説明

膜厚測定装置および膜厚測定方法

【課題】黒鉛等のように赤外線の吸収量が大きい素材や、基材の素材と赤外線の吸収量に対して同じような性質を有する素材によって形成された膜の厚さであっても測定することができる膜厚測定装置および膜厚測定方法を提供する。
【解決手段】被測定対象Aの加熱面HSにおける温度の時間変動特性と、温度測定手段によって測定された被測定対象Aの加熱面HSの温度とに基づいて、被測定対象Aの膜厚Dを算出する演算手段5とを備えており、温度測定手段がガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィ2であり、演算手段5は加熱手段10による加熱によって被測定対象Aの加熱面HSの温度上昇が開始したタイミングを算出する加熱タイミング検出部6と、加熱タイミング検出部6によって検出された被測定対象Aの加熱面HSの温度上昇開始タイミングT0と、被測定対象Aの加熱面HSの温度に基づいて、被測定対象Aの膜厚Dを算出する膜厚算出部7とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜厚測定装置および膜厚測定方法に関する。炭素または黒鉛板等の板状部材やシート状部材などの膜厚や、板状部材の表面に形成されたコーティング膜の厚さ等は、それらの製品の品質に大きく影響するため、その厚さの管理は重要である。かかる厚さの管理を行うためには、この厚さを測定する必要がある。ここで、製品を切断しその断面を測定すれば、正確な部材の厚さや膜厚を測定することができるものの、実際上、製品を切断することはできないため、部材の厚さや膜厚を非破壊検査によって測定する装置や方法が開発されている。
本発明は、かかる膜厚を非破壊検査によって測定するための膜厚測定装置および膜厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜厚の非破壊検査において、赤外線を利用した技術が開発されている(例えば、特許文献1、2:従来例1、2)
従来例1の技術は、厚さが既知の基材と、この基材の表面に膜が形成された被測定物において、その膜厚を測定する装置に関するものであって、被測定対象に赤外線を照射したときに、被測定物を透過する赤外線の量、つまり、被測定物において吸収される赤外線の量に基づいて膜厚を検出するものである。具体的には、被測定物を挟むように、赤外線カメラと赤外線を放出する光源を配置し、光源から被測定物に赤外線を照射したときに、被測定物を透過する赤外線のエネルギー分布から求められる温度と、被測定物を透過していない赤外線のエネルギー分布から求められる温度との比である温度透過率から、被測定物の厚さを求めるものである。
また、従来例2の技術は、金属帯の表面に形成された樹脂膜の厚さを求めるものであり、樹脂膜側から赤外線を照射したときに金属帯の表面で反射する反射光を受光し、この受光した反射光に基づいて樹脂膜による赤外線の吸収量を求め、この吸収量から膜厚を求めるものである。
【0003】
しかるに、従来例1の技術では、基材の素材と膜の素材が赤外線の吸収量に対して同じような性質を有する場合には、赤外線の吸収が膜によるものか基材によるものかが判断できないため、膜の厚さを測定することは不可能である。
また、従来例2の方法の場合には、膜が形成されている部材の表面における反射を利用するため、赤外線の吸収率の低い部材の表面に形成された膜厚は測定できても、赤外線の吸収量が大きい黒鉛等の表面に形成された膜の場合、黒鉛等が赤外線を吸収してしまうため膜厚を測定することは困難である。
そして、従来例1、2の技術はいずれも膜による赤外線の吸収量から膜厚を求めているため、照射された赤外線のほとんどのエネルギーを吸収してしまう炭素または黒鉛等では、その厚さも求めることができない。
【0004】
【特許文献1】特開平09‐79824号
【特許文献2】特許2003‐279325号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑み、黒鉛等のように赤外線の吸収量が大きい素材や、基材の素材と赤外線の吸収量に対して同じような性質を有する素材によって形成されたコーティング膜の厚さであっても測定することができる膜厚測定装置および膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の膜厚測定装置は、被測定対象における加熱面を瞬間的に加熱する加熱手段と、前記被測定対象の加熱面の温度を測定する温度測定手段と、被測定対象の加熱面が瞬間的に加熱されたときに生じる該被測定対象の加熱面における温度の時間変動特性と、前記加熱手段によって加熱されたときに該温度測定手段によって測定された被測定対象の加熱面の温度とに基づいて、被測定対象の膜厚を算出する演算手段とを備えており、前記温度測定手段が、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィであり、前記演算手段は、前記加熱手段による加熱によって被測定対象の加熱面の温度上昇が開始したタイミングを算出する加熱タイミング検出部と、該加熱タイミング検出部によって検出された被測定対象の加熱面の温度上昇開始タイミングと、前記赤外線サーモグラフィによって測定された被測定対象の加熱面の温度に基づいて、該被測定対象の膜厚を算出する膜厚算出部とを備えていることを特徴とする。
第2発明の膜厚測定装置は、第1発明において、被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、前記加熱タイミング検出部が、前記参照対象における加熱面の温度に基づいて、被測定対象の加熱面における温度上昇開始タイミングを推定するタイミング補正機構を備えていることを特徴とする。
第3発明の膜厚測定装置は、第1発明において、被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、前記演算手段が、前記参照対象における加熱面の温度に基づいて該参照対象に供給される熱量を算出し、算出された該参照対象に供給される熱量に基づいて被測定対象の加熱面に供給される熱量を補正する熱量補正部を備えていることを特徴とする。
第4発明の膜厚測定方法は、被測定対象の加熱面を瞬間的に加熱し、加熱された被測定対象の加熱面の温度変化をガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって測定し、該赤外線サーモグラフィによって測定された被測定対象の加熱面の温度変化と、被測定対象の加熱面が瞬間的に加熱されたときに生じる被測定対象の加熱面における温度の時間変動特性とに基づいて、被測定対象の膜厚を算出する膜厚算出方法であって、被測定対象の加熱面の温度上昇が開始した温度上昇開始タイミングを推定する温度上昇開始タイミング推定工程と、該温度上昇開始タイミング推定工程において推定された温度上昇開始タイミングと、前記赤外線サーモグラフィによって測定された被測定対象の加熱面の温度に基づいて、該被測定対象の膜厚を算出する膜厚算出工程とを行うことを特徴とする。
第5発明の膜厚測定方法は、第4発明において、被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、前記温度上昇開始タイミング推定工程において、前記参照対象における加熱面の温度に基づいて、被測定対象における温度上昇開始タイミングを推定することを特徴とする。
第6発明の膜厚測定方法は、第4発明において、被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、前記膜厚算出工程において、前記参照対象における加熱面の温度に基づいて該参照対象に供給される熱量を算出し、算出された該参照対象に供給される熱量に基づいて、被測定対象における加熱面に供給される熱量を補正することを特徴とする。
第7発明の膜厚測定方法は、第4発明において、被測定対象が、基礎材料の表面に形成された層であり、前記基礎材料の素材が、電磁波の吸収率が高い素材で形成されていることを特徴とする。
第8発明の膜厚測定方法は、第7発明において、前記基礎材料が、炭素または黒鉛であることを特徴とする。
なお、本明細書中において、膜厚とは、フィルム状の薄い部材の厚さや、板状であっても薄い部材の厚さ、様々な材料の表面に形成されたコーティング膜や、材料を変質させたりすることによって形成された層の厚さを含む概念である。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、加熱手段によって被測定対象の一の表面(加熱面)を瞬間的に加熱すれば、供給された熱量の一部が被測定対象の加熱面から吸収されることによって温度が上昇し、供給される熱量がなくなったり、供給される熱量が被測定対象の加熱面から拡散する熱量よりも少なくなくなると、被測定対象における加熱面の温度は下降する。この被測定対象の加熱面を瞬間的に加熱したときにおける加熱面の温度の変動は、主に、被測定対象の素材の熱拡散率と被測定対象の形状によって決定されるが、被測定対象の加熱面全体に均一な熱量を供給すれば、被測定対象の熱拡散率と被測定対象の膜厚によって決定される。このため、供給される熱量と被測定対象の素材の熱拡散率がわかっていれば、被測定対象の加熱面を瞬間的に加熱手段によって加熱したときに、加熱開始タイミングと温度測定手段によって測定された被測定対象における加熱面の温度から、被測定対象の膜厚を算出することができる。そして、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって被測定対象の温度を測定しており、その温度に基づいて膜厚を算出しているので、照射された赤外線のほとんどのエネルギーを吸収してしまう炭素または黒鉛等の素材から形成された被測定対象でも、膜厚を測定することができる。しかも、被測定対象の温度が上昇を開始するタイミングが特定されているから、各測定位置において温度上昇・下降曲線と、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって測定された温度を対応させることができるので、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィであっても複数の点における膜厚を、実質的に同時に測定することができる。
第2発明によれば、参照対象における温度変動に基づいて温度上昇開始タイミングを推定すれば、温度上昇開始タイミングの誤差に起因する算出された膜厚と実際の被測定対象の膜厚との間のズレを抑えることができるから、被測定対象の膜厚を正確に測定することができる。
第3発明によれば、熱拡散率が小さい参照対象では、加熱手段から供給される熱量の相違が加熱面の温度上昇の相違に直接反映されるから、加熱手段から参照対象に供給される熱量の分布を正確に把握することができる。よって、参照対象に供給される熱量の分布に基づいて熱量補正機構が被測定対象に加わる熱量を補正すれば、実際の被測定対象における加熱面の温度と算出された温度のズレを抑えることができるから、被測定対象の膜厚を正確に測定することができる。
第4発明によれば、被測定対象の一の表面(加熱面)を瞬間的に加熱すれば、供給された熱量の一部が被測定対象の加熱面から吸収されることによって温度が上昇し、供給される熱量がなくなったり、供給される熱量が被測定対象の加熱面から拡散する熱量よりも少なくなくなると、被測定対象における加熱面の温度は下降する。この被測定対象の加熱面を瞬間的に加熱したときにおける加熱面の温度の変動は、主に、被測定対象の素材の熱拡散率と被測定対象の形状によって決定されるが、被測定対象の加熱面全体に均一な熱量を供給すれば、被測定対象の熱拡散率と被測定対象の膜厚によって決定される。このため、供給される熱量と被測定対象の素材の熱拡散率がわかっていれば、被測定対象の加熱面を瞬間的に加熱したときに、加熱開始タイミングと被測定対象における加熱面の温度から、被測定対象の膜厚を算出することができる。そして、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって被測定対象の温度を測定しており、その温度に基づいて膜厚を算出しているので、照射された赤外線のほとんどのエネルギーを吸収してしまう炭素または黒鉛等の材料から形成された被測定対象でも、膜厚を測定することができる。しかも、被測定対象の温度が上昇を開始するタイミングが特定されているから、各測定位置において温度上昇・下降曲線と測定された赤外線に基づく温度を、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって測定された温度を対応させることができるので、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィであっても複数の点における膜厚を、実質的に同時に測定することができる。
第5発明によれば、参照対象における温度変動に基づいて温度上昇開始タイミングを推定すれば、温度上昇開始タイミングの誤差に起因する算出された膜厚と実際の被測定対象の膜厚との間のズレを抑えることができるから、被測定対象の膜厚を正確に測定することができる。
第6発明によれば、熱拡散率が小さい参照対象では、加熱手段から供給される熱量の相違が加熱面の温度上昇の相違に直接反映されるから、参照対象に供給される熱量の分布を正確に把握することができる。よって、参照対象に供給される熱量の分布に基づいて被測定対象に加わる熱量を補正すれば、実際の被測定対象における加熱面の温度と算出された温度のズレを抑えることができるから、被測定対象の膜厚を正確に測定することができる。
第7発明によれば、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって被測定対象の温度を測定しており、その温度に基づいて膜厚を算出しているので、照射された赤外線のほとんどのエネルギーを吸収してしまう基礎材料の上に形成された被測定対象でも、膜厚を測定することができる。
第8発明によれば、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって被測定対象の温度を測定しており、その温度に基づいて膜厚を算出しているので、照射された赤外線のほとんどのエネルギーを吸収してしまう炭素または黒鉛等の上に形成された被測定対象でも、膜厚を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
まず、本発明における膜厚測定の原理を説明する。
物質の表面を一時的に加熱した場合、加熱された物質は、供給された熱量の一部が被測定対象の加熱面から吸収されることによって温度が上昇し、供給される熱量がなくなったり、供給される熱量が物質の表面から拡散する熱量よりも少なくなくなると、被測定対象における加熱面の温度は下降する。
例えば、図4(A)に示すような、発光強度の時間変動を有するフラッシュランプによって、物質を加熱した場合、発光強度に対応する量の熱量が物質に供給される。このとき、物質の温度は、発光強度の上昇に伴ってその温度が上昇し、発光強度の下降に伴って温度が減少する。
【0009】
ここで、表面に加えられた熱は、その表面からの放熱を除けば、物質における加熱された表面以外の部分に拡散し、熱が拡散する速さは、以下の式(1)で与えられる熱拡散率α(m/s)によって規定される。
【数1】

λ:熱伝導率(W/(m・K)) ρ:密度(kg/m) C:比熱(J/(kg・K))
この熱拡散率αは、物質の固有の性質であり、熱拡散率の小さい物質は、熱拡散率の大きい物質に比べて吸収した熱の拡散が遅くなるから、熱を吸収したときに加熱された部分の温度上昇が速くなり、かつ、温度の低下が遅くなるのである
【0010】
そして、物質を、その表面における一部だけを加熱した場合には、熱は、その表面と厚さ方向の両方に拡散するが、物質の表面を単位面積あたりの熱量がほぼ同等となるように加熱すれば、物質の表面に吸収された熱量は、物質の表面に沿った方向への拡散は生じず、実質的に物質の厚さ方向にのみ拡散する。すると、物質の表面に吸収された熱量が物質の厚さ方向にのみ拡散する場合には、熱拡散率αである物質の表面温度Tの支配方程式は、厚さ方向をz方向とすると、以下の式(2)となる。
【数2】

すると、式(2)を、物質の表面に接している材料や気体の物性値等を境界条件として解けば、物質の膜厚Dについて、熱量Qの時間変動に伴う物質の表面温度Tと時間との関係を式(2)の数値解として求めることができ、時間変動曲線(図4(B)参照、以下、単に温度変動曲線という)を作成することができる。よって、物質を加熱したときに、温度上昇を開始するタイミング、表面温度T、およびこの表面温度Tを測定したタイミング(温度上昇を開始するタイミングからの遅れ時間)が把握できれば、時間変動曲線に基づいて物質の膜厚Dを算出することができるのである。
【0011】
つぎに、本発明の膜厚測定装置1を説明する。
図1は本実施形態の膜厚測定装置1の概略説明図である。同図において、符号Aは膜厚を測定する被測定対象を示している。
この被測定対象Aは、例えば、フィルムの膜厚や、黒鉛板等の薄い部材の厚さ、ヒーター、サセプター、均熱筒などの黒鉛製の加熱炉内部品、黒鉛製のプラズマ炉炉内部品の表面にコーティングされた膜等である。つまり、膜厚測定装置1が測定する膜厚には、フィルム状の薄いシート状部材の厚さや、板状であっても薄い部材の厚さ、様々な材料の表面に形成されたコーティング膜や、材料を変質させたりすることによって形成された層の厚さ等が含まれるのである。
以下では、説明を簡単にするために、板状の部材である被測定対象Aの厚さDを測定する場合を説明する。
【0012】
図1に示すように、被測定対象Aは、測定台BSの上に、参照対象となる黒紙BPを介して置かれている。
図1に示すように、被測定対象Aの上方には、被測定対象Aにおける加熱面HSの温度を測定するガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィ2が配設されている。
ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィ2は、その内部にガルバノミラー2aを備えており、ガルバノミラーを垂直方向および水平方向に走査させて、被測定対象Aにおける加熱面HSの温度を測定するものである。このガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィ2は、ガルバノミラー2aを走査させるため、加熱面HS全体を同時に温度測定することはできないが、加熱面HSの各点を、ガルバノミラー2aが走査される方向に沿って時間連続的に測定することができる。例えば、図1であれば、ガルバノミラーが左から右に走査されるときには、被測定対象Aにおける加熱面HS上の各点の温度を、左から右に向かって順次測定することができる。すると、ガルバノミラーを左から右に複数回走査すれば、加熱面HSの各点の離散的な赤外線の時間変動が把握でき、加熱面HSの各点における温度の離散的な時間変動を把握することができる。
【0013】
図1に示すように、被測定対象Aより上方かつガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィ2の側方には、加熱手段10が配設されている。この加熱手段10は、例えば、フラッシュランプ等のように被測定対象Aの加熱面HSを瞬間的にかつほぼ均一に加熱できるものであるが、被測定対象Aの加熱面HSを瞬間的にかつほぼ均一に加熱できるものであれば、特に限定はない。
なお、瞬間的に加熱とは、加熱開始から被測定対象Aに対して供給する熱量の最大値となるまでの時間(加熱手段10がフラッシュランプ等の場合には、発光開始から最大発光強度となるまでの時間、ピークタイミングという)が短く、かつ、加熱開始から加熱量が最大値の半分になるまでの時間(半減時間)が短い状態で被測定対象Aを加熱することを意味しており、そのピークタイミングや半減時間はとくに制限されない。しかし、膜厚測定の精度を高くするには、膜厚が薄いほどまた熱拡散率が高いほど、加熱時間は短くしなければならない。例えば、膜厚が数十μm程度の熱拡散炭素であれば、ピークタイミングが、0.6ms程度、半減時間が、4.8ms程度であれば、被測定対象Aの加熱面HSの温度変動から膜厚を求めることが可能である。
【0014】
図1に示すように、赤外線サーモグラフィ2は、パーソナルコンピュータ等の演算手段5に、測定された温度データが送信可能に接続されている。この前記演算手段5には、加熱タイミング検出部6と、膜厚算出部7とが設けられている。
【0015】
加熱タイミング検出部6は、加熱手段10によって加熱されたときに赤外線サーモグラフィ2によって測定された被測定対象Aの加熱面HSの温度T(以下、単に測定温度Tとする)の時間変動に基づいて、被測定対象Aの加熱面HSの温度上昇が開始した温度上昇開始タイミングを算出するものである。
図2は加熱手段10によって瞬間的に加熱されたときに、被測定対象Aの加熱面HSを赤外線サーモグラフィ2のガルバノミラー2aを水平方向にのみ3回走査させた場合における測定温度Tの時間変動を示した図であり、(A)は被測定対象Aにおける加熱面HSの部分の温度変動であり、(B)は被測定対象Aと黒紙BPの部分の温度変動である。
なお、赤外線サーモグラフィ2は、図1において左から右に移動するときのみ、温度を測定している。
図2(A)に示すように、加熱手段10によって瞬間的に加熱されると、赤外線サーモグラフィ2によって測定される加熱面HSの測定温度Tは、時間とともに上昇する。このとき、赤外線サーモグラフィ2によって測定されている加熱面HSの位置も水平方向に移動するため、この温度上昇は、加熱面HSの一点における温度の時間変動を示すものとはならない。しかし、被測定対象Aの加熱面HSが均一に加熱されていれば、加熱面HS上における位置によって温度上昇の割合は異なるものの、温度は、加熱された物質の種類や膜厚に関わらず、同じタイミングで上昇を開始する。したがって、赤外線サーモグラフィ2によって測定された被測定対象Aの加熱面HSにおける温度の時間変動を回帰する演算を行えば、温度上昇開始タイミングT0を算出することができるのである。
【0016】
なお、温度上昇開始タイミングT0を算出する方法は、温度の時間変動を回帰する方法に限られず、測定温度Tの時間変動から温度上昇開始タイミングを推定できる方法であれば、どのような方法を使用してもよい。
【0017】
膜厚算出部7は、加熱手段10から被測定対象Aの加熱面HSに加わる加熱量と、加熱タイミング検出部6によって算出された温度上昇開始タイミングT0と、各時間における測定温度Tと、被測定対象Aの加熱面HSが瞬間的に加熱されたときに生じる加熱面HSの温度の時間変動特性とに基づいて、被測定対象Aの膜厚を算出するものである。なお、温度の時間変動特性とは、被測定対象Aの加熱面HSに加わる加熱量と、被測定対象Aの熱拡散率と被測定対象Aの膜厚等によって決定され、被測定対象Aがコーティング膜であれば前記条件と基礎材料の熱拡散率によって決定されるものである。
具体的には、算出された温度上昇開始タイミングと測定温度Tが測定された時間との差、言い換えれば、温度上昇を開始してからの経過時間(以下、単に経過時間Sという)を算出し、この経過時間Sと、加熱手段10から被測定対象Aの加熱面HSに加わる加熱量と、被測定対象Aの物性とに基づいて、経過時間Sにおける温度が測定温度Tと一致する温度変動曲線を形成する被測定対象Aを形成する物質の厚さを算出する。すると、この算出された被測定対象Aを形成する物質の厚さが、測定温度Tを測定した位置における被測定対象Aの膜厚Dとなるのである。
【0018】
上記のごとき構成であるから、加熱手段10によって被測定対象Aの加熱面HSを瞬間的に加熱したときに、加熱手段10の被測定対象Aの加熱面HSに供給される熱量の時間変動、および、被測定対象Aの熱拡散率α等の物性が把握されていれば、赤外線サーモグラフィ2が検出する被測定対象Aの加熱面HSにおける温度の時間変動に基づいて、演算手段5により被測定対象Aの膜厚Dが算出されるのである。
【0019】
そして、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって被測定対象におけるその表面の温度を測定しており、その温度に基づいて膜厚を算出しているので、赤外線の吸収量が多い炭素または黒鉛等によって形成された部材の厚さや、炭素または黒鉛等からなる基礎材料の上に形成された膜の厚さであっても測定することができる。
そして、基礎材料の上に形成された膜が基礎材料と同質の物質であっても、膜の厚さを測定することができる。
【0020】
なお、膜厚算出部7は、温度変動曲線を形成する被測定対象Aを形成する物質の膜厚を、測定の度に算出するものでなくてもよい。
例えば、被測定対象Aを構成する物質に膜厚測定時と同じ加熱量が加わった場合において、被測定対象Aを構成する物質の厚さごとに、経過時間Sと経過時間Sに対応する物質の温度との関係を表す温度変動特性情報を記録した温度情報データ記録部を備えていてもよく、この場合には、温度を測定した時間と測定温度Tとに基づいて、温度変動特性情報から被測定対象Aの膜厚Dを求めることができる。
さらになお、温度変動特性情報は、破壊検査等によって膜厚が特定されている被測定対象Aを、加熱手段10によって瞬時加熱したときの温度変動をあらかじめ測定しておき、その測定データに基づいて構成してもよく、この場合には、本発明の膜厚測定装置1による膜厚の測定精度を高くすることができるし、加熱手段10から被測定対象Aの加熱面HSに加わる加熱量が分からなくても、膜厚を測定することができる。
【0021】
図1に示すように、被測定対象Aは、測定台BSの上に、黒紙BPを介して置かれているため、被測定対象Aを加熱手段10によって加熱すれば黒紙BPも同時に加熱される。
この黒紙BPは、例えば、黒色の色画用紙等の熱拡散率が被測定対象Aに比べて非常に小さく、黒色の色画用紙であれば、熱拡散率は0.007m/s程度であり、熱拡散率の小さい熱分解炭素等と比べても、1桁以上熱拡散が小さいものであるから、吸収した熱量は被測定対象Aに比べて長時間保持され、その温度上昇は被測定対象Aよりも大きくなる(図2(B))。しかも、黒紙BPの加熱面BPSは、吸収した熱量に対応して温度が上昇し、その温度上昇は厚さの影響が非常に小さく、黒紙BPの加熱面BPSは、加熱手段10から加わる加熱量が同じであれば厚さに係わらずほぼ同じ温度変動曲線を形成する。つまり、黒紙BPの加熱面BPSの温度変動は、ほぼ加熱量のみに依存するとみなすことができる。すると、黒紙BPの部分における測定温度Tの時間変動は、黒紙BPの加熱面BPSに加わる熱量が均一であれば、黒紙BPの加熱面BPS上における任意の一点の温度の時間変動と実質的に同等となり、黒紙BPで測定された測定温度Tに基づいて黒紙BPの温度変動曲線を形成することができる(図3)。
よって、測定温度Tに基づいて黒紙BPの温度変動曲線を形成すれば、この温度変動曲線から黒紙BPが温度上昇を介したタイミング、つまり、被測定対象Aの加熱面HSにおける温度上昇開始タイミングを推定することができる。
したがって、かかる温度上昇開始タイミングを推定するタイミング補正機構を前記加熱タイミング検出部6に設けておけば、推定された温度上昇開始タイミングに基づいて経過時間Sを算出し、この経過時間Sと、加熱手段10から被測定対象Aの加熱面HSに加わる加熱量と、被測定対象Aの物性とに基づいて物質の厚さを算出することができる。すると、温度上昇開始タイミングの誤差に起因する算出された膜厚と実際の被測定対象Aの膜厚Dとの間のズレを抑えることができるから、加熱面HSの各点の離散的な温度データからでも、被測定対象Aの加熱面HSにおける各点に対応する部分の膜厚Dを正確に求めることができる。
【0022】
なお、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィの場合、測定開始タイミングによっては、温度上昇開始タイミングTにおける前後の被測定対象Aの加熱面HSの温度が測定されない場合があり、かかる場合には、被測定対象Aの加熱面HSにおける温度の時間変動を回帰演算して温度上昇開始タイミングT0を算出することができない。しかし、上記のごとく黒紙BP等の参照対象の加熱面における温度変動に基づいて温度上昇開始タイミングT0を推定する場合には、参照対象の加熱面における温度変動と各温度の測定時間との関係が明らかであれば、温度上昇開始タイミングT0を推定することができる。言い換えれば、温度上昇開始タイミングTにおける前後の被測定対象Aの加熱面HSの温度が測定されている必要がないから、温度上昇開始タイミングT0を確実に算出することができるので、好適である。
【0023】
また、加熱手段10が被測定対象Aの加熱面HSを瞬間的にかつほぼ均一に加熱できれば最適であるが、フラッシュランプ等の場合、通常、光線を放出するバルブなどは曲面状に形成されていため、フラッシュランプ等と被測定対象Aとの相対的な位置により、被測定対象Aの加熱面HSに加わる熱量に分布が生じる場合がある。
【0024】
ここで、被測定対象Aの加熱面HSにおいて、位置による膜厚の差があれば温度差が生じるものの、この温度差に起因する面方向への熱拡散は厚さ方向の熱拡散に比べて非常に小さく、被測定対象Aの温度変動、つまり、被測定対象Aの膜厚測定の精度にそれほど大きな影響は与えない。
しかし、加熱手段10からの加熱量に相違がある場合、その加熱量の差は、被測定対象Aの温度変動、つまり、被測定対象Aの膜厚Dの測定精度に直接影響を与えるため、被測定対象Aの膜厚Dを正確に把握するには、被測定対象Aに供給された熱量の分布を把握する必要がある。
【0025】
加熱手段10によって瞬間的に供給される熱量はあるタイミングで最大値となり、被測定対象Aの加熱面HSや黒紙BPの加熱面BPSの温度もあるタイミングで最大値となる(図3、4参照)。ここで、加熱手段10からの加熱量に相違がある場合において、その加熱量の差は最大値の差に現れ、しかも、温度の最大値近傍では、温度の時間変動が非常に小さくなる。すると、加熱手段10によって加熱されたときに黒紙BPの加熱面BPSの温度が最大値となるタイミング近傍において、赤外線サーモグラフィ2が黒紙BPの加熱面BPSの温度を測定するように調整しておけば、黒紙BPにおいて、位置による温度の最大値の分布を推定することができる。この黒紙BPにおける位置による温度の最大値の分布は、黒紙BPに加わる熱量に分布と推定することができるから、推定された黒紙BPに加わる熱量に基づいて、被測定対象Aの加熱面HSの分布も推定することができる。すると、演算手段5に、熱量補正部を設けておき、膜厚の算出に使用する、加熱手段10から被測定対象Aの加熱面HSに加わる加熱量を補正する熱量補正部によって補正してから膜厚を算出するようにすれば、被測定対象Aの加熱面HSにおける各点に対応する部分の膜厚Dを求めた場合における誤差を少なくすることができる。
例えば、黒紙BPに加わる熱量の最大値の分布が位置に対して直線状や曲線状に変動する場合には、被測定対象Aの加熱面HSに供給される熱量は、その直線状や曲線状の分布従って分布していると推定することができるし、加熱手段10が供給する熱量の位置による分布が事前に分かっている場合には、黒紙BPに加わる熱量の最大値の分布が特定できれば、被測定対象Aの加熱面HSに供給される熱量を特定することができる。
【0026】
そして、加熱手段10が、平坦面に対して均一な熱量を供給できる場合であれば、被測定対象Aの加熱面HSが曲面であっても、加熱手段10から被測定対象Aの加熱面HSに加わる加熱量を補正することによって、被測定対象Aの加熱面HSにおける各点に対応する部分の膜厚Dを求めることが可能となる。
【実施例1】
【0027】
本発明の膜厚測定装置により膜厚測定の実施例を以下に示す。
被測定対象は、黒鉛の表面に数十μm〜数百μmの厚さの熱分解炭素が、基礎材料である黒鉛の表面にコーティングされた部材(図6参照)であり、この被測定対象において、その熱分解炭素からなるコーティング膜の膜厚を測定した。本実施例では、被測定対象の温度と同時に、参照対象となる黒紙(色画用紙、アピカ製、黒、厚さ0.18mm、単位面積質量0.128kg/m)の温度測定も同時に行っている。
なお、被測定対象および黒紙の主要な物性を、図5の表1に示している。
【0028】
まず、膜厚測定装置による膜厚測定の前提となる膜厚と温度変動曲線との関係を確認する。
上記被測定対象を、図4(A)に示す発光強度特性を有する充電容量1000Jのキセノンランプ(日進電子工業社製:SXF-250H)によって瞬時加熱を行った場合におけるコーティング膜の温度変動について非定常熱伝導解析を行い、膜厚が20、40、60μmの場合における温度変動曲線を算出した。
図4(B)に示すように、膜厚が20、40、60μmと厚くなるに従って、温度上昇が最大となる経過時間は2msから3msに長くなり、かつ、温度の最大値も高くなることが確認できる。つまり、測定点における経過時間と温度上昇の値が分かれば、温度変動曲線に基づいてその測定点における膜厚を推定することができることを表している。
【0029】
つぎに、本発明の膜厚測定装置により、上記被測定対象における膜厚を測定した例を示す。
図7に示すように、実験に使用した膜厚測定装置は、ガルバノミラー内蔵の赤外線サーモグラフィ(日本電気製:サーモトレーサTH3102MR)と、この赤外線サーモグラフィによる温度測定を制御するパーソナルコンピュータと、図4(A)に示す発光強度特性を有する充電容量1000Jのキセノンランプ(日進電子工業社製:SXF-250H)とから構成されている。なお、赤外線サーモグラフィの仕様は、図5の表1に示している。
【0030】
赤外線サーモグラフィは、測定モードをタイムトレースと呼ばれる、垂直走査のガルバノミラーを特定の位置(被測定物の中心近傍)で停止し、水平走査を最大239回(239サイクル)繰返し、特定の水平ラインにおける温度の時間変化を記録するモードを使用した。このモードにおいて、水平走査の開始並びに終了を、パーソナルコンピュータのモニター画面内に表示されている、水平走査開始並びに水平走査終了を示す箇所をマウスでクリックすることにより制御し、マウスによる画面のクリックを、マウスに内臓の信号線から制御装置を介して、キセノンランプに入力することによって、キセノンランプによる加熱前後における被測定対象の温度を測定できるように構成している。
詳細に説明すると、制御装置の制御開始ボタンを押すことによって、測定開始信号がマウスのクリック信号を経由してパーソナルコンピュータに送られ、水平走査のみによる温度測定サイクルがスタートし、温度測定サイクルがスタートした後、一定時間経過後にフラッシュランプ点灯信号がキセノンランプに送られ被測定対象の瞬間加熱が行われるように構成されている。そして、赤外線サーモグラフィは、水平走査温度測定サイクルを最大239サイクル(1サイクル3.125msでは、3.125×239=746.875ms)の測定温度を記憶できるが、239サイクルを超えると1サイクルが240サイクルによって上書きされてしまうため、水平走査温度測定サイクルが239サイクルになる前に、測定終了信号をマウスのクリック信号を経由してパーソナルコンピュータに送って、赤外線サーモグラフィによる温度測定を終了させる。
なお、水平走査温度測定サイクルは、1サイクルの3.125msで行われるが、実際に温度を測定している領域は、上記の被測定対象の場合、測定時間差は、1.25msである。
【0031】
以下に実験結果を示す。
図7は膜厚が20、60μmの場合において、被測定対象の加熱面の一点における各測定サイクルの温度データを示した図である。なお、横軸は、温度上昇開始タイミングからの経過時間を示している。
図7に示すように、図4(B)に示した温度変動曲線と同様に、膜厚が大きい方が温度上昇の最大値は高くなり、また、最大値となるタイミングが遅くなることが確認できる。つまり、被測定対象の加熱面を瞬間加熱した場合において、赤外線サーモグラフィによって測定される温度変動と、非定常熱伝導解析を行って算出される温度変動曲線が同じ傾向を示していることが確認できる。よって、測定される温度変動と温度変動曲線から膜厚を算出できることが推定できる。
【0032】
次に、参照対象を使用して温度上昇開始タイミングを推定した実施例を示す。
図8は図6の膜厚測定装置によって黒紙の温度を測定した場合における黒紙の温度の時間推移を示したものである。図8に示すように、加熱は0サイクルの途中で開始し、測定サイクル毎に温度は上昇し、3サイクルで最大となり、その後、緩やかに減少した。
表2に示すように、赤外線サーモグラフィは、水平位置の0画素から254画素までの水平走査に要する時間は、1.25msであることを利用し、また、3サイクル時の温度分布がほぼ加熱面の吸収熱量に比例するもの仮定して、黒紙の温度上昇と経過時間の関係を求めた。そして、3サイクル時の温度分布に基づいて熱量補正を行って求めた結果を、40回分重ねあわせ、最終的に一本の曲線であらわせば、図3(B)に示すような曲線が形成される。すると、この曲線と、参照対象となる黒紙の温度が分かれば、黒紙の温度の温度が測定されたときの経過時間、つまり、温度上昇開始タイミングからの時間を確認できることが確認できる。言い換えれば、曲線と、参照対象となる黒紙の温度が分かれば、温度上昇開始タイミングも推定できることが確認できる。
なお、黒紙の温度上昇は、ほぼこの曲線に一致するから、複数点における黒紙の温度と、各点の測定時間があれば、上記曲線も再現できると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の膜厚測定装置および膜厚測定方法は、炭素または黒鉛等の表面に形成された膜や層等の膜厚の非破壊検査に適している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本実施形態の膜厚測定装置1の概略説明図である。
【図2】加熱手段10によって瞬間的に加熱されたときに、被測定対象Aの加熱面HSを赤外線サーモグラフィ2のガルバノミラー2aを水平方向にのみ走査させた場合における測定温度Tの時間変動を示した図であり、(A)は被測定対象Aにおける加熱面HSの部分の温度変動であり、(B)は被測定対象Aと黒紙BPの部分の温度変動である。
【図3】(A)は黒紙BPを瞬間加熱した場合において、赤外線サーモグラフィ2のガルバノミラー2aによって測定された4サイクル分の黒紙BPの温度変動を示した図であり、(B)は赤外線サーモグラフィ2のガルバノミラー2aによって測定された温度の離散データから推定される、黒紙BPを瞬間加熱したときにおける温度の時間変動を示した図である。
【図4】(A)フラッシュランプにおける発光強度の時間変動を示した図であり、(B)は、熱分解炭素を(A)の発光強度を有するフラッシュランプによって瞬間加熱したときにおける温度変動曲線を、式(2)に基づいて算出した例を示した図である。
【図5】表1は被測定対象および黒紙の主要な物性を示した表であり、表1は赤外線サーモグラフィの仕様を示した表である。
【図6】実験に使用した膜厚測定装置の概略説明図である。
【図7】膜厚が20、60μmの場合において、被測定対象の加熱面の一点における各測定サイクルの温度データを示した図である。
【図8】図6の膜厚測定装置によって黒紙の温度を測定した場合における黒紙の温度の時間推移を示したものである。
【符号の説明】
【0035】
1 膜厚測定装置
2 赤外線サーモグラフィ
2a ガルバノミラー
5 演算手段
6 加熱タイミング検出部
7 膜厚算出部
10 加熱手段10
A 被測定対象
HS 被測定対象の加熱面
BP 黒紙
BPS 黒紙の加熱面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定対象における加熱面を瞬間的に加熱する加熱手段と、
前記被測定対象の加熱面の温度を測定する温度測定手段と、
被測定対象の加熱面が瞬間的に加熱されたときに生じる該被測定対象の加熱面における温度の時間変動特性と、前記加熱手段によって加熱されたときに該温度測定手段によって測定された被測定対象の加熱面の温度とに基づいて、被測定対象の膜厚を算出する演算手段とを備えており、
前記温度測定手段が、ガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィであり、
前記演算手段は、
前記加熱手段による加熱によって被測定対象の加熱面の温度上昇が開始したタイミングを算出する加熱タイミング検出部と、
該加熱タイミング検出部によって検出された被測定対象の加熱面の温度上昇開始タイミングと、前記赤外線サーモグラフィによって測定された被測定対象の加熱面の温度に基づいて、該被測定対象の膜厚を算出する膜厚算出部とを備えている
ことを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、
前記加熱タイミング検出部が、
前記参照対象における加熱面の温度に基づいて、被測定対象の加熱面における温度上昇開始タイミングを推定するタイミング補正機構を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の膜厚測定装置。
【請求項3】
被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、
前記演算手段が、
前記参照対象における加熱面の温度に基づいて該参照対象に供給される熱量を算出し、算出された該参照対象に供給される熱量に基づいて被測定対象の加熱面に供給される熱量を補正する熱量補正部を備えている
ことを特徴とする請求項1記載の膜厚測定装置。
【請求項4】
被測定対象の加熱面を瞬間的に加熱し、加熱された被測定対象の加熱面の温度変化をガルバノミラー走査型の赤外線サーモグラフィによって測定し、該赤外線サーモグラフィによって測定された被測定対象の加熱面の温度変化と、被測定対象の加熱面が瞬間的に加熱されたときに生じる被測定対象の加熱面における温度の時間変動特性とに基づいて、被測定対象の膜厚を算出する膜厚算出方法であって、
被測定対象の加熱面の温度上昇が開始した温度上昇開始タイミングを推定する温度上昇開始タイミング推定工程と、
該温度上昇開始タイミング推定工程において推定された温度上昇開始タイミングと、前記赤外線サーモグラフィによって測定された被測定対象の加熱面の温度に基づいて、該被測定対象の膜厚を算出する膜厚算出工程とを行う
ことを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項5】
被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、
前記温度上昇開始タイミング推定工程において、前記参照対象における加熱面の温度に基づいて、被測定対象における温度上昇開始タイミングを推定する
ことを特徴とする請求項4記載の膜厚測定方法。
【請求項6】
被測定対象の加熱面の温度を、該被測定対象に比べて熱拡散率が小さい参照対象における加熱面の温度と同時に測定する場合において、
前記膜厚算出工程において、
前記参照対象における加熱面の温度に基づいて該参照対象に供給される熱量を算出し、算出された該参照対象に供給される熱量に基づいて、被測定対象における加熱面に供給される熱量を補正する
ことを特徴とする請求項4記載の膜厚測定方法。
【請求項7】
被測定対象が、基礎材料の表面に形成された層であり、
前記基礎材料の素材が、電磁波の吸収率が高い素材で形成されている
ことを特徴とする請求項4記載の膜厚測定装置。
【請求項8】
前記基礎材料が、炭素または黒鉛である
ことを特徴とする請求項7記載の膜厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−242721(P2006−242721A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58177(P2005−58177)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】