説明

脱気装置及び超音波洗浄装置

【課題】脱気効率に優れ、コスト廉価で維持管理も容易な脱気装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る脱気装置19は、洗浄液の通過する流路を備え、該流路の途中に流路の内腔断面積を狭めた絞り部21を設け、前記流路を変形不可能な剛性パイプ20で構成し、該剛性パイプの適宜位置においてその径を絞ることにより、前記絞り部21を形成し、該絞り部の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液中の溶存空気を除去するための脱気装置とこの脱気装置を用いた超音波洗浄装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工業用洗浄装置では、部品や部材に付着した汚れ、バリなどをいかにきれいに除去して仕上げるかが重要な課題である。従来、このような洗浄装置の1つとして超音波洗浄装置が用いられている。
【0003】
超音波洗浄装置は、洗浄液を満たした洗浄槽内に超音波発生器を取り付け、洗浄液中に浸漬した被洗浄物に向けて超音波を照射することにより、超音波の振動エネルギーによって被洗浄物表面に付着した汚れやバリなどを剥離除去するようにしたものである。
【0004】
ところで、このような超音波洗浄装置の場合、超音波の音圧、すなわち超音波の振動エネルギーは洗浄液に含まれる溶存空気濃度に大きな影響を受けることが知られており、溶存空気が多いと超音波の伝播を妨げ、エネルギーロスを引き起こして音圧が低下し、洗浄力が低下する。そこで、従来より超音波洗浄装置に脱気装置を付設し、洗浄液中の溶存空気濃度を低減することにより、効率的で安定な洗浄を実現できるように工夫している。
【0005】
上記脱気装置の例を挙げると、例えば特許文献1に記載のものがある。この特許文献1に記載の脱気装置は、空気のみを通す脱気膜を用いた膜式脱気装置の一例であって、密閉空間とされた脱気室内を脱気膜によって2室に仕切り、一方の室には脱気対象とする液を流すとともに、もう一方の室には真空ポンプをつないで負圧で引くことにより、液中の溶存空気を脱気膜を通して吸引除去するようにしたものである。
【0006】
【特許文献1】特開2004−249215号公報(全頁、全図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の膜式脱気装置の場合、脱気膜が高価で装置のコストが高く、さらに、一定期間毎に脱気膜を交換したり、逆洗したりしなければならず、装置の維持管理に費用と手間がかかるという欠点があった。また、一般的に膜式脱気装置は水系の洗浄液にしか適用できず、炭化水素系や溶剤系の洗浄液には適用することが困難であった。
【0008】
また、上記膜式脱気装置以外にも、真空式脱気装置やターボ式脱気装置が知られている。真空式脱気装置は、密閉した脱気槽内を一定量の洗浄液で満たし、槽の上部空間の空気を真空ポンプで引くことにより、洗浄液中の溶存空気を取り出して排出するようにしたものである。ターボ式脱気装置は、密閉された脱気槽内に一定量の洗浄液を満たした後、脱気槽へ流入する洗浄液の供給量を絞りながら脱気槽内の洗浄液を大きな流量で排出することにより、脱気槽の入り口側と出口側に圧力差を与え、この圧力差によって脱気槽内の洗浄液中の溶存空気を取り出して排出するようにしたものである。しかしながら、これらにも一長一短があり、脱気効率、コスト、装置の維持管理のすべてを同時に満足できるものではなかった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決すべくなされたもので、その目的とするところは、脱気効率に優れ、コスト廉価で維持管理も容易な脱気装置と、この脱気装置を用いた超音波洗浄装置を提供することである。さらに、他の目的とするところは、特定の条件下で運転することにより、循環ポンプの出口側にマイクロバブル(直径10〜数十μmの微細な気泡)を発生させ、このマイクロバブルの存在下で被洗浄物の超音波洗浄を行なうようにした超音波洗浄装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述したように、従来の脱気装置は、脱気効率、コスト、維持管理のすべてを同時に満足できるものではなかった。そこで、これらの問題を解決すべく本発明者らは鋭意実験と研究を重ねた結果、構造簡単でありながら、高い脱気効率を有し、コストも廉価で維持管理も容易な脱気装置と、これを用いた超音波洗浄装置を開発したものである。
【0011】
すなわち、(1)の脱気装置は、洗浄液の通過する流路を備え、該流路の途中に流路の内腔断面積を狭めた絞り部を設け、該絞り部の後方側でキャビテーション(急激な圧力変化による溶存空気の気泡化現象)を発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化するようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
上記脱気装置は、洗浄槽内の洗浄液を循環させる洗浄液循環路の経路途中に接続して用いられる。循環ポンプによって洗浄液が循環されると、脱気装置におけるキャビティーションによって洗浄液循環路を流れる洗浄液中の溶存空気が気泡化され、該気泡化した溶存空気は洗浄液とともに洗浄槽へ還流される。そして、気泡化した溶存空気は洗浄槽の液面から槽外へ排出されるものである。
【0013】
(2)の脱気装置は、前記(1)の脱気装置において、前記流路を変形可能な弾性チューブで構成するとともに、該弾性チューブを押圧することによってチューブの内腔断面積を可変可能なチューブ断面積可変機構を付設し、該チューブ断面積可変機構の押圧動作によって前記絞り部を形成することを特徴とするものである。
【0014】
変形可能な弾性チューブを用いているので、チューブ断面積可変機構によってチューブを押圧すると、押圧した部分が押し潰され、チューブの内腔断面積が小さくなって絞り部が形成される。このため、洗浄液がこの絞り部を通る際、その流速が速くなり、洗浄液の動圧が急激に上昇するとともに静圧が急激に低下する。一方、絞り部を通過すると、チューブ断面積が広がるために流速が遅くなり、洗浄液の動圧が急激に低下するとともに静圧が急激に上昇する。
【0015】
弾性チューブの絞り部において上記のような急激な圧力変化が発生すると、絞り部の下流側でキャビテーションが発生し、洗浄液中に含まれている溶存空気は絞り部の下流側で気泡化する。気泡化された溶存空気は、洗浄液とともに超音波洗浄槽内に戻され、その浮力によって洗浄槽の液面へ向かって上昇していき、洗浄槽の液面から槽外へと排出される。
【0016】
上記キャビテーションによる気泡の発生量は、絞り部の断面積によって変化し、断面積が小さいと絞り部での圧力変化が大きくなるため、気泡の発生量は多くなり、断面積が大きいと絞り部での圧力変化が小さくなるため、気泡の発生量は少なくなる。したがって、チューブ断面積可変機構によって弾性チューブの断面積を変えることにより、気泡の発生量を調節することができる。その結果、洗浄液の溶存空気濃度を制御し、溶存空気濃度を目的の値に調節することが可能となる。
【0017】
上記構造の脱気装置は、洗浄液の圧力変化によるキャビテーションを利用したもので、構造が極めて簡単であり、廉価に提供することができる。また、洗浄液と接する弾性チューブをフッ素ゴムなどで構成すれば、水系の洗浄液だけに限らず、炭化水素系、溶剤系の洗浄液であっても使用することができ、極めて高い汎用性を有する。
【0018】
(3)の脱気装置は、前記(1)記載の脱気装置において、前記流路を変形不可能な剛性パイプで構成し、該剛性パイプの適宜位置においてその径を絞ることにより、前記絞り部を形成したことを特徴とするもので、絞り部を可変不可能な固定式としたものである。
【0019】
(4)の脱気装置は、洗浄液の通過する流路を備え、該流路内に、流路中を流れる洗浄液の流れを妨げて乱流を発生させる障害物を配置し、該障害物の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とするものである。
【0020】
(5)の脱気装置は、洗浄液を送給する循環ポンプのポンプ室入り口に径の小さな絞り部を形成し、該絞り部の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とするものである。
【0021】
(6)の脱気装置は、洗浄液を送給する循環ポンプのプロペラの翼形を非対称形とし、回転するプロペラの周囲でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とするものである。
【0022】
(7)の超音波洗浄装置は、前記各脱気装置を用いて洗浄液の脱気を行なうようにしたものであって、超音波発生器を付設された洗浄槽を備え、洗浄液によって満たされた洗浄槽内に被洗浄物を浸漬して超音波発生器から超音波を照射することにより、被洗浄物を超音波洗浄するようにした超音波洗浄装置において、前記洗浄槽内の洗浄液を循環ポンプによって吸引して所定の経路を循環させた後、再び洗浄槽内に戻すようにした洗浄液循環路を形成するとともに、該洗浄液循環路の経路途中に前記(1)〜(6)のいずれかに記載の脱気装置を接続し、該脱気装置によって洗浄液循環路を流れる洗浄液中の溶存空気を気泡化し、該気泡化した溶存空気を洗浄液とともに洗浄槽内へ還流することにより、気泡化した溶存空気を洗浄槽の液面から槽外へ排出するようにしたことを特徴とするものである。
【0023】
(8)の超音波洗浄装置は、前記(7)の超音波洗浄装置において、前記脱気装置の下流側に、バルブ開度を可変可能な空気供給手段を接続し、該空気供給手段を通じて洗浄液循環路を流れる洗浄液中に空気を供給可能としたことを特徴とするものである。
【0024】
ところで、前述したように、超音波洗浄における超音波音圧は洗浄液の溶存空気濃度によって大きく変化する。一方、溶存空気濃度は、洗浄槽の形状(大気と接触する面積、水深など)、洗浄液の循環状態、洗浄液の温度、外気温、湿度などの状態量によって幅広い範囲に分布した状態となり、特定の状態量だけから超音波音圧を一義的に特定することは困難な場合がある。
【0025】
そこで、本発明では、超音波洗浄装置における溶存空気濃度の制御に際し、超音波洗浄装置の入出力信号の時系列データをコンピュータなどを用いて解析し、当該超音波洗浄装置の入出力関係を溶存空気濃度、液温、流量、室温、湿度などの複数の状態量を入出力とする多変量自己回帰モデルとしてソフトウェア上で構築し、このソフトウェア上で構築した多変量自己回帰モデルに基づいて溶存空気濃度を制御することにより、超音波の音圧を最適状態に維持し、効率的で安定な超音波洗浄を実現した。
【0026】
すなわち、(9)の超音波洗浄装置は、前記(7)または(8)の超音波洗浄装置において、少なくとも洗浄液の溶存空気濃度を含む複数の状態量の時系列データから当該超音波洗浄装置の入出力関係を示す多変量自己回帰モデルを構築し、該多変量自己回帰モデルに基づいて洗浄液の溶存空気濃度の制御を行なうようにしたことを特徴とするものである。
【0027】
(10)の超音波洗浄装置は、前記(9)の超音波洗浄装置において、前記多変量自己回帰モデルに学習機能を付与し、状態量の時系列データを定期的にあるいは必要なときに計測収集し、得られた時系列データによって従前の時系列データに基づいて構築された多変量自己回帰モデルを修正するようにしたことを特徴とするものである。
【0028】
(11)の超音波洗浄装置は、前記(7)〜(10)のいずれかに記載の超音波洗浄装置において、前記洗浄液循環路の洗浄液吸引口を洗浄槽上部側に開口するとともに、洗浄液吐出口を前記吸引口と反対側の槽壁の下部側に開口したことを特徴とするものである。
【0029】
(12)の超音波洗浄装置は、前記(7)〜(11)のいずれかに記載の超音波洗浄装置において、循環ポンプを制御して洗浄液の循環量を変化させることにより洗浄槽内の洗浄液の流れを変え、洗浄槽内の溶存空気濃度を均一化するようにしたことを特徴とするものである。
【0030】
(13)の超音波洗浄装置は、前記(7)〜(12)のいずれかに記載の超音波洗浄装置において、洗浄液の溶存空気濃度が2.5mg/l以上となるように制御することを特徴とするものである。
【0031】
(14)の超音波洗浄装置は、前記(7)〜(12)のいずれかに記載の超音波洗浄装置において、前記循環ポンプとしてプロペラ式のポンプを用いるとともに、洗浄液の溶存空気濃度を2.5〜3.5mg/lの範囲に制御することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0032】
前記(1)の脱気装置によれば、キャビーテーションを利用して洗浄液中の溶存空気を気泡として顕在化させ、洗浄液から分離排出するようにしたので、極めて簡単な構造でありながら、洗浄液中から溶存空気を簡単かつ確実に除去することができる。このため、脱気装置、ひいては超音波洗浄装置全体の構成を簡素化することができ、コスト低減を図ることができる。
【0033】
前記(2)の脱気装置によれば、変形可能な弾性チューブを用い、該弾性チューブをチューブ断面積可変機構で押圧することにより、任意の内腔断面積からなる絞り部を形成することができるので、洗浄液中の溶存空気の気泡化を自在に調節することができる。また、弾性チューブの材質としてフッ素ゴムなどを用いれば、水系の洗浄液に限らず、炭化水素系や溶剤系の洗浄液に対しても用いることができる。
【0034】
前記(3)の脱気装置によれば、変形不可能な剛性パイプを用い、該剛性パイプの適宜位置においてその径を絞ることにより、絞り部を形成したので、強度が高くて耐久性に優れた脱気装置を得ることができる。
【0035】
前記(4)の脱気装置によれば、流路中に洗浄液の流れを妨げて乱流を発生させる障害物を配置し、該障害物の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化するようにしたので、加工の難しい絞り部が不要となり、脱気装置をより簡単に製造することができる。
【0036】
前記(5)の脱気装置によれば、循環ポンプのポンプ室入り口に径の小さな絞り部を形成し、該絞り部の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化するようにしたので、脱気装置と循環ポンプを一体に構成することができ、本発明の脱気装置を用いた超音波洗浄装置の小型化を図ることができる。
【0037】
前記(6)の脱気装置は、循環ポンプのプロペラの翼形を非対称形とし、回転するプロペラの周囲でキャビテーションを発生させることによって洗浄液中の溶存空気を気泡化するようにしたので、脱気装置と循環ポンプを一体に構成することができ、本発明の脱気装置を用いた超音波洗浄装置の小型化を図ることができる。
【0038】
前記(7)の超音波洗浄装置よれば、上記(1)〜(6)の脱気装置を用いて洗浄槽の洗浄液の脱気を行うようにしたので、洗浄液中の溶存空気を確実に分離して脱気することができる。また、構造簡単な脱気装置を用いているので装置を小型かつ廉価に提供することができる。
【0039】
前記(8)の超音波洗浄装置によれば、空気供給手段によって循環路を流れる洗浄液中に空気を供給することができるので、溶存空気濃度を自由にコントロールすることができる。
【0040】
前記(9)の超音波洗浄装置によれば、少なくとも溶存空気濃度を含む複数の状態量の時系列データから当該超音波洗浄装置の入出力関係を示す多変量自己回帰モデルを構築し、該多変量自己回帰モデルに基づいて洗浄液の溶存空気濃度の制御を行なうようにしたので、洗浄状態の変化(季節による温度や湿度等の環境変化、一日の洗浄回数や操作方法の変化など)に対しても安定した超音波洗浄を行なうことができる。また、洗浄槽の形状(大気との接触面積、水深など)による溶存空気濃度の分布の変化に対しても安定した洗浄を行うことができる。
【0041】
前記(10)の超音波洗浄装置よれば、多変量自己回帰モデルに学習機能を付与したので、構築した多変量自己回帰モデルを実際の超音波洗浄装置の挙動により近づくように進化させることができ、より優れた超音波洗浄を実現することができる。
【0042】
前記(11)の超音波洗浄装置によれば、洗浄液循環路の洗浄液吸引口を洗浄槽上部側に開口するとともに、洗浄液吐出口を前記吸引口と反対側の槽壁の下部側に開口したので、洗浄液は洗浄槽内を横切るように斜め上方に向かって流れていき、洗浄液の撹拌作用を高めることができるので、溶存空気濃度の均一化を速めることができる。
【0043】
前記(12)の超音波洗浄装置によれば、循環ポンプを制御して洗浄液の循環量を変化させることにより洗浄槽内の洗浄液の流れを変えるようにしたので、洗浄槽内の洗浄液の撹拌作用をさらに上げることができ、溶存空気濃度の均一化をさらに速めることができる。
【0044】
前記(13)の超音波洗浄装置によれば、超音波音圧を最も減衰の小さい状態に維持することができ、安定した超音波洗浄を行なうことができる。本発明者らの実験によれば、超音波音圧を減衰の小さな状態に維持するには、洗浄液の溶存空気濃度を2.5mg/l以上にすることが望ましいことが判明した。このような濃度とすることにより、超音波の減衰を可能な限り小さくすることができ、効率的な洗浄を行なうことができる。
【0045】
前記(14)の超音波洗浄装置によれば、循環ポンプの出口側にマイクロバブルを発生させることができ、このマイクロバブルの有する種々の作用によって環境(室温、湿度、気圧など)の変化に影響されない安定した超音波洗浄を行なうことができる。なお、マイクロバブルとは、気泡発生時における直径が10〜数十μmの微細な気泡を指すものである。
【0046】
すなわち、循環ポンプとしてプロペラ式のポンプを用いて洗浄液を循環させるように構成した場合、脱気装置によるキャビテーションで発生した気泡が循環ポンプの回転するプロペラでさらに細かく剪断され、極めて微細な気泡となる。本発明者らの実験によれば、このとき、洗浄液の溶存空気濃度を2.5〜3.5mg/lの範囲内になるように制御すると、回転するプロペラで剪断されて発生する気泡は、いわゆる「マイクロバブル」と呼ばれる極めて小さな径からなる気泡になることが分かった。
【0047】
このマイクロバブルは、従来のミリサイズの気泡には無い次のような特徴を備えている。
(1)上昇速度が極めて小さく、洗浄液中を漂うに移動しながら自己収縮し、より小さなマイクロ・ナノサイズ近くの気泡となる。
(2)ほとんど均一なバブルを発生させ、分散性に優れる。
(3)緩やかな流動性と広範囲の拡散特性を有する。
(4)超音波照射に対する共振現象を有する。
(5)固有の物理化学特性を有する。
(6)生体に対して生理活性を誘起する。
【0048】
上記各特性、特に(1)〜(5)の特性によって洗浄槽内の洗浄液の均一分散化がさらに進み、洗浄槽全域にわたって溶存空気濃度が均一になり、室温や湿度、気圧などの環境の変化に影響されることのない超音波洗浄を実現することができる。また、洗浄液中の汚れが凝集しにくくなり、大きな塊の汚れが発生するようなこともなくなる。これは、汚れはマイクロバブルに吸着した状態で洗浄液中を漂いながら上昇するが、マイクロバブルは負に帯電しているため、マイクロバブル同士は静電気によって反発し合い、凝集することがないことによるものと考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明に係る超音波洗浄装置の一実施の形態を示す図、図2はこの実施の形態で用いた脱気装置の構成を示す図である。
【0050】
図1において、1は洗浄液2を満たされた洗浄槽であって、この洗浄槽1の底面部には超音波発生器3が付設されている。また、洗浄槽1の周囲にはヒータ(液温調節手段)4が付設され、洗浄液2の温度を調節可能とされている。
【0051】
洗浄槽1の上部位置には洗浄液の吸引口5が開口されているともに、該吸引口5と反対側の槽壁の下部位置には洗浄液の吐出口6が開口され、これら吸引口5と吐出口6の間をパイプなどの配管で結ぶことにより、洗浄液循環路7が形成されている。
【0052】
洗浄液循環路7の途中には、洗浄液を強制循環させるための循環ポンプ8が接続されているとともに、該循環ポンプ8の上流側には本発明の脱気装置9が接続されている。また、脱気装置9と循環ポンプ8の間には、バルブ開度を可変自在な空気供給バルブ(空気供給手段)10が接続されている。
【0053】
さらに、脱気装置9の上流側には、流量調節バルブ(流量調節手段)11、流量センサ(流量測定手段)12、液温センサ(液温測定手段)13、溶存空気濃度センサ(溶存空気濃度測定手段)14が接続されている。また、装置周囲の温度と湿度を測るための室温センサ(室温測定手段)15および湿度センサ(湿度測定手段)16も設置されている。なお、一般的に液体中の溶存空気濃度は溶存している酸素Oの量に比例するので、溶存空気濃度センサ14としては通常溶存酸素測定器が用いられる。
【0054】
前記脱気装置9は、洗浄液2に溶け込んでいる空気(溶存空気)を洗浄液中から分離して気体として排出可能な気泡に変えるための気泡発生手段である。また、空気供給バルブ10は、洗浄液循環路7中を流れる洗浄液中に空気を供給し、洗浄液2の溶存空気濃度を上げるための空気供給機構である。この脱気装置9と空気供給バルブ10を制御することにより、洗浄液2の溶存空気濃度を自由にコントロールすることが可能となる。
【0055】
制御装置(制御手段)17は装置全体の動作を制御するもので、前記流量センサ12,液温センサ13,溶存空気濃度センサ14,室温センサ15,湿度センサ16からの計測信号が入力されているとともに、これらの計測信号に基づいて循環ポンプ8,脱気装置9,空気供給バルブ10,流量調節バルブ11、ヒータ4を制御し、洗浄液2の溶存空気濃度が既定値若しくは規定範囲となるように制御するものである。
【0056】
なお、制御装置17にはコンピュータ18などのデータ処理装置が内蔵あるいは外付けされている。このコンピュータ18は、後述する制御例4で示すように、溶存空気濃度をはじめとする必要な状態量の時系列データを解析し、超音波洗浄装置全体の入出力関係を多変量自己回帰モデルとしてソフトウェア上で構築し、この多変量自己回帰モデルに基づいて溶存空気濃度の制御を行うためのものである。
【0057】
図2(a)(b)に、脱気装置9の具体的な構造例を示す。
図示例の脱気装置9は、所定長さからなる変形可能な弾性チューブ91を備えており、この弾性チューブ91の中央付近に位置して2つのアクチュエータ92a,92bを対向配置し、この対向配置した2つのアクチュエータのピストンロッド93a,93bの先端に、弾性チューブ91を押圧変形するための圧接子94a,94bを取り付けたものである。なお、弾性チューブ91の素材としては、炭化水素系洗浄液や溶剤系洗浄液に対しても耐性を有するフッ素ゴムなどを用いることが望ましい。
【0058】
この脱気装置9は、アクチュエータ92a,92bを駆動してピストンロッド93a,93bを進退させることにより、その先端の圧接子94a,9abで弾性チューブ91を押圧して押し潰し、その部分の内腔断面積を狭めることにより、開口面積の小さくなった絞り部95(図2(b)参照)を形成するものである。洗浄液がこの絞り部95の部分に達すると、その絞り量に応じて流速が速くなり、洗浄液の動圧が急激に上昇するとともに静圧が急激に低下し、次いで、絞り部95を通過すると、チューブの内腔断面積が広がるために流速が遅くなり、洗浄液の動圧が急激に低下するとともに静圧が急激に上昇する。
【0059】
絞り部95において上記のような急激な圧力変化が発生すると、絞り部95の下流側でキャビテーションが発生し、洗浄液中に溶け込んでいた溶存空気は気泡となって顕在化する。これによって、洗浄液中に溶存している空気を気泡として洗浄液から分離することができる。キャビテーションによる溶存空気の分離作用の強さは、弾性チューブ91の絞り部95の開口面積、すなわちアクチュエータ92a,92bのピストンロッド93a,93bの進退量によって制御することができる。
【0060】
なお、上記の例では2つのアクチュエータ92a,92bを用いて弾性チューブ91を押圧変形するようにしたが、1個のアクチュエータを用いて押圧変形するようにしてもよい。また、アクチュエータとしてピストンロッド式のものを用いたが、圧接子94a,9abを進退させることができればどのような形式、構造のものであってもよく、例えばネジ進退式のもの、ラック・ピニオン進退式のものなど、種々の進退機構を利用することができる。
【0061】
次に、上記構成になる超音波洗浄装置における溶存空気濃度の制御方法について説明する。
【0062】
〔1〕制御例1
第1の制御例は、溶存空気濃度センサ14の測定結果を用いて洗浄液の溶存空気濃度を制御する場合の例である。以下、その制御方法を説明する。
【0063】
超音波洗浄装置の電源が投入されると、制御装置17は循環ポンプ8を駆動し、洗浄槽1内の洗浄液2を槽上部の洗浄液吸引口5から洗浄液循環路7内に吸引する。そして、洗浄液循環路7を一巡させた後、槽下部の洗浄液吐出口6から再び洗浄槽1内に吐出し、洗浄液2を循環させる。また、必要に応じてヒータ4も制御し、液温センサ13の出力する液温信号に基づいて洗浄液2の温度が規定温度となるように制御する。
【0064】
この状態において、制御装置17は溶存空気濃度センサ14から送られてくる溶存空気濃度信号を取り込み、その時点における洗浄液の溶存空気濃度が予め設定した既定値よりも大きいか小さいかを監視する。前述したように、溶存空気濃度が既定値よりも大きい場合には、超音波発生器3から放射される超音波の音圧が急激に低下してしまい、良好な超音波洗浄を行なうことが難しくなる。
【0065】
そこで、溶存空気濃度が既定値よりも大きい場合には、制御装置17は脱気装置9に制御信号を送り、脱気装置9のアクチュエータ92a、92bを駆動してピストンロッド93a,93bを進出させ、その先端の圧接子94a,94bによって弾性チューブ91を押圧変形させ、絞り部95を形成する(図2(b)参照)。
【0066】
弾性チューブ91に絞り部95が形成されると、前述したように絞り部95の下流側でキャビテーションが発生し、洗浄液中に溶存している空気が気泡となって顕在化する。この気泡となって顕在化した溶存空気は洗浄液とともに再び洗浄液吐出口6から洗浄槽1内に吐出されるが、洗浄槽1内に吐出された気泡はその浮力によって洗浄液2中を上昇していき、洗浄槽1の上部液面から槽外へ排出される。
【0067】
上記キャビテーションによる溶存空気の気泡化が繰り返されると、洗浄槽1内の洗浄液2は徐々に脱気されていき、その溶存空気濃度はやがて予め設定した規定値以下となる。溶存空気濃度が既定値以下となったら、被洗浄物(図示略)を洗浄液2中に浸漬し、超音波発生器3から超音波を照射して超音波洗浄を開始する。これによって、音圧低下のない効率的で良好な超音波洗浄を行なうことができる。
【0068】
制御装置17は、上記超音波洗浄の最中も溶存空気濃度センサ14の出力する溶存空気濃度信号を監視し、洗浄液の溶存空気濃度が既定値以上とならないように脱気装置9の絞り量を制御する。これによって、洗浄槽1内の洗浄液2の溶存空気濃度を常に既定値以下に維持することができ、音圧低下のない良好な超音波洗浄を維持することができる。
【0069】
さらにこのとき、洗浄液の溶存空気濃度が既定値よりもあまりに小さくなり過ぎるような場合には、空気供給バルブ10も制御し、空気供給バルブ10を開いて洗浄液循環路7内を流れる洗浄液に空気を送り込み、溶存空気濃度を上げるように制御すればよい。この空気供給バルブ10による空気供給制御を併用すれば、溶存空気濃度を常に既定値を中心とする一定範囲内に維持することができ、より良好な超音波洗浄を実現できる。
【0070】
なお、本発明者らの実験によれば、良好な超音波洗浄を行なうための溶存空気濃度は、あまりに小さ過ぎても問題があり、2.5mg/l以上となるように設定することが望ましいことが判明した。したがって、目標とする溶存空気濃度の規定値はこの値以上とすることが望ましい。
【0071】
また、前記超音波洗浄装置の場合、洗浄液循環路7の洗浄液吸引口5と洗浄液吐出口6は、洗浄槽1の対向する反対側の槽壁の上部側と下部側に設けられているので、洗浄液吐出口6から吐出された洗浄液は洗浄槽1内を横切るように斜め上方に向かって流れていき、再び洗浄液吸引口5から吸引されて洗浄液循環路7内に入っていく。このため、洗浄槽全体の洗浄液が効果的に撹拌され、洗浄槽1内の洗浄液2の溶存空気濃度の均一化を速めることができる。
【0072】
また、前記溶存空気濃度の制御において、脱気装置9における絞り部95の絞り量(内腔断面積)は、溶存空気濃度の大小にかかわらず一定絞り(一定断面積)としてもよいが、溶存空気濃度の規定値からのズレ量の大小に比例してその絞り量を変えるように制御することが望ましい。これによって、溶存空気濃度をより短時間のうちに既定値まで下げることができる。
【0073】
同様に、空気供給バルブ10のバルブ開度も、溶存空気濃度の規定値からのズレ量の大小に比例してその開度を変えるようにすれば、下がり過ぎた溶存空気濃度をより短時間のうちに既定値まで引き戻すことができ、溶存空気濃度をより確実に一定範囲内に維持することができる。
【0074】
〔2〕制御例2
第2の制御例は、洗浄槽1内の洗浄液2の溶存空気濃度をより均一にするために、循環ポンプ8による洗浄液の循環量を制御するようにした場合の例である。
【0075】
上記したように、本発明においては洗浄液循環路7の洗浄液吸引口5と洗浄液吐出口6を洗浄槽1の対向する槽壁の上下位置に設け、斜め上方への洗浄液の流れを作ることによって洗浄槽1内の洗浄液を撹拌し、溶存空気濃度の均一化を図っているが、洗浄液循環路7を循環する洗浄液の循環量を制御することにより、さらなる均一化を図ることができる。
【0076】
すなわち、制御装置17によって循環ポンプ8を制御し、一定周期または可変周期でその回転数を変えあるいはオン/オフ制御し、洗浄液循環路7内を流れる洗浄液の流量に変化を与える。これによって、洗浄液吐出口6から洗浄槽1内に吐出される洗浄液の流れに変化が起き、洗浄液の撹拌作用がより大きくなって溶存空気濃度の均一化をより速めることができる。
【0077】
〔3〕制御例3
第3の制御例は、溶存空気濃度の制御動作をタイマー動作で行なうようにした場合の例である。
【0078】
一般的に、超音波洗浄装置における洗浄条件は、洗浄対象とする被洗浄物および洗浄装置の仕様によって決定される。したがって、前述した制御例1で示したような制御動作によって溶存空気濃度が規定値まで制御された後は、溶存空気濃度はそのときの洗浄条件に従った上昇率で徐々に悪化していく。したがって、予めこの溶存空気濃度の上昇率が分かれば、前述した制御例1の制御動作を常時行なわなくても、間歇的にタイマー動作させることにより、洗浄液の溶存空気濃度を既定範囲内に維持することが可能である。
【0079】
そこで、予めこの溶存空気濃度の上昇率を実験あるいは実際の超音波洗浄処理によって求めておき、その上昇率から決定される所定の時間間隔をタイマー動作時間として制御装置17に設定する。そして、前述した制御例1の制御動作によって洗浄液2の溶存空気濃度が規定値に達したら、循環ポンプ8を停止して脱気処理を停止し、設定したタイマー時間が経過した時点で再び循環ポンプ8を駆動し、溶存空気濃度をタイマー動作によって低減するように制御する。これを繰り返すことにより、制御動作を連続的に休みなしに行なうことなく、溶存空気濃度を規定範囲内に維持することができる。これによって、洗浄コストの低減化を図ることができる。
【0080】
〔4〕制御例4
第4の制御例は、超音波洗浄装置の入出力信号の時系列データを制御装置17に内蔵あるいは外付けしたコンピュータ18を用いて解析し、当該超音波洗浄装置を溶存空気濃度などの複数の状態量を入出力とする多変量自己回帰モデルとしてソフトウェア上で構築し、この構築した多変量自己回帰モデルに基づいて溶存空気濃度を制御するようにした場合の例である。
【0081】
前述したように、超音波洗浄における洗浄槽1内の超音波音圧は、洗浄液の溶存空気濃度によって大きく変化するが、一方において、溶存空気濃度は、洗浄槽の形状、洗浄液の循環状態や液温、外気温、湿度などにより幅広い範囲に分布した状態となる。このため、洗浄装置の使用状況によっては、例えば洗浄液の溶存空気濃度だけ、あるいは洗浄液の温度と外気温だけというように、特定の状態量だけからでは正確に溶存空気濃度を特定することが困難な場合も出てくる。そこで、前述した制御例1による溶存空気濃度だけを用いた制御に代えて、超音波洗浄装置を多変量自己回帰モデルとして構築し、この多変量自己回帰モデルに基づいて溶存空気濃度を制御するようにしたものである。
【0082】
この超音波洗浄装置の多変量自己回帰モデル化は、制御装置17に付設されたコンピュータ18によって、以下に示すような各ステップの処理を行なうことにより、ソフトウェア上で実現される。なお、説明を分かりやすくするため、以下においては、溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温の3つの状態量を入出力とする多変量自己回帰モデルを構築する場合を例に採って説明するが、流量、湿度などの他の状態量を変数に加えた場合でも、入出力の変数が増えるだけで処理自体は同様にして行なうことができる。
【0083】
(第1ステップ)
まず最初に、溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温についての時系列データを収集する。これを行なうには、超音波洗浄装置を稼働し、溶存空気濃度センサ14から出力される溶存酸素データ、液温センサ13から出力される液温データ、室温センサ15から出力される室温データを所定時間(例えば10〜15分間)にわたってサンプリングし、収集する。
【0084】
(第2ステップ)
得られた溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温の3つの状態量についての時系列データを基にコンピュータ18で解析し、溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温を入出力とする多変量自己回帰モデルを構築する。
【0085】
(第3ステップ)
得られた多変量自己回帰モデルによる解析から溶存空気濃度、洗浄液の液温、室温のパワー寄与率、インパルス応答(閉鎖系)を算出する。
【0086】
(第4ステップ)
溶存空気濃度のインパルス応答から、「溶存空気濃度変化の基準時間」(溶存空気濃度が目的とする規定値以下になるまでの時間)を算出する。
【0087】
(第5ステップ)
パワー寄与率とインパルス応答の値から溶存空気濃度の状態モデルを作成し、これに基づいて前記算出した「溶存空気濃度変化の基準時間」を修正した「溶存空気濃度変化の推定時間」を算出する。
【0088】
(第6ステップ)
得られた「溶存空気濃度変化の推定時間」から溶存空気濃度が規定の値になるまでの脱気量(あるいは脱気時間)を算出する。
【0089】
(第7ステップ)
上記算出された脱気量(あるいは脱気時間)に基づいて、制御装置17により脱気装置9の絞り量(あるいは脱気時間)を制御し、溶存空気濃度が規定範囲になるようにコントロールする。
【0090】
上記の多変量自己回帰モデルを用いれば、超音波洗浄装置全体を統計処理的に扱うことができる。このため、溶存空気濃度、液温、室温、流量、湿度、超音波音圧などの各状態量が複雑に絡み合って状態量間の関係を明確に関連づけることができない場合でも、洗浄液の溶存空気濃度を迅速かつ正確に制御することが可能となる。
【0091】
なお、上記の例では、超音波洗浄を開始する直前に各状態量の時系列データを収集したが、過去の超音波洗浄作業時に収集・蓄積された各状態量の時系列データを用いて多変量自己回帰モデルを構築するようにしてもよい。
【0092】
また、学習機能を付与し、被洗浄物の超音波洗浄が開始された後においても一定時間毎に上記各状態量の時系列データを収集し、この収集した新しい時系列データに基づいて最初に構築した多変量自己回帰モデルを修正するように構成してもよい。このような学習機能を付与しておけば、構築した多変量自己回帰モデルを実際に稼働している超音波洗浄装置の挙動により近づくように進化させることができ、より優れた超音波洗浄を実現することができる。
【0093】
〔5〕制御例5
第5の制御例は、前記循環ポンプ8としてプロペラ式のポンプを用いるとともに、洗浄液の溶存空気濃度を2.5〜3.5mg/lの範囲になるように制御する場合の例である。
【0094】
前述したように、循環ポンプ8としてプロペラ式のポンプを用いて洗浄液2を循環させるように構成した場合、脱気装置9で発生した気泡が循環ポンプ8に達すると、気泡は循環ポンプ8の回転するプロペラでさらに細かく剪断され、いわゆる「マイクロバブル」と呼ばれる直径10〜数十μmの極めて微細な気泡となる。このマイクロバブルが発生すると、マイクロバブルの作用によって洗浄槽1内の洗浄液2の均一分散化がさらに進み、洗浄槽全域にわたって溶存空気濃度が均一になり、室温や湿度、気圧などの環境の変化に影響されることのない超音波洗浄を実現することができる。また、洗浄液中の汚れが凝集しにくくなり、大きな塊の汚れが発生するようなこともなくなる。
【0095】
図3に、脱気装置の第2の例を示す。
この第2の例になる脱気装置19は、その全体が金属や硬質プラスチックなどの変形不可能な剛性パイプ20で作られており、この剛性パイプ20の適宜位置においてその径を絞ることにより、洗浄液の流れる流路途中に固定式の絞り部21を形成したものである。
【0096】
図4に、脱気装置の第3および第4の例を示す。
(a)は第3の例を示すもので、筒状の管路23内に、断面三角形状をした障害物24を洗浄液の流れを遮る向きに直交配置したものである。(b)は第4の例を示すもので、筒状の管路23内に、断面四角形状をした障害物24を洗浄液の流れを遮る向きに直交配置したものである。これら第3および第4の例になる脱気装置22は、障害物24によって洗浄液の流れを妨げて乱流を起こし、これによって障害物24の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化させるようにしたものである。
【0097】
上記第2〜第4の例になる脱気装置19,22を本発明の超音波洗浄装置に適用した場合の例を図5に示す。第2〜第4の例になる脱気装置19,22は、絞り部21、障害物24がそれぞれ固定式であるため、その絞り量や形状を変えることはできないが、制御装置17によって循環ポンプ8、空気供給バルブ10、流量調節バルブ11などを制御することにより、洗浄液2の溶存空気濃度を自在に調節することができる。また、前述した多変量自己回帰モデルを用いて制御することも、マイクロバブルを利用した超音波洗浄を行うことも、同様に可能である。
【0098】
図6に、脱気装置の第5の例を示す。
この第5の例になる脱気装置25は、洗浄液循環路に接続されている循環ポンプ8のポンプ室81の洗浄液入り口部の口径を絞ることにより、絞り部25を形成したもので、循環ポンプ8と脱気装置25とを一体に構成した場合の例である。なお、82は、洗浄液送給用のプロペラ(回転翼)である。
【0099】
図7に、脱気装置の第6の例を示す。
この第6の例になる脱気装置27は、洗浄液循環路に接続されている循環ポンプ8のポンプ室81内に配置された洗浄液送給用のプロペラ82の翼形を非対称形とし、回転するプロペラ82の回りでキャビテーションが発生するようにしたものである。この第6の例も、循環ポンプ8と脱気装置27を一体に構成した場合の例である。
【0100】
上記第5または第6の例になる脱気装置25,27を本発明の超音波洗浄装置に適用した場合の例を図8に示す。第5,第6の例になる脱気装置25,27の場合も、前記第2〜第4の例の脱気装置の場合と同じく、制御装置17によって循環ポンプ8、空気供給バルブ10、流量調節バルブ11などを制御することにより、洗浄液中の溶存空気濃度を調節することができる。また、前述した多変量自己回帰モデルを用いて制御することも、マイクロバブルを利用した超音波洗浄を行うことも、同様に可能である。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】本発明に係る超音波洗浄装置の一実施の形態を示す図である。
【図2】図1の超音波洗浄装置で用いた脱気装置の構成を示すもので、(a)は弾性チューブが押圧されていない状態を示す図、(b)は弾性チューブが押圧変形されて絞り部が形成された状態を示す図である。
【図3】脱気装置の第2の例を示す図である。
【図4】(a)は脱気装置の第3の例を示す図、(b)は脱気装置の第4の例を示す図である。
【図5】第2〜第4の例の脱気装置を用いて構成した超音波洗浄装置の例を示す図である。
【図6】脱気装置の第5の例を示す図である。
【図7】脱気装置の第6の例を示す図である。
【図8】第5および第6の例の脱気装置を用いて構成した超音波洗浄装置の例を示す図である。
【符号の説明】
【0102】
1 洗浄槽
2 洗浄液
3 超音波発生器
4 ヒータ(液温調節手段)
5 洗浄液吸引口
6 洗浄液吐出口
7 洗浄液循環路
8 循環ポンプ
9 脱気装置
10 空気供給バルブ(空気供給手段)
11 流量調節バルブ(流量調節手段)
12 流量センサ(流量測定手段)
13 液温センサ(液温測定手段)
14 溶存空気濃度センサ(溶存空気濃度測定手段)
15 室温センサ(室温測定手段)
16 湿度センサ(湿度測定手段)
17 制御装置(制御手段)
18 コンピュータ
19 脱気装置
20 剛性パイプ
21 絞り部
22 脱気装置
23 管路
24 障害物
25 脱気装置
26 絞り部
81 ポンプ室
82 ポンプのプロペラ
91 弾性チューブ
92a,92b アクチュエータ
93a,93b ピストンロッド
94a,94b 圧接子
95 絞り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液の通過する流路を備え、該流路の途中に流路の内腔断面積を狭めた絞り部を設け、前記流路を変形不可能な剛性パイプで構成し、該剛性パイプの適宜位置においてその径を絞ることにより、前記絞り部を形成し、該絞り部の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とする脱気装置。
【請求項2】
洗浄液の通過する流路を備え、該流路内に、流路中を流れる洗浄液の流れを妨げて乱流を発生させる障害物を配置し、該障害物の後方側でキャビテーションを発生させることによって洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とする脱気装置。
【請求項3】
洗浄液を送給する循環ポンプのポンプ室入り口に径の小さな絞り部を形成し、該絞り部の後方側でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とする脱気装置。
【請求項4】
洗浄液を送給する循環ポンプのプロペラの翼形を非対称形とし、回転するプロペラの周囲でキャビテーションを発生させることにより、洗浄液中の溶存空気を気泡化することを特徴とする脱気装置。
【請求項5】
超音波発生器を付設された洗浄槽を備え、洗浄液によって満たされた洗浄槽内に被洗浄物を浸漬して超音波発生器から超音波を照射することにより、被洗浄物を超音波洗浄するようにした超音波洗浄装置において、
前記洗浄槽内の洗浄液を循環ポンプによって吸引して所定の経路を循環させた後、再び洗浄槽内に戻すようにした洗浄液循環路を形成するとともに、該洗浄液循環路の経路途中に前記請求項1〜4のいずれかに記載の脱気装置を接続し、
該脱気装置によって洗浄液循環路を流れる洗浄液中の溶存空気を気泡化し、該気泡化した溶存空気を洗浄液とともに洗浄槽内へ還流することにより、気泡化した溶存空気を洗浄槽の液面から槽外へ排出するようにしたことを特徴とする超音波洗浄装置。
【請求項6】
前記脱気装置の下流側に、バルブ開度を可変可能な空気供給手段を接続し、該空気供給手段を通じて洗浄液循環路を流れる洗浄液中に空気を供給可能としたことを特徴とする請求項5記載の超音波洗浄装置。
【請求項7】
前記洗浄液循環路の洗浄液吸引口を洗浄槽上部側に開口するとともに、洗浄液吐出口を前記吸引口と反対側の槽壁の下部側に開口したことを特徴とする請求項5又は6に記載の超音波洗浄装置。
【請求項8】
循環ポンプを制御して洗浄液の循環量を変化させることにより洗浄槽内の洗浄液の流れを変え、洗浄槽内の溶存空気濃度を均一化するようにしたことを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載の超音波洗浄装置。
【請求項9】
洗浄液の溶存空気濃度が2.5mg/l以上となるように制御することを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載の超音波洗浄装置。
【請求項10】
前記循環ポンプとしてプロペラ式のポンプを用いるとともに、洗浄液の溶存空気濃度を2.5〜3.5mg/lの範囲に制御することを特徴とする請求項5〜9のいずれかに記載の超音波洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−296217(P2008−296217A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164172(P2008−164172)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【分割の表示】特願2005−331249(P2005−331249)の分割
【原出願日】平成17年11月16日(2005.11.16)
【出願人】(000124959)株式会社カイジョー (83)
【Fターム(参考)】