可能であり、通常引張強度が1.0GPa〜9.0GPaである炭素繊維が使用可能である。炭素繊維本来の引張強度や複合材料としたときの耐衝撃性が高いという面から、引張強度は高ければ高いほど好ましく、より好ましい引張強度は2.0GPa〜9.0GPaである。
【0076】
また、用いられる炭素繊維は、通常その引張弾性率が50Gpa〜1000GPaであるものが使用可能であるが、引張弾性率が高い炭素繊維を用いることは、繊維強化複合材料としたときに高弾性率を得ることに繋がる。また、引張弾性率は、電気・電子機器の筐体など、より薄肉化・軽量化を重視する場合には、高い剛性が求められ、より好ましくは150GPa〜1000GPaである。ここでいう炭素繊維の引張強度と弾性率は、JIS R7601(1986)にしたがって測定されるストランド引張強度とストランド引張弾性率を意味する。
【0077】
本発明の繊維強化複合材料用のプリプレグは、プリプレグ全質量に対する繊維の含有質量(以下、Wfと表すことがある。)が30〜90%であることが好ましく、Wfはより好ましくは35〜85%であり、さらに好ましくは40〜85重量%である。Wfが30%より小さいと、樹脂の量が多すぎて繊維強化複合材料に要求される諸特性を満たすことができない場合がある。また、Wfが90%より大きいと、強化繊維とマトリックス樹脂の接着性が低下し、プリプレグを積層した際にプリプレグ同士が接着せず、得られる繊維強化複合材料において層間で剥離してしまう場合がある。ここでいうWfは、JIS K7071(1988)にしたがって測定される繊維質量含有率を意味する。
【0078】
強化繊維の形態としては、一方向に引き揃えられた長繊維、二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニットおよび組み紐などが挙げられる。ここでいう長繊維とは、実質的に10mm以上連続な単繊維もしくは繊維束を意味する。
【0079】
一方向に引き揃えられた長繊維を用いた、いわゆる一方向プリプレグは、強化繊維の方向が揃っており、強化繊維の曲がりが少ないため繊維方向の強度利用率が高い。また、一方向プリプレグは、複数のプリプレグを適切な積層構成で積層した後成形すると、繊維強化複合材料の各方面の弾性率と強度を自由に制御することができる。
【0080】
また、各種織物を用いた織物プリプレグも、強度と弾性率の異方性が少ない繊維強化複合材料が得られ、表面に繊維織物の模様が浮かび意匠性に優れている。複数種のプリプレグ、例えば、一方向プリプレグと織物プリプレグの両方を用いて繊維強化複合材料を成形することも可能である。
【0081】
本発明のプリプレグは、前記25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂および硬化触媒からなる繊維強化複合材料用樹脂組成物と、強化繊維からなるものである。
【0082】
また、本発明におけるプリプレグは、粒子状の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂の大部分がプリプレグ表面付近に局在化していることが、出来上がった強化繊維複合材料に高い難燃性を与えるために好ましい態様である。特に、ベンゾオキサジン樹脂の80%以上がプリプレグ表面から20%の深さの範囲内に存在することが好ましく、この条件をはずれてプリプレグ内部深くにベンゾオキサジン樹脂の粒子が入った場合より、優れた難燃性を示す。また、さらに好ましい態様は、ベンゾオキサジン樹脂の粒子の90%がプリプレグ表面から20%の深さの範囲に局在化する場合である。
【0083】
プリプレグ中のベンゾオキサジン樹脂の分布は、プリプレグの両面において同様に局在化したものが好ましく、このようなプリプレグは、プリプレグの裏表にかかわりなく自由に積層することが可能である。しかしながら、プリプレグの片面のみに粒子が同様の分布をしたプリプレグでも、プリプレグ同士を積層する際に粒子が表面にくるよう使用すれば同様の効果が得られるため、プリプレグの片面のみにベンゾオキサジン樹脂が偏った分布のものも本発明に含まれる。
【0084】
プリプレグ中の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂の分布状態の評価は、次のようにして行う。
【0085】
まず、プリプレグを2枚の平滑な支持板の間に挟んで密着させ、低温で長時間かけて徐々にゲル化させる。このときに、ゲル化しないうちに急速に温度を上げるとプリプレグ中の樹脂が流動し、ベンゾオキサジン樹脂の粒子が移動するため、プリプレグ中における正確な分布状態の評価ができない。さらに、ここで得られたゲル化し粒子の移動が起こらない状態のプリプレグを用い、このプリプレグの断面写真を撮る。
【0086】
この断面写真を用い、平均的なプリプレグの厚みを求める。プリプレグの平均厚みは任意の箇所で少なくともn=5以上で測定し、その平均をとる。次に、両方の支持板に接していた面からプリプレグの厚みの20%の位置にプリプレグの両方向と平行に線を引く。支持板に接していた面と20%の平行線の間に存在する粒子の面積をプリプレグの両面について定量し、これとプリプレグの全幅にわたって存在する粒子の全面積を算出し、その比をとることによりプリプレグの表面から深さ20%以内に存在する粒子の割合を算出することができる。
【0087】
また、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂の融点が低く、ゲル化した状態で粒子の形状を確認することが困難な場合は、ベンゾオキサジン樹脂に含まれる官能基と顔料を反応させて染色することによりベンゾオキサジン樹脂以外の樹脂組成物と見分ける方法を用いてもよい。
【0088】
次に、本発明の繊維強化複合材料用のプリプレグを得るために好適な製造方法について説明する。本発明の繊維強化複合材料用のプリプレグは、マトリックス樹脂である繊維強化複合材料用樹脂組成物を強化繊維に含浸させることにより製造される。例えば、本発明のプリプレグは、繊維強化複合材料用樹脂組成物を溶媒に溶解して低粘度化し、強化繊維に含浸させるウェット法、あるいは、繊維強化複合材料用樹脂組成物を、実質的に溶媒を用いずに、加熱により低粘度化し、強化繊維に含浸させるホットメルト法などの方法により製造することができる。
【0089】
ウェット法では、強化繊維をマトリックス樹脂を含む液体に浸漬した後、引き上げ、オーブンなどを用いて溶媒を蒸発させてプリプレグを得ることができる。本発明においてウェット法を用いる場合、プリプレグ製造工程において、繊維強化複合材料用樹脂組成物中のベンゾオキサジン樹脂が溶解しない適切な溶媒を選択する必要がある。
【0090】
ホットメルト法では、加熱により低粘度化した繊維強化複合材料用樹脂組成物を、直接強化繊維に含浸させる方法、あるいは一旦繊維強化複合材料用樹脂組成物を離型紙などの上にコーティングした樹脂フィルムをまず作製し、次いで強化繊維の両側あるいは片側からその樹脂フィルムを重ね、加熱加圧することにより繊維強化複合材料用樹脂組成物を強化繊維に含浸させてプリプレグを製造することができる。ホットメルト法では、プリプレグ中に残留する溶媒が実質的にないため、本発明ではより好ましく用いられる。
【0091】
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物を離型紙上に塗布してフィルム化する際には、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂の融解を防ぐために、そのベンゾオキサジン樹脂の融点より10℃以上低い温度でフィルム化することが望ましい。また、本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物を強化繊維に含浸させるときも、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂の融点より10℃以上低い温度で行うことが好ましいが、熱源に触れる時間が10秒以下などのように極めて短い場合は、この限りではなく、必要ならば融点よりも高い温度で含浸することも可能である。
【0092】
本発明のプリプレグは、繊維強化複合材料用樹脂組成物が必ずしも強化繊維束の内部まで含浸されている必要はなく、シート状に一方向に引き揃えられた強化繊維や強化繊維織物の表面付近に繊維強化複合材料用樹脂組成物が局在化している態様であっても良い。
【0093】
また、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を表面に局在化させたプリプレグの製造方法としては、ベンゾオキサジン樹脂の粒子を繊維強化複合材料用樹脂組成物の中に均一混合しておき、強化繊維に含浸させる過程において繊維間隙による濾過現象によりプリプレグ表面に局在化させる方法、ベンゾオキサジン樹脂の粒子を予め作成した強化繊維と繊維強化複合材料用樹脂組成物からなるプリプレグの表面に撒くなどして付着させる方法、または、溶媒中に分散させたベンゾオキサジン樹脂の粒子をプリプレグの表面に直接吹きつけた後、オーブンなどを用いて溶媒のみ蒸発させる方法、ベンゾオキサジン樹脂の粒子を一方向に引き揃えた繊維や繊維織物など基材の表面に先に付着させた後、繊維強化複合材料用樹脂組成物を含浸させる方法、繊維強化複合材料用樹脂組成物の一部を強化繊維に含浸させた一次プリプレグをまず作成し、次に、ベンゾオキサジン樹脂の粒子を高濃度に含有する残りの繊維強化複合材料用樹脂組成物からなる樹脂フィルムを一次プリプレグの上に含浸させる方法、または含浸させずに貼り付ける方法などを用いることができる。
【0094】
本発明のプリプレグを用いて繊維強化複合材料を成形するには、プリプレグを積層後、積層物に圧力を付与しながら、繊維強化複合材料用樹脂組成物を加熱硬化させる方法などを用いることができる。
【0095】
圧力を付与しながら繊維強化複合材料用樹脂組成物を加熱硬化させる方法には、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法および内圧成形法などがある。
【0096】
繊維強化複合材料を成形する温度は、加熱硬化において25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂が融解し、硬化する温度が選ばれる。繊維強化複合材料用樹脂組成物に含まれる硬化剤の種類などによるが、通常80〜220℃の温度が好ましい。成形温度が低すぎると、十分な硬化性が得られない場合があり、逆に高すぎると、熱歪みによる反りが発生しやすくなったりする場合がある。
【0097】
25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂は、繊維強化複合材料用樹脂組成物のゲル化以前において融解していても、していなくても構わない。ただし、ベンゾオキサジン樹脂を、成形した繊維強化複合材料の表面付近に局在化させるためには、ゲル化までは可能な限り低温で徐々に温度を上げ、その後、硬化温度まで上げる2段階で硬化させる条件が好ましい。ゲル化以前に25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂が完全に融解してしまうと、プリプレグ中の樹脂と相溶してしまいベンゾオキサジン樹脂を繊維強化複合材料の表面付近に局在化させることが困難となる場合がある。したがって、繊維強化複合材料用樹脂組成物がゲル化するまではベンゾオキサジン樹脂が溶融しない、または一部のみ溶融する温度まで徐々に昇温する条件が好ましい。
【0098】
また、プレス成形等で加熱時間が数分以内と極めて短く、溶融したベンゾオキサジン樹脂が繊維強化複合材料用樹脂組成物中への拡散が起こる前に硬化が終了する場合はこの限りではなく、ベンゾオキサジン樹脂が繊維強化複合材料用樹脂組成物のゲル化以前において融解していても、ベンゾオキサジン樹脂を繊維強化複合材料の表面付近に局在化させることが可能である。
【0099】
本発明で得られる繊維強化複合材料は、2mm以下の厚さで測定される難燃性が、UL94規格による測定で、V−1以上、好ましくはV−0という高い難燃性を有したものとなり、高い難燃性が必要な鉄道車両、航空機、建築部材やその他一般産業用途に好適に用いられる。また、電気・電子機器の筐体として用いられる場合、さらに薄い肉厚で使用される場合がある可能性を想定すれば、厚さ1.5mm以下で、難燃性がV−1以上、好ましくはV−0という高い難燃性を有したものや、より薄い肉厚である、厚さ1.2mm以下とか、厚さ0.8mm以下、さらには厚さ0.5mm以下という場合でも、難燃性がV−1以上、とりわけV−0という高い難燃性を有したものとすることができる。
【0100】
ここで、V−0およびV−1の難燃性とは、UL94規格(Underwriters Laboratories Inc.で考案された米国燃焼試験法である。)において、燃焼時間やその状態、延焼の有無、滴下(ドリップ)の有無やその滴下物の燃焼性などにより規定されているV−0およびV−1の条件を満たした難燃性を示す。
【実施例】
【0101】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本実施例では、各種特性を次に示す方法で測定した。これらの物性は、昇温測定などの断りのない限り、温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
【0102】
(1)繊維強化複合材料用樹脂組成物の調合
実施例1〜6と比較例1、2について、表1に示す組成で原料を混合した。混練方法としては、25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂([A]成分)にその他成分を混合し、120℃の温度まで昇温させ、固形分を完全に溶解させた後、50〜60℃の温度まで降温し、これに25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂([B]成分)を加え均一に分散するように撹拌した。最後に硬化触媒([C]成分)を加え、10分撹拌し繊維強化複合材料用樹脂組成物を得た。
【0103】
[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂は、粉砕して分球したものを用いた。
【0104】
ここでいうガラス転移温度は、次の方法によって求められる。JIS K7121(1987)にしたがって、示差走査熱流量計(DSC)を用い、窒素雰囲気下で、昇温速度40℃/minとし、DSC曲線が階段状変化を示す部分の測定される中間点ガラス転移温度をガラス転移温度とした。
【0105】
ただし、実施例4においては、下記の方法で原料を混合し、2種類の繊維強化複合材料用樹脂組成物を得た。1つ目は、[A]成分の25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂にその他成分を混合し、120℃の温度まで昇温させ、固形分を完全に溶解させた後、50〜60℃の温度まで降温し、[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を加えずに、硬化触媒を加え、10分撹拌し、[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を含まない繊維強化複合材料用樹脂組成物を得た。2つ目は、[A]成分の25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂およびその他成分を混合して120℃の温度まで昇温させ、固形分を完全に溶解させた後、50〜60℃の温度まで降温し、それに[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を加え均一に分散するように撹拌し、最後に硬化触媒を加えて10分撹拌して[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を含有する繊維強化複合材料用樹脂組成物を得た。
【0106】
ここで用いた原料は、下記に示すとおりである。また、表1中の繊維強化複合材料用樹脂組成物の数字は、重量部を表す。
【0107】
[A]成分(25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂)
・Ep825(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ガラス転移温度:−12℃、粘度(25℃):5Pa・s、AC:42重量%、ジャパンエポキシレジン(株)製)
・Ep154(フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ガラス転移温度:9℃、粘度(25℃):20000Pa・s、AC:45重量%、ジャパンエポキシレジン(株)製)
[B]成分(25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂)
・P−d(フェノール−ジアミノジフェニルメタン型ベンゾオキサジン樹脂、ガラス転移温度:79℃、分子量:435、AC:66重量%、四国化成工業(株)製)
・bis−S(ビスフェノールS−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ガラス転移温度:69℃、分子量:486、AC:59重量%、小西化学工業(株)製)
[C]成分(硬化触媒)
・p−トルエンスルホン酸メチルエステル(東京化成工業(株)製)
・BF・ピペリジン(ステラケミファ(株)製)
[その他]
・F−a(ビスフェノールF−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ガラス転移温度:37℃、AC:66重量%、四国化成工業(株)製)
・bis−S(ビスフェノールS−アニリン型ベンゾオキサジン樹脂、ガラス転移温度:69℃、AC:59重量%、小西化学工業(株)製)。
【0108】
(2)未硬化樹脂の粘度測定
繊維強化複合材料用樹脂組成物の粘度は、動的粘弾性測定装置(ARES:TA Instruments Japan社製)を用い、パラレルプレートを用い、昇温速度2℃/minで昇温し、歪み100%、周波数0.5Hz、プレート間隔1mmで測定を行った。
【0109】
(3)[B]成分のベンゾオキサジン樹脂の分散
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物中に、[B]成分が粒子状で分散しているか否かは、未硬化の繊維強化複合材料用樹脂組成物を20μmの厚みでスライドガラスに塗布したあと、25℃の温度下で偏光顕微鏡(E600 POL:Nikon(株)製)を用い観察した。偏光顕微鏡にて観察される全視野のうち、外接円の直径が1μm以上の形状の[B]成分の粒子が占める面積の割合(%)を算出した。
【0110】
(4)プリプレグの作製
実施例1〜3、5、6と比較例1、2のプリプレグを、下記のようにして作製した。リバースロールコーターを用いて離型紙(コウテイシWBE90R−DT、リンテック(株)製)上に、上記(1)で得られた強化繊維複合材料用樹脂組成物を塗布し、25g/m目付の樹脂フィルムを作製した。次に、単位面積あたりの繊維重量が100g/mとなるようにシート状に一方向に整列させた強化繊維に前記樹脂フィルムを強化繊維の両面から重ね、加熱加圧して樹脂組成物を含浸させ、Wfが67%の一方向プリプレグとした。
【0111】
また、実施例4のプリプレグを、下記のようにして作製した。上記(1)で得られた[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を含まない強化繊維複合材料用樹脂組成物からなる10g/m目付の樹脂フィルムを、単位面積あたりの繊維重量が100g/mとなるように強化繊維の両面から重ね、加熱加圧して強化繊維複合材料用樹脂組成物を含浸させ、一方向プリプレグを作製した。さらに、その両面に[B]成分を含有する強化繊維複合材料用樹脂組成物からなる15g/m目付の樹脂フィルムを加熱加圧して含浸させ、Wfが67%の一方向プリプレグを得た。表1に示した原料の重量部は、上記の二段階の工程を経て最終的に得られたプリプレグ樹脂中に含まれる各原料の重量部を示す。ここで、強化繊維は、炭素繊維“トレカ”(登録商標)T700SC−12K−50C(引張強度4.9GPa、引張弾性率235GPa、繊維比重1.80、東レ(株)製)を用いた。
【0112】
(5)タック(粘着性)
上記(4)で作製したプリプレグのタックを触感法で判定した。プリプレグ表面から離型紙を引き剥がした直後に、指でプリプレグを押さえ程良い粘着性が感じられたものを○とし、粘着性がやや強すぎる若しくはやや弱いものを△とし、粘着性が強すぎて指から剥がれないものや全く粘着性がなく指につかないものを×とした。測定数はn=2とし、測定結果が異なる場合は悪い評価を採用した。
【0113】
(6)[B]成分のベンゾオキサジン樹脂の局在化
上記(4)で作製したプリプレグを2枚の平滑な“テフロン”(ポリ四フッ化エチレン樹脂、デュポン社(登録商標))板の間にはさみ、徐々に60℃の温度まで昇温し、一ヶ月かけて60℃の温度でゲル化させ、その断面を観察し顕微鏡写真を撮影した。プリプレグの表面からプリプレグの表面から厚みの20%深さまでの範囲に存在する粒子の割合を評価し、粒子がプリプレグ表面に局在化しているか否か判定した。プリプレグの表面からプリプレグの表面から厚みの20%深さまでの範囲に存在する粒子の割合が80%以上のものを○とし、70%以上80%未満のものを△とし、70%より低いものや粒子が確認できないものを×とした。測定は任意に選んだ5カ所で行い、その平均をとった。
【0114】
(7)難燃性
上記(6)で前硬化させた一方向プリプレグを0°方向に揃えて積層し、オートクレーブによる成形を180℃の温度で1時間、6kgf/cmの圧力下で行い、厚さ1.5mm、1.0mm、および0.2mmの繊維強化複合材料板を得て、それぞれの難燃性を測定した。
【0115】
難燃性は、UL94規格に基づき、垂直燃焼試験により難燃性を評価した。成形された繊維強化複合材料から、幅12.7±0.1mm、長さ127±1mmの試験片5本を切り出した。バーナーの炎の高さを19mmに調整し、垂直に保持した試験片中央下端を炎に10秒間さらした後、炎から離し燃焼時間を記録した。消炎後は、ただちにバーナー炎を更に10秒間当てて炎から離し燃焼時間を計測した。有炎滴下物(ドリップ)がなく、1回目、2回目とも消火までの時間が10秒以内、かつ5本の試験片に10回接炎した後の燃焼時間の合計が50秒以内ならばV−0と判定し、燃焼時間が30秒以内かつ5本の試験片に10回接炎した後の燃焼時間の合計が250秒以内であればV−1と判定した。また、V−1と同じ燃焼時間でも有炎滴下物がある場合はV−2と判定し、燃焼時間がそれより長い場合、あるいは試験片保持部まで燃焼した場合はV−outと判定した。
【0116】
結果を表1に示す。表1中の繊維強化複合材料用樹脂組成物の数字は、重量部を表す。実施例1〜3、5、6と比較例1との比較から、[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂を粒子状で樹脂調整およびプリプレグ化することにより、プリプレグ取り扱いの際に適切なタックを付与し、かつ0.2〜1.5mmのコンポジットにおいてV−0となり、優れた難燃性が得られることがわかる。また、実施例4のように、[B]成分の25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂をプリプレグの表面付近に局在化させることにより、難燃性が向上することがわかる。
【0117】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の繊維強化複合材料用樹脂組成物は、難燃性に優れ、そしてプリプレグとした際の取り扱い性に優れている。そのため、繊維強化複合材料用プリプレグおよび繊維強化複合材料に要求される諸特性を満足しながら、難燃性に優れ、かつプリプレグとした際の取り扱い性に優れており、繊維強化複合材料の生産に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃の温度で液状の熱硬化性樹脂、25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂および硬化触媒を含み、かつ、25℃の温度で前記ベンゾオキサジン樹脂が粒子状で分散してなる繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項2】
25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂が、一分子中に含まれるオキサジン環が平均1個以上のベンゾオキサジン樹脂である請求項1記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項3】
25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂のガラス転移温度が50℃以上である請求項1または2記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項4】
50℃の温度における粘度が100〜2000Pa・sである請求項1〜3のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物と強化繊維とを含むプリプレグ。
【請求項6】
25℃の温度で固形のベンゾオキサジン樹脂が、粒子状でプリプレグの表面付近に局在化している請求項5記載のプリプレグ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の繊維強化複合材料用樹脂組成物と強化繊維からなる繊維強化複合材料。
【請求項8】
請求項5または6記載のプリプレグを加熱硬化させる工程を含む繊維強化複合材料の製造方法であって、該加熱硬化において硬化中に粒子状のベンゾオキサジン樹脂を融解させることを特徴とする繊維強化複合材料の製造方法。

【公開番号】特開2008−214561(P2008−214561A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−56828(P2007−56828)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】