自動変速機の制御装置
【課題】自動変速機において摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少して運転者が受ける変速フィーリングを改善するようにした自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】変速先の速度段の油圧クラッチ(摩擦係合要素)に供給すべき油圧の指令値QAT0,QAT1,QAT2を算出し、算出された油圧の指令値に基づいて油圧を供給する自動変速機の制御装置において、供給された油圧QAT1,QAT2が所定値に達するまでの車両の加速度G(G波形)の時間的変化量(傾きA)と所定値に達した後の時間的変化量(傾きB)を比較し(S300からS310,S314)、比較結果に応じて所定値に達するまでの油圧の指令値QAT1を増減する(S312,S316からS318)。次回以降の変速時、増減された油圧の指令値に基づいて変速先の速度段の油圧クラッチに油圧を供給する。
【解決手段】変速先の速度段の油圧クラッチ(摩擦係合要素)に供給すべき油圧の指令値QAT0,QAT1,QAT2を算出し、算出された油圧の指令値に基づいて油圧を供給する自動変速機の制御装置において、供給された油圧QAT1,QAT2が所定値に達するまでの車両の加速度G(G波形)の時間的変化量(傾きA)と所定値に達した後の時間的変化量(傾きB)を比較し(S300からS310,S314)、比較結果に応じて所定値に達するまでの油圧の指令値QAT1を増減する(S312,S316からS318)。次回以降の変速時、増減された油圧の指令値に基づいて変速先の速度段の油圧クラッチに油圧を供給する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動変速機の制御装置に関し、より具体的には変速時の油圧(作動油の圧力)の制御特性を改良した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1において、複数個のギヤと油圧クラッチ(摩擦係合要素)を備え、油圧クラッチに油圧(作動油の圧力)を給排させて変速する自動変速機の制御装置において、変速時の油圧の制御特性を改良する技術が提案されている。
【0003】
この油圧クラッチの油圧の立ち上がり特性は種々の要因の影響を受ける。即ち、油圧クラッチには本来的にクリアランス(間隙)がある。また、それに加え、油圧クラッチのピストンが油圧の供給に応じて移動してクラッチディスクをクラッチプレートに押し付けるとき、押し付け時の衝撃を緩和するように皿バネ(ウエーブスプリング)が介挿されると共に、油圧回路には作動油の流れを円滑にするためにアキュムレータが配置されるが、それらも油圧の立ち上がり特性に影響を与えることから、それらのクラッチ・クリアランスなどの部位が作用する領域(同図に「油圧中折れ時間」と示す)と作用した後の領域とで別々に設定された特性を油圧指令値などから検索して制御していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−165290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、油圧クラッチの油圧の立ち上がり特性に影響する要因は上記に止まらず、関係する電磁ソレノイドの電流−圧力特性の個体ばらつきや油圧回路の配管の製造ばらつきも影響する。この油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響によって運転者が受ける変速フィーリングも相違することから、要因の如何に関わらず、摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少することが望まれていた。
【0006】
この発明の目的は上記した課題を解決し、自動変速機において摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少して運転者が受ける変速フィーリングを改善するようにした自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、車両に搭載された内燃機関に接続されると共に、複数個のギヤと摩擦係合要素を備え、現在の速度段の摩擦係合要素から油圧を排出させる一方、変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給して前記複数個のギヤのうちの前記変速先の速度段に相応するギヤを介して前記内燃機関の出力を変速する自動変速機の制御装置において、前記変速先の速度段の摩擦係合要素に供給すべき油圧の指令値を算出する油圧指令値算出手段と、前記算出された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する油圧供給手段と、前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、前記供給された油圧が所定値に達するまでの前記車両の加速度と前記所定値に達した後の前記車両の加速度とを比較する車両加速度比較手段と、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記油圧の指令値を増減する油圧指令値増減手段とを備えると共に、前記油圧供給手段は、次回以降の変速時、前記増減された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する如く構成した。
【0008】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値とそれに続くトルク相の制御圧の指令値からなると共に、前記油圧指令値増減手段は、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記トルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成した。
【0009】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧指令値増減手段は、前記トルク相において前記供給された油圧が前記所定値に達するまでの前記車両の加速度の時間当たりの変化量と前記所定値に達した後の前記車両の加速度の時間当たりの変化量が同一となるように、前記トルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成した。
【0010】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧指令値増減手段は、前記変速準備用の準備圧が規定値に達するまでの時間を計測する時間計測手段と、前記計測された時間を所定時間と比較する時間比較手段とを備え、前記時間比較手段の比較結果に応じて前記変速準備用の準備圧の指令値を増減する如く構成した。
【0011】
請求項5に係る自動変速機の制御装置にあっては、少なくとも前記内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータに基づいて前記変速するときのトルク相の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段と、前記内燃機関の運転状態を示すパラメータに基づいて前記内燃機関の出力トルクを推定する機関出力トルク推定手段と、前記変速先の摩擦係合要素の伝達トルクの初期値が経時的に増加して前記算出されたトルク相の目標時間の終端時に前記算出された内燃機関の出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段と、前記算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段とを備えると共に、前記油圧指令値算出手段は、少なくとも前記変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域と前記部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して前記変速先の摩擦係合要素に供給すべき変速準備用の準備圧の指令値を算出する如く構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る自動変速機の制御装置にあっては、変速先の速度段の摩擦係合要素に供給すべき油圧の指令値を算出し、それに基づいて油圧を供給し、供給された油圧が所定値に達するまでの車両の加速度と達した後の車両の加速度とを比較し、比較結果に応じて所定値に達するまでの油圧の指令値を増減すると共に、次回以降の変速時、増減された油圧の指令値に基づいて変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する如く構成、即ち、供給された油圧が所定値に達する前後の車両の加速度を比較し、比較結果に応じて増減された指令値に基づいて油圧を供給するように構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度に基づいて供給油圧を増減することで、クリアランス、皿バネ、アキュムレータ、電磁ソレノイドの電流−圧力特性、さらには油圧回路の配管の製造ばらつきなどの要因の如何に関わらず、油圧クラッチなどの摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0013】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値とそれに続くトルク相の制御圧の指令値からなると共に、比較結果に応じて所定値に達するまでのトルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度からトルク相の初期の供給油圧を増減することで、摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0014】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、トルク相において供給された油圧が所定値に達するまでの車両の加速度の時間当たりの変化量と所定値に達した後の車両の加速度の時間当たりの変化量が同一となるように、トルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成したので、上記した効果に加え、トルク相において運転者は同一の車両加速度を受け続けることとなり、摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0015】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、変速準備用の準備圧が規定値に達するまでの時間を計測し、計測された時間を所定時間と比較すると共に、その比較結果に応じて変速準備用の準備圧の指令値を増減する如く構成したので、上記した効果に加え、トルク相に先立つ変速準備用の準備圧に対しても摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0016】
請求項5に係る自動変速機の制御装置にあっては、少なくとも内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータに基づいて変速するときのトルク相の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段と、内燃機関の運転状態を示すパラメータに基づいて内燃機関の出力トルクを推定する機関出力トルク推定手段と、変速先の摩擦係合要素の伝達トルクの初期値が経時的に増加して算出されたトルク相の目標時間の終端時に算出された内燃機関の出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段と、算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段とを備えると共に、油圧指令値算出手段は、少なくとも変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域と部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して変速先の摩擦係合要素に供給すべき変速準備用の準備圧の指令値を算出する如く構成したので、換言すれば、実際に変速動作が可能となる油圧までの立ち上がりを時間で管理するのではないことから、特に油圧クラッチなどの摩擦係合要素のクリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積(ボリューム)が変化して時間が増減しても、その影響を減少させることができ、変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0017】
また、トルク相の目標時間を少なくとも内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ、具体的にはアクセル開度に基づいて算出すると共に、初期値からその目標時間の終端時の内燃機関出力トルク相当値に到達するまでの間の目標傾きを算出し、それに基づいて油圧の指令値を算出するようにしたので、例えばアクセル開度が大きいときはトルク相の目標時間を短くして目標傾きを急峻とする一方、アクセル開度が小さいときは目標時間を長くして目標傾きをなだらかとするなど、変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す自動変速機の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図3】図2で予定する変速のタイム・チャートである。
【図4】図2フロー・チャートの変速制御処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図5】図4の処理を説明するタイム・チャートである。
【図6】図5の処理で使用される特性を示す説明グラフである。
【図7】同様に図5の処理で使用される特性を示す説明図である。
【図8】図4の処理と平行して実行される準備圧学習処理を示すフロー・チャートである。
【図9】図8の処理を説明するタイム・チャートである。
【図10】図8の処理と平行して実行されるG波形傾き学習処理を示すフロー・チャートである。
【図11】図10の処理を説明するタイム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る自動変速機の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0020】
図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0021】
以下説明すると、符号Tは自動変速機(以下「トランスミッション」という)を示す。トランスミッションTは車両(図示せず)に搭載されてなると共に、前進5速および後進1速の速度段を有する平行軸式の有段型からなる。
【0022】
トランスミッションTは、内燃機関(以下「エンジン」という)Eのクランクシャフト10にロックアップ機構Lを有するトルクコンバータ12を介して接続されたメインシャフト(入力軸)MSと、このメインシャフトMSに複数のギヤ列を介して接続されたカウンタシャフト(出力軸)CSとを備える。エンジンEは複数の気筒を備えると共に、ガソリンを燃料とする火花点火式のエンジンからなる。
【0023】
メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ14、メイン2速ギヤ16、メイン3速ギヤ18、メイン4速ギヤ20、メイン5速ギヤ22、およびメインリバースギヤ24が支持される。
【0024】
また、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ14に噛合するカウンタ1速ギヤ28、メイン2速ギヤ16と噛合するカウンタ2速ギヤ30、メイン3速ギヤ18に噛合するカウンタ3速ギヤ32、メイン4速ギヤ20に噛合するカウンタ4速ギヤ34、メイン5速ギヤ22に噛合するカウンタ5速ギヤ36、およびメインリバースギヤ24にリバースアイドルギヤ40を介して接続されるカウンタリバースギヤ42が支持される。
【0025】
上記において、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ14を1速用油圧クラッチ(摩擦係合要素。以下同様)C1でメインシャフトMSに結合すると、1速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0026】
メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン2速ギヤ16を2速用油圧クラッチC2でメインシャフトMSに結合すると、2速(ギヤ。速度段)が確立する。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ32を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフトCSに結合すると、3速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0027】
カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ4速ギヤ34をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ20を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、4速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0028】
また、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ5速ギヤ36を5速用油圧クラッチC5でカウンタシャフトCSに結合すると、5速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0029】
さらに、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバースギヤ42をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメインリバースギヤ24を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、後進速度段が確立する。
【0030】
カウンタシャフトCSの回転は、ファイナルドライブギヤ46およびファイナルドリブンギヤ48を介してディファレンシャルDに伝達され、それから左右のドライブシャフト50,50を介し、エンジンEおよびトランスミッションTが搭載される車両(図示せず)の駆動輪W,Wに伝達される。
【0031】
車両運転席(図示せず)のフロア付近にはシフトレバー54が設けられ、運転者の操作によって8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれか選択される。
【0032】
エンジンEの吸気路(図示せず)に配置されたスロットルバルブ(図示せず)の付近には、スロットル開度センサ56が設けられ、スロットル開度THを示す信号を出力する。またファイナルドリブンギヤ48の付近には車速センサ58が設けられ、ファイナルドリブンギヤ48が1回転するごとに車速Vを示す信号を出力する。
【0033】
更に、カムシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が設けられ、特定気筒の所定クランク角度でCYL信号を、各気筒の所定クランク角度でTDC信号を、所定クランク角度を細分したクランク角度(例えば15度)ごとにCRK信号を出力する。また、エンジンEの吸気路のスロットルバルブ配置位置の下流には絶対圧センサ62が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
【0034】
また、メインシャフトMSの付近には第1の回転数センサ64が設けられ、メインシャフトMSの回転数NMを示す信号を出力すると共に、カウンタシャフトCSの付近には第2の回転数センサ66が設けられ、カウンタシャフトCSの回転数NCを示す信号を出力する。
【0035】
さらに、車両運転席付近に装着されたシフトレバー54の付近にはシフトレバーポジションセンサ68が設けられ、前記した8種のポジション(レンジ)の中、運転者によって選択されたポジションを示す信号を出力する。
【0036】
さらに、トランスミッションTの油圧回路Oのリザーバの付近には温度センサ70が設けられて油温(作動油Automatic Transmission Fluidの温度)TATFに比例した信号を出力すると共に、各クラッチに接続される油路には油圧スイッチ(油圧SW)72がそれぞれ設けられ、各クラッチに供給される油圧が所定値に達したとき、ON信号を出力する。
【0037】
また車両運転席のブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ74が設けられ、運転者のブレーキペダル操作に応じてON信号を出力すると共に、アクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ76が設けられ、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)APに応じた出力を生じる。
【0038】
これらセンサ56などの出力は、ECU(電子制御ユニット)80に送られる。
【0039】
ECU80は、CPU82,ROM84,RAM86、入力回路88、および出力回路90からなるマイクロコンピュータから構成される。ECU80はA/D変換器92を備える。
【0040】
前記したセンサ56などの出力は、入力回路88を介してECU80内に入力され、アナログ出力はA/D変換器92を介してデジタル値に変換されると共に、デジタル出力は波形整形回路などの処理回路(図示せず)を経て処理され、前記RAM86に格納される。
【0041】
前記した車速センサ58の出力およびクランク角センサ60のCRK信号出力はカウンタ(図示せず)で時間間隔が計測され、車速Vおよびエンジン回転数NEが検出される。第1の回転数センサ64および第2の回転数センサ66の出力もカウントされ、トランスミッションの入力軸回転数NMおよび出力軸回転数NCが検出される。また、第2の回転数66の出力から車両の加速度G、より正確には車両の前後方向の加速度Gが算出される(後述)。
【0042】
ECU80においてCPU82は行先段あるいは目標段(変速比)を決定し、出力回路90および電圧供給回路(図示せず)を介して油圧回路Oに配置されたシフトソレノイドSL1からSL5を励磁・非励磁して各油圧クラッチCnの切替え制御を行うと共に、リニアソレノイドSL6からSL8(前記した電磁ソレノイド)を励磁・非励磁して各油圧クラッチCnの油圧とトルクコンバータ12のロックアップ機構Lの動作を制御する。
【0043】
このように、この実施例においてトランスミッションTは、車両に搭載されたエンジン(内燃機関)Eに接続されると共に、メイン1速ギヤ14などの複数個のギヤと油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cn(n:1,2,3,4R,5)を備え、現在の速度段の油圧クラッチCnから作動油を排出させる一方、変速先の速度段の油圧クラッチCnに作動油を供給して複数個のギヤのうちの変速先の速度段に相応するギヤを介してエンジンEの出力を変速する。
【0044】
次いで、この発明に係る自動変速機の制御装置の動作を説明する。
【0045】
図2はその動作を示すフロー・チャート、図3は図2で予定する変速のタイム・チャートである。図2のプログラムは、例えば10msecごとに実行される。
【0046】
以下説明すると、S10において検出された車速Vとスロットル開度THから公知のシフトマップ(シフトスケジューリングマップ。図示せず)を検索し、S12に進み、検索値を変速先の速度段SHと書き換え、S14に進み、現在係合されている現在の速度段を検出してGAと書き換えると共に、SHをGBと書き換える。
【0047】
次いでS16に進み、変速モードQATNUMを検索する。
【0048】
変速モードQATNUMは、具体的には図3に示す如く、11h(1速から2速へのアップシフト)、12h(2速から3速へのアップシフト)、21h(2速から1速へのダウンシフト)、31h(1速ホールド(保持))などと標記される。即ち、最初の数字が1であればアップシフトを、2であればダウンシフトを、3であればホールドを示す。
【0049】
次いでS18に進み、S10以降の処理において変速が必要と判断されるとき、制御時期を示すRAM上の値SFTMON(図3に示す)を0に初期化する。
【0050】
次いでS20に進み、変速制御を実行する。
【0051】
図4はその変速制御、より具体的には2速から3速へのアップシフトにおいて、図3の上部に示す準備、トルク相、イナーシャ相のうちのトルク相における変速制御を例にとって示すフロー・チャートである。また、図5は図4の処理を説明するタイム・チャートである。
【0052】
尚、イナーシャ相などの変速制御は特許文献1に記載されていることから、この明細書では説明を省略する。
【0053】
同図の説明に入る前に、前記した本願の課題について再説すると、特許文献1記載の技術にあっては、傾きK(=A/B。A:操作量、B:一定の油圧(操作量A)を出力したときの追従時間)を算出し、算出された傾きKで変速動作の可能性を判断しつつ、油圧クラッチの無効ストローク詰めを最適に行った後、クラッチ・クリアランスなどの油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域(後記する図7に「油圧中折れ時間」と示す)と作用した後の領域とで別々に設定された特性を油圧指令値QATと油温TATFと油圧クラッチCnの回転数から検索して実際に変速動作が可能な油圧まで立ち上がる時間(油圧ブースト時間)を、油圧指令値(油圧の指令値)QATとから検索していた。
【0054】
このように、実際に変速動作が可能となる油圧までの立ち上がりを時間で管理すると、車両の加速度Gがリニアとならず、運転者が受ける変速フィーリングが良好とならない場合があった。従って、この実施例では図5(a)に示すように車両の加速度Gがリニアとなるように制御する。
【0055】
ここで車両の加速度Gの検出について説明すると、ECU80は図2フロー・チャートと同様の間隔(例えば10msec)で実行されるルーチン(図示せず)に従い、第2の回転数センサ66の出力から検出される今回プログラムループ時のカウンタシャフトCSの回転数(車速V相当)と前回プログラムループ時の回転数の差(単位[rad/sec2]で示される)を求めることで検出(推定)する。尚、車両の加速度Gの検出は正確には、第2の回転数センサ66の出力からローパスフィルタで高周波ノイズを除去して行なう。
【0056】
この車両の加速度Gは、図5(a)に示す如く、タイム・チャートにおける経時的な波形(「G波形」という)で示される。以降、「G波形」を車両の加速度Gを意味するものとして使用する。
【0057】
上記を前提として以下説明すると、S100において少なくともエンジンEに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ、より具体的にはアクセル開度APと車速Vとに基づいて予め設定された特性を検索して目標T相時間(トルク相の目標時間)を算出する。
【0058】
目標T相時間は例えば、アクセル開度が大きいほど、運転者は迅速な変速を意図していると考えられることから、短くなる一方、アクセル開度が小さいほど、運転者は滑らかな変速を意図していると考えられることから、長くなるように設定される。
【0059】
次いでS102に進み、エンジンEの運転状態を示すパラメータ、より具体的にはエンジン回転数NEとエンジン負荷を示す吸気管内絶対圧PBAに基づいてエンジントルク(エンジンEの出力トルク。図に「ENGトルク」と示す)を推定する。
【0060】
次いでS104に進み、3速(GB。変速先)の油圧クラッチC3の伝達トルクの初期値(零)が経時的に増加して算出された目標T相時間の終端時にONクラッチトルク(算出されたエンジントルクに相当する値)に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出する。
【0061】
図5を参照して説明すると、2速から3速へのアップシフトにおいてトルク相でのトランスミッション出力トルクTcoは以下のように表わすことができる。
Tco=Tt・i2−T3c・(i2−i3)
【0062】
上記で、Tt:トランスミッション入力トルク、i2:2速ギヤ比、i3:3速ギヤ比、T3c:3速用油圧クラッチC3の伝達トルクである。即ち、図5(a)に示す如く、トルク相においては上式の右辺の第2項分のトルクの引き込みが生じる。
【0063】
ONクラッチトルク、即ち、変速先の3速用油圧クラッチC3の伝達トルクは初期値が零であり、それが経時的に増加してトルク相の終端時にエンジントルク相当値に到達する。
【0064】
図5(b)(c)においてエンジントルク(即ち、高さ)はエンジンEの運転状態で決定され、変速制御で決定することができない。そこで、この実施例においてはトルク相(T相。即ち、長さ)をエンジンEに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ(アクセル開度APと車速V)に基づいて算出することで、図5(b)に示すようにONクラッチトルクの目標傾きを算出するようにした。これにより、図5(a)に示すようにG波形をリニアにすることができ、変速フィーリングを改善することができる。
【0065】
次いで、図5(c)に示すように、ONクラッチトルクの目標傾きに基づいてONクラッチ油圧の目標傾きを算出し、それに基づいてONクラッチ油圧指令値を算出するようにした。
【0066】
図6は図4フロー・チャートで使用される、予め設定された第1、第2の特性を示す説明グラフ、図7は同様にその第1、第2の特性を示す説明図である。
【0067】
図4フロー・チャートの説明に戻ると、S106に進み、算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換する。即ち、以下の式に従って算出する。
Pcl=(Tcl/2nμRm−Fctf+Frtn)/Apis
【0068】
上記で、Pcl:クラッチ油圧、Tcl:クラッチトルク、n:油圧クラッチCnのクラッチディスク枚数、μ:油圧クラッチCnの摩擦係数、Rm:油圧クラッチCnの有効半径、Fctf:クラッチとピストン内作動油の遠心力、Frtn:リターンスプリング荷重、Apis:油圧クラッチCnのピストン面積である。
【0069】
次いでS108に進み、図示しないタイマなどから時間(時刻)tがta(図5(d)に示す)以上となったか、あるいは当該の油圧クラッチCnの油圧スイッチ72がON(ON信号を出力)したか否か判断し、否定されるときはS110に進み、少なくとも変換された油圧目標傾き、より具体的には変換された油圧目標傾きと油温TATFと油圧クラッチCnの回転数から予め設定された(図7で下に示す)第1の特性を検索して3速用油圧クラッチC3に供給すべき油圧指令値QAT、より具体的にはQAT1を算出する。
【0070】
他方、S108で肯定されるときはS112に進み、同様のパラメータから予め設定された(図7で上に示す)第2の特性を検索して3速用油圧クラッチC3に供給すべき油圧指令値QAT、より具体的にはQAT2を算出する。
【0071】
図6と図7に示す如く、第1、第2の特性は少なくとも油圧目標傾き、より具体的には油圧目標傾きと、油温(作動油ATFの温度TATF)とクラッチ回転数(具体的には3速用油圧クラッチC3の回転数、即ち、G波形検出に用いられるのと同一の第2の回転数センサ66で検出される回転数NCから検出)とから検索自在に構成され、データベースに格納される。
【0072】
尚、検索パラメータとして油温が用いられるのは作動油ATFが温度によって粘性が異なるためであり、クラッチ回転数が用いられるのはその結果作動油ATFの流速が相違するためである。
【0073】
S110,S112では少なくとも油圧目標傾き、より具体的には油圧目標傾きと油温とクラッチ回転数とから第1、第2の特性を検索して3速用油圧クラッチC3に供給すべき油圧指令値QATを算出する。
【0074】
図7に示す如く、第1の特性は、作動油ATFの圧力の立ち上がり特性に影響するクラッチ・クリアランスなどが作用する領域(同図に「油圧中折れ時間」と示す領域)について設定された特性(同図で下部に示す特性)であり、第2の特性はそれが作用した後の領域(同図で「油圧ブースト時間」から「油圧中折れ時間」を除いた領域)について設定された特性(同図で上部に示す特性)である。
【0075】
例えば、S110の処理において、図5(d)に示すような比較的高い油圧指令値QAT1が算出され、S112の処理においてQAT1より低い油圧指令値QAT2が算出される。
【0076】
これら油圧指令値QAT1,QAT2が前記した「油圧の指令値」、より正確にはその一部である「トルク相の制御圧の指令値」あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。
【0077】
また、そのうちQAT1が「油圧が所定値が達するまでの油圧指令値」あるいは「所定値に達するまでのトルク相の制御圧の指令値」あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。QAT2は「油圧が所定値に達した後の油圧指令値」あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。
【0078】
次いでS114に進み、算出されたQAT1,QAT2からなる油圧指令値QATに基づき、前記したリニアソレノイドSL6からSL8のうちのいずれかを励磁あるいは消磁して3速用油圧クラッチC3に油圧を供給する。即ち、時刻t1においてQAT1が出力され(油圧を供給され)、時刻taにおいて油圧指令値QAT2が出力される(油圧を供給される)。
【0079】
尚、それに先立つ時刻t0において3速用油圧クラッチC3(変速先の速度段の摩擦係合要素)に無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧として油圧(作動油)を供給する油圧指令値QAT0が算出されて出力される(油圧を供給される)。
【0080】
この油圧指令値QAT0の算出と出力は図2のS20で行なわれる。QAT0が前記した準備圧の指令値あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。
【0081】
特許文献1記載の技術にあっては前記したように油圧中折れ時間と油圧ブースト時間を時間で管理していたことから、油圧指令値QATは図5(d)に早々線で示すように、油圧中折れ時間と油圧ブースト時間とで同一の値とされる。その結果、実際の油圧(ON側実圧)は想像線で示すようにリニアとならなかったが、この実施例においては油圧指令値が比較的高い油圧指令値QAT1と比較的低い油圧指令値QAT2からなることから、実際の油圧(ON側実圧)を実線で示すようにリニアにすることができる。
【0082】
即ち、クラッチ・クリアランスなどの部位の個体ばらつきの影響で油路の体積(ボリューム)が変化して時間が増減しても、その影響を受けることがないことから、図7に示すようにG波形もリニアにすることができ、変速フィーリングを改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0083】
図8は図4の処理と平行して実行される準備圧学習処理を示すフロー・チャート、図9は図8の処理を説明するタイム・チャートである。図8のプログラムも例えば10msecごとに実行される。
【0084】
上記した処理によって実際の油圧(ON側実圧)を実線で示すようにリニアにすることができる筈であるが、クラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響による油路の体積の変化はトルク相に先立つ無効ストローク詰めなどの準備期間の油圧の立ち上がりにも影響し、実際の油圧が所期の時間(所定値)より早くなったり、遅れたりすることがある。図8フロー・チャートの処理はそれを補正する処理である。
【0085】
以下説明すると、S200で図8フロー・チャートのプログラムループがトルク相の初回か否か判断する。
【0086】
S200で肯定されるときはS202に進み、油圧SW(スイッチ)標準ON時間を検索する。油圧クラッチCnごとに油圧スイッチ72が設けられ、当該の油圧クラッチCnに供給される油圧が規定値qsに達すると、ON信号を出力するが、油圧SW標準ON時間はその所期の時間(所定値、具体的には前記したta)を示す。
【0087】
この値は予め実験により求めて油圧クラッチCnごとに設定される。図9(a)に規定値qsを、図9(a)と図5(d)に所期の時間(所定値)taを示す。
【0088】
次いでS204に進み、判定済みフラグ(後述)のビットを0にリセットし、S206に進み、トルク相に移行して一定時間(具体的には図5(d)のt1とtaの間に設定される時間)が経過したか判断する。
【0089】
S206で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS208に進み、上記した判定済みフラグのビットが1にセットされているか否か判断する。
【0090】
S208で肯定されるときは以降の処理をスキップする一方、否定されるときはS210に進み、当該の油圧スイッチ72がON信号を出力したか否か判断する。
【0091】
S210で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS212に進み、上記した判定済みフラグのビットを1にセットする。即ち、このフラグは以下に述べる処理が1回だけ実行されるようにするためのフラグである。
【0092】
次いでS214に進み、油圧スイッチ72がON信号を出力した時間(時刻)が所期の時間(所定値)taより早いか否か判断する。
【0093】
S214で肯定されるときはS216に進み、準備圧から学習補正値を減算、より具体的には図9(b)に示す如く、準備圧指令値QAT0から2点鎖線で示す所定量の学習補正値を減算して準備圧指令値QAT0を減少補正する。
【0094】
他方、S214で否定されるときはS218に進み、油圧スイッチ72がON信号を出力した時間(時刻)が所期の時間(所定値)taより遅いか否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS220に進み、準備圧に学習補正値を加算、より具体的には図9(c)に示す如く、準備圧指令値QAT0に2点鎖線で示す所定量の学習補正値を加算して準備圧指令値QAT0を増加補正する。
【0095】
即ち、図9(b)に示す場合、クラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積が所期の値よりも減少していた結果、実際の油圧が早めに規定値qsに達したと判断できるので、準備圧指令値QAT0を減少補正する。他方、図9(c)に示す場合はその逆と判断できるので、準備圧指令値QAT0を増加補正する。
【0096】
ここで補正値を「学習」補正値と呼ぶのは、図8の処理は前回の変速時の準備圧指令値の当否を判断して指令値を増減する作業であり、その結果、準備圧指令値QAT0が図9(b)(c)に示す状態にあるときも、図9(a)に示す所期の状態に経時的に収束させる学習制御的な効果を奏するからである。
【0097】
尚、S216,S220で準備圧指令値QAT0自体を増減するのに代え、準備圧指令値QAT0を出力する時間(図5(d)においてt0からt1までの時間)を増減しても良い。また、S218でも否定されるときは所期通りであるので、準備圧指令値QAT0を補正しない。
【0098】
図10は、図8の処理(および図4の処理)と平行して実行されるG波形傾き学習処理を示すフロー・チャート、図11は図10の処理を説明するタイム・チャートである。図10のプログラムも例えば10msecごとに実行される。
【0099】
図8に示す準備圧学習処理によってクラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響による油路の体積の変化に起因する準備期間の油圧の立ち上がりのばらつきを解消することができるが、先に述べた如く、油圧クラッチCnの油圧の立ち上がり特性に影響する要因は上記に止まらず、リニアソレノイドSLnのI−P特性(電流−油圧特性)の個体ばらつきや油圧回路Oの配管の製造ばらつきも影響する。また、図8の処理で解消しきれない場合もある。そこで、この実施例においては図10フロー・チャートに示す処理でクリアランス、皿バネ、アキュムレータ、リニアソレノイドのI−P特性や油圧回路Oの配管の製造ばらつきなどの要因の如何に関わらず、全ての油圧クラッチCnの油圧立ち上がり特性の個体ばらつきを減少あるいは解消するようにした。
【0100】
以下説明すると、S300でトルク相のA区間か否か判断し、肯定されるときはS302に進み、G波形の傾きAを算出する一方、S300で否定されるときはS304に進み、トルク相のB区間か否か判断し、肯定されるときはS306に進み、G波形の傾きBを算出する。G波形の傾きA,BはG波形、即ち、車両加速度Gの時間当たりの変化量を意味する。
【0101】
図11に示す如く、トルク相のA区間は(当該の油圧クラッチCnの)油圧スイッチ72がONする(あるいは時間tがta以上となる)までのトルク相の区間(所定値に達するまでのトルク相の制御圧の区間)を、B区間はA区間に続くトルク相の残余の区間(所定値に達した後のトルク相の制御圧の区間)を意味する。尚、前記した如く、油圧スイッチ72の標準ON時間はその所期の時間(前記したta)は予め実験により求めて油圧クラッチCnごとに設定される。
【0102】
次いでS308に進み、トルク相終了後初回か否か判断する。
【0103】
S308で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS310に進み、算出された傾きA,Bを比較し、傾きAより傾きBが大きいか否か判断し、肯定されるときはS312に進み、油圧スイッチ72がONする前の油圧指令値、即ち、油圧指令値QAT1を所定量(図11(a)に示す)だけ加算(増加)する。
【0104】
他方、S310で否定されるときはS314に進み、算出された傾きA,Bを比較し、傾きAが傾きBより大きいか否か判断し、肯定されるときはS316に進み、油圧スイッチ72がONする前の油圧指令値QAT1を所定量(図11(c)に示す)だけ減算(減少)する。
【0105】
次いでS318に進み、S312あるいはS316で加減算されて得られた最終的な油圧指令値QAT1をECU80のRAM86に格納する。
【0106】
これにより、次回以降の変速時、S312あるいはS316で加減算されて得られた最終的な油圧指令値(増減された油圧の指令値)QAT1に基づいて図4のS114において変速先の速度段の油圧クラッチCnに油圧が供給される。
【0107】
尚、図10の処理において、S314で否定されるときは図11(b)に示すように傾きA,Bが同一、より正確にはきA,Bが厳密にあるいは略同一と判断されることから、以降の処理をスキップする。
【0108】
図11を参照して説明すると、QAT1についての油圧指令値を同図(a)に示すように傾きBが傾きAより大きい場合には加算(増加)する一方、同図(c)に示すように傾きAが傾きBより大きい場合には減算(減少)する。
【0109】
これにより、油圧指令値を加減算することによって供給油圧が増減されることから、カウンタシャフトCSを通じて出力されるトルクも同様になり、G波形も増減し、よって同図(b)に示すように傾きA,Bは(厳密にあるいは略)同一となる。
【0110】
このように、図10の処理を行うことにより、油圧クラッチCnのクリアランス、皿バネ、アキュムレータ、リニアソレノイドSLnのI−P特性などに起因して油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきがあるときは、それをG波形から推定でき、それによってG波形の傾きA,Bを同一、換言すれば車両の加速度Gの時間当たりの変化量を同一にすることができる。即ち、図5(a)に示すようにG波形をリニアにすることができ、よって変速フィーリングを改善できると共に、変速フィーリングを所望の値にすることができる。
【0111】
尚、図10の処理も図8の処理と同様、前回のトルク相の制御圧指令値の当否を判断して指令値を増減する作業であり、制御圧の指令値QAT1が図10(a)(c)に示す状態から(b)に示す所期の状態に経時的に収束させる学習制御的な補正である。
【0112】
この実施例にあっては上記の如く、車両に搭載されたエンジン(内燃機関)Eに接続されると共に、複数個のギヤ(14,16,...)と油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cn(n:1,2,3,4R,5)を備え、現在の速度段(ギヤ,GA)の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnから油圧(作動油の圧力)を排出させる一方、変速先の速度段(ギヤ、GB)の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnに油圧を供給して前記複数個のギヤのうちの前記変速先の速度段に相応するギヤを介して前記エンジン(内燃機関)Eの出力を変速するトランスミッション(自動変速機)Tの制御装置(ECU80)において、前記変速先の速度段の油圧クラッチCn(摩擦係合要素)に供給すべき油圧(QAT0,QAT1,QAT2)の指令値を算出する油圧指令値算出手段(S20,S100からS112)と、前記算出された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する油圧供給手段(S20,S114)と、前記車両の加速度G(G波形)を検出する車両加速度検出手段(第2の回転数センサ66)と、前記供給された油圧(QAT1,QAT2)が所定値に達する(当該油圧クラッチCnの油圧スイッチ72がON、あるいは時間tがta以上になる)までの前記車両の加速度(より具体的には車両の加速度G(G波形の時間的変化量(傾きA)))と前記所定値に達した後の前記車両の加速度(より具体的には車両の加速度G(G波形の時間的変化量(傾きB)))とを比較する車両加速度比較手段(S300からS310,S314)と、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記油圧の指令値(QAT1)を増減する油圧指令値増減手段(S312,S316からS318)とを備えると共に、前記油圧供給手段は、次回以降の変速時、前記増減された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する(S114)如く構成、即ち、供給された油圧が所定値に達する前後の車両の加速度G(G波形)を比較し、比較結果に応じて増減された指令値に基づいて油圧を供給するように構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度G(G波形)に基づいて供給油圧を増減することで、クリアランス、皿バネ、アキュムレータ、リニアソレノイドSLnのI−P特性、さらには油圧回路Oの配管の製造ばらつきなどの要因の如何に関わらず、油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0113】
また、前記油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値(QAT0)とそれに続くトルク相の制御圧(QAT1,QAT2)の指令値からなると共に、前記油圧指令値増減手段は、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記トルク相の制御圧の指令値(QAT1)を増減する如く構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度G(G波形)からトルク相の初期の供給油圧QAT1を増減することで、油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0114】
また、前記油圧指令値増減手段は、前記トルク相において前記供給された油圧(QAT1,QAT2)が前記所定値に達するまでの前記車両の加速度G(G波形)の傾きA(時間当たりの変化量)と前記所定値に達した後の前記車両の加速度G(G波形)の傾きB(時間当たりの変化量)が同一となるように、前記トルク相の制御圧、より正確にはトルク相の初期の制御圧の指令値(QAT1)を増減する如く構成したので、上記した効果に加え、トルク相において運転者は同一の車両加速度を受け続けることとなり、油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0115】
また、前記油圧指令値増減手段は、前記変速準備用の準備圧(QAT0)が規定値に達する(当該摩擦係合要素(油圧クラッチCn)の油圧スイッチ72がONする)までの時間(t)を計測する時間計測手段(S210)と、前記計測された時間を所定時間(ta)と比較する時間比較手段(S214,S218)とを備え、前記時間比較手段の比較結果に応じて前記変速準備用の準備圧の指令値(QAT0)を増減する(S216,S220)ように構成したので、上記した効果に加え、トルク相に先立つ変速準備用の準備圧(QAT0)に対して油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0116】
また、少なくとも前記エンジン(内燃機関)Eに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ(アクセル開度APと車速V)に基づいて前記変速するときのトルク相(T相)の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段(S100)と、前記エンジン(内燃機関)Eの運転状態を示すパラメータ(エンジン回転数NEと吸気管内絶対圧PBA)に基づいて前記エンジン(内燃機関)Eの出力トルク(エンジントルク)を推定する機関出力トルク推定手段(S102)と、前記変速先の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの伝達トルクの初期値が経時的に増加して前記算出されたトルク相の目標時間の終端時に前記算出されたエンジン(内燃機関)Eの出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段(S104)と、前記算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段(S106)とを備えると共に、前記油圧指令値算出手段は、少なくとも前記変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位(より具体的にはクラッチ・クリアランス)が作用する領域と前記部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して前記変速先の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnに供給すべき変速準備用の準備圧の指令値(QAT0)を算出する如く構成したので、換言すれば、実際に変速動作が可能となる油圧までの立ち上がりを時間で管理するのではないことから、特に油圧クラッチCnのクラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積(ボリューム)が変化して時間が増減しても、その影響を受けることがなく、運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0117】
またトルク相の目標時間を少なくともエンジンEに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ、具体的にはアクセル開度APなどに基づいて算出すると共に、初期値からその目標時間の終端時のエンジントルク相当値に到達するまでの間の目標傾きを算出し、それに基づいて油圧の指令値QAT0を算出するようにしたので、例えばアクセル開度APが大きいときはトルク相の目標時間を短縮して目標傾きを急峻とする一方、アクセル開度APが小さいときは目標時間を延長して目標傾きをなだらかとするなど、運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0118】
また、変速先の油圧クラッチCnに供給された準備圧QAT0が規定値qsに達するまでの時間を測定し、測定された時間を所定値taと比較して得た比較結果に応じて準備圧、より正確には準備圧の指令値QAT0を増減する如く構成したので、クラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積が変化して無効ストローク詰めを含む準備圧に過不足が生じても、比較結果に応じて準備圧を増減することで、運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0119】
尚、上記において2速から3速のアップシフトを例にとって説明したが、それ以外の速度段のアップシフトでも同様である。
【0120】
また、油圧の立ち上がり特性に影響を与える要因としてクラッチ・クリアランスや皿バネ(ウエーブスプリング)、アキュムレータ、リニアソレノイドSLn、油圧回路Oの配管を例示したが、それらに止まるものではない。
【0121】
また、平行軸式の自動変速機を例にとって説明したが、この発明はプラネタリ型の自動変速機にも妥当する。
【符号の説明】
【0122】
T 自動変速機(トランスミッション)、E 内燃機関(エンジン)、O 油圧回路、14,16,18,20,22,24,28,30,32,34,36,42 ギヤ、Cn 油圧クラッチ(摩擦係合要素)、58 車速センサ、60 クランク角センサ、62 絶対圧センサ、64,66 回転数センサ、76 アクセル開度センサ、80 電子制御ユニット(ECU)
【技術分野】
【0001】
この発明は自動変速機の制御装置に関し、より具体的には変速時の油圧(作動油の圧力)の制御特性を改良した装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1において、複数個のギヤと油圧クラッチ(摩擦係合要素)を備え、油圧クラッチに油圧(作動油の圧力)を給排させて変速する自動変速機の制御装置において、変速時の油圧の制御特性を改良する技術が提案されている。
【0003】
この油圧クラッチの油圧の立ち上がり特性は種々の要因の影響を受ける。即ち、油圧クラッチには本来的にクリアランス(間隙)がある。また、それに加え、油圧クラッチのピストンが油圧の供給に応じて移動してクラッチディスクをクラッチプレートに押し付けるとき、押し付け時の衝撃を緩和するように皿バネ(ウエーブスプリング)が介挿されると共に、油圧回路には作動油の流れを円滑にするためにアキュムレータが配置されるが、それらも油圧の立ち上がり特性に影響を与えることから、それらのクラッチ・クリアランスなどの部位が作用する領域(同図に「油圧中折れ時間」と示す)と作用した後の領域とで別々に設定された特性を油圧指令値などから検索して制御していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−165290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、油圧クラッチの油圧の立ち上がり特性に影響する要因は上記に止まらず、関係する電磁ソレノイドの電流−圧力特性の個体ばらつきや油圧回路の配管の製造ばらつきも影響する。この油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響によって運転者が受ける変速フィーリングも相違することから、要因の如何に関わらず、摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少することが望まれていた。
【0006】
この発明の目的は上記した課題を解決し、自動変速機において摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少して運転者が受ける変速フィーリングを改善するようにした自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1にあっては、車両に搭載された内燃機関に接続されると共に、複数個のギヤと摩擦係合要素を備え、現在の速度段の摩擦係合要素から油圧を排出させる一方、変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給して前記複数個のギヤのうちの前記変速先の速度段に相応するギヤを介して前記内燃機関の出力を変速する自動変速機の制御装置において、前記変速先の速度段の摩擦係合要素に供給すべき油圧の指令値を算出する油圧指令値算出手段と、前記算出された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する油圧供給手段と、前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、前記供給された油圧が所定値に達するまでの前記車両の加速度と前記所定値に達した後の前記車両の加速度とを比較する車両加速度比較手段と、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記油圧の指令値を増減する油圧指令値増減手段とを備えると共に、前記油圧供給手段は、次回以降の変速時、前記増減された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する如く構成した。
【0008】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値とそれに続くトルク相の制御圧の指令値からなると共に、前記油圧指令値増減手段は、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記トルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成した。
【0009】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧指令値増減手段は、前記トルク相において前記供給された油圧が前記所定値に達するまでの前記車両の加速度の時間当たりの変化量と前記所定値に達した後の前記車両の加速度の時間当たりの変化量が同一となるように、前記トルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成した。
【0010】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記油圧指令値増減手段は、前記変速準備用の準備圧が規定値に達するまでの時間を計測する時間計測手段と、前記計測された時間を所定時間と比較する時間比較手段とを備え、前記時間比較手段の比較結果に応じて前記変速準備用の準備圧の指令値を増減する如く構成した。
【0011】
請求項5に係る自動変速機の制御装置にあっては、少なくとも前記内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータに基づいて前記変速するときのトルク相の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段と、前記内燃機関の運転状態を示すパラメータに基づいて前記内燃機関の出力トルクを推定する機関出力トルク推定手段と、前記変速先の摩擦係合要素の伝達トルクの初期値が経時的に増加して前記算出されたトルク相の目標時間の終端時に前記算出された内燃機関の出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段と、前記算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段とを備えると共に、前記油圧指令値算出手段は、少なくとも前記変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域と前記部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して前記変速先の摩擦係合要素に供給すべき変速準備用の準備圧の指令値を算出する如く構成した。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る自動変速機の制御装置にあっては、変速先の速度段の摩擦係合要素に供給すべき油圧の指令値を算出し、それに基づいて油圧を供給し、供給された油圧が所定値に達するまでの車両の加速度と達した後の車両の加速度とを比較し、比較結果に応じて所定値に達するまでの油圧の指令値を増減すると共に、次回以降の変速時、増減された油圧の指令値に基づいて変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する如く構成、即ち、供給された油圧が所定値に達する前後の車両の加速度を比較し、比較結果に応じて増減された指令値に基づいて油圧を供給するように構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度に基づいて供給油圧を増減することで、クリアランス、皿バネ、アキュムレータ、電磁ソレノイドの電流−圧力特性、さらには油圧回路の配管の製造ばらつきなどの要因の如何に関わらず、油圧クラッチなどの摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0013】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値とそれに続くトルク相の制御圧の指令値からなると共に、比較結果に応じて所定値に達するまでのトルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度からトルク相の初期の供給油圧を増減することで、摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0014】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、トルク相において供給された油圧が所定値に達するまでの車両の加速度の時間当たりの変化量と所定値に達した後の車両の加速度の時間当たりの変化量が同一となるように、トルク相の制御圧の指令値を増減する如く構成したので、上記した効果に加え、トルク相において運転者は同一の車両加速度を受け続けることとなり、摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0015】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、変速準備用の準備圧が規定値に達するまでの時間を計測し、計測された時間を所定時間と比較すると共に、その比較結果に応じて変速準備用の準備圧の指令値を増減する如く構成したので、上記した効果に加え、トルク相に先立つ変速準備用の準備圧に対しても摩擦係合要素の油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0016】
請求項5に係る自動変速機の制御装置にあっては、少なくとも内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータに基づいて変速するときのトルク相の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段と、内燃機関の運転状態を示すパラメータに基づいて内燃機関の出力トルクを推定する機関出力トルク推定手段と、変速先の摩擦係合要素の伝達トルクの初期値が経時的に増加して算出されたトルク相の目標時間の終端時に算出された内燃機関の出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段と、算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段とを備えると共に、油圧指令値算出手段は、少なくとも変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域と部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して変速先の摩擦係合要素に供給すべき変速準備用の準備圧の指令値を算出する如く構成したので、換言すれば、実際に変速動作が可能となる油圧までの立ち上がりを時間で管理するのではないことから、特に油圧クラッチなどの摩擦係合要素のクリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積(ボリューム)が変化して時間が増減しても、その影響を減少させることができ、変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0017】
また、トルク相の目標時間を少なくとも内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ、具体的にはアクセル開度に基づいて算出すると共に、初期値からその目標時間の終端時の内燃機関出力トルク相当値に到達するまでの間の目標傾きを算出し、それに基づいて油圧の指令値を算出するようにしたので、例えばアクセル開度が大きいときはトルク相の目標時間を短くして目標傾きを急峻とする一方、アクセル開度が小さいときは目標時間を長くして目標傾きをなだらかとするなど、変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す自動変速機の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図3】図2で予定する変速のタイム・チャートである。
【図4】図2フロー・チャートの変速制御処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図5】図4の処理を説明するタイム・チャートである。
【図6】図5の処理で使用される特性を示す説明グラフである。
【図7】同様に図5の処理で使用される特性を示す説明図である。
【図8】図4の処理と平行して実行される準備圧学習処理を示すフロー・チャートである。
【図9】図8の処理を説明するタイム・チャートである。
【図10】図8の処理と平行して実行されるG波形傾き学習処理を示すフロー・チャートである。
【図11】図10の処理を説明するタイム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る自動変速機の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0020】
図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0021】
以下説明すると、符号Tは自動変速機(以下「トランスミッション」という)を示す。トランスミッションTは車両(図示せず)に搭載されてなると共に、前進5速および後進1速の速度段を有する平行軸式の有段型からなる。
【0022】
トランスミッションTは、内燃機関(以下「エンジン」という)Eのクランクシャフト10にロックアップ機構Lを有するトルクコンバータ12を介して接続されたメインシャフト(入力軸)MSと、このメインシャフトMSに複数のギヤ列を介して接続されたカウンタシャフト(出力軸)CSとを備える。エンジンEは複数の気筒を備えると共に、ガソリンを燃料とする火花点火式のエンジンからなる。
【0023】
メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ14、メイン2速ギヤ16、メイン3速ギヤ18、メイン4速ギヤ20、メイン5速ギヤ22、およびメインリバースギヤ24が支持される。
【0024】
また、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ14に噛合するカウンタ1速ギヤ28、メイン2速ギヤ16と噛合するカウンタ2速ギヤ30、メイン3速ギヤ18に噛合するカウンタ3速ギヤ32、メイン4速ギヤ20に噛合するカウンタ4速ギヤ34、メイン5速ギヤ22に噛合するカウンタ5速ギヤ36、およびメインリバースギヤ24にリバースアイドルギヤ40を介して接続されるカウンタリバースギヤ42が支持される。
【0025】
上記において、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ14を1速用油圧クラッチ(摩擦係合要素。以下同様)C1でメインシャフトMSに結合すると、1速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0026】
メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン2速ギヤ16を2速用油圧クラッチC2でメインシャフトMSに結合すると、2速(ギヤ。速度段)が確立する。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ32を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフトCSに結合すると、3速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0027】
カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ4速ギヤ34をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ20を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、4速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0028】
また、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ5速ギヤ36を5速用油圧クラッチC5でカウンタシャフトCSに結合すると、5速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0029】
さらに、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバースギヤ42をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメインリバースギヤ24を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、後進速度段が確立する。
【0030】
カウンタシャフトCSの回転は、ファイナルドライブギヤ46およびファイナルドリブンギヤ48を介してディファレンシャルDに伝達され、それから左右のドライブシャフト50,50を介し、エンジンEおよびトランスミッションTが搭載される車両(図示せず)の駆動輪W,Wに伝達される。
【0031】
車両運転席(図示せず)のフロア付近にはシフトレバー54が設けられ、運転者の操作によって8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれか選択される。
【0032】
エンジンEの吸気路(図示せず)に配置されたスロットルバルブ(図示せず)の付近には、スロットル開度センサ56が設けられ、スロットル開度THを示す信号を出力する。またファイナルドリブンギヤ48の付近には車速センサ58が設けられ、ファイナルドリブンギヤ48が1回転するごとに車速Vを示す信号を出力する。
【0033】
更に、カムシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が設けられ、特定気筒の所定クランク角度でCYL信号を、各気筒の所定クランク角度でTDC信号を、所定クランク角度を細分したクランク角度(例えば15度)ごとにCRK信号を出力する。また、エンジンEの吸気路のスロットルバルブ配置位置の下流には絶対圧センサ62が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
【0034】
また、メインシャフトMSの付近には第1の回転数センサ64が設けられ、メインシャフトMSの回転数NMを示す信号を出力すると共に、カウンタシャフトCSの付近には第2の回転数センサ66が設けられ、カウンタシャフトCSの回転数NCを示す信号を出力する。
【0035】
さらに、車両運転席付近に装着されたシフトレバー54の付近にはシフトレバーポジションセンサ68が設けられ、前記した8種のポジション(レンジ)の中、運転者によって選択されたポジションを示す信号を出力する。
【0036】
さらに、トランスミッションTの油圧回路Oのリザーバの付近には温度センサ70が設けられて油温(作動油Automatic Transmission Fluidの温度)TATFに比例した信号を出力すると共に、各クラッチに接続される油路には油圧スイッチ(油圧SW)72がそれぞれ設けられ、各クラッチに供給される油圧が所定値に達したとき、ON信号を出力する。
【0037】
また車両運転席のブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ74が設けられ、運転者のブレーキペダル操作に応じてON信号を出力すると共に、アクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ76が設けられ、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)APに応じた出力を生じる。
【0038】
これらセンサ56などの出力は、ECU(電子制御ユニット)80に送られる。
【0039】
ECU80は、CPU82,ROM84,RAM86、入力回路88、および出力回路90からなるマイクロコンピュータから構成される。ECU80はA/D変換器92を備える。
【0040】
前記したセンサ56などの出力は、入力回路88を介してECU80内に入力され、アナログ出力はA/D変換器92を介してデジタル値に変換されると共に、デジタル出力は波形整形回路などの処理回路(図示せず)を経て処理され、前記RAM86に格納される。
【0041】
前記した車速センサ58の出力およびクランク角センサ60のCRK信号出力はカウンタ(図示せず)で時間間隔が計測され、車速Vおよびエンジン回転数NEが検出される。第1の回転数センサ64および第2の回転数センサ66の出力もカウントされ、トランスミッションの入力軸回転数NMおよび出力軸回転数NCが検出される。また、第2の回転数66の出力から車両の加速度G、より正確には車両の前後方向の加速度Gが算出される(後述)。
【0042】
ECU80においてCPU82は行先段あるいは目標段(変速比)を決定し、出力回路90および電圧供給回路(図示せず)を介して油圧回路Oに配置されたシフトソレノイドSL1からSL5を励磁・非励磁して各油圧クラッチCnの切替え制御を行うと共に、リニアソレノイドSL6からSL8(前記した電磁ソレノイド)を励磁・非励磁して各油圧クラッチCnの油圧とトルクコンバータ12のロックアップ機構Lの動作を制御する。
【0043】
このように、この実施例においてトランスミッションTは、車両に搭載されたエンジン(内燃機関)Eに接続されると共に、メイン1速ギヤ14などの複数個のギヤと油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cn(n:1,2,3,4R,5)を備え、現在の速度段の油圧クラッチCnから作動油を排出させる一方、変速先の速度段の油圧クラッチCnに作動油を供給して複数個のギヤのうちの変速先の速度段に相応するギヤを介してエンジンEの出力を変速する。
【0044】
次いで、この発明に係る自動変速機の制御装置の動作を説明する。
【0045】
図2はその動作を示すフロー・チャート、図3は図2で予定する変速のタイム・チャートである。図2のプログラムは、例えば10msecごとに実行される。
【0046】
以下説明すると、S10において検出された車速Vとスロットル開度THから公知のシフトマップ(シフトスケジューリングマップ。図示せず)を検索し、S12に進み、検索値を変速先の速度段SHと書き換え、S14に進み、現在係合されている現在の速度段を検出してGAと書き換えると共に、SHをGBと書き換える。
【0047】
次いでS16に進み、変速モードQATNUMを検索する。
【0048】
変速モードQATNUMは、具体的には図3に示す如く、11h(1速から2速へのアップシフト)、12h(2速から3速へのアップシフト)、21h(2速から1速へのダウンシフト)、31h(1速ホールド(保持))などと標記される。即ち、最初の数字が1であればアップシフトを、2であればダウンシフトを、3であればホールドを示す。
【0049】
次いでS18に進み、S10以降の処理において変速が必要と判断されるとき、制御時期を示すRAM上の値SFTMON(図3に示す)を0に初期化する。
【0050】
次いでS20に進み、変速制御を実行する。
【0051】
図4はその変速制御、より具体的には2速から3速へのアップシフトにおいて、図3の上部に示す準備、トルク相、イナーシャ相のうちのトルク相における変速制御を例にとって示すフロー・チャートである。また、図5は図4の処理を説明するタイム・チャートである。
【0052】
尚、イナーシャ相などの変速制御は特許文献1に記載されていることから、この明細書では説明を省略する。
【0053】
同図の説明に入る前に、前記した本願の課題について再説すると、特許文献1記載の技術にあっては、傾きK(=A/B。A:操作量、B:一定の油圧(操作量A)を出力したときの追従時間)を算出し、算出された傾きKで変速動作の可能性を判断しつつ、油圧クラッチの無効ストローク詰めを最適に行った後、クラッチ・クリアランスなどの油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域(後記する図7に「油圧中折れ時間」と示す)と作用した後の領域とで別々に設定された特性を油圧指令値QATと油温TATFと油圧クラッチCnの回転数から検索して実際に変速動作が可能な油圧まで立ち上がる時間(油圧ブースト時間)を、油圧指令値(油圧の指令値)QATとから検索していた。
【0054】
このように、実際に変速動作が可能となる油圧までの立ち上がりを時間で管理すると、車両の加速度Gがリニアとならず、運転者が受ける変速フィーリングが良好とならない場合があった。従って、この実施例では図5(a)に示すように車両の加速度Gがリニアとなるように制御する。
【0055】
ここで車両の加速度Gの検出について説明すると、ECU80は図2フロー・チャートと同様の間隔(例えば10msec)で実行されるルーチン(図示せず)に従い、第2の回転数センサ66の出力から検出される今回プログラムループ時のカウンタシャフトCSの回転数(車速V相当)と前回プログラムループ時の回転数の差(単位[rad/sec2]で示される)を求めることで検出(推定)する。尚、車両の加速度Gの検出は正確には、第2の回転数センサ66の出力からローパスフィルタで高周波ノイズを除去して行なう。
【0056】
この車両の加速度Gは、図5(a)に示す如く、タイム・チャートにおける経時的な波形(「G波形」という)で示される。以降、「G波形」を車両の加速度Gを意味するものとして使用する。
【0057】
上記を前提として以下説明すると、S100において少なくともエンジンEに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ、より具体的にはアクセル開度APと車速Vとに基づいて予め設定された特性を検索して目標T相時間(トルク相の目標時間)を算出する。
【0058】
目標T相時間は例えば、アクセル開度が大きいほど、運転者は迅速な変速を意図していると考えられることから、短くなる一方、アクセル開度が小さいほど、運転者は滑らかな変速を意図していると考えられることから、長くなるように設定される。
【0059】
次いでS102に進み、エンジンEの運転状態を示すパラメータ、より具体的にはエンジン回転数NEとエンジン負荷を示す吸気管内絶対圧PBAに基づいてエンジントルク(エンジンEの出力トルク。図に「ENGトルク」と示す)を推定する。
【0060】
次いでS104に進み、3速(GB。変速先)の油圧クラッチC3の伝達トルクの初期値(零)が経時的に増加して算出された目標T相時間の終端時にONクラッチトルク(算出されたエンジントルクに相当する値)に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出する。
【0061】
図5を参照して説明すると、2速から3速へのアップシフトにおいてトルク相でのトランスミッション出力トルクTcoは以下のように表わすことができる。
Tco=Tt・i2−T3c・(i2−i3)
【0062】
上記で、Tt:トランスミッション入力トルク、i2:2速ギヤ比、i3:3速ギヤ比、T3c:3速用油圧クラッチC3の伝達トルクである。即ち、図5(a)に示す如く、トルク相においては上式の右辺の第2項分のトルクの引き込みが生じる。
【0063】
ONクラッチトルク、即ち、変速先の3速用油圧クラッチC3の伝達トルクは初期値が零であり、それが経時的に増加してトルク相の終端時にエンジントルク相当値に到達する。
【0064】
図5(b)(c)においてエンジントルク(即ち、高さ)はエンジンEの運転状態で決定され、変速制御で決定することができない。そこで、この実施例においてはトルク相(T相。即ち、長さ)をエンジンEに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ(アクセル開度APと車速V)に基づいて算出することで、図5(b)に示すようにONクラッチトルクの目標傾きを算出するようにした。これにより、図5(a)に示すようにG波形をリニアにすることができ、変速フィーリングを改善することができる。
【0065】
次いで、図5(c)に示すように、ONクラッチトルクの目標傾きに基づいてONクラッチ油圧の目標傾きを算出し、それに基づいてONクラッチ油圧指令値を算出するようにした。
【0066】
図6は図4フロー・チャートで使用される、予め設定された第1、第2の特性を示す説明グラフ、図7は同様にその第1、第2の特性を示す説明図である。
【0067】
図4フロー・チャートの説明に戻ると、S106に進み、算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換する。即ち、以下の式に従って算出する。
Pcl=(Tcl/2nμRm−Fctf+Frtn)/Apis
【0068】
上記で、Pcl:クラッチ油圧、Tcl:クラッチトルク、n:油圧クラッチCnのクラッチディスク枚数、μ:油圧クラッチCnの摩擦係数、Rm:油圧クラッチCnの有効半径、Fctf:クラッチとピストン内作動油の遠心力、Frtn:リターンスプリング荷重、Apis:油圧クラッチCnのピストン面積である。
【0069】
次いでS108に進み、図示しないタイマなどから時間(時刻)tがta(図5(d)に示す)以上となったか、あるいは当該の油圧クラッチCnの油圧スイッチ72がON(ON信号を出力)したか否か判断し、否定されるときはS110に進み、少なくとも変換された油圧目標傾き、より具体的には変換された油圧目標傾きと油温TATFと油圧クラッチCnの回転数から予め設定された(図7で下に示す)第1の特性を検索して3速用油圧クラッチC3に供給すべき油圧指令値QAT、より具体的にはQAT1を算出する。
【0070】
他方、S108で肯定されるときはS112に進み、同様のパラメータから予め設定された(図7で上に示す)第2の特性を検索して3速用油圧クラッチC3に供給すべき油圧指令値QAT、より具体的にはQAT2を算出する。
【0071】
図6と図7に示す如く、第1、第2の特性は少なくとも油圧目標傾き、より具体的には油圧目標傾きと、油温(作動油ATFの温度TATF)とクラッチ回転数(具体的には3速用油圧クラッチC3の回転数、即ち、G波形検出に用いられるのと同一の第2の回転数センサ66で検出される回転数NCから検出)とから検索自在に構成され、データベースに格納される。
【0072】
尚、検索パラメータとして油温が用いられるのは作動油ATFが温度によって粘性が異なるためであり、クラッチ回転数が用いられるのはその結果作動油ATFの流速が相違するためである。
【0073】
S110,S112では少なくとも油圧目標傾き、より具体的には油圧目標傾きと油温とクラッチ回転数とから第1、第2の特性を検索して3速用油圧クラッチC3に供給すべき油圧指令値QATを算出する。
【0074】
図7に示す如く、第1の特性は、作動油ATFの圧力の立ち上がり特性に影響するクラッチ・クリアランスなどが作用する領域(同図に「油圧中折れ時間」と示す領域)について設定された特性(同図で下部に示す特性)であり、第2の特性はそれが作用した後の領域(同図で「油圧ブースト時間」から「油圧中折れ時間」を除いた領域)について設定された特性(同図で上部に示す特性)である。
【0075】
例えば、S110の処理において、図5(d)に示すような比較的高い油圧指令値QAT1が算出され、S112の処理においてQAT1より低い油圧指令値QAT2が算出される。
【0076】
これら油圧指令値QAT1,QAT2が前記した「油圧の指令値」、より正確にはその一部である「トルク相の制御圧の指令値」あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。
【0077】
また、そのうちQAT1が「油圧が所定値が達するまでの油圧指令値」あるいは「所定値に達するまでのトルク相の制御圧の指令値」あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。QAT2は「油圧が所定値に達した後の油圧指令値」あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。
【0078】
次いでS114に進み、算出されたQAT1,QAT2からなる油圧指令値QATに基づき、前記したリニアソレノイドSL6からSL8のうちのいずれかを励磁あるいは消磁して3速用油圧クラッチC3に油圧を供給する。即ち、時刻t1においてQAT1が出力され(油圧を供給され)、時刻taにおいて油圧指令値QAT2が出力される(油圧を供給される)。
【0079】
尚、それに先立つ時刻t0において3速用油圧クラッチC3(変速先の速度段の摩擦係合要素)に無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧として油圧(作動油)を供給する油圧指令値QAT0が算出されて出力される(油圧を供給される)。
【0080】
この油圧指令値QAT0の算出と出力は図2のS20で行なわれる。QAT0が前記した準備圧の指令値あるいはその指令値に基づいて供給される油圧を意味する。
【0081】
特許文献1記載の技術にあっては前記したように油圧中折れ時間と油圧ブースト時間を時間で管理していたことから、油圧指令値QATは図5(d)に早々線で示すように、油圧中折れ時間と油圧ブースト時間とで同一の値とされる。その結果、実際の油圧(ON側実圧)は想像線で示すようにリニアとならなかったが、この実施例においては油圧指令値が比較的高い油圧指令値QAT1と比較的低い油圧指令値QAT2からなることから、実際の油圧(ON側実圧)を実線で示すようにリニアにすることができる。
【0082】
即ち、クラッチ・クリアランスなどの部位の個体ばらつきの影響で油路の体積(ボリューム)が変化して時間が増減しても、その影響を受けることがないことから、図7に示すようにG波形もリニアにすることができ、変速フィーリングを改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0083】
図8は図4の処理と平行して実行される準備圧学習処理を示すフロー・チャート、図9は図8の処理を説明するタイム・チャートである。図8のプログラムも例えば10msecごとに実行される。
【0084】
上記した処理によって実際の油圧(ON側実圧)を実線で示すようにリニアにすることができる筈であるが、クラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響による油路の体積の変化はトルク相に先立つ無効ストローク詰めなどの準備期間の油圧の立ち上がりにも影響し、実際の油圧が所期の時間(所定値)より早くなったり、遅れたりすることがある。図8フロー・チャートの処理はそれを補正する処理である。
【0085】
以下説明すると、S200で図8フロー・チャートのプログラムループがトルク相の初回か否か判断する。
【0086】
S200で肯定されるときはS202に進み、油圧SW(スイッチ)標準ON時間を検索する。油圧クラッチCnごとに油圧スイッチ72が設けられ、当該の油圧クラッチCnに供給される油圧が規定値qsに達すると、ON信号を出力するが、油圧SW標準ON時間はその所期の時間(所定値、具体的には前記したta)を示す。
【0087】
この値は予め実験により求めて油圧クラッチCnごとに設定される。図9(a)に規定値qsを、図9(a)と図5(d)に所期の時間(所定値)taを示す。
【0088】
次いでS204に進み、判定済みフラグ(後述)のビットを0にリセットし、S206に進み、トルク相に移行して一定時間(具体的には図5(d)のt1とtaの間に設定される時間)が経過したか判断する。
【0089】
S206で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS208に進み、上記した判定済みフラグのビットが1にセットされているか否か判断する。
【0090】
S208で肯定されるときは以降の処理をスキップする一方、否定されるときはS210に進み、当該の油圧スイッチ72がON信号を出力したか否か判断する。
【0091】
S210で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS212に進み、上記した判定済みフラグのビットを1にセットする。即ち、このフラグは以下に述べる処理が1回だけ実行されるようにするためのフラグである。
【0092】
次いでS214に進み、油圧スイッチ72がON信号を出力した時間(時刻)が所期の時間(所定値)taより早いか否か判断する。
【0093】
S214で肯定されるときはS216に進み、準備圧から学習補正値を減算、より具体的には図9(b)に示す如く、準備圧指令値QAT0から2点鎖線で示す所定量の学習補正値を減算して準備圧指令値QAT0を減少補正する。
【0094】
他方、S214で否定されるときはS218に進み、油圧スイッチ72がON信号を出力した時間(時刻)が所期の時間(所定値)taより遅いか否か判断し、否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS220に進み、準備圧に学習補正値を加算、より具体的には図9(c)に示す如く、準備圧指令値QAT0に2点鎖線で示す所定量の学習補正値を加算して準備圧指令値QAT0を増加補正する。
【0095】
即ち、図9(b)に示す場合、クラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積が所期の値よりも減少していた結果、実際の油圧が早めに規定値qsに達したと判断できるので、準備圧指令値QAT0を減少補正する。他方、図9(c)に示す場合はその逆と判断できるので、準備圧指令値QAT0を増加補正する。
【0096】
ここで補正値を「学習」補正値と呼ぶのは、図8の処理は前回の変速時の準備圧指令値の当否を判断して指令値を増減する作業であり、その結果、準備圧指令値QAT0が図9(b)(c)に示す状態にあるときも、図9(a)に示す所期の状態に経時的に収束させる学習制御的な効果を奏するからである。
【0097】
尚、S216,S220で準備圧指令値QAT0自体を増減するのに代え、準備圧指令値QAT0を出力する時間(図5(d)においてt0からt1までの時間)を増減しても良い。また、S218でも否定されるときは所期通りであるので、準備圧指令値QAT0を補正しない。
【0098】
図10は、図8の処理(および図4の処理)と平行して実行されるG波形傾き学習処理を示すフロー・チャート、図11は図10の処理を説明するタイム・チャートである。図10のプログラムも例えば10msecごとに実行される。
【0099】
図8に示す準備圧学習処理によってクラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響による油路の体積の変化に起因する準備期間の油圧の立ち上がりのばらつきを解消することができるが、先に述べた如く、油圧クラッチCnの油圧の立ち上がり特性に影響する要因は上記に止まらず、リニアソレノイドSLnのI−P特性(電流−油圧特性)の個体ばらつきや油圧回路Oの配管の製造ばらつきも影響する。また、図8の処理で解消しきれない場合もある。そこで、この実施例においては図10フロー・チャートに示す処理でクリアランス、皿バネ、アキュムレータ、リニアソレノイドのI−P特性や油圧回路Oの配管の製造ばらつきなどの要因の如何に関わらず、全ての油圧クラッチCnの油圧立ち上がり特性の個体ばらつきを減少あるいは解消するようにした。
【0100】
以下説明すると、S300でトルク相のA区間か否か判断し、肯定されるときはS302に進み、G波形の傾きAを算出する一方、S300で否定されるときはS304に進み、トルク相のB区間か否か判断し、肯定されるときはS306に進み、G波形の傾きBを算出する。G波形の傾きA,BはG波形、即ち、車両加速度Gの時間当たりの変化量を意味する。
【0101】
図11に示す如く、トルク相のA区間は(当該の油圧クラッチCnの)油圧スイッチ72がONする(あるいは時間tがta以上となる)までのトルク相の区間(所定値に達するまでのトルク相の制御圧の区間)を、B区間はA区間に続くトルク相の残余の区間(所定値に達した後のトルク相の制御圧の区間)を意味する。尚、前記した如く、油圧スイッチ72の標準ON時間はその所期の時間(前記したta)は予め実験により求めて油圧クラッチCnごとに設定される。
【0102】
次いでS308に進み、トルク相終了後初回か否か判断する。
【0103】
S308で否定されるときは以降の処理をスキップする一方、肯定されるときはS310に進み、算出された傾きA,Bを比較し、傾きAより傾きBが大きいか否か判断し、肯定されるときはS312に進み、油圧スイッチ72がONする前の油圧指令値、即ち、油圧指令値QAT1を所定量(図11(a)に示す)だけ加算(増加)する。
【0104】
他方、S310で否定されるときはS314に進み、算出された傾きA,Bを比較し、傾きAが傾きBより大きいか否か判断し、肯定されるときはS316に進み、油圧スイッチ72がONする前の油圧指令値QAT1を所定量(図11(c)に示す)だけ減算(減少)する。
【0105】
次いでS318に進み、S312あるいはS316で加減算されて得られた最終的な油圧指令値QAT1をECU80のRAM86に格納する。
【0106】
これにより、次回以降の変速時、S312あるいはS316で加減算されて得られた最終的な油圧指令値(増減された油圧の指令値)QAT1に基づいて図4のS114において変速先の速度段の油圧クラッチCnに油圧が供給される。
【0107】
尚、図10の処理において、S314で否定されるときは図11(b)に示すように傾きA,Bが同一、より正確にはきA,Bが厳密にあるいは略同一と判断されることから、以降の処理をスキップする。
【0108】
図11を参照して説明すると、QAT1についての油圧指令値を同図(a)に示すように傾きBが傾きAより大きい場合には加算(増加)する一方、同図(c)に示すように傾きAが傾きBより大きい場合には減算(減少)する。
【0109】
これにより、油圧指令値を加減算することによって供給油圧が増減されることから、カウンタシャフトCSを通じて出力されるトルクも同様になり、G波形も増減し、よって同図(b)に示すように傾きA,Bは(厳密にあるいは略)同一となる。
【0110】
このように、図10の処理を行うことにより、油圧クラッチCnのクリアランス、皿バネ、アキュムレータ、リニアソレノイドSLnのI−P特性などに起因して油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきがあるときは、それをG波形から推定でき、それによってG波形の傾きA,Bを同一、換言すれば車両の加速度Gの時間当たりの変化量を同一にすることができる。即ち、図5(a)に示すようにG波形をリニアにすることができ、よって変速フィーリングを改善できると共に、変速フィーリングを所望の値にすることができる。
【0111】
尚、図10の処理も図8の処理と同様、前回のトルク相の制御圧指令値の当否を判断して指令値を増減する作業であり、制御圧の指令値QAT1が図10(a)(c)に示す状態から(b)に示す所期の状態に経時的に収束させる学習制御的な補正である。
【0112】
この実施例にあっては上記の如く、車両に搭載されたエンジン(内燃機関)Eに接続されると共に、複数個のギヤ(14,16,...)と油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cn(n:1,2,3,4R,5)を備え、現在の速度段(ギヤ,GA)の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnから油圧(作動油の圧力)を排出させる一方、変速先の速度段(ギヤ、GB)の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnに油圧を供給して前記複数個のギヤのうちの前記変速先の速度段に相応するギヤを介して前記エンジン(内燃機関)Eの出力を変速するトランスミッション(自動変速機)Tの制御装置(ECU80)において、前記変速先の速度段の油圧クラッチCn(摩擦係合要素)に供給すべき油圧(QAT0,QAT1,QAT2)の指令値を算出する油圧指令値算出手段(S20,S100からS112)と、前記算出された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する油圧供給手段(S20,S114)と、前記車両の加速度G(G波形)を検出する車両加速度検出手段(第2の回転数センサ66)と、前記供給された油圧(QAT1,QAT2)が所定値に達する(当該油圧クラッチCnの油圧スイッチ72がON、あるいは時間tがta以上になる)までの前記車両の加速度(より具体的には車両の加速度G(G波形の時間的変化量(傾きA)))と前記所定値に達した後の前記車両の加速度(より具体的には車両の加速度G(G波形の時間的変化量(傾きB)))とを比較する車両加速度比較手段(S300からS310,S314)と、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記油圧の指令値(QAT1)を増減する油圧指令値増減手段(S312,S316からS318)とを備えると共に、前記油圧供給手段は、次回以降の変速時、前記増減された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する(S114)如く構成、即ち、供給された油圧が所定値に達する前後の車両の加速度G(G波形)を比較し、比較結果に応じて増減された指令値に基づいて油圧を供給するように構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度G(G波形)に基づいて供給油圧を増減することで、クリアランス、皿バネ、アキュムレータ、リニアソレノイドSLnのI−P特性、さらには油圧回路Oの配管の製造ばらつきなどの要因の如何に関わらず、油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0113】
また、前記油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値(QAT0)とそれに続くトルク相の制御圧(QAT1,QAT2)の指令値からなると共に、前記油圧指令値増減手段は、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記トルク相の制御圧の指令値(QAT1)を増減する如く構成したので、運転者が受ける変速フィーリングを左右する車両の加速度G(G波形)からトルク相の初期の供給油圧QAT1を増減することで、油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0114】
また、前記油圧指令値増減手段は、前記トルク相において前記供給された油圧(QAT1,QAT2)が前記所定値に達するまでの前記車両の加速度G(G波形)の傾きA(時間当たりの変化量)と前記所定値に達した後の前記車両の加速度G(G波形)の傾きB(時間当たりの変化量)が同一となるように、前記トルク相の制御圧、より正確にはトルク相の初期の制御圧の指令値(QAT1)を増減する如く構成したので、上記した効果に加え、トルク相において運転者は同一の車両加速度を受け続けることとなり、油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0115】
また、前記油圧指令値増減手段は、前記変速準備用の準備圧(QAT0)が規定値に達する(当該摩擦係合要素(油圧クラッチCn)の油圧スイッチ72がONする)までの時間(t)を計測する時間計測手段(S210)と、前記計測された時間を所定時間(ta)と比較する時間比較手段(S214,S218)とを備え、前記時間比較手段の比較結果に応じて前記変速準備用の準備圧の指令値(QAT0)を増減する(S216,S220)ように構成したので、上記した効果に加え、トルク相に先立つ変速準備用の準備圧(QAT0)に対して油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの油圧の立ち上がり特性の個体ばらつきの影響を一層減少させることができ、よって運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善することができる。
【0116】
また、少なくとも前記エンジン(内燃機関)Eに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ(アクセル開度APと車速V)に基づいて前記変速するときのトルク相(T相)の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段(S100)と、前記エンジン(内燃機関)Eの運転状態を示すパラメータ(エンジン回転数NEと吸気管内絶対圧PBA)に基づいて前記エンジン(内燃機関)Eの出力トルク(エンジントルク)を推定する機関出力トルク推定手段(S102)と、前記変速先の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnの伝達トルクの初期値が経時的に増加して前記算出されたトルク相の目標時間の終端時に前記算出されたエンジン(内燃機関)Eの出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段(S104)と、前記算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段(S106)とを備えると共に、前記油圧指令値算出手段は、少なくとも前記変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位(より具体的にはクラッチ・クリアランス)が作用する領域と前記部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して前記変速先の油圧クラッチ(摩擦係合要素)Cnに供給すべき変速準備用の準備圧の指令値(QAT0)を算出する如く構成したので、換言すれば、実際に変速動作が可能となる油圧までの立ち上がりを時間で管理するのではないことから、特に油圧クラッチCnのクラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積(ボリューム)が変化して時間が増減しても、その影響を受けることがなく、運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0117】
またトルク相の目標時間を少なくともエンジンEに対する運転者の要求駆動力を示すパラメータ、具体的にはアクセル開度APなどに基づいて算出すると共に、初期値からその目標時間の終端時のエンジントルク相当値に到達するまでの間の目標傾きを算出し、それに基づいて油圧の指令値QAT0を算出するようにしたので、例えばアクセル開度APが大きいときはトルク相の目標時間を短縮して目標傾きを急峻とする一方、アクセル開度APが小さいときは目標時間を延長して目標傾きをなだらかとするなど、運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0118】
また、変速先の油圧クラッチCnに供給された準備圧QAT0が規定値qsに達するまでの時間を測定し、測定された時間を所定値taと比較して得た比較結果に応じて準備圧、より正確には準備圧の指令値QAT0を増減する如く構成したので、クラッチ・クリアランス、皿バネ、アキュムレータなどの個体ばらつきの影響で油路の体積が変化して無効ストローク詰めを含む準備圧に過不足が生じても、比較結果に応じて準備圧を増減することで、運転者が受ける変速フィーリングを一層良く改善できると共に、所望の変速フィーリングを実現することができる。
【0119】
尚、上記において2速から3速のアップシフトを例にとって説明したが、それ以外の速度段のアップシフトでも同様である。
【0120】
また、油圧の立ち上がり特性に影響を与える要因としてクラッチ・クリアランスや皿バネ(ウエーブスプリング)、アキュムレータ、リニアソレノイドSLn、油圧回路Oの配管を例示したが、それらに止まるものではない。
【0121】
また、平行軸式の自動変速機を例にとって説明したが、この発明はプラネタリ型の自動変速機にも妥当する。
【符号の説明】
【0122】
T 自動変速機(トランスミッション)、E 内燃機関(エンジン)、O 油圧回路、14,16,18,20,22,24,28,30,32,34,36,42 ギヤ、Cn 油圧クラッチ(摩擦係合要素)、58 車速センサ、60 クランク角センサ、62 絶対圧センサ、64,66 回転数センサ、76 アクセル開度センサ、80 電子制御ユニット(ECU)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関に接続されると共に、複数個のギヤと摩擦係合要素を備え、現在の速度段の摩擦係合要素から油圧を排出させる一方、変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給して前記複数個のギヤのうちの前記変速先の速度段に相応するギヤを介して前記内燃機関の出力を変速する自動変速機の制御装置において、前記変速先の速度段の摩擦係合要素に供給すべき油圧の指令値を算出する油圧指令値算出手段と、前記算出された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する油圧供給手段と、前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、前記供給された油圧が所定値に達するまでの前記車両の加速度と前記所定値に達した後の前記車両の加速度とを比較する車両加速度比較手段と、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記油圧の指令値を増減する油圧指令値増減手段とを備えると共に、前記油圧供給手段は、次回以降の変速時、前記増減された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値とそれに続くトルク相の制御圧の指令値からなると共に、前記油圧指令値増減手段は、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記トルク相の制御圧の指令値を増減することを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記油圧指令値増減手段は、前記トルク相において前記供給された油圧が前記所定値に達するまでの前記車両の加速度の時間当たりの変化量と前記所定値に達した後の前記車両の加速度の時間当たりの変化量が同一となるように、前記トルク相の制御圧の指令値を増減することを特徴とする請求項2記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記油圧指令値増減手段は、前記変速準備用の準備圧が規定値に達するまでの時間を計測する時間計測手段と、前記計測された時間を所定時間と比較する時間比較手段とを備え、前記時間比較手段の比較結果に応じて前記変速準備用の準備圧の指令値を増減することを特徴とする請求項2または3記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
少なくとも前記内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータに基づいて前記変速するときのトルク相の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段と、前記内燃機関の運転状態を示すパラメータに基づいて前記内燃機関の出力トルクを推定する機関出力トルク推定手段と、前記変速先の摩擦係合要素の伝達トルクの初期値が経時的に増加して前記算出されたトルク相の目標時間の終端時に前記算出された内燃機関の出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段と、前記算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段とを備えると共に、前記油圧指令値算出手段は、少なくとも前記変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域と前記部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して前記変速先の摩擦係合要素に供給すべき変速準備用の準備圧の指令値を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
【請求項1】
車両に搭載された内燃機関に接続されると共に、複数個のギヤと摩擦係合要素を備え、現在の速度段の摩擦係合要素から油圧を排出させる一方、変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給して前記複数個のギヤのうちの前記変速先の速度段に相応するギヤを介して前記内燃機関の出力を変速する自動変速機の制御装置において、前記変速先の速度段の摩擦係合要素に供給すべき油圧の指令値を算出する油圧指令値算出手段と、前記算出された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給する油圧供給手段と、前記車両の加速度を検出する車両加速度検出手段と、前記供給された油圧が所定値に達するまでの前記車両の加速度と前記所定値に達した後の前記車両の加速度とを比較する車両加速度比較手段と、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記油圧の指令値を増減する油圧指令値増減手段とを備えると共に、前記油圧供給手段は、次回以降の変速時、前記増減された油圧の指令値に基づいて前記変速先の速度段の摩擦係合要素に油圧を供給することを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記油圧の指令値が無効ストローク詰めを含む変速準備用の準備圧の指令値とそれに続くトルク相の制御圧の指令値からなると共に、前記油圧指令値増減手段は、前記車両加速度比較手段の比較結果に応じて前記所定値に達するまでの前記トルク相の制御圧の指令値を増減することを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記油圧指令値増減手段は、前記トルク相において前記供給された油圧が前記所定値に達するまでの前記車両の加速度の時間当たりの変化量と前記所定値に達した後の前記車両の加速度の時間当たりの変化量が同一となるように、前記トルク相の制御圧の指令値を増減することを特徴とする請求項2記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記油圧指令値増減手段は、前記変速準備用の準備圧が規定値に達するまでの時間を計測する時間計測手段と、前記計測された時間を所定時間と比較する時間比較手段とを備え、前記時間比較手段の比較結果に応じて前記変速準備用の準備圧の指令値を増減することを特徴とする請求項2または3記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
少なくとも前記内燃機関に対する運転者の要求駆動力を示すパラメータに基づいて前記変速するときのトルク相の目標時間を算出する目標トルク相時間算出手段と、前記内燃機関の運転状態を示すパラメータに基づいて前記内燃機関の出力トルクを推定する機関出力トルク推定手段と、前記変速先の摩擦係合要素の伝達トルクの初期値が経時的に増加して前記算出されたトルク相の目標時間の終端時に前記算出された内燃機関の出力トルクに相当する値に到達するまでの間のトルク目標傾きを算出するトルク目標傾き算出手段と、前記算出されたトルク目標傾きを油圧目標傾きに変換するトルク油圧変換手段とを備えると共に、前記油圧指令値算出手段は、少なくとも前記変換された油圧目標傾きから油圧の立ち上がり特性に影響する部位が作用する領域と前記部位が作用した後の領域とで別々に設定された特性を検索して前記変速先の摩擦係合要素に供給すべき変速準備用の準備圧の指令値を算出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の自動変速機の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−57784(P2012−57784A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204712(P2010−204712)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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