説明

自動変速機の変速制御装置

【課題】運転者の意図に沿ったダウンシフト動作を実行させること。
【解決手段】運転者のアクセル操作に伴い作動するキックダウンスイッチ32がスイッチオンとなった際に現在よりも大きな変速比へと変速させる変速制御手段を備えた自動変速機10の変速制御装置(電子制御装置1)において、所定よりも車速が低く且つ運転者のアクセル操作を早踏み操作と判断したときに、キックダウンスイッチ32がスイッチオフ状態であっても現在よりも大きな変速比へと変速させるように変速制御手段を構成すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転者のアクセル操作に伴い作動して現在よりも大きな変速比へと変速させる所謂キックダウンスイッチを備えた自動変速機の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動変速機が搭載された車輌の運転者は、例えば追い越し加速等を行うときに、今よりも低い変速段に落として(つまり、今よりも変速比を大きくして)今よりも大きな駆動力で運転することを望む。かかる変速については運転者がシフトレバー等を手動操作して自動変速機に実行させることもできるが、従来、車輌には、運転者の利便性を向上させるべく、その運転者のアクセル操作に伴い作動して自動変速機をその際の車速で選択可能な最も低い変速段に下げさせる所謂キックダウンスイッチが用意されたものが存在している。そして、従来、自動変速機には、そのような運転者のダウンシフト操作に応じてダウンシフト動作を実行させる変速制御装置が用意されている。例えば、かかる変速制御装置としては、下記の特許文献1に開示されたものが知られている。この特許文献1に開示された変速制御装置は、初期状態用変速パターンとこれよりも大きな変速比が設定されやすいキックダウン用変速パターンとを予め用意し、キックダウンスイッチが操作させられた際に変速パターンを初期状態用変速パターンからキックダウン用変速パターンへの変更を行うものであり、初期状態の場合に運転者がキックダウンスイッチを操作せずとも低速段へのダウンシフトが実行されやすくなるようにしたものである。
【0003】
【特許文献1】特開平11−344108号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、運転者は初期状態にあるからといって必ずしもダウンシフトされやすい状態を常に望んでいるとは限らず、また、キックダウンスイッチを操作したからといって今後も同様のダウンシフト動作を望むとは限らない。つまり、或る特定のアクセルペダルの操作を行ったと仮定して、例えば、自らの操作を契機としてのみダウンシフトが行われることを望んでいるにも拘わらず初期状態用変速パターンが設定されている場合には、運転者にとって無用なダウンシフトが実行されてしまう可能性がある。また、キックダウンスイッチを操作しない状態でも自動的に細やかなダウンシフトが行われることを望んでいる場合には、その際にキックダウン用変速パターンが設定されていれば、運転者の望むときに自動的なダウンシフトが行われない可能性がある。つまり、従来においては、運転者の意図に沿わないダウンシフト動作が実行されてしまう。これが為、従来は、運転者の意図していないところでのダウンシフト動作によって、無用な車輌の加速感を与えてしまう、つまり駆動力増大を招いてしまう虞がある。また、従来は、運転者の意図しているところでダウンシフトが行われずに、必要とする車輌の加速感を得ることができない、つまり駆動力不足を感じさせてしまう虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる従来例の有する不都合を改善し、運転者の意図に沿ったダウンシフト動作を実行させることの可能な自動変速機の変速制御装置を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する為、請求項1記載の発明では、運転者のアクセル操作に伴い作動するキックダウンスイッチがスイッチオンとなった際に現在よりも大きな変速比へと変速させる変速制御手段を備えた自動変速機の変速制御装置において、所定よりも車速が低く且つ運転者のアクセル操作を早踏み操作と判断したときに、キックダウンスイッチがスイッチオフ状態であっても現在よりも大きな変速比へと変速させるように変速制御手段を構成している。
【0007】
この請求項1記載の自動変速機の変速制御装置は、そのような車速域において運転者がアクセルペダルを早踏みしたときに、キックダウンスイッチが作動していなくても自動変速機をダウンシフトさせることができる。つまり、この変速制御装置は、アクセルペダルの早踏み操作という運転者によるダウンシフト要求の意思を反映させることができる。
【0008】
また、上記目的を達成する為、請求項2記載の発明では、上記請求項1記載の自動変速機の変速制御装置において、キックダウンスイッチ抵抗感を感じることのないキックダウンスイッチオフ領域におけるアクセル開度の最大値を求め、アクセル全開時のアクセル開度をキックダウンスイッチオフ領域の最大のアクセル開度へと補正するよう変速制御手段を構成している。
【0009】
この請求項2記載の自動変速機の変速制御装置は、アクセル全開後直ぐに足裏でキックダウンスイッチの抵抗感を足裏で感じ取らせることができるようになるので、運転者がキックダウンスイッチを作動させたと感じたときとキックダウンスイッチの作動に伴い実際にダウンシフト動作が実行されたときとの感覚的なズレを無くすことができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、運転者がキックダウンスイッチを作動させたときのみならず、アクセルペダルを早踏み操作したときにも、その操作に応じた自動変速機のダウンシフトを実行させることができる一方、通常の操作速度やゆっくりとした速度でアクセルペダルを操作したのであれば、例えばアクセル開度という運転者の意思に応じたダウンシフト制御が可能になる。つまり、この変速制御装置は、運転者の意図に沿ったダウンシフト動作を実行させることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明に係る自動変速機の変速制御装置の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。尚、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0012】
本発明に係る自動変速機の変速制御装置の実施例を図1から図8に基づいて説明する。
【0013】
ここで例示する図1の自動変速機10は、その段数については問わないが、複数の変速段の中から選択した1つの変速段へと自動的に切り換え、その変速段の変速比で内燃機関等の原動機20の出力トルクを図示しない駆動輪側へと伝える有段のものを示す。
【0014】
また、ここでは、その自動変速機10や原動機20を図1に示す電子制御装置(ECU)1で制御させるものとして例示する。つまり、この電子制御装置1は、自動変速機の変速制御装置として機能する一方、原動機20の燃焼制御等を行う制御装置としても機能する。この電子制御装置1は、図示しないCPU(中央演算処理装置),所定の制御プログラム等を予め記憶しているROM(Read Only Memory),そのCPUの演算結果を一時記憶するRAM(Random Access Memory),予め用意された情報等を記憶するバックアップRAM等で構成されている。
【0015】
ここで、本実施例の変速制御装置(電子制御装置1)には、自動変速機10の変速動作についての制御を行う変速制御手段が用意されている。本実施例の変速制御手段は、運転者のアクセルペダル31の操作状態量(操作量や操作速度)と、そのときの車速V又はこれに関係する自動変速機10の図示しない出力軸の回転数(以下、「AT出力軸回転数」という。)Noと、に基づいて変速比(即ち、変速段)の選択を行うように構成する。これが為、その自動変速機10が搭載された車輌には、アクセルペダル31の操作量を検出するアクセルペダル操作量検出手段、アクセルペダル31の操作速度を検出するアクセルペダル操作速度検出手段、車速Vを検出する車速検出手段又はAT出力軸回転数Noを検出するAT出力軸回転数検出手段が設けられている。
【0016】
例えば、そのアクセルペダル31の操作量としては、アクセルペダル31の踏み込み量(つまり、アクセルペダル31の移動量)や開度(所謂アクセル開度)等が該当する。また、アクセルペダル31の操作速度としては、アクセルペダル31の踏み込み速度や単位時間当たりのアクセル開度の変化量(以下、「アクセル開度変化量」という。)等が該当する。
【0017】
本実施例においては、そのアクセルペダル31の操作量としてアクセル開度を利用し、また、そのアクセルペダル31の操作速度としてアクセル開度変化量を利用する。従って、ここでは、アクセルペダル操作量検出手段及びアクセルペダル操作速度検出手段として図1に示すアクセル開度センサ41を利用し、その検出信号を受信した電子制御装置1でアクセル開度TAP1とアクセル開度変化量ΔTAP1を求めさせる。そのアクセル開度センサ41については、アクセル開度TAP1が大きくなるにつれて高電圧の信号電圧を出力させるものとする。
【0018】
例えば、その電子制御装置1の変速制御手段は、アクセル全開時にアクセル開度センサ41から出力される信号電圧(以下、「アクセル全開電圧」という。)Eoと、アクセル全閉時にアクセル開度センサ41から出力される信号電圧(以下、「アクセル全閉電圧」という。)Ecと、運転者によるアクセル操作時にアクセル開度センサ41から出力される信号電圧(以下、「アクセル操作電圧」という。)Edと、を用いて下記の式1からアクセル開度TAP1を百分率で求める。尚、そのアクセル全開電圧Eo及びアクセル全閉電圧Ecはアクセルペダル31とアクセル開度センサ41の組み合わせ固有の予め判っている値であるので、実際の演算時には、アクセル操作電圧Edの検出のみでアクセル開度TAP1を求めることができる。
【0019】
TAP1={(Ed−Ec)/(Eo−Ec)}×100 … (1)
【0020】
また、その変速制御手段は、例えば時間tの間にアクセル開度TAP1aからアクセル開度TAP1bまでアクセルペダル31が踏み込まれたとすると、下記の式2の如くしてアクセル開度変化量ΔTAP1の演算を行う。
【0021】
ΔTAP1=(TAP1b−TAP1a)/t … (2)
【0022】
更に、車速Vについては、従来より様々な方法で求められている。例えば、その1つとしては、AT出力軸回転数Noの情報を用いた算出方法が知られている。つまり、車速VとAT出力軸回転数Noとの間には相関関係がある。これが為、本実施例においては、そのAT出力軸回転数Noの情報を利用して変速制御手段に変速制御を実行させることとする。従って、ここでは、AT出力軸回転数検出手段としての図1に示すAT出力軸回転数検出センサ42が用意されており、その検出信号が電子制御装置1に送信される。
【0023】
ところで、ここで例示している自動変速機10には、そのアクセル全開時よりも更に奥にアクセルペダル31を踏み込むことによって作動し、現在よりも低い変速段へと変速させる所謂キックダウンスイッチ32が用意されている。これが為、そのキックダウンスイッチ32がスイッチオンとなったときには、アクセル全開電圧Eoよりも高い信号電圧(以下、「キックダウンスイッチ作動電圧」という。)Ekdがアクセル開度センサ41から出力されるので、アクセル開度TAP1がアクセル全開時の100(%)よりも大きな値になる。つまり、本実施例においては、アクセル操作電圧Edがキックダウンスイッチ作動電圧Ekdにまで達したときに、キックダウンスイッチ32がスイッチオンとなったと判断する。
【0024】
そのキックダウンスイッチ32については少なくとも運転者の足裏にスイッチを押したとの感覚を与える機構(例えば、バネ等の弾性部材で抵抗感や節度感を与えるもの等)を備えたものであればよいので、ここでは、そのアクセル開度センサ41等のような別部品のスイッチ入り切り検出手段を利用する。尚、キックダウンスイッチ32は、それ自体が電気的接点を持ってスイッチの入り切りを行い、スイッチが投入された際にスイッチオンの信号電圧を電子制御装置1に送信するものであってもよい。
【0025】
しかしながら、本実施例においては、アクセル全開時の100(%)を最大値にして、これを超えた値のアクセル開度TAP1が算出されないようにしている。
【0026】
そこで、本実施例においては、運転者によるアクセル開度TAP1とは別に変速制御を行う際に使用するアクセル開度(以下、「変速制御用アクセル開度」という。)TAP1SFTを用意し、この変速制御用アクセル開度TAP1SFTを用いて変速制御手段に変速制御を実行させる。具体的に、本実施例の変速制御手段には、その変速制御用アクセル開度TAP1SFTとAT出力軸回転数Noをパラメータにした変速制御マップを用いて変速制御を行わせる。
【0027】
例えば、ここでは、変速段P(n)と変速段P(n−1)との間の変速制御マップについて図2に例示する。この図2に示す変速制御マップは、その夫々の変速段P(n),P(n−1)の領域の境界を表す変速線が記された変速線図であり、AT出力軸回転数Noと変速制御用アクセル開度TAP1SFTとで決まる変速点の位置によって何れかの変速段P(n),P(n−1)を選択させるものである。つまり、この変速制御マップにおいては、その変速線の形状によって変速特性を変えることができる。
【0028】
ここでは、AT出力軸回転数Noが低下して、また、変速制御用アクセル開度TAP1SFTが大きくなって、変速点が変速段P(n)の領域から変速線を越えて変速段P(n−1)の領域へと移った際に変速段P(n−1)へのダウンシフトが実行される。また、ここでは、アクセルペダル31の通常操作時(ここでは、アクセルペダル31についての早踏み操作時以外の全ての操作時を指す。)において、運転者によるアクセル開度TAP1がそのまま変速制御用アクセル開度TAP1SFTとなる(即ち、TAP1SFT=TAP1)ように設定されている。ここで示すアクセルペダル31の早踏みとは、運転者がアクセルペダル31を普段よりも素早い速度で踏み込むことをいう。尚、その早踏みと判断する為の踏み込み速度については、様々な運転者の平均的な普段の踏み込み速度を参考にして予め設定しておいてもよく、また、様々な状況下における運転者の過去の踏み込み速度を参考にして求めるようにしてもよい。
【0029】
変速制御マップは、例えば、AT出力軸回転数Noが図2に示す第1回転数No1以下で且つアクセルペダル31の通常操作時であれば、アクセル全開(TAP1SFT=TAP1=100)となったときに現在の変速段P(n)から変速段P(n−1)へとダウンシフトされるように構成している。一方、この変速制御マップは、AT出力軸回転数Noが第1回転数No1よりも高回転で且つアクセルペダル31の通常操作時の場合、アクセル全開にしても現在の変速段P(n)から変更されないように構成している。
【0030】
また、本実施例の変速制御手段は、キックダウンスイッチ32がスイッチオンとなったときに変速制御用アクセル開度TAP1SFTを「TAP1SFT(KD)」に設定するよう構成している。これが為、変速制御マップには、キックダウンスイッチオンのときの変速制御用アクセル開度TAP1SFT(KD)が定められている。この変速制御用アクセル開度TAP1SFT(KD)は、アクセル全開時の「100(%)」よりも大きな値になっている。
【0031】
ここで、本実施例においては、そのような変速制御用アクセル開度TAP1SFT等の変化を検知したときやキックダウンスイッチ32がスイッチオンとなったときのみならず、これら以外の或る所定のアクセルペダル31の操作を運転者が行ったときにもダウンシフトが実行されるように構成する。具体的に、ここでは、アクセルペダル31の早踏み操作が行われた場合、これを運転者によるダウンシフト要求と判断させて変速制御手段にダウンシフトを実行させる。これが為、その場合に上記の変速制御マップを利用してダウンシフトさせるには、その早踏み操作の程度に応じて運転者のアクセル開度TAP1を補正し、そのアクセル開度TAP1よりも大きな値の変速制御用アクセル開度TAP1SFTを導き出す必要がある。
【0032】
従って、本実施例の変速制御手段には、アクセル開度変化量ΔTAP1が所定値よりも大きい(つまり、アクセルペダル31の踏み込み速度が所定速度よりも速い)ときに運転者がダウンシフトを望んでいると判断させ、その時のアクセル開度TAP1を大きな値へと補正させる。ここでは、その補正値が早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTとなる。例えば、ここでは、その早踏み操作時の補正方法として下記の式3の如くアクセル開度TAP1に早踏み補正係数K(No,ΔTAP1)を乗算させる。
【0033】
TAP1SFT=TAP1×K(No,ΔTAP1) … (3)
【0034】
その早踏み補正係数K(No,ΔTAP1)は、AT出力軸回転数Noとアクセル開度変化量ΔTAP1に応じて変わる「1」よりも大きな係数であり、例えば、AT出力軸回転数Noが高いほど、また、アクセル開度変化量ΔTAP1が大きいほど大きな値にする。この早踏み補正係数K(No,ΔTAP1)については、そのAT出力軸回転数Noとアクセル開度変化量ΔTAP1をパラメータとする例えば補正係数マップを用いて導き出せばよい。
【0035】
これが為、本実施例の変速制御手段には、AT出力軸回転数Noが第1回転数No1より高回転になっていても、アクセルペダル31の早踏み操作に伴い変速制御用アクセル開度TAP1SFTが変速線(ここでは、「110(%)」)を超えたならば、現在の変速段P(n)から変速段P(n−1)へとダウンシフトさせる。
【0036】
更に、高速走行時には、ダウンシフト後の機関回転数が高くなる為、アクセルペダル31を素早く踏んだだけでダウンシフトを行うと運転者に違和感を与えてしまうという不都合が生じる。従って、ここでは、その不都合を回避させるべく、所定車速よりも高速(つまり、AT出力軸回転数Noが第2回転数No2よりも高い)のときにダウンシフトさせないよう変速制御用アクセル開度TAP1SFTのガード値TAP1SFT(G)が設定されている。このガード値TAP1SFT(G)は、ダウンシフトさせたくない所定車速よりも高速の領域で変速制御用アクセル開度TAP1SFTが変速線(ここでは、「120(%)」)よりも小さく且つアクセル全開時の「100(%)」よりも大きな値となるように設定する。尚、このガード値TAP1SFT(G)は、キックダウンスイッチ32がスイッチオンとなったときの変速制御用アクセル開度TAP1SFT(KD)よりも小さい。また、その所定車速よりも低速側においては、そのガード値TAP1SFT(G)よりも小さいところに変速線を設定する。
【0037】
以下に、本実施例における自動変速機の変速制御装置(電子制御装置1)のダウンシフト動作について図3のフローチャートに基づき説明する。
【0038】
先ず、本実施例の変速制御装置の変速制御手段は、運転者のアクセルペダル31の操作に伴うアクセル開度変化量ΔTAP1を求め、このアクセル開度変化量ΔTAP1と所定値Xとの比較を行う(ステップST1)。
【0039】
その際、アクセル開度変化量ΔTAP1については、アクセル開度センサ41の検出信号(信号電圧)から求めたアクセルペダル31の操作前後のアクセル開度TAP1a,TAP1bとその操作を行っている間の時間tとを上記式2に代入して演算する。更に、その所定値Xとは、アクセルペダル31の早踏み操作か否かを判定する為の閾値であって、例えば予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて設定しておけばよい。また、アクセルペダル31の早踏み操作の速度は運転者毎に異なることも考えられるので、この所定値Xについては、運転者によるアクセルペダル31の操作の嗜好や傾向、癖等から学習して補正させるようにしてもよい。
【0040】
そのステップST1にてアクセル開度変化量ΔTAP1が所定値X以下であると判定された場合、即ち早踏み操作とは異なる通常操作時であるとの判断が為された場合、変速制御手段は、その時のアクセル開度TAP1(ここでは、TAP1bとなる。)を通常操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTとして求める(ステップST2)。
【0041】
一方、その変速制御手段は、上記ステップST1にてアクセル開度変化量ΔTAP1が所定値Xよりも大きくなっており早踏み操作時と判断した場合、AT出力軸回転数検出センサ42から検出したAT出力軸回転数Noと上記ステップST1のアクセル開度変化量ΔTAP1とに応じた早踏み補正係数K(No,ΔTAP1)を求める(ステップST3)。そして、この変速制御手段は、その時のアクセル開度TAP1(ここでは、TAP1bとなる。)にその早踏み補正係数K(No,ΔTAP1)を乗算して早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTを求める(ステップST4)。
【0042】
続いて、この変速制御手段は、そのステップST4で求めた変速制御用アクセル開度TAP1SFTが上述したガード値TAP1SFT(G)よりも小さいのか否かについての判定を行う(ステップST5)。そして、この変速制御手段は、そのガード値TAP1SFT(G)よりも小さいとの判定を行ったのであれば、その変速制御用アクセル開度TAP1SFTを早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTとして設定する一方(ステップST6)、そのガード値TAP1SFT(G)以上になっているとの判定を行ったのであれば、そのガード値TAP1SFT(G)を早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTとして設定する(ステップST7)。
【0043】
そのようにして通常操作時又は早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTを求めた後、本実施例の変速制御手段は、キックダウンスイッチ32の状態に応じて最終的な通常操作時又は早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTを設定する。つまり、そのステップST7までに求めた通常操作時又は早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTについては、最終的な設定値ではなく暫定値になっている。従って、その変速制御手段は、先ずキックダウンスイッチ32がスイッチオンになっているのか否かについての判定を行う(ステップST8)。
【0044】
ここで、この変速制御手段は、キックダウンスイッチ32がスイッチオフのままとの判定を行ったのであれば、上記ステップST7までに求めた通常操作時又は早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTを夫々に最終的な通常操作時又は早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTとして設定する(ステップST9)。一方、この変速制御手段は、キックダウンスイッチ32がスイッチオンになっているとの判定を行ったのであれば、上述したキックダウンスイッチオン時の変速制御用アクセル開度TAP1SFT(KD)を最終的な通常操作時又は早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTとして設定する(ステップST10)。
【0045】
しかる後、この変速制御手段は、その通常操作時又は早踏み操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTに基づいて自動変速機10の変速制御を行う(ステップST11)。以下に、その変速制御について具体的な例を挙げて説明する。尚、ここでは、現在の変速段が変速段P(n)になっているものとして説明する。また、以下においては便宜上AT出力軸回転数Noに殆ど変動が無いものとして説明するが、その変動があった場合には、これも考慮に入れて変速点を移動させ、それに従って変速制御を行う。
【0046】
最初に通常操作時の場合について説明する。
【0047】
この場合には、キックダウンスイッチ32がスイッチオンにならない限り、運転者のアクセル開度TAP1がそのまま変速制御用アクセル開度TAP1SFTとなる。これが為、キックダウンスイッチ32がスイッチオフのときの変速制御手段は、変速段P(n)の領域から変速点が移動しなければ、その現在の変速段P(n)を保持させるべく自動変速機10の制御を行い、また、変速段P(n)の領域から変速段P(n−1)の領域へと変速点が移動したならば、現在の変速段P(n)から変速段P(n−1)へと自動変速機10をダウンシフトさせる。その際、AT出力軸回転数Noが第1回転数No1を超えて高くなっているときには、変速点がアクセル全開時の変速制御用アクセル開度TAP1SFT(=100)を超えることはないので、現在の変速段P(n)が維持される。
【0048】
一方、キックダウンスイッチ32がスイッチオンになったときには、キックダウンスイッチオン時の変速制御用アクセル開度TAP1SFT(KD)が通常操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTとして設定される。これが為、このときの変速制御手段は、そのキックダウンスイッチ32の状態に従って、現在の変速段P(n)から変速段P(n−1)へと自動変速機10をダウンシフトさせる。
【0049】
次に、早踏み操作時の場合について説明する。
【0050】
この場合、キックダウンスイッチ32がスイッチオンになったときには、上述した通常操作時と同様に、変速制御手段が現在の変速段P(n)から変速段P(n−1)へと自動変速機10をダウンシフトさせる。
【0051】
一方、例えばAT出力軸回転数Noが第1回転数No1以下のときには、運転者のアクセル開度TAP1が100(つまり、アクセル全開)にならなくても、変速制御用アクセル開度TAP1SFTがそのアクセル開度TAP1よりも大きな値に補正されるので、変速点が変速線を越えることがある。これが為、このときには、変速制御手段が自動変速機10を現在の変速段P(n)から変速段P(n−1)へとダウンシフトさせる。つまり、本実施例の変速制御装置は、運転者のアクセル開度TAP1そのものがアクセル全開時よりも低い変速線を越えさせる大きさにまでなっていなくても、更に、キックダウンスイッチ32が作動させられていなくても、運転者のアクセルペダル31の早踏み操作があった時点でダウンシフト要求と判断させ、変速段を1段落とさせることができる。
【0052】
また、AT出力軸回転数Noが第1回転数No1よりも高く第2回転数No2以下のときには、変速制御用アクセル開度TAP1SFTが通常操作時には超えることのできなかった100を超えることがある。そして、このときには、変速制御用アクセル開度TAP1SFTが変速線(110)よりも大きな値に補正されて、変速点が図4に示す如くその変速線をも超えることがある。これが為、その際には、変速制御手段が自動変速機10を現在の変速段P(n)から変速段P(n−1)へとダウンシフトさせる。つまり、本実施例の変速制御装置は、運転者による通常操作時のアクセル開度TAP1そのもので変速線を越えさせることができない領域であっても、更に、その領域でキックダウンスイッチ32が作動させられていなくても、運転者のアクセルペダル31の早踏み操作があった時点でダウンシフト要求と判断させ、変速段を1段落とさせることができる。
【0053】
また、AT出力軸回転数Noが第2回転数No2よりも高いときには、変速制御用アクセル開度TAP1SFTが通常操作時には超えることのできなかった100を超えることがあっても、その上限が図5に示す如くガード値TAP1SFT(G)で阻まれる。そして、このときには、変速制御用アクセル開度TAP1SFTがガード値TAP1SFT(G)よりも高い変速線(120)を超えることができないので、変速制御手段が自動変速機10を現在の変速段P(n)のまま維持させる。つまり、本実施例の変速制御装置は、AT出力軸回転数Noが所定の回転数(第2回転数No2)よりも高ければ、キックダウンスイッチ32を作動させない限りダウンシフトが実行されないように構成することができる。
【0054】
このように、本実施例の変速制御装置によれば、所定車速(ここでは、AT出力軸回転数Noが第2回転数No2のときの車速)以下の低車速域においては、キックダウンスイッチ32が作動させられたときのみならず、運転者がアクセルペダル31を早踏み操作したときにも自動変速機10をダウンシフトさせることができる。つまり、本実施例の変速制御装置は、キックダウンスイッチ32がスイッチオフの状態にあったとしても、運転者がアクセルペダル31を早踏み操作したならば、これをダウンシフト要求と判断して自動変速機10の変速段を1段下げさせる。これにより、この変速制御装置は、アクセルペダル31の早踏み操作という運転者による駆動力の増加要求に沿った低い変速段で原動機20の駆動力を駆動輪に伝えることができる。従って、この変速制御装置は、アクセルペダル31の早踏み操作を行ったにも拘わらず、その操作に見合った駆動力の増加、つまり車輌の加速感を運転者が得られない駆動力不足感という事態を回避することができ、運転者の意図に沿ったダウンシフト操作を実行させることができる。
【0055】
一方、その所定車速よりも高車速域においては、運転者がアクセルペダル31を如何に早踏み操作しようとも、キックダウンスイッチ32を作動させなければ自動変速機10をダウンシフトさせない。つまり、本実施例の変速制御装置は、高車速域においてキックダウンスイッチ32を作動させず、アクセルペダル31の操作のみで頻繁にダウンシフトさせないように構成することもできる。従って、このように構成した場合には、高速走行時のダウンシフトに伴って原動機20が高回転になることの違和感やノイズ等を抑制できるようになる。
【0056】
ところで、キックダウンスイッチ32の作動過程においては、運転者がアクセルペダル31を踏み込んでいく内に足裏でこれまでとは異なる抵抗感を感じ始めるキックダウンスイッチ抵抗感発生点と、このキックダウンスイッチ抵抗感発生点から更に奥へと踏み込んだときに変速制御手段に対してダウンシフト指示信号を送信させるキックダウンスイッチ作動指示点と、が存在している。
【0057】
つまり、そのキックダウンスイッチ作動指示点とはキックダウンスイッチ32がスイッチオンになった時点のことであり、その時には、上述したキックダウンスイッチ作動電圧Ekdがアクセル開度センサ41から出力される。
【0058】
ここで、キックダウンスイッチ32を作動させる際には、アクセルペダル31の良好な操作感を得る上で、アクセル全開後直ぐにキックダウンスイッチ32の抵抗感を足裏で感じ取らせるようにしておくことが望ましい。これが為、かかる操作感を得る為には、キックダウンスイッチ抵抗感発生点をアクセル全開時に合わせ込めばよい。即ち、この場合には、アクセル全開時とキックダウンスイッチ抵抗感発生点において出力されるアクセル開度センサ41からの夫々の信号電圧が同じになるようにキックダウンスイッチ32等を設定すればよい。
【0059】
しかしながら、キックダウンスイッチ32やアクセル開度センサ41等には部品そのものや組み付け時の公差バラツキが存在しており、その公差バラツキ如何では、必ずしもアクセル全開電圧Eoの出力時期とキックダウンスイッチ抵抗感発生点とが一致しない可能性がある。これが為、アクセル全開時よりも先にキックダウンスイッチ抵抗感発生点に到達してしまう場合には、足裏で感じ取っているこれまでと違う抵抗感に基づいて運転者がキックダウンスイッチ32を作動させていると認識しているにも拘わらず、その抵抗感を感じた時期に合わせてキックダウンされない虞がある。また、キックダウンスイッチ抵抗感発生点がアクセル全開時よりも後に来てしまう場合には、足裏で抵抗感を感じてからキックダウンが行われると運転者が思っているにも拘わらず、自らの意図する時期よりも先にキックダウンが行われてしまう虞がある。そして、一般に公差バラツキを或る程度まで小さくすることはできても無くすことは難しいので、従来は、その何れかの場合の内で違和感の少ない後者の状態を敢えて作り出している。即ち、従来においては、図6に示す如く、アクセル全開電圧Eoが出力された後、アクセルペダル31を或る程度踏み込ませてからキックダウンスイッチ抵抗感発生点が現れるように構成している。つまり、従来においては、アクセル全開時とキックダウンスイッチ抵抗感発生点との間に足裏への抵抗感の変動の無い不感帯を設定し、この不感帯の後にキックダウンスイッチ32の抵抗感を感じることのできる領域が作られている。
【0060】
本実施例においては、そのような足裏で抵抗感を感じるまでにAT出力軸回転数Noが第1回転数No1以下の領域で確実にダウンシフトを行うことができる反面、アクセルペダル31を全開まで踏んでいないのにも拘わらずダウンシフトが発生したと感じる違和感を大きくしてしまう可能性があることに鑑みて、更に、キックダウンスイッチ32等に経時劣化が生じて不感帯を拡大させてしまったときを考慮に入れて、運転中にその不感帯を縮めていくことができるように変速制御装置を構成する。
【0061】
具体的に、ここでは、運転者が足裏への抵抗感の変動を感知するまでの領域をキックダウンスイッチのスイッチオフ領域(以下、「キックダウンスイッチオフ領域」という。)と規定し、このキックダウンスイッチオフ領域におけるアクセル開度TAP1の最大値を観ながら学習させる。そして、ここでは、その学習値がアクセル全開時のアクセル開度TAP1(=100)であって、キックダウンスイッチ抵抗感発生点におけるアクセル開度TAP1となるように変速制御装置を構成する。つまり、ここでは、アクセル全開時のアクセル開度TAP1をキックダウンスイッチオフ領域における最大のアクセル開度TAP1へと補正させ、そのアクセル全開時のアクセル開度TAP1のときにキックダウンスイッチ抵抗感発生点が来るように構成する。以下、その学習動作について図7のフローチャートに基づき説明する。
【0062】
先ず、本実施例の変速制御手段は、アクセル開度センサ41から出力されたアクセル操作電圧Ed(n)が現時点でのアクセル全開電圧Eoよりも高く且つキックダウンスイッチ作動電圧Ekdよりも低くなっているのか否かについて判定する(ステップST21)。つまり、ここでは、アクセルペダル31が現状で設定されているアクセル全開時よりも深く踏まれてはいるがキックダウンスイッチ32が作動するまでは踏み込まれていない、という図8の上図に示す所定の範囲(不感帯の範囲とキックダウンスイッチ抵抗感を感じる範囲)内にアクセル開度TAP1が到達しているのか否かの判定を行っている。
【0063】
この変速制御手段は、そのアクセル操作電圧Ed(n)がアクセル全開電圧Eo以下又はキックダウンスイッチ作動電圧Ekdになっているとの判定を行った場合、つまりアクセル開度TAP1が上記の所定の範囲内から外れている場合、ステップST36に進み、アクセル一定開度判定カウンタTと学習開始フラグFを夫々「0」にして本処理を一旦終える。
【0064】
そのアクセル一定開度判定カウンタTとは、仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasを後述するが如く新たに設定し又は同じ値に保持した際に1つずつ加算していくカウンタである。その一定の範囲とは、上述したアクセル全開電圧Eo検出時からキックダウンスイッチ作動電圧Ekd検出時までの間に含まれており、例えばその間よりも狭い幅に設定する。また、学習開始フラグFとは、アクセル開度TAP1等が本学習動作を行うに値する状態のときに立てられるフラグである。
【0065】
一方、上記ステップST21でアクセル操作電圧Ed(n)がアクセル全開電圧Eoよりも高く且つキックダウンスイッチ作動電圧Ekdよりも低いと判定された場合、変速制御手段は、アクセル開度TAP1が略一定に保たれているのか否かについて判定する。例えば、ここでは、そのアクセル操作電圧Ed(n)と1つ前のアクセル操作電圧Ed(n−1)の差の絶対値が所定値よりも小さくなっているのか否かを判定して(ステップST22)、アクセル開度TAP1の状態を判断する。この場合、アクセルペダル31が人によって操作されるものである以上、完全にアクセル開度TAP1を一定に保持することは難しいので、その所定値については、「0」に近い値を設定しておくことが好ましい。
【0066】
そのステップST22においてその差が所定値以上になっており、アクセル開度TAP1が略一定に保たれていないと判断された場合、変速制御手段は、ステップST36に進み、アクセル一定開度判定カウンタTと学習開始フラグFを夫々「0」にして本処理を一旦終える。
【0067】
また、そのステップST22においてその差が所定値よりも小さくなっており、アクセル開度TAP1が略一定に保たれていると判断された場合、この変速制御手段は、学習開始フラグFが立っているのか否か(即ち、F=1なのか否か)の判定を行う(ステップST23)。つまり、上記ステップST21,ST22において肯定判定された時点で本学習動作を行うに値する最低限の状態になっているので、ここでは、その学習動作の1回目の演算なのか2回目以降の演算なのかについて判定している。
【0068】
そして、そのステップST23で学習開始フラグFが立っていないと判定された場合、この変速制御手段は、1回目の演算と判断して、上記ステップST21のアクセル操作電圧Ed(n)を仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasとして設定し(ステップST24)、学習開始フラグFを立てて(ステップST25)、下記のステップST28に進む。
【0069】
また、この変速制御手段は、上記ステップST23で学習開始フラグFが立っていると判定した場合、2回目以降の演算と判断して、上記ステップST21のアクセル操作電圧Ed(n)が現時点の仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasよりも大きくなっているのか否かについて判定する(ステップST26)。つまり、ここでは、アクセルペダル31がキックダウンスイッチ抵抗感発生点まで踏み込まれているのか否かの判断を行っている。
【0070】
そのステップST26にてアクセル操作電圧Ed(n)が仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esas以下と判定され、アクセルペダル31の踏み込みが一定に保持されたまま又は戻されたと判断した場合、変速制御手段は、現時点の仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasをそのまま使うものとして下記のステップST28に進む。
【0071】
一方、この変速制御手段は、そのステップST26にてアクセル操作電圧Ed(n)が仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasよりも大きいと判定され、アクセルペダル31が更に踏み込まれたと判断した場合、そのアクセル操作電圧Ed(n)を仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasとして設定し(ステップST27)、下記のステップST28に進む。
【0072】
本実施例の変速制御手段は、そのようにして仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasの設定を行った後、アクセル一定開度判定カウンタTを1つ増やし(ステップST28)、そのアクセル一定開度判定カウンタTが所定値を超えたか否かの判定を行う(ステップST29)。その所定値は、10回、20回等の回数を設定すればよいが、あまり多くの回数を設定するとアクセルペダル31の踏み込み量が大きく変わってしまい、上記のステップST21又はステップST22で否定判定されて学習できなくなってしまうので、適度な回数を実験等の結果を参考にして設定することが好ましい。
【0073】
変速制御手段は、そのステップST29でアクセル一定開度判定カウンタTが所定の回数以下の場合に上記ステップST21へ戻り、そのアクセル一定開度判定カウンタTが所定の回数を超えたときに、図8の上図に示す如く、この時点で設定されている仮のキックダウンスイッチ抵抗感発生電圧Esasをアクセル全開電圧の暫定値Eoproに設定する(ステップST30)。つまり、ここでは、不感帯の終端とキックダウンスイッチ抵抗感の感じ始めの境界部分をアクセル全開電圧の暫定値Eoproとして設定している。
【0074】
そして、この変速制御手段は、そのアクセル全開電圧の暫定値Eoproと現時点で設定されているアクセル全開電圧Eoとの一致/不一致を判定する(ステップST31)。
【0075】
この変速制御手段は、そのステップST31でアクセル全開電圧の暫定値Eoproと現時点のアクセル全開電圧Eoとが一致していれば、ステップST36に進み、アクセル一定開度判定カウンタTと学習開始フラグFを夫々「0」にして本処理を一旦終える。つまり、ここでは、既に不感帯が詰められている図8の下図の状態になっているので、アクセル全開電圧Eoは必要なく、この学習動作を一旦終わらせる。
【0076】
これとは逆に、そのステップST31でアクセル全開電圧の暫定値Eoproと現時点のアクセル全開電圧Eoとが不一致と判定された場合、この変速制御手段は、そのアクセル全開電圧の暫定値Eoproにおける通常操作時の変速制御用アクセル開度暫定値TAP1SFTproを下記の式4に基づき求めると共に(ステップST32)、その現時点のアクセル全開電圧Eoにおける通常操作時の変速制御用アクセル開度TAP1SFTを下記の式5に基づいて求める(ステップST33)。
【0077】
TAP1SFTpro=TAP1pro={(Ed(n)−Ec)/(Eopro−Ec)}×100 … (4)
【0078】
TAP1SFT=TAP1={(Ed(n)−Ec)/(Eo−Ec)}×100 … (5)
【0079】
そして、この変速制御手段は、その変速制御用アクセル開度暫定値TAP1SFTproに該当する変速段とその変速制御用アクセル開度TAP1SFTに該当する変速段との一致/不一致を判定する(ステップST34)。
【0080】
この変速制御手段は、そのステップST34で不一致との判定を行った場合、ステップST36に進み、アクセル一定開度判定カウンタTと学習開始フラグFを夫々「0」にして本処理を一旦終える。つまり、この場合には、アクセル全開電圧Eoを新たな値(ここでは、アクセル全開電圧の暫定値Eopro)へと更新することによって自動変速機10が変速してしまうので、かかる変速を回避すべく本学習動作を終わらせることにしている。
【0081】
一方、この変速制御手段は、そのステップST34で一致との判定を行った場合、そのアクセル全開電圧の暫定値Eoproを新たなアクセル全開電圧Eoとして設定する(ステップST35)。つまり、ここでは、図8の下図に示す如く、アクセル全開電圧Eoがこれまでのものから上記ステップST30のアクセル全開電圧の暫定値Eoproへと更新され、図8の上図に示されている不感帯が詰められる。
【0082】
そして、この変速制御手段は、アクセル一定開度判定カウンタTと学習開始フラグFを夫々に「0」にして初期化し、本処理を一旦終える(ステップST36)。
【0083】
このように、本実施例の変速制御装置は、公差バラツキを鑑みた上で最初に設定しておかなければならない不感帯を運転開始後に詰めていくことができる。従って、運転者は、アクセルペダル31をアクセル全開になるまで踏み込んだ際に足裏でキックダウンスイッチ32の抵抗感を感じ取ることができるようになり、その時点からキックダウンスイッチ32の動作を開始させることができる。つまり、この変速制御装置によれば、足裏でキックダウンスイッチ32の抵抗感を感じる前にダウンシフトされてしまうことも、その抵抗感を感じたにも拘わらずダウンシフトされないということもなくなり、足裏で抵抗感を感じた時点でキックダウンスイッチ32を作動させて、運転者の意図に沿った違和感のない自動変速機10のダウンシフトの実行が可能になる。これが為、この変速制御装置は、運転者がキックダウンスイッチ32を作動させたと感じたときとキックダウンスイッチ32の作動に伴い実際にダウンシフト動作が実行されたときとの感覚的なズレを無くすことができ、キックダウンスイッチ32を作動させることで行うダウンシフト操作の操作感や操作性の向上を図ることができる。
【0084】
また、キックダウンスイッチ32等に経時劣化が生じると、せっかく詰めた不感帯を再び発生させてしまう可能性もあるが、本実施例の変速制御装置は、上述した学習動作を常時又は時折実行することによって、そのような経時劣化による不感帯の発生を防ぐこともできる。これが為、この変速制御装置は、キックダウンスイッチ32を作動させる際の違和感のない自動変速機10のダウンシフトを継続して行わせることができる。
【0085】
ところで、上述した実施例においては有段の自動変速機を例に挙げて説明したが、上述した本発明については、ベルト式やトロイダル式等を問わず無段の自動変速機に対しても適用することができ、同様の効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
以上のように、本発明に係る自動変速機の変速制御装置は、運転者の意図に沿ったダウンシフト動作を実行させる技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係る自動変速機の変速制御装置の構成の一例を示す図である。
【図2】変速段P(n)と変速段P(n−1)との間の変速制御マップの一例を示す図である。
【図3】本発明に係る自動変速機の変速制御装置の変速制御動作について示すフローチャートである。
【図4】変速段P(n)と変速段P(n−1)との間の変速制御マップの一例であって、AT出力軸回転数が第1回転数と第2回転数の間にある場合にアクセルペダルが早踏み操作されたときの変速点の一例について示す図である。
【図5】変速段P(n)と変速段P(n−1)との間の変速制御マップの一例であって、AT出力軸回転数が第2回転数よりも高い場合にアクセルペダルが早踏み操作されたときの変速点の一例について示す図である。
【図6】アクセル全開電圧の学習動作を行う前の変速制御用アクセル開度とアクセル操作電圧との関係の一例を示す図である。
【図7】本発明に係る自動変速機の変速制御装置におけるアクセル全開電圧の学習動作について示すフローチャートである。
【図8】アクセル全開電圧の学習動作実行前後における変速制御用アクセル開度とアクセル操作電圧との関係の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0088】
1 電子制御装置(変速制御装置)
10 自動変速機
31 アクセルペダル
32 キックダウンスイッチ
41 アクセル開度センサ
42 AT出力軸回転数検出センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のアクセル操作に伴い作動するキックダウンスイッチがスイッチオンとなった際に現在よりも大きな変速比へと変速させる変速制御手段を備えた自動変速機の変速制御装置において、
前記変速制御手段は、所定よりも車速が低く且つ運転者のアクセル操作を早踏み操作と判断したときに、前記キックダウンスイッチがスイッチオフ状態であっても現在よりも大きな変速比へと変速させるように構成したことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
【請求項2】
前記変速制御手段は、キックダウンスイッチ抵抗感を感じることのないキックダウンスイッチオフ領域におけるアクセル開度の最大値を求め、アクセル全開時のアクセル開度を前記キックダウンスイッチオフ領域の最大のアクセル開度へと補正するよう構成したことを特徴とする請求項1記載の自動変速機の変速制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−2440(P2009−2440A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−164208(P2007−164208)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】