説明

耐摩耗性改良型可ボンディング印刷配線

印刷配線部材の誘電体基板上にパターン化銅層を形成する。そのパターン化銅層は、(i)ワイヤボンディング用の電極パッド、(ii)導電コネクタとの導電接続用のコネクタパッド、並びに(iii)対応する電極パッド・コネクタパッド間を接続する導電トレース、を備える構成にする。電極パッド上及びコネクタパッド上にニッケル被覆を発生させ、電極パッド及びコネクタパッドの上方に位置するようニッケル被覆上に金層を発生させる。少なくともコネクタパッドの上方に位置するよう金層上にパラジウム堆積部を発生させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤボンディングが可能な電極パッド及び耐摩耗性が高いコネクタパッドを有する印刷配線部材、特にインクジェットプリントヘッド用の印刷配線部材に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷配線部材は、電子部品間を低コストで導電接続する手段として広く使用されている。そのなかには、ワイヤボンディング、TAB(tape automated bonding)等の手法で半導体チップに直結される電極パッドを備えるものもあれば、同じ電子システム内の他の回路につながる導電コネクタを繰返し着脱することが可能なコネクタパッドを備えるものもある。インクジェットプリントヘッド用の印刷配線部材は、そうした電極パッド及びコネクタパッドを併有するものの一例である。その場合、電極パッドの接続先半導体チップはインクジェットプリントヘッドダイであり、そこにはノズル群に加えノズルから滴を吐出させる滴形成機構やその動作を司る電子回路が設けられていることが多い。コネクタパッドを使用しプリンタ本体に接続するのは、一般にプリンタ本体の方が長寿命であり、インクジェットプリントヘッドの交換が必要になるためである。
【0003】
仕様上、インクジェットプリントヘッドの着脱は1回行えれば足りるが、システムの信頼性を高めるには、コネクタパッドを10〜20回以上の着脱に耐えうる構成にするのが望ましい。そうした多数回の着脱に耐えうる高信頼接続部位は、周知の如く、コネクタパッド表層に硬質金層を設けることで実現できる。例えば、コバルトやニッケルを0.1〜0.3%程度添加し金メッキを施すことで、純度=約99.7%の硬質金層を発生させることができる。ただ、本件技術分野で周知の如く、硬質金層への確実なワイヤボンディングは難しい。コネクタパッドを硬質金層、電極パッドを純度=約99.9%の軟質金層で実現すれば、コネクタパッドの耐摩耗性が高く且つ電極パッドへのワイヤボンディングが可能な印刷配線部材となるものの、硬質金層生成用のマスキング/メッキ工程と軟質金層生成用のマスキング/メッキ工程とが別々になるためコスト増が発生する。
【0004】
特許文献1には、印刷配線部材上に銅製の電極パッド及びコネクタパッドを設け、それに対する電解メッキで電極パッドのボンディング性及びコネクタパッドの耐摩耗性を高める手法が記載されている。記載されているのは、銅箔上に80〜200μインチ(2〜5μm)厚のニッケル被覆、そのニッケル被覆上に約35μインチ(0.9μm)厚のパラジウム堆積部、そしてそのパラジウム堆積部上に5〜30μインチ(0.1〜0.75μm)厚の軟質金層をそれぞれ電解メッキで発生させる、というものである。電極パッドの表面に高純度な高純度な軟質金層があるのでワイヤボンディングの歩留まりが高く、パラジウム堆積部が耐摩耗性に優れているのでコネクタパッド表面の軟質金層が摩耗しても安定的な導電接続を保つことができる。ただ、この手法には、高価格なパラジウム及び高純度な金で厚手の層を発生させる必要がある、という難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5910644号明細書
【特許文献2】米国特許第6139977号明細書
【特許文献3】米国特許第6519845号明細書
【特許文献4】米国特許第7350902号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
企業間競争に勝つには、インクジェットプリントヘッドの信頼性を高めると同時にコストを抑える必要がある。そのため、ボンディングの信頼性が高く、コネクタパッドの耐摩耗性が高くてプリントヘッドの繰返し着脱に耐えることができ、しかも低コストな印刷配線部材が求められている。更に、インクジェットプリントヘッド上でダイ(及びワイヤボンディング用の電極パッド)が配される面とは別の面にコネクタパッドが配されがちであることから、ボンディングの信頼性が高く、耐摩耗性に優れ、且つ低コストな可撓性印刷配線部材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上述した諸問題のうち1個又は複数個を解決することができる。概要を述べると、本発明の一実施形態に係る印刷配線部材は、(a)誘電体基板と、(b)誘電体基板上に形成されており、(i)ワイヤボンディング用の電極パッド、(ii)導電コネクタとの導電接続用のコネクタパッド、並びに(iii)対応する電極パッド・コネクタパッド間を接続する導電トレース、を有するパターン化銅層と、(c)電極パッド上及びコネクタパッド上に形成されたニッケル被覆と、(d)電極パッド及びコネクタパッドの上方に位置するようニッケル被覆上に形成された金層と、(e)少なくともコネクタパッドの上方に位置するよう金層上に形成されたパラジウム堆積部と、を備えるものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施環境たるインクジェットプリンタシステムの模式図である。
【図2】そのプリントヘッドの部分斜視図である。
【図3】それを用いたキャリッジプリンタの部分斜視図である。
【図4】そのキャリッジの斜視図である。
【図5】そのキャリッジプリンタにおける媒体経路例の模式的側面図である。
【図6】本発明の一実施形態に係る印刷配線部材の模式的頂面図である。
【図7】図6に例示した印刷配線部材及びそれにワイヤボンディングされた数個のプリントヘッドダイの模式的頂面図である。
【図8】本発明の一実施形態に係る印刷配線部材製造方法の処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に、本発明の実施環境たるインクジェットプリンタシステム10の概要を示す。特許文献4に記載の通り、本システム10は、データ信号を供給する画像データ源12や、そのデータ信号を解読して滴吐出指令を発するコントローラ14を備えている。コントローラ14は、内蔵する画像処理ユニット15を用い印刷対象画像をレンダリングして電気信号を出力する。電気パルス源16は、その信号に応じ電気パルスを発生させ、幾つかのダイ110を備えるインクジェットプリントヘッド100に供給する。
【0010】
図示例におけるノズルアレイ本数は2本である。そのうち第1ノズルアレイ120は開口面積が大きいノズル121、第2ノズルアレイ130は小さいノズル131の配列で形成されている。個々のアレイにおけるノズル配置は二行千鳥配置、一行当たりのノズル密度は600個/インチとなっている(1インチ=約2.5×10ー2m)。従って、1アレイ当たり実質的ノズル密度は1200個/インチ、図中のdは1/1200インチである。仮に、媒体進行方向に沿い記録媒体20上の画素に番号を振ったとしたら、各アレイを構成する行のうち一方に属するノズルで印刷される画素には偶数、他方に属するノズルで印刷される画素には奇数の番号が付くこととなろう。
【0011】
それらのノズルアレイにはインク供給路がめいめいに連通している。即ち、第1ノズルアレイ120にはインク供給路122、第2ノズルアレイ130にはインク供給路132が連通している。それら供給路122,132の一部は、インクジェットプリントヘッドダイ110の基板111を貫く開口となっている。図示例ではダイ110の個数が1個だが、インクジェットプリントヘッド100内に複数個のダイ110を設けることも可能である。ダイ110を支える部材については後掲の図2を参照されたい。また、図中の第1流体源18は供給路122を介しアレイ120に、第2流体源19は供給路132を介しアレイ130にインクを供給する源となっている。図示例では両者が互いに別体だが、用途によっては、対応する供給路122,123を介しアレイ120,130にインクを供給する源を共通化することもできる。ダイ110内ノズルアレイ本数を2本以外の本数にすることや、ダイ110内ノズルサイズを(複数通りにではなく)一様化することも可能である。
【0012】
個々のノズルに係る滴形成機構としては、様々なタイプを使用することができる。図示を省略するが、加熱素子でインクの一部を気化させることで滴を吐出させるタイプ、圧電トランスデューサでインク室容積を変化させることで吐出を引き起こすタイプ、バイレイヤ素子の加熱といった手段でアクチュエータを作動させ吐出を引き起こすタイプ等がある。いずれのタイプでも、発生させるべき堆積パターンに従い電気パルス源16から諸滴発生器へと電気パルスが供給されることになる。図示例では、ノズル開口面積に差があるため、第1ノズルアレイ120から吐出される滴181が、第2ノズルアレイ130から吐出される滴182に比べ、大きな滴となっている。図示しないが、様々な大きさの滴を最適な滴形成プロセスで発生させるには、滴形成機構のサイズもアレイ120,130間で違えるのが望ましい。こうして生成されたインク滴は記録媒体20上に堆積されていく。
【0013】
図2に、このインクジェットプリントヘッド100の一例たるプリントヘッド250の部分斜視外観を示す。本ヘッド100は、図1に示したインクジェットプリントヘッドダイ110に類するプリントヘッドダイ251を3個備えている。ノズルアレイ253のダイ1個当たり本数は2本、ヘッド250全体では6本である。図示しないが、それら6本のアレイ253は互いに別のインク室に連通しており、個々のインク室には順にシアン、マゼンタ、イエロー、テキストブラック、フォトブラック及び保護無色の各流体インクが入っている。各アレイ253の延長方向は254、その長さは1インチである。それ未満の寸法にすることもできる。記録媒体の一般的な長さが4×6インチ写真プリントなら6インチ、8.5×11インチ記録紙なら11インチであるので、本ヘッド250で像全体を印刷する際には、幾本かのスワスを相次いで印刷する必要がある。個々のスワスの印刷は、記録媒体20の全幅に亘り本ヘッド250を動かすことでスワス1本分を印刷し、ノズルアレイ延長方向254に対し略平行な方向に沿い媒体20を進行させる、という手順で行う。
【0014】
プリントヘッドダイ251は、後に図7を参照して詳述する要領で図中の印刷配線部材220と導電接続されている。この部材220は本発明の一実施形態に係る部材であり、ボディ257の縁を巡る部分で屈曲を呈するようプリントヘッド250のボディ257に固定されている。図示例では可撓性であるが、本部材220を堅固性にすることもできる。また、本部材220上には、電極パッド224、コネクタパッド226及びそれらを結ぶ導電トレース225が各複数本設けられている。電極パッド224は、対応するボンディングワイヤと共に保護被覆、具体的には熱硬化性の封止材256で覆われている。コネクタパッド226は、キャリッジ200側の導電コネクタ244と同じくアレイ状に並んでいる。従って、プリントヘッド250を図3及び図4の如くキャリッジ200上に装着すると、コネクタパッド226が対応するピンに導電接続され、ダイ251に至る信号伝達路が形成されることとなる。
【0015】
図3に、そのプリントヘッド250が搭載されているプリンタの部分斜視外観を示す。一部の部材が明示される一方で他の部材が隠れている点は了解されたい。本プリンタはキャリッジ200を備えるデスクトップタイプのプリンタであり、そのシャーシ300上には印刷区画303が設けられている。この区画303は、プリンタシャーシ300の右側部306・左側部307間をキャリッジ200がX軸の延長方向305に沿い反復的に運動する途上で、そのキャリッジ200上のヘッド250により走査される区画であり、ヘッド250の陰にあるダイ251による滴の吐出はこの区画303内で実行される。キャリッジモータ380は、キャリッジ200がそのガイドレール382に沿いこうした運動を呈するようベルト384を駆動する。図示しないが、キャリッジ200上あるエンコーダセンサで、エンコーダフェンス383に対するキャリッジ200の位置を検出することができる。
【0016】
キャリッジ200にはプリントヘッド250が装着され、そのヘッド250には多室インク源262及び単室インク源264が装着されている。キャリッジ200にヘッド250を装着する際には、図4中の導電コネクタ244にコネクタパッド226が接続されるよう、ヘッド250の姿勢を図2に示した姿勢ではなく図3に示した姿勢とする。即ち、プリントヘッドダイ251が下側にあり、印刷区画303での対記録媒体インク吐出方向が図3中で下向きになる姿勢にする。また、多室インク源262に備わるインク室はシアン用、マゼンタ用、イエロー用、フォトブラック用及び保護無色用の都合5個、単室インク源364のそれはテキストブラック用の1個である。紙等の記録媒体が装荷される方向302はプリンシャーシ前部308に向かう方向である。
【0017】
図5に、このプリンタで媒体送りに使用される諸ローラの側面を模式的に示す。この例では、スタック370を形成している記録媒体例えば紙のなかで一番上にあるシート371が、ピックアップローラ320の働きで、矢印で示す媒体装荷方向302沿いに送り出される。そのシート371は、ターンローラ322及び後部湾曲壁の働きで「C」字状経路沿いに送られ、図3中のプリンタシャーシ背部309から離れ方向304沿いに進み、フィードローラ312及びアイドラローラ323の働きでY軸に沿い印刷区画303に送られ、そこで印刷が施された後にディスチャージローラ324及びスターホイール325経由で排出される。フィードローラ312としては、その軸沿いに延びるフィードローラシャフト上にフィードローラギア311を装着したものが使用されているが、フィードローラシャフト上に別のローラを装着したものや、フィードローラシャフト上に薄い高摩擦被覆を設けたものを使用してもよい。図示しないが、フィードローラシャフト上にロータリエンコーダを同軸配置すれば、フィードローラ312の角度位置を検出することができる。
【0018】
これらのローラは図示しない媒体送りモータによって駆動される。図3中、プリンタシャーシ右側部306に設けられている孔310は、そのモータと連動するギアを通し、フィードローラギア311や図示しないディスチャージローラギアと係合させるためのものである。通常の媒体ピックアップ・送り動作では、それら媒体送りローラを原則として順回転方向313に回転させる。また、同図中、プリンタシャーシ左側部307には保守ステーション330がある。
【0019】
同図中、プリンタシャーシ背部309には電子回路基板390が配置されている。その基板390上のケーブルコネクタ392には図示しないケーブルが接続される。基板390はそれらを介しキャリッジ200上のプリントヘッド250とやりとりを行う。また、この基板390上には、キャリッジモータ380及び媒体送りモータを制御するモータコントローラ、印刷プロセスを制御するプロセッサ乃至制御用電子回路(図1に示したコントローラ14及び画像処理ユニット15に相当)、ホストコンピュータとのケーブル接続用のコネクタ等も実装されている。
【0020】
図6に、本発明の一実施形態に係る印刷配線部材220の頂面を模式的に示す。本部材220は誘電体基板222を母材としている。図2に示す如く縁周りで屈曲させるため、本実施形態では、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の素材で形成された可撓性の基板222を使用している。平坦乃至略平坦な印刷配線部材220にする場合は、ガラス繊維入りエポキシ樹脂等の素材で形成された堅固性の基板222を使用することもできる。また、本部材220には複数個の電極パッド224、複数個のコネクタパッド226、並びに対応する電極パッド224・コネクタパッド226間を導電接続する複数本の導電トレース225が備わっている。簡略化のため、電極パッド224・コネクタパッド226を結ぶ導電トレース225のうち一部に関しその図示を省略してある。そして、本部材220は開口228を有している。
【0021】
電極パッド224、コネクタパッド226及び導電トレース225は、母体となる銅層及びそれを覆う所要金属層で構成されている。本発明について説明するのに先立ち、この段落で、従来の印刷配線部材について簡単に説明することにする。まず、従来は、銅層へのメッキで数μm厚のニッケル被覆を発生させた後、そのニッケル被覆へのメッキで薄い金層を発生させることで、電極パッドやコネクタパッドを作成するのが一般的であった。電解メッキであれば0.5μm厚の軟質金層、無電解メッキであれば0.1μm厚の金層を発生させることができる。従来、そうした金層が使用されていたのは、ボンディング先金属化面(電極パッド側金層の場合)や耐腐食面(コネクタパッド側金層の場合)を提供するためである。即ち、従来は、電極パッドへのワイヤボンディングを確実化するため、高純度な軟質金層を電極パッド側に設ける必要があった。同様に、耐摩耗性が高く着脱の繰返しに耐えうるコネクタパッドにするため、約0.1〜0.3%のコバルトやニッケルで合金化した硬質金層をコネクタパッド側に設ける必要があった。なお、導電トレースについては、銅のままとすることも他の金属で被覆することも可能であった。
【0022】
翻って、図7に、本発明の一実施形態に係る印刷配線部材220及びその開口228内に配置された3個のプリントヘッドダイ251の頂面を模式的に示す。個々のダイ251は幾本かのノズルアレイ253を有している。各ダイ251の両端にはボンディングパッド252が幾つかずつ設けられており、それらにはボンディングワイヤ255がボンディングされている(簡明化のため最上位置のダイ251のみについて図示)。そのワイヤ255例えばアルミニウムワイヤの他端は、印刷配線部材220上の電極パッド224に超音波熔接されている。その印刷配線部材220の誘電体基板222としては、可撓性があり導電トレース225が通る領域229で曲げうるものが使用されている。これは、図2に示した如く、プリントヘッドダイ251の配置面とコネクタパッドの配置面とが異なるプリントヘッドでこの部材220が使用されるためである。なお、他の電気部品を半田付け等の手段で接続・固定し、それらを含む回路を印刷配線部材220上に発生させることも可能である。その場合は、十分に導電性が高く好適な半田付が可能な金属層を半田付け部位とする必要がある。
【0023】
図8に、本発明の一実施形態に係る印刷配線部材220の製造方法をフローチャートで示す。図示した工程のうち、405、410、415及び420は印刷配線部材上の銅層をパターン化する工程、425、430、435、440及び445はENIG(無電解ニッケル/置換金)金属化を施す工程、455及び460は印刷配線部材を仕上げる工程であり、いずれも一般的に採用されているものである。重要なのは太線で括られている工程450、即ち工程445で発生させた金層上に無電解メッキでパラジウム堆積部を発生させる工程である。本実施形態では、これにより、電極パッド224のボンディング性を損なうことなく、コネクタパッド226の耐摩耗性を高めるようにしている。
【0024】
印刷配線部材220の製造に当たっては、本件技術分野での常識に従い、誘電体基板222上に薄い銅箔を積層した構成の印刷配線前部材を使用する。使用するのは、通例通り、1枚の印刷配線部材220に比べかなり大きい印刷配線前部材である。一連の工程が済んだ後の切り分けで、1枚の印刷配線前部材から多数枚の印刷配線部材220を製造するためである。工程405では、その銅箔のうち残したい領域にマスキングを施し光食刻に備える。工程410では、銅箔の露出部分即ちマスク外領域から銅をエッチング等で除去し、電極パッド、コネクタパッド及び導電トレースのパターンを有する印刷配線部材を作成する。工程415では、残っている銅層からマスクを剥離させる。その後は、通例に倣い銅層にメッキを施し、拡散障壁層たるニッケル被覆及び表層たる金層を発生させる。銅層のままでは、コネクタパッドとしても直にワイヤボンディングされる電極パッドとしても好適に使用できないためである。ただ、そのままメッキするとニッケルや金が導電トレース上にも付着してしまうので、工程420では、銅層上の該当部位に保護層となる有機誘電体層を発生させて素材コストを抑えるようにしている(省略可)。
【0025】
また、従来の印刷配線部材や印刷回路基板では、ニッケル被覆や金層を発生させる手段として電解メッキが使用されることが多かった。電解メッキには面倒でコストがかかるという難点がある。そこで、本実施形態では、銅層上にニッケル被覆や金層を発生させる手段として、無電解メッキによるENIG(無電解ニッケル/置換金)金属化プロセスを使用する。ENIG金属化プロセスは例えば次のようなプロセスである。まず、工程425では、印刷配線部材又はそのパネルを表面浄化槽に入れてパターン形成面を清掃する。例えば、55℃のクエン酸アンモニウム(クエン酸NH4)溶液内で清掃した後、室温の水ででその液をすすぎ落とす。工程430では、その印刷配線部材の清掃済面にエッチングを施す。例えば、硫酸(H2SO4)を2%含有する硫酸水素ナトリウム(NaHSO4)溶液内で表面エッチングを施した後、室温の水でその液をすすぎ落とす。工程435では、その面に表面活性化処理を施す。例えば、硫酸を1%含有する硫酸パラジウム(PdSO4)水溶液内での無電解メッキで銅層の露出部分上にパラジウム堆積部を発生させ、その液を室温の水ですすぎ落とす。この工程で発生するパラジウム堆積部は例えば0.03μm厚程度と薄く、引き続く無電解メッキでニッケル被覆を発生させる際に表面触媒として作用する。工程440では、印刷配線部材のパターン形成面上にある金属露出部分上に無電解メッキでニッケル被覆を成長させる。例えば、温度が80℃でpHが4.5の次亜燐酸ニッケル(Ni(H2PO22)のように燐及びニッケルを含む液内で無電解メッキを施した後、室温の水でその液をすすぎ落とす。これにより、例えば、隣を2%以上含有する2〜4μm厚程度のニッケル被覆が表面に発生する。これに代え、パラジウムを触媒として銅層表面にニッケル被覆を成長させるプロセスで、数原子層程度即ち0.01μm未満の薄いニッケル被覆を発生させるようにしてもよい。工程445では、ニッケル被覆の露出部分上に無電解メッキで金層を成長させる。例えば、温度が80℃でpHが4.5でシアン化金(AuCN)、クエン酸アンモニウム(クエン酸NH4)及びエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(Na2EDTA)を含む溶液のように、金イオンが含まれる液内で無電解メッキを施した後、室温の水でその液をすすぎ落とす。これにより、ニッケル被覆又はその表面近傍部分でニッケルから金への置換が起こり、約0.05〜0.2μm厚の軟質金層、即ち耐摩耗性が高くコネクタパッドに相応しい(恐らくは多孔質の)金層が発生する。ENIG金属化に係る工程425〜445はこれで終わりである。
【0026】
次いで、本実施形態で際立って重要な工程450を実行する。この工程では、電極パッド224のボンディング性を損なうことなく耐摩耗性の高いコネクタパッド226が得られるよう、金層の露出部分上に無電解メッキでパラジウム堆積部を成長させる。例えば、先行する表面活性化工程435に倣い、硫酸を1%含有する硫酸パラジウム(PdSO4)水溶液等のパラジウムイオン含有溶液内でパラジウムによる無電解メッキを金層に施す。電解メッキで0.5μm厚まで成長させた軟質金層上に無電解メッキでパラジウム堆積部を成長させることは容易でないが、工程445で無電解メッキにより成長させた金層上には、理論は定かでないものの、無電解メッキでパラジウム堆積部を成長させることができる。これは、恐らく、無電解メッキで成長させると多孔質の金層になり、その孔を介し燐含有ニッケル被覆に達した硫酸パラジウム溶液中のパラジウムイオンがそこでイオン交換及び還元反応に曝されるからであろう。その結果金層上に発生するパラジウム堆積部は、メッキ時間が短い場合や溶液内パラジウム濃度が低い場合は不連続層になり、メッキ時間が長い場合は当該不連続層同士の合体で連続層になると見られる。ひいては、パラジウムによる無電解メッキにかける時間を適宜設定することで、コネクタパッド226の耐摩耗性を高めることができる。パラジウムによる無電解メッキを例えば室温下で金層に施すのであれば、メッキ時間を5秒〜10分、できれば20〜150秒、特に45〜90秒にするのが望ましい。パラジウムによる無電解メッキは室温下以外でも行えるが、室温下なら一般に比較的簡略なプロセスとなる。また、パラジウムによる無電解メッキにかけるべき時間は溶液内パラジウム濃度にも依存する。溶液内パラジウム濃度が100ppmなら、0.02〜0.2μm厚のパラジウム堆積部を、上掲のメッキ時間で金層上に発生させることができる。濃度がより高ければ、同等厚のパラジウム堆積部を、より短い時間で発生させることができる。この工程、即ち無電解メッキで金層上にパラジウム堆積部を発生させる工程を含む手法で印刷配線部材を製造し、それをX線光電子分光分析で調べてみたところ、当該パラジウム堆積部内のパラジウムがほぼ全て、パラジウムイオンPd+2ではなく金属パラジウムPd0になっている、との結果が得られた。具体的には、金層上のパラジウム堆積部のうち90%超が金属パラジウム、10%未満がパラジウムイオンという結果が得られた。
【0027】
無電解メッキで金層上にパラジウム堆積部を発生させた後は、工程455にて印刷配線部材のパネルをすすぎ乾燥させた後、工程460にてそのパネルに切断等を施し複数枚の印刷配線部材220へと分断する。得られた印刷配線部材220をプラズマ洗浄するようにしてもよい。
【0028】
また、金層上に無電解メッキでパラジウム堆積部を成長させる工程を含む手法で製造した印刷配線部材に関し、更なる試験を行ってみたところ次の点が判明した。まず、電極パッドのボンディング性を調べるためワイヤ引張試験を行ったところ、150℃で18時間に亘り熱サイクルに曝した後でも接合ヒールが破損するのみで、接合フットの持ち上がりが生じない、という良好な結果が得られた。また、合焦イオンビーム分析を行ったところ、その接合界面にてアルミニウムワイヤ内に金及びパラジウムが拡散していることが明らかになった。これは、ENIG金属化部位にボンディングされたアルミニウムワイヤ内に金が拡散するのと同様の現象であり、ワイヤボンディングが原子レベルで強靱であることを示唆している。
【0029】
金層上にあるパラジウム堆積部の主たる機能は、コネクタパッド225の耐摩耗性を高めることである。上掲の実施形態では、電極パッド224側の金層上にもコネクタパッド226側の金層上にも無電解メッキでパラジウム堆積部を成長させているが、コネクタパッド226側の金層上だけに無電解メッキでパラジウム堆積部を成長させるようにしてもよい。
【0030】
また、図3に示すインクジェットプリントヘッドでは、キャリッジ200にプリントヘッド250を装着すると、導電コネクタ244上にある一群のバネ付勢型ピン243(図4参照)が、印刷配線部材220上にある対応するコネクタパッド226(図6参照)と導電接続することとなる。印刷配線部材220はそのコネクタパッド226が略平坦上に位置するようプリントヘッドボディ257上に装着されているが、その装着形態が堅固でなければ、その部材220上のコネクタパッド形成部位に若干の可動性が発生する。そのため、図2の如きヘッド250をキャリッジ200に装着する際には、ピン243がコネクタパッド226で押されて導電コネクタ244の内方、言い換えればコネクタパッド形成面に対し略直交する方向へと僅かに移動する。その装着作業中にヘッド250に生じる動きは、図4に示す実装方向245に沿い動いた後、その内面(ヘッド250の外面と向かい合っている面)がキャリッジ200に向かい揺れ戻り、そしてそのリップ247がキャリッジ200側のラッチ249でラッチされる、という動きである。この揺れ戻りの間、コネクタパッド226は対応するピン243によってワイピング(掃引)されることとなる。このワイピング運動は、信頼性の高い接続を確立する上で望ましい。しかし、ワイピング運動が激しすぎる場合やコネクタパッド226を形成している金属層が柔軟すぎる場合は、装着の繰返し、ひいてはワイピング運動の繰返しを通じてコネクタパッド226上の金属層が削ぎ取られ、ヘッド250を装着してもうまく導電接続されないようになってしまう可能性がある。本実施形態の如く、金層上にパラジウム堆積部を成長させるようにすれば、コネクタパッド表面の耐摩耗性を高めること、例えば20回超に亘りキャリッジ200にプリントヘッド250を着脱してもコネクタパッド226に過剰な摩耗が生じないようにすることができる。
【0031】
以上、その好適な実施形態を参照し本発明を詳細に説明したが、本発明はその技術的範囲内で様々に変形乃至改良することが可能であるので了解されたい。
【符号の説明】
【0032】
10 インクジェットプリンタシステム、12 画像データ源、14 コントローラ、15 画像処理ユニット、16 電気パルス源、18 第1流体源、19 第2流体源、20 記録媒体、100 インクジェットプリントヘッド、110 インクジェットプリントヘッドダイ、111 基板、120 第1ノズルアレイ、121,131 ノズル、122 第1ノズルアレイ用インク供給路、130 第2ノズルアレイ、132 第2ノズルアレイ用インク供給路、181 第1ノズルアレイから吐出された滴、182 第2ノズルアレイから吐出された滴、200 キャリッジ、220 印刷配線部材、222 誘電体基板、224 電極パッド、225 導電トレース、226 コネクタパッド、228 開口、229 可撓領域、243 ピン、244 導電コネクタ、245 プリントヘッド実装方向、247 リップ、248 外面、249 ラッチ、250 プリントヘッド、251 プリントヘッドダイ、252 ボンディングパッド、253 ノズルアレイ、254 ノズルアレイ延長方向、255 ボンディングワイヤ、256 封止材、257 プリントヘッドボディ、262 多室インク源、264 単室インク源、300 プリンタシャーシ、302 媒体装荷方向、303 印刷区画、304 媒体進行方向、305 キャリッジ走査方向、306 プリンタシャーシ右側部、307 プリンタシャーシ左側部、308 プリンタシャーシ前部、309 プリンタシャーシ背部、310 媒体送りモータギア用の孔、311 フィードローラギア、312 フィードローラ、313 フィードローラの順回転方向、320 ピックアップローラ、322 ターンローラ、323 アイドラローラ、324 ディスチャージローラ、325 スターホイール、330 保守ステーション、370 媒体のスタック、371 一番上の媒体、380 キャリッジモータ、382 キャリッジガイドレール、383 エンコーダフェンス、384 ベルト、390 プリンタ内電子回路基板、392 ケーブルコネクタ、405〜460 製造工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)誘電体基板と、
(b)誘電体基板上に形成されており、
(i)ワイヤボンディング用の電極パッド、
(ii)導電コネクタとの導電接続用のコネクタパッド、並びに
(iii)対応する電極パッド・コネクタパッド間を接続する導電トレース、
を有するパターン化銅層と、
(c)電極パッド上及びコネクタパッド上に形成されたニッケル被覆と、
(d)電極パッド及びコネクタパッドの上方に位置するようニッケル被覆上に形成された金層と、
(e)少なくともコネクタパッドの上方に位置するよう金層上に形成されたパラジウム堆積部と、
を備える印刷配線部材。
【請求項2】
請求項1記載の印刷配線部材であって、その誘電体基板が可撓な印刷配線部材。
【請求項3】
請求項1記載の印刷配線部材であって、その誘電体基板が堅固な印刷配線部材。
【請求項4】
請求項1記載の印刷配線部材であって、そのパラジウム堆積部が電極パッド,コネクタパッド双方の上方にある印刷配線部材。
【請求項5】
請求項1記載の印刷配線部材であって、そのニッケル被覆の厚みが4μm未満の可撓性印刷配線部材。
【請求項6】
請求項1記載の印刷配線部材であって、その金層の厚みが0.05〜0.2μmの可撓性印刷配線部材。
【請求項7】
請求項1記載の印刷配線部材であって、そのパラジウム堆積部の厚みが0.02〜0.2μmの可撓性印刷配線部材。
【請求項8】
請求項1記載の印刷配線部材であって、そのパラジウム堆積部における金属パラジウム含有量が90%超、パラジウムイオン含有量が10%未満の可撓性印刷配線部材。
【請求項9】
請求項1記載の印刷配線部材であって、そのニッケル被覆が燐を少なくとも2%含む可撓性印刷配線部材。
【請求項10】
請求項1記載の印刷配線部材であって、導電トレースが通る可撓領域を備える可撓性印刷配線部材。
【請求項11】
(a)プリントヘッドボディと、
(b)ノズルアレイ及びボンディングパッドを有するプリントヘッドダイと、
(c)プリントヘッドボディに固定された可撓性印刷配線部材と、
を備え、その可撓性印刷配線部材が、
(i)プリントヘッドダイ上のボンディングパッドにボンディングされた複数個の電極パッドと、
(ii)本インクジェットプリントヘッドをプリンタシステムに導電接続する複数個のコネクタパッドと、
(iii)対応する電極パッド・コネクタパッド間を接続する導電トレースと、
を有し、少なくともコネクタパッドの上方にニッケル被覆、その上方に金層、更にその上方にパラジウム堆積部があるインクジェットプリントヘッド。
【請求項12】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、電極パッド,コネクタパッド双方の上方にパラジウム堆積部があるインクジェットプリントヘッド。
【請求項13】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、そのニッケル被覆の厚みが4μm未満のインクジェットプリントヘッド。
【請求項14】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、その金層の厚みが0.05〜0.2μmのインクジェットプリントヘッド。
【請求項15】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、そのパラジウム堆積部の厚みが0.02〜0.2μmのインクジェットプリントヘッド。
【請求項16】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、そのパラジウム堆積部における金属パラジウム含有量が90%超、パラジウムイオン含有量が10%未満のインクジェットプリントヘッド。
【請求項17】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、そのニッケル被覆が燐を少なくとも2%含むインクジェットプリントヘッド。
【請求項18】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、導電トレースが通る可撓領域が可撓性印刷配線部材上、プリントヘッドダイがプリントヘッドボディの第1面上、コネクタパッドがプリントヘッドボディの第2面上にあるインクジェットプリントヘッド。
【請求項19】
請求項11記載のインクジェットプリントヘッドであって、電極パッドと、プリントヘッドダイ上のボンディングパッドと、を接続するアルミニウム製のボンディングワイヤを備えるインクジェットプリントヘッド。
【請求項20】
(a)可換型で、
(i)プリントヘッドボディ、
(ii)ノズルアレイ及びボンディングパッドを有するプリントヘッドダイ、並びに
(iii)プリントヘッドボディに固定された可撓性印刷配線部材、
を有するプリントヘッドと、
(b)導電コネクタと、
を備え、
その可撓性印刷配線部材が、プリントヘッドダイ上のボンディングパッドにボンディングされた複数個の電極パッドと、プリントヘッドを本インクジェットプリンタシステムに導電接続する複数個のコネクタパッドと、を有し、
少なくともコネクタパッドの上方にニッケル被覆、その上方に金層、更にその上方にパラジウム堆積部があり、
その導電コネクタが、プリントヘッド実装時にそのプリントヘッド上のコネクタパッドと導電接続する複数本のバネ付勢ピンを有するインクジェットプリンタシステム。
【請求項21】
請求項20記載のインクジェットプリンタシステムであって、電極パッド,コネクタパッド双方の上方にニッケル被覆、その上方に金層、更にその上方にパラジウム堆積部があるインクジェットプリンタシステム。
【請求項22】
請求項20記載のインクジェットプリンタシステムであって、コネクタパッドがプリントヘッドボディの略平坦面上にあり、プリントヘッド実装時のバネ付勢ピン可動方向がコネクタパッドに対し略垂直なインクジェットプリンタシステム。
【請求項23】
請求項20記載のインクジェットプリンタシステムであって、そのバネ付勢ピンが、コネクタパッド上でワイピング運動を呈するインクジェットプリンタシステム。
【請求項24】
請求項20記載のインクジェットプリンタシステムであって、プリントヘッド着脱を20回以上行ってもコネクタパッドに過剰な摩耗が生じないインクジェットプリンタシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−512569(P2013−512569A)
【公表日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−541104(P2012−541104)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/056771
【国際公開番号】WO2011/066128
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(590000846)イーストマン コダック カンパニー (1,594)
【Fターム(参考)】