説明

耐放射線光学ガラス及びその製造方法

【課題】 放射線特にX線を照射しても、光量減少が少なく、耐放射線に対しての劣化が少ない長期信頼性の高い光学ガラスの製造方法を提供する。
【解決手段】 酸化珪素を主成分として、フッ素ドープ量を1〜9ppm、OH基濃度800〜1200ppm、遷移金属類、アルカリ土金属類、アルカリ金属をそれぞれ20ppm未満、塩素含有量1ppm未満とすることで、放射線照射に対して安定な光学ガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線特にX線を照射しても、可視光の光量減少が少なく、放射線照射に対しての劣化が少ない長期信頼性の高い光学ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年放射線照射を用いるX線リソグラフィー、非破壊検査、医療画像等に、光ファイバ、レンズおよびプリズムの利用が拡大している。これらは特に放射線被曝内で使用することが多い。
【0003】
しかしながら、長期にわたって放射線を照射すると、ガラス材料が劣化してしまい、光の透過率が低下してしまう。更に放射線を照射すると、ほとんど光が通さなくなり、不透明になっていった。
【0004】
これは、ガラス構造そのものが損傷を受け、各種の欠陥が起こることによって、新たな吸収帯の発生及び屈折率や均質性の変化による透過特性の変化から生じる。
【0005】
これらの問題に対処するために、酸化珪素内組成内のOH基を高める方法がとられていた。しかし、このOH基含有量が多すぎると、水の吸収によって放射線の損傷を受けることが発生した。それゆえにOH基含有量を制限される。
【0006】
別の対処方法として、フッ素をわずかにドープする方法がある。このことによって、放射線の耐久性は向上する。しかしながら、この方法では酸化珪素内にフッ素が多すぎる場合には、800℃以上の温度をかけると(Si−F)+(Si−F)→(Si−Si)+Fの反応によって酸素欠乏型欠陥が生じるために、光透過率が劣化する。放射線に対する耐久性を上げるためには加熱処理することが必要なために酸素欠乏型欠陥の生成を避けるのが困難である。そのためにフッ素のドープも制限される。
【0007】
また、遷移金属類、アルカリ土類金属、アルカリ金属が放射線照射による劣化による光透過率が減少するためにそれぞれの含有量は20ppm未満にしなければならなかった。
【0008】
更に塩素は酸化珪素内で≡Si−Cl結合を生じる。この≡Si−C結合は放射線により容易に解離して、欠陥の要因になるために、塩素の含有量はできるだけ少ない方が望ましい。この含有量は1ppm未満にしなければならなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上記したようなことに対して、その目的とするところは、水の吸収や酸素欠乏型欠陥を防止して、放射線による劣化する遷移金属類、アルカリ土類金属、アルカリ金属および塩素を除去することによって、放射線を照射しても光透過率の減少を防ぎ、耐用寿命を延ばし、耐放射線優れた光学ガラスを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、酸化珪素の諸物性と耐放射線性との関係を鋭意検討した結果、酸化珪素のOH基、酸素欠乏型欠陥、金属不純物及び塩素の濃度が、放射線耐性に対して特に重要であり、それぞれの値を特定の範囲内にする事にとって、耐放射線に優れた光学ガラスを得られることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は酸化珪素を主成分として、フッ素ドープ量を1〜9ppm、OH基濃度は800〜1200ppmにする。遷移金属類、アルカリ土類金属、アルカリ金属をそれぞれ20ppm未満にする。更に塩素含有量を1ppm未満にしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の方法により、放射線照射による耐久性に優れた光学ガラスの提供が可能になった。本発明の方法では、OH基、酸素欠乏型欠陥、金属不純物及び塩素の各含有量を制限することで構造を安定化し、光透過率の変化量を減少しており、放射線照射による耐久性を高めている。その際、特殊な製造方法によることなく、安価で、優れた耐放射線光学ガラスの提供が可能である。
【0013】
従って、本発明の光学ガラスは半導体素子の高密度化に伴う、超細密化回路パターンのためのX線リソグラフィーを用いる装置内の光学ガラスに効果的に用いられる。また、非破壊検査、医療画像の放射線環境下での画像・信号伝送等の光ファイバ、レンズおよびプリズムとして、安定した状態で適用できる効果を得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
上記した本発明は光学ガラスは、以下のような製造方法により、製造される。
VAD法により、SiClを原料として、酸水素バーナーを用いて、石英棒表面上に酸化珪素を主成分としたガラススートを形成する。次いで、このガラススートを加熱炉に投入して、水素H2の供給量を適宜調整して、OH基の含有量を調整し、4フッ化珪素SiF4の供給量を適宜調整して、フッ素ドープ量を調整する。この該ガス雰囲気下で500〜700℃の温度で加熱して、ガラススートを透明化して、所定のOH基及びフッ素ドープ量を有する光学ガラスを得るものである。
【0015】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。放射線耐性については以下の通りである。
【0016】
〔放射線耐性〕
X線を照射線量2.5×10C/kg・h(照射条件、Rh管球、管電圧50kV、管電流50mA)で3時間照射し、照射前後の光透過率を確認して、放射線耐性を評価した。その際の測定試料の厚みは50mmとした。
【実施例】
【0017】
実施例1
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1000ppm、フッ素ドープ量5ppm、遷移金属類、アルカリ土類金属、アルカリ金属(以下、金属不純物という)20ppm未満、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0018】
実施例2
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基800ppm、フッ素ドープ量5ppm、金属不純物を20ppm未満、塩素含有量1ppm末満である光学ガラスを製造した。
【0019】
実施例3
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1200ppm、フッ素ドープ量5ppm、金属不純物を20ppm未満、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0020】
実施例4
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1000ppm、フッ素ドープ量1ppm、金属不純物を20ppm未満、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0021】
実施例5
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1000ppm、フッ素ドープ量9ppm、金属不純物を20ppm未満、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0022】
比較例1
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基500ppm、フッ素ドープ量5ppm、金属不純物を20ppm未満、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0023】
比較例2
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1500ppm、フッ素ドープ量5ppm、金属不純物を20ppm未満、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0024】
比較例3
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1000ppm、フッ素ドープ量20ppm、遷移金属類、アルカリ土類金属、アルカリ金属をそれぞれ20ppm未満、塩素含有量1ppm末満である光学ガラスを製造した。
【0025】
比較例4
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1000ppm、フッ素ドープ量1ppm未満、金属不純物を50ppm、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0026】
比較例5
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1000ppm、フッ素ドープ量9ppm、金属不純物を50ppm、塩素含有量1ppm未満である光学ガラスを製造した。
【0027】
比較例6
上記した製造方法により、酸化珪素を主成分として、OH基1000ppm、フッ素ドープ量9ppm、金属不純物を20ppm未満、塩素含有量5ppmである光学ガラスを製造した。
【0028】
以下の表1に実施例1〜5及び比較例1〜5の試料の各物性値示す。
【0029】
【表1】

表1に示すように、実施例1〜5の試料は、放射線照射前後の光透過率がほとんど変化してないことから、耐放射線用光学材料として優れた特性を示した。比較例1〜6は光透過率変化が大きいため、耐放射線光学材料としての物性が実施例1〜5と比較して劣っていることは表1から明白である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化珪素を主成分として、フッ素ドープ量を1〜9ppm、OH基濃度800〜1200ppm、遷移金属類、アルカリ土金属類、アルカリ金属をそれぞれ20ppm未満、塩素含有量1ppm未満で、X線を照射線量2.5×10C/kg・h(Rh管球、管電圧50kV、管電流50mA)で3時間照射し、照射前後の光透過率が50mmの厚みにおいて、1%以内である光学ガラス。

【公開番号】特開2007−176778(P2007−176778A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−381274(P2005−381274)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(504438130)マークテクノロジー株式会社 (4)
【Fターム(参考)】