説明

耐候性を有する透明蒸着フィルム及びそれを使用した積層体

【課題】 本発明は、長期間にわたって、基材フィルムと無機酸化物蒸着膜との間の高い密着性、及びそれに基く高いガスバリア性を維持することができる透明蒸着フィルム、並びにそれを使用した積層体を提供すること。
【解決手段】 プラスチック材料からなる基材フィルムの一方の面に、耐プラズマ保護層を設け、その上に、プラズマ化学気相成長法により無機酸化物蒸着膜を設けた透明蒸着フィルムであって、該耐プラズマ保護層が、特定の粒子径のアルミナゾルを特定量含む上記透明蒸着フィルムとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック材料からなる基材フィルム上に、プラズマ化学気相成長法(PE−CVD法)によって蒸着膜を設けた透明蒸着フィルムに関し、さらに詳しくは、耐候性に優れ、基材フィルムと蒸着膜との密着性が長期間にわたって高く維持され、したがって、長期間にわたって高いガスバリア性を示す透明蒸着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、ガスバリア性を備えた包装用材料として様々なものが開発されているが、近年、その一つとして、プラスチック材料からなる基材フィルム上に、酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機酸化物の蒸着膜を設けた構成からなるガスバリア性透明蒸着フィルムが注目されている。なかでも、プラズマ化学気相成長法を用いて無機酸化物蒸着膜を形成する場合、蒸着工程において、基材フィルムがプラズマの照射を受けプラズマ処理が施されると共に、材料ガスの化学反応によりフィルム表面に無機酸化物蒸着膜が堆積する結果、該基材フィルムと無機酸化物蒸着膜との密着性が、他の蒸着方法と比較して強固になり、高いガスバリア性が得られることが知られている。
【0003】
しかしながら一方で、該プラズマ処理によるエッチング及びインプランテーションのために、基材フィルムに物理的及び化学的変化が生じることが分かった。このプラズマ処理による基材フィルムの変化は、食品、医薬品等の包装容器として用いる場合には何ら問題がないものの、例えば、ディスプレーや太陽電池等として屋外で長期間にわたって使用した場合、すなわち、長期間にわたる耐候性を要する用途に於いては、基材フィルムの劣化が進行し、層間の密着強度が低下して、ガスバリア性低下に至る恐れがある。
【0004】
基材フィルムをプラズマ処理から保護し、望ましくない物理的及び化学的変化を防ぐために、例えば特許文献1及び特許文献2には、プラズマ処理の前に、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル、硝化綿等の有機化合物からなる耐プラズマ保護層を、基材フィルム上に設けることが開示されている。
しかしながら、これらの発明は、プラズマ処理による瞬時的変化、例えばフィルムの黄変等に対応するものであって耐プラズマ性が十分でなく、長期使用に伴うフィルム劣化及び耐候性低下に対応できるものではない。
さらに、特許文献2記載の発明においては、基材フィルムがポリプロピレンの場合、プラズマ処理によりポリプロピレン表面に、いわゆる弱境界層が生成し、これによりポリプロピレンフィルムと無機酸化物の蒸着膜との密着強度が不足する点が指摘されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−168340号公報
【特許文献2】特許第3953598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の問題に対し、本発明は、プラズマ化学気相成長法における無機酸化物蒸着工程において、基材フィルムへのプラズマ処理による影響を改善し、長期間にわたって、基材フィルムと無機酸化物蒸着膜との間の高い密着性、及びそれに基く高いガスバリア性を維持することができる透明蒸着フィルム、並びにそれを使用した積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、プラスチック材料からなる基材フィルムの面に耐プラズマ性を有する無機系混合液をコーティングし、耐プラズマ保護層を設けることにより、プラズマによるエッチング作用、インプランテーション作用を防ぐことができ、長時間の使用による密着強度の劣化を防止できることを見いだした。
具体的には、プラスチック材料からなる基材フィルムの一方の面に、耐プラズマ保護層を設け、その上に、プラズマ化学気相成長法により無機酸化物蒸着膜を設けた透明蒸着フィルムであって、該耐プラズマ保護層は、(a)アルミナゾルに(b)有機バインダー成分を添加して得られる混合液を塗工し、硬化させてなる層であり、該アルミナゾルは、水分散媒中に平均粒子径が5〜30nm、望ましくは10〜20nmのアルミナが分散してなるゾルであり、そして該アルミナゾルは、固形分換算で、混合液中の全固形成分100質量%に対して該アルミナが5〜50質量%、望ましくは10〜30質量%となる量で配合される、上記透明蒸着フィルムである。
そして、このような条件において、該透明蒸着フィルムが、優れた耐候性を示し、長期間にわたって高いガスバリア性を維持することを見出した。
本発明の有機バインダー成分は、水系ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂のいずれか1以上からなるものである。また、本願の耐プラズマ保護層は、硬化剤を含んでいてもよい。
さらに、上記透明蒸着フィルムの無機酸化物蒸着膜側の面に、ポリオレフィン系樹脂からなるラミネート層を積層した積層体としてもよい。
【発明の効果】
【0008】
従来の、有機化合物を主体とした耐プラズマ保護層とは異なり、本発明の透明蒸着フィルムを構成する耐プラズマ保護層は、無機化合物、すなわちアルミナゾルを主体とするものである。
本発明の耐プラズマ保護層は、プラズマ処理によるエッチングやインプランテーションから基材フィルムを保護し、且つ、基材フィルム及び無機酸化物蒸着膜と優れた密着性を示す。さらに、特定の範囲の粒子径のアルミナゾルからなる場合、プラズマ化学気相成長法により得られる無機酸化物蒸着膜の緻密性を阻害せず、酸素ガス及び水蒸気に対する優れたガスバリア性が得られる。本願発明の透明蒸着フィルムは、優れた耐候性を示し、長期間にわたって高いガスバリア性を維持し続ける必要がある種々の用途に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の透明蒸着フィルムの層構成の一例を示す概略的断面図である。
【図2】本発明の方法に使用する低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について、図面等を用いてさらに詳しく説明する。以下、本明細書において使用される樹脂名は、業界において慣用されるものが用いられる。
<1>本発明の透明蒸着フィルムの層構成
本発明の透明蒸着フィルムの層構成について説明する。
図1は、本発明の透明蒸着フィルムの層構成の一例を示す概略的断面図である。本発明に係る透明蒸着フィルムAは、図1に示すように、プラスチック材料からなる基材フィルム1の一方の面に、耐プラズマ保護層2、無機酸化物蒸着膜3を順に積層した構成を基本構造とするものである。本発明において、無機酸化物蒸着膜は、単層であっても、2層以上からなる多層であってもよい。
【0011】
<2>基材フィルム
本発明の基材フィルムは、化学的ないし物理的強度に優れ、無機酸化物の蒸着膜を形成する条件等に耐え、それら無機酸化物の蒸着膜の特性を損なうことなく良好に保持し得るプラスチックフィルムを使用することができる。
このようなプラスチックフィルムとして、具体的には、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル樹脂、ポリカーボネート系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等の各種のプラスチック材料からなるフィルムを使用することができる。
特に、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂からなるフィルムは、本発明の耐プラズマ保護層との相性がよく、良好な耐プラズマ保護効果が得られ易い。さらに、ポリエチレンナフタレートフィルムは、他の樹脂フィルムに比べて、フィルム自体に高い耐候性及び耐加水分解性が備わっているため、本発明において、耐プラズマ保護層、及びPE−CVD法により設けられる無機酸化物蒸着膜と組み合わせて用いることにより、極めて高い効果が達成される。
【0012】
本発明の基材フィルムとなるプラスチックフィルムは、例えば、上記の樹脂1種又はそれ以上を使用し、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、切削法、インフレーション法等の製膜化法により、又は、2種以上の樹脂を使用して多層共押し出し製膜化法により製造することができる。さらに、所望により、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して1軸ないし2軸方向に延伸することができる。
なお、上記の製膜化に際して種々のプラスチック配合剤や添加剤等を添加することができ、その添加量としては、極く微量から数十%まで、その目的に応じて任意に添加することができる。一般的な添加剤としては、例えば、滑剤、架橋剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、充填剤、補強剤、帯電防止剤、顔料等を使用することができ、さらには、改質用樹脂等も使用することができる。
また、基材フィルムは、必要ならば、その表面に、コロナ処理やフレーム処理等の表面活性処理を任意に施すことができる。
【0013】
<3>耐プラズマ保護層
本発明においては、基材フィルムの一方の面に、耐プラズマ保護層を設ける。本発明の透明蒸着フィルムを構成する耐プラズマ保護層は、プラズマ化学気相成長法により無機酸化物蒸着膜を製膜化する際に、プラズマ処理によるエッチングやインプランテーション等の影響から基材フィルムを保護し、基材フィルムの物理的及び化学的変化を防ぐ。これにより、長期使用に伴う基材フィルムの劣化、無機酸化物蒸着膜との間の密着性の低下、及びそれに基くガスバリア性の低下を防ぐことができる。
本発明において、耐プラズマ保護層は、(a)アルミナゾルに(b)有機バインダー成分を添加して得られる混合液を塗工し、硬化させてなる層であり、該アルミナゾルは、水分散媒中に平均粒子径が5〜30nm、望ましくは10〜20nmのアルミナが分散してなるゾルであり、そして該アルミナゾルは、固形分換算で、混合液中の全固形成分100質量%に対して該アルミナが5〜50質量%、望ましくは10〜30質量%となる量で配合して得られる混合液を塗工し、硬化させてなる層である。
ここで、有機バインダー成分としては、水系ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂のいずれか1以上からなるものである。
さらに、耐プラズマ層には、硬化剤を添加することもできる。
【0014】
(a)アルミナゾル
アルミナゾルは、水を分散媒としたアルミナ水和物のコロイド液である。アルミナゾル
には、安定剤である酸の種類や、結晶形により種々のものがあるが、本発明においては、これらのものを幅広く使用可能である。
特に、本発明においては、酸化アルミAl23の含有量が5〜25%のもの、望ましくは20〜22%、PHが2〜6のもの、望ましくは3〜5、安定剤として使用する酸が、塩酸系、酢酸系、硝酸系のもの、望ましくは硝酸系のもの、粘度が1〜10000(20℃、mPa・s)のもの、望ましくは1〜25(20℃、mPa・s)、粒子形が羽毛状あるいは棒・粒状のもの、望ましくは棒・粒状のもの、比表面積が100〜600(m2/g)のもの、望ましくは130〜270(m2/g)のものが適用できる。
本発明において使用するアルミナゾルは、市販品として入手可能であり、例えば、日産化学社製のアルミナゾル−520、アルミナゾル−200、アルミナゾル−100等が挙げられる。
【0015】
(b)水系ポリウレタン樹脂
本発明の水系ポリウレタン樹脂は、ポリウレタン樹脂をベースとするアニオン性の水分散型ポリウレタンであり、以下に示すような種々のものが使用可能である。
本発明の水系ポリウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートとポリヒドロキシ化合物の反応物であるウレタン樹脂を水に溶解させたもの、もしくは水に乳化分散させたものが使用可能である。このウレタン樹脂の原料であるポリイソシアネートには特に限定はない。また、同じく原料であるポリヒドロキシ化合物についても特に限定はなく、エステル系、エーテル系、カーボネート系等いずれのタイプでもよい。さらにウレタン樹脂は、活性なイソシアネート基を含有する反応タイプのものでもよいし、活性なイソシアネート基を含有しない非反応タイプのものでもよい。
また、本発明の水系ウレタン樹脂組成物としては、低分子量ポリオールと多価カルボン酸又は炭酸とから得られる末端に水酸基を有するポリエステルポリオールおよびビスフェノール骨格含有ジオールを含む高分子量ポリオール化合物と有機ポリイソシアネート化合物とを、鎖延長剤とともに、反応に不活性で水との親和性の大きい溶媒中でウレタン化反応させてプレポリマーとし、このプレポリマーを必要に応じて乳化剤の存在下に水に分散させる方法や、前記の方法において、鎖延長剤の一部として分子中にカルボキシル基を有する低分子量ポリオール化合物を用い、このカルボキシル基を中和して自己乳化分散性を付与したプレポリマーを水に分散させる方法により得られるものでもよい。特に、前記方法のものは、乳化剤を使用する必要がないので工程が簡便となるばかりでなく、塗膜中に残存する乳化剤による悪影響の恐れがないので好ましい。
また、本発明の水系ウレタン樹脂組成物は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネートを含む有機ポリイソシアネート化合物と、高分子量ポリオール化合物、およびアニオン性親水性基と2個以上の活性水素を有する化合物を反応させて得られるイソシアネート基末端プレポリマーを鎖伸長剤にて乳化、伸長してなるウレタン樹脂エマルジョンであって、イソシアネート基末端プレポリマー中のアニオン性親水性基が、第3級アミンにより中和されている水性ポリウレタン樹脂エマルジョンでもよい。
上記の有機ポリイソシアネート化合物としては、通常のポリウレタン樹脂を構成する芳香族ジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環式ジイソシアネート化合物等を挙げることができ、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等を使用することができる。
上記高分子量ポリオール化合物としては、ポリエステルポリオールあるいはポリカーボネートポリオールを使用するのが好ましい。そのようなポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリ−1,4−ブタンアジペートジオールが、また、ポリカーボネートポリオールとしては、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ−1,4−シクロヘキサンジメチレンカーボネートジオール等を挙げることができる。
上記アニオン性親水性基と2個以上の活性水素を有する化合物としては、例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸等を挙げることができる。
本発明において使用する水系ポリウレタン樹脂は、市販品として入手可能であり、例えば、日華化学(株)製の、ネオステッカー200、ネオステッカー400、ネオステッカー700、ネオステッカー1200等が挙げられる。
【0016】
(c)ポリビニルアルコール系樹脂
ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂の他、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られる水溶性のポリビニルアルコール樹脂を使用することができる。
ポリビニルアルコール系樹脂としては、例えば、酢酸ビニルの含有率が約79〜92wt%であるエチレン−酢酸ビニル共重合体を完全ケン化したエチレン含有率25〜50モル%のエチレン−ビニアルコール共重合体を使用することができる。上記のポリビニルアルコール系樹脂、あるいは、エチレン−ビニルアルコール共重合体は、高いガスバリア性を有すると共に透明性にも優れている。
【0017】
(d)ポリビニルピロリドン樹脂
本発明に適用可能なポリビニルピロリドン樹脂としては、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等のビニルピロリドンの単独重合体(ホモポリマー)又はこれらの共重合体が挙げられる。また、ポリビニルピロリドン樹脂の他に、変性ポリビニルピロリドン樹脂を含有してもよい。変性ポリビニルピロリドン樹脂は、N−ビニルピロリドン系モノマーと他のモノマーとの共重合体である。なお、共重合形態は、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合等特に限定されるものではない。
上記のN−ビニルピロリドン系モノマーとは、N−ビニルピロリドン(N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−4−ピロリドン等)、及び、その誘導体であって、誘導体としては、例えばN−ビニル−3−メチルピロリドン、N−ビニル−5−メチルピロリドン、N−ビニル−3,3,5−トリメチルピロリドン、N−ビニル−3−ベンジルピロリドン等のピロリドン環に置換基を有するものが挙げられる。
N−ビニルピロリドン系モノマーと共重合するモノマー成分は、以下のビニル重合性モノマーが挙げられる。例えば(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系モノマー、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、スチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、塩化ビニリデン、四ふっ化エチレン、ふっ化ビニリデン等である。
【0018】
(e)硬化剤
本発明においては、塗膜の性能を向上するために、適宜、硬化剤を添加してもよい。硬化剤としては、例えばイソシアネート系硬化剤、ブロックイソシアネート系硬化剤、メラミン系硬化剤等の硬化剤を、適宜、使用することができる。
イソシアネート系硬化剤には、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の無黄変イソシアネート類が、ブロックイソシアネート系硬化剤には、そのイソシアネート基をカプロラクタム、イソホロン、β−ジケトン等でブロックしたものが、メラミン系硬化剤にはブチル化メラミン等の低級アルコールによりエーテル化されたメラミン、エポキシ変性メラミン等が挙げられる。
本発明において使用する硬化剤は、市販品として入手可能であり、例えば、日華化学(株)製の、NKアシストIS−100N、NKアシストIS−80D、NKアシストCI等が挙げられる。
【0019】
(f)組成比
本発明において、アルミナゾルは、固形分換算で、混合液中の全固形成分100質量%に対して該アルミナが5〜50質量%となる量、望ましくは10〜30質量%となる量に調製される。アルミナゾルの含有率が5質量%より少ないと、十分な耐プラズマ保護能が得られない。また、50質量%より多いと、耐プラズマ保護層の塗工面の平滑性が悪くな
り、PE−CVD法による蒸着膜の緻密性の効果が発揮されず、高いガスバリア性が発現しにくいため、好ましくない場合がある。
上記の混合液中で、アルミナゾル以外の成分の配合比は特に限定されない。これらの配合比は、基材フィルム上に塗工可能な流動性を有し、かつ硬化不良やブロッキング等を引き起こさないように、当業者が適宜決定することができるが、例えば、混合液中の全固形成分100質量%に対する有機バインダー成分、アルミナゾルの配合比は、固形分換算で、有機バインダー成分50〜95質量%、アルミナゾル5〜50質量%である。
有機バインダー成分が50質量%より少ないと塗工膜の凝集力が弱くなり、ラミネート強度が低下する恐れがある。また、95質量%より多いと耐プラズマ保護能が弱まる可能性があるため、好ましくない。アルミナゾルが5質量%より少ないと塗工膜の凝集力が弱くなり、ラミネート強度が低下する恐れがある。また、アルミナゾルを50質量%より多く添加しても、さらなる効果は得られにくい。
本発明において、有機バインダー成分は、任意の溶剤中に溶解された形態で、他の成分と混合してもよい。有機バインダー成分を溶解する溶剤としては、混合液の塗工時の流動性を保って平滑な耐プラズマ保護層を与えることができる任意の溶剤を使用する。
このような溶剤としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤、2−ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール系溶剤、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、メチルシクロヘキサン等の炭化水素系溶剤等を用いることができる。
【0020】
(g)形成方法
本発明において、耐プラズマ保護層を形成することとなる無機系混合液は、以下のようにして作成する。
まず、水を攪拌しながらアルミナゾル(水を分散媒としたアルミナ水和物のコロイド溶液)を加え、さらにイソプロピルアルコール(IPA)を加える。次に、有機バインダー成分を攪拌しながらIPAを加え、その後、アルミナゾル溶液に有機バインダー溶液を加えて無機系混合液とする。
このようにして得られた混合液を、基材フィルム上に塗工し、熱又は光等によって硬化させることにより形成する。本発明において、上記混合液は、例えばロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコート等の公知のコーティング法で塗工することができ、この塗膜から溶剤、希釈剤等を乾燥除去し、硬化させることにより耐プラズマ保護層が完成する。塗工量としては、耐プラズマ保護性及び透明性等の点から、0.15〜0.25g/m2 (乾燥状態)が望ましい。
【0021】
<4>無機酸化物蒸着膜
本発明において、無機酸化物蒸着膜は、当業者に一般的に知られるプラズマ化学気相成長法により形成される。
具体的には、上記の耐プラズマ保護層の上に、有機ケイ素化合物や有機アルミニウム化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、さらに酸素を供給ガスとして使用し、かつプラズマ発生装置等を利用するプラズマ化学気相成長法を用いて無機酸化物蒸着膜を形成することができる。
上記において、プラズマ発生装置としては、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用することができるが、本発明においては、高活性の安定したプラズマを得るために、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0022】
具体的に、上記のプラズマ化学気相成長法による無機酸化物蒸着膜の形成法について、その一例を例示して説明する。図2は、上記のプラズマ化学気相成長法による無機酸化物蒸着膜の形成法についてその槻要を示す低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
図2に示すように、本発明において、低温プラズマ化学気相成長装置21の真空チャンバー22内に配置された巻き出しロール23から、基材フィルム上に耐プラズマ保護層を設けた被蒸着フィルムを繰り出し、さらに、その被蒸着フィルムを、補助ロール24を介して所定の速度で冷却・電極ドラム25周面上に搬送する。
【0023】
本発明においては、ガス供給装置26、27および原料揮発供給装置28から酸素ガス、不活性ガス、蒸着用モノマーガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しなから原料供給ノズル29を通して真空チャンバー22内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム25周面上に搬送された被蒸着フィルムの耐プラズマ保護層の上に、グロー放電プラズマ30によってプラズマを発生させ、これを照射して、無機酸化物蒸着膜を形成し、製膜化し、本発明の透明蒸着フィルムを得る。
本発明においては、その際に、冷却・電極ドラム25は、チャンバー外に配置されている電源31から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム25の近傍には、マグネット32を配置してプラズマの発生が促進されている。次いで、得られた本発明の透明蒸着フィルムをガイドロール33を介して巻き取りロール34に巻き取る。なお、図中、35は真空ポンプを表す。
上記の例示は、その一例を例示するものであり、これによって本発明は限定されるものではない。
【0024】
図示しないが、本発明において、無機酸化物蒸着膜の層は、単層であっても、2層以上からなる多層であってもよく、また、使用する無機酸化物は、単独で使用しても、2種以上の混合物として使用してもよい。
【0025】
一方、冷却・電極ドラムには、電極から所定の電圧が印加されているため、真空チャンバー内の原料供給ノズルの開口部と冷却・電極ドラムとの近傍でグロー放電プラズマが生成され、このグロー放電プラズマは、蒸着用混合ガス組成物中の1つ以上のガス成分から導出されるものであり、この状態において、被蒸着フィルムを一定速度で搬送させ、グロー放電プラズマによって、冷却・電極ドラム周面上の被蒸着フィルムの上に、無機酸化物蒸着膜を形成することができる。
また、上記のプラズマ化学気相成長装置において、無機酸化物蒸着膜の形成は、被蒸着フィルムの上に、プラズマ化した原料ガスを酸素ガスで酸化しながら薄膜状になされるので、得られる無機酸化物蒸着膜は、緻密で、隙間の少ない、可撓性に富む連続層となる。従って、無機酸化物蒸着膜のガスバリア性は、従来の真空蒸着法等によって形成される無機酸化物蒸着膜と比較してはるかに高いものとなり、薄い膜厚で十分なガスバリア性を得ることができる。
【0026】
また、本発明においては、基材フィルムと無機酸化物蒸着膜との間に耐プラズマ保護層を設けることにより、プラズマ処理により基材フィルムが受けるエッチングやインプランテーションの影響を防ぎ、長期にわたって、層間の高い密着性及びそれに基く高いガスバリア性を維持することができる。
【0027】
本発明において、無機酸化物蒸着膜を構成する無機酸化物としては、例えば酸化珪素、酸化アルミニウム、及び種々の金属酸化物が挙げられる。
また本発明において、無機酸化物蒸着膜の膜厚は5〜400nmであることが望ましく、特に10〜100nmが望ましい。400nmより厚いと、クラック等が発生し易くなるので好ましくなく、また5nm未満であると、ガスバリア性の効果を期待できない。
【0028】
本発明において、無機酸化物蒸着膜の形成のために、蒸着用モノマーガスの原料として、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等の有機ケイ素化合物、及びトリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウム等の有機アルミニウム化合物、及びその他一般的に用いられる有機金属化合物を用いることができる。
また、キャリヤーガスとしては、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス等の一般的に用いられる不活性ガスを使用することができる。
【0029】
本発明においては、蒸着用混合ガス組成物の各ガス成分の混合比としては、例えば、蒸着用モノマーガスが1〜40体積%、酸素ガスが10〜70体積%、及び不活性ガスが10〜60体積%程度とすることができるが、用いる原料化合物の種類、チャンバー内に残留する酸素ガス及び水、プラズマのエネルギー等種々の条件に応じて変化する。
【0030】
<5>積層体
上記の基材フィルム/耐プラズマ保護層/無機酸化物蒸着膜からなる本発明の透明蒸着フィルムの無機化合物蒸着膜側の面に、適宜、各種フィルム、例えばポリオレフィンフィルムからなるラミネート層を1層または2層以上積層し、積層体を得ることができる。本発明の透明蒸着フィルムに上記のようなラミネート層を積層することにより、フィルムの物理的強度が向上される。ラミネート層は、例えばドライラミネート法、無溶剤型ラミネーション法、押し出しラミネーション法、共押し出しラミネーション法等により積層することができる。
【0031】
また、本発明において使用するのに好適なラミネート用接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、アクリル酸のエチル、ブチル、2−エチルヘキシルエステル等のホモポリマー、または、これらとメタクリル酸メチル、アクリロニトリル、スチレン等との共重合体等からなるポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸エチル、アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーとの共重合体等からなるエチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、尿素樹脂またはメラミン樹脂等からなるアミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、スチレン−ブタジエンゴム等からなるゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、アルカリ金属シリケート、低融点ガラス等からなる無機系接着剤等の接着剤を使用することができる。
【0032】
上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型、分散型等のいずれの組成物形態でもよく、また、その性状は、フィルム・シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよく、更に、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型、熱圧型等のいずれの形態でもよいものである。
本発明においては、積層する両者の一方の面に、上記のラミネート用接着剤を、例えば、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法等のコート法、あるいは、印刷法等によって施し、次いで、溶剤等を乾燥させる。そのコーティングないし印刷量としては、0.1〜10g/m2(乾燥状態)が望ましい。
【実施例】
【0033】
(1)厚さ12μmのPETフィルムのコロナ処理面に、下記組成の無機系混合液をグラ
ビアコート法により塗工し、100℃で30秒間乾燥して、厚さ0.2μmの耐プラズマ保護層を得た。
<無機系混合液の調整>
耐プラズマ性を有する無機材料(アルミナゾル)に、有機材料(PETフィルム)との密着性を向上させる為、有機樹脂(アクリル変性ポリウレタン樹脂)を混合し、更にイソシアネート化合物を適宜、添加して、本無機系混合液を得た。
【表1】

【0034】
(2)上記で耐プラズマ保護層を形成したPETをPE−CVD装置に装着して、下記の条件で厚さ140Åの酸化珪素の蒸着膜を上記の耐プラズマ保護層の上に形成して、本発明にかかる透明バリアフィルムを製造した。
反応ガス混合比 HMDSO:酸素:ヘリウム=1:10:10
真空度:6.0×10-2mbar
電力:22kW
速度:100m/min
【0035】
(3)上記で製造した透明バリアフィルムを用いて下記仕様の積層体を製造した。
PET12μm/耐プラズマ保護層/酸化珪素の蒸着膜/接着剤層/高密度ポリエチレンフィルム70μm
2液硬化型のポリウレタン系ラミネート用接着剤をグラビアロールコート法を用いて厚さ4.0g/m2(乾燥状態)にコーティングしてラミネート用接着剤層を形成し、次いで、該ラミネート用接着剤層の面に、厚さ70μmの高密度ポリエチレンフィルムのコロナ処理面を対向させて重ね合わせ、しかる後、その両者をドライラミネートして積層した。
【0036】
(4)耐候性の評価
上記実施例1〜3及び比較例1、2で製造した積層体の耐候性試験を下記条件にて行った。
機械:キセノンロングライフウェザーメーター(スガ試験機(株)製)
温度:63℃ 湿度:50% 照度:320W/m2 照射時間:300時間
評価は、積層体層間のラミネート強度及び水蒸気透過度を以下の条件下で測定すること
により行った。
【0037】
<積層体層間のラミネート強度>
未照射(0時間)及び300時間光照射した後の上記積層体を15mm巾の短冊切りにし、テンシロンによるT字剥離法で、剥離速度50mm/minにて測定した。
また、300時間の光照射による上記積層体のフィルム外観の変化を観察した。結果は、下記の表2に示すとおりであった。
【表2】

実施例1〜3の本発明にかかる積層体はいずれも、300時間光照射した後も、高いラミネート強度を維持しており、層間の剥離もなく、美麗なフィルム外観を保っていた。
これに対し、比較例1の積層体がなく耐プラズマ保護層を有しないため、未照射の状態では高いラミネート強度を示したにもかかわらず、300時間光照射した後は大幅に低下しており、ラミネート強度が低下し層間の剥離が生じていた。
また、比較例2の積層体は、アルミナゾルの配合比が少なく、耐プラズマ保護性が劣るため、300時間光照射した後はラミネート強度が大幅に低下しており、層間の剥離が生じていた。
【0038】
<水蒸気透過度>
未照射(0時間)及び300時間光照射した後の上記積層体の水蒸気透過度を、温度40℃、湿度100%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、パ−マトラン(PERMATRAN)〕にて測定した。結果は下記の表3に示すとおりであった。
【表3】

実施例1〜3の本発明にかかる積層体はいずれも、300時間光照射した後も、優れた水蒸気バリア性を維持していた。
これに対し、比較例1、2の積層体は、基材フィルムの劣化により、層間に剥離が生じていたため、バリア劣化が生じた。
【符号の説明】
【0039】
1 基材フィルム
2 耐プラズマ保護層
3 無機酸化物蒸着膜
21 低温プラズマ化学気相成長装置
22 真空チャンバー
23 巻き出しロール
24 補助ロール
25 冷却・電極ドラム
26、27 ガス供給装置
28 原料揮発供給装置
29 原料供給ノズル
30 グロー放電プラズマ
31 電源
32 マグネット
33 ガイドロール
34 巻き取りロール
35 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック材料からなる基材フィルムの一方の面に、耐プラズマ保護層を設け、その上に、プラズマ化学気相成長法により無機酸化物蒸着膜を設けた透明蒸着フィルムであって、該耐プラズマ保護層は、(a)アルミナゾルに(b)有機バインダー成分を添加して得られる混合液を塗工し、硬化させてなる層であり、該アルミナゾルは、水分散媒中に平均粒子径が5〜30nmのアルミナが分散してなるゾルであり、そして該アルミナゾルは、固形分換算で、混合液中の全固形成分100質量%に対して該アルミナが5〜50質量%となる量で配合されることを特徴とする上記透明蒸着フィルム。
【請求項2】
有機バインダー成分が、水系ポリウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂のいずれか1以上からなる、請求項1記載の透明蒸着フィルム。
【請求項3】
耐プラズマ保護層が、さらに硬化剤を含む、請求項1または2に記載の透明蒸着フィルム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の透明蒸着フィルムの無機酸化物蒸着膜側の面に、ポリオレフィン系樹脂からなるラミネート層を積層した積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−724(P2011−724A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143193(P2009−143193)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】