説明

耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管とその高能率製造方法

【課題】超極厚(例えば、厚さ50mm超)の鋼板を加工し、溶接して、大型溶接鋼管ユニットを製造する場合において、(i)大型溶接鋼管ユニットを能率よく製造することができる、鋼板の加工方法、及び、加工した鋼板の溶接方法を確立し、(ii)引張応力が残留しないか、又は、圧縮応力が残留し、ギガサイクル域の振動に耐える疲労特性を有し、かつ、充分な破壊靱性を有する溶接部を備える大型溶接鋼管を提供する。
【解決手段】鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、3つ以上の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接したことを特徴とする耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風力発電塔の建造に用いる大型溶接鋼管とその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の一因であるCO2ガスの削減や、石油等の化石燃料の将来的な枯渇に対処するため、自然エネルギーを利用することが、積極的に試みられている。風力発電も、その一つであり、世界的に普及しつつある。風力発電に最適な地域は、絶え間ない強風を期待できる地域である。それ故、洋上での風力発電が実現しているし(特許文献1〜6、参照)、また、大規模な洋上風力発電が、世界的規模で計画されている。
【0003】
洋上に風力発電塔を建造する場合、風力発電塔の安定を図るために、海底の地盤に基礎構造体を打ち込む必要がある。また、風力発電機のタービン翼を、海水面から充分に高い位置に、安定的に維持するために、基礎構造体、及び、基礎構造体の上に設置する鋼管柱は、十分な高さを必要とする。結局、風力発電塔の高さは80m以上に達する。
【0004】
このように、洋上風力発電塔は、基礎構造体を含め巨大な鋼構造物であるが、建造に際しては、建造現場又は建造現場近くの海岸で、大型厚鋼板又は鋼管を、簡易に、しかも、高能率で、溶接することが求められる。
【0005】
一般に、電子ビーム溶接や、レーザービーム溶接などの高エネルギー密度ビーム溶接は、被溶接材を、簡易にかつ効率的に溶接できる点で、洋上風力発電塔のよう巨大鋼構造物の建造に適した溶接方法であるが、高真空チャンバー内で溶接する必要があるので、溶接できる鋼板又は鋼管の大きさに限度がある。
【0006】
このことを踏まえ、近年、板厚100mm程度の極厚鋼板を、効率よく、現地で溶接できる溶接方法(RPEBW:Reduced Pressured Electron Beam Welding:減圧電子ビーム溶接)が提案されている(特許文献7、参照)。
【0007】
RPEBW法を用いれば、風力発電塔のような大型の鋼構造物を建造する場合において、溶接箇所を局所的に真空に維持して、厚鋼板を効率的に溶接できることが期待される。
【0008】
しかし、RPEBW法は、高真空チャンバー内での溶接に比べ、真空度が低い雰囲気で溶接を行うので、溶融後凝固して形成される溶接金属部の靭性が劣るとの課題を抱えている。
【0009】
洋上風力発電塔は、絶えず強風に曝され、ギガサイクル(109〜1010)域の繰り返し数で振動するので、洋上風力発電塔を構成する大型溶接構造体の溶接部には、絶え間なく繰返し応力が集中する。このため、上記溶接部には、通常の疲労サイクル(106〜107)とはオーダーが異なるギガサイクル域の振動に耐える耐疲労特性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−111406号公報
【特許文献2】特開2007−092406号公報
【特許文献3】特開2007−322400号公報
【特許文献4】特開2006−037397号公報
【特許文献5】特開2005−194792号公報
【特許文献6】特開2005−180239号公報
【特許文献7】国際公開99/16101号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
洋上風車のモノパイル基礎構造(海中)、又は、発電塔(海上)に用いられる大型鋼管柱は、通常、まず、単位鋼管(例えば、直径5m×長さ3m)を制作し、鋼管柱の長さに応じて、単位鋼管を、円周方向に接合して製造する。例えば、鋼管柱の長さが60m、単位鋼管の長さが3mであれば、単位鋼管20個を円周方向に溶接する(図1、参照)。
【0012】
そして、従来、それぞれの単位鋼管は、鋼材の圧延方向(長手方向)を円周方向として半円筒状に成形した二つの鋼材の幅方向端部を、2箇所、アーク溶接することにより製造されていた(図2、参照)。なお、図1及び図2については、後述する。
【0013】
このように、洋上風力発電に用いる大型鋼管柱を一つ製造するためには、多くの溶接回数を必要とし、それぞれの溶接が多層盛り溶接となるため、鋼管柱が大型化するほど、完成するまでの溶接時間が増大する。
【0014】
さらに、単位鋼管同士を円周方向で溶接する前には、開先の精度を確保するために、単位鋼管を矯正して、所要の真円度を確保する必要がある。所要の真円度を確保する単位鋼管の矯正には、大型プレス機が必要となる。通常、大型プレス機で、単位鋼管1体毎に、真円度を矯正するので、単位鋼管の矯正は、鋼管柱の製造においてボトルネック工程となる。
【0015】
したがって、洋上風力発電用の大型鋼管柱の生産性を向上させるためには、溶接長をできるだけ短くすること、とりわけ、所要の真円度を要し、高精度の溶接を必要とする円周溶接をいかに減らすか、が極めて重要な課題となる。また、前述したように、洋上風力発電塔の溶接部には、安全性を確保するために十分な破壊靱性が要求される。
【0016】
そこで、本発明は、極厚(例えば、厚さ50mm超)の鋼板を加工し、溶接して、大型鋼管柱を製造する場合において、(i)溶接長を短くし、(ii)円周溶接を少なくすることにより、大型鋼管柱の生産性を大幅に改善し、かつ、(iii)充分な破壊靱性を有する溶接部を備える大型鋼管柱を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記目的を達成する加工方法及び溶接方法について鋭意検討した。その結果、(x)鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす円弧状長尺鋼材を用意し、(y)複数の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接すると、(z-1)ギガサイクル域の振動に耐える疲労特性を有し、かつ、充分な破壊靱性を有する溶接部を形成することができ、(z-2)耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管を提供できることを見いだした。
【0018】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下のとおりである。
【0019】
(1)鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、3枚以上の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接したことを特徴とする耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【0020】
(2)前記円弧状長尺鋼材の厚さが50mm超であることを特徴とする前記(1)に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【0021】
(3)前記円弧状長尺鋼材の幅が、2m以上であることを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【0022】
(4)前記円弧状長尺鋼材の引張強度が、355MPa以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【0023】
(5)前記大型溶接鋼管が、洋上風力発電塔用であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【0024】
(6)鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、3つ以上の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接することを特徴とする耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【0025】
(7)前記円弧状長尺鋼材の厚さが50mm超であることを特徴とする前記(6)に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【0026】
(8)前記円弧状長尺鋼材の幅が、2m以上であることを特徴とする前記(6)又は(7)に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【0027】
(9)前記円弧状長尺鋼材の引張強度が、355MPa以上であることを特徴とする前記(6)〜(8)のいずれかに記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【0028】
(10)前記大型溶接鋼管が、洋上風力発電塔用であることを特徴とする前記(7)〜(9)のいずれかに記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、ギガサイクル域の振動に耐える疲労特性を有し、かつ、充分な破壊靱性を有する溶接部を備える、洋上風力発電塔用の大型溶接鋼管を、生産効率よく製造して提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】洋上風力発電塔を示す図である。
【図2】従来の大型溶接鋼管の態様を示す図である。
【図3】本発明の大型溶接鋼管の態様を示す図である。
【図4】従来の大型溶接鋼管の製造工程と本発明の大型溶接鋼管の製造工程を対比する図である。(a)は、従来のアーク溶接による大型溶接鋼管の製造工程を示し、(b)は、本発明の高エネルギー密度ビーム溶接を適用した大型溶接鋼管の製造工程を示す。
【図5】鋼材の単重を18ton、鋼管の長さを60mとし、(i)鋼管直径7m、板厚120mm、(ii)鋼管直径5m、板厚100mm、及び、(iii)鋼管直径3.5m、板厚50mm、とした場合における、単位鋼管の円周方向分割数(個)と溶接長(m)の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、複数の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接したことを特徴とするものである。以下、本発明について、図面に基づいて説明する。
【0032】
図1に、洋上風力発電塔を示す。洋上風力発電塔は、モノパイル基礎構造体1と発電塔2、その上にタービン翼4を備えるナセル3が載置されている。モノパイル基礎構造体1と発電塔2は、ともに、大型の鋼管柱であり、管径3.5〜7m、厚さ50〜120mm、長さ30〜80mにも達する大型の鋼管柱である。通常は、海面下に設置されるモノパイル基礎構造体1の方が、海上に設置される発電塔2よりも、管径、厚さ、及び、長さは大きくなる。
【0033】
図2に、鋼管柱の構成ユニットとなる、長さl(m)、直径k(m)の大型溶接鋼管(従来鋼管)の態様を示す。なお、通常は、長さl:2〜4m、直径k:3.5〜7mである。
【0034】
図2に示すように、大型溶接鋼管5は、鋼板の圧延方向(図中、矢印、参照)に湾曲した半円筒鋼材5a、5bが、端面アーク溶接部5xで接合されて単位鋼管5cが構成され、端面アーク溶接部5xが同一線上に乗らないように配置された3個の単位鋼管5cが、円周アーク溶接部5yで接合されている。
【0035】
図4に、従来の大型溶接鋼管の製造工程と本発明の大型溶接鋼管の製造工程を対比して示す。図4(a)は、従来のアーク溶接による大型溶接鋼管の製造工程を示し、図4(b)は、本発明の高エネルギー密度ビーム溶接を適用した大型溶接鋼管の製造工程を示す。
【0036】
図4(a)に示すように、従来は、鋼板の圧延方向が、鋼管の円周方向になるように鋼板を切断し(図2、参照)、半円筒状の鋼材に成形する。次いで、二つの半円筒状鋼材の管軸方向端面を突き合わせて仮付け溶接し、内面側をアーク溶接する。その後、機械加工などで開先を加工してから、外面側の多層盛りアーク溶接を行い、単位鋼管を製造する。
【0037】
このアーク溶接には、通常、サブマージアーク溶接法による多層盛り溶接を用いる。パス数は、板厚に比例して増加するが、例えば、板厚50mmのときのパス数は20パス前後である。内面側の溶接と仮付け溶接には、MAG溶接を用いることがある。
【0038】
通常、単位鋼管の形状は歪んでいて、単位鋼管同士を連結するための円周溶接を行う前工程で、単位鋼管矯正して真円度を高め、突き合せた時の開先精度を高めなくてはならない。真円度の矯正には、大型プレス機が必要となり、通常は、単位鋼管1体毎に真円度を矯正するので、この矯正工程は、大型鋼管柱の製造工程においてボトルネックとなる。
【0039】
単位鋼管を矯正した後、単位鋼管同士を、円周部で突き合わせて、内外面のアーク溶接を行う。なお、単位鋼管の溶接(シーム溶接)に比べて、円周溶接は、準備に多くの時間を要して、遙かに高い溶接精度を必要するので、生産性を改善するためには、できるだけ、円周溶接の回数又は時間は少なくした方がよい。
【0040】
溶接後は、通常、低温割れ確認のために、48時間放置し、アーク溶接部の品質を検査(例えば、超音波検査)し、欠陥がないことを確認して、出荷する。
【0041】
このように、従来の大型溶接鋼管の製造方法は、製品の出荷まで、多くの工程を必要とし、生産性が低いのが難点である。
【0042】
溶接工程においては、溶接回数が多く、溶接線の全長は極めて長いものとなる。例えば、鋼管柱の長さ60m、板厚75mm、鋼管径k=4.5m、単位鋼管の長さl=4.1mの場合、溶接線は312mに達する。
【0043】
洋上風車は、今後、ますます大型化することが予想され、鋼管柱の長さ、鋼管径、及び、板厚は増大する。鋼材の単重を一定として計算した場合、(a)板厚100mm、鋼管径k=5mであると、溶接線は444mになり、(b)板厚120mm、鋼管径k=7mであると、溶接線は896mにもなる。
【0044】
通常のアーク溶接では、溶接1パス当たりの溶着量が決まっていて、板厚が増加すると、その分、パス数が増えるので、実際の溶接工程に要する時間は、板厚に比例して、さらに増加する。
【0045】
加えて、市場から鋼材を調達する際には、単重と幅に制約があるため、鋼管径や板厚が増加すると、板幅、即ち、単位鋼管の長が短くなる。その結果、単位鋼管同士の円周溶接を行う前に必要な真円度矯正の回数が増加することになる。
【0046】
ここで、図3に、本発明の大型溶接鋼管6の態様を示す。なお、大型溶接鋼管6の大きさは、板厚100mm、鋼管径k=5m、単位鋼管長l=5.5mである。図3に示すように、大型溶接鋼管6は、鋼板の圧延方向(図中、矢印、参照)に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、4個の長尺円弧状鋼材6aが、長手方向端面で突き合わされ、突合せ面が、高エネルギー密度ビーム溶接部6zで接合されている。
【0047】
図4(b)に、本発明の大型溶接鋼管の製造工程を示す。図4(b)に示すように、鋼板の長手方向が圧延方向に一致するように鋼板を切断し(図3、参照)、長手方向に垂直な方向(幅方向)に沿って湾曲するように成形し、円弧状長尺鋼材を製造する。
【0048】
次いで、3つ以上の円弧状長尺鋼材を長手方向端面で突き合わせ、突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で、板厚貫通の1パスで溶接し、単位鋼管を製造する。なお、高エネルギー密度ビーム溶接としは、電子ビーム溶接や、レーザービーム溶接を用いる。
【0049】
本発明においては、例えば、(a)板厚100mm、鋼管径k=5m、長尺鋼材枚数が3枚であると、溶接線は390m(アーク溶接では444m)であり、(b)板厚120mm、鋼管径k=7m、長尺鋼材の枚数が5枚であると、溶接線は597m程度(アーク溶接では896m)であり、アーク溶接に比べて、大幅に溶接線を短縮することができる。
【0050】
表1に、大型溶接鋼管をサブマージアーク溶接で製造する場合(従来)と、局所排気減圧電子ビーム溶接で製造する場合(本発明)の溶接条件及び指標を対比して示す。表1から、本発明の製造方法は、溶接能率が格段に優れていることが解る。
【0051】
【表1】

【0052】
本発明の高エネルギー密度ビーム溶接は、板厚に依らず、1パスの貫通溶接が可能であるので、全溶接線長(パス数×溶接線)で比較した場合、板厚が増大するほど、本発明の効果は高まることになる。
【0053】
図5に、鋼材の単重を18ton、鋼管の長さを60mとし、(i)鋼管直径7m、板厚120mm、(ii)鋼管直径5m、板厚100mm、及び、(iii)鋼管直径3.5m、板厚50mm、とした場合における、単位鋼管の円周方向分割数(個)と溶接長(m)の関係を示す。なお、分割数1及び分割数2は、従来の製造方法で製造した場合である。
【0054】
図5から、本発明の製造方法によれば、鋼管直径と、板厚が増大するほど、溶接長短縮効果が大きいことが解る。
【0055】
本発明の大型溶接鋼管を製造するための鋼材は、特定の成分組成の鋼材に限定されない。
【0056】
本発明の製造方法では、鋼材の単重が一定の場合、長尺鋼材の枚数を増やして、単位鋼管の長さを長くすることができるので、真円度の矯正が必要でかつ難度の高い円周溶接の回数を少なくすることができる。なお、アーク溶接の場合は、長尺鋼材の枚数を増やすと、単位鋼管の真円度が低下し、単位鋼管1体当たりの真円度矯正時間が大幅に増大するので、長尺鋼材の枚数を増やすことは、あまり意味がない。
【0057】
本発明の製造方法においては、高エネルギー密度ビーム溶接を用いるので、製造後は、溶接部の品質検査前の低温割れを確認するための待ち時間が不要で、そのまま検査を行い、出荷することができる。結局、本発明の製造方法においては、図4に示すように、図4(a)に示す従来の製造方法における“※印の工程”が不要となるので、本発明の製造方法は、従来の製造方法に比べ、生産性が極めてよい製造方法である。
【0058】
そして、本発明の大型溶接鋼管は、鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、3つ以上の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接したことを特徴とするものであるところ、該特徴に基づいて、良好な破壊靱性値を有する、洋上風力発電塔用の大型溶接鋼管を、生産効率よく製造して提供することができるとの顕著な効果を奏するものである。
【実施例】
【0059】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
【0060】
(実施例)
表2に、成分組成と機械特性を示す鋼材(B1〜B3)を用い、表3に示す電子ビーム溶接条件(W1〜W4)、又は、表4に示すアーク溶接条件で溶接を行い、大型溶接鋼管を製造した。表5に、製造した大型溶接鋼管の仕様を示す。
【0061】
【表2】

【0062】
【表3】

【0063】
【表4】

【0064】
【表5】

【0065】
大型溶接鋼管の破壊靭性は、溶接継手部からCTOD試験片を採取し、試験温度0℃における3点曲げCTOD試験で評価したが、従来鋼管と同等又はそれ以上(表中、○印、参照)であった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
前述したように、本発明によれば、ギガサイクル域の振動に耐える疲労特性を有し、かつ、充分な破壊靱性を有する溶接部を備える、洋上風力発電塔の建造に用いる大型溶接鋼管を、生産効率よく製造して提供することができる。よって、本発明は、大型構造物建造産業において利用可能性が高いものである。
【符号の説明】
【0067】
1 モノパイル基礎構造体
2 発電塔
2a 鋼管
3 ナセル
4 タービン翼
5 大型溶接鋼管(従来鋼管)
5a、5b 半円筒鋼材
5c 単位鋼管
5x 端面アーク溶接部
5y 円周アーク溶接部
6 大型溶接鋼管(発明鋼管)
6a 円弧状長尺鋼材
6z 高エネルギー密度ビーム溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、3枚以上の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接したことを特徴とする耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【請求項2】
前記円弧状長尺鋼材の厚さが50mm超であることを特徴とする請求項1に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【請求項3】
前記円弧状長尺鋼材の幅が、2m以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【請求項4】
前記円弧状長尺鋼材の引張強度が、355MPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【請求項5】
前記大型溶接鋼管が、洋上風力発電塔用であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管。
【請求項6】
鋼板の圧延方向に長尺で、圧延方向に垂直な幅方向に円弧状をなす、3つ以上の円弧状長尺鋼材を、圧延方向端面で突き合わせ、該突合せ面を、高エネルギー密度ビーム溶接で溶接することを特徴とする耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【請求項7】
前記円弧状長尺鋼材の厚さが50mm超であることを特徴とする請求項6に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【請求項8】
前記円弧状長尺鋼材の幅が、2m以上であることを特徴とする請求項6又は7に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【請求項9】
前記円弧状長尺鋼材の引張強度が、355MPa以上であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。
【請求項10】
前記大型溶接鋼管が、洋上風力発電塔用であることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の耐疲労特性に優れた大型溶接鋼管の高能率製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−115829(P2011−115829A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−276925(P2009−276925)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】