説明

自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置

【課題】簡素でコンパクトな構造で緩衝器のストローク量を精度良く検出させる。
【解決手段】伸縮自在に嵌合したインナーチューブ6及びアウターチューブ5と、これらチューブの内部に配設された油圧緩衝用の作動油11と、伸縮によって容積を変化させる空気室2とを備えた自動二輪車の緩衝器1において、空気室2内に配設されて空気室内の空気圧を検出する圧力検出手段3と、圧力検出手段の検出値から緩衝器のストローク量を換算するストローク量演算手段20とを少なくとも備えたストローク検出装置34を採用する。緩衝器1の所定のストローク位置を検出して補正用の実ストローク量S2を計測するストローク位置検出手段14,15を備える。空気室2内に配設されて空気室内の空気温度を検出する温度検出手段4を備え、圧力検出手段3と温度検出手段4との検出値から緩衝器1のストローク量S1を換算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車の走行中のフロントフォーク等といった緩衝器のストロークを検出させる自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図8は、一般的なフロントフォーク(チェリアーニ式フローティングバルブタイプ、テレスコピック型)の構造を示すものである。フロントフォーク1は、車体に固定されたインナーチューブ6がアウターチューブ5内をスライドしながら、金属コイルばね35と空気室2内の空気圧力で荷重を支え、作動油11の流動で減衰力を発生させる緩衝器である。
【0003】
図8において、符号17は、アウターチューブ5とインナーチューブ6との間に介在させる摺動用のスライドメタル、符号32は、下側の圧縮側オリフィス孔32aと連通した上側の伸び側オリフィス孔32bを有する中空筒状のオイルシリンダ、符号36は、フローティングバルブ(減衰力発生バルブ)、符号37はリバウンドコイルばね(上端部のみを示す)、符号11aは、インナーチューブ内の作動油11の油面(作動油11はアウターチューブ5の底面からインナーチューブ6の高さ方向中間部まで充填されている)、符号2はインナーチューブ6内の空気室、符号19は、インナーチューブ6の上部開口を封止するキャップ、符号13は、インナーチューブ6の外面に摺接するオイルシール、符号33は水平なアクスルシャフト固定孔をそれぞれ示している。
【0004】
図8のフロントフォーク1’における走行中のストローク量は、空気室2の圧力・容積・断面積から決まる空気ばね特性と、金属ばね35のばね定数、金属ばね35に加える初期圧縮量から決まる金属ばね特性とを合成した特性で決定される。この合成特性を求めるための条件の一例を図9に示す。図9(a)のフロントフォーク1’の無負荷状態をストローク0mmとし、フロントフォーク(サスペンション)1’の縮み量をプラスのストローク量とし、図9(b)における最大ストローク量SMAXを110mmとした。
【0005】
図9において、符号35は、ばね定数7.84N/mmの金属ばね、符号SAは、金属ばねの初期圧縮量(20mm)、符号2は、圧力0kPa(G)の空気室、符号SBは空気室長さ(130mm)、符号Dは空気室内径(30mm)、符号11aは油面をそれぞれ示している。
【0006】
図9の条件から求めた、金属ばね特性と空気ばね特性を図10に示す。金属ばね特性はばね定数がストロークによって変化しないため一定の傾きである。空気ばね特性はストロークが少ない領域では変化が少なく、ストロークが増えるに従って傾きが大きくなる。合成特性は両者を足した特性であるため、ストロークの少ない領域では、少ない荷重変化でも大きくストロークが変化するが、フルストローク(110mm)に近い領域では、少ない荷重増加ではストローク増加量が少なくなるため、フルストローク(底付き)状態になり難くなっている。
【0007】
二輪車のフロントフォーク(サスペンション)1’のストロークを測定するストローク検出手段として、車体側(ばね上)に対してアクスルシャフト側(ばね下)の相対的な動き(変位)を電気信号に変換するストロークセンサ(図示せず)をフロントフォーク1’の外側に配置することが知られている。
【0008】
このストロークセンサ(図示せず)はロッドとシリンダとで成り、各端部に、車体側とアクスルシャフト側とに固定するための取付部品を備えたものである。ロッドはばね下側に固定され、シリンダは車体側(フロントフォークアウタ)に固定される。測定はロッドとシリンダの嵌合部のポテンショメータやエンコーダによって行われる。
【0009】
上記以外の自動二輪車の緩衝器のストローク量検出手段として(図示せず)、例えば、特許文献1には、下側のアウターチューブ内に上側のインナーチューブを摺動自在に挿入したテレスコピック型のフロントフォークにおいて、インナーチューブ内にシリンダ式の車高検出手段を配設し、車高検出手段の伸縮自在な下向きのピストンロッドをアウターチューブ内の固定側の内部シリンダの上端に固定して、車高検出手段の検出値に応じて車高をエア圧で自動調整することが記載されている。
【0010】
また、特許文献2には、同じくテレスコピック型の右側のフロントフォークに油圧ダンパー機構を設け、左側のフロントフォークの内部空間にストロークセンサを設けて、ダンパーの作動による熱影響を防いだことが記載されている。
【0011】
また、特許文献3には、ストローク検出手段ではないが、フロントフォーク内の空気圧と大気圧とを電磁弁の開閉によって半導体圧力センサで計測し、半導体圧力センサの計測誤差を消去しつつ、フロントフォーク内の空気圧をポンプで自動調整させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開昭60−53478号公報(第2図)
【特許文献2】特開平6−263078号公報(図1)
【特許文献3】特公平4−59574号公報(第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記従来のストロークセンサをフロントフォークの外側に配置してなるストローク検出手段にあっては、オフロード走行時に石や砂等が当たったり、転倒した際に破損を生じたり、雨や露の影響を受けやすいという問題があった。
【0014】
上記特許文献1,2に記載されたストローク検出手段にあっては、これらの問題は生じないが、フロントフォーク内に長いストロークセンサを配置するために、フロントフォークの構造が複雑化・大型化したり、車両走行中のフロントフォークの発熱の影響を避けるために片方のショックアブ機能を犠牲にしなければならないといった懸念があった。
【0015】
本発明は、上記した点に鑑み、ストロークセンサに依らずに簡素でコンパクトな構造でフロントフォーク等といった緩衝器のストローク量を検出することができ、それに加えてストローク量の検出精度を高めることのできる自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置は、伸縮自在に嵌合したインナーチューブ及びアウターチューブと、これらチューブの内部に配設された油圧緩衝用の作動油と、該伸縮によって容積を変化させる空気室とを備えた自動二輪車の緩衝器において、前記空気室内に配設されて該空気室内の空気圧を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段の検出値から前記緩衝器のストローク量を換算するストローク量演算手段とを少なくとも備えたことを特徴とする。
【0017】
上記構成より、緩衝器の上側又は下側のインナーチューブと下側又は上側のアウターチューブ内に作動油が注入され、作動油の例えば上側に空気室が構成される。空気室内の空気圧が圧力検出手段で検出され、この検出値がコントローラのストローク演算手段で緩衝器のストローク量に換算される。圧力検出手段は一例として圧力センサである。演算にはボイルの法則(PV=kすなわち圧力と容積は反比例すること)が適用される。圧縮時のストローク量は空気室の圧力に比例し、空気室の容積に反比例する。インナーチューブとアウターチューブは摺動自在に嵌合しているから、インナーチューブの径はストローク範囲において均一である。
【0018】
請求項2に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置は、請求項1記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置において、前記緩衝器の所定のストローク位置を検出して補正用の実ストローク量を計測するストローク位置検出手段を備えたことを特徴とする。
【0019】
上記構成により、圧力検出手段に基づく予測ストローク量がストローク位置検出手段による実ストローク量で逐一補正され、測定精度が高まる。
【0020】
請求項3に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置は、請求項1又は2記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置において、前記空気室内に配設されて該空気室内の空気温度を検出する温度検出手段を備え、前記ストローク量演算手段が、前記圧力検出手段と該温度検出手段との検出値から前記緩衝器のストローク量を換算することを特徴とする。
【0021】
上記構成により、空気室内の空気温度が温度検出手段で検出され、前記圧力検出手段の検出値と温度検出手段の検出値とに基づいてストローク量演算手段が緩衝器のストローク量を算出する。温度検出手段は一例として温度センサである。演算にはボイル−シャルルの法則(圧力は容積に反比例し、絶対温度に比例すること)が適用される。
【0022】
請求項4に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置は、請求項2記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置において、前記ストローク量演算手段は、前記緩衝器の初期空気室容積と作動油漏れ量とに対応する少なくとも空気圧、ストローク量のマップデータを備え、前記ストローク位置検出手段のストローク位置検出信号に基づいて検出した実ストローク量と、該初期空気室容積に対応したマップデータの予測ストローク量とを比較して、比較値に差がある場合に、該実ストローク量に基づく該作動油漏れ量に対応したマップデータを選択してストローク量を補正する補正手段を有することを特徴とする。
【0023】
上記構成により、作動油漏れ量に応じて空気室容積が変化することに対応して作動油漏れ量と空気圧ごとのストローク量のマップデータが事前に用意され、作動油漏れがあった場合に空気室容積が増加して空気室圧力が減少し、初期空気室容積(作動油漏れ量0)のマップデータを用いた圧縮時の予測ストローク量がストローク位置検出手段による実ストローク量よりも減少するが、この予測ストローク量の変化(減少)分から作動油漏れ量が判定され、その漏れ量すなわち実ストローク量と圧力検出手段による検出圧力とを満たす漏れ量のマップデータを用いて(マップデータを入れ替えて)正確な予測ストローク量が検出される。ストローク位置検出手段は必ずしも緩衝器の一ストロークごとに作動する訳ではないので、空気圧に基づくストローク量予測が必要となる。ストローク位置検出手段で逐一補正がなされるので、温度検出手段は必ずしも使用する(作動させる)必要はない。
【0024】
請求項5に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置は、請求項3記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置において、前記ストローク量演算手段は、前記緩衝器の初期空気室容積と作動油漏れ量とに対応する空気圧、空気温度、ストローク量の三次元マップデータを備え、前記ストローク位置検出手段のストローク位置検出信号に基づいて検出した実ストローク量と、該初期空気室容積に対応した予測ストローク量とを比較して、比較値に差がある場合に、該実ストローク量に基づく該作動油漏れ量に対応したマップデータを選択してストローク量を補正する補正手段を有することを特徴とする。
【0025】
上記構成より、作動油漏れ量に応じて空気室容積が変化することに対応して漏れ量と空気圧と空気温度ごとのストローク量の三次元マップデータが事前に用意され、作動油漏れがあった場合に空気室容積が増加して空気室圧力が減少し、初期空気室容積(作動油漏れ量0)のマップデータを用いた圧縮時の予測ストローク量がストローク位置検出手段による実ストローク量よりも減少するが、この予測ストローク量の変化(減少)分から作動油漏れ量が判定され、その漏れ量すなわち実ストローク量と圧力・温度検出手段による検出圧力とを満たす漏れ量のマップデータを用いて(マップデータを入れ替えて)正確な予測ストローク量が検出される。ストローク位置検出手段は必ずしも緩衝器の一ストロークごとに作動する訳ではないので、空気圧と空気温度に基づくストローク量予測が必要となる。
【0026】
請求項6に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置は、請求項2〜5の何れかに記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置において、前記ストローク位置検出手段が検出するストローク位置は、前記緩衝器の全ストローク量の少なくとも半分以上のストローク位置であって、通常使用状態でストローク可能な範囲内に設定されたことを特徴とする。
【0027】
上記構成により、車両の走行中にストローク位置検出手段が頻繁にストローク位置を検出し、予測ストローク量の補正が頻繁に行われて、ストローク量の検出精度が高まる。ストローク位置検出手段が検出するストローク位置は、空気室圧力の計測誤差が増加する緩衝器の圧縮行程の後半(最圧縮位置寄り)であることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
請求項1記載の発明によれば、従来の伸縮構造のポテンショメータやエンコーダといったストロークセンサに較べて圧力検出手段を小型化することができ、既存の緩衝器の油圧緩衝機構をそのまま流用し、且つ空気室内のスペースを有効活用して、空気室側に少し手を加えるだけで、簡単且つ低コストにストローク量を検出することができる。また、圧力検出手段を緩衝器の内部に配置することで、圧力検出手段の耐久性を高めると共に運転操作の邪魔になることを防ぐことができる。
【0029】
請求項2記載の発明によれば、圧力検出手段に基づく予測ストローク量をストローク位置検出手段による実ストローク量で補正することで、作動油漏れ等に起因する測定誤差をなくして測定精度を高めることができる。
【0030】
請求項3記載の発明によれば、温度検出手段で緩衝器の走行中の温度変化や外気温の変化に対応して正確なストローク量を検出させることができる。また、温度検出手段は小型であるので、既存の緩衝器の油圧緩衝機構をそのまま流用し、且つ空気室内のスペースを有効活用して、空気室側に少し手を加えるだけで、簡単且つ低コストにストローク量を正確に検出することができる。また、温度検出手段を緩衝器の内部に配置することで、温度検出手段の耐久性を高めると共に運転操作の邪魔になることを防ぐことができる。
【0031】
請求項4記載の発明によれば、圧力・ストローク量のマップデータに基づいてストローク量を演算することで、ストローク量の算出を短時間で素早く且つ低コストで行うことができる。また、作動油の漏れ量に応じた複数のマップデータを用いて予測ストローク量の算出精度を高めることができる。
【0032】
請求項5記載の発明によれば、圧力・温度・ストローク量の三次元マップデータに基づいてストローク量を演算することで、ストローク量の算出を短時間で素早く且つ正確に行うことができる。また、作動油の漏れ量に応じた複数のマップデータを用いて予測ストローク量の算出精度を高めることができる。
【0033】
請求項6記載の発明によれば、車両の走行中に予測ストローク量の補正を頻繁に行ってストローク量の検出精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置の一実施形態を示す、(a)は緩衝器伸長時の側面図、(b)は緩衝器圧縮時の側面図である。
【図2】緩衝器ストローク検出装置の圧力センサや温度センサからストロークを求める方法を示す説明図である。
【図3】緩衝器の作動油漏れ量と空気室圧力とストロークの関係を示すグラフである。
【図4】作動油漏れに対応したストローク量補正センサを用いた実施形態を示す、(a)は無負荷時(ストローク0mm)の縦断面図、(b)はストローク時の補正センサの距離検知位置の縦断面図である。
【図5】緩衝器ストローク検出装置の作用を示すシステム構成図である。
【図6】緩衝器ストローク検出装置の作用を示すフローチャートである。
【図7】緩衝器ストローク検出装置の一変形例を説明するための側面図である。
【図8】既存の一般的な緩衝器(フロントフォーク)の構造を示す縦断面図である。
【図9】既存の緩衝器の動作を示す、(a)は無負荷時(ストローク0mm)の縦断面図、(b)は圧縮時の縦断面図である。
【図10】既存の緩衝器における金属ばねと空気ばねの荷重とストロークの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1〜図6は、本発明に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置の一実施形態を示すものである。
【0036】
図1(a)(b)の如く、この緩衝器ストローク検出装置は、従来のストロークセンサを用いずに、フロントフォーク1内の空気室2に圧力センサ(圧力検出手段)3と温度センサ(温度検出手段)4とを配設して、空気室2の圧力からストローク量を換算させるものである。圧力センサ3や温度センサ4はフロントフォーク1の内側に配置されているので、オフロード走行時の土や石等に曝されたり、転倒時の直接的なダメージを受けることがない。
【0037】
図1において、符号5は、フロントフォーク1における下側のアウターチューブ、符号6は、アウターチューブ5内に上下方向摺動自在に嵌合した上側のインナーチューブ、符号7は車輪、符号8は、車輪7にアウターチューブ5の下端部を固定するアクスルシャフトをそれぞれ示している。
【0038】
圧力センサ3と温度センサ4はインナーチューブ6の上端壁9の内面に固定され、各センサ3,4のリード線10は上端壁9の不図示の孔部を貫通して外部に導出されている。リード線10の外周面と不図示の孔部の内周面との間は不図示のゴムパッキン等で防水処理がなされている。
【0039】
図1(a)のフロントフォーク1の伸長時におけるアウターチューブ5の上端からインナーチューブ6の上端までの距離を符号H1、図1(b)のフロントフォーク1の圧縮時における同じく距離を符号H2で示している。距離H1−距離H2=ストローク量Sである。インナーチューブ6の内径は全ストロークの範囲において均一であり、フロントフォーク1(インナーチューブ6)内の作動油11の油面11aの位置は大きく変化せず(インナーチューブ6の周壁の断面積×ストロークでなる体積分だけ変化する)、油面11aの上側の空気室2の容積すなわち圧力がフロントフォーク1の伸縮によって大きく変動する。
【0040】
この空気室2の圧力を圧力センサ3で計測し、圧力の変化量をストロークの変化量に換算する。これにはボイルの法則(PV=k)を用いて、圧力Pと容積Vが反比例することを利用する。フロントフォーク(サスペンション)1が伸縮すると、空気室2の容積が変化し、圧力も変化するが、この時、油面11aの面積が変化しなければ、すなわちインナーチューブ2の内径Dが一定であれば、圧力変化は空気室2の高さ変化と捉えることができる。
【0041】
図1(a)のフロントフォーク1の伸長状態から図1(b)の圧縮状態になるに伴って、インナーチューブ6内の空気室2の体積Vが減少しつつ圧力Pが上昇し、圧縮ストローク量Sは圧力Pと比例し、体積Vと反比例して増加する。また、図1(b)の圧縮状態から図1(a)の伸長状態になるに伴って、空気室2の体積Vが増加しつつ圧力Pが減少し、伸長ストローク量Sは圧力Pと反比例し、体積Vと比例して増加する。本実施形態では圧縮時のストローク量に基づいて説明する。
【0042】
また、ボイル−シャルルの法則(PV/T=k)を用いて、圧力Pと温度(絶対温度すなわち273+t°C)Tないしは容積Vと温度(絶対温度)Tが比例することをも利用する。計測時には空気室2の温度変化も伴うが、圧力と温度を同時に測ることにより、温度変化による圧力変化にも対応することができる。空気室2の温度変化は外気温の変化に加えてフロントフォーク1の加振時(減衰力発生時)の作動油温の上昇によっても生じる。
【0043】
図2に示すフローチャートのように圧力センサ3と温度センサ4からフロントフォーク1のストローク量S1を求める。
【0044】
すなわち、車体に搭載した不図示のコントローラの記憶装置に圧力と温度とストローク量の三次元マップデータ12を予め記憶させておき、図1のフロントフォーク1内の圧力センサ3と温度センサ4の計測値(ステップ21)をコントローラに入力して、三次元マップデータ12からその時の圧力Pと温度Tに対応するストロークを求めて(ステップ22)、ストローク量S1として出力させる(ステップ23)。
【0045】
また、フロントフォーク1は構造上、背景技術の図8のインナーチューブ6とオイルシール13との隙間から作動油11が滲み出るようになっている。このため、車両の走行を繰り返すと作動油11の量が微減して空気室2の容積Vが増加し、空気室2の圧力Pからストロークを正しく推定できなくなってしまう(正確なストローク量に対してずれ量を生じてしまう)。この点を解消するために、フロントフォーク1内の一箇所にストローク量補正センサ14(図4)を設置している。
【0046】
背景技術の図9に示した条件を元に、作動油11の漏れ量によるストローク量Sと空気室2の圧力Pの関係を計算した結果を図3に示す。図3において横軸は圧縮方向ストロークS(mm)、縦軸は空気室圧力(KPa(G))であり、図3の上側の曲線は作動油漏れなし(0cc)時のデータ、下側の曲線は作動油5cc漏れ時のデータ、さらにその下側の部分的に示す曲線は作動油10cc漏れ時のデータである。
【0047】
図3から、圧縮ストローク量Sの小さな領域(例えば0〜60mm程度の領域)では作動用11が漏れていても圧力Pの変化は少ないが、ストローク量Sが大きくなると矢印範囲ΔPで示す如く圧力変化も大きくなることが分かる。例えば、作動油11が10cc漏れた状態で100mmストロークさせた場合(図3の点16位置参照)、点16位置の圧力220kPa(G)から求めた作動油漏れなしデータの予測ストローク量S1は90.1mmとなり、実際のストローク量(100mm)よりも9.9mm減ってしまう(図3の矢印範囲ΔSは圧力センサ3のみを使用した場合のストローク誤差を示す)。
【0048】
ストロークのずれ量ΔSを補正するストローク量補正センサ14(図4)を採用することにより、空気室2の圧力Pから得たストローク量S1を走行中(計測中)にリアルタイムで逐一補正することが可能となる。
【0049】
図4(a)(b)に上記フロントフォーク1におけるストローク量補正センサ14の配置の一例を示す如く、フロントフォーク1のインナーチューブ6側にストローク量補正センサ(ストローク位置検出手段)14を固定して取り付け、アウターチューブ5側にストローク量補正センサ14を反応させる位置検出体(ストローク位置検出手段)15を固定して取り付ける。
【0050】
例えば、図4(a)のインナーチューブ6の伸長状態で、インナーチューブ6とアウターチューブ5との間に介在された上下のスライドメタル17の間で、インナーチューブ6の内側のピストン18よりも下側において、インナーチューブ6に貫通して設けた不図示の径方向の孔部にストローク量補正センサ14が液密に挿入固定され、ストローク量補正センサ14の不図示のリード線がインナーチューブ6内で例えばピストン18の不図示の孔部を通って(ピストン18には複数の孔部が軸方向に貫通して設けられている)、インナーチューブ6の上端のキャップ19の不図示の孔部から外部に液密に導出される。また、アウターチューブ5の内面に設けた凹部5a内に位置検出体15が固定され、検出体15の内面(露出面)15aが下側(インナーチューブ6側)のスライドメタル17と干渉しないようにアウターチューブ5の内面と同一面に配置される。
【0051】
図4(b)の如くストローク量補正センサ14が検出体15に最も近づいた位置で例えば信号、電圧、電流等を出力する。これによって、一点における正確なストローク量を把握することができ、ストローク量補正センサ14が検出体15を通過した時にストローク量を補正することができる。
【0052】
例えば、ライダーがオートバイ(車両)に乗車して停止した状態(1G位置)で、不図示の基準位置入力ボタン(リセットスイッチ)を押すことで、基準位置入力ボタンの信号がコントローラ20(図5)に入力されて、例えば図4(a)の伸長時のストローク量補正センサ14のストロークが0mm(初期値)に設定される。次いで図4(b)の圧縮時にストローク量補正センサ14が検出体15を検知した信号がコントローラ20(図5)に入力されてインナーチューブ6の実ストロークが計測される。
【0053】
なお、基準位置入力ボタンに代えて、検出体15をアウターチューブ5の上下に二つ配置し(図示せず)、二つの検出体15,15の間の距離を規定し、その間においてインナーチューブ6側のストローク量補正センサ14を通過させるようにすることも可能である。
【0054】
その場合は、図4(a)において補正センサ14が上側の検出体15を通過した際に補正センサ14の信号がコントローラ20(図5)に入力されて、ストロークが0mm(初期値)に設定(リセット)され、次いで図4(b)の如く補正センサ14が下側の検出体15を通過した際に、補正センサ14の信号がコントローラ20(図5)に入力されてインナーチューブ6の実ストロークが計測される。これにより、油漏れによるストローク計測精度が高まる。
【0055】
ストローク量補正センサ14のセンシング方法は、接触式、非接触式のどちらでも可能である。非接触式であれば、渦電流の補正センサ14をインナーチューブ6に取り付け、アウターチューブ5側に鉄製の検出体15を取り付けることが好ましい。補正センサ14をアウターチューブ5に取り付け、インナーチューブ6側に検出体15を取り付けることも可能である。アウターチューブ5は一般的にアルミ合金製であるので、鉄製の検出体15を用いることで、渦電流センサ4の検出性能が高まる。
【0056】
ストローク量補正センサ14の取付位置に関し、サスペンションストローク量に対する補正センサ14と検出体15の位置は、ストロークが大きい領域で且つ通常の使用ストローク範囲内に設置することが好ましい。ストローク量が小さい場合は、作動油11が漏れても空気室2の圧力の変化は少なく、また、フルストローク時には空気室2の圧力の誤差が最大になるので、フルストローク時に補正すると精度は良くなるが、一般走行においてフルストロークさせる回数は少なく、補正される回数が減ってしまう。
【0057】
このため、通常の走行でストロークできる範囲に補正センサ14と検出体15を取り付ける。例えば図4のサスペンションの場合はフルストロークが110mmなので(図3参照)、圧縮ストローク量が80mmから100mmの範囲に補正センサ14と検出体15を取り付ける。
【0058】
なお、サスペンションとは少なくともショックアブゾーバとスプリングを含むものであり、フロントフォーク1と同じ意味である。リヤサスペンションはショックアブゾーバの外側にスプリングがある点でフロントサスペンションとは構造が相違する。緩衝器とはフロントサスペンションやリヤサスペンションのことである。
【0059】
以下にストロークの補正方向について図5,図6を用いて説明する。
【0060】
図5の如く、ストローク量は圧力センサ3、温度センサ4、ストローク量補正センサ14の情報(空気室圧力データ、空気室温度データ、ストロークデータ)を元に、車体26に搭載されたコントローラ20が決定する。コントローラ20の内部には、圧力・温度変化をストロークに変換するためにデータベース12がある。このデータベース12は計算や実験の結果を元に事前に準備しておく。コントローラ20はストローク量演算手段を含むものである。
【0061】
図6の如く、圧力センサ3と温度センサ4によるストローク量計測中に(ステップ21)、ストローク量補正センサ14からの入力があった場合、圧力・温度データから求めたストローク量S1と(ステップ22)、ストローク補正センサ14で求めたストローク量S2との差を求める(ステップ27)。この差がある場合、作動油11の漏れがあると判断し、ストローク補正センサ14で求めたストローク量S2に対応した、漏れていない場合の(初期空気室容積における)空気室圧力(高い圧力値となる)と、圧力センサ3で計測した空気室圧力(低い圧力値となる)との圧力差から漏れ量を求め(ステップ28)、すなわち図3において実ストローク量S2と計測した空気室圧力とを満たす点(例えば図3の符号16)ないしはその近傍を通る漏れ量の線図(例えば図3の10cc漏れの線図)を選択し、その線図のデータを含む漏れ量に合ったマップデータ12を用いて、圧力・温度データから真のストローク量を算出する(ステップ22)。
【0062】
圧力・温度データから求めたストローク量S1と(ステップ22)、ストローク補正センサ14で求めたストローク量との差(ステップ27)がゼロである場合は、圧力・温度データから求めたストローク量S1(ステップ22)が真のストローク量となる(ステップ29)。
【0063】
車両の走行は作動油が漏れた状態でも継続されるので、ストローク量の補正時に例えば5ccの漏れ量の線図(図3)のデータを含むマップデータ12を用いた場合はそのマップデータが基準となり、5cc漏れのマップデータの予測ストローク量S1に対してストローク補正センサ14の実ストローク量S2で補正が行われ、例えば10cc漏れのマップデータを選択して真のストローク量が検出される。
【0064】
図5の如く、アウターチューブ5にストローク位置検出体15が配置され、インナーチューブ6に圧力センサ3と温度センサ4とストローク量補正センサ14が配置され、車体26にコントローラ20が配置される。圧力センサ3の空気室圧力データと温度センサ4の空気室温度データとストローク量補正センサ14のストロークデータとがコントローラ20に送られる。コントローラ20内に圧力・温度変化をストロークに変換するためのデータ12が予め入力され、コントローラ20はストローク量表示装置24と計測データの記憶装置25に接続されている。これら圧力センサ3と温度センサ4とストローク量補正センサ14と検出体15とコントローラ20とストローク量表示装置24と計測データの記憶装置25とで緩衝器ストローク検出装置34を構成する。
【0065】
図6におけるステップ28には図3と同じデータが表示(入力)されている。圧力・温度・ストローク量の三次元マップデータ12は作動油漏れ0cc、5cc、10cc以外に例えば1cc毎に細かく細分化可能である。
【0066】
上記実施形態の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置によれば、フロントフォーク1内部に各センサ類すなわち圧力センサ3、温度センサ4、ストローク量補正センサ14、ストローク検出体15を設定したことで、例えばオフロードでの走行で土、石等に曝されることがなく、転倒時にも直接的なダメージを受けることがない。
【0067】
また、ストローク量補正センサ14と作動油11の漏れ量を判定し、漏れ量に合ったマップデータ12からストロークを求めるコントローラ20を備えたことで、フロントフォーク1内の空気室2の圧力変化からストロークを算出する際に、オイルシール部13(図4)等からの油漏れにより正確な値を計測できなくなる場合に対応して、それを補正するための機構によってストローク検出精度を高めることができる。
【0068】
また、ストローク検出体15を検出する際のストローク量補正センサ14の位置が圧縮ストロークの後半にあり、通常の使用においても検出体15を検出できる位置にあることで、ストローク量が小さな場合は作動油が漏れても空気室圧力の変化は少なく、フルストローク時に空気室圧力の誤差が最大になって、フルストローク時に補正すると精度も良くなるが、補正される回数が少なくなってしまうことを防ぐことができる。
【0069】
上記自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置の変形例として、前述の如く、ストローク位置検出体15を上下二箇所ないしはそれ以上に設置して、油漏れによるストローク計測精度を向上させることも可能である。
【0070】
また、図7に示す如く、通常のフロントフォーク1は、アウターチューブ5に対してインナーチューブ6が矢印Aの如く周方向に回転しても組み立てられる構造になっているのに対応して、ストローク位置検出体15(図4)をリング形状にすることで、補正センサ14を取り付けたインナーチューブ6をアウターチューブ5に対してどのような回転角度でも組み立てることができる。図7で符号30は目印、鎖線で示す符号30はインナーチューブ回転後の目印を示す。
【0071】
また、ストローク検出体15をアウターチューブ5ではなく、例えばアウターチューブ5内の中空のオイルシリンダ32(図4)等といったように、アクスルシャフト8(図1)と固定されている部品に取り付けることも可能である。
【0072】
また、上記実施形態においては、圧力センサ3と温度センサ4との両方を用いたが、例えば作動油11の温度変化が少ない場合等においては温度センサ4を省略して、あるいは温度センサ4を作動させずに、圧力センサ3のみでストロークを検出させることも可能である。この場合、ストローク補正センサ14の併用は有効である。
【0073】
すなわち、空気圧、ストローク量のマップデータ(12)を用い、ストローク位置検出手段14,15のストローク位置検出信号に基づいて検出した実ストローク量S2と、例えば図3の作動油漏れなし時の圧力・ストローク線図における圧力センサ3の計測値に応じた予測ストローク量S1とを比較して、比較値に差がある場合に、実ストローク量S2と圧力センサ3の計測値とを満たす点(例えば図3の符号16)を通るないしはその点の近傍を通る漏れ量の線図(例えば図3の10cc漏れの線図)のデータを含むマップデータ(12)を選択してストローク量を補正して真のストローク量を検出させる。
【0074】
また、上記実施形態においては、チェリアーニ式のテレスコピック型のフロントフォーク1を用いた例で説明したが、それ以外に、正立型(図8の例)や倒立型であっても、空気室(ガス室)2を上部ないしは下部に有するタイプの緩衝器であれば、フロント用やリヤ用等を問わず上記緩衝器ストローク検出装置を適用可能である。また、上記実施形態で説明した構成は緩衝器ストローク検出装置として以外に緩衝器ストローク検出方法としても有効なものである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明に係る自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置は、ストロークセンサに依らずに簡素でコンパクトな構造でフロントフォーク等といった緩衝器のストローク量を正確に検出して、自動二輪車の例えば前後の車高のバランスを確認したり、車高をエア圧で自動調整したりするために利用することができる。
【符号の説明】
【0076】
1 フロントフォーク(緩衝器)
2 空気室
3 圧力センサ(圧力検出手段)
4 温度センサ(温度検出手段)
5 アウターチューブ
6 インナーチューブ
11 作動油
12 マップデータ
14 ストローク量補正センサ(ストローク位置検出手段)
15 検出体(ストローク位置検出手段)
20 コントローラ(ストローク量演算手段)
34 緩衝器ストローク検出装置
S1 予測ストローク量
S2 実ストローク量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮自在に嵌合したインナーチューブ及びアウターチューブと、これらチューブの内部に配設された油圧緩衝用の作動油と、該伸縮によって容積を変化させる空気室とを備えた自動二輪車の緩衝器において、
前記空気室内に配設されて該空気室内の空気圧を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段の検出値から前記緩衝器のストローク量を換算するストローク量演算手段とを少なくとも備えたことを特徴とする自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置。
【請求項2】
前記緩衝器の所定のストローク位置を検出して補正用の実ストローク量を計測するストローク位置検出手段を備えたことを特徴とする請求項1記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置。
【請求項3】
前記空気室内に配設されて該空気室内の空気温度を検出する温度検出手段を備え、前記ストローク量演算手段が、前記圧力検出手段と該温度検出手段との検出値から前記緩衝器のストローク量を換算することを特徴とする請求項1又は2記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置。
【請求項4】
前記ストローク量演算手段は、前記緩衝器の初期空気室容積と作動油漏れ量とに対応する少なくとも空気圧、ストローク量のマップデータを備え、前記ストローク位置検出手段のストローク位置検出信号に基づいて検出した実ストローク量と、該初期空気室容積に対応したマップデータの予測ストローク量とを比較して、比較値に差がある場合に、該実ストローク量に基づく該作動油漏れ量に対応したマップデータを選択してストローク量を補正する補正手段を有することを特徴とする請求項2記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置。
【請求項5】
前記ストローク量演算手段は、前記緩衝器の初期空気室容積と作動油漏れ量とに対応する空気圧、空気温度、ストローク量の三次元マップデータを備え、前記ストローク位置検出手段のストローク位置検出信号に基づいて検出した実ストローク量と、該初期空気室容積に対応した予測ストローク量とを比較して、比較値に差がある場合に、該実ストローク量に基づく該作動油漏れ量に対応したマップデータを選択してストローク量を補正する補正手段を有することを特徴とする請求項3記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置。
【請求項6】
前記ストローク位置検出手段が検出するストローク位置は、前記緩衝器の全ストローク量の少なくとも半分以上のストローク位置であって、通常使用状態でストローク可能な範囲内に設定されたことを特徴とする請求項2〜5の何れかに記載の自動二輪車の緩衝器ストローク検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−240439(P2012−240439A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109246(P2011−109246)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】