説明

脳機能改善剤及び脳機能改善用飲食品

【課題】脳機能を改善するための医薬又は飲食品を提供する。
【解決手段】牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する脳機能改善剤及び牛乳カゼイン由来ペプチドを含有する脳機能改善用飲食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能改善剤及び脳機能改善用飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人口の高齢化に伴い、高齢者に多発する認知症に基づく学習障害及び記憶障害が問題となっている。また、若年層や中年層においても、例えばストレスが原因となり、うつ病、情緒不安定、及び不眠等の脳機能障害の発生が認められる。よって、脳機能障害の予防法や治療法の開発が強く望まれている。
【0003】
これまでに、脳機能を改善するための多くの医薬品が開発されてきたが、副作用の問題が解決すべき課題として残されている。また、安全性の高い脳機能改善用組成物としては、食品由来の成分、例えばドコサヘキサエン酸(特許文献1、特許文献2)、エイコサペンタエン酸(特許文献2)、ホスファチジルセリン(特許文献2)、アラキドン酸(特許文献3)、アスタキサンチン(特許文献4)、テアニン(特許文献5)、レシチン(特許文献6)、あるいはγ−アミノ酪酸(GABA)(特許文献7)等を有効成分とした組成物が開示されている。
【0004】
また、食品における3種の主要な栄養素、すなわち、エネルギー源としての炭水化物、神経伝達物質の原料としてのタンパク質、及び神経細胞の細胞膜の主要な成分である脂質は、いずれも脳活動において重要な役割を担っている。例えば、脳活動において主要な役割を果たす神経伝達物質の多くは、種々のアミノ酸から生合成され、神経伝達物質の濃度は、摂取されたタンパク質の量や食物中のアミノ酸組成を反映することが報告されている(非特許文献1、非特許文献2)。また、大豆ペプチドの摂取により、計算作業中の被検者において前頭前皮質の活動が活発になることが報告されている(非特許文献3)。これらの知見から、脳機能は、摂取されるタンパク質に応じて様々に影響を受けることが予想される。
【0005】
脳機能の評価は、生理学的に脳を測定することにより、あるいは、作業能率を測定することにより行うことができる。ここで、生理学的に脳を測定する方法としては、脳波の測定、機能的核磁気共鳴画像法(functional magnetic resonance imaging(fMRI))による測定、又は近赤外分光法(near−infrared spectroscopy(NIRS))による測定等が挙げられる。
【0006】
NIRSによる脳機能の測定は、脳へ照射した近赤外線が血中ヘモグロビンにより吸収されることに基づく。ここで、局所的に脳活動が向上すると、その部位においてオキシヘモグロビン濃度の上昇が観察されることが知られている。すなわち、オキシヘモグロビン濃度が高いほど、その部位における脳の活動レベルが高いと判断することができる。NIRSを利用すれば、オキシヘモグロビン(HbO2)やデオキシヘモグロビンの濃度を分別測定でき、よって脳の活動の程度やその変化を測定することができる。さらに、NIRSは、他の手法と比較すると、単純な測定装置で済み、非侵襲な技術であり、且つ被検者が物理的にそれほど制限を受けないといった多くの利点を有する。そのため、NIRSによれば、被検者がストレスをほとんど受けることなく局所的な脳活動の変化をリアルタイムに測定できる。以前は、照射される近赤外線の光路長が不明であったため、ヘモグロビン濃度の相対的な変化しか測定できなかった。しかし、近年、極短パルス光源を用いた時間分解測定法をNIRSに導入することで、光拡散方程式に基づき、ヘモグロビン濃度の絶対値を測定することが可能となった。ゆえに、現在では、同一被検者について、時期や条件を変えてヘモグロビン濃度を比較することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平01−279827
【特許文献2】特開平07−017855
【特許文献3】特開2003−048831
【特許文献4】特開2007−126455
【特許文献5】特開平08−073350
【特許文献6】特開平08−133984
【特許文献7】特開2007−230870
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】メタボリズム(Metabolism)2008; 35: p837−842
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・ニュートリション(J Nutr)1987; 117: p42−47
【非特許文献3】大豆たんぱく質研究 2003; 6: p147−152
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、脳機能を改善するための医薬又は飲食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
タンパク質は、その構成成分であるペプチドやアミノ酸に分解されて吸収されるが、中でも短鎖又は小分子量のペプチドは優先的に小腸上皮から吸収される。すなわち、これらのペプチドは利用性の面で優れるという利点を有する。
【0011】
ここで、牛乳タンパク質の80%を占めるカゼインは、アミノ酸スコアが100という栄養面で優れたタンパク質であり、様々な生理活性を示す分岐鎖アミノ酸を豊富に含有する。
【0012】
本発明者らは、牛乳カゼインを加水分解して得られる牛乳カゼイン由来ペプチドを摂取することで運動後の疲労感が軽減されたことに着目し、牛乳カゼイン由来ペプチドが精神的ストレス負荷後の脳活動に影響を与え得ると推測した。
【0013】
本発明者らは、牛乳カゼイン由来ペプチドを摂取することにより、前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度が上昇すること、及び作業能率が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち本発明は、以下の通りである。
【0015】
第1の発明は、牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する脳機能改善剤である。第1の発明の好ましい態様において、脳機能の改善は、作業能率の向上である。また、第1の発明の好ましい態様において、牛乳カゼイン由来ペプチドの平均分子量は200〜500ダルトンである。第1の発明の好ましい態様において、脳機能改善剤は、さらに、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸、及びホスファチジルセリンからなる群から選択される1以上の化合物を含有する。
【0016】
第2の発明は、牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する脳機能改善用飲食品である。第2の発明の好ましい態様において、脳機能の改善は、作業能率の向上である。また、第2の発明の好ましい態様において、牛乳カゼイン由来ペプチドの平均分子量は200〜500ダルトンである。第2の発明の好ましい態様において、脳機能改善用飲食品は、さらに、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸、及びホスファチジルセリンからなる群から選択される1以上の化合物を含有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の脳機能改善剤又は脳機能改善用の飲食品により、作業能率等の脳機能を改善することができる。よって、本発明の脳機能改善剤又は脳機能改善用の飲食品により、脳機能の低下を有効に予防又は治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、脳機能測定試験のスケジュールを示す図である。図中、Pは心理アンケート、Hは左右前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度測定、Wは作業能率テストを示す。
【図2】図2(A)は、各飲料を摂取した際の、精神的ストレス負荷前後での左前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度を示すグラフであり、図2(B)は、右前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度を示すグラフである。データは平均値±標準誤差で示す。「*」は危険率5%で有意差があることを示す(対応のあるt検定)。
【図3】図3は、各飲料を摂取した際の、精神的ストレス負荷前後での消去文字数を示すグラフである。データは平均値±標準誤差で示す。「*」及び「#」は危険率5%で有意差があることを示す(ウィルコクソン符号付順位検定)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができる。
【0020】
本発明は、牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する脳機能改善剤(以下、本発明の医薬とも言う)、及び牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する脳機能改善用飲食品(以下、本発明の飲食品とも言う)を提供する。
【0021】
本発明において、脳機能の改善としては、例えば、作業能率の向上が挙げられる。よって、例えば、作業能率を測定することにより脳機能の評価を行うことができる。
【0022】
本発明において、作業能率を測定する方法は特に限定されないが、例えば、文字消去テストにより作業能率を測定することができる。文字消去テストとは、例えば、ランダムに数字が記載された表から特定の数字を消去する作業を2分間行うテストである。文字消去テストにおける消去文字数が多いほど作業能率が高いと評価できる。
【0023】
また、前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度を測定することにより間接的に脳機能の評価を行ってもよい。前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度は、例えば、近赤外分光法(NIRS)により測定することができる。NIRSによるオキシヘモグロビン濃度の測定は、相対値として測定してもよく、絶対値として測定してもよいが、時間分解法を利用して絶対値として測定するのが好ましい。オキシヘモグロビン濃度が高いほど、その部位において、脳の活動レベルが高いと判断することができる。
【0024】
本発明の医薬及び飲食品に含有される牛乳カゼイン由来ペプチドは、牛乳カゼインを加水分解して得られたペプチドを含有する限り特に限定されない。牛乳カゼインとしては、牛乳タンパク質の混合物であってもよく、そこからカゼインを分離精製したものであってもよい。牛乳カゼインとしては、分離精製したカゼインを好適に用いることができる。加水分解は、酸加水分解であってもよく、酵素による加水分解であってもよい。加水分解は、酵素による加水分解であるのが好ましく、例えば種々のプロテアーゼを好適に用いることができる。加水分解後に、さらに加水分解物の分離精製を行ってもよい。分離精製は、例えば、限外濾過膜を用いて行うことができる。分離精製により、例えば、不純物を除くことができ、あるいは加水分解物の分子量を任意の範囲に統一することができる。本発明において、牛乳カゼイン由来ペプチドの平均分子量は200〜500ダルトンであるのが好ましい。牛乳カゼイン由来ペプチドとしては、例えば、森永乳業株式会社より市販されているCU2500Aを好ましく用いることができる。CU2500Aは、牛乳カゼイン中のペプチド結合の約25%が加水分解されている製品である。
【0025】
本発明の医薬は、牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する限り特に限定されない。本発明の医薬としては、牛乳カゼイン由来ペプチドをそのまま使用してもよく、生理的に許容される液体又は固体の製剤担体を配合し製剤化して使用してもよい。
【0026】
本発明の医薬の剤形は、特に限定されず、具体的には、錠剤、丸剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤、カプセル剤、及びシロップ剤等を例示できる。また、製剤化にあたっては、製剤担体として通常使用される賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤、希釈剤、又は界面活性剤等の添加剤を使用することができる。
【0027】
本発明の医薬は、さらに、脳機能改善効果を有する任意の成分、例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ホスファチジルセリン(PS)、アラキドン酸、アスタキサンチン、テアニン、レシチン、又はγ−アミノ酪酸(GABA)等を含有してもよい。本発明の医薬は、例えば、DHA、アラキドン酸、及びPSから選ばれる1種以上の化合物を好ましく含有することができる。
【0028】
本発明の医薬における牛乳カゼイン由来ペプチドの含有量は、剤形、用法、患者の年齢、性別、脳機能の程度、及びその他の条件等により適宜設定することができる。本発明の医薬における牛乳カゼイン由来ペプチドの含有量は、例えば、0.01〜1g/gの範囲内であることが好ましく、0.1〜1g/gの範囲内であることがより好ましい。
【0029】
本発明の医薬は経口投与するのが好ましい。本発明の医薬を投与することにより、作業能率等の脳機能が改善される。よって、本発明の医薬は、脳機能の低下に起因する種々の症状の改善又は予防に有用である。また、本発明の脳機能改善効果を損なわない限り、牛乳カゼイン由来ペプチドを含有する本発明の医薬と、他の医薬、例えば他の脳機能改善剤等を併用してもよい。
【0030】
本発明の飲食品は、牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する限り特に限定されず、飲食品としては、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果汁飲料、及び乳酸菌飲料等の飲料(これらの飲料の濃縮原液及び調製用粉末を含む);アイスクリーム、シャーベット、かき氷等の氷菓;飴、チューインガム、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、及び焼き菓子等の菓子類;加工乳、乳飲料、発酵乳、ドリンクヨーグルト、及びバター等の乳製品;パン;経腸栄養食、流動食、育児用ミルク、スポーツ飲料、その他機能性食品等が挙げられる。また、本発明の飲食品は、サプリメントとして提供されてもよい。サプリメントとしては、例えばタブレット状のサプリメントを例示できる。また、牛乳カゼイン由来ペプチドをそのままサプリメントとして使用してもよい。本発明の飲食品がサプリメントである場合には、他の食品との兼ね合いで一日当りの食事量や摂取カロリーを気に掛けることなく、牛乳カゼイン由来ペプチドを摂取できる。
【0031】
本発明の飲食品は、飲食品の原料に牛乳カゼイン由来ペプチドを添加することにより製造することができ、牛乳カゼイン由来ペプチドを添加すること以外は、通常の飲食品と同様にして製造することができる。牛乳カゼイン由来ペプチドの添加は、飲食品の製造工程のいずれの段階で行ってもよい。食品又は飲料の原料としては、通常の飲料や食品に用いられている原料を使用することができる。
【0032】
本発明の飲食品は、さらに、任意の脳機能活性化成分、例えば、ドコサヘキサエン酸(DHA)、エイコサペンタエン酸(EPA)、ホスファチジルセリン(PS)、アラキドン酸、アスタキサンチン、テアニン、レシチン、及びγ−アミノ酪酸(GABA)等から選ばれる1種以上の化合物を含有してもよい。本発明の医薬は、例えば、DHA、アラキドン酸、及びPSから選ばれる1種以上の化合物を好ましく含有することができる。
【0033】
本発明の飲食品における牛乳カゼイン由来ペプチドの含有量は、飲食品の態様等によって適宜設定することができる。本発明の飲食品における牛乳カゼイン由来ペプチドの含有量は、例えば、0.001〜0.1g/gの範囲内であることが好ましく、0.01〜0.1g/gの範囲内であることがより好ましい。
【0034】
本発明の飲食品は、経口的に摂取することが可能である。本発明の飲食品を摂取することにより、作業能率等の脳機能が改善される。よって、本発明の飲食品は、脳機能の低下に起因する種々の症状の改善又は予防に有用であり、脳機能改善効果を利用する種々の用途に用いることができる。例えば、本発明の飲食品は、記憶力の低下が気になる方に適した飲食品、学習効率の向上に役立つ飲食品等の用途に用いることができる。
【0035】
本発明の飲食品は、脳機能改善用、との用途が表示された飲食品、例えば「脳機能改善用と表示された、牛乳カゼイン由来ペプチドを含有する飲食品」等として販売することができる。すなわち、本発明の飲食品には、「脳機能改善用」等の表示をすることができる。また、これ以外でも、脳機能改善の効果を表す文言、又は脳機能改善によって二次的に生じる効果を表す文言であれば、使用できることはいうまでもない。そのような文言としては、例えば「作業能率が向上する」あるいは「学習能力の向上に役立つ」等の文言が挙げられる。
【0036】
前記「表示」とは、需要者に対して上記用途を知らしめるための全ての行為を意味し、上記用途を想起・類推させうるような表示であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物及び媒体等の如何に拘わらず、すべて本発明の「表示」に該当する。しかしながら、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により表示することが好ましい。具体的には、本発明の飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載する行為、商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が例示でき、特に包装、容器、カタログ、パンフレット、POP等の販売現場における宣伝材、その他の書類等への表示が好ましい。
【0037】
また、表示としては、行政等によって許可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示)であることが好ましい。例えば、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、栄養機能食品、医薬用部外品等としての表示を例示することができ、その他厚生労働省によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、これに類似する制度にて認可される表示を例示できる。後者の例としては、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク低減表示等を例示することができる。さらに詳細には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保険の用途の表示)、及びこれに類する表示等を例示することができる。
【0038】
本発明の医薬及び飲食品の投与対象は、特に限定されず、子供から高齢者まで好ましく用いられる。すなわち、本発明の医薬及び飲食品は、例えば、子供の学習能力向上のために用いることができる。また、本発明の医薬及び飲食品は、成人や高齢者の脳の活性化や脳機能低下の予防のために用いることができる。
【0039】
本発明の医薬及び飲食品の摂取量は、牛乳カゼイン由来ペプチドの含有量、用法、年齢、性別、症状の程度、その他の条件に応じて適宜設定することができる。本発明の医薬及び飲食品の摂取量は、牛乳カゼイン由来ペプチドの投与量に換算して0.01g/kg体重/日〜1.0g/kg体重/日となるのが好ましく、0.1g/kg体重/日〜0.5g/kg体重/日となるのがより好ましい。本発明の医薬及び飲食品は1日1回又は複数回に分けて摂取することができる。また、数日又は数週間に1回の摂取としてもよい。各摂取時の摂取量は、牛乳カゼイン由来ペプチドの投与量に換算して一定でもよく、差があってもよい。また、子供から高齢者までの期間を通じて摂取を継続してもよく、一部の期間にのみ摂取してもよい。また、任意の期間で摂取の継続と中断を繰り返してもよい。
【0040】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
〔実施例〕
本実施例においては、牛乳カゼイン由来ペプチドを摂取した場合と摂取しない場合について、精神的ストレス負荷の前後での前頭前野のオキシヘモグロビン濃度の変化、及び作業能率の変化を測定し、牛乳カゼイン由来ペプチドの脳機能に及ぼす影響について評価した。
【0042】
<材料と方法>
試験は図1に示すスケジュールに従って行った。すなわち、P:心理アンケート(5分間)、H:オキシヘモグロビン濃度測定(2分間)及びW:作業能率テスト(2分間)を順に行った。その後、飲料を摂取し、45分間の休憩を経て、精神的ストレス負荷のために15分間のクレペリンテストを行った。その後、さらに、飲料摂取前と同様にP、H、Wを行った。図1に示すスケジュールを1セットとした。
【0043】
被検者は健康な男子大学生16名とした。被検者の年齢は20〜23であり、平均値±標準偏差は21.4±0.9であった。被検者は、試験前4時間は絶食状態とした。
【0044】
被検者には、飲料として、牛乳カゼイン由来ペプチドを含む飲料(ペプチド飲料)と水のいずれかを摂取させた。なお、以下ペプチド飲料と水のそれぞれを各飲料とも言う。ペプチド飲料を摂取した群を試験群、水を摂取した群を対照群とした。牛乳カゼイン由来ペプチドとしては、CU2500A(森永乳業株式会社製、平均分子量337)を用いた。牛乳カゼイン由来ペプチドの摂取量を0.2g/kg体重とし、ペプチド飲料の摂取量は4g/kg体重とした。水の摂取量も同様に4g/kg体重とした。
【0045】
試験は交差試験により行った。すなわち、16名の被検者は、8名ずつA群及びB群に分け、A群ではペプチド飲料を摂取する1セットの試験(ペプチド試験)を先に行い、その後、日を改めて水を摂取する1セットの試験(対照試験)を行った。また、B群ではその逆順とした。
【0046】
脳機能の変化を評価するために、精神的ストレス負荷の前後での左右前頭前野のオキシヘモグロビン濃度の変化、及び作業能率の変化を測定した。
【0047】
オキシヘモグロビン濃度の測定には、NIRS(TRS−10、浜松ホトニクス株式会社製)を用いた。測定は、24℃、相対湿度50%、照度50ルクスに調整した測定室において行い、被検者は座った状態で目を開けて測定を受けた。被検者の左右の前頭前野にそれぞれ1対の光学プローブを固定した。1対の光学プローブは、近赤外線の照射と受光用の2本の光学プローブからなる。左右の光学プローブ対において、送光プローブと受光プローブ間の距離は40mmとした。左右の光学プローブ対において、送光プローブと受光プローブの中心位置は、脳波を測定する際の国際式10−20法の電極配置におけるFp1:左前頭極部及びFp2:右前頭極部に一致させた。
【0048】
作業能率の測定には、ランダムに数字が記載された表から特定の数字を消去する文字消去テストを用いた。2分間での総消去文字数により作業能率を評価した。
【0049】
<結果>
各飲料摂取及び精神的ストレス負荷前後での左前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度を図2(A)に、右前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度を図2(B)に示す。オキシヘモグロビン濃度についての2群間の比較は、対応のあるt検定(Paired t−test)を用いた統計解析により行い、P<0.05を有意差ありとした。試験群においては、左前頭前野において、66.0±2.5μMから69.0±2.7μMへと、オキシヘモグロビン濃度の有意な上昇が認められた。同様に、右前頭前野においても、66.9±2.6μMから68.9±2.7μMへと、オキシヘモグロビン濃度の有意な上昇が認められた。一方、対照群においては、飲料摂取前後で有意な差は認められなかった。オキシヘモグロビン濃度は前頭前皮質の活動レベルの指標であり、オキシヘモグロビン濃度が上昇したことは、前頭前皮質の活動レベルが向上したことを裏付けるものである。よって、牛乳カゼイン由来ペプチドの摂取により脳機能が改善されることが示された。
【0050】
各飲料摂取及び精神的ストレス負荷前後での文字消去テストにおける消去文字数を図3に示す。消去文字数についての2群間の比較は、ウィルコクソン符号付順位検定(Wilcoxon signed−rank test)を用いた統計解析により行い、P<0.05を有意差ありとした。試験群においては、ペプチド飲料の摂取により1122±91文字から1250±103文字へと、消去文字数が有意に増大し、作業能率の向上が認められた。一方、対照群においては、摂取前の1107±82文字に対し、摂取後は1130±78文字であり、水摂取前後で有意な差は認められなかった。さらに、ペプチド飲料摂取後の試験群の作業能率は、水摂取後の対照群の作業能率と比較して、有意に高いことが認められた。よって、作業能率の測定結果からも、牛乳カゼイン由来ペプチドの摂取により脳機能が改善されることが示された。
【0051】
なお、本実施例において、各飲料摂取前後での左右前頭前野におけるオキシヘモグロビン濃度の変化は、交差試験のA群及びB群において同様であった。また、各飲料摂取前後での作業能率の変化も、交差試験のA群及びB群において同様であった。よって、本実施例の交差試験においては、ペプチド試験と対照試験のいずれを先に行っても結果が影響を受けることはないものと判断した。
【0052】
以上より、牛乳カゼイン由来ペプチドを摂取することにより、精神的ストレス負荷の前後で前頭前野のオキシヘモグロビン濃度の上昇、及び作業能率の向上が認められた。よって、牛乳カゼイン由来ペプチドの摂取により、脳機能が改善されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
牛乳カゼイン由来ペプチドを含有する本発明の脳機能改善剤及び脳機能改善用飲食品は、脳機能改善のために利用することができる。よって、本発明の脳機能改善剤及び脳機能改善用飲食品は脳機能の低下の予防又は治療のために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
牛乳カゼイン由来ペプチドを有効成分として含有する脳機能改善剤。
【請求項2】
脳機能改善が、作業能率の向上である、請求項1に記載の脳機能改善剤。
【請求項3】
牛乳カゼイン由来ペプチドの平均分子量が200〜500ダルトンである、請求項1又は2に記載の脳機能改善剤。
【請求項4】
さらに、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸、及びホスファチジルセリンからなる群から選択される1以上の化合物を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の脳機能改善剤。
【請求項5】
牛乳カゼイン由来ペプチドを含有する脳機能改善用飲食品。
【請求項6】
脳機能改善が、作業能率の向上である、請求項5に記載の脳機能改善用飲食品。
【請求項7】
牛乳カゼイン由来ペプチドの平均分子量が200〜500ダルトンである、請求項5又は6に記載の脳機能改善用飲食品。
【請求項8】
さらに、ドコサヘキサエン酸、アラキドン酸、及びホスファチジルセリンからなる群から選択される1以上の化合物を含有する、請求項5〜7のいずれか1項に記載の脳機能改善用飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12358(P2012−12358A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152310(P2010−152310)
【出願日】平成22年7月2日(2010.7.2)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)
【Fターム(参考)】