自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置
【課題】2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで変速の実行を制御する変速制御装置を提供する。
【解決手段】本発明による変速制御装置100は、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで変速の実行を制御する装置であり、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行する際に、現在の車両の走行状態を判定する走行状態判定部102と、現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更するシフト待機線変更部103とを備える。
【解決手段】本発明による変速制御装置100は、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで変速の実行を制御する装置であり、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行する際に、現在の車両の走行状態を判定する走行状態判定部102と、現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更するシフト待機線変更部103とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの発進クラッチを掛け替えることで変速が実行される自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置としては、変速マップ内の変速線(即ち、アップシフト線及びダウンシフト線)に基づき自動マニュアルトランスミッションの変速を実行する際に、プリシフトマップ内の待機線(即ち、アップシフト待機線とダウンシフト待機線)に基づきプリシフトを実行するが、このアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態を問わず固定値とするものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態を問わず固定値とする技術では、変速の指令に対して変速動作が遅れる場合がある。例えば、車両の走行状態によっては変速の指令(アップシフト線、ダウンシフト線を横切るような加減速要求の場合など)時であっても、プリシフト(アップシフト待機状態、ダウンシフト待機状態)が未完了であると、変速の指令通りの変速動作が直ちに開始されず遅れが生じる。例えば直ちにダウンシフトすべき状況(例えばダウンシフト線を横切った状態の場合)にも関わらず、自動マニュアルトランスミッションの同期噛合機構がアップシフト待機状態であったり、ダウンシフト待機状態への移行中であったりすると、ダウンシフト指示要求通りにダウンシフト動作が直ちに開始されず遅れが生じる。また、このことは、アップシフトの場合も同様である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき車両の変速を実行する際に、このアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態に応じて可変とするようにした。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による実施例の変速制御装置を適用可能な自動マニュアルトランスミッションを例示するツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの概略図である。
【図2】ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの基本的な変速動作状態を示す図である。
【図3】本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の概略図である。
【図4】本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】(a)は従来技術における自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる固定のマップを示す概略図であり、(b)は本発明による一実施例の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる現在の走行状態に対応する複数のマップを示す概略図である。
【図6】(a)は従来技術におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(b)は従来技術におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転する状態を示す図であり、(c)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(d)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転することなく維持される状態を示す図である。
【図7】本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明による実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明による実施例4の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】(a)は従来技術におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(b)は従来技術におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転する状態を示す図であり、(c)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(d)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転することなく維持される状態を示す図である。
【図11】(a)は加減速度が第1所定値を閾値として低減速側及び高減速側間をハンチングしうる状態を示す図であり、(b)はハンチング状態を示す図であり、(c)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例1を示す図であり、(d)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明の理解を容易にするために、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションの変速機構について説明する。
【0009】
[自動マニュアルトランスミッション]
図1は、本発明による後述する各実施例の変速制御装置を適用可能な、自動マニュアルトランスミッションを例示するツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの概略図である。
【0010】
エンジン1の出力軸(クランクシャフト2)を、奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用の自動湿式回転クラッチ(以下、「奇数段用クラッチ」)C1、及び、偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用の自動湿式回転クラッチ(以下、「偶数段用クラッチ」)C2の共通な自動クラッチドラム3に駆動結合する。ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションは、奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用の第1入力軸4、及び、偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用の第2入力軸5を備え、これら第1入力軸4及び第2入力軸5をそれぞれ、個々の自動クラッチC1,C2によりエンジン出力軸のクランクシャフト2に結合可能とする。
【0011】
ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションは更に出力軸6を備え、これを第1入力軸4及び第2入力軸5に同軸に配置し、出力軸6は図示しないプロペラシャフトやディファレンシャルギヤ装置を介して左右駆動車輪に結合する。
【0012】
以下、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの歯車変速機構を詳述する。奇数変速段クラッチC1及び偶数変速段クラッチC2を介してエンジン回転が選択的に入力される第1入力軸4及び第2入力軸5のうち第2入力軸5は中空とし、これに第1入力軸4を貫通させることで、第1入力軸4及び第2入力軸5は互いに相対回転可能に配置される。
【0013】
上記のごとく相互に回転可能な第1入力軸4及び第2入力軸5のエンジン側前端をそれぞれ、自動クラッチC1,C2のクラッチハブ7,8に結合する。これに対し、第1入力軸4の後端部は、第2入力軸5の後端から突出した後端延長部を構成する。第1入力軸4、第2入力軸5、及び出力軸6に対してオフセットした位置にはカウンターシャフト10が設けられている。
【0014】
カウンターシャフト10の後端にはカウンターギヤ11が一体に設けられ、これと噛み合う出力歯車12が設けられ、出力軸6と一体に設けられている。これにより、カウンターギヤ11及び出力歯車12を介してカウンターシャフト10と出力軸6とは駆動結合される。
【0015】
第1入力軸4の後端延長部とカウンターシャフト10との間には奇数変速段(第1速、第3速、第5速)グループの歯車組G1,G3,G5、及び後退変速段の歯車組GRが設けられている。これらはエンジン1に近いフロント側から、第1速歯車組G1、後退歯車組GR、第5速歯車組G5及び第3速歯車組G3の順に配置されている。
【0016】
第1速歯車組G1は、第1入力軸4の後端延長部に一体に設けた第1速入力歯車13と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第1速出力歯車14とを相互に噛合させることで構成されている。
【0017】
後退歯車組GRは、第1入力軸4の後端延長部に一体に設けた後退入力歯車15と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた後退出力歯車16と、これら歯車15,16に噛合してこれら歯車15,16間を駆動結合するリバースアイドラギヤ17とで構成し、リバースアイドラギヤ17を、変速機ケースに設けたリバースアイドラ軸18により回転可能に支持する。
【0018】
第3速歯車組G3は、第1入力軸4の後端延長部に回転可能に設けた第3速入力歯車19と、カウンターシャフト10に一体に設けた第3速出力歯車20とを相互に噛合させることで構成させている。第5速歯車組G5は、第1入力軸4の後端延長部に回転可能に設けた第5速入力歯車31と、カウンターシャフト10に駆動結合して設けた第5速出力歯車32とを相互に噛合させることで構成させている。
【0019】
カウンターシャフト10には更に、第1速出力歯車14及び後退出力歯車16間に配して第1速−後退用同期噛合機構(選択噛合機構)21が設けられている。この第1速−後退用同期噛合機構(選択噛合機構)21は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ21aを図示の中立位置から第1速出力歯車14側に移動(左行)させて第1速出力歯車14に一体に設けた自動クラッチギヤ21bに噛合させると、第1速出力歯車14がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第1速を選択する。これに対し、カップリングスリーブ21aを図示の中立位置から後退出力歯車16側に移動(右行)させて後退出力歯車16に一体に設けた自動クラッチギヤ21cに噛合させると、後退出力歯車16がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく後退を選択する。
【0020】
第1入力軸4の後端延長部には更に、第3速入力歯車19及び第5速入力歯車31間に第3速−第5速用同期噛合機構(選択噛合機構)22が設けられている。この第3速−第5速用同期噛合機構(選択噛合機構)22は、第1入力軸4(その後端延長部)と共に回転するカップリングスリーブ22aを図示の中立位置から第3速入力歯車19側に移動(右行)させて第3速入力歯車19に一体に設けた自動クラッチギヤ22bに噛合させると、第3速入力歯車19が第1入力軸4に駆動結合されることで後述するごとく第3速を選択する。これに対し、カップリングスリーブ22aを図示の中立位置から第5速入力歯車31側に移動(左行)させて第5速入力歯車31に一体に設けられた自動クラッチギヤ22cに噛合させると、第5速入力歯車31が第1入力軸4に駆動結合されることで後述するごとく第5速を選択する。
【0021】
中空の第2入力軸5とカウンターシャフト10との間には、偶数変速段(第2速、第4速、第6速)グループの歯車組が、エンジンに近いフロント側から順次、第6速歯車組G6、第2速歯車組G2、及び第4速歯車組G4を配置されている。第6速歯車組G6は第2入力軸5の前部に配置し、第4速歯車組G4は第2入力軸5の後端に配置されている。また、第2速歯車組G2は、第2入力軸5上の第6速歯車組G6及び第4速歯車組G4間に配置されている。
【0022】
第6速歯車組G6は、第2入力軸5の外周に一体に設けた第6速入力歯車23と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第6速出力歯車24とを相互に噛合させることで構成されている。第2速歯車組G2は、第2入力軸5の外周に一体に設けた第2速入力歯車25と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第2速出力歯車26とを相互に噛合させることで構成されている。第4速歯車組G4は、第2入力軸5の外周に一体に設けた第4速入力歯車27と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第4速出力歯車28とを相互に噛合させることで構成されている。
【0023】
カウンターシャフト10には更に、第6速出力歯車24及び第2速出力歯車26間に第6速専用の同期噛合機構(選択噛合機構)29が設けられている。この第6速専用同期噛合機構(選択噛合機構)29は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ29aを図示の中立位置から第6速出力歯車24側に移動(左行)させて第6速出力歯車24に一体に設けた自動クラッチギヤ29bに噛合させると、第6速出力歯車24がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第6速を選択する。またカウンターシャフト10には、第2速出力歯車26及び第4速出力歯車28間に第2速−第4速用同期噛合機構(選択噛合機構)30が設けられている。この第2速−第4速用同期噛合機構(選択噛合機構)30は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ30aを図示の中立位置から第2速出力歯車26側に移動(左行)させて第2速出力歯車26に一体に設けられた自動クラッチギヤ30bに噛合させると、第2速出力歯車26がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第2速を選択する。これに対し、カップリングスリーブ30aを図示の中立位置から第4速出力歯車28側に移動(右行)させて第4速出力歯車28に一体に設けられた自動クラッチギヤ30cに噛合させると、第4速出力歯車28がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第4速を選択する。
【0024】
次に、上記の実施例になるツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの自動変速作用を説明する。
【0025】
(非走行レンジ)
中立(N)レンジや駐車(P)レンジのような動力伝達を希望しない非走行レンジが選択されたときは、奇数段用クラッチC1及び偶数段用クラッチC2の双方を解放するとともに、同期噛合機構21,22,29,30のカップリングスリーブ21a,22a,29a,30aを全て図示の中立位置にすることで、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションを動力伝達が行われない中立状態にする。特に、駐車(P)レンジにあっては更に、パークロック装置により変速機出力軸6を機械的に回転不能にロックする。
【0026】
(走行レンジ)
前進動力伝達を希望するDレンジや、後退動力伝達を希望するRレンジのような走行レンジが選択されたときは、エンジン1で駆動されるオイルポンプO/P(図1参照)からの作動油を媒体とし、以下のごとくに同期噛合機構21,22,29,30のカップリングスリーブ21a,22a,29a,30aをシフト動作させると共に、自動クラッチC1,C2を締結・解放制御することにより、各前進変速段や、後退変速段を選択することができる。
【0027】
(Dレンジ、第1速)
Dレンジのような前進走行レンジで第1速を希望する場合、同期噛合機構21のカップリングスリーブ21aを左行させて歯車14をカウンターシャフト10に駆動結合し、これによる奇数変速段グループの第1速へのプリシフト後、非走行レンジで解放状態だった自動湿式回転クラッチC1を締結する。これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第1速歯車組G1、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第1速での動力伝達が可能になる。
【0028】
尚、上記第1速の選択が発進を意図する用のものである時は、自動クラッチC1の締結に際し、スリップ制御を併用すること(スリップ締結制御)により、発進ショックのない滑らかな前発進を行わせることができる。またNレンジからDレンジヘのセレクト操作に呼応して上記第1速の選択を行う場合は、上記奇数変速段グループの第1速へのプリシフトと同時に、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを左行させて歯車26をカウンターシャフト10に駆動結合し、これにより偶数変速段グループの第2速へのプリシフトも済ませておく。しかしながら、自動クラッチC2が非走行レンジでの解放状態を継続するため、第2速の選択が行われることはない。
【0029】
(Dレンジ、第2速)
第1速から第2速へのアップシフトに際しては、N→Dセレクト時に上記のごとく偶数変速段グループが第2速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、非走行レンジで解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第1速から第2速へのアップシフトを行わせることができる。これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第2速歯車組G2、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第2速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第1速→第2速の変速が終わったら、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを右行させて歯車19を第1入力軸4に駆動結合する。これにより、奇数変速段グループの第1速→第3速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0030】
(Dレンジ、第3速)
第2速から第3速へのアップシフトに際しては、第1速→第2速のアップシフト時に上記のごとく奇数変速段グループが第3速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC2を解放させつつ、第2速で解放状態だった自動クラッチC1を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第2速から第3速へのアップシフトを行わせることができる。これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第3速歯車組G3、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第3速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第2速→第3速の変速が終わったら、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを中立位置に戻して歯車26をカウンターシャフト10から切り離すと共に、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを右行させて歯車28をカウンターシャフト10に駆動結合する。これにより偶数変速段グループの第2速→第4速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0031】
(Dレンジ、第4速)
第3速から第4速へのアップシフトに際しては、第2速→第3速のアップシフト時に上記のごとく偶数変速段グループが第4速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、第3速で解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第3速から第4速へのアップシフトを行わせることができる。これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第4速歯車組G4、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第4速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第3速→第4速の変速が終わったら、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを中立位置に戻して歯車19を第1入力軸4から切り離すと共に、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを左行させて歯車31を第1入力軸4に結合する。これにより奇数変速段グループの第3速→第5速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0032】
(Dレンジ、第5速)
第4速から第5速へのアップシフトに際しては、第3速→第4速のアップシフト時に上記のごとく奇数変速段グループが第5速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC2を解放させつつ、第4速で解放状態だった自動クラッチC1を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第4速から第5速へのアップシフトを行わせる。これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第5速歯車組G5、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第5速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第4速→第5速の変速が終わったら、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを中立位置に戻して歯車28をカウンターシャフト10から切り離すと共に、同期噛合機構29のカップリングスリーブ29aを左行させて歯車24をカウンターシャフト10に駆動結合する。これにより偶数変速段グループの第4速→第6速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0033】
(Dレンジ、第6速)
第5速から第6速へのアップシフトに際しては、第4速→第5速のアップシフト時に上記のごとく偶数変速段グループが第6速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、第5速で解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第5速から第6速へのアップシフトを行わせる。これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第6速歯車組G6、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より軸線方向に出力されるため、第6速での動力伝達が可能になる。かかる第5速→第6速の変速後の変速はダウンシフトしか存在せず、奇数変速段グループを直下の第5速ヘプリシフトされた状態にすべきであるから、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを第5速選択時と同じ左行位置に保って歯車31を第1入力軸4に結合させたままとする。
【0034】
尚、第6速から順次第1速へとダウンシフトさせるに際しても、上記アップシフトと逆の変速制御を行うことにより、前述と逆方向のプリシフト及び自動クラッチC1,C2の締結・解放制御を介して所定のダウンシフトを行わせることができる。
【0035】
(Rレンジ)
後退走行を希望して非走行レンジからRレンジに切り替えた場合においては、先ず同期噛合機構21のカップリングスリーブ21aを中立位置から移動させて歯車16をカウンターシャフト10に駆動結合する。これにより奇数変速段グループの後退変速段へのプリシフトが行われる。次いで、非走行レンジで解放状態であった自動湿式回転クラッチC1を締結すると、自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、後退歯車組GR、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力される。この際、後退歯車組GRにより回転方向を逆にされることから、後退変速段での動力伝達を行うことができる。尚、後退変速段での発進時も、自動クラッチC1に対してスリップ締結制御を行うことにより、発進ショックのない滑らかな後発進を行わせることができる。
【0036】
このようなツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションでは、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき自動マニュアルトランスミッションの変速を実行する必要があり、プリシフト動作及び変速動作について以下詳細に説明する。
【0037】
[プリシフト動作及び変速動作]
図2は、図1に示すツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの基本的な変速動作状態を示す図である。図2を参照して、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの基本的な変速動作例について簡潔に説明する。
【0038】
<第3速→第4速のアップシフト(アクセル開度一定で車速が上昇し、運転点がaからeに変化する場合)>
運転点a:第3速の走行状態にある。第3速−第5速用同期噛合機構22が第3速係合状態で、奇数クラッチC1が締結状態にある。第2速―第4速用同期噛合機構30は、第2速係合状態にある(第3速へのアップシフト前は第2速状態であり、第2速係合状態のままである)。偶数クラッチC2は解放状態にある。
運転点b:上記運転点aと同じ状態にある。
運転点c:上記運転点aと同じ状態にある。
運転点c→d:第2速−第4速用同期噛合機構30が第2速係合状態から第4速係合状態へと移行する状態にある(変速制御装置は、車側がアップシフト待機線を横切るため、現在の第3速に対してアップシフト待機、即ち第4速で待機させる変速指令を出力する)。
運転点d:第2速−第4速用同期噛合機構30は第4速係合状態にある。その他は上記運転点aと同じ状態にある。
運転点d→e:第3速から第4速へのアップシフトを開始する(変速制御装置は、アップシフト線を横切るため、奇数クラッチC1を解放すると共に偶数クラッチC2を締結して変速を実行する)。
運転点e:第4速で走行状態にある。第2速−第4速用同期噛合機構30は第4速係合状態で偶数クラッチC2を締結状態にする。第3速−第5速用同期噛合機構22は第3速係合状態にある。奇数クラッチC1は解放状態にある。
【0039】
<第3速→第2速のダウンシフト(アクセル開度=0で車速が減少し、運転点がfからiに変化する場合)>
運転点f:第3速の走行状態にある。第3速−第5速用同期噛合機構22が第3速係合状態で、奇数クラッチC1が締結状態にある。第2速−第4速用同期噛合機構30は、第4速係合状態にある(第3速へのダウンシフト前は第4速状態であり、第4速係合状態のままである)。偶数クラッチC2は解放状態にある。
運転点g:上記運転点fと同じ状態にある。
運転点h:上記運転点fと同じ状態にある。
運転点h→i:第2速−第4速用同期噛合機構30が第4速係合状態から第2速係合状態へと移行する状態にある(変速制御装置は、車側がダウンシフト待機線を横切るため、現在の第3速に対してダウンシフト待機、即ち第2速で待機させる変速指令を出力する)。
運転点i:第2速−第4速用同期噛合機構30は第2速係合状態にある。その他は上記運転点fと同じ状態にある。
運転点i→j:第3速から第2速へのダウンシフトを開始する(変速制御装置は、車側がダウンシフト線を横切るため、奇数クラッチC1を解放すると共に偶数クラッチC2を締結して変速を実行する)。
運転点j:第2速で走行状態にある。第2速−第4速用同期噛合機構30は第2速係合状態で偶数クラッチC2を締結状態にする。第3速−第5速用同期噛合機構22は第3速係合状態にある。奇数クラッチC1は解放状態にある。
【0040】
以下、本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例1】
【0041】
[実施例1の変速制御装置]
図3は、本発明による一実施例の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の概略図である。図4は、本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例1の変速制御装置100は、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッション(自動変速モード又はマニュアル変速モードを有する)で、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行するための制御信号を発生する装置である。実施例1の変速制御装置100は、変速指示解析部101と、走行状態判定部102と、シフト待機線変更部103(シフト待機線保持部103aとシフト待機線選択部103bとを有する)と、制御信号発生部104とを備える。
【0042】
図1及び図2を参照して、実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0043】
変速指示解析部101は、変速指示要求を受け付けると、変速指示要求に係るアップシフト線及びダウンシフト線の車速方向の変更量を解析し、解析した変速線の変更量の情報に基づいてアップシフト線及びダウンシフト線の変速マップを設定する(ステップS1)。
【0044】
走行状態判定部102は、現在の車両の走行状態を判定して、現在の車両の走行状態の情報をシフト待機線変更部103に送出する(ステップS2)。
【0045】
シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS3)。例えば、シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、シフト待機線保持部103aに予め保持されている、走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、シフト待機線選択部103bで選択することにより、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線へとプリシフト用マップを変更する。
【0046】
制御信号発生部104は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS4)。
【0047】
図5(a)は従来技術における自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる固定のマップを示す概略図であり、図5(b)は本発明による一実施例の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる現在の走行状態に対応する複数のマップを示す概略図である。従来技術では、図5(a)に示すように、固定された単独のマップM0を変速制御用のマップとして用いていたにすぎない。
これに対し、本実施例の変速制御装置100は、シフト待機線変更部103が、現在の車両の走行状態に応じて、現在の走行状態に対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを複数のマップから選択する。例えば、第1マップM1にはエコモード(燃費性能を重視したモード)に応じた待機線が設定され、第2マップM2にはノーマルモード(通常走行性能を重視したモード)に応じた待機線が設定され、第3マップM3にはスポーティモード(応答性能を重視したモード)に応じた待機線が設定され、第4マップM4には減速時用の待機線が設定され、第5マップM5には加速時用の待機線が設定されている。シフト待機線変更部103は、複数のマップの中から現在の走行状態に応じたマップを選択することで待機線の設定を変更する。マップは、上記5つに限られず、他のモードを設定することができる(例えば、第6マップM6等)。
【0048】
尚、走行状態ごとのアップシフト待機線及びダウンシフト待機線は、必ずしも全て個別に用意する必要はなく、待機線が同一値であれば併用することもできる。例えば、エコモード用マップM1と加速時用マップM5とを同一の待機線となるよう設定し、スポーティモード用マップM3と減速時用マップM4とを同一の待機線となるよう設定することができる。
【0049】
また、変速制御装置100を中央演算処理装置(CPU)で構成する場合には、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線、並びにアップシフト線及びダウンシフト線の設定及び変更は、予め用意した記憶部(図示せず)にあるマップを読み出して、所定のレジスタ(図示せず)に設定することで実現することもできる。この場合、変速制御装置100の各機能を実現するための制御プログラムも、当該記憶部に格納することができる。
【0050】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を判断し、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する際に、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変にして変速制御を実行する。
【0051】
本実施例の変速制御装置100によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0052】
ここで、従来技術と本実施例の変速制御装置との動作比較を図6に示す。図6を参照して従来技術と本実施例の変速制御装置とを比較するに、従来技術及び本実施例の変速制御装置1ともに、ダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている(図6(a)、図6(c)参照)。これはキックダウン時や車速低下によるダウンシフトの実行前にダウン待機状態とするためである。また、アップシフト待機線はアップシフト線より低車速側に設定される(図6(a)、図6(c)参照)。これは車速上昇によりアップシフトの実行前にアップシフト待機状態とするためである。
【0053】
一方、例えばASC(アダプティブ・シフト・コントロール)制御で、ダウンシフト線が高車速化したとする。従来技術では、走行状態として高車速化に応じて、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)のみが高車速側に設定される (図6(b)参照)。しかしながら、従来技術では待機線が固定値であるため、図6(b)に示すように、ダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転することもありうる。
【0054】
このようにダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転すると、キックダウン時や車速低下時にダウンシフト待機線より先にダウンシフト線をまたぐことになり、ダウンシフトの実行前に直ちにダウンシフト待機状態とならない。このため、ダウンシフト待機状態となるよう変速の指令を出力し、ダウンシフト待機状態となってからダウンシフトを実行することになる。即ち、ダウンシフトしたくともプリシフトが行われていないのでダウンシフトのレスポンスが遅くなってしまう。
【0055】
これに対し、実施例1の変速制御装置1では、現在の走行状態に応じて、待機線を変更する(図6(d)参照)。
【0056】
これにより、実施例1の変速制御装置1では、ダウンシフト線より先にダウンシフト待機線をまたぐこととなり、ダウンシフト指示要求前にダウンシフト待機状態とすることができる。即ち、ダウンシフトする前にプリシフトが行われているのでダウンシフトのレスポンスに遅れを生じることがない。
【0057】
従って、本実施例の変速制御装置1によれば、変速指示要求に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0058】
次に、本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例2】
【0059】
[実施例2の変速制御装置]
図7は、本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例2の変速制御装置100は、図1に示す実施例1と同様の構成で実現することができる。特に、実施例2の変速制御装置100は、走行状態として、例えば3段階の走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモード)を対象とする。走行状態判定部102と、シフト待機線変更部103(シフト待機線保持部103aとシフト待機線選択部103b)が、走行状態として、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)に応じて動作する。
【0060】
図7を参照して、実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0061】
変速指示解析部101及び走行状態判定部102は、図4の制御フローと同様に、それぞれ変速線の変更量を解析するステップS11)と共に、現在の車両の走行状態としての走行モードを判定する(ステップS12)。
【0062】
シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行モードに応じて、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定するように、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS13)。
【0063】
例えば、シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行モードに応じて、シフト待機線保持部103aに予め保持されている、走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線について変更する。具体例としては、シフト待機線選択部103bにより、車両の走行状態がスポーティモードである場合には高車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択することにより、現在の走行状態に応じたアップシフト待機線及びダウンシフト待機線へとプリシフト用マップを変更する。
【0064】
制御信号発生部106は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS14)。
【0065】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断し、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定して、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する。これにより、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変として変速制御する。
【0066】
実施例2の変速制御装置100によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0067】
特に、車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断し、現在の車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、現在の車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定することで以下のような効果を奏する。
【0068】
従来技術では、前述した図6(b)に例示したように、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)が切り替えられると、エコモードからノーマルモードとなるほど、さらにノーマルモードからスポーティモードとなるほど、変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線が高車速側に設定されるが、プリシフトマップ内のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線は固定値としているため、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)と待機線(アップシフト待機線及びダウンシフト待機線)との位置関係が逆転することもありうる。
【0069】
このように変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)と待機線(アップシフト待機線及びダウンシフト待機線)との位置が逆転すると、例えば車速が減少してダウンシフトする際、ダウンシフト待機状態となる指令が出力される(ダウンシフト待機線を横切る)前にダウンシフトの指令が出力される(ダウンシフト線を横切る)が、図1を用いて説明した各同期噛合機構がアップシフト待機状態であることから、変速の指令通り変速動作を開始することができず、変速の指令に対する変速動作の開始が遅れる(ダウンシフトの指令時にダウンシフト待機状態となるよう変速の指令を出力し、ダウンシフト待機状態となってからダウンシフトを実行することになる)。
【0070】
また、アップシフトについても同様の間題が生じる(例えば、走行モードがノーマルモードからエコモードに切り替えられると、アップシフト線とアップシフト待機線との位置が逆転することもありうる)。
【0071】
そこで、実施例2の変速制御装置100によれば、車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断し、車両の走行状態がスポーティモードであるとき、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードであるとき、低車速側に設定する。これにより、走行モード切り替えにより変速線が設定変更されても、変速線にあわせて待機線も設定変更するため、変速動作を指令する制御信号が出力される前に待機状態とさせることができ、上述した変速動作が遅れることを防止することができる。
【0072】
次に、本発明による実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例3】
【0073】
[実施例3の変速制御装置]
図8は、本発明による実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例3の変速制御装置100は、図1に示す実施例1又は実施例2と同様の構成で実現することができる。特に、実施例3の変速制御装置100は、走行状態判定部102と、シフト待機線変更部103(シフト待機線保持部103aとシフト待機線選択部103b)が、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)に応じて動作するとともに、シフト待機線変更部103が、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更するように動作する。
【0074】
図8を参照して、実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0075】
変速指示解析部101及び走行状態判定部102は、図4の制御フローと同様に、それぞれ変速線の変更量を解析する(ステップS21)と共に、現在の車両の走行状態としての走行モード判定する(ステップS22)。
【0076】
シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更して、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS23)。
【0077】
例えば、シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、シフト待機線保持部103aに予め保持されている、走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線について、車両の走行状態がスポーティモードである場合には高車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択して変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更して設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線をシフト待機線選択部103bで選択して変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更して設定する。これにより、現在の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線へとプリシフト用マップが変更される。
【0078】
制御信号発生部106は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択して変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS24)。
【0079】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断する。この判断結果として、本実施例の変速制御装置100は、車両の走行状態がスポーティモードである場合には変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更してアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更してアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を低車速側に設定する。続いて、本実施例の変速制御装置100は、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する。これにより、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変として変速制御する。
【0080】
例えば、走行モードをノーマルモード→スポーティモード(又はエコモード→ノーマルモード)とすることで変速マップ内における両変速線が10km/h分高速側に変更される場合、プリシフトマップ内における両待機線も10km/h分高速側に変更する。また、スポーティモード→ノーマルモード(又はノーマルモード→エコモード)により両変速線が低速側に変更される場合も、同様にして両待機線を低速側に変更する。
【0081】
実施例3の変速制御装置100によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0082】
特に、実施例3の変速制御装置100によれば、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することにより、走行モード切替により変速線が設定変更されても、変速線にあわせて待機線も設定変更するため、変速動作の制御信号を出力する前に待機状態とさせることができ、上述した変速動作が遅れることを確実に防止することができるようになる。
【0083】
更に、低車速側から、ダウンシフト線、ダウンシフト待機線、アップシフト待機線、アップシフト線の順に必ず設定するようにすれば、変速線と待機線との位置関係が逆転することを確実に防止することができ、変速の指令前に待機状態とさせることができる。
【0084】
次に、本発明による実施例4の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例4】
【0085】
[実施例4の変速制御装置]
図9は、本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例4の変速制御装置100は、図1に示す実施例1と同様の構成で実現することができる。特に、実施例4の変速制御装置は、走行状態判定部102が、現在の車両の走行状態として、車両の加減速度により判断し、シフト待機線変更部103が、加減速度≦第1所定値(負値)であるとき少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度であるとき少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定する点で、上述した実施例2及び3の変速制御装置とは相違する。実施例4の変速制御装置のように構成している点に特有の効果を発揮するために以下に説明する。
【0086】
図9を参照して、実施例4の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0087】
変速指示解析部101は、変速指示要求を受け付けると、変速指示要求に係るアップシフト線及びダウンシフト線の車速方向の変更量を解析し、解析した変速線の変更量の情報に基づいてアップシフト線及びダウンシフト線の変速マップを設定する(ステップS31)。
【0088】
走行状態判定部102は、車両の加減速度を現在の車両の走行状態として判断し、車両の加減速度の情報をシフト待機線変更部103に送出する(ステップS32)。
【0089】
シフト待機線変更部103は、車両の加減速度の情報に応じて、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS33)。
【0090】
例えば、シフト待機線変更部103は、車両の加減速度の情報に応じて、予めシフト待機線保持部103aに保持されている、走行状態(車両の加減速度)ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線の各々について、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくとも高車速側に設定するダウンシフト待機線のマップを選択し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくとも低車速側に設定するアップシフト待機線のマップを選択することにより、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更する。この場合におけるダウンシフト待機線の高車速側への設定量、又はアップシフト待機線の低車速側への設定量は、ハンチングを防止するのに適合させた車両又は走行モードごとの設定量を随意選定する。
【0091】
制御信号発生部106は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択して変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS34)。
【0092】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を加減速度により判断する。この判断結果として、本実施例の変速制御装置100は、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくとも高車速側に設定するダウンシフト待機線のマップを選択し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくとも低車速側に設定するアップシフト待機線のマップを選択する。続いて、本実施例の変速制御装置100は、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する。これにより、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変として変速制御を実行する。
【0093】
例えば、図10を参照して従来技術と実施例4の変速制御装置とを比較するに、従来技術及び実施例4の変速制御装置1ともに、ダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている(図10(a)、図10(c)参照)。これはキックダウン時や車速低下によるダウンシフトの実行前ダウン待機状態とするためである。また、アップシフト待機線はアップシフト線より低車速側に設定される(図10(a)、図10(c)参照)。これは車速上昇によりアップシフトの実行前アップシフト待機状態とするためである。
【0094】
一方、従来技術では、車両の加減速度によらずプリシフトマップ内のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を固定値としているため、車両に大きな加減速度が生じる走行状態であるとき、変速の指令に対する変速動作の開始が遅れることがある(図10(b)参照)。これは、図10(b)に示すように、従来技術では待機線が固定値であるためである。
【0095】
例えば、ブレーキを強く踏み込むような減速時(加減速度≦第1所定値)は、車速の低下が速いため、ダウンシフト待機の制御信号の出力(ダウンシフト待機線を横切る)からダウンシフトの制御信号の出力(ダウンシフト線を横切る)までが短時間であり、ダウンシフトの実行時にダウンシフト待機状態となっておらず(ダウンシフト待機状態への移行中)、ダウンシフトの開始が遅れてしまう。同様に、急な下り坂を走行するような加速時(第2所定値≦加減速度)は、車速の上昇が速いため、アップシフト待機の制御信号の出力(アップシフト待機線を横切る)からアップシフトの制御信号の出力(アップシフト線を横切る)までが短時間であり、アップシフトの実行時にアップシフト待機状態となっておらず(アップシフト待機状態への移行中)、アップシフトの開始が遅れてしまう(図示せず)。
【0096】
これに対し、実施例4の変速制御装置は、車両の走行状態を車両の加減速度により判断し、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定する。これにより、車両に大きな加減速度が生じる走行状態であっても、待機線を変更するため、待機状態とさせる制御信号を出力(待機線を横切る)してから変速の制御信号が出力される(変速線を横切る)までの時間を長くすることができ、上述した変速動作の開始が遅れることを防止することができる。
【0097】
第1所定値は、例えば−0.1G(1Gは、約9.807m/s2に対応する)に設定する。これは、運転者が強い減速を意図していることを検知する所定値であって、車速の低下が速い場合の変速動作の開始が遅れるのを防ぐことができる。
【0098】
また、第2所定値は、例えば0.1Gに設定する。これは車両の加速が大きいことを検知する所定値であって、車速の上昇が速い場合の変速動作の開始が遅れるのを防ぐことができる。
【0099】
ここでは、|第1所定値|=|第2所定値|となるよう各所定値を設定したが、|第1所定値|>|第2所定値|と設定することで、より走行状態に適した変速を実現すること
もできる(例えば、第1所定値=−0.1G、第2所定値=0.07Gとする)。
【0100】
本実施例においても、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線の設定は、走行状態に応じたアップシフト待機線及びダウンシフト待機線が設定された複数のマップから現在の走行状態に応じたマップを選択することで行うことができる。
【0101】
現在の走行状態に応じたマップを選択することは、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線の設定を高速且つ容易に行うことができるという利点がある。
【0102】
図11(a)は加減速度が第1所定値を閾値として低減速側及び高減速側間をハンチングしうる状態を示す図であり、図11(b)はハンチング状態を示す図であり、図11(c)は本発明による実施例4の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例1を示す図であり、図11(d)は本発明による実施例4の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例2を示す図である。図11を参照して、マップ切り替えのハンチングを防止する変形例1及び変形例2を説明する。
【0103】
例えば、図11(a)に示すように、加減速度の第1所定値を閾値とする状態判定が複数回発生する場合を考える(時刻T1〜T5)。尚、図11に示す“低”は低車速側に設定するダウンシフト待機線のマップの選択を意味しており、“高” は高車速側に設定するダウンシフト待機線のマップの選択を意味する。ここでは、図11(b)に示すように、ハンチングしうるような状況を考える。
【0104】
[変形例1]
図11(c)を参照するに、変形例1では、制御信号発生部104からの制御信号の発生の際に、低減速側から高減速側への切り替え時又は高減速側から低減速側への切り替え時に、所定時間CT1,CT2、切り替えを禁止する切り替え禁止領域を設ける。例えば、時刻T1で“低”→“高”の切り替えが生じてから所定時間CT1は、通常であれば切り替えが生じうる時刻T2、T3での切り替えを禁止して、所定時間CT1経過後に時刻T4で“高”→“低”の切り替えを許容し、時刻T4の切り替え許容後に更に所定時間CT2経過後の時刻T5での“低”→“高”の切り替えを許容する。所定時間CT1,CT2は、順次繰り返して用いることになるが、それぞれ異なる値を設定することもできるし、同一にすることもできる。この所定時間CT1,CT2は、切り替えの応答性を考慮して定めることができ、好適には短めに設定する。
【0105】
[変形例2]
図11(d)を参照するに、変形例2では、制御信号発生部104からの制御信号の発生の際に、低減速側から高減速側への切り替え時又は高減速側から低減速側への切り替え時に所定時間CT3のカウントを開始し、所定時間CT3だけ経過した後に、直前の閾値判定結果を反映させる状態継続領域を設ける。例えば、図11(d)に示す例では、時刻T1で“低”→“高”の切り替えを判断すると、所定時間CT3経過後に実行し、通常であれば切り替えが生じうる時刻T2,T3,T4,T5では、時間差T2−T3、時間差T3−T4、時間差T4−T5がいずれも所定時間CT3よりも短いので “高”→“低”の切り替えを許容しない。この状態継続時間となる所定時間CT3は、ハンチング防止を主に考慮して定めることができ、好適には長めに設定する。
【0106】
上述の各実施例では、走行状態に応じた複数のマップを設け、現在の走行状態に応じたマップを選択することで待機線を変更する構成を説明したが、以下のような構成とすることもできる。
【0107】
シフト待機線変更部103は、例えば、プリシフトマップを、例えば図5(a)のような1つのみ設定し、プリシフトさせるか否かの判断に用いる車速を走行状態に応じて補正するように構成することもできる。
【0108】
例えば、前述の図6(c)のダウンシフト待機線が車速30km/hに設定されているとして、現在の車速(例えば、40km/h)と現在の車両の減速度から所定時間後の車速(先読み車速)を演算する。演算した先読み車速が30km/hであるとされると(現在の車速が30km/hまで低下していなくても)ダウンシフト待機線に到達したとして、ダウンシフト待機状態とするよう制御信号を出力する。これにより、マップ内の待機線は変更しない分、使用する車速に補正をかけることで、同様の効果を得ることができる。
【0109】
また、上述の各実施例では、上記の走行モードは、自動変速モード走行中の動作について説明したが、マニュアル変速モード走行においても、上記の変速制御を継続することができる。即ち、上述の各実施例の変速制御装置は、マニュアル変速モード走行及び自動変速モード走行の双方において継続して制御することができる。特に、上述の各実施例では、マニュアル変速モード走行時においても、運転者の走行状況、及び変速意図に最適なプリシフト待機状態とすることができる。また、マニュアル変速モードから自動変速モードに復帰した際にも最適なプリシフト待機状態を保持することができる。
【0110】
また、上述の各実施例では、走行モードとしてエコモード、ノーマルモード、及びスポーティモード以外にも、登坂モード(変速線がノーマルモードより高車速側に設定される)や降坂モード(変速線がノーマルモードより低車速側に設定される)を含めることができ、登坂モード又は降坂モードのマップ選択により待機線を切り替えるように構成することができる。
【0111】
尚、図6及び図10で、ダウンシフト待機線とアップシプト待機線とで所定マージンを持たせている意図は、変速線のダウンシフト線とアップシフト線とで所定マージンを持たせている意図(ハンチング防止)と同様である。
【0112】
このように、前述した実施例では、特定の形態について説明したが、本発明は、前述した実施例に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、図3における各機能ブロックは例示にすぎず、各機能ブロックの処理手順を前後させて構成することもできる。従って、前述した実施例に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲において多くの変形例を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態に応じて可変とすることができるため、安定且つ柔軟な変速制御を要する任意の変速制御の用途に有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン
2 クランクシャフト
C1 奇数変速段クラッチ
C2 偶数変速段クラッチ
3 自動クラッチドラム
4 第1入力軸
5 第2入力軸
6 出力軸
7 クラッチハブ
8 クラッチハブ
10 カウンターシャフト
11 カウンターギヤ
12 出力歯車
G1 第1速歯車組
G2 第2速歯車組
G3 第3速歯車組
G4 第4速歯車組
G5 第5速歯車組
G6 第6速歯車組
GR 後退歯車組
21 第1速−後退用動機噛合機構
22 第3速−第5速用同期噛合機構
29 第6速用同期噛合機構
30 第2速−第4速用同期噛合機構
100 変速制御装置
101 変速指示解析部
102 走行状態判定部
103 シフト待機線変更部
103a シフト待機線保持部
103b シフト待機線選択部
104 制御信号発生部
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの発進クラッチを掛け替えることで変速が実行される自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置としては、変速マップ内の変速線(即ち、アップシフト線及びダウンシフト線)に基づき自動マニュアルトランスミッションの変速を実行する際に、プリシフトマップ内の待機線(即ち、アップシフト待機線とダウンシフト待機線)に基づきプリシフトを実行するが、このアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態を問わず固定値とするものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態を問わず固定値とする技術では、変速の指令に対して変速動作が遅れる場合がある。例えば、車両の走行状態によっては変速の指令(アップシフト線、ダウンシフト線を横切るような加減速要求の場合など)時であっても、プリシフト(アップシフト待機状態、ダウンシフト待機状態)が未完了であると、変速の指令通りの変速動作が直ちに開始されず遅れが生じる。例えば直ちにダウンシフトすべき状況(例えばダウンシフト線を横切った状態の場合)にも関わらず、自動マニュアルトランスミッションの同期噛合機構がアップシフト待機状態であったり、ダウンシフト待機状態への移行中であったりすると、ダウンシフト指示要求通りにダウンシフト動作が直ちに開始されず遅れが生じる。また、このことは、アップシフトの場合も同様である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき車両の変速を実行する際に、このアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態に応じて可変とするようにした。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明による実施例の変速制御装置を適用可能な自動マニュアルトランスミッションを例示するツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの概略図である。
【図2】ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの基本的な変速動作状態を示す図である。
【図3】本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の概略図である。
【図4】本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】(a)は従来技術における自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる固定のマップを示す概略図であり、(b)は本発明による一実施例の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる現在の走行状態に対応する複数のマップを示す概略図である。
【図6】(a)は従来技術におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(b)は従来技術におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転する状態を示す図であり、(c)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(d)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転することなく維持される状態を示す図である。
【図7】本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】本発明による実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明による実施例4の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】(a)は従来技術におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(b)は従来技術におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転する状態を示す図であり、(c)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている状態を示す図であり、(d)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転することなく維持される状態を示す図である。
【図11】(a)は加減速度が第1所定値を閾値として低減速側及び高減速側間をハンチングしうる状態を示す図であり、(b)はハンチング状態を示す図であり、(c)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例1を示す図であり、(d)は本発明による一実施例の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
まず、本発明の理解を容易にするために、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションの変速機構について説明する。
【0009】
[自動マニュアルトランスミッション]
図1は、本発明による後述する各実施例の変速制御装置を適用可能な、自動マニュアルトランスミッションを例示するツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの概略図である。
【0010】
エンジン1の出力軸(クランクシャフト2)を、奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用の自動湿式回転クラッチ(以下、「奇数段用クラッチ」)C1、及び、偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用の自動湿式回転クラッチ(以下、「偶数段用クラッチ」)C2の共通な自動クラッチドラム3に駆動結合する。ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションは、奇数変速段(第1速、第3速、第5速、後退)用の第1入力軸4、及び、偶数変速段(第2速、第4速、第6速)用の第2入力軸5を備え、これら第1入力軸4及び第2入力軸5をそれぞれ、個々の自動クラッチC1,C2によりエンジン出力軸のクランクシャフト2に結合可能とする。
【0011】
ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションは更に出力軸6を備え、これを第1入力軸4及び第2入力軸5に同軸に配置し、出力軸6は図示しないプロペラシャフトやディファレンシャルギヤ装置を介して左右駆動車輪に結合する。
【0012】
以下、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの歯車変速機構を詳述する。奇数変速段クラッチC1及び偶数変速段クラッチC2を介してエンジン回転が選択的に入力される第1入力軸4及び第2入力軸5のうち第2入力軸5は中空とし、これに第1入力軸4を貫通させることで、第1入力軸4及び第2入力軸5は互いに相対回転可能に配置される。
【0013】
上記のごとく相互に回転可能な第1入力軸4及び第2入力軸5のエンジン側前端をそれぞれ、自動クラッチC1,C2のクラッチハブ7,8に結合する。これに対し、第1入力軸4の後端部は、第2入力軸5の後端から突出した後端延長部を構成する。第1入力軸4、第2入力軸5、及び出力軸6に対してオフセットした位置にはカウンターシャフト10が設けられている。
【0014】
カウンターシャフト10の後端にはカウンターギヤ11が一体に設けられ、これと噛み合う出力歯車12が設けられ、出力軸6と一体に設けられている。これにより、カウンターギヤ11及び出力歯車12を介してカウンターシャフト10と出力軸6とは駆動結合される。
【0015】
第1入力軸4の後端延長部とカウンターシャフト10との間には奇数変速段(第1速、第3速、第5速)グループの歯車組G1,G3,G5、及び後退変速段の歯車組GRが設けられている。これらはエンジン1に近いフロント側から、第1速歯車組G1、後退歯車組GR、第5速歯車組G5及び第3速歯車組G3の順に配置されている。
【0016】
第1速歯車組G1は、第1入力軸4の後端延長部に一体に設けた第1速入力歯車13と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第1速出力歯車14とを相互に噛合させることで構成されている。
【0017】
後退歯車組GRは、第1入力軸4の後端延長部に一体に設けた後退入力歯車15と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた後退出力歯車16と、これら歯車15,16に噛合してこれら歯車15,16間を駆動結合するリバースアイドラギヤ17とで構成し、リバースアイドラギヤ17を、変速機ケースに設けたリバースアイドラ軸18により回転可能に支持する。
【0018】
第3速歯車組G3は、第1入力軸4の後端延長部に回転可能に設けた第3速入力歯車19と、カウンターシャフト10に一体に設けた第3速出力歯車20とを相互に噛合させることで構成させている。第5速歯車組G5は、第1入力軸4の後端延長部に回転可能に設けた第5速入力歯車31と、カウンターシャフト10に駆動結合して設けた第5速出力歯車32とを相互に噛合させることで構成させている。
【0019】
カウンターシャフト10には更に、第1速出力歯車14及び後退出力歯車16間に配して第1速−後退用同期噛合機構(選択噛合機構)21が設けられている。この第1速−後退用同期噛合機構(選択噛合機構)21は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ21aを図示の中立位置から第1速出力歯車14側に移動(左行)させて第1速出力歯車14に一体に設けた自動クラッチギヤ21bに噛合させると、第1速出力歯車14がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第1速を選択する。これに対し、カップリングスリーブ21aを図示の中立位置から後退出力歯車16側に移動(右行)させて後退出力歯車16に一体に設けた自動クラッチギヤ21cに噛合させると、後退出力歯車16がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく後退を選択する。
【0020】
第1入力軸4の後端延長部には更に、第3速入力歯車19及び第5速入力歯車31間に第3速−第5速用同期噛合機構(選択噛合機構)22が設けられている。この第3速−第5速用同期噛合機構(選択噛合機構)22は、第1入力軸4(その後端延長部)と共に回転するカップリングスリーブ22aを図示の中立位置から第3速入力歯車19側に移動(右行)させて第3速入力歯車19に一体に設けた自動クラッチギヤ22bに噛合させると、第3速入力歯車19が第1入力軸4に駆動結合されることで後述するごとく第3速を選択する。これに対し、カップリングスリーブ22aを図示の中立位置から第5速入力歯車31側に移動(左行)させて第5速入力歯車31に一体に設けられた自動クラッチギヤ22cに噛合させると、第5速入力歯車31が第1入力軸4に駆動結合されることで後述するごとく第5速を選択する。
【0021】
中空の第2入力軸5とカウンターシャフト10との間には、偶数変速段(第2速、第4速、第6速)グループの歯車組が、エンジンに近いフロント側から順次、第6速歯車組G6、第2速歯車組G2、及び第4速歯車組G4を配置されている。第6速歯車組G6は第2入力軸5の前部に配置し、第4速歯車組G4は第2入力軸5の後端に配置されている。また、第2速歯車組G2は、第2入力軸5上の第6速歯車組G6及び第4速歯車組G4間に配置されている。
【0022】
第6速歯車組G6は、第2入力軸5の外周に一体に設けた第6速入力歯車23と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第6速出力歯車24とを相互に噛合させることで構成されている。第2速歯車組G2は、第2入力軸5の外周に一体に設けた第2速入力歯車25と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第2速出力歯車26とを相互に噛合させることで構成されている。第4速歯車組G4は、第2入力軸5の外周に一体に設けた第4速入力歯車27と、カウンターシャフト10上に回転可能に設けた第4速出力歯車28とを相互に噛合させることで構成されている。
【0023】
カウンターシャフト10には更に、第6速出力歯車24及び第2速出力歯車26間に第6速専用の同期噛合機構(選択噛合機構)29が設けられている。この第6速専用同期噛合機構(選択噛合機構)29は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ29aを図示の中立位置から第6速出力歯車24側に移動(左行)させて第6速出力歯車24に一体に設けた自動クラッチギヤ29bに噛合させると、第6速出力歯車24がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第6速を選択する。またカウンターシャフト10には、第2速出力歯車26及び第4速出力歯車28間に第2速−第4速用同期噛合機構(選択噛合機構)30が設けられている。この第2速−第4速用同期噛合機構(選択噛合機構)30は、カウンターシャフト10と共に回転するカップリングスリーブ30aを図示の中立位置から第2速出力歯車26側に移動(左行)させて第2速出力歯車26に一体に設けられた自動クラッチギヤ30bに噛合させると、第2速出力歯車26がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第2速を選択する。これに対し、カップリングスリーブ30aを図示の中立位置から第4速出力歯車28側に移動(右行)させて第4速出力歯車28に一体に設けられた自動クラッチギヤ30cに噛合させると、第4速出力歯車28がカウンターシャフト10に駆動結合されることで後述するごとく第4速を選択する。
【0024】
次に、上記の実施例になるツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの自動変速作用を説明する。
【0025】
(非走行レンジ)
中立(N)レンジや駐車(P)レンジのような動力伝達を希望しない非走行レンジが選択されたときは、奇数段用クラッチC1及び偶数段用クラッチC2の双方を解放するとともに、同期噛合機構21,22,29,30のカップリングスリーブ21a,22a,29a,30aを全て図示の中立位置にすることで、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションを動力伝達が行われない中立状態にする。特に、駐車(P)レンジにあっては更に、パークロック装置により変速機出力軸6を機械的に回転不能にロックする。
【0026】
(走行レンジ)
前進動力伝達を希望するDレンジや、後退動力伝達を希望するRレンジのような走行レンジが選択されたときは、エンジン1で駆動されるオイルポンプO/P(図1参照)からの作動油を媒体とし、以下のごとくに同期噛合機構21,22,29,30のカップリングスリーブ21a,22a,29a,30aをシフト動作させると共に、自動クラッチC1,C2を締結・解放制御することにより、各前進変速段や、後退変速段を選択することができる。
【0027】
(Dレンジ、第1速)
Dレンジのような前進走行レンジで第1速を希望する場合、同期噛合機構21のカップリングスリーブ21aを左行させて歯車14をカウンターシャフト10に駆動結合し、これによる奇数変速段グループの第1速へのプリシフト後、非走行レンジで解放状態だった自動湿式回転クラッチC1を締結する。これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第1速歯車組G1、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第1速での動力伝達が可能になる。
【0028】
尚、上記第1速の選択が発進を意図する用のものである時は、自動クラッチC1の締結に際し、スリップ制御を併用すること(スリップ締結制御)により、発進ショックのない滑らかな前発進を行わせることができる。またNレンジからDレンジヘのセレクト操作に呼応して上記第1速の選択を行う場合は、上記奇数変速段グループの第1速へのプリシフトと同時に、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを左行させて歯車26をカウンターシャフト10に駆動結合し、これにより偶数変速段グループの第2速へのプリシフトも済ませておく。しかしながら、自動クラッチC2が非走行レンジでの解放状態を継続するため、第2速の選択が行われることはない。
【0029】
(Dレンジ、第2速)
第1速から第2速へのアップシフトに際しては、N→Dセレクト時に上記のごとく偶数変速段グループが第2速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、非走行レンジで解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第1速から第2速へのアップシフトを行わせることができる。これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第2速歯車組G2、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第2速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第1速→第2速の変速が終わったら、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを右行させて歯車19を第1入力軸4に駆動結合する。これにより、奇数変速段グループの第1速→第3速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0030】
(Dレンジ、第3速)
第2速から第3速へのアップシフトに際しては、第1速→第2速のアップシフト時に上記のごとく奇数変速段グループが第3速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC2を解放させつつ、第2速で解放状態だった自動クラッチC1を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第2速から第3速へのアップシフトを行わせることができる。これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第3速歯車組G3、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第3速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第2速→第3速の変速が終わったら、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを中立位置に戻して歯車26をカウンターシャフト10から切り離すと共に、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを右行させて歯車28をカウンターシャフト10に駆動結合する。これにより偶数変速段グループの第2速→第4速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0031】
(Dレンジ、第4速)
第3速から第4速へのアップシフトに際しては、第2速→第3速のアップシフト時に上記のごとく偶数変速段グループが第4速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、第3速で解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第3速から第4速へのアップシフトを行わせることができる。これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第4速歯車組G4、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第4速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第3速→第4速の変速が終わったら、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを中立位置に戻して歯車19を第1入力軸4から切り離すと共に、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを左行させて歯車31を第1入力軸4に結合する。これにより奇数変速段グループの第3速→第5速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0032】
(Dレンジ、第5速)
第4速から第5速へのアップシフトに際しては、第3速→第4速のアップシフト時に上記のごとく奇数変速段グループが第5速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC2を解放させつつ、第4速で解放状態だった自動クラッチC1を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第4速から第5速へのアップシフトを行わせる。これにより自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、第5速歯車組G5、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力されるため、第5速での動力伝達が可能になる。尚、上記の第4速→第5速の変速が終わったら、同期噛合機構30のカップリングスリーブ30aを中立位置に戻して歯車28をカウンターシャフト10から切り離すと共に、同期噛合機構29のカップリングスリーブ29aを左行させて歯車24をカウンターシャフト10に駆動結合する。これにより偶数変速段グループの第4速→第6速のプリシフトを行わせておくことができる。
【0033】
(Dレンジ、第6速)
第5速から第6速へのアップシフトに際しては、第4速→第5速のアップシフト時に上記のごとく偶数変速段グループが第6速ヘプリシフトされているため、自動クラッチC1を解放させつつ、第5速で解放状態だった自動クラッチC2を締結進行させること(スリップ締結制御)により、つまり両自動クラッチの掛け替えを行うことにより、第5速から第6速へのアップシフトを行わせる。これにより自動クラッチC2からのエンジン回転が第2入力軸5、第6速歯車組G6、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より軸線方向に出力されるため、第6速での動力伝達が可能になる。かかる第5速→第6速の変速後の変速はダウンシフトしか存在せず、奇数変速段グループを直下の第5速ヘプリシフトされた状態にすべきであるから、同期噛合機構22のカップリングスリーブ22aを第5速選択時と同じ左行位置に保って歯車31を第1入力軸4に結合させたままとする。
【0034】
尚、第6速から順次第1速へとダウンシフトさせるに際しても、上記アップシフトと逆の変速制御を行うことにより、前述と逆方向のプリシフト及び自動クラッチC1,C2の締結・解放制御を介して所定のダウンシフトを行わせることができる。
【0035】
(Rレンジ)
後退走行を希望して非走行レンジからRレンジに切り替えた場合においては、先ず同期噛合機構21のカップリングスリーブ21aを中立位置から移動させて歯車16をカウンターシャフト10に駆動結合する。これにより奇数変速段グループの後退変速段へのプリシフトが行われる。次いで、非走行レンジで解放状態であった自動湿式回転クラッチC1を締結すると、自動クラッチC1からのエンジン回転が第1入力軸4、後退歯車組GR、カウンターシャフト10、及び出力歯車組11,12を経て出力軸6より出力される。この際、後退歯車組GRにより回転方向を逆にされることから、後退変速段での動力伝達を行うことができる。尚、後退変速段での発進時も、自動クラッチC1に対してスリップ締結制御を行うことにより、発進ショックのない滑らかな後発進を行わせることができる。
【0036】
このようなツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションでは、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき自動マニュアルトランスミッションの変速を実行する必要があり、プリシフト動作及び変速動作について以下詳細に説明する。
【0037】
[プリシフト動作及び変速動作]
図2は、図1に示すツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの基本的な変速動作状態を示す図である。図2を参照して、ツインクラッチ式自動マニュアルトランスミッションの基本的な変速動作例について簡潔に説明する。
【0038】
<第3速→第4速のアップシフト(アクセル開度一定で車速が上昇し、運転点がaからeに変化する場合)>
運転点a:第3速の走行状態にある。第3速−第5速用同期噛合機構22が第3速係合状態で、奇数クラッチC1が締結状態にある。第2速―第4速用同期噛合機構30は、第2速係合状態にある(第3速へのアップシフト前は第2速状態であり、第2速係合状態のままである)。偶数クラッチC2は解放状態にある。
運転点b:上記運転点aと同じ状態にある。
運転点c:上記運転点aと同じ状態にある。
運転点c→d:第2速−第4速用同期噛合機構30が第2速係合状態から第4速係合状態へと移行する状態にある(変速制御装置は、車側がアップシフト待機線を横切るため、現在の第3速に対してアップシフト待機、即ち第4速で待機させる変速指令を出力する)。
運転点d:第2速−第4速用同期噛合機構30は第4速係合状態にある。その他は上記運転点aと同じ状態にある。
運転点d→e:第3速から第4速へのアップシフトを開始する(変速制御装置は、アップシフト線を横切るため、奇数クラッチC1を解放すると共に偶数クラッチC2を締結して変速を実行する)。
運転点e:第4速で走行状態にある。第2速−第4速用同期噛合機構30は第4速係合状態で偶数クラッチC2を締結状態にする。第3速−第5速用同期噛合機構22は第3速係合状態にある。奇数クラッチC1は解放状態にある。
【0039】
<第3速→第2速のダウンシフト(アクセル開度=0で車速が減少し、運転点がfからiに変化する場合)>
運転点f:第3速の走行状態にある。第3速−第5速用同期噛合機構22が第3速係合状態で、奇数クラッチC1が締結状態にある。第2速−第4速用同期噛合機構30は、第4速係合状態にある(第3速へのダウンシフト前は第4速状態であり、第4速係合状態のままである)。偶数クラッチC2は解放状態にある。
運転点g:上記運転点fと同じ状態にある。
運転点h:上記運転点fと同じ状態にある。
運転点h→i:第2速−第4速用同期噛合機構30が第4速係合状態から第2速係合状態へと移行する状態にある(変速制御装置は、車側がダウンシフト待機線を横切るため、現在の第3速に対してダウンシフト待機、即ち第2速で待機させる変速指令を出力する)。
運転点i:第2速−第4速用同期噛合機構30は第2速係合状態にある。その他は上記運転点fと同じ状態にある。
運転点i→j:第3速から第2速へのダウンシフトを開始する(変速制御装置は、車側がダウンシフト線を横切るため、奇数クラッチC1を解放すると共に偶数クラッチC2を締結して変速を実行する)。
運転点j:第2速で走行状態にある。第2速−第4速用同期噛合機構30は第2速係合状態で偶数クラッチC2を締結状態にする。第3速−第5速用同期噛合機構22は第3速係合状態にある。奇数クラッチC1は解放状態にある。
【0040】
以下、本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例1】
【0041】
[実施例1の変速制御装置]
図3は、本発明による一実施例の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の概略図である。図4は、本発明による実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例1の変速制御装置100は、2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッション(自動変速モード又はマニュアル変速モードを有する)で、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行するための制御信号を発生する装置である。実施例1の変速制御装置100は、変速指示解析部101と、走行状態判定部102と、シフト待機線変更部103(シフト待機線保持部103aとシフト待機線選択部103bとを有する)と、制御信号発生部104とを備える。
【0042】
図1及び図2を参照して、実施例1の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0043】
変速指示解析部101は、変速指示要求を受け付けると、変速指示要求に係るアップシフト線及びダウンシフト線の車速方向の変更量を解析し、解析した変速線の変更量の情報に基づいてアップシフト線及びダウンシフト線の変速マップを設定する(ステップS1)。
【0044】
走行状態判定部102は、現在の車両の走行状態を判定して、現在の車両の走行状態の情報をシフト待機線変更部103に送出する(ステップS2)。
【0045】
シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS3)。例えば、シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、シフト待機線保持部103aに予め保持されている、走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、シフト待機線選択部103bで選択することにより、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線へとプリシフト用マップを変更する。
【0046】
制御信号発生部104は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS4)。
【0047】
図5(a)は従来技術における自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる固定のマップを示す概略図であり、図5(b)は本発明による一実施例の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置に用いられる現在の走行状態に対応する複数のマップを示す概略図である。従来技術では、図5(a)に示すように、固定された単独のマップM0を変速制御用のマップとして用いていたにすぎない。
これに対し、本実施例の変速制御装置100は、シフト待機線変更部103が、現在の車両の走行状態に応じて、現在の走行状態に対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを複数のマップから選択する。例えば、第1マップM1にはエコモード(燃費性能を重視したモード)に応じた待機線が設定され、第2マップM2にはノーマルモード(通常走行性能を重視したモード)に応じた待機線が設定され、第3マップM3にはスポーティモード(応答性能を重視したモード)に応じた待機線が設定され、第4マップM4には減速時用の待機線が設定され、第5マップM5には加速時用の待機線が設定されている。シフト待機線変更部103は、複数のマップの中から現在の走行状態に応じたマップを選択することで待機線の設定を変更する。マップは、上記5つに限られず、他のモードを設定することができる(例えば、第6マップM6等)。
【0048】
尚、走行状態ごとのアップシフト待機線及びダウンシフト待機線は、必ずしも全て個別に用意する必要はなく、待機線が同一値であれば併用することもできる。例えば、エコモード用マップM1と加速時用マップM5とを同一の待機線となるよう設定し、スポーティモード用マップM3と減速時用マップM4とを同一の待機線となるよう設定することができる。
【0049】
また、変速制御装置100を中央演算処理装置(CPU)で構成する場合には、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線、並びにアップシフト線及びダウンシフト線の設定及び変更は、予め用意した記憶部(図示せず)にあるマップを読み出して、所定のレジスタ(図示せず)に設定することで実現することもできる。この場合、変速制御装置100の各機能を実現するための制御プログラムも、当該記憶部に格納することができる。
【0050】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を判断し、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する際に、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変にして変速制御を実行する。
【0051】
本実施例の変速制御装置100によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0052】
ここで、従来技術と本実施例の変速制御装置との動作比較を図6に示す。図6を参照して従来技術と本実施例の変速制御装置とを比較するに、従来技術及び本実施例の変速制御装置1ともに、ダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている(図6(a)、図6(c)参照)。これはキックダウン時や車速低下によるダウンシフトの実行前にダウン待機状態とするためである。また、アップシフト待機線はアップシフト線より低車速側に設定される(図6(a)、図6(c)参照)。これは車速上昇によりアップシフトの実行前にアップシフト待機状態とするためである。
【0053】
一方、例えばASC(アダプティブ・シフト・コントロール)制御で、ダウンシフト線が高車速化したとする。従来技術では、走行状態として高車速化に応じて、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)のみが高車速側に設定される (図6(b)参照)。しかしながら、従来技術では待機線が固定値であるため、図6(b)に示すように、ダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転することもありうる。
【0054】
このようにダウンシフト線とダウンシフト待機線との位置が逆転すると、キックダウン時や車速低下時にダウンシフト待機線より先にダウンシフト線をまたぐことになり、ダウンシフトの実行前に直ちにダウンシフト待機状態とならない。このため、ダウンシフト待機状態となるよう変速の指令を出力し、ダウンシフト待機状態となってからダウンシフトを実行することになる。即ち、ダウンシフトしたくともプリシフトが行われていないのでダウンシフトのレスポンスが遅くなってしまう。
【0055】
これに対し、実施例1の変速制御装置1では、現在の走行状態に応じて、待機線を変更する(図6(d)参照)。
【0056】
これにより、実施例1の変速制御装置1では、ダウンシフト線より先にダウンシフト待機線をまたぐこととなり、ダウンシフト指示要求前にダウンシフト待機状態とすることができる。即ち、ダウンシフトする前にプリシフトが行われているのでダウンシフトのレスポンスに遅れを生じることがない。
【0057】
従って、本実施例の変速制御装置1によれば、変速指示要求に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0058】
次に、本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例2】
【0059】
[実施例2の変速制御装置]
図7は、本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例2の変速制御装置100は、図1に示す実施例1と同様の構成で実現することができる。特に、実施例2の変速制御装置100は、走行状態として、例えば3段階の走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモード)を対象とする。走行状態判定部102と、シフト待機線変更部103(シフト待機線保持部103aとシフト待機線選択部103b)が、走行状態として、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)に応じて動作する。
【0060】
図7を参照して、実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0061】
変速指示解析部101及び走行状態判定部102は、図4の制御フローと同様に、それぞれ変速線の変更量を解析するステップS11)と共に、現在の車両の走行状態としての走行モードを判定する(ステップS12)。
【0062】
シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行モードに応じて、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定するように、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS13)。
【0063】
例えば、シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行モードに応じて、シフト待機線保持部103aに予め保持されている、走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線について変更する。具体例としては、シフト待機線選択部103bにより、車両の走行状態がスポーティモードである場合には高車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択することにより、現在の走行状態に応じたアップシフト待機線及びダウンシフト待機線へとプリシフト用マップを変更する。
【0064】
制御信号発生部106は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS14)。
【0065】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断し、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定して、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する。これにより、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変として変速制御する。
【0066】
実施例2の変速制御装置100によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0067】
特に、車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断し、現在の車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、現在の車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定することで以下のような効果を奏する。
【0068】
従来技術では、前述した図6(b)に例示したように、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)が切り替えられると、エコモードからノーマルモードとなるほど、さらにノーマルモードからスポーティモードとなるほど、変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線が高車速側に設定されるが、プリシフトマップ内のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線は固定値としているため、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)と待機線(アップシフト待機線及びダウンシフト待機線)との位置関係が逆転することもありうる。
【0069】
このように変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)と待機線(アップシフト待機線及びダウンシフト待機線)との位置が逆転すると、例えば車速が減少してダウンシフトする際、ダウンシフト待機状態となる指令が出力される(ダウンシフト待機線を横切る)前にダウンシフトの指令が出力される(ダウンシフト線を横切る)が、図1を用いて説明した各同期噛合機構がアップシフト待機状態であることから、変速の指令通り変速動作を開始することができず、変速の指令に対する変速動作の開始が遅れる(ダウンシフトの指令時にダウンシフト待機状態となるよう変速の指令を出力し、ダウンシフト待機状態となってからダウンシフトを実行することになる)。
【0070】
また、アップシフトについても同様の間題が生じる(例えば、走行モードがノーマルモードからエコモードに切り替えられると、アップシフト線とアップシフト待機線との位置が逆転することもありうる)。
【0071】
そこで、実施例2の変速制御装置100によれば、車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断し、車両の走行状態がスポーティモードであるとき、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードであるとき、低車速側に設定する。これにより、走行モード切り替えにより変速線が設定変更されても、変速線にあわせて待機線も設定変更するため、変速動作を指令する制御信号が出力される前に待機状態とさせることができ、上述した変速動作が遅れることを防止することができる。
【0072】
次に、本発明による実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例3】
【0073】
[実施例3の変速制御装置]
図8は、本発明による実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例3の変速制御装置100は、図1に示す実施例1又は実施例2と同様の構成で実現することができる。特に、実施例3の変速制御装置100は、走行状態判定部102と、シフト待機線変更部103(シフト待機線保持部103aとシフト待機線選択部103b)が、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)に応じて動作するとともに、シフト待機線変更部103が、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更するように動作する。
【0074】
図8を参照して、実施例3の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0075】
変速指示解析部101及び走行状態判定部102は、図4の制御フローと同様に、それぞれ変速線の変更量を解析する(ステップS21)と共に、現在の車両の走行状態としての走行モード判定する(ステップS22)。
【0076】
シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更して、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS23)。
【0077】
例えば、シフト待機線変更部103は、現在の車両の走行状態に応じて、シフト待機線保持部103aに予め保持されている、走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線について、車両の走行状態がスポーティモードである場合には高車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択して変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更して設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線をシフト待機線選択部103bで選択して変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更して設定する。これにより、現在の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線へとプリシフト用マップが変更される。
【0078】
制御信号発生部106は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択して変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS24)。
【0079】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を、走行モード(エコモード、ノーマルモード、スポーティモードなど)により判断する。この判断結果として、本実施例の変速制御装置100は、車両の走行状態がスポーティモードである場合には変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更してアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけ変更してアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を低車速側に設定する。続いて、本実施例の変速制御装置100は、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する。これにより、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変として変速制御する。
【0080】
例えば、走行モードをノーマルモード→スポーティモード(又はエコモード→ノーマルモード)とすることで変速マップ内における両変速線が10km/h分高速側に変更される場合、プリシフトマップ内における両待機線も10km/h分高速側に変更する。また、スポーティモード→ノーマルモード(又はノーマルモード→エコモード)により両変速線が低速側に変更される場合も、同様にして両待機線を低速側に変更する。
【0081】
実施例3の変速制御装置100によれば、変速の指令に対して変速動作が遅れることを防止することができ、変速の指令時、プリシフトが未完了であることを防ぐことで、変速の指令通りに変速動作を開始することができる。
【0082】
特に、実施例3の変速制御装置100によれば、変速線(アップシフト線及びダウンシフト線)の変更量と同じだけアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することにより、走行モード切替により変速線が設定変更されても、変速線にあわせて待機線も設定変更するため、変速動作の制御信号を出力する前に待機状態とさせることができ、上述した変速動作が遅れることを確実に防止することができるようになる。
【0083】
更に、低車速側から、ダウンシフト線、ダウンシフト待機線、アップシフト待機線、アップシフト線の順に必ず設定するようにすれば、変速線と待機線との位置関係が逆転することを確実に防止することができ、変速の指令前に待機状態とさせることができる。
【0084】
次に、本発明による実施例4の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置を詳細に説明する。
【実施例4】
【0085】
[実施例4の変速制御装置]
図9は、本発明による実施例2の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を示すフローチャートである。実施例4の変速制御装置100は、図1に示す実施例1と同様の構成で実現することができる。特に、実施例4の変速制御装置は、走行状態判定部102が、現在の車両の走行状態として、車両の加減速度により判断し、シフト待機線変更部103が、加減速度≦第1所定値(負値)であるとき少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度であるとき少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定する点で、上述した実施例2及び3の変速制御装置とは相違する。実施例4の変速制御装置のように構成している点に特有の効果を発揮するために以下に説明する。
【0086】
図9を参照して、実施例4の自動マニュアルトランスミッションの変速制御装置の動作を説明する。
【0087】
変速指示解析部101は、変速指示要求を受け付けると、変速指示要求に係るアップシフト線及びダウンシフト線の車速方向の変更量を解析し、解析した変速線の変更量の情報に基づいてアップシフト線及びダウンシフト線の変速マップを設定する(ステップS31)。
【0088】
走行状態判定部102は、車両の加減速度を現在の車両の走行状態として判断し、車両の加減速度の情報をシフト待機線変更部103に送出する(ステップS32)。
【0089】
シフト待機線変更部103は、車両の加減速度の情報に応じて、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更し、変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を設定する(ステップS33)。
【0090】
例えば、シフト待機線変更部103は、車両の加減速度の情報に応じて、予めシフト待機線保持部103aに保持されている、走行状態(車両の加減速度)ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線の各々について、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくとも高車速側に設定するダウンシフト待機線のマップを選択し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくとも低車速側に設定するアップシフト待機線のマップを選択することにより、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更する。この場合におけるダウンシフト待機線の高車速側への設定量、又はアップシフト待機線の低車速側への設定量は、ハンチングを防止するのに適合させた車両又は走行モードごとの設定量を随意選定する。
【0091】
制御信号発生部106は、自動マニュアルトランスミッションに対して、選択して変更したアップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行するための制御信号を発生する(ステップS34)。
【0092】
このように、本実施例の変速制御装置100は、例えば2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで、現在の車両の走行状態を加減速度により判断する。この判断結果として、本実施例の変速制御装置100は、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくとも高車速側に設定するダウンシフト待機線のマップを選択し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくとも低車速側に設定するアップシフト待機線のマップを選択する。続いて、本実施例の変速制御装置100は、プリシフトマップ内のアップシフト待機線とダウンシフト待機線とに基づきプリシフトを実行し、変速マップ内のアップシフト線とダウンシフト線とに基づき変速を実行する。これにより、現在の車両の走行状態に応じてアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を可変として変速制御を実行する。
【0093】
例えば、図10を参照して従来技術と実施例4の変速制御装置とを比較するに、従来技術及び実施例4の変速制御装置1ともに、ダウンシフト待機線がダウンシフト線より高車速側に設定されている(図10(a)、図10(c)参照)。これはキックダウン時や車速低下によるダウンシフトの実行前ダウン待機状態とするためである。また、アップシフト待機線はアップシフト線より低車速側に設定される(図10(a)、図10(c)参照)。これは車速上昇によりアップシフトの実行前アップシフト待機状態とするためである。
【0094】
一方、従来技術では、車両の加減速度によらずプリシフトマップ内のアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を固定値としているため、車両に大きな加減速度が生じる走行状態であるとき、変速の指令に対する変速動作の開始が遅れることがある(図10(b)参照)。これは、図10(b)に示すように、従来技術では待機線が固定値であるためである。
【0095】
例えば、ブレーキを強く踏み込むような減速時(加減速度≦第1所定値)は、車速の低下が速いため、ダウンシフト待機の制御信号の出力(ダウンシフト待機線を横切る)からダウンシフトの制御信号の出力(ダウンシフト線を横切る)までが短時間であり、ダウンシフトの実行時にダウンシフト待機状態となっておらず(ダウンシフト待機状態への移行中)、ダウンシフトの開始が遅れてしまう。同様に、急な下り坂を走行するような加速時(第2所定値≦加減速度)は、車速の上昇が速いため、アップシフト待機の制御信号の出力(アップシフト待機線を横切る)からアップシフトの制御信号の出力(アップシフト線を横切る)までが短時間であり、アップシフトの実行時にアップシフト待機状態となっておらず(アップシフト待機状態への移行中)、アップシフトの開始が遅れてしまう(図示せず)。
【0096】
これに対し、実施例4の変速制御装置は、車両の走行状態を車両の加減速度により判断し、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定する。これにより、車両に大きな加減速度が生じる走行状態であっても、待機線を変更するため、待機状態とさせる制御信号を出力(待機線を横切る)してから変速の制御信号が出力される(変速線を横切る)までの時間を長くすることができ、上述した変速動作の開始が遅れることを防止することができる。
【0097】
第1所定値は、例えば−0.1G(1Gは、約9.807m/s2に対応する)に設定する。これは、運転者が強い減速を意図していることを検知する所定値であって、車速の低下が速い場合の変速動作の開始が遅れるのを防ぐことができる。
【0098】
また、第2所定値は、例えば0.1Gに設定する。これは車両の加速が大きいことを検知する所定値であって、車速の上昇が速い場合の変速動作の開始が遅れるのを防ぐことができる。
【0099】
ここでは、|第1所定値|=|第2所定値|となるよう各所定値を設定したが、|第1所定値|>|第2所定値|と設定することで、より走行状態に適した変速を実現すること
もできる(例えば、第1所定値=−0.1G、第2所定値=0.07Gとする)。
【0100】
本実施例においても、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線の設定は、走行状態に応じたアップシフト待機線及びダウンシフト待機線が設定された複数のマップから現在の走行状態に応じたマップを選択することで行うことができる。
【0101】
現在の走行状態に応じたマップを選択することは、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線の設定を高速且つ容易に行うことができるという利点がある。
【0102】
図11(a)は加減速度が第1所定値を閾値として低減速側及び高減速側間をハンチングしうる状態を示す図であり、図11(b)はハンチング状態を示す図であり、図11(c)は本発明による実施例4の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例1を示す図であり、図11(d)は本発明による実施例4の変速制御装置におけるハンチング防止の変形例2を示す図である。図11を参照して、マップ切り替えのハンチングを防止する変形例1及び変形例2を説明する。
【0103】
例えば、図11(a)に示すように、加減速度の第1所定値を閾値とする状態判定が複数回発生する場合を考える(時刻T1〜T5)。尚、図11に示す“低”は低車速側に設定するダウンシフト待機線のマップの選択を意味しており、“高” は高車速側に設定するダウンシフト待機線のマップの選択を意味する。ここでは、図11(b)に示すように、ハンチングしうるような状況を考える。
【0104】
[変形例1]
図11(c)を参照するに、変形例1では、制御信号発生部104からの制御信号の発生の際に、低減速側から高減速側への切り替え時又は高減速側から低減速側への切り替え時に、所定時間CT1,CT2、切り替えを禁止する切り替え禁止領域を設ける。例えば、時刻T1で“低”→“高”の切り替えが生じてから所定時間CT1は、通常であれば切り替えが生じうる時刻T2、T3での切り替えを禁止して、所定時間CT1経過後に時刻T4で“高”→“低”の切り替えを許容し、時刻T4の切り替え許容後に更に所定時間CT2経過後の時刻T5での“低”→“高”の切り替えを許容する。所定時間CT1,CT2は、順次繰り返して用いることになるが、それぞれ異なる値を設定することもできるし、同一にすることもできる。この所定時間CT1,CT2は、切り替えの応答性を考慮して定めることができ、好適には短めに設定する。
【0105】
[変形例2]
図11(d)を参照するに、変形例2では、制御信号発生部104からの制御信号の発生の際に、低減速側から高減速側への切り替え時又は高減速側から低減速側への切り替え時に所定時間CT3のカウントを開始し、所定時間CT3だけ経過した後に、直前の閾値判定結果を反映させる状態継続領域を設ける。例えば、図11(d)に示す例では、時刻T1で“低”→“高”の切り替えを判断すると、所定時間CT3経過後に実行し、通常であれば切り替えが生じうる時刻T2,T3,T4,T5では、時間差T2−T3、時間差T3−T4、時間差T4−T5がいずれも所定時間CT3よりも短いので “高”→“低”の切り替えを許容しない。この状態継続時間となる所定時間CT3は、ハンチング防止を主に考慮して定めることができ、好適には長めに設定する。
【0106】
上述の各実施例では、走行状態に応じた複数のマップを設け、現在の走行状態に応じたマップを選択することで待機線を変更する構成を説明したが、以下のような構成とすることもできる。
【0107】
シフト待機線変更部103は、例えば、プリシフトマップを、例えば図5(a)のような1つのみ設定し、プリシフトさせるか否かの判断に用いる車速を走行状態に応じて補正するように構成することもできる。
【0108】
例えば、前述の図6(c)のダウンシフト待機線が車速30km/hに設定されているとして、現在の車速(例えば、40km/h)と現在の車両の減速度から所定時間後の車速(先読み車速)を演算する。演算した先読み車速が30km/hであるとされると(現在の車速が30km/hまで低下していなくても)ダウンシフト待機線に到達したとして、ダウンシフト待機状態とするよう制御信号を出力する。これにより、マップ内の待機線は変更しない分、使用する車速に補正をかけることで、同様の効果を得ることができる。
【0109】
また、上述の各実施例では、上記の走行モードは、自動変速モード走行中の動作について説明したが、マニュアル変速モード走行においても、上記の変速制御を継続することができる。即ち、上述の各実施例の変速制御装置は、マニュアル変速モード走行及び自動変速モード走行の双方において継続して制御することができる。特に、上述の各実施例では、マニュアル変速モード走行時においても、運転者の走行状況、及び変速意図に最適なプリシフト待機状態とすることができる。また、マニュアル変速モードから自動変速モードに復帰した際にも最適なプリシフト待機状態を保持することができる。
【0110】
また、上述の各実施例では、走行モードとしてエコモード、ノーマルモード、及びスポーティモード以外にも、登坂モード(変速線がノーマルモードより高車速側に設定される)や降坂モード(変速線がノーマルモードより低車速側に設定される)を含めることができ、登坂モード又は降坂モードのマップ選択により待機線を切り替えるように構成することができる。
【0111】
尚、図6及び図10で、ダウンシフト待機線とアップシプト待機線とで所定マージンを持たせている意図は、変速線のダウンシフト線とアップシフト線とで所定マージンを持たせている意図(ハンチング防止)と同様である。
【0112】
このように、前述した実施例では、特定の形態について説明したが、本発明は、前述した実施例に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。例えば、図3における各機能ブロックは例示にすぎず、各機能ブロックの処理手順を前後させて構成することもできる。従って、前述した実施例に限定されるものではなく、その主旨を逸脱しない範囲において多くの変形例を実現することができる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明によれば、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、車両の走行状態に応じて可変とすることができるため、安定且つ柔軟な変速制御を要する任意の変速制御の用途に有用である。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン
2 クランクシャフト
C1 奇数変速段クラッチ
C2 偶数変速段クラッチ
3 自動クラッチドラム
4 第1入力軸
5 第2入力軸
6 出力軸
7 クラッチハブ
8 クラッチハブ
10 カウンターシャフト
11 カウンターギヤ
12 出力歯車
G1 第1速歯車組
G2 第2速歯車組
G3 第3速歯車組
G4 第4速歯車組
G5 第5速歯車組
G6 第6速歯車組
GR 後退歯車組
21 第1速−後退用動機噛合機構
22 第3速−第5速用同期噛合機構
29 第6速用同期噛合機構
30 第2速−第4速用同期噛合機構
100 変速制御装置
101 変速指示解析部
102 走行状態判定部
103 シフト待機線変更部
103a シフト待機線保持部
103b シフト待機線選択部
104 制御信号発生部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで車両の変速の実行を制御する変速制御装置であって、
アップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行する際に、
現在の車両の走行状態を判定する走行状態判定部と、
現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更するシフト待機線変更部と、
を備えることを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
前記走行状態判定部は、現在の車両の走行状態を走行モードにより判定し、
前記シフト待機線変更部は、現在の車両の走行モードに応じて、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定するように、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記シフト待機線変更部は、現在の車両の走行モードに応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、当該変速線の変更量と同じだけ変更して、車両の走行モードがスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行モードがエコモードである場合には低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記走行状態判定部は、現在の車両の走行状態を車両の加減速度により判定し、
前記シフト待機線変更部は、車両の加減速度の情報に応じて、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記シフト待機線変更部は、
走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを保持するシフト待機線保持部と、
現在の車両の走行状態に応じて、前記シフト待機線保持部に保持されている当該走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択するシフト待機線選択部とを備え、
前記シフト待機線選択部による当該マップの選択により、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項6】
マニュアル変速モード走行及び自動変速モード走行の双方において継続して制御することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項1】
2つの発進クラッチを有する自動マニュアルトランスミッションで車両の変速の実行を制御する変速制御装置であって、
アップシフト待機線及びダウンシフト待機線に基づきプリシフトを実行し、且つ変速マップ内のアップシフト線及びダウンシフト線に基づき変速を実行する際に、
現在の車両の走行状態を判定する走行状態判定部と、
現在の車両の走行状態に応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更するシフト待機線変更部と、
を備えることを特徴とする変速制御装置。
【請求項2】
前記走行状態判定部は、現在の車両の走行状態を走行モードにより判定し、
前記シフト待機線変更部は、現在の車両の走行モードに応じて、車両の走行状態がスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行状態がエコモードである場合には低車速側に設定するように、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記シフト待機線変更部は、現在の車両の走行モードに応じて、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を、当該変速線の変更量と同じだけ変更して、車両の走行モードがスポーティモードである場合にはアップシフト待機線及びダウンシフト待機線を高車速側に設定し、車両の走行モードがエコモードである場合には低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記走行状態判定部は、現在の車両の走行状態を車両の加減速度により判定し、
前記シフト待機線変更部は、車両の加減速度の情報に応じて、加減速度≦第1所定値(負値)である場合には少なくともダウンシフト待機線を高車速側に設定し、第2所定値(正値)≦加減速度である場合には少なくともアップシフト待機線を低車速側に設定して、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記シフト待機線変更部は、
走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを保持するシフト待機線保持部と、
現在の車両の走行状態に応じて、前記シフト待機線保持部に保持されている当該走行状態ごとに対応するアップシフト待機線及びダウンシフト待機線のマップを選択するシフト待機線選択部とを備え、
前記シフト待機線選択部による当該マップの選択により、アップシフト待機線及びダウンシフト待機線を変更することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【請求項6】
マニュアル変速モード走行及び自動変速モード走行の双方において継続して制御することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の変速制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−216509(P2010−216509A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61374(P2009−61374)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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