説明

膨張機ユニット及びそれを備えた冷凍サイクル装置

【課題】コンパクトな構造を実現しつつ、サブ圧縮機に流入する冷媒流量と吸入可能な冷媒流量とのずれの調整を自動的に実行できる膨張機ユニット、及びその膨張機ユニットを備えることで広範囲な運転条件を可能とし、信頼性が高く、高効率な冷凍サイクル装置を提供する。
【解決手段】膨張機ユニット1は、吸入室374又はサブ圧縮室363の少なくとも一方とサブ圧縮吐出空間370とを連通させるバイパスポート361fと、バイパスポート361fを連通・遮断するバイパス逆止弁331と、を密閉容器310内に有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷媒の膨張時に発生する膨張動力を回収し、その膨張動力を用いて冷媒の圧縮に利用する膨張機ユニット及びそれを備えた冷凍サイクル装置に関するものであり、特に膨張機ユニット内に内蔵されているサブ圧縮機のバイパス構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、冷媒の膨張時に発生する膨張動力を回収し、その膨張動力を用いて冷媒の圧縮に利用する膨張機ユニットを備えた冷凍サイクル装置が存在している。このような冷凍サイクル装置では、サブ圧縮機構と膨張機構とを収納する膨張機ユニットの容器外部にサブ圧縮機に流入する冷媒流量の調整を行うためのバイパス管が設けられ、このバイパス管に吸入管と吐出管との冷媒流通を規制するバイパス逆止弁が設けられていることが多い(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−94379号公報(第3頁、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような冷凍サイクル装置では、バイパス管及びバイパス逆止弁を設けるためのスペースを膨張機ユニットの外部に確保しなければならず、装置が大型化してしまうという問題がある。また、このような冷凍サイクルでは、主圧縮機から冷媒ガスとともに吐出される冷凍機油の量が多い場合、冷媒中に混在する冷凍機油による熱交換性能の低下が生じたり、起動時に主圧縮機内の冷凍機油が外部に持ち出され、主圧縮機内部の摺動部に十分な給油が行なわれず、摺動部に焼き付きが生じたりする可能性があった。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、コンパクトな構造を実現しつつ、サブ圧縮機に流入する冷媒流量と吸入可能な冷媒流量とのずれの調整を自動的に実行できる膨張機ユニット、及びその膨張機ユニットを備えることで広範囲な運転条件を可能とし、信頼性が高く、高効率な冷凍サイクル装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る膨張機ユニットは、冷媒の減圧時の膨張動力を回収する膨張機及びその膨張動力を用いて冷媒を圧縮するサブ圧縮機を密閉容器に収容し、前記サブ圧縮機に供給する冷媒を吸入するサブ圧縮機吸入管及び前記サブ圧縮機で圧縮された冷媒を吐出するサブ圧縮機吐出管を前記密閉容器内部に連通させた膨張機ユニットであって、前記サブ圧縮機内に形成され、冷媒を圧縮するサブ圧縮室と、前記サブ圧縮機内に形成され、前記サブ圧縮機吸入管から前記サブ圧縮室に至るまでの吸入室と、前記サブ圧縮室に連通し、前記サブ圧縮室で圧縮された冷媒を吐出するサブ圧縮機吐出ポートと、前記サブ圧縮機内に形成され、前記サブ圧縮機吐出ポートから冷媒が吐出される吐出室と、前記密閉容器内に備えられ、前記吐出室からの冷媒が通過するサブ圧縮吐出空間と、前記密閉容器内に形成され、潤滑油を蓄える油溜め空間と、前記サブ圧縮機及び前記膨張機を貫通し、前記サブ圧縮吐出空間と前記油溜め空間とを連通する油戻し孔と、前記密閉容器内に備えられ、前記吸入室又は前記サブ圧縮室の少なくとも一方と前記サブ圧縮吐出空間とを連通させるバイパスポートと、前記密閉容器内に備えられ、前記バイパスポートを開閉するバイパス用開閉弁と、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る冷凍サイクル装置は、上記の膨張機ユニットと、主圧縮機と、室外熱交換器と、室内熱交換器と、を有し、前記主圧縮機、前記膨張機ユニットを構成しているサブ圧縮機、前記室外熱交換器、前記膨張機ユニットを構成している前記膨張機、前記室内熱交換器を冷房運転時において直列となるように接続していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る膨張機ユニットによれば、バイパスポート及びバイパス用開閉弁を密閉容器内に設けているので、大型化することなくコンパクトな構造とすることができる。また、膨張機ユニットによれば、バイパス用開閉弁により、サブ圧縮機に流入する過剰な流量分の冷媒のバイパスを自動的に行なうことができる。
【0009】
本発明に係る冷凍サイクル装置によれば、膨張機ユニットを備えることにより、冷凍サイクル装置のコンパクト化を実現できるとともに、広範囲な運転条件を可能とし、信頼性が高く、高効率なものとすることができる。また、冷凍サイクル装置によれば、膨張機ユニットを油分離器として機能させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る膨張機ユニット1の構成を示す縦断面図である。図1に基づいて、膨張機ユニット1の構成について説明する。この膨張機ユニット1は、スクロール型の膨張機及び圧縮機を一体としたものであり、冷媒の膨張時に発生する膨張動力を回収し、回収した膨張動力を用いて冷媒を圧縮する機能を有しているものである。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、図1を含め、以下の図面において、同一の符号を付したものは、同一又はこれに相当するものであり、このことは明細書の全文において共通することとする。
【0011】
膨張機ユニット1は、膨張機1aとサブ圧縮機1bとで構成されている。膨張機1a及びサブ圧縮機1bは、密閉容器310内に収納されている。この密閉容器310は、圧力容器となっている。図1に示すように、サブ圧縮機1bが密閉容器310の上側に、膨張機1aが密閉容器310の下側に配置されている。この密閉容器310の内側下部には、冷凍機油等の潤滑油318を貯留する油溜め空間372が形成されている。また、密閉容器310の内側上部には、サブ圧縮機1bで圧縮された冷媒が吐出されるサブ圧縮吐出空間370が形成されている。
【0012】
さらに、密閉容器310には、膨張機1aに冷媒を吸入させるための膨張機吸入管313と、膨張機1aから冷媒を吐出させるための膨張機吐出管315と、サブ圧縮機1bに冷媒を吸入させるためのサブ圧縮機吸入管312と、サブ圧縮機1bから冷媒を吐出させるためのサブ圧縮機吐出管314と、が設けられている。膨張機吸入管313及び膨張機吐出管315は、膨張機1aの外周側における密閉容器310の側面から膨張機1aに連通するように、サブ圧縮機吸入管312は、密閉容器310の上面からサブ圧縮機1bに連通するように、サブ圧縮機吐出管314は、サブ圧縮吐出空間370の外周側における密閉容器310の側面からサブ圧縮吐出空間370に連通するように、それぞれ設けられている。
【0013】
また、密閉容器310には、油溜め空間372に貯留させる潤滑油318を主圧縮機5(実施の形態2で説明する)から供給する油配管380が、密閉容器310の底面から油溜め空間372に連通するように設けられている。この油溜め空間372に連通している油配管380は、主圧縮機5に連結しており、油溜め空間372側の先端部の位置が主圧縮機5と油溜め空間372に貯留される潤滑油318の適正油面高さよりも高い位置となるように設けられている。
【0014】
膨張機1aは、膨張機吸入管313から吸入した冷媒を減圧して膨張させ、その冷媒を膨張機吐出管315から吐出するものである。この膨張機1aは、膨張機用固定スクロール351と膨張機用揺動スクロール352とを有している。図1に示すように、膨張機用固定スクロール351が下側に、膨張機用揺動スクロール352が上側に配置されている。膨張機用固定スクロール351を構成する台板351aの一方の面には渦巻状突起である渦巻351sが立設されている。また、膨張機用揺動スクロール352を構成する台板352aの一方の面にも渦巻状突起である渦巻352sが立設されている。
【0015】
膨張機用固定スクロール351及び膨張機用揺動スクロール352は、渦巻351sと渦巻352sとを互いに噛み合わせるようにして配置されている。そして、渦巻351sと渦巻352sとによって、相対的に容積が変化する膨張室353が形成される。また、渦巻351s及び渦巻352sの先端部には、膨張室353を仕切るチップシール354が装着されている。さらに、膨張機用固定スクロール351を構成する台板351aには、膨張機吸入管313から冷媒を吸入するための膨張機吸入ポート351dが貫通形成されており、膨張機吸入管313と連結するようになっている。
【0016】
サブ圧縮機1bは、サブ圧縮機吸入管312から吸入した冷媒を圧縮して、サブ圧縮機吐出管314から吐出するものである。このサブ圧縮機1bは、サブ圧縮機用固定スクロール361とサブ圧縮機用揺動スクロール362とを有している。図1に示すように、サブ圧縮機用固定スクロール361が上側に、サブ圧縮機用揺動スクロール362が下側に配置されている。サブ圧縮機用固定スクロール361を構成する台板361aの一方の面には渦巻状突起である渦巻361sが立設されている。また、サブ圧縮機用揺動スクロール362を構成する台板362aの一方の面にも渦巻状突起である渦巻362sが立設されている。
【0017】
サブ圧縮機用固定スクロール361及びサブ圧縮機用揺動スクロール362は、渦巻361sと渦巻362sとを互いに噛み合わせるようにして配置されている。そして、渦巻361sと渦巻362sとによって、相対的に容積が変化するサブ圧縮室363が形成される。また、渦巻361s及び渦巻362sの先端部には、サブ圧縮室363を仕切るチップシール364が装着されている。さらに、サブ圧縮機用固定スクロール361を構成する台板361aには、サブ圧縮機吸入管312から冷媒を吸入するためのサブ圧縮機吸入ポート361dと、台板361a内部に形成されている吐出室361gに冷媒を吐出するためのサブ圧縮機吐出ポート361eと、吸入した冷媒をバイパス逆止弁室361hにバイパスするためのバイパスポート361fと、が形成されている。
【0018】
サブ圧縮機吸入ポート361dは、サブ圧縮機吸入管312に連結されるように形成されている。サブ圧縮機吐出ポート361eの吐出室361g側の先端部には、吐出弁330が設けられている。この吐出弁330は、開閉することでサブ圧縮機吐出ポート361eと吐出室361gとを連通・遮断するようになっている。サブ圧縮機吐出ポート361eから吐出された冷媒は、吐出室361gを経由してからサブ圧縮吐出空間370に到達するようになっている。
【0019】
バイパスポート361fのバイパス逆止弁室361h側の先端部には、バイパス逆止弁331が設けられている。このバイパス逆止弁331は、バイパス用開閉弁として機能し、開閉することでバイパスポート361fとバイパス逆止弁室361hとを連通・遮断するようになっている。バイパスポート361fにバイパスされた冷媒は、バイパス逆止弁室361hを経由してからサブ圧縮吐出空間370に到達するようになっている。
【0020】
また、サブ圧縮機1bからの冷媒の漏洩を防止するために、サブ圧縮機用固定スクロール361とサブ圧縮機用揺動スクロール362との間に外周シール365が設けられている。この外周シール365は、サブ圧縮機用固定スクロール361とサブ圧縮機用揺動スクロール362との間に形成される吸入室374の最外周側の壁面であって、サブ圧縮機用固定スクロール361とサブ圧縮機用揺動スクロール362との対向面に設けられており、吸入室374と揺動スクロール運動空間371とを気密にシールするようになっている。吸入室374は、サブ圧縮機吸入管312からサブ圧縮室363に至るまでの冷媒通路となっている。
【0021】
膨張機用固定スクロール351、膨張機用揺動スクロール352、サブ圧縮機用固定スクロール361、及び、サブ圧縮機用揺動スクロール362の中心部には、軸308が貫通している。なお、膨張機用揺動スクロール352の渦巻352sとサブ圧縮機用揺動スクロール362の渦巻362sとは、背面合わせ構造又は台板を共有して一体型に構成されている。サブ圧縮機用固定スクロール361とサブ圧縮機用揺動スクロール362との間には、揺動スクロールの公転運動中における自転運動を規制し、公転運動を可能とするためのオルダムリング307が設けられている。
【0022】
軸308の上端部にはバランスウェイト309aが、下端部にはバランスウェイト309bがそれぞれ設けられている。バランスウェイト309a及びバランスウェイト309bは、軸308の回転時におけるバランスを調整するものであり、材質及び大きさ、形状等を特に限定するものではない。この軸308は、膨張機構側軸受け部351bと、サブ圧縮機構側軸受け部361bとで支持されるようになっている。また、膨張機用揺動スクロール352及びサブ圧縮機用揺動スクロール362(以下、単に揺動スクロールとして説明する場合があるものとする)の中央部には、揺動スクロールを偏心駆動するクランク部308bが設けられている。
【0023】
軸308の下端には、油溜め空間372に貯留されている潤滑油318を汲み上げるための給油ポンプ306が装着されている。給油ポンプ306で汲み上げられた潤滑油318は、軸308内に形成されている給油孔308cを通って、膨張機構側軸受け部351b及びサブ圧縮機構側軸受け部361bに供給されるようになっている。また、膨張機用固定スクロール351及びサブ圧縮機用固定スクロール361の外周部には、サブ圧縮機1b及び膨張機1aを貫通してサブ圧縮吐出空間370と油溜め空間372とを連通させる油戻し孔317が形成されている。この油戻し孔317は、揺動スクロール運動空間371(揺動スクロールの公転運動を可能にするための空間)を経由しないように形成されており、サブ圧縮吐出空間370にある潤滑油318を油溜め空間372に戻すようになっている。
【0024】
図2は、サブ圧縮機1bの構成を示す平面図である。この図2は、図1で示した膨張機ユニット1のA−A断面図を示している。ただし、図2では、軸308を省略しているものとする。図2に基づいて、サブ圧縮機1bの渦巻361s及び渦巻362sを組み合わせた状態について詳細に説明する。図1で説明したように、サブ圧縮機1bは、サブ圧縮機用固定スクロール361の渦巻361sとサブ圧縮機用揺動スクロール362の渦巻362sとを互いに噛み合わせ、相対的に容積が変化するサブ圧縮室363が形成されるように構成されている。
【0025】
図2に示すように、サブ圧縮機吸入ポート361d及びバイパスポート361fは、サブ圧縮機用揺動スクロール362の最外周に位置する渦巻362sと干渉しない位置に形成されている。また、サブ圧縮室363の最外周壁と、サブ圧縮機用固定スクロール361とサブ圧縮機用揺動スクロール362との間に設けた外周シール365と、で囲まれた空間がサブ圧縮機1bの吸入室374となっている。この外周シール365は、O−リング等のように円環状に構成され、サブ圧縮機用固定スクロール361とサブ圧縮機用揺動スクロール362との間に設けられている。
【0026】
ここで、膨張機ユニット1の動作を図1及び図2に基づいて簡単に説明する。
サブ圧縮機1bでは、サブ圧縮機吸入管312から流入した冷媒が、サブ圧縮機吸入ポート361d及び吸入室374を介してサブ圧縮室363に供給され、膨張機1aで回収された動力に釣り合う分だけ圧縮され、サブ圧縮機吐出ポート361e及び吐出室361gを経てサブ圧縮吐出空間370を通過し、サブ圧縮機吐出管314から吐出される。圧縮行程は、膨張機1aで発生した駆動力が、一体型に構成された膨張機用揺動スクロール352とサブ圧縮機用揺動スクロール362とを介してサブ圧縮機1bに直接伝達され、サブ圧縮機用揺動スクロール362が公転運動し、サブ圧縮室363の容積を徐々に縮小させて冷媒を圧縮するようになっている。
【0027】
一方、膨張機1aでは、膨張機吸入管313から流入した冷媒が、膨張機吸入ポート351dを介して膨張室353に供給され、減圧され、揺動スクロール運動空間371を経て膨張機吐出管315から吐出される。膨張行程は、膨張室353に吸い込まれた高圧の冷媒が、低圧となる揺動スクロール運動空間371との圧力差に応じた膨張動力を発生し、発生した膨張動力によって膨張室353の容積を拡大する方向へ膨張機用揺動スクロール352を公転運動させるようになっている。このように、膨張機ユニット1では、膨張機1aで冷媒を減圧する際に発生する膨張動力を回収し、その膨張動力を用いてサブ圧縮機1bで冷媒を圧縮するようになっている。
【0028】
図3は、サブ圧縮機1b内で高低圧力差ありの場合のサブ圧縮機1bにおける冷媒ガス及び潤滑油318の流れを説明するための縦断面図である。図4は、サブ圧縮機1b内で高低圧力差なしの場合のサブ圧縮機1bにおける冷媒ガス及び潤滑油318の流れの一例を説明するための縦断面図である。図5は、高低圧力差なしの場合のサブ圧縮機1bにおける冷媒ガス及び潤滑油318の流れの他の一例を説明するための縦断面図である。図3〜図5に基づいて、膨張機ユニット1の冷媒及び潤滑油318の流れについて詳細に説明する。始めに図3に基づいてサブ圧縮機1b内に高低圧力差が生じている際の動作について説明し、それから図4及び図5に基づいてサブ圧縮機1bに高低圧力差が生じていない際の動作について説明するものとする。なお、図3〜図5において、白抜き矢印は冷媒の流れを示し、黒塗り矢印は潤滑油の流れを示している。
【0029】
[高低圧力差ありの場合]
まず、冷媒の流れ(図3で示す白抜き矢印)について説明する。膨張機1aに流入した高圧の冷媒は、膨張室353内を経由し、膨張される。このとき、動力が発生する。そして、膨張室353内で膨張・減圧した冷媒は、揺動スクロール運動空間371を経由して膨張機吐出管315から密閉容器310外へ吐出されることになる。膨張機1aで発生した膨張動力によって、サブ圧縮機吸入管312からサブ圧縮機1bに流入した冷媒がサブ圧縮室363を経由することで圧縮・昇圧される。
【0030】
サブ圧縮室363内で圧縮・昇圧された冷媒は、一旦密閉容器310内のサブ圧縮吐出空間370に吐出された後、サブ圧縮機吐出管314から密閉容器310外へ吐出されることになる。このとき、揺動スクロール運動空間371とサブ圧縮機1bとが外周シール365によってシールされているため、揺動スクロール運動空間371内は、膨張後圧力となっている。一方、油溜め空間372内は、揺動スクロール運動空間371を経由しない油戻し孔317を通じてサブ圧縮吐出空間370と同じサブ圧縮機1bの圧縮後圧力となっている。なお、バイパス逆止弁331は、サブ圧縮機1bの高低圧力差により、閉止されている。
【0031】
つぎに、潤滑油318の流れ(図3で示す黒塗り矢印)について説明する。潤滑油318は、サブ圧縮機1bにおいて冷媒ガスとともに循環するようになっている。主圧縮機5から冷媒ガスとともにサブ圧縮機1bに吸い込まれた潤滑油318は、サブ圧縮機吐出ポート361eから吐出弁330を経て、サブ圧縮吐出空間370に流入する。この潤滑油318は、サブ圧縮吐出空間370内で気液分離され、サブ圧縮機用固定スクロール361上面に溜まった後、油戻し孔317を経由して油貯留部として機能する油溜め空間372へ戻される。さらに、油溜め空間372に貯留される過剰な潤滑油318は、密閉容器310の底部に設けた油配管380を経由して、主圧縮機5と油溜め空間372との差圧で主圧縮機5内に戻され、油溜め空間372に貯留される潤滑油318の油面が適正な位置に保持される。
【0032】
[高低圧力差なしの場合の一例]
まず、冷媒の流れ(図4で示す白抜き矢印)について説明する。サブ圧縮機1bに高低圧力差が生じない場合とは、たとえば起動時や冷房運転でのみ膨張機1aを使用する冷凍システムの暖房運転時、回転数が低い運転時等の場合である。このようなとき、サブ圧縮機1bの吸入流量が主圧縮機5の吐出流量を下回ることになり、サブ圧縮機1bの吸入圧力が圧縮後圧力よりも上昇して、バイパス逆止弁331が開放状態となる。バイパス逆止弁331が開放状態になると、吸入された冷媒の全部がサブ圧縮室363を経由するのではなく、一部がバイパスされることになる。
【0033】
すなわち、サブ圧縮機吸入管312から吸入された冷媒は、サブ圧縮室363を経由してサブ圧縮吐出空間370に吐出される経路と、バイパスポート361fからバイパス逆止弁331を経てサブ圧縮吐出空間370に至る経路と、に分かれることになるのである。この2分岐された冷媒は、サブ圧縮吐出空間370で合流した後、サブ圧縮機吐出管314から密閉容器310外へ吐出されることになる。サブ圧縮機1bに高低圧力差が生じていない場合は、このような経路で冷媒が流れることになるのである。
【0034】
つぎに、潤滑油318の流れ(図4で示す黒塗り矢印)について説明する。冷媒ガスとともに循環する潤滑油318についても、冷媒ガスと同様に、サブ圧縮室363を経由してサブ圧縮吐出空間370に吐出される経路と、バイパスポート361fからバイパス逆止弁331を経てサブ圧縮吐出空間370に至る経路と、に分かれて、サブ圧縮吐出空間370に流入する。冷媒ガスとともに流入した潤滑油318は、サブ圧縮吐出空間370内で気液分離され、サブ圧縮機用固定スクロール361の上面に溜まった後、油戻し孔317を経由して油貯留部として機能する油溜め空間372へ戻されることになる。
【0035】
[高低圧力差なしの場合の他の一例]
冷媒の流れ(図5で示す白抜き矢印)及び潤滑油318の流れ(図5で示す黒塗り矢印)を併せて説明する。サブ圧縮機1bに高低圧力差が生じておらず、サブ圧縮機1bが回転していない場合、冷凍サイクル装置を流れる冷媒ガス及び潤滑油318の全量がバイパスポート361fを流れ、サブ圧縮吐出空間370に流入することになる。その後、冷媒ガスは、サブ圧縮機吐出管314を経て密閉容器310外へ吐出される。一方、冷媒ガスとともに流入した潤滑油318は、サブ圧縮吐出空間370内で気液分離され、サブ圧縮機用固定スクロール361の上面に溜まったのち、油戻し孔317を経由して油貯留部として機能する油溜め空間372へ戻されることになる。
【0036】
以上より、この実施の形態1に係る膨張機ユニット1では、主圧縮機5の吐出流量よりもサブ圧縮機1bの吸入流量が小さい場合、膨張機ユニット1内に設けたバイパス逆止弁331により、過剰な流量分の冷媒のバイパスが自動的に行われるとともに、冷媒とともに循環する潤滑油318が、常にサブ圧縮機1bのサブ圧縮吐出空間370を経由させることができる。この潤滑油318は、サブ圧縮吐出空間370内で気液分離されてから、油戻し孔317を経由して油貯留部として機能する油溜め空間372へ戻されることになる。
【0037】
ここで、膨張機ユニット1内の給油機構について説明する。
膨張機1aの膨張動力によって軸308が回転すると、給油ポンプ306によって、油溜め空間372に貯留されている潤滑油318が、軸308内部に形成されている給油孔308cを通って膨張機構側軸受け部351b、サブ圧縮機構側軸受け部361b及びクランク部308bへ供給される。また、膨張機構側軸受け部351b、サブ圧縮機構側軸受け部361b及びクランク部308bへ供給された潤滑油318のうちサブ圧縮吐出空間370へ漏洩した潤滑油318は、油戻し孔317を経由して油溜め空間372へ戻される。
【0038】
上記の構成により、膨張機ユニット1は、バイパスポート361f及びバイパス逆止弁331を密閉容器310内に設けているので、大型化することなくコンパクトな構造とすることができる。また、膨張機ユニット1は、バイパス逆止弁331により、サブ圧縮機1bに流入する過剰な流量分の冷媒のバイパスを自動的に行なうことができる。さらに、膨張機ユニット1は、冷媒とともに循環する潤滑油318を、常にサブ圧縮機1bのサブ圧縮吐出空間370に経由させ、気液分離するので、油分離器としての機能を兼用させることができる。
【0039】
実施の形態2.
図6は、本発明の実施の形態2に係る冷凍サイクル装置500の回路構成を模式的に示す回路図である。図6に基づいて、冷凍サイクル装置500の回路構成について説明する。この冷凍サイクル装置500は、冷媒(たとえば、二酸化炭素等の超臨界流体)を循環させる冷凍サイクルを利用することで冷房運転又は暖房運転を実行できるものである。この図6には、冷房運転時における冷媒の流れを実線矢印で、暖房運転時における冷媒の流れを破線矢印でそれぞれ表している。
【0040】
実施の形態2に係る冷凍サイクル装置500は、実施の形態1に係る膨張機ユニット1を備えたことを特徴としている。この冷凍サイクル装置500は、図6に示すように、室外ユニット100と室内ユニット200が冷媒配管で接続されて構成されている。冷凍サイクル装置500に使用する冷媒としては、たとえば臨界温度(約31℃)以上で超臨界状態となり、熱交換が顕熱変化となる二酸化炭素を想定している。なお、図6では、1台の室外ユニット100と、1台の室内ユニット200とが接続されている場合を例に示しているが、各ユニットの接続台数を図示してある台数に限定するものではない。
【0041】
[室外ユニット100]
室外ユニット100は、室外等に設置され、室内ユニット200に冷熱を供給する機能を有している。この室外ユニット100には、主圧縮機5と、膨張機ユニット1のサブ圧縮機1bと、第1四方弁2と、室外熱交換器3と、第2四方弁4と、予膨張弁6と、膨張機ユニット1の膨張機1aと、が冷房運転時において直列となるように接続されて設けられている。また、室外ユニット100には、冷房運転時において第2四方弁4に流入する一部の冷媒を迂回させるバイパス弁7が設けられている。
【0042】
主圧縮機5は、冷媒を吸入し、その冷媒を圧縮して高温・高圧の状態にするものであり、たとえば容量制御可能なインバータ圧縮機などで構成するとよい。第1四方弁2及び第2四方弁4は、流路切替手段として機能するものであり、暖房運転時における冷媒の流れと冷房運転時における冷媒の流れとを切り替えるものである。室外熱交換器3は、第1四方弁2と第2四方弁4との間に設置されており、運転モードに応じて放熱器又は蒸発器として機能し、図示省略のファン等の室外送風機から強制的に供給される空気と冷媒との間で熱交換を行なうものである。
【0043】
予膨張弁6は、膨張機1aの入口側に設けられて開閉弁として機能し、膨張機1aとサブ圧縮機1bとにおける通過冷媒流量と動力とを一致させるものである。バイパス弁7は、室外熱交換器3と第2四方弁4とを接続している冷媒配管を分岐させ、第2四方弁4を迂回するようにした冷媒配管に予膨張弁6と並列となるように設けられており、予膨張弁6と同様に開閉弁として機能するものである。つまり、予膨張弁6と第1バイパス弁7とによって、膨張機1aとサブ圧縮機1bとにおける通過冷媒流量と動力とを一致させるようになっている。
【0044】
[室内ユニット200]
室内ユニット200は、空調対象域を有する部屋等に設置され、その空調対象域に冷房用空気あるいは暖房用空気を供給する機能を有している。室内ユニット200には、室内熱交換器9が設けられている。室内熱交換器9は、暖房運転時には放熱器として機能し、冷房運転時には蒸発器として機能し、図示省略のファン等の室内送風機から強制的に供給される空気と冷媒との間で熱交換を行ない、空調対象域に供給するための暖房空気あるいは冷房空気を作成するものである。
【0045】
ここで、冷凍サイクル装置500の冷房運転時における動作について説明する。
図7は、冷房運転時における冷媒の変遷を示すp−h線図(冷媒の圧力(縦軸)とエンタルピ(横軸)との関係を示す線図)である。図6及び図7に基づいて、冷凍サイクル装置500の冷房運転時における動作を冷媒状態の変遷に基づいて説明する。なお、図6に示す点[A]〜点[G]の冷媒状態は、それぞれ図7に示す[A]〜[G]での冷媒状態を示している。
【0046】
冷凍サイクル装置500が冷房運転を行なう場合、室外ユニット100では、第1四方弁2を、サブ圧縮機1bと室外熱交換器3とを接続するように、つまり第1四方弁2の第1口2aと第2口2bとを連通し、第3口2cと第4口2dとを連通するように切り替え、第2四方弁4を、室外熱交換器3と予膨張弁6とを接続するように、つまり第2四方弁4の第1口4aと第4口4dとを連通し、第2口4bと第3口4cとを連通するように切り替える。この状態で、主圧縮機5の運転を開始する。
【0047】
まず、低温・低圧のガス冷媒が主圧縮機5によって圧縮され、高温・高圧の超臨界状態の冷媒となって吐出される(状態[A])。主圧縮機5から吐出された超臨界状態の冷媒は、サブ圧縮機1bに流入する。サブ圧縮機1bは、予膨張弁6を通過して流入した冷媒を減圧する膨張機1aによって駆動される。つまり、サブ圧縮機1bに流入した冷媒は、膨張機1aで回収された動力に釣り合う分だけ圧縮される。サブ圧縮機1bから吐出された冷媒は、第1四方弁2の第1口2aから第2口2bを通って(状態[C])、室外熱交換器3に流入する。
【0048】
室外熱交換器3に流入した冷媒は、この室外熱交換器3で図示省略の室外送風機から供給される被加熱媒体である空気に放熱して冷却される(状態[D])。この冷媒は、室外熱交換器3から流出し、第2四方弁4の第2口4aから第3口4cを経て予膨張弁6に流入する。予膨張弁6に流入した冷媒は、この予膨張弁6で膨張機1aに流入する際の入口密度が調節される(状態[E])。予膨張弁6から流出した冷媒は、膨張機1aに流入し、減圧され(状態[F])、膨張動力が回収される。膨張機1aから流出した冷媒は、第2四方弁4の第1口4aから第4口4dを通って、室外ユニット100から流出し、室内ユニット200に流入する。このとき、バイパス弁7の開度は、サブ圧縮機1bを通過する冷媒流量と回収動力とが釣り合うように制御される。
【0049】
室内ユニット200に流入した冷媒は、室内熱交換器9に流入し、図示省略の室内送風機から供給される空気と熱交換することで、空調対象域の熱負荷を処理する(状態[B])。つまり、室内熱交換器9では、空調対象域に供給する冷房空気を作成するのである。この冷媒は、室内熱交換器9及び室内ユニット200から流出し、室外ユニット100に流入する。室外ユニット100に流入した冷媒は、第1四方弁2の第4口2dから第3口2cを通って主圧縮機5に流入する(状態[G])。このとき、圧力損失によって圧力が少し減少してから、主圧縮機5に吸入される。
【0050】
次に、冷凍サイクル装置500の暖房運転時における動作について説明する。
図8は、暖房運転時における冷媒の変遷を示すp−h線図(冷媒の圧力(縦軸)とエンタルピ(横軸)との関係を示す線図)である。図6及び図8に基づいて、冷凍サイクル装置500の暖房運転時における動作を冷媒状態の変遷に基づいて説明する。なお、図6に示す点[A]〜点[G]の冷媒状態は、それぞれ図8に示す[A]〜[G]での冷媒状態である。
【0051】
この図6では、冷房運転時と同様に、暖房運転時においても膨張機1aを利用している例を示している。ただし、暖房運転時では、冷房運転時とは異なり、膨張機ユニット1における膨張機1aの入口部とサブ圧縮機1bの入口部との冷媒の密度比が大きくなるため、通過冷媒流量と回収動力とをバランスさせるための膨張動力の回収ロスが大きくなってしまう。そこで、必要に応じて第2四方弁4を廃止して、暖房運転時においては膨張機ユニット1を利用しないようにしてもよい。
【0052】
冷凍サイクル装置500が暖房運転を行なう場合、室外ユニット100では、第1四方弁2を、サブ圧縮機1bと室内熱交換器9とを接続するように、つまり第1四方弁2の第1口2aと第4口2dとを連通し、第2口2bと第3口2cとを連通するように切り替え、第2四方弁4を、室内熱交換器9と予膨張弁6とを接続するように、つまり第2四方弁4の第1口4aと第2口4bとを連通し、第3口4cと第4口4dとを連通するように切り替える。この状態で、主圧縮機5の運転を開始する。なお、暖房運転時における冷凍サイクル装置500では、基本的な減圧機能は膨張機ユニット1の膨張機1aで実現され、減圧量が不足する場合には室内熱交換器9の出口温度が室内の負荷に応じた適切な温度となるように予膨張弁6で減圧量が調整されるようになっている。
【0053】
まず、低温・低圧のガス冷媒が主圧縮機5によって圧縮され、高温・高圧の超臨界状態の冷媒となって吐出される(状態[A])。主圧縮機5から吐出された超臨界状態の冷媒は、サブ圧縮機1bに流入する。この冷媒は、このサブ圧縮機1bで更に圧縮される。サブ圧縮機1bから流出した冷媒は、第1四方弁2の第1口2aから第4口2dを経由して、室内ユニット200に流入する(状態[B])。室内ユニット200に流入した冷媒は、室内熱交換器9に流入する。室内熱交換器9に流入した冷媒は、この室内熱交換器9で図示省略の室内送風機から供給される室内空気に放熱して冷却される(状態[F])。つまり、室内熱交換器9では、空調対象域に供給する暖房空気を作成するのである。室内熱交換器9から流出した中温・高圧の冷媒は、その後室外ユニット100に流入する。
【0054】
室外ユニット100に流入した冷媒は、第2四方弁4の第4口4dから第3口4cを経由して、予膨張弁6に流入する。この冷媒は、予膨張弁6で少し減圧される(状態[E])。予膨張弁6から流出した冷媒(状態[E])は、膨張機1aに流入し、膨張動力が回収される。膨張機1aから流出した冷媒は、第2四方弁4の第1口4aから第2口4bをを経由して(状態[D])、室外熱交換器3に流入する。室外熱交換器3に流入した冷媒は、図示省略の室外送風機から供給される空気と熱交換することで、蒸発ガス化(状態[C])する。その後、室外熱交換器3から流出したガス冷媒は、第1四方弁2の第2口2bから第3口2cを経由して、主圧縮機5に再度吸入されることになる(状態[G])。このとき、圧力損失によって圧力が少し減少してから、主圧縮機5に吸入される。
【0055】
以上のように、この実施の形態2に係る冷凍サイクル装置500においては、主圧縮機5で冷凍サイクルの圧縮過程の一部を担い、膨張機ユニット1のサブ圧縮機1bで圧縮過程の残りの一部を担うようになっている。また、サブ圧縮機1bの圧縮動力は、膨張機1aの回収動力によって賄われている。したがって、膨張機ユニット1を備えることにより、冷凍サイクル装置500のコンパクト化を実現でき、広範囲な運転条件を可能とし、信頼性が高く、高効率なものとすることができる。また、膨張機ユニット1は、バイパス逆止弁331により、サブ圧縮機1bに流入する過剰な流量分の冷媒のバイパスを自動的に行なうことができる。さらに、膨張機ユニット1は、冷媒とともに循環する潤滑油318を、常にサブ圧縮機1bのサブ圧縮吐出空間370に経由させ、気液分離するので、油分離器としての機能を兼用させることができる。
【0056】
また、膨張機ユニット1内で分離された潤滑油318が、主圧縮機5と膨張機ユニット1との間で冷凍サイクルの回路を経由することなく、主圧縮機5に直接輸送できるので、膨張機ユニット1が主圧縮機5の油分離器として機能し、冷媒中に潤滑油318が混在することによる熱交換性能の低下を抑制できるという効果を有する。また、起動時等の過渡運転時に主圧縮機5内の潤滑油318が外部に持ち出された場合にも、膨張機ユニット1から速やかに潤滑油318が戻されるので、主圧縮機5内部における摺動部等への潤滑油318不足による焼き付きを防止することを効果的に実現できる。
【0057】
図9は、膨張・圧縮機構の冷媒流量と回転数との関係を説明するための模式図である。図9に基づいて、一般的な膨張・圧縮機構の冷媒流量と回転数との関係について説明する。図9に示すように、膨張機1aによって駆動されるサブ圧縮機1bがある場合、冷媒の膨張機1aを通過する重量流量をGe、サブ圧縮機1bの通過流量をGc、膨張機1aの吸込み行程容積をVei、サブ圧縮機1bの吸込み行程容積をVcsとし、膨張機1aの入口の冷媒比容積をνei、サブ圧縮機1bの入口の冷媒比容積をνcsとすると、膨張機1a側で決まる回転数NE は、式(1)のように表される。
【0058】
【数1】

また、サブ圧縮機1b側の回転数NC は、式(2)のように表される。
【数2】

したがって、膨張機1aとサブ圧縮機1bとの回転数をマッチングさせる条件であるNE =NC から、式(3)を満たさなければならないことになる。
【数3】

【0059】
式(3)に示す膨張機1aとサブ圧縮機1bの行程容積の比σvecは、ある設計条件に対して機器のディメンジョンを決める定数となる。設計条件以外で運転する場合には、式(3)を満たすように体積流量の比(Geνei/Gcνcs)を調整する必要が生じる。サブ圧縮機1bで冷凍サイクルの圧縮過程の全てを担う場合(この場合、サブ圧縮機1bは、膨張機1aからの回収動力だけでなく別の駆動源を併用する必要がある)は、膨張機1a及びサブ圧縮機1bそれぞれの入口での比容積νei、νcsが、運転条件から決まるので、通常、バイパス弁7のようなバイパス等の手段によって重量流量Geを調整する。このとき、バイパスさせる流量は、膨張動力を回収することができない非回収流量となり、動力回収効果が低下することになるので、極力バイパス流量を抑える必要がある。
【0060】
図7に示すように、冷凍サイクル装置500の圧縮過程の一部(点G→点A)をモータ駆動の主圧縮機5で担い、圧縮過程の残りの一部(点A→点C)を回収動力駆動のサブ圧縮機1bで担う場合には、点Aでの圧力に依存してサブ圧縮機1b入口での比容積νcsが変わる。このため、点D及び点Gでの比容積が運転条件から決まっていても、回転数マッチングのためにサブ圧縮機1b入口の比容積νcsを調整することが可能となる。ただし、サブ圧縮機1bの駆動は、膨張機1aのみによって行なわれるので、圧縮動力を回収動力で賄うという動力のマッチングも必要となる。
【0061】
図7で示す点Aの圧力には下限があり、点Aでの圧力によるサブ圧縮機1b入口の比容積νcsの調整にも限界がある。したがって、膨張機1a側の動力とサブ圧縮機1b側の動力とがバランスした上で、式(3)の回転数マッチングの条件を満足させなければならない。そうすると、膨張機1a側では、膨張機1aと並列に設けたバイパス弁7等の開度を調整して冷媒をバイパスすることによって膨張機1aの通過流量Geの調整を行なうようにすることになる。
【0062】
以上のように、膨張機ユニット1のサブ圧縮機1bで冷凍サイクル装置500の圧縮過程の全てを担う場合よりも、冷凍サイクル装置500の圧縮過程の一部をモータ駆動の主圧縮機5で担い、圧縮過程の残りの一部を回収動力駆動のスクロール型の膨張機ユニット1のサブ圧縮機1bで担う場合の方が、サブ圧縮機1b入口の比容積νcsによる回転数の調整とサブ圧縮機1bでの昇圧幅による圧縮動力の調整とが併用されるので、バイパスによる回収効果の低下を抑制できる。
【0063】
なお、この実施の形態2では、サブ圧縮機1b内にバイパス逆止弁331を内蔵しており、膨張機1aが駆動され、サブ圧縮機1bに高低圧力差が生じている場合は、バイパス逆止弁331は閉止されている。一方、サブ圧縮機1bに高低圧力差が生じない起動時や冷房運転のみで膨張機ユニット1を使用する冷凍サイクル装置500の暖房運転時、その他主圧縮機5からの吐出流量よりサブ圧縮機1bの吸入流量が下回る運転時には、バイパス逆止弁331が開放され、サブ圧縮機1bに流入する冷媒のうち過剰な流量分のバイパスが自動的に行われるようになっている。
【0064】
実施の形態3.
図10は、本発明の実施の形態3に係る膨張機ユニット11の構成を示す縦断面図である。図10に基づいて、膨張機ユニット11の構成について説明する。この膨張機ユニット11は、実施の形態1に係る膨張機ユニット1と同様にスクロール型の膨張機及び圧縮機を一体としたものであり、冷媒の膨張時に発生する膨張動力を回収し、回収した膨張動力を用いて冷媒を圧縮する機能を有しているものである。なお、実施の形態1に係る膨張機ユニット1との相違点を中心に説明するものとする。
【0065】
膨張機ユニット11は、膨張機1aとサブ圧縮機1b’とで構成されている。サブ圧縮機1b’は、実施の形態1に係る膨張機ユニット1のサブ圧縮機1bと基本的には同様の構成をしているが、サブ圧縮機用固定スクロール361内部に連通路390を形成し、吐出室361gとバイパス逆止弁室361hとが連通路390で連通するようになっている。つまり、膨張機ユニット11は、バイパスポート361fからバイパス逆止弁331を経由してサブ圧縮吐出空間370に至るバイパス経路と、サブ圧縮機吐出ポート361eから吐出弁330を経てサブ圧縮吐出空間370に至る吐出経路との2つ経路を途中(連通路390)で合流させ、サブ圧縮吐出空間370に連通する出口を1箇所にしている点で実施の形態1に係る膨張機ユニット1と相違しているのである。
【0066】
図11は、サブ圧縮機1b’の構成を示す平面図である。この図11は、図10で示した膨張機ユニット11のA−A断面図を示している。ただし、図11では、軸308を省略しているものとする。図11に基づいて、サブ圧縮機1b’の渦巻361s及び渦巻362sを組み合わせた状態について詳細に説明する。このサブ圧縮機1b’は、図11に示す太破線で囲まれた領域に示すように、サブ圧縮機用固定スクロール361内部に形成した連通路390で吐出室361gとバイパス逆止弁室361hとを連通するように構成されている。
【0067】
このような構造とすることによって、実施の形態1に係る膨張機ユニット1のサブ圧縮機1bと同様のバイパス効果が得られることに加えて、バイパス経路及び吐出経路のサブ圧縮吐出空間370への開口部を1箇所にまとめているので、サブ圧縮機吐出管314との距離を離して配置することが可能となる。したがって、サブ圧縮吐出空間370を油分離空間として有効に利用することが可能になり、膨張機ユニット11による油分離効率を効果的に向上できることになる。なお、この実施の形態3に係る膨張機ユニット11は、実施の形態1に係る膨張機ユニット1と同様に実施の形態2に係る冷凍サイクル装置500に備えることが可能なものである。
【0068】
実施の形態4.
図12は、本発明の実施の形態4に係る膨張機ユニット21の構成を示す縦断面図である。図12に基づいて、膨張機ユニット21の構成について説明する。この膨張機ユニット21は、実施の形態1に係る膨張機ユニット1と同様にスクロール型の膨張機及び圧縮機を一体としたものであり、冷媒の膨張時に発生する膨張動力を回収し、回収した膨張動力を用いて冷媒を圧縮する機能を有しているものである。なお、実施の形態1に係る膨張機ユニット1及び実施の形態3に係る膨張機ユニット11との相違点を中心に説明するものとする。
【0069】
膨張機ユニット21は、膨張機1aとサブ圧縮機1b’’とで構成されている。サブ圧縮機1b’’は、実施の形態1に係る膨張機ユニット1のサブ圧縮機1bと基本的には同様の構成をしているが、バイパスポート361f(バイパスポート361fa及びバイパスポート361fb)が吸入室374に連通しているのではなく、サブ圧縮室363に連通するようになっている。また、実施の形態3に係る膨張機ユニット11のように、バイパスポート361fからバイパス逆止弁331を経由してサブ圧縮吐出空間370に至るバイパス経路と、サブ圧縮機吐出ポート361eから吐出弁330を経てサブ圧縮吐出空間370に至る吐出経路との2つ経路を途中(連通路390)で合流させ、サブ圧縮吐出空間370に連通する出口を1箇所にしている。
【0070】
図13は、サブ圧縮機1b’’の構成を示す平面図である。この図13は、図12で示した膨張機ユニット21のA−A断面図を示している。ただし、図13では、軸308を省略しているものとする。図13に基づいて、サブ圧縮機1b’’の渦巻361s及び渦巻362sを組み合わせた状態について詳細に説明する。サブ圧縮室363は、軸308の回転とともにサブ圧縮機用揺動スクロール362が回転運動することによって、2つの最外周圧縮室と1つの最内周圧縮室とが形成され、サブ圧縮室363の容積を徐々に減じて連続的な圧縮を行なうようになっている。
【0071】
このサブ圧縮機1b’’では、2つのバイパスポート(バイパスポート361fa及びバイパスポート361fb)がそれぞれサブ圧縮機用揺動スクロール362の渦巻362s及びサブ圧縮機用固定スクロール361の渦巻361sの先端に設けられているチップシール364に干渉しない流路断面形状で、圧縮に寄与するサブ圧縮機用固定スクロール361の内向面側渦巻開始点と外向面側渦巻開始点とから360度だけ内側に進んだ位置に台板361aを貫通するように形成されている。
【0072】
このような構造とすることによって、バイパスポート361fa及びバイパスポート361fbが圧縮行程開始直後から常に最外周圧縮室に開口するので、無駄な圧縮動力を発生させずに冷媒ガスをバイパスすることができるというバイパス効果が得られる。また、バイパスする冷媒ガスがサブ圧縮室363を通過するので、冷媒ガスとともに循環する潤滑油318により隙間シール及び渦巻摺動部を潤滑することができ、起動バイパス運転時の動力損失が小さくなり、起動応答性を効果的に向上できることになる。
【0073】
なお、この実施の形態4では、バイパスポート361fa及びバイパスポート361fbを2つの最外周圧縮室にそれぞれ一箇所ずつ、圧縮に寄与するサブ圧縮機用固定スクロール361の渦巻361s端から内側に360度だけ進んだ位置に設けたが、バイパスポート361fの形成個数を特に限定するものではなく、更に別の位置に複数のバイパスポート361fを設けてもよい。そのようにすれば、サブ圧縮機1b’’のバイパス機能を更に向上できることになる。また、この実施の形態4に係る膨張機ユニット21は、実施の形態1に係る膨張機ユニット1と同様に実施の形態2に係る冷凍サイクル装置500に備えることが可能なものである。
【0074】
実施の形態1、実施の形態3及び実施の形態4においては、図12に示すようにサブ圧縮吐出空間370内に油分離効果促進のための遮蔽板381等を設けてもよい。このような遮蔽板381をサブ圧縮吐出空間370内に設けておけば、膨張機ユニットによる油分離効率を更に向上することができる。また、冷媒に二酸化炭素を使用した場合を例に説明したが、冷媒の種類を二酸化炭素に限定するものではない。臨界状態となる冷媒であればその他の冷媒でもよい。超臨界状態となる冷媒としては、たとえば二酸化炭素とエーテル(たとえば、ジメチルエーテルやハイドロフルオロエーテル等)とから構成される混合冷媒等がある。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】実施の形態1に係る膨張機ユニットの構成を示す縦断面図である。
【図2】サブ圧縮機の構成を示す平面図である。
【図3】高低圧力差ありの場合のサブ圧縮機における冷媒ガス及び潤滑油の流れを説明するための縦断面図である。
【図4】高低圧力差なしの場合のサブ圧縮機における冷媒ガス及び潤滑油の流れの一例を説明するための縦断面図である。
【図5】高低圧力差なしの場合のサブ圧縮機における冷媒ガス及び潤滑油の流れの他の一例を説明するための縦断面図である。
【図6】実施の形態2に係る冷凍サイクル装置の回路構成を模式的に示す回路図である。
【図7】冷房運転時における冷媒の変遷を示すp−h線図である。
【図8】暖房運転時における冷媒の変遷を示すp−h線図である。
【図9】膨張・圧縮機構の冷媒流量と回転数との関係を説明するための模式図である。
【図10】実施の形態3に係る膨張機ユニットの構成を示す縦断面図である。
【図11】サブ圧縮機の構成を示す平面図である。
【図12】実施の形態4に係る膨張機ユニットの構成を示す縦断面図である。
【図13】サブ圧縮機の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0076】
1 膨張機ユニット、1a 膨張機、1b サブ圧縮機、1b’サブ圧縮機、1b’’ サブ圧縮機、2 第1四方弁、2a 第1口、2b 第2口、2c 第3口、2d 第4口、3 室外熱交換器、4 第2四方弁、4a 第1口、4b 第2口、4c 第3口、4d 第4口、5 主圧縮機、6 予膨張弁、7 バイパス弁、9 室内熱交換器、11 膨張機ユニット、21 膨張機ユニット、100 室外ユニット、200 室内ユニット、306 給油ポンプ、307 オルダムリング、308 軸、308b クランク部、308c 給油孔、309a バランスウェイト、309b バランスウェイト、310 密閉容器、312 サブ圧縮機吸入管、313 膨張機吸入管、314 サブ圧縮機吐出管、315 膨張機吐出管、317 油戻し孔、318 潤滑油、330 吐出弁、331 バイパス逆止弁、351 膨張機用固定スクロール、351a 台板、351b 膨張機構側軸受け部、351d 膨張機吸入ポート、351s 渦巻、352 膨張機用揺動スクロール、352a 台板、352s 渦巻、353 膨張室、354 チップシール、361 サブ圧縮機用固定スクロール、361a 台板、361b サブ圧縮機構側軸受け部、361d サブ圧縮機吸入ポート、361e サブ圧縮機吐出ポート、361f バイパスポート、361fa バイパスポート、361fb バイパスポート、361g 吐出室、361h バイパス逆止弁室、361s 渦巻、362 サブ圧縮機用揺動スクロール、362a 台板、362s 渦巻、363 サブ圧縮室、364 チップシール、365 外周シール、370 サブ圧縮吐出空間、371 揺動スクロール運動空間、372 油溜め空間、374 吸入室、380 油配管、381 遮蔽板、390 連通路、500 冷凍サイクル装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の減圧時の膨張動力を回収する膨張機及びその膨張動力を用いて冷媒を圧縮するサブ圧縮機を密閉容器に収容し、前記サブ圧縮機に供給する冷媒を吸入するサブ圧縮機吸入管及び前記サブ圧縮機で圧縮された冷媒を吐出するサブ圧縮機吐出管を前記密閉容器内部に連通させた膨張機ユニットであって、
前記サブ圧縮機内に形成され、冷媒を圧縮するサブ圧縮室と、
前記サブ圧縮機内に形成され、前記サブ圧縮機吸入管から前記サブ圧縮室に至るまでの吸入室と、
前記サブ圧縮室に連通し、前記サブ圧縮室で圧縮された冷媒を吐出するサブ圧縮機吐出ポートと、
前記サブ圧縮機内に形成され、前記サブ圧縮機吐出ポートから冷媒が吐出される吐出室と、
前記密閉容器内に備えられ、前記吐出室からの冷媒が通過するサブ圧縮吐出空間と、
前記密閉容器内に形成され、潤滑油を蓄える油溜め空間と、
前記サブ圧縮機及び前記膨張機を貫通し、前記サブ圧縮吐出空間と前記油溜め空間とを連通する油戻し孔と、
前記密閉容器内に備えられ、前記吸入室又は前記サブ圧縮室の少なくとも一方と前記サブ圧縮吐出空間とを連通させるバイパスポートと、
前記密閉容器内に備えられ、前記バイパスポートを開閉するバイパス用開閉弁と、を有する
ことを特徴とする膨張機ユニット。
【請求項2】
前記バイパスポートから前記サブ圧縮吐出空間に至る経路と、前記吐出室から前記サブ圧縮吐出空間に至る経路と、がそれぞれ独立して前記サブ圧縮吐出空間に連通している
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張機ユニット。
【請求項3】
前記バイパスポートから前記サブ圧縮吐出空間に至る経路と、前記吐出室から前記サブ圧縮吐出空間に至る経路と、が合流して前記サブ圧縮吐出空間に連通している
ことを特徴とする請求項1に記載の膨張機ユニット。
【請求項4】
前記バイパス用開閉弁を逆止弁で構成している
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の膨張機ユニット。
【請求項5】
前記膨張機及び前記サブ圧縮機のどちらもがスクロール型である
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の膨張機ユニット。
【請求項6】
前記サブ圧縮機は、
サブ圧縮機用揺動スクロール及びサブ圧縮機用固定スクロールを有し、
前記膨張機は、
膨張機用揺動スクロール及び膨張機用固定スクロールを有し、
前記サブ圧縮機用揺動スクロールと前記膨張機用揺動スクロールとは、背面合わせ構造又は台板を共有して一体型に構成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の膨張機ユニット。
【請求項7】
前記サブ圧縮機用揺動スクロール及び前記膨張機用揺動スクロールを回転駆動させる軸がそれらの中央部を上下方向に貫通しており、
前記軸の内部には、給油孔が形成され、
前記軸の下端には、前記油溜め空間に貯留されている潤滑油を汲み上げるための給油ポンプが装着されている
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の膨張機ユニット。
【請求項8】
前記請求項1〜7のいずれか一項に記載の膨張機ユニットと、主圧縮機と、室外熱交換器と、室内熱交換器と、を有し、
前記主圧縮機、前記膨張機ユニットを構成しているサブ圧縮機、前記室外熱交換器、前記膨張機ユニットを構成している前記膨張機、前記室内熱交換器を冷房運転時において直列となるように接続している
ことを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項9】
冷媒として、高圧側において超臨界状態となるものを用いる
ことを特徴とする請求項8に記載の冷凍サイクル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−43556(P2010−43556A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−206382(P2008−206382)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】