説明

耐グローワイヤ性ポリエステル

【課題】耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、モノ-もしくはポリ臭素化フェニル基を有する少なくとも1種のモノマー、オリゴマー、またはポリマー有機化合物と組み合わせて、亜クロム酸銅と、少なくとも1種のアンチモン含有機能性添加剤とを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物、および、レーザー直接構造化にかけることができる耐グローワイヤ性構成部品、好ましくは家庭用機器を製造するための前記ポリエステル成形組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノ-もしくはポリ臭素化フェニル基を含有する少なくとも1種のモノマー、オリゴマーまたはポリマー有機化合物と組み合わせて、亜クロム酸銅と、少なくとも1種のアンチモン含有機能性添加剤とを含む、耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物、および、レーザー直接構造化にかけることができる耐グローワイヤ性構成部品、好ましくは家庭用機器を製造するための前記ポリエステル成形組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形回路基板は、工業エレクトロニクス、エンターテイメントエレクトロニクスまたは家庭用機器エレクトロニクスの部門で使用されることが多く、これらの部門からの基準および規格をそれ故考慮する必要がある。例として、家庭用機器エレクトロニクスでの製品の耐熱性および耐火性に関するIEC/EN 60335−1からの規格がある。例として、適所に通電接続部を保持するために使用される非金属材料に適用される規格の1つは、グローワイヤ試験が実施されることを要求している。用途部門およびその用途における電流強度に応じて、グローワイヤ試験は、550℃〜850℃で実施する必要がある。これらの用途には、例えば、トグルスイッチ、ロータリースイッチ、調整器、接続要素、プラグコネクター、ケーシング、接点チャンバー、リレー、抵抗、キャパシター、コンタクター、誘導構成部品、変圧器、トランジスター、センサー、および多くの他の用途がある。工業エレクトロニクスでは、グローワイヤ試験を、最高で960℃まで実施する。
【0003】
(特許文献1)は、電磁放射線を用いて構造化可能な配向ホイルを製造するための、有機臭素化合物との組み合わせでの、ポリエステルにおける銅含有スピネルCuCr(亜クロム酸銅)の使用を教示している。
【0004】
(特許文献2)は、40〜90重量%のポリマー、好ましくはポリアミドを含む強化耐グローワイヤ性の難燃性ポリマーを記載している。(特許文献3)は、耐グローワイヤ性が高められたポリアミドをベースとする熱可塑性成形組成物を同様に記載している。
【0005】
しかし、IEC 60695−2−12および−13によるグローワイヤ基準の遵守は、独国における家庭用機器への使用のための不可欠な将来要件として明記されている。特に、GWIT(グローワイヤ着火温度)として知られるものに関して、750℃より高い着火温度を有する入手可能なポリマー材料の数は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】独国特許出願公開第10 2004 003 891 A1号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10 2004 039 148 A1号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第10 2004 048 876 A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、電気およびエレクトロニクス部門で要求される防火基準に適合し、かつ、加工が容易であり、十分な機械的特性を有し、完成部品の形態でレーザー直接構造化プロセス(LDSプロセス)にかけることができる耐グローワイヤ性ポリエステルを提供することが本発明の目的であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的は、N,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エポキシ化テトラブロモビスフェノールA樹脂、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、ペンタブロモポリアクリレート、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、臭素化ポリスチレン、デカブロモジフェニルエーテルまたはデカブロモジフェニルエタンの群からの少なくとも1種の有機臭素化合物と組み合わせて、亜クロム酸銅(CuCr)と、アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモンまたは五酸化アンチモンの群からの少なくとも1種のアンチモン含有機能性添加剤とを含む、本発明が提供する耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物によって達成される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
IEC/EN 60695−2−12および−13に関する出願関連情報は、Lanxess Deutschland GmbHから2006年10月7日に公表された、発行TI 2006−011DEの形態で得られる、
http://techcenter.lanxess.com/scp/emea/de/media/TI%202006−011%20DE%20Erweiterte%20Haushaltsger%C3%A4tenorm%20IEC%2060335.pdf docId=109962にてインターネット上で見いだすことができる。
【0010】
これらによると、GWIT(グローワイヤ着火温度=IEC 60695−2−13)は、試験シート(ディスク)に関して測定され、例えば、白熱ワイヤまたは過熱抵抗への暴露時のプラスチックの着火挙動の尺度である。試験片は、着火温度を測定するための試験の間中ずっと着火することを許されない。着火は、5秒間より長い燃焼の出現と定義される。したがって、GWITとして提示される温度は、着火が全く起こらない最高温度より25℃高い。難燃性材料については、GWITは製造業者によって提示され、Underwriters Laboratories(UL)からのYellow Cardに記載される。2005年以降、強制変更がULによって導入された:大きい肉厚についてよりも薄い肉厚についてのGWITがより高い場合、Yellow Cardはより高い値を無視し、記載されるのはより低い値である。
【0011】
同時に、GWFI(グローワイヤ可燃性指数=IEC 60695−2−12)が同様に試験シート(ディスク)に関して測定される可能性が高い。これは、例えば、白熱ワイヤまたは過熱抵抗に暴露されたプラスチックの火炎性能の尺度である。試験片は、加熱したグローワイヤに1ニュートンの力で30秒の間押し付けられる。グローワイヤの侵入深さに関しては7mmの制限がある。グローワイヤの除去後に、試験片の燃焼時間が30秒未満であり、かつ、試験片の下に置かれたティッシュペーパーの一片が着火しない場合に、試験に合格する。GWFIは製造業者によって提示され、難燃性材料についてのYellow Cardに記載される。
【0012】
現時点では、Plastverarbeiter 56、Vol.(2005)No.4、66〜67ページを参照することもできる。
【0013】
好ましいアンチモン含有機能性添加剤は、三酸化アンチモンまたはアンチモン酸ナトリウムである。
【0014】
好ましい有機臭素化合物は、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、ポリペンタブロモベンジルアクリレートまたはN,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)である。
【0015】
テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマーの中で、エポキシ末端基またはトリブロモフェニレン基を有するものを使用することが特に好ましい。テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネートの中で、フェニル、トリブロモフェニル、またはp-ジ-tert-ブチルフェニル末端基を有するものを使用することが特に好ましい。臭素化ポリスチレンの中で、フェニル環1個当たり2〜3個の臭素原子を有するものを使用することが特に好ましい。本発明に従って使用する有機臭素化合物の典型的な市販例は、ICL IP(Beer Sheva,Israel)製のEurobrom F3100、Eurobrom F2400およびEurobrom FR1025、Chemtura(Middlebury,USA)製のPBS64、PDBS80、BC52およびBC58、およびAlbemarle(Baton Rouge,USA)製のSaytex HP7010、Saytex HP3010、Saytex BR93、Saytex 8010およびSaytex BT93である。
【0016】
本発明によれば、亜クロム酸銅と、三酸化アンチモンと、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、ポリペンタブロモベンジルアクリレートまたはN,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)からなる群からの有機臭素化合物とを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物が特に好ましい。
【0017】
しかし、亜クロム酸銅と、アンチモン酸ナトリウムと、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、ポリペンタブロモベンジルアクリレートまたはN,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)からなる群からの有機臭素化合物とを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物も本発明によれば特に好ましい。
【0018】
亜クロム酸銅と、アンチモン酸ナトリウムと、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマーとを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物が特に好ましい。
【0019】
しかし、亜クロム酸銅と、アンチモン酸ナトリウムと、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネートとを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物も特に好ましい。
【0020】
しかし、亜クロム酸銅と、アンチモン酸ナトリウムと、ポリペンタブロモベンジルアクリレートを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物も特に好ましい。
【0021】
しかし、亜クロム酸銅、アンチモン酸ナトリウム、およびN,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)とを含むポリエステル成形組成物も特に好ましい。
【0022】
しかし、亜クロム酸銅と、三酸化アンチモンと、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネートとを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物も特に好ましい。
【0023】
しかし、亜クロム酸銅と、三酸化アンチモンと、ポリペンタブロモベンジルアクリレートとを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物も特に好ましい。
【0024】
しかし、亜クロム酸銅と、三酸化アンチモンと、N,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)とを含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物も特に好ましい。
【0025】
本発明は好ましくは、
成分Aとして40〜90重量%のポリエステル、
成分Bとして0.1〜40重量%の亜クロム酸銅、
成分Cとして0.1〜15重量%のアンチモン含有機能性添加剤、および
成分Dとして0.1〜20重量%の有機臭素化合物
を含むことを特徴とする耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物を提供する。
【0026】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Aの好ましい量は、45〜65重量%である。
【0027】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Aのとりわけ好ましい量は、50〜65重量%である。
【0028】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Bの好ましい量は、0.5〜20重量%である。
【0029】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Bの特に好ましい量は、1〜10重量%である。
【0030】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Cのとりわけ好ましい量は、0.5〜10重量%である。
【0031】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Cの特に好ましい量は、1〜8重量%である。
【0032】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Dのとりわけ好ましい量は、0.5〜18重量%である。
【0033】
耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在する成分Dの特に好ましい量は、1〜15重量%である。
【0034】
本発明によれば、好ましいポリエステルはポリアルキレンテレフタレートである。
【0035】
本発明の目的のためには、ポリアルキレンテレフタレートは、芳香族ジカルボン酸またはその反応性誘導体(好ましくはジメチルエステルもしくは酸無水物)と、脂肪族、脂環式もしくは芳香脂肪族ジオールとからの反応生成物、および前記反応生成物の混合物である。
【0036】
好ましいポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸(またはその反応性誘導体)と、2〜10個の炭素原子を有する脂肪族または脂環式ジオールとから公知の方法によって製造することができる(Kunststoff−Handbuch[Plastics Handbook]、Vol.VIII、695ページ以下のページ、Carl−Hanser−Verlag、Munich、1973)。
【0037】
好ましいポリアルキレンテレフタレートは、ジカルボン酸を基準として、少なくとも80モル%、好ましくは90モル%のテレフタル酸部分と、ジオール成分を基準として、少なくとも80モル%、好ましくは少なくとも90モル%の、エチレングリコール部分および/または1,3−プロパンジオール部分および/または1,4−ブタンジオール部分とを含有する。
【0038】
好ましいポリアルキレンテレフタレートは、テレフタル酸部分と一緒に、最高で20モル%までの、8〜14個の炭素原子を有する他の芳香族ジカルボン酸部分または4〜12個の炭素原子を有する脂肪族ジカルボン酸部分(例えば、フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサン二酢酸、シクロヘキサンジカルボン酸の部分)を含有することができる。
【0039】
好ましいポリアルキレンテレフタレートは、それぞれ、エチレングリコール部分および1,3−プロパンジオール部分、ならびに、エチレングリコール部分および1,4−ブタンジオール部分と一緒に、最高で20モル%までの、3〜12個の炭素原子を有する他の脂肪族ジオールまたは6〜21個の炭素原子を有する脂環式ジオール〔例えば、1,3−プロパンジオール、2−エチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチルヘキサン−1,3−ジオールおよび2−エチルヘキサン−1,6−ジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,4−ジ(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,4−ジヒドロキシ−1,1,3,3−テトラメチルシクロブタン、2,2−ビス(3−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパンおよび2,2−ビス(4−ヒドロキシプロポキシフェニル)プロパン)〕を含有することができる〔独国特許出願公開第A 24 07 674号明細書(=米国特許第4,035,958号明細書)、独国特許出願公開第A 24 07 776号明細書、独国特許出願公開第A 27 15 932号明細書(=米国特許第4,176,224号明細書)〕。
【0040】
ポリアルキレンテレフタレートは、比較的少量の三価もしくは四価アルコール、または三塩基性もしくは四塩基性カルボン酸を組み入れることによって分岐させることができ、例えば、独国特許出願公開第A 19 00 270号明細書(=米国特許第A 3,692,744号明細書)に記載されている。好ましい分岐剤の例は、トリメシン酸、トリメリット酸、トリメチロールエタン、およびトリメチロールプロパン、ならびにペンタエリスリトールである。
【0041】
酸成分を基準として、1モル%より多い分岐剤の使用を回避することが推奨される。
【0042】
テレフタル酸およびその反応性誘導体(例えば、そのジアルキルエステル)と、エチレングリコールおよび/または1,3−プロパンジオールおよび/または1,4−ブタンジオールとから製造されるポリアルキレンテレフタレート、ならびにこれらのポリアルキレンテレフタレートの混合物が、特に好ましい。
【0043】
好ましい他のポリアルキレンテレフタレートは、少なくとも2種の上述の酸成分から製造され、かつ/あるいは、少なくとも2種の上述のアルコール成分から製造される、コポリエステルである。特に好ましいコポリエステルは、ポリ(エチレングリコール/1,4−ブタンジオール)テレフタレートである。
【0044】
特に好ましいポリアルキレンテレフタレートは、ポリエチレンテレフタレートもしくはポリブチレンテレフタレート、またはこれらの2種のポリアルキレンテレフタレートの混合物である。
【0045】
本発明に従って使用するポリアルキレンテレフタレートの固有粘度は、各場合に25℃でフェノール/o−ジクロロベンゼン(1:1重量部)中で測定して、好ましくは約0.3cm/g〜1.5cm/g、特に好ましくは0.4cm/g〜1.3cm/g、特に好ましくは0.5cm/g〜1.0cm/gである。
【0046】
ポリエステルは、他のポリエステルおよび/または他のポリマーとの混合物で使用することもできる。
【0047】
好ましい一実施形態では、フィラーおよび強化材、エラストマー改質剤、安定剤、無機顔料、滑剤および離型剤、および/または流動助剤、あるいは他の従来型添加剤の群からの少なくとも1種の添加剤を、溶融状態の本発明の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物と混合することができるか、あるいはその表面に適用することができる。
【0048】
本発明に従って好ましくは使用するフィラーおよび/または強化材は、タルク、雲母、シリケート、石英、二酸化チタン、ウォラストナイト、カオリン、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、チョーク、長石、硫酸バリウム、カラスビーズおよび/または繊維フィラー、および/または炭素繊維および/またはガラス繊維をベースとする強化材の群からの材料である。タルク、雲母、シリケート、石英、二酸化チタン、ウォラストナイト、カオリン、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、チョーク、長石、硫酸バリウム、および/またはガラス繊維の群からの鉱物微粒子フィラーを使用することが特に好ましい。本発明によれば、タルク、ウォラストナイト、カオリンおよび/またはガラス繊維をベースとする鉱物微粒子フィラーを使用することが非常に特に好ましい。
【0049】
針状鉱物フィラーの使用はさらにまた特に好ましい。本発明によれば、針状鉱物フィラーという用語は、非常に顕著な針状キャラクターを有する鉱物フィラーを意味する。例として挙げられ得るのは、針状ウォラストナイトである。鉱物の長さ:直径比は好ましくは2:1〜35:1、特に好ましくは3:1〜19:1、特に好ましくは4:1〜12:1である。本発明の針状鉱物の、CILAS GRANULOMETERを用いて測定される平均粒径は、好ましくは20μmより小さく、特に好ましくは15μmより小さく、特に好ましくは10μmより小さい。
【0050】
フィラーおよび/または強化材は、好ましい実施形態では、シランをベースとするカップリング剤またはカップリング剤系で好ましくは表面改質されたものであってよい。しかしながら、この前処理は不可欠ではない。特に、ガラス繊維が使用されるときに、シランに加えて、ポリマー分散剤、フィルム形成剤、分岐剤、および/またはガラス繊維加工助剤を使用することも可能である。
【0051】
その使用が本発明によれば特に好ましいガラス繊維は、連続フィラメント繊維の形態であるいは、それらの繊維直径が一般に7〜18μm、好ましくは9〜15μmである、刻んだもしくは細かくしたガラス繊維の形態で加える。繊維は、好適なサイズシステムで提供され得、好ましくはシランをベースとするカップリング剤またはカップリング剤系と共に提供され得る。
【0052】
前処理工程のために一般に使用されるシランをベースとするカップリング剤は、一般式(I)
(X−(CH−Si−(O−C2r+14−k (I)
(式中、置換基は次の意味を有する:
Xは、NH−、HO−、
【化1】

であり、
qは、2〜10、好ましくは3〜4の整数であり、
rは、1〜5、好ましくは1〜2の整数であり、
kは、1〜3、好ましくは1の整数である)
のシラン化合物である。
【0053】
好ましいカップリング剤は、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノブチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン、および置換基Xとしてグリシジル基を有する相当するシランの群からのシラン化合物である。
【0054】
フィラーの改質のための表面コーティング用のシラン化合物の一般に使用される量は、鉱物フィラーを基準として、0.05〜2重量%、好ましくは0.25〜1.5重量%、特に0.5〜1重量%である。
【0055】
成形組成物または成形品を得るための加工の結果として、微粒子フィラーのd97値またはd50値は、元々使用されたフィラーでよりも成形組成物中または成形品中でより小さいものであり得る。成形組成物または成形品を得るための加工の結果として、成形組成物または成形品におけるガラス繊維の長さ分布は、元々使用されたものより短いものであり得る。
【0056】
しかし、本発明によれば、2種以上の異なるフィラーからなる混合物を使用することも可能である。
【0057】
好ましい一実施形態では、本発明の熱可塑性成形組成物は、それらの半結晶性の熱可塑性樹脂および本発明の物質混合物のみならず、フィラーに加えてまたはフィラーの代わりに、0.001〜80重量部、好ましくは2〜40重量部、特に好ましくは4〜19重量部の少なくとも1種のエラストマー改質剤を含むことができる。
【0058】
使用するエラストマー改質剤は、
E.1) 5〜95重量%、好ましくは30〜90重量%の、少なくとも1種のビニルモノマーと、
E.2) 95〜5重量%、好ましくは70〜10重量%の、そのガラス転移温度が10℃未満、好ましくは0℃未満、特に好ましくは−20℃未満である1種以上のグラフトベースと
の1種以上のグラフトポリマーを含む。
【0059】
グラフトベースE.2の平均粒径(d50値)は、一般に0.05〜10μm、好ましくは0.1〜5μm、特に好ましくは0.2〜1μmである。
【0060】
モノマーE.1は、好ましくは、
E.1.1) 50〜99重量%のビニル芳香族化合物および/または環置換ビニル芳香族化合物(例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレンなど)および/または(C〜C)アルキルメタクリレート(例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなど)と
E.1.2) 1〜50重量%のシアン化ビニル(不飽和ニトリル、例えば、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなど)および/または(C〜C)アルキル(メタ)アクリレート(例えば、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、tert-ブチルアクリレート)および/または不飽和カルボン酸(例えば、無水マレイン酸およびN−フェニルマレイミド)の誘導体(例えば、酸無水物およびイミドなどの)と
からなる混合物である。
【0061】
好ましいモノマーE.1.1は、モノマースチレン、α−メチルスチレン、およびメチルメタクリレートの少なくとも1種から選択されたものであり、好ましいモノマーE.1.2は、モノマーアクリロニトリル、無水マレイン酸、およびメチルメタクリレートの少なくとも1種から選択されたものである。
【0062】
特に好ましいモノマーは、E.1.1のスチレンおよびE.1.2のアクリロニトリルである。
【0063】
エラストマー改質剤に使用するグラフトポリマー用の好適なグラフトベースE.2の例は、ジエンゴム、EP(D)Mゴム、すなわち、エチレン/プロピレンおよび適切な場合にはジエンをベースとするゴム、アクリレートゴム、ポリウレタンゴム、シリコーンゴム、クロロプレンゴム、ならびにエチレン/酢酸ビニルゴムである。
【0064】
好ましいグラフトベースE.2は、ジエンゴム(例えば、ブタジエン、イソプレンなどをベースとするもの)もしくはジエンゴムの混合物であるか、またはジエンゴムのコポリマーもしくはジエンゴムとさらなる共重合性モノマー(例えば、E.1.1およびE.1.2による)との混合物のコポリマーである。ただし、成分E.2のガラス転移温度は10℃未満、好ましくは0℃未満、特に好ましくは−10℃未満である。
【0065】
直鎖のポリブタジエンゴムがグラフトベースE.2として特に好ましい。
【0066】
エラストマー改質剤として特に好ましく使用することができるポリマーは、ABSポリマー(乳化、バルクおよび懸濁ABS)であり、例えば、独国特許出願公開第A 2 035 390号明細書(=米国特許第3,644,574号明細書)、独国特許出願公開第A 2 248 242号明細書(=英国特許出願公開第A 1 409 275号明細書)、Ullmann、Enzyklopaedie der Technischen Chemie[Encyclopaedia of Industrial Chemistry(ウルマンの工業化学百科事典)]、Vol.19(1980)、280ページ以降に記載されている。グラフトベースE.2のゲル含有率は、(トルエン中で測定して)少なくとも30重量%、好ましくは少なくとも40重量%である。
【0067】
エラストマー改質剤またはグラフトコポリマーは、フリーラジカル重合によって、例えば、乳化、懸濁、溶液、またはバルク重合によって、好ましくは乳化またはバルク重合によって製造される。
【0068】
他の特に好適なグラフトゴムは、ABSポリマーであり、米国特許第4,937,285号明細書に従って有機ヒドロペルオキシドおよびアスコルビン酸からなる開始剤系を使用するレドックス開始反応によって製造される。
【0069】
グラフトモノマーは、グラフト反応中にグラフトベース上へ必ずしも完全にグラフトされるわけではないことが知られており、したがって、グラフトポリマーの形態で使用することができるエラストマー改質剤も、グラフトベースの存在下に、グラフトモノマーの(共)重合によって得られた、ワークアップ工程中に付随して生じる生成物を含む。
【0070】
好適なアクリレートゴムは、適切な場合にはE.2を基準として最高で40重量%までの他の重合性のエチレン性不飽和モノマーのアルキルアクリレートからなる好ましくはポリマーであるグラフトベースE.2をベースとする。好ましい重合性アクリルエステルには、C〜Cアルキルエステル(例えば、メチル、エチル、ブチル、n−オクチル、および2−エチルヘキシルエステルなど);ハロアルキルエステル、好ましくはハロ−C〜Cアルキルエステル(例えば、クロロエチルアクリレートなど)、およびこれらのモノマーの混合物がある。
【0071】
架橋のために、2個以上の重合性二重結合を有するモノマーを共重合させることができる。架橋モノマーの好ましい例は、3〜8個の炭素原子を有する不飽和モノカルボン酸のエステルおよび3〜12個の炭素原子を有する不飽和の一価アルコールのエステル、または2〜4個のOH基および2〜20個の炭素原子を有する飽和ポリオールのエステル、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、アリルメタクリレート;ポリ不飽和複素環化合物、例えば、トリビニルおよびトリアリルシアヌレート;多官能性ビニル化合物(例えば、ジ−およびトリビニルベンゼンなど);ならびにトリアリルホスフェートおよびジアリルフタレートである。
【0072】
好ましい架橋モノマーは、アリルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジアリルフタレート、および少なくとも3個のエチレン性不飽和基を有する複素環化合物である。
【0073】
特に好ましい架橋モノマーは、環状モノマーである、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアクリロイルヘキサヒドロ−s−トリアジン、およびトリアリルベンゼンである。架橋モノマーの量は、グラフトベースE.2を基準として、好ましくは0.02〜5重量%、特に0.05〜2重量%である。
【0074】
少なくとも3個のエチレン性不飽和基を有する環状架橋モノマーの場合には、その量をグラフトベースE.2の1重量%未満に制限することが有利である。
【0075】
適切な場合にはグラフトベースE.2の製造のためにアクリルエステルと一緒に働き得る好ましい「他の」重合性のエチレン性不飽和モノマーの例は、アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アクリルアミド、ビニルC〜Cアルキルエーテル、メチルメタクリレート、ブタジエンである。グラフトベースE.2として好ましいアクリレートゴムは、そのゲル含有率が少なくとも60重量%である乳化ポリマーである。
【0076】
E.2によるさらなる好適なグラフトベースは、グラフト化目的のために活性な部位を有するシリコーンゴムであり、独国特許出願公開第A 3 704 657号明細書(=米国特許第4,859,740号明細書)、独国特許出願公開第A 3 704 655号明細書(=米国特許第4,861,831号明細書)、独国特許出願公開第A 3 631 540号明細書(=米国特許第4,806,593号明細書)、および独国特許出願公開第A 3 631 539号明細書(=米国特許第4,812,515号明細書)などに記載されている。
【0077】
グラフトポリマーをベースとするエラストマー改質剤と一緒に、グラフトポリマーをベースとしないが10℃未満の、好ましくは0℃未満の、特に好ましくは−20℃未満のガラス転移温度を有するエラストマー改質剤を使用することもまた可能である。これらには、例えば、ブロックコポリマ−構造を有するエラストマーがある。これらには、例として、熱可塑性溶融され得るエラストマーもある。本明細書に記載する好ましい材料は、例として、EPMゴム、EPDMゴム、および/またはSEBSゴムである。
【0078】
本発明による好ましい一実施形態では、熱可塑性成形組成物は、半結晶性熱可塑性樹脂および本発明の物質混合物のみならず、フィラーおよび/またはエラストマー改質剤に加えて、あるいはフィラーおよび/またはエラストマー改質剤の代わりに、0.1〜20重量部、好ましくは0.25〜20重量部、好ましくは0.25〜15重量部、特に好ましくは1.0〜10重量部の流動助剤を含むことができる。
【0079】
本発明に従って好ましくは使用する流動助剤は、コポリマーからなり、好ましくは、少なくとも1種のオレフィン、好ましくはα−オレフィンと、少なくとも1種の脂肪族アルコールのメタクリルエステルまたはアクリルエステルとからなるランダムコポリマーからなり、このコポリマーのMFIは、190℃および2.16kgの試験重量で測定して、100g/10分以上、好ましくは150g/分以上、特に好ましくは300g/10分以上である。好ましい一実施形態では、コポリマーは、4重量%未満、特に好ましくは1.5重量%未満、非常に特に好ましくは0重量%の、エポキシド、オキセタン、酸無水物、イミド、アジリジン、フラン、酸、アミン、およびオキサゾリンからなる群から選択されるさらなる反応性官能基を含有するモノマー単位からなる。
【0080】
コポリマーの成分として好適なオレフィン、好ましくはα−オレフィンは、2〜10個の炭素原子を好ましくは有し、非置換であってよく、あるいは、1個以上の脂肪族、脂環式、もしくは芳香族の基により置換されていてもよい。
【0081】
好ましいオレフィンは、エテン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、3−メチル−1−ペンテンからなる群から選択されるものである。特に好ましいオレフィンは、エテンおよびプロペンであり、エテンが特に好ましい。
【0082】
記載したオレフィンの混合物もまた好適である。
【0083】
さらに好ましい実施形態では、エポキシド、オキセタン、酸無水物、イミド、アジリジン、フラン、酸、アミン、オキサゾリンからなる群から選択される、コポリマーのさらなる反応性官能基が、オレフィンを用いてコポリマー中へ排他的に導入される。
【0084】
コポリマー中のオレフィンの含有率は50〜90重量%、好ましくは55〜75重量%である。
【0085】
コポリマーは、オレフィンと同時に第2成分によってもさらに定義される。好適な第2成分は、そのアルキルまたはアリールアルキル基が1〜30個の炭素原子から形成されるアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステルまたはアリールアルキルエステルである。アルキルまたはアリールアルキル基は、本明細書では線状であっても分岐であってもよく、脂環式または芳香族基を有することができ、これと同時に1個以上のエーテルまたはチオエーテル官能基による置換を有することができる。これに関連して、他の好適なメタクリレートまたはアクリレートは、たった1個のヒドロキシ基および多くとも30個の炭素原子を有するオリゴエチレングリコールをまたはオリゴプロピレングリコールをベースとするアルコール成分から合成されるものである。
【0086】
好ましくは、メタクリレートまたはアクリレートのアルキル基またはアリールアルキル基は、メチル、エチル、イソプロピル、n−プロピル、n−ブチル、イソブチル、tert-ブチル、1−ペンチル、1−ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、1−ヘプチル、3−ヘプチル、1−オクチル、1−(2−エチル)ヘキシル、1−ノニル、1−デシル、1−ドデシル、1−ラウリル、または1−オクタデシルからなる群から選択されたものであってよい。5〜20個の炭素原子を有するアルキル基またはアリールアルキル基が、特に好ましい。同じ数の炭素原子を有する線状アルキル基と比べて、分岐アルキル基がまた特に好ましく、より低いガラス転移温度Tがもたらされる。
【0087】
本発明によれば、オレフィンが2−エチルヘキシルアクリレートと共重合されたコポリマーが特に好ましい。記載したアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの混合物は、同等に好適である。
【0088】
コポリマー中のアクリルおよびメタクリルエステルの総量を基準として、60重量%より多くの、特に好ましくは90重量%より多くの、非常に特に好ましくは100重量%の2−エチルヘキシルアクリレートを使用することが本明細書では特に好ましい。
【0089】
コポリマー中のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの含有率は、10〜50重量%、好ましくは25〜45重量%である。
【0090】
コポリマーは、商標Lotryl(登録商標)EHでAtofina社によって供給される材料の群から特に選択される。これらの材料は、通常、ホットメルト接着剤として使用される。
【0091】
別の代替的な好ましい実施形態では、本発明の物質混合物と共に半結晶性熱可塑性樹脂をベースとする本発明の熱可塑性成形組成物はまた、上述の成分に加えてまたは上述の成分の代わりに、0.001〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、特に好ましくは0.1〜3.5重量部の無機顔料を含むことができる。無機顔料には、Plastics Additives Handbook(プラスチック添加剤ハンドブック)(第5版、Hans Zweifel(編)、Hanser Verlag Munich、823〜825ページ)の章15.2.5に述べられている無機カラー顔料のみならず、好ましくは次の白色顔料:二酸化チタン、硫化亜鉛、および酸化亜鉛、ならびに黒色顔料としてのカーボンブラックがある。二酸化チタンは、ルチルまたはアナターゼ結晶性形態で使用することができ、ルチルが好ましい。二酸化チタンは、未処理の形態または表面処理された形態で使用することができる。ケイ素および/またはアルミニウムの化合物を表面改質プロセスのために使用することができ、シロキサン化合物を使用することもできる。商業的に入手可能な製品の例は、Kronos社(Dallas,USA)からのKronos 2230、Kronos 2225、およびKronos vlp7000である。硫化亜鉛は、固体微粒子の形態で一般に使用される。商業的に入手可能な製品の例は、Sachtolith(登録商標)HDSおよびSachtolith(登録商標)HD(両方ともSachtleben社製,Duisburg,Germany)である。二酸化チタンを使用することが好ましく、ケイ素およびアルミニウムの化合物、ならびにシロキサンで表面改質した二酸化チタンを使用することが非常に特に好ましい。
【0092】
別の代替的な好ましい実施形態では、本発明の物質混合と共に半結晶性熱可塑性樹脂をベースとする本発明の熱可塑性成形組成物は、上述の成分に加えてまたは上述の成分の代わりに、0.001〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、特に好ましくは0.1〜3.5重量部のさらなる従来型添加剤を含むことができる。
【0093】
好ましいさらなる従来型添加剤は、安定剤、特に好ましくはUV安定剤、熱安定剤、ガンマ線安定剤、帯電防止剤、防火添加剤、乳化剤、核剤、可塑剤、さらなる着色剤、および電気伝導度を高めるための添加剤である。記載の添加剤およびさらなる好適な添加剤は、例として、Gaechter、Mueller、Kunststoff−Additive[Plastics Additives(プラスチック添加剤)]、第3版、Hanser−Verlag、Munich、Vienna、1989年におよびPlastics Additives Handbook(プラスチック添加剤ハンドブック)、第5版、Hanser−Verlag、Munich、2001年に記載されている。添加剤は、単独または混合物で、あるいはマスターバッチの形態で使用することができる。
【0094】
使用される好ましい安定剤は、有機リン化合物、ホスファイト、立体障害フェノール類、ヒドロキノン類、芳香族第二級アミン、例えば、ジフェニルアミン類、置換レゾルシノール、サリシレート、ベンゾトリアゾール、およびベンゾフェノン類、ならびにこれらの群の様々な置換代表物およびそれらの混合物である。
【0095】
添加されるさらなる着色剤は好ましくは、カーボンブラックおよび有機顔料、例えば、フタロシアニン、キナクリドン、ペリレン、ならびに染料、特にニグロシンおよびアントラキノン類である。
【0096】
使用される好ましい核剤は、フェニルホスフィン酸ナトリウムまたはフェニルホスフィン酸カルシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、あるいはタルク、特に好ましくはタルクである。
【0097】
使用される好ましい滑剤および離型剤は、エステルワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート(PETS)、長鎖脂肪酸、特に好ましくはステアリン酸またはベヘン酸、それらの塩、特に好ましくはステアリン酸Caもしくはステアリン酸Zn、およびまたアミド誘導体、特に好ましくはエチレンビスステアリルアミドまたはモンタンワックス(28〜32個の炭素原子の鎖長を有する直鎖の飽和カルボン酸からなる混合物)である。使用される好ましい可塑剤は、ジオクチルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、炭化水素オイル、N−(n−ブチル)ベンゼンスルホンアミドである。
【0098】
同等に使用することができる添加物は、ポリオレフィン、好ましくはポリエチレンおよび/またはポリプロピレンである。低分子量ポリエチレンワックスおよび低分子量ポリプロピレンワックスが特に好ましい。
【0099】
電気伝導度を上げるために添加することができる好ましい添加剤は、カーボンブラック、導電性ブラック、カーボンフィブリル、ナノスケールグラファイト繊維および炭素繊維、グラファイト、導電性ポリマー、金属繊維、ならびに電気伝導度を上げるための他の従来型添加剤である。好ましく使用することができるナノスケール繊維は、(例えば、Hyperion Catalysis製の)「単一壁カーボンナノチューブ」または「多重壁カーボンナノチューブ」として知られるものである。
【0100】
本発明の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物中に存在することができる防火添加剤は、相乗剤と共にまたは商業的に入手可能な有機窒素化合物と共に用いる商業的に入手可能な追加の有機ハロゲン化合物であるか、または、有機/無機リン化合物であり、単独であっても混合物であってもよい。鉱物難燃性添加剤(例えば、水酸化マグネシウムまたは炭酸Ca−Mg水和物など)を使用することも可能である(例えば、独国特許出願公開第A 4 236 122号明細書(=カナダ国特許出願公開第2 109 024 A1号明細書))。脂肪族または芳香族スルホン酸の塩を使用することも可能である。テトラクロロビスフェノールAオリゴカーボネートは、好ましい塩素含有防火添加剤として挙げることができる。好ましい好適な有機リン化合物は、国際公開第A 98/17720号パンフレット(=米国特許第6,538,024号明細書)によるリン化合物、特にトリフェニルホスフェート(TPP)、レゾルシノールビス(ジフェニルホスフェート)(RDP)、およびこれらから誘導されるオリゴマー、および、これらとビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)(BDP)とから誘導されるオリゴマー、有機および無機ホスホン酸誘導体およびそれらの塩、有機および無機ホスフィン酸誘導体およびそれらの塩、特に、金属ジアルキルホスフィネート(例えば、アルミニウムトリス[ジアルキルホスフィネート]または亜鉛ビス[ジアルキルホスフィネート]など)、および赤リン、ホスファイト、ハイポホスファイト、ホスフィンオキシド、ホスファゼン、メラミンピロホスフェート、ならびにこれらの混合物である。防火添加剤として好ましい窒素化合物は、アラントイン誘導体、シアヌル酸誘導体、ジシアンジアミド誘導体、グリコールウリル誘導体、グアニジン誘導体、アンモニウム誘導体、およびメラミン誘導体の群からのものであり、アラントイン、ベンゾグアナミン、グリコールウリル、メラミン、メラミンの縮合物、例えば、メレム、メラムもしくはメロムまたはこのタイプのより高縮合レベル化合物、およびメラミンと酸(例えば、シアヌル酸)との付加体(メラミンシアヌレート)、メラミンとリン酸との付加体(メラミンホスフェート)、もしくはメラミンと縮合リン酸との付加体(例えば、メラミンポリホスフェート)が特に好ましい。使用される好ましい相乗剤は、亜鉛化合物、好ましくは、ホウ酸亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、および硫化亜鉛、スズ化合物、好ましくはスズ酸スズおよびホウ酸スズ、ならびにマグネシウム化合物、好ましくは酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、およびホウ酸マグネシウムである。炭化剤(carbonizer)として知られる材料を難燃剤に添加することもまた可能であり、これらは好ましくはフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、ポリカーボネート、ポリフェニルエーテル、ポリイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニルスルフィド、およびポリエーテルケトン、ならびにドリップ防止剤(例えば、トリフルオロエチレンポリマーなど)である。
【0101】
本発明の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物は、成分の混合による公知の方法によって製造される。成分は適切な重量による割合で混合される。成分を、好ましくは、成分を一緒に組み合わせ、混合し、混練し、押し出すまたは圧延することによって、220〜330℃の温度で混合する。個々の成分をプレミックスすることが有利であり得る。プレミックスされた成分および/または個々の成分から室温(好ましくは0〜40℃)で製造された物理混合物(乾式ブレンド)を取り、これを成形品または半完成品を直接的に製造のために使用することがさらに有利であり得る。
【0102】
本発明は、成形品、好ましくはレーザー直接構造化(LDSプロセス)によって金属化可能な表面を有する成形品を製造するための、本発明の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物の使用をさらに提供する。
【0103】
射出成形回路基板を製造するためのLDSプロセスの使用は、Kunststoffe、Volume 92(2002)、11、3〜7ページ、Carl Hanser Verlag,Munichから、および独国特許出願公開第19731346A1号明細書、国際公開第00/35259A2号パンフレット、独国特許出願公開第19723734A1号明細書から公知である。
【0104】
LDSプロセスは、その構造が導電性ではない基板物質上に金属導体トラック構造を生成するために追加的な金属化を達成する;このプロセスの特別な特徴は核形成である。必要な核が、微細に分散し、化学的に不動態化された形態で熱可塑性樹脂へ導入され;射出成形プロセス後に、好適なレーザー放射線を用いて部品の表面の導体トラック領域でそれらを利用可能にすることができる。次いで、化学還元金属化プロセスにより、射出成形回路基板の完成形が得られる。
【0105】
射出成形回路基板、または成形相互接続デバイス(MID)は、金属導体トラックが射出成形プラスチック基板に施工されている電子部品に対して使用される用語である。射出成形回路基板は、例えば、工業エレクトロニクス、電気通信エレクトロニクス、自動車エレクトロニクス、輸送の分野、医療技術、エンターテイメント技術、または測定技術および制御技術において使用することができる。特に、プリント回路基板技術と比べた射出成形回路基板の利点は、高レベルのデザイン自由度および機能統合の機会があることである。こうして、電気的特性と機械的特性とを組み合わせることが可能である。この組み合わせは、最終的に使用される部品の数の低減をさらに可能にし、こうして製造プロセスをより効果的にする。
【0106】
欧州特許出願公開第1 274 288 A1号明細書または国際公開第03/005784 A2号パンフレットは、例として、追加的な金属化手段による射出成形3次元回路基板の製造を記載している。
【0107】
したがって、本発明は、本記載による耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物を射出成形し、次いで、レーザー直接構造化を行うことによって得られる射出成形3次元回路基板を提供する。
【0108】
本発明は、好ましくは、射出成形3次元回路基板、好ましくはLDSプロセスによる導電体トラックを有するトグルスイッチ、ロータリースイッチ、調整器、接続要素、プラグコネクター、ケーシング、接点チャンバー、リレー、抵抗器、キャパシター、コンタクター、誘導構成部品、変圧器、トランジスター、またはセンサーを製造するための、本発明の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物の使用を提供する。
【0109】
最後に、本発明は、工業エレクトロニクス、電気通信エレクトロニクス、自動車エレクトロニクス、輸送の分野、医療技術、エンターテイメントエレクトロニクス、または測定技術および制御技術における、本発明に従って得られる射出成形回路基板の使用を提供する。
【0110】
明確にするために、本発明の範囲は、一般論としてまたは好ましい範囲で言及された定義およびパラメーターの全ての任意の所望の組み合わせを包含することに留意されたい。
【実施例】
【0111】
[研究したパラメーター]:
[燃焼試験]:
IEC/EN 60695−2−12によるグローワイヤ可燃性指数(GWFI)
IEC/EN 60695−2−13によるグローワイヤ着火温度(GWIT)
UL94によるV分類
【0112】
[LDSプロセスによって製造された導体トラックの接着性の測定]
LDSプロセス用に開発された成形組成物を使用して通常の射出成形法で試験シートを製造する。次いで、NdYagレーザー(レーザー波長:1064nm)を使用して成形品上に必要なレイアウト(導体トラック構造)を焼きつける。この工程は、その後の銅メッキプロセスのために成形組成物中に存在する添加剤を活性化させる。
【0113】
必要とされるレーザーパラメーターは、成形組成物におよびその表面の性質に依存する。典型的な値は:
− レーザー出力:3〜5W
− 速度:2000mm/秒
− パルス繰り返し周波数:40〜100kHz
である。
【0114】
レーザー構造化プロセスによって生成した剥離材料を除去するための必要なクリーニングの工程の後に、無電流Cu浴(例えば、Rohm and Haas製)を追加の導体トラック構築プロセスのために使用する。約10μmの層を構築した後、層の厚さを電気メッキプロセスによって30〜35μmに増加させる。これは、その後の試験のために必要とされる層の厚さである。
【0115】
接着性は、LPKF Laser & Electronics AG,Osteriede 7,D−30827 Garbsenに準拠して測定した。
【0116】
[成形組成物の構成]:
成分A1:(25℃でフェノール:1,2−ジクロロベンゼン=1:1中で測定して)約0.93cm/gの固有粘度を有する線状ポリブチレンテレフタレート(Pocan(登録商標)B 1300、Lanxess Deutschland GmbH,Leverkusen,Germanyから商業的に入手可能な製品)
成分A2:線状ポリエチレンテレフタレート(PET V004,Invista社,Wichita,USA)
成分B:亜クロム酸銅(CuCr)CAS No.12018−10−9(FERRO GmbH社(Cleveland,USA)のPK3095 Pigment Black)
成分C1:PBT中の三酸化アンチモンマスターバッチ(80/20)(Campine PBT 261530,Campine社,Beerse,Belgium)
成分C2:アンチモン酸ナトリウム CAS No.15432−85−6(Thermogard FR,Chemtura社,Manchester,UK)
成分D1:テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー(F−3100,ICL IP社,Beer Sheva,Israel)
成分D2:テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート(BC52,Chemtura社,Middlebury,USA)
成分D3:ポリ(ペンタブロモベンジルアクリレート(FR−1025,ICL IP社,Beer Sheva,Israel)
成分D4:N,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)(Saytex BT93,Albemarle社,Baton Rouge,USA)
成分E1:メタクリレート/ブタジエン/スチレンポリマーをベースとするゴム(Paraloid EXL2650,Rohm and Haas社,Philadelphia,USA)
成分E2:アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンコポリマーをベースとするゴム(Ineos社のHampshire,UKからのNovodur P60)
成分F:フィラーおよび強化材、例えば、タルク(Jetfine 3CA,Rio Tinto Minerals社,London,UK)またはガラス繊維(CS 7967,Lanxess N.V.社,Antwerp,Belgiumから商業的に入手可能な製品)など
成分G:ポリエステルに一般に使用されるさらなる無機顔料、例えば、二酸化チタン(Kronos社、Dallas,USAからのKronos 2230)または(Sachtleben社,Duisburg,GermanyからのSachtolith(登録商標)HDS)
成分H:ポリエステルに一般に使用されるさらなる添加剤、例えば、離型剤、熱安定剤および核剤、ならびにドリップ防止剤
【0117】
各場合において、対応する比較例および発明実施例は、同じタイプおよび量のさらなる使用添加剤を使用した(成分GおよびH)。
【0118】
【表1】

【0119】
この表は、V−0分類および960℃のGWFIのみならず、775℃以上のGWIT、および非常に良好なレーザー誘導3D−MID金属化可能性をも示すのは、本発明の成形組成物のみであることを明らかに示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)、エポキシ化テトラブロモビスフェノールA樹脂、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、ペンタブロモポリアクリレート、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、臭素化ポリスチレン、デカブロモジフェニルエーテルまたはデカブロモジフェニルエタンの群からの少なくとも1種の有機臭素化合物と組み合わせて、
亜クロム酸銅(CuCr)と、
アンチモン酸ナトリウム、三酸化アンチモンまたは五酸化アンチモンの群からの少なくとも1種のアンチモン含有機能性添加剤と
を含む耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項2】
亜クロム酸銅と、三酸化アンチモンと、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、ポリペンタブロモベンジルアクリレートまたはN,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)の群からの有機臭素化合物とを含む、請求項1に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項3】
亜クロム酸銅と、アンチモン酸ナトリウムと、テトラブロモビスフェノールAエポキシオリゴマー、テトラブロモビスフェノールAオリゴカーボネート、ポリペンタブロモベンジルアクリレートまたはN,N’−エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)の群からの有機臭素化合物とを含む、請求項1に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項4】
成分Aとして40〜90重量%のポリエステル、成分Bとして0.1〜40重量%の亜クロム酸銅、成分Cとして0.1〜15重量%のアンチモン含有機能性添加剤、および成分Dとして0.1〜20重量%の有機臭素化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項5】
45〜65重量%の量の成分Aを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項6】
0.5〜20重量%の量の成分Bを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項7】
0.5〜10重量%の量の成分Cを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項8】
0.5〜18重量%の量の成分Dを含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物。
【請求項9】
成形品、好ましくは金属表面を有する成形品をレーザー直接構造化によって製造するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物の使用。
【請求項10】
射出成形回路基板、好ましくはトグルスイッチ、ロータリースイッチ、調整器、接続要素、プラグコネクター、ケーシング、接点チャンバー、リレー、抵抗器、キャパシター、コンタクターを製造するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物、好ましくはそれらから得られる金属表面を有する成形品の使用。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の耐グローワイヤ性ポリエステル成形組成物を射出成形し、その後、レーザー直接構造化を行うことによって得られる、3次元射出成形回路基板。
【請求項12】
工業エレクトロニクスでの、電気通信エレクトロニクスでの、自動車エレクトロニクスでの、輸送の分野での、医療技術での、エンターテイメントエレクトロニクスでの、または測定技術および制御技術での、請求項11に記載の射出成形回路基板の使用。

【公開番号】特開2010−229410(P2010−229410A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−72467(P2010−72467)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(505422707)ランクセス・ドイチュランド・ゲーエムベーハー (220)
【Fターム(参考)】