説明

脆性材料の割断装置および割断方法

【解決手段】 割断予定線Spに沿って脆性材料1の表面に複数のディンプルDを形成するディンプル形成手段と、脆性材料1の表面にスクライブ線Sを形成するカッター31とを備え、
割断予定線Spに沿って脆性材料1の表面に複数のディンプルDを形成し、その後、該ディンプルDの形成された割断予定線Spに沿って脆性材料とカッター31とを相対移動させて、脆性材料1の表面にスクライブ線Sを形成する。
【効果】 カレットや水平クラックの発生を抑えるとともに、スクライブ線Sからの亀裂を深く進展させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脆性材料の割断装置および割断方法に関し、詳しくは脆性材料の表面に設定した割断予定線に沿ってカッターを移動させてスクライブ線を形成する脆性材料の割断装置および割断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ等の製造に用いられるマザーガラスや、液晶ディスプレイの製造工程におけるアレイ基板とカラーフィルタ基板が張り合わされた状態の液晶セル等の脆性材料を、その表面に設定した所要の割断予定線に沿って割断する割断方法が知られている。
このような脆性材料の割断装置として、脆性材料の表面に食い込んでスクライブ線を形成するカッターと、該カッターを移動させる移動手段とを備え、上記脆性材料の表面に設定された割断予定線に沿って上記移動手段が上記カッターを移動させてスクライブ線を形成し、その後このスクライブ線より亀裂を進展させて脆性材料を割断するものが知られている(特許文献1)。
また、上記カッターとして略円盤状のスクライブホイールの外周に等間隔に突起を形成し、該スクライブホイールを割断予定線に沿って回転させることにより、上記突起による打点衝撃を与えながら上記スクライブ線を形成する割断装置も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−224128号公報
【特許文献2】特許第3074143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記特許文献1の割断装置で割断した脆性材料では、形成したスクライブ線から進展する亀裂(ニューと言う)が板厚の半分程度までしか到達しないため、その後脆性材料に外力を付与してスクライブ線に沿って割断する必要があり、その際脆性材料の表面側および裏面側から微小な破片(カレット)が発生してしまうという問題が発生する。
また、上記特許文献1のようにカッターを移動させてスクライブ線を形成する際、脆性材料の表面に水平クラックが発生し、割断した脆性材料の抗折強度を低下させるという問題がある。
一方、上記特許文献2の割断装置によれば、スクライブ線から進展する亀裂を深くすることができるため、小さな外力で脆性材料を割断することができるが、上記突起による打点衝撃によって、特許文献1の場合よりも大きな水平クラックが発生し、また大量のカレットが発生してしまうという問題がある。
このような問題に鑑み、本発明はスクライブ線から進展する亀裂を深くすることが可能で、かつ水平クラックおよびカレットの発生を抑えることが可能な脆性材料の割断装置および割断方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、請求項1にかかる脆性材料の割断装置は、脆性材料の表面にスクライブ線を形成するカッターと、脆性材料とカッターとを相対移動させるカッター移動手段とを備え、
上記脆性材料の表面に設定された割断予定線に沿って上記カッター移動手段が上記カッターを移動させてスクライブ線を形成する脆性材料の割断装置において、
上記割断予定線に沿って脆性材料の表面に複数のディンプルを形成するディンプル形成手段を設け、
上記カッター移動手段は、上記ディンプルの形成された割断予定線に沿ってカッターを相対移動させることを特徴としている。
【0006】
請求項2にかかる脆性材料の割断装置は、請求項1に記載の脆性材料の割断装置において、上記ディンプル形成手段は、レーザ光を発振する発振手段と、該発振手段が発振したレーザ光を集光する集光手段と、上記集光手段が集光したレーザ光の集光位置を移動させる集光位置移動手段とを備え、上記割断予定線上の所定位置でレーザ光を集光して上記脆性材料表面の一部を除去することにより、ディンプルを形成することを特徴としている。
【0007】
また請求項3にかかる脆性材料の割断方法は、脆性材料の表面に割断予定線を設定するとともに、該割断予定線に沿って脆性材料とカッターとを相対移動させてスクライブ線を形成する脆性材料の割断方法において、
上記割断予定線に沿って脆性材料の表面に複数のディンプルを形成し、その後該複数のディンプルが形成された割断予定線に沿ってカッターを移動させることを特徴としている。
【0008】
請求項4にかかる脆性材料の割断方法は、請求項3に記載の脆性材料の割断方法において、上記割断予定線上の所定位置で集光したレーザ光によって、上記脆性材料表面の一部を除去することによりディンプルを形成することを特徴としている。
【0009】
請求項5にかかる脆性材料の割断方法は、請求項4に記載の脆性材料の割断方法において、上記レーザ光を断続的に照射しながら移動させることで、上記割断予定線に沿って複数のディンプルを所定間隔で形成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
上記請求項1の発明によれば、予め割断予定線に沿って所定間隔にディンプルを形成することで、脆性材料とカッターとを割断予定線に沿って相対移動させると、ディンプルを通過する際にカッターが上下に振動するため、スクライブ線から進展する亀裂を深くすることができる。
また、上記ディンプルに沿ってカッターを移動させることにより、水平クラックの発生を抑えることができ、割断した脆性材料の抗折強度を高くすることができる。
【0011】
上記請求項2の発明によれば、ディンプルをレーザ光の照射によって形成するため、所要の形状のディンプルを容易に形成できる。
【0012】
上記請求項3の発明によれば、予め割断予定線に沿って所定間隔にディンプルを形成するため、脆性材料とカッターとを割断予定線に沿って相対移動させると、ディンプルによってカッターが上下に振動するため、スクライブ線から進展する亀裂を深くすることができる。
また、上記ディンプルに沿ってカッターを移動させることにより、水平クラックの発生を抑えることができ、割断した脆性材料の抗折強度を高くすることができる。
【0013】
上記請求項4の発明によれば、ディンプルをレーザ光の照射によって形成するため、ディンプル形成の際にカレットが発生しないようになっている。
【0014】
上記請求項5の発明によれば、割断予定線に沿って複数のディンプルを所定間隔で形成するため、上記カッターを該ディンプルに沿って移動させることができ、ディンプルによるカッターのセルフアライメントを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施例にかかる割断装置の側面図
【図2】脆性材料の平面図。
【図3】加工ヘッドの拡大断面図。
【図4】割断方法を説明する図であって(a)は側面図を、(b)は平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下図示実施例について説明すると、図1は脆性材料1を割断する割断装置2を示し、図2は割断する脆性材料1の平面図を示している。
上記図2に示す脆性材料1は、TFT基板とカラーフィルタ基板が張り合わせた液晶セルであって、液晶画面として用いる3枚分の画面部1aと、該画面部1aの図示上方に隣接した端子部1bと、上記画面部1aの下方に隣接した位置および端子部1bの上方に隣接した残材部1cとに割断するようになっている。
上記割断装置2では、上記画面部1a、端子部1b、残材部1cの境界部分に割断予定線Spを設定するとともに、この割断予定線Spに沿ってスクライブ線Sを形成してこれらを割断したら、その後上記端子部1bより上記カラーフィルタ基板のみをはく離させて、上記TFT基板を露出させるようになっている。
そして上記脆性材料1における上記画面部1a、端子部1b、残材部1cのそれぞれの4隅には、それぞれアライメントマーク1dが設けられており、割断装置2はこのアライメントマーク1dにより脆性材料1の向きや割断予定線Spを設定するようになっている。
なお上記脆性材料1としては、そのほかにも単層のサファイア基板、SiC基板、Si基板などがあり、また本実施例にかかる割断方法によれば、特に厚さが0.1〜4mm程度の脆性材料1を割断するのに好適なものとなっている。
【0017】
上記割断装置2は、脆性材料1を載置する加工テーブル3と、脆性材料1にスクライブ線Sを形成する加工ヘッド4と、該加工ヘッド4を図示左右方向となるX方向に移動させるカッター移動手段および集光位置移動手段を構成する移動手段5と、上記加工ヘッド4のアライメントを調整するための2台の第1、第2カメラ6、7とを備え、これらは制御手段8によって制御されるようになっている。
上記加工テーブル3の表面には図示しない無数の吸着孔が穿設され、該吸着孔は図示しない真空源および圧空源に接続されている。そして上記吸着孔から負圧を発生させることで脆性材料1を吸着保持するとともに、吸着孔から圧空を噴射することでスクライブ線Sの位置で脆性材料1を割断するようになっている。
また加工テーブル3は、Y方向駆動手段3aによって図示奥行き方向であるY方向に進退動するとともに、θ軸駆動手段3bによって上下方向のZ軸を中心に回転し、載置された脆性材料1の向きを変更することが可能となっている。
【0018】
上記加工ヘッド4は、上記移動手段5によって移動するハウジング11と、該ハウジング11内部に設けられるとともに脆性材料1の表面にディンプルDを形成するディンプル形成部12と、上記脆性材料1の表面にスクライブ線Sを形成するスクライブ線形成部13とから構成されている。
上記移動手段5は、加工テーブル3の上方にX方向に架設されたボールねじ5aと、該ボールねじ5aを駆動するモータ5bとによって構成され、ボールねじ5aの回転により上記ハウジング11がX方向に進退動するようになっている。
上記ディンプル形成部12は、スクライブ線Sを形成する際には上記スクライブ線形成部13よりもX方向前方に位置するようになっている。
換言すると、上記ディンプル形成部12が割断予定線Spに沿ってディンプルDを形成した後に、上記スクライブ線形成部13がディンプルDを通過しながらスクライブ線Sを形成するようになっている。
【0019】
上記ディンプル形成部12は、レーザ光Lを発振する図示しないレーザ発振器と、レーザ光Lを導光する導光手段14と、導光されたレーザ光Lを集光する集光レンズ15と、上記レーザ光Lの焦点位置を調整する焦点調整手段16とから構成されている。
上記レーザ発振器は上記加工テーブル3に隣接した位置に設けられており、UVレーザ光を励起する固体レーザであるとともに、非線形光学結晶によるQスイッチパルス発振を行うようになっている。
上記導光手段14は、上記レーザ発振器から照射されたレーザ光Lを加工ヘッド4まで導光する光ファイバ21と、光ファイバ21より出射したレーザ光Lを平行光に変換するコリメーションレンズ22と、水平方向に照射されているレーザ光Lを脆性材料1に向けて下方に反射させるダイクロイックミラー23とから構成されている。
上記集光レンズ15は上記コリメーションレンズ22によって平行化されたレーザ光Lを球面収差によるスポット径の肥大を極力防止しながら集光する、いわゆるアクロマティックレンズとなっている。
そして上記光ファイバ21の出射側の端部と、コリメーションレンズ22と、ダイクロイックミラー23と、集光レンズ15とは、上記焦点調整手段16を構成するフレーム24によって一体的に保持されている。
【0020】
上記焦点調整手段16は、上記フレーム24と、該フレーム24に固定された第3カメラ25と、上記フレーム24を上記ハウジング11に移動可能に保持する3つの調整用マイクロメータヘッド26と、上記フレーム24をZ方向に昇降させる集光位置移動手段を構成する昇降手段27とから構成されている。
上記第3カメラ25は、上記ダイクロイックミラー23を介して上記集光レンズ15が脆性材料1に集光させたレーザ光Lにより形成したディンプルDを撮影するようになっている。
上記3つの調整用マイクロメータヘッド26は上記フレーム24をそれぞれX,Y,Zの各方向に精密に移動させることが可能となっており、上記集光レンズ15によって集光されたレーザ光Lの照射位置を割断予定線Sp上に合わせることが可能となっている。
また、上記昇降手段27は上記フレーム24をZ方向に昇降させることにより、上記集光レンズ15によって脆性材料1の表面に集光されるレーザ光Lのスポット径を調整することが可能となっている。
つまり、上記集光レンズ15によって集光されるレーザ光Lの集光位置を移動させる集光位置移動手段は、該集光レンズ15ごと加工ヘッド4をX方向に移動させる上記移動手段5と、レーザ光Lのスポット径を調整する上記昇降手段27とによって構成されている。
【0021】
上記スクライブ線形成部13は、略円盤状のカッター31と、該カッター31を回転可能に保持する保持部材32と、該保持部材32ごとカッター31を下方に付勢するエアシリンダ33と、カッター31を脆性材料1に食い込ませる荷重を測定するロードセル34と、上記カッター31をZ方向に昇降させる昇降手段35とから構成されている。
上記カッター31は、図4に示すように外周に断面V字型の歯部31aが形成された円盤状のカッター31であって、上記移動手段5によって加工ヘッド4がX方向に移動すると、脆性材料1の表面に食い込みながらX方向に回転して、脆性材料1の表面に上記スクライブ線Sを形成するようになっている。
すなわち、カッター31は特許文献1に記載されるものと形状についてはほぼ同じものであり、従来公知のものである。
上記保持部材32は上記カッター31をZ軸を中心に回転可能に保持するようになっており、加工ヘッド4がX方向に移動した際に、上記カッター31の方向を調整するセルフアライメントを行うようになっている。
上記エアシリンダ33はカッター31を常時下方に付勢するようになっており、このエアシリンダ33によって上記カッター31が脆性材料1の表面に食い込むと、その荷重が上記ロードセル34によって測定されるようになっている。
そして上記昇降手段35は、上記カッター31、保持部材32、エアシリンダ33、ロードセル34を一体的に保持するフレーム35aと、Z方向に設けたボールねじ35bと、該ボールねじ35bを回転させるモータ35cとから構成され、ボールねじ35bの回転に伴って上記フレーム35aごとカッター31が昇降するようになっている。
【0022】
上記第1、第2カメラ6、7は、上記加工ヘッド4に隣接した位置にX方向に整列するように配置されており、それぞれ移動手段6a、7aによってX方向に移動するとともに、図示しないY方向移動手段およびθ軸駆動手段によってY方向への微小量の移動および視野中央を中心に回転可能となっている。
また第1、第2カメラ6、7の視野中央には十字形のクロスカーソルが設定されており、この視野内に上記スクライブ線Sや脆性材料1のアライメントマーク1dが撮影されると、このクロスカーソルに基づいて上記制御手段8が加工ヘッド4のアライメント調整や脆性材料の位置を認識するようになっている。
【0023】
上記構成を有する割断装置2を用いた脆性材料1の割断方法について説明する。なお、以下の説明では単層の脆性材料1を割断する際の手順について説明する。
最初に、上記加工ヘッド4におけるカッター31には製造誤差があるため、カッター31を交換するたびアライメントを調整する。
まず、上記加工ヘッド4のスクライブ線形成部13に新たなカッター31を装着したら、上記ディンプル形成部12よりレーザ光Lを照射させずに、加工ヘッド4をX方向に移動させて、所要のテストピースの表面に仮スクライブ線を形成する。
その後、X方向に整列した第1、第2カメラ6、7および加工ヘッド4に設けた第3カメラ25によって上記仮スクライブ線を撮影し、上記制御手段8は各カメラの撮像範囲の中央に設定したクロスカーソルが上記仮スクライブ線上に位置するよう、上記第1、第2カメラ6、7を移動させるとともに、第3カメラ25の撮像結果に基づき、上記加工ヘッド4におけるディンプル形成部12の焦点調整手段16を調整する。
【0024】
続いて、上記加工テーブル3に新たな脆性材料1を設置すると、加工テーブル3の上面に形成された吸着孔から負圧が供給され、脆性材料1は加工テーブル3の上面に吸着保持される。
このようにして脆性材料1が設置されると、上記第1、第2カメラ6、7が上記脆性材料1に設けられた所要のアライメントマーク1dを撮影し、制御手段8は第1、第2カメラ6、7の撮影範囲に設定されたクロスカーソルとアライメントマーク1dとの傾きを認識する。
アライメントマーク1dに傾きが検出された場合、制御手段8は上記加工テーブル3の上記Y方向駆動手段3aおよびθ軸駆動手段3bを制御して、加工テーブル3を移動および回転させ、第1、第2カメラ6、7のクロスカーソルとアライメントマーク1dの傾きとを一致させる。
これにより、脆性材料1は割断予定線SpがX方向を向いた状態で加工テーブル3上に設置されることとなり、この状態で加工ヘッド4をX方向に移動させることで上記スクライブ線Sを形成することが可能となる。換言すると、上記動作により脆性材料1にX方向に向かう割断予定線Spが設定されたこととなる。
【0025】
一方、上記脆性材料1が加工テーブル3に設置される際、上記加工ヘッド4は図1における図示左端の後退位置に待機しており、少なくとも上記スクライブ線形成部13のカッター31は上記移動手段5によって脆性材料1の端部より図示左方に退避した状態となっている。
またカッター31は上記エアシリンダ33および上記昇降手段35によって脆性材料1の表面よりも下方に位置しており、この状態で上記移動手段5が加工ヘッド4をX方向に移動させると、カッター31は脆性材料1の表面に乗り上げながらエアシリンダ33の付勢力に抗して上昇し、その後カッター31は脆性材料1に食い込みながら上記割断予定線Spに沿って回転することとなる。
同時に上記ロードセル34は、上記カッター31がエアシリンダ33の付勢力に抗して上昇した際の荷重を測定し、上記カッター31の脆性材料1への食い込み量を判定する。
なお、このカッター31による脆性材料1への食い込み量は、割断する脆性材料1によって異なり、予め上記昇降手段35によるカッター31の高さが上記制御手段8に登録されている。
【0026】
そして図4(a)、(b)に示す拡大図を用いて、スクライブ線Sの形成手順を説明すると、上記移動手段5が加工ヘッド4をX方向に移動させると、上記ディンプル形成部12では、上記レーザ発振器がレーザ光Lを発振し、レーザ光Lは上記導光手段14によって導光された後、上記集光レンズ15によって集光されて上記脆性材料1の表面に照射される。
レーザ光Lはパルス照射により脆性材料1の表面を加熱して除去し、脆性材料1の表面に直径20〜50μm、深さ5〜10μmのディンプルDを形成するようになっている。
またレーザ光Lは加工ヘッド4の移動にあわせて照射され、上記割断予定線Spの線上に沿って、20〜100μmの間隔で上記ディンプルDを形成するようになっている。
【0027】
このようにして割断予定線Spに沿ってディンプルDが形成されると、カッター31がディンプルDを通過しながら、脆性材料1にスクライブ線Sを形成してゆき、スクライブ線Sからは板厚方向に亀裂が進展してゆく。
その際、カッター31は上記エアシリンダ33によって下方に付勢されていることからディンプルDの形状に沿って下降し、その後カッター31はエアシリンダ33の付勢力に抗して脆性材料1の表面側に上昇することとなる。
つまり、カッター31を上記ディンプルDの形成された割断予定線Spに沿って移動させると、カッター31は上下に振動しながら移動することとなり、その結果、カッター31が食い込んだ位置から亀裂が深く進展するようになっている。
具体的には、本発明にかかる割断装置2によって形成したスクライブ線Sの場合、形成したスクライブ線Sの下方に進展した亀裂(ニュー)が、脆性材料1の板厚の約80%程度まで進展していることが確認できた。
また、本発明にかかる割断装置2によって形成したスクライブ線Sの場合、カッター31が脆性材料1に食い込む際の衝撃が少ないため、該衝撃による脆性材料1の表面にほとんど水平クラックが発生しないことが確認できた。
そして、上記加工ヘッド4が脆性材料1の図示右端部まで移動して脆性材料1の表面にスクライブ線Sが形成されると、上記昇降手段35がカッター31を脆性材料1の上方に退避させ、上記移動手段5が加工ヘッド4を再び図示左端部の退避位置まで移動させる。
加工テーブル3では、上記吸着孔への負圧の供給を停止し、脆性材料1が浮き上がらない程度に上記圧空を供給する。脆性材料1にはスクライブ線Sから深い亀裂が形成されているため、この圧空の供給だけで脆性材料1を分離することができる。
その結果、分離の際に脆性材料1の裏面からはほとんどカレットが発生せず、また上述したように脆性材料の表面には水平クラックが発生しないことから、脆性材料の表面からもカレットがほとんど発生しないようになっている。
【0028】
なお、図4(b)に示すように、割断予定線Spに沿ってディンプルDを形成することで、上記カッター31のふらつきを防止するセルフアライメントを行うことが可能となっている。
つまり、上記カッター31が保持手段によりZ軸を中心に回転してふらついても、カッター31はディンプルDを通過する際に該ディンプルDの深いところに向けて進行しようとする。
つまり、カッター31は割断予定線Spに沿ってX方向に整列したディンプルDに従って進もうとするため、カッター31のふらつきをディンプルDの直径の範囲で抑えることが可能となっている。
【0029】
次に、上記実施例にかかる割断方法によって割断した脆性材料1の抗折強度について以下のような実験を行った。
まず、上記方法に基づいて割断した脆性材料1を、二本の梁状の支持部材の上に載置し、その状態で両支持部材の略中間位置に上方から荷重を加えて脆性材料の下面に引張力を発生させ、脆性材料が折れ曲がった際の荷重を抗折強度として測定した。
その結果、上記スクライブ線Sを形成したスクライブ面の抗折強度は、該スクライブ面の裏側のいわゆるクリアカット面の抗折強度に対して最大で90%程度となることが確認できた。換言すると、本実施例にかかる割断方法で割断した脆性材料1は抗折強度が高いことが確認できた。
その要因としては、上記実施例にかかる割断方法によって脆性材料1を割断することにより、脆性材料1の表面に水平クラックがほとんど発生しないため、スクライブ面に上記引張力が作用した場合であっても、水平クラックから亀裂が進展せず、水平クラックの発生していないクリアカット面と同程度の高い抗折強度が得られるものと推察できる。
【0030】
このような本発明にかかる割断方法に対し、ディンプルDを形成せず、かつ外周に凹凸の形成していない特許文献1に記載されるようなカッターによってスクライブ線Sを形成した場合、上記亀裂は脆性材料の板厚の約50%程度しか進展しなかった。
この場合、別途脆性材料を割断するための手段が必要となり、また割断の際に脆性材料の表面および裏面からカレットが飛散するため、新たに割断する脆性材料1を傷つけたり、該カレットの除去が煩雑であるなどの問題があった。
またスクライブ線を形成する際に、脆性材料の表面には水平クラックが形成されるため、スクライブ面の抗折強度は低くなるという問題があった。
【0031】
次に、特許文献2にかかる割断方法、すなわち外周に突起を形成したカッターによってスクライブ線Sを形成する方法によれば、脆性材料1の板厚の約80%程度まで亀裂を進展させることができ、容易に脆性材料1を割断することができる。
しかしながら、脆性材料の表面には上記特許文献1の場合よりも大きな水平クラックが形成されてしまい、脆性材料1の抗折強度がさらに低くなるという問題がある。これは、上記カッター31の外周に形成した突起が脆性材料1に食い込む際、打点衝撃によって脆性材料1に上記水平クラックを形成するものと推察される。
そして、上記突起による打点衝撃の結果、脆性材料1の表面からは多量のカレットが発生することとなり、少ない力で容易に脆性材料1を割断することができるものの、特許文献1よりも多量のカレットが発生するという問題があった。
【0032】
なお、本実施例のスクライブ線形成部13では、略円盤状のカッター31を回転させることによりスクライブ線Sを形成しているが、その他の方法でスクライブ線Sを形成しても良い。例えば、先端が四角錘状に形成されたいわゆるポイントスクライバーを用いることができる。
さらに、本実施例では上記加工ヘッド4にディンプル形成部12とスクライブ線形成部13とを一体的に設けているが、これらを異なる加工ヘッドに設けて、それぞれ個別の移動手段によって移動させても良い。
このような構成とすることで、例えばディンプル形成部12を備えていない特許文献1の構成を有する割断装置に上記ディンプル形成部12を設ければ、本発明にかかる割断方法により脆性材料の割断を行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1 脆性材料 2 割断装置
3 加工テーブル 4 加工ヘッド
12 ディンプル形成部 13 スクライブ線形成部
31 カッター D ディンプル
S スクライブ線 Sp 割断予定線
L レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料の表面にスクライブ線を形成するカッターと、脆性材料とカッターとを相対移動させるカッター移動手段とを備え、
上記脆性材料の表面に設定された割断予定線に沿って上記カッター移動手段が上記カッターを移動させてスクライブ線を形成する脆性材料の割断装置において、
上記割断予定線に沿って脆性材料の表面に複数のディンプルを形成するディンプル形成手段を設け、
上記カッター移動手段は、上記ディンプルの形成された割断予定線に沿ってカッターを相対移動させることを特徴とする脆性材料の割断装置。
【請求項2】
上記ディンプル形成手段は、レーザ光を発振する発振手段と、該発振手段が発振したレーザ光を集光する集光手段と、上記集光手段が集光したレーザ光の集光位置を移動させる集光位置移動手段とを備え、上記割断予定線上の所定位置でレーザ光を集光して上記脆性材料表面の一部を除去することにより、ディンプルを形成することを特徴とする請求項1に記載の脆性材料の割断装置。
【請求項3】
脆性材料の表面に割断予定線を設定するとともに、該割断予定線に沿って脆性材料とカッターとを相対移動させてスクライブ線を形成する脆性材料の割断方法において、
上記割断予定線に沿って脆性材料の表面に複数のディンプルを形成し、その後該複数のディンプルが形成された割断予定線に沿ってカッターを移動させることを特徴とする脆性材料の割断方法。
【請求項4】
上記割断予定線上の所定位置で集光したレーザ光によって、上記脆性材料表面の一部を除去することによりディンプルを形成することを特徴とする請求項3に記載の脆性材料の割断方法。
【請求項5】
上記レーザ光を断続的に照射しながら移動させることで、上記割断予定線に沿って複数のディンプルを所定間隔で形成することを特徴とする請求項4に記載の脆性材料の割断方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−25068(P2012−25068A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166971(P2010−166971)
【出願日】平成22年7月26日(2010.7.26)
【出願人】(308003817)株式会社北岡鉄工所 (1)
【出願人】(000253019)澁谷工業株式会社 (503)
【Fターム(参考)】