説明

脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤

【課題】皮脂の過産生、皮脂腺の過発達等に起因する、肌のべたつきやテカリなどの美容上のトラブルや脂漏症などの皮膚疾患を治療・予防するための薬剤として好適であり、副作用がなく安全で、保存安定性に優れる新規な皮脂産生抑制剤、トリグリセライド産生抑制剤および脂質産生促進剤の提供。
【解決手段】カリン抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮脂産生抑制剤、トリグリセライド産生抑制剤および脂質産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤に関し、より具体的には、過剰な皮脂産生が原因と考えられているベタつきや角栓などの美容上のトラブルおよび、ニキビ、脂漏症などの種々の疾患の予防及び治療に特に有用であり、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の広範な用途に用いることができる脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤、トリアシルグリセロール産生抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮脂は皮脂腺の脂腺細胞が内部で合成した分泌物を多量に蓄積した後、細胞全体が崩壊することによって皮脂腺内腔に放出される。その後、毛穴の内面に開く皮脂腺開口部から皮膚表面に分泌され、皮膚や体毛の表面に常に薄い膜状に広がり、物理的、化学的に皮膚や毛髪の保護や保湿の役割を果たしている。皮脂とは脂腺細胞の崩壊物全体を言うが、そこに含まれる脂質は主に、脂肪酸、トリアシルグリセロール(以下、TGと略す)、ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、ワックスエステル、スクアレン、コレステロール、コレステロールエステルなどである。
【0003】
皮膚における過剰な皮脂産生は肌のべたつき、化粧崩れ、テカリ、角栓、毛穴の拡大、脂ぎった毛髪といった美容上のトラブルを引き起こす。また、アクネや脂漏症、その他の皮膚疾患、例えば脂漏性湿疹、老人性脂腺増殖症、脂腺母斑、酒さ、脱毛症といった皮膚疾患の原因にもなる。さらに、過剰に産生された皮脂が酸化されて、過酸化脂質に変化すると、コラーゲンやエラスチンなどの皮膚弾性繊維を傷害し、皮膚の老化を引き起こすだけでなく、皮膚の色素沈着をも引き起こすことが知られている。
したがって、過剰な皮脂産生を抑制することは、美容上、皮膚疾患治療上、重要である。
【0004】
皮脂産生の制御には、1.男性ホルモン(テストステロン)による皮脂腺細胞への増殖・分化の情報伝達、2.皮脂腺細胞内での皮脂産生の2つのステップがある。前者に作用して皮脂産生を抑制する薬剤としては、男性ホルモン拮抗作用を示すエストラジオール、エストロンなどの女性ホルモンが有効であるが(非特許文献1)、副作用が危惧されるため、化粧料や皮膚外用剤への配合には大きな制限を伴い、現実的にはあまり使用されていない。後者に作用して皮脂産生を抑制する薬剤としては、冬瓜抽出物(非特許文献2)やトリプトリド化合物(非特許文献3)などが知られているが、その効果や安全性、保存安定性等は満足のいくものではなかった。
【0005】
カリン(学名;Chaenomeles sinensis)の果実はカリン酒などの原料にされる他、和木瓜と呼ばれる漢方生薬として、のどの炎症抑制、咳止め、利尿等の目的で古くから用いられている。また、近年、抗菌性を有すること(非特許文献4)や、細菌性リパーゼを抑制する効果を有すること(非特許文献5)が見出されているが、皮脂産生抑制作用など脂質代謝を変化させる作用については今まで知られていなかった。
【非特許文献1】参照新化粧品学,p167,南山堂(1993)
【非特許文献2】特開2008−037764号公報
【非特許文献3】特開2005−187422号公報
【非特許文献4】特開平6-279256号公報
【非特許文献5】特許3660822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の技術における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、皮脂の過産生、皮脂腺の過発達等に起因する、肌のべたつきやテカリなどの美容上のトラブルや脂漏症などの皮膚疾患を治療・予防するための薬剤として好適であり、副作用がなく安全で、保存安定性に優れる皮脂産生抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記のような状況を鑑みて鋭意研究を行った結果、バラ科ボケ属カリン(学名;Chaenomeles sinensis)の抽出物が、脂質産生の抑制、トリアシルグリセロール産生の抑制、さらには皮脂産生を抑制する効果に優れ、しかも安全性、安定性に優れることを確認して本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、バラ科ボケ属カリン(学名;Chaenomeles sinensis)の抽出物を有効成分とする脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規な脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤を提供することができる。また、本発明の脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤、およびトリアシルグリセロール産生抑制剤は、作用の緩和な植物の抽出物からなっており、安全性の高いものである。したがって種々の分野において使用可能であり、特に化粧料、医薬品、医薬部外品、食品(飲料を含む)等の分野において好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】カリン抽出物で処理したときのTG量の測定結果を示す図
【図2】カリン抽出物で処理したときのDNA量の測定結果を示す図
【図3】カリン抽出物で処理したときのTG量をDNA当たりのTG量に換算したものを示す図
【図4】比較例で処理したときのTG量の測定結果を示す図
【図5】比較例で処理したときのDNA量の測定結果を示す図
【図6】比較例で処理したときのTG量をDNA当たりのTG量に換算したものを示す図
【図7】細胞内脂質を染色した細胞の顕微鏡観察像を示す図
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の最良の実施の形態について説明する。なお、本明細書において、「〜」はその前後の数値を含む範囲を意味するものとする。
【0012】
本発明は、カリン(学名;Chaenomeles sinensis)の抽出物を有効成分とする脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤に関する。
【0013】
本発明に用いられるカリンは、バラ科ボケ属の植物であり、別名を花梨、安蘭樹という。カリンの使用部位としては果実が好ましいが、葉、地下茎を含む茎、棘、根、種子、植物全草等が用いられる。また、カリンに由来する漢方薬、例えば、和木爪(カリンの果実を切って乾燥させたもの)を用いることもできる。また、自生あるいは栽培された植物を使用できる。
【0014】
本発明のカリン抽出物を得るための抽出工程としては、例えば、上記の使用部位を、それぞれ抽出溶媒と共に浸漬又は加熱還流した後、濾過し、濃縮して得ることができる。本発明に用いられる抽出溶媒は、通常抽出に用いられる溶媒であれば何でもよく、特に水、或いはメタノール、エタノール、1,3−ブチレングリコール等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、酢酸エチルエステル等の有機溶媒を単独あるいは組み合わせて用いることができるが、抽出効率やより強い効果を得るためにはエタノール、1,3−ブチレングリコール等のアルコール類およびそれらの含水アルコール類が特に好ましい。また、これらの工程により得られた抽出物を、さらに上記の溶媒を用い、分配クロマトグラフィーや吸着クロマトグラフィー等により、さらに精製等の処理を施して得られたものも用いることができる。また、抽出前に、乾燥、細切、圧搾又は醗酵等の前処理を行うこともできる。
【0015】
前記カリン抽出物は、液状、ペースト状、ゲル状等いずれの形態であってもよい。すなわち、抽出溶媒を含む液状の抽出液をそのままあるいは濃縮してから用いても良いし、また、抽出液を減圧乾燥、又は凍結乾燥などにより乾固させて固体状とした後に用いることもできる。また、スプレードライ等により乾燥させて粉末として用いることもできる。また更には、これら固体状あるいは粉末の抽出物を適宜溶媒に再溶解して抽出液として用いても良い。
【0016】
本発明の脂質産生抑制剤は、脂質合成、代謝を変化させて、細胞内の脂質量を減少させるものをいう。また、本発明の皮脂産生抑制剤は、皮脂腺から皮表に分泌される皮脂の量を減少させるものをいう。本発明のトリアシルグリセロール産生抑制剤は、トリアシルグリセロール合成、代謝を変化させて、細胞内のトリアシルグリセロール量を減少させるものをいう。
【0017】
本発明の脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤は、種々の用途に用いることができるが、作用の緩和な植物の抽出物から成っており、安全性の高いものであるし、また配合時の安定性にも優れているので食品(飲料も含む)や、治療薬、化粧料または皮膚外用剤の有効成分として用いるのが好ましい。
たとえば、高脂血症や脂肪肝では、脂質産生(特にトリアシルグリセロール)が亢進しているので、本発明の脂質産生抑制剤、トリアシルグリセロール産生抑制剤はこれらの予防、改善、治療のための食品や治療薬としての可能性が検討されている。また、脂腺細胞における脂質産生は、細胞内に大型の脂肪滴が形成・充満していくメカニズムが脂肪細胞における脂質産生と類似していることが知られている。したがって本発明の脂質産生抑制剤、トリアシルグリセロール産生抑制剤は脂肪細胞において脂質産生を抑制することが容易に予想されるから、内臓脂肪や皮下脂肪が蓄積しているメタボリックシンドロームやセルライトの予防、改善、治療のために、食品、治療薬、化粧品、皮膚外用剤等の有効成分として用いることができる。また、本発明の皮脂産生抑制剤は、過剰な皮脂腺での皮脂の産生を抑制するための化粧料または皮膚外用剤の有効成分として用いることができる。
【0018】
本発明の脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤を配合した化粧料または皮膚外用剤は、皮膚に適用することにより、皮脂の産生を阻害する。その結果、過剰な皮脂が産生されず、肌のべたつき、化粧崩れ、テカリ等が予防、改善される。
また、過剰な皮脂が毛穴に詰まると、毛穴を目立せるだけでなく、角質とともに蓄積して角栓を形成する。したがって本発明の脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤、およびトリアシルグリセロール産生抑制剤を配合した化粧料又は皮膚外用剤は毛穴ケアを目的とする化粧料又は皮膚外用剤として有用である。
さらに、過剰な皮脂が毛穴や毛根部で炎症を起こすとニキビや脱毛の原因になるので、本発明の脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤を配合した化粧料又は皮膚外用剤はニキビや脱毛を目的とする化粧料又は皮膚外用剤として有用である。
また、過剰な脂質が充満した脂肪細胞が皮下に蓄積すると、メタボリックシンドロームやセルライトの原因となる。したがって、本発明の脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤を配合した化粧料又は皮膚外用剤は、皮下脂肪蓄積やセルライト形成の予防・改善にも有用である。
【0019】
前記化粧料又は皮膚外用剤中における、本発明の皮脂産生抑制剤、脂質産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤中の配合量は、他の成分との具体的な組み合わせや剤形等によって適宜選択されるべきものであり、特に限定されるものではないが、概ね、化粧料又は皮膚外用剤全量中、抽出して得た本質分を乾燥重量として0.00001〜5.0質量%(以下、単に「%」と略す)、好ましくは同0.00001〜0.001%である。この配合量が、化粧料又は皮膚外用剤全量中、乾燥物として0.00001〜5.0%であると、カリン抽出物の配合による着色や匂いが強すぎることなく、皮脂産生抑制効果、脂質産生抑制効果、またはトリアシルグリセロール産生抑制効果が発揮されるため好ましい。
【0020】
また、前記化粧料、皮膚外用剤等には、本発明の効果を損なわない範囲で他の有効成分、例えば、美白効果、老化防止効果、又は紫外線暴露によるシワ形成抑制効果等を奏する他の有効成分を配合してもよい。より具体的には、紫外線防御剤、抗菌剤、美白剤、抗炎症剤、細胞賦活剤、活性酸素除去剤、保湿剤などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。
【0021】
紫外線防御剤としては、例えばベンゾフェノン系化合物、PABA系化合物、ケイ皮酸系化合物、サリチル酸系化合物、4−tert−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン、p−メトキシ桂皮酸−2−エチルへキシル、パラメトキシケイ皮酸−2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−硫酸ナトリウム、4−t−ブチル−4’−メトキシジベンゾイルメタン、2−フェニル−ベンズイミダゾール−5−硫酸、酸化チタン、酸化亜鉛を挙げることができる。
【0022】
抗菌剤としては、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール等が挙げられる。
【0023】
美白剤は、日焼け等により生じる皮膚の黒化、色素沈着により生ずるシミ、ソバカス等の発生を防止する作用を有しており、例えばアルブチン、エラグ酸、リノール酸、ビタミンC及び誘導体、ビタミンE及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、トラネキサム酸、胎盤抽出物、カミツレ抽出物、カンゾウ抽出物、エイジツ抽出物、オウゴン抽出物、海藻抽出物、クジン抽出物、ケイケットウ抽出物、ゴカヒ抽出物、コメヌカ抽出物、小麦胚芽抽出物、サイシン抽出物、サンザイシ抽出物、サンペンズ抽出物、シラユリ抽出物、シャクヤク抽出物、センプクカ抽出物、大豆抽出物、茶抽出物、糖蜜抽出物、ビャクレン抽出物、ブドウ抽出物、ホップ抽出物、マイカイカ抽出物、モッカ抽出物、ユキノシタ抽出物等が挙げられる。
【0024】
抗炎症剤は、日焼け後の皮膚のほてりや紅斑等の炎症を抑制する作用を有しており、例えば、イオウ及びその誘導体、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、アルテア抽出物、アシタバ抽出物、アルニカ抽出物、インチンコウ抽出物、イラクサ抽出物、オウバク抽出物、オトギソウ抽出物、カミツレ抽出物、キンギンカ抽出物、クレソン抽出物、コンフリー抽出物、サルビア抽出物、シコン抽出物、シソ抽出物、シラカバ抽出物、ゲンチアナ抽出物等が挙げられる。
【0025】
細胞賦活剤は、肌荒れの改善等の目的で用いられ、例えば、カフェイン、鶏冠抽出物、貝殻抽出物、ローヤルゼリー、シルクプロテイン及びその分解物又はそれらの誘導体、ラクトフェリン又はその分解物、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸等のムコ多糖類またはそれらの塩、コラーゲン、酵母抽出物、乳酸菌抽出物、ビフィズス菌抽出物、醗酵代謝抽出物、イチョウ抽出物、オオムギ抽出物、センブリ抽出物、タイソウ抽出物、ニンジン抽出物、ローズマリー抽出物、グリコール酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸等が挙げられる。
【0026】
活性酸素除去剤は、過酸化脂質生成抑制剤等の作用を有しており、例えば、スーパーオキシドディスムターゼ、マンニトール、クエルセチン、カテキン及びその誘導体、ルチン及びその誘導体、ボタンピ抽出物、ヤシャジツ抽出物、メリッサ抽出物、羅漢果抽出物、レチノール及びその誘導体、カロチノイド等のビタミンA類、チアミン及びその誘導体、リボフラビンおよびその誘導体、ピリドキシンおよびその誘導体、ニコチン酸及びその誘導体等のビタミンB類、トコフェロール及びその誘導体等のビタミンE類、ジブチルヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソール等が挙げられる。
【0027】
保湿剤としては、例えば、エラスチン、ケラチン等のタンパク質またはそれらの誘導体、加水分解並びにそれらの塩、グリシン、セリン、アスオアラギン酸、グルタミン酸、アルギニン、テアニン等のアミノ酸及びそれらの誘導体、ソルビトール、エリスリトール、トレハロース、イノシトール、グルコース、蔗糖およびその誘導体、デキストリン及びその誘導体、ハチミツ等の糖類、D−パンテノール及びその誘導体、尿素、リン脂質、セラミド、オウレン抽出物、ショウブ抽出物、ジオウ抽出物、センキュウ抽出物、ゼニアオイ抽出物、タチジャコウ抽出物、ドクダミ抽出物、ハマメリス抽出物、ボダイジュ抽出物、マロニエ抽出物、マルメロ抽出物等が挙げられる。
【0028】
また、前記化粧料、医薬品等には、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧料や医薬部外品、皮膚外用剤等の製造に通常使用される成分、例えば、水(精製水、温泉水、深層水等)、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、清涼剤、植物・動物・微生物由来の抽出物、活性酸素除去剤、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類等を必要に応じて添加することができる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
[製造例1:カリン抽出物の調製]
カリンの果実10kgを細切りにし、50Lの50質量%エタノール水溶液を入れ、70℃に加熱して抽出した。不溶物を濾過後、濾液を減圧下で濃縮してカリン抽出物を得た。ここでの抽出物は乾燥させて、固形物300gを得た。
[実施例1]
細胞内TG量の測定
ハムスター脂腺細胞を24ウェルプレート1ウェルあたり13500cellsで播種した。翌日、EGF非添加の培地に交換し、培地中に製造例1のカリン抽出物(終濃度1.9、3.8、7.5μg/mL)を添加した。カリン抽出物は50%エタノール水溶液に溶解させ、カリン抽出物:培地=1:1000(体積比)で培地中に添加した。コントロール(終濃度0μg/mL)のウェルには50% エタノール水溶液を添加した。培地は3日ごとに交換し、14日目に細胞をTrypsin処理により回収した。回収した細胞の細胞内TG量をデタミナーL TGII (協和メデックス社製)により定量した。また、DNA量はDABA(3,5−diaminobenzoic acid dihydrochloride)試薬を用いて定量した(励起波長:365nm、蛍光波長:530nm)。なお、各薬物処理はn=3で行い、TG量およびDNA量を測定した。またTG量はDNA当たりのTG量に換算した。
【0030】
<試験結果>
TG量の測定結果を図1に、DNA量の測定結果を図2に示す。またTG生成量をDNA当たりのTG量に換算したものを図3に示す。また、*と**は、それぞれ危険率5%、1%で有意であることを表す。
図1〜3から明らかなように、本発明のカリンの抽出物は、細胞障害性を示さない範囲においてTGの生成を有意に抑制し、その効果は濃度依存的である傾向があった。したがって、本発明のカリン抽出物はTG産生抑制剤として利用することができる。
【0031】
[比較例2]
比較例2として、マイカイカ抽出物、ホウセンカ抽出物、サンショウ抽出物またはセンプクカ抽出物を添加したときの細胞内TG量の測定を上記と同様の方法で実施した。マイカイカ抽出物はマイカイカの花、ホウセンカ抽出物はホウセンカの全草、サンショウ抽出物はサンショウの果皮、センプクカ抽出物はセンプクカの花から含水エタノール水溶液により抽出して得たものを用いた。マイカイカ抽出物はにきび用皮膚外用剤として使用すること(特開2001-288035号公報)、ホウセンカ抽出物は男性ホルモン(テストステロン)を活性型に変換させるテストステロン5αレダクターゼの阻害剤として、アクネ用組成物に配合すること(特許3276327号公報)、サンショウ抽出物は皮脂調節化粧料への配合が(特開2003-267834号公報)、センプクカ抽出物はリパーゼ阻害剤として(特開2005-206589号公報)それぞれ知られているものである。その結果を図4〜6に示す。マイカイカ抽出物、ホウセンカ抽出物、サンショウ抽出物またはセンプクカ抽出物にはTG産生抑制作用はなかった。
【0032】
[実施例2]
細胞内脂質の染色
ハムスター脂腺細胞141750cellsを6cmプレートに播種した。翌日、EGF非添加の培地に交換し、培地中に製造例1のカリン抽出物(終濃度1.9、3.8、7.5μg/mL)を添加した。カリン抽出物は50%エタノール水溶液に溶解させ、カリン抽出物:培地=1:1000(体積比)で培地中に添加した。コントロール(終濃度0μg/mL)のプレートには50%エタノール水溶液を添加した。培地は3日ごとに交換し、14日目に細胞を固定し、細胞内の脂質をOilred Oで染色した。Oilred Oは無極性かつ脂溶性であるため、組織に触れると組織内脂質という溶媒に溶け込み、結果として脂肪染色ができる。脂肪に取り込まれたOilred
O量と細胞内の脂質量は相関していることが知られているため、本法によってOilred Oを脂腺細胞内の脂質を可視化し、その産生量を把握することが可能である。
【0033】
図7に細胞内脂質を染色後、顕微鏡で観察した像を示す。図7−1(カリン抽出物0μg/mL、コントロール)では大部分の細胞は赤く染色された大きな脂肪滴が充満しており、細胞内に多量の脂質が存在することがわかる。一方、カリン抽出物を添加すると濃度依存的に脂肪滴の数が減り、大きさも小さくなっており、脂質量が減少していることがわかる。すなわち、カリン抽出物処理により細胞内の脂質量が減少することが理解できる。
【0034】
本発明のカリン抽出物は脂質産生抑制剤、皮脂産生抑制剤およびトリアシルグリセロール産生抑制剤として利用することができる。また、下記の実施例のように化粧料または皮膚外用剤に配合することで皮脂の産生を抑制し、肌のべたつきやテカリ、脂漏症などの美容上のトラブルや皮膚疾患を治療・予防する化粧料や皮膚外用剤を作成することができる。
【0035】
実施例5:化粧水
(成分) (%)
1.グリセリン 5.0
2.1,3−ブチレングリコール 5.0
3.乳酸 0.05
4.乳酸ナトリウム 0.1
5.製造例1のカリン抽出物 0.0001
6.モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
7.エタノール 8.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.香料 0.05
10.精製水 残量
【0036】
(製造方法)
A:成分6〜9を混合溶解する。
B:成分1〜5及び10を混合溶解する。
C:BにAを添加混合し、化粧水を得た。
【0037】
実施例6:乳液(水中油型)
(成分) (%)
1.モノステアリン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン1.0
2.トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.5
3.グリセリルモノステアレート 1.0
4.ステアリン酸 0.5
5.ベヘニルアルコール 0.5
6.スクワラン 8.0
7.カルボキシビニルポリマー 0.1
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.水酸化ナトリウム 0.05
10.製造例1のカリン抽出物 0.0001
11.精製水 残量
12.エタノール 5.0
13.香料 0.05
【0038】
(製造方法)
A:成分1〜6を70℃で均一に混合する。
B:成分7〜11を70℃で均一に混合する
C:BにAを加えて乳化し、室温まで冷却する。
D:成分12、13を加えて均一に混合し、乳液を得た。
【0039】
実施例7:リキッドファンデーション(水中油型クリーム状)
(成分) (%)
1.アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体(注1) 0.5
2.トリエタノールアミン 1.5
3.精製水 残量
4.グリセリン 5.0
5.パラオキシ安息香酸エチル 0.1
6.1,3―ブチレングリコール 5.0
7.水素添加大豆リン脂質 0.5
8.酸化チタン 5.0
9.ベンガラ 0.1
10.黄酸化鉄 1.0
11.黒酸化鉄 0.05
12.ステアリン酸 0.9
13.モノステアリン酸グリセリン 0.3
14.セトステアリルアルコール 0.4
15.モノオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
16.トリオレイン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.2
17.パラメトキシケイ皮酸2―エチルヘキシル 5.0
18.製造例1のカリン抽出物 0.001
19.香料 0.02
(注1)ペミュレンTR−2(NOVEON社製)
【0040】
(製造方法)
A:成分1〜5を70℃で均一に混合する。
B:成分6〜17を加え70℃で均一に混合する。
C:AにBを加え乳化し、室温まで冷却する。
D:Cに成分18、19を添加し均一に混合して水中油型クリーム状リキッドファンデーションを得た。
【0041】
実施例8:美白日焼け止め化粧料(油中水型クリーム状)
(成分) (%)
1.モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 0.1
2.ポリオキシエチレン(60E.O.)硬化ヒマシ油 0.1
3.精製水 残量
4.ジプロピレングリコール 10.0
5.ナイロン末 0.5
6.アスコルビルリン酸マグネシウム 3.0
7.シリコーン化合物(注2) 3.0
8.デカメチルシクロペンタシロキサン 20.0
9.イソノナン酸イソトリデシル 5.0
10.パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル 8.0
11.製造例1のカリン抽出物 0.0005
12.ジメチルステアリルアンモニウムヘクトライト 1.2
(注2)KF−6028(信越化学工業社製)
【0042】
(製造方法)
A:成分1〜6を均一に分散する。
B:成分7〜12を均一に分散する。
C:Bを攪拌しながら徐々にAを加えて乳化し、油中水型クリーム状日焼け止め化粧料を得た。
【0043】
実施例9:軟膏剤
(成分) (%)
1.ステアリン酸 18.0
2.セタノール 4.0
3.酢酸dl−α―トコフェロール(注3) 0.2
4.トリエタノールアミン 2.5
5.グリセリン 5.0
6.グリチルリチン酸ジカリウム(注4) 0.5
7.製造例1のカリン抽出物 1.0
8.パラオキシ安息香酸メチル 0.1
9.精製水 残量
(注3)エーザイ社製
(注4)和光純薬工業社製
【0044】
(製造方法)
A.成分1〜3を加熱混合し、75℃に保つ。
B.成分4〜9を混合し、75℃に保つ。
C.AにBを徐々に加え、軟膏剤を得た。
【0045】
実施例10:ローション剤
(成分) (%)
1.エタノール 8.0
2.パラオキシ安息香酸メチル 0.2
3.グリセリン 5.0
4.1,3−ブチレングリコール 6.5
5.モノラウリン酸ポリオキシエチレン(20E.O.)ソルビタン 1.2
6.製造例1のカリン抽出物 0.001
7.精製水 残量
【0046】
(製造方法)
A.成分1、2を混合溶解する。
B.成分3〜7を混合溶解する。
C.AとBを混合して均一にし、ローション剤を得た。
【0047】
実施例11:パック
(処方) (%)
1.ポリビニルアルコール 20.0
2.グリセリン 5.0
3.精製水 残量
4.エタノール 20.0
5.カオリン 6.0
6.製造例1のカリン抽出物 0.0005
7.防腐剤 0.2
8.香料 0.1
【0048】
A.成分1〜3を混合し、70℃にて均一溶解する。
B.成分4〜8を混合する。
C.AにBを加えパックを得た。
【0049】
上記で調製した種々の化粧料又は皮膚外用剤は、皮膚に適用することにより、皮脂の産生を抑えて、肌のべたつきやテカリを抑え、副作用がなく保存安定性に優れるものであった。
【0050】
以下、本発明の皮脂産生抑制剤を食品に配合する場合における配合例を示す。尚、本発明は以下の配合例に限定されない。
【0051】
実施例12:錠剤
(処方) (%)
1.乳糖 24.0
2.結晶セルロース 20.0
3.コーンスターチ 15.0
4.製造例1のカリン抽出物 0.1
5.デキストリン 残量
6.グリセリン脂肪酸エステル 5.0
7.二酸化ケイ素 1.0
【0052】
A.成分1〜7を均一に混合し、常法に従って錠剤を得た。
【0053】
実施例13:清涼飲料
1.果糖ブドウ糖液糖 30.0
2.乳化剤 0.5
3.製造例1のカリン抽出物 0.001
4.香料 適量
5.精製水 残量
【0054】
A.成分1〜5を均一に混合し、常法に従って清涼飲料を得た。
【0055】
上記で調製した錠剤および清涼飲料は、内服により、過剰な脂質の産生を抑えて、肌のべたつきやテカリを抑えるだけでなく、副作用がなく保存安定性に優れるものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラ科ボケ属カリン(学名;Chaenomeles sinensis)の抽出物を有効成分とする脂質産生抑制剤。
【請求項2】
バラ科ボケ属カリン(学名;Chaenomeles sinensis)の抽出物を有効成分とする皮脂産生抑制剤。
【請求項3】
バラ科ボケ属カリン(学名;Chaenomeles sinensis)の抽出物を有効成分とするトリアシルグリセロール産生抑制剤。



























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−32331(P2013−32331A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−16054(P2012−16054)
【出願日】平成24年1月30日(2012.1.30)
【出願人】(000145862)株式会社コーセー (734)
【Fターム(参考)】