説明

自動変速機用油圧制御装置の検査方法

【課題】電磁油圧制御手段に通電する電流を制御する電流制御ユニットと放熱部材との接触状態を判定することができる自動変速機用油圧制御装置の検査方法を提供する。
【解決手段】 自動変速機用油圧制御装置の検査方法では、最初に指令電流値と実油圧値との関係を示す規範マップを作成する(S101)。次にTCUが電流を発生している状態において、TCUの温度をサーミスタで検出する(S103)。TCUにはTCUで発生する熱を放出する放熱板が接触している。TCUで発生する熱が放熱板を通って外部に放出される場合、TCUの温度は測定許容範囲内で安定するため、TCUと放熱板との接触状態は正常であると判定する(S104)。このとき、規範マップを補正するデータを収集する(S105)。一方、TCUで発生する熱が放熱板を通って外部に放出されない場合、TCUの温度は測定許容範囲を超えるため、接触状態は異常と判定して検査を中止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機用油圧制御装置の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンが発生する出力を車両の運転状況に応じて制御し車両の駆動輪に伝達する自動変速機が知られている。自動変速機では、複数の摩擦要素を選択的に係合又は開放することでエンジンの出力を制御する変速が行われる。自動変速機は、複数の摩擦要素に供給する作動油の圧力(以下、「油圧」という)を制御する電磁油圧制御弁と、電磁油圧制御弁に通電する電流を制御することで電磁油圧制御弁が供給する油圧を制御する電流制御ユニットとを備える。電流制御ユニットでは車両の運転状態に応じて必要とされる油圧として算出される指令油圧の値(以下、「指令油圧値」という)を電磁油圧制御弁に通電する電流の値に変換し、電磁油圧制御弁に電流を出力する。電磁油圧制御弁は電流制御ユニットが出力した電流により作動し、前述の摩擦要素に油圧を供給する。
【0003】
ここで、車両のシフトレンジを変更するときに発生する変速ショックの大きさには電流制御ユニットで算出される指令油圧値と電磁油圧制御弁が自動変速機の摩擦要素に供給する油圧の値である実油圧値との関係が影響する。すなわち、1つの指令油圧値に対して1つの実油圧値が対応すれば変速ショックは小さくすることができるが、1つの指令油圧値に対して複数の実油圧値が対応する場合、変速ショックは大きくなる。指令油圧値と実油圧値との関係は、電流制御ユニットが出力する電流の精度および電磁油圧制御弁が出力する油圧の精度に起因する。したがって、電磁油圧制御弁が供給する油圧の精度を向上するため、特に電流制御ユニットが出力する電流の精度を向上する必要がある。
【0004】
特許文献1には、電流制御ユニットでの指令油圧値に対する電磁油圧制御弁が出力する実油圧値を測定し、指令油圧値と実油圧値との差を補正値として指令油圧値の補正に用いる液圧制御方法が記載されている。特許文献2には、電流制御ユニットでの発熱により指令油圧値から電流制御ユニットが出力する電流の値への変換特性が変化することを防ぐために電流制御ユニットに放熱板を接触して熱を放出する自動変速機用油圧制御装置が記載されている。これにより、変換特性の変化を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−116130号公報
【特許文献2】米国特許7073410B2号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の液圧制御方法では、電流を通電することにより電流制御ユニットの温度が上昇すると指令油圧値と実油圧値との関係が変化する。これにより、前述の補正値では油圧の精度を向上することができない可能性がある。また、特許文献2に記載の自動変速機用油圧制御装置では、放熱板により十分に電流制御ユニットの熱が十分に放熱されているかどうかわからないため、電流制御ユニットと放熱板との接触状態が異常な場合電流制御ユニットの温度が上昇する。このため、電流制御ユニットが変換特性どおりの電流を出力できない可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、電磁油圧制御手段に通電する電流を制御する電流制御ユニットと放熱部材との接触状態を判定することができる自動変速機用油圧制御装置の検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明によると、自動変速機用油圧制御装置の検査方法は自動変速機用油圧制御装置が備える電流制御ユニットと電流制御ユニットに接触する放熱部材との接触状態が異常であるか否かを判定する。
検査対象となる自動変速機用油圧制御装置は、車両の自動変速を行う複数の摩擦要素に油圧を供給する。自動変速機用油圧制御手段は、油圧を制御する電磁油圧制御手段、および電磁油圧制御手段に電流を通電する電流制御ユニットを備える。電流制御ユニットでは、電磁油圧制御手段に通電する電流を実電流として電流発生手段が発生し、電流検出手段が実電流を検出する。電流制御ユニットの温度は温度検出手段により検出する。一方、電流制御ユニットは、電流制御ユニットで発生する熱を外部に放出する放熱部材と接触している。
【0009】
本発明の検査方法は、電流制御ユニットの温度を検出する温度検出段階と、温度検出段階で検出された電流制御ユニットの温度を所定の範囲内の温度と比較する比較段階と、比較段階における比較結果に基づいて電流制御ユニットと放熱部材との接触状態を判定する判定段階とを含む。温度検出段階では、電流発生手段が電流を発生している状態において温度検出手段が電流制御ユニットの温度を検出する。次に、比較段階では検出した電流制御ユニットの温度を所定の範囲内の温度と比較する。比較段階での比較の結果、電流制御ユニットの温度が所定の範囲外であるとき、判定段階において電流制御ユニットと放熱部材との接触状態は異常であると判定する。ここで接触状態が「異常」であるとは、電流制御ユニットで発生する熱が放熱部材を通って外部に放出されないため、電流制御ユニットの温度が所定の範囲内で安定しない時の接触状態を指す。電流制御ユニットと放熱部材との接触が異常である場合、電流制御ユニットで発生する熱は放熱部材を通って放出されにくいため、放出されない熱は電流制御ユニット内に留まり、前述した所定の温度範囲を超える。
【0010】
一方、電流制御ユニットの温度が所定の範囲内であるとき、電流制御ユニットで発生する熱が放熱部材を通して外部に放出されているとして電流制御ユニットと放熱部材との接触状態は正常であると判定する。ここで接触状態が「正常」であるとは、電流制御ユニットで発生する熱が放熱部材を通って外部に放出され、電流制御ユニットの温度が所定の範囲内で安定するときの接触状態を指す。これにより、温度検出手段が検出する温度から電流制御ユニットと放熱部材との接触状態を検査することができ、接触状態を判定することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明によると、検査対象となる自動変速機用油圧制御装置の電流制御ユニットは、電流発生手段に発生させる電流の値を補正電流値として電流発生手段に指令する電流指令手段、電磁油圧制御手段に出力させる油圧の値である指令油圧値を指令電流値に変換する変換手段、および電流検出手段が検出する実電流値と指令電流値とを比較して指令電流値を補正電流値に補正する電流補正手段を備える。
請求項3に記載の発明によると、自動変速機用油圧制御装置の検査方法は、現在の指令油圧値から特定の指令油圧値に変更する指令油圧値変更段階と、電磁油圧制御手段が実際に出力する油圧の値である実油圧値を測定する油圧値測定段階と、を含む。
本発明の検査方法は、判定段階において電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が正常であると判定したとき、指令油圧値変更段階において指令油圧値を変更し、油圧値測定段階において実油圧値を測定する。
【0012】
本発明の検査方法では、温度検出手段により検出される電流制御ユニットの温度が所定に範囲内である場合、電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が正常であると判定する。これは、電流制御ユニットで発生する熱が放熱部材を通して十分に外部に放出されていることを示している。電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が正常であると判定すると、電流制御ユニットでは指令油圧値を徐々に変更して実油圧値を測定する。これにより、電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が正常である場合のみ、指令油圧値と実油圧値との関係を表すデータを取得することができる。
【0013】
請求項4に記載の発明によると、自動変速機用油圧制御装置の検査方法は指令電流値と実油圧値との関係を表すマップを作成するマップ作成段階と、油圧測定段階により測定された実油圧値と指令油圧値との関係に基づき、前述のマップを補正する油圧補正段階と、を含む。
【0014】
電磁油圧制御手段が出力する実油圧と電流制御ユニットの変換手段が出力する指令電流との関係を表すデータは、実際に電磁油圧制御手段および電流制御ユニットが使用されている環境下で取得される。実際の使用においては、電流制御ユニットは電流を出力することで熱を発生する。このとき、電流制御ユニットの熱を放出する放熱部材が電流制御ユニットに正常に接触している場合、電流制御ユニットの温度は所定の範囲内で安定する。これにより、電流制御ユニットにおける指令電流値に対する実電流値への変換特性は安定し、1つの指令電流値に対して1つの実油圧値が対応する。一方、電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が異常である場合、電流制御ユニットの温度は安定しない。そのため、電流制御ユニットにおける指令電流値に対する実油圧値への変換特性は変化するため、1つの指令電流値に対して複数の実油圧値が対応することとなる。
【0015】
本発明の検査方法では、指令油圧値と指令電流値との関係を表すマップを作成する場合、最初に指令電流値と実油圧値との関係を表す規範油圧マップを予め作成する。この規範油圧マップを作成するためのデータは、複数の電磁油圧制御手段に対して実測した実油圧値を平均化することで取得する。次に、電流制御ユニットの温度を検出することにより電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が正常であるか否かを判定段階において判定する。電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が正常であると判定された場合、電流制御ユニットでは指令油圧値を徐々に変更して実油圧値を測定し、指令油圧値と実油圧値との関係を表すデータを取得する。最後に油圧補正段階において、指令油圧値と実油圧値との関係に基づいて規範油圧マップを補正する。これにより、電流制御ユニットと放熱部材との接触状態が正常である場合のみ、指令油圧値と指令電流値との関係が補正されたマップを作成する。したがって、本発明の検査方法では、電流制御ユニットの実使用にあわせた指令油圧値と指令電流値との関係を表すマップを作成することができる。また、マップ作成段階で作成する規範油圧マップは、自動変速機用油圧制御装置を検査する前段階として複数の電磁油圧制御手段に対して実測した実油圧値を平均化することで作成される。これにより、その後の検査において規範油圧マップを作成しなくても自動変速機用油圧制御装置を検査することができる。したがって、検査における測定工数を低減することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明によると、温度検出手段は電流検出手段の近傍に設置される。
電流制御ユニットでは電流検出手段が最も発熱量が多く、電流制御ユニットの温度は電流検出手段の発熱量により決定する。したがって、温度検出手段を電流検出手段の近傍に設置することにより、温度検出手段は電流検出手段が発生する熱の影響を受け、電流制御ユニットの温度を高精度に検出する。これにより、電流制御ユニットと放熱部材との接触状態を高精度に判定することができる。
請求項6に記載の発明によると、電流検出手段と温度検出手段とは1枚の基板上に搭載される。電流制御ユニットでは発熱量が最も多い電流検出手段が搭載される基板の温度が上昇しやすい。基板が温度検出手段を有することで電流制御ユニットの温度変化を正確に測定することができ、電流制御ユニットと放熱部材との接触状態を高精度に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の検査対象である電流制御ユニットを含む自動変速機を備える車両の模式図である。
【図2】本発明の一実施形態の検査対象である電流制御ユニットを含む自動変速機用油圧制御装置の模式図である。
【図3】本発明の一実施形態の検査対象である電流制御ユニットを含む電子制御モジュールの構成図である。
【図4】本発明の一実施形態の検査対象である電流制御ユニットの概念模式図である。
【図5】本発明の一実施形態で用いる検査システムの模式図である。
【図6】本発明の一実施形態の手順を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態での電流と油圧との関係図である。
【図8】本発明の一実施形態での電流および温度と時間との関係図である。
【図9】本発明の一実施形態での油圧および電流と時間との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(本実施形態)
本発明の一実施形態による自動変速機用油圧制御装置の検査方法について図1から図9に基づいて説明する。
最初に検査対象となる自動変速機油圧制御装置について説明する。
図1は、自動変速機用油圧制御装置100を含む自動変速機2が車両に搭載された状態を示す。自動変速機2はシフトレバー4により入力される運転者が選択したシフトレンジからエンジン1で発生した出力を調整し、この調整された出力を車両の駆動輪3に伝達する。
【0019】
図2は、自動変速機2が有する複数の摩擦要素の一つであるクラッチ30と自動変速機用油圧制御装置100との接続関係を示す。自動変速機用油圧制御装置100は、リニアソレノイド弁10、電子制御モジュール20およびオイルポンプ43を備えており、クラッチ30に対して作動油を供給してクラッチ30の係合または開放を制御する。
【0020】
クラッチ30は、自動変速機の摩擦要素として機能する。自動変速機は通常複数のクラッチとブレーキとで構成されるが、ここでは便宜上、クラッチ30を一つだけ示した。クラッチ30は、自動変速機の内部に設けられ、軸方向に重なり合う複数のクラッチディスク31,32を有している。これらクラッチディスク31,32が係合状態を作る。
【0021】
クラッチ30では、軸部33を円筒状の基部34に挿通するようにして組み付けている。基部34には、径方向外側へ拡がる円板状の底部34aを設けており、底部34aに連続する外郭部分である外郭部34bの内側に、上述したクラッチディスク31,32を配置している。また、基部34は、円板状のクラッチピストン35を軸方向に往復移動可能に支持している。ここで、クラッチピストン35と上記底部34aとの間に、ピストン室36を形成している。
【0022】
基部34の底部34aとは反対側の端部には、円板状の係止部34cを形成している。この係止部34cは、ちょうどクラッチディスク31,32の径方向内側に位置している。そして、係止部34cと上記クラッチピストン35との間には、バネ37を設けている。これにより、クラッチピストン35を底部34a側へ付勢する。
【0023】
上述したピストン室36には、軸部33に形成された油路33aを介して作動油が供給される。これにより、ピストン室36の油圧が上昇し、バネ37の付勢力に打ち勝つと、クラッチピストン35は、底部34aから離間する方向へ移動する。クラッチピストン35が、クラッチディスク31に当接しクラッチディスク31を押圧すると、クラッチディスク31,32が係合状態を作る。
【0024】
リニアソレノイド弁10は、クラッチ30に対し作動油を供給する。リニアソレノイド弁10は、通常複数のクラッチに対して複数設けられるが、ここでは、クラッチ30に対応させて一つだけ示した。
【0025】
自動変速機用油圧制御装置100のリニアソレノイド弁10は、スリーブ11と、電磁力発生部12とを備えている。スリーブ11には、電磁力発生部12側から、排出ポート11a、及び、出力ポート11b、供給ポート11c、自己調圧ポート11dを形成している。
【0026】
供給ポート11cには、供給管41が接続している。供給管41は、オイルパン42からリニアソレノイド弁10へ作動油を供給する配管であり、その途中には、オイルポンプ43が接続されている。また、排出ポート11aには、排出管44が接続している。排出管44は、リニアソレノイド弁10からオイルパン42へ作動油を排出するものである。
【0027】
出力ポート11bには、出力管45が接続している。出力管45には、クラッチ30の軸部33に形成された油路33aが接続している。これにより、作動油は、出力管45から油路33aを経由し、ピストン室36へ供給される。また、出力管45の途中には、分岐管46を分岐するように形成している。分岐管46は、自己調圧ポート11dに接続している。
【0028】
スリーブ11は、軸方向に往復移動可能な油圧制御スプール13を収容している。油圧制御スプール13は、軸方向の変位によって、上述した複数のポート11a〜11dのうちの所定のポートを連通する。具体的には、電磁力発生部12から離間する方向(以下「高圧設定」という)へ変位すると、供給ポート11cと出力ポート11bとが連通する。また、電磁力発生部12へ近接する方向(以下「低圧設定」という)へ変位すると、出力ポート11bと排出ポート11aとが連通する。なお、その中間位置には、供給ポート11c及び排出ポート11aがともに出力ポート11bに連通しないオーバーラップ領域が存在する。
【0029】
油圧制御スプール13の先端側には戻しバネ14を設けており、この戻しバネ14によって、油圧制御スプール13を低圧設定へ付勢する。また、出力ポート11bからクラッチ30に送られる作動油の一部が分岐管46を介して自己調圧ポート11dへ供給され、出力ポート11bからの作動油の油圧によって油圧制御スプール13を、低圧設定へ付勢する。
【0030】
電磁力発生部12は、可動部15、固定部16、コイル17及び、コネクタ18等で構成されている。可動部15は、円筒状の固定部16の内側に軸方向に移動可能に支持されている。また、コイル17は、固定部16の周囲に配置されている。また、コネクタ18を介して電子制御モジュール20を電気的に接続している。
【0031】
電子制御モジュール20は、マイクロコンピュータ及びリニアソレノイド弁10を駆動する電流を発生する回路等から構成されている。電子制御モジュール20が出力する電流がコイル17に通電されると、可動部15に対し電磁吸引力が作用する。これにより、可動部15は、固定部16に支持された棒状の連結部19を介して、油圧制御スプール13を電磁力発生部12から離間する方向へ付勢する。
【0032】
次に電子制御モジュール20について図3に基づいて説明する。
図3に電子制御モジュール20の電気的接続に関する構成を模式的に示す。電子制御モジュール20は基部21、油圧コネクタ部22、外部コネクタ部23等を含む。電子制御モジュール20に接続するレンジセンサ50のスライダ51は、センサハウジング50に対して往復移動可能に設けられている。センサ52は、スライダ51の移動位置により自動変速機のレンジを検出する。また、回転数センサ53は、自動変速機の回転数を検出する。
【0033】
油圧コネクタ部22には、自動変速機の油圧を検出する油圧センサ26、およびリニアソレノイド弁10と電気的に接続している。外部コネクタ部23には、ECU(電子制御装置)28、および電源27が電気的に接続している。ECU28からは車速、エンジン回転数等の運転情報が通信される。
【0034】
電子制御モジュール20のベースとなる基部21の底面側には、「電流制御ユニット」としてのTCU24が搭載される。TCU24は、基部21に埋設され、放熱板25と接触するように設置されている。TCU24は、外部コネクタ部23を介して電源27およびECU28と接続している。また、TCU24は、油圧コネクタ部22を介してリニアソレノイド弁10および油圧センサ26と接続している。また、TCU24は、レンジセンサ50のセンサ52とも電気的に接続している。
【0035】
TCU24の底面245には放熱板25の接触面255が接触している。放熱板25は放熱性能の高いアルミニウムから形成されている。放熱板25は、TCU24に対して図示しないボルトにより締結されている。
【0036】
図4にTCU24を構成する各手段の関係を模式的に示す。TCU24は、基板244上にマイクロコンピュータ240、スイッチング回路241、電流検出抵抗242、サーミスタ243等を搭載している。
【0037】
マイクロコンピュータ240は、油圧センサ26が出力するクラッチ30の油圧、レンジセンサ50が出力するシフトレンジ、およびECU28が出力する車速などの運転情報を受信し、クラッチ30に供給する油圧を制御するための電流値を決定する。具体的には、各種運転情報から最適な油圧の値を指令油圧値として決定し、指令油圧値を電流値に変換する。変換された電流値(以下、「変換電流値」とする)は、後述する電流検出抵抗で測定される電流値(以下、「実電流値」とする)に基づいて補正される。補正された電流値(以下、「補正電流値」とする)は後述するスイッチング回路241に出力される。マイクロコンピュータ240は、特許請求の範囲に記載の「変換手段」、「電流補正手段」、および「電流指令手段」に相当する。
【0038】
スイッチング回路241は、マイクロコンピュータ240と電気的に接続している。スイッチング回路241は、マイクロコンピュータ240が出力する補正電流値を受け取り、電源27から供給される電流を補正電流値に調節してリニアソレノイド弁10に出力する。スイッチング回路241は、特許請求の範囲に記載の「電流発生手段」に相当する。
【0039】
電流検出抵抗242は、スイッチング回路241と電気的に接続している。電流検出抵抗242は、スイッチング回路241がリニアソレノイド弁10に出力する電流の値を実電流値として検出する。検出した実電流値は電気的に接続するマイクロコンピュータ240に出力される。電流検出抵抗242は、特許請求の範囲に記載の「電流検出手段」に相当する。
【0040】
サーミスタ243は、基板244に搭載される温度検出抵抗242の近傍に絶縁して設置されている。サーミスタ243は、基板244の温度を検出する。サーミスタ243は、特許請求の範囲に記載の「温度検出手段」に相当する。
【0041】
次に電子制御モジュール20内のTCU24と放熱板25との接触状態を検査するための検査システム60の概略を図5に示す。検査システム60は、オイルポンプ61、油圧測定器64、検査装置66などから構成されている。
検査システム60では、電子制御モジュール20は検査装置66とリニアソレノイド弁10とに電気的に接続している。電子制御モジュール20は、車両が実走行しているときの電子制御モジュール20周辺の温度環境を再現するため温度調節器67上に設置される。電子制御モジュール20は検査装置66からの油圧の指令に応じてリニアソレノイド弁10に電流を出力する。また、電子制御モジュール20は、電子制御モジュール20内にあるサーミスタ243が検出したTCU24の温度を検査装置66に出力する。
【0042】
検査装置66は、電子制御モジュール20の他に増幅器65と電気的に接続している。検査装置66と電子制御モジュール20とは、例えばCAN(コントローラエリアネットワーク)通信により接続している。検査装置66は、電子制御モジュール20内に設置されているサーミスタ243が検出する温度を記録するとともに、油圧測定器64で発生する油圧の測定結果を増幅器65を介して受信する。
【0043】
油圧測定器64は、油圧を生成する油圧生成部641および油圧生成部641で生成された油圧を測定する油圧測定部642とから構成される。油圧生成部641は、リニアソレノイド弁10により構成される。油圧測定器64は、電子制御モジュール20と電気的に接続している。また、油圧測定器64は、油圧調整器63を介してオイルポンプ61と接続している。オイルポンプ61は、作動油を貯留する貯留槽62から作動油を吸引し、油圧測定器64に圧送する。オイルポンプ61と油圧測定器64との間に備えられている油圧調整器63は油圧測定器64に送られる油圧を制御する。油圧測定器64では、電子制御モジュール20が出力した電流によって油圧生成部641で生成される油圧の値を油圧測定部642により測定する。油圧測定器64が測定した油圧の値は増幅器65で増幅され、増幅された測定結果は検査装置66に出力される。検査装置66では、TCU24で算出した指令電流値と油圧測定器64が測定した油圧の値との関係を示すマップが作成される。
【0044】
(作用)
次に上記構成の検査システム60を用いた電子制御モジュール20の検査方法について図6〜図9を用いて説明する。図6には、自動変速機用油圧制御装置100が備える電子制御モジュール20の検査手順のフローチャートを示す。
最初のステップ(以下、「ステップ」を省略し、単に記号Sで示す)101において、検査装置66は、油圧測定器64に出力させる油圧値(以下、「指令油圧値」という)を電子制御モジュール20内のTCU24に出力する。このとき、検査装置66は、油圧測定器64が出力する油圧値を徐々に増加する指令をTCU24に出力する。TCU24は、指定油圧値を変換して油圧測定器64に通電する電流値としての実電流値を出力する。検査装置66は、TCU24が指定油圧値を変換した電流値(以下、「指令電流値」という)と油圧測定器64が出力する油圧値(以下、「実油圧値」という)との関係を表すデータを取得する。上述した検査を複数のリニアソレノイド弁に対して行い、得られた実油圧値を平均化することで図7に示すような規範油圧マップを作成する。このとき、TCU24の温度は上昇していないため、作成された規範油圧マップでの指令電流値と実電流値との変換特性は安定していない。したがって、指令電流値と実油圧値との変換特性も安定していない。規範油圧マップは、特許請求の範囲に記載の「マップ」に相当する。
【0045】
S101での規範油圧マップの作成が終了したのち、S102においては、検査装置66は油圧測定器64で生成する油圧値をTCU24に指令する。TCU24では検査装置66からの指令を受けて油圧測定器64に実電流を出力する。このとき、TCU24に指令された油圧値を変換した指令電流値は図8(a)に示すように一定とする。なお、時刻T1は、検査装置66からTCU24に油圧測定器64で出力する油圧値の指令があった時刻である。
【0046】
S103では、サーミスタ243によりTCU24の温度を検出する。サーミスタ243が検出するTCU24の温度は、図8(b)に示すように検査装置66からTCU24に指令があった時刻T1から上昇を始める。
【0047】
次にS104では、TCU24の温度を所定の範囲内の温度と比較し、所定の範囲内の温度で安定したかどうかを判定する。TCU24と放熱板25との接触状態が「正常」である場合、TCU24で発生する熱は放熱板25を通ってTCU24の外部に放出される。したがって、図8(b)の実線Aに示すように、油圧測定器64に通電し続けてもTCU24の温度は一点鎖線で示す測定許容範囲内に収まる。しかし、TCU24と放熱板25との接触状態が「異常」である場合、TCU24で発生する熱は放熱板25を通して放出されない。したがって、図8(b)の破線Bに示すように、TCU24の温度は測定許容範囲より高い温度となる。TCU24の温度が所定の範囲内で収まった場合、S105に移行する。一方、TCU24の温度が所定の範囲内で収まらなかった場合、検査を終了する。
【0048】
TCU24の温度が測定許容範囲内で安定したことを判定した(S104での判定が「Yes」)場合、S105では、検査装置66は指令油圧値を徐々に変更する。具体的には、図9(a)に示すようにTCU24に対する指令油圧値を時刻T2から時刻T3においては徐々に小さくなるように変更し、時刻T3から時刻T4においては一定とし、時刻T4から時刻T5においては徐々に大きくなるように変更する。このとき、TCU24から油圧測定器64に出力される実電流値は、図9(b)に示すように時刻T2から時刻T3においては徐々に大きくなるように変更し、時刻T3から時刻T4においては一定とし、時刻T4から時刻T5においては徐々に小さくなるように変更する。これにより、図9(c)に示すように油圧測定器64で測定される実油圧値は、時刻T2から時刻T3においては徐々に小さくなり、時刻T3から時刻T4においては一定となり、時刻T4から時刻T5においては徐々に大きくなる。
【0049】
S106では、油圧測定器64で生成される実油圧値を測定する。測定された実油圧値は増幅器65により増幅され、検査装置66に送信される。
【0050】
S107では、S101で作成した規範油圧マップとS106で測定した指令油圧値と実油圧値との関係を示すデータとの差に基づき、規範油圧マップを補正する。
【0051】
(効果)
次に本実施形態の自動変速機用油圧制御装置100の検査方法の効果について説明する。
(A)本実施形態の検査方法では、電子制御モジュール20内のTCU24の温度によって油圧測定器64の油圧を測定するか否かを判定している。TCU24の温度はTCU24内の電流検出抵抗242の近傍に設置されているサーミスタ243により検出している。ここで、TCU24の温度はTCU24と接触している放熱板25との接触状態によって決定する。TCU24と放熱板25とが正常に接触している場合、TCU24で発生した熱は放熱板25を通してTCU24外部に放出される。これにより、TCU24の温度は所定の温度範囲である測定許容範囲内で安定する。一方、TCU24と放熱板25とが正常に接触していない場合、TCU24で発生した熱は放熱板25を通して放出されない。このため、発生した熱はTCU24内に貯まり、TCU24の温度は測定許容範囲の上限を超える。これにより、サーミスタ243が検出するTCU24の温度により、TCU24と放熱板25との接触状態が正常であるか否かを判定することができる。
【0052】
(B)TCU24と放熱板25との接触状態が正常であると判定された場合、検査装置66は油圧測定器64が生成する油圧を記録し、規範油圧マップに基づいて指令油圧値と指令電流値との関係の補正を行う。これにより、TCU24と放熱板25との接触状態が正常である場合のみ、指令油圧値と指令電流値との関係を示すデータを取得することができる。
【0053】
(C)本実施形態の検査方法ではTCU24と放熱板25との接触状態が正常であると判定された場合のみ、規範油圧マップとの差から指令油圧と実油圧との補正を行う。実際に車両に搭載されるのはTCU24と放熱板25との接触状態が正常である自動変速機用油圧制御装置であることから、前述した指令油圧と実油圧との補正は実際に車両が使用されている状態での指令油圧と実油圧との関係を示したものである。これにより、電流制御ユニットの実使用にあわせたマップを作成することができる。
【0054】
(D)サーミスタ243は、発熱量の多い電流検出抵抗242が搭載されているTCU24の基板244上に設置されている。また、サーミスタ243は、電流検出抵抗242の近傍に設置されている。これにより、サーミスタ243は、TCU24の温度を正確に検出することができる。したがって、TCU24と放熱板25との接触状態を高精度に検査することができる。
【0055】
(E)本実施形態の検査方法では、TCU24の検査の前段階として、指令電流値と実油圧値との関係を表す規範油圧マップを予め作成する。このとき、複数のリニアソレノイド弁に対して油圧測定を行い、得られたデータを平均化することで規範油圧マップに用いる実油圧値のデータを取得する。これにより、規範油圧マップを作成した後他のリニアソレノイド弁に対して油圧を補正する場合、当該規範油圧マップを使うことができる。したがって、検査における測定工数を低減することができる。
【0056】
(他の実施形態)
(ア)上述の実施形態では、サーミスタは電流検出抵抗の近傍の基板上に設置されるとした。しかし、サーミスタの設置場所はこれに限定されなくてもよい。電流検出抵抗から離れた同じ基板上に設置されてもよいし、電流検出抵抗とは異なる基板上に設置されてもよい。
【0057】
(イ)上述の実施形態では、リニアソレノイド弁に電流を通電する電流発生手段をスイッチング回路とした。しかし、電流発生手段はこれに限定されなくてもよい。
【0058】
(ウ)上述の実施形態では、スイッチング回路が出力する電流を検出する電流検出手段を電流検出抵抗とした。しかし、電流検出手段はこれに限定されなくてもよい。
【0059】
(エ)上述の実施形態では、電流検出抵抗の温度を検出する温度検出手段をサーミスタとした。しかし、温度検出手段はこれに限定されなくてもよい。
【0060】
(オ)上述の実施形態では、油圧測定器は油圧を生成する系統を1本とした。しかし、油圧を生成する系統はこれに限定されなくてもよい。1つの電子制御モジュールに対して複数の系統が接続されてもよい。
【0061】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 ・・・エンジン
2 ・・・自動変速機、
10 ・・・リニアソレノイド弁(電磁油圧制御手段)、
24 ・・・TCU(電流制御ユニット)、
25 ・・・放熱板(放熱部材)、
27 ・・・電源(電流発生手段)、
100 ・・・自動変速機用油圧制御装置、
240 ・・・マイクロコンピュータ(変換手段、電流補正手段、電流指令手段)、
241 ・・・スイッチング回路(電流発生手段)、
242 ・・・電流検出抵抗(電流検出手段)、
243 ・・・サーミスタ(温度検出手段)、
244 ・・・基板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機が有する複数の摩擦要素に出力する油圧を制御する電磁油圧制御手段と、
前記電磁油圧制御手段に通電する電流を実電流として発生する電流発生手段、および前記電流発生手段が発生する実電流の値を実電流値として検出する電流検出手段を有し、前記自動変速機内に配置される電流制御ユニットと、
前記電流制御ユニットの温度を検出する温度検出手段と、
前記電流制御ユニットと接触し前記電流制御ユニットで発生する熱を外部に放出する放熱部材と、
を備える自動変速機用油圧制御装置の検査方法であって、
前記電流発生手段が電流を発生している状態において前記温度検出手段により前記電流制御ユニットの温度を検出する温度検出段階と、
前記温度検出段階において検出された前記電流制御ユニットの温度を所定の範囲内の温度と比較する比較段階と、
前記比較段階における比較結果に基づいて前記電流制御ユニットと前記放熱部材との接触状態が異常であるか否かを判定する判定段階と、
を含むことを特徴とする自動変速機用油圧制御装置の検査方法。
【請求項2】
前記電流制御ユニットは、前記電流発生手段に発生させる電流の値を補正電流値として前記電流発生手段に指令する電流指令手段、前記電磁油圧制御手段に出力させる油圧の値である指令油圧値を指令電流値に変換する変換手段、および前記電流検出手段が検出する前記実電流値と前記指令電流値とを比較して前記指令電流値を前記補正電流値に補正する電流補正手段を有することを特徴とする請求項1に記載の自動変速機用油圧制御装置の検査方法。
【請求項3】
前記判定段階で前記電流制御ユニットと前記放熱部材との接触状態が正常であると判定するとき、
現在の指令油圧値から特定の指令油圧値に変更する指令油圧値変更段階と、
前記電磁油圧制御手段が実際に出力する油圧の値である実油圧値を測定する油圧値測定段階と、
をさらに含むことを特徴とする請求項2に記載の自動変速機用油圧制御装置の検査方法。
【請求項4】
請求項3に記載の自動変速機用油圧制御装置の検査方法であって、
前記指令電流値と前記実油圧値との関係を示すマップを作成するマップ作成段階と、
前記油圧測定段階により測定された前記実油圧値と前記指令油圧値との関係に基づき、前記マップを補正する油圧補正段階と、
を含むことを特徴とする自動変速機用油圧制御装置の検査方法。
【請求項5】
前記温度検出手段は、前記電流検出手段の近傍に設置されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の自動変速機用油圧制御装置の検査方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の自動変速機用油圧制御装置の検査方法において、
前記電流検出手段と前記温度検出手段とは1枚の基板上に搭載されることを特徴とする自動変速機用油圧制御装置の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−163337(P2012−163337A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21534(P2011−21534)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】