説明

翼の形状および対応する翼を最適化する方法

翼の縁の形状を画定する方法であって、縁の厚さの開始値を取得するステップと、厚さに関して、翼の縁からの距離を画定するステップと、画定された距離にわたって、標準化されたキャンバーラインおよび標準化された厚さに関して空間Sを画定するステップと、空間Sを新しい空間S´に変換するステップと、標準化されたキャンバーラインおよび標準化された厚さの新しい値を取得するために、新しい空間S´をパラメータ化するステップと、新しいパラメータ値を用いて縁の新しい形状を画定するステップと、有する方法。好ましい実施形態において、変換するステップは、放物線関数を空間Sに適用するステップを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は翼の設計に関し、より詳細には、翼の前縁および後縁の形状を最適化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、簡潔さおよび明瞭さのために、本発明およびその背景は、主として翼の前縁に関して(特に、ガスタービンエンジンのコンプレッサ翼の前縁について)説明される。しかし、以下で説明されるように、本発明の原理は、前縁と同様に後縁にも等しく応用できる。さらに、本発明の原理は、他のタイプの翼にも等しくよく適用でき、説明される特定の実施形態と実質的に同様の利点および効果をもたらすであろう。それゆえ、以下の説明における「翼」および「前縁」のような用語の参照は、本発明の範囲を限定することを意図するものではないことを理解されたい。
【0003】
タービン機械の翼の前縁は、翼の、損失、効率、および動作範囲に有意な効果を持つことが知られている。
【0004】
前縁の設計への多くの手法が過去に試みられてきており、円形、閉鎖カーブフィット、楕円、自由形態、および、コンポーネント中心線(component centre line)を含む。
【0005】
これらの前縁の設計の全ては、ある種の特徴的な欠点がある。たとえば、円形の場合は強健であるが柔軟性がなく、大きい曲率の変更により損失の原因になる。閉鎖カーブフィットは、多くの材料を取り除く傾向にあり、前縁を打つ(snub)。楕円は、実装するのがより困難であり、微妙な制御や柔軟性に欠ける。自由形態は、制御およびシステム化するのが困難である。接線フィットのコンポーネント中心線は、円に基づく対称なプロファイルに依存する。
【0006】
翼の表面の曲率の変化が大きいところでは、これは、前縁の近くで生じる傾向があるが、使用時に表面圧力分布(surface pressure distribution)において小さな局所的な超過速度(ときどき、スパイクと呼ばれる)が生じる。このような前縁スパイクは、これらが時期尚早の境界層遷移を開始したときに、ブレード損失に影響を与えることがある。大きなスパイクは、分離した流れ遷移(separated flow transition)を生じさせ、小さなスパイクは、付着した流れ遷移(attached flow transition)を生じさせることがある。早い遷移が生じると、荒い湿った領域における増加によりプロファイル損失が大きくなり、また、分離バブルに関連する追加の混合損失が存在する。したがって、前縁が「良い(good)」と考えられるようにするために、スパイクをなくすべきであり、または、少なくとも遷移を防止するのに十分な程度に小さくすべきである。
【0007】
図1は、吸引表面長さの比s/sに対する表面圧力係数cのグラフであり、2つの知られた前縁による使用時に生成されるスパイクの間の比較を示す。湾曲の上部のペアをみると、これらは円形の前縁により生成されるスパイク12と、楕円形の前縁により生成されるスパイク14を示している。楕円形の前縁は円形の前縁の場合よりも小さなスパイクを生成しているが、それでも有意なスパイクがあることが見て取れるであろう(それゆえ、時期尚早な境界層の遷移が開始する有意なリスクがある)。
【0008】
また、前縁は、入射角度の範囲において効率的に動作する必要がある。ガスがブレードの前縁に衝突する入射角度(「局所的な入射」)は、2つの主な要因、すなわちブレードの入射およびウェークの入射により影響を受ける。ブレードの入射は、ブレードの動作条件により約0から3°の間で変化する。
【0009】
ウェークの入射は、局所的な入射に対する周期的な外乱である。図2は、単一ローターブレード22および単一ステータ24を示す。ローターブレード22がスピードUで回転するとき、ステータ24は、効果において、ウェーク26を通過する。それゆえ、ウェーク内で、局所的な入射は、ウェーク入射により影響を受ける(典型的には約18°)。連続するローターブレード22のウェークの間で、ウェーク入射は、ウェークサイズおよびウェークからの距離に応じて、局所的な入射に減少した効果を備える。
【0010】
ウェーク入射の変化はブレード入射の変化よりも大きいが、ブレード入射は、局所入射により大きい影響を与える。これは、ブレードのリフトは、前縁の領域において約5のファクターでブレード入射を増幅し、ウェーク入射に影響を与えないからである。
【0011】
一般に、増加した局所入射は、スパイク高さを増加させる。これは、前縁を遷移に対して影響をより受けやすくし、乱れた湿った領域の増加および後続の損失の増加を生じさせる。
【0012】
コンプレッサブレードに関して、前縁の使用時のスパイクを避けるのは特に難しい。これは、構造的な完全性の要求が、最小の許容できる前縁厚さを制限するからである。また、前縁半径は典型的には小さく、それゆえ、製造欠陥およびサービス中の侵食が、相対的に大きな幾何学的変動を生じさせる。全てのブレードがエンジンの寿命を通じてスパイクを持たないことを保証することは、それゆえ、現実的には非常に困難であり、また、極端にコストがかかる。したがって、これらのスパイクが現実に存在する場合、損失に対する有害な効果を定量化する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前縁設計の知られた方法は、規定された幾何学(たとえば楕円)または、ポイント定義(これはコントロールを欠く)に依拠し、使用時にスパイクを避ける前縁のデザインを生成することができない。設計の知られた方法は、さらに後ろの領域との比較において、縁に最も近い翼の領域の相対的な重要性を完全には考慮しておらず、特に、縁が円形に設計されていないとき(たとえば、楕円であるとき)である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特許請求の範囲に記載されるように、翼の形状を定義するための方法、および結果として生じる翼を提供する。本発明は、知られた前縁デザインよりも高い入射範囲を備える翼の前縁形状を提供する。
【0015】
本発明は、知られた代替物の強度を組み合わせ、自由度とコントロールとの両方を可能にする方法を提供する。本方法は、使用時のスパイクを克服する、または少なくとも有意に減少させる前縁の設計を提供する。本発明は、既存の設計ツールおよび製造方法に組み込むことができるという更なる利点がある。
【0016】
本発明の実施形態が、以下に例として添付図面とともに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、吸引表面長さの比s/sに対する表面圧力係数cのグラフであり、2つの知られた前縁による使用時に生成されるスパイクの間の比較を示す。
【図2】図2は、単一ローターブレード22および単一ステータ24を示す。
【図3】最初の前縁プロファイルの概略図、およびそのパラメータを示すグラフである。
【図4】最適化された前縁の概略図であり対応するパラメータを示す図である。
【図5】2つの局所入射に関して、最初と最後のプロファイルに関するスパイクの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
理想化された前縁は、最小の設計入射損失を達成し、一方で、動作入射範囲を最大化するものである。2つの設計目標はしばしば対立するものと考えられる。しかし、これらの2つの設計目標は、前縁スパイクが、設計および高い入射の両方で除去される場合に達成することができる。
【0019】
図3(a)は、3:1の半軸比(semi-axis ratio)を備える、公知の楕円前縁33を備えるコンプレッサのローター翼の前縁プロファイル32を示す。前縁の厚さ34、tLEは、楕円がブレード表面に結合するポイント35における前縁の厚さであると定義される。キャンバー線36は、前縁から後縁までブレードの中心に沿って延びる観念上の線である。この図において、X軸に沿うように標準化されており、直線のように見えるが、実際のブレードは直線でなくてもよい。
【0020】
この例において、前縁に最も近いブレードプロファイルの一部だけが最適化され、具体的には、図3(a)に示されるように、2.5tLE内の領域が最適化される。
【0021】
図3(a)に示されるように、前縁の厚さは、まず、値2.5tLEによりキャンバーラインおよび厚さの両方を標準化することで、新しい空間に変形される。図3(b)は、この変形の結果を示し、ここで
【0022】
【数1】

【0023】
である。
【0024】
曲線38は、前縁領域の幾何学を特徴付ける。ポイント40は、前縁がブレード表面に再付着するポイントを示し、ポイント42は、前縁半径を画定する。
【0025】
前縁領域を最適化するために、曲線38は、よく定義され連続である必要がある。特に、(Ψ=0)における無限勾配は、前縁の正面の高い曲率とともに取り除く必要がある。
【0026】
それゆえ、関数S(Ψ)は修正される必要がある。これは、同一の性質を備える関数で除すことにより達成することができる。厚さの分布は、2つの関数、放物線関数および線形関数により除される。放物線は、前縁近く(すなわち、Ψ=0の近く)を支配し、高い曲率および無限勾配を除去する。線形関数は、前縁がブレードの表面に結合する場所、Ψ=1で関数が滑らかになることを保障する。分子において、線形関数は前縁から除かれる。これは、Ψ=1で、この関数が無限大にならないことを保障する。それゆえ数式は
【0027】
【数2】

【0028】
となり、ここで
【0029】
【数3】

【0030】
である。
【0031】
変換された空間S´は、10次のオーダーのバーンスタイン多項式でパラメータ表示された。多項式のクラスタリングは、この領域での増加した解により、前縁ポイントの近くで増加した。これは、多項式を円弧にマッピングすることにより達成された(Ψ=1−cos(θ))。シータは、0からn/2の間の範囲で定義される。θの関数としてのバーンスタイン多項式の数式は、
【0032】
【数4】

【0033】
で表わされる。
【0034】
設計空間は、(r+1)パラメータ、c(i=0またはr)の大きさを変更することにより橋渡しされる。
【0035】
最適化の結果は、変換された空間におけるほぼ線形の関数で生成される。図4(b)は、最適化された関数S´(44)を、比較のために最初の関数S(46)とともに示す。
【0036】
上述のパラメーラ化の逆を行うことで、図4(a)に示すように、最適化された前縁を生成することができる。最適化された前縁形状48は、比較のために元の前縁形状50とともに示されている。最適化された前縁は、楕円より細長く、それでもガスタービンエンジンでの使用に対する十分な頑強性がある。
【0037】
図5(a)は、最適化された前縁に関連する損失ループ52を示す。元の前縁の対応する損失ループは、破線54によし示されている。損失yは、入射角度に対してプロットされている。この理由は、スパイクが大きな入射範囲にわたって取り除かれ、前縁における時期尚早の遷移を防止するからである。図5(b)は、小さな入射の値(約0.5度)について、吸引表面s/sに沿う距離に対する表面圧力cを示す。グラフの拡大された部分において、最適化された前縁56に関して表面圧力においてスパイクが無いのに対して、元の前縁は顕著なスパイク58があることが見て取れる。ブレードの最も高い動作入射においてのみ、スパイクが現れ始める。これは約3度の入射に関する図5(c)から分かる。元の前縁60は明瞭なスパイクを示すのに対して、最適化された前縁62は、表面圧力にほんの僅かなオーバーシュートが見られるだけである。最適化された前縁のブレードに使用できる入射範囲の増加は3度程度である。
【0038】
したがって、本発明は方法を提供し、それにより、前縁表面プロファイルをパラメータ化し、結果として生じる変換された空間を修正し、ブレードの入射の動作範囲にわたる前縁の圧力スパイを最小化する最適化された前縁プロファイルが画定される。そのような前縁は、典型的には4°まで入射に関して前縁スパイクが無い。
【0039】
説明された実施形態において、前縁形状は2.5tLEの距離にわたり最適化される。本発明の他の実施形態においては、異なる乗数が適切であり、たとえば、流体のレイノルズ数が異なる場合、または、翼の厚さ対弧の比が異なる場合である。
【0040】
説明された実施形態において、変換された空間は10次のバーンスタイン多項式を用いてパラメータ化されたが、他の多項式を用いることもできる。
【0041】
説明された実施形態は、コンプレッサの翼の前縁に関するが、上述した本発明の原理は、翼の後縁にも同様に適用できる。本発明は、ステータ翼にも同様に適用でき、また、ローター翼にも適用できる。また、本発明は、異なるタイプの機械の翼に適用することができ、水中翼に適用することもできる。
【0042】
説明された実施形態において、知られた楕円の前縁プロファイルは、本発明による方法の開始ポイントとして用いられた。実際、公知のまたは観念的な任意の前縁プロファイルを開始ポイントとして用いることができる。最初のプロファイルが考えている流体条件において最適化された形状から非常に遠い場合、最適な前縁プロファイルが得られるまでおそらく1回以上、パラメータ化および最適化のプロセスを繰り返す必要があることがある。
【0043】
試験により、前縁の形状が下流の遷移に影響を与えるが、この影響の程度は、設計および動作に依存することが実証された。
【0044】
新しい前縁形状は、翼により発生する(音響)ノイズを減らす。これは、無ダクト式または無ダンプ式システム(unducted or undamped systems)において特に有利である。
【0045】
入口角度の非敏感性、および本発明の原理を翼の後縁に適用できる能力は、二方向タービンまたはコンプレッサ(たとえば、ウェルズタービン、レシプロコラムタービン)において非常に有利である。モーター/発電機またはハイブリッドドライブセットのような二方向装置の冷却フィンのような他の部品において同様に採用することができ、ここで、ノイズの低減は有利であり、また、効率の上昇により装置をより小さな空間内に収容できるようになる。
【0046】
本方法は、スチームタービンを含むタービン翼に適用することができる。本特徴は、高マッハ数タービンにおいて特に有利である。
【0047】
本方法は、流体またはガス中を進行する任意の翼の形状または翼の形状の一部を最適化するのに採用することができ、(たとえば、スプリッタ、ストラット、フェアリング、パイロン、ナセル、遠心式または軸式コンプレッサまたはタービン、中空軸タービン、風車、ウィンドタービン、プロペラブレード(船)、ウォータジェット、推進機である)。本特徴は、特にウィンドタービン、ウェルズタービン、二方向タービン、および開放ロータまたはプロペラのような翼が衝撃または突風に合う場合に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼の縁の形状を画定する方法であって、前記方法は、
前記縁の厚さのための開始の値を取得するステップと、
前記翼の前記縁からの距離を前記厚さに関して画定するステップと、
前記画定された距離にわたって、標準化したキャンバーラインおよび標準化した厚さに関して空間Sを画定するステップと、
前記空間Sを新しい空間S´に変換するステップと、
標準化したキャンバーラインおよび標準化した厚さのための新しい値を取得するために、前記新しい空間S´をパラメータ化するステップと、
新しいパラメータ値を用いて前記縁の新しい形状を画定するステップと、を有する
方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記変換するステップは、前記空間Sに放物線関数を適用するステップを有する、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記変換するステップは、
【数1】

の関数を前記空間Sに適用するステップを有し、
ここで、
【数2】

であり、Kは予め決定される定数である、方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、前記Kの値は2.5である、方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法であって、前記空間S´は、10次のバーンスタイン多項式を用いてパラメータ化される、方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法であって、前記縁は前縁である、方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法であって、前記翼は、ガスタービンエンジンのためのコンプレッサブレードである、方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法であって、前記翼は、ガスタービンエンジンのためのコンプレッサステータである、方法。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法により画定される縁を含む翼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−510018(P2012−510018A)
【公表日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536771(P2011−536771)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/008216
【国際公開番号】WO2010/057627
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(591005785)ロールス・ロイス・ピーエルシー (88)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】