説明

自動車のフロア構造

【課題】フロアパネルの足元のスペースが狭い場合においても操作ペダルに干渉することなく、車両衝突時に乗員の足を確実に後方移動させることができる自動車のフロア構造を提供する。
【解決手段】フロアパネル(床部)4の下面に車幅方向に延びるクロスメンバ12を配設し、該フロアパネル4のダッシュパネル(縦壁部)5と上記クロスメンバ12との間に下向き凸状のビード部4cを形成し、該ビード部4cの乗員の踵が位置する部分に上向き凸状の補強部材15を配設し、該補強部材15の前フランジ部15bを上記ビード部4cの前縁部4dに結合するとともに、後フランジ部15cを上記ビード部4cの後縁部とともに上記クロスメンバ12に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時にダッシュパネルとフロアパネルが車両後方移動することによって乗員の足に干渉するのを防止するようにした自動車のフロア構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、車両衝突によってダッシュパネル及びフロアパネルが後方移動した場合、操作ペダルが乗員の足に干渉したり,あるいは足首に荷重が加わったりするのを回避する構造を採用している。例えば、特許文献1では、ダッシュパネルの傾斜部とフロアパネルとの間にフットレストを、乗員側に突出するよう屈曲形成し、衝突時にフットレストを後方に屈曲変形させることによって乗員の足を後方移動させるようにしている。
【特許文献1】特開2001−158274号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、車両衝突時に乗員の足を後方移動させるようにした上述のフットレストを、操作ペダル側に配置することにより該ペダルとの干渉を回避させるティビアプレートとして採用することが考えられる。しかしながら、乗員の足元のスペースの如何によっては屈曲時にフットレストが操作ペダルに引っ掛かって乗員の足を後方移動させることができなくなる場合が考えられる。
【0004】
例えば、シート下方にエンジンを搭載したセミキャブ型自動車(図9(b)参照)の場合には、運転者の腰の位置が、ダッシュパネルの前側にエンジンを搭載した自動車(図9(a)参照)に比べて高くなる(H<H′)とともに、ダッシュパネルに近くなる(L>L′)。このような着座姿勢となると、乗用車に比べてフロアの足元の前後方向スペースが狭くなる(l>l′)とともに、足の開き角度が小さくなり(α>α′)、従ってペダル踏み面が上向きでかつ低い位置となる(h>h′)。このようなセミキャブ型自動車に、上述のフットレスト構造をそのまま採用すると、衝突時にフットレストが操作ペダルに干渉するという問題が生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたもので、フロアパネルの足元のスペースが狭い場合においても操作ペダルに干渉することなく、車両衝突時に乗員の足を確実に後方移動させることができる自動車のフロア構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、乗員が足を載置する床部と、該床部に続いて乗員の前方にて車両上方に延びる縦壁部とを有する自動車のフロア構造において、上記床部の下面に車幅方向に延びるクロスメンバが配設され、該床部の上記縦壁部と上記クロスメンバとの間に下向き凸状のビード部が形成され、該ビード部の少なくとも上記乗員の踵が位置する部分を覆うように上向き凸状の補強部材が配設され、該補強部材の前部は上記ビード部の前縁部に結合され、後部は上記ビード部の後縁部とともに上記クロスメンバに結合されているを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、上記床部,縦壁部はそれぞれフロアパネル,ダッシュパネルであり、上記補強部材の前部は上記フロアパネルとともにダッシュパネルに重ね合わせて結合され、上記クロスメンバの両端部にはフロントサスペンションが支持されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明に係るフロア構造によれば、床部の縦壁部とクロスメンバとの間に下向き凸状のビード部を形成し、該ビード部に上向き凸状の補強部材を配設し、該補強部材の前部をビード部の前縁部に結合するとともに、後部をビード部の後縁部と共にクロスメンバに結合したので、車両衝突時に縦壁部と床部が後方移動すると、ビード部を後下向きに変形させるとともに、補強部材を後上向きに膨出変形させる力が作用し、この変形によって乗員の踵が後方に移動されることとなる。これにより、例えば足元の前後方向スペースが十分に確保できない自動車においても、乗員の足に操作ペダルが干渉したり、衝突荷重が加わったりするのを回避できる。即ち、補強部材の後部をビード部の後縁部とともにクロメンバに結合したので、クロスメンバが補強部材全体の後方移動を阻止することから、補強部材の後上方への膨出変形が誘引されることとなる。また車両衝突時に、上記下向き凸状のビード部が後下方に膨出変形することによっても上記補強部材の後上方への膨出変形を誘発することとなり、この点からも乗員の踵を確実に後方移動させることができる。
【0009】
また本発明では、上記床部にビード部を形成したので、床部のビード部周りの面剛性を高めることができ、床部に伝わる路面等からの振動及び該振動による騒音の発生を抑制することができる。
【0010】
請求項2の発明では、補強部材の前部をダッシュパネルとともにフロアパネルに重ね合わせて結合し、クロスメンバの両端部にフロントサスペンションを支持させたので、床部のクロスメンバ周りの剛性を高めることができ、左右のフロントサスペンションからの入力荷重に対する車体剛性を向上できるとともに、ダッシュパネルとフロアパネルとの結合強度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0012】
図1ないし図7は、本発明の一実施形態による自動車のフロア構造を説明するための図であり、図1は本実施形態のフロア構造が採用された前部車体の概略図、図2はフロアパネルの平面図、図3は図2のIII-III 線断面図、図4は図2のIV-IV 線断面図、図5は図2のV-V 線断面図、図6はフロアパネルの斜視図、図7は車両衝突時のフロアパネルを示す模式図である。
【0013】
図において、1はフロントシート2の下方にエンジン3を搭載したセミキャブ型自動車の前部車体を示しており、これは乗員の足が載置されるフロアパネル(床部)4の前側に車両上下方向に延びるダッシュパネル(縦壁部)5を配設し、該ダッシュパネル5の上端に車幅方向に延びてフロントガラス6の下縁部を支持するカウルパネル7を配設した概略構造を有している。
【0014】
上記カウルパネル7の前側にはフード8が開閉可能に配設され、該フード8の前端下方にはフロントバンパ9が配設されている。またダッシュパネル5の前側下部には前輪10が配設されている。車両側方から見て、前輪10の回転軸とダッシュパネル5の後述する垂直部5aとは略一致しており、該ダッシュパネル5により前部車体1は後側の車室と前側のラジエータ室とに画成されている。
【0015】
上記フロアパネル4は、乗員が足を載置する低床部4aと、該低床部4aの後端から上方に立ち上がってエンジン室を構成する立ち上がり部4bとを有しており、該立ち上がり部4bの上面に上記フロントシート2が配設されている。
【0016】
上記ダッシュパネル5は、カウルパネル7の底面から略垂直下方に延びる上記垂直部5aと、該垂直部5aの下端から車両後斜め下方に延びる傾斜部5bとを有しており、上記垂直部5aにはアクセルペダルA,ブレーキペダルB,クラッチペダルCがそれぞれ揺動可能に支持されている。この各ペダルA〜Cは踏み面が略上向きで、かつフロアパネル4に近い位置に配置されている。
【0017】
上記フロアパネル4の低床部4aの下面には車幅方向に延びるクロスメンバ12が配設されている。このクロスメンバ12は、上向きに開口する横断面ハット状のもので、前,後フランジ12a,12bがフロアパネル4の下面に溶接接合されている。また上記クロスメンバ12の左右端部は、図示していないが、前後方向に直線状に延びる左右のサイドメンバの内側壁に溶接接合されている。このようにしてクロスメンバ12は上開口がフロアパネル4により閉塞され、左右開口がサイドメンバにより閉塞されたボックス形状となっている。
【0018】
また上記クロスメンバ12の左,右端部にはこれの外側を囲むように配置された強化部材13,リインホース16が配設されており、該クロスメンバ12は強化部材13,リインホース16を介して上記フロアパネル4及びサイドメンバに結合されている。この強化部材13,リインホース16により補強されたクロスメンバ12の両端部に上記前輪10のフロントサスペンション(不図示)が連結されている。
【0019】
上記フロアパネル4の低床部4aのダッシュパネル5とクロスメンバ12との間には下向き凸状のビード部4cが形成されている。このビード部4cは下方に緩やかに湾曲しており、ブレーキペダルB部分から車幅方向中心部に渡って延びている。なお、図示していないが、上記フロアパネル4のクロスメンバ12の後側にも上記同様のビード部が形成されている。これによりフロアパネル4の低床部4aの面剛性の向上を図っている。
【0020】
上記フロアパネル4のビード部4cには上向き凸状の補強部材15が配設されており、該補強部材15とビード部4cとの間に空洞が形成されている。この補強部材15は板金製のものであり、車室内から見たとき矩形状をなす補強部15aに前,後フランジ部15b,15cを一体形成した構造となっている。上記補強部材15はブレーキペダルB及びクラッチペダルC部分に位置する乗員の踵に臨むよう配置されている。
【0021】
上記補強部15aは、主として図3に示すように、前フランジ部15bから斜め後上向きに屈曲した後、後方に向かって略フラット状をなすように延び、後端部を斜め後下方に屈曲させて後フランジ部15cに接続した構造となっている。また補強部15aの右側部には下方に凹む接合部15a′が形成されており、該接合部15a′にはフロアパネル4を挟んで上記リインホース16が接合されている。
【0022】
上記補強部材15の前フランジ部15bはビード部4cの前縁部を構成するフロアパネル4の前縁部4dとともにダッシュパネル5の下縁部5dに3枚重ね合わせてスポット溶接により接合されている。
【0023】
上記補強部材15の後フランジ部15cはビード部4cの後縁部を構成するフロアパネル4とともにクロスメンバ12の前フランジ12aに3枚重ね合わせてスポット溶接により接合されている。また上記後フランジ部15cの車外部分はフロアパネル4,前フランジ12a,強化部材13とともにリインホース16に重ね合わせてスポット溶接されている(図5参照)。
【0024】
本実施形態のフロア構造によれば、フロアパネル4のダッシュパネル5とクロスメンバ12との間に下向き凸状のビード部4cを形成し、該ビード部4cに上向き凸状の補強部材15を配設し、該補強部材15の前フランジ部15bをフロアパネル4の前縁部4dとともにダッシュパネル5の下縁部5dに重ね合わせて溶接接合し、後フランジ部15cをフロアパネル4とともにクロスメンバ12の前フランジ12aに重ね合わせて溶接接合したので、図7に示すように、車両衝突時にダッシュパネル5とフロアパネル4が変形して後方移動すると、補強部材15の補強部15aが後上向きに膨出変形して乗員の踵を後方移動させることとなる。これにより、セミキャブ型自動車のように足元の前後方向スペースが十分に確保できない場合にも、乗員の足に操作ペダルA〜Cが干渉したり、衝突荷重が加わるのを回避することができる。即ち、補強部材15の後フランジ部15cをフロアパネル4とともにクロメンバ12に溶接結合したので、クロスメンバ12が補強部材15全体の後方移動を阻止することから、補強部材15の後上方への膨出変形が誘引されることとなる。
【0025】
また車両衝突時に上記ビード部4cが後下方に膨出変形することによっても上記補強部材15の後上方への膨出変形を誘発することとなり、この点からも乗員の踵を確実に後方移動させることができる。
【0026】
また本実施形態では、上記フロアパネル4の低床部4aにビード部4cを形成したので、低床部4aの面剛性を高めることができ、低床部4aに伝わる路面等からの振動及び該振動による騒音の発生を抑制することができる。
【0027】
本実施形態では、上記補強部材15の前フランジ部15bをフロアパネル4の前縁部4dとともにダッシュパネル5の下縁部5dに重ね合わせて溶接により結合し、クロスメンバ12の両端部にフロントサスペンションを支持させたので、低床部4aのクロスメンバ12周りの剛性を高めることができ、左右のフロントサスペンションからの入力荷重に対する車体剛性を向上できるとともに、ダッシュパネル5とフロアパネル4との結合強度を高めることができる。
【0028】
なお、上記実施形態では、補強部材15を運転席側に設けた場合を例に説明したが、本発明の補強部材は助手席側にも設けてもよく、この場合にも上記実施形態と略同様の効果が得られる。
【0029】
また、上記実施形態では、フロアパネル4の前縁部4dにダッシュパネル5の傾斜部5bの下縁部5dを接合した場合を例にとって説明したが、本発明の前部車体構造はこれに限られるものではない。
【0030】
図8(a)及び(b)は、上記実施形態の前部車体の変形例を示しており、図中、図1と同一符号は同一又は相当部分を示す。図8(a)は、フロアパネル4に斜め上向きに傾斜する傾斜部4eを一体に延長形成し、該傾斜部4eにダッシュパネル5の垂直部5aを接合した例である。図8(b)は、ダッシュパネル5の傾斜部5bにフロア部5eを一体に延長形成し、該フロア部5eにビード部5e′を形成した例である。このような前部車体構造においても上述の補強部材15を配設することによって、上記実施形態と略同様の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の一実施形態による自動車のフロア構造を説明するための前部車体の概略図である。
【図2】上記前部車体のフロアパネルの平面図である。
【図3】図2のIII-III 線断面図である。
【図4】図2のIV-IV 線断面図である。
【図5】図2のV-V 線断面図である。
【図6】上記フロアパネルの平面図である。
【図7】上記実施形態の車両衝突時時のフロアパネルの模式図である。
【図8】上記前部車体の変形例を示す模式図である。
【図9】本発明の成立過程を説明するための図である。
【符号の説明】
【0032】
4 フロアパネル(床部)
4c ビード部
5 ダッシュパネル(縦壁部)
12 クロスメンバ
15 補強部材
15b 前フランジ部(前部)
15c 後フランジ部(後部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が足を載置する床部と、該床部に続いて乗員の前方にて車両上方に延びる縦壁部とを有する自動車のフロア構造において、上記床部の下面に車幅方向に延びるクロスメンバが配設され、該床部の上記縦壁部と上記クロスメンバとの間に下向き凸状のビード部が形成され、該ビード部の少なくとも上記乗員の踵が位置する部分を覆うように上向き凸状の補強部材が配設され、該補強部材の前部は上記ビード部の前縁部に結合され、後部は上記ビード部の後縁部とともに上記クロスメンバに結合されていることを特徴とする自動車のフロア構造。
【請求項2】
請求項1において、上記床部,縦壁部はそれぞれフロアパネル,ダッシュパネルであり、上記補強部材の前部は上記フロアパネルとともにダッシュパネルに重ね合わせて結合され、上記クロスメンバの両端部にはフロントサスペンションが支持されていることを特徴とする自動車のフロア構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−151037(P2006−151037A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−340896(P2004−340896)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】